説明

蛍光標識試薬及び疎水場検出試薬としての新規キノリン化合物

【課題】細胞内機能分子の活性を可視的に解析するために、酵素活性等による蛍光強度変化が大きい蛍光基質の作成に有用である新規蛍光分子およびそれを利用して作成した蛍光標識ペプチドの提供。
【解決手段】一般式〈1〉で表される蛍光分子により基質ペプチドを標識し、細胞内機能分子活性の可視化解析を行う。


は―N(R11)(R12)(ここでR11 とR12は、H又はC1−6アルキル基などを意味する。)であり、Rは、Hなどであり、Rは、C1−6アルコキシなどである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規キノリン化合物、それら化合物からなる蛍光標識試薬、およびそれを導入した蛍光基質に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、細胞内機能分子の活性を可視化解析するための疎水場検出試薬として有用な蛍光標識ペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞が生きた状態で、特定の分子群の動態やそれらの相互作用を可視化することは、生命体の発生、細胞生理学や病的状態を理解する上で、必須のものとなってきている。生きて活動している生体内及び細胞内では、様々な機能分子が同時に、協力的に、拮抗的に、また連鎖的にネットワークを形成して活動している。また、小さな細胞内空間といえど、分子レベルから見れば巨大な空間であり、機能分子の存在部位がその機能を決定する重要な要因となる。しかしながら、生体内や細胞から単離され、純粋な人工環境で計測された機能分子の挙動から、その分子の生体内及び細胞内での機能を類推することは、実際には技術面からして困難を伴い、ほとんど不可能である。よって、細胞機能発現における特定分子の役割を知るためには、その機能分子が生きて活動している生体内および細胞内において、どこで、どのように活性化され、その状態がどのくらい持続するのかを可視的に解析することができるならば大いなる福音となる。
【0003】
それら機能分子の多くは、リン酸化酵素、脱リン酸化酵素に代表されるような酵素活性を有するものである。例えば細胞内情報伝達物質依存性プロテインキナーゼであるcAMP依存性蛋白質キナーゼ(プロテインキナーゼA:以下PKAという。)はそのひとつであって、細胞内情報伝達物質の調節を受け、細胞内の多様な反応を引き起こす重要な分子である。この酵素はホスホトランスフェラーゼの一つであり、cAMPが結合する調節ユニットと触媒ユニットから構成され、ATPのγ―リン酸基をタンパク質の特定のセリン又はスレオニンのヒドロキシル基へ転移させる。ホルモンなどの細胞外の刺激によって活性化されるPKAは、さまざまなタンパク質をリン酸化して、その活性に変化を与える。PKAによってリン酸化される酵素、すなわちPKA基質となる酵素としては、PKAによって活性化される酵素として、ホスホリラーゼキナーゼ、チロシン3−ヒドロキシラーゼ等が挙げられ、逆に不活性化される酵素としては、グリコーゲンシンターゼ、ピルビン酸キナーゼ等があげられる。
【0004】
またカルシニューリンは、カルモジュリン (CaM)依存性のセリン/スレオニン脱リン酸化酵素で、活性基をもつ分子量61kDaのカルシニューリンA(CnA)と制御サブユニットである分子量19kDaのカルシニューリンB(CnB)から成るヘテロ二重体蛋白である。この酵素は、免疫制御剤であるシクロスポリンやタクロリムスの標的分子で、それらの薬剤により活性が阻害される。この活性阻害機序は細胞内結合蛋白であるそれぞれに特異的なイムノフィリンと結合し、この免疫抑制剤−イムノフィリン複合体がCnBを介して結合し、カルシニューリンの触媒部分の立体障害を生じることに起因する。現在、カルシニューリンとイムノフィリンはそれぞれの活性を通じて、細胞死を始めとした細胞内機能を制御する新たな情報伝達系として重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。リンパ球の活性化に必須の役割を果たしており、その阻害薬であるシクロスポリンAやFK506は、移植医療において拒絶抑制に有効である。最近では能や心臓での役割も注目されている重要な細胞内機能分子である。
【0005】
カルモジュリン(CaM)はカルシウム結合たんぱく質のひとつであり、真核細胞に普遍的に存在する。カルシウム依存性の細胞機能として理解されているほとんどが、カルモジュリンを介して調節されていることが明らかになっている。カルシウムカルモジュリン依存性キナーゼ(CaMKII)はカルモジュリンによって調節されているリン酸化酵素のひとつであり、細胞内で重要な役割を担っている。
【0006】
このようなリン酸化、脱リン酸化酵素の細胞内局在を解析する場合には、蛍光標識した基質を細胞内に導入し、その基質がリン酸化、脱リン酸化を受けることによる構造の変化を、可視化観察することにより行うことができる。即ち、蛍光標識された基質が、酵素によりリン酸化又は脱リン酸化を受けると、環境は疎水場から親水場又は親水場から疎水場に変化する。その場の変化により、蛍光基質の蛍光強度や蛍光波長に変化が生じ、可視化観察することができるのである。
【0007】
しかし、現在知られている蛍光標識試薬を導入した蛍光基質では、その蛍光強度や蛍光波長の変化量が極めて少ないため、酵素の局在を解析するのには不十分であるという問題点があった。その問題点を解決するためには、場の変化によりその蛍光強度や蛍光波長を大きく変化させることができる新規蛍光分子の開発が必要と考えられていた。また、既存の蛍光分子は、ペプチドのN末端又はC末端のアミノ酸を標識するものであるため、リン酸化や脱リン酸化を受ける内部配列中のアミノ酸から、標識された蛍光分子までの距離が遠くなるため、場の変化を効率よく感知することができなかった。その点を改善するためには、ペプチドの内部配列中のリン酸化又は脱リン酸化部位の近傍のアミノ酸を標識することができるような蛍光分子の開発が必要であった。さらには、基質としての性質を完全に保持した状態で蛍光標識が可能であるようなものや、細胞内での安定性が高いもの、細胞膜透過性が高いもの等が強く求められているが、この点でも既存品は不十分であったため、これらの問題点を克服した新しい蛍光分子の開発が切望されていた。
【0008】
現在知られている蛍光標識試薬としては、次のようなものがあげられる。
ペプチドのN−末端アミノ酸であるプロリンのアミノ基の蛍光標識試薬としては、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミンBイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ダンシルクロリド、ダンシルフルオリド、フルオレスカミン、o―フタルアルデヒド、TRITC,TAMRA−X
SE,ROX−SE,BODIPY−SE,BODIPY FL BR2−SE等が挙げられる。また、システインのチオール基の蛍光標識試薬としては、テキサス・レッド(Texas
Red)・マレイミド、N−(7−ジメチルアミノー4−メチルクマニル)マレイミド、N−(1−ピレン)マレイミド等のマレイミド誘導体、テトラメチルローダミンヨードアセトアミド、テキサス・レッド・ブロモアセトアミド、N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a、−ジアザ−S−インドアセン−3−イル)メチル)ヨードアセトアミド、5−ヨードアセトアミドフルオレセイン、N−(1−ピレン)ヨードアセトアミド等のヨードアセトアミド誘導体、アジリジン誘導体、フルオレセインメルクリ酢酸等の水銀誘導体、ジダンシルーL―シスチン等のジスルフィド誘導体、4−フルオロー7−ニトロベンゾフラザン等のハロゲノベンゾフラザン誘導体が挙げられる。チオール基の蛍光標識試薬であるヨードアセトアミド誘導体は、溶液状態で光に不安定であり、反応条件によっては、ヒスチジンやメチオニンとも反応する。これらの蛍光標識試薬は、水に対する溶解度、安定性、反応特異性、蛍光極大波長等に特徴を有する(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
また、蛍光標識ペプチドおよび蛍光プローブとしては、次のようなものが知られている。
【0010】
本発明者らによるCaMKII 用プローブとして、その特異的合成基質でアミノ酸15残基よりなるSyntide 2 にAcrylodan を付したAS 2及びその類似体が、またPKA用プローブとしては、下記式に示したPKAの調節ドメイン内の一部(R II)にAcrylodanを付したAR IIやR IIドメインの脂溶性を増加したペプチドにDACMを付したDR IIがすでに知られている。AR II及びDR IIは蛍光性低分子量ペプチドであり細胞膜透過性であることから、培養液に添加するだけで簡単に細胞内にロードすることが出来るなどの利点を持つ。(例えば、非特許文献2、非特許文献3等参照)。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
これらの蛍光標識ペプチドは、N末端又はC末端のシステインのチオール基と反応するように設計された蛍光分子を用いて作成されたものである。しかしCaMKIIやPKAによってリン酸化される前後の蛍光強度の差はわずかであり、解析に用いるには不十分であった。
また、これらに用いられている蛍光分子は、上記のようにナフタレン骨格及びクマリン骨格を有するものであり、キノリン骨格を基本骨格とするものではない。
【0014】
また、特開2001−19700には本発明者らによる蛍光標識ペプチドが記載されている。この蛍光ペプチドは下記式に示したN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a、−ジアザ−S−インドアセン−3−イル)メチル)ヨードアセトアミドを蛍光試薬として用いて作成したものである。
【0015】
【化3】

