説明

蛍光体微粒子とその製造方法

【課題】赤色蛍光体として利用可能な高温処理を必要としない高結晶性かつ粒子径が100nm以下の発光中心金属イオンを固溶したイットリア微粒子を製造する。
【解決手段】ユーロピウムなどの希土類金属イオンとイットリウムイオンとの混合水溶液をアルカリ水溶液でpH8以上に調製し、360−500℃で短時間水熱反応させて、一次粒子径が100nm以下であり、その粒子は結晶化度が高い希土類金属イオン固溶イットリア微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均粒子径が100nm以下で、均質な粒子径分布を有する蛍光体微粒子、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類固溶イットリア、特に希土類金属としてユーロピウムを固溶したものは、赤色の蛍光体として、カラーCRTやLCD用バックライトCCFL(冷陰極管)低電圧フィールドエミションディスプレーなどのディスプレー用蛍光体の母体材料として幅広く使用されている。
特に低電圧FED用蛍光体の場合、硫化物蛍光体は分解しやすいという問題があり、酸化物系蛍光体の研究が進められているが、高輝度を実現する蛍光体は見出されていない。
【0003】
現在、蛍光体は、一般に固体の原材料を混合して高温で焼成する固相反応により合成されており、焼成温度が1500℃以上にもなることから、粒子同士の融合により微粒子を得ることが難しい。そのため、ディスプレー用蛍光体として用いられるイットリアの粒子径は一般に5μmの大粒子から成るもので、これを後工程でボールミルなどにより微粉砕して製造しているのが現状である(非特許文献1参照)。
【0004】
上記以外の液相合成法として、クエン酸ゲル法によるZn添加Y:Euの例が報告されている(非特許文献2参照)。母体材料となるYの原材料として硝酸イットリウム、添加する発光中心の希土類塩化物を純水に溶解し、化学量論的にみて2倍量モルのクエン酸を加え、均一混合し、その後、水を蒸発させ、ゲルを得る。これを1000℃、5時間、空気中で焼成し、蛍光体を作製する。通常の固相合成法に比べて粒子の細かいものが得られる。しかし、高温長時間の焼成工程を必要とする点では固相合成法と同様である。
【0005】
他に気相法による合成例として、ガス中蒸発法でY:Eu焼結体に炭酸ガスレーザを照射し、5〜21nmのナノ粒子が得られている。しかし、発光強度は粒子サイズの減少とともに低下する傾向があり、粒子径が1μm以下になるとそれが顕著となることが報告されている(非特許文献3参照)。
【0006】
水熱反応を利用した赤色蛍光体の製造方法としては、原料として、Y(NOとEu(NOもしくはY(OH)およびEu(OH)を用い、アルカリ性水溶液中で100℃〜350℃、0.2MPa〜25MPaで加熱加圧して水熱反応を行なわせた後、800℃〜1600℃でアニールし、その後分級することを特徴とする製造方法が開示されている(特許文献1−3)。その粒子の平均粒径は、0.1μm〜2.0μmで最大粒径が5μmをこえないことを特徴としている。しかし、水熱処理のみでは十分な発光強度が得られないため、後工程で800℃以上でのアニールする工程と分級する工程が必要とする。アニールすることにより結晶粒子の成長に伴い粒度分布が広くなるため、分級工程が必要となり、煩雑な蛍光体微粒子製造プロセスとなっている。また、水熱反応時間が長く、オートクレーブを用いる回分式水熱処理であるため、生産性が悪く、経済性に欠けるという問題がある。
【0007】
従来、ナノサイズの結晶粒子を得るには、短時間で核生成及び結晶化を完結させれば良いことは知られていたが、特定の化合物の、ナノサイズの結晶粒子を製造するには、個々の化合物について、それぞれ、経験的、実験的な事例の積み重ねによる外はなく、最適な、原料化合物、反応方法、反応装置等を決めるには、多大の努力と時間を重ねる必要があり、当技術分野においてもそれらの解明が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公開2001−187884号公報
【特許文献2】特公開2002−226844号公報
【特許文献3】特公開2003−13057号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】増井敏行、今中信人、希土類微粒子蛍光体の開発動向、マテリアルインテグレーション、Vol17,No.3.p10-13(2004).
【非特許文献2】小南裕子、中西洋一郎、液相合成法による電界放射型ディスプレイ用蛍光体の合成、応用物理、74巻、第3号、p356-359(2005).
