説明

蛍光分析装置および方法

【課題】励起光を異なる変調モードに変調して、各試料からの蛍光信号を変調モードにより分離できる構成を採用することにより、装置を小型化して携帯可能とすると共に低コスト化し、かつ低消費電力化することを可能にした蛍光分析装置および方法を提供する。
【解決手段】蛍光標識を含む複数の試料を同時分析する蛍光分析装置であって、異なる変調モードを有する複数の励起光を発生する励起光発生手段1と、前記複数の励起光をそれぞれ異なる試料に照射する照射光学系2と、前記試料のそれぞれで発生した蛍光を蛍光標識の蛍光波長ごとに分光する分光光学系3と、分光光学系3で分光された光を受光する受光手段4とを有し、前記複数の励起光の変調モードはそれぞれ直交関係にあり、受光手段4の信号を前記変調モードに対応した復調を行うことにより、異なる試料からの蛍光信号を分離することを特徴とする蛍光分析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識を含む複数の試料(特に、ディオキシリボ核酸(DNA)試料)を同時分析する蛍光分析装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子診断や創薬などの生化学分野において、大型の蛍光分析装置を用いて、ゲノム解析などにおいて大量解析が行われてきた。また血液検査やイムノアッセイなどの免疫検査分野においても、大型の蛍光分析装置を用いて、臨床・受託検査などが行われてきた。
【0003】
【特許文献1】特開2007−315772
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の蛍光分析装置は、特許文献1にも記載されているように、励起光源にアルゴンレーザを用い、検出器に光電子像倍管などを用いているため、装置が大型化すると共に高コスト化し、また装置の消費電力が数KWにも達していた。
本発明は、上記の問題点に鑑み、励起光を異なる変調モードに変調して、各試料からの蛍光信号を変調モードにより分離できる構成を採用することにより、装置を小型化して携帯可能とすると共に低コスト化し、かつ低消費電力化することを可能にした蛍光分析装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
蛍光標識を含む複数の試料を同時分析する蛍光分析装置であって、異なる変調モードを有する複数の励起光を発生する励起光発生手段と、前記複数の励起光をそれぞれ異なる試料に照射する照射光学系と、前記試料のそれぞれで発生した蛍光を蛍光標識の蛍光波長ごとに分光する分光光学系と、前記分光光学系で分光された光を受光する受光手段とを有し、前記複数の励起光の変調モードはそれぞれ直交関係にあり、前記受光手段の信号を前記変調モードで復調することにより、異なる試料からの蛍光信号を分離する、ことを特徴とする、蛍光分析装置。
【0006】
この発明の構成によれば、蛍光標識を含む複数の試料(例えば、複数のキャピラリーを通過する試料)からの蛍光を同時に分析することができる。励起光を異なる変調モードで変調し、それぞれの励起光を異なる試料に照射し、受光した蛍光信号をそれぞれの変調モードで復調することにより、異なる試料からの蛍光信号を分離することができる。励起光を異なる変調モードで変調して、各試料からの蛍光信号を変調モードにより分離できる構成にしたので、光学系を簡素化することができ、装置を小型化することができる。
【0007】
また、好ましい実施態様として、以下のものがある。
前記分光光学系によって分光された複数の試料からの光を、前記蛍光標識の蛍光波長ごとに合成する合成光学系をさらに有し、
前記受光手段は、前記合成光学系により合成された前記蛍光標識の蛍光波長ごとの光を受光する。
【0008】
複数の試料からの光を蛍光標識の蛍光波長ごとに合成することにより、各蛍光波長ごとの光量を大きくすることができ、受光手段におけるS/N比が向上する。試料が例えばディオキシリボ核酸(DNA)試料の場合、蛍光標識は4種類(ATGC)なので、同時分析する複数の試料中、2つ以上の試料で同じ蛍光波長の蛍光標識が含まれている確率は非常に高い。違う試料からの蛍光は異なる変調モードを有しているが、これらを合成すれば蛍光の平均光量は大きくなる。平均光量が大きくなれば、受光手段において暗雑音の影響を受けにくくなり、S/N比が向上する。合成された各蛍光波長ごとの信号は、各試料に照射した励起光の変調モードで復調することにより、各試料ごとの蛍光信号に分離できる。
【0009】
前記励起光発生手段の励起光源は、レーザーダイオードであり、
レーザーダイオードに印加する電流を変調することにより、異なる変調モードを有する励起光を発生させる。
【0010】
励起光発生手段の励起光源に、レーザーダイオードを用いれば、レーザーダイオードに印加する電流を変調することにより励起光を変調することができる。
【0011】
