蛍光偏光法を用いる分子間相互作用を有する物質の迅速スクリーニング方法
【課題】 対象中に自家蛍光を有する物質が含まれている場合であっても、バックグラウンドの上昇を抑制して蛍光偏光測定によって分子間相互作用を有する物質のスクリーニングを可能とする方法を提供すること。
【解決手段】 蛍光標識物からの蛍光偏光を測定することによる、対象サンプル中の当該標識物に対して分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法において、蛍光測定波長(λ2)において対象サンプルの自家蛍光を抑制し得る励起波長(λ1)を用いることにより前記課題を解決する。
【解決手段】 蛍光標識物からの蛍光偏光を測定することによる、対象サンプル中の当該標識物に対して分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法において、蛍光測定波長(λ2)において対象サンプルの自家蛍光を抑制し得る励起波長(λ1)を用いることにより前記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光偏光法を用いて分子間相互作用を有する物質を迅速にスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある抗原と結合するモノクローナル抗体(当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ)をスクリーニングする際には、ELISAを用いる場合が多い。一例を例示すると、当該抗原を固定化したELISAプレートに、ハイブリドーマの培養上清(ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体)を反応させ抗原抗体複合体を形成させる。その後、結合しなかった抗体を分離し、抗体と特異的に反応する酵素標識抗体を結合させ、未反応の酵素標識抗体を分離した後、標識である酵素の基質を添加する。そしてこれにより、抗原と結合するモノクローナル抗体をスクリーニングすること、あるいは当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることができる。
【0003】
上記方法は感度良く抗体の存在を確認することができる反面、結果が得られるまでに未反応物を分離する操作(いわゆるB/F分離操作)が数回必要となるため、スクリーニングしようとする抗体の種類(数)が多くなると、非常に多くの工数が必要となる。
【0004】
例えばFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)、TR−FRET(Time Resolved FRET)、Alphascreen(商品名)又は蛍光偏光法といったB/F分離を必要としないスクリーニング方法も知られている。また現実に、FRET、TR−FRET又はAlphascreen(商品名)といった方法では、それら方法を実施するための専用の試薬キットも市販されている。しかし、当該試薬はきわめて高価であり、モノクローナル抗体のスクリーニングの様に多数のサンプルを処理する目的で使うというのは現実的ではない。
【0005】
一方、Perrinによって紹介された蛍光偏光法(非特許文献1)は、抗原を蛍光物質で標識するだけで良いため操作性に優れ、またランニングコストを低く抑えることができことから、多数のサンプルを処理するスクリーニングには適している。液体中の蛍光性分子が平面偏光により励起されると、蛍光性分子が動かない場合には同一の偏光平面で蛍光を放射する。しかし、蛍光性分子が回転等の運動を行った場合には、励起平面とは異なった平面へ蛍光を放射し蛍光偏光が解消される。分子の運動はその分子の大きさに影響を受け、蛍光性分子が低分子である場合は運動速度が速いために放射光の偏光が解消され、蛍光偏光度は小さい値を示す。一方、蛍光性分子が高分子である場合、励起状態の間の分子の運動はほとんどなく、放射光は偏光が解消できずに大きな蛍光偏光度を与える。蛍光標識した低分子抗原の場合、蛍光偏光は解消されるが、それに抗体が結合すると見かけ上分子量が大きくなり、蛍光偏光が解消できなくなって大きな蛍光偏光度を与えることになる。つまり、蛍光偏光度を測定することで抗原が抗体に結合しているかどうか、B/F分離をすることなく確認できるのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Perrin、J.Phys.Rad.、1、390、1926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、蛍光偏光法は、その操作性とランニングコストの面において、モノクローナル抗体のスクリーニングに適しているが、改良すべき点も残されている。まず、ウシ胎児血清を含む溶液をサンプルとするスクリーニングを可能とすることである。一般にハイブリドーマの培養は10%程度のウシ胎児血清を含む培地中で行われ、当該培地に放出されたモノクローナル抗体に対してスクリーニングが行われるが、これまでの蛍光偏光法では、このように高濃度のウシ胎児血清を含むサンプルを対象とすると、ウシ胎児血清の自家蛍光によってバックグラウンドが高くなり、スクリーニングは困難になる。
【0008】
次に、蛍光測定を行う対象サンプルを保持する保持容器の蓋の課題がある。ハイブリドーマを培養する際には、バクテリア等のコンタミネーションを避けるため、保持容器であるプレートに蓋を被せ、クリーンベンチ以外で蓋をあけることはない。しかし蛍光偏光は、通常、プレートの上部から励起光を照射し、得られる蛍光を上部から測定するために、測定にあたってはプレートの蓋を開けることとなって、コンタミネーションのリスクが高くなる。対象サンプルを培養のためのプレートから別の保持容器に移すことも考えられるが、かかる方法では蛍光偏光の測定によるスクリーニングに煩雑な操作が付加されてしまうため、その効率化を達成できないという課題がある。
【0009】
