説明

蛍光相関分光装置

【課題】水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変化させる、あるいは測定中に水溶液中の蛍光の励起、及び検出領域を移動させて計測領域を拡大し、限られた時間内に測定に関与する粒子数を積極的に増やして計測のSN比を改善し、測定のスループットを向上させた蛍光相関分光装置を提供すること。
【解決手段】レーザー光源2と、前記レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、前記水溶液からの蛍光を集光する光学系と、集光した蛍光を検出する光検出器16とを有し、前記水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変化させる、あるいは測定中に水溶液中の蛍光の励起、及び検出領域を移動させて計測領域を拡大するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に試料に標識した蛍光色素分子、あるいは蛍光蛋白などの微細物質から発せられる蛍光の検出を行うための光検出装置及び光検出方法に関し、特にこれらの光の強度ゆらぎの相関解析を行う蛍光相関分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の光学技術やデータ解析技術の進歩に伴い、光の強度を統計的に解析して、分子などの特性に関する情報を得る解析手法が開発されてきている。このような技術としては、蛍光相関分光解析法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:以下「FCS」という。)などが知られている。
【0003】
FCSでは共焦点光学顕微鏡の視野の中で、蛍光物質で標識されたタンパク質やコロイド粒子などの担体粒子を溶液中に浮遊させ、これにレーザー光を照射して蛍光物質を励起する。蛍光物質から発せられる蛍光の強度は媒質中に浮遊する蛍光分子がブラウン運動をしているために時間とともに変化する時系列信号となる。
一方、蛍光分子の並進拡散運動の速度は、化学反応や結合反応などによる蛍光分子の大きさの変化や媒質の温度の変化などによって変化する。
【0004】
そこで、この分子の細胞内での化学反応や結合反応などによる拡散運動の速度の変化を蛍光の光強度の時系列信号の統計的な変化として捉えて、これらの微細物質のブラウン運動に基づく蛍光強度ゆらぎを解析して自己相関関数を求めることにより、対象とする微粒子の数や並進拡散時間などを測定することができる。並進拡散時間からは、分子の“大きさ”に関する知見が得られる。
【0005】
なお、この技術については、例えば、金城政孝「蛋白質 核酸 酵素」(1999) Vol.44, No.9, p1431-1437に論じられている。さらに"Fluorescence correlation spectroscopy" R.Rigler, E.S.Elson (eds.) Springer (Berlin)などの解説がある。
【0006】
そして、このような、光を検出し光強度ゆらぎの相関解析などを行って被検試料の物理的な性質を測定する技術としては、次のものが知られている。例えば、特許文献1には共焦点光学顕微鏡を用いて、試料ステージ上で蛍光標識された試料にレーザー光を照射し、試料から発せられる蛍光の強度ゆらぎを解析し、蛍光分子の並進拡散係数などの統計的な性質や分子間の相互作用などを求める方法及び装置が示されている。
【0007】
また、特許文献2にはマイクロプレートに収容された蛍光物質を含む試料内に共焦点領域を生成し、これにレーザー光を照射して蛍光物質を励起し、試料から発せられる蛍光の強度や寿命などを測定する装置が示されている。さらに、特許文献3にはレーザー光をレンズにより集光し、マイクロプレートのウェルに入れられた、蛍光標識された試料を励起する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11−502608号公報
【特許文献2】米国特許第6,071,748号明細書
【特許文献3】特表2001−502062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、数値化による評価を精度良く行うためには、多くの粒子の測定を行い平均化する必要があり、検出領域を固定してブラウン運動によって、その領域に飛び込んでくる粒子からの蛍光を計測している限り、測定にかかる粒子の数が見込めないという欠点がある。
【0010】
また、原理上、大きい分子ほど動きが遅いので、大きい分子ほど測定時間中に測定に関与する分子数は限られることになる。
【0011】
さらには、紐状のDNA、ペプチド鎖のように溶液中で様々な形状をとる可能性のある分子は、なるべく多くの状態を測定することで、十分に平均化したものとして測定する必要がある。しかし、上記事情を鑑み、測定時間を長くすると、スループットが悪くなってしまう。
【0012】
一方、蛍光色素の特性によっては退色(励起しても蛍光を放出しなくなる)の影響を受ける。ブラウン運動によって飛び込んでくる分子を計測している以上、その測定時間中に拡散してくることが可能な領域にある分子しか関与できないので、一度計測した分子が再び励起、計測領域に入ってくる可能性もあるので、それが退色の影響を受けている場合もある。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変化させる、あるいは測定中に水溶液中の蛍光の励起、及び検出領域を移動させて計測領域を拡大し、限られた時間内に測定に関与する粒子数を積極的に増やして計測のSN比を改善し、測定のスループットを向上させた蛍光相関分光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明による蛍光相関分光装置は、レーザー光源と、前記レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、前記水溶液からの蛍光を集光する光学系と、集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、前記水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変える手段を備えることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるために、対物レンズの倍率を変える機構を備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるために、対物レンズへの入射ビーム径を変えることが好ましい。
