説明

蛍光増白剤の貯蔵安定性溶液

本発明は、特別な可溶化添加剤を必要としない、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸のアニリノ−置換されたビストリアジニル誘導体のある種の塩の形態に基づく蛍光増白剤及び有機酸の貯蔵安性溶液に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特別な可溶化添加剤を必要としない、ジアミノスチルベンの誘導体をベースとする蛍光増白剤の貯蔵安定性溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
紙、ボール紙、テキスタイル及び不織製品の白さと、それによる魅力が蛍光増白剤(OBAs)の添加によって向上できることは周知である。紙及びボール紙産業において最も重要な蛍光増白剤とは、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸のアニリノ−置換されたビストリアジニル誘導体であるで。アニリノ−置換基は、より大きな水溶性を付与する追加のスルホン酸基を含んでよい。アニリノ−置換基がスルホン酸基を含んでいない次の式(A、M=Na)で表される蛍光増白剤は、セルロース繊維に対して特に高い親和力を有し、そして、製紙工程のウェットエンドでの使用に特に適している。
【0003】
【化1】

【0004】
取り扱い及び計量を容易にするため、紙及びボール紙産業は蛍光増白剤が液形態、好ましくは濃厚な水溶液の形態で供給されることを要求している。さらに、該液形態は、幅広い温度範囲、典型的には4〜50℃にわたって長く保存するために安定でなければならない。従来、保存するのに安定な上記の式(A)で表される化合物の水溶液を提供するために、尿素又はエチレングリコールのような可溶化補助剤が30重量%までの量で加えられていた。これらの可溶化剤は、セルロースに対する親和力を持たないが、製紙工場から出る排水を汚染する。
【0005】
欧州特許出願公開第884312A号明細書(特許文献1)は、ある種の水和物(M=Naを含む上記のA)が、少量の調合補助剤を含む安定な液状懸濁物又はスラリーを製造するために使用できることを開示することによって、この問題の部分的な解決法を提供している。
【0006】
欧州特許出願公開第1300514A号明細書(特許文献2)は、40〜98℃という高められた温度で依然として安定で濃厚な水性増白調合物(M=Naを含む上記のA)を開示することによって、別の部分的な解決法を提案している。
【0007】
国際公開第2007/017336A1号パンフレット(特許文献3)は、特別な可溶化添加剤を必要としない、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸のアニリノ−置換されたビストリアジニル誘導体のある種の塩の形態をベースとする蛍光増白剤の貯蔵安定性溶液を開示している。
【0008】
国際公開第2005/028749A1号パンフレット(特許文献4)は、アルカノールアミン及び上記の式A(M=H)の蛍光増白剤を含む蛍光増白剤組成物を開示している。好ましいアルカノールアミンは、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、又は2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールと2−(N−メチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノールとの混合物である。
【0009】
特開昭62−273266号公報(特許文献5)では、アニオン性のビス(トリアジニルアミノ)スチルベン誘導体の第四級アンモニウム塩を含む蛍光増白剤組成物が特許請求項の範囲に記載されている。好ましい第四級アンモニウムイオンは、トリメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムイオンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第884312A号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1300514A号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/017336A1号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2005/028749A1号パンフレット
