説明

蛍光検出装置

【課題】微弱光から強い蛍光まで広範囲に、精度良く測定できる、構造の簡単な蛍光検出装置を提供する。
【解決手段】蛍光検出装置は、流路中の測定点を通過する測定対象物に対してレーザ光を照射するレーザ光源部と、レーザ光の照射された測定対象物の蛍光を散乱させる光散乱板と、散乱した蛍光の一部を取り込んで受光することにより、受光信号を出力する光電子増倍管およびフォトダイオードが、並列して構成された受光部と、この受光部の光電子増倍管から出力した受光信号に基づいて求められるパルス信号の計数値と、フォトダイオードから出力した受光信号に基づいて求められる受光信号積分値とのいずれか一方を選択することにより、測定対象物の発する蛍光強度を求める処理部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路中を流れる測定対象物にレーザ光を照射し、そのとき発する蛍光を測定する蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、生物分野で用いられるフローサイトメータには、レーザ光を照射することにより測定対象物の蛍光色素からの蛍光を受光して、測定対象物の種類を識別する蛍光検出装置が組み込まれている。
蛍光検出装置では、蛍光強度を出力するために、光センサとして光電子増倍管(PMT)が用いられ、この蛍光強度の算出には、アナログ計測方式あるいはフォトンカウンティング計測方式が用いられる。
【0003】
アナログ計測方式では、光電子増倍管からのパルス状の電流信号を、負荷抵抗を用いて電圧信号に変換し、この電圧信号のピーク電圧や擬似的に積分して得られる面積を算出することにより、蛍光強度を求める。このアナログ計測方式は、強い蛍光強度に対しては精度の良い計測が可能となるが、微弱な蛍光を計測する場合、計測する電圧信号は、離散的なパルス信号となる。このパルス信号には、暗電流に起因して定常的に発生するノイズパルスが含まれ、これによって測定誤差が大きくなるといった問題がある。さらに、1つ1つの電圧信号のレベルが一定しないため、測定誤差が増大するといった問題がある。
【0004】
一方、フォトンカウンティング計測方式では、光電子増倍管からのパルス状の電圧信号のパルス数をカウントし、このときのカウント値を蛍光強度の出力値とする。この方式では、微弱な蛍光に対して精度の良い計測が可能であるが、蛍光強度が強くなると、複数のパルス状の電圧信号は互いに重なり合って、正確なカウント値が得られないといった問題がある。
このため、微弱の蛍光から、強度の強い蛍光まで、1つの計測装置で幅広いレンジで精度良く計測することができない。
【0005】
下記特許文献1では、蛍光光束をレンズで拡げ、マルチチャンネルの光電子増倍管(PMT)に受光させ、各チャンネル毎に、フォトンカウンティングを行い、各チャンネルのカウント値を合計する細胞解析装置が記載されている。当該公報によると、この装置構成により、微弱光から強い蛍光まで広範囲に、高感度で再現性良く測定することができるとされている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−10946号公報
【0007】
しかし上記特許文献1に記載される装置を用いて強い蛍光を測定する場合、各チャンネル毎に蛍光を分割してフォトンカウンティング計測方式で計測する特許文献1に記載の装置では蛍光により得られる各チャンネル毎の受光信号は、パルス信号が連なった連続信号となるため、正確な計数ができず、安定した結果が得られない、といった問題を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、微弱光から強い蛍光まで広範囲に、精度良く測定できる、構造の簡単な蛍光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、流路中を流れる測定対象物にレーザ光を照射し、そのとき発する蛍光を測定する蛍光検出装置であって、流路中の測定点を通過する測定対象物に対してレーザ光を照射するレーザ光源部と、レーザ光の照射された測定対象物の蛍光を散乱させる光散乱体と、散乱した蛍光の一部を取り込んで受光することにより、受光信号を出力する光電子増倍管およびフォトダイオードが、並列して構成された受光部と、前記受光部の光電子増倍管から出力した受光信号に基づいて求められるパルス信号の計数値と、前記フォトダイオードから出力した受光信号に基づいて求められる受光信号積分値とのいずれか一方を選択することにより、測定対象物の発する蛍光強度を求める処理部と、を有することを特徴とする蛍光検出装置を提供する。
