説明

蛍光測定装置及び蛍光測定方法

【課題】装置の調整に起因する蛍光寿命の測定精度の低下の有無を判別することができる蛍光測定装置を提供する。
【解決手段】測定対象物にレーザ光を照射したときに発せられる蛍光を測定する蛍光測定装置であって、強度変調したレーザ光を測定対象物に照射するレーザ光源と、測定対象物にレーザ光を照射したときの蛍光を受光する受光部と、受光部が受光した蛍光の信号を用いて、蛍光寿命を求める信号処理部と、受光部、又は、信号処理部が蛍光の信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する判別部と、を備えることを特徴とする蛍光測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物にレーザ光を照射したときに発せられる蛍光を測定する蛍光測定装置、蛍光測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物にレーザ光を照射し、測定対象物が発する蛍光を受光して、測定対象物の情報を取得する蛍光測定装置が知られている。
蛍光測定装置を用いたフローサイトメータは、蛍光試薬でラベル化された細胞、DNA、RNA、酵素、蛋白等の測定対象物をシース液に流す。この測定対象物にレーザ光を照射することにより、測定対象物に付与された蛍光色素は蛍光を発する。フローサイトメータは、この蛍光を測定することにより、測定対象物の情報を取得することができる。
【0003】
また、所定の周波数で強度変調したレーザ光を測定対象物に照射し測定対象物が発する蛍光を受光することにより蛍光緩和時定数を取得する蛍光測定装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−101397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蛍光測定装置が受光する蛍光はダイナミックレンジが広いため、蛍光が微弱である場合、蛍光測定装置は信号を増幅した後に、信号処理を行う。そのため、蛍光測定装置が受光した蛍光から蛍光寿命を求める際、受光した蛍光を電気信号に変換する光電子増倍管や、電気信号を増幅するアンプが用いられる。蛍光測定装置に用いられる光電子増倍管やアンプのゲインが適正な値でない場合、蛍光測定装置が求めた蛍光寿命の測定精度が低下する。そのため、光電子増倍管やアンプのゲインを適正な値に調整することが望ましい。
しかし、光電子増倍管やアンプのゲインが適正な値であるかどうかの判別は、必ずしも全てのユーザにとって容易であるとは限らない。そのため、光電子増倍管やアンプのゲインが適正な値であるかどうかをユーザが判別するのが困難である場合、蛍光測定装置により求められた蛍光寿命の測定精度が低下する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、装置の調整に起因する蛍光寿命の測定精度の低下の有無を判別することができる蛍光測定装置及び蛍光測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光測定装置は、測定対象物にレーザ光を照射したときに発せられる蛍光を測定する蛍光測定装置であって、強度変調したレーザ光を前記測定対象物に照射するレーザ光源と、前記測定対象物に前記レーザ光を照射したときの蛍光を受光する受光部と、前記受光部が受光した前記蛍光の信号を用いて、蛍光寿命を求める信号処理部と、前記受光部、又は、前記信号処理部が前記蛍光の信号を増幅することに起因する前記蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する判別部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記受光部は、光電子増倍管を備え、前記信号処理部は、前記受光部が受光した前記蛍光の信号を増幅するアンプを備えることが好ましい。
【0009】
また、前記判別部が判別した結果に基づいて、前記光電子増倍管、又は、前記アンプのゲインを調整するゲイン調整部を備えることが好ましい。
【0010】
また、前記判別部が判別した結果を出力する出力部を備えることが好ましい。
【0011】
また、前記出力部は、前記蛍光寿命のばらつきの大きさを出力することが好ましい。
【0012】
また、前記信号処理部は、前記レーザ光の強度を変調する変調信号と、前記受光部が受光した前記蛍光の信号と、の位相差に基づいて、前記蛍光寿命を求めることが好ましい。
【0013】
本発明の蛍光測定方法は、測定対象物にレーザ光を照射したときに発せられる蛍光を測定する蛍光測定方法であって、強度変調したレーザ光を前記測定対象物に照射する工程と、前記測定対象物に前記レーザ光を照射したときの蛍光を受光する受光工程と、前記受光工程で受光された前記蛍光の信号を用いて、蛍光寿命を求める信号処理工程と、前記受光工程、又は、前記信号処理工程で前記蛍光の信号を増幅することに起因する前記蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する判別工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、前記受光工程は、光電子増倍管によって前記蛍光を受光し、前記信号処理工程は、アンプによって、前記受光工程で受光された前記蛍光の信号を増幅することが好ましい。
