説明

蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法

【課題】グルコースなどの糖類の検出能に優れ、かつ低侵襲性である蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法を提供する。
【解決手段】(a)下記化学式1で表される構造を有する蛍光モノマー化合物と、(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーと、を含む水溶液から水溶液滴を作製する工程を含む、蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体内埋め込み型センサーは、様々な疾患においてその病状の経過観察や治療効果のモニタなどに有用であり、近年、盛んに研究されている分野の一つである。特に、糖尿病治療においては、連続血糖測定による血糖コントロールが、病状の進行遅延や合併症の罹病の低減に貢献すると言われている。
【0003】
現状の糖尿病患者の多くは、血糖の自己管理のために、指等の穿刺によって血液試料を採取し、血糖計に供給して測定値を読み取ることを行っている。しかし、このような方法は患者への苦痛や簡便性の点で問題があり、一日に数回の測定が限界で、血糖値変化の動向を頻繁に測定して把握することが難しいのが現状である。このような理由から、埋め込み型連続血糖計の有用性は高いと考えられる。
【0004】
一方、生体内のグルコース濃度を継続的に測定するための技術開発は古くからなされており、例えば、可逆的にグルコースと反応して蛍光を発する物質を用いて蛍光量の変化でグルコース濃度を測定するものがある。このような蛍光物質として、特許文献1には、発蛍光性原子団と、少なくとも1つのフェニルボロン酸部位と、少なくとも1つのアミン性窒素とを有し、アミン性窒素がフェニルボロン酸部位の近傍に配置されて該フェニルボロン酸と分子内結合する分子構造を有する発蛍光性化合物が開示されている。また、特許文献2には、水性環境中での検体の濃度検出のための指示高分子として、親水性モノマーとアントラセンホウ酸エステル誘導体などのエキシマー形成多環芳香族炭化水素を有する指示成分モノマーとの共重合体が開示されている。さらに、特許文献3には、蛍光センサーとして、プラスチックフィルムなどの固相に直接蛍光物質を固定化する方法が開示されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1〜3に記載のセンサー物質は、フィルム形状やシート形状であり、体内に埋め込んで使用する場合、侵襲が少なくないという問題がある。かような問題に対し、特許文献4では、蛍光センサー物質を、シランカップリング剤等を用いて(メタ)アクリルアミド膜等の基材に固定させた糖類測定用センサーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−53467号公報
【特許文献2】特表2004−506069号公報
【特許文献3】米国特許第6,319,540号明細書
【特許文献4】特開2006−104140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4に記載の糖類測定用センサーでは、体内へ埋め込む際、皮膚の切開が必要となるため、侵襲をできるだけ抑制するという点で改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、グルコースなどの糖類の検出能に優れ、かつ低侵襲性である蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液から水溶液滴を作製する工程を含む製造方法により、グルコースなどの糖類の検出能に優れており、かつより低侵襲で体内に埋め込むことができる蛍光ハイドロゲルビーズが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、体液中の糖類検出能に優れ、かつ低侵襲的に体内に埋め込むことが可能となる蛍光ハイドロゲルビーズが製造されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】軸対称フロー焦点装置の全体の構造を示す模式図である。
【図1B】軸対称フロー焦点装置の狭窄部を拡大して示す模式図である。
【図2】蛍光検出系の配置の一例を示す模式図である。
【図3】実施例3で得られた蛍光ハイドロゲルビーズを、蛍光顕微鏡によって観察した明視野像の写真である。
【図4】実施例3で得られた蛍光ハイドロゲルビーズを、蛍光顕微鏡によって観察した蛍光像の写真である。
【図5】グルコース濃度を上昇させた時の、グルコース濃度と蛍光ハイドロゲルビーズの蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図6】グルコース濃度を下降させた時の、グルコース濃度と蛍光ハイドロゲルビーズの蛍光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一は、(a)下記化学式1で表される構造を有する蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーとを含む水溶液から水溶液滴を作製する工程を含む、蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法である。以下、水溶液滴を作製する工程について説明する。
【0013】
[(a)水溶液から水溶液滴を作製する工程]
前記蛍光モノマー化合物は、下記化学式1で表される。
【0014】
【化1】

【0015】
前記化学式1中、XおよびXは同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CHNR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SONR−、−NRSO−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0016】
炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基の具体的な例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基、ヘンイコシレン基、ドコシレン基、トリコシレン基、テトラコシレン基、ペンタコシレン基、ヘキサコシレン基、ヘプタコシレン基、オクタコシレン基、ノナコシレン基、またはトリアコンチレン基などが挙げられる。好ましくは、炭素数3〜12のアルキレン基であり、より好ましくはプロピレン基、ヘキシレン基、またはオクチレン基である。
【0017】
前記アルキレン基に含まれる置換基は、アルキレン基の末端に位置してもよいし、アルキレン基の内部に位置してもよい。好ましい置換基は、−NRCO−または−CONR−である。Rは、水素原子または炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0018】
Rで用いられうる炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、または3,7−ジメチルオクチル基などが挙げられる。より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状または分枝状のアルキル基である。
【0019】
前記化学式1中、ZおよびZは同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。ZおよびZとしては、−O−がより好ましい。
【0020】
R’で用いられうる炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。より好ましくは炭素数1〜5の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0021】
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基である。
【0022】
炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基の具体的な例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0023】