【0010】
ここで、前記処理部は、前記光電子増倍管からの受光信号に基づいて求められた前記計数値が所定値以下の場合、前記計数値から蛍光強度の値を求め、前記計数値が前記所定値を超える場合、前記処理部は前記受光信号積分値から蛍光強度の値を求めることが好ましい。
あるいは、前記処理部は、前記フォトダイオードからの受光信号に基づいて求められた前記受光信号積分値が設定された値以下の場合、前記計数値から蛍光強度の値を求め、前記受光信号積分値が設定された値を超える場合、前記処理部は前記受光信号積分値から蛍光強度の値を求めることも同様に好ましい。
【0011】
また、前記光電子増倍管および前記フォトダイオードの少なくともいずれか一方と前記光散乱板との間に、蛍光の光量を調整する絞り板が設けられていることが好ましい。
【0012】
この場合、前記光電子増倍管および前記フォトダイオードの少なくともいずれか一方と前記光散乱体との間に、蛍光の光量を調整する絞り板が設けられ、前記所定値において、前記計数値から求められる蛍光強度の値と、前記受光信号積分値から求められる蛍光強度の値とが一致するように、前記絞り板が調整されることが好ましい。
あるいは、前記光電子増倍管および前記フォトダイオードの少なくともいずれか一方と前記光散乱体との間に、蛍光の光量を調整する絞り板が設けられ、前記設定された値において、前記計数値から求められる蛍光強度の値と、前記受光信号積分値から求められる蛍光強度の値とが一致するように、前記絞り板が調整されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蛍光検出装置は、レーザ光の照射された測定対象物の蛍光を散乱させる光散乱体が設けられ、この光散乱体により均一に散乱した蛍光の一部を取り込んで受光することにより、受光信号を出力する光電子増倍管およびフォトダイオードが、並列して配置されている。処理部は、受光部の光電子増倍管から出力した受光信号に基づいて求められるパルス信号の計数値と、フォトダイオードから出力した受光信号に基づいて求められる受光信号積分値とのいずれか一方を選択することにより、測定対象物の発する蛍光強度を求める。このため、本発明の蛍光検出装置は、微弱光から強い蛍光まで広範囲に、精度良く測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の蛍光検出装置を詳細に説明する。
図1は、本発明の蛍光検出装置を用いたフローサイトメータ10の概略構成図である。
フローサイトメータ10は、レーザ光を測定対象とする細胞等の試料12に照射し、試料12中の一部分から発する蛍光を検出して信号処理をする信号処理装置(蛍光検出装置)20と、信号処理装置20で得られた処理結果から試料12中の測定対象物の分析を行なう分析装置80とを有する。
【0015】
信号処理装置20は、レーザ光源部22と、受光部24、26と、試料12の蛍光強度の値を出力する処理部28と、所定の強度でレーザ光を照射させ、各処理の動作の制御管理を行う制御部29と、高速流を形成するシース液に含ませて試料12を流す管路30と、管路30の端に接続され、試料12のフローを形成し、このフローの経路にレーザ光の測定点をつくるフローセル体31と、を有する。フローセル体31の出口側には、回収容器32が設けられている。フローサイトメータ10には、レーザ光の照射により短時間内に試料12中の特定の細胞等を分離するためのセル・ソータを配置して別々の回収容器に分離するように構成することもできる。
【0016】
レーザ光源部22は、波長の異なる3つのレーザ光、例えばλ1=405nm、λ2=533nmおよびλ3=650nm等のレーザ光を出射する部分である。レーザ光は、フローセル体31中の所定の位置に集束するようにレンズ系が設けられ、この集束位置が試料12の測定点となっている。
【0017】
図2は、レーザ光源部22の構成の一例を示す図である。
レーザ光源部22は、350nm〜800nmの可視光の、レーザ光を出射する部分で、主に赤色のレーザ光Rを所定の強度で出射するR光源22r、緑色のレーザ光Gを所定の強度で出射するG光源22gおよび青色のレーザ光Bを所定の強度で出射するB光源22bと、特定の波長帯域のレーザ光を透過し、他の波長帯域のレーザ光を反射するダイクロイックミラー23a1、23a2と、レーザ光R,GおよびBからなるレーザ光をフローセル体31中の測定点に集束させるレンズ系23cと、R光源22r、G光源22gおよびB光源22bのそれぞれを駆動するレーザドライバ34r,34gおよび34bと、供給された信号をレーザドライバ34r,34gおよび34bに分配する各パワースプリッタ35と、を有して構成される。
