説明

融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置

【課題】鉄道軌道とその周辺に積雪が生じる地域において、降ってくる雪を解かしながら、信頼性高く、安定して軌道変位計測ができる融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置の提供。
【解決手段】本発明は、鉄道軌道の長手方向に、所定の間隔毎に設けられた複数の軌道計測用ターゲット30と、鉄道軌道近傍に設置され、軌道計測用ターゲットに計測光を投射するとともに反射光を受光することで、軌道計測用ターゲットの位置を計測する軌道変位計測装置10とを備えた鉄道軌道変位計測装置において、降った雪が軌道計測用ターゲット下方、下方近傍に積雪することを防止する熱を発生するための融雪用発熱体51と、融雪用発熱体が熱放射面を略鉛直方向に向けて取り付けられる発熱体取付部材52を有し、融雪用発熱体を、鉄道軌道の軌道面と軌道計測用ターゲットとの間に位置するように、鉄道軌道に設置する発熱体取付装置50Aとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道軌道における変位を光学的に計測する鉄道軌道変位計測装置に関する。さらに詳しくは、鉄道軌道及びその周辺に積雪が生じるなど計測環境が厳しい地域において、信頼性高く、安定して軌道変位計測を行うことができる融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が走行する鉄道軌道は、軌間、通り、高さ、高低差などが所定の許容範囲内に入るように整備されている。また、長期間、鉄道車両が走行しても、この許容範囲に入っていることが求められている。この鉄道軌道の変位(狂い)が大きくなると、走行する鉄道車両の動揺が大きくなり乗り心地が悪くなる。さらに、変位が大きくなると、安全な走行が確保できない恐れまで生じる。従って、定期的に鉄道軌道の変位を計測して、整備状態を常に的確に把握する必要がある。
【0003】
この変位を計測する方法としては、作業者が手動で検測する方法(例えば、特許文献1参照)、軌道検測車を軌道上を走行させて行う方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。また、軌道の長手方向に対して略平行にレーザー光を照射するレーザー光源と、軌道に取り付けられ、レーザー光の光路の変位の基準となる基準光路上に受光部を備える受光器と、レーザー光源と受光器との間に設けられる光路規制板とを有し、受光器が受光する光量の変化率によって軌道の変位を検出するレーザー光による軌道変位検出装置も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
さらに、固定側の任意の位置に設けられた三次元計測器により、レールの上面及び側面に当接する移動ターゲットの距離、方位を測定して三次元座標を演算し、複数位置における移動ターゲットの三次元座標に基づいてレールの変位を求めるレール変位測定装置も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
また、北海道、本州の日本海側などの積雪地域では、冬季を中心に、多くの雪が降り、鉄道軌道面等に積雪する。これらの地域では、軌道分岐部、踏切等に雪対策が必要な場所に、融雪、消雪等の対策が施されていることが多い。これらの融雪、消雪の装置、方法としては、レールに加熱板を取り付けるレール加熱板の取付装置(例えば、特許文献5参照)、床板をジュール熱により発熱する発熱鋼板とした分岐器における融雪・凍結防止装置(例えば、特許文献6参照)、枕木の上面の基材に発熱体を埋設した枕木用融雪ヒータ装置(例えば、特許文献7参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3562695号公報
【特許文献2】特許第3512165号公報
【特許文献3】特開2003−232611号公報
【特許文献4】特開平06−094416号公報
【特許文献5】特開平10−8401号公報
【特許文献6】特開2008−308893号公報
【特許文献7】特開2002−309535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、鉄道軌道変位計測装置には、連続的に精度よく軌道変位計測を行うことが求められることがある。例えば、鉄道軌道周辺の土木工事の影響の有無を検測する場合などでは、鉄道軌道の変位を連続的に精度よく計測する必要がある。しかし、野外の厳しい環境下は、計測を行う環境としてよくない。そこで、本出願人は、軌道計測用ターゲットの洗浄を行う機能を備えた鉄道軌道変位計測装置に関する技術を特開2008−255595号公報で提案している。
【0008】