炭素数2〜11のアシル基は、下記化学式4で表される基であることが好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
前記化学式4中、Lは置換されているかまたは非置換の炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基である。
【0026】
炭素数2〜11のアシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、またはイソバレリル基などが挙げられる。前記化学式2中のLのアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜4であり、より好ましくは1(すなわちアセチル基)である。アントラセン残基にアシル基を導入することにより、励起波長と極大蛍光波長との間隔が拡大するという効果が得られる。
【0027】
炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルコキシ基の例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−へキシルオキシ基、3−メチルペンタン−2−イルオキシ基、3−メチルペンタン−3−イルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンタン−2−イルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブタン−2−イルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、1−メチルヘキシルオキシ基、3−メチルヘキシルオキシ基、4−メチルヘキシルオキシ基、5−メチルヘキシルオキシ基、1−エチルペンチルオキシ基、1−(n−プロピル)ブチルオキシ基、1,1−ジメチルペンチルオキシ基、1,4−ジメチルペンチルオキシ基、1,1−ジエチルプロピルオキシ基、1,3,3−トリメチルブチルオキシ基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−メチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,4−ジメチルペンタン−3−イルオキシ基、1,1−ジメチルペンタン−1−イルオキシ基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イルオキシオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、1−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプチルオキシ基、5−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプタン−2−イルオキシ基、3−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−4−イルオキシ基、1−エチルヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−プロピルペンチルオキシ基、2−プロピルペンチルオキシ基、1,1−ジメチルヘキシルオキシ基、1,4−ジメチルヘキシルオキシ基、1,5−ジメチルヘキシルオキシ基、1−エチル−1−メチルペンチルオキシ基、1−エチル−4−メチルペンチルオキシ基、1,1,4−トリメチルペンチルオキシ基、2,4,4−トリメチルペンチルオキシ基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピルオキシ基、1,1,3,3−テトラメチルブチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、1−メチルオクチルオキシ基、6−メチルオクチルオキシ基、1−エチルヘプチルオキシ基、1−(n−ブチル)ペンチルオキシ基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチルオキシ基、1,5,5−トリメチルヘキシルオキシ基、1,1,5−トリメチルヘキシルオキシ基、2−メチルオクタン−3−イルオキシ基、n−デシルオキシ基、1−メチルノニルオキシ基、1−エチルオクチルオキシ基、1−(n−ブチル)ヘキシルオキシ基、1,1−ジメチルオクチルオキシ基、または3,7−ジメチルオクチルオキシ基などが挙げられる。
【0028】
ハロゲン原子を含む基の例としては、例えば、F−、Cl−、Br−、I−、またはOI−(ヨードオキシ基)などが挙げられる。
【0029】
炭素数1〜10のアルキルアミノ基の例としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−オクチルアミノ基、n−デシルアミノ基、またはn−イソアミルアミノ基などが挙げられる。
【0030】
また、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよい。前記芳香環の例としては、例えば、ベンゼン環が挙げられる。また、前記複素環の例としては、例えば、ピラゾール環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環などが挙げられる。
【0031】
Q、Q’、Q’’、Q’’’の少なくとも1つに、ニトロ基、シアノ基またはアシル基を導入すると、蛍光の赤色変移または励起波長ピークと蛍光波長ピークとの間隔の拡大に寄与する場合があり、好ましい。
【0032】
本発明においては、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの少なくとも1つが、ニトロ基、シアノ基、または前記化学式2で表される炭素数2〜11のアシル基であることが好ましく、ニトロ基、シアノ基、またはアセチル基であることがより好ましく、アセチル基がさらに好ましい。なお、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの1〜3個がニトロ基、シアノ基、または前記化学式2で表される炭素数2〜11のアシル基であることが好ましく、より好ましくはQ、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの1〜2個であり、さらに好ましくはQ、Q’、Q’’、およびQ’’’のうちの1個である。
【0033】
およびYは、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基である。YおよびYは、蛍光モノマー化合物を水溶性にできる程度の親水性を有することが好ましい。ここで、蛍光モノマー化合物を水溶性にできる程度の親水性とは、有機溶媒や可溶化剤の存在無しに、蛍光モノマー化合物を重合するために必要な濃度領域において、水に溶解することを意味する。YおよびYで用いられる基の具体的な例としては、例えば、アミノ基、カルボニルオキシ基、あるいは、スルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、リン酸基、またはヒドロキシ基などの親水性基を有する二価の有機残基や、構造中にエーテル結合、アミド結合、またはエステル結合などの親水性結合を有する二価の有機残基が例示できる。
【0034】
およびYの少なくとも一方は、下記化学式2または下記化学式3で表される基を含むことが好ましい。YおよびYの少なくとも一方が、下記化学式2で表される基および下記化学式3で表される基の両方を含んでいてもよく、この際、下記化学式2で表される基および下記化学式3で表される基の配置は、ブロック状でもよいし、ランダム状であってもよい。さらに、他の前記置換基や2価の有機残基を有していてもよい。
【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
前記化学式2および前記化学式3中、nは2〜5であり、好ましくは2〜4、より好ましくは2または3である。また、jは1〜5であり、好ましくは1〜3、より好ましくは1である。さらに、mは1〜200であり、好ましくは20〜150、より好ましくは40〜120である。
【0038】
およびY部分の分子量は、500〜10,000が好ましく、1,000〜5,000がより好ましい。前記化学式2または前記化学式3で表される2価の有機残基は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール、またはビニルアルコールなどを重合することにより、形成することができる。
