融合タンパク質発現用新規DNA及び該DNAを用いたタンパク質の製造方法
【課題】 融合タンパク質発現法における連結相手(融合パートナータンパク質をコードするDNA断片)として利用可能な新規DNAの開発。
【解決手段】 TNF−α発現用ベクターで形質転換したBrevibacillus choshinensisの培養上清から分離した分子量45kDaの新規タンパク質(P45タンパク質)をコードする遺伝子は、組換えタンパク質生産において、目的タンパク質の上流に連結することにより、従来発現されなかったりあるいは発現量が低かった目的タンパク質遺伝子の発現を高め、目的タンパク質の生産を顕著に高めることができる。
【解決手段】 TNF−α発現用ベクターで形質転換したBrevibacillus choshinensisの培養上清から分離した分子量45kDaの新規タンパク質(P45タンパク質)をコードする遺伝子は、組換えタンパク質生産において、目的タンパク質の上流に連結することにより、従来発現されなかったりあるいは発現量が低かった目的タンパク質遺伝子の発現を高め、目的タンパク質の生産を顕著に高めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
遺伝子組換えによるタンパク質の生産、特には、融合タンパク質発現法における連結相手として利用可能な新規DNA、及び、該DNAを融合タンパク質発現法における連結相手に用いた組換えタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術は、生体内に微量しか存在せず単離が難しいために従来は利用が著しく困難であったタンパク質、または、任意のアミノ酸配列を有するポリペプチドを、細菌、真菌、または、動物細胞などを宿主に用いて大量に生産することを可能にした。
【0003】
しかしながら、目的とするタンパク質またはポリペプチドによっては、それをコードする遺伝子の発現が起こらないか、もしくは、遺伝子が発現されたとしても目的とするタンパク質またはポリペプチドが極微量しか生産されず産業的な利用が不可能な場合も多かった。
【0004】
そのため、当業者において、通常の遺伝子組換えによる方法では遺伝子の発現が起こらない遺伝子の発現を行うため、あるいは、通常の遺伝子組換えによる方法では微量しか生産されないタンパク質の生産量を増大させるための方法のひとつとして、融合タンパク質発現と呼ばれる手法が用いられている。この融合タンパク質発現とは、融合パートナーと呼ばれる特定のタンパク質をコードするDNA断片(以下、連結相手とする。)の下流に目的とするタンパク質をコードするDNAを連結したDNAを発現させ、融合パートナーと目的とするタンパク質が結合した融合タンパク質として生産した後、融合パートナー部分を切断することにより目的とするタンパク質を得る方法である。この際、融合パートナーと目的とするタンパク質コードするDNAの間にトロンビン認識配列などの特異的に切断可能なペプチド鎖をコードするDNAを挿入し、生産された融合タンパク質から融合パートナーの切断が行えるようにする。
【0005】
この融合タンパク質発現法に用いられる融合パートナーとしては、例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)(特許文献1)などが知られている。また、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産においても融合タンパク質発現が試みられており、例えば、特許文献2においてhEGFを融合パートナーとして用いる方法が開示されている。
【特許文献1】特表平1−503441
【特許文献2】特開平6−253862
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、融合タンパク質発現の連結相手として知られている公知のDNAの何れを用いても、それでも、発現が困難である遺伝子、または、微量しか生産されないタンパク質(またはポリペプチド)も多い。また、上記のhEGFのように融合パートナーがシステイン残基を含むたんぱく質である場合には、生産された融合タンパク質において、目的タンパク質に含まれるシステイン残基と融合パートナーに含まれるシステイン残基の間での不正なSS結合が生じてしまうという問題があり、融合タンパク質発現法に適さない場合が多かった。
【0007】
また、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において、融合パートナーとしての利用が試みられた他のタンパク質は、生産量自体があまり多くなかったり、分解されやすいものであったりしたため、融合パートナーに適しておらず、これまでブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において融合パートナーに適したタンパク質は知られていなかった。
【0008】
そのため、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする融合タンパク質発現法によるタンパク質生産において、連結相手として利用可能な新規なDNA、及び、該DNAを融合タンパク質発現の連結相手に用いた組換えタンパク質の生産方法の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ブレビバチルス・チョウシネンシスを宿主に用いた遺伝子組換えによるタンパク質生産において、イヌ可溶性IgE受容体などの特定のタンパク質の分泌生産を行った際、目的タンパク質の分泌生産と同時に分子量約45kDaの機能未知のタンパク質が大量に分泌されることを発見した。本発明者は、この機能未知の分泌タンパク質を、その分子量が約45kDであることからP45と命名した。
【0010】
本発明者は、この大量に分泌されるP45タンパク質を融合タンパク質発現法における融合パートナーに用いることにより、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において、これまで全く発現がされなかった遺伝子の発現、及び、該遺伝子にコードされたタンパク質(またはポリペプチド)の生産、または、これまで微量しか生産されなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量の増大を可能にするのではないかとの新規着想を得た。
【0011】
そこで、本発明者は、これまでブレビバチルス属細菌を宿主に用いた組換えタンパク質生産において目的とするタンパク質をコードする遺伝子を発現する形質転換体の構築が出来なかった遺伝子について、その上流にP45タンパク質遺伝子を連結した融合タンパク質遺伝子(P45融合タンパク質遺伝子)発現用ベクターを作製し、このベクターを用いて融合タンパク質発現を試みた。
【0012】
その結果、本発明者は、P45融合タンパク質遺伝子の発現、及び、著量のP45融合タンパク質の生産に成功した。更に、得られたP45タンパク質との融合タンパク質から活性を有する目的タンパク質を単離することに成功した。
【0013】
また更に、本発明者は、これまでブレビバチルス属細菌を宿主細胞を用いた組換えタンパク質生産において微量しか生産することができなかったタンパク質について、その遺伝子の上流にP45タンパク質遺伝子を連結した融合タンパク質遺伝子の発現を行うことにより、その生産量を顕著に増大させることに成功し、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、融合タンパク質発現法における連結相手として利用可能な新規DNAであるP45タンパク質遺伝子を提供する。
更に、本発明は、P45タンパク質遺伝子の下流に目的タンパク質遺伝子を連結したDNAを組み込んだ融合タンパク質発現用ベクターを提供する。
【0015】
また更に、本発明は、該融合タンパク質発現用ベクターを保持する宿主細胞を提供する。
また更に、本発明は、該融合タンパク質発現用ベクターを保持する宿主細胞を培養する工程を含むタンパク質の生産方法を提供する。
【0016】
また更に、本発明は、ブレビバチルス・チョウシネンシス由来の新規タンパク質であるP45タンパク質を提供する。このP45タンパク質は、高い分泌性を有し、また、配列中にシステインを含まない、部位特異切断酵素として汎用されるトロンビンによる分解を受けないなどの性質により融合発現法における融合パートナーとして極めて優れている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のP45タンパク質遺伝子は、特にブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いた組換えタンパク質生産において、目的タンパク質遺伝子の上流に連結することにより、これまで通常の遺伝子組換えによる方法では、タンパク質(またはポリペプチド)をコードする遺伝子が発現されなかったため生産が不可能だったタンパク質(またはポリペプチド)の生産を可能し、また、これまで微量しか生産することができなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を顕著に増大させる効果がある。
【0018】
さらに、本発明のP45タンパク質は、高い分泌性を有する、配列中にシステインを含まない、部位特異酵素として汎用されるトロンビンによる分解を受けないなどの性質により融合発現法における融合パートナーとして極めて優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明のP45タンパク質遺伝子は、ブレビバチルス・チョウシネンシス由来の新規タンパク質である配列番号1:図1のP45タンパク質をコードするDNAである。そのDNA配列を配列番号4:図4に示す。
【0021】
なお、配列番号4:図4のP45タンパク質遺伝子の配列には、翻訳開始点と考えられるメチオニンをコードするATGが1から3塩基めと22から24塩基めの2ヶ所にある。融合タンパク質発現法における連結相手には、配列番号4:図4に示すメチオニンを2つとも含むP45タンパク質遺伝子の全長を用いてもよいが、通常は、配列番号5:図5に示す、配列番号4:図4の22番目以降の塩基からなるDNAを用いる。本願明細書では、配列番号5:図5のDNAについてもP45タンパク質遺伝子とする。
【0022】
配列番号4:図4、または、配列番号5:図5のDNA配列と70%以上の相同性を有するものは知られておらず、したがって、本発明のP45タンパク質遺伝子は新規DNAである。さらに配列番号1:図1のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸をコードするDNAであっても、生産を目的とするタンパク質をコードする遺伝子の上流に連結することにより、これまで通常の遺伝子組換えによる方法では、発現がされなかった遺伝子の発現を可能にするか、または、微量しか生産されなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を増大させる効果がある限り、全て本発明のP45タンパク質遺伝子に包含される。
【0023】
本発明のP45タンパク質遺伝子は、例えば、後述の実施例2に示すようにブレビバチルス・チョウシネンシスのゲノムDNAライブラリーを作製し、このライブラリーから、配列番号4:図4、または、配列番号5:図5のDNA配列の一部を有するDNA断片をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法や、上記のDNA断片をプライマーとして用いるPCR法により調製することができる。または、そのDNA配列を元に当業者に公知の核酸化学合成法などにより、本発明のP45タンパク質遺伝子を得ることもできる。
【0024】