【特許文献5】特開昭62−273266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
可溶化補助剤を含まないジスルホン化蛍光増白剤の安定な濃厚水溶液に対する要求は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、少量の有機酸と組み合わせた(A)の特定の塩形態によって、可溶化補助剤が添加されていない、安定な濃厚溶液を形成できることが見出された。
【0013】
それ故、本発明は、次の式(1)で表される化合物10〜40重量%、及びクエン酸、グリコール酸、酢酸又はギ酸から選択される有機酸0.05〜5重量%を含む水溶液を提供するものである。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、
Rは、水素又はメチル基であり、
は、Li、Na、又はKであり、そして
nは、1.5より小さいか又は1.5に等しい。)
【0016】
実施例5によって示されるように、(類似の蛍光増白剤と共に国際公開第2007/017336A1号パンフレット(特許文献3)で使用されるような)塩酸の代わりに有機酸を使用することよって、はるかに優れた貯蔵安定性が得られる。
【0017】
上記の式(1)において、
Rが、水素又はメチル基であり、
が、Naであり、そして
nが1.5より小さいか又は1.5に等しい、
化合物15〜35重量%、及びクエン酸0.1〜2重量%を含む水溶液が好ましい。
【0018】
さらに好ましいのは、
Rが水素であり、
がNaであり、そして
nが1.5より小さいか又は1.5に等しい、
水溶液である。
【0019】
特に好ましいのは、
Rが水素であり、
がNaであり、そして
nが1.2より小さいか又は1.2に等しい、
水溶液である。
【0020】
本発明は、上記の水溶液の製造方法も提供し、該方法は、次の式(2)
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、Rは水素又はメチル基である。)で表される水溶液の形態の化合物を混合塩の形態(1)に転化し、そして該形態においては、スルホン酸基に関連するMイオンの少なくとも25%が、2−ジメチルアミノエタノール及び有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、酒石酸又はクエン酸)で処理されることによって、(CHNHCHCHOHイオンで置換されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の水溶液は、担体、不凍液、脱泡剤、可溶化助剤、保存料、錯化剤などを一種又はより多く、並びに蛍光増白剤の製造中に形成される有機副生成物を任意に含むことができる。
【0024】
担体は、顔料着色されたコーティング増白剤組成物に向上された増白特性を与えることが知られており、そして、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースであってよい。
【0025】
不凍液は、例えば、尿素、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールであってよい。
【0026】
可溶化助剤は、例えば、尿素、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン又は2−ジメチルアミノエタノールであってよい。
【0027】
本発明の水溶液は、テキスタイル、紙、ボール紙、及び不織布の増白のための蛍光増白剤として使用するのに適している。それらは紙及びボール紙の増白に特に有用であり、そして、パルプの水性懸濁液、又は紙の表面、特に、顔料着色されたコーティング組成物への適用に適している。これらは、高い貯蔵安定性、収率、及び応用の容易性によって特徴付けられる。これらはまた、セルロース物品、特に紙及びボール紙の製造において慣用的に使用される他の添加剤との高い相溶性も有する。
【実施例】
【0028】
以下の例は本発明をより詳細に説明する。別途示さない限り、“部”は“重量部”を意味し、そして“%”は“重量%”を意味している。
【0029】
実施例1
ジエタノールアミン220部を、60℃において次の式(3)で表される化合物824部が水7750部の中で撹拌されている懸濁液に加える。
【0030】
【化4】