【0039】
上述のように、本発明の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルビーズの構造中、二価の有機残基YおよびYは親水性を有することが好ましい。これにより、具体的には、以下のような効果が得られる。(1)蛍光モノマー化合物が水溶性となるため、蛍光ハイドロゲルビーズを形成する際の重合反応を効率良く行うことができる。(2)親水性鎖の導入は被検出物質と相互作用するフェニルボロン酸周辺の環境や運動性を変化させ、感度、精度、応答速度、被測定物質である糖類の選択性の向上に寄与する。(3)親水性鎖が蛍光ハイドロゲルビーズ全体の構造を安定化させる。(4)水中でのみ反応が行えるため、有機溶剤中に懸濁した状態で重合を行うことができる。
【0040】
なお、本明細書において、「置換されているかまたは(もしくは)非置換の」との記載は、フッ素原子;塩素原子;臭素原子;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基;炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;炭素数6〜30のアリール基;炭素数2〜30のヘテロアリール基;炭素数5〜20のシクロアルキル基;などの置換基で置換されているか、または非置換であることを意味する。
【0041】
上記化学式1で表される蛍光モノマー化合物は、例えば、下記反応式1に従って合成することができる。以下、蛍光モノマー化合物として好ましい化合物である、9,10−ビス[[N−(2−ボロノベンジル)−N−[6−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]ヘキシル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記化学式1のXおよびXが−C12−NHCO−、YおよびYが上記化学式3のnが2であるポリエチレングリコール残基、ZおよびZが−O−、Qがアセチル基、Q’、Q’’、およびQ’’’が水素原子である化合物:以下、F−PEG−AAmとも称する)の製造方法を、下記反応式1を参照しながら説明する。しかし、本発明はこれに制限されるものではない。
【0042】
【化5】

【0043】
原料として2−アセチル−9,10−ジメチルアントラセン(上記反応式1中のI)を用い、四塩化炭素(CCl)/クロロホルム混合溶媒を加熱して、N−ブロモスクシンイミド(NBS)および過酸化ベンゾイル(BPO)と反応させることにより、2−アセチル−9,10−ビス(ブロモメチレン)アントラセン(上記反応式1中のII)が得られる。次いで、これを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒中で、ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)等の塩基存在下、N−(t−ブトキシカルボニル)−ヘキシルジアミン(上記反応式1中のIII)を反応させると、ブロモメチレン基が[(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシルアミノ]メチレン基(上記反応式1中のIV)となる。これを、DMF等の溶媒中で、DIEA等の塩基存在下、2−(2−ブロモメチルフェニル)−1,3−ジオキサボナリン(上記反応式1中のV)を作用させると、9,10−ビス[[N−6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシル−N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVI)が得られる。これに、塩酸等の酸を作用させて脱保護すると、9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVII)が得られる。次に、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、塩基性緩衝液中で反応させると、目的物であるF−PEG−AAmを得ることができる。
【0044】
なお、原料化合物として、アントラセン骨格にアセチル基以外のアシル基を有する化合物を使用すると、溶媒、添加剤、反応温度、反応時間および分離方法等を適宜選択することで、アントラセン骨格にアセチル基以外のアシル基を有する化合物を製造することができる。
【0045】
前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとしては、得られた重合体がその構造中に(メタ)アクリロイル基とアミドとを有すればよく、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体が好ましい。具体的な例としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tris−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、またはN−(n−ブトキシメチル)アクリルアミドなどが挙げられる。また、N−アクリロイルリジン、N−アクリロイルヘキサメチレンジアミンなどの(メタ)アクリロイルクロライドとアミノ酸または活性アミノ基を有する化合物との縮合体も用いることができる。より好ましくは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドである。
【0046】
本工程において、前記蛍光モノマー化合物および前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーは、水溶液の形態にされる。
【0047】
前記水溶液の溶媒は、特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水などを使用することができる。また、リン酸緩衝液に対して、蛍光モノマー化合物および(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーを加えた水溶液を使用することもできる。
【0048】
前記蛍光モノマー化合物の水溶液中の濃度は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。また、前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーの水溶液中の濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。
【0049】
前記水溶液中には、他の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、重合開始剤、重合促進剤、架橋剤、水中で陽イオンとなり得るカチオン性モノマー、水中で陰イオンとなり得るアニオン性モノマー、またはイオンを有さないノニオン系モノマーなどが挙げられる。重合開始剤、重合促進剤、および架橋剤の詳細については、後述する。
【0050】
水中で陽イオンとなり得るカチオン性モノマーの例としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、または4−ビニルピリジンなどを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいしまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
水中で陰イオンとなり得るアニオン性モノマーの例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、ビニルプロピオン酸または4−ビニルベンゼンスルホン酸などを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0052】
イオンを有さないノニオン系モノマーの例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレートまたは1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどを挙げることができる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0053】