【0017】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって選択できることが好ましい。
【0018】
あるいは、本発明の蛍光相関分光装置は、レーザー光源と、前記レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、前記水溶液からの蛍光を集光する光学系と、集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、前記水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させる手段を備えることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるために、光軸を中心とした回転機構を備えることが好ましい。
【0020】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるために、走査型顕微鏡のようなラスタースキャンを行える機構を備えることが好ましい。
【0021】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては、蛍光の励起、及び検出領域の移動状態を、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって選択できることが好ましい。
【0022】
さらにまた、本発明の蛍光相関分光装置においては、蛍光相関分光において、必要なデータを算出するための理論式を、蛍光の励起、及び検出領域の大きさ、あるいは移動状態に応じて変更できることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の蛍光相関分光装置によれば、FCS測定時に溶液内の検出領域を変化、あるいは移動させて計測領域を拡大し、限られた時間内に、測定に関与する粒子数を積極的に増やして計測のSNを改善し、測定のスループットを向上させることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】蛍光相関分光装置の基本的な構成示す概略図である。
【図2】対物レンズの変更によるコンフォーカルボリュームの違いを示す説明図であり、(a)は高倍率の対物レンズの場合、(b)は低倍率の対物レンズの場合を示したものである。
【図3】コンフォーカルボリュームのサイズの表現図である。
【図4】ビームエキスパンダーによるビーム径の変更の説明図である。
【図5】偏芯ミラーの説明図である。
【図6】通常の反射ミラーの説明図である。
【図7】偏芯ミラーによるビームの回転を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施形態の説明に先立ち、本発明の概略及び作用効果について説明する。
本発明の蛍光相関分光装置は、レーザー光源と、レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、水溶液からの蛍光を集光する光学系と、集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変える手段を備えるように構成されている。これによって、測定試料となる水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変更でき、限られた時間内に測定に関与する粒子数を積極的に増やして計測のSN比を改善することができる。
【0026】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるために、対物レンズの倍率を変える機構を備える。これによって、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって蛍光の励起、及び検出領域の大きさが選択できる。
【0027】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるために、対物レンズへの入射ビーム径を変えることができるようにする。これによって、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって蛍光の励起、及び検出領域の大きさが選択できる。
【0028】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって選択できるようにする。対物レンズの交換やビームエキスパンダーによる入射ビーム径の変更は、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によってアプリケーションソフトウエアで変更できるようにする。
【0029】