本発明のP45タンパク質は、配列番号4:図4のP45タンパク質遺伝子によってコードされるポリペプチドである。その全長のアミノ酸配列を配列番号1:図1に示す。また、配列番号5:図5のDNA配列がコードする、配列番号1:図1のP45タンパク質の8残基目のメチオニン以降からなるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2:図2に示す。この配列番号2:図2のタンパク質についてもP45タンパク質とする。
【0025】
配列番号1: 図1、または、配列番号3:図3のアミノ配列と70%以上の相同性を有するものは知られておらず、したがって、本発明のP45タンパク質は新規のタンパク質である。
【0026】
また、配列番号1:図1のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、そのタンパク質をコードするDNAを、生産を目的とするタンパク質をコードする遺伝子の上流に連結することにより、これまで通常の遺伝子組換えによる方法では、発現がされなかった遺伝子の発現を可能にするか、または、微量しか生産されなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を増大させる効果がある限り、全て本発明の新規タンパク質P45に包含される。
【0027】
また、P45タンパク質から分泌シグナル部分が削除されたP45タンパク質成熟体のアミノ酸配列を配列番号3:図3に示す。
【0028】
次に、本発明のP45タンパク質を融合パートナーに用いた融合タンパク質発現法による組換えタンパク質の生産方法(P45融合タンパク質発現法)について説明する。
【0029】
また、以下において、Xは、配列番号1:図1、または、配列番号2:図2によって示されるP45タンパク質、または、そのアミノ酸配列、xは、配列番号4:図4、または、配列番号5:図5によって示されるP45タンパク質遺伝子、並びに、それらの塩基配列を表わす。
【0030】
更に、X’は、配列番号3:図3によって示されるP45タンパク質成熟体、または、そのアミノ酸配列、x’は、配列番号6:図6によって示されるP45タンパク質成熟体をコードするDNA、または、その塩基配列を表わす。
【0031】
更に、Rは酵素や化学物質等によって特異的に認識され切断される部位を含むペプチド鎖、または、そのアミノ酸配列を表し、rは該アミノ酸をコードする配列からなるDNAまたはその塩基配列を表わす。
【0032】
また更に、Zは任意の生産を目的とするタンパク質(またはポリペプチド)、または、そのアミノ酸配列を表し、zは該タンパク質(またはポリペプチド)をコードするDNAまたはその塩基配列を表す。
【0033】
また更に、X−Rは、上記のXとRがこの順序で連結されたポリペプチドまたはそのアミノ酸配列、X’−Rは、上記のX’とRがこの順序で連結されたポリペプチドまたはそのアミノ酸配列、x−rは、該ポリペプチドをコードする配列からなるDNAまたはその塩基配列を表す。
【0034】
また更に、X−R−ZまたはX’−R−Zは、上記のX、R、Zがこの順序で連結された融合タンパクまたはそのアミノ酸配列、x−r−zは該融合タンパク質をコードするDNAまたはその塩基配列を表す。
【0035】
なお、本願明細書では、X−R−Z、または、X’−R−ZをP45融合タンパク質、x−r−zをP45融合タンパク質遺伝子と呼ぶ。
【0036】
また、X’−R−ZにおけるX’をP45融合パートナー、または、P45タンパク質と呼ぶ場合がある。
【0037】
本発明のP45融合タンパク質発現法は、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞として用いた場合、通常、以下の手順により行われる。なお、ブレビバチルス属細菌細胞を宿主細胞として用いた場合、通常、生産されたタンパク質は宿主細胞内に蓄積されず細胞外の培地中に分泌されるため、以下では培地中への分泌生産の場合について説明する。
【0038】
(手順)
a)P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを組み込んだP45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを作製する。
b)P45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを宿主細胞に導入し宿主細胞の形質転換体を作製する。
c)宿主細胞の形質転換体を培養し、P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを発現させ、P45融合タンパク質X’−R−Zを培地中に分泌生産させる。
d)培養上清中からP45融合タンパク質X’−R−Zを回収する。
e)回収した融合タンパク質からP45融合パートナーX’を切断処理し目的タンパク質Zを単離する。
f)単離した目的タンパク質Zを精製する。
【0039】
以下、上記した手順a)〜f)について更に説明する。
【0040】
(手順a)
まず、P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを組み込んだP45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを作製する。
【0041】
x、r、zのそれぞれ、または、x−r、x−r−zなどの構造からなるDNAは、Molecular Cloning 2nd ed., A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(Sambrook,J. et al, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989))などに記載の当業者に公知の標準的な組換えDNA技術を適宜選択し組み合わせて用いることにより得ることができる。例えば、化学的合成法またはクローニング法によって個々に調製することが可能である。
【0042】
P45融合タンパク質発現用ベクターは、P45融合タンパク質をコードするx−r−zを発現用ベクターのプロモーター領域の下流に組み込むことにより作製しても、予め、発現用ベクターのプロモーター領域の下流にx−rを組み込んだベクターを作製し、そのx−rの下流にzを組み込むことにより作製してもよい。
【0043】
なお、本発明において、Zの種類は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。その用途は医薬品、生化学試薬、産業用酵素などのいずれであってもよい。また、Rは、Zのアミノ酸配列中に存在しないアミノ酸配列からなるものであることが望ましく、したがって、rもそのようなRをコードするDNAであることが好ましい。
【0044】
P45融合タンパク質発現法に用いるベクターDNAは、宿主細胞内でP45融合タンパク質遺伝子の発現が可能なものであるならば特に限定されないが、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いる場合には、特に好ましいものとしてpNY301(特開平10−295378号)またはpNCMO2(特開2001−37167号)、または、それらからそれらが予め含む分泌シグナルペプチドをコードするDNAを除去したベクターDNAを例示することができる。
【0045】
なお、生産されたタンパク質を細胞外に分泌させるためには、ベクターのプロモーター領域の下流側に分泌シグナルペプチドをコードするDNAを含有させる必要がある。P45タンパク質自体が分泌タンパク質であるため、通常は、P45タンパク質自身が有する分泌シグナルをコードするDNAをそのまま用いることが好ましいが、上記のpNY301が含有するMWP型分泌シグナルをコードするDNA、または、pNCMO2が含有する改変型のMWP分泌シグナルをコードするDNAなどを用いてもよい。
【0046】
P45タンパク質遺伝子自身の分泌シグナルをコードするDNAを用いる場合には、pNY301やpNCMO2が含有する分泌シグナルをコードするDNAを除去した上で、x−r−zを組込む。また、pNY301やpNCMO2が含有する分泌シグナルをコードするDNAを用いる場合には、x’−r−zを組込む。
【0047】
ブレビバチルス属細菌からP45融合タンパク質が分泌される際に、分泌シグナルが切断されるため、培地中に分泌生産されるP45融合タンパク質は、X’−R−Zで表される構造からなる。
【0048】
(手順b)
a)で構築したP45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞の形質転換体を作製する。
【0049】
P45融合タンパク質遺伝子の発現に用いる宿主細胞は、a)で構築したベクター上のP45融合タンパク質遺伝子の発現が行われるものであるならば特に限定されないが、主に細菌であり、好ましくは、バチルス属またはブレビバチルス属の細菌であり、特に好ましくは、ブレビバチルス属の細菌である。更に、特に好ましい宿主菌株としてブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(Brevibacillus choshinensis HPD31)(バチルス・ブレビスH102(FERM BP−1087)と同一菌株)や、その変異株であるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5(Brevibacillus choshinensis HPD31−S5)(Bacillus brevis HPD31−S5(FERM BP−6623)と同一菌株)を例示することができる。
【0050】
P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを含有するベクターの宿主細胞への導入は、当業者に公知の遺伝子組換え技術を適宜選択することにより行うことができる。特にブレビバチルス属細菌を宿主に用いる場合には、特に好ましい方法としてエレクトロポレーション法を例示することができる。
【0051】
(手順c)
次に、b)で作製した宿主細胞の形質転換体を培養し、P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを発現させ、P45融合タンパク質X’−R−Zを培地中に分泌生産させる。
【0052】
融合タンパク質の発現に用いる宿主細胞の培養方法は宿主細胞に応じて公知の方法を用いればよい。特にブレビバチルス属細菌を宿主として用いる場合には、後述の実施例に記載の方法を特に好ましい培養方法として例示することができる。
【0053】
(手順d)
次いで、培養上清中から融合タンパク質X’−R−Zを回収する。
【0054】
培養上清中または培養細胞内から融合タンパク質を回収は、当業者に公知の方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより可能である。特に、融合タンパク質が菌体外に分泌生産される場合には、遠心分離、膜濾過などの一般的な方法で菌体と培養上清を分離した後、各種クロマトグラフィー、または、電気泳動法などの方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより行えばよいが、特に好ましいのは、融合パートナーを特異的に認識し吸着する物質(抗体)を利用したアフィニティークロマトグラフィーである。
【0055】
(手順e)
次いで、d)で回収した融合タンパク質から融合パートナーX’を切断処理し目的とするタンパク質Zを単離する。
【0056】
d)で得られた融合タンパク質が目的タンパク質と同等の特性、生理活性を有する場合は、融合タンパク質をそのまま利用してもよいが、通常は、融合タンパク質から融合パートナーを切断、除去し、目的とするタンパク質の単離を行う。
【0057】
融合パートナーと目的タンパク質を切断する方法には、特定のアミノ酸配列を認識し特定の部位でポリペプチド鎖を部位特異的に切断する酵素により切断する方法と化学物質による化学反応により切断する方法があるが、目的とするタンパク質を安定な状態で得るためには部位特異酵素を用いて切断する方法が好ましい。酵素により部位特異的切断を行う場合には、Rの配列に応じて、トロンビン、エンテロキナーゼ、トリプシン、血液凝固系第Xa因子、コラゲナーゼなどの酵素を用いる。