【0015】
また、前記判別工程で判別された結果に基づいて、前記光電子増倍管、又は、前記アンプのゲインを調整するゲイン調整工程を有することが好ましい。
【0016】
また、前記判別工程で判別された結果を出力する出力工程を有することが好ましい。
【0017】
また、前記出力工程は、前記蛍光寿命のばらつきの大きさを出力することが好ましい。
【0018】
また、前記信号処理工程は、前記レーザ光の強度を変調する変調信号と、前記受光工程で受光された前記蛍光の信号と、の位相差に基づいて、前記蛍光寿命を求めることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の蛍光測定装置、蛍光測定方法によれば、装置の調整に起因する蛍光寿命の測定精度の低下の有無を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示される第2受光部の一例を示す図である。
【図3】図1に示される制御部の一例を示す図である。
【図4】図1に示される信号処理部の一例を示す図である。
【図5】参照信号に対する蛍光信号の位相差を示す図の一例である。
【図6】アンプのゲインが大きい場合の、参照信号に対する蛍光信号の位相差を示す図の一例である。
【図7】光電子増倍管のゲインが大きい場合の、参照信号に対する蛍光信号の位相差を示す図の一例である。
【図8】(a)〜(c)は、変形例2において、参照信号に対する蛍光信号の位相差を示す図の一例である。
【図9】実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の蛍光測定装置、蛍光測定方法を適用したフローサイトメータについて、実施形態に基づいて説明する。
<第1の実施形態>
(フローサイトメータの構成)
まず、図1を参照して、本実施形態のフローサイトメータの構成について説明する。図1は、本実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。フローサイトメータは、測定対象物にレーザ光を照射し、レーザ光を照射された測定対象物が発する蛍光を受光することにより、測定対象物の情報を取得することができる。
図1に示されるように、本実施形態のフローサイトメータは、フローセル10と、レーザ光源20と、第1受光部30と、第2受光部32と、制御部40と、信号処理部50と、判別部70と、出力部80と、ゲイン調整部90と、を備える。また、フローセル10の下流には、測定対象物を回収する容器16が配置される。以下、各構成について詳細に説明する。
【0022】
細胞12などの測定対象物は、シース液に囲まれてフローセル10の内部を流れる。後述するように、レーザ光源20が測定対象物にレーザ光を照射し、その際に発せられる蛍光から測定対象物の情報を取得するため、細胞12には、予め蛍光色素14が付与されている。蛍光色素14は、例えば、CFP(Cyan Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)などが用いられる。フローセル10の内部では、シース液に囲まれた測定対象物は流体力学的絞り込みを受け、細い液流となってフローセル10の内部を流れる。
【0023】
レーザ光源20は、所定の周波数で強度変調したレーザ光を測定対象物に照射する。レーザ光源20は、例えば、半導体レーザを用いることができる。レーザ光の出力は、例えば、5〜100mWである。レーザ光の波長は、例えば、350nm〜800nmである。
レーザ光源20が照射するレーザ光の強度は、後述する制御部40から出力される変調信号によって変調される。
【0024】
第1受光部30は、フローセル10にレーザ光が照射される位置を基準として、レーザ光源20と反対側に配置される。第1受光部30は、測定対象物にレーザ光が照射されたときに生じる前方散乱光を受光する。第1受光部30は、例えば、フォトダイオードなどの光電変換器を備える。第1受光部30は、受光した前方散乱光を電気信号に変換する。
第1受光部30によって変換された電気信号は信号処理部50へ出力され、フローセル10にレーザ光が照射される位置を測定対象物が通過するタイミングを知らせるトリガ信号として用いられる。
【0025】
第2受光部32は、フローセル10にレーザ光が照射される位置を基準として、レーザ光源20からレーザ光が照射される方向とフローセル10内を測定対象物が流れる方向の相互に垂直な方向に配置される。第2受光部32は、測定対象物にレーザ光が照射されたときに発せられる蛍光を受光する。第2受光部32は、受光した蛍光を電気信号(蛍光信号)に変換する。
【0026】
ここで、図2を参照して、第2受光部32の構成について説明する。図2は、第2受光部32の一例を示す図である。図2に示されるように、第2受光部32は、光電子増倍管(PMT)34を備える。
光電子増倍管34によって変換された電気信号は信号処理部50へ出力され、フローセル10にレーザ光が照射される位置を通過する測定対象物の情報として用いられる。また、光電子増倍管34のゲインは、ゲイン調整部90によって調整される。