しかしながら、降雪が発生し、特に積雪が生じているような状態は、計測を行う環境としてはさらに良くない。すなわち、軌道変位計測するための軌道計測用ターゲットが一部でも雪に埋もれてしまうと軌道変位計測が不可能になってしまうおそれがあるという問題点があった。一方、降雪、積雪があったとき土木工事を即時中断するのでなく、所定量以下の降雪、少しの積雪であれば、融雪して鉄道軌道の軌道変位計測を可能にし、軌道変位計測を行いながらの土木工事を続行したい等の要求がある。さらに、これらの積もった雪を融雪、消雪等する場合、少しでもエネルギー消費を少なくし、CO排出量を低下させ、地球環境に配慮する必要があるという産業界全体に課せられた環境問題に関する課題もある。
【0009】
しかしながら、前述した特許文献1〜4は、積雪が発生した状態で使用されることが考慮されておらず、積雪発生時には鉄道軌道の軌道変位計測を中断しなければならない。さらに、特許文献5〜7の技術は、鉄道軌道の軌道変位計測に関する技術でないうえ、エネルギー消費、CO排出量等を低下させ環境に配慮することに関して全く考慮されていない。このため、前述したような少量の積雪がある環境下でも、最小のエネルギー消費で、安定して鉄道軌道の変位計測を行うことができる鉄道軌道変位計測装置の開発が要望されていた。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、下記の目的を達成する。
本発明の目的は、鉄道軌道及びその周辺に積雪が生じるなど計測環境が厳しい地域において、軌道計測用ターゲット近傍の雪を解かして除去する融雪機能を備え、降雪時期でも、信頼性高く、安定して軌道変位計測を行うことができる融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置を提供することにある。本発明の他の目的は、軌道計測用ターゲット下方及び下方近傍のみを融雪することにより、最小のエネルギー消費、CO排出量で鉄道軌道の軌道変位計測を行うことができる融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明1の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、
変位計測を行う対象区間の鉄道軌道に、前記鉄道軌道が延在する長手方向に沿って、所定の間隔毎に設けられた複数の軌道計測用ターゲットと、前記鉄道軌道の外部近傍に設置され、前記軌道計測用ターゲットに計測光を投射するとともに反射光を受光することで、前記軌道計測用ターゲットの位置を計測するための軌道変位計測装置とを備えた鉄道軌道変位計測装置において、降った雪が前記軌道計測用ターゲットの下方及び前記軌道計測用ターゲットの下方近傍に積雪することを防止する熱を発生するための面状または板状の融雪用発熱体と、前記融雪用発熱体が熱放射面を略鉛直方向に向けて取り付けられる発熱体取付部材を有し、前記発熱体取付部材に取り付けられた前記融雪用発熱体を、前記鉄道軌道の軌道面と前記軌道計測用ターゲットとの間に位置するように、前記鉄道軌道に設置するための発熱体取付装置とを備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明2の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、本発明1において、
前記融雪用発熱体は、前記発熱体取付部材の前記軌道面と対向する側の面に設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明3の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、本発明2において、
前記融雪用発熱体は、シリコンラバーヒーターであることを特徴とする。
【0014】
本発明4の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、本発明2または3において、
前記融雪用発熱体は、前記軌道計測用ターゲットの下方側から前記軌道計測用ターゲットの反射面側に、前記長手方向に延在するように、前記発熱体取付部材に設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明5の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、本発明1から4において、
前記発熱体取付装置は、前記鉄道軌道に前記軌道計測用ターゲットを取り付けるためのターゲット取付装置の機能を兼ねていることを特徴とする。
【0016】
本発明6の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、本発明1から5において、
前記融雪用発熱体には、発熱温度を所定の温度範囲内に調整するための温度調整手段が設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明7の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、本発明6において、
