説明

蛍光体の製造方法および製造装置

【課題】簡便かつ迅速に蛍光体を製造できる方法を提供する。また、前記方法を実施するのに適した製造装置を提供する。
【解決手段】蛍光体の母体を構成する化合物と賦活剤元素とを含む蛍光体原料を導電性繊維層に挟まれた絶縁性の空隙内に存在させ、前記導電性繊維層に電磁波を照射して当該空隙内に放電を発生させ、その作用によって前記蛍光体原料から蛍光体を製造することを特徴とする。導電性繊維層としては炭素繊維層が好ましく、特にフェルト状の炭素繊維層が好ましい。電磁波としてはマイクロ波が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイパネル等の表示装置や蛍光ランプ等の照明装置等の電気機器に広く使用できる蛍光体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体の製造方法としては、種々の方法が開示されており、例えば、固相法、イオン注入法等が挙げられる。
固相法とは、蛍光体母体を構成する元素を含む化合物と賦活剤元素を含む化合物とを所定量混合し、所定の温度で所定時間焼成して、固相間反応により蛍光体を得る方法である(蛍光体ハンドブック)。例えば、特許文献1には、硫化亜鉛に銅化合物とハロゲン化合物とを混合し、焼成することにより蛍光体を製造する方法が記載されている。特許文献2には、酸化カルシウム粉末、フッ化ユウロピウム粉末、酸化マグネシウム粉末および二酸化珪素粉末を混合して焼成することにより蛍光体粉末を製造する方法が記載されている。
イオン注入法とは、蛍光体母体を構成する元素を含む化合物に賦活剤元素をイオン化させて加速し打ち込むことにより蛍光体を得る方法である。例えば、特許文献3および特許文献4には、イオン注入法を用いた蛍光体製造方法およびイオン注入装置が記載されている。
【特許文献1】特開平7−62341号公報
【特許文献2】特開2006−265307号公報
【特許文献3】特公昭53−17624号公報
【特許文献4】特開平6−179869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載されたような固相法では、非酸化雰囲気下での気相における数時間の焼成処理を有するため、工程が複雑で時間がかかり、製造コストもかかる。
また、特許文献3に記載されたイオン注入法では、処理時間を短くするためイオン電流を高くすると、蛍光体の結晶の表面が分解溶融してしまうという問題がある。この問題を解決するため、特許文献4に記載されたように、間歇的なイオン注入と冷却を行うことによっても、注入時間は4時間程度を要している。さらに、イオン注入法による蛍光体製造装置は、母体結晶基板を収納する真空装置と、活性剤のイオン源部と、イオン化した活性剤を引き出すイオン引出し部等を有しており、高価である。
【0004】
したがって、本発明は、従来よりも簡便な方法で迅速に蛍光体を製造できる方法、および前記方法を実施するのに適した製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々検討した結果、蛍光体の母体を構成する化合物および発光中心となる賦活剤元素とを含む蛍光体原料に、放電とそれに伴う熱を作用させることによって、短時間で蛍光体を製造することに成功し、前記課題を解決した。
【0006】
すなわち本発明は、蛍光体の母体を構成する化合物と賦活剤元素とを含む蛍光体原料を導電性繊維層に挟まれた絶縁性の空隙内に存在させ、前記導電性繊維層に電磁波を照射して当該空隙内に放電を発生させ、その作用によって前記蛍光体原料から蛍光体を製造することを特徴とする蛍光体の製造方法である。
【0007】
導電性繊維層は、密に絡まった導電性繊維からなる層であり、層表面には導電性繊維の先端が多数突出している。したがって、当該導電性繊維層に電磁波を照射すると、導電性繊維層は電磁波を吸収し、層表面に突出している繊維の先端に電解が集中するため、導電性繊維層に挟まれた絶縁性の空隙(ギャップ)内に放電が発生する。また、放電エネルギーは熱エネルギーに変わるため、空隙内は高温となる。