【0016】
この蛍光標識ペプチドは、PKAの基質となるものであるが、リン酸化後の蛍光強度の変化はわずかであり、解析に用いるには不十分なものであった(特許文献1参照)。
【0017】
また、蛍光プローブとしては、萩原らや梅澤らによる遺伝子工学的なアプローチによる蛍光プローブも報告されている(例えば、非特許文献4又は非特許文献5参照)。
また Tsien らも同様の手法で、PKA によってリン酸化される基質部分に良く知られた Kemptide のアナログ(LRRASLP)、そしてそのリン酸化認識ドメインとして 14-3-3t を用い、さらにそれらの両端を、それぞれ変異 GFP(YFP, CFP)で挟んだキメラタンパク質によるイメージングを報告している(例えば、非特許文献6参照。)
【0018】
しかし遺伝子工学的手法を用いた蛍光標識プローブの作成には、様々な専門的技術が必要であり、さらにその発現量を調節することも容易ではないという問題点がある。
【0019】
また、ナフタレン環骨格を有する蛍光分子として下記のような化合物も知られている。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【特許文献1】特開2001−19700号公報
【非特許文献1】バイオ基礎実験攻略ガイド, 別冊標識・検出編―蛍光標識法―(アマシャム・バイオサイエンス社、2004年)
【非特許文献2】H. Higashi, K. Sato, A. Ohtake, A. Omori, S. Yoshida, Y. Kudo, FEBSLett., 414, 55 (1997).
【非特許文献3】工藤佳久、東秀好、細胞工学、16, 64(1997)
【非特許文献4】Y. Nagai, M. Miyazaki, R. Aoki, T. Zama, S. Inouye, K. Hirose, M.Iino, M. Hagiwara, Nature Biotech., 18, 313 (2000).
【非特許文献5】日本分析化学第50年会講演予稿集(2001)p205
【非特許文献6】J. Zhang, Y. Ma, S. S. Taylor, R. Y. Tsien, Proc. Natl. Acad.Sci.U.S.A., 98, 14997 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
細胞内機能分子可視化試薬は、細胞内タンパク質リン酸化反応に関与する酵素群、すなわちタンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)と脱リン酸化酵素(プロテインフォスファターゼ)を標的としている。これらのタンパク質リン酸化は多くの機能分子の活性調節に関与しており、これにより遺伝子発現、細胞増殖、細胞死、分泌、膜電位応答など様々な細胞機能が制御されている。
本発明においては、目的のリン酸化または脱リン酸化酵素の特異的基質を選択して、これに疎水場検出蛍光試薬を導入した蛍光基質を作製することであり、当該酵素反応によって基質がリン酸化または脱リン酸化修飾された際に生ずる疎水場の変化を導入した蛍光試薬の蛍光量の変化として検出するための新規試薬を提供することを目的とするものである。
リン酸化・脱リン酸化酵素等の細胞内機能分子の局在および活性を可視的に解析するためには、基質側を蛍光標識し、酵素機能の発揮によって、蛍光基質の蛍光強度や蛍光波長に大きな差が生じることが必要である。即ち、基質が酵素によって修飾されることでおこる疎水場、親水場の変化により、標識に用いられている蛍光分子の蛍光強度又は蛍光波長が有意に変化することが必要である。
【0023】
しかし、従来の蛍光標識試薬を用いて作成した蛍光基質では、その変化率が極めて少ないため、酵素の局在を解析するのには不十分であるという問題点があった。また、これらの蛍光基質は細胞内で不安定であり、長時間の解析が不可能であるという問題点もあった。
さらに、基質としての性質を十分に保持した状態で蛍光標識が可能であるようなものが求められているが、その点でも問題があった。
本発明は、これらの問題点を解決することを目的とし、蛍光標識試薬として有用な新規蛍光分子、さらには該化合物により標識した蛍光基質であって、疎水場検出試薬として有用な蛍光標識ペプチドを提供することを課題とする。
即ち、本発明は、特異的基質に蛍光試薬を導入することによって、酵素修飾を受けた状態を蛍光試薬の蛍光強度の変化に置き換えて、計測することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、下記一般式〈1〉で表されるキノリン化合物が、リン酸化・脱リン酸化酵素等の細胞内機能分子の局在および活性を可視的に解析する際に、優れた蛍光標識分子、疎水場検出試薬あるいはリン酸化及び/又は脱リン酸化可視化試薬として利用できることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、これら下記一般式(1)で表されるキノリン化合物をペプチド内に予め導入しておいたアミノ酸の反応性基、例えばシステインのSH基と反応させることによって、ペプチド分子内に蛍光標識分子を導入することができる。さらに、化合物中にFmoc化したアミノ酸残基を導入してなる下記(4)に記載したような化合物を用いるならば、ペプチド合成装置を用いて、ターゲットとするペプチドの配列中に通常のアミノ酸と同じようにして標識された本発明化合物を容易に導入することができる。
すなわち本発明は、以下に示すとおりである。
【0025】
(1)下記一般式(1)で表されるキノリン化合物。
【0026】
【化6】

[式中、
は―N(R11)(R12)(ここでR11 とR12は、同一又は異なって水素原子又はC1−6アルキル基を意味し、又は、R11 とR12が隣接する窒素原子と一緒になって形成される4乃至7員の飽和複素環を意味する。)であり、
は、水素原子、水酸基、C1−6アルキル基、アリール基、又は−O−R’(ここで、R’は、アラルキル基(該アラルキル基は、C1−6アルコキシ基又はC1−6アルキル基で置換されてもよい。)又はアシル基である)であり、
は、C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、ハロゲン化C1−6アルキル基、−N(R31)(R32
(ここで、R31は水素原子又はC1−6アルキル基を意味し、R32はC1−6アルキル基又は−(CH−A−(CO)−B(ここでnは1乃至4の整数を意味し、Aは−NH−又は−O−を意味し、BはC2−6アルケニル基を意味する。)である。]
【0027】
(2)Rがピロリジノ基、ピペリジノ基又はジ(C1−4アルキル)アミノ基であり、Rが水素原子、水酸基、4−メトキシ基で置換されてもよいベンジルオキシル基、C1−6アルキル基又はアリール基であり、Rがエテニル基、C1−4アルコキシ基、又は−N(R31a)(R32a)(ここで、R31aは水素原子であり、R32aはC1−4アルキル基,−(CH−O−(CO)−CHCH又は−(CH−NH−(CO)−CHCHである上記(1)に記載のキノリン化合物。
【0028】
(3)下記式から選ばれる上記(2)に記載のキノリン化合物。
【0029】
【化7】

