説明

蛍光ランプの製造方法および蛍光ランプ

【課題】バルブの内側面側に形成された蛍光体膜の膜厚を制御し、より光利用効率の向上を図ることができる蛍光ランプの製造方法を提供する。
【解決手段】内部が気密封止され、内部空間2bで放電ガスを励起する放電空間が形成される内径が縮小する縮径部2dを備えたバルブ2aと、該バルブ2aの内側面2cに形成された蛍光体膜6とを有する蛍光ランプ1の製造方法であって、スラリー6aをバルブ2aの開口部2eから導入し、開口部2eからスラリー6aの余剰分を排出することによりバルブ2aの内側面2cにスラリー6aを塗布する塗布工程と、バルブ2aの開口部2eから縮径部2dに付着した未乾燥のスラリー6aの膜厚を薄くする薄膜化工程と、バルブ2aの内側面2cにおける前記未乾燥のスラリー6aを乾燥させる乾燥工程と、乾燥させたスラリー6aを焼付けして蛍光体膜6を形成する焼付け工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電によって発生する紫外線を蛍光体に照射することで可視光に変換する蛍光ランプの製造方法および蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無電極放電ランプの一例として、図4に示すようにガラスなどの透光性材料からなり内部に放電ガスとなる希ガスおよび蒸気化しえる金属(例えば、水銀)が気密封入され、外形を電球形状にしたバルブ2aと、バルブ2aの内側に落ち窪んだ凹部4と、凹部4内に立設した管状部5と、バルブ2aの内側面2cに形成された蛍光体膜6とから構成したランプ部10と、軟磁性材料からなるフェライトコア22の外周に巻回されて凹部4内に収納される誘導コイル23を備えたパワーカプラ部20と、を有する蛍光ランプ1が提案されている。
【0003】
この種の蛍光ランプ1では、誘導コイル23に高周波電流を流すことによりバルブ2a内の内部空間2bに誘導電磁界を発生させ、その誘導電磁界でバルブ2a内に封入してある希ガスを放電させ、その放電による放電ガスの放電プラズマで水銀を励起する。励起された水銀は、励起状態から基底状態に戻るときに紫外線を発する。この紫外線がバルブ2aの内側面2cに形成されている蛍光体膜6にあたり波長変換され、蛍光体膜6が可視光を発光する。
【0004】
ところで、このような蛍光ランプ1の製造方法において、バルブ2aに蛍光体膜6を形成させるには、通常、蛍光体、溶媒や結着剤などを混合した懸濁液(以下、スラリーという)をバルブ2aの内側面2cに沿うように垂れ流して塗布する塗布工程、塗布工程後にバルブ2aの内側面2cに塗布した前記スラリーに空気の吹き付け等によって前記スラリーを乾燥させる乾燥工程、乾燥した前記スラリーを焼付けして蛍光体膜6を形成する焼付け工程を順に行うことが考えられる。バルブ2aの内側面2cに塗布された前記スラリーは、前記溶媒が乾燥するまでは流動性を有するため、前記スラリーの乾燥の過程で重力にしたがってバルブ2aの内側面2cに沿って流れ、バルブ2aの一部に、表面張力などにより流動滞留する。その結果、バルブ2aの内側面2cに塗布された前記スラリーを焼付けする焼付け工程後では、蛍光体膜6の膜厚に関して、バルブ2aの内側面2cに前記スラリーが滞留して形成された部分の膜厚が、前記スラリーが滞留せずに形成された部分の膜厚よりも厚くなる傾向にある。
【0005】
これに対し、直管形状の蛍光ランプの製造方法においても、図5に示す如くバルブ2a’の内側面2cにスラリー6a’を塗布する塗布工程、スラリー6a’の塗布工程後に直管形状のバルブ2a’の内部に空気を吹き付けスラリー6a’を乾燥する乾燥工程、スラリー6a’をバルブ2a’の内側面2cに焼付ける焼付け工程を用いることが知られている。この直管形状の蛍光ランプの製造方法では、直管形状のバルブ2a’の両端部で電極(図示していない)を気密封止するため、バルブ2a’の前記両端部を、内側面2cで乾燥させたスラリー6a’を溶解する溶剤32を満たした液槽31中に浸漬し、直管形状のバルブ2a’の前記両端部における乾燥させたスラリー6a’を除去する除去工程を行うことが開示されている(特許文献1を参照。)。
【0006】