前記温度調整手段は、サーモスタットであり、前記サーモスタットは、前記融雪用発熱体に内蔵されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明による融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、降雪時において、例えば、軌道計測用ターゲットの一部が降り積もる雪に埋もれてしまうようなとき、軌道計測用ターゲット下方及び軌道計測用ターゲットの反射面側の下方近傍を融雪することができ、計測不良を生じさせることがない。従って、少し位の降雪であれば、鉄道軌道の軌道変位計測を行うことができる。すなわち、降雪地域、積雪地域において、降雪があったとき土木工事を即時中断するのでなく、所定量以下の降雪であれば、融雪して鉄道軌道の軌道変位計測を可能にし、軌道変位計測を行いながら土木工事を続行することができる。
【0019】
また、融雪用発熱体は、発熱体取付部材の下側(軌道面側)を向いている一方の面に取り付けられており、降った雪、解けた水等が、融雪用発熱体に、直接、接することが生じないので、融雪用発熱体の故障発生が少なく高寿命化が図れる。さらに、軌道計測用ターゲットの反射面を中心とするとともに、長手方向の反射面側に長く延在する発熱体取付部材に取り付けた融雪用発熱体により、発熱体取付部材の軌道計測用ターゲットの反射面側に降り積もろうとしている雪のみを解かす構成にしているので、融雪用発熱体の発熱容量、大きさ(発熱体面積、ヒーター面積)等を最小限とすることができ、エネルギー消費を抑え、CO排出量を抑えることができる。すなわち、地球環境に配慮した融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置とすることができる。
【0020】
この融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置は、簡素な構成のものであり、信頼性が高く、長期間に亘ってメンテナンスの必要がない。また、融雪した水は、発熱体取付部材から鉄道軌道の軌道面側に落下するので排水処理が容易であり、この落下した水が、軌道変位計測に影響を与えることがない。また、融雪用発熱体には、温度調整手段(例えば、サーモスタット)が設けられており、発熱温度が所定の温度範囲内になるようにしているので、故障が少なく、長期間の使用が可能である。さらに、融雪用発熱体が、サーモスタットが内蔵されたシリコーンラバーヒーターであると、コンパクトで優れた融雪性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、鉄道軌道変位計測装置の概要を示す概要図である。
【図2】図2は、本発明の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置の軌道計測用ターゲット、融雪装置を鉄道軌道に取り付けた状態を示す平面図である。
【図3】図3は、図2をP−P線で切断した断面図である。
【図4】図4は、図2をQ−Q線で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置の実施の形態を、図1〜4に基づいて説明を行う。図1は、本発明の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置の概要を示す概要図、図2は、本発明の融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置の軌道計測用ターゲット、融雪装置を鉄道軌道に取り付けた状態を示す平面図、図3は、図2をP−P線で切断した断面図、図4は、図2をQ−Q線で切断した断面図である。なお、この説明では、レール90が延在する長手方向であり、矢印Xで示す方向を「X方向」、レール90の高さ方向(レール90の頭部と底部とを結ぶ方向)であり、矢印Zで示す方向を「Z方向」、この長手方向(X方向)及び高さ方向(Z方向)と直交する方向であり、矢印Yで示す方向を「Y方向」として説明を行う(図1参照)。
【0023】
図1に示すように、2本のレール(鉄道軌道)90は、バラスト道床(図示せず)等に設置されるまくらぎ91の上部にレール締結装置(図示せず)を介して締結されている。融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置(以下、鉄道軌道変位計測装置という。)1は、レール90の外部に設置される軌道変位計測装置10、レール90の所定の位置にターゲット取付装置30Aを介して取り付けられる軌道計測用ターゲット30、軌道変位計測装置10から出力される測距情報データ、測角情報データ(方位データ)から各軌道計測用ターゲット30の3次元方向の位置を演算する演算装置20、レール90の所定の位置に発熱体取付装置50Aを介して取り付けられる融雪装置50(図2、4参照)等から構成されている。