【0030】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のキノリン化合物を蛍光標識分子とする蛍光標識試薬。
【0031】
(5)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のキノリン化合物を標識分子とする疎水場検出試薬。
【0032】
(6)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のキノリン化合物を標識分子とするリン酸化および脱リン酸化可視化試薬。
【0033】
(7)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のキノリン化合物を標識分子成分として含む蛍光プローブ。
【0034】
(8)ペプチドのN末端、C末端又は内部配列の一部を、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のキノリン化合物からなる標識分子で標識した蛍光標識ペプチド。
【0035】
(9)上記(8)に記載の蛍光標識ペプチドを標識分子成分として含む疎水場検出試薬。
【0036】
(10)上記(8)に記載の蛍光標識ペプチドを標識分子成分として含むリン酸化および脱リン酸化可視化試薬。
【0037】
(11)上記(8)に記載の蛍光標識ペプチドからなる蛍光プローブ。
【発明の効果】
【0038】
本発明の新規キノリン化合物によって標識した蛍光基質を用いることにより、リン酸化酵素、脱リン酸化酵素等の酵素活性を蛍光強度の変化に置き換えて高感度に可視化計測できるようになった。リン酸化又は脱リン酸化によって、該蛍光基質の環境が、疎水場又は親水場に変化することによって、その蛍光強度が増減するというメカニズムによるものである。酵素存在下での蛍光強度の変化率は約50%と従来の技術では考えられないほど高いものであった。また、従来の蛍光標識試薬は、ペプチドのC末端又はN末端のアミノ酸に結合することによって蛍光標識できるものであったため、リン酸化部位、脱リン酸化部位等がペプチド末端から遠くなる場合には特に蛍光強度の変化を検出することが困難であった。それに対して、本発明の蛍光分子は、ペプチドの内部配列の一部に結合させることも可能であり、リン酸化、脱リン酸化部位の近傍を標識することが可能となった。また細胞内での安定性も高く、基質の性質を十分維持した状態での標識が可能であった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明は、細胞内機能分子の局在および活性を可視的に解析するために有用である新規な蛍光分子、それを成分とする蛍光標識試薬、疎水場検出試薬、それらにより標識された蛍光標識ペプチドを提供する。以下、本発明のために、好ましい実施形態に関して詳述する。
【0040】
本明細書において使用する各置換基の定義は次の通りである。
「C1−6アルキル基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖又は分枝してもよいアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基又はヘキシル基等であり、好ましくは炭素数1乃至4個の直鎖又は分枝してもよいアルキル基である。特に好ましくはメチル基、エチル基、又はイソプロピル基である。
11及びR12は、好ましくはメチル基又はエチル基であり、特に好ましくはメチル基である。R、R32において好ましくは、エチル基である。R31において好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0041】
「隣接する窒素原子と一緒になって形成される4員乃至7員の飽和複素環」とは、炭素原子および1個の窒素原子以外に、例えば窒素原子,酸素原子および硫黄原子などのヘテロ原子を1ないし3個を含有していてもよい4乃至7員の含窒素飽和複素環基である。具体的には、例えば
【0042】
【化8】

等を挙げることができる。
特に好ましくは、
【0043】
【化9】

である。
【0044】
「C1−6アルコキシ基」とは、そのアルキル部位が上記定義の「C1−6アルキル基」であるアルキル−オキシ基であり、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。好ましくは、C1−4アルキル基である。
【0045】
「ハロゲン化C1−6アルキル基」とは、1乃至6個、好ましくは1乃至3個、特に好ましくは1個のハロゲン原子で置換された上記定義の「C1−6アルキル基」であり、好ましくは炭素数1乃至4個の直鎖又は分枝してもよいハロゲン化アルキル基である。ハロゲン原子とは、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等である。
において好ましくは臭素原子、又は塩素原子である。具体的には、ブロモメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、クロロメチル基等が挙げられるが、特に好ましくは、ブロモメチル基、クロロメチル基である。
【0046】
「C2−6アルケニル基」は、炭素原子数2乃至6の直鎖状又は分枝鎖状の少なくとも1つの二重結合を有する不飽和基を意味し、例えば、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソ−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等を挙げることができる。
好ましくは、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)等のC2−4アルケニル基であり、特に好ましくはエテニル基(ビニル基)である。
【0047】
「C2−6アルキニル基」は、少なくとも1つの三重結合を有する炭素原子数2乃至6の直鎖状又は分枝鎖状炭化水素基を意味し、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基を挙げることができる。
好ましくはC2−4アルキニル基であり、特に好ましくはエチニル基である。
【0048】
「アシル基」は、カルボニル基を有する基であり、具体的には、ホルミル基、C1−6アルキル−カルボニル、C1−6アルコキシ−カルボニル、C6−14アリール−カルボニル、C7−15アラルキル−カルボニル、芳香族複素環−カルボニル、5乃至7員非芳香族複素環−カルボニル、C3−8シクロアルキル−カルボニル(例、シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル);C8−13アリールアルケニル−カルボニル(例、スチリルカルボニル);C8−13アリールアルキニル−カルボニル(例、フェニルエチニルカルボニル);C6−14アリールスルホニル(例、フェニルスルホニル);モノ−またはジ−C1−6アルキル−カルバモイル(例、メチルカルバモイル、tert-ブチルカルバモイル);C3−8シクロアルキル−カルバモイル(例、シクロプロピルカルバモイル、シクロペンチルカルバモイル、シクロヘキシルカルバモイル);C6−14アリール−カルバモイル(例、フェニルカルバモイル);C7−14アラルキル−カルバモイル(例、ベンジルカルバモイル、フェネチルカルバモイル、ジフェニルエチルカルバモイル);C3−8シクロアルキルアルキル−カルバモイル(例、シクロヘキシルメチルカルバモイル);芳香族複素環カルバモイル(例、イソキサゾリルカルバモイル、ベンゾチアゾリルカルバモイル);非芳香族複素環カルバモイル(例、ピロリジニルカルバモイル);C7−14アラルキルオキシ−カルバモイル(例、ベンジルオキシカルバモイル); 等を意味する。
特に好ましくは、ホルミル基、アセチル基等のC1−4アルキル−カルボニル基、メトキシカルボニル基等のC1−4アルコキシ−カルボニル、ベンゾイル基等のC6−14アリール−カルボニル、ベンジルカルボニル基等のC7−15アラルキル−カルボニルである。
【0049】
「C7−C15アラルキル基」は具体的には炭素数6乃至14個の芳香族炭化水素基の1又は2個が、前記「C1−6アルキル基」に結合した「C7−C15アラルキル基」を意味し、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、インデニルメチル基、フェナンスレニルメチル基、アントラセニルメチル基、ジフェニルメチル基、フェネチル基、ナフチルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルペンチル基又はフェニルヘキシル基等を挙げることができる。好適には、ベンジル基、ナフチルメチル基、ジフェニルメチル基又はフェネチル基であり、更に好適には、ベンジル基又はフェネチル基であり、特に好適にはベンジル基である。
【0050】
nは、1乃至4の整数をであり、好ましくは1又は2であり、特に好ましくは2である。
mは、1乃至4の整数をであり、好ましくは1又は2であり、特に好ましくは2である。
【0051】
11 及びR12は、好ましくは同時にC1−6アルキル基であり、特に好ましくは、R11
とR12が共にメチル基又はエチル基である。また、R11 とR12は隣接する窒素原子と一緒になって4乃至7員の飽和複素環を形成してもよい。好ましい該飽和複素環が下記のごとき少なくとも1つの窒素原子を有する飽和複素環である。
【0052】
【化10】

これら複素環として特に好ましいものは、下記に示す少なくとも1つの窒素原子を含む4員乃至6員の飽和複素環である。
【0053】
【化11】

【0054】
は、蛍光特性に直接の影響を及ぼすものではないので特に制限されることはないが、好ましくは、水素原子、水酸基、C1−6アルキル基、アリール基、又は−O−R’(ここで、R’は、アラルキル基(該アラルキル基は、C1−6アルコキシ基又はC1−6アルキル基で置換されてもよい。)又はアシル基である)であり、特に好ましくは、水素原子、C1−6アルキル基、アリール基又は−O−R’である。
として好ましい「アリール基」は、フェニル基であり、該フェニル基は水酸基、C1−6アルキル基及びC1−6アルコキシ基から選ばれる置換基で置換されてもよい。
’として好ましい「アラルキル基」は、C1−4アルコキシ基で置換されてもよいベンジル基であり、特に好ましくはベンジル基、4−メトキシベンジル基である。
として好ましい「C1−6アルコキシ基」は、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基等のC1−4アルキル基である、特に好ましくはエトキシ基である。
として好ましい「C2−6アルケニル基」は、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)等のC2−4アルケニル基であり、特に好ましくはエテニル基(ビニル基)である。
として好ましい「C2−6アルキニル基」は、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基を挙げることができる。好ましくはC2−4アルキニル基であり、特に好ましくはエチニル基である。
として好ましい「ハロゲン化C1−6アルキル基」は、ブロモメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、クロロメチル基等のハロゲン化C1−4アルキル基であり、特に好ましくは、ブロモメチル基、クロロメチル基である。
31は、好ましくは水素原子又はC1−4アルキル基であり、特に好ましくは水素原子である。
32として好ましい「C1−6アルキル基」は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のC1−4アルキル基である。
32としての「−(CH−A−(CO)−B」において、好ましいnは1乃至4の整数、特に2であり、好ましいAは−NH−又は−O−であり、またBとして好適な「C2−6アルケニル基」は、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)等のC2−4アルケニル基であり、特に好ましくはエテニル基(ビニル基)である。
【0055】
本発明の蛍光分子の好適なキノリン化合物の具体例は下記のとおりであるが、本発明の蛍光分子はこれらに限定されることはない。
【0056】
【化12】