したがって、蛍光体の母体を構成する化合物と発光中心となる賦活剤元素とを含む蛍光体原料を導電性繊維層に挟まれた空隙内に配置して、導電性繊維層に電磁波を照射すると、蛍光体母体は、放電による電子アタックを受け、表面構造が荒れ、その母体表面に、賦活剤元素が高温により融解し、蛍光体が生成する。
【0008】
本発明はまた、前記方法を行う装置に関し、反応容器を備えた蛍光体の製造装置であって、前記反応容器内には、導電性繊維層に挟まれた絶縁性の空隙が形成されており、前記空隙内に蛍光体原料を供給する蛍光体原料導入手段と、前記絶縁性の空隙内に放電を生じさせるよう前記導電性繊維層に電磁波を照射する電磁波照射手段とを備えたことを特徴とする蛍光体の製造装置に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法および装置によれば、導電性繊維層に挟まれた空隙に蛍光体原料を存在させた状態で、導電性繊維層に電磁波を照射するといった簡易な操作だけで蛍光体を製造することができる。また、非常に短時間で蛍光体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による蛍光体の製造方法の基本的な工程を図1に示す。なお、図1のフローチャートは例示的なものであり、本発明の製造方法は図1の工程に限定されない。
【0011】
本発明による蛍光体の製造方法では放電が発生することが重要である。大気中で電磁波を照射して高温にしただけでは蛍光体を製造することはできない。例えば蛍光体原料を電子るつぼに入れてマイクロ波を照射した場合、蛍光体原料は高温になるが、短時間での蛍光体の生成は確認されなかった。
これは、蛍光体の生成には、放電と熱の両方が作用していることを示している。この放電と熱エネルギーは、電磁波出力、導電性繊維の電磁波吸収性能並びに空隙の幅(あるいは空隙の体積)および導電性繊維層の体積により定まる。すなわち、電磁波出力が一定で空隙の体積が増加すると、放電頻度が減少するため、断熱性が一定であると、それに伴い、空隙内の温度も低くなる。したがって、所望の蛍光体製造に必要とされる反応温度および空隙の体積等に併せて、電磁波出力を調節することが好ましい。
【0012】
本発明にかかる導電性繊維層には、放電を発生させるために空隙の絶縁を破る電圧を蓄積できる静電容量が必要であり、また、高温を維持する断熱性を有するための厚みが必要である。そのため、本発明にかかる導電性繊維層は、0.5mm以上の厚みを有することが好ましく、また、一辺0.5mmの立方体以上の体積を有することが好ましい。電磁波出力、空隙の幅との関係により、好ましい導電性繊維層の厚み/体積は異なるが、例えば、電磁波出力500〜1000W、空隙の幅0.5〜5mmで2つの導電性繊維層を配置する場合、それぞれの導電性繊維層は、厚み約5〜10mm/体積約400〜約13,000mm程度とすることが好ましく、厚み約5〜10mm/体積500〜7000mmとすることがより好ましい。導電性繊維層の形状は特に限定されないが、直方体形状のように角のある形状の場合は角部分でスパークが発生しやすいので角を丸めることが好ましい。
【0013】
導電性繊維層としては、炭素繊維層が好ましい。特に、フェルト状の炭素繊維層が好ましい。炭素繊維層は導電性が高いため、電磁波を吸収しやすい。また、断熱性が高いため、放電により生じる熱を空隙内から外側に逃がしにくく、空隙内を高温(1000℃以上)に保つことができる一方、炭素繊維層の外側は高温になりにくいため、扱いやすく安全である。また、熱安定性が高いため、継続使用に適している。特に、高温焼成した炭素繊維は熱安定性が高く好ましい。また、炭素繊維層に挟まれた空隙は、還元雰囲気となるため、硫化物系の蛍光体のように酸化により失活する蛍光体でも安定して製造することができる。
特に、フェルト状の炭素繊維層(カーボンフェルト)は3次元構造で表面積が広く、層表面に先鋭な繊維先端が多数存在するため、電磁波吸収および放電発生に好適である。
導電性繊維としては、他にスチールウール、銅繊維、タングステンワイヤーも使用できる。また、これらの繊維を併用して用いることもできる。
【0014】