【非特許文献3】J.Luminescence 126(2007) 427-433.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、従来の蛍光体微粒子は、固相合成物は発光強度は十分であるが、微粒化に粉砕工程などを必要とすること、一方、従来の水熱合成物では、粒子径はサブミクロン以下ではあるが、結晶性が低く、十分な発光特性を有しないため、後工程として、アニール処理と分級工程などを必要とするのが現状である。
本発明の目的は、この問題を解決し、粒子径が100nm以下の超微粒子からなり、しかも個々の微粒子がそれぞれ、Euなどの必要な添加成分の1種以上を含有していることを特徴とする、蛍光体微粒子を連続的に且つ効率よく短時間に製造する方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的は、平均粒径が100nm以下のナノ粒子からなり、その粒径分布が狭く、大きな比表面積を有する蛍光体微粒子を提供することである。
さらに、本発明の目的は、単一の工程で、短時間の反応で、ナノ粒子を製造することが可能な、蛍光体微粒子の製造方法を提供することである。加えて、本発明の目的は、ディスプレー用、照明用等の幅広い技術分野で使用される発光材料、発光デバイス等の製造に有用な蛍光体微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記諸問題を抜本的に解決することが可能な新しいナノサイズの結晶粒子からなる蛍光体微粒子を製造する技術を開発することを目指して、鋭意研究を積み重ねた結果、ユーロピウムなどの希土類金属化合物とイットリウム化合物を、pH8以上で亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として水熱反応させることにより、短時間での反応で赤色蛍光体微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記課題を解決するための、本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)平均粒子径が100nm以下で、単結晶粒子からなる希土類金属イオン固溶イットリア結晶粒子を製造する方法であって、ユーロピウムなどの希土類金属化合物及びイットリア化合物を、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
(2)イットリウム化合物として、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、酢酸イットリウム、イットリウムアルコキシド、又はイットリウム化合物の加水分解物を、ユーロピウムなどの希土類金属化合物として硝酸塩、塩化物、酢酸塩を使用することを特徴とする前記(1)項に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
(3)水熱反応を、温度360〜500℃、圧力20〜40MPaで行うことを特徴とする前記(1)または(2)項に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
(4)水熱反応時間が、60秒以内であることを特徴とする前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
(5)水熱反応を、pH>8の領域で遂行することにより、実質的にユーロピウム固溶イットリアを製造することを特徴とする前記(1)〜(4)項のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
(6)連続プロセスで行い、反応域の滞留時間が短くし、外部式加熱が可能な管型反応器を用いた(1)〜(5)項のいずれかに記載の蛍光体微粒子の製造方法。
(7)基本構造が一般式
(1−x)Y・xRe
(式中のxは0.01〜0.1の数である。ReはCe,Pr,Nd,Euいずれかを含む希土類金属)で表され、水熱反応の生成物であり、一次微粒子からなる粒子径が100nm以下の、単結晶微粒子の非凝集集合体であって、アニーリングを行わずに発光性を示す、蛍光体微粒子。
(8)比表面積(BET法)が30m/g以上である(7)に記載の蛍光体微粒子。