これらのレーザ光を出射する光源として例えば半導体レーザが用いられる。
【0018】
ダイクロイックミラー23a1は、レーザ光Rを透過し、レーザ光Gを反射するミラーであり、ダイクロイックミラー23a2は、レーザ光RおよびGを透過し、レーザ光Bを反射するミラーである。
この構成によりレーザ光R,GおよびBが合成されて、測定点を通過する試料12を照射する照射光となる。
【0019】
レーザドライバ34r,34gおよび34bは、処理部28及び制御部29に接続されて、レーザ光R,G,Bの出射の強度が調整されるように構成される。
【0020】
R光源22r、G光源22gおよびB光源22bは、レーザ光R、GおよびBが蛍光色素を励起して特定の波長帯域の蛍光を発するように、予め定められた波長帯域で発振する。レーザ光R、GおよびBによって励起される蛍光色素は測定しようとする生体物質等の試料12に付着されており、測定対象物としてフローセル体31の測定点を通過する際、測定点でレーザ光R、GおよびBの照射を受けて特定の波長で蛍光を発する。
【0021】
受光部24は、管路30及びフローセル体31を挟んでレーザ光源部22と対向するように配置されており、測定点を通過する試料12によってレーザ光が前方散乱することにより試料12が測定点を通過する旨の検出信号を出力する光電変換器を備える。この受光部24から出力される信号は、処理部28及び制御部29に供給され、処理部28において試料12が管路30中の測定点を通過するタイミングを知らせるトリガー信号として用いられる。
【0022】
図3は、受光部24の一例の概略の構成を示す概略構成図である。図3では、試料12の流れる方向が紙面に対して垂直方向である。
受光部24は、試料12に当たって前方散乱するレーザ光を集光する集光レンズ24aと、集光した光を検出する多チャンネルの前方散乱光検出ユニット24bと、遮蔽板24cと、を有する。
【0023】
集光レンズ24aは、試料12に照射されて前方(レーザ光の進行方向前方、図3中の右側方向)に散乱したレーザ光を集光するために用いられる。
前方散乱光検出ユニット24bは、レーザ光の照射方向と直交し、かつ、試料12の流れる方向(図3中紙面に垂直方向)と直交する方向に、複数の検出器24dが並列配置されている。検出器24dのそれぞれは、検出信号が処理部28及び制御部29に出力されるように接続されている。検出器24dは、例えば、いずれも同じ構成をしたフォトダイオードが用いられる。このように、検出器24dを複数並列配置したのは、試料12が予め設定された測定点(レーザ光の集束点)の中心に対して位置ずれして通過するときの位置ずれの情報を得るためである。具体的には、試料12が、図3中、X方向に位置ずれした場合、レーザ光の前方散乱光は、散乱光検出ユニット24bの中心位置Aより図中下側の位置(図3中矢印の方向の位置)で集束する。試料12が、図3中、X方向と反対側方向に位置ずれした場合、レーザ光の前方散乱光は、散乱光検出ユニット24bの中心位置Aより図中上側の位置で集束する。この集束位置は、試料12のX方向の位置ずれ量に応じて変化する。したがって、計測した散乱光の最大強度がどの検出器24dで検出されたかによって、集束位置を知ることができる。これより、測定対象の試料12が測定点に対してどのくらい位置ずれして流れたかを知ることができる。測定した検出器24dの検知信号が処理部28及び制御部29に供給される。検知信号は、検出器24dそれぞれから出力されるので、最大値を示す検知信号を特定することで、散乱光の最大強度がどの検出器24dで検出されたか、知ることができる。また、検知信号は、データ処理の開始のためにトリガー信号として用いられる。
遮蔽板24cは、照射されたレーザ光の直接光が検出器24dで受光されないように、この直接光を遮蔽するために用いられる。
【0024】
一方、受光部26は、レーザ光源部22から出射されるレーザ光の出射方向に対して垂直方向であって、かつフローセル体31の流路中の試料12の移動方向に対して垂直方向に配置されており、測定点にて照射された試料12が発する蛍光を受光する光電変換器を備える。
図4は、受光部26の一例の概略の構成を示す概略構成図である。
【0025】
図4に示す受光部26は、試料12からの蛍光信号を集束させるレンズ系26aと、ダイクロイックミラー26b,26bと、バンドパスフィルタ26c〜26cと、光電子倍増管等の光電変換器40〜50と、を有する。
