説明

蛍光検出デバイスおよび装置

【課題】 蛍光計測におけるS/B比向上に必要な励起光照射領域縮小化技術であるナノ開口照射検出方式において,励起光照射領域を含む反応槽内部の表面に凹凸があるため,前記領域の溶液交換効率が低下する。
【解決手段】 ナノ開口内部に光学的に透明な材質を充填し,励起光照射領域を含む反応槽内部の表面を平面にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDNA,RNA,又はタンパク質等の生体物質の計測,分析に使用される蛍光検出に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
DNAやタンパク質等の生体物質を計測する手段として,前記物質に蛍光体を標識して,前記蛍光体にレーザ等の励起光を照射して発生する蛍光を検出する方法が一般的である。従来の高感度蛍光検出のための照射検出方式として,例えば非特許文献1に記載の全反射エバネッセント照射検出方式がある。前記文献では,蛍光標識生体物質の単分子レベルの高感度イメージングを行っている。ガラス製のダブプリズムの底平面とガラス基板を平行かつ向かい合わせて配置することによって,それらの中間に反応槽を構成する。反応槽に溶液を充填することによって,ダブプリズムとガラス基板の間に溶液層が形成され,ダブプリズムと溶液層の境界に屈折率境界平面(ダブプリズムの底平面と同一)が形成される。反応槽には溶液の注入口と排出口があり,注入口から溶液を注入し,排出口から溶液を排出させることで,溶液を屈折率境界平面と平行方向にフローさせることが出来る。これにより,溶液層の溶液を任意の組成に交換することが可能である。励起光としてアルゴンイオンレーザ(514.5 nm)およびHe-Neレーザ(632.8 nm)のビームを,ガラス基板と反対側より,ダブプリズムを通して,屈折率境界平面に対して入射角68°程度で導入し,レーザビームを屈折率境界平面で全反射させる。この際,屈折率境界平面近傍の溶液層に,励起光のエバネッセント場が形成され,それ以上先に溶液層内部を励起光が伝播することはない。一方,発光蛍光は,ガラス基板を挟んでダブプリズムと反対側から,屈折率境界平面に対して垂直方向より,対物レンズ(x100,NA1.40)を用いて2次元検出器であるCCD上に結像することによって検出される。エバネッセント場では,励起光強度が屈折率境界平面から離れるに従って指数関数的に減衰し,屈折率境界平面から150 nm程度の距離で励起光強度が1/eとなるため,落射蛍光検出方式と比較して励起光照射体積および蛍光検出体積を大幅に低減することができ,遊離の蛍光体の蛍光発光や水のラマン散乱を始めとする背景光を飛躍的に低減することが可能となる。ここで,励起光照射体積の内,検出器で検出される部分の体積を蛍光検出体積と呼ぶ。計測対象となる蛍光標識物質を屈折率境界平面上に固定化することによって,蛍光標識物質のブラウン運動等による位置移動を回避出来るだけでなく,蛍光標識物質の位置を励起光照射領域内に安定的に維持することが可能である。以上の結果,蛍光検出感度が飛躍的に向上し,溶液中での単一蛍光体のイメージングが可能になっている。本文献では,以上の蛍光検出方式をミオシン分子によるATP加水分解速度計測に応用している。屈折率境界平面上の溶液層側に単一のミオシン分子を固定化し,溶液中に蛍光体Cy3一分子で標識されたATPを溶液交換によって一定濃度になるように導入すると,単一の蛍光標識ATP分子がミオシン分子に結合する。やがて,蛍光標識ATP分子はミオシン分子の酵素作用によって蛍光標識ADP分子と無機リン酸分子に分解され,ミオシン分子から遊離される。上記のプロセスにおいて,蛍光標識ATP分子がミオシン分子に結合している状態の場合に限り,蛍光体がエバネッセント場に存在し,ミオシン分子の結合位置に蛍光が検出されるため,蛍光検出される時間幅からミオシン分子によるATP加水分解速度を求めることが可能となる。
【0003】
非特許文献2では,前記全反射エバネッセント照射検出方式を用いた単分子レベルのDNAシーケンシングを行っている。レーザとして波長532 nmおよび635 nmを用い,それぞれ蛍光体Cy3および蛍光体Cy5の蛍光検出に用いている。屈折率境界平面上の溶液層側に,単一のターゲットDNA分子をビオチン−アビジンのタンパク質結合を利用して固定化し,溶液中にCy3一分子で標識されたプライマを溶液交換によって一定濃度になるように導入すると,単一の蛍光標識プライマ分子がターゲットDNA分子にハイブリダイズする。この時,Cy3はエバネッセント場に存在するため,ターゲットDNA分子の結合位置を蛍光検出によって確認することができる。確認後,Cy3を励起光を高出力で照射することによって蛍光退色させ,以降の蛍光発光を抑制する。次に,溶液中に,ポリメラーゼ,およびCy5一分子で標識された一種類の塩基のdNTP(NはA,C,G,Tのいずれか)を,溶液交換によってそれぞれ一定濃度になるように導入すると,ターゲットDNA分子に対して相補関係である場合に限り,蛍光標識dNTP分子がプライマ分子の伸長鎖に取り込まれる。この時,Cy5はエバネッセント場に存在するため,ターゲットDNA分子の結合位置における蛍光検出によって相補関係を確認することができる。確認後,Cy5を励起光を高出力で照射することによって蛍光退色させ,以降の蛍光発光を抑制する。以上のdNTPの取り込み反応プロセスを,塩基の種類を例えばA→C→G→T→A→のように順次段階的に繰り返すことによって(段階的伸長反応),ターゲットDNA分子と相補関係にある塩基配列を決定することが可能である。また,蛍光検出イメージの同一視野内に複数のターゲットDNA分子を固定化し,上記のdNTPの取り込み反応プロセスを並列処理することによって,複数のターゲットDNA分子の同時DNAシーケンシングが可能となる。
【0004】