本発明においてアニーリングとは500〜1600℃で、空気中で処理することを言う。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、(1)平均粒子径が100nm以下のナノ粒子からなり、その粒径分布が非常に狭い範囲にある、蛍光体微粒子を提供できる、(2)結晶性が高く、単結晶の一次粒子の分散状体であり、水熱反応によりの生成物を熱処理ないしはアニーリングしなくても既に蛍光発光するのに十分に高結晶体である。この場合の蛍光発光の輝度は少なくとも目視で明確に発光色が確認できる程度の発光をすることを言う。こうして熱処理ないしはアニーリングによる結晶化の必要がない、蛍光体微粒子を提供できる、(3)原料混合塩のEu/Y組成比を調整することにより、ユーロピウムなどの希土類金属酸化物固溶比を制御することできる、(4)単一の工程で10秒以内の短時間の反応で、ナノ粒子を製造することができる、発光強度(輝度)を向上させるために、通常のアニール処理を行っても良いが、これは通常より低い焼成温度で行うことができる(6)ナノサイズレベルで、結晶構造が制御された、高密度で、欠陥のない蛍光体微粒子を提供できる、(7)ディスプレ−、照明等の技術分野で使用される発光材料等として有用な、赤色蛍光体微粒子を提供できる、という格別の効果が奏される。本発明において平均粒子径は窒素吸着測定法によるBET比表面積値から算出したものである。
本発明は、新しい、蛍光体のナノ粒子の製造方法及びそのナノ粒子を提供するものである。本発明は、複雑な装置、多段プロセスを必要とすることなく、装置がコンパクトであり、極短時間で、結晶性の高い、単結晶からなる蛍光体ナノ粒子を提供することを可能とするものであり、蛍光体材料等の技術分野における、新技術の開発を推進するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法を実施するのに好適な流通式水熱合成反応装置の模式図を示す。
【図2】実施例の生成物のTEM像を示す。
【図3】実施例の生成物のXRDチャートを示す。
【図4】実施例の生成物の発光スペクトルを示す。
【図5】比較例の生成物のXRDチャートを示す。
【図6】比較例の生成物の発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
【0017】
本発明は、ユーロピウムなどの希土類金属及びイットリウム混合化合物を、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることにより、例えば、平均粒子径が100nm以下、好ましくは10〜40nmの、一次単結晶同士が凝集を起こしていないが集合している非凝集結晶集合体を得る。凝集していないことは電子顕微鏡で観察できるが、具体的にはBET法による比表面積が30m/g以上であることが望ましい。本発明はこの蛍光体微粒子を10秒以下の短時間で製造し得ることを特徴とするものである。本発明者らは、従来の問題点を解決し、蛍光体のナノサイズ微粒子の合成を可能にする新しい製造方法を種々検討する中で、亜臨界ないし超臨界状態の水は、非極性のガス状となるため、非極性の金属酸化物の生成速度が著しく大きくなり、核生成速度も極めて大きくなること、当該水の物質拡散係数は、ガス程度に大きく、水熱反応の結果で生じる水の拡散速度に律されることがなく結晶化が進行すること、更に、反応媒体中に溶存するイオン濃度が極めて低いため、イオンの取り込みによる粒子成長が生じ難いので、粒子は一次微粒子の生成にとどまり、また、極めて短時間のうちに反応が終了するために結晶の相転移も生じにくいこと、等の知見を得て、更に、鋭意研究を重ねることにより、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体とすることにより、ナノサイズで、蛍光体微粒子を合成できることを見出し、本発明に至った。
【0018】
本発明において、亜臨界ないし超臨界状態の水とは、具体的には、温度360〜500℃、圧力20〜40MPaの範囲にある水の状態を示し、好適には、温度360〜420℃、圧力25〜30MPaが例示される。特に、温度が、374℃以上にある水熱反応条件が、水の密度及び誘電率の低下にともない、水熱反応が加速される等の理由により好適である。反応媒体は、水を主要成分とするが、他の媒体、例えば、有機溶媒、極性溶媒等を含む水性の混合溶媒も適宜使用することができる。
【0019】
本発明の、蛍光体微粒子の製造に用いる、イットリウム源としては、イットリウム塩類一般を用いることができ、好適には、例えば、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、硝酸イットリウム、酢酸イットリウム、イットリウムのアルコキシド等のイットリウム化合物が例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。これらの化合物は、水溶性であると好適であるが、他に、例えば、イットリウム化合物の加水分解により得られる、固体状のイットリウム水酸化物を含むスラリー溶液、例えば、硝酸イットリウムの水溶液を、アンモニアによって加水分解したイットリウム水酸化物等の水溶性に乏しい化合物であっても使用が可能である。しかし、本発明で使用されるイットリウム化合物は、これらの物質に限定されるものではなく、これらと同等又は類似の物質であれが同様に使用することができる。一方、ユーロピウムなどの希土類金属化合物源として、希土類金属塩類一般を用いることができ、好適には、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の希土類金属化合物が例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。反応媒体中の、希土類金属及びイットリウム混合化合物の濃度は、0.001〜0.5モル/Lの範囲が好適であり、0.01〜0.1モル/Lの範囲が、より好適である。
