説明

蛍光検出装置

【課題】検出時に混入する反射光や外乱光によるノイズを十分に抑制し、安定的に精度の高い検出出力が得られるようにした蛍光検出装置を提供する。
【解決手段】フロート部120で装置本体部110が浮遊可能な方式を採り、更に、励起光照射部130からの励起光照射の光軸と水面11との交点を通る鉛直線との第1の角度θ21と光検出部140における受光光軸と水面11の交点を通る鉛直線との第2の角度θ22とが、励起光照射部130からの励起光の水面上及び水中照射領域EA1、UW1と光検出部140における受光視野の水面上及び水中領域FA1、UW2との重なりSA1、UWcが励起光の照射領域EA1、UW1の過半を占め、且つ、水面での反射光が光検出部140に入射しないようにして、光検出部140からの検出出力レベルが相対的に大で、且つ、外乱光の影響を受け難いようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、浄水場の浄水池や工場排水等の水面上に浮遊し、或いは、水中に存在している油等の物質を検出する蛍光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海や河川における化学物質や油等の流出事故は環境に重大な被害をもたらす。特に、油等の流出は比較的頻繁に発生するため、工場の排水施設等では、水質を常時監視して大規模な流出事故を未然に防止する必要がある。
上述のような水質の監視に適用される反射式検出装置が既に提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に提案されている反射式検出装置では、水面に浮遊する物質にレーザー光を投射し、このレーザー光に関する水面および油面での反射率の違いに基づいて水面上に浮遊する油等の物質を検出している。
【0003】
一方、水面上に浮遊する油等のほかに、水中に存在している油等の物質をも検出対象とする必要がある。このように水中に存在している油等の物質を検出するについては、光の反射率の違いを利用した検出を行うことができないため、水質汚濁の指標の一つである化学的酸素要求量(COD)を計測することによって水中の油等の有無を判断している。
しかしながら、CODの計測には時間がかかるため、迅速な対応が求められる漏洩事故等の監視用には適合し得ないという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、油等の蛍光性のある物質から発せられる蛍光を検出する手法が存在する。この手法によれば、瞬時に油等の物質を検出することができる。
ところが、この手法では、水位変動が大きい条件下では、検出距離の変動が蛍光強度に影響を与えるため、常時安定的に検出出力を得ることが難しい。
このため、現在では、検出距離を一定に保持するために、検出装置を水面上に浮かべて検出をおこなう、所謂、フロートタイプの蛍光検出装置が提案されるに到っている。特許文献2所載の蛍光検出装置がこのフロートタイプに該当するものである。
【0005】
フロートタイプの蛍光検出装置では、検出出力の安定化が図られ、且つ、検出装置自体を水面に接近させることによって高い検出感度が得られるという点で優れている。
しかしながら、従来のフロートタイプの蛍光検出装置では、蛍光性の弱い物質や濃度の低い物質を検出するに際しては、未だ検出感度が不十分であり、更なる高感度化が求められていた。
【0006】
また、フロートタイプのものを含む従来の蛍光検出装置では、水面や水中からの励起光や太陽光などの外乱光が反射ノイズとして作用し、検出感度の低下や誤検出を惹起する要因になっていた。
水面からの反射ノイズは、照射手段から発せられた励起光が水面で反射し、検出器に入射することによって生じる。また、反射ノイズは、外乱光の水面での反射によっても生じるが、フロートタイプの蛍光検出装置の場合は、装置と水面との間に外乱光となる太陽光を遮る覆いを設けることによってこの発生を防止することができる。
【0007】
一方、光量や水面が変動する場合、水面からの反射ノイズは、これが大きいほど検出値に対して大きなノイズとなって悪影響を及ぼすことになる。そして、このようにノイズが大きい場合には、蛍光量が少ないと小さな信号はそのノイズに埋もれてしまい、油等の物質の検出が難しくなる。上述のような励起光の反射ノイズを低減するには、照射手段に励起フィルタを設け、検出手段に蛍光フィルタを設けるのが一般的である。この励起フィルタは、蛍光物質の励起に必要な光を光源から抽出するための光学素子であり、特定の波長の励起光のみを透過させ、それ以外の波長の光をカットする。また、蛍光フィルタは、検出対象物質から発せられる蛍光を効率よく透過させるための光学素子であり、不要な励起光や外乱光をカットする。
【0008】
上述のような光学素子を適用することによって、励起光の水面からの反射ノイズの多くの部分を低減することができる。しかしながら、このような光学素子の能力にも限界があり、検出対象物質によっては十分な効果が得られない。
一方、水中からの反射ノイズは、太陽光などの外乱光が河川やピット等の水底で反射し検出器に入射することによって生じる。