これら他の成分の配合量は、蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの合計量に対して0.1〜10モル%が好ましく、より好ましくは2〜7モル%である。
【0054】
また、これら他の成分の水溶液中の濃度は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.02〜1.0質量%であることがより好ましい。重合開始剤、重合促進剤、および架橋剤の詳細については後述する。
【0055】
前記蛍光モノマー化合物と前記(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとを含む水溶液滴は、これらを含む水溶液を、(1)有機溶媒中に滴下する方法;(2)攪拌している有機溶媒中に水溶液を添加し、懸濁・乳化させる方法;などにより作製することができる。
【0056】
前記有機溶媒の例としては、例えば、シクロヘキサン、流動パラフィン、ヘキサデカン、コーン油、ミネラル油、シリコーンオイルなどが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。水溶液滴の安定性、すなわち合一を抑制するという観点から、より好ましくはシリコーンオイルである。
【0057】
上記(1)の有機溶媒中への水溶液の添加方法は、特に制限されず、例えば、2次元のT−ジャンクション(T字交差路)や3次元のフロー焦点などを有するマイクロ流体装置(Microfluidic Device);ピペットマン、キャピラリーシリンジ、インクジェット微量分注器などの微量分注器;またはシリンジなどを用いて行うことができる。特に、マイクロオーダーで粒径を容易に制御できるという観点から、3次元マイクロ流体装置の一種である軸対称フロー焦点装置(Axisymmetric Flow−Focusing Device、以下単に「AFFD」とも称する)を用いることが好ましい。
【0058】
AFFDは、ステレオリソグラフィーにより作製することができる(Y.Morimoto et al., Biomed. Microdev., vol.11(2), pp.369−377,2009 参照)。AFFDを使用すると、以下の2つの利点がある。
【0059】
(i)分散相である内部流体に対し連続相である外部流体の流速比をコントロールすることで、水溶液滴のサイズを変化させることができる。
【0060】
(ii)水溶液滴はAFFDの表面に接触しないので、溶液の成分とは関係なく水溶液滴を形成することができる(S.Takeuchi et al., Adv. Mater., vol.17, pp.1067−1072,2005.;A.Luque et al., J. Microelectromech. Syst., vol.16, pp. 1201−1208, 2007.;およびA.S.Utada et al., Science, vol.308, pp. 537−541,2005.参照)。
【0061】
図1AはAFFD全体の構造を示す模式図であり、図1BはAFFDの狭窄部を拡大して示す模式図である。
【0062】
図1Aに示すように、AFFD200は、有機溶媒を通す流路201を有する第一のチャンバー202と、前記水溶液を通す流路203を有する第二のチャンバー204とを備える。第一のチャンバー202の流路201は、第二のチャンバー204の出口205からその近傍までの所定距離Lの分、第二のチャンバー204の外周を覆う形態となっており、流路201を流れる有機溶媒206は、第二のチャンバーの出口205で流路203を流れる水溶液207と合流し、狭窄部209で単分散液滴208を生成する。ここで、水溶液207は分散相であり、有機溶媒206は連続相である。分散相とは、第二のチャンバーの出口205で流れが分断され、液滴化する流体を意味し、連続相とは、AFFD中において、流れが分断されず、連続的に流れ続ける流体を意味する。有機溶媒206と水溶液207とが合流して液滴が生成されるメカニズムは、図1Bに示すように、水溶液207が有機溶媒206に囲まれた状態で狭窄部209に流れ込むことで、溶液にかかる圧力が高まり、水溶液207が狭窄部209を抜けると、一気に圧力が解放され液滴化するというものである。有機溶媒206と水溶液207とを合流させ、単分散液滴208を作るには、狭窄部209での出口においてのキャピラリー数が1であることが好ましいが、複数設けることも可能である。さらに、本発明においては、有機溶媒206の流量は、好ましくは10〜1500μL/min.であり、より好ましくは60〜600μL/min.である。一方、水溶液207の流量は、好ましくは1〜20μL/min.であり、より好ましくは6〜12μL/min.である。さらに、両者の流量比が好ましくは1〜60、より好ましくは5〜40のときに、効率的に単分散液滴208を生成させることができる。生成した単分散液滴208は、流路210を通過して有機溶媒中に添加される。
【0063】
上記(2)の懸濁・乳化は、適当な速度で攪拌している有機溶媒に、上記化学式1で表される蛍光モノマー化合物および(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーを含む水溶液を添加することで行うことができる。有機溶媒の攪拌で生じるせん断応力により、有機溶媒中に加えられた水溶液は液滴状に分断され、有機溶媒中に分散する。
【0064】
有機溶媒中における水溶液滴の安定性が低い場合は、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤の例としては、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンエステル、レシチン、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、トリメチルセチルアンモニウムクロリド、トリメチルセチルアンモニウムブロミド、トリメチルn−テトラデシルアンモニウムクロリド、ハードドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ソフトドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、4−n−オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、ノニルフェノール硫酸エステルナトリウム塩などの硫酸エステル塩、さらにはジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいしまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。界面活性剤を添加する場合は、蛍光モノマー化合物等が溶解している水溶液か有機溶媒のどちらか、または両方に添加する。
【0065】
上記の方法の他にも、ガラス、金属、プラスチックなどの疎水性である材料の表面に、インクジェット装置などからマイクロサイズの水溶液滴を、体積を制御しながら滴下し、さらに紫外光や電子線を照射することによって、疎水性の材料の表面上に蛍光ハイドロゲルビーズを形成することが可能である。
【0066】
水溶液滴の粒径は、好ましくは10nm〜2000μm、より好ましくは1〜1000μmである。特に注射器、カニューレ、もしくはカテーテルを用いての埋め込みを行う場合や、マイクロ流路を用いる場合は、10〜200μmであることが特に好ましい。なお、本明細書において、粒径は、実体顕微鏡により測定した値を採用するものとする。
【0067】
最終的に得られる蛍光ハイドロゲルビーズの形状や大きさは、この工程において得られる水溶液滴の形状・大きさにより制御できる。AFFD、微量分注器等により水溶液を有機溶媒に加える方法においては、その液滴量を制御することで、水溶液滴の大きさの制御が可能である。攪拌している有機溶媒中に水溶液を添加し水溶液滴を分散させる方法においては、有機溶媒を攪拌する速度や、水溶液および有機溶媒の粘性等により、水溶液滴の大きさを制御することが可能である。また、得られた蛍光ハイドロゲルビーズを、フィルターなどのふるいにかけることで、必要な粒径を有する蛍光ハイドロゲルビーズのみを選別することも可能である。
【0068】
[(b)水溶液滴を重合させ蛍光ハイドロゲルビーズを作製する工程]
本発明の製造方法は、上記(a)工程で得られた水溶液滴を重合させ蛍光ハイドロゲルビーズを作製する工程(b)をさらに含むことが好ましい。水溶液滴を重合させる方法は、特に制限されず、例えば、ラジカル重合開始剤を用いる化学重合法、光重合開始剤を用いる光重合法、または放射線重合法などが挙げられる。