これによって、上述の特許文献1では、直管形状の蛍光ランプの前記両端部で電極を形成して気密封止するのに妨げとなる不要なスラリー6a’を除去できる旨が開示されている。なお、図5に示す直管形状の蛍光ランプの製造方法においては、乾燥したスラリー6a’が塗布された直管形状の蛍光ランプの前記両端部を液槽31中に浸漬させ、液槽31の外部に配置された超音波発振器52に接続され液槽31中に配置した超音波振動子51からの振動により乾燥したスラリー6a’をバルブ2a’の内側面2cから剥離することも開示されている。しかしながら、上述の特許文献1の蛍光体ランプの製造方法では、蛍光ランプのバルブ2a’における内側面2cに形成されたスラリー6a’の膜厚を均一にする方法に関しては何ら開示がない。
【0007】
また、図6に示す直管形状の蛍光ランプの製造方法においては、直管形状のバルブ2a’の長手方向を鉛直方向に保持しながら、スラリーをバルブ2a’の内側面に塗布する塗布工程、バルブ2a’内に鉛直方向の上端(図6中の上側)となる開口部(図示していない)からエアを吹き込んで前記スラリーを乾燥させる乾燥工程を行った後、バルブ2a’の端部に設けられた絞り加工された部位に滞留したスラリーをベルト60などに押し付け除去することも知られている(特許文献2を参照)。上述の特許文献2で開示された蛍光ランプの製造方法では、前記端部が絞り加工されているバルブ2a’は、スラリーが溜まりやすく、溜まったまま乾燥させると他の部分より蛍光体膜の膜厚が厚くなる。蛍光体膜の膜厚が厚くなった部分は、バルブ2a’の内部に脱落し、蛍光ランプのバルブ2a’内に残ることで外観不良となることを防ぐことができることが開示されている。なお、図6中のベルト60は、プーリ61および3個のローラ62によって移動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1―173539号公報
【特許文献2】特開平1―109637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述の図4に示す無電極放電ランプたる蛍光ランプ1では、バルブ2aの内側面2cに形成された蛍光体膜6は、放電空間からの紫外線を受け励起されて蛍光を発する。この蛍光は、蛍光ランプ1の外側に蛍光体膜6を透過する光と、蛍光ランプ1のバルブ2aの内部側へ放射される光と、に分けることができる。また、バルブ2aの前記内部側へ放射される光は、バルブ2aの内部で蛍光体膜6の表面などで反射し、一部が蛍光体膜6を透過してバルブ2aの外部に放射される。そのため、蛍光ランプ1の前記内部側へ放射される光は、一定の光強度の紫外線に対して、蛍光体膜6の厚みが厚くなるにつれ強くなる傾向にある。紫外線は、蛍光体膜6の膜厚に対し、ランベルト・ベールの法則にしたがって吸収され、蛍光体膜6のある膜厚以上には到達しなくなる。そのため、蛍光体膜6の膜厚が十分に厚い場合は、蛍光ランプ1の内部への発光強度は飽和する。また、蛍光ランプ1の外側へ透過する光は、蛍光体膜6を透過して蛍光ランプ1の外部に放射される。そのため、蛍光体膜6は、蛍光体膜6の膜厚が増加するとともに、蛍光体膜6の透過側への発光強度が増加する傾向にある。しかしながら、蛍光体膜6は、特定の膜厚で発光強度が最大値となるものの、該特定の膜厚以上では蛍光体膜6での紫外線の吸収などにより発光強度が減少する傾向にある。
【0010】
したがって、蛍光ランプ1からの光取り出し効率を高めるためには、最適となる一定の蛍光体膜6が存在する。しかしながら、蛍光ランプ1のバルブ2aの内側面2cのうち、蛍光体膜6の膜厚が過剰に厚い領域では、当該領域の蛍光体膜6によって、発光した光やバルブ2aの別の領域で蛍光体膜6が発光した光を、蛍光体膜6自体に吸収や反射などされ、バルブ2aの外側に十分に光が透過されない。そのため、蛍光ランプ1は、当該領域における光利用効率の低下を生じ、全体としての光利用効率の低下を生ずる場合がある。
【0011】
特に、図4の無電極放電ランプに示す蛍光体ランプ1のごとく、バルブ2aの内径が開口部2e側に向かって縮小する縮径部2dを備えたバルブ2aの内側面2cヘ蛍光体膜6を形成する場合、バルブ2aの縮径部2dにおける蛍光体膜6は、非常に顕著に厚膜化される傾向にある。そのため、より光取り出し効率の高い蛍光ランプ1が求められる現在においては、バルブ2aの内側面2cに前記スラリーを単に塗布して蛍光体膜6を形成するだけでは十分ではなく、更なる改良が求められている。