【0009】
このような水中からの反射ノイズについても、上掲の特許文献2には、その対処方法が提案されている。即ち、特許文献2には、外乱光防止体を水面下に設けることが開示されている。この外乱光防止体は、外乱光を物理的に抑止する手段としては効果的である。しかしながら、工場排水のように浮遊物が高密度で含まれている排水中では、短期間のうちに外乱光防止体の表面にこれらの浮遊物が堆積してしまうという問題がある。そして、このように堆積した浮遊物は、外乱光防止体を重くし且つ重量バランスを崩すことにも繋がる場合がある。このような場合には、蛍光検出装置の喫水が変化したり浮揚姿勢が傾いたりすることになり、仕様通りの検出機能が損なわれてしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003―149134号公報
【特許文献2】特開2004―028814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は検出時に混入する反射光や外乱光によるノイズを十分に抑制し、安定的に精度の高い検出出力が得られるようにした蛍光検出装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するべく次に列記するような技術を提案する。
(1)励起光を照射すると蛍光を発する対象物質を検出する蛍光検出装置であって、
装置本体部を構成する構造メンバと結合され液面に対する前記装置本体部の水準位置が既定範囲内の位置となる浮力を得るフロート部と、
励起光を照射するように前記装置本体部に設けられた励起光照射部と、
前記励起光照射部から照射された励起光による当該対象物質の蛍光の受光レベルを検出するように前記装置本体部に設けられた光検出部と、を備え
前記励起光照射部は、励起光を照射する際の照射光軸が鉛直線に対し該照射光軸と鉛直線とに係る面内回転方向に既定の第1の角度の傾斜をなすように配置され、
前記光検出部は、受光光軸が鉛直線に対し該受光光軸と鉛直線とに係る面内で前記第1の角度と同じ回転方向に既定の第2の角度の傾斜をなすように配置されていることを特徴とする蛍光検出装置。
【0013】
上記(1)の蛍光検出装置では、フロート部によって装置本体部が液体上を浮遊可能であるため、該装置本体部と液面との距離が液面自体の昇降の変動に依存せず対象物質の検出を安定的に行うに有利である。更に、前記励起光照射部は、励起光を照射する際の照射光軸が鉛直線に対し該照射光軸と鉛直線とに係る面内回転方向に既定の第1の角度の傾斜をなすように配置され、前記光検出部は、受光光軸が鉛直線に対し該受光光軸と鉛直線とに係る面内で前記第1の角度と同じ回転方向に既定の第2の角度の傾斜をなすように配置されているため、結果的に、前記励起光照射部からの励起光の照射領域と前記光検出部の受光部における受光視野領域との重なりが相対的に大きくなり、前記光検出部からの検出出力レベルが上記配置にない場合に比し相対的に大となり、対象物質の検出を行うに外乱の影響を受けにくい。
【0014】
(2)前記励起光照射部と前記光検出部とは、前記第1の角度と前記第2の角度とが異なるように配置されていることを特徴とする(1)の蛍光検出装置。
上記(2)の蛍光検出装置では、(1)の蛍光検出装置において特に、前記励起光照射部と前記光検出部とが、前記第1の角度と前記第2の角度とが異なるように配置されている結果、外乱光となる反射光が前記光検出部に入射し難くなり、外乱光の影響が一層低減される。
【0015】
(3)前記励起光照射部から励起光を照射する照射時点前の直近の第1時点で前記光検出部から第1の検出データを得て保持する照射前データ取得保持部と、前記照射時点後の直近の第2時点で前記光検出部から第2の検出データを得て保持する照射時データ取得保持部と、を含んで構成された検出データ取得部を更に備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光検出装置。
【0016】
上記(3)の蛍光検出装置では、(1)または(2)の蛍光検出装置において特に、検出データ取得部が取得して保持するデータに基づいて、前記励起光照射部から励起光を照射する照射時点後の直近の第2時点で前記光検出部から得た第2の検出データから、前記照射時点前の直近の第1時点で前記光検出部から得た第1の検出データを差し引く処理を後段で行うことができる。このため、外乱光防止体等を液面下に設けることなく液中からの反射ノイズを含む外乱光の影響を低減した検出データを得ることを可能にすることになる。
【0017】
(4)前記検出データ取得部は、検出対象物質の有無を判定する外部の検出データ判定部に前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データおよび前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データを送信する通信回路部を更に備えた(3)の蛍光検出装置。
