説明

蛍光光度計

【課題】
外乱光の影響を受け難い簡便に測定できる小型の蛍光光度計を提供すること。
【解決手段】
励起光を発する光源部11と、測定対象試料21が保持される試料セル22と、前記試料21が発した蛍光を検出する光検出器12とを有する蛍光光度計であって、光源部11には所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流が供給され、光検出器における検出光度から上記の所定周波数に同期する周波数成分が出力される、所謂ロックインアンプ16を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外乱光の影響を排除した蛍光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に、従来の蛍光光度計の光学系の概略を示す。励起光を発する光源部から放射された光を励起光側分光器に導入し、所定波長の単色光である励起光を取り出して蛍光性の試料に照射する。これに応じて試料から放出された蛍光は蛍光側分光器に導入され、蛍光側分光器により、励起光の反射や散乱、ラマン散乱光などの不所望の波長を除去しつつ所定波長の蛍光のみを選択し光検出器に導入する。通常、励起光側分光器で取り出される励起光の波長は試料から放出される蛍光の強度が最大になるように決められ、励起光の波長を固定した状態で蛍光側分光器により波長走査を行い、その際に光検出器で得られる信号に基づいて蛍光スペクトルを作成する。蛍光光度計は、外乱光等のノイズの影響を小さくするために、通常、光源部及び光検出器を覆う遮光部を備え、試料は遮光部内に設けられた試料室に置かれている。
【0003】
ノイズを受けにくい構成とした蛍光光度計が開発されており、例えば、実開昭53−145885号公報(特許文献1)には、光検知器と、シールド線と、抵抗とコンデンサからなる雑音除去用のフィルタと、信号処理回路とを備えた光度計が開示され、前記フィルタによって、信号処理回路とアース間のインピーダンスは主にノイズ成分の高周波に対しては低く、信号成分の低周波に対しては高く動作するので、ノイズの影響を受けにくい構成であることが記載されている。
【0004】
また、特開平8−338762号公報(特許文献2)には、特定周波数の搬送波信号を創出する搬送波発振手段と、この搬送波発振手段からの搬送波信号と光検出器の出力信号とを乗算する乗算手段と、この乗算手段の出力信号から特定周波数成分の信号のみを取り出す信号濾波手段とを設けた蛍光光度計が開示されており、光源が発する電磁ノイズの影響を受けない、測定感度の高い蛍光光度計が提供されることが記載されている。
【0005】
特開2000−9644号公報(特許文献3)には、蛍光光度計の試料室の扉を開けたときの太陽光や室内照明などの強い光が蛍光光度計の蛍光側分光器に入り、光電子倍増管に過大電流が流れ光電子倍増管を劣化させるという問題を解決するために、光電子倍増管の出力電流を規定電流と比較する手段と、その比較結果により光電子倍増管の印加電圧を変化させる手段により、光電子倍増管の出力電流を規定電流以下に制御する手段を有することを特徴とする蛍光光度計が開示されている。
【特許文献1】実開昭53−145885号公報
【特許文献2】特開平8−338762号公報
【特許文献3】特開2000−9644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、外乱光等のノイズの影響を小さくするための構成を備えた蛍光光度計が開発されているが、太陽光や室内照明などの強い光を伴う場所でも測定しうる蛍光光度計は存在しなかった。
【0007】
また、試料の発する蛍光が微弱な信号である場合、測定値のSN比(Signal to Noise ratio)を十分に確保するために、光源部としてエネルギーの高いキセノンランプ(Xeランプ)、水銀ランプ(Hgランプ)、メタルハライドランプ等の放電方式を使用することが多いが、これらのランプを用いると、ランプを駆動するための電源と、特定の励起光を取り出すための分光器(例えば、光学フィルタや回折格子、光学スリットなど)と、取り出した励起光を試料に照射するための絞りやシャッターなどの光学系とが必要となるため、装置全体の大型化を避けられなかった。さらに、このような放電方式による光源は、発光時に多大な電磁ノイズを発するために測定値の精度が十分に得られないという問題もあった。
【0008】