【0031】
混合物を加熱して還流させ、そして水酸化ナトリウムを30%水溶液の形態で添加することによってpHを8.5〜9.0に制御しながら、4時間その状態に維持する。塩化ナトリウム44部を加え、そして混合物をさらに還流下で10分間撹拌する。その後混合物を90℃に冷却してから撹拌を停止する。10分間放置した後、式の(A、M=Na)で表される化合物を含む下方の油相(1990部)を、塩含有の水性相から分離し、この分離された油を80℃で撹拌しながら冷水1570部に加える。そのように形成された溶液を、その後、冷水350部中に2−ジメチルアミノエタノール300部を溶かした溶液及びクエン酸212部を用いて50℃で処理する。混合物を50℃で10分間撹拌し、その後50℃に保持する。1時間放置した後、下方の油相を分離し、水で希釈して次の式(4)で表される化合物22.0%及びクエン酸0.5%を含む水溶液4400部を得る。
【0032】
【化5】

【0033】
そのように形成された水溶液は、結晶種の存在下又は非存在下のいずれにおいても、4℃で少なくとも2週間の貯蔵に対して安定である。
【0034】
実施例2
クエン酸212部に代えてギ酸152部を用いて実施例1を繰り返す。そのように形成された(4)及びギ酸0.4%の水溶液は、結晶種の存在下又は非存在下のいずれにおいても、4℃で少なくとも2週間の貯蔵に対して安定である。
【0035】
実施例3
クエン酸212部に代えて酢酸199部を用いて実施例1を繰り返す。そのように形成された(4)及び酢酸0.5%の水溶液は、結晶種の存在下又は非存在下のいずれにおいても、4℃で少なくとも2週間の貯蔵に対して安定である。
【0036】
実施例4
クエン酸212部に代えてグリコール酸252部を用いて実施例1を繰り返す。そのように形成された(4)及びグリコール酸0.6%の水溶液は、結晶種の存在下又は非存在下のいずれにおいても、4℃で少なくとも2週間の貯蔵に対して安定である。
【0037】
例5
2−ジメチルアミノエタノールの塩酸塩の使用を超える利点を示すための比較例
クエン酸212部に代えて37%塩酸326部を用いて実施例1を繰り返す。そのように形成された(4)の水溶液は、結晶種の存在下で4℃における貯蔵に対し4日以内で沈殿を生ずる。
【0038】
例6
(CHCHCHOH対イオン(特開昭62−273266号公報の特許請求の範囲)を超える利点を示すための比較例
油(1990部)が最初に塩含有水性相から分離される点までは実施例1に従う。次いでこの油を、水2700部中に塩酸コリン309部が溶解している撹拌溶液中に注入する。1時間放置した後、下方の油相を分離し、そして水で希釈すると、次の式(5)で表される化合物22.4%を含む水溶液4400部が生成する。
【0039】
【化6】

【0040】
そのように形成された水溶液は、結晶種の存在下において4℃の貯蔵に対して4日以内に沈殿を生ずる。
【0041】
例7
(CHC(NH)CHOH対イオン(国際公開第2005/028749A1号パンフレットの特許請求の範囲)を超える利点を示すための比較例
最初の相から分離された油(1990部)を水(1570部)で希釈する点までは実施例1に従う。次いでそのように形成された溶液を、冷水30部中に2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール196部を溶かした溶液及びクエン酸127部で50℃において処理する。この混合物を10分間50℃で撹拌し、その後20℃に冷却する。1時間放置した後、下方の油相を分離し、そして水で5000部に希釈する。
【0042】
1時間放置した後、下方の油相を分離し、そして水で希釈し、次の式(6)で表される化合物22.0%を含有する水溶液4400部を生成させる。
【0043】
【化7】

【0044】
そのように形成された水溶液は、結晶種の存在下で、4℃における貯蔵に対して4日以内で沈殿を生ずる。
【0045】
例8
Na対イオンを超える利点を示すための比較例
最初の相から分離した油(1990部)を水(1570部)で希釈する点までは実施例1に従う。1時間放置した後、下方の油相を分離し、そして水で希釈すると式の(A、M=Na)で表される化合物20.3%を含有する水溶液4400部を生成される。
【0046】
そのように形成された水溶液は、室温に冷却されると沈殿する。
【0047】
応用例1
上記の実施例1から得られた生成物を、濃度0.2〜2重量%乾燥繊維の範囲で、20°SRのShopper Riegler湿潤度に打ち延ばした漂白されたスプルースの亜流酸塩セルロース(spruce sulphite cellulose)と漂白されたビーチの亜硫酸塩セルロース(beech sulphite cellulose)の50:50の混合物の2.5%水性懸濁液200部に加える。懸濁液を5分間撹拌し、その後1000部に希釈する。次いで、ワイヤーメッシュを介して懸濁液を圧伸成形(drawing)によって紙シートを作製する。プレスしてそして乾燥させた後、紙は、ミノルタCM−700d分光光度計で白色度が測定される。
【0048】
【表1】