一方,非特許文献3および特許文献1では,全反射エバネッセント照射検出方式よりも励起光照射体積の一層の低減が可能となるナノ開口エバネッセント照射検出方式によって,蛍光検出の感度を更に向上させている。2枚のガラス基板,ガラス基板Aとガラス基板Bを平行に配置し,ガラス基板Aのガラス基板Bと対面する側の表面に,径50 nmのナノ開口を有する膜厚約100 nmの平面状のアルミニウム薄膜を積層する。アルミニウム薄膜は遮光性能を有している必要がある。2枚のガラス基板の中間に反応槽を構成し,反応槽に溶液を充填することによって,2枚のガラス基板の間に溶液層を形成する。反応槽には溶液の注入口と排出口があり,注入口から溶液を注入し,排出口から溶液を排出させることで,溶液をガラス基板およびアルミニウム薄膜と平行方向にフローさせることが出来る。これにより,溶液層の溶液を任意の組成に交換することが可能である。Ar-ionレーザから発振した波長488 nmの励起光を,ガラス基板Bと反対方向より,ガラス基板Aに対して垂直に,対物レンズで絞って照射すると,ナノ開口内部の底平面近傍の溶液層に励起光のエバネッセント場が形成され,それ以上先に溶液層内部を励起光が伝播することはない。一方,発光蛍光は,ガラス基板Bと反対方向より,ガラス基板Aに対して垂直方向より,前記対物レンズを用いて2次元CCD上に結像することによって検出される。エバネッセント場では,励起光強度がナノ開口底平面から離れるに従って指数関数的に減衰し,ナノ開口底平面から30 nm程度の距離で励起光強度が1/10となる。更に,ナノ開口エバネッセント照射検出方式では,全反射エバネッセント照射検出法と異なり,ガラス基板と平行方向の励起光照射幅が開口径すなわち50 nmに限定されるため,励起光照射体積が一層低減される。このため,遊離の蛍光体の蛍光発光や水のラマン散乱を始めとする背景光を飛躍的に低減することが可能となる。その結果,より高濃度の遊離の蛍光体存在下で,対象とする生体分子に標識された蛍光体だけを選択的に検出することが可能となり,非常に高感度な蛍光検出を実現できる。本文献では,以上の蛍光検出方式をDNA分子の伸長反応によるdNTPの取り込み計測に応用している。
【0005】
以降では,非特許文献3および特許文献1におけるナノ開口の底平面や,非特許文献1および非特許文献2における屈折率境界平面のように,エバネッセント場が開始される平面をエバネッセント場境界平面と呼ぶことにする。
【0006】
【非特許文献1】Nature 1995, Vol. 374, pp. 555-559.
【非特許文献2】PNAS 2003, Vol. 100, pp. 3960-3964.
【非特許文献3】SCIENCE 2003, Vol.299, pp. 682-686.
【非特許文献4】PNAS 2005, Vol. 102, pp. 5932-5937
【特許文献1】米国特許第6917726B2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に蛍光標識された生体物質を単分子レベルで高感度に計測するためには,励起光照射体積を縮小することによって背景光を低減することが有効である。しかし,計測対象ではない蛍光性物質や発光性物質が蛍光検出領域に侵入すると,その発光蛍光は検出されてしまう。特に,遊離の蛍光体や試料溶液中の不純物質等が,エバネッセント場境界平面上に非特異的に吸着すると,これらの非特異吸着物質からの発光蛍光や散乱光と,計測対象からの発光蛍光との区別が困難になり,蛍光検出における背景光が増大する。これは,蛍光検出感度の低下や分析精度の低下を引き起こす。単分子レベルの高感度計測を行なっているため,非特異吸着物質からの発光蛍光や散乱光が微弱であったとしても,その影響は大きい。これらの非特異吸着は,基板表面のコーティング等によってある程度防止することが可能であるが,完全に回避することは不可能である。引用文献では,非特異吸着が存在しない条件に精密に制御しているが,一般的な分析において,そのような制御を行なうことはコストやスループットの点から現実的ではない。
【0008】
非特異吸着の問題は全反射エバネッセント照射検出方式において特に深刻である。全反射エバネッセント照射検出方式の蛍光検出領域は,エバネッセント場境界平面と垂直方向(蛍光検出光軸方向)には限定されているが,エバネッセント場境界平面と平行方向(蛍光検出光軸と垂直方向)には限定されていないためである。つまり,蛍光検出における蛍光検出光軸と垂直方向の空間分解能が低いため,非特異吸着の影響がその分だけ大きくなる。この空間分解能は,最も理想的な場合で回折限界0.61×λ÷NA(λは波長,NAは対物レンズの開口数,非特許文献1の場合:>224 nm)のレベルであるが,実際にはレンズの収差の影響で,視野全体の分解能は500 nm以上となる。エバネッセント場境界平面上の計測対象物質の固定化位置を制御出来た場合であっても,検出器上で,計測対象物質からの発光の信号に対して,計測対象物質の近傍に固定化された非特異吸着物質からの発光が背景光として重畳されることになる。
【0009】
これに対して,ナノ開口エバネッセント照射検出方式では,蛍光検出光軸方向だけでなく,蛍光検出光軸と垂直方向の励起光照射領域を回折限界レベル以下に制御することができるため,非特異吸着物質からの背景光の影響を低減することが可能である。ナノ開口内部のエバネッセント場中への計測対象物質の固定が制御出来れば,この微小な励起光照射領域に非特異吸着が生じる可能性は全反射エバネッセント照射検出法と比較してかなり低くなる。ナノ開口外部のアルミニウム薄膜表面上に非特異吸着がどれだけ多く生じたとしても,その位置に励起光は存在しないため,蛍光検出への影響は生じない。
【0010】
