説明

蛍光測定装置

【課題】極めて微量の物質も測定できる蛍光測定装置を得る。
【解決手段】励起光50を発する光源51と、内部において励起光50を伝搬させて外表面から出射させ、試料液中の測定対象物質の存在を示す蛍光体を励起光50により励起するセンサ部52と、前記励起により蛍光体から発せられた蛍光59を検出する光検出器37とを備えてなる蛍光測定装置において、ターレット30等のセンサ部駆動手段により、センサ部52を試料液中に浸漬させた後、前記励起光および蛍光を実質的に吸収、散乱させることのない所定の雰囲気中(例えば貫通孔44内の空気中)に移動させ、センサ部52がその雰囲気中に位置した状態下で光源51および光検出器37を駆動させて蛍光検出を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光法により試料中の特定物質を検出する蛍光測定装置、特に詳細にはセンサ部を試料液中に浸漬するタイプの蛍光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオ測定等において、高感度かつ容易な測定法として蛍光法が広く用いられている。この蛍光法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する測定対象物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって測定対象物質の存在を確認する方法である。また、測定対象物質が蛍光体ではない場合、蛍光体で標識されて測定対象物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち測定対象物質の存在を確認することも広くなされている。
【0003】
図4は、上記の標識された物質を用いる蛍光法を実施するセンサの一例を概略図示するものである。本例の蛍光測定装置は一例として試料1に含まれる抗原2を検出するためのものであり、基板3には抗原2と特異的に結合する1次抗体4が塗布されている。そしてこの基板3上に設けられた試料保持部5の中において試料1が流され、次いで同様に蛍光体10で標識されて抗原2と特異的に結合する2次抗体6が流される。その後、基板3の表面部分に向けて光源7から励起光8が照射され、また光検出器9により蛍光検出がなされる。このとき、光検出器9によって所定の蛍光が検出されたなら、上記2次抗体6と抗原2との結合、すなわち試料中における抗原2の存在を確認できることになる。
【0004】
なお以上の例では、蛍光検出によって実際に存在が確認されるのは2次抗体6であるが、この2次抗体6は抗原2と結合しなければ流されてしまって基板3上に存在し得ないものであるから、この2次抗体6の存在を確認することにより、間接的に測定対象物質である抗原2の存在が確認されることとなる。
【0005】
とりわけここ数年は、冷却CCDの発達など光検出器の高性能化が進んでいることもあって、以上述べた蛍光法はバイオ研究には欠かせない手段となっており、さらにバイオ以外の分野においても広範に利用されている。特に可視領域では、例えばFITC(蛍光波長:525nm、量子収率:0.6)や、Cy5(蛍光波長:680nm、量子収率:0.3)のように、実用の目安となる0.2を超える高い量子収率を持つ蛍光色素が開発されており、蛍光法の応用分野がさらに拡大することが期待されている。
【0006】
また従来、エバネッセント光を用いる蛍光法も提案されている。この方法を実施する蛍光測定装置の一例を図5に概略的に示す。なおこの図5において、図4中の要素と同等の要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。
【0007】
この蛍光測定装置においては、前述の基板3に代わるものとしてプリズム(誘電体ブロック)13が用いられ、その上には金属膜20が形成されている。そして光源7からの励起光8が、このプリズム13と金属膜20との界面で全反射する条件で、プリズム13を通して照射される。この構成においては、励起光8が上記界面で全反射するとき該界面近傍に染み出すエバネッセント光11により2次抗体6が励起される。そして蛍光検出は、試料1に対してプリズム13と反対側(図中では上方)に配された光検出器9によってなされる。
【0008】