本発明において、導電性繊維層に挟まれた空隙とは、二つの導電性繊維層に挟まれた空隙だけでなく、三つ、あるいは四つの導電性繊維層で三方あるいは四方を囲まれた空隙も含み、あるいは一つの導電性繊維層の中をくりぬいて、各導電性繊維層が通電しないように切断した空隙等も含む。空隙の絶縁性は、放電が発生する程度であればよい。空隙の幅は、電磁波出力、導電性繊維の種類および導電性繊維層の厚み/体積との関係により好ましい距離が異なるが、例えば、電磁波出力500〜1000Wで厚み5〜10mm、体積500〜7000mmのカーボンフェルトを2つ用いた場合、好ましい空隙の幅は0.4〜5mmであり、より好ましくは0.5〜3mm、特に好ましくは0.7〜1.5mmである。
【0015】
本発明の特徴の一つとして、蛍光体生成反応が進行する場となる絶縁性の空隙を、還元性の導電性繊維層で囲むことができるため、反応を還元雰囲気下にて進行できることが挙げられる。そのため本発明の製造方法は、Sn2+、Eu2+、Ce3+、Tb3+などを賦活剤とする蛍光体、あるいはCaS系、ZnS系などの硫化物を母体とする蛍光体のように還元雰囲気中で製造する必要がある蛍光体を製造するのに特に好適である。
ZnS系蛍光体を例にとって説明すると、母体であるZnSを大気中で普通に焼成すると、酸化されてZnOになり、蛍光体が失活しやすいが、本発明の方法では、ZnSが維持されるため、高収率で蛍光体を製造することができる。また、従来の固相法(焼成法)では、還元ガスとしてHを含むNや、硫化水素などを用いていたため、手間がかかるだけでなく、危険を伴っていたが、本発明では還元性雰囲気にするために還元ガスを用いる必要がないため、安全かつ簡易に蛍光体を製造することができる。
【0016】
本発明の蛍光体原料には、蛍光体の母体を構成する化合物と賦活剤元素が含まれる。前記母体構成化合物や賦活剤元素としては、従来から行われている固相法(焼成法)において蛍光体原料として使用されている母体構成化合物および賦活剤元素を使用することができる。例えば、母体構成化合物としては、硫化亜鉛、硫化バリウム、硫化カルシウム等が挙げられる。賦活剤元素としては、銅、銀、ユーロピウム等が挙げられる。また、賦活剤元素にはいわゆる共賦活剤となる元素(例えばZnS:Ag,ClにおけるCl、ZnS:Cu,AlにおけるAlなど)も含まれる。賦活剤元素は元素の種類や反応条件等によりそのまま添加しても、あるいは賦活剤元素を含む化合物の形で添加してもよい。また、通常の固相法と同様、反応を促進・安定化・補助するための助剤を添加してもよい。例えば融剤(ハロゲン化物など)を加えてもよく、またこの他に、反応を補助する物質として、硫化水素等の還元性気体やアルミニウムフィルム等の還元性フィルムを加えることもできる。母体構成化合物と賦活剤の混合比、融剤等の助剤の要否等は従来の固相法と同じでよい。
蛍光体原料の形状は、粉末状であってもフィルム形状等であってもよく、蛍光体原料や製造条件に合わせて適宜調節すればよい。一般的には粉末状あるいは粒子状が好ましい。また、蛍光体原料にもよるが、一般的に、粒子径が小さい方が蛍光強度の高いものができる。好ましい粒子径は8.6メッシュ以下、特に好ましくは74メッシュ〜600メッシュである。また、必要に応じて加温し、蛍光体原料に吸着している水や空気を除くことが好ましい。
【0017】
本発明で使用される電磁波は、周波数等特に限定されないが、好ましくは300MHz〜300GHzのマイクロ波である。価格や量産性等の要因からは、特に電子レンジ等で使用されている2.45GHzのマイクロ波が好ましい。したがって、本発明の方法には、マルチモードの電磁波照射装置を使用することもできる。反応に必要な温度に応じて反応温度を変えることができるため、出力が調整できる電磁波照射装置がより好ましい。
適切な条件の下では、硫化亜鉛系の蛍光体であれば1分以内、硫化バリウム系であれば数分といった非常に短い時間で蛍光体を製造することが可能である。電磁波の照射方向等は特に限定されず、導電性繊維層に確実に照射されればよい。
【0018】
本発明の製造装置において使用される反応容器の材質は、耐熱強化ガラス、石英等が好ましい。