【0069】
化学重合法は、ラジカル重合開始剤、および必要に応じて重合促進剤を、水溶液中、有機溶媒中、またはその両方に添加することで行われる。重合温度は好ましくは15〜75℃、より好ましくは20〜60℃である。また、重合時間は好ましくは3分〜20時間、より好ましくは20分〜8時間である。ラジカル重合開始剤の例としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、または過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩またはアゾイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドまたは酸化ベンゾイルなどのパーオキシド等を挙げることができ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。この際、重合促進剤として、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、またはアスコルビン酸などの還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン、またはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン化合物;などの1種または2種以上を用いることができる。
【0070】
光重合法は、例えば、光重合開始剤を予め水溶液に加えておき、有機溶媒中で得られた水溶液滴に対して、紫外光を照射することで行うことができる。
【0071】
用いられる光重合開始剤の例としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,2−ジメチルプロピオイル ジフェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−2−エチルヘキサノイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2,3,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,3,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリクロロベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルナフチルフォスフォネート、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジエチルアミノ安息香酸、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ベンゾインパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0072】
紫外光の波長は200〜400nmが好ましく、また、紫外光の照射量は、100〜2000mJ/cmであることが好ましく、500〜1500mJ/cmであることがより好ましい。
【0073】
放射線重合法は、得られた水溶液滴に対し、放射線を照射することで放射線重合を行う。放射線としては、電子線が好ましく、その照射線量は、10〜200kGyであることが好ましく、20〜50kGyであることがより好ましい。
【0074】
電子線により重合を行う場合、重合開始剤や重合促進剤を用いることなく重合が可能であり、その場合、重合開始剤・促進剤を洗浄する工程を行わなくてもよい。また、上記化学重合法において例示した重合開始剤および重合促進剤を用いることもできる。
【0075】
電子線の照射は、電子加速装置により行うことができる。電子を加速する電圧の大きさにより装置は、低エネルギータイプ、中エネルギータイプ、高エネルギータイプと分類されている。本工程の重合においては、低エネルギータイプの電子線加速装置が好ましい。例えば、低エネルギータイプの電子線加速装置の例として、浜松ホトニクス株式会社製の低エネルギー電子線照射装置が挙げられる。これは、フィラメントから生じた熱電子を高電圧で加速してエネルギーを高め、ベリリウム窓箔からその電子線を大気中に取り出すものであり、40〜110kVという比較的低い加速電圧の電子線を照射することが可能である。
【0076】
[(c)蛍光ハイドロゲルビーズを洗浄する工程]
上記(b)工程により蛍光ハイドロゲルビーズが得られた後、さらに洗浄液を用いて蛍光ハイドロゲルビーズの洗浄を行うことが好ましい。例えば、上記(a)および(b)工程で用いた有機溶媒を溶解しうる洗浄液A、その洗浄液Aを溶解しうる洗浄液B、などのように順次に用いて、水溶液滴の分散相を交換・洗浄することで、最終的に、水溶液中に分散している蛍光ハイドロゲルビーズを得ることができる。洗浄液の例としては、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、炭化水素類、含ハロゲン炭化水素類、緩衝剤水溶液、純水などが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジエチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、リン酸緩衝液、純水などが挙げられ、より好ましくは、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、純水などが挙げられる。これら洗浄液は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。これらの中でも、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、および純水からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。水溶液滴を重合する際に、有機溶媒として、シリコーンオイルを用いた場合は、洗浄液として、ヘキサン、メタノール、リン酸緩衝液、および純水をこの順で用いることが好ましい。
【0077】
以上のような本発明の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルビーズは、下記化学式5で表される構造を有することが好ましい。
【0078】
【化6】

【0079】
前記化学式5中、X、X、Z、Z、Y、Y、Q、Q’、Q’’、およびQ’’’は、前記化学式1と同様の定義である。
【0080】
p1とq1とのモル比(p1:q1)およびp2とq2とのモル比(p2:q2)は、1:50〜1:6,000であり、好ましくは1:50〜1:4,000であり、より好ましくは1:100〜1:2,000である。モル比1:50よりも蛍光モノマー化合物の割合が大きくなると、蛍光モノマー化合物の嵩高さのため自由度が失われ、糖類との相互作用が低下する虞がある。一方、モル比1:6,000よりも蛍光モノマー化合物の割合が小さければ、蛍光強度の絶対量を確保できない場合がある。
【0081】
およびAは同一または異なっていてもよく、水素原子またはメチル基である。
【0082】
、U、UおよびUは同一または異なっていてもよく、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。
【0083】
上記化学式5で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルビーズの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキサイド換算で、50,000〜750,000であることが好ましく、150,000〜450,000であることがより好ましい。
【0084】
上記化学式5で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルビーズは、上記化学式1で表される蛍光モノマー化合物と、(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの共重合によらずに製造することが可能である。例えば、予め(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性モノマーを重合させて得られる重合物、上記化学式5で表される蛍光モノマー化合物、重合開始剤、および必要に応じて重合促進剤を含む水溶液を有機溶媒に添加し水溶液滴を作製し、得られた水溶液滴を上記の重合方法により重合させても、上記化学式5で表される構造を有する蛍光ハイドロゲルビーズを製造することができる。