この蛍光測定装置において、励起光8は図中の下方から全反射する角度で入射することで、上記界面から数百nmの領域にしか到達しないエバネッセント光11を発生させ2次抗体を励起するため、液体試料1で反射・散乱した励起光8および、励起光8により励起された液体試料1、容器から発せられる蛍光(自家蛍光)が光検出器9に達して、検出したい蛍光信号に対するバック・グラウンドとなるといった問題を最小限に抑えることができる。そのため、このエバネッセント蛍光法は、従来の蛍光法と比べて(光)ノイズを大幅に低減でき、測定対象物質を1分子単位で蛍光測定できる方法として注目されている。
【0009】
なお図5に示したものは、エバネッセント蛍光法による蛍光測定装置の中でも、特に高感度化を図った表面プラズモン増強蛍光測定装置である。この表面プラズモン増強蛍光測定装置においては金属膜20が形成されていることにより、励起光8が照射されたとき該金属膜20中に表面プラズモンが生じ、その電界増幅作用によって蛍光が増幅されるようになる。あるシミュレーションによると、その場合の蛍光強度は1000倍程度まで増幅されることが判っている。この種の表面プラズモン増強蛍光測定装置については、例えば特許文献1に詳しい記載がなされている。
【0010】
上述のような蛍光法を実施するための装置の一つとして、例えば特許文献2に記載が有るように、励起光を発する光源と、内部において励起光を伝搬させて外表面から出射させ、試料液中の測定対象物質の存在を示す蛍光体を励起光により励起するロッド状のガラス等からなるセンサ部と、上記励起により蛍光体から発せられた蛍光を検出する光検出器とを備えてなるものが知られている。この種の装置によって測定を行う際には、通常センサ部が試料液中に浸漬され、そこから試料液中に出射した励起光により蛍光体が励起される。そして、それにより生じた蛍光が光検出器によって検出されるようになっている。
【0011】
なお、特許文献3や特許文献4には、上述のようなセンサ部として光ファイバを適用することが示されている。特に特許文献3には、この光ファイバの表面から漏れ出すエバネッセント光で蛍光体を励起することも記載されている。
【0012】
上述のように試料液中に浸漬されるセンサ部を用いる蛍光測定装置は、液槽の一部にセンサ部を組み込み、そこにポンプ等を用いて試料液を導入するタイプの蛍光測定装置と比べると構成が簡素化されて安価に形成可能であるという利点を有する。
【特許文献1】特許第3562912号公報
【特許文献2】米国特許第4703182号公報
【特許文献3】特許1916924号公報
【特許文献4】特開2006−047250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、試料液中に浸漬されるセンサ部を用いる従来の蛍光測定装置では、例えば1p・mol(ピコ・モル) /l(リットル)程度の極めて微量の測定対象物質を測定したい場合には、十分な測定精度が得られないという問題が認められている。この問題は、測定対象物以外の吸収・散乱成分が多く含まれる全血、血清や、尿など着色したものが測定対象物である場合、および、センサ部がクラッドや被覆のついた光ファイバではなく、より安価なガラスや一体成型した透明樹脂等からなるロッド状のものである場合に顕著に認められる。これは励起光・受光光が、光導波路となる上記ガラス等の中を伝播する間に、界面でそれらの測定対象物と接することで散乱し、または吸収されて減衰することによる。その影響を低減するために、一般にクラッドや被覆のついた光ファイバが用いられることがあるが、使い捨てが求められる上記の分野では消耗品が高価になってしまうためコスト面から採用できない。
【0014】
また、洗浄し不要な成分を除去する工程を設ければ、安価なロッド状のセンサ部を採用できるが、洗浄するために分注器・ポンプなどの高価な送液機構が必要になり装置が高価になってしまう。
【0015】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、使い捨てられる程度安価で消耗品となり得るセンサ部を用い、しかも全血、血清や、尿など着色した試料や、または光を散乱させる試料中の微量成分も測定できる安価な蛍光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明による蛍光測定装置は、励起光を伝搬させるセンサ部を試料液中に浸漬するタイプの蛍光測定装置において、センサ部の外表面に付着した試料液等によって励起光や蛍光が吸収され、あるいは散乱するのを防止できるようにしたものであって、具体的には、