【0012】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、バルブの内側面側に形成される蛍光体膜の膜厚の均一性を向上でき、より光利用効率の向上を図ることができる蛍光ランプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、透光性材料からなり内部に放電ガスとなる希ガスが気密封止され、内部空間で放電ガスを励起する放電空間が形成される内径が縮小する縮径部を備えたバルブと、該バルブの内側面に形成された蛍光体膜とを有する蛍光ランプの製造方法であって、前記バルブの気密封止に先立って、蛍光体、結着剤および該結着剤を溶解する溶媒との懸濁液であるスラリーを前記バルブの開口部から導入し、前記スラリーの余剰分を排出することにより前記バルブの前記内側面に前記スラリーを塗布する塗布工程と、前記バルブの前記内側面における前記開口部から前記縮径部の前記内側面に付着した未乾燥の前記スラリーの膜厚を薄くする薄膜化工程と、前記薄膜化工程後に前記バルブの前記内側面における前記未乾燥の前記スラリーを乾燥させる乾燥工程と、乾燥させた前記スラリーを焼付けて前記蛍光体膜を形成する焼付け工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、バルブの内側面に塗布されたスラリーの膜厚を、前記バルブの内径が前記開口部に向かって縮小する前記縮径部の前記内側面に付着した未乾燥の前記スラリーの膜厚を薄くすることで、蛍光体膜の膜厚の均一性を向上でき、より光利用効率を向上を図ることができる蛍光ランプを製造することが可能となる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記塗布工程後、前記薄膜化工程前に前記バルブにおける前記縮径部から前記開口部の内側面に付着した未乾燥の前記スラリーを除いて前記バルブを乾燥させる部分乾燥工程を備えたことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、請求項1に記載の発明において、前記バルブの前記内側面における前記スラリーの乾燥を分けた部分乾燥工程を備えることで、前記スラリーの自重による塗布制御性をより向上させ、前記蛍光体膜の膜厚の均一性の向上を更に図ることができる蛍光ランプを製造することが可能となる。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記薄膜化工程は、前記スラリーの前記溶媒と同じ溶媒を入れた液槽中に、前記バルブにおける前記縮径部から前記開口部の内側面を含浸させることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、蛍光ランプの製造時に、前記蛍光体膜の化学的性質や前記バルブの機械的性質に影響を与えることを低減させつつ、前記蛍光体膜における膜厚の均一性を向上させ光利用効率を向上を図ることができる蛍光ランプを製造することが可能となる。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載された発明において、前記蛍光ランプの製造方法により形成された蛍光ランプであることを特徴とする。
【0020】
これにより、バルブの内側面側に形成される蛍光体膜の膜厚の均一性を向上でき、より光利用効率の向上を図ることができる蛍光ランプとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明では、バルブの開口部からバルブの内径が前記開口部に向かって縮小する縮径部の内側面に付着した未乾燥のスラリーの膜厚を薄くする薄膜化工程と、該薄膜化工程後に前記バルブの前記内側面における前記未乾燥の前記スラリーを乾燥させる乾燥工程と、を有することによって、前記バルブの前記内側面側に形成される蛍光体膜の膜厚の均一性を向上させ、より光利用効率の向上を図ることができる蛍光ランプの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1の蛍光ランプに用いられるバルブにおける蛍光体膜の製造工程を示す説明図である。