上記(4)の蛍光検出装置では、(3)の蛍光検出装置において特に、検出対象物質の有無を判定する外部の検出データ判定部に対し、該第1の検出データおよび該第2の検出データを通信回路部を通して供給することができる。
【0018】
(5)前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データから前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データを差し引いた検出差分データに基づいて検出対象物質の有無を判定する検出データ判定部を更に備えた(3)の蛍光検出装置。
上記(5)の蛍光検出装置では、(3)の蛍光検出装置において特に、この検出データ判定部で、前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データから前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データを差し引いた検出差分データに基づいて検出対象物質の有無を判定することができる。このため外乱光の影響を低減した該判定が可能になる。
【0019】
(6)透明な液体の液面乃至液中に存在し励起光を照射すると蛍光を発する対象物質を検出する蛍光検出装置であって、
装置本体部を構成する構造メンバと結合され当該液面に対する前記装置本体部の水準位置が既定範囲内の位置となる浮力を得るフロート部と、
励起光を照射するように前記装置本体部に設けられた励起光照射部と、
前記励起光照射部から照射された励起光による当該対象物質の蛍光の受光レベルを検出するように前記装置本体部に設けられた光検出部と、
前記光検出部からの検出データを取得する検出データ取得部と、を備え、
前記検出データ取得部は、
前記励起光照射部から励起光を照射する照射時点前の直近の第1時点で前記光検出部から第1の検出データを得て保持する照射前データ取得保持部と、前記照射時点後の直近の第2時点で前記光検出部から第2の検出データを得て保持する照射時データ取得保持部と、
前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データから前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データを差し引いた検出差分データに基づいて検出対象物質の有無を判定する検出データ判定部を更に備えたことを特徴とする蛍光検出装置。
【0020】
上記(6)の蛍光検出装置では、フロート部によって装置本体部が液体上を浮遊可能であるため、該装置本体部と液面との距離が液面自体の昇降の変動に依存せず対象物質の検出を安定的に行うに有利である。更に、検出データ取得部が取得して保持するデータに基づいて、前記励起光照射部から励起光を照射する照射時点後の直近の第2時点で前記光検出部から得た第2の検出データから、前記照射時点前の直近の第1時点で前記光検出部から得た第1の検出データを差し引く処理を後段で行うことができる。このため、外乱光防止体等を液面下に設けることなく液中からの反射ノイズを含む外乱光の影響を低減した検出データを得ることを可能にすることになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、検出時に混入する反射光や外乱光によるノイズを十分に抑制し、安定的に精度の高い検出出力が得られるようにした蛍光検出装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態としての蛍光検出装置を表す図である。
【図2】図1の蛍光検出装置における励起光照射部と光検出部との設置角度の選択について説明するための図である。
【図3】図2における設置角度の選択による作用を説明するための図である。
【図4】図1の蛍光検出装置における検出データ処理系を表す機能ブロック図である。
【図5】図4の各部における動作のタイミングを表すタイミングチャートである。
【図6】図4の検出データ処理系のうち図1の蛍光検出装置本体部に搭載される検出データ取得部の構成をより具体的に表す機能ブロックである。
【図7】図4および図6の検出データ取得部におけるデータ検出の特性を表す図である。
【図8】本発明の実施の形態としての蛍光検出装置における外乱光抑制の特性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態につき詳述することにより本発明を明らかにする。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態としての蛍光検出装置を表す図である。
図1において、蛍光検出装置100は、半透明である場合を含む透明な液体である排水或いはその他の水10の水面11乃至水中12に存在し励起光ELを照射すると蛍光FLを発する検出対象物質21(水面11乃至その近傍に存在するもの)や、検出対象物22(水中12に存在するもの)を検出する。
【0024】