【0058】
(手順f)
更に、e)で単離した目的とするタンパク質Zを精製する。
【0059】
単離した目的タンパク質の精製は、当業者に公知の方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより可能である。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー法、または、電気泳動法などの方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより行うことができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明をこれらの実施例のいずれかに限定することを意図するものでない。また、以下において、アミノ酸は、当業者が慣用している3文字表記もしくは1文字表記の略号を用いて表した。
【0061】
(実施例1: P45タンパク質遺伝子のクローニング)
P45タンパク質の遺伝子を以下の手順によりクローン化した。
【0062】
先ず、pNY301(特開平10−295378号)にTNF−α遺伝子を組み込んだTNF−α発現用ベクターで形質転換したブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5を、ネオマイシンを50μg/ml含有するTM液体培地(ペプトン 1%、肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.2%、グルコース1%、FeSO4・7H2O 0.001%、MnSO4・4H2O 0.001%、ZnSO4・7H2O 0.0001%、pH7.0)で30℃、20時間、振とう培養し、TNF−α遺伝子を発現させることによりP45タンパク質の分泌生産を誘導した。培養終了後、培養上清をSDS−PAGEに供した。泳動終了後、PVDF膜に転写して染色した後、PVDF膜からP45タンパク質に相当する分子量45kDのバンドを切り出した。この切り出したバンドからP45タンパク質成熟体のN末端と内部配列2個、計3個の断片についてアミノ酸配列の決定を行った。判明したアミノ酸配列の内、P45タンパク質成熟体N末配列、内部配列1、内部配列2を、配列番号7(図9上段)、配列番号8(図9中段)、配列番号9(図9下段)にそれぞれ示した。
【0063】
次いで、P45タンパク質成熟体のN末配列(配列番号7)及び内部配列1(配列番号8)をもとに、デジェネレートプライマー、45KDN(forward)(配列番号10:図10上段)及び45KDC(backward)(配列番号11:図10下段)を設計した。
【0064】
(注)B=T or C or G, S=C or G, K=T or G, Y=C or T, R=A or G, H=A or T or C, W=A or T, N=A or C or G or T, D=A or T or G, V=A or C or G, M=A or C
【0065】
これらの2本のプライマーを用い、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。このPCRの結果、約200塩基対のDNA断片が増幅された。更に、このDNA断片を元にジーンウオーキングの手法で残りの部分のDNA配列を解読し、最終的に1416塩基対から成るP45タンパク質遺伝子の全DNA配列を明らかにした。P45タンパク質遺伝子の全DNA配列を配列番号4:図4に示す。配列番号4:図4に示した配列は、翻訳開始点と考えられるメチオニンをコードするATGが1から3塩基目と22から24塩基目の2箇所に存在するP45タンパク質遺伝子の全長である。
【0066】
(実施例2: P45融合発現用ベクターpNY−P45の構築)
下記の2本の合成DNAをプライマーに用い、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAを鋳型に用いてPCRを行い、配列番号5:図5の配列に示す、P45タンパク質の2番めのメチオニン以降をコードするDNA断片の増幅を行った。該2本のプライマーの内、P45−N(forward)を配列番号12(図11上段)及びP45−C(backward)を配列番号13(図11下段)にそれぞれ示した。
【0067】
なお、上記のP45−Nプライマーには、ベクターDNAに組み込むためにBspHI制限酵素切断部位(TCATGA)を設け、またP45−CプライマーにはBamHI制限酵素切断部位(GGATCC)を設けた。更にP45−Cプライマーには、目的とするタンパク質とP45ポリペプチドの切断を行うために、トロンビンの認識アミノ酸配列であるLVPRGSをコードするDNA配列(5’−GGATCCTCTTGGAACCAG−3’)を組み込んだ。
【0068】
次いで、上記のPCRで得たP45タンパク質遺伝子をコードするDNA断片を制限酵素BspHIとBamHIで処理した。また、プラスミドベクターpNY301を同じ制限酵素で処理することにより、pNY301からプロモーター領域とマルチクローニングサイトの間に含まれているMWP型分泌シグナルをコードするDNAを除去した。次いで、上記のP45タンパク質遺伝子をコードするDNA断片をpNY301のプロモーター領域とマルチクローニングサイトの間に組み込んだ。以上により作製した融合タンパク質発現用ベクターをpNY−P45とした。
【0069】
なお、上記で用いたP45−NプライマーにはBspHI制限酵素切断部位が設けられているため、このpNY−P45に目的タンパク質遺伝子を組込んだ発現ベクターにより生産されるP45融合タンパク質は、その先頭の分泌シグナル部に配列番号2:図2が示す1残基めのメチオニンの前にもう一つメチオニンが付加されている。また、このpNY−P45は、pNY301が含有するMWP型分泌シグナルをコードするDNAではなく、P45タンパク質遺伝子自身の分泌シグナルをコードするDNAを含有している。
【0070】
(実施例3: ブタIFN−γのP45融合タンパク質法による生産)
ブタIFN−γは、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞とする組換えタンパク質生産において生産が極めて困難なタンパク質であり、通常の遺伝子組換えによる方法では発現用ベクターの構築すら不可能だった。そこで、上記の実施例2で構築したP45融合発現用ベクターpNY−P45にブタIFN−γ遺伝子を組み込み、P45融合タンパク質法によるブタIFN−γの生産を試みた。
【0071】
3−1) P45−IFN−γ融合遺伝子発現用ベクターを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体の作製
【0072】
まず、下記の2つの合成DNAをプライマーに用い、ブタIFN−γ(porcine IFN−gamma)のcDNA(GenBank:NM213948)を鋳型に用いてPCRを行い、ブタIFN−γ遺伝子を含むDNA断片の増幅を行った。該2本のプライマーの内、gambam (forward)配列番号14(図12上段)及びgamsma (backward)を配列番号15(図12下段)にそれぞれ示した。
【0073】
なお、発現用ベクターに組み込むためにgambamプライマーにはBamHI制限酵素切断部位、gamsmaプライマーにはSmaI制限酵素切断部位を設けた。
【0074】
次いで、上記のPCRで増幅したDNA断片を制限酵素BamHIとSmaIで処理した後、同じ制限酵素で処理したpNY−P45に結合した。得られたP45タンパク質とブタIFN−γの融合遺伝子発現用ベクターをpNY−P45−IFN−γとした。
【0075】
更に、このpNY−P45−IFN−γをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5にエレクトロポレーション法により導入し、pNY−P45−IFN−γを保持するHPD31−S5の形質転換体を得た。
【0076】
3−2) ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45−IFN−γの培養によるP45融合タンパク質の生産、及び、ブタIFN−γの単離と精製
【0077】
次いで、上記のpNY−P45−IFN−γを保持するHPD31−S5の形質転換体を、ネオマイシン50μg/ml含有TM液体培地を3mlずつ分注した試験管10本で、30℃で2日間培養し、P45タンパク質とIFN−γの融合タンパク質の培地中への分泌生産を行った。培養終了後、培養液の一部を採取し、遠心して得た培養上清のSDS−PAGEを行った。このSDS−PAGEの結果を図7に示す。図7に示されているとおり、P45ポリペプチドとブタIFN−γの融合タンパク質は極めて効率良く分泌生産されており、SDS−PAGEのバンドの濃さから、その培地中への分泌生産量は、およそ1g/lに達していると推定された。また、ブタIFN−γの実質の濃度は、P45とブタIFN−γの分子量比が45:13ぐらいであることからおよそ200mg/l程度と推定された。
【0078】
次いで、培養上清中のP45−IFN−γ融合タンパク質の回収を、5mlのウサギ抗P45タンパク質抗体を固定したNHS activated Sepharose Fast Flowカラム(アマシャムバイオサイエンス)をアフィニティーカラムに用いたアフィニティークロマトグラフィーにより行った。この際、前記のアフィニティーカラムの下流に補助カラムとして1mlのBenzamidine Sepharose Fast Flowを接続した。
【0079】
まず、上記の培養後の培養液20mlを1NHClでpH8.0に調整した後、遠心し培養上清を得た。次いで、平衡化バッファー(50mM Tris− HCl pH8.0, 150mM NaCl, 2.5mM CaCl2)を流しカラムの平衡化を行い、前記の培養上清をカラムにかけた。その後、平衡化バッファーを30ml流しカラムの洗浄を行った。
【0080】
次いで、上記のアフィニティーカラムで回収したP45−IFN−γ融合タンパク質からP45融合パートナー部を切断処理し、ブタIFN−γの単離と精製を行った。まず、トロンビン(アマシャムバイオサイエンス)を20U/10mlになるように平衡化バッファーで希釈した。次いで、このトロンビン溶液をカラムに流し22℃で16時間消化した。消化後、上記の平衡化バッファーでブタIFN−γを溶出し、溶出液中のトロンビンを補助カラムで除去した。次いで、ブタIFN−γを含む溶出液を20mM HEPES(pH8.0)で透析した。更に、凍結乾燥物の溶解を容易にするため安定剤としてBSAを1mg添加し凍結乾燥を行った。最終的に培養液中から約40%のブタIFN−γを回収した。
【0081】
3−3) ブタIFN−γの活性測定
madin−darby bovine kidney epithelial cell(MDBK細胞)を96穴マイクロプレート上で37℃2日間培養した。次いで、3−2で得た凍結乾燥したブタIFN−γを溶解し希釈した希釈サンプルを培養細胞に加え37℃24時間培養した。更に、培養細胞にvesicular stomatitis virus(VSV)を加え37℃で24時間培養した。培養終了後、20%ホルマリンを含むクリスタルバイオレット溶液で固定および生存している細胞の染色を行い、570nmの吸収を測定した。この際、細胞を50%生存させる時のブタIFN−γの量を抗ウィルス活性1ユニット(1U)と定義した。以上により測定したブタIFN−γの活性は6.0U/ngであった。
【0082】
<参考例1:pNY301−IFN−γによるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換の試行>