【0057】
蛍光標識試薬
本発明における蛍光標識試薬は、一般式(1)で表されるキノリン化合物である蛍光分子の1種類又は複数種類を含むことができる。また、本発明における蛍光分子又は蛍光標識試薬により標識される物質(被標識物質)としては、抗体、蛋白、ペプチド、酵素基質、ホルモン、リンフォカイン、代謝産物、レセプター、抗原、ハプテン、レクチン、アビジン、ストレプトアビジン、トキシン、炭水化物、多糖類、核酸、デオキシ核酸、核酸誘導体、誘導デオキシ核酸、DNAフラグメント、RNAフラグメント、誘導DNAフラグメント、誘導RNAフラグメント、天然薬物、ウイルス粒子、バクテリア粒子、ウイルス成分、イースト成分、血液細胞、血液細胞成分、バクテリア、バクテリア成分、天然ないし合成樹脂、合成薬物、毒物、環境汚染物質、重合体、重合体粒子、硝子粒子、プラスチック粒子、重合体膜等、又はそれらの複合物等があり、これらは、天然から抽出したもの、人工的に完全合成したもの、あるい人工的に半合成したもののいずれであってもよい。
好ましくは抗体、蛋白、ペプチド、酵素基質、ホルモン、リンフォカイン、代謝産物、レセプター、抗原、ハプテン、レクチンである。特に好ましくは蛋白、ペプチドである。
【0058】
蛋白・ペプチドの具体例としては、PKA、CaMKII、パーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素等、血清アルブミン、IgG・IgA・IgM・IgD・IgE等の免疫グロブリン、種々のタンパク質や白血球の膜抗原に対するモノクローナル抗体が挙げられ、ペプチドとしては、上記タンパク質の全アミノ酸配列の一部のみである場合も含まれる。
【0059】
上記物質に本発明の蛍光分子を結合させるためには、標識すべき物質中の、あるいは該物質中に予め導入したチオール基、アミノ基、水酸基等の官能基と蛍光分子中のエテニル基、アミノ基、アルコキシ基等の官能基を利用して直接、イオン結合的又は共有結合的に結合させるか、あるいは蛍光分子が反応できるように、被標識物質の一部に結合基(リンカー)を付加する等の化学修飾を施したのち、反応させればよい。蛍光分子で標識された物質はクロマトグラフィー、再結晶等の慣用の分離手段により精製することができる。
【0060】
本発明の蛍光分子又は蛍光標識試薬により標識するには、公知の方法により容易に行うことができる。本発明の蛍光分子と非標識物質中のSH基等の結合は、蛍光分子の反応性官能基と物質中のSH基とを常法に従って反応させればよい。また、反応終了後、未反応物はなるべく除去することが好ましく、例えば透析法、遠心分離法、ゲル濾過法又は限外濾過法などによって除くことができる。ここで、縮合剤としては1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ジ−p−トレオイルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、水溶性カルボジイミド(CHMC)のようなカルボジイミド類や、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド等が使用される。
【0061】
蛍光標識ペプチド
本発明の蛍光標識ペプチドは、ペプチドのN末端、C末端、又は内部配列中のアミノ酸が本発明の蛍光標識分子によって標識されたものである。好ましくは、リン酸化酵素、脱リン酸化酵素によってリン酸化又は脱リン酸化されるチロシン、セリン、スレオニン等のアミノ酸を含む複数のアミノ酸からなるペプチドのN末端、C末端、又は内部配列中のアミノ酸が本発明の新規蛍光分子によって蛍光標識されたものである。特に好ましくは、PKA基質となる、即ちPKAによって特異的にリン酸化されるセリン又はスレオニンを含む複数のアミノ酸からなるペプチドのN末端、C末端、又は内部配列中のアミノ酸が蛍光標識されたものである。最も好ましくは、PKAによって特異的にリン酸化されるセリンを含む7又は8個のアミノ酸からなる下記配列で表されるペプチドのN末端、C末端、又は内部配列中のシステインが蛍光標識されたものである。これらの蛍光標識ペプチドがリン酸化酵素、又は脱リン酸化酵素によって修飾された後のものも、本発明の蛍光標識ペプチドに含まれるものとする。
【0062】
AKM2(LRRCSLG)- Quinaminone1
AKXN(LRRXSLG)
AKXC(LRRASXLG)
【0063】
本発明のペプチドは, 常法に従って合成できる。たとえば、上記ペプチドは、従来公知の固相ペプチド合成法(メリフィールド法)により合成できる。この方法によれば、合成しようとするペプチドのカルボキシル末端アミノ酸のt−ブトキシカルボニル(Boc)誘導体を、クロロメチル化した架橋ポリスチレンに導入し、次いでBoc基を除去して得られる樹脂上のアミノ酸の遊離アミノ基に第二のBoc―アミノ酸を結合させる。この操作を繰り返すことにより、目的とするペプチド鎖を構築する。さらに、全ての保護基を除去するとともに、目的とするペプチドを樹脂から取り出す。
【0064】
また、一般的に、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換(例えば、ある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換)を導入した場合、得られる修飾ペプチドはもとのペプチドと同様の性質を有することが多い。このような修飾ペプチドも本発明の範囲に含まれる。
【0065】
PKA基質
PKAとは、上述したように、細胞内情報伝達物質依存性プロテインキナーゼであるcAMP依存性蛋白質キナーゼのことであり、PKA基質とは、PKAによりリン酸化されるタンパク質およびペプチドのことをいう。ホルモンなどの細胞外の刺激によって活性化されるPKAは、さまざまなタンパク質をリン酸化して、その活性に変化を与える。PKA基質となる酵素としては、PKAによって活性化される酵素として、ホスホリラーゼキナーゼ、チロシン3−ヒドロキシラーゼ等が挙げられ、逆に不活性化される酵素として、グリコーゲンシンターゼ、ピルビン酸キナーゼ等があげられる。PKA基質としては、これら酵素タンパク質の一部のアミノ酸配列と同一のもの、又はそれらから1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/又は付加したアミノ酸配列からなるペプチドであって、PKAによりリン酸化されるものが含まれる。
【0066】
疎水場検出試薬
試薬の環境が、疎水場から親水場、又は親水場から疎水場に変化することにより、蛍光強度や波長が大きく変化する蛍光指示薬のことをいう。例えば、リン酸化酵素又は脱リン酸化酵素により蛍光標識された基質ペプチドがリン酸化又は脱リン酸化されると、試薬の場の環境は大きく変化し、それらの変化を感知して蛍光強度や波長が大きく変化するような試薬が含まれる。それ以外に、プロテアーゼによる基質の切断が原因でおこる疎水場の変化等、細胞内機能分子の機能による場の変化を検出できる試薬もこれに含まれる。
【0067】
リン酸化可視化試薬・脱リン酸化可視化試薬
酵素の触媒サブユニットの添加等により、蛍光標識された基質ペプチドに変化がおこると、蛍光強度の増加又は減少という形で酵素活性の存在を可視化することができる試薬のことをいう。基質ペプチドの変化としては、酵素処理による疎水場、親水場の変化が代表的な例として挙げられる。このように、リン酸化酵素の活性を可視化するために、特異的基質ペプチドや触媒サブユニット等を含んだ試薬をリン酸化可視化試薬といい、脱リン酸化酵素の活性を可視化するために、特異的基質ペプチドや触媒サブユニット等を含んだ試薬を脱リン酸化可視化試薬という。本発明のリン酸化可視化試薬および脱リン酸化試薬は、特異的基質ペプチドとして本発明の蛍光標識ペプチドを成分として含むものである。
【0068】
蛍光プローブ
本発明の蛍光プローブは、検体に蛍光プローブを作用させ、励起光を当てて蛍光を測定するという、従来の蛍光プローブと全く同様な方法によって使用することができる。例えば、ジメチルスルフォキシド(DMSO)のような、極性有機溶媒に溶解したものを、緩衝液に加え、これを検体に加え(又は検体にこれを加え)てインキュベートし、励起光を当てて蛍光を測定することができる。極性有機溶媒中のプローブ濃度は、特に限定されないが、通常、0.1 mMないし10 mM程度、好ましくは、0.5 mMないし2 mM程度であり、また、緩衝液に添加した後のプローブ濃度は、特に限定されないが、通常、1 μMないし0.1 mM程度、好ましくは、5μMないし20μM程度である。インキュベーションの時間は、特に限定されず、検体に応じて適宜選択できるが、通常、5分間〜1時間程度でよい。また、インキュベーションの温度は、特に限定されず、各検体に適した温度が適宜選択できるが、通常、0℃〜40℃程度であり、検体が細胞又は組織である場合には、その培養に適した温度(例えば、ヒト由来の細胞又は組織であれば37℃)であることが好ましい。また、蛍光の測定は、市販の蛍光計を用いて行うこともできるし、細胞内酵素の局在や性質を調べる場合には、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡を用いて観察することができる。このような測定方法自体は公知である。また、検体としては、特に限定されず、その中に含まれる酵素活性を測定しようとするいずれのものであってもよく、好ましい例として、各種細胞や組織を挙げることができる。検体が細胞又は組織である場合には、細胞又は組織の培養液を、上記した蛍光プローブ溶液に置換し、上記のようにインキュベートし、蛍光を測定することができる。
【0069】
次に、一般式(1)で表される蛍光分子の製造方法の一例を説明するが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。また、後述の反応を行う際に、当該部位以外の官能基については必要に応じてあらかじめ保護しておき、適当な段階においてこれを脱保護してもよい。更に、各工程において、反応は通常行われる方法で行えばよく、単離精製は結晶化、再結晶化、カラムクロマトグラフィー、分取HPLC等の慣用される方法を適宜選択し、又は組み合わせて行えばよい。
【0070】
一般製法
一般式(1)で表される化合物は、例えば下記の方法によって製造することができるが、これに限定されるものでなく、公知または周知の製造技術を適用することによって製造することができる。具体的には後述の実施例に準じて製造することが出来る。
【0071】
製造方法(A)
以下に述べる方法は、RがC2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、あるいはハロゲン化C1−6アルキル基等である場合に特に好適である。
【0072】
【化13】