レンズ系26aは、受光部26に入射した蛍光を後述する散乱板52〜56の面上で集束させるように構成されている。
ダイクロイックミラー26b,26bは、所定の範囲の波長帯域の蛍光を反射させて、それ以外は透過させるミラーである。バンドパスフィルタ26c〜26cでフィルタリングして光電変換器40〜50で所定の波長帯域の蛍光を取り込むように、ダイクロイックミラー26b,26bの反射波長帯域および透過波長帯域が設定されている。
【0026】
バンドパスフィルタ26c〜26cは、各光電変換器40〜50の受光面の前面に設けられ、所定の波長帯域の蛍光のみが透過するフィルタである。透過する蛍光の波長帯域は、蛍光色素の発する蛍光の波長帯域に対応して設定されている。
光電変換器40、42,44,46,48,50には、それぞれ順に、同じフィルタ特性を有するバンドパスフィルタ26c,26c、同じフィルタ特性を有するバンドパスフィルタ26c2,26c2 、同じフィルタ特性を有するバンドパスフィルタ26c3,26c3が設けられている。
【0027】
光電変換器40,44,48は、光電子倍増管を備えたセンサであり、光電面で受光した光を受光信号に変換する部分であり、光電変換器42,46,50は、シリコン等の半導体で構成されたフォトダイオードを備えたセンサであり、光電面で受光した光を受光信号に変換する部分である。
光電変換器40,44,48は、いずれも、図5に示すように、複数の光電子増倍管70が複数並列配置した構成のマルチチャンネル光電子増倍管となっており、処理部28は、光電子増倍管70がそれぞれで受光し出力した受光信号中のパルス信号の数をカウント(計数)し、このときのカウント値を合計することで、受光した蛍光の光子数である合計カウント値(計数値)を求める。
光電変換器40,44,48から出力される受光信号は、後述するように、蛍光強度が微弱あるいは比較的弱いとき蛍光強度の情報として用い、光電変換器42,46,50から出力される受光信号は、蛍光強度が比較的強いとき、蛍光強度の情報として用いる。
【0028】
バンドパスフィルタ26c〜26cの前面には、光電変換器40〜50のそれぞれに対応して光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68が設けられ、さらに、その前面には、光電変換器40,42に共通した散乱板52、光電変換器44,46に共通した散乱板54、光電変換器48,50に共通した散乱板56が、それぞれ設けられる。
散乱板52〜56は、レンズ系26aで集光した蛍光が、散乱板52〜56の面上で集束するように配置されている。散乱板52〜56は、入射した光を散乱して、均一な散乱光とする板材である。この板材で散乱した蛍光は、光電変換器40,42に向けて、光電変換器44,46に向けて、光電変換器48,50に向けて、それぞれ同じ強度で散乱する。本実施形態では、蛍光を拡散する光散乱体の一例として散乱板を用いる。
【0029】
光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68は、それぞれ、開口部の大きさを調整できるように構成され、調整された開口部により通過しようとする散乱した蛍光の強度を調整する。具体的には、受光する光電変換器40,42の蛍光強度を調整し、受光する光電変換器44,46の蛍光強度を調整し、受光する光電変換器48,50の蛍光強度を調整する。蛍光強度を調整する点は、後述する。光量調整用絞り板は、光電子増倍管で構成される光電変換器40,44,48の受光面の前面にのみ設けられてもよいし、フォトダイオードで構成される光電変換器42,46,50の受光面の前面にのみ設けられてもよい。
【0030】
制御部29は、所定の強度でレーザ光を照射させ、受光部24から供給されたトリガー信号に基づいて処理部28における各処理の動作の制御管理を行う部分である。
処理部28は、所定の信号処理を行って蛍光強度の値を分析装置80に出力する部分である。
【0031】
処理部28は、光電変換器40,42からの受光信号から、カウント値と受光信号積分値を求める。光電変換器40はマルチチャンネルの光電子増倍管で構成されているので、処理部28は、各光電子増倍管から出力された受光信号のうち、予め設定されている値を超える、所定時間内のパルス信号の数をそれぞれ計数し、各計数値を合計して光子数に相当する合計カウント値を求める。一方、光電変換器42は、フォトダイオードで構成されているので、処理部28は、光電変換器42からの受光信号(電圧信号)を所定時間内で積分した受光信号積分値を求める。