【0083】
pNY301のMWP型分泌シグナルをコードするDNAの下流にブタIFN−γ遺伝子を組み込んだブタIFN−γ発現用ベクターを作製した。エレクトロポレーションにより、このブタIFN−γ発現用ベクターをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、次いで、このHPD31−S5を、ネオマイシン50μg/ml含有TM寒天培地に塗布することで、pNY301−IFN−γの導入によりネオマイシン耐性を示すHPD31−S5の形質転換体を選択しようとしたが、ネオマイシン耐性を示すHPD31−S5の形質転換体が取得できなかった。
【0084】
以上により、これまでブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において、目的タンパク質遺伝子の発現用ベクターの構築すら不可能だったタンパク質について、P45融合タンパク質発現法を用いることで、著量のP45融合タンパク質の生産が可能になり、更に、P45融合タンパク質の融合パートナー部分を切断、除去することにより活性を有する目的タンパク質が得られることが示された。
【0085】
(実施例4: ウシIFN−τのP45融合タンパク質法による生産)
ウシIFN−τは、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞とする通常の遺伝子組換えによる方法では、最も生産量が多い場合でも10〜20mg/l程度の生産量しかなく、全く生産されない場合も多かった。
【0086】
そこで、実施例2で作製した融合タンパク質発現用ベクターpNY−P45にウシIFN−τ遺伝子を組み込み、P45融合タンパク質法によるウシIFN−τの生産を試みた。
【0087】
4−1) P45−IFN−γ融合遺伝子発現用ベクターを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体の作製
【0088】
まず、下記の2つの合成DNAをプライマーに用い、ウシIFN−τ(bovineIFN−tau)のcDNA(GenBank:AY996048)を鋳型に用いてPCRを行い、ウシIFN−τ遺伝子を含むDNA断片の増幅を行った。該2つのプライマーの内、taubam (forward)を配列番号16(図13上段)及びtausma (backward)を配列番号17(図13下段)にそれぞれ示した。
【0089】
なお、発現用ベクターに組み込むためにtaubamプライマーにはBamHI制限酵素切断部位、tausmaプライマーにはSmaI制限酵素切断部位を設けた。次いで、上記のPCRで増幅したDNA断片を制限酵素BamHIとSmaIで処理した後、同じ制限酵素で処理したpNY−P45に結合し遺伝子発現用プラスミドベクターを作製した。このP45タンパク質とウシIFN−τの融合遺伝子発現用プラスミドベクターをpNY−P45−IFN−τとした。
【0090】
次に、エレクトロポレーション法により、このpNY−P45−IFN−τをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、pNY−P45−IFN−τを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体を得た。
【0091】
4−2) ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45−IFN−τの培養によるP45融合タンパク質の生産、及び、ウシIFN−τの単離と精製
【0092】
上記により得たpNY−P45−IFN−τを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体を、50μg/mlのネオマイシンを含有するTM液体培地を3mlずつ分注した試験管10本で、30℃で2日間培養した。培養終了後、培養液の一部を採取し、遠心して培養上清を得た。更に2回、同様に上記の形質転換体の培養を行い、3回分の培養上清を得、これら3回分の培養上清のSDS−PAGEを行った。その結果を図8に示す。図8に示されているとおり、HPD31−S5の形質転換体は、3回ともP45タンパク質とIFN−τの融合タンパク質を極めて効率良く分泌生産しており、SDS−PAGEのバンドの濃さから、その培地中への分泌生産量は、3回ともおよそ2g/lに達していると推定された。また、ウシIFN−τの実質の濃度は、P45とウシIFN−τの分子量比が45:15ぐらいであることからおよそ500mg/lと推定された。
【0093】
次いで、培養上清中のP45−IFN−τ融合タンパク質の回収を、5mlのウサギ抗P45タンパク質抗体を固定したNHS activated Sepharose Fast Flowカラム(アマシャムバイオサイエンス)をアフィニティーカラムに用いたアフィニティークロマトグラフィーにより行った。この際、前記のアフィニティーカラムの下流に補助カラムとして1mlのBenzamidine Sepharose Fast Flowを接続した。
【0094】
まず、上記の培養後の培養液20mlを1NHClでpH8.0に調整した後、遠心し培養上清を得た。次いで、平衡化バッファー(50mM Tris− HCl pH8.0, 150mM NaCl, 2.5mM CaCl2)を流しカラムの平衡化を行い、前記の培養上清をカラムにかけた。その後、平衡化バッファーを30ml流しカラムの洗浄を行った。
【0095】
次いで、上記のアフィニティーカラムで回収したP45−IFN−τ融合タンパク質からP45融合パートナー部を切断処理し、ウシIFN−τの単離と精製を行った。まず、トロンビン(アマシャムバイオサイエンス)を20U/10mlになるように平衡化バッファーで希釈した。次いで、このトロンビン溶液をカラムに流し22℃で16時間消化した。消化後、上記の平衡化バッファーでウシIFN−τを溶出し、溶出液中のトロンビンを補助カラムで除去した。次いで、ウシIFN−τを含む溶出液を20mM HEPES(pH8.0)で透析した。更に、凍結乾燥物の溶解を容易にするため安定剤としてBSAを1mg添加し凍結乾燥を行った。最終的に培養液中から約30%のウシIFN−τを回収した。
【0096】
4−3) ウシIFN−τの活性測定
madin−darby bovine kidney epithelial cell(MDBK細胞)を96穴マイクロプレート上で37℃2日間培養した。次いで、4−2で得た凍結乾燥したウシIFN−τを溶解し希釈した希釈サンプルを培養細胞に加え37℃24時間培養した。更に、培養細胞にvesicular stomatitis virus(VSV)を加え37℃で24時間培養した。培養終了後、20%ホルマリンを含むクリスタルバイオレット溶液で固定および生存している細胞の染色を行い、570nmの吸収を測定した。この際、細胞を50%生存させる時のウシIFN−τの量を抗ウィルス活性1ユニット(1U)と定義した。以上により測定したウシIFN−τの活性は4.0U/ngであった。
【0097】
<参考例2: ウシIFN−τ発現用ベクターpNY301−IFN−τを用いたウシIFN−τの生産>
【0098】
pNY301の分泌シグナルをコードするDNAの下流にウシIFN−τ遺伝子を組み込み、ウシIFN−τ発現用ベクターを作製した。次いで、このウシIFN−τ発現用ベクターをエレクトロポレーション法によりブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、ウシIFN−τ発現用ベクターpNY301−IFN−τを保持するHPD31−S5の形質転換体を得た。
【0099】
次いで、このHPD31−S5の形質転換体を上記の4−2と同じ条件で培養し、培養終了後、培養液を遠心し培養上清を得た。同様に培養を更に4回行い5回分の培養上清を得た。次いで、これらの5回分の培養上清のSDS−PAGEを行いウシIFN−τの生産について確認した。
【0100】
その結果、5回分の内、1回についてだけ、SDS−PAGEで、ウシIFN−τが分泌生産されたことを示すバンドが認められたが、バンドの濃さから、その分泌生産量は多くとも約10〜20mg/l程度と推定された。また、他の4回については、ウシIFN−τが分泌生産されたことを示すバンドが認められなかった。
【0101】
以上により、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞を用いた組換えタンパク質生産において、本発明のP45タンパク質遺伝子を目的タンパク質遺伝子の上流に連結することにより、通常の遺伝子組換えによる方法では微量しか生産されず、また、生産も安定しなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を安定して顕著に増大させる効果があることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】P45タンパク質全長のアミノ酸配列を示す。
【図2】図1のP45タンパク質の8残基め以降からなるP45タンパク質のアミノ酸配列
【図3】P45タンパク質成熟体のアミノ酸配列を示す。
【図4】P45タンパク質遺伝子全長のDNA配列を示す。
【図5】図4のP45タンパク質遺伝子の22塩基め以降からなるP45タンパク質遺伝子のDNA配列を示す。
【図6】P45タンパク質成熟体をコードするDNA配列を示す。
【図7】ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45−IFN−γの培養上清のSDS−PAGEに対して行ったCBB染色の結果を示す図面代用写真である。なお、レーンCは、対照として用いたブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45の培養上清である。
【図8】ブレビバチルス・チョウシネンシHPD31−S5/pNY−P45−IFN−τの培養上清のSDS−PAGEに対して行ったCBB染色の結果を示す図面代用写真である。なお、レーンCは、対照として用いたブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45の培養上清である。
【図9】P45タンパク質成熟体のN末端アミノ酸配列(上段)、内部アミノ酸配列1(中段)、内部アミノ酸配列2(下段)を示す。
【図10】プライマー45KDN(上段)及び45KDC(下段)を示す。
【図11】プライマーP45−N(上段)及びP45−C(下段)を示す。
【図12】プライマーgambam(上段)及びgamsma(下段)を示す。
【図13】プライマーtaubam(上段)及びtausma(下段)を示す。
【技術分野】
【0001】
遺伝子組換えによるタンパク質の生産、特には、融合タンパク質発現法における連結相手として利用可能な新規DNA、及び、該DNAを融合タンパク質発現法における連結相手に用いた組換えタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術は、生体内に微量しか存在せず単離が難しいために従来は利用が著しく困難であったタンパク質、または、任意のアミノ酸配列を有するポリペプチドを、細菌、真菌、または、動物細胞などを宿主に用いて大量に生産することを可能にした。
【0003】
しかしながら、目的とするタンパク質またはポリペプチドによっては、それをコードする遺伝子の発現が起こらないか、もしくは、遺伝子が発現されたとしても目的とするタンパク質またはポリペプチドが極微量しか生産されず産業的な利用が不可能な場合も多かった。
【0004】