蛍光検出装置100の装置本体部110を構成する構造メンバ111結合され水面11に対する装置本体部110の水準位置が既定範囲内の位置となる浮力を得るフロート部120が設けられている。このフロート部120は、図示の例では、装置本体部110の概略円筒状の筐体部112を下方(水面)に向け投影した領域の外周を囲むような概略環状の部材によって構成されている。
【0025】
装置本体部110には、その筐体部112内に、励起光を照射する際の照射光軸が当該液面(水面)における該光軸との交点における鉛直線に対し既定の第1の角度θ1をなすように励起光照射部130が設けられている。即ち、励起光照射部130は、励起光を照射する際の照射光軸が上記鉛直線に対し該照射光軸と上記鉛直線とに係る面内回転方向に既定の第1の角度θ1の傾斜をなすように配置されている。
【0026】
また、装置本体部110には、その筐体部112内に、受光光軸が、当該液面(水面)における該光軸との交点における鉛直線に対し上述の第1の角度θ1と同方向に開いた角度であって第1の角度θ1とは異なる既定の第2の角度θ2をなすように設けられ受光レベルを検出する光検出部140が設けられている。即ち、光検出部140は、受光光軸が上記鉛直線に対し該受光光軸と上記鉛直線とに係る面内で第1の角度θ1と同じ回転方向に既定の第2の角度θ2の傾斜をなすように配置されている。
そして、更に、装置本体部110には、その筐体部112内に、後述する検出データ取得部150が搭載されている。
【0027】
図2は、図1の蛍光検出装置100における励起光照射部130と光検出部140との設置角度の選択について説明するための図である。
図3は、図2における設置角度の選択による作用を説明するための図であり、励起光照射部による励起光の水面上での照射領域と光検出部による蛍光に対する水面上での検出領域との重なりの程度を表している。尚、図2における実線の矢線は水面での反射光を表している。
【0028】
図2(a)は、従来の蛍光検出装置における励起光照射部と光検出部との設置角度を表し、図2(b)は、図2(a)の設置角度との相対においては、多少優れた検出特性が得られる場合の設置角度を表している。そして、図2(c)は、図2(b)の設置角度との相対においても、更に優れた検出特性が得られる場合の設置角度であって本実施の形態でも採用している設置角度を表している。一方、図2(d)は上述の何れの例に比しても検出特性が劣悪な例を表している。
【0029】
図2(a)の例では、励起光照射部130によって励起光を照射する際の照射光軸が当該液面(水面)における該光軸との交点における鉛直線に対し平行(照射光軸と該鉛直線とのなす角が0)であり、且つ、光検出部140によって蛍光を検出するに際しての受光光軸が該鉛直線に対し平行(受光光軸と該鉛直線とのなす角が0)である。この場合は、図3(a)の如く、励起光照射部による励起光の水面上での照射領域EA1と光検出部による蛍光に対する水面上での検出領域FA1とが重なる領域SA1は相対的に狭小であり、光検出部140における本来の検出対象である蛍光に対し外乱となる外光の影響が大きい。また図2(a)におけるハッチングが施された領域UWaは、励起光照射部からの励起光の照射領域(液中の3次元の仮想的領域)と前記光検出部の受光部における受光視野領域(液中の3次元の他の仮想的領域)との水中における重なりの領域である。図2(a)の例では、この領域UWaも相対的に狭小であり、水中の検出対象物質を高感度で検出するには余り有利ではない。
【0030】
図2(b)の例では、励起光照射部130によって励起光を照射する際の照射光軸が当該液面(水面)における該光軸との交点における鉛直線に対し一定の角度θ11をなし、且つ、光検出部140によって蛍光を検出するに際しての受光光軸が該鉛直線に対し上記と同じ角度θ11をなしている。即ち、照射光軸と受光光軸が平行である。この場合も、図3(a)の如く、励起光照射部による励起光の水面上での照射領域EA1と光検出部による蛍光に対する水面上での検出領域FA1とが重なる領域SA1は相対的に狭小であり、水面上の検出対象物質を高感度で検出するには不利である。但し、図2(b)の場合は、照射光の水面での反射光が光検出部に入射する割合は僅少であるため、反射光に起因するノイズ成分が低減されるという点では有利である。そして、寧ろこの点が勝るため、図2(b)の配置を採ることは比較的有利である。一方、図2(b)のハッチングが施された領域UWbは、励起光照射部からの励起光の照射領域と前記光検出部の受光部における受光視野領域との水中における重なりの領域である。図2(a)の例では、この領域UWbも相対的に狭小であり、水中の検出対象物質を高感度で検出するには次に述べる図2(c)の例との比較では、相対的に不利ではある。
【0031】