本発明は、これらの問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、外乱光の影響を受け難い小型の蛍光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の蛍光光度計は、励起光を発する光源部と、測定対象試料が保持される試料セルと、前記試料が発した蛍光を検出する光検出器と、所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流を前記光源部に供給する駆動回路と、前記光検出器の出力信号から前記所定周波数に同期する周波数成分を抽出して出力する位相検波回路とを備え、該位相検波回路の出力に基づいて前記測定対象試料の発光強度を求めるように構成することを特徴とする。
【0010】
このように所謂ロックインアンプ等と称される駆動回路と位相検波回路とを備えた構成にすることにより、外乱光等のノイズの影響を排除することができるので、太陽光や室内照明などの強い光を伴う明るい場所でも蛍光の測定が可能となる。また、ノイズの影響を排除するための遮光部やその中に設けられた試料室を備える必要がないため、装置の小型化、軽量化が可能となる。
【0011】
上記において、前記光源部はLED(紫外線LED)からなる光源である構成とすることができる。この構成とすると、励起光側分光器が不要となるため、装置の小型化、軽量化を図ることができる。また、電磁ノイズの影響も受け難いものとなる。なお、ここでLEDからなる光源としては、LEDからなる光源と光ファイバとを含む構成をも含む。光源部をLEDからなる光源及び光ファイバで構成すれば、光ファイバの長さ等を変更することにより、LEDを自由な位置に配することが可能となる。
【0012】
前記光検出器としては、前記測定対象試料の発光を検出するフォトダイオード又はフォトトランジスタを使用することができる。前記光検出器としてフォトダイオード又はフォトトランジスタを使用すれば、装置の小型化、軽量化を図ることができる。特に、フォトトランジスタを使用する場合には、フォトダイオードを使用する場合に必要なオペアンプが不要となるためより小型化、軽量化を図ることができる。また、前記光検出器をフォトダイオード又はフォトトランジスタと、光ファイバとで構成することもできる。この構成によれば、光ファイバの長さ等を変更することにより、フォトダイオード又はフォトトランジスタを自由な位置に配することが可能となる。
【0013】
前記光源部は、前記測定対象液の吸収波長に応じて交換可能とすることが好ましい。同様に、前記フォトダイオード又はフォトトランジスタは、前記測定対象液の発光波長に応じて交換可能とすることが好ましい。これにより、吸収波長や発光波長の異なる種々の測定対象液についての発光強度の測定を行うことが可能となる。通常、光源部には紫外線LEDを用いる。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明から明らかなように、光源部には所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流が供給され、光検出器における検出光度から上記の所定周波数に同期する周波数成分が出力される、所謂ロックインアンプ等を設けた構成を有する本発明の蛍光光度計は、外乱光が光検出器に入射してもその影響は殆ど受けなくなるため、光源部からの計測光だけに基づいて発光強度を求めることが可能となる。従って、明るい場所でも簡便に安定かつ高精度の発光強度測定を連続して行い得るという有利な効果が発揮されることとなる。
【0015】
また、光源部にLEDを用い、及び/又は、光検出器としてフォトダイオード又はフォトトランジスタ(好ましくはフォトトランジスタ)を用いた本発明の蛍光光度計により、蛍光光度計の小型化・軽量化を図ることができ、明るい場所で簡便に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図1は、本発明の一実施形態に係る蛍光光度計の概略構成図である。本実施形態の蛍光光度計は、同図に示すように、試料セル22内の測定対象試料21と、光源部11と、前記試料21が発した蛍光を検出する光検出器12とを備え、前記光源部11として紫外線LEDを、前記光検出器12としてフォトトランジスタを備えている。紫外線LED11は測定対象試料21に励起光となる紫外線を照射するために設けられ、またフォトトランジスタ12は測定対象試料21からの発光を検出するために設けられている。そして、紫外線LED11の光軸とフォトトランジスタ12の光軸とは、直交するように配されている。従って、図中矢印13に示すように測定対象試料21に向けて出射された励起光により測定対象試料21に含まれる発光成分が励起され、この励起された発光成分から発せられる発光が、矢印15に示すようにフォトトランジスタ12に到達することになる。紫外線LED11の発光波長は、測定対象試料21の吸収波長に応じて交換可能である。同様に、フォトトランジスタ12の検出波長も、測定対象試料21の発光波長に応じて交換可能である。また、紫外線LED11とフォトトランジスタ12との配置は、測定対象試料に応じて変更可能である。