【0020】
本発明の反応で使用される反応容器としては、所定の温度、圧力に耐えるものであれば適宜の反応容器を使用することができる。例えば、イットリウムとユーロピウムなどの希土類化合物の混合溶液を、バッチ式又は流通式の反応装置中で反応させて、蛍光体微粒子を合成する。流通式の反応装置を使用する場合には、原料化合物、反応温度等の条件にもよるが、反応領域を、1〜60秒、好適には、1〜10秒で通過する間に反応が完了し、高収率で蛍光体微粒子を製造できる。
【0021】
本発明では、平均粒径の範囲が、20〜100nmにあり、その粒径の分布範囲が、10〜30nmの狭い値を有する蛍光体微粒子の製造が可能である。生成する微粒子の、平均粒径及び粒径の分布範囲は、温度、圧力及び濃度を調整することによって制御することが可能であり、粒径の小さい微粒子の製造には、温度、圧力、濃度及び反応時間の減少が有効であり、粒径の大きい微粒子の製造には、温度、圧力、濃度及び反応時間の増加が有効である。
【0022】
次に、本発明の、蛍光体微粒子の製造装置の一例として、流通反応方式による装置の一例を図1に基づいて説明する。
本発明の製造装置は、基本的には、ユーロピウムなどの希土類金属及びイットリウム混合塩水溶液収納容器1、水酸化アルカリ水溶液収納容器2、蒸留水収納容器3、ユーロピウムなどの希土類金属及イットリウム混合塩水溶液供給用、水酸化アルカリ水溶液及び蒸留水供給用の、3基の高速液体クロマトグラフィ用無脈流ポンプ4,5,6、蒸留水加熱用電気炉7、反応管保温用電気炉8、反応管9、反応液冷却用熱交換器10、圧力調整器(背圧弁)11、回収容器12、並びに反応管内及び反応媒体を設定温度に制御するための温度制御装置から構成される。図中、PGは圧力計、TCは温度計、MP−1とMP−2はミッキシングポイントを示す。
【0023】
本発明では、例えば、ガラス製容器1内に収納されたユーロピウムなどの希土類金属及イットリウム混合塩水溶液と水酸化アルカリ水溶液を、高速液体クロマトグラフィ用無脈流ポンプ4、5により、それぞれ所定の流量(好ましくは2〜50cm/min、より好ましくは5〜20cm/min)、例えば10cm/minで、反応管方向へ送液する。一方、蒸留水は、蒸留水収納容器3から、別の高圧ポンプ6により、流量(好ましくは10〜100cm/min、より好ましくは40〜100cm/min)、具体的には50cm/minで、管型電気炉7に送液し、そこで加熱して、反応に必要な所定の超臨界状態の水とした後、反応管へ送液する。ユーロピウムなどの希土類金属及びイットリウム塩水溶液は、水酸化アルカリ水溶液と混合後に前記超臨界水と接触し、急速に反応温度まで昇温して、反応管中で水熱反応が開始する。反応液は、管状電気炉8によって、所定の温度、圧力に保持された反応管中に所定の時間滞在した後、反応管の出口側に接続した、2重管型の熱交換器9により冷却した後、背圧弁10により降圧して、回収容器11中に捕集される。捕集した蛍光体微粒子は、出口より反応終了液とともにスラリーとして回収し、適当なフィルターによりろ別し、粉体として回収した。各金属イオンの転化率は原料溶液の濃度ととろ液の濃度をプラズマ発光分光分析装置(ICP)により定量し、求めることができる。生成した粒子の特性は、粉末X線回折法(XRD)により結晶構造を同定し、粒子径や凝集の程度は電子顕微鏡観察(TEM)及びBET比表面積測定によって測定し、評価される。
【0024】
本発明の合成法により、蛍光体微粒子を合成することが可能であり、発光させるための結晶化の高温処理によって生ずる粒子成長の問題を解消して、高結晶性で、発光特性に優れた、粒子径100nm以下の蛍光体微粒子を合成することが実現可能となる。本発明の合成方法を利用することにより、従来製品と比べて、発光特性が改善された蛍光体微粒子を合成し、提供することが可能となる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
本実施例では、図1に示した流通式反応装置によって蛍光体微粒子の合成実験を行った。流通式反応装置により、硝酸イットリウムと硝酸ユーロピウム混合溶液の濃度を0.018Mおよび0.002M、水酸化カリウムの原料溶液濃度を0.06Mとし、混合溶液を10cm/minとアルカリ溶液の流量を10cm/minで送液し、反応温度400℃,反応圧力30MPa,滞在時間10秒の条件で合成実験を行った。反応後のpHは10.1、YおよびEuの転化率はそれぞれ、100%および100%であった。