同様の処理が、マルチチャンネルの光電子増倍管で構成された光電変換器44,48からの受光信号、およびフォトダイオードで構成されている光電変換器46,50からの受光信号についても行われる。
【0032】
このとき、マルチチャンネルの光電子増倍管で構成される光電変換器40の受光信号から求められる合計カウント値が所定値以下の場合、この合計カウント値を選択し、この合計カウント値を用いて蛍光強度の値を求める。合計カウント値が所定値を超える場合、フォトダイオードで構成される光電変換器42の受光信号から求められる受光信号積分値を選択し、この受光信号積分値を用いて蛍光強度の値を求める。
【0033】
このような蛍光強度の値の算出は、光電変換器44,46の受光信号から求められる合計カウント値及び受光信号積分値、及び光電変換器48,50の受光信号から求められる合計カウント値及び受光信号積分値においても同様に行われる。
合計カウント値及び受光信号積分値から蛍光強度の値を求める方法は、設定された参照テーブルを用いて蛍光強度の値を求める。
【0034】
このように、処理部28が、蛍光強度の値を求めるために、合計カウント値及び受光信号積分値のいずれか一方を選択して用いるのは以下の理由による。
図6(a),(b)は、光電子増倍管を用いたときの受光信号の例を示している。
蛍光が微弱光から弱い蛍光の場合、図6(a)に示すように、パルス信号が離散的に発生する信号形態を成し、この1つのパルス信号が1つ光子に相当する。図6(a)に示す場合、4つの光子を受光したことを意味する。したがって、このパルス信号の数を計数することで、受光した光子数を知ることができ、蛍光強度を知ることができる。なお、図6(a)中、パルス信号の振幅が変動しているが、これは、光電子増倍管の増幅機構の不安定性によるものである。
【0035】
しかし、蛍光強度が中〜強になると、光子の到来が連続的となり、図6(b)に示す太線のように、パルス信号が重畳して連続信号となって計数することはできない。このため、フォトダイオードの受光信号を所定時間の範囲で積分した受光信号積分値を用いる。受光信号積分値が大きいほど、蛍光強度が強いことを意味する。
すなわち、蛍光強度が微弱〜弱の範囲では、光電子増倍管からの受光信号を用いて求められる合計カウント値を、蛍光強度が中〜強の範囲では、フォトダイオードからの受光信号を用いて求められる受光信号積分値を選択して用いる。
処理部28で求める蛍光強度は、蛍光強度が徐々に強く変化する場合、蛍光強度の値も連続的に変化するため、合計カウント値と受光信号積分値との間で選択を切り替えるとき、求める蛍光強度の値が連続的に繋がるように、光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68の開口部の面積は調整される。
【0036】
図7(a)は、合計カウント値と蛍光強度との特性を、図7(b)は、受光信号積分値と蛍光強度との間の特性を、模式的に示す図である。
蛍光強度がL1以下の領域では、図7(a)の太線で示すように、合計カウント値は蛍光強度に比例して増大するが、蛍光強度L1を超えると、合計カウント値は一定値となって飽和する。これは、上述したように、パルス信号が重畳となって計数できないためである。
【0037】
図7(b)中の太線で表される受光信号積分値と蛍光強度との間の特性では、蛍光強度がL2〜L4の領域で、受光信号積分値は蛍光強度に比例して増大するが、蛍光強度L4を超えると、受光信号積分値は一定値となって飽和する。また、図7(b)の太線の受光信号積分値は、蛍光強度がL2未満ではその値がδ未満となって、回路中のランダムノイズに埋もれて、受光信号積分値と蛍光強度との間で一定の特性を有さない。
この場合、蛍光強度がL1以下の領域では、図7(a)に示す太線の特性を用いた蛍光強度が求められ、蛍光強度がL2〜L4の領域では、図7(b)に示す太線の特性を用いた蛍光強度が求められる。しかし蛍光強度L1〜L2の領域で蛍光強度の値が存在しないため、蛍光強度がL1以下の値から蛍光強度の値がL4に徐々に変化したとき、蛍光強度の値は連続的に繋がらない。このため、蛍光強度の値が連続して繋がるように、光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68の開口部の面積が調整される。
【0038】
例えば、光電子増倍管で構成される光電変換器40,44,48の前面に設けられた光量調整用絞り板58,62,66の開口部の面積を狭くすることで、図7(a)に示す細線のように特性を変えることができる。このとき、蛍光強度L2とL3との間の領域で、合計カウント値と受光信号積分値との選択を切り替えることにより、蛍光強度の値は連続的に繋がる。