【図2】同上の蛍光ランプのバルブにおける蛍光体膜の膜厚を示し、(a)は比較のために示したバルブの説明図、(b)は本実施形態のバルブの説明図である。
【図3】同上の蛍光ランプと、比較のために示す蛍光ランプとにおける発光効率と蛍光体重量との相関図である。
【図4】実施形態1の蛍光ランプを示し、(a)は、概略断面図、(b)は蛍光ランプを構成するためのバルブとなる部材の概略断面図である。
【図5】従来の蛍光ランプの製造方法における概略説明図を示す。
【図6】従来の他の蛍光ランプの製造方法における概略説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
以下、本実施形態の蛍光ランプについて図4(a),(b)を参照して説明した後、蛍光ランプ1の製造工程について図1に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態の図4(a)に示す無電極放電ランプたる蛍光ランプ1は、透光性材料(ガラス等)によって形成したランプ部10と、ランプ部10の底部に取り付けた略円筒形の口金9と、高周波電流が通電されることによりバルブ2a内に誘導電磁界を発生させる誘導コイル23を有し口金9を介してランプ部10に結合されるパワーカプラ部20と、を備えている。
【0025】
ランプ部10は、外形が全体として電球形状をしたバルブ2aと、該バルブ2aの内側に窪んだ凹部4と、該凹部4内の底面4bから該凹部4内に立設した管状部5とから構成し、内部には希ガス(アルゴンやクリプトン等)および蒸気化しえる金属(水銀)を封入している。また、バルブ2aの内側面2cには、アルミナ等の金属酸化物からなる保護膜(図示せず)を形成し、該保護膜上には励起された水銀が放射する紫外線を可視光に変換するための蛍光体が結着剤とともに塗布された蛍光体膜6が形成されている。前記保護膜は、バルブ2aのガラス成分が該バルブ2aの内部へ溶出するのを防ぎ、ガラス成分と水銀の化学反応による光透過率の低下を防止するために好適に設けることができる。
【0026】
バルブ2aは、主となる発光部位で、球状の部分と円筒状の部分とが連続し縮径部2dを形成してある。また上述の円筒状部分の外周には、口金9を固定するための係止溝2gを形成してある。
【0027】
凹部4は、バルブ2aの上述の円筒状の部分の端からバルブ2aの内側に落ち窪んだ円筒状に形成され、窪みの底で底面4bを形成してある。そのため、バルブ2aの内径が縮小する縮径部2dの端部となる開口部2eは、円筒状の凹部4の端部となるフランジ部4aと溶着し密封可能に形成されている(図4(b)を参照)。ここで、図4(a)に示したランプ部10のバルブ2aと凹部4とは、元は別個の部材であり、バルブ2aの内側面2cへのスラリー6aの塗布は、バルブ2aと凹部4を溶着してバルブ2aの内部の気密封止に先立って実施される。溶着前のバルブ2aの外観が図4(b)に示している。
【0028】
管状部5は、凹部4の円筒よりも細い円筒状に形成しており、軸方向の一端部を凹部4内の底面4bの中央部に立設し、その内部空間は、バルブ2aの内側と凹部4の外側で囲んだ放電空間と連通してある。管状部5は、バルブ2a内を排気するための排気管を用いて形成したものであって、他端部が凹部4の外部に引き出され、ランプ部10の内部を排気しアルゴンガスなどの希ガスを導入した後、管状部5の中央部内に、バルブ2aの内部空間2bにおける水銀蒸気を供給し放電ガスの蒸気圧を制御するためのアマルガムが収納された容器7を保持棒11と共に収め管状部5の前記他端部を封止してバルブ2aを気密密封してある。そのため、凹部4の延伸する軸方向と垂直な断面では、凹部4の内部が管状部5との間で略ドーナツ状となる中空部3が形成される。
【0029】
なお、管状部5の内周面には、アマルガムを収容した容器7を固定するための突起部5bが設けられている。突起部5bは気密封止されたバルブ2a内部の相対的に温度の高い位置に設けられている。ここで相対的に温度の高い位置としては、たとえば、後述の誘導コイル23の内側でバルブ2a内の略中心部の位置とすることができる。