【0017】
本実施形態では、ロックインアンプ16を備え、このロックインアンプ16は、電流ドライバ17を介して紫外線LED11に所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流を供給する。また、ロックインアンプ16は、非反転増幅器18及びボルテージフォロア19を介してフォトトランジスタ12に接続されている。そして、ロックインアンプ16は、フォトトランジスタ12の出力信号から前記所定周波数に同期する周波数成分を抽出して出力する位相検波回路を備えている。
【0018】
以上の構成を有する本実施形態の発光光度計を用いて、実際に高濃度のリボフラビン(ビタミンB2)水溶液及び低濃度のリボフラビン水溶液について、それぞれ発光強度の測定を行った。
【0019】
高濃度のリボフラビン水溶液は、リボフラビン10mgを電子天秤で計り取り、50mLメスフラスコで希釈した。この溶液を濃度が2/3倍となるように希釈したものを標準溶液とした。この標準溶液の濃度が0.1倍、0.2倍、0.3倍、0.4倍、0.5倍、0.6倍、0.7倍、0.8倍、0.9倍、1.0倍になるようにそれぞれ希釈して測定液を調製した。
【0020】
低濃度のリボフラビン水溶液は、リボフラビン10mgを電子天秤で計り取り、100mLメスフラスコで希釈した。この溶液を10倍希釈したものを標準溶液とした。この標準溶液の濃度が0.1倍、0.2倍、0.3倍、0.4倍、0.5倍、0.6倍、0.7倍、0.8倍、0.9倍、1.0倍になるようにそれぞれ希釈して測定液を調製した。
【0021】
図2は高濃度のリボフラビン水溶液について、図3は低濃度のリボフラビン水溶液について測定を行った結果をそれぞれ示している。図2及び図3から、高濃度のリボフラビン水溶液のみならず、低濃度のリボフラビン水溶液についてもリボフラビンの検出が可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の蛍光光度計を使用すれば、明るい場所であっても簡便に測定できるので、従来の分光機器の分野や、例えばプラント制御の分野においても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1の蛍光光度計を用いて高濃度のリボフラビン水溶液について測定を行った結果を示す図である。
【図3】図1の蛍光光度計を用いて低濃度のリボフラビン水溶液について測定を行った結果を示す図である。
【図4】従来の蛍光光度計の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
11 紫外線LED
12 フォトトランジスタ
16 ロックインアンプ
17 電流ドライバ
18 非反転増幅器
19 ボルテージフォロア
21 測定対象試料
22 試料容器(試料セル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発する光源部と、
測定対象試料が保持される試料セルと、
前記試料が発した蛍光を検出する光検出器と
を有する蛍光光度計であって、
所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流を前記光源部に供給する駆動回路と、前記光検出器の出力信号から前記所定周波数に同期する周波数成分を抽出して出力する位相検波回路とを備え、該位相検波回路の出力に基づいて前記測定対象試料の発光強度を求めることを特徴とする蛍光光度計。
【請求項2】
前記駆動回路及び前記位相検波回路は、ロックインアンプである請求項1記載の蛍光光度計。
【請求項3】
前記光源部は、LEDからなる光源である請求項1又は2記載の蛍光光度計。
【請求項4】
前記光検出器は、フォトダイオード又はフォトトランジスタである請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−198210(P2009−198210A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37689(P2008−37689)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】