そのため、当業者において、通常の遺伝子組換えによる方法では遺伝子の発現が起こらない遺伝子の発現を行うため、あるいは、通常の遺伝子組換えによる方法では微量しか生産されないタンパク質の生産量を増大させるための方法のひとつとして、融合タンパク質発現と呼ばれる手法が用いられている。この融合タンパク質発現とは、融合パートナーと呼ばれる特定のタンパク質をコードするDNA断片(以下、連結相手とする。)の下流に目的とするタンパク質をコードするDNAを連結したDNAを発現させ、融合パートナーと目的とするタンパク質が結合した融合タンパク質として生産した後、融合パートナー部分を切断することにより目的とするタンパク質を得る方法である。この際、融合パートナーと目的とするタンパク質コードするDNAの間にトロンビン認識配列などの特異的に切断可能なペプチド鎖をコードするDNAを挿入し、生産された融合タンパク質から融合パートナーの切断が行えるようにする。
【0005】
この融合タンパク質発現法に用いられる融合パートナーとしては、例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)(特許文献1)などが知られている。また、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする組換えタンパク質生産においても融合タンパク質発現が試みられており、例えば、特許文献2においてhEGFを融合パートナーとして用いる方法が開示されている。
【特許文献1】特表平1−503441
【特許文献2】特開平6−253862
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、融合タンパク質発現の連結相手として知られている公知のDNAの何れを用いても、それでも、発現が困難である遺伝子、または、微量しか生産されないタンパク質(またはポリペプチド)も多い。また、上記のhEGFのように融合パートナーがシステイン残基を含むたんぱく質である場合には、生産された融合タンパク質において、目的タンパク質に含まれるシステイン残基と融合パートナーに含まれるシステイン残基の間での不正なSS結合が生じてしまうという問題があり、融合タンパク質発現法に適さない場合が多かった。
【0007】
また、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において、融合パートナーとしての利用が試みられた他のタンパク質は、生産量自体があまり多くなかったり、分解されやすいものであったりしたため、融合パートナーに適しておらず、これまでブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において融合パートナーに適したタンパク質は知られていなかった。
【0008】
そのため、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする融合タンパク質発現法によるタンパク質生産において、連結相手として利用可能な新規なDNA、及び、該DNAを融合タンパク質発現の連結相手に用いた組換えタンパク質の生産方法の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ブレビバチルス・チョウシネンシスを宿主に用いた遺伝子組換えによるタンパク質生産において、イヌ可溶性IgE受容体などの特定のタンパク質の分泌生産を行った際、目的タンパク質の分泌生産と同時に分子量約45kDaの機能未知のタンパク質が大量に分泌されることを発見した。本発明者は、この機能未知の分泌タンパク質を、その分子量が約45kDであることからP45と命名した。
【0010】
本発明者は、この大量に分泌されるP45タンパク質を融合タンパク質発現法における融合パートナーに用いることにより、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において、これまで全く発現がされなかった遺伝子の発現、及び、該遺伝子にコードされたタンパク質(またはポリペプチド)の生産、または、これまで微量しか生産されなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量の増大を可能にするのではないかとの新規着想を得た。
【0011】
そこで、本発明者は、これまでブレビバチルス属細菌を宿主に用いた組換えタンパク質生産において目的とするタンパク質をコードする遺伝子を発現する形質転換体の構築が出来なかった遺伝子について、その上流にP45タンパク質遺伝子を連結した融合タンパク質遺伝子(P45融合タンパク質遺伝子)発現用ベクターを作製し、このベクターを用いて融合タンパク質発現を試みた。
【0012】
その結果、本発明者は、P45融合タンパク質遺伝子の発現、及び、著量のP45融合タンパク質の生産に成功した。更に、得られたP45タンパク質との融合タンパク質から活性を有する目的タンパク質を単離することに成功した。
【0013】
また更に、本発明者は、これまでブレビバチルス属細菌を宿主細胞を用いた組換えタンパク質生産において微量しか生産することができなかったタンパク質について、その遺伝子の上流にP45タンパク質遺伝子を連結した融合タンパク質遺伝子の発現を行うことにより、その生産量を顕著に増大させることに成功し、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、融合タンパク質発現法における連結相手として利用可能な新規DNAであるP45タンパク質遺伝子を提供する。
更に、本発明は、P45タンパク質遺伝子の下流に目的タンパク質遺伝子を連結したDNAを組み込んだ融合タンパク質発現用ベクターを提供する。
【0015】
また更に、本発明は、該融合タンパク質発現用ベクターを保持する宿主細胞を提供する。
また更に、本発明は、該融合タンパク質発現用ベクターを保持する宿主細胞を培養する工程を含むタンパク質の生産方法を提供する。
【0016】
また更に、本発明は、ブレビバチルス・チョウシネンシス由来の新規タンパク質であるP45タンパク質を提供する。このP45タンパク質は、高い分泌性を有し、また、配列中にシステインを含まない、部位特異切断酵素として汎用されるトロンビンによる分解を受けないなどの性質により融合発現法における融合パートナーとして極めて優れている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のP45タンパク質遺伝子は、特にブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いた組換えタンパク質生産において、目的タンパク質遺伝子の上流に連結することにより、これまで通常の遺伝子組換えによる方法では、タンパク質(またはポリペプチド)をコードする遺伝子が発現されなかったため生産が不可能だったタンパク質(またはポリペプチド)の生産を可能し、また、これまで微量しか生産することができなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を顕著に増大させる効果がある。
【0018】
さらに、本発明のP45タンパク質は、高い分泌性を有する、配列中にシステインを含まない、部位特異酵素として汎用されるトロンビンによる分解を受けないなどの性質により融合発現法における融合パートナーとして極めて優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明のP45タンパク質遺伝子は、ブレビバチルス・チョウシネンシス由来の新規タンパク質である配列番号1:図1のP45タンパク質をコードするDNAである。そのDNA配列を配列番号4:図4に示す。
【0021】
なお、配列番号4:図4のP45タンパク質遺伝子の配列には、翻訳開始点と考えられるメチオニンをコードするATGが1から3塩基めと22から24塩基めの2ヶ所にある。融合タンパク質発現法における連結相手には、配列番号4:図4に示すメチオニンを2つとも含むP45タンパク質遺伝子の全長を用いてもよいが、通常は、配列番号5:図5に示す、配列番号4:図4の22番目以降の塩基からなるDNAを用いる。本願明細書では、配列番号5:図5のDNAについてもP45タンパク質遺伝子とする。
【0022】
配列番号4:図4、または、配列番号5:図5のDNA配列と70%以上の相同性を有するものは知られておらず、したがって、本発明のP45タンパク質遺伝子は新規DNAである。さらに配列番号1:図1のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸をコードするDNAであっても、生産を目的とするタンパク質をコードする遺伝子の上流に連結することにより、これまで通常の遺伝子組換えによる方法では、発現がされなかった遺伝子の発現を可能にするか、または、微量しか生産されなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を増大させる効果がある限り、全て本発明のP45タンパク質遺伝子に包含される。
【0023】
本発明のP45タンパク質遺伝子は、例えば、後述の実施例2に示すようにブレビバチルス・チョウシネンシスのゲノムDNAライブラリーを作製し、このライブラリーから、配列番号4:図4、または、配列番号5:図5のDNA配列の一部を有するDNA断片をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法や、上記のDNA断片をプライマーとして用いるPCR法により調製することができる。または、そのDNA配列を元に当業者に公知の核酸化学合成法などにより、本発明のP45タンパク質遺伝子を得ることもできる。
【0024】
本発明のP45タンパク質は、配列番号4:図4のP45タンパク質遺伝子によってコードされるポリペプチドである。その全長のアミノ酸配列を配列番号1:図1に示す。また、配列番号5:図5のDNA配列がコードする、配列番号1:図1のP45タンパク質の8残基目のメチオニン以降からなるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2:図2に示す。この配列番号2:図2のタンパク質についてもP45タンパク質とする。
【0025】
配列番号1: 図1、または、配列番号3:図3のアミノ配列と70%以上の相同性を有するものは知られておらず、したがって、本発明のP45タンパク質は新規のタンパク質である。
【0026】
また、配列番号1:図1のアミノ酸配列の1または複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、そのタンパク質をコードするDNAを、生産を目的とするタンパク質をコードする遺伝子の上流に連結することにより、これまで通常の遺伝子組換えによる方法では、発現がされなかった遺伝子の発現を可能にするか、または、微量しか生産されなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を増大させる効果がある限り、全て本発明の新規タンパク質P45に包含される。
【0027】
また、P45タンパク質から分泌シグナル部分が削除されたP45タンパク質成熟体のアミノ酸配列を配列番号3:図3に示す。
【0028】
次に、本発明のP45タンパク質を融合パートナーに用いた融合タンパク質発現法による組換えタンパク質の生産方法(P45融合タンパク質発現法)について説明する。
【0029】
また、以下において、Xは、配列番号1:図1、または、配列番号2:図2によって示されるP45タンパク質、または、そのアミノ酸配列、xは、配列番号4:図4、または、配列番号5:図5によって示されるP45タンパク質遺伝子、並びに、それらの塩基配列を表わす。
【0030】
更に、X’は、配列番号3:図3によって示されるP45タンパク質成熟体、または、そのアミノ酸配列、x’は、配列番号6:図6によって示されるP45タンパク質成熟体をコードするDNA、または、その塩基配列を表わす。
【0031】
更に、Rは酵素や化学物質等によって特異的に認識され切断される部位を含むペプチド鎖、または、そのアミノ酸配列を表し、rは該アミノ酸をコードする配列からなるDNAまたはその塩基配列を表わす。
【0032】
また更に、Zは任意の生産を目的とするタンパク質(またはポリペプチド)、または、そのアミノ酸配列を表し、zは該タンパク質(またはポリペプチド)をコードするDNAまたはその塩基配列を表す。