【0027】
次に、制御部40について説明する。制御部40は、レーザ光源20が照射するレーザ光の変調周波数を制御する。ここで、図3を参照して、制御部40の構成について説明する。図3は、制御部40の一例を示す図である。図3に示されるように、制御部40は、発振器42と、パワースプリッタ44と、アンプ46,48と、を備える。
【0028】
発振器42は、所定の周波数の正弦波信号を出力する。発振器42から出力される正弦波信号は、レーザ光源20から出力されるレーザ光の強度を変調するための変調信号として用いられる。正弦波信号の周波数は、例えば、1〜50MHzである。
発振器42から出力された所定の周波数の正弦波信号(変調信号)は、パワースプリッタ44により、2つのアンプ46,48に分配される。アンプ46で増幅された変調信号は、レーザ光源20へ出力される。また、アンプ48で増幅された変調信号は、信号処理部50へ出力される。アンプ48で増幅された変調信号を信号処理部50へ出力するのは、後述するように、第2受光部32から出力される信号を検波するための参照信号として用いるためである。
【0029】
次に、信号処理部50について説明する。信号処理部50は、レーザ光の強度を変調する変調信号と、第2受光部32が受光した蛍光の信号(蛍光信号)との位相差に基づいて、蛍光寿命を求める。ここで、図4を参照して、信号処理部50の構成について説明する。図4は、信号処理部50の一例を示す図である。図4に示されるように、信号処理部50は、IQミキサ52と、アンプ54と、ローパスフィルタ56と、A/D変換器58と、演算部60と、を備える。
【0030】
IQミキサ52は、アンプ54によって増幅された、第2受光部32の光電子増倍管34から出力された蛍光信号の入力を受ける。また、IQミキサ52は、制御部40のアンプ48から出力された参照信号の入力を受ける。
IQミキサ52は、蛍光信号と参照信号とを乗算することにより、蛍光信号のcos成分と、高周波成分とを含む信号を生成する。また、IQミキサ52は、蛍光信号と、参照信号の位相を90度シフトさせた信号と、を乗算することにより、蛍光信号のsin成分と、高周波成分とを含む信号を生成する。この信号に基づいて、変調信号(参照信号)と蛍光信号との位相差を求めることができる。
なお、アンプ54のゲインは、ゲイン調整部90によって調整される。
【0031】
IQミキサ52によって生成された信号の高周波成分は、ローパスフィルタ56によって除去される。ローパスフィルタ56によって高周波成分が除去された信号は、A/D変換器58によってデジタル信号(後述するcosθ、sinθ)に変換される。A/D変換器58によってデジタル信号に変換された信号は、演算部60へ出力される。
【0032】
演算部60は、変調信号(参照信号)と蛍光信号との位相差を求める。また、演算部60は、求めた位相差を用いて、蛍光寿命を求める。演算部60が行う詳細な処理については、後述する。
演算部60が演算した結果は、判別部70へ出力される。
【0033】
図1に戻り、判別部70について説明する。判別部70は、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する。具体的には、判別部70は、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値でないことに起因して、蛍光寿命のばらつきが所定の値より大きいか否かを判別する。このようにして、判別部70は、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値であるか否かを判別することができる。
また、判別部70は、蛍光寿命のばらつきの大きさを求める。判別部70が行う詳細な処理については、後述する。
判別部70は、判別した結果、蛍光寿命のばらつきの大きさ、蛍光寿命などを、出力部80とゲイン調整部90に出力する。
【0034】
出力部80は、判別部70が判別した結果、蛍光寿命のばらつきの大きさ、蛍光寿命などを出力する。出力部80は、例えば、表示装置やプリンタである。
【0035】
ゲイン調整部90は、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別部70が判別した結果に基づいて、光電子増倍管34やアンプ54のゲインを調整する。ゲイン調整部90は、光電子増倍管34、又は、アンプ54のいずれか一方のゲインを調整してもよいし、両方のゲインを調整してもよい。ゲイン調整部90が光電子増倍管34やアンプ54のゲインを調整する詳細な方法については、後述する。
以上が本実施形態のフローサイトメータの概略構成である。
【0036】
(信号処理方法)
次に、信号処理部50による信号処理の流れを説明する。
まず、レーザ光の強度を変調するための変調信号が、制御部40から信号処理部50へ参照信号として出力される。信号処理部50に入力される参照信号は、例えば、所定の周波数の正弦波信号である。
また、測定対象物にレーザ光が照射されたときに発せられる蛍光を第2受光部32が受光する。第2受光部32は、受光した蛍光信号を信号処理部50へ出力する。