そこで本発明は、対象サンプル中に、ハイブリドーマの培養に当たって普通に使用されているウシ胎児血清が含まれている場合であっても、その自家蛍光によるバックグラウンドの上昇を抑制し得る、蛍光偏光測定による抗体等の分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とするものである。また本発明は、蛍光測定中のバクテリア等によるコンタミネーションのリスクを避けることが可能な蛍光偏光測定による抗体等の分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑みてなされた本発明は、蛍光標識物からの蛍光偏光を測定することによる、対象サンプル中の当該標識物に対して分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法であって、蛍光測定波長(λ2)において対象サンプルの自家蛍光を抑制し得る励起波長(λ1)を用いることを特徴とするものである。また本発明は、対象サンプルからの蛍光測定を、対象サンプル保持容器に石英ガラスの蓋をして行うことを特徴とするものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明では、例えばテトラメチルローダミンやAlexa Fluor(インビトロジェン社製)等、市販されている蛍光物質を蛍光標識として使用することができる。蛍光標識物は、スクリーニングしようとする分子間相互作用を有する物質のペアの一方に蛍光標識を結合したものであるが、結合方法は当該物質が蛍光標識物としての機能を保持できれば良く、化学的結合、物理的結合又はアビジンとビオチンのような親和性物質を介しての結合であっても良い。分子間相互作用を有する物質には、例えば、上述したような抗原と抗体、DNA(RNA)断片とDNA(RNA)断片又はリガンドとレセプター等があり、分子量が蛍光偏光の測定対称範囲の分子量であれば特に制限はない。分子間相互作用を有する物質が抗原と抗体である場合について詳細に説明すると、蛍光偏光の測定原理から、蛍光標識を結合した抗原(測定原理上抗体との分子量の差が大きいほうが好ましい)を蛍光標識物として使用することにより、感度良く測定することができる。なお、蛍光偏光を測定することにより、蛍光標識物と分子間相互作用を有する物質が対象サンプル中に存在するか否かを知る方法そのものは既に良く知られた方法であり、本明細書では詳細しないが、原理としては先に述べた通りである。
【0012】
自然界に存在する種々の物質が出す蛍光は、一般的に、長波長域では弱くなる。本発明者の知見によれば、ハイブリドーマ培養用のウシ胎児血清を含む培地が出す自家蛍光についても、自家蛍光が低く抑えられる励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の組合せは、具体的には、励起波長(λ1)555nm近傍、蛍光測定波長(λ2)565〜620nmの組合せ(以下、第1の組合せという)と、励起波長(λ1)650nm近傍、蛍光測定波長(λ2)660〜720nmの組合せ(以下、第2の組合せという)を例示できる。第1の組合せと第2の組合せでは、ハイブリドーマ培養用のウシ胎児血清を含む培地からの自家蛍光が低く抑えられる結果、本発明の目的を達成することが可能となるのである。なお、励起波長に関しては、各波長から多少ずれた波長でも、ウシ胎児血清を含む培地からの自家蛍光を十分に抑えることが可能である。また他の波長の光を一切含まない励起光を調製することは技術的に困難である。そこで本発明における555nm(650nm)近傍は、555nm(650nm)の光を含むものであるか、又は、555nm(650nm)近傍の波長の光を用いることを意味するものである。
【0013】
励起波長と蛍光測定波長に関する前記第1の組合せ又は第2の組合せを実施するために好適な蛍光標識として、第1の組合せについてはテトラメチルローダミンを例示することができ、前記第2の組合せについてはAlexa Fluor 647(インビトロジェン社製)やAlexa Fluor 680(インビトロジェン社製)を例示することができる。テトラメチルローダミンはその極大吸収波長が555nmであるが、当該波長から多少ずれた波長でも、効率は下がるものの十分に蛍光励起が可能である。同様にAlexa Fluor 647はその極大吸収波長が650nmであり、Alexa Fluor 680はその極大吸収波長が679nmであるが、当該波長から多少ずれた波長でも、効率は下がるものの十分に蛍光励起が可能である。よって、厳密に555nm、650nm又は679nmの励起光を使用する必要はなく、その近傍の波長の励起光であっても良い。また他の波長の光を一切含まない励起光を調製することは技術的に困難であるため、例えば555nmで励起を行う場合には、蛍光装置の光源にバンドパスの幅が555nmの前後20nmの程度のフィルターを取り付け、535nmから575nm程度と波長幅のある光を励起光とするのが普通である。従って本発明において蛍光標識を励起する場合には、その極大吸収波長の光を含む励起光を用いたり、又は、極大吸収波長近傍の波長の光を用いたりすれば良い。
【0014】
本発明を実施するうえで好適な励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の第1又は第2の組合せでは、ウシ胎児血清を含む細胞培養用培地中にモノクローナル抗体が存在するか否かを判定することが可能である。なお、ウシ胎児血清以外の自家蛍光を発する物質が含まれている場合であっても、後述する実施例で使用したような対象サンプルのように、蛍光偏光の測定の妨害が主としてウシ胎児血清が発する自家蛍光に由来するものである場合には、前記のような励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の組合せにより、良好な蛍光偏光の測定(スクリーニング)を実施することが可能である。
【0015】
対象サンプル中に、通常は使用されないような、自家蛍光を発する物質(ウシ胎児血清以外)を添加して使用しているような場合には、上記した励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の具体的な組合せでは、必ずしも良好な蛍光偏光の測定(スクリーニング)を実施できるとは限らない。このような場合には、本発明の実施例に記載した方法を用いることにより、当該対象サンプルについて本発明を実施するのに好適な励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の組合せ、及び、当該組合せで本発明を実施するのに適当な蛍光標識を適宜決定すれば良い。
【0016】
本発明における蛍光偏光の測定にあたり、対象サンプルのプレパラートにカバーガラスの蓋を被せる等することにより、蛍光測定中のバクテリア等によるコンタミネーションのリスクを避けることが可能である。特に通常のカバーガラスよりも光学特性の良い石英ガラス板の場合、本発明者の知見によれば、1mm程度という十分な厚みとしても、蓋の有無によって測定結果は変動せず、同じ結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象サンプル中にハイブリドーマの培養に当たって普通に使用されているウシ胎児血清等の自家蛍光を発する物質が含まれている場合であっても、その自家蛍光によるバックグラウンドの上昇を抑制して、蛍光偏光測定により抗体等の分子間相互作用を有する物質を高感度にスクリーニング方法を提供することが可能である。また本発明は、対象サンプルを保持する容器に蓋を被せた状態で実施することができるので、そのような態様で実施すれば、蛍光測定中のバクテリア等によるコンタミネーションのリスクを避けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1の結果を示すものである。