【0033】
また更に、X−Rは、上記のXとRがこの順序で連結されたポリペプチドまたはそのアミノ酸配列、X’−Rは、上記のX’とRがこの順序で連結されたポリペプチドまたはそのアミノ酸配列、x−rは、該ポリペプチドをコードする配列からなるDNAまたはその塩基配列を表す。
【0034】
また更に、X−R−ZまたはX’−R−Zは、上記のX、R、Zがこの順序で連結された融合タンパクまたはそのアミノ酸配列、x−r−zは該融合タンパク質をコードするDNAまたはその塩基配列を表す。
【0035】
なお、本願明細書では、X−R−Z、または、X’−R−ZをP45融合タンパク質、x−r−zをP45融合タンパク質遺伝子と呼ぶ。
【0036】
また、X’−R−ZにおけるX’をP45融合パートナー、または、P45タンパク質と呼ぶ場合がある。
【0037】
本発明のP45融合タンパク質発現法は、特に、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞として用いた場合、通常、以下の手順により行われる。なお、ブレビバチルス属細菌細胞を宿主細胞として用いた場合、通常、生産されたタンパク質は宿主細胞内に蓄積されず細胞外の培地中に分泌されるため、以下では培地中への分泌生産の場合について説明する。
【0038】
(手順)
a)P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを組み込んだP45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを作製する。
b)P45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを宿主細胞に導入し宿主細胞の形質転換体を作製する。
c)宿主細胞の形質転換体を培養し、P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを発現させ、P45融合タンパク質X’−R−Zを培地中に分泌生産させる。
d)培養上清中からP45融合タンパク質X’−R−Zを回収する。
e)回収した融合タンパク質からP45融合パートナーX’を切断処理し目的タンパク質Zを単離する。
f)単離した目的タンパク質Zを精製する。
【0039】
以下、上記した手順a)〜f)について更に説明する。
【0040】
(手順a)
まず、P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを組み込んだP45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを作製する。
【0041】
x、r、zのそれぞれ、または、x−r、x−r−zなどの構造からなるDNAは、Molecular Cloning 2nd ed., A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(Sambrook,J. et al, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989))などに記載の当業者に公知の標準的な組換えDNA技術を適宜選択し組み合わせて用いることにより得ることができる。例えば、化学的合成法またはクローニング法によって個々に調製することが可能である。
【0042】
P45融合タンパク質発現用ベクターは、P45融合タンパク質をコードするx−r−zを発現用ベクターのプロモーター領域の下流に組み込むことにより作製しても、予め、発現用ベクターのプロモーター領域の下流にx−rを組み込んだベクターを作製し、そのx−rの下流にzを組み込むことにより作製してもよい。
【0043】
なお、本発明において、Zの種類は特に限定されない。また、その用途も特に限定されない。その用途は医薬品、生化学試薬、産業用酵素などのいずれであってもよい。また、Rは、Zのアミノ酸配列中に存在しないアミノ酸配列からなるものであることが望ましく、したがって、rもそのようなRをコードするDNAであることが好ましい。
【0044】
P45融合タンパク質発現法に用いるベクターDNAは、宿主細胞内でP45融合タンパク質遺伝子の発現が可能なものであるならば特に限定されないが、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞に用いる場合には、特に好ましいものとしてpNY301(特開平10−295378号)またはpNCMO2(特開2001−37167号)、または、それらからそれらが予め含む分泌シグナルペプチドをコードするDNAを除去したベクターDNAを例示することができる。
【0045】
なお、生産されたタンパク質を細胞外に分泌させるためには、ベクターのプロモーター領域の下流側に分泌シグナルペプチドをコードするDNAを含有させる必要がある。P45タンパク質自体が分泌タンパク質であるため、通常は、P45タンパク質自身が有する分泌シグナルをコードするDNAをそのまま用いることが好ましいが、上記のpNY301が含有するMWP型分泌シグナルをコードするDNA、または、pNCMO2が含有する改変型のMWP分泌シグナルをコードするDNAなどを用いてもよい。
【0046】
P45タンパク質遺伝子自身の分泌シグナルをコードするDNAを用いる場合には、pNY301やpNCMO2が含有する分泌シグナルをコードするDNAを除去した上で、x−r−zを組込む。また、pNY301やpNCMO2が含有する分泌シグナルをコードするDNAを用いる場合には、x’−r−zを組込む。
【0047】
ブレビバチルス属細菌からP45融合タンパク質が分泌される際に、分泌シグナルが切断されるため、培地中に分泌生産されるP45融合タンパク質は、X’−R−Zで表される構造からなる。
【0048】
(手順b)
a)で構築したP45融合タンパク質遺伝子発現用ベクターを宿主細胞に導入し、宿主細胞の形質転換体を作製する。
【0049】
P45融合タンパク質遺伝子の発現に用いる宿主細胞は、a)で構築したベクター上のP45融合タンパク質遺伝子の発現が行われるものであるならば特に限定されないが、主に細菌であり、好ましくは、バチルス属またはブレビバチルス属の細菌であり、特に好ましくは、ブレビバチルス属の細菌である。更に、特に好ましい宿主菌株としてブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31(Brevibacillus choshinensis HPD31)(バチルス・ブレビスH102(FERM BP−1087)と同一菌株)や、その変異株であるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5(Brevibacillus choshinensis HPD31−S5)(Bacillus brevis HPD31−S5(FERM BP−6623)と同一菌株)を例示することができる。
【0050】
P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを含有するベクターの宿主細胞への導入は、当業者に公知の遺伝子組換え技術を適宜選択することにより行うことができる。特にブレビバチルス属細菌を宿主に用いる場合には、特に好ましい方法としてエレクトロポレーション法を例示することができる。
【0051】
(手順c)
次に、b)で作製した宿主細胞の形質転換体を培養し、P45融合タンパク質遺伝子x−r−zを発現させ、P45融合タンパク質X’−R−Zを培地中に分泌生産させる。
【0052】
融合タンパク質の発現に用いる宿主細胞の培養方法は宿主細胞に応じて公知の方法を用いればよい。特にブレビバチルス属細菌を宿主として用いる場合には、後述の実施例に記載の方法を特に好ましい培養方法として例示することができる。
【0053】
(手順d)
次いで、培養上清中から融合タンパク質X’−R−Zを回収する。
【0054】
培養上清中または培養細胞内から融合タンパク質を回収は、当業者に公知の方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより可能である。特に、融合タンパク質が菌体外に分泌生産される場合には、遠心分離、膜濾過などの一般的な方法で菌体と培養上清を分離した後、各種クロマトグラフィー、または、電気泳動法などの方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより行えばよいが、特に好ましいのは、融合パートナーを特異的に認識し吸着する物質(抗体)を利用したアフィニティークロマトグラフィーである。
【0055】
(手順e)
次いで、d)で回収した融合タンパク質から融合パートナーX’を切断処理し目的とするタンパク質Zを単離する。
【0056】
d)で得られた融合タンパク質が目的タンパク質と同等の特性、生理活性を有する場合は、融合タンパク質をそのまま利用してもよいが、通常は、融合タンパク質から融合パートナーを切断、除去し、目的とするタンパク質の単離を行う。
【0057】
融合パートナーと目的タンパク質を切断する方法には、特定のアミノ酸配列を認識し特定の部位でポリペプチド鎖を部位特異的に切断する酵素により切断する方法と化学物質による化学反応により切断する方法があるが、目的とするタンパク質を安定な状態で得るためには部位特異酵素を用いて切断する方法が好ましい。酵素により部位特異的切断を行う場合には、Rの配列に応じて、トロンビン、エンテロキナーゼ、トリプシン、血液凝固系第Xa因子、コラゲナーゼなどの酵素を用いる。
【0058】
(手順f)
更に、e)で単離した目的とするタンパク質Zを精製する。
【0059】
単離した目的タンパク質の精製は、当業者に公知の方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより可能である。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー法、または、電気泳動法などの方法を適宜、単独または組み合わせて用いることにより行うことができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明をこれらの実施例のいずれかに限定することを意図するものでない。また、以下において、アミノ酸は、当業者が慣用している3文字表記もしくは1文字表記の略号を用いて表した。
【0061】
(実施例1: P45タンパク質遺伝子のクローニング)
P45タンパク質の遺伝子を以下の手順によりクローン化した。
【0062】
先ず、pNY301(特開平10−295378号)にTNF−α遺伝子を組み込んだTNF−α発現用ベクターで形質転換したブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5を、ネオマイシンを50μg/ml含有するTM液体培地(ペプトン 1%、肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.2%、グルコース1%、FeSO4・7H2O 0.001%、MnSO4・4H2O 0.001%、ZnSO4・7H2O 0.0001%、pH7.0)で30℃、20時間、振とう培養し、TNF−α遺伝子を発現させることによりP45タンパク質の分泌生産を誘導した。培養終了後、培養上清をSDS−PAGEに供した。泳動終了後、PVDF膜に転写して染色した後、PVDF膜からP45タンパク質に相当する分子量45kDのバンドを切り出した。この切り出したバンドからP45タンパク質成熟体のN末端と内部配列2個、計3個の断片についてアミノ酸配列の決定を行った。判明したアミノ酸配列の内、P45タンパク質成熟体N末配列、内部配列1、内部配列2を、配列番号7(図9上段)、配列番号8(図9中段)、配列番号9(図9下段)にそれぞれ示した。
【0063】