【0039】
さらには、フォトダイオードで構成される光電変換器42,46,50の前面に設けられた光量調整用絞り板60,64,68の開口部の面積を広くすることで、図7(b)に示す細線のように特性を変えることができ、蛍光強度L1近傍で、合計カウント値と受光信号積分値との間の選択を切り替えることで、蛍光強度の値は連続的に繋がる。
このように、光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68の開口部の面積を調整することにより、図7(a),(b)に示す細線のように特性を変えることができる。つまり、合計カウント値と受光信号積分値との間の選択を切り替えるとき、切り替える値において、合計カウント値から求められる蛍光強度の値と、受光信号積分値から求められる蛍光強度の値とが一致するように調整することができ、蛍光強度の値が連続して繋がるように調整できる。処理部28では、光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68の調整に応じて、参照テーブルも自働的に設定されるように構成されていることが好ましい。
【0040】
処理部28は、合計カウント値と受光信号積分値との間の上記選択による切り替えの他に、フォトダイオードで構成される光電変換器42の受光信号から求められた受光信号積分値が設定された値以下の場合、光電変換器40の受光信号から求められる合計カウント値を選択し、この合計カウント値を用いて蛍光強度の値を求め、受光信号積分値が設定された値を超える場合、受光信号積分値を選択し、受光信号積分値を用いて蛍光強度の値を求めることもできる。このような選択は、光電変換器44,46の受光信号から求められる蛍光強度、及び光電変換器48,50の受光信号から求められる蛍光強度においても同様に行われる。
この場合も、合計カウント値と受光信号積分値との間の選択を切り替えるとき、切り替える値において、合計カウント値から求められる蛍光強度の値と、受光信号積分値から求められる蛍光強度の値とが一致するように調整することができ、蛍光強度の値が連続的に繋がるように調整できる。このときも同様に、処理部28では、光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68の調整に応じて、参照テーブルも自働的に設定されるように構成されていることが好ましい。
【0041】
処理部28は、さらに、受光部24から供給された検出信号のうち、最大の値を取るものが、どの検出器24dからのものであるか特定し、これによって前方散乱光の集光位置を特定し、この特定位置から、求めた蛍光強度の値に対して補正をするための補正係数を求め、この補正係数を用いて、求めた蛍光強度の値を補正する。
処理部28は、検出器24dの集光位置からレーザ光の強度を求め、この強度に応じた補正係数を求める処理を一括して行うために、予め記憶されている補正テーブルを用いて補正を行う。この補正テーブルは、試料12に照射されるレーザ光の光強度分布の情報を用いて集束位置と蛍光強度の値を補正するための補正係数とを関係付けて設定されたものである。
【0042】
図8(a)〜(e)は、蛍光強度に補正を行う必要性を説明する図である。
本発明では、受光信号は、後述する分析装置80において、図8(d)に示すような蛍光強度に対する試料12の頻度分布を算出し、この頻度分布から、特定の蛍光が測定されたか否かを判別するために使用する。このとき、蛍光強度が2種類存在する場合、頻度分布において2つのピークを形成する。この2つのピークの蛍光強度が近接しているとき、この2つのピークが判別できるためには、ピークの幅が狭いこと(分散が小さいこと)が必要である。図8(e)のように、1つのピークのピーク幅が広い(分散が大きい)場合、2つのピークは判別できない。図8(e)は、上述の補正をしない場合の頻度分布である。
【0043】
図8(a)に示すように、試料12の通過する位置A〜C等に応じて、この位置におけるレーザ光の光強度分布の逆数の分布を持つ補正係数を用い、この補正係数を蛍光強度に乗算する。試料12の位置は、図8(c)のように、分布を持ってばらつくが、上述したように補正係数を用いて蛍光強度を補正するので、補正をしない場合の頻度分布である図8(e)に対して、図8(d)のようにピークの幅が狭くなる。
【0044】