【0024】
軌道変位計測装置10として、例えば、ライカ社製のトータルステーション等がよく知られている。図1に示すように、軌道変位計測装置10は、レール90上を走行する鉄道車両の走行範囲から所定量離れた安全な位置に設置されている。軌道計測用ターゲット(以下、ターゲットという。)30は、レール90の近傍に、所定の間隔毎に設けられる反射プリズム31を備えたものであり、レール90にターゲット取付装置30Aを介して取り付けられている。言い換えると、ターゲット30は、軌道変位計測を行う対象区間の鉄道軌道に、この鉄道軌道が延在する長手方向(X方向)に沿って、所定の間隔毎に設けられたものである。
【0025】
軌道変位計測装置10は、レーザ光、近赤外光等の計測光(測距用光)をターゲット30の反射プリズム31に投射し、反射プリズム31によって反射した反射光を受光することで距離を計測する機能と、そのときの方位である水平面内の角度、鉛直面内の角度を計測する機能を備えている。例えば、軌道変位計測装置10から反射プリズム31までの距離情報(測距情報データ)、そのときの方位データである水平面内、垂直面内の角度情報(測角情報データ)が出力され、演算装置20で、反射プリズム31の位置が3次元の位置情報として演算される。軌道変位計測装置10は、前述したように、トータルステーションなどとしてよく知られているものであり、この実施の形態の説明では詳細な説明を省略する。
【0026】
レール90は、頭部90a、底部90b、腹部90c等とから形成されている(図3、4参照)。底部90bは、図3、図4の断面形状に示されているように、図3、図4の左右方向に対称またはほぼ対称に形成され、底部90bの上面には所定の角度の傾斜がつけられている。図2、図4に示すように、レール90には、レール90の底部90bを挟持する挟持部材34、挟持部材35が、一対設けられた固定ボルト36、36、ナット37、37によってレール90の底部90bを底幅方向(Y方向)の両側から挟むように固定されている。また、挟持部材34は、挟持部材34の凹部34cと底部90bの一方の部位とを係合させた後、固定ねじ部材34aを介して挟持部材34とレール90の底部90bとを固定している。ナット34bは、固定ねじ部材34aが緩むことを防止している。言い換えると、挟持部材34、及び、固定ねじ部材34aは、レール90の底部90bの上面と下面とを、レール90の底部高さ方向から挟んで固定するようになっている。
【0027】
挟持部材35は、挟持部材35の凹部35cと底部90bの他方の部位とを係合させた後、固定ねじ部材35aを介して挟持部材35とレール90の底部90bとを固定している。ナット35bは、固定ねじ部材35aが緩むことを防止している。言い換えると、挟持部材35、及び、固定ねじ部材35aは、レール90の底部90bの上面と下面とを、レール90の底部高さ方向から挟んで固定するようになっている。挟持部材34と固定ボルト36の頭部36aとの間には、ステー38が挾み込まれており、挟持部材34、挟持部材35が、固定ボルト36、36、ナット37、37、固定ねじ部材34a、ナット34b、固定ねじ部材35a、ナット35bで固定されるとき、一緒に固定されている(図4参照)。
【0028】
ステー38の上部には、上方向が開口している略U字状の第1取付部材32がボルト39の軸線の周り方向(図4のA方向)に回転可能に設けられ、軌道変位計測装置10との位置関係からボルト39の軸線の周り方向(A方向)の回転位置が調整され、この回転位置が定まったとき、ボルト39、ナット40で、ステー38に対して第1取付部材32が固定されている。第1取付部材32の内側には、第2取付部材33が設けられている。
【0029】
第2取付部材33は、図2に示すように、前方向が開口している略U字状となっており、第1取付部材32に対してボルト41の軸線の周り方向(図4のB方向)に回転可能である。軌道変位計測装置10との位置関係からボルト41の軸線の周り方向(B方向)の回転位置が調整され、この回転位置が定まったとき、ボルト41、ナット42で、第1取付部材32に対して第2取付部材33が固定される。第2取付部材33には、反射プリズム31が固定されている。
【0030】
言い換えると、反射プリズム31の反射面である反射プリズム面31aが軌道変位計測装置10の方向を向くように第1取付部材32、第2取付部材33の回転方向の向きを調整し、ボルト39、ナット40、及び、ボルト41、ナット42で固定する。なお、ナット37、ナット40、ナット42、ナット34b、ナット35bは、各々、ダブルナットとなっているが、これは鉄道車両走行時の振動等で緩みが生じないようにしているためである。第1取付部材32、第2取付部材33、挟持部材34、挟持部材35、固定ボルト36、ナット37等で、ターゲット取付装置30Aが構成されている。
【0031】