【図2】図2は、実施例2の結果を示すものである。
【図3】図3は、実施例3のうち、マリナブルーを用いた場合の結果を示すものである。
【図4】図4は、実施例3のうち、Alexa Fluor 430(インビトロジェン社製)を用いた場合の結果を示すものである。
【図5】図5は、実施例3のうち、フルオレッセイン(FITC)を用いた場合の結果を示すものである。
【図6】図6は、実施例3のうち、テトラメチルローダミンを用いた場合の結果を示すものである。
【図7】図7は、実施例3のうち、Alexa Fluor 594(インビトロジェン社製)を用いた場合の結果を示すものである。
【図8】図8は、実施例3のうち、Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を用いた場合の結果を示すものである。
【図9】図9は、実施例4の結果を示すものである。
【図10】図10は、実施例5の結果を示すものである。
【図11】図11は、実施例6の結果を示すものである。
【図12】図12は、実施例7の結果を示すものである。
【図13】図13は、実施例8の結果を示すものである。
【図14】図14は、実施例8の結果を示すものである。
【図15】図15は、実施例9の結果を示すものである。
【図16】図16は、実施例10の結果を示すものである。
【図17】図17は、実施例10の結果を示すものである。
【図18】図18は、実施例11の結果を示すものである。
【図19】図19は、実施例12の結果を示すものである。
【図20】図20は、実施例13の結果を示すものである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0020】
実施例1
PBSと、市販の動物細胞培養用の培地(商品名:GIT、日本製薬(株)製)を蛍光標識であるフルオレッセインの励起波長(λ1、488nm)で励起した際の蛍光スペクトルを測定した。結果を図1に示す。PBSでは蛍光はほとんど観察されないが、培養用培地ではそれに含まれている各種成分の自家蛍光が観察された(図1中の実線)。
【0021】
これらの対象サンプルに各同量のフルオレッセイン(FITC)を添加し、フルオレッセインの励起波長(λ1)で蛍光励起し、蛍光測定波長(極大蛍光波長)(λ2、518nm)で蛍光を測定し、S/N比を計算したところ、PBSの場合は11であったが、培養用培地の場合は2.2であった。このことからフルオレッセインの励起波長(λ1)で蛍光励起し、その蛍光測定波長(λ2)で蛍光測定を行うと、培養用培地の自家蛍光によりS/N比が低くなり、良好な蛍光偏光の測定は困難である。
【0022】
実施例2
種々の濃度に調製した抗フルオレッセイン抗体の溶液に対し、一定量のフルオレッセインを混合した後、これらをPBS又はE−RDF無血清培地(極東製薬工業(株)製)に加えて対象サンプルとし、市販の測定装置(商品名:BEACON、宝酒造(株)製)を用いて測定した。結果を図2に示す。図2からは、E−RDF無血清培地を対象サンプルとしたときには、検出感度がPBSと比較して1/10程度に低下することがわかる。これは培地中の成分の影響と考えられる。通常の細胞培養で使用する、E−RDF無血清培地にウシ胎児血清を10%添加したものについては、自家蛍光の影響が大きく、測定ができなかった。
【0023】
実施例3
前述した市販の動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)を対象に、種々の蛍光物質を蛍光標識として、それらの励起波長(λ1)で励起した場合の蛍光スペクトルを調査した。結果を図3から図8に示す。各グラフでは、フルオレッセインの励起波長(λ1)で得られた蛍光強度の値を破線で示してあるが、この波線で示した値よりも低い値を示す範囲に蛍光測定波長(λ2)を有する蛍光標識であれば、フルオレッセインよりも感度良く蛍光偏光を測定できる可能性が高い。本実施例の結果からは、テトラミチルローダミン(λ1;555nm、λ2;580nm、図6)とAlexa Fluor 647(インビトロジェン社製)(λ1;650nm、λ2;668nm、図8)でその可能性が認められる。
【0024】
実施例4
フルオレッセイン又はテトラメチルローダミン(以下「TAMRA」)を用いて、PBS又は市販の動物細胞培養用培地(商品名:GIT)の蛍光を測定した。測定には市販の装置(商品名Analyst GT、モレキュラーデバイス社製)を用いた。結果を図9に示す。図9から、動物細胞培養用の培地の蛍光強度は、TAMRAを用いると、フルオレッセインを用いて測定する場合と比較して約1/10に低下し、S/N比率が大幅に改善されることが分かる。
【0025】
実施例5
エストラジオール(以下「E2」)をTAMRAに結合した蛍光標識物(以下「E2−TAMRA」)を次のようにして調製した(図10参照)。まず、E2の6位にアミノ基を導入してE2−NH2を調製し、NHS基が導入されたTAMRA(以下「TAMRA−NHS」、モレキュラーデバイス社製)とDMSO中で反応させた。なお、TAMRA−NHSを大過剰で反応させることで、未反応のE2−NH2が残らないようにした(図10の1.)。その後、抗E2抗体を固定化したカラムを用いて、大過剰のTAMRA−EHSを除去し、E2−TAMRAを得た(図10の2.)。
【0026】
実施例6
実施例5で調製したE2−TAMRAを用いて、市販の動物細胞培養用培地(商品名GIT)中での抗原抗体反応を観察した。種々の濃度の抗E2抗体(60マイクロリットル)に対し、前記培地に溶解した一定量のE2−TAMRA(20マイクロリットル)を加えたものを対象サンプルとして、各サンプルの蛍光偏光値を市販の装置(商品名:Analyst GT)で測定した。結果を図11に示す。図11から、抗体の濃度が高くなるにつれて蛍光偏光値(mP値)が増加する様子が培地中で確認できた。なお、ハイブリドーマの培養上清を対象サンプルとする場合、その中には数マイクログラム/mLから数10マイクログラム/mL程度の濃度でモノクローナル抗体が含まれていることが多いという経験則から、本発明の方法を適用することにより、培養上清中にモノクローナル抗体が存在するか否かについても、容易かつ迅速に測定できることが分かる。