このように、求めた蛍光強度に対して補正をするのは、図8(d)のようにピークの幅を狭くし、頻度分布における分解能を向上させるためである。
補正は単純に補正係数を、求めた蛍光強度の値に乗算するものである。これは、蛍光の強度が照射されるレーザ光の光強度に応じて線形的に変化する部分を好適に用いるからである。しかし、本発明ではこれに限定されない。少なくとも蛍光の強度が照射されるレーザ光の光強度と対応関係にあり、この関係を用いて補正係数を定めるとよい。
【0045】
分析装置80は、処理部28から供給される補正された受光信号を用いて、図8(d)のような頻度分布を作成し、フローセル体31の測定点を通過する試料12中に含まれる生体物質の種類等を特定し、試料12中に含まれる生体物質の分析を行う装置である。
【0046】
このような蛍光検出装置10では、試料12がレーザ光によって照射されたとき、試料12から発する前方散乱光を、散乱光検出ユニット24bの検出器24dで検出する。検出器24dの生成する検知信号によって、前方散乱光の集束位置がわかるので、この集束位置に基づいて、処理部28が保有する補正テーブルを用いて補正係数が求められる。
一方、処理部28では、光電変換器40〜50からの受光信号を用いて、合計カウント値及び受光信号積分値を求め、例えば、合計カウント値が所定値以下の場合、合計カウント値から、合計カウント値と蛍光強度との間の特性を示す参照テーブルに基づいて、蛍光強度の値を求める。合計カウント値が所定値を超える場合、受光信号積分値から、受光信号積分値と蛍光強度との間の特性を示す参照テーブルに基づいて、蛍光強度の値を求める。
求めた蛍光強度の値に対して、先に求めた補正係数を乗算することにより、蛍光強度は補正される。
補正された蛍光強度の値は、分析装置80に供給されて、図8(d)に示すような頻度分布が作成される。
【0047】
蛍光検出装置10では、処理部28において、受光部26の光電子増倍管である光電変換器40,44,48から出力した受光信号に基づいて求められる光子数の計数値である合計カウント値と、フォトダイオードで構成された光電変換器42,46,50から出力した受光信号に基づいて求められる受光信号積分値との間で一方の値を選択することにより、測定対象物の発する蛍光強度を求める。このため、微弱な蛍光から強い蛍光まで蛍光強度の計測をすることができ、高ダイナミックレンジの蛍光検出が可能となる。特に、光電子増倍管で構成される光電変換器には、複数の光電子増倍管を並列配置したマルチチャンネルを構成し、各光電子増倍管で得られた受光信号からカウント値を求め、この各カウント値を合計することにより、受光する光子数が少ないことに起因して生じる蛍光強度の大きなばらつき(分散)を抑制し、蛍光強度のばらつきを小さくすることができ、安定した蛍光強度の値を求めることができる。
また、開口部の面積を調整可能な光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68を光電変換器40〜50の前面に設けるので、光量調整用絞り板58,60,62,64,66,68を調整することにより、微弱な蛍光から強い蛍光まで、蛍光強度の値を連続したデータとして求めることができる。
さらに、レーザ光の光強度の分布を用いた補正テーブルを用いて蛍光強度の補正を行うので、分析装置80では、ピーク幅の狭い頻度分布を得ることができる。一方、レーザ光に光強度分布が存在しても、この分布を用いて補正するので、従来のように、一定の光強度を有するレーザ光の中心部のみを蛍光の測定に使用する必要はなく、従来測定に用いられなかったレーザ光の中心部分の外側部分も蛍光の測定に使用することができる。このため、レーザ光を効率よく使用することができる。
【0048】
以上、本発明の蛍光検出装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の蛍光検出装置を用いたフローサイトメータの概略構成図である。
【図2】本発明の蛍光検出装置に用いられるレーザ光源部の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の蛍光検出装置に用いられる試料の通過時の前方散乱光を受光する受光部の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の蛍光検出装置に用いられる、蛍光を受光する受光部の一例を示す概略構成図である。
【図5】図4に示す光電子増倍管の構成の一例を示す図である。
【図6】(a),(b)は、図4に示す光電変換器で得られる受光信号を説明する図である。