しかしながら,ナノ開口エバネッセント照射検出方式には異なる問題がある。従来の技術で説明した通り,単分子レベルの高感度な蛍光検出を生体物質の分析に応用する場合,計測下にある生体物質を含む溶液を交換するプロセスが非常に重要である。ところが,ナノ開口エバネッセント照射検出方式で用いるアルミニウム薄膜は表面にナノ開口による凹部を有しているため,上記の溶液交換の効率が低下する。溶液交換時における反応槽内壁の表面近傍の流速はゼロである。そのため,表面近傍の溶液は物質の拡散によって交換されるが,溶液中の物質が表面へ吸着が律速となり,表面近傍の溶液交換速度は物質の拡散から求められる値よりも遅くなる。表面に凹部が存在する場合の凹部内部の溶液交換速度は,凹部の底面の表面だけでなく,凹部の側面の表面への物質吸着に影響されるため,表面に凹部が存在しない場合の表面近傍の溶液交換速度と比較して一桁程度遅くなる。従って,DNAシーケンシングのように複数回の溶液交換を要する分析への応用が困難となる。また,特定の分子種を瞬時に一定濃度にすることによって引き起こされる反応過程を追うような分析にも応用することが出来なくなる。
【0011】
その他の課題として,単分子レベルの蛍光検出では,計測対象物質からの蛍光信号の絶対量が不十分であることが挙げられる。引用文献のように,計測対象分子に単一の蛍光体を標識して蛍光検出する場合,上述した非特異吸着の問題がなかったとしても,蛍光検出のS/N比またはS/B比は十分高いとは言えない。特に,このような蛍光検出を一般的な分析に応用する場合,十分な精度や信頼性が得られない問題を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0012】
全反射エバネッセント照射検出方式を用いる場合,エバネッセント場境界平面に固定化された計測対象物質からの発光蛍光だけが選択的に蛍光検出器に入射するようなマスクを設けることによって,エバネッセント場境界平面に非特異吸着した物質からの発光を遮断することが可能である。例えば,非特許文献1の装置構成に加えて,対物レンズで結像した励起光照射領域のイメージの位置に,ピンホールを有する遮光板を配置し,ピンホールを通過した蛍光を結像レンズを用いて2次元蛍光検出器上に再度結像することが考えられる。この際,ピンホールの位置は計測対象物質の結像位置と一致させる。像倍率とピンホールの径の関係を調節することにより,蛍光検出における蛍光検出光軸と垂直方向の空間分解能を任意に設定することが出来る。エバネッセント場境界平面に複数の計測対象物質が固定化され,これらを並列に蛍光検出する場合は,遮光板に設けるピンホールの数を対応させて増やせば良い。別な例としては,非特許文献1の装置構成に加えて,ダブプリズムと反対側のガラス基板表面上に上記と同様のピンホール付の遮光板を積層しても同様の効果が得られる。この際,ピンホールの位置は,計測対象物質の固定化位置から蛍光検出光軸方向に延ばした直線と遮光板の交点と一致させる。計測対象物質からの蛍光検出と非特異吸着物質からの蛍光遮断の両者の効率を高くするためには,ダブプリズムとガラス基板の間隔,ガラス基板と遮光板の厚さは,いずれも出来る限り小さくすること必要である。
【0013】
全反射エバネッセント照射検出方式を用いて非特異吸着の影響を低減する別な方法として以下が考えられる。非特許文献1の装置構成に加えて,ダブプリズムの底平面上に,ピンホール付の遮光板および薄層ガラス基板を,この順番で積層する。この際,ダブプリズムと遮光板,および遮光板と薄層ガラスの間を光学的に結合させるため,それぞれの間を屈折率がガラスと同等のマッチング溶液で満たす。遮光板に設けられたピンホールの中にもマッチング溶液が満たされるようにする。また,反応槽および溶液層は薄膜ガラス基板とガラス基板の間に形成され,薄膜ガラス基板のダブプリズムと反対側の表面がエバネッセント場境界平面となり,この平面上に計測対象物質が固定化される。ピンホールの位置は,計測対象物質の固定化位置から蛍光検出光軸方向に延ばした直線と遮光板の交点と一致させる。このような装置構成にすることによって,エバネッセント場境界平面上で,計測対象物質が固定化されている位置だけが励起光照射領域となり,その他の部分は励起光の照射を受けないため,非特異吸着が発生しても蛍光検出への影響を低減することが出来る。ただし,ピンホールのサイズがある程度小さくなると,レーザビームが遮光板のピンホール中の内壁に衝突し,レーザビームが計測対象物質の固定化される平面まで到達せず,エバネッセント場が形成されない場合がある。この問題を回避するためには,ピンホールにテーパーを設けるなど,レーザビームの進行路を確保するために遮光板に加工を加える必要がある。
【0014】
以上の解決手段は,簡単のため,非特許文献1の装置構成を基準として説明したが,必ずしもその必要はない。
次に,ナノ開口エバネッセント照射検出方式を用いて非特異吸着の影響を低減しながら,同時に溶液交換の効率を向上する手段を説明する。非特許文献3の装置構成に対して,以下の変更を加える。アルミニウム薄膜の膜厚を100 nmから200 nmに拡大し,アルミニウム薄膜上に設けられたナノ開口の径を50 nmから100 nmに拡大する。また,ナノ開口の凹部をガラス材質のような透明な固相媒質で充填し,固相媒質の溶液層側の表面(以降では単に「固相媒質表面」と呼ぶ)と,アルミニウム薄膜の溶液層側の表面(以降では単に「アルミニウム薄膜表面」と呼ぶ)が,ほぼ同一平面となるようにする。更に,固相媒質表面に計測対象物質を固定化する。固相媒質には気泡や液泡等が含まれないようにする。この時,ガラス基板Bと反対方向より,ガラス基板Aに対して垂直に照射された励起光は,ナノ開口内部を透過し,固相媒質表面より溶液層側にエバネッセント場を形成し,それより先の溶液層に励起光は伝播しない。つまり,固相媒質表面がエバネッセント場境界平面となる。蛍光検出光軸方向の励起光強度は固相媒質表面から離れるに従って指数関数的に減衰するのに対し,蛍光検出光軸と垂直方向の励起光照射領域は固相媒質表面近傍にのみ局在する。ナノ開口の径,アルミニウム薄膜の厚さ,固相媒質の屈折率などを変化させることによって,励起光強度分布を制御することが可能である。以上の手段により,アルミニウム薄膜表面上で固相媒質表面から外れた位置に固定化された非特異吸着物質は励起光照射を受けないため,計測対象物質の蛍光検出に対する影響を低減することが出来る。加えて,反応槽内部の表面が平面になっているため,励起光照射領域の溶液交換を効率良く行えることが可能である。別な方法として,ナノ開口の凹部を透明な固相媒質で充填する代わりに,アルミニウム薄膜上にガラス薄膜を積層しても同様の効果が得られる。この場合,ナノ開口内部は気相媒質でも良いし,他の透明な液相媒質,固相媒質で充填しても構わない。ガラス薄膜の膜厚は励起光波長以下に薄くするのが良く,計測対象物質の固定化位置はナノ開口の位置から蛍光検出光軸方向に延ばした直線とガラス薄膜の交点とするのが良い。