励起光を発する光源と、
内部において前記励起光を伝搬させて外表面から出射させ、試料液中の測定対象物質の存在を示す蛍光体を前記励起光により励起するセンサ部と、
前記励起により前記蛍光体から発せられた蛍光を検出する光検出器とを備えてなる蛍光測定装置において、
前記センサ部を試料液中に浸漬させた後、前記励起光および蛍光を実質的に吸収、散乱させることのない所定の雰囲気中に移動させるセンサ部駆動手段と、
前記センサ部が前記雰囲気中に位置した状態下で前記光源および光検出器を駆動させて蛍光検出を実行させる制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0017】
なお上記のセンサ部としては、励起光を導波モードで伝搬させ、その外表面から染み出したエバネッセント光で蛍光体を励起するタイプのものが好適に用いられ得る。
【0018】
また上記「所定の雰囲気」は、散乱の程度が“ミー散乱”とみなせるより小さい径の範囲(散乱体の直径が波長以下)で、吸収の程度は1%以下の範囲に有る雰囲気を意味し、より具体的には、例えば通常の大気下の空気やバッファ液等が挙げられる。
【0019】
また、上記所定の雰囲気は、試料液および、標識としての蛍光体のいずれも含んでいない雰囲気であることが望ましい。
【0020】
他方、前記センサ部駆動手段はより具体的には、
少なくとも前記試料液を保持する部分および前記所定の雰囲気を保持する部分を有して、それらの部分を所定位置で順次停止させながら回転する回転部と、
この回転部が停止して前記所定位置に試料液および所定の雰囲気が配される毎に、該試料液および所定の雰囲気中に前記センサ部を逐次送り込む往復動手段とから構成されることが好ましい。
【0021】
また本発明の蛍光測定装置が特に抗原を測定対象とする場合には、蛍光体で標識されて、試料液中に含まれる測定対象の抗原と結合する抗体を含む液を保持する反応槽がさらに設けられた上で、センサ部駆動手段が、センサ部を試料液中に浸漬させた後、該センサ部を上記反応槽中の液に浸漬させてから前記雰囲気中に移動させるように構成されることが望ましい。
【0022】
また本発明の蛍光測定装置においては、必要な試薬、センサ部、反応槽等がセットで供給、廃棄されることが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明者は、従来の蛍光測定装置に認められる前述の問題すなわち、安価なセンサ部を使い、安価な装置で微量の測定対象物質を測定したい場合に十分な測定精度が得られないという問題は、試料液中に浸漬されているセンサ部の周囲に試料液等が存在したとき、励起光や蛍光がその試料液によって吸収され、あるいは散乱する結果、光検出器に励起光が検出され難くなっていることから生じていることを見出した。
【0024】
この新しい知見に基づいて本発明の蛍光測定装置は、励起光および蛍光を実質的に吸収、散乱させることのない所定の雰囲気中にセンサ部を移動させ、その状態で蛍光体の励起および蛍光検出を行うように構成されているので、上記吸収、散乱の影響を無くして、微量な測定対象物質も十分な精度で測定可能となる。
【0025】
なお、本発明の蛍光測定装置において、特にセンサ部駆動手段が前述のような回転部および往復動手段とから構成された場合は、測定を極めて能率良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明の一実施形態による蛍光測定装置の側面形状を示すものであり、また図2は、そこに用いられているターレット30の平面形状を示すものである。図示の通りこの蛍光測定装置は、上記ターレット30と、このターレット30を水平な状態にして回転自在に保持する架台31と、この架台31から垂直に立てられた縦部材32と、この縦部材32に保持されて図示外の駆動手段によって上下方向に移動自在とされた上下動台33とを有している。
【0028】
架台31にはステッピングモータ34が固定され、その駆動軸35にターレット30が固定されている。したがって、ステッピングモータ34が駆動されると、ターレット30が駆動軸35の周りに、つまり水平面内で回転する。また架台31の上面には、取付具36を介して例えばフォトダイオード等の光検出器37が取り付けられている。この光検出器37は一例として、互いに間隔を置いて向き合う状態にした1対のものが用いられている。
【0029】