前記変調モードは、直交符号系列である。
【0012】
変調モードとして直交符号系列を用いれば、デジタル的に変調ができるので、励起光の変調が容易になる。また、デジタル系列なので、ビット数を増やすことでそれぞれが直交関係にある符号列の種類を増やすことができる。
直交符号系列としては、例えば、ウォルシュ系列、M系列などがある。
【0013】
前記複数の試料は、複数のキャピラリーを通過する試料である。
【0014】
DNAシーケンサーとして用いる場合は、前記試料は蛍光標識されたDNA試料であり、キャピラリー中を電気泳動により移動させて、測定点を通過する試料の蛍光を測定する。
【0015】
前記分光光学系は、少なくとも回折光学素子を有する。回折光学素子としては、例えば、回折格子、グリズムやホログラフィック分光素子などがある。
【0016】
前記受光手段の受光源は、フォトダイオードであり、
前記フォトダイオードは、蛍光標識の蛍光波長ごとに1個ずつ設けられている。フォトダイオードとしては、例えばアバランシェフォトダイオード(APD)などがある。
【0017】
前記試料は、蛍光標識されたDNA試料である。
【0018】
蛍光標識を含む複数の試料を同時分析する蛍光分析方法であって、異なる変調モードを有する複数の励起光を発生する励起光発生ステップと、前記複数の励起光をそれぞれ異なる試料に照射する照射ステップと、前記試料のそれぞれで発生した蛍光を、蛍光標識の蛍光波長ごとに分光して受光する受光ステップとを有し、前記複数の励起光の変調モードはそれぞれ直交関係にあり、前記受光ステップの信号を前記変調モードで復調することにより、異なる試料からの蛍光信号を分離する、ことを特徴とする、蛍光分析方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、装置を小型軽量化して携帯可能とすると共に低コスト化し、低消費電力化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一実施形態を図1を用いて説明する。
図1は、本発明に係る蛍光分析装置の概略構成を示す図である。
同図に示すように、この蛍光分析装置は、主として、異なる変調モードを有する複数の励起光を発生する励起光発生手段1と、前記複数の励起光をそれぞれ異なる試料に照射する照射光学系2と、前記試料のそれぞれで発生した蛍光を蛍光標識の蛍光波長ごとに分光する分光光学系3と、分光光学系3で分光された光を受光する受光手段4と、受光手段2の信号を前記変調モードで復調し、異なる試料からの蛍光信号を分離する信号処理手段5とを備えている。
【0021】
励起光発生手段1における励起光源は、レーザーダイオード11であり、レーザーダイオード11に流す電流を変調することにより、レーザーダイオード11から異なる変調モード、例えば、直交符号列を有する励起光を発生させる。変調された励起光は、ファイバー12によって伝導されて、1次元ファイバーアレイと顕微対物レンズとの結合部13を介して照射光学系2に入射される。なお、レーザーダイオード11は、特に青色レーザーダイオードが好ましいが、これに限定されず、試料から蛍光を生じさせる波長域の光を発する光源ならば何でも良い。また、励起光の変調は、光源そのものの明るさを変調させても良いし、光源から発した光をオプティカル・チョッパや光変調素子などを用いて変調しても良い。また、変調モードは、互いに直交関係にあり信号分離可能な変調モードであれば何でも良く、直交符号系列が好ましいがこれに限定されるものではない。
【0022】
照射光学系2に入射された複数の励起光は、ダイクロイックミラー21によって反射されて、顕微対物レンズ22に入射される。顕微対物レンズ22から出射した複数の変調された励起光は、キャピラリー23上の蛍光標識を含む複数の試料に同時に照射される。複数の試料は、複数のキャピラリー23を通過する試料が好ましいが、これに限定されず、DNAチップ上の複数の試料などでも良い。この場合は、DNAチップを移動させるステージ装置などがあると好ましい。複数の各試料に励起光を照射することにより、各試料から蛍光が放射される。各試料から放射された蛍光は、顕微対物レンズ22、ダイクロイックミラー21を介して、分光光学系3に入射される。
【0023】
分光光学系3に入射された、それぞれの試料において発生した蛍光は、回折格子31等の分光手段によって、蛍光標識、例えば、試料がDNA試料の場合、ATGCの4種類、の波長ごとに分光され、顕微対物レンズ32を介して受光手段4に出射される。なお、同図における回折格子31と回折格子31、及び顕微対物レンズ32と顕微対物レンズ32は、それぞれ同一のものを指しており、互いに90°ずれた位置から見たものである。
【0024】