また、図2に示すように、挟持部材35(挟持部材34)から所定量離れた位置に、挟持部材55(挟持部材54)がレール90の底部90bを挟持している。また、図3に示すように、レール90には、レール90の底部90bを挟持する挟持部材54、挟持部材55が、一対設けられた固定ボルト56、ナット57によってレール90の底部90bを底幅方向(Y方向)の両側から挟むように固定されている。また、挟持部材54は、挟持部材54の凹部54cと底部90bの一方の部位とを係合させた後、固定ねじ部材54aを介して挟持部材54とレール90の底部90bとを固定している。ナット54bは、固定ねじ部材54aが緩むことを防止している。言い換えると、挟持部材54、及び、固定ねじ部材54aは、レール90の底部90bの上面と下面とを、レール90の底部高さ方向から挟んで固定するようになっている。
【0032】
挟持部材55は、挟持部材55の凹部55cと底部90bの他方の部位とを係合させた後、固定ねじ部材55aを介して挟持部材55とレール90の底部90bとを固定している。ナット55bは、固定ねじ部材55aが緩むことを防止している。言い換えると、挟持部材55、及び、固定ねじ部材55aは、レール90の底部90bの上面と下面とを、レール90の底部高さ方向から挟んで固定するようになっている。なお、ナット57、ナット54b、ナット55bは、各々、ダブルナットとなっているが、これは鉄道車両走行時の振動等で緩みが生じないようにしているためである。
【0033】
この挟持部材54、挟持部材55は、面状の融雪用発熱体である融雪用ヒーター(以下、ヒーターという。)51を取り付けるための発熱体取付部材であるヒーター取付部材52を所定の位置に固定するためのものである。ヒーター取付部材52は、軌道面に対してほぼ垂直な方向に位置している板状の部位であるレール取付部52b、レール取付部52bに対してほぼ直交する板状の部位であって反射プリズム31側(反レール側)に突出しているヒーター取付部52a、レール取付部52bに対してほぼ直交する板状の部位であってレール90側に突出している第2熱放射面部52cとから構成されている。言い換えると、ヒーター取付部52aと第2熱放射面部52cとは平行な板状の部位であって、レール取付部52bから、各々反対方向に突出しているものである。
【0034】
ヒーター取付部材52のヒーター取付部52aは、下側(軌道面側)を向いている一方の面がヒーター51を取り付けるためのヒーター取付面52fに、上側(反軌道面側)を向いている他方の面がヒーター51が発生した熱を放射するための第1熱放射面52gとなっている。ヒーター51は、ヒーター取付部52aのヒーター取付面52fに、ボルト、小ネジ等締結部材により着脱可能に締結されている。ヒーター51は、ヒーター取付部52aの軌道面と対向する側の面であるヒーター取付面52fに、軌道面と対向するように設けられている。第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cは、水平面、略水平面(例えば、水平面に対して±15度以内の平面)とほぼ平行な平面となるようにレール90に取り付けられている。このように取り付けられたとき、第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cは、熱放射方向が鉛直方向(矢印Z方向)、略鉛直方向(例えば、鉛直線に対して±15度以内の方向)を向くように構成されている。このヒーター取付部材52は、耐候性、熱伝導に優れた金属(例えば、ステンレス)製であり、ヒーター51で発生した熱は、ヒーター取付部52a、レール取付部52bを介して第2熱放射面部52cに伝導する。
【0035】
なお、レール取付部52bは挟持部材54を介してレール90側と接しているが、挟持部材54と接する部位の面積、挟持部材54の大きさ等を最小限の大きさにしたり、断熱部材を挟むことにより、ヒーター51、ヒーター取付部材52側の熱が、レール90側に逃げるのを少なくすることができる。例えば、レールとヒーター取付部材のレール取付部との間、固定ボルトの頭部とヒーター取付部材のレール取付部との間に断熱部材を設けるとよい。また、レール取付部の挟持部材と接する部位のみを、ヒーター取付部材の他の部位と別のものとしてもよい。例えば、レール取付部の挟持部材と接する部位を断熱性のある材料で形成し、ヒーター取付部、第2熱放射面部等とからなる他の部位を耐候性、熱伝導に優れた金属(例えば、ステンレス)で形成し、両方の部位を一体にしたものであってもよい。
【0036】
ヒーター51が取り付けられたヒーター取付部材52は、反射プリズム31の下方、反射プリズム31の下方近傍に降ってくる雪、特に反射プリズム面31a側に降ってくる雪を解かすものであり、ヒーター取付部52aの第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cが、反射プリズム面31a側に大きな発熱面積を有するように形成されている(図2参照)。この実施の形態では、所定の大きさの面積(図2における「U(例えば、200±20mm)*V(例えば、200±20mm)」で示す面積)の範囲内が、ヒーター51により融雪可能な範囲である。そして、ヒーター取付部材52は、反射プリズム31の後面が、鉄道軌道の長手方向(矢印X方向)においてヒーター取付部材52の一方の端面52eから所定量の内側に位置するように取り付けられている。なお、ヒーター取付部材52の面積(U*V)は、鉄道軌道変位計測装置のターゲット30、反射プリズム31が設置される場所の環境、設置場所の状態等により、適宜、選択されるものである。