【0015】
以上の解決手段は,簡単のため,非特許文献3の装置構成を基準として説明したが,必ずしもその必要はない。
【0016】
蛍光標識された計測対象物質からの蛍光信号の絶対量を増大させる手段として,以下のような励起光増強法が有効である。計測対象物質を直接エバネッセント場境界平面に固定化するのではなく,計測対象物質を金属微粒子に固定化し,その金属微粒子をエバネッセント場境界平面に固定化する。金属微粒子のサイズは励起光波長以下が良い。励起光を金属微粒子に照射すると,その近傍に表面プラズモン共鳴により励起光増強場が形成されるため,金属微粒子に固定化された蛍光標識分子からの発光蛍光の絶対量は大幅に増大する。本手段を,上記で説明した非特異吸着の影響低減法や溶液交換効率向上法と組み合わせることによって,より高感度な蛍光検出法を実現可能である。
【0017】
上記で説明した手段は,ピンホールやナノ開口が1個の場合についてであったが,複数のピンホールやナノ開口を設け,同様の手段によって複数の計測対象物質の計測,分析を一度に行うことが可能である。これらの解決手段は,蛍光検出を用いたあらゆる分析に応用することが可能であるが,特に,段階的伸長反応を用いたDNAシーケンシングの並列処理に有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,励起光照射領域を大幅に小さくすることができるため,背景光を非常に低く抑えることが可能となる。また,前記領域を含む反応槽内部の表面が平面になるため,前記領域の溶液交換を効率良く行える。さらに,金属微粒子を加えることで,表面プラズモン共鳴による励起光増強場を形成させ,蛍光発光強度の絶対値を大幅に増大させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
(実施例1)
図1に,従来法に従ったナノ開口エバネッセント照射検出方式による分析用のシステムの概観を示す。本実施例では,前記システムを用いた段階的伸長反応によるDNAシーケンシングを行う。本システムは,照射部,チップおよびチャンバ部,検出部の3つの構成から成る。
【0020】
チップは,石英ガラスなどの光学的に透明な基板301,基板301上に形成された遮光性薄膜302,遮光性薄膜302に形成されたナノ開口303から構成される。チップは以下の工程で作製する。まず,基板301にアルミニウムを200 nmの厚さになるよう蒸着して遮光性薄膜302とする。アルミニウム以外の材質として,銀,金,クロム,炭化シリコンなどを用いて遮光性薄膜としても良い。遮光性薄膜302上に,Electron beam lithography技術により径50 nmのナノ開口303を1 μmの間隔で複数形成する。前記ナノ開口は,貫通穴でも良いし,基板301にわずかな厚さの膜が残った状態であっても良い。ナノ開口303の底面に,単分子のビオチンを固定しておく。
【0021】
チャンバ部は,カバープレート304と検出窓305と溶液交換用口である注入口306と排出口307から構成される。カバープレート304の材質として,アクリル樹脂を使用した。検出窓305は,光学的に透明な材質が望ましく,ここでは,石英ガラス性のカバーガラスを使用した。検出窓305の厚さは0.17 mmとした。サンプル溶液等が流れる流路309から溶液が漏れないように,チャンバ部とチップ間にOリングを用いて密着させた。
【0022】
YAGレーザ光源(波長355 nm,出力20 mW)103およびYAGレーザ光源(波長532 nm,出力20 mW)101から発振するレーザ光105および104を,レーザ光104のみをλ/4板102によって円偏光し,ダイクロイックミラー106(410 nm以下を反射)によって,前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整し,ミラー107によってチップに対しほぼ垂直に入射できるよう入射角および位置を調整し,レンズ108によって集光し,チップの下方よりナノ開口303へ照射する。
【0023】
レーザ照射により,ナノ開口303内に存在する試料に標識された蛍光体が励起され,その蛍光の一部は検出窓305を介して出射される。検出窓305より出射される蛍光は,対物レンズ201(×60,NA1.35,作動距離0.15 mm)により平行光束とされ,光学フィルタ202により背景光及び励起光が遮断され,結像レンズ203により2次元CCDカメラ204上に結像される。対物レンズ201と検出窓305の隙間にはイマージョンオイル308が満たされている。
【0024】