分光光学系3から出射された分光は、顕微対物レンズと2次元ファイバーアレイとの結合部41を介して受光手段4に入射される。4本のファイバー42〜45は、複数の試料からの光を、例えば、ATGCの4種類の蛍光標識の蛍光波長ごとに分岐されたものであり、さらに、各ファイバー42〜45は、ファイバー42に示すように、例えば、合成光学系としての4本のファイバー42a〜42dから構成される。1種類の蛍光標識について、複数本のファイバー42a〜42dを設け、各蛍光標識を蛍光波長成分ごとに複数本のファイバー42a〜42dで合成することにより、各蛍光波長ごとの光量を大きくすることができ、後述するフォトダイオード46〜49におけるS/N比を向上させることができる。4本のファイバー42〜45において、複数の試料からの光を4種類の蛍光標識の蛍光波長ごとに合成された光は、4種類の蛍光標識の蛍光波長に対応する4個の受光源としてのフォトダイオード46〜49に入射され、電気信号に変換される。
【0025】
受光手段4のフォトダイオード46〜49から出力された電気信号は、信号処理手段5に入力される。信号処理手段5おいては、入力された電気信号を前記変調モードに対応した復調を行い、異なる試料からの蛍光信号を分離することにより、所望の信号を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る蛍光分析装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 励起光発生手段
11 レーザーダイオード
12 ファイバー
13 1次元ファイバーアレイと顕微対物レンズとの結合部
2 照射光学系
21 ダイクロイックミラー
22 顕微対物レンズ
23 キャピラリー
3 分光光学系
31 回折格子
32 顕微対物レンズ
4 受光手段
41 顕微対物レンズと2次元ファイバーアレイとの結合部
42〜45 ファイバー
42a〜42d ファイバー
46〜49 フォトダイオード
5 信号処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識を含む複数の試料を同時分析する蛍光分析装置であって、
異なる変調モードを有する複数の励起光を発生する励起光発生手段と、
前記複数の励起光をそれぞれ異なる試料に照射する照射光学系と、
前記試料のそれぞれで発生した蛍光を蛍光標識の蛍光波長ごとに分光する分光光学系と、
前記分光光学系で分光された光を受光する受光手段と、を有し、
前記複数の励起光の変調モードはそれぞれ直交関係にあり、
前記受光手段の信号を前記変調モードで復調することにより、異なる試料からの蛍光信号を分離する、
ことを特徴とする、蛍光分析装置。
【請求項2】
前記分光光学系によって分光された複数の試料からの光を、前記蛍光標識の蛍光波長ごとに合成する合成光学系をさらに有し、
前記受光手段は、前記合成光学系により合成された前記蛍光標識の蛍光波長ごとの光を受光する、
ことを特徴とする、請求項1記載の蛍光分析装置。
【請求項3】
前記励起光発生手段は、少なくともレーザーダイオードを有し、
前記レーザーダイオードに流す電流を変調することにより、異なる変調モードを有する励起光を発生させる、
ことを特徴とする、請求項1または2記載の蛍光分析装置。
【請求項4】
前記変調モードは、直交符号系列である、
ことを特徴とする、請求項1〜3いずれか記載の蛍光分析装置。
【請求項5】
前記複数の試料は、複数のキャピラリーを通過する試料である、
ことを特徴とする、請求項1〜4いずれか記載の蛍光分析装置。
【請求項6】
前記分光光学系は、少なくとも回折光学素子を有する、
ことを特徴とする、請求項1〜5いずれか記載の蛍光分析装置。
【請求項7】
前記受光手段は、少なくともフォトダイオードを有し、
前記フォトダイオードは、蛍光標識の蛍光波長ごとに1個ずつ設けられている、
ことを特徴とする、請求項1〜6いずれか記載の蛍光分析装置。
【請求項8】
前記試料は、蛍光標識されたディオキシリボ核酸試料である、
ことを特徴とする、請求項1〜7いずれか記載の蛍光分析装置。
【請求項9】
蛍光標識を含む複数の試料を同時分析する蛍光分析方法であって、
異なる変調モードを有する複数の励起光を発生する励起光発生ステップと、
前記複数の励起光をそれぞれ異なる試料に照射する照射ステップと、
前記試料のそれぞれで発生した蛍光を、蛍光標識の蛍光波長ごとに分光して受光する受光ステップと、を有し、
前記複数の励起光の変調モードはそれぞれ直交関係にあり、
前記受光ステップの信号を前記変調モードで復調することにより、異なる試料からの蛍光信号を分離する、
ことを特徴とする、蛍光分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−78559(P2010−78559A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250358(P2008−250358)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】