【0037】
即ち、図2に示すように、ヒーター取付部材52を平面視したとき、反射プリズム面31aの位置が、ヒーター取付部材52の一方の端面52eより所定の寸法(例えば、図2の「V1」)離れた位置に位置している。この所定の寸法(図2のV1)は、反射プリズム31の前後方向厚みより大きい値である。また、ヒーター取付部材52は、一方の端面52eから反射プリズム面31aの位置までの部位に連続するように、反射プリズム面31aの位置から所定の長さ(例えば、図2の「V−V1」)、鉄道軌道の長手方向に延在している。言い換えると、ヒーター取付部材52は、一方の端面52eから、一方の端面52eの反対側の他方の端面まで、所定の長さ(例えば、図2の「V」)を有するように形成されている。さらに、ヒーター取付部材52は、レール90の長手方向(矢印X方向)に対して直交する幅方向(矢印Y方向)において、所定の幅(例えば、図2の「U」)を有するように形成されている。反射プリズム31は、中心が、ヒーター取付部材52の幅方向のほぼ中央に位置するように設けられている。このように、反射プリズム31を基点として、反射プリズム31の下方側から反射プリズム31の反射プリズム面31a側に所定の長さ延在する大きさの面積の範囲を、ヒーター51で融雪するように構成されている。言い換えると、この融雪装置50は、ターゲット30の下方、ターゲット30の反射面側の下方近傍を含む所定の大きさの面積(図2における「U*V」で示す面積)の範囲のみを融雪するように構成されているので、エネルギー消費、CO排出量等を最小限にすることができ、地球環境に配慮がされている。
【0038】
ヒーター51は、ヒーター取付部52aの一方の面(上面)である第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cが融雪するのに好適な温度(例えば、30〜80度)に上昇させるための所定の性能〔例えば、所定の定格電圧(例えば、AC100V)で、第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cの温度を前述の温度に上昇させるための所定のヒーター容量〕を有しているものである。また、ヒーター51は、反射プリズム31の下方にあって、ヒーター取付部52aの軌道面と対向する側のヒーター取付面52fに設置することが可能であり、第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cを所定の温度に上昇させて融雪を行うのに適した所定の熱量を発生することができる面状、板(薄板)状のヒーターである。ヒーター51は、ヒーター取付部52aの軌道面と対向する側の面であるヒーター取付面52fに設けられており、このようにヒーター51を配置することにより、降っている雪、解けた水等が、直接、ヒーター51に接することがないので、ヒーター51の故障発生が少なく高寿命化が図れる。
【0039】
この実施の形態のヒーター51は、面状発熱体であるシリコーンラバーヒーターであり、このヒーター51は、ヒーター取付面52fと接触している部位を除く他の部位が、耐候性に優れた金属(例えば、ステンレス)で形成されたカバーで覆われている。このカバーで覆うことにより、ヒーター51は、内部のヒーター構成部、サーモスタット等が保護されている。ヒーター51をシリコーンラバーヒーターにすると、コンパクトで優れた融雪性能を発揮することができる。このヒーター51は、このカバーに形成されたボルト穴を介してヒーター取付部52aに着脱可能に固定されている。
【0040】
なお、ヒーター(融雪用発熱体)は、反射プリズムの下方にあって、ヒーター取付部の軌道面と対向する側のヒーター取付面に設置することが可能であり、融雪に適した所定の熱量を発生することができる面状、板状(薄板状)のヒーター、融雪用発熱体であれば他の種類の発熱体、ヒーターであってもよい。また、ヒーターは、耐候性、熱伝導性に優れた金属(例えば、ステンレス)で全体が覆われているものであってもよい。
【0041】