【0037】
次に、IQミキサ52は、蛍光信号と参照信号とを乗算することにより、蛍光信号のcos成分と高周波成分とを含む信号を生成する。その後、ローパスフィルタ56によって高周波成分が除去される。
また、IQミキサ52は、蛍光信号と、参照信号の位相を90度シフトさせた信号と、を乗算することにより、蛍光信号のsin成分と高周波成分とを含む信号を生成する。その後、ローパスフィルタ56によって高周波成分が除去される。
【0038】
その後、演算部60は、蛍光信号のcos成分、sin成分のそれぞれの時間平均を算出する。時間平均された蛍光信号のcos成分、sin成分は、図5に示される図にプロットされる。1つの測定対象物に対して上述した信号処理を行うことにより、プロットが1つなされる。
演算部60は、複数(例えば、N個)の測定対象物に対して、時間平均された蛍光信号のcos成分、sin成分をプロットする。また、演算部60は、時間平均された蛍光信号のcos成分、sin成分の複数のプロットから、参照信号に対する蛍光信号の位相差を求める。例えば、図5に示される複数のプロットを、原点を通る直線で近似した直線の傾きから、演算部60は参照信号に対する蛍光信号の位相差θを求めることができる。
【0039】
ここで、変調信号の角周波数をω、測定対象物の蛍光寿命をτとすると、以下の式(1)により、位相差θから蛍光寿命τを求めることができる。
【数1】


演算部60は、求めた位相差θを用いて、上記式(1)に基づいて、蛍光寿命を求める。
【0040】
(判別方法)
次に、演算部60が求めた蛍光寿命が、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが所定の値より大きい状況で求められたものか否かを、判別部70が判別する。以下、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別部70が判別する方法について説明する。光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値である場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、図5に示されるように、原点を通る直線L1に沿ってプロットされる。直線L1は、例えば、最小二乗法によって求められる。
【0041】
しかし、アンプ54のゲインが大き過ぎる場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、例えば、図6に示されるようにプロットされる。図6に示される例では、図中にAで示される領域において、原点を通る直線から外れた位置に時間平均された蛍光信号のcos成分、sin成分がプロットされている。これは、アンプ54のゲインが大き過ぎることにより、蛍光信号のcos成分がA/D変換器58の入力範囲の上限を超えたことにより生じる。
【0042】
図6に示される例のように、アンプ54のゲインが適正な値ではない場合に、複数のプロットを近似した直線をL2とする。図6に示される例では、図中にAで示される領域において、cos成分が飽和しているため、直線L2の傾き(tanθ)は、実際の蛍光寿命に対応する値よりも大きくなる。そのため、上記式(1)に基づいて求まる蛍光寿命τは、実際の値よりも大きな値として求まる。これは、蛍光寿命τの測定精度が低下することを意味する。
また、図6に示されるように、アンプ54のゲインが適正な値ではない場合の直線L2に対する各プロットの分散は、図5に示されるアンプ54のゲインが適正な値である場合の直線L1に対する各プロットの分散よりも大きくなる。
【0043】
また、光電子増倍管34のゲインが大き過ぎる場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、例えば、図7に示されるようにプロットされる。図7に示される例では、図中にBで示される領域において、原点を通る直線から外れた位置に時間平均された蛍光信号のcos成分、sin成分がプロットされている。これは、光電子増倍管34のゲインが大き過ぎることにより、光電子増倍管34で飽和現象が生じたことによるものである。
【0044】
図7に示される例のように、光電子増倍管34のゲインが適正な値ではない場合に、複数のプロットを近似した直線をL3とする。図7に示される例では、図中にBで示される領域において光電子増倍管34に飽和現象が生じているため、直線L3の傾き(tanθ)は、実際の蛍光寿命に対応する値よりも大きくなる。そのため、上記式(1)に基づいて求まる蛍光寿命τは、実際の値よりも大きな値として求まる。これは、蛍光寿命τの測定精度が低下することを意味する。
また、図7に示されるように、光電子増倍管34のゲインが適正な値ではない場合の直線L3に対する各プロットの分散は、図5に示される光電子増倍管34のゲインが適正な値である場合の直線L1に対する各プロットの分散よりも大きくなる。
【0045】
本実施形態の判別部70は、複数のプロットを最小二乗法によって原点を通る直線で近似した際の分散を求める。次に、判別部70は、求めた分散が所定の値より大きいか否かを判別する。