次いで、P45タンパク質成熟体のN末配列(配列番号7)及び内部配列1(配列番号8)をもとに、デジェネレートプライマー、45KDN(forward)(配列番号10:図10上段)及び45KDC(backward)(配列番号11:図10下段)を設計した。
【0064】
(注)B=T or C or G, S=C or G, K=T or G, Y=C or T, R=A or G, H=A or T or C, W=A or T, N=A or C or G or T, D=A or T or G, V=A or C or G, M=A or C
【0065】
これらの2本のプライマーを用い、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。このPCRの結果、約200塩基対のDNA断片が増幅された。更に、このDNA断片を元にジーンウオーキングの手法で残りの部分のDNA配列を解読し、最終的に1416塩基対から成るP45タンパク質遺伝子の全DNA配列を明らかにした。P45タンパク質遺伝子の全DNA配列を配列番号4:図4に示す。配列番号4:図4に示した配列は、翻訳開始点と考えられるメチオニンをコードするATGが1から3塩基目と22から24塩基目の2箇所に存在するP45タンパク質遺伝子の全長である。
【0066】
(実施例2: P45融合発現用ベクターpNY−P45の構築)
下記の2本の合成DNAをプライマーに用い、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5のゲノムDNAを鋳型に用いてPCRを行い、配列番号5:図5の配列に示す、P45タンパク質の2番めのメチオニン以降をコードするDNA断片の増幅を行った。該2本のプライマーの内、P45−N(forward)を配列番号12(図11上段)及びP45−C(backward)を配列番号13(図11下段)にそれぞれ示した。
【0067】
なお、上記のP45−Nプライマーには、ベクターDNAに組み込むためにBspHI制限酵素切断部位(TCATGA)を設け、またP45−CプライマーにはBamHI制限酵素切断部位(GGATCC)を設けた。更にP45−Cプライマーには、目的とするタンパク質とP45ポリペプチドの切断を行うために、トロンビンの認識アミノ酸配列であるLVPRGSをコードするDNA配列(5’−GGATCCTCTTGGAACCAG−3’)を組み込んだ。
【0068】
次いで、上記のPCRで得たP45タンパク質遺伝子をコードするDNA断片を制限酵素BspHIとBamHIで処理した。また、プラスミドベクターpNY301を同じ制限酵素で処理することにより、pNY301からプロモーター領域とマルチクローニングサイトの間に含まれているMWP型分泌シグナルをコードするDNAを除去した。次いで、上記のP45タンパク質遺伝子をコードするDNA断片をpNY301のプロモーター領域とマルチクローニングサイトの間に組み込んだ。以上により作製した融合タンパク質発現用ベクターをpNY−P45とした。
【0069】
なお、上記で用いたP45−NプライマーにはBspHI制限酵素切断部位が設けられているため、このpNY−P45に目的タンパク質遺伝子を組込んだ発現ベクターにより生産されるP45融合タンパク質は、その先頭の分泌シグナル部に配列番号2:図2が示す1残基めのメチオニンの前にもう一つメチオニンが付加されている。また、このpNY−P45は、pNY301が含有するMWP型分泌シグナルをコードするDNAではなく、P45タンパク質遺伝子自身の分泌シグナルをコードするDNAを含有している。
【0070】
(実施例3: ブタIFN−γのP45融合タンパク質法による生産)
ブタIFN−γは、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞とする組換えタンパク質生産において生産が極めて困難なタンパク質であり、通常の遺伝子組換えによる方法では発現用ベクターの構築すら不可能だった。そこで、上記の実施例2で構築したP45融合発現用ベクターpNY−P45にブタIFN−γ遺伝子を組み込み、P45融合タンパク質法によるブタIFN−γの生産を試みた。
【0071】
3−1) P45−IFN−γ融合遺伝子発現用ベクターを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体の作製
【0072】
まず、下記の2つの合成DNAをプライマーに用い、ブタIFN−γ(porcine IFN−gamma)のcDNA(GenBank:NM213948)を鋳型に用いてPCRを行い、ブタIFN−γ遺伝子を含むDNA断片の増幅を行った。該2本のプライマーの内、gambam (forward)配列番号14(図12上段)及びgamsma (backward)を配列番号15(図12下段)にそれぞれ示した。
【0073】
なお、発現用ベクターに組み込むためにgambamプライマーにはBamHI制限酵素切断部位、gamsmaプライマーにはSmaI制限酵素切断部位を設けた。
【0074】
次いで、上記のPCRで増幅したDNA断片を制限酵素BamHIとSmaIで処理した後、同じ制限酵素で処理したpNY−P45に結合した。得られたP45タンパク質とブタIFN−γの融合遺伝子発現用ベクターをpNY−P45−IFN−γとした。
【0075】
更に、このpNY−P45−IFN−γをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5にエレクトロポレーション法により導入し、pNY−P45−IFN−γを保持するHPD31−S5の形質転換体を得た。
【0076】
3−2) ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45−IFN−γの培養によるP45融合タンパク質の生産、及び、ブタIFN−γの単離と精製
【0077】
次いで、上記のpNY−P45−IFN−γを保持するHPD31−S5の形質転換体を、ネオマイシン50μg/ml含有TM液体培地を3mlずつ分注した試験管10本で、30℃で2日間培養し、P45タンパク質とIFN−γの融合タンパク質の培地中への分泌生産を行った。培養終了後、培養液の一部を採取し、遠心して得た培養上清のSDS−PAGEを行った。このSDS−PAGEの結果を図7に示す。図7に示されているとおり、P45ポリペプチドとブタIFN−γの融合タンパク質は極めて効率良く分泌生産されており、SDS−PAGEのバンドの濃さから、その培地中への分泌生産量は、およそ1g/lに達していると推定された。また、ブタIFN−γの実質の濃度は、P45とブタIFN−γの分子量比が45:13ぐらいであることからおよそ200mg/l程度と推定された。
【0078】
次いで、培養上清中のP45−IFN−γ融合タンパク質の回収を、5mlのウサギ抗P45タンパク質抗体を固定したNHS activated Sepharose Fast Flowカラム(アマシャムバイオサイエンス)をアフィニティーカラムに用いたアフィニティークロマトグラフィーにより行った。この際、前記のアフィニティーカラムの下流に補助カラムとして1mlのBenzamidine Sepharose Fast Flowを接続した。
【0079】
まず、上記の培養後の培養液20mlを1NHClでpH8.0に調整した後、遠心し培養上清を得た。次いで、平衡化バッファー(50mM Tris− HCl pH8.0, 150mM NaCl, 2.5mM CaCl2)を流しカラムの平衡化を行い、前記の培養上清をカラムにかけた。その後、平衡化バッファーを30ml流しカラムの洗浄を行った。
【0080】
次いで、上記のアフィニティーカラムで回収したP45−IFN−γ融合タンパク質からP45融合パートナー部を切断処理し、ブタIFN−γの単離と精製を行った。まず、トロンビン(アマシャムバイオサイエンス)を20U/10mlになるように平衡化バッファーで希釈した。次いで、このトロンビン溶液をカラムに流し22℃で16時間消化した。消化後、上記の平衡化バッファーでブタIFN−γを溶出し、溶出液中のトロンビンを補助カラムで除去した。次いで、ブタIFN−γを含む溶出液を20mM HEPES(pH8.0)で透析した。更に、凍結乾燥物の溶解を容易にするため安定剤としてBSAを1mg添加し凍結乾燥を行った。最終的に培養液中から約40%のブタIFN−γを回収した。
【0081】
3−3) ブタIFN−γの活性測定
madin−darby bovine kidney epithelial cell(MDBK細胞)を96穴マイクロプレート上で37℃2日間培養した。次いで、3−2で得た凍結乾燥したブタIFN−γを溶解し希釈した希釈サンプルを培養細胞に加え37℃24時間培養した。更に、培養細胞にvesicular stomatitis virus(VSV)を加え37℃で24時間培養した。培養終了後、20%ホルマリンを含むクリスタルバイオレット溶液で固定および生存している細胞の染色を行い、570nmの吸収を測定した。この際、細胞を50%生存させる時のブタIFN−γの量を抗ウィルス活性1ユニット(1U)と定義した。以上により測定したブタIFN−γの活性は6.0U/ngであった。
【0082】
<参考例1:pNY301−IFN−γによるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換の試行>
【0083】
pNY301のMWP型分泌シグナルをコードするDNAの下流にブタIFN−γ遺伝子を組み込んだブタIFN−γ発現用ベクターを作製した。エレクトロポレーションにより、このブタIFN−γ発現用ベクターをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、次いで、このHPD31−S5を、ネオマイシン50μg/ml含有TM寒天培地に塗布することで、pNY301−IFN−γの導入によりネオマイシン耐性を示すHPD31−S5の形質転換体を選択しようとしたが、ネオマイシン耐性を示すHPD31−S5の形質転換体が取得できなかった。
【0084】
以上により、これまでブレビバチルス属細菌を宿主とする遺伝子組換えによるタンパク質生産において、目的タンパク質遺伝子の発現用ベクターの構築すら不可能だったタンパク質について、P45融合タンパク質発現法を用いることで、著量のP45融合タンパク質の生産が可能になり、更に、P45融合タンパク質の融合パートナー部分を切断、除去することにより活性を有する目的タンパク質が得られることが示された。
【0085】
(実施例4: ウシIFN−τのP45融合タンパク質法による生産)
ウシIFN−τは、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞とする通常の遺伝子組換えによる方法では、最も生産量が多い場合でも10〜20mg/l程度の生産量しかなく、全く生産されない場合も多かった。
【0086】
そこで、実施例2で作製した融合タンパク質発現用ベクターpNY−P45にウシIFN−τ遺伝子を組み込み、P45融合タンパク質法によるウシIFN−τの生産を試みた。
【0087】
4−1) P45−IFN−γ融合遺伝子発現用ベクターを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体の作製
【0088】
まず、下記の2つの合成DNAをプライマーに用い、ウシIFN−τ(bovineIFN−tau)のcDNA(GenBank:AY996048)を鋳型に用いてPCRを行い、ウシIFN−τ遺伝子を含むDNA断片の増幅を行った。該2つのプライマーの内、taubam (forward)を配列番号16(図13上段)及びtausma (backward)を配列番号17(図13下段)にそれぞれ示した。
【0089】
なお、発現用ベクターに組み込むためにtaubamプライマーにはBamHI制限酵素切断部位、tausmaプライマーにはSmaI制限酵素切断部位を設けた。次いで、上記のPCRで増幅したDNA断片を制限酵素BamHIとSmaIで処理した後、同じ制限酵素で処理したpNY−P45に結合し遺伝子発現用プラスミドベクターを作製した。このP45タンパク質とウシIFN−τの融合遺伝子発現用プラスミドベクターをpNY−P45−IFN−τとした。