【0085】
本発明の製造方法により蛍光ハイドロゲルビーズは、三次元架橋構造を有していてもよい。三次元架橋構造の導入方法は、特に制限されず、例えば、本発明の蛍光ハイドロゲルビーズに架橋剤を作用させて、上記化学式1で表される蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーとの間の少なくとも一部に、分子間架橋を形成させる方法が挙げられる。ポリ(メタ)アクリルアミド鎖に三次元架橋を形成させると、水溶液中でも蛍光モノマー化合物を溶出させることなく糖類の検出が容易にできる。なお、本発明で用いられる蛍光モノマー化合物は、糖類と結合して蛍光を発する疎水性部位を有するが、該疎水性部位は、上記化学式1中のYおよびYで表される二価の有機残基を介してポリ(メタ)アクリルアミド鎖に結合されるため、水溶液中でも糖類と結合できる自由度が確保されている。したがって、三次元架橋構造を形成しても、糖類の検出感度をほとんど低下させない。
【0086】
前記架橋剤としては、重合性二重結合によって蛍光センサー化合物中に三次元架橋構造を導入し得るものを広く含む。具体的な例としては、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)−ビス(メタ)アクリルアミド、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエ−テル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリアリル、トリメチロールプロパンジ(メタ)アリルエーテル、テトラアリロキシエタン、またはグリセロールプロポキシトリアクリレートなどが挙げられる。これら架橋剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
【0087】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズの形状は、特に制限されず、球状、立方体状、円盤状、円柱状、円錐状など、いずれの形状であってもよい。蛍光ハイドロゲルビーズの埋め込み方法や蛍光検出の際に適した形状とすることが好ましい。
【0088】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は、好ましくは10nm〜2000μm、より好ましくは1〜1000μmである。特に注射器、カニューレ、またはカテーテルを用いての埋め込みを行う場合や、マイクロ流路を用いる場合は、10〜200μmであることが特に好ましい。
【0089】
また、ある血糖値において、それぞれの蛍光ハイドロゲルビーズが同程度の蛍光強度を有するように、蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は略均一であることが好ましい。特に、マイクロ流路を用いて、蛍光ハイドロゲルビーズを輸送する場合、流路中を流れる蛍光ハイドロゲルビーズと蛍光検出系との間の距離を一定に保つためにも、蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は略均一であることが好ましい。
【0090】
本発明の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルビーズは、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素として用いられうる。本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズは微小であるため、低侵襲的に生体内に埋め込むことが出来る。埋込み方法としては、注射器、カニューレ、もしくはカテーテルを用いての埋設、または皮膚表層の一部を剥離した埋設などが挙げられる。また、本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズは、生体適合性の高いポリ(メタ)アクリルアミド構造を有するため、長期の生体内埋込みに際しての生体への影響が少ない。
【0091】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズは、生体内で加水分解や酵素分解などの化学的分解を受けないため、長期埋込みの安定性が高いと考えられる。埋込み組織としては、皮内や皮下が好ましく、高感度や小さなタイムラグを実現するためには、血液との体液交換が盛んでありかつ皮膚表面からの深度が浅い真皮層がより好ましい。埋込み場所は、皮膚表面からの光学測定ができる場所ならばどこでもよく、例えば、腕、脚、腹部、耳介等が挙げられる。
【0092】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズは、体内に埋込まれ、体外より励起光を照射して、上記蛍光ハイドロゲルビーズから発生する蛍光を計測する手段を有する、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素としても用いられうる。また、上記蛍光ハイドロゲルビーズを、体内に埋め込んだマイクロダイアリシスチューブと前記マイクロダイアリシスチューブに接続された体外の蛍光検出系との間で循環させ、上記蛍光ハイドロゲルビーズから発生する蛍光を計測する手段を有する、体内埋め込み用の糖類測定用センサーの構成要素としても用いられうる。
【0093】
マイクロダイアリシスチューブとは、生体内の埋込み部位の一部または全部に半透膜を有する中空形状のチューブである。半透膜は、測定対象である糖類は透過させるが、生体成分のうち細胞等やタンパク質等の高分子を透過させない性質を有するものが好ましい。マイクロダイアリシスチューブ内は緩衝剤を含んでいてもよい水で満たし、その中で蛍光ハイドロゲルビーズを循環させる。マイクロダイアリシスチューブは、生体外に配置された蛍光検出系に接続され、ポンプとともに循環可能な流路を形成している。これら流路は、クローズドループであることが好ましい。蛍光検出系で循環されている蛍光ハイドロゲルビーズの蛍光を連続的に測定することによって、生体内の糖濃度を反映する値を得ることが出来る。
【0094】
蛍光検出系は、少なくとも1種の光源と、少なくとも1種の光検出器とを含むものが好ましい。光源および光検出器は、光源から発する励起光がなるべく入らないように、かつ蛍光ハイドロゲルビーズから発せられる蛍光が効率よく検出できるよう配置することが好ましい。より具体的な構造の例としては、例えば、図2に示すような、光源2と光検出器3とを90度の角度となるように配置する構造が挙げられる。また、励起光4と、蛍光ハイドロゲルビーズ1から発生する蛍光5とを分離するために、光学フィルターを用いてもよい。
【0095】
蛍光信号の測定は、蛍光ハイドロゲルビーズの蛍光特性に合ったランプ、LED、レーザー等の光源および光検出器、また、必要に応じて、光ファイバー、レンズ、鏡、プリズム、光学フィルターなどをセンサー構成物周辺の適当な位置に配置して行うことができる。
【0096】
本発明により得られる蛍光ハイドロゲルビーズを用いて検出できる糖類は、特に制限されず、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖類、マルトース、スクロース、ラクトースなどの多糖類が挙げられる。これらの中でも、グルコースがより好ましい。
【0097】
上述の体内埋め込み用の糖類測定センサーを用いることにより、糖尿病患者が血糖値を自己制御する際の煩雑性または血糖値のタイムラグを減少させることができる。さらに、上述の体内埋め込み用の糖類測定用センサーを用いることにより、糖尿病患者以外の人々が健康管理のための血糖値測定を簡便に行うことも可能となる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これら実施例は、本発明を何ら制限するものではない。
【0099】
(実施例1:9,10−ビス[[N−(2−ボロノベンジル)−N−[6−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]ヘキシル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセンの合成)
(A)9,10−ビス(ブロモメチル)−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のII)の合成