【0030】
容器7は、内部が中空の円筒容器形状に形成した金属材料(例えば、FeNi合金)からなり、容器7の内部には、放電空間に水銀蒸気を供給する粒子状のアマルガムが収納されている(図示していない)。アマルガムは、例えばビスマスとインジウムとの合金からなる基体金属に3.5%の含有比率で水銀を含有したものであり、臨界温度は約80℃である。この水銀を含有するアマルガムを使用することにより、水銀単体を使用した場合に比較して、広い温度範囲でバルブ2a内の水銀蒸気圧を略一定に保つことができる。また、容器7の長手方向の外周壁には水銀蒸気が出入り可能であるとともに、アマルガムの脱落を防止可能な孔を複数貫設してある。そして、図4(a)に示すごとく容器7は、誘導コイル23が周囲に巻回された管状部5内にあるとともに、管状部5の内部で突起部5bと保持棒11とで保持されている。
【0031】
管状部5の前記一端部側に形成した突起部5aは、図4(a)に示すごとくコ字状に形成した支持体8の一方が係止され、管状部5から放電空間に導出した支持体8の他方には仕事関数が小さい金属化合物(例えば、水酸化セシウム)を塗布したフラグ8aを固着してある。フラグ8aに塗布された金属化合物は、無電極放電ランプたる蛍光ランプ1の始動時における電子の数を増やす役割を担っている。
【0032】
ランプ部10を構成する口金9は、樹脂材等により両端が開口する円筒状に形成し、内周面には、内側に突出する係合突起9aを設け、該係合突起9aはバルブ2aの係止溝2gに係止してある。
【0033】
一方、上述のパワーカプラ部20は、AlやCuなどの熱伝導性材料により形成されランプ部10の管状部5が挿入される円筒状の放熱パイプ21と、放熱パイプ21の軸方向の一端部側が挿着された円筒状のシリンダ24と、放熱パイプ21の他端部側で放熱パイプ21に外装されたフェライトコア22と、フェライトコア22に巻回された誘導コイル23とを備えている。このパワーカプラ部20は、シリンダ24の大部分、放熱パイプ21の大部分、フェライトコア22、誘導コイル23がランプ部10の凹部4内に収納され誘導コイル23が管状部5の軸方向に沿って巻回されている。
【0034】
したがって、パワーカプラ部20の各部は、略円環状断面を有し、その外径は、それぞれ凹部4の中空部3の内径とほぼ等しく、かつ、それよりも若干小さくなるように設定されている。また、放熱シリンダ21の内径は、管状部5の外径とほぼ等しく、かつ、それよりも若干大きくなるように設定されている。これにより、パワーカプラ部20を凹部4の中空部3に嵌装することができる。
【0035】
ここで、フェライトコア22としては、例えば150〜200℃程度の高温下でも飽和せず安定したインピーダンスを維持するように、キュリー温度が250℃以上、飽和磁束密度が0.5T以上のMnZnフェライトを好適に用いることができる。
【0036】
誘導コイル23に高周波電力を供給すると、誘導コイル23から高周波電磁界が発生される。バルブ2aの内部空間2bに充填された放電ガスは、高周波電磁界のエネルギーを受けて励起され、放電し、紫外線を放射する。放射された紫外線は、バルブ2aの内側面2cに形成された蛍光体膜6により可視光に変換される。なお、蛍光ランプ1の光取り出し効率向上を目的として、凹部4の円筒面4cにバルブ2aの内側面2cと同様の蛍光体膜6を形成させてもよい。
【0037】
以下、上述の本実施形態の無電極放電ランプたる蛍光ランプ1の動作について詳述する。
【0038】
無電極放電ランプたる蛍光ランプ1の誘導コイル23に電源(図示せず)から高周波電流を供給すると、誘導コイル23は、誘導コイル23の周囲でバルブ2a内に誘導電磁界を発生させる。この誘導電磁界でバルブ2a内の電子を加速し、電子はエネルギーを持った状態で、バルブ2a内に気密封止した希ガス原子や水銀原子に衝突する。電子が衝突した水銀原子は、電離したり、励起されたりする。水銀原子の電離によって生じた電子は、再び誘導電磁界により加速され、再び水銀原子に衝突する。そして、所定の数量以上の電子を生成したところで放電プラズマが持続する。一方、電子の衝突により励起した水銀原子は、紫外線を放射し、基底状態に戻る。水銀原子が放射した紫外線のうち、バルブ2aの内側面2cに形成された蛍光体膜6に到達したものは、蛍光体膜6の蛍光体により可視光に変換され外部に放射される。しかして、本実施形態の無電極放電ランプは、蛍光ランプ1として機能する。無電極放電ランプは、バルブ2aの内部に電極を持たないため、電極切れによる不点灯がなく、一般的なバルブ2a内部に電極を備えた蛍光ランプに比べて、寿命が長いという特徴を有している。