また、前記反応容器内において、一つの通路状の空隙が形成されるよう導電性繊維層を配置すれば、固体のように流動性の低い原料を、確実に空隙内に供給するのに好適であり、また、生成物の回収漏れを防ぎやすい。特に、希土類等の原料や性能が確保された蛍光体は高価なので、確実に反応を進行させ、確実に生成物を回収することが望まれるが、上記装置はこのような高価な固体の取り扱いに非常に適している。
【0019】
特に、前記絶縁性の空隙を縦方向に形成し、当該空隙の上部に原料導入部を設置し、下部に生成物回収部を設置し、原料導入部と生成物回収部それぞれを空隙と連通させ、原料導入部から前記空隙に投入された原料が、導電性繊維層の空隙に狭まれた状態で保持されるよう、導電性繊維層を近接させて配置すれば、蛍光体原料を導入部から投入するだけで原料を放電領域に滞留させることができ好ましい。好ましい空隙の幅は、蛍光体原料の状態によっても異なるが、例えば原料が粉末状の場合は、0.5〜1.5mmである。導電性繊維層の表面には多数の繊維先端が突出しているため、蛍光体の保持に効果的である。また、導電性繊維層同士は一部短絡していても放電が発生するので、下部の導電性繊維を接触させて空隙の下端部を塞ぎ、蛍光体原料の落下を防止してもよい。
原料導入部や生成物回収部は絶縁性の空隙と直接連通する構成としても他の部材を介在させて連通する構成としてもよい。例えば原料導入部と空隙の間にガラス管を配置して連通させてもよい。
【0020】
前記装置において、反応生成物の回収は、反応終了後に蛍光体が劣化しない有機溶剤(例えば石油エーテル等)を空隙に流して反応生成物を生成物回収部に洗い出すことによって行うことができる。洗い出した反応生成物は、有機溶剤と分離して自然乾燥することにより、変質させることなく、回収することができる。または空隙内へ気体を送風することによって、生成物回収部に蛍光体を送り出してもよい。このような構成とすれば、導電性繊維層を動かすことなく生成した蛍光体を取り出せるため、操作が簡便である。
【0021】
本発明の製造装置を連続式の装置とする場合は、導電性繊維層に挟まれた空隙内で蛍光体を移動させる手段を設けることが好ましく、不活性輸送媒体で原料を流動させ、所定の反応時間の間、蛍光体原料が導電性繊維層に挟まれた空隙内に保持されるよう制御できることが好ましい。輸送媒体としては、セラミックス等を用いることができる。例えば、水平方向に移動するベルトコンベア式のセラミックス製のスライド床を形成し、その両側に導電性繊維層を配置して、所定の時間蛍光体原料が導電性繊維層に挟まれた空隙内に存在するよう、導電性繊維層の長さおよび移動速度をコントロールして、原料を移動させながら反応を進行させることにより、大量生産が可能な連続式の装置を構成することができる。
【実施例1】
【0022】
赤色蛍光体の製造
蛍光体製造装置は、図3に示すように、2.45GHzマイクロ波発信器と、同軸管によりチューナーを介して接続された共鳴器(クロニクス技研株式会社製)とからなる電磁波照射装置を備え、前記共鳴器を通したガラス管(反応容器)内に2500℃焼成カーボンフェルト(長さ40mm×幅15mm×厚み0.5mm)が2つ近接して配置されて絶縁性の空隙を形成している(カーボンフェルト間の距離は約1mmとした)。そして、カーボンフェルト間の空隙内に蛍光体原料を供給するための原料収納部が反応容器の上部に設けられており、当該原料収納部はガラス細管により前記空隙と連通され、蛍光体原料を確実に空隙内に供給する原料導入部を構成している。反応容器の下端は生成物回収器と連通している。
【0023】
蛍光体母体構成化合物として硫化亜鉛を、賦活剤元素としてマンガンを、助剤として塩化マグネシウムをモル比1:0.15:0.1で混合し、メノウ乳鉢で粉砕して蛍光体原料を作製した。
この蛍光体原料を導入部からカーボンフェルトピースに挟まれた絶縁性の空隙内に投入し、2.45GHzマイクロ波100Wを30秒間照射した。蛍光体原料はカーボンフェルトピース間に保持され、反応時間の間中、カーボンフェルトピース間に存在していた。照射後、原料導入部から有機溶剤を流し、反応生成物を生成物回収器に洗い出して回収した。有機溶剤と反応生成物を分離した後、反応生成物にブラックライトを照射し、発光スペクトルを測定した。図2Aのような発光スペクトルが観測され、赤色蛍光体(ZnS:Mn)の生成が確認された(図2A)。