ヒーター51は、ヒーター温度を、融雪に適した所定の温度範囲内に調整するための温度調整手段であるサーモスタット(図示せず)を内蔵している。サーモスタットは、ヒーター51が接続されているヒーター制御装置(図示せず)のヒーター電源回路(図示せず)をON−OFF制御することで、ヒーター51の発熱温度が所定の温度範囲内になるように調整する。すなわち、ヒーター51の温度が、所定の温度範囲の上限値に達したとき、ヒーター51への通電を停止する。また、ヒーター51の温度が所定の温度範囲の下限値に達したとき、ヒーター51への通電を行う。このサーモスタットは、ヒーター51の発熱温度が所定の温度範囲内になるように調整しているので、故障が少なく、長期間の使用を可能としている。このサーモスタットとしては、バイメタルや形状記憶合金等による機械式検知のサーモスタットが、ヒーター51に内蔵するのに好ましい。また、温度センサをヒーターに内蔵し、外部のコントローラで設定温度の調整が可能なサーモスタット等であってもよい。
【0042】
前述したように、挟持部材54、挟持部材55は、固定ボルト56、ナット57、固定ねじ部材54a、固定ねじ部材55a等で固定されている。挟持部材54と固定ボルト56の頭部56aとの間には、ヒーター取付部材52のレール取付部52bが挾み込まれており、挟持部材54、挟持部材55が固定ボルト56、ナット57で固定されるとき、一緒に固定されている。また、ヒーター取付部材52のヒーター取付部52aには、固定ボルト56の頭部56aに、スパナ、棒レンチ等工具を差し込んで使用できるようにするための矩形状の穴52dが形成されている(図2参照)。また、ヒーター取付部材52のヒーター取付部52aには、固定ボルト36の頭部36aに、スパナ、棒レンチ等工具を差し込んで使用できるようにするための矩形状の切り欠きが形成されている。この切り欠きは、ヒーター取付部52aとステー38とを接触させないためのものでもあり、一方の端面52e側であってレール取付部52b近傍の部分に形成されている。ヒーター取付部52aとステー38とを接触させないことにより、ヒーター51、ヒーター取付部材52側の熱がステー38側に伝導することを防止している。
【0043】
ヒーター取付部材52、挟持部材54、挟持部材55、固定ボルト56、ナット57等でヒーター取付装置(発熱体取付装置)50Aが構成されている。そして、ヒーター(融雪用発熱体)51と、ヒーター取付装置(発熱体取付装置)50Aとで融雪装置50が構成されている。なお、この実施の形態のように、ターゲット取付装置50Aとヒーター取付装置30Aを別体のものとすると、ヒーター51の熱が、ターゲット取付装置30A、反射プリズム31(ターゲット30)側に伝導する(逃げる)ことがないので好ましい。
【0044】
本実施の形態の鉄道軌道変位計測装置1の作用について説明を行う。
この鉄道軌道変位計測装置1は、積雪地域でも、降雪、積雪が生じない時期は、通常と同様の使用方法で軌道変位計測を行うことができる。これは、従来より行われている方法であり、詳細な説明は省略する。すなわち、降雪が発生したときの鉄道軌道変位計測装置1の使用方法について、説明を行う。
【0045】
降雪が発生したとき、または、降雪が予想されているときには、鉄道軌道変位計測装置1のヒーター制御装置の電源スイッチをON側(電源入側)にして電気を供給し、ヒーター電源回路、ヒーター51を通電状態にする。ヒーター51は発熱し、ヒーター取付部52aの第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cは、所定の温度まで上昇する。この状態になると、第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cに降った雪は、順次、積もることなく解けていく。雪が解けた水は、ヒータ取付部52aの第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cから排水され、鉄道軌道の軌道面側に落下していく。このとき、解けた水は、ヒ−ター51に接することなく第1熱放射面52g、第2熱放射面部52cから軌道面側に排水される。また、雪が解けた水、軌道面側に落下する水は、軌道変位計測に影響を与えることはない。すなわち、反射プリズム31の下方、反射プリズム31の下方近傍以外の所に降った雪が積雪しても、反射プリズム31の下方、反射プリズム31の反射プリズム面31a側の下方近傍には、積雪が生じることはない。また、サーモスタットは、ヒーター51の発熱温度が所定の温度範囲内になるように、ヒーター電源回路をON−OFF制御し、ヒーター51を通電状態、通電停止状態に制御する。
【0046】
軌道変位計測装置10は、レーザ光、近赤外光等の計測光(測距用光)をターゲット30の反射プリズム31に投射し、反射プリズム31によって反射した反射光を受光することで、軌道変位計測装置10から反射プリズム31までの距離情報(測距情報データ)、そのときの方位データである水平面内、垂直面内の角度情報(測角情報データ)を得ることができる。この測距情報データ、測角情報データは、演算装置20に出力され、演算装置20で、反射プリズム31の位置が3次元の位置情報として演算される。この軌道変位計測は、所定の時間(例えば、15〜30分)毎に、土木工事等を行っている期間中行われる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態の説明を行ったが、本発明はこの実施の形態に限定されることはない。本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。例えば、軌道計測用ターゲットを取り付けるためのターゲット取付装置と、融雪用発熱体(ヒーター)を取り付けるための発熱体取付装置(ヒーター取付装置)とを、別々の取付装置としているが、一つの取付装置に、軌道計測用ターゲット、融雪用発熱体(ヒーター)を取り付けるようにしてもよい。この場合、この取付装置と軌道計測用ターゲットとの間に断熱性のある材料で製造された断熱部材を配設するとよい。