【0039】
また、このような形態の蛍光ランプ1の場合には、フェライトコア22を組み合わせた誘導コイル23を用い、高い結合効率を得ることができるため、比較的低い周波数でもプラズマを始動、維持することが可能となり、低コストかつ高効率にすることが可能となる。さらに、上述の蛍光ランプ1は、誘導コイル23がバルブ2aの内部に収納されることから、外観上も好ましいという利点がある。
【0040】
次に、図4に示す本実施形態の蛍光ランプ1の製造方法について図1を用いて詳述する。
【0041】
まず、バルブ2aの気密封止に先立って、バルブ2aの内側面2cに、ハロ燐酸カルシウム蛍光体、演色性の高い白色光を得るために3波長域用の蛍光体として、Y:Eu蛍光体、LaPO:Ce蛍光体やBaMgAl1626:Eu蛍光体などの希土類蛍光体、結着剤(たとえば、ニトロセルロースやエチルセルロース)および該結着剤を溶解する溶媒(たとえば、酢酸ブチル)との懸濁液であるスラリー6aを鉛直上向きに配置したバルブ2aの開口部2eから適量導入した後、バルブ2aの内側面2cの全域にスラリー6aが塗布されるようにバルブ2を揺動させてスラリー6aの液面を動かす。引き続いて、鉛直下向き配置したバルブ2aの開口部2eからスラリー6aの余剰分を排出することによりバルブ2aの内側面2cにスラリー6aを塗布する塗布工程を行う。この時点では、バルブ2aの内側面2cに塗布されたスラリー6aは、まだ乾燥していない。
【0042】
その後、図1(a)に示すバルブ2aの開口部2eが鉛直下向きのままバルブ2aを静置し、バルブ2aの開口部2eからバルブ2aの最も内径の広い内部までスラリー6aを乾燥させる気体(たとえば、空気、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスなど)を導入するためのパイプ30の先端部を挿入してパイプ30と接続させた圧縮ボンベ(図示していない)から前記気体を図1(a)の矢印の向きに流入させる。これにより、スラリー6aは、バルブ2aの頂部2f側からバルブ2aの開口部2e側に向かって順次乾燥し始める。スラリー6aの乾燥した領域は、流動性がなくなるが、スラリー6aが未乾燥のバルブ2aの領域は、内側面2cに塗布された後も流動性を有する。そのため、スラリー6aは、前記気体の流れやスラリー6aの重力にしたがってバルブ2aの開口部2e側へ向かって垂れ落ちる。しかし、このようなスラリー6aの一部は、バルブ2aの開口部2eに到達してそこから排出されるものばかりではなく、バルブ2aの縮径部2dに滞留し、縮径部2dのスラリー6aの厚みが厚くなる傾向にある。
【0043】
本実施形態においては、スラリー6aの塗布工程後、バルブ2aにおける縮径部2dから開口部2eの内側面2cに滞留して付着した領域(たとえば、図1(a)中の一点差線よりも下側)のスラリー6aを乾燥させずに、バルブ2aにおける縮径部2dから開口部2eの内側面2cに付着した未乾燥のスラリー6a以外の縮径部2dよりも頂上部2f側のバルブ2aの領域(たとえば、図1(a)中の一点差線よりも上側)が乾燥した時点で、スラリー6aの乾燥を一旦停止する部分乾燥工程を行う(図1(a)を参照)。
【0044】
次に、バルブ2aをワイヤ34を用いて吊るした後、ワイヤ34によって図1(b)の矢印の方向に移動可能に構成させる。スラリー6aの溶媒と略同じ酢酸ブチルの溶剤32を満たした液槽31中に、バルブ2aの開口部2eからバルブ2aの縮径部2dまでを含浸させた後、バルブ2aが再び引上げられることになる。バルブ2aの液槽31からの引上げによる内側面2cでの溶剤32の液面の移動に伴って、縮径部2dに滞留していた余分なスラリー6aが、酢酸ブチルによって洗い流され、縮径部2dから離脱する。