【図7】(a)は、合計カウント値と蛍光強度との間の特性を示す図であり、(b)は、受光信号積分値と蛍光強度との間の特性を模式的に示す図である。
【図8】(a)〜(e)は、本発明の蛍光検出装置の補正について説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
10 フローサイトメータ
12 試料
20 信号処理装置
22 レーザ光源部
22r R光源
22g G光源
22b B光源
23a1,23a2,26b1,26b2 ダイクロイックミラー
23c レンズ系
24,26 受光部
24a 集光レンズ
24b 前方散乱検出ユニット
24c 遮蔽板
24d 検出器
26a 集束レンズ
26c1,26c2,26c バンドパスフィルタ
28 処理部
29 制御部
30 管路
31 フローセル体
32 回収容器
34r,34g,34b レーザドライバ
35 パワースプリッタ
40,42,44,46,48,50 光電変換器
52,54,56 散乱板
58,60,62,64,66,68 光量調整用絞り板
70 光電子増倍管
80 分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路中を流れる測定対象物にレーザ光を照射し、そのとき発する蛍光を測定する蛍光検出装置であって、
流路中の測定点を通過する測定対象物に対してレーザ光を照射するレーザ光源部と、
レーザ光の照射された測定対象物の蛍光を散乱させる光散乱体と、
散乱した蛍光の一部を取り込んで受光することにより、受光信号を出力する光電子増倍管およびフォトダイオードが、並列して構成された受光部と、
前記受光部の光電子増倍管から出力した受光信号に基づいて求められるパルス信号の計数値と、前記フォトダイオードから出力した受光信号に基づいて求められる受光信号積分値とのいずれか一方を選択することにより、測定対象物の発する蛍光強度を求める処理部と、を有することを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記光電子増倍管からの受光信号に基づいて求められた前記計数値が所定値以下の場合、前記計数値から蛍光強度の値を求め、前記計数値が前記所定値を超える場合、前記処理部は前記受光信号積分値から蛍光強度の値を求める請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記フォトダイオードからの受光信号に基づいて求められた前記受光信号積分値が設定された値以下の場合、前記計数値から蛍光強度の値を求め、前記受光信号積分値が設定された値を超える場合、前記処理部は前記受光信号積分値から蛍光強度の値を求める請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項4】
前記光電子増倍管および前記フォトダイオードの少なくともいずれか一方と前記光散乱板との間に、蛍光の光量を調整する絞り板が設けられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光検出装置。
【請求項5】
前記光電子増倍管および前記フォトダイオードの少なくともいずれか一方と前記光散乱体との間に、蛍光の光量を調整する絞り板が設けられ、
前記所定値において、前記計数値から求められる蛍光強度の値と、前記受光信号積分値から求められる蛍光強度の値とが一致するように、前記絞り板が調整される請求項2に記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
前記光電子増倍管および前記フォトダイオードの少なくともいずれか一方と前記光散乱体との間に、蛍光の光量を調整する絞り板が設けられ、
前記設定された値において、前記計数値から求められる蛍光強度の値と、前記受光信号積分値から求められる蛍光強度の値とが一致するように、前記絞り板が調整される請求項3に記載の蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−244080(P2009−244080A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90628(P2008−90628)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(591118041)財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 (21)
【Fターム(参考)】