図2(A)、(B)に生成物の電子顕微鏡像を示す。同図(A)のスケールバーは100nmの長さを示すから粒子径は100nm以下であり、粒子ひとつひとつが分離しており、凝集していないことがわかる。また、同図(B)から高倍率(スケールバーは20nmの長さを示す)での観察では、結晶縞が見られる。通常の水熱合成又はゾルゲル法で得られるイットリア微粒子は、結晶化度が低く、その形状も球状の場合がほとんどである。しかし、本発明によって生成するイットリア微粒子は結晶構造を反映した形態であり、ひとつひとつの粒子の結晶面が観察されることから、高結晶かつ単結晶性微粒子であることがわかる。粉末X線回折(XRD)による解析では、生成物のXRDチャートに、d=5.63,3.96,3.06,2.88,2.69,2.23の回折ピークが認められ、イットリウム酸化物YOOH(JSPDS20−1413)に帰属されることがわかる。生成物はイットリウム酸化物であり(図3(a))、BET比表面積値は、45.9m/gであり、計算密度4.588g/cmから求めた平均粒子径は、28.5nmであった。組成分析結果から(1−x)Y・xEuのxの値は、0.1であった(Y固溶比は10モル%であった)。
【0027】
実施例2
実施例1において得られた水熱合成物をアルミナ坩堝に0.2gづつ秤量し、電気炉にて550℃、800℃、及び1050℃でそれぞれ1時間アニールした。550℃以上で焼成したものの結晶相は、立方晶酸化イットリウム(JCPDS41−1105)に帰属された(図3(b)−(d))。アニール未処理物及びアニール処理物について蛍光光度計(パ−キンエルマーLB50)を用い、励起波長254nmで蛍光スペクトルを測定した。その結果を図3の(a)〜(d)に対応して図4の(a)〜(d)に示した。アニール処理を行わない水熱合成物には、615及び625nmに明確な発光ピークが認められ、アニール処理を施さなくても赤色発光することが確認された。また、アニールしたものについては、612nmに発光ピークが認められるが、アニール温度により変化は、800℃で最大となるものの、550℃でもある程度の発光強度を発現することから、低いアニール温度でも十分な発光強度が得られることが判明した。
【0028】
実施例3
実施例1において反応温度を360℃とした以外は実施例1と同様の条件で合成を行い本発明製品3を得た。反応圧力は30MPa,反応時間は360℃の場合、18秒とした。反応後のpHは10.3、EuおよびYの転化率はそれぞれ、100%および100%であった。粉末X線回折(XRD)による解析では、イットリウム酸化物YOOH(JSPDS20−1413)に帰属された。生成物はイットリウム酸化物であり、BET比表面積値は、55.2m/gであり、平均粒子径は、23.7nmであった。組成分析結果から(1−x)Y・xEuのxの値は、0.1であった(Y固溶比は10モル%であった)。生成物粉末に254nmの紫外線ランプを照射したところ、赤色に発光することを確認した。
【0029】
実施例4
実施例1において硝酸イットリウムと硝酸ユーロピウム混合溶液の濃度を0.019Mおよび0.001M、(Euモル%を5mol%と)した以外は実施例1と同様の条件で合成を行った。反応温度は400℃,反応時間は10秒、反応圧力は30MPaとした。反応後のpHは10.94、ZrおよびYの転化率はそれぞれ、99%および98%であった。粉末X線回折(XRD)チャートの解析によれば、生成物はYOOHであり、BET比表面積値は、48.2m/gで平均粒子径は、27.1nmであった。Y固溶比xは4.8モル%であった。生成物粉末に254nmの紫外線ランプを照射したところ、赤色に発光することを確認した。
【0030】
実施例5
実施例4において硝酸ユーロピウムの代わりに硝酸プラセオジウムを用い、混合溶液の濃度をイットリウム0.019Mおよびプラセオジウム0.001M、(Prモル%を5mol%)とした以外は実施例4と同様の条件で合成を行った。反応温度は400℃,反応時間は10秒、反応圧力は30MPaとした。反応後のpHは10.8、YおよびPrの転化率はそれぞれ、100%および99%であった。粉末X線回折(XRD)チャートの解析によれば、生成物はYOOHであり、BET比表面積値は、40.2m/gで平均粒子径は、32.5nmであった。Y固溶比Xは5モル%であった。生成物粉末に254nmの紫外線ランプを照射したところ、赤色に発光することを確認した。
【0031】
比較例1
本比較例では、0.194Mの硝酸イットリウムと0.006M硝酸ユーロピウム混合水溶液300mlを、4.5Mアンモニア水400mlに滴下し、共沈法によりユーロピウム固溶イットリウム水酸化物を合成した。水洗、アセトン洗浄後、遠心分離により固形物を回収し、60℃で乾燥させた。XRD解析によれば、生成物はアモルファス相であった(図5(a))。BET比表面積値は、180−200m/gであり、平均粒子径は4.5−5.0nmであった。TEM観察によれば、得られた酸化ジルコニウム粒子は、平均粒子径6.8nmであった。
【0032】
比較例2