【0045】
これにより、バルブ2aの内側面2cにおける開口部2eから縮径部2dの内側面2cに付着した未乾燥のスラリー6aの膜厚を薄くしてスラリー6aの膜厚を均一化可能な薄膜化工程を行うことができる。バルブ2aの縮径部2dにおけるスラリー6aは、乾燥させておらず、当該スラリー6aは流動性を有しているので、スラリー6aが溶剤32ヘの含浸によって、均一な膜厚形成に不要なスラリー6aの厚みの一部を容易に除去することができる(図1(b)を参照)。
【0046】
なお、液槽31の中央部に立設させたパイプ33から上述と同様に適宜の前記気体を導入させることで、バルブ2aの内側面2cにおける溶剤32の液面の高さを調整したり、溶剤32の液面の高さを揺動させることで、バルブ2aの内側面2cから除去する不要なスラリー6aの溶解を促進したり、スラリー6aの膜厚を調整させることもできる。
【0047】
また、本実施形態では、薄膜化工程を、スラリー6aの溶媒と同じ溶剤32を満たした液槽31中に含浸させて行っているが、不要なスラリー6aを吸引ノズル(図示していない)で吸引することや、バルブ2a内に溶剤32を流し込んで、不要なスラリー6aを洗浄させることで除去するとも可能である。
【0048】
続いて、前記薄膜化工程後、バルブ2aの内部に、パイプ30を再度挿入する。バルブ2aの内側面2cにパイプ30から前記気体を流入し、バルブ2aの内側面2cにおける前記未乾燥のスラリー6aを乾燥させる乾燥工程を行う。これにより、バルブ2aの内側面2cの全域の乾燥を完了することができる(図1(c)を参照)。
【0049】
続いて、バルブ2aの内側面2cに塗布され乾燥させたスラリー6aを適宜の温度(たとえば、660℃)で焼付ける焼付け工程を行うことで、蛍光体膜6を形成することができる。なお、焼付け工程前後で乾燥させたスラリー6aの膜厚には実質的に変化は生じない。その後、バルブ2aの端部と管状部5を備えた凹部4のフランジ4aとを溶着した後、管状部5を利用して内部に放電ガスとなる希ガスを導入し内部空間2bを気密封止することでランプ部10を形成する。上述したようにランプ部10とパワーカプラ部20とを結合させることで蛍光ランプ1を製造させることができる。
【0050】
なお、上記部分乾燥工程は、バルブ2aの形状、バルブ2aの大きさやスラリー6aの粘度などにより、適宜に省略することも可能である。
【0051】
さらに、薄膜化工程の終了直後では、液槽31の酢酸ブチルたる溶剤32中に含浸されたバルブ2aの縮径部2dからバルブ2aの開口部2eまでには余分な溶剤32が不均一に残留している場合がある。この場合、溶剤32が含有された液槽31に含浸させて直ちに、バルブ2aを乾燥させると、溶剤32中に含浸されたバルブ2aの領域ではスラリー6aの塗布ムラとなる場合がある。そこで、上述の薄膜化工程の終了後に、バルブ2aの開口部2eを鉛直下向きにして、余分な溶剤32がバルブ2aの開口部2eから排出されるまで所定時間(たとえば、数分間)だけ待機した後、上述の乾燥工程に移行すると、バルブ2aの縮径部2dからバルブ2aの開口部2eまでのスラリー6aの塗布ムラの発生を抑制することが可能となる。
【0052】
こうして蛍光体膜6が形成されたバルブ2aについて、図2に、バルブ2aにおける本実施形態の蛍光体膜6の膜厚分布と、本実施形態と比較のため単にバルブ2aにスラリー6aを塗布させて焼き付けした蛍光体膜6の膜厚分布と、を比較して図示している。図2中、縦軸は、図2中の左側に示すバルブ2aにおける測定位置を示し、バルブ2aの頂部2fにおける内側面2cを0mmとして頂部2fから開口部2e側までの距離をA(0mm)からH(150mm)まで8箇所の測定位置として図示している。また、図2中、横軸は、各測定位置における蛍光体膜6の膜厚を示し、本実施形態に用いられるバルブ2aでは3回(図2(b)の異なる3種類の線分を参照)、本実施形態と比較のためのバルブ2aでは6回(図2(a)の異なる6種類の線分を参照)それぞれ測定している。
【0053】