【0073】
ここで、X、X、Xはそれぞれ臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子を意味し、AlkはC1−6アルキル基を意味する。R11、R12、R、Rは上記と同意である。
化合物(B)は、公知の化合物またはそれらから製造した化合物(A)に臭化ベンジル等のRを反応させることによって得ることができる。
ついで、得られた化合物(B)にHN(R11)(R12)を反応させて化合物(C)を得、さらに2位のアミドを公知の方法に従ってホルミル化した後、RMgXを用いた所謂グリニヤール反応と引き続く酸化反応によって化合物(E)を得ることができる。詳細は実施例1に記載のとおりである。
【0074】
製造方法(B)
以下に述べる方法は、RがC1−6アルコキシ基、−N(R31)(R32)等である場合に特に好適である。
【0075】
【化14】

(式中、R11、R12、R、R、X、Alkは上記と同意である。)
パラフェニレンジアミン化合物(F)をオキサロ酢酸ジエチルナトリウム等のオキサロ酢酸ジアルキルナトリウム(G)と反応させることによってキノリン化合物(H)を得、続いてこれに臭化ベンジル等のRを反応させて化合物(I)を得、さらに化合物(I)にエチレンジアミンを加えて反応させた後、塩化アクリロイル等を反応させることによって化合物(J)を得ることができる。
また、上記エチレンジアミンの代わりにエタノールアミンを化合物(I)に反応させることによって化合物(K)を得ることができる。詳細は実施例2、3に記載のとおりである。
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0077】
1−(4−ベンジルオキシ−6−ピロリジン−1−イルキノリンー2−イル)プロペノン(クイナミノン1(Quinaminone1))の製造
【0078】
【化15】

【0079】
工程1;6−ブロモ−4−ヒドロキシキノリン−2−カルボン酸エチルエステルの製造
【0080】
【化16】

【0081】
オキサロ酢酸ジエチルナトリウム
(12.0 g, 57.0 mmol) のエーテル (200 mL) 懸濁液に、硫酸 (1.0 M, 40 mL) を加えて中和した。有機層を分取し、水層をエーテルで三回抽出し、有機層を合わせた。この有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、濾液を減圧下濃縮した。残渣をトルエン (150 mL) に溶解し,4-ブロモアニリン (10.8 g, 62.7 mmol) を加え、100 ℃で2時間撹拌し、溶媒を減圧下留去した。残渣をジフェニルエーテル (100 mL) に溶解し、270 ℃で1.5時間還流した後、室温まで冷却しヘキサン (200 mL) を加えた。混合物を吸引濾過した.固形物を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム : 酢酸エチル = 4 : 1) で精製し、標記化合物 (7.5 g, 25.2 mmol, 44% 収率。) を得た。
黄色結晶。mp 240-250
℃。
IR (KBr)cm-1; 3080, 1736, 1626, 1592, 1561, 1509, 1468, 1296, 1269, 1220.
1H NMR (300 MHz, CDCl3);9.20 (1H, bs), 8.51 (1H, d, J =
2.3 Hz), 7.76 (1H, dd, J = 8.8, 2.3 Hz), 7.37 (1H, d, J = 8.8
Hz), 7.01 (1H, s), 4.50 (2H, q, J = 7.1 Hz), 1.46 (3H, t, J = 7.1
Hz).
13CNMR(75MHz, CDCl3) ; 178.3, 162.7,
137.7, 136.7, 136.2, 129.0, 127.6, 119.8, 118.2, 111.8, 63.5, 14.1.
HRESIMS calcd for C12H11NO3Br:
295.9922 (M+H)+, found: 295.9928.
【0082】
工程2;4−ベンジルオキシ−6−ブロモキノリン−2−カルボン酸エチルエステルの製造
【0083】
【化17】

【0084】
アルゴン雰囲気下、60%水素化ナトリウム (488 mg, 12.2 mmol)
の無水DMF (30 mL)
懸濁液に、上記によって得られた6−ブロモ−4−ヒドロキシキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(3.0 g, 10.1 mmol) を加え、室温で1時間撹拌した後、反応混合物に臭化ベンジル (1.56 mL, 13.1 mmol) を加え、室温で17時間撹拌した。反応混合物に水を加え,酢酸エチルで抽出した.水層を酢酸エチルで三回抽出した後,有機層をあわせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、濾液を減圧下濃縮した。残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : 酢酸エチル = 2 : 1) で精製し、標記化合物(2.8 g,
7.19 mmol, 71% 収率) を得た。
黄色結晶 mp 145-148 ℃。
IR (KBr)cm-1;2984, 1715, 1585, 1561, 1500, 1451, 1373, 1350, 1106.
1H NMR (300MHz, CDCl3) ; 8.41
(1H, bd, J = 2.1 Hz), 8.09 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.81 (1H, dd, J
= 9.0, 2.1 Hz), 7.68 (1H, s), 7.56-7.40 (5H, m), 5.35 (2H, s), 4.55 (2H, q,
J = 7.1 Hz), 1.49 (3H, t, J = 7.1 Hz).
13CNMR(75MHz, CDCl3);165.4, 161.4, 149.7, 147.1,
135.0, 134.0, 132.0, 128.9, 128.7, 127.9, 124.4, 123.4, 122.0, 101.9, 71.0,
62.5, 14.3.
HRESIMS calcd
for C19H16NO3Br;386.0392 (M+H)+, found;386.0370.
【0085】
工程3;4−ベンジルオキシ−6−(ピロリジン−1−イル)−キノリン−2−カルボン酸ピロリジンアミドの製造
【0086】
【化18】