図2に明示されるようにターレット30の上面には、それぞれ一定深さの穴部として形成された試料槽40、反応槽41、バッファ液槽42、センサ部保持穴43が形成されている。さらにこのターレット30には、貫通孔44が形成されている。これらの槽40〜42、センサ部保持穴43および貫通孔44は、ターレット30の回転軸周りの1つの共通円上に各中心が位置する状態にして、互いに所定の角度間隔を置いて配置されている。
【0030】
上下動台33には、例えば波長635nm の励起光50を発する半導体レーザ等の光源51と、センサ部52を解放自在に保持するチャック49とが搭載されている。センサ部52は、例えば透明樹脂、光学ガラス等を用いてロッド状に形成されたもので、その先端は図1に示すように2つの端面が鋭角的に交わる形状とされている。そしてこれら2つの面にはそれぞれ金属膜53と、ミラー面となる反射膜54が形成されている。また金属膜53の上には、不撓性膜55が形成されている。金属膜53は例えば金をスパッタして形成されたもので、その膜厚は50nmとされている。また不撓性膜55は、金属膜53の上に屈折率1.59のポリスチレン系ポリマーをスピンコートして形成されたものであり、膜厚は20nmとされている。
【0031】
上記ステッピングモータ34の駆動つまりターレット30の回転動作は、図示外の制御回路により、上下動台33、光源51および光検出器37の駆動と同期して制御される。
【0032】
なお、センサ部52を構成する特に好ましい樹脂としては、日本ゼオン株式会社製のZEONEX(登録商標) 330R(屈折率1.50)が挙げられる。しかしそれに限らずセンサ部52は、その他の公知の樹脂や光学ガラスを用いて適宜形成することができる。コストの点からは、光学ガラスよりも樹脂の方がより好ましいと言える。樹脂から形成する場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂も用いることができる。
【0033】
また上記チャック49は、一例として後述する機械的な把持機構を備えると共に円筒状の下端部を有し、その内部は図示外のブロワ等の空気吐出手段に連通されている。そこで、上記把持機構によりセンサ部52を保持する一方、空気を吐出することにより試料液等を撹拌する機能を備えている。それらの機能については、後に詳しく説明する。
【0034】
本実施形態の蛍光測定装置が測定対象としているのは、一例としてCRP抗原(分子量11万 Da)であり、それと特異的に結合する1次抗体(モノクロナール抗体)が上記不撓性膜55の上に固定されている。この1次抗体は、例えば末端をカルボキシル基化したPEGを介して、アミンカップリング法により、上記ポリマーからなる不撓性膜55に固定される。一方2次抗体としては、蛍光体(Cy5 Ge-healthcare社)で標識化したモノクロナール抗体(1次抗体とはエピトープ <epitope;抗原決定基>が異なる)が用いられる。
【0035】
上記アミンカップリング法は一例として下記(1)〜(3)のステップからなるものである。なおこれは、30μl(マイクロ・リットル)のキュベット/セルを用いた場合の例である。
【0036】
(1)リンカー先端(末端)の-COOH基を活性化
0.1M(モル)のNHSと0.4MのEDCとを等体積混合した溶液を30μl加え、30分間室温静置。なお、
NHS:N-hydrooxysuccinimide
EDC:1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide
である。
【0037】
(2)1次抗体の固定化
PBSバッファ(pH7.4)で5回洗浄後、1次抗体溶液(500μg/ml)を30μl加え、30〜60分間室温静置
(3)未反応の -COOH基をブロッキング
PBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄後、1Mのエタノールアミン(pH8.5)を30μl加え、20分間室温静置。さらにPBSバッフア(pH7.4)で5回洗浄。
【0038】
なお、光源51としては上記半導体レーザに限らず、その他のLEDなどの公知の光源を適宜選択使用可能である。また光検出器37も前述のものに限らず、CCD、光電子増倍管、c-MOS等の公知のものを適宜選択使用可能である。また励起波長を変えれば、Cy5以外の色素を標識として用いることもできる。
【0039】