【実施例2】
【0024】
緑色蛍光体の製造
蛍光体製造装置は、実施例1と同様のものを用いた。
蛍光体母体構成化合物として硫化亜鉛を、賦活剤元素として銅を、助剤として塩化マグネシウムをモル比1:0.01:0.1で混合し、メノウ乳鉢で粉砕して蛍光体原料を作製した。
この蛍光体原料を導入部からカーボンフェルトピースに挟まれた絶縁性の空隙内に投入し、2.45GHzマイクロ波100Wを40秒間照射した。蛍光体原料はカーボンフェルトピース間に保持され、反応時間の間中、カーボンフェルトピース間に存在していた。照射後、原料導入部から有機溶剤を流し、反応生成物を生成物回収器に洗い出し、有機溶剤と反応生成物を分離した後、反応生成物にブラックライトを照射し、発光スペクトルを測定した。約500nmをピークとする発光スペクトルが観測され、緑色蛍光体(ZnS:Cu)の生成が確認された(図2B)。
【実施例3】
【0025】
青色蛍光体の製造
蛍光体製造装置は、実施例1と同様のものを用いた。
蛍光体母体構成化合物として硫化バリウムを、賦活剤元素を含む化合物として酸化ユーロピウムを、助剤として硫黄を1:0.1:0.2で混合し、メノウ乳鉢で粉砕した。さらに助剤として破砕したアルミニウムフィルム片を加えて蛍光体原料を作製した。
この蛍光体原料を導入部からカーボンフェルトピース間に配置し、2.45GHzマイクロ波100Wを120秒間照射した。照射後、送風により反応生成物を回収した。この反応生成物にブラックライトを照射し、発光スペクトルを測定した。約475nmをピークとする発光スペクトルが観測され、青色蛍光体(BaS:Eu)の生成が確認された(図2C)。
【0026】
実施例1〜3により、本発明の製造方法によれば、導電性繊維層に挟まれた空隙に蛍光体原料を存在させて電磁波を照射するといった非常に簡単な操作によって、わずか30秒〜120秒といった非常に短い時間で蛍光体を製造できることが分かった。
【0027】
また、実施例1〜3によって、本発明によりRGB(赤・緑・青)の3色全ての蛍光体を製造できることが分かった。また、実施例1〜3で製造したRGBの各蛍光体を混合することにより、白色の蛍光を発する蛍光組成物を得ることができた。
【実施例4】
【0028】
実施例2で蛍光体原料として使用した母体構成化合物(ZnS)と生成した蛍光体について、XRDスペクトルを測定した。原料として用いたZnSのスペクトルを図4Aに、生成した蛍光体のスペクトルを図4Bに示す。図4に示すように、ZnSはせん亜鉛鉱型から、ウルツ鉱型に転移しているが、蛍光体母体(ZnS)は維持されており、酸化による副生成物(ZnO)は生成されていない。従って本発明の製造方法によって製造された蛍光体は純度が高いことが分かる。
【実施例5】
【0029】
製造条件の検討
導電性繊維層の体積、空隙の幅(ギャップ距離)を変更して、好ましい製造条件を検討した。導電性繊維層として、フェルト状の炭素繊維層(カーボンフェルト:CF)を用い、電磁波照射装置として電子レンジを用いた。電子レンジの庫中で、円柱状のカーボンフェルト2つを、円柱周縁部分にセラミックス性の部材を介在させることによって、一定の間隔(ギャップ距離)をとって上下に重ね、CFに挟まれた絶縁性の空隙(ギャップ)を形成し、2.45GHz・700Wにてマイクロ波を照射した。CFの円柱直径、CF間ギャップ距離を適宜変更し、60秒間電磁波照射を行った時点のギャップ内温度を電子レンジに設けたのぞき窓から赤外線サーモグラフィーにより測定した。
【0030】
実験の結果、CF間ギャップ距離が小さいほど、ギャップ内の温度は高温となる傾向を示した。一方、CF間ギャップ距離を固定し、CF円柱直径を徐々に大きくした場合、最初は円柱直径が大きくなるにつれてギャップ内温度が上昇する傾向を示したが、ある点を境として、直径が大きくなるにつれてギャップ内温度が低下する傾向に転じた。また、ギャップ内に熱を閉じこめて高温を維持するためには、CFの断熱性も重要であり、CFの厚みが0.5mm以上あることが好ましかった。CF間ギャップ距離を1〜5mm、CFの厚みを5〜10mm、CFの体積を1500〜7000mm程度とすれば、ギャップ内の測定温度は約900℃〜約1500℃に達し、各種の蛍光体を短時間で製造することができた。