【0087】
アルゴン雰囲気下、上記によって得られた4−ベンジルオキシ−6−ブロモキノリンー2−カルボン酸エチルエステル化合物(1.0 g, 2.59 mmol)、酢酸パラジウム(II) (11.6 mg, 51.8 mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド (622 mg, 6.48 mmol) の無水トルエン (15 mL) 懸濁液に、ピロリジン (0.54 mL, 6.48 mmol)とトリ-tert-ブチルホスフィン (11.6 mL, 46 mmol)を加え、室温で17時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し,残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル) で精製し、標記化合物(732 mg, 1.8 mmol, 69% 収率) を得た。
黄色結晶 mp 75-85 °℃。
IR (KBr)cm-1;2968, 2872, 1618, 1560, 1509,
1481, 1439, 1363, 1239, 1099.
1H NMR (300MHz, CDCl3);7.87 (1H, d, J = 9.2 Hz),
7.53-7.47 (2H, m), 7.44-7.31 (4H, m), 7.15 (1H, dd, J = 9.2, 2.7 Hz),
7.01 (1H, d, J = 2.7 Hz), 5.32 (2H, s), 3.90 (2H, bt, J = 6.5
Hz), 3.70 (2H, bt, J = 6.5 Hz), 3.39 (4H, bt, J = 6.5 Hz),
2.05-1.99 (4H, m), 1.96-1.87 (4H, m).
13C NMR (75MHz, CDCl3);167.2, 159.8, 150.0, 146.4,
140.7, 136.3, 130.2, 128.6, 128.1, 127.4, 123.2, 118.9, 100.8, 97.9, 70.1,
49.4, 47.8, 47.0, 26.7, 26.6, 25.5, 24.0. HRESIMS calcd for C25H27N3O2:402.2182 (M+H)+, found:402.2217.
【0088】
工程4;4−ベンジルオキシ−6−(ピロリジン−1−イル)−キノリン−2−カルボキシアルデヒドの製造
【0089】
【化19】

【0090】
上記によって得られた4−ベンジルオキシ−6−(ピロリジン−1−イル)−キノリン−2−カルボン酸ピロリジンアミド(200 mg, 0.5 mmol)のTHF (5 mL) 溶液に-78 °CでDIBAL-H (0.93 M in hexane, 0.6 mL,
0.55 mmol)を加え,同温で4時間半撹拌した.ロッシェル塩の水溶液を加え反応を停止し,混合物を酢酸エチルで抽出した.有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後,減圧下濃縮した.残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル) で精製し、標記化合物(140
mg, 0.42 mmol, 84% 収率) を得た。
黄色結晶 mp 183-186℃.
IR (KBr)cm-1;2967, 1701, 1613, 1516, 1478,
1354, 1246, 1173, 1106.
1H NMR (300MHz, CDCl3);10.05 (1H, s), 8.01 (1H, d, J
= 9.2 Hz), 7.55-7.36 (6H, m), 7.23 (1H, dd, J = 9.3, 2.7 Hz), 7.02 (1H,
d, J = 2.7 Hz), 5.35 (2H, s), 3.50-3.43 (4H, m), 2.12-2.06 (4H, m).
13C NMR (75MHz, CDCl3);193.7, 159.7, 149.4, 147.4,
142.1, 136.0, 131.2, 128.3, 127.5, 119.5, 98.0, 97.2, 70.3, 47.9, 25.6.
HRESIMS calcd for C21H20N2O2:333.1603 (M+H)+, found:333.1621.
【0091】
工程5;1−(4−ベンジルオキシ−6−ピロリジン−1−イルキノリン−2−イル)プロペノン(クイナミノン1(Quinaminone1))の製造
【0092】
【化20】

【0093】
上記によって得られた4−ベンジルオキシ−6−(ピロリジン−1−イル)−キノリン−2−カルボキシアルデヒド(595 mg, 1.7 mmol)のTHF (20 mL)溶液に-5 ℃で塩化ビニルマグネシウム (1.31 M in THF, 1.94 mL, 2.55 mmol)を滴下し,同温で二時間半撹拌した.反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え,混合物を酢酸エチルで抽出した.有機層を飽和食塩水で洗浄した後,無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下濃縮した.残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : 酢酸エチル
= 1 : 2) で精製し、アリルアルコール体 (291 mg, 7.19 mmol, 47% 収率) を得た。この化合物は不安定であったことから,すぐに次の反応に供した.アリルアルコール体 (102 mg, 0.283 mmol)のジクロロメタン (4 mL)溶液に室温で二酸化マンガン (123 mg, 1.42 mmol)を加え,40分間同温で撹拌した.反応は完結しなかったことから,さらに二酸化マンガン(123 mg, 1.42 mmol)を加え,40分間同温で撹拌した.反応混合物をセライト濾過し,濾液を減圧下濃縮した.残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : 酢酸エチル
= 3 : 1) で精製し、標記化合物(50.3 mg, 0.141 mmol, 50% 収率) を得た。
黄色結晶
mp 115-122 ℃.
IR (KBr)cm-1;1669, 1616, 1560, 1508, 1476,
1340, 1242, 1180, 1105.
1H NMR (300MHz, CDCl3);8.16 (1H, dd, J = 17.5,
10.5 Hz), 7.99 (1H, d, J = 9.2 Hz), 7.61 (1H, s), 7.55-7.51 (2H, m),
7.46-7.34 (3H, m) 7.21 (1H, dd, J = 9.2, 2.7 Hz), 7.02 (1H, d, J
= 2.7Hz ), 6.59 (1H, dd, J = 2.2, 17.5 Hz ), 5.90 (1H, dd, J =
2.2, 10.5Hz ), 5.37 (2H, s), 3.49-3.42 (4H, m), 2.11-2.04 (4H, m).
13C NMR (75MHz, CDCl3);189.7, 159.7, 147.2, 136.2,
131.5, 131.4, 128.7, 128.2, 127.5, 124.7, 119.1, 98.8, 97.9, 70.2, 47.9, 25.6.
HRESIMS calcd
for C23H22N2O2: 359.1760 (M+H)+,
found: 359.1741.
【実施例2】
【0094】
4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(QuinEE)の製造
【0095】
【化21】

【0096】
工程1;4−ヒドロキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステルの製造
【0097】
【化22】

【0098】
オキサロ酢酸ジエチルナトリウム (12.0 g, 57.0
mmol) のエーテル (200 mL) 懸濁液に、硫酸
(1.0 M, 60 mL) を加えて中和した。有機層を分取し、水層をエーテルで三回抽出し、有機層を合わせた。この有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、濾液を減圧下濃縮した。残渣をベンゼン (150 mL) に溶解し、N,N-ジメチル-p-フェニレンジアミン (8.5 g, 62.7 mmol) を加え、100 ℃で2時間還流し、溶媒を減圧下留去した。残渣をジフェニルエーテル (100 mL) に溶解し、1.5時間還流した後、溶媒を減圧下留去した。さらに、残渣にヘキサン : エーテル = 1 : 1の混合溶媒を加え吸引濾過し、固形物をヘキサン : エーテル = 1 : 1の混合溶媒で洗浄した。得られた結晶を酢酸エチルに溶解し、濾過後、濾液を減圧下濃縮した。残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム : イソプロパノール
= 3 : 1) で精製し、再度、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : イソプロパノール = 3 : 1) で精製して標記化合物(6.9 g, 26.4 mmol, 46%収率) を得た。
黄色結晶 mp
220-222 ℃。
IR (KBr)cm-1;3066, 1727, 1508, 1382, 1272.
1H NMR (300 MHz, CD3OD);1.47 (3H, t, J
= 7.1 Hz), 3.11 (6H, s), 4.52 (2H, q, J = 7.1 Hz), 6.93 (1H s), 7.37 (1H,
d, J = 2.8 Hz), 7.48 (1H, dd, J = 2.8, 9.3 Hz), 7.82 (1H, d, J = 9.3 Hz).
13C NMR (75 MHz, CD3OD);14.4 (CH3), 40.6 (CH3),
63.9 (CH2), 103.7 (CH), 108.7 (CH), 121.5 (CH), 122.3 (CH), 128.4
(C), 133.5 (C), 137.7 (C), 149.6 (C), 163.3 (C), 179.8 (C).
HRESIMS calcd
for C14H17N2O3: 261.1239 (M+H)+,
found:261.1248. Anal.
Calcd for C14H16N2O3: C, 64.60; H,
6.20; N, 10.76. Found: C, 64.64; H, 6.35 ; N, 10.37.
【0099】
工程2;4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(QuinEE)の製造
【0100】
【化23】