9,10−ジメチル−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のI)600mg、N−ブロモスクシンイミド800mg、および過酸化ベンゾイル5mgを、クロロホルム6mLと四塩化炭素20mLの混合物に加え、80℃で2時間、加熱還流を行った。溶媒を除去した後、残渣をメタノールで抽出し、780mgの目的物を得た。
【0100】
(B)9,10−ビス[6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシルアミノメチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のIV)の合成
上記(A)で得た生成物500mg、N−BOC−ヘキシルジアミン(上記反応式1中のIII) 1.125g、およびジイソプロピルエチルアミン 1.25mLを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解し、45℃で1時間攪拌して反応を行った。反応混合物はクロロホルム60mLで希釈し、水100mLで3回、飽和食塩水100mLで1回洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤を濾過後、濃縮し、クロロホルム/メタノール(体積比 95/5)混合溶媒を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、367mgの目的物を得た。
【0101】
(C)9,10−ビス[[N−6’−(t−ブトキシカルボニルアミノ)ヘキシル−N−[2−(5,5−ジメチルボリナン−2−イル)ベンジル]アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVI)の合成
上記(B)で得た生成物200mg、2−(2−ブロモメチルフェニル)−1,3−ジオキサボリナン(上記反応式1中のV)700mgおよびN,N−ジイソプロピルエチルアミン0.35mLを、3mLのジメチルホルムアミドに溶解し、室温(25℃)で16時間攪拌した。溶媒除去後、メタノール/クロロホルムを溶離液とするシリカゲルカラムで精製し目的物194mgを得た。
【0102】
(D)9,10−ビス[[N−(6’−アミノヘキシル)−N−(2−ボロノベンジル)アミノ]メチル]−2−アセチルアントラセン(上記反応式1中のVII)の合成
上記(C)で得られた生成物100mgを、2mLのメタノールに溶解し、4N 塩酸2mLを加えて、室温(25℃)で10時間攪拌した。蒸発乾固後、ゲル濾過によって無機塩を除去し、目的物95mgを得た。
【0103】
(E)F−PEG−AAmの合成
上記(D)で得られた生成物160mgを、0.5mLのDMFに溶解し、アクリロイル−(ポリエチレングリコール)−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(ポリエチレングリコール残基部分の分子量は3,400)1.22gの10mL 100mMリン酸緩衝液(pH=8.0)溶液に加え、室温(25℃)で20時間攪拌した。反応混合物をゲル濾過に供し、蛍光高分子画分を採取し、凍結乾燥後、目的物であるF−PEG−AAm 1.2gを得た。重クロロホルムを用いて測定したH−NMRデータは下記表1の通りであり、ポリエチレングリコール(PEG)残基由来のピークと重なる水素のシグナルは確認されなかった。
【0104】
【表1】

【0105】
(実施例2:有機溶媒の選定)
最終濃度としてアクリルアミドが15質量%、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが0.3質量%、および過硫酸ナトリウムが0.18質量%、ポリエチレングリコール(分子量:3400)が10質量%となるように、60mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解・混合して水溶液を調製した。
【0106】
次に、有機溶媒として、トルエンに対し乳化剤としてspan 83が10質量%およびTween 85が0.07質量%となるようにそれぞれ溶解させたもの、シクロヘキサンと流動パラフィンとの等量の混合溶媒に対し乳化剤としてspan 83が10質量%となるように溶解させたもの、ヘキサデカンに対し乳化剤としてspan 80が10質量%となるように溶解したもの、コーン油に対し乳化剤としてレシチンが2質量%となるように溶解したもの、ミネラルオイルに対し乳化剤としてレシチンが2質量%となるように溶解したもの、およびシリコーンオイル(乳化剤の添加無し)をそれぞれ用意した。
【0107】
次いで、微量分注器であるピペットマンを用いて、調製した水溶液の水溶液滴を加え、水溶液滴の安定性について観察した。約20分の観察の結果、シリコーンオイル以外の有機溶媒に滴下した水溶液滴は、水溶液滴同士が接触し合体するというような現象が確認された。シリコーンオイルに滴下した水溶液滴については、20分以上経過しても、水溶液滴同士の合一は見られなかった。これにより、水溶液滴を分散させる有機溶媒として、最も適するものはシリコーンオイルであることが分かった。
【0108】
(実施例3)
最終濃度としてアクリルアミドが15質量%、実施例1で合成したF−PEG−AAmが5質量%、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが0.3質量%、および過硫酸ナトリウムが0.18質量%となるように60mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解・混合して水溶液を調製した。
【0109】
別途、シリコーンオイルに、脱酸素のため窒素バブリングを行った後、N,N,N’,N’−テトラエチレンジアミンが0.04質量%となるように加え、有機溶媒を調製した。
【0110】
次に、AFFDを用いて、水溶液を37℃で窒素バブリングを行っている有機溶媒に吐出することで、有機溶媒中に水溶液滴を作製し分散させ、37℃で重合を開始した。AFFDによる水溶液および有機溶媒の流速は、各々、10μL/min.、150μL/min.とした。この際、水溶液滴の粒径は、90〜170μmであった。
【0111】
30分の重合の後、有機溶媒中に得られた蛍光ゲルビーズを分取し、ヘキサンに加え撹拌洗浄を3度行った。同様の操作をエタノール、60mM リン酸緩衝液(pH7.4)にて行い、最終的に60mM リン酸緩衝液(pH7.4)中に、蛍光ハイドロゲルビーズを分散状態で得た。得られた蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は、90〜170μmであった。得られた蛍光ハイドロゲルビーズを、蛍光顕微鏡によって観察した結果を、図3および図4に示す。図3は明視野像の写真であり、図4は蛍光像の写真である。図3および図4に示すように、本実施例により得られた蛍光ハイドロゲルビーズの粒径が略均一であることが分かる。
【0112】
(実施例4)
最終濃度としてアクリルアミドが15質量%、実施例1で合成したF−PEG−AAmが5質量%、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが0.3質量%、および過硫酸アンモニウムが0.18質量%となるように60mM リン酸緩衝液(pH7.4)に溶解・混合して水溶液を調製した。
【0113】
別途、シクロヘキサンが49.3質量%、流動パラフィンが49.3質量%、セスキオレイン酸ソルビタンが1.4質量%となるように混合し、有機溶媒を調製した。
【0114】
次に、有機溶媒を撹拌翼により100〜400rpm程度で撹拌しながら、上記水溶液を加えることで、水溶液滴を有機溶媒中に分散させた。十分に水溶液滴が分散したところで、40℃まで加温し、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを500μL加え、2時間撹拌を続けた。この際、水溶液滴の粒径は、20〜600μmであった。
【0115】
次に、有機溶媒中に得られた蛍光ハイドロゲルビーズを分取し、ヘキサンに加え撹拌洗浄を3度行った。同様の操作をエタノール、純水にて行い、最終的に純水中に蛍光ハイドロゲルビーズを分散状態で得た。得られた蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は、20〜600μmであった。