以下、この蛍光測定装置の作用について、測定時の工程を順次示す図3を用いて説明する。なおこの図3では、図の煩雑化を回避するために、図1に示した各要素のうち、各工程(1)〜(11)のそれぞれにおいて説明に必要な最小限のものだけに付番を与えてある。
【0040】
まずこの測定に際しては予め、センサ部保持穴43にセンサ部52が収められる。そして同図(1)に示すように、試料槽40に試料液としての全血56が所定量注入され、ターレット30が所定角度回転されることにより、この試料槽40がチャック49の真下位置に設定される。次に(2)に示すようにチャック49が(つまり上下動台33)が下降され、全血56はこのチャック49と試料槽40との間の空気圧によって、試料槽40にあるフィルター48で濾され、(3)に示すように全血56が重い血球57と血漿58とに分離する。
【0041】
この状態になったところでチャック49が引き上げられた後、ターレット30がさらに所定角度回転され、(4)に示すように、センサ部保持穴43に収められているセンサ部52がチャック49の真下位置に設定される。この状態でチャック49が下降動され、一般的なボール盤がドリルを挟むような状態で挟み込むことでセンサ部52はチャック49に保持される。そして(5)に示すようにチャック49が引き上げられて、センサ部52がセンサ部保持穴43から上方に引き抜かれる。
【0042】
(6)に示すようにセンサ部52がターレット30から完全に離れると、ターレット30が所定角度回転され、(7)に示すように、試料槽40が再度チャック49の真下位置に設定される。そしてこの状態でチャック49が所定長さ降ろされた上で上下動され、それにより、そこに保持されているセンサ部52が血漿58の中に浸漬した状態で、軽く上下に動かされる。こうすることで、もし血漿58の中にCRP抗原が含まれていれば、該CRP抗原と、センサ部52の前記不撓性膜55に固定されている1次抗体との結合が促進される。
【0043】
その後センサ部52が試料槽40から上方に引き上げられ、次いでターレット30が所定角度回転されることにより、(8)に示すように、反応槽41がチャック49の真下位置に設定される。この反応槽41には、前述した蛍光体で標識された2次抗体を含む反応液45が貯えられている。次にチャック49が所定長さ降ろされた上で上下動され、それにより、センサ部52が反応液45の中に浸漬した状態で、軽く上下に動かされる。こうすることで、もしセンサ部52の不撓性膜55上の1次抗体にCRP抗原が結合していれば、該CRP抗原と2次抗体との結合が促進される。
【0044】
その後センサ部52が反応槽41から上方に引き上げられ、次いでターレット30が所定角度回転されることにより、(9)に示すように、バッファ液槽42がチャック49の真下位置に設定される。次にチャック49が所定長さ降ろされた上で上下動され、それにより、センサ部52がバッファ液槽42内に貯えられているバッファ液46によって洗浄される。つまり上記CRP抗原と、蛍光体で標識された2次抗体とが結合していれば、それらを除いた余計なものが洗い流される。
【0045】
その後センサ部52がバッファ液槽42から上方に引き上げられ、次いでターレット30が所定角度回転されることにより、(10)に示すように、貫通孔44がチャック49の真下位置に設定される。次にチャック49が下降され、それによりセンサ部52が貫通孔44内に位置する状態となる。この状態では、センサ部52の周りに存在するのは空気だけとなるので、該センサ部52は、以下に説明する蛍光測定を行う上で励起光および蛍光を実質的に吸収、散乱させることのない雰囲気中に配されることになる。
【0046】
この状態になったところで行われる蛍光測定について、そのときの状態を示している図1を参照して詳しく説明する。測定に際しては、光源51が駆動されて、そこからレーザ光等の励起光50が発せられる。この励起光50の大部分は、ロッド状のセンサ部52内を、その周囲面と空気との界面で全反射を繰り返しながら、導波モードで下方に進行する。こうしてセンサ部52内を伝搬した励起光50の一部は、センサ部下部の斜めに形成された2つの端面のうち金属膜53が形成されている方の端面に到達し、またあるものは反射膜54で反射してから該端面に到達し、そこで全反射する。
【0047】