比較例1で合成したユーロピウム固溶イットリア粉末について、実施例2と同様に乾燥物をアルミナ坩堝に0.2gづつ秤量し、電気炉にて550℃及び1050℃で1時間アニールした。550℃以上でアニールしたものの結晶相は、立方晶酸化イットリウム(JCPDS41−1105)に帰属された(図5の(b)〜(d))。蛍光光度計により励起波長254nmで蛍光スペクトルを測定した。その結果を図6に示した。アニール処理を行わない共沈物には明確な発光ピークは認められず(図6(a))、発光体としてアニール処理が必要であることが確認された。また、アニールしたものについては、図6の結果から、アニール温度が高くなるほど、612nmの発光ピークの強度が高くなることから、1000℃以上の高いアニール温度が必要であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、従来得られたことのない主として100nm以下の超微粒子領域で、均一組成の希土類イオン固溶イットリウム酸化物微粒子粉末を製造することが初めて可能になり、高品位の蛍光体粉末として単分散超微粒子が工業的に実用に供されるようになり、ディスプレイ産業に大きく貢献するものと思われる。またアルコキシドなどの高価な原料を使用せず、製造工程が比較的簡単であり、特に水熱合成が極めて短時間で処理でき高効率であり、また流通式を採用できるため連続合成が可能であるなど、生産性に著しい長所がある。ナノサイズレベルで、結晶構造が制御された、蛍光体微粒子を提供できる、という格別の効果が奏される。本発明の安定化蛍光体微粒子は、例えば、赤色の蛍光体として、カラーCRTやLCD用バックライトCCFL(冷陰極管)低電圧フィールドエミションディスプレーなどのディスプレー用蛍光体の母体材料等として有用である。
【符号の説明】
【0034】
1:イットリウム及びユーロピウム混合塩水溶液槽
2:水酸化アルカリ水溶液槽
3:蒸留水槽
4、5、6:液体クロマトグラフィ用高圧ポンプ
7:反応炉、
8:予熱炉
9:二重冷却管
10:背圧弁
11:回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム塩水溶液とユーロピウムなどの希土類金属塩水溶液を混合し、アルカリ水溶液を添加後、水熱反応により基本構造が一般式
(1−x)Y・xRe
(式中のxは0.01〜0.1の数である。ReはCe,Pr,Nd,Euいずれかを含む希土類金属)
で表される蛍光体微粒子を亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることを特徴とする蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項2】
イットリウム化合物として硝酸イットリウム、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、イットリウムのトリアルコキシドの加水分解物を、希土類金属化合物として、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、アルコキシドなどを原料として使用することを特徴とする請求項1記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項3】
水熱反応温度が360℃〜500℃、反応圧力が20〜40MPaで行うことを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項4】
水熱処理時間が1秒〜60秒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項5】
反応溶液のpHが8以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項6】
連続プロセスで行い、反応域の滞留時間が短くし、外部式加熱が可能な管型反応器を用いた請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項7】
基本構造が一般式
(1−x)Y・xRe
(式中のxは0.01〜0.1の数である。ReはCe,Pr,Nd,Euいずれかを含む希土類金属)
で表され、水熱反応の生成物であり、一次微粒子からなる粒子径が100nm以下の単結晶微粒子であって、アニーリングを行わずに発光性を示す、蛍光体微粒子。
【請求項8】
比表面積(BET法)が30m/g以上である請求項7に記載の蛍光体微粒子。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−82308(P2012−82308A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229157(P2010−229157)
【出願日】平成22年10月9日(2010.10.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】