【0116】
(実施例5)
最終濃度としてアクリルアミドが15質量%、実施例1で合成したF−PEG−AAmが5質量%、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが0.3質量%となるように、60mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解・混合して水溶液を調製した。別途、シリコーンオイルに、脱酸素のため窒素バブリングを行い、有機溶媒を調製した。
【0117】
次に、実施例3に記載の方法にて、水溶液を有機溶媒中に分散させ水溶液滴を作製し、水溶液滴を含む分散液をシャーレに深さが500μmとなるように分取した。この際、水溶液滴の粒径は、90〜170μmであった。続いて、水溶液滴が分散している有機溶媒の吸収線量が100kGyとなるように、電子線を照射し重合を行った。
【0118】
次に、有機溶媒中の蛍光ハイドロゲルビーズを分取し、ヘキサンに加え、撹拌洗浄を3度行った。同様の操作をエタノール、60mM リン酸緩衝液(pH7.4)にて行い、最後に60mM リン酸緩衝液(pH7.4)中に蛍光ハイドロゲルビーズを分散状態で得た。得られた蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は、90〜170μmであった。
【0119】
(実施例6)
AFFDの代わりに微量分注器であるピペットマンを用いて、水溶液を有機溶媒中に分散させ水溶液滴を作製したこと以外は、実施例3と同様の方法にて蛍光ハイドロゲルビーズを作製した。水溶液滴の粒径は1mmであり、得られた蛍光ハイドロゲルビーズの粒径は1mmであった。
【0120】
(評価:蛍光プレートリーダーを使用した in vitro グルコース応答性の評価)
実施例3で作製した蛍光ハイドロゲルビーズを、グルコース濃度が0〜1000mg/dLである60mMリン酸緩衝液中に加え、蛍光プレートリーダーにより、各グルコース濃度における蛍光ハイドロゲルビーズの蛍光強度について観察した。グルコース濃度を上昇させた時の結果を図5に、グルコース濃度を下降させた時の結果を図6にそれぞれ示す。
【0121】
図5および図6に示すように、グルコース濃度を上昇させた場合と下降させた場合とにおいて、蛍光ハイドロゲルビーズの蛍光強度の違いはほとんどなく、本発明の製造方法により得られる蛍光ハイドロゲルビーズを用いることにより、安定してグルコース濃度を測定できることが分かった。
【符号の説明】
【0122】
1 蛍光ハイドロゲルビーズ、
2 光源、
3 光検出器、
4 励起光、
5 蛍光、
200 軸対称フロー焦点装置(AFFD)、
201、203、210 流路、
202 第一のチャンバー、
204 第二のチャンバー、
205 第二のチャンバーの出口、
206 有機溶媒、
207 水溶液、
208 単分散液滴、
209 狭窄部、
L 第二のチャンバーの出口からその近傍までの所定距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記化学式1で表される蛍光モノマーと、(メタ)アクリルアミド残基を含む重合性モノマーと、を含む水溶液から水溶液滴を作製する工程を含む、蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法:
【化1】

前記化学式1中、
およびXは、同一または異なっていてもよく、−COO−、−OCO−、−CHNR−、−NR−、−NRCO−、−CONR−、−SONR−、−NRSO−、−O−、−S−、−SS−、−NRCOO−、−OCONR−、および−CO−からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を含む炭素数1〜30の直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、この際、Rは、水素原子、または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
およびZは同一または異なっていてもよく、−O−または−NR’−であり、この際、R’は水素原子または置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基であり、
Q、Q’、Q’’、Q’’’は同一または異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、炭素数2〜11のアシル基、置換されているかもしくは非置換の炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルコキシ基、ハロゲン原子を含む基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、または炭素数1〜10のアルキルアミノ基であり、QおよびQ’ならびにQ’’およびQ’’’の少なくとも一方は、互いに結合して芳香環または複素環を形成してもよく、
およびYは、同一または異なっていてもよく、置換されていてもよい2価の有機残基であり、この際、YおよびYの少なくとも一方が、下記化学式2または下記化学式3で表される構造を含んでいてもよく、
【化2】

【化3】

前記化学式2および前記化学式3中、nは2〜5であり、jは1〜5であり、mは1〜200であり、*は結合点を表す。
【請求項2】
さらに、(b)前記水溶液滴を重合させ蛍光ハイドロゲルビーズを作製する工程を含む、請求項1に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項3】
前記(a)工程は、マイクロ流体装置を用いて、前記水溶液を有機溶媒中に吐出し分散させて行う、請求項1または2に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項4】
前記(a)工程は、微量分注器を用いて、前記水溶液を有機溶媒に滴下し分散させて行う、請求項1または2に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項5】
前記(a)工程は、撹拌している有機溶媒中に前記水溶液を添加して行う、請求項1または2に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がシリコーンオイルを含む、請求項3〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程は、ラジカル重合開始剤を用いて、前記水溶液滴を化学重合させて行う、請求項2〜6のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項8】
前記(b)工程は、光重合開始剤を用いて、前記水溶液滴を光重合させて行う、請求項2〜6のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項9】
前記(b)工程は、前記水溶液滴に放射線を照射して放射線重合させて行う、請求項2〜6のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項10】
さらに、(c)前記蛍光ハイドロゲルビーズを洗浄する工程を含む、請求項2〜9のいずれか1項に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。
【請求項11】
前記(c)工程は、ヘキサン、エタノール、リン酸緩衝液、および純水からなる群より選択される少なくとも1種の洗浄液を用いて行う、請求項10に記載の蛍光ハイドロゲルビーズの製造方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−1469(P2011−1469A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145648(P2009−145648)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成20年度 経済産業省委託事業「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」(BEANSプロジェクト)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)。国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】