図2(a)に示すように、単にスラリー6aを塗布して焼付けさせた比較例のバルブ2aの内側面2cでは、バルブ2aの縮径部2dにおける蛍光体膜6の膜厚の増加が顕著である。本実施形態と比較のためのバルブ2aでは、それぞれ6回測定したバルブ2aの上部(たとえば、測定位置Aから測定位置C)における膜厚が約8〜13μmの範囲内であるのに対して、縮径部2d(たとえば、測定位置Dから測定位置H)の蛍光体膜6の膜厚は、最大で30μmに達する。それに対して、本実施形態により塗布した蛍光体膜6の膜厚分布は、図2(b)に示すように、それぞれ3回測定したバルブ2aの全域(測定位置Aから測定位置H)にわたって約10〜18μmの範囲内にあり、蛍光体膜6を単に塗布させたものと比較して、均一性が大幅に向上していることがわかる。
【0054】
図3に、本実施形態と比較のために形成させたバルブ2aと、本実施形態に用いられるバルブ2aとを適用した無電極放電ランプたる蛍光ランプ1の光利用効率を示す。図3では、バルブ2aへの蛍光体の重量と光利用効率の相関性を示し、蛍光体の重量における光利用効率が最大となる条件同士で、光利用効率の大小を比較している。本実施形態と比較に示す蛍光ランプは、図3中に黒丸と破線で示し重量4.5g付近で、光利用効率が極大値を示す分布となっている。これに対して、本実施形態の蛍光ランプ1は、図3中に黒三角と一点鎖線で示し重量3.2g付近で、光利用効率が極大値を示す分布となっている。本実施形態の蛍光ランプ1は、比較のために示す蛍光ランプの最大値と比べ、図3中aで示された差分(約0.4lm/W)の光利用効率が向上しており、バルブ2aに塗布された蛍光体膜6の膜厚の均一性向上による効率改善効果が認められる。
【0055】
なお、本発明は、本実施形態で開示した無電極放電ランプたる蛍光ランプ1のみならず、透光性部材に蛍光体膜6を形成し、その発光を利用する蛍光ランプに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 蛍光ランプ
2a バルブ
2b 内部空間
2c 内側面
2d 縮径部
2e 開口部
6 蛍光体膜
6a スラリー
31 液槽
32 溶媒


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性材料からなり内部に放電ガスとなる希ガスが気密封止され、内部空間で放電ガスを励起する放電空間が形成される内径が縮小する縮径部を備えたバルブと、該バルブの内側面に形成された蛍光体膜とを有する蛍光ランプの製造方法であって、
前記バルブの気密封止に先立って、蛍光体、結着剤および該結着剤を溶解する溶媒との懸濁液であるスラリーを前記バルブの開口部から導入し、前記スラリーの余剰分を排出することにより前記バルブの前記内側面に前記スラリーを塗布する塗布工程と、
前記バルブの前記内側面における前記開口部から前記縮径部の前記内側面に付着した未乾燥の前記スラリーの膜厚を薄くする薄膜化工程と、
前記薄膜化工程後に前記バルブの前記内側面における前記未乾燥の前記スラリーを乾燥させる乾燥工程と、
乾燥させた前記スラリーを焼付けて前記蛍光体膜を形成する焼付け工程と、を有することを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程後、前記薄膜化工程前に前記バルブにおける前記縮径部から前記開口部の内側面に付着した未乾燥の前記スラリーを除いて前記バルブを乾燥させる部分乾燥工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプの製造方法。
【請求項3】
前記薄膜化工程は、前記スラリーの前記溶媒と同じ溶媒を入れた液槽中に、前記バルブにおける前記縮径部から前記開口部の内側面を含浸させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光ランプの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載された蛍光ランプの製造方法により形成された蛍光ランプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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