以下,図2を用いて段階的伸長反応の工程を説明する。反応工程は非特許文献2および非特許文献4に則って行った。ストレプトアビジンを加えたバッファを注入口306より流路309に導入し,ストレプトアビジン402をナノ開口303の底面310に固定されているビオチン401に結合させ,ビオチン−アビジン複合体をナノ開口底面310に形成させる(図2(a))。ビオチン修飾したターゲットである一本鎖鋳型DNA403にプライマ404をハイブリさせ,前記鋳型DNA-プライマ複合体と大過剰のビオチン405を加えたバッファを流路309へ導入し,ビオチン-アビジン結合を介して,単分子の前記鋳型DNA-プライマ複合体をナノ開口底面310に固定する(図2(b))。固定反応後に,余剰な鋳型DNA-プライマ複合体およびビオチン405を洗浄用バッファにて流路309より洗い流した。次に,蛍光体R6Gで標識された3'末端がアリル基で修飾されたdATP(3'-O-allyl-dATP-PC-R6G)406およびThermo Sequenaseポリメラーゼ411を加えたThermo Sequenase Reactionバッファを注入口306より流路309へ導入し,伸長反応を行った。この時,プライマ404の3'末端の塩基の次に位置するところの相補的な位置にある一本鎖鋳型DNA403の配列上の塩基がTであった場合,前記dATP406はポリメラーゼ伸長反応によって前記鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれる。また,dATP406の3'末端はアリル基で修飾されているため,前記鋳型DNA-プライマ複合体に1塩基以上取込まれることはない。伸長反応後,未反応のdATP406とポリメラーゼ411を洗浄用バッファで流路309から洗い流し,YAGレーザ光源101より発振するレーザ光104をチップへ照射し,蛍光検出を行う(図2(d))。この時,各ナノ開口部の蛍光の有無によりdATPがナノ開口内の鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたかを判断する。次に,YAGレーザ光源103より発振するレーザ光105をチップへ照射し,前記複合体に取込まれたdATP406に標識された蛍光体407を光切断により取除く(図2(e))。次いで,パラジウムを含んだ溶液408を流路309内に導入し,パラジウム触媒反応により,前記複合体に取込まれたdATPの3'末端のアリル基を水酸基に変える(図2(f))。前記3'末端のアリル基を水酸基に変えることにより,前記鋳型DNA-プライマ複合体の伸長反応が再開可能となる。前記触媒反応後に,洗浄用バッファにて流路309を洗浄する。図2(c)から前記洗浄までのプロセスを各dNTP,つまり,A→C→G→T→A→と繰返すことにより,ナノ開口底面310に固定された一本鎖鋳型DNA403の配列を決定する。本システムでは,複数のナノ開口底面310からの発光を同時計測できるため,各ナノ開口底面310にそれぞれ異なる鋳型DNAを固定した場合,前記複数の異なる鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたdNTPの塩基種を,つまり複数の鋳型DNAの配列を同時に決定できる。
【0025】
図3にチップのナノ開口周辺の拡大図を示す。ガラス基板301下方よりレーザ光104を入射すると,ナノ開口303内部でレーザ光の染み出し光であるエバネッセント場109が発生する。励起光強度は,ナノ開口底面から離れるに従って指数関数的に減少するため,ナノ開口より上方には励起光は存在しない。また,蛍光検出光軸と垂直方向においてナノ開口外部に励起光は伝播されないため,遮光性薄膜302に非特異吸着した蛍光体409は励起されない。そのため,背景光の上昇を抑えることが可能となり,ナノ開口303底面310に固定された鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたdNTPに標識された蛍光体410を高感度に検出することができる。
【0026】
図1および図3に示した構成では,ナノ開口内に鋳型DNA-プライマを固定しているため,開口側面の表面への物質吸着の影響により,前記鋳型DNA-プライマ周辺の洗浄液や反応溶液の交換に要する時間が非常に長くなる。そこで,前記側面を無くし,洗浄液および反応溶液の交換時間を大幅に短縮可能な構成を用いたチップの拡大図を図4に示す。チップ以外の構成は図1と同等である。チップは以下の工程で作製する。まず,基板301にアルミニウムを200 nmの厚さになるよう蒸着して遮光性薄膜302とする。アルミニウム以外の材質として,銀,金,クロム,炭化シリコンなどを用いて遮光性薄膜としても良い。遮光性薄膜302上に,Electron beam lithography技術により径100 nmのナノ開口303を1 μmの間隔で複数形成する。次に,ナノ開口303内にSiO2を蒸着により,遮光性薄膜302の高さ(ここでは,200 nm)以上まで充填する。SiO2充填後に,遮光性薄膜302と等しい高さになるまで,余剰のSiO2固相媒質を研磨し,SiO2固相媒質312の溶液層側表面(以下,固相媒質表面311)と遮光性薄膜302の溶液層側表面が,ほぼ同一平面になるように,つまり,流路309にて形成される反応槽内壁の表面を平面にする。以上の工程により形成する各固相媒質表面311に一分子のビオチンを修飾する。ストレプトアビジンの固定および段階的伸長反応の工程は前記と同等である。ガラス基板301下方よりレーザ光104を入射すると,固相媒質表面311近傍にのみ染み出し光であるエバネッセント場110が発生する。励起光強度は,固相媒質表面311から離れるに従って指数関数的に減少するため,蛍光検出光軸方向において固相媒質表面311極近傍のみにしか励起光は存在しない。また,蛍光検出光軸と垂直方向の励起光照射領域は固相媒質表面311近傍にのみ局在するため,遮光性薄膜302の溶液層表面上で固相媒質表面311から離れた位置に固定化された非特異吸着の蛍光体409は励起されない。そのため,図3と同様に,背景光の上昇を抑えることが可能となり,固相媒質表面311に固定された鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたdNTPに標識された蛍光体410を高感度に検出することができる。また,本発明では,流路309にて形成される反応槽内壁の表面を平面にすることができるため,励起光照射領域の溶液交換を図3で示した構成よりも非常に効率よく行うことが可能となる。
(実施例2)
図5に本発明の第2の実施例の構成を示す。本実施例では,4種の蛍光体を用いた段階的伸長反応によるDNAシーケンシングを行う。チャンバ部の構成は図1,チップの構成は図4と同等である。