図2(c)の例では、励起光照射部130によって励起光を照射する際の照射光軸が、当該液面(水面)における該光軸との交点における鉛直線に対し、該光軸と鉛直線とに係る面内回転方向に既定の第1の角度θ21をなしている。そして、更に、光検出部140によって蛍光を検出するに際しての受光光軸が、該鉛直線に対し、該受光光軸と鉛直線とに係る面内で第1の角度θ21と同じ回転方向に第1の角度θ21とは異なる既定の第2の角度θ22をなしている。この場合は、図3(b)の如く、励起光照射部による励起光の水面上での照射領域EA2と光検出部による蛍光に対する水面上での検出領域FA2とが重なる領域SA2は相対的に広くなり、水面上の検出対象物質を高感度で検出するには有利である。更に、図2(c)の場合は、照射光の水面での反射光が光検出部に入射することがないように照射光軸の傾きと受光光軸の傾きとが設定されているため、水面での反射光は殆ど光検出部140に入射せず、従って、水面での反射光に起因するノイズ成分が十分低減されるという点で極めて有利である。更にまた、図2(c)の例では、ハッチングが施された領域UWcは、励起光照射部からの励起光の照射領域UW1と前記光検出部の受光部における受光視野領域UW2との水中における重なりの領域である。図2(c)の例では、この領域UWcが相対的に大となるように第1の角度θ21と第2の角度θ22とが選択されている。このため、水中の検出対象物質を高感度で検出するには極めて有利である。
【0032】
一方、図2(d)の例では、励起光照射部130によって励起光を照射する際の照射光軸が、当該液面(水面)における該光軸との交点における鉛直線に対し、該照射光軸と鉛直線とに係る面内回転方向に一定の角度θ31をなしている。そして、更に、光検出部140によって蛍光を検出するに際しての受光光軸が、該当する鉛直線に対し、該受光光軸と鉛直線とに係る面内で上記角度と反対方向に傾斜して等量の角度−θ31をなしている。即ち、照射光軸と受光光軸と当該鉛直線に関して対象である。この場合は、図3(b)の如く、励起光照射部による励起光の水面上での照射領域EA1と光検出部による蛍光に対する水面上での検出領域FA1とが重なる領域SA1は相対的に広くなり、水面上の検出対象物質を高感度で検出するには有利となるはずである。しかしながら、この場合には、照射光の水面での反射光が光検出部に入射する割合は上掲の例の中では最大となるため、反射光に起因するノイズ成分が極めて大きくなるという点では非常に不利であり、この不利な点が勝る。一方、図2(d)のハッチングが施された領域UWdは、励起光照射部からの励起光の照射領域と前記光検出部の受光部における受光視野領域との水中における重なりの領域である。図2(d)の例では、この領域UWdが相対的に狭小であり、水中の検出対象物質を高感度で検出するには不利である。
【0033】
以上、励起光照射部130と光検出部140との設置角度の選択について、図2(a)〜図2(d)を参照して蛍光の検出特性に関する得失について説明した。
次に、図2に表された各設置態様のうち、従来同様の態様である図2(a)、本発明の実施の形態に該当する最も優れた態様である図2(c)、および、劣悪な態様である図2(d)の各例について、具体的に模擬的な条件を設定して実験を行った結果を次の表に示す。この表における「感度 S/N」の値が、総合的に見た検出特性の優劣を表す指標である。一見して了解されるとおり、本発明の実施の形態に該当する図2(c)の圧倒的な優位性が実証されるところである。
【0034】
【表1】

【0035】
尚、上掲の表において、「反射レベル」は、水面の波立ち、および、水槽底面(水底)からの反射等の影響を受けない条件を設定するために、静水面に替えて透明なガラス板を設置し、このガラス板からの反射を測定した。また、「蛍光レベル」は上記のガラス板の位置に油を入れたシャーレを置き、この油による蛍光を測定した。尚、このシャーレの底面には反射防止用の黒色のつや消し塗装を施している。
【0036】
図4は、図1の蛍光検出装置における検出データ処理系を表す機能ブロック図である。
また、図5は図4の各部における動作のタイミングを表すタイミングチャートである。
図4において、励起光照射部130に励起光照射のタイミングを制御するための発光トリガ信号S00を供給する発光トリガ信号発生部410が設けられている。図5(b)に上述の発光トリガ信号S00が発せられるタイミング(時点t0)が表されている。
【0037】
この発光トリガ信号発生部410は、また、照射前データ取得保持部420に光検出部140からのデータ検出のタイミングを規定する第1の検出タイミング信号S10を供給する。即ち、照射前データ取得保持部420は第1の検出タイミング信号S10に基づいて、励起光照射部130が励起光を照射する照射時点t0前の直近の第1時点t1で光検出部140から第1の検出データを得て保持する。図5(a)に上述の第1の検出タイミング信号S10の発せられるタイミング(時点t1)が、図5(d)に第1の検出データを得て保持するタイミングが表されている。
【0038】
光検出部140からの検出データはまた、照射時データ取得・保持部430に供給され、ここで取得・保持される。即ち、照射時データ取得・保持部430は、サンプルホールド制御部440から供給される第2の検出タイミング信号S20に基づいて、励起光照射部130における励起光照射に同期したタイミングで、光検出部140で検出される蛍光の検出出力を取得・保持(サンプルホールド)する。図5(c)に上述の第2の検出タイミング信号S20が発せられるタイミング(時点t2)が、図5(e)に上述の励起光照射に応じて生じる蛍光の発光のタイミングが、図5(f)に蛍光の検出出力を取得・保持(サンプルホールド)するタイミングが表されている。
