説明

蛍光分光光度計

【課題】蛍光分光器の感度を向上させる。
【解決手段】本発明の蛍光分光光度計は、励起光学系から照射された励起光を筒状フローセル11内を流通する試料に照射し、試料から生じる蛍光を蛍光分光器25で検出するものである。励起光学系は励起光をフローセル11のセル窓18から軸方向に入射させるように配置されている。反射鏡17はフローセル11の周面を取り囲んで試料から生じる蛍光を反射させて蛍光分光器25に導くように備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光分光光度計に関し、例えば、特に小さなセル容量で高感度検出が求められる液体クロマトグラフ用の蛍光分光光度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光検出の原理は、セル中の試料に励起光を照射することで試料から蛍光を発生させ、この蛍光を検出器に導いて検出するものである。発生する蛍光量は、セル中の試料に入射する励起光量が多いほど多くなる。
【0003】
図3は従来の蛍光分光光度計を示す概略図である。
フローセル12は角型セルであり、側面から励起光が入射し、発生した蛍光をその側面に隣接する他の側面から検出するものである。フローセル12の励起光学系側には励起用回折格子29が備えられ、光源31からの光を反射させてフローセル12に集光させるようになっている。フローセル12の蛍光分光光度計側には蛍光用回折格子35が備えられ、蛍光検出素子37に集光させるようになっている。励起光と蛍光が通る光軸上には、スリット39と41がそれぞれ備えられている。
このように従来の蛍光分光検出では、角筒状のセルの一側面から励起光を入射し、その励起光によって放出される蛍光をそれと直交する一側面から取り出して、蛍光検出素子で分析している。
【0004】
また、基端と末端を有するフローセルにおいて、基端に励起レンズを備え、末端に逆反射レンズを備えることで、基端側から照射された励起光を集光し反射させ、励起光の光路長を2倍にする蛍光検出器も提案されている(特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特表2004−530868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蛍光検出法は吸光検出法に比べて感度が高い検出方法ではあるが、さらなる高感度化が求められている。
蛍光分光器の検出感度を向上させるためには、発生した蛍光を出来るだけ効率的に蛍光分光器へ集光させる必要がある。しかし、上述の蛍光分光光度計は発生した蛍光を効率よく集光しているとは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光分光光度計は、励起光学系から照射された励起光を筒状フローセル内を流通する試料に照射し、試料から生じる蛍光を蛍光分光器で検出するものである。そして、励起光学系は励起光をフローセルの端面側から軸方向に入射させるように配置されており、また、フローセルの周面を取り囲んで試料から生じる蛍光を反射させて蛍光分光器に導く反射鏡が備えられている。
【0008】
上記反射鏡としては球面鏡、楕円面鏡及び放物面鏡からなる群から選ばれた凹面反射鏡を用いることができる。
【0009】
また、上記励起光学系からの励起光がフローセルに入射できるように上記鏡の凹部の中心には開口部が設けられていることが好ましい。
【0010】
蛍光分光器に励起光を入射させないように、上記フローセルの励起光入射側の端面は励起光が透過する材料からなり、上記フローセルの上記端面に対向する端面には励起光を透過しない材質の部材が配置されているようにしてもよい。
【0011】
セル中の試料に対して出来るだけ多くの励起光を効率的に入射させることで、励起光を効率よくフローセルに照射できるように、上記部材を反射鏡として用いてもよい。
【0012】
上記反射鏡としては、球面鏡、楕円面鏡及び放物面鏡からなる群から選ばれた凹面鏡を用いることができる。
【0013】
なお、上記フローセルの一例として円筒状又は角筒状を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蛍光分光光度計は、フローセルの周面を取り囲んで試料から生じる蛍光を反射させて蛍光分光器に導く反射鏡を備えるようにしたので、試料から生じる蛍光を効率的に検出器へ集光することができ、検出感度を向上させることができるようになる。
【0015】
反射鏡に球面鏡、楕円面鏡及び放物面鏡などの凹面鏡を用いると、複数の平面鏡を利用するよりも光を集光するのが容易になる。
【0016】
反射鏡の凹部の中心に開口部を設けると、励起光学系からの励起光をフローセルに入射するのが容易になる。
【0017】
フローセルの一端を励起光が透過する材料、他端を励起光を透過しない材質の部材とすることで、フローセルを通過した励起光が蛍光分光器に直接入射することを防ぐことができるので、より高感度に検出することができるようになる。
【0018】
上記部材を反射鏡として用いた場合、励起光学系からフローセルを透過した励起光をフローセルに再度入射させることができるので、励起効率を高めることができ、検出感度がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施例を説明する。
図1は蛍光分光光度計の概略構成図である。
フローセル11は左右方向に長い円筒状であり、セル11の両端は励起光をフローセル11の中央部に集光できるようにレンズ形状になっている。セル11の側面には試料を内部に流通させるための試料導入口13及び試料排出口15が設けられている。試料導入口13及び試料排出口15は、試料から生じる蛍光が蛍光分光器に集光するのを出来るだけ妨げないように配置されていることが望ましい。
【0020】
フローセル11の周囲には、セル11の周面を取り囲むように反射鏡17が配置されている。反射鏡17は例えば球面鏡であり、フローセル11内に流通する試料から生じた蛍光を蛍光分光器に効率的に集光できるものである。実施例の図では球面鏡を例示したが、楕円面鏡や放物面鏡などの凹面反射鏡を用いることもできる。また、複数の平面鏡を接合することで凹面反射鏡を形成してもよい。
【0021】