【0101】
アルゴン雰囲気下、60%水素化ナトリウム (738.0 mg, 18.5 mmol) の無水DMF (20 mL) 懸濁液に、上記によって得られた4−ヒドロキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル (4.0 g, 15.4 mmol) を加えた。室温で1.5時間撹拌した後、反応混合物に臭化ベンジル (2.38 mL, 20 mmol) を加え、室温で17時間撹拌した。反応混合物に水を加え、混合物を酢酸エチルで抽出した。水層を酢酸エチルで3回抽出した後、有機層をあわせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、濾液を減圧下濃縮した。残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル : イソプロパノール =
9 : 1) で精製し、標記化合物(2.9 g, 54%収率)
を得た。
黄色結晶 mp
130-134 ℃。
IR (KBr)cm-1;1702, 1618, 1345, 1241, 1091.
1H NMR (300 MHz, CD3OD) ; 1.48 (3H, t, J = 7.1 Hz), 3.12
(6H, s), 4.48 (2H, q, J = 7.1 Hz), 5.42 (2H, s), 7.16 (1H, d, J =
2.8 Hz), 7.35-7.54 (4H, m), 7.56-7.62 (3H, m), 8.00 (1H, d, J = 9.4 Hz).
13C NMR (75 MHz, CD3OD) ;14.6 (CH3), 40.5 (CH3),
62.8 (CH2), 71.5 (CH2), 99.2 (CH), 102.2 (CH), 121.0 (CH),
125.2 (C), 128.7 (CH), 129.3 (CH), 129.8 (CH), 130.8 (CH), 137.5 (C), 142.7 (C),
145.0 (C), 150.9 (C), 161.6 (C), 166.7 (C)。
HRESIMS calcd
for C21H23N2O3: 351.1709 (M+H)+,
found: 351.1712. Anal. Calcd for C21H22N2O3:
C, 71.98; H, 6.33; N, 7.99. Found: C, 71.92; H, 6.21; N, 7.84.
【実施例3】
【0102】
4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸(2−アクリロイルアミノ−エチル)アミドの製造
【0103】
【化24】

【0104】
アルゴン雰囲気下、上記実施例2によって得られた4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(QuinEE)(50 mg, 0.14 mmol) のエタノール (1 mL) 溶液に、エチレンジアミン (13 mg, 0.21 mmol) を加えたのち,60 °Cにて一晩撹拌した.反応混合物を濃縮したのち,残渣をTHF (1 mL)で希釈し,ピリジン (17 mg, 0.21 mmol) と塩化アクリロイル (19 mg, 0.21 mmol) を0 °Cにて加え、混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し,残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル) で精製し、標記クイナミノン(Quinaminone)2 (42 mg, 0.10 mmol, 71%収率) を得た。
黄色結晶 mp
170-173℃。
IR (KBr)cm-1;3333, 2926, 1676, 1657, 1620,
1507, 1345, 1241, 1095.
1H NMR (300MHz, CDCl3) ; 8.58
(1H, bs), 7.86 (1H, d, J = 9.3 Hz), 7.60 (1H, s), 7.54-7.29 (6H, m),
7.13 (1H, bs), 7.04 (1H, bs), 6.28 (1H, dd, J = 17.0, 1.8 Hz), 6.16 (1H,
dd, J = 17.0, 9.9 Hz), 5.60 (1H, dd, J = 9.9, 1.8 Hz), 5.32 (2H,
s), 3.73-3.57 (4H, m), 3.08 (6H, s),
13C NMR (75MHz, CDCl3);166.6, 166.0, 160.6, 149.1,
145.9, 135.9, 131.0, 129.8, 128.7, 128.2, 127.4, 126.1, 123.6, 119.6, 98.9,
98.7, 70.3, 45.0, 40.9, 40.5, 39.2.
HRESIMS calcd
for C24H27N4O3: 419.2083 (M+H)+,
found: 419.2084.
クイナミノン2(Quinaminone2)は、実施例2の工程2において、臭化ベンジルの代わりに臭化4−メトキシベンジルを用いることによって、実施例3と同様にして得ることができる。
【実施例4】
【0105】
アクリル酸2−[(4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボニル)アミノ]−エチルエステルの製造
【0106】
【化25】

【0107】
アルゴン雰囲気下、実施例2で得た4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(QuinEE)(50 mg, 0.14 mmol) のメタノール (1 mL) 溶液に、エタノールアミン (10.4 mg, 0.17 mmol) を加えたのち,40 °Cにて一晩撹拌した.反応が完結しなかったことから,エタノールアミン (10.4 mg, 0.17 mmol) を加え,40 °Cにてさらに一晩撹拌した.反応混合物を濃縮したのち,残渣をTHF (5 mL)で希釈し,ピリジン (18 mg, 0.23 mmol) と塩化アクリロイル (21 mg, 0.23 mmol) を0 °Cにて加え、混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し,残渣を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン : 酢酸エチル
= 3 : 1)で精製し、標記化合物 (18 mg, 0.043 mmol, 31%収率) を得た。
黄色結晶 mp
115-118℃。
IR (KBr)cm-1;3377, 2926, 1713, 1669, 1619,
1512, 1345, 1219, 1095.
1H NMR (300MHz, CDCl3);8.45 (1H, bs), 7.89 (1H, d, J
= 9.2 Hz), 7.68 (1H, s), 7.56-7.50 (2H, m), 7.47-7.33 (4H, m), 7.19 (1H, d, J
= 2.8 Hz), 6.47 (1H, dd, J = 17.3, 1.4 Hz), 6.18 (1H, dd, J =
17.3, 10.4 Hz), 5.86 (1H, dd, J = 10.4, 1.4 Hz), 5.37 (2H, s), 4.39 (2H,
t, J = 5.5 Hz), 3.82 (2H, q, J = 5.5 Hz), 3.10 (6H, s),
13C NMR (75MHz, CDCl3) ; 166.1,
165.4, 160.6, 149.1, 146.4, 141.1, 136.0, 131.2, 130.0, 128.7, 128.2, 128.1,
127.5, 123.7, 119.6, 99.1, 70.4, 63.4, 40.6, 38.5, 29.7.
HRESIMS calcd
for C24H26N3O4: 420.1923 (M+H)+,
found: 420.1908.
クイナミノン3(Quinaminone3)は、実施例2の工程2において、臭化ベンジルの代わりに臭化4−メトキシベンジルを用いることによって、実施例4と同様にして得ることができる。
【実施例5】
【0108】
4−ベンジルオキシー6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルアミド(QuinEA)の製造
【0109】
【化26】