【0039】
図5を参照して説明した励起光の照射から該励起光による蛍光の検出までの一連の動作は、図示より明らかな通り、一定の周期で繰り返し継続的に実行される。
尚、本実施の形態では、発光トリガ信号発生部410、照射前データ取得保持部420、照射時データ取得・保持部430、および、サンプルホールド制御部440を含んで検出データ取得部450が構成されている。この検出データ取得部450は、図1における検出データ取得部150に相当する。
【0040】
本実施の形態では、検出データ取得部450は、照射前データ取得保持部420で保持された第1の検出データD、および、照射時データ取得保持部430で保持された第2の検出データLを、後述する通信回路部からケーブル460を通して、検出対象物質の有無を判定する外部の検出データ判定部470に送信する。
検出データ判定部470は、上述の第2の検出データLから第1の検出データDを差し引く演算を実行して検出差分データL−Dを得る減算処理部471と、減算処理部471による演算結果を所定の閾値と比較することによって検出対象物質の有無を判定する判定処理部472と、判定処理部472が検出対象物質が有る旨の出力を発したことに応答してアラームを発生するアラーム発生部473を含んで構成されている。
【0041】
減算処理部471における上述のような減算処理を行うため、既述の従来技術におけるような外乱光防止体等を液面下に設けることなく液中からの反射ノイズを含む外乱光の影響を低減した検出データを得ることが可能になる。
図5(a)と図5(c)との対比、従って、図5(d)と図5(f)との対比より明らかなとおり、本実施の形態では、検出差分データL−Dを得るに供される第1の検出データDを取得するタイミングと第2の検出データLを取得するタイミングとの間にはサンプリングに係る時間差Tが生じることになる。この時間差Tは本実施の形態の装置における外乱光の影響を除去する能力を左右する値であり、これについては、図面を伴って後に詳述する。
【0042】
図6は、図4の検出データ処理系のうち図1の蛍光検出装置本体部に搭載される検出データ取得部の構成をより具体的に表す機能ブロックである。
図6に表記された検出データ取得部600の機能は、図4における検出データ取得部450の機能に相当する。
図6において、励起光照射部130には励起光の照射強度をモニタする発光モニタ部131が付設され、この発光モニタ部131の検出レベルに応じて励起光照射部130からの励起光の照射強度が適切なレベルを維持するべく閉ループ制御されるように構成されている。
【0043】
励起光照射部130は、照射用電力供給部610から照射用電力の供給を受けて発光動作を行う。照射用電力供給部610からの電力の供給のタイミングが光源駆動信号生成部611からのタイミング信号によって制御される。尚、本実施の形態では、照射用電力供給部610の電源は外部からケーブル中の電力供給用導体612を通して供給される。
一方、光検出部140で検出される蛍光の検出出力は、蛍光の波長域を通過域とするフィルタ部620を通してノイズ成分が除去され、更に、増幅部621で既定の増幅を行った上、サンプルホールド部622で図5(f)を参照して既述のタイミングで取得・保持される。
【0044】
このサンプルホールド部622で取得・保持されたアナログ信号である検出データが、AD変換部623を通してデジタルデータに変換される。そして、AD変換部623の出力であるデジタルデータがシステムコントローラ630に供給される。このシステムコントローラ630はマイクロプロセッサを主体に構成され、検出データ取得部600の系全体の動作を統括的に管理すると共に、所要のデータ処理および外部とのデータの授受を行う。
【0045】
上述の図6の構成において、光源駆動信号生成部611およびシステムコントローラ630の該当する機能が、図4のトリガ信号発生部410の機能に相当する。尚。図4では、照射用電力供給部610相当の機能部については図示省略されている。
また、図6におけるフィルタ部620、増幅部621、サンプルホールド部622、および、AD変換部623、ならびに、システムコントローラ630の該当する機能が、図4の照射前データ取得保持部420、照射時データ取得・保持部430、および、サンプルホールド制御部440の総体における機能を賄う。この結果、AD変換部623の出力として、図4の照射前データ取得・保持部420の出力に相当するデジタルデータSD1、および、照射時データ取得・保持部430に相当するデジタルデータSD2が順次出力され、システムコントローラ630に供給されて保持される。即ち、デジタルデータSD1は図4における第1の検出データDに相当し、デジタルデータSD2は第2の検出データLに相当する。
【0046】