【0027】
YAGレーザ光源(波長355 nm,出力20 mW)111,Ar-ionレーザ光源(波長488 nm,出力20 mW)112,YAGレーザ光源(波長532 nm,出力20 mW)113,He-Neレーザ光源(波長594 nm,出力20 mW)114のそれぞれから発振するレーザ光を,YAGレーザ光源111からのレーザ光以外をλ/4板102によって円偏光し,ダイクロイックミラー115(555 nm以下を反射),116(520 nm以下を反射),117(410 nm以下を反射)によって,すべてのレーザ光の光軸が同軸となるよう調整し,ミラー107によってチップに対しほぼ垂直に入射できるよう入射角および位置を調整し,レンズ108によって集光し,チップの下方より固相媒質表面311へ照射する。
【0028】
レーザ照射によりナノ開口303内にSiO2を充填して形成された固相媒質表面311に存在する蛍光体410が励起され,その蛍光の一部は検出窓305を介してチャンバ部外へ射出される。検出窓305より射出した蛍光は,対物レンズ(×60,NA1.35,作動距離0.15 mm)により平行光束とされ,バンドパスフィルタ206(520 nmから650 nmを透過),ノッチフィルタ207(カット中心波長532 nm,半値幅14 nm)およびノッチフィルタ208(カット中心波長594 nm,半値幅22 nm)により不要な励起光および背蛍光が遮断され,プリズム205によって波長分散され,結像レンズ203により2次元CCDカメラ204上に結像される。ここで,発光点である複数の固相媒質表面311からの蛍光が波長分散された像は,2次元CCDカメラ204上の異なる位置に結像するようにする。これにより,各発光点からの蛍光を独立かつ一括して検出できるようになる。なお,対物レンズ201と検出窓305の隙間にはイマージョンオイル308が満たされている。
【0029】
段階的伸長反応の工程を以下に示す。鋳型DNA-プライマ複合体を固相媒質表面311に固定する工程までは,実施例1と同等である。それぞれ異なる4種の蛍光体で標識された3'末端がアリル基で修飾された4種のdNTP(3'-O-allyl-dGTP-PC-Bodipy-FL-510, 3'-O-allyl-dTTP-PC-R6G, 3'-O-allyl-dATP-PC-ROX, 3'-O-allyl-dCTP-PC-Bodipy-650)およびThermo Sequenaseポリメラーゼを加えたThermo Sequenase Reactionバッファを注入口306より流路309へ導入し,伸長反応を行った。伸長反応後,未反応の各種dNTPおよびポリメラーゼを洗浄用バッファで洗い流し,Ar-ionレーザ光源112,YAGレーザ光源113,He-Neレーザ光源114のそれぞれの光源から発振するレーザ光を同時にチップに照射する。レーザ照射により鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたdNTPに標識された蛍光体を励起し,そこから発する蛍光を検出する。この時,実施例1でも述べたように,固相媒質表面311近傍のみが励起光照射領域となるため,前記表面以外の領域に存在する蛍光体を励起することは無いため,背景光が従来の全反射エバネッセント照射検出方式に比べて大幅に低減される。鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたdNTPに標識された蛍光体の蛍光波長を特定することにより,前記dNTPの塩基種を特定できる。以下,蛍光体の光切断および各種dNTPの3'末端のアリル基を水酸基に変える工程は実施例1と同等である。本システムでは,複数の固相媒質表面311からの発光を同時計測できるため,各固相媒質表面311にそれぞれ異なる鋳型DNAを固定した場合,前記複数の異なる鋳型DNA-プライマ複合体に取込まれたdNTPの塩基種を,つまり複数の鋳型DNAの配列を同時に決定できる。
【0030】
実施例1では,複数の鋳型DNAの1塩基を決定するためには,「dNTPおよびポリメラーゼを流路309に導入→伸長反応→洗浄→蛍光計測→蛍光切断→3'末端の水酸基化→洗浄」の一連のシーケンスを4種のdNTP,つまり4回行う必要がある。本システムのように検出部内に分光素子を用いることで,4種のdNTPを同時に流路309内に流して伸長反応を行うことが可能なため,複数の鋳型DNAの1塩基を決定するために必要な前記一連のシーケンスの回数は1回で良い。そのため,本実施例におけるDNAシーケンシングに要する時間は,実施例1に比べ1/4程度短縮できる。
(実施例3)
本実施例では,実施例2とは別の方法で,複数の蛍光体を同時に検出することを目的とする。
【0031】
装置構成は,検出部以外実施例2と同等である。また,段階的伸長反応の工程も実施例2と同等である。図6に本実施例の検出部を示す。チャンバ部外へ射出した蛍光は,対物レンズ201(NA1.35,作動距離0.15 mm)により平行光束とされる。波長525 nm以下のの蛍光の場合,前記平行光束された蛍光は,ダイクロイックミラー209(波長590 nm以下を反射),210(波長525 nm以下反射)によって,波長525 nm以上の背景光および励起光が除外され,結像レンズ212方向に導かれ,結像レンズ212によって2次元CCDカメラ216上に結像される。波長525 nm以上590 nm以下の蛍光の場合,前記平行光束された蛍光は,ダイクロイックミラー209,210によって,波長525 nm以下と波長590 nm以上の背景光および励起光が除外され,結像レンズ213方向に導かれ,結像レンズ213によって2次元CCDカメラ217上に結像される。