【0110】
実施例3及び実施例4と同様に、実施例2で得た4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(QuinEE)にエチルアミンを反応させることにより、標記化合物を得た。
【実施例6】
【0111】
試験例1.溶媒の変化における蛍光強度の変化
実施例2で得た4−ベンジルオキシ−6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルエステル(QuinEE)、実施例5で得た4−ベンジルオキシー6−ジメチルアミノキノリン−2−カルボン酸エチルアミド(QuinEA)、及び公知のバダン(Badan)化合物を用いて、親水性溶媒中及び疎水性溶媒中におけるこれら化合物の蛍光波長と蛍光強度を測定した。親水性溶媒としてメタノールを、また疎水性溶媒としてトルエンを用いた。結果を図1に示す。
この試験結果から明らかなとおり、従来のバダン(Badan)に比べて、図中1で示されるQuinEE及びQuinEAは親水性溶媒中及び疎水性溶媒中における蛍光強度は圧倒的に向上しており、かつ蛍光波長のシフト(変化率)も十分である。
【実施例7】
【0112】
試験例2. PKA活性計測のための試薬
本発明者らは、既に公知のPKA基質であるKemptideをベースとしてこれまで多くのPKA活性計測のための試薬を合成して試験を行なった。その結果、リン酸化部位の直近にシステインを導入し、これにクイナミノン(Quinaminone)を結合させた試薬AKM2が理想的な挙動を示した。また、トリプトファン(W)を導入した試薬においてもリン酸化による蛍光変化が見ることを確認した。さらに、より効率のよいPKA活性計測用試薬を作製するため、Kemptideのリン酸化部位(セリン:S)のN末側直近に蛍光試薬を導入することを着想した。下記参照。
【0113】
PKA活性計測試薬
AKM2(LRRCSLG)- Quinaminone1
AKXN(LRRXSLG)
AKXC(LRRASXLG)
(上記において、Xはクイナミノン(Quinaminone)を意味する。)
【実施例8】
【0114】
試験例3.AKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)の励起及び蛍光スペクトラム(1)
クイナミノン(Quinaminone)の励起スペクトラムは380nm付近に励起の極大が、500nm付近に蛍光の極大があった。しかし、これをペプチドに導入すると、図2aに示すように420nmに励起(em)の極大があり、570nm付近に蛍光(ex)の極大があった。この試薬をcAMPとATPを共存させた条件での420nm励起時の蛍光スペクトルは図2bのようであった。これにPKAを含まないバッファーを与えて、その後の蛍光強度の時間経過を検討した。その結果、バッファーの部分だけ、蛍光は低下するが、その後、退色以外の変化は見られない。一方、PKAを加えると、ほぼ同時に、蛍光波長が図2cの左方向にシフトした。その後、蛍光強度は時間を追って上昇した。
【実施例9】
【0115】
試験例4.AKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)の励起及び蛍光スペクトラム(2
最初の反応液を(当該蛍光試薬+ATP+PKA)としておき、これにcAMPを添加する方法で蛍光スペクトルの時間経過を調べた。その結果、cAMP添加によって、図3a及び図3bから明らかなとおり500nmの蛍光強度が増大することを見いだした。
【実施例10】
【0116】
試験例5.LC-MSによるAKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)のリン酸化の確認
この試薬(AKM2−クイナミノン1(Quinaminone1))が確かにリン酸化されていることを、HPLCとMassで確認した。Reverse phase のHPLCピークは、図4に示すように、親水性のリン酸基が付くことによって、先行して溶出ピークを作った。一方、マスで測定したところ、そのピークは1162.0から1241.1へと、リン酸の分(79)だけマスナンバーが増えていた。
【実施例11】
【0117】
試験例6.BSAの濃度の違いによる蛍光強度の変化
予めBSA(ウシ血清アルブミン)を加えて、PKAを加えた時に生ずるブルーシフトが、PKAまたはPKA試薬に混在するタンパク質との相互作用によることを確認した。結果を図5に示した。
【実施例12】
【0118】
試験例7.4 0μg/mlBSA存在下で蛍光スペクトルを測定
一般的に細胞内環境での蛍光強度変動については予測し難いが、十分にシフトした状態で本試薬のスペクトルを測定した。その結果を図6に示す。励起のの最大値は420nm、そのときの蛍光の最大値は500nmであった。
【実施例13】
【0119】
試験例8.cAMP及びPKAの混在条件下におけるAKM2−クイナミノン1(Quinaminone)(BSA40μg/ml) の時間経過比較
次に、当該蛍光試薬AKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)とcAMPおよびPKAを予め混在した状態で、リン酸化過程に必須分子であるATPを適用した時と、バッファーのみを適用した後の、420nm励起,500nm蛍光の時間経過を比較した。その結果を図7に示す。ATP適用後ほぼ3分で蛍光の最大値に達することが判明した。その蛍光変化率は43.9%に達する。この種の蛍光試薬としては十分な変化率であることを確認した。
【実施例14】
【0120】
試験例9.ATP及びcAMPの混在条件下におけるAKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)(BSA40μg/ml) の時間経過比較
このケースでは予め当該試薬、ATPおよびcAMPを混在させた状態で、PKAを適用した場合の420nm励起,500nm蛍光の時間経過を比較した。その結果を図8に示す。この場合の変化率も変化のタイムコースも前例と同様であった。
【実施例15】
【0121】
試験例10.LC-MSの結果
ATPを加えた実例での当該試薬(AKM2−クイナミノン(Quinaminone)1)のリン酸化を蛍光計測後にMassスペクトルによって確認した。図9aはリン酸化されており、図9bの非リン酸化条件での当該試薬のマスナンバー1162.4は図9aのリン酸化物のスペクトル1242.4に比べて、リン酸基一個分少ないことで、確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】溶媒の変化における蛍光強度の変化を示す図である。(実施例6)
【図2】2aはAKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)の励起及び蛍光スペクトラム(1)を示す図である。また、2b及び2cは、それぞれPKAの不存在下、存在下における蛍光スペクトラムを示す図である。(実施例8)
【図3】AKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)の励起及び蛍光スペクトラム(2)を示す図である。3a及び3bは、それぞれcAMPの不存在下、存在下における蛍光スペクトラムを示す図である。(実施例9)
【図4】LC-MSによるAKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)のリン酸化を確認するための図である。(実施例10)
【図5】BSAの濃度の違いによる蛍光強度の変化を示す図である。(実施例11)
【図6】4 0μg/mlBSA存在下で蛍光スペクトルを示す図である。(実施例12)
【図7】cAMP及びPKAの混在条件下におけるAKM2−クイナミノン1(Quinaminone)(BSA40μg/ml) の時間経過比較を示す図である。(実施例13)
【図8】ATP及びcAMPの混在条件下におけるAKM2−クイナミノン1(Quinaminone1)(BSA40μg/ml) の時間経過比較を示す図である。(実施例14)
【図9】試薬(AKM2−クイナミノン(Quinaminone)1)のリン酸化を確認するための図である。(実施例15)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるキノリン化合物。
【化1】

[式中、
は―N(R11)(R12)(ここでR11 とR12は、同一又は異なって水素原子又はC1−6アルキル基を意味し、又は、R11 とR12が隣接する窒素原子と一緒になって形成される4乃至7員の飽和複素環を意味する。)であり、
は、水素原子、水酸基、C1−6アルキル基、アリール基、又は−O−R’(ここで、R’は、アラルキル基(該アラルキル基は、C1−6アルコキシ基又はC1−6アルキル基で置換されてもよい。)又はアシル基である)であり、
は、C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、ハロゲン化C1−6アルキル基、−N(R31)(R32
(ここで、R31は水素原子又はC1−6アルキル基を意味し、R32はC1−6アルキル基又は−(CH−A−(CO)−B(ここでnは1乃至4の整数を意味し、Aは−NH−又は−O−を意味し、BはC2−6アルケニル基を意味する。)である。]
【請求項2】
がピロリジノ基、ピペリジノ基又はジ(C1−4アルキル)アミノ基であり、Rが水素原子、水酸基、4−メトキシ基で置換されてもよいベンジルオキシル基、C1−6アルキル基又はアリール基であり、Rがエテニル基、C1−4アルコキシ基、又は−N(R31a)(R32a)(ここで、R31aは水素原子であり、R32aはC1−4アルキル基,−(CH−O−(CO)−CHCH又は−(CH−NH−(CO)−CHCHである請求項1に記載のキノリン化合物。
【請求項3】
下記式から選ばれる請求項2に記載のキノリン化合物。
【化2】

【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のキノリン化合物を蛍光標識分子とする蛍光標識試薬。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のキノリン化合物を標識分子とする疎水場検出試薬。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載のキノリン化合物を標識分子とするリン酸化および脱リン酸化可視化試薬。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載のキノリン化合物を標識分子成分として含む蛍光プローブ。
【請求項8】
ペプチドのN末端、C末端又は内部配列の一部を、請求項1乃至3のいずれかに記載のキノリン化合物からなる標識分子で標識した蛍光標識ペプチド。
【請求項9】
請求項8に記載の蛍光標識ペプチドを標識分子成分として含む疎水場検出試薬。
【請求項10】
請求項8に記載の蛍光標識ペプチドを標識分子成分として含むリン酸化および脱リン酸化可視化試薬。
【請求項11】
請求項8に記載の蛍光標識ペプチドからなる蛍光プローブ。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−55956(P2007−55956A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245123(P2005−245123)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 PACIFICHEM2005 刊行物名 Webサイト PACIFICHEM2005 (http:/pacifichem.abstractcentral.com/planner) 発行年月日 2005年7月15日 研究集会名 2005環太平洋国際化学会議 主催者名 日本化学会、アメリカ化学会、他 開催日 2005年12月15日(木)〜20日(火)
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【Fターム(参考)】