【0027】
実施例7
本発明のスクリーニング方法の特異性を次の方法で評価した。60マイクロリットルの市販の動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)にウサギ血清(抗E2ウサギ抗血清又は抗T3ウサギ抗血清)を0.4マイクロリットル加え、更に、GITに溶解した一定量のE2−TAMRA(20マイクロリットル)を加えて対象サンプルとし、その蛍光偏光値を測定した。結果を図12に示す。図12から分かるように、抗E2ウサギ抗血清についてのみ、mP値の上昇が確認された。このことから、本発明の方法は分子間相互作用特異的(本例では抗原特異的)な反応であることが分かる。
【0028】
実施例8
E2をBSAに結合したE2−BSAをマウスに免疫し、十分に抗体価が上昇したことを確認後、脾臓を摘出し、脾臓細胞をミエローマ細胞とPEG法により融合した。67個のハイブリドーマの存在を目視で確認し、それらの培養上清を取得し、その中にE2に対するモノクローナル抗体が存在するか否かを本発明の方法により判定した。結果を図13に示す。図13の右端(Neg.)は培地そのものについての測定値であり、その左横(Posi.(培地+抗E2抗体))が培地に予め用意しておいた抗E2モノクローナル抗体を添加したポジテイブコントロールである。この結果、いくつかの培養上清でmP値の上昇が確認された。次に、上記した67個の培養上清について、市販の試薬(商品名:BIACORE、GEヘルスケア(株)製)を用い、その中にE2に対するモノクローナル抗体が存在するか否かを評価した。当該市販試薬を用いる方法では、アミンカップリング法でE2−NH2を結合させたセンサーチップを使用して、一定量の培養上清を流したときにE2と結合する物の量(RU)を算出するものである。
【0029】
図14は、横軸にmPの値、縦軸にRUの値をプロットしたものである。図14からBIACOREの結果と本発明の方法の結果には相関性があること、そして本発明の方法によってモノクローナル抗体のスクリーニングが可能であることが分かる。
【0030】
実施例9
モノクローナル抗体のスクリーニングの過程で多用される96ウエルプレートに加えて、384ウエルプレート又は1536ウエルプレートを用い、より多くの対象サンプルについてスクリーニングを実施可能かどうか調査した。結果を図15に示す。図15から、本例で試験した全てのマルチウエルプレートについて本発明を適用することが可能であり、本発明が多検体スクリーニングが必要なモノクローナル抗体の製造にはきわめて有効な方法であることが分かる。
【0031】
実施例10
実施例5で調製した一定量のE2−TAMRAを、種々の濃度の抗E2抗体を含む動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)に添加し、蓋を開けたウエル、プレートシートフィルムを被せたウエル又はカバーガラスを被せたウエルのそれぞれに適用した。結果を図16に示す。図16左のように、従来は蓋を開けて測定を実施する。市販されているプレートシール用のフィルムを被せて測定すると、測定が困難となった(図16中)。一方、カバーガラスで蓋をすると測定に支障はなかった(図16右)。そこで、カバーガラスよりも光学特性の良い石英ガラス板(厚さ1mm)で蓋を作製し、種々の濃度の抗E2抗体を含む動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)を分注した384ウエルプレートに、実施例5で調製した一定量のE2−TAMRAを添加して測定を行い、結果を蓋を開けた場合と比較した。結果を図17に示す。図17からは、石英ガラス製の蓋を被せた場合と被せない場合では、測定結果に差がない(結果が相関している)ことが分かる。
【0032】
実施例11
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端アミノ酸(配列番号1)0.1mgに、マレイミドが導入されたAlexa Fluor 680(A20344:インビトロジェン社製)を反応させた(図18の1.)。その後、抗BNPのC末端アミノ酸認識抗体を固定化したカラムを用いて、大過剰のAlexa Fluor 680を除去し、Alexa Fluor 680で標識した配列番号1を得た(図18の2.)。
【0033】
実施例12
実施例11で調製した蛍光標識ペプチドを用いて、市販の動物細胞培養用培地(商品名:GIT)中での抗原抗体反応を観察した。種々の濃度のBNPのC末端認識抗体(45マイクロリットル)に対し、GIT培地に溶解した適量の蛍光標識ペプチド(5マイクロリットル)を一定量加えたものを測定サンプルとして蛍光偏光値をテカン社製プレートリーダー(商品名:M500)で測定した。なお励起光のフィルターは630nmでバンド幅35nmのものを使用し、測定フィルターは720nmでバンド幅40nmのものを使用した。結果を図19に示す。図19から、抗体の濃度が高くなるにつれて蛍光偏光値(mP値)が増加する様子が培地中で確認できた。
【0034】
実施例13
実施例12と同じ条件でハイブリドーマの培養上清中の抗体の有り無しの判定をおこなった。ハイブリドーマの培養上清45マイクロリットルに実施例12と同量の蛍光標識ペプチドを5マイクロリットル加えてサンプルとした。結果を図20に示す。図20から、本法により抗体を発現しているハイブリドーマを検出できることを確認した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光偏光法を用いて分子間相互作用を有する物質を迅速にスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある抗原と結合するモノクローナル抗体(当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ)をスクリーニングする際には、ELISAを用いる場合が多い。一例を例示すると、当該抗原を固定化したELISAプレートに、ハイブリドーマの培養上清(ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体)を反応させ抗原抗体複合体を形成させる。その後、結合しなかった抗体を分離し、抗体と特異的に反応する酵素標識抗体を結合させ、未反応の酵素標識抗体を分離した後、標識である酵素の基質を添加する。そしてこれにより、抗原と結合するモノクローナル抗体をスクリーニングすること、あるいは当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることができる。