あるいは、本発明の蛍光相関分光装置は、レーザー光源と、レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、水溶液からの蛍光を集光する光学系と、集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させる手段を備えるように構成されている。これによって、測定中に測定試料となる水溶液中の蛍光の励起、及び検出領域を移動させて計測領域を拡大でき、限られた時間内に測定に関与する粒子数を積極的に増やして計測のSN比を改善することができる。
【0030】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるために、光軸を中心とした回転機構を備える。これによって、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって蛍光の励起、及び検出領域の位置が選択できる。
【0031】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるために、走査型顕微鏡のようなラスタースキャンを行える機構を備える。これによって、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって蛍光の励起、及び検出領域の位置が選択できる。
【0032】
また、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、蛍光の励起、及び検出領域の移動状態を、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって選択できる。入射ビームの走査の変更は、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によってアプリケーションソフトウエアで変更できるようにする。
【0033】
さらにまた、本発明の蛍光相関分光装置においては好ましくは、蛍光相関分光において、必要なデータを算出するための理論式を、蛍光の励起、及び検出領域の大きさ、あるいは移動状態に応じて変更できるようにする。自己相関関数を適宜選択することにより、対象となる分子の大きさや速度の大きさに合った適切な結果を得ることができる。
【0034】
次に、本発明の実施例の説明を行う前に、蛍光相関分光装置の基本的な構成を図1に基づいて説明する。なお、本発明の蛍光相関分光装置は以下の実施例で説明するように、図1にその基本的な構成を示した蛍光相関分光装置について、その一部を改良したものである。また、蛍光相関分光装置は基本的な部分については、次に説明するように共焦点レーザー顕微鏡の構成を利用したものとなっている。
【0035】
蛍光相関分光装置は、レーザー光を放射する光源2と、光源2からのレーザー光を測定試料となるマイクロプレート7の水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系を構成するコリメーター4,ダイクロイックミラー5,反射ミラー10,反射ミラー6,対物レンズ1と、水溶液からの蛍光を集光する光学系を構成する集光レンズ12,ピンホール13,バリアフィルター14と、集光した蛍光を検出する光検出器16と、光検出器16のデータを入力して時間に対する自己相関の演算を行う相関演算機17,コンピューター18を備えている。
【0036】
マイクロプレート7は測定試料となる水溶液を収納するための反応容器であり、一般的には樹脂やガラス製の透明材料によって形成されている。ウェル20は、マイクロプレート7に設けられた測定試料となる水溶液を収容するための穴であり、マイクロプレート7に多数配列されている。なお、マイクロプレート7は図示してないXYステージに載置して固定されている。
【0037】
光源2はレーザー光源を用いるが、図示するようにレーザー光源を複数用意し、これらを切り換えて使用できるようにしてもよく、あるいは一つのみであってもよい。対物レンズ1はマイクロプレート7の下方に設置され、レーザー光を集光してその集光領域(共焦点領域)を水溶液中に形成する。
【0038】
ダイクロイックミラー5は、波長に応じて選択的に光を透過あるいは反射させる。ダイクロイックミラー5はプリズム形状のガラス製のブロックの斜面に多層膜コーティングを施して、透過、反射のスペクトル特性が最適になるように製作されている。なお、ダイクロイックミラー5は図1に示すように平板を用いても良い。
【0039】
バリアフィルター14は蛍光の波長範囲の光のみを通過させるバンドバスフィルターとして機能し、光源2からのレーザー光の一部が試料から発せられた蛍光に混入して光検出器16で受光されるのを防ぐ役割がある。集光レンズ12,ピンホール13は、水溶液中の共焦点領域からの光を透過し、共焦点領域外からのバックグランド光を除去する。
【0040】
光検出器16は、バリアフィルター14と光検出器16の間に設けられたレンズ21の焦点位置にその受光面が合うように配置され、信号光を電気信号(光電流パルス)に変換する。相関演算機17とコンピューター18は図1においては別々のものとして示したが、実際には一体となって相関解析などの演算を実行する処理装置として機能するものである。
【0041】
次に、上記した蛍光相関分光装置の動作について説明する。
測定に用いる蛍光色素分子を励起するためのレーザー光を放射する光源2からレーザー光が放射され、シングルモードファイバー3によって伝播される。
【0042】
シングルモードファイバー3の出射端からは、シングルモードファイバー3固有のNAにより、レーザービームは決まった角度で発散光となり放射される。この発散光はコリメーター4によって平行光となり、ダイクロイックミラー5で反射し、反射ミラー10、反射ミラー6で反射して対物レンズ1に入射する。
【0043】
対物レンズ1の上方には、測定試料となる水溶液が入ったマイクロプレート7が配置されている。試料の水溶液はマイクロプレート7上に構成されたウェル20に入れられ、通常、1μL(マイクロリットル)から数10μL程度の量が入れられている。