システムコントローラ630の管理下に通信回路部640が設けられ、この通信回路部640によって、上述のようにシステムコントローラ630に保持されたデジタルデータSD1およびSD2がデータの伝送に適用する通信方式に適合した信号フォーマットに変換され、ケーブル中の信号用導体641を通して、検出データ判定部470(図4)に伝送される。
【0047】
図7は、図4および図6の検出データ取得部において蛍光を検出する際のデータ検出の特性を表す図である。
図7(a)は、外乱光の影響を受けない条件下での蛍光のデータ検出の特性を仮想的に表している。また、図7(b)は、外乱光の影響を受ける条件下での蛍光のデータ検出の実際の特性を表している。
図7(a)および図7(b)の何れにおいても、図示の通り、励起光の投射時点直後から、蛍光の検出レベルは一定の時定数をもって相対的に速やかに増加し、ピークに達して以降は相対的に緩慢に降下する特性を呈する。
【0048】
図7(b)におけるハッチングを施した部分は、図4および図5を参照して説明した励起光の投射時点直前における蛍光の検出レベル(第1の検出データD)、即ち、外乱光の検出レベルである。図示のとおり、検出データDも時間の推移と共にそのレベルが変化する。図7(b)の場合は、励起光の投射時点から蛍光の検出レベルがピークに達する近傍時点で検出されるまでの時間Tのうちに検出データはDからD′へと変化している。これは、励起光の投射時に検出される検出信号データLから励起光の投射時点直前に検出された検出信号データDを差し引いて蛍光の強度Sを割り出すに際して、検出データDの変動の程度(即ち、周波数)に応じて誤差を除去できる効果の程度に相違が生じることを意味する。
【0049】
上述のように除去可能な誤差は、外乱光強度の時間的推移の特性である周波数に大きく依存する。このように外乱光の周波数を勘案した本実施の形態の装置における外乱光の影響の抑制効果について次に説明する。
図8は、本発明の実施の形態としての蛍光検出装置における外乱光抑制の特性を表す図である。
図8は、外乱光が或る周波数の三角波であると仮定し、その1周期分のレベルの変化を表しており、例えば外乱光が所謂チラつきを生じている場合における、そのチラつきの1周期分のレベルの変化に対応する。
図8の三角波について、図4および図5を参照して既述のように取得した第1の検出データDの取得時点である励起光照射直前の時点(t1)と第2の検出データLの取得時点である蛍光のピーク近傍時点(t2)との時間差T(サンプリング間隔)に対応する検出レベルの値の変化について着目する。
【0050】
ここで、本実施の形態の装置において、外乱光の影響を除去する特性に関する要求仕様が、当該外乱光の波高値の10分の1に抑制する旨規定されていると仮定する。
この要求仕様が満足される状態とは、換言すれば、サンプリング間隔Tに対応する外乱光の検出レベルの変化が上記波高値の10分の1以下の範囲内にあるということである。
従って、外乱光の検出レベルの周波数fについて、f=1/20T以下の周波数である場合には、上記要求仕様が満足されることになる。具体例では、T=10μsecである場合にはf=5kHz以下の外乱光に対して上記要求仕様が満足される。
【0051】
(第2の実施の形態)
既述の図4における検出データ取得部450と検出データ判定部470とを併せ持つ、同図中二点鎖線で囲まれたような構成は、本発明の第2の実施の形態における蛍光検出装置に該当する。
但し、第2の実施の形態では、検出データ取得部450と検出データ判定部470とは比較的近接して設置されるため、既述の第1の実施の形態におけるように両者を結ぶケーブル460は不要であり、通常の配線で結ぶ構成が採られる。
この第2の実施の形態では、検出データ判定部470における減算処理部471で上述のような減算処理を実行するため、既述の従来技術におけるような外乱光防止体等を液面下に設けることなく液中からの反射ノイズを含む外乱光の影響を低減した検出データを得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0052】
10…………………………………水(透明な液体)
11…………………………………水面(液面)
12…………………………………水中(液中)
21…………………………………対象物質
22…………………………………対象物質
100………………………………蛍光検出装置
110………………………………装置本体部
111………………………………構造メンバ
112………………………………筐体部
120………………………………フロート部
130………………………………励起光照射部
131………………………………発光モニタ部
140………………………………光検出部
150………………………………検出データ取得部
410………………………………発光トリガ信号発生部
420………………………………照射前データ取得保持部
430………………………………照射時データ取得・保持部
440………………………………サンプルホールド制御部
450………………………………検出データ取得部
460………………………………ケーブル
470………………………………検出データ判定部
471………………………………減算処理部
472………………………………判定処理部