分散が所定の値より大きい場合、判別部70は、蛍光寿命のばらつきが所定の値よりも大きいことを示す信号を、判別結果として、出力部80とゲイン調整部90に出力する。また、分散が所定の値より小さい場合、判別部70は、蛍光寿命のばらつきが所定の値よりも小さいことを示す信号を、判別結果として、出力部80とゲイン調整部90に出力する。
また、判別部70は、蛍光寿命のばらつきの大きさ(分散)、蛍光寿命などを、出力部80とゲイン調整部90に出力する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の蛍光測定装置は、判別部70が複数のプロットを最小二乗法によって原点を通る直線で近似した際の分散を求め、求めた分散が所定の値より大きいか否かを判別するため、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値であるか否かを判別することができる。
【0047】
(ゲイン調整方法)
次に、ゲイン調整部90が光電子増倍管34やアンプ54のゲインを調整する方法について説明する。
ゲイン調整部90は、判別部70から出力された判別結果に基づいて、光電子増倍管34やアンプ54のゲインを調整する。本実施形態では、蛍光寿命のばらつきが所定の値よりも大きいことを示す信号が、判別結果としてゲイン調整部90に入力されると、ゲイン調整部90は、光電子増倍管34とアンプ54の両方のゲインを低下させるように、ゲインを調整する。
【0048】
ゲイン調整部90が光電子増倍管34とアンプ54のゲインを調整した後、上述した信号処理方法により、演算部60は、複数(例えば、N個)の測定対象物に対する時間平均された蛍光信号のcos成分、sin成分をプロットから、参照信号に対する蛍光信号の位相差θを求める。また、演算部60は、求めた位相差θを用いて、蛍光寿命を求める。
なお、蛍光寿命のばらつきが所定の値よりも小さいことを示す信号が、判別結果としてゲイン調整部90に入力された場合は、ゲイン調整部90は、光電子増倍管34とアンプ54のゲインをそのままの値に保つ。
【0049】
光電子増倍管34とアンプ54のゲインの調整量は、判別部70から出力される、蛍光寿命のばらつきの大きさに基づいて定められる。具体的には、蛍光寿命のばらつきが大きいほど、ゲインの調整量は大きくなる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の蛍光測定装置は、蛍光寿命のばらつきの大きさに基づいて、ゲイン調整部90が光電子増倍管34とアンプ54のゲインを調整するため、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきを所定の値以下とすることができる。
【0051】
(変形例1)
第1の実施形態においては、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、判別部70が原点を通る直線で近似した際の分散によって、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する方法について説明した。本変形例においては、判別部70による判別方法が第1の実施形態とは異なる。
本変形例の判別部70は、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、原点を通る二次関数で近似した際の二次の係数の大きさが所定の値より大きいか否かを判別する。
また、判別部70は、蛍光寿命のばらつきの大きさ(二次の係数)、蛍光寿命などを、出力部80とゲイン調整部90に出力する。
【0052】
光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値である場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、図5に示されるように、原点を通る直線L1に沿ってプロットされる。そのため、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、原点を通る二次関数で近似した際の二次の係数の大きさは所定の値より小さくなる。
しかし、図6に示される例のように、アンプ54のゲインが適正な値ではない場合や、図7に示される例のように、光電子増倍管34のゲインが適正な値ではない場合は、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、原点を通る二次関数で近似した際の二次の係数の大きさは所定の値より大きくなる。
【0053】
従って、本変形例のように、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、原点を通る二次関数で近似した際の二次の係数の大きさが所定の値より大きいか否かを判別部70が判別することにより、第2受光部32、又は、信号処理部50が蛍光信号を増幅することに起因する蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別部70が判別することができる。
【0054】
(変形例2)
本変形例の蛍光測定装置は、判別部70による判別方法が第1の実施形態とは異なる。