【0044】
水溶液中でレーザー光は焦点を結び、励起領域を形成する。水溶液中の測定対象となる分子は、蛍光色素分子で標識されており、この測定対象となる分子は、ブラウン運動によって水溶液中を自由に拡散している。
この分子が、一度、励起領域に入ると、その間、標識された蛍光色素分子が励起され、蛍光が放出される。放出された蛍光は、再び、対物レンズ1で集光される。
【0045】
蛍光は、ダイクロイックミラー5を透過し、集光レンズ12で集光され、対物レンズ1の焦点位置に共役の位置に配置されたピンホール13を通過する。このピンホール13により、検出領域の体積が決まり、通常これをコンフォーカルボリュームと呼び、大きさは1fL(フェムトリットル)程度である。
【0046】
続いて、蛍光はバリアフィルター14を透過し、必要な波長帯域の成分のみが選択され、マルチモードファイバー15に入射した後、光検出器16で検出される。光検出器16の出力は、通常、時系列のフォトンのパルス列となって、相関演算機17に入力され、ここで時間に対する自己相関の演算が行われる。
【0047】
蛍光強度の自己相関のデータは、予め理論的に求められている下記の自己相関関数(式1)を用いてフィッティングされ、分子の拡散時間やコンフォーカルボリューム中に平均的に存在する分子の数などが算出される。通常、測定に用いる水溶液は、濃度が1nM(ナノモラー)程度なので、コンフォーカルボリューム中に平均的に存在する分子の数は、約1個程度になる。これらの演算はコンピューター18で実行される。
【0048】
G(t)=1+1/N[1+t/τD-1[1+(WO/WZ2t/τD]-1/2
・・・(式1)
τD:分子の拡散時間
N:コンフォーカルボリューム中に平均的に存在する分子の数
O:コンフォーカルボリュームの横方向の半径
Z:コンフォーカルボリュームの長軸
【実施例1】
【0049】
次に、本発明の蛍光相関分光装置の実施例にいて説明する。基本的構成は図1に示したものと同様であるので、異なる部分を図2に基づいて説明する。なお、本実施例は、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるものである。
【0050】
対物レンズ1には、蛍光色素分子を励起するためのレーザー光が平行光として入射しているが、この対物レンズ1を倍率の異なる対物レンズ8に交換することで、図2に示すように水溶液中のコンフォーカルボリュームの大きさを変えることができる。
なお、この際、図には示していないが、ピンホール13の開口のサイズもコンフォーカルボリュームの大きさに適したサイズに変更する。
【0051】
例えば、測定対象となる水溶液の濃度が、対象となる分子同士の反応条件の要請から薄い場合(<1nM)、コンフォーカルボリューム中に平均的に存在する分子の数は、0.1以下となる。このような場合、測定時間中のほとんどの時間は、分子が計測に関与しないことになる。このとき、低倍率の対物レンズ8とするとコンフォーカルボリュームのサイズが大きくなり、測定時間中、常に分子がコンフォーカルボリューム中に存在することになる。
【実施例2】
【0052】
次に、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるものの他例にいて説明する。基本的構成は図1に示したものと同様であるので、異なる部分を図3に基づいて説明する。
【0053】
コリメーター4から出射される平行光に、ビームエキスパンダー9を挿入し、ビーム径を変化させることで、図3に示すように水溶液中のコンフォーカルボリュームの大きさを変えることができる。なお、この場合も、図には示していないが、ピンホール13の開口のサイズもコンフォーカルボリュームの大きさに適したサイズに変更する。
【0054】
なお、実施例1及び実施例2の対物レンズ1から対物レンズ8への交換、あるいは、ビームエキスパンダー9の挿入は、予め測定者が、溶液中の分子数が少ないとわかっている場合、測定の前に、アプリケーションソフトウエアで変更が可能なものとする。あるいは、一度、測定を実施した後、分子数Nが少ない場合、アプリケーションソフトウエアが自動的に変更できるように設定できるものとする。
【実施例3】
【0055】
次に、本発明の蛍光相関分光装置の他の実施例にいて説明する。基本的構成は図1に示したものと同様であるので、異なる部分を図5〜図7に基づいて説明する。なお、本実施例は、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるものである。
【0056】
対物レンズ1には、蛍光色素分子を励起するためのレーザー光が平行光として入射しているが、ここで使われている図6に示す反射ミラー6に角度を持たせたものを、図7に示すように偏芯ミラー19とし、図5に示すようにこれにモーター11を取り付けて偏芯した状態で回転させることで測定に関与するコンフォーカルボリュームの体積を増やすことができる。
【0057】
通常、光軸上の一点で測光している状態が、光軸を中心としたドーナツ状の体積を掃引することになる。実際、40倍の対物レンズに対して、入射のビームに数分の角度を与えて偏芯させると、励起に関与する体積は1fLから100fLになる。
【実施例4】
【0058】
次に、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるものの他例にいて説明する。基本的構成は図1に示したものと同様であるので、異なる部分について説明する。
【0059】
本実施例は図には示していないが、通常の走査型レーザー顕微鏡のような走査、例えばラスタースキャンを水溶液中の均一な領域で行いながら測定を行うことでも体積を稼ぐことができる。
【0060】
なお、上記実施例3及び実施例4の場合、瞬間瞬間には、コンフォーカルボリュームの体積は、変化していないので、ピンホール13の開口のサイズはそのままでよい。また、ピンホール13の位置も、共役な位置が保存されているのでそのままでよい。