励起光学系は反射鏡17の凹部側(図1中のフローセル11の左端側)に配置されており、励起光はフローセル11の端面側からフローセル11の軸方向に入射される。
励起光を効率良くフローセル11内に入射させるため、反射鏡17の凹部の中心は開口部となっており、フローセル11の左端側は励起光を透過する材料から構成された入射側セル窓18となっている。これにより、励起光がフローセル11内に入射する際の光軸を確保することができる。このセル窓18として、実施例の図ではレンズ形状を示したが、平面板でもよい。
【0022】
セル11の右端側には励起光を透過しない材質の部材が配置されており、その部材の内側は反射鏡19となっている。反射鏡19は球面状の部材にアルムニウムコーティングを施すことによって形成され、セル11の中心方向に励起光を反射させるものである。
【0023】
セル11の周面は例えば石英ガラスからなる部材21によって形成されており、両端の部材との間にはフッ素樹脂等のシール材23が埋め込まれている。また、試料導入口13及び試料排出口15もシール材によって部材21と固定されている。
蛍光分光器25は、反射鏡17により反射された蛍光が蛍光分光器25のスリット27に集光するように、配置されている。
【0024】
次に同実施例の動作を説明する。
円筒フローセル11の軸は励起入射光の光軸に合致しており、入射側セル窓18を通して励起光が試料に照射する。セル11内の試料から生じた蛍光は反射鏡17で反射し、蛍光分光器25の前段のスリット27を通り、蛍光分光器を経て検出素子で電気信号となる。また、セル窓18を通って入射した励起光の一部は反射鏡19によりセル11の中心方向に反射され、試料から蛍光を生じさせる。ここで生じた蛍光も反射鏡17で反射してスリット27に集光する。
【0025】
このように、従来の方法では、励起入射光の入射軸に対して垂直な360°の方向に放出される蛍光の一部のみしか利用していなかったが、本発明は、円筒状のセルの中心軸を励起入射方向と同じになるように配置し、励起光入射軸と垂直な360°全域にわたり放出される蛍光を球面鏡、楕円面鏡又は放物面鏡により捕捉し、蛍光分光器へ導く構成としたので、蛍光分光器へ到達する蛍光量を増大させることができる。
【0026】
図2はフローセル、励起光学系及び蛍光分光光度計を備えた蛍光分光光度計の全体図である。反射鏡17は図1に示されたようにフローセル11の周面を取り囲むように備えられている。フローセル11の光軸の励起光学系側には励起用回折格子29が備えられ、光源31からの光を反射させるようになっている。光源31の周囲にはミラー33が備えられており、光源31からの励起光を効率的に集光できるようになっている。
【0027】
フローセル11の光軸の蛍光分光光度計側にはスリット27が備えられており、スリット27の奥には蛍光用回折格子35が備えられている。また、蛍光用回折格子35によって反射された蛍光を集光するための蛍光検出素子37が備えられている。
【0028】
この実施例図の場合、光源31からの励起光は励起用回折格子29で反射してフローセル11に照射された後、セル11内で生じた蛍光は反射鏡17によってスリット27に集光され、蛍光用回折格子35で反射し、蛍光検出素子37に集光される。
これにより、従来よりも装置の配置スペースを小さくできるため、測定装置を小型化することができるとともに、高感度に検出することができる。
【0029】
なお、蛍光検出の検出感度は、光学系の効率を上げて光電子増倍管に到達する蛍光量を増やすことによって向上させることができる。
本発明の構成により、放出される蛍光の利用率を著しく向上させることが可能になり、検出感度を大幅に向上させることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は蛍光分光光度計、特に小さなセル容量で高感度検出が求められる液体クロマトグラフ用の蛍光分光光度計に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】蛍光分光光度計の概略構成図である。
【図2】フローセル、励起光学系及び蛍光分光光度計を備えた蛍光分光光度計の全体図である。
【図3】従来の蛍光分光光度計を示す概略図である。
【符号の説明】
【0032】
11 フローセル
13 試料導入口
15 試料排出口
17 反射鏡
18 セル窓
19 反射鏡
21 部材
23 シール材
25 蛍光分光器
27 スリット
29 励起用回折格子
31 光源
33 ミラー
35 蛍光用回折格子
37 蛍光検出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光学系から照射された励起光を筒状フローセル内を流通する試料に照射し、試料から生じる蛍光を蛍光分光器で検出する蛍光分光光度計において、
前記励起光学系は励起光をフローセルの端面側から軸方向に入射させるように配置されており、
前記フローセルの周面を取り囲んで試料から生じる蛍光を反射させて前記蛍光分光器に導く反射鏡が備えられていることを特徴とする蛍光分光光度計。
【請求項2】
前記反射鏡は球面鏡、楕円面鏡及び放物面鏡からなる群から選ばれた凹面反射鏡である請求項1に記載の蛍光分光光度計。
【請求項3】
前記励起光学系からの励起光が前記フローセルに入射できるように前記鏡の凹部の中心には開口部が設けられている請求項2に記載の蛍光分光光度計。
【請求項4】
前記フローセルの励起光入射側の端面は励起光が透過する材料からなり、前記フローセルの前記端面に対向する端面には励起光を透過しない材質の部材が配置されている請求項1から3のいずれか一項に記載の蛍光分光光度計。
【請求項5】
前記部材は反射鏡である請求項4に記載の蛍光分光光度計。
【請求項6】
前記反射鏡は球面鏡、楕円面鏡及び放物面鏡からなる群から選ばれた凹面鏡である請求項5に記載の蛍光分光光度計。
【請求項7】
前記フローセルは円筒状又は角筒状である請求項1から6のいずれか一項に記載の蛍光分光光度計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−180567(P2008−180567A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13342(P2007−13342)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】