このとき、センサ部52の端面と金属膜53との界面からエバネッセント光が染み出すようになる。そこで、もし不撓性膜55上の1次抗体にCRP抗原が結合していれば、さらに該抗原に反応液45中の2次抗体が結合し、その2次抗体の標識である蛍光体が上記エバネッセント光によって励起される。励起された蛍光体は所定波長の蛍光59を発し、その蛍光59は光検出器37によって検出される。こうして、光検出器37が所定波長の蛍光59を検出した場合は、それにより、CRP抗原に2次抗体が結合していること、すなわち試料液である血漿58にCRP抗原が含まれていることを確認可能となる。また、上記のような蛍光を検出した信号の強度から、測定対象物質の濃度を検出することも可能である。
【0048】
こうして蛍光測定が終了すると、センサ部52が貫通孔44内から上方に引き上げられ、次いでターレット30が所定角度回転されることにより、図3の(11)に示すように、センサ部保持穴43がチャック49の真下位置に設定される。次にチャック49が下降され、それによりセンサ部52がセンサ部保持穴43内に挿入される。次いでチャック49が開き、チャック49が上昇動され、そこからセンサ部52が離脱する。こうしてセンサ部52が保持穴43内に戻る。その後、使用済みのターレット30は捨て、新たなターレット30に交換することで、汚染を気にせずに測定を行うことができる。
【0049】
ここで本実施形態においては、以上の説明から明らかな通り、回転部としてのターレット30と、上下動台33およびチャック49からなる往復動手段とによってセンサ部駆動手段が構成されている。このようなターレット30を用いると、測定を極めて能率良く行うことが可能となる。しかしながら、センサ部駆動手段はこのようなものに限らず、その他の公知の機構を用いて適宜構成することができる。
【0050】
また、汚染をあまり気にする必要のない場合は、センサ部等を洗浄し、試薬を再度格納することで再利用も可能である。
【0051】
なお、上記蛍光測定がなされるとき、前述したようにセンサ部52は、励起光50および蛍光59を実質的に吸収、散乱させることのない雰囲気中に配されることになる。そこで、蛍光59が吸収されたり、散乱したりすることにより、検出される蛍光の強度が低下して、測定対象物質の測定精度が損なわれることを防止できる。また、センサ部52から一部漏れ出したような励起光50が散乱して光検出器37に入射し、それにより測定精度が損なわれることも防止可能となる。
【0052】
また本実施形態の蛍光測定装置においては、励起光50が染み出すセンサ部52の端面に金属膜53が形成されているので、ここで表面プラズモンが励起される。そこでこの表面プラズモンの電界増幅作用によって励起光50の強度が高められ、S/Nの高い蛍光検出信号を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態の蛍光測定装置においては、金属膜53の上に膜厚が20nmの不撓性膜55が設けられているので、標識である蛍光体が金属膜20に対して、金属消光が起きる程度まで近接してしまうことが防止される。そこでこの蛍光測定装置によれば、金属消光を招くことがなくなり、表面プラズモンによる電場増幅作用を確実に得て、極めて高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0054】
そして上記不撓性膜55は疎水性材料であるポリスチレン系ポリマーから形成されているので、試料液中に存在する金属イオンや溶存酸素のような消光の原因となる分子が該不撓性膜55の内部に入り込むことが無く、よってそれらの分子が励起光50の励起エネルギーを奪ってしまうことが防止される。そこでこの蛍光測定装置によれば、極めて高い励起エネルギーが確保され、高い感度で蛍光を検出可能となる。
【0055】
なお、以上説明した実施形態の蛍光測定装置は、蛍光測定することにより2次抗体を検出し、それにより、試料液中の測定対象物質を間接的に検出するものであるが、本発明の蛍光測定装置は、蛍光体である測定対象物質を直接的に検出するように構成することも勿論可能である。
【0056】
また本発明の蛍光測定装置を構成するセンサ部としては、以上説明したセンサ部52に限らず、図6に示すような形状のセンサ部60や、さらには図7に示すような形状のセンサ部70等も適用可能である。さらに、導波モードで励起光を伝搬させるセンサ部としては、上に示したロッド状のものに限らず、光ファイバからなるものを用いることもできる。
【0057】