【0031】
実施例5の結果から、本発明の製造方法では、CFの体積やCF間ギャップ距離を適切な範囲とするだけで、わずか60秒でギャップ内の測定温度が1000℃以上の高温に達することが分かった。ギャップ内の実際の温度は、サーモグラフィーによる測定温度よりさらに高いと考えられる。蛍光体の製造に最適な温度は、蛍光体の種類によって異なるため、製造する蛍光体によって温度を変更する必要があるが、本実施例の結果から、温度制御はギャップ距離や導電性繊維層の体積を変えることによって適宜調節可能であることが明らかになった。また、短時間で高温に達するのは、放電エネルギーが熱エネルギーに変わるためと考えられるため、反応に十分な放電が起こっていることが分かる。
【0032】
上述したように、本発明の製造方法では、導電性繊維層の体積や空隙の幅を変更するだけで適切な温度や放電頻度の調整が可能であるため、本発明の方法は、電磁波出力調整が不可能な装置を用いても実施することができ、汎用性にも非常に優れている。
なお、当然のことながら、電磁波出力の調整が可能な装置を用いて、電磁波出力によって温度や放電頻度を制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の製造方法を説明するフローチャートである。
【図2】(A)は実施例1で製造した赤色蛍光体の蛍光スペクトル、(B)は実施例2で製造した緑色蛍光体の蛍光スペクトル、(C)は実施例3で製造した青色蛍光体の蛍光スペクトルである。
【図3】Aは実施例で使用した装置の模式図並びに反応容器の縦断面図であり、Bは反応容器のX−X線での横断面図である。
【図4】(A)はマイクロ波照射前のZnSのXRD スペクトル、(B)はマイクロ波照射後のZnSのXRDスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体の母体を構成する化合物と賦活剤元素とを含む蛍光体原料を導電性繊維層に挟まれた絶縁性の空隙内に存在させ、前記導電性繊維層に電磁波を照射して当該空隙内に放電を発生させ、その作用によって前記蛍光体原料から蛍光体を製造することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記導電性繊維層がフェルト状の炭素繊維層である、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記電磁波がマイクロ波である、請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
反応容器を備えた蛍光体の製造装置であって、前記反応容器内には、導電性繊維層に挟まれた絶縁性の空隙が形成されており、前記空隙内に蛍光体原料を供給する蛍光体原料導入手段と、前記絶縁性の空隙内に放電を生じさせるよう前記導電性繊維層に電磁波を照射する電磁波照射手段とを備えたことを特徴とする蛍光体の製造装置。
【請求項5】
前記絶縁性の空隙が縦方向に形成され、当該空隙の上部に原料導入部が、下部に生成物回収部が設置され、前記原料導入部から前記空隙に投入された原料が、前記導電性繊維層に狭まれた状態で保持されることによって前記空隙内に留まり、反応進行後に前記空隙の上部から、気体あるいは有機溶剤からなる輸送媒体を流すことによって反応生成物を前記生成物回収部に輸送することを特徴とする請求項4に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−297427(P2008−297427A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144819(P2007−144819)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(304013331)有限会社ミネルバライトラボ (4)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】