【0003】
上記方法は感度良く抗体の存在を確認することができる反面、結果が得られるまでに未反応物を分離する操作(いわゆるB/F分離操作)が数回必要となるため、スクリーニングしようとする抗体の種類(数)が多くなると、非常に多くの工数が必要となる。
【0004】
例えばFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)、TR−FRET(Time Resolved FRET)、Alphascreen(商品名)又は蛍光偏光法といったB/F分離を必要としないスクリーニング方法も知られている。また現実に、FRET、TR−FRET又はAlphascreen(商品名)といった方法では、それら方法を実施するための専用の試薬キットも市販されている。しかし、当該試薬はきわめて高価であり、モノクローナル抗体のスクリーニングの様に多数のサンプルを処理する目的で使うというのは現実的ではない。
【0005】
一方、Perrinによって紹介された蛍光偏光法(非特許文献1)は、抗原を蛍光物質で標識するだけで良いため操作性に優れ、またランニングコストを低く抑えることができことから、多数のサンプルを処理するスクリーニングには適している。液体中の蛍光性分子が平面偏光により励起されると、蛍光性分子が動かない場合には同一の偏光平面で蛍光を放射する。しかし、蛍光性分子が回転等の運動を行った場合には、励起平面とは異なった平面へ蛍光を放射し蛍光偏光が解消される。分子の運動はその分子の大きさに影響を受け、蛍光性分子が低分子である場合は運動速度が速いために放射光の偏光が解消され、蛍光偏光度は小さい値を示す。一方、蛍光性分子が高分子である場合、励起状態の間の分子の運動はほとんどなく、放射光は偏光が解消できずに大きな蛍光偏光度を与える。蛍光標識した低分子抗原の場合、蛍光偏光は解消されるが、それに抗体が結合すると見かけ上分子量が大きくなり、蛍光偏光が解消できなくなって大きな蛍光偏光度を与えることになる。つまり、蛍光偏光度を測定することで抗原が抗体に結合しているかどうか、B/F分離をすることなく確認できるのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Perrin、J.Phys.Rad.、1、390、1926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、蛍光偏光法は、その操作性とランニングコストの面において、モノクローナル抗体のスクリーニングに適しているが、改良すべき点も残されている。まず、ウシ胎児血清を含む溶液をサンプルとするスクリーニングを可能とすることである。一般にハイブリドーマの培養は10%程度のウシ胎児血清を含む培地中で行われ、当該培地に放出されたモノクローナル抗体に対してスクリーニングが行われるが、これまでの蛍光偏光法では、このように高濃度のウシ胎児血清を含むサンプルを対象とすると、ウシ胎児血清の自家蛍光によってバックグラウンドが高くなり、スクリーニングは困難になる。
【0008】
次に、蛍光測定を行う対象サンプルを保持する保持容器の蓋の課題がある。ハイブリドーマを培養する際には、バクテリア等のコンタミネーションを避けるため、保持容器であるプレートに蓋を被せ、クリーンベンチ以外で蓋をあけることはない。しかし蛍光偏光は、通常、プレートの上部から励起光を照射し、得られる蛍光を上部から測定するために、測定にあたってはプレートの蓋を開けることとなって、コンタミネーションのリスクが高くなる。対象サンプルを培養のためのプレートから別の保持容器に移すことも考えられるが、かかる方法では蛍光偏光の測定によるスクリーニングに煩雑な操作が付加されてしまうため、その効率化を達成できないという課題がある。
【0009】
そこで本発明は、対象サンプル中に、ハイブリドーマの培養に当たって普通に使用されているウシ胎児血清が含まれている場合であっても、その自家蛍光によるバックグラウンドの上昇を抑制し得る、蛍光偏光測定による抗体等の分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とするものである。また本発明は、蛍光測定中のバクテリア等によるコンタミネーションのリスクを避けることが可能な蛍光偏光測定による抗体等の分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑みてなされた本発明は、蛍光標識物からの蛍光偏光を測定することによる、対象サンプル中の当該標識物に対して分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法であって、蛍光測定波長(λ2)において対象サンプルの自家蛍光を抑制し得る励起波長(λ1)を用いることを特徴とするものである。また本発明は、対象サンプルからの蛍光測定を、対象サンプル保持容器に石英ガラスの蓋をして行うことを特徴とするものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明では、例えばテトラメチルローダミンやAlexa Fluor(インビトロジェン社製)等、市販されている蛍光物質を蛍光標識として使用することができる。蛍光標識物は、スクリーニングしようとする分子間相互作用を有する物質のペアの一方に蛍光標識を結合したものであるが、結合方法は当該物質が蛍光標識物としての機能を保持できれば良く、化学的結合、物理的結合又はアビジンとビオチンのような親和性物質を介しての結合であっても良い。分子間相互作用を有する物質には、例えば、上述したような抗原と抗体、DNA(RNA)断片とDNA(RNA)断片又はリガンドとレセプター等があり、分子量が蛍光偏光の測定対称範囲の分子量であれば特に制限はない。分子間相互作用を有する物質が抗原と抗体である場合について詳細に説明すると、蛍光偏光の測定原理から、蛍光標識を結合した抗原(測定原理上抗体との分子量の差が大きいほうが好ましい)を蛍光標識物として使用することにより、感度良く測定することができる。なお、蛍光偏光を測定することにより、蛍光標識物と分子間相互作用を有する物質が対象サンプル中に存在するか否かを知る方法そのものは既に良く知られた方法であり、本明細書では詳細しないが、原理としては先に述べた通りである。
【0012】