波長590 nm以上630 nm以下の蛍光の場合,前記平行光束された蛍光は,ダイクロイックミラー209,211(波長630 nm以下反射)によって,波長590 nm以下と波長630 nm以上の背景光および励起光が除外され,結像レンズ214方向に導かれ,ノッチフィルタ208(カット中心波長594 nm,半値幅22 nm)によって波長594 nmの光が除外され,結像レンズ214によって2次元CCDカメラ218上に結像される。波長630 nm以上の蛍光の場合,前記平行光束された蛍光は,ダイクロイックミラー209,211によって,波長630 nm以下の背景光および励起光が除外され,結像レンズ215方向に導かれ,結像レンズ215によって2次元CCDカメラ219上に結像される。本実施例では,結像レンズ212,213,214,215はすべて同一のものを使用したが,必ずしも同じである必要はない。2次元CCDカメラ216,217,218,219はすべて同一のものを使用したが,必ずしも同じである必要はない。また,2次元CCDカメラの数は,使用する(計測する)蛍光体の種類数と同等以上である必要がある。チップ上のある一つの輝点(本実施例では,固相媒質表面311)から発した光が結像された2次元CCDカメラ上のピクセル位置は,4つすべてのCCDで同一ピクセルになるように各2次元CCDカメラの位置を調整しておく。以上の装置構成により,蛍光計測時に各CCDの同一輝点の結像位置のピクセル値を比較することで,前記輝点の蛍光種を決定できる。そのため,本実施例におけるDNAシーケンシングに要する時間は,実施例2と同様に,実施例1に比べ1/4程度短縮できる。実施例2では,前記一つの輝点から発せられた蛍光は,波長分散され,2次元CCDカメラの複数のピクセルにまたがって結像される。一方,本実施例では,一つの輝点から発せられた蛍光を2次元CCDカメラの一つのピクセルに結像することが可能となるため,実施例2に比べて高感度になる可能性がある。
(実施例4)
本実施例では,蛍光標識された計測対象物質からの蛍光信号の絶対量を増大させることを目的とする。
【0032】
検出装置構成について,照射部,チャンバ部,検出部は図1と同等であり,チップは図4と同等である。段階的伸長反応の工程については,ターゲットである一本鎖鋳型DNAのチップへの固定方法以外は,実施例1と同等である。
【0033】
以下に一本鎖鋳型DNAのチップへの固定方法を示す。ターゲットである一本鎖鋳型DNAの3'末端側に25塩基の既知配列であるオリゴを介して,アルカンチオールを結合させ,前記鋳型DNAアルカンチオール複合体と直径50 nmの金微粒子と大過剰のカルボキシル基を持ったアルカンチオールを混合し,各金微粒子に異なる単分子の一本鎖鋳型DNAを固定する。この際,各金微粒子表面には単分子の一本鎖鋳型DNA以外にアルカンチオールを介して複数のカルボキシル基が結合されている。金微粒子に固定されなかったフリーの鋳型DNAアルカンチオール複合体とカルボキシル基を持ったアルカンチオールを遠心分離等により除去する。次に,前記鋳型DNAが固定された金微粒子とEDCおよびNHSを反応させ,金微粒子表面のカルボキシル基をNHSエステル化する。次に,シランカップリングを用いてチップの固相媒質表面311にアミノ基を導入する。流路309内に希薄濃度の前記鋳型DNAが固定された金微粒子を導入し,固相媒質表面311上のアミノ基とNHSエステルを反応させ,固相媒質表面311に単分子の前記鋳型DNAが固定された金微粒子を固定する。以上の工程により,ターゲットである一本鎖鋳型DNAをチップへ固定する。
【0034】
図7にチップのナノ開口周辺の拡大図を示す。ガラス基板301下方よりレーザ光104入射すると,固相媒質表面311近傍にのみ染み出し光であるエバネッセント場110が発生する。励起光強度は,固相媒質表面311から離れるに従って指数関数的に減少するため,蛍光検出光軸方向において固相媒質表面311極近傍のみにしか励起光は存在しない。また,蛍光検出光軸と垂直方向の励起光照射領域は固相媒質表面311近傍にのみ局在するため,遮光性薄膜302の溶液層表面上で固相媒質表面311から離れた位置に固定化された非特異吸着の蛍光体409は励起されない。そのため,図4と同様に,背景光の上昇を抑えることが可能となる。前記,鋳型DNAが固定された金属微粒子は,エバネッセント場110内に固定されている。エバネッセント場により,金属微粒子118周辺極近傍に表面プラズモン共鳴により励起光増強場119が形成される。ターゲットである一本鎖鋳型DNAに取込まれるdNTPに標識された蛍光体410は,前記励起光増強場119内に存在する。そのため,蛍光体410からの発光蛍光の絶対量は,実施例1,2および3に比べて大幅に増大する。これにより,低背景光および高シグナル強度が実現できるため,本システムの単分子蛍光体計測のS/B比は非常に高くなる。また,本発明では,実施例1の図4と同様に,流路309にて形成される反応槽内壁の表面を平面にすることができるため,励起光照射領域の溶液交換を図3で示した構成よりも非常に効率よく行うことが可能となる。
【0035】
本実施例では,金微粒子を使用したが,銀微粒子はアルミニウム微粒子であっても良い。また,プラスチック等の粒子に金や銀,アルミニウムを蒸着した微粒子を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ナノ開口照射検出方式を用いた段階的伸長反応DNAシーケンサの概略図。
【図2】段階的伸長反応の反応プロセス図。
【図3】ナノ開口照射検出方式におけるチップの拡大図。
【図4】ナノ開口に固相媒質を充填したチップの拡大図。
【図5】第二の実施例の概略図。
【図6】第三の実施例の検出部の概略図。
【図7】第四の実施例のチップの拡大図。
【符号の説明】
【0037】