473………………………………アラーム発生部
600………………………………検出データ取得
610………………………………照射用電力供給部
611………………………………タイミングが光源駆動信号生成部
612………………………………電力供給用導体
620………………………………フィルタ部
621………………………………増幅部
622………………………………サンプルホールド部
623………………………………AD変換部
630………………………………システムコントローラ
640………………………………サンプルホールド制御部440
641………………………………信号用導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を照射すると蛍光を発する対象物質を検出する蛍光検出装置であって、
装置本体部を構成する構造メンバと結合され液面に対する前記装置本体部の水準位置が既定範囲内の位置となる浮力を得るフロート部と、
励起光を照射するように前記装置本体部に設けられた励起光照射部と、
前記励起光照射部から照射された励起光による当該対象物質の蛍光の受光レベルを検出するように前記装置本体部に設けられた光検出部と、を備え
前記励起光照射部は、励起光を照射する際の照射光軸が鉛直線に対し該照射光軸と鉛直線とに係る面内回転方向に既定の第1の角度の傾斜をなすように配置され、
前記光検出部は、受光光軸が鉛直線に対し該受光光軸と鉛直線とに係る面内で前記第1の角度と同じ回転方向に既定の第2の角度の傾斜をなすように配置されていることを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項2】
前記励起光照射部と前記光検出部とは、前記第1の角度と前記第2の角度とが異なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出装置。
【請求項3】
前記励起光照射部から励起光を照射する照射時点前の直近の第1時点で前記光検出部から第1の検出データを得て保持する照射前データ取得保持部と、前記照射時点後の直近の第2時点で前記光検出部から第2の検出データを得て保持する照射時データ取得保持部と、を含んで構成された検出データ取得部を更に備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光検出装置。
【請求項4】
前記検出データ取得部は、検出対象物質の有無を判定する外部の検出データ判定部に前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データおよび前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データを送信する通信回路部を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の蛍光検出装置。
【請求項5】
前記検出データ取得部は、前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データから前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データを差し引いた検出差分データに基づいて検出対象物質の有無を判定する検出データ判定部を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
励起光を照射すると蛍光を発する対象物質を検出する蛍光検出装置であって、
装置本体部を構成する構造メンバと結合され液面に対する前記装置本体部の水準位置が既定範囲内の位置となる浮力を得るフロート部と、
励起光を照射するように前記装置本体部に設けられた励起光照射部と、
前記励起光照射部から照射された励起光による当該対象物質の蛍光の受光レベルを検出するように前記装置本体部に設けられた光検出部と、
前記光検出部からの検出データを取得する検出データ取得部と、を備え、
前記検出データ取得部は、
前記励起光照射部から励起光を照射する照射時点前の直近の第1時点で前記光検出部から第1の検出データを得て保持する照射前データ取得保持部と、前記照射時点後の直近の第2時点で前記光検出部から第2の検出データを得て保持する照射時データ取得保持部と、
前記照射時データ取得保持部で保持された該第2の検出データから前記照射前データ取得保持部で保持された該第1の検出データを差し引いた検出差分データに基づいて検出対象物質の有無を判定する検出データ判定部を更に備えたことを特徴とする蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−37356(P2012−37356A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177179(P2010−177179)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(503035604)旭化成テクノシステム株式会社 (1)
【Fターム(参考)】