自然界に存在する種々の物質が出す蛍光は、一般的に、長波長域では弱くなる。本発明者の知見によれば、ハイブリドーマ培養用のウシ胎児血清を含む培地が出す自家蛍光についても、自家蛍光が低く抑えられる励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の組合せは、具体的には、励起波長(λ1)555nm近傍、蛍光測定波長(λ2)565〜620nmの組合せ(以下、第1の組合せという)と、励起波長(λ1)650nm近傍、蛍光測定波長(λ2)660〜720nmの組合せ(以下、第2の組合せという)を例示できる。第1の組合せと第2の組合せでは、ハイブリドーマ培養用のウシ胎児血清を含む培地からの自家蛍光が低く抑えられる結果、本発明の目的を達成することが可能となるのである。なお、励起波長に関しては、各波長から多少ずれた波長でも、ウシ胎児血清を含む培地からの自家蛍光を十分に抑えることが可能である。また他の波長の光を一切含まない励起光を調製することは技術的に困難である。そこで本発明における555nm(650nm)近傍は、555nm(650nm)の光を含むものであるか、又は、555nm(650nm)近傍の波長の光を用いることを意味するものである。
【0013】
励起波長と蛍光測定波長に関する前記第1の組合せ又は第2の組合せを実施するために好適な蛍光標識として、第1の組合せについてはテトラメチルローダミンを例示することができ、前記第2の組合せについてはAlexa Fluor 647(インビトロジェン社製)やAlexa Fluor 680(インビトロジェン社製)を例示することができる。テトラメチルローダミンはその極大吸収波長が555nmであるが、当該波長から多少ずれた波長でも、効率は下がるものの十分に蛍光励起が可能である。同様にAlexa Fluor 647はその極大吸収波長が650nmであり、Alexa Fluor 680はその極大吸収波長が679nmであるが、当該波長から多少ずれた波長でも、効率は下がるものの十分に蛍光励起が可能である。よって、厳密に555nm、650nm又は679nmの励起光を使用する必要はなく、その近傍の波長の励起光であっても良い。また他の波長の光を一切含まない励起光を調製することは技術的に困難であるため、例えば555nmで励起を行う場合には、蛍光装置の光源にバンドパスの幅が555nmの前後20nmの程度のフィルターを取り付け、535nmから575nm程度と波長幅のある光を励起光とするのが普通である。従って本発明において蛍光標識を励起する場合には、その極大吸収波長の光を含む励起光を用いたり、又は、極大吸収波長近傍の波長の光を用いたりすれば良い。
【0014】
本発明を実施するうえで好適な励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の第1又は第2の組合せでは、ウシ胎児血清を含む細胞培養用培地中にモノクローナル抗体が存在するか否かを判定することが可能である。なお、ウシ胎児血清以外の自家蛍光を発する物質が含まれている場合であっても、後述する実施例で使用したような対象サンプルのように、蛍光偏光の測定の妨害が主としてウシ胎児血清が発する自家蛍光に由来するものである場合には、前記のような励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の組合せにより、良好な蛍光偏光の測定(スクリーニング)を実施することが可能である。
【0015】
対象サンプル中に、通常は使用されないような、自家蛍光を発する物質(ウシ胎児血清以外)を添加して使用しているような場合には、上記した励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の具体的な組合せでは、必ずしも良好な蛍光偏光の測定(スクリーニング)を実施できるとは限らない。このような場合には、本発明の実施例に記載した方法を用いることにより、当該対象サンプルについて本発明を実施するのに好適な励起波長(λ1)と蛍光測定波長(λ2)の組合せ、及び、当該組合せで本発明を実施するのに適当な蛍光標識を適宜決定すれば良い。
【0016】
本発明における蛍光偏光の測定にあたり、対象サンプルのプレパラートにカバーガラスの蓋を被せる等することにより、蛍光測定中のバクテリア等によるコンタミネーションのリスクを避けることが可能である。特に通常のカバーガラスよりも光学特性の良い石英ガラス板の場合、本発明者の知見によれば、1mm程度という十分な厚みとしても、蓋の有無によって測定結果は変動せず、同じ結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象サンプル中にハイブリドーマの培養に当たって普通に使用されているウシ胎児血清等の自家蛍光を発する物質が含まれている場合であっても、その自家蛍光によるバックグラウンドの上昇を抑制して、蛍光偏光測定により抗体等の分子間相互作用を有する物質を高感度にスクリーニング方法を提供することが可能である。また本発明は、対象サンプルを保持する容器に蓋を被せた状態で実施することができるので、そのような態様で実施すれば、蛍光測定中のバクテリア等によるコンタミネーションのリスクを避けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1の結果を示すものである。
【図2】図2は、実施例2の結果を示すものである。
【図3】図3は、実施例3のうち、マリナブルーを用いた場合の結果を示すものである。
【図4】図4は、実施例3のうち、Alexa Fluor 430(インビトロジェン社製)を用いた場合の結果を示すものである。
【図5】図5は、実施例3のうち、フルオレッセイン(FITC)を用いた場合の結果を示すものである。
【図6】図6は、実施例3のうち、テトラメチルローダミンを用いた場合の結果を示すものである。
【図7】図7は、実施例3のうち、Alexa Fluor 594(インビトロジェン社製)を用いた場合の結果を示すものである。
【図8】図8は、実施例3のうち、Alexa Fluor 647(インビトロジェン社製)を用いた場合の結果を示すものである。
【図9】図9は、実施例4の結果を示すものである。
【図10】図10は、実施例5の結果を示すものである。
【図11】図11は、実施例6の結果を示すものである。
【図12】図12は、実施例7の結果を示すものである。
【図13】図13は、実施例8の結果を示すものである。
【図14】図14は、実施例8の結果を示すものである。
【図15】図15は、実施例9の結果を示すものである。
【図16】図16は、実施例10の結果を示すものである。
【図17】図17は、実施例10の結果を示すものである。
【図18】図18は、実施例11の結果を示すものである。
【図19】図19は、実施例12の結果を示すものである。
【図20】図20は、実施例13の結果を示すものである。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0020】