【符号の説明】
【0048】
1…融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置
10…軌道変位計測装置
20…演算装置
30…軌道計測用ターゲット
30A…ターゲット取付装置
31…反射プリズム
50…融雪装置
50A…発熱体取付装置
51…融雪用発熱体(融雪用ヒーター)
52…発熱体取付部材(ヒーター取付部材)
52a…発熱体取付部(ヒーター取付部)
90…レール(鉄道軌道)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変位計測を行う対象区間の鉄道軌道に、前記鉄道軌道が延在する長手方向に沿って、所定の間隔毎に設けられた複数の軌道計測用ターゲットと、
前記鉄道軌道の外部近傍に設置され、前記軌道計測用ターゲットに計測光を投射するとともに反射光を受光することで、前記軌道計測用ターゲットの位置を計測するための軌道変位計測装置とを備えた鉄道軌道変位計測装置において、
降った雪が前記軌道計測用ターゲットの下方及び前記軌道計測用ターゲットの下方近傍に積雪することを防止する熱を発生するための面状または板状の融雪用発熱体と、
前記融雪用発熱体が熱放射面を略鉛直方向に向けて取り付けられる発熱体取付部材を有し、前記発熱体取付部材に取り付けられた前記融雪用発熱体を、前記鉄道軌道の軌道面と前記軌道計測用ターゲットとの間に位置するように、前記鉄道軌道に設置するための発熱体取付装置とを備えている
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載された融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置において、
前記融雪用発熱体は、前記発熱体取付部材の前記軌道面と対向する側の面に設けられている
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載された融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置において、
前記融雪用発熱体は、シリコンラバーヒーターである
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載された融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置において、
前記融雪用発熱体は、前記軌道計測用ターゲットの下方側から前記軌道計測用ターゲットの反射面側に、前記長手方向に延在するように、前記発熱体取付部材に設けられている
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載された融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置において、
前記発熱体取付装置は、前記鉄道軌道に前記軌道計測用ターゲットを取り付けるための機能を兼ねている
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置において、
前記融雪用発熱体には、発熱温度を所定の温度範囲内に調整するための温度調整手段が設けられている
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載された融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置において、
前記温度調整手段は、サーモスタットであり、
前記サーモスタットは、前記融雪用発熱体に内蔵されている
ことを特徴とする融雪機能を備えた鉄道軌道変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36603(P2012−36603A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175940(P2010−175940)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(503295448)計測ネットサービス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】