101…YAGレーザ光源,102…λ/4板,103…YAGレーザ光源,104…レーザ光,105…レーザ光,106…ダイクロイックミラー,107…ミラー,108…レンズ,109…エバネッセント場,110…エバネッセント場,111…YAGレーザ光源,112…Ar-ionレーザ光源,113…YAGレーザ光源,114…He-Neレーザ光源,115…ダイクロイックミラー,116…ダイクロイックミラー,117…ダイクロイックミラー,118…金属微粒子,119…励起光増強場,201…対物レンズ,202…光学フィルタ,203…結像レンズ,204…2次元CCDカメラ,205…プリズム,206…バンドパスフィルタ,207…ノッチフィルタ,208…ノッチフィルタ,209…ダイクロイックミラー,210…ダイクロイックミラー,211…ダイクロイックミラー,212…結像レンズ,213…結像レンズ,214…結像レンズ,215…結像レンズ,216…2次元CCDカメラ,217…2次元CCDカメラ,218…2次元CCDカメラ,219…2次元CCDカメラ,301…ガラス基板,302…遮光性薄膜,303…ナノ開口,304…カバープレート,305…検出窓,306…注入口,307…排出口,308…イマージョンオイル,309…流路,310…ナノ開口底面,311…固相媒質表面,312…SiO2固相媒質,401…ビオチン,402…ストレプトアビジン,403…一本鎖鋳型DNA,404…プライマ,405…ビオチン,406…dATP,407…蛍光体,408…パラジウムを含んだ溶液,409…非特異吸着蛍光体,410…蛍光体,411…Thermo Sequenaseポリメラーゼ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に透明な第1基板と,
前記第1基板の一の面に設置され,開口を備える非導光膜と,
前記開口に配置され,実質的に透明な導光部材とを有するデバイス。
【請求項2】
前記非導光膜は,金属膜であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記非導光膜の表面と前記導光部材の表面とは実質に同一平面に位置することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記非導光膜は,複数の前記貫通開口を有することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記導光部材は,表面の少なくとも一部にプローブを固定されるものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記導光部材は,表面の少なくとも一部に,プローブを固定された金属粒子を固定されるものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
請求項1から7に記載の前記デバイスを保持する保持手段と,
前記第1基板の前記一の面上に溶液交換可能な反応槽と,
前記第1基板の前記一の面に対向する面へ光を照射する光照射手段と,
前記開口から光を検出する光検出手段とを有する装置。
【請求項8】
前記非導光膜の厚さは,前記光照射手段が照射する光の波長よりも小さいことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記開口の貫通方向と実質に垂直な方向での最大幅は,前記光照射手段が照射する光の波長よりも小さいことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記非導光膜は複数の前記貫通開口を有し,隣接する前記貫通開口の間の距離は前記光照射手段が照射する光の波長よりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項11】
実質的に透明な第1基板と,前記第1基板の一の面に設置され,開口を備える非導光膜と,前記非導光膜の一の面に設置される実質的に透明な板状部材ととを備えるデバイス。
【請求項12】
前記非導光膜は,金属膜であることを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記板状部材の前記非導光膜に接しない面は,実質的に平面であることを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項14】
前記非導光膜は,複数の前記開口を有することを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項15】
前記板状部材の前記開口の位置に対応する部分に固定されるプローブをさらに有することを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項16】
前記板状部材の前記開口の位置に対応する部分に固定される,プローブが固定された金属粒子をさらに有することを特徴とする請求項11に記載のデバイス。
【請求項17】
請求項11から16に記載の前記デバイスを保持する保持手段と,
前記第1基板の前記一の面上に溶液交換可能な反応槽と,
前記第1基板の前記一の面に対向する面へ光を照射する光照射手段と,
前記開口から光を検出する光検出手段とを有する装置。
【請求項18】
前記貫通開口の貫通方向と実質に垂直な方向での最大幅は,前記光照射手段が照射する光の波長よりも小さいことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記非導光膜の膜厚は,前記光照射手段が照射する光の波長より小さいことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記非導光膜は複数の前記貫通開口を有し,隣接する前記貫通開口の間の距離は前記光照射手段が照射する光の波長よりも大きいことを特徴とする請求項17に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−333497(P2007−333497A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164169(P2006−164169)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】