本変形例の判別部70は、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分の最大値と最小値との間を5つの区間に分ける。また、判別部70は、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、各区間において直線で近似する。また、判別部70は、各区間において近似した直線の傾きの大きさの差が所定の値より大きいか否かを判別する。また、各区間において近似した直線の傾きの大きさの差が所定の値より大きい場合、判別部70は、直線の傾きが変化した区間を特定する。
【0055】
光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値である場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、各区間において近似した直線は図8(a)のように示される。図8(a)に示される直線は、理想的には、図5に示される直線L1と同一である。そのため、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、各区間において直線で近似したとき、各区間の直線の傾きの大きさの差は所定の値より小さくなる。
【0056】
図6に示される例のように、アンプ54のゲインが適正な値ではない場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、各区間において近似した直線は図8(b)のように示される。図8(b)においては、例えば、原点に近い区間から4つ目までの区間においては、各区間の直線の傾きの大きさの差は所定の値より小さい。しかし、5つ目の区間(原点から最も離れた区間)における直線の傾きは、他の区間における直線の傾きとは大きく異なる。そのため、各区間において近似した直線の傾きの大きさの差が所定の値より大きくなる。
また、図7に示される例のように、光電子増倍管34のゲインが適正な値ではない場合、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分は、各区間において近似した直線は図8(c)のように示される。図8(c)においては、例えば、原点に近い区間から2つ目までの区間における直線の傾きは、4つ目と5つ目の区間における直線の傾きとは異なる。そのため、各区間において近似した直線の傾きの大きさの差が所定の値より大きくなる。
【0057】
本変形例の判別部70は、直線の傾きが変化した区間を特定するため、図6に示される例のように、アンプ54のゲインが適正な値ではない場合と、図7に示される例のように、光電子増倍管34のゲインが適正な値ではない場合とを区別することができる。そのため、本変形例の判別部70は、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値ではない場合、光電子増倍管34とアンプ54のどちらのゲインが適正な値ではないのかを示す信号を、出力部80とゲイン調整部90に出力する。
本変形例のゲイン調整部90は、判別部70が判別した結果に基づいて、光電子増倍管34、又は、アンプ54のいずれか一方のゲインを低下させるように、ゲインを調整する。
【0058】
従って、本変形例のように、演算部60により求められた蛍光信号のcos成分、sin成分を、複数の区間の各区間において直線で近似することにより、第2受光部32、又は、信号処理部50のいずれに起因して、蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きくなっているのかを、判別部70が判別することができる。
なお、本変形例では5つの区間に分ける構成を説明したが、区間の数はこれに限定されるものではない。
【0059】
<第2の実施形態>
上述した実施形態や変形例のフローサイトメータでは、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値でない場合、ゲイン調整部90が光電子増倍管34やアンプ54のゲインの調整を行うことができる。しかし、熟練したユーザの場合、光電子増倍管34やアンプ54のゲインの調整はユーザ自身が行うことが望ましい場合がある。本実施形態のフローサイトメータは、光電子増倍管34やアンプ54のゲインの調整はユーザ自身が行うことを前提とし、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値でないことをユーザが見落とすのを防ぐことを目的とする。
【0060】
ここで、図9を参照して、第2の実施形態のフローサイトメータの構成について説明する。図9は、本実施形態のフローサイトメータの一例を示す概略構成図である。本実施形態のフローサイトメータの基本的な構成は、上述した第1の実施形態と同様である。そのため、以下の説明では、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略し、第1の実施形態と構成が異なる部分について説明する。
【0061】