さらに、以上説明した実施形態の蛍光測定装置は表面プラズモン増強蛍光測定装置であるが、本発明の蛍光測定装置は、特にこの表面プラズモン増強は行わないタイプの蛍光測定装置(上記実施形態に即して説明すれば金属膜53を持たないタイプの蛍光測定装置)として構成することも勿論可能である。
【0058】
また上記実施形態では、励起光および蛍光を実質的に吸収、散乱させることのない雰囲気を空気として、その中で蛍光体の励起および蛍光検出を行っているが、この空気の他に例えば、純水、PBSバッファ等の液体もそのような雰囲気として適しており、本発明の蛍光測定装置は、そのような液体の中で蛍光体の励起および蛍光検出を行うように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態による蛍光測定装置を示す概略側面図
【図2】図1の蛍光測定装置の一部を示す平面図
【図3】図1の蛍光測定装置による測定工程を、順を追って示す概略図
【図4】従来の蛍光測定装置の一例を示す概略側面図
【図5】従来の蛍光測定装置の別の例を示す概略側面図
【図6】センサ部の別の例を示す概略側面図
【図7】センサ部のさらに別の例を示す概略側面図
【符号の説明】
【0060】
1 試料
2 抗原
4 1次抗体
6 2次抗体
7、51 光源
8、50 励起光
9、37 光検出器
10 蛍光体
20 金属膜
30 ターレット
33 上下動台
34 ステッピングモータ
40 試料槽
41 反応槽
42 バッファ液槽
43 センサ部保持穴
44 貫通孔
49 チャック
52、60、70 センサ部
53 金属膜
54 反射膜
55 不撓性膜
59 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発する光源と、
内部において前記励起光を伝搬させて外表面から出射させ、試料液中の測定対象物質の存在を示す蛍光体を前記励起光により励起するセンサ部と、
前記励起により前記蛍光体から発せられた蛍光を検出する光検出器とを備えてなる蛍光測定装置において、
前記センサ部を試料液中に浸漬させた後、前記励起光および蛍光を実質的に吸収、散乱させることのない所定の雰囲気中に移動させるセンサ部駆動手段と、
前記センサ部が前記雰囲気中に位置した状態下で前記光源および光検出器を駆動させて蛍光検出を実行させる制御手段とを備えたことを特徴とする蛍光測定装置。
【請求項2】
前記センサ部が励起光を導波モードで伝搬させ、その外表面から染み出したエバネッセント光で前記蛍光体を励起するものであることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定装置。
【請求項3】
前記所定の雰囲気が空気中であることを特徴とする請求項1または2記載の蛍光測定装置。
【請求項4】
前記所定の雰囲気がバッファ液であることを特徴とする請求項1または2記載の蛍光測定装置。
【請求項5】
前記所定の雰囲気が、試料液および、標識としての蛍光体のいずれも含んでいない雰囲気であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の蛍光測定装置。
【請求項6】
前記センサ部駆動手段が、
少なくとも前記試料液を保持する部分および前記所定の雰囲気を保持する部分を有して、それらの部分を所定位置で順次停止させながら回転する回転部と、
この回転部が停止して前記所定位置に試料液および所定の雰囲気が配される毎に、該試料液および所定の雰囲気中に前記センサ部を逐次送り込む往復動手段とから構成されていることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の蛍光測定装置。
【請求項7】
蛍光体で標識されて、試料液中に含まれる測定対象の抗原と結合する抗体を含む液を保持する反応槽がさらに設けられ、
前記センサ部駆動手段が、センサ部を試料液中に浸漬させた後、該センサ部を前記反応槽中の液に浸漬させてから前記雰囲気中に移動させるように構成されていることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の蛍光測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−170248(P2008−170248A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3104(P2007−3104)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】