【0049】
表1の結果は本発明の化合物によってもたらされる優れた増白効果を明白に示している。
【0050】
応用例2
チョーク(OMYAから商品名Hydrocarb 90で市場から入手可能)500部、クレイ(IMERYSから商品名Kaolin SPSで市場から入手可能)500部、水470部、分散剤(BASFから商品名Polysalz Sの下で市場から入手可能なポリアクリル酸のナトリウム塩)6部、ラテックス(BASFから商品名Acronal S320Dで市場から入手可能なアクリルエステルコポリマー)200部、ポリビニルアルコール(クラレから商品名Mowiol 4−98の下で市場から入手可能)の10%水溶液40部、及びカルボキシメチルセルロース(Noviantから商品名Finnfix 5.0の下で市場から入手可能)の10%水溶液50部を含むコーティング組成物を製造する。固形分含有量を、水の添加によって60%に調整し、そしてpHは水酸化ナトリウムで8〜9に調整する。
【0051】
撹拌されたコーティング組成物に、上記の実施例1の生成物を0.5%濃度、1.0%濃度、及び1.5%濃度で添加する。その後増白されたコーティング組成物を、標準速度に設定し、そしてバーに標準負荷がかけられた自動ワイヤーバーアプリケーターを用いて、市販の75gsmの中性サイズ白色紙のベースシートに塗工する。被覆された紙は、それから高温空気流中で5分間乾燥される。乾燥した紙を測定状態にし、それから、目盛り付きのElrepho分光光度計でCIE白色度を測定する。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の結果は、本発明の化合物によってもたらされる優れた増白効果を明白に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)で表される化合物10〜40重量%、及びクエン酸、グリコール酸、酢酸又はギ酸から選択される有機酸0.05〜5重量%を含む水溶液。
【化1】

(式中、
Rは、水素又はメチル基であり、
は、Li、Na、又はKであり、
nは、1.5より小さいか又は1.5に等しい。)
【請求項2】
Rが、水素又はメチル基であり、
が、Naであり、そして
nが1.5より小さいか又は1.5に等しい、
前記の式(1)で表される化合物15〜35重量%、及びクエン酸0.1〜2重量%含む、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
Rが水素であり、
がNaであり、そして
nが1.5より小さいか又は1.5に等しい、
請求項2に記載の水溶液。
【請求項4】
Rが水素であり、
がNaであり、そして
nが1.2より小さいか又は同じ、
である、請求項3に記載の水溶液。
【請求項5】
担体、不凍液、脱泡剤、可溶化助剤、保存料、錯化剤の一種又は二種以上、並びに蛍光増白剤の製造中に形成される有機副生成物を付加的に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項6】
次の式(2)
【化2】

(式中、
Rは、水素又はメチル基である。)
で表される化合物を水溶液の形態を、混合塩の形態の式(1)(式中、スルホン酸基に関連するMイオンの少なくとも25%が、2−ジメチルアミノエタノール及び有機酸で処理することによって(CHNHCHCHOHイオンで置換されている)に転化される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶液の製造方法。
【請求項7】
テキスタイル、紙、ボール紙、及び不織布の蛍光増白のための請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶液の使用。
【請求項8】
パルプの水性懸濁液のための請求項7に記載の使用。
【請求項9】
− パルプ懸濁液を提供するステップ、
− 乾燥繊維に基づいて請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶液0.01〜2重量%を添加するステップ、
− 上記のパルプ懸濁液から紙シートを製造するステップ、
− 上記のシートをプレスし、そして乾燥するステップ、
を主要なステップとして含む、紙の増白方法。
【請求項10】
− チョーク又はその他の白色顔料、一種又は二種以上の分散剤、一次ラテックスバインダー及び任意の二次バインダー、及び任意のその他の添加剤を一緒に混合することによって水性コーティング組成物を製造するステップ、
− 乾燥顔料に基づいて請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶液0.01〜3重量%を添加するステップ、
− 紙シートに上記のコーティング組成物を塗工するステップ、
− 塗工された紙シートを乾燥するステップ、
を主要なステップとして含む、紙の増白方法。

【公表番号】特表2011−507988(P2011−507988A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537408(P2010−537408)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067070
【国際公開番号】WO2009/074548
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】