図9に示されるように、本実施形態のフローサイトメータは、フローセル10と、レーザ光源20と、第1受光部30と、第2受光部32と、制御部40と、信号処理部50と、判別部70と、出力部80と、を備える。本実施形態のフローサイトメータは、ゲイン調整部を備えない点を除いて、第1の実施形態と同様である。
第2受光部32が備える光電子増倍管34のゲインは、ユーザによって調整される。また、アンプ54のゲインは、ユーザによって調整される。
判別部70は、判別した結果、蛍光寿命のばらつきの大きさ、蛍光寿命などを、出力部80に出力する。
また、出力部80は、判別部70が判別した結果、蛍光寿命のばらつきの大きさ、蛍光寿命などを出力する。
【0062】
本実施形態では、判別部70が判別した結果、蛍光寿命のばらつきの大きさ、蛍光寿命などが出力部80に出力されるため、光電子増倍管34やアンプ54のゲインが適正な値でないことをユーザが見落とすのを防ぐことができる。
【0063】
以上、本発明の蛍光測定装置及び蛍光測定方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではない。また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
10 フローセル
12 細胞
14 蛍光色素
16 容器
20 レーザ光源
30 第1受光部
32 第2受光部
34 光電子増倍管
40 制御部
42 発振器
44 パワースプリッタ
46,48 アンプ
50 信号処理部
52 IQミキサ
54 アンプ
56 ローパスフィルタ
58 A/D変換器
60 演算部
70 判別部
80 出力部
90 ゲイン調整部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物にレーザ光を照射したときに発せられる蛍光を測定する蛍光測定装置であって、
強度変調したレーザ光を前記測定対象物に照射するレーザ光源と、
前記測定対象物に前記レーザ光を照射したときの蛍光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した前記蛍光の信号を用いて、蛍光寿命を求める信号処理部と、
前記受光部、又は、前記信号処理部が前記蛍光の信号を増幅することに起因する前記蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する判別部と、
を備えることを特徴とする蛍光測定装置。
【請求項2】
前記受光部は、光電子増倍管を備え、
前記信号処理部は、前記受光部が受光した前記蛍光の信号を増幅するアンプを備える、請求項1に記載の蛍光測定装置。
【請求項3】
前記判別部が判別した結果に基づいて、前記光電子増倍管、又は、前記アンプのゲインを調整するゲイン調整部を備える、請求項2に記載の蛍光測定装置。
【請求項4】
前記判別部が判別した結果を出力する出力部を備える、請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記蛍光寿命のばらつきの大きさを出力する、請求項4に記載の蛍光測定装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記レーザ光の強度を変調する変調信号と、前記受光部が受光した前記蛍光の信号と、の位相差に基づいて、前記蛍光寿命を求める、請求項1乃至5のいずれかに記載の蛍光測定装置。
【請求項7】
測定対象物にレーザ光を照射したときに発せられる蛍光を測定する蛍光測定方法であって、
強度変調したレーザ光を前記測定対象物に照射する工程と、
前記測定対象物に前記レーザ光を照射したときの蛍光を受光する受光工程と、
前記受光工程で受光された前記蛍光の信号を用いて、蛍光寿命を求める信号処理工程と、
前記受光工程、又は、前記信号処理工程で前記蛍光の信号を増幅することに起因する前記蛍光寿命のばらつきが、所定の値より大きいか否かを判別する判別工程と、
を有することを特徴とする蛍光測定方法。
【請求項8】
前記受光工程は、光電子増倍管によって前記蛍光を受光し、
前記信号処理工程は、アンプによって、前記受光工程で受光された前記蛍光の信号を増幅する、請求項7に記載の蛍光測定方法。
【請求項9】
前記判別工程で判別された結果に基づいて、前記光電子増倍管、又は、前記アンプのゲインを調整するゲイン調整工程を有する、請求項8に記載の蛍光測定方法。
【請求項10】
前記判別工程で判別された結果を出力する出力工程を有する、請求項7乃至9のいずれかに記載の蛍光測定方法。
【請求項11】
前記出力工程は、前記蛍光寿命のばらつきの大きさを出力する、請求項10に記載の蛍光測定方法。
【請求項12】
前記信号処理工程は、前記レーザ光の強度を変調する変調信号と、前記受光工程で受光された前記蛍光の信号と、の位相差に基づいて、前記蛍光寿命を求める、請求項7乃至11のいずれかに記載の蛍光測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−149891(P2011−149891A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12898(P2010−12898)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】