【0090】
次に、エレクトロポレーション法により、このpNY−P45−IFN−τをブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、pNY−P45−IFN−τを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体を得た。
【0091】
4−2) ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45−IFN−τの培養によるP45融合タンパク質の生産、及び、ウシIFN−τの単離と精製
【0092】
上記により得たpNY−P45−IFN−τを保持するブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5の形質転換体を、50μg/mlのネオマイシンを含有するTM液体培地を3mlずつ分注した試験管10本で、30℃で2日間培養した。培養終了後、培養液の一部を採取し、遠心して培養上清を得た。更に2回、同様に上記の形質転換体の培養を行い、3回分の培養上清を得、これら3回分の培養上清のSDS−PAGEを行った。その結果を図8に示す。図8に示されているとおり、HPD31−S5の形質転換体は、3回ともP45タンパク質とIFN−τの融合タンパク質を極めて効率良く分泌生産しており、SDS−PAGEのバンドの濃さから、その培地中への分泌生産量は、3回ともおよそ2g/lに達していると推定された。また、ウシIFN−τの実質の濃度は、P45とウシIFN−τの分子量比が45:15ぐらいであることからおよそ500mg/lと推定された。
【0093】
次いで、培養上清中のP45−IFN−τ融合タンパク質の回収を、5mlのウサギ抗P45タンパク質抗体を固定したNHS activated Sepharose Fast Flowカラム(アマシャムバイオサイエンス)をアフィニティーカラムに用いたアフィニティークロマトグラフィーにより行った。この際、前記のアフィニティーカラムの下流に補助カラムとして1mlのBenzamidine Sepharose Fast Flowを接続した。
【0094】
まず、上記の培養後の培養液20mlを1NHClでpH8.0に調整した後、遠心し培養上清を得た。次いで、平衡化バッファー(50mM Tris− HCl pH8.0, 150mM NaCl, 2.5mM CaCl2)を流しカラムの平衡化を行い、前記の培養上清をカラムにかけた。その後、平衡化バッファーを30ml流しカラムの洗浄を行った。
【0095】
次いで、上記のアフィニティーカラムで回収したP45−IFN−τ融合タンパク質からP45融合パートナー部を切断処理し、ウシIFN−τの単離と精製を行った。まず、トロンビン(アマシャムバイオサイエンス)を20U/10mlになるように平衡化バッファーで希釈した。次いで、このトロンビン溶液をカラムに流し22℃で16時間消化した。消化後、上記の平衡化バッファーでウシIFN−τを溶出し、溶出液中のトロンビンを補助カラムで除去した。次いで、ウシIFN−τを含む溶出液を20mM HEPES(pH8.0)で透析した。更に、凍結乾燥物の溶解を容易にするため安定剤としてBSAを1mg添加し凍結乾燥を行った。最終的に培養液中から約30%のウシIFN−τを回収した。
【0096】
4−3) ウシIFN−τの活性測定
madin−darby bovine kidney epithelial cell(MDBK細胞)を96穴マイクロプレート上で37℃2日間培養した。次いで、4−2で得た凍結乾燥したウシIFN−τを溶解し希釈した希釈サンプルを培養細胞に加え37℃24時間培養した。更に、培養細胞にvesicular stomatitis virus(VSV)を加え37℃で24時間培養した。培養終了後、20%ホルマリンを含むクリスタルバイオレット溶液で固定および生存している細胞の染色を行い、570nmの吸収を測定した。この際、細胞を50%生存させる時のウシIFN−τの量を抗ウィルス活性1ユニット(1U)と定義した。以上により測定したウシIFN−τの活性は4.0U/ngであった。
【0097】
<参考例2: ウシIFN−τ発現用ベクターpNY301−IFN−τを用いたウシIFN−τの生産>
【0098】
pNY301の分泌シグナルをコードするDNAの下流にウシIFN−τ遺伝子を組み込み、ウシIFN−τ発現用ベクターを作製した。次いで、このウシIFN−τ発現用ベクターをエレクトロポレーション法によりブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5に導入し、ウシIFN−τ発現用ベクターpNY301−IFN−τを保持するHPD31−S5の形質転換体を得た。
【0099】
次いで、このHPD31−S5の形質転換体を上記の4−2と同じ条件で培養し、培養終了後、培養液を遠心し培養上清を得た。同様に培養を更に4回行い5回分の培養上清を得た。次いで、これらの5回分の培養上清のSDS−PAGEを行いウシIFN−τの生産について確認した。
【0100】
その結果、5回分の内、1回についてだけ、SDS−PAGEで、ウシIFN−τが分泌生産されたことを示すバンドが認められたが、バンドの濃さから、その分泌生産量は多くとも約10〜20mg/l程度と推定された。また、他の4回については、ウシIFN−τが分泌生産されたことを示すバンドが認められなかった。
【0101】
以上により、ブレビバチルス属細菌を宿主細胞を用いた組換えタンパク質生産において、本発明のP45タンパク質遺伝子を目的タンパク質遺伝子の上流に連結することにより、通常の遺伝子組換えによる方法では微量しか生産されず、また、生産も安定しなかったタンパク質(またはポリペプチド)の生産量を安定して顕著に増大させる効果があることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】P45タンパク質全長のアミノ酸配列を示す。
【図2】図1のP45タンパク質の8残基め以降からなるP45タンパク質のアミノ酸配列
【図3】P45タンパク質成熟体のアミノ酸配列を示す。
【図4】P45タンパク質遺伝子全長のDNA配列を示す。
【図5】図4のP45タンパク質遺伝子の22塩基め以降からなるP45タンパク質遺伝子のDNA配列を示す。
【図6】P45タンパク質成熟体をコードするDNA配列を示す。
【図7】ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45−IFN−γの培養上清のSDS−PAGEに対して行ったCBB染色の結果を示す図面代用写真である。なお、レーンCは、対照として用いたブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45の培養上清である。
【図8】ブレビバチルス・チョウシネンシHPD31−S5/pNY−P45−IFN−τの培養上清のSDS−PAGEに対して行ったCBB染色の結果を示す図面代用写真である。なお、レーンCは、対照として用いたブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−S5/pNY−P45の培養上清である。
【図9】P45タンパク質成熟体のN末端アミノ酸配列(上段)、内部アミノ酸配列1(中段)、内部アミノ酸配列2(下段)を示す。
【図10】プライマー45KDN(上段)及び45KDC(下段)を示す。
【図11】プライマーP45−N(上段)及びP45−C(下段)を示す。
【図12】プライマーgambam(上段)及びgamsma(下段)を示す。
【図13】プライマーtaubam(上段)及びtausma(下段)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4または5の配列からなるDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを含有するベクターDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のDNA、及び、該請求項1に記載のDNAの3’末端側に結合され、特異的に認識され切断される部位を含むアミノ酸配列をコードするDNAからなるDNAを含有するベクターDNA。
【請求項4】
請求項1に記載のDNA、該請求項1に記載のDNAの3’末端側に結合され、特異的に認識され切断される部位を含むアミノ酸配列をコードするDNA、及び、該特異的に認識され切断される部位を含むアミノ酸配列をコードするDNAの3’末端側に結合され、生産を目的とするタンパク質またはポリペプチドをコードするDNAを含有するベクターDNA。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターDNAを保持する宿主細胞。
【請求項6】
ブレビバチルス属細菌である請求項5に記載の宿主細胞。
【請求項7】
請求項5または6に記載の宿主細胞を培養する工程を含むこと、を特徴とするタンパク質またはポリペプチドを生産する方法。
【請求項8】
配列番号1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項9】
融合タンパク質発現法における融合パートナーであること、を特徴とする請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項1】
配列番号4または5の配列からなるDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAを含有するベクターDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のDNA、及び、該請求項1に記載のDNAの3’末端側に結合され、特異的に認識され切断される部位を含むアミノ酸配列をコードするDNAからなるDNAを含有するベクターDNA。
【請求項4】
請求項1に記載のDNA、該請求項1に記載のDNAの3’末端側に結合され、特異的に認識され切断される部位を含むアミノ酸配列をコードするDNA、及び、該特異的に認識され切断される部位を含むアミノ酸配列をコードするDNAの3’末端側に結合され、生産を目的とするタンパク質またはポリペプチドをコードするDNAを含有するベクターDNA。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターDNAを保持する宿主細胞。
【請求項6】
ブレビバチルス属細菌である請求項5に記載の宿主細胞。
【請求項7】
請求項5または6に記載の宿主細胞を培養する工程を含むこと、を特徴とするタンパク質またはポリペプチドを生産する方法。
【請求項8】
配列番号1または2のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項9】
融合タンパク質発現法における融合パートナーであること、を特徴とする請求項8に記載のポリペプチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2007−28922(P2007−28922A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212955(P2005−212955)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000112060)ヒゲタ醤油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000112060)ヒゲタ醤油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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