実施例1
PBSと、市販の動物細胞培養用の培地(商品名:GIT、日本製薬(株)製)を蛍光標識であるフルオレッセインの励起波長(λ1、488nm)で励起した際の蛍光スペクトルを測定した。結果を図1に示す。PBSでは蛍光はほとんど観察されないが、培養用培地ではそれに含まれている各種成分の自家蛍光が観察された(図1中の実線)。
【0021】
これらの対象サンプルに各同量のフルオレッセイン(FITC)を添加し、フルオレッセインの励起波長(λ1)で蛍光励起し、蛍光測定波長(極大蛍光波長)(λ2、518nm)で蛍光を測定し、S/N比を計算したところ、PBSの場合は11であったが、培養用培地の場合は2.2であった。このことからフルオレッセインの励起波長(λ1)で蛍光励起し、その蛍光測定波長(λ2)で蛍光測定を行うと、培養用培地の自家蛍光によりS/N比が低くなり、良好な蛍光偏光の測定は困難である。
【0022】
実施例2
種々の濃度に調製した抗フルオレッセイン抗体の溶液に対し、一定量のフルオレッセインを混合した後、これらをPBS又はE−RDF無血清培地(極東製薬工業(株)製)に加えて対象サンプルとし、市販の測定装置(商品名:BEACON、宝酒造(株)製)を用いて測定した。結果を図2に示す。図2からは、E−RDF無血清培地を対象サンプルとしたときには、検出感度がPBSと比較して1/10程度に低下することがわかる。これは培地中の成分の影響と考えられる。通常の細胞培養で使用する、E−RDF無血清培地にウシ胎児血清を10%添加したものについては、自家蛍光の影響が大きく、測定ができなかった。
【0023】
実施例3
前述した市販の動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)を対象に、種々の蛍光物質を蛍光標識として、それらの励起波長(λ1)で励起した場合の蛍光スペクトルを調査した。結果を図3から図8に示す。各グラフでは、フルオレッセインの励起波長(λ1)で得られた蛍光強度の値を破線で示してあるが、この波線で示した値よりも低い値を示す範囲に蛍光測定波長(λ2)を有する蛍光標識であれば、フルオレッセインよりも感度良く蛍光偏光を測定できる可能性が高い。本実施例の結果からは、テトラミチルローダミン(λ1;555nm、λ2;580nm、図6)とAlexa Fluor 647(インビトロジェン社製)(λ1;650nm、λ2;668nm、図8)でその可能性が認められる。
【0024】
実施例4
フルオレッセイン又はテトラメチルローダミン(以下「TAMRA」)を用いて、PBS又は市販の動物細胞培養用培地(商品名:GIT)の蛍光を測定した。測定には市販の装置(商品名Analyst GT、モレキュラーデバイス社製)を用いた。結果を図9に示す。図9から、動物細胞培養用の培地の蛍光強度は、TAMRAを用いると、フルオレッセインを用いて測定する場合と比較して約1/10に低下し、S/N比率が大幅に改善されることが分かる。
【0025】
実施例5
エストラジオール(以下「E2」)をTAMRAに結合した蛍光標識物(以下「E2−TAMRA」)を次のようにして調製した(図10参照)。まず、E2の6位にアミノ基を導入してE2−NH2を調製し、NHS基が導入されたTAMRA(以下「TAMRA−NHS」、モレキュラーデバイス社製)とDMSO中で反応させた。なお、TAMRA−NHSを大過剰で反応させることで、未反応のE2−NH2が残らないようにした(図10の1.)。その後、抗E2抗体を固定化したカラムを用いて、大過剰のTAMRA−EHSを除去し、E2−TAMRAを得た(図10の2.)。
【0026】
実施例6
実施例5で調製したE2−TAMRAを用いて、市販の動物細胞培養用培地(商品名GIT)中での抗原抗体反応を観察した。種々の濃度の抗E2抗体(60マイクロリットル)に対し、前記培地に溶解した一定量のE2−TAMRA(20マイクロリットル)を加えたものを対象サンプルとして、各サンプルの蛍光偏光値を市販の装置(商品名:Analyst GT)で測定した。結果を図11に示す。図11から、抗体の濃度が高くなるにつれて蛍光偏光値(mP値)が増加する様子が培地中で確認できた。なお、ハイブリドーマの培養上清を対象サンプルとする場合、その中には数マイクログラム/mLから数10マイクログラム/mL程度の濃度でモノクローナル抗体が含まれていることが多いという経験則から、本発明の方法を適用することにより、培養上清中にモノクローナル抗体が存在するか否かについても、容易かつ迅速に測定できることが分かる。
【0027】
実施例7
本発明のスクリーニング方法の特異性を次の方法で評価した。60マイクロリットルの市販の動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)にウサギ血清(抗E2ウサギ抗血清又は抗T3ウサギ抗血清)を0.4マイクロリットル加え、更に、GITに溶解した一定量のE2−TAMRA(20マイクロリットル)を加えて対象サンプルとし、その蛍光偏光値を測定した。結果を図12に示す。図12から分かるように、抗E2ウサギ抗血清についてのみ、mP値の上昇が確認された。このことから、本発明の方法は分子間相互作用特異的(本例では抗原特異的)な反応であることが分かる。
【0028】
実施例8
E2をBSAに結合したE2−BSAをマウスに免疫し、十分に抗体価が上昇したことを確認後、脾臓を摘出し、脾臓細胞をミエローマ細胞とPEG法により融合した。67個のハイブリドーマの存在を目視で確認し、それらの培養上清を取得し、その中にE2に対するモノクローナル抗体が存在するか否かを本発明の方法により判定した。結果を図13に示す。図13の右端(Neg.)は培地そのものについての測定値であり、その左横(Posi.(培地+抗E2抗体))が培地に予め用意しておいた抗E2モノクローナル抗体を添加したポジテイブコントロールである。この結果、いくつかの培養上清でmP値の上昇が確認された。次に、上記した67個の培養上清について、市販の試薬(商品名:BIACORE、GEヘルスケア(株)製)を用い、その中にE2に対するモノクローナル抗体が存在するか否かを評価した。当該市販試薬を用いる方法では、アミンカップリング法でE2−NH2を結合させたセンサーチップを使用して、一定量の培養上清を流したときにE2と結合する物の量(RU)を算出するものである。
【0029】
図14は、横軸にmPの値、縦軸にRUの値をプロットしたものである。図14からBIACOREの結果と本発明の方法の結果には相関性があること、そして本発明の方法によってモノクローナル抗体のスクリーニングが可能であることが分かる。
【0030】
実施例9