【0061】
また、上記実施例3及び実施例4の対物レンズ1への入射ビームの走査は、予め測定者が、溶液中の分子数が少ないとわかっている場合、あるいは分子が大きくて、拡散速度が遅いとわかっている場合、測定の前に、アプリケーションソフトウエアで変更可能なものとする。あるいは、一度、測定を実施した後、分子数Nが少ない、あるいは拡散時間が大きい場合、アプリケーションソフトウエアが自動的に変更できるように設定できるものとする。
【実施例5】
【0062】
次に、蛍光相関分光において、必要なデータを算出するための理論式を、蛍光の励起、及び検出領域の大きさ、あるいは移動状態に応じて変更する例について説明する。
【0063】
水溶液中を移動するコンフォーカルボリュームの相対的な速度(V)の大きさによっては、自己相関関数(式1)から乖離する場合がある。実際、FCS技術の応用として、細かいキャピラリー中に拡散状態が既知の分子を流し、キャピラリー中のFCS測定を行うことで、キャピラリー中の定常的な速度場の分布の解析が行える(Rigler:Ana. Chem. Vol72,No14,2000,3260-3265)。この際、自己相関関数(式1)には、分子を含んだ溶液の速度(V)が考慮され、次式(式2)のように表せる。
【0064】
G(t)=1+1/N[1+t/τD-1[1+(WO/WZ2t/τD]-1/2exp{−[1+t/τD-1[1+(WO/WZ2t/τD-1/2(V/WO・t)2} ・・・(式2)
【0065】
本実施例においても、対象となる分子の大きさ、あるいは速度の大きさによっては、式2のexpの項が無視できなくなるので、その場合は(式1)ではなく(式2)をフィッティングに用いるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、計測中に関与する分子数を増やしてスループットを向上させることができるので、蛍光分析装置に有用なものである。
【符号の説明】
【0067】
1 対物レンズ
2 光源
3 シングルモードファイバー
4 コリメーター
5 ダイクロイックミラー
6 反射ミラー
7 マイクロプレート
8 対物レンズ(低倍率)
9 ビームエキスパンダー
10 反射ミラー
11 モーター
12 集光レンズ
13 ピンホール
14 バリアフィルター
15 マルチモードファイバー
16 光検出器
17 相関演算機
18 コンピューター
19 偏芯ミラー
20 ウェル
21 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源と、
前記レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、
前記水溶液からの蛍光を集光する光学系と、
集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、
前記水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変える手段を備えることを特徴とする蛍光相関分光装置。
【請求項2】
水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるために、対物レンズの倍率を変える機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の蛍光相関分光装置。
【請求項3】
水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の大きさを変えるために、対物レンズへの入射ビーム径を変えることを特徴とする請求項1に記載の蛍光相関分光装置。
【請求項4】
蛍光の励起、及び検出領域の大きさを、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって選択できることを特徴とする請求項1に記載の蛍光相関分光装置。
【請求項5】
レーザー光源と、
前記レーザー光源からのレーザー光を測定試料となる水溶液に集光して共焦点領域を形成する光学系と、
前記水溶液からの蛍光を集光する光学系と、
集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、
前記水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させる手段を備えることを特徴とする蛍光相関分光装置。
【請求項6】
水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるために、光軸を中心とした回転機構を備えることを特徴とする請求項5に記載の蛍光相関分光装置。
【請求項7】
水溶液中における、蛍光の励起、及び検出領域の位置を測定中に移動させるために、走査型顕微鏡のようなラスタースキャンを行える機構を備えることを特徴とする請求項5に記載の蛍光相関分光装置。
【請求項8】
蛍光の励起、及び検出領域の移動状態を、測定対象の分子の大きさ、あるいは濃度によって選択できることを特徴とする請求項5に記載の蛍光相関分光装置。
【請求項9】
蛍光相関分光において、必要なデータを算出するための理論式を、蛍光の励起、及び検出領域の大きさ、あるいは移動状態に応じて変更できることを特徴とする請求項1又は請求項5に記載の蛍光相関分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−2415(P2011−2415A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147593(P2009−147593)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】