モノクローナル抗体のスクリーニングの過程で多用される96ウエルプレートに加えて、384ウエルプレート又は1536ウエルプレートを用い、より多くの対象サンプルについてスクリーニングを実施可能かどうか調査した。結果を図15に示す。図15から、本例で試験した全てのマルチウエルプレートについて本発明を適用することが可能であり、本発明が多検体スクリーニングが必要なモノクローナル抗体の製造にはきわめて有効な方法であることが分かる。
【0031】
実施例10
実施例5で調製した一定量のE2−TAMRAを、種々の濃度の抗E2抗体を含む動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)に添加し、蓋を開けたウエル、プレートシートフィルムを被せたウエル又はカバーガラスを被せたウエルのそれぞれに適用した。結果を図16に示す。図16左のように、従来は蓋を開けて測定を実施する。市販されているプレートシール用のフィルムを被せて測定すると、測定が困難となった(図16中)。一方、カバーガラスで蓋をすると測定に支障はなかった(図16右)。そこで、カバーガラスよりも光学特性の良い石英ガラス板(厚さ1mm)で蓋を作製し、種々の濃度の抗E2抗体を含む動物細胞培養用の培地(商品名:GIT)を分注した384ウエルプレートに、実施例5で調製した一定量のE2−TAMRAを添加して測定を行い、結果を蓋を開けた場合と比較した。結果を図17に示す。図17からは、石英ガラス製の蓋を被せた場合と被せない場合では、測定結果に差がない(結果が相関している)ことが分かる。
【0032】
実施例11
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端アミノ酸(配列番号1)0.1mgに、マレイミドが導入されたAlexa Fluor 680(A20344:インビトロジェン社製)を反応させた(図18の1.)。その後、抗BNPのC末端アミノ酸認識抗体を固定化したカラムを用いて、大過剰のAlexa Fluor 680を除去し、Alexa Fluor 680で標識した配列番号1を得た(図18の2.)。
【0033】
実施例12
実施例11で調製した蛍光標識ペプチドを用いて、市販の動物細胞培養用培地(商品名:GIT)中での抗原抗体反応を観察した。種々の濃度のBNPのC末端認識抗体(45マイクロリットル)に対し、GIT培地に溶解した適量の蛍光標識ペプチド(5マイクロリットル)を一定量加えたものを測定サンプルとして蛍光偏光値をテカン社製プレートリーダー(商品名:M500)で測定した。なお励起光のフィルターは630nmでバンド幅35nmのものを使用し、測定フィルターは720nmでバンド幅40nmのものを使用した。結果を図19に示す。図19から、抗体の濃度が高くなるにつれて蛍光偏光値(mP値)が増加する様子が培地中で確認できた。
【0034】
実施例13
実施例12と同じ条件でハイブリドーマの培養上清中の抗体の有り無しの判定をおこなった。ハイブリドーマの培養上清45マイクロリットルに実施例12と同量の蛍光標識ペプチドを5マイクロリットル加えてサンプルとした。結果を図20に示す。図20から、本法により抗体を発現しているハイブリドーマを検出できることを確認した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識物からの蛍光偏光を測定することによる、対象サンプル中の当該標識物に対して分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法であって、蛍光測定波長(λ2)において対象サンプルの自家蛍光を抑制し得る励起波長(λ1)を用いることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記励起波長(λ1)が555nm近傍であり、前記蛍光測定波長(λ2)が565から620nmである、請求項1の方法。
【請求項3】
テトラメチルローダミンを蛍光標識物として使用する、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記励起波長(λ1)が650nm近傍であり、前記蛍光測定波長(λ2)が660から720nmである、請求項1の方法。
【請求項5】
Alexa Fluor 647(商品名)又はAlexa Fluor 680(商品名)を蛍光標識物として使用する、請求項1又は4の方法。
【請求項6】
前記分子間相互作用が免疫反応であることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項7】
対象サンプルからの蛍光測定を、対象サンプル保持容器に石英ガラスの蓋をして行うことを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項1】
蛍光標識物からの蛍光偏光を測定することによる、対象サンプル中の当該標識物に対して分子間相互作用を有する物質のスクリーニング方法であって、蛍光測定波長(λ2)において対象サンプルの自家蛍光を抑制し得る励起波長(λ1)を用いることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記励起波長(λ1)が555nm近傍であり、前記蛍光測定波長(λ2)が565から620nmである、請求項1の方法。
【請求項3】
テトラメチルローダミンを蛍光標識物として使用する、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記励起波長(λ1)が650nm近傍であり、前記蛍光測定波長(λ2)が660から720nmである、請求項1の方法。
【請求項5】
Alexa Fluor 647(商品名)又はAlexa Fluor 680(商品名)を蛍光標識物として使用する、請求項1又は4の方法。
【請求項6】
前記分子間相互作用が免疫反応であることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項7】
対象サンプルからの蛍光測定を、対象サンプル保持容器に石英ガラスの蓋をして行うことを特徴とする、請求項1の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−164551(P2010−164551A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256179(P2009−256179)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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