説明

融雪電線

【目的】 磁性線の低潮流時の発熱量が大きくその巻付量を低減できる融雪電線を提供する。
【構成】 架空電線5の外周に磁性線6が 架空電線5の外周に磁性線6が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線6が、10 Oe の磁界下で磁歪が正のとき引張応力が残留し、10 Oe の磁界下で磁歪が負のとき圧縮応力が残留するように巻付けられている。
【効果】 低潮流時における磁性線6の発熱量が大きい為その巻付量を低減できて融雪電線が軽量となり架線費用が節減される。磁性線の表面にAl又はZn等を被覆することにより電食が防止される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、交流が送電される架空電線周囲に発生する交番磁界により、前記架空電線に巻付けた磁性線を発熱させて架空電線上の着雪等を解かす融雪電線に関し、低潮流時の磁性線の発熱量が大でその巻付量を少なくでき、送電量が多いときは過度に発熱しない融雪電線に係る。
【0002】
【従来の技術】架空電線の外周に磁性線を螺旋状に巻付けた融雪電線は、架空電線周囲に発生する交番磁界により前記磁性線に渦電流や履歴損失を生じさせ、そのときの発熱により着雪や着氷を解かすようにした電線である。この融雪電線の欠点は、着雪等が起き易い早朝は送電量が少ない為磁性線が十分に発熱せず、送電量の多い昼間は磁性線のみならず架空電線自身も高温に発熱する為、送電量を落とさざるを得なくなることであった。
【0003】そこで、磁性線にキュリー温度の低いパーマロイ(Fe−Ni系)磁性線を用いて融雪電線の最大許容電流における発熱を押さえていた。しかし、キュリー温度の低い磁性線は一般に磁束密度が低く、前記のパーマロイ磁性線も飽和磁束密度が 15000G以下であった。この為早朝の低潮流時に融雪するには、例えばTACSR810mm2の場合、送電量 100A、表面磁界10 Oe の条件下で、1m当たり1kgの磁性線を巻付ける必要があった。TACSR810mm2の1m当たりの重量は2.70kgであるから、磁性線を巻付けることにより架空電線は37%重くなった。又軽量化を目的としたインバー線補強の特別耐熱アルミ合金撚線XTACIR650mm2(外径33mmφ、インバー線断面積106mm2、アルミ合金撚線断面積653mm2、1m当たりの重量2.57kg)を使用しても、パーマロイ磁性線を架空電線1m当たり1kg巻付けるには 4.4mmφのインバー線を5.3 mmφに太径化して強化する為インバー線自体が0.16kgの重量増となり、全体で1.16kg、45%の重量増となった。この重量増は、鉄塔の建て替えを要する程の大きさであり、この為磁性線は架空電線に部分的に巻付けて使用しており、十分な融雪効果は期待できなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】鉄塔を建て替えずに融雪電線を布設するには、磁性線の巻付量を半分程度に減らす必要があり、その為には低潮流時(XTACIR650mm2の場合で91A)での巻付前の磁束密度が 13500G以上の磁性線が必要である。本発明は、このような状況の中で鋭意研究を進めてなされたもので、小量の巻付量で融雪可能であり、送電量が多いときには過度に発熱しない融雪電線を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、架空電線の外周に磁性線が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、前記磁性線が、10 Oe の磁界下で磁歪が正のとき引張応力が残留し、10 Oe の磁界下で磁歪が負のとき圧縮応力が残留するように巻付けられていることを特徴とする融雪電線である。
【0006】この発明の融雪電線は、磁性線を架空電線に、低磁界(10 Oe程度) での磁歪が正の磁性線は引張応力が残留するように、前記磁歪が負の磁性線は圧縮応力が残留するように巻付けて、低磁界での磁性線の磁束密度を高めることにより、磁性線の巻付量の低減を図ったものである。前記残留応力は1kg/mm2以上かけるのが、その効果が明瞭に顕れて望ましい。
【0007】このように磁歪が正のとき引張応力が残留し、磁歪が負のとき圧縮応力が残留するように巻付ける理由は、磁歪と順向きに応力が残留すると磁束密度が向上して磁性線の発熱量が増加する為である。前記引張応力又は圧縮応力は、それぞれ磁歪の正又は負の動きを助長して磁気特性を改善するものと推定される。
【0008】この発明の融雪電線で用いる磁性線は、10 Oe の低磁界での磁歪の絶対値が大きく、引張応力又は圧縮応力を残留させることにより、前記低磁界での巻付後の磁束密度が 11000G以上となる磁性線が望ましい。前記望ましい磁性線の材料は、具体的には、Fe-Ni 系(パーマロイ)、Fe-Co系、Co-Ni 系、Fe-Co-Ni系、又はFe-Si 系等の合金、更にこれら合金に他の元素を添加した合金等である。この他に純鉄、純コバルト、又はこれらにGe、Sn、Cr、Al等の元素を添加した合金を挙げることができる。因みに、純鉄は10 Oe での磁歪が正で飽和磁歪が負であり、コバルトは10 Oeでの磁歪と飽和磁歪がともに負である。又Fe-Ni 系、Fe-Co 系、Co-Ni 系、及びFe-Co-Ni系合金はその殆どの組成において、10 Oe での磁歪と飽和磁歪がともに正である。尚、前記 Fe-Ni系合金のうちのFe−78wt%Ni合金、及び Fe-Si系合金のうちのFe-6.5wt%Si合金は、ともに軟磁性合金で磁歪が小さい(殆ど0)。従って、残留応力を付与することによる発熱量増大の効果は余り期待できない。
【0009】低磁界下(10 Oe) で磁性線に引張応力を残留させるには、架空電線がACSRで磁性線がFe系磁性線の場合、室温で磁性線を張力をかけながら架空電線に巻付け固定するか、室温未満の温度に冷却した架空電線に室温の磁性線を巻付け固定する。このようにすると、ACSRの表面のアルミ撚線の熱膨張係数は23×10-6であり、Fe系磁性線の熱膨張係数(Feで12×10-6)より大きい為、使用時の温度上昇により熱膨張差が生じて磁性線に引張応力が残留する。又低磁界下(10 Oe) で磁性線に圧縮応力を残留させるには、例えば、室温(20℃)を超えて所定温度に温めた架空電線に磁性線を巻付け固定する。このようにすると融雪を必要とする5℃以下の温度で圧縮応力がかかる。
【0010】請求項2記載の発明は、10 Oe 以上の磁界下での磁歪が正の磁性線を、室温以下の温度で架空電線に巻付け固定して、10 Oe の磁界下で磁性線に引張応力が残留するようにしたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線である。この発明では、磁性線は引張応力により、低磁界下で発熱が促進されるが、最大許容電流送電時にも磁性線の発熱が促進される。しかし、巻付けた磁性線のフィン冷却効果により、最大許容電流送電時の架空電線の温度は磁性線を巻付けない場合より低く抑えられる。
【0011】請求項3記載の発明は、10 Oe の磁界下での磁歪が正で、飽和磁歪が負の磁性線を、室温以下の温度で架空電線に巻付け固定して、10 Oe 以上の磁界下で磁性線に引張応力が残留するようにしたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線である。この発明では、磁性線は引張応力により、低磁界下で発熱が促進され、最大許容電流送電時には、残留応力(引張応力)が磁歪(負)と逆向きになって発熱が抑制される。最大許容電流送電時の架空電線の温度は、磁性線のフィン冷却効果により、磁性線を巻付けない場合より低く抑えられる。
【0012】請求項4記載の発明は、10 Oe 以上の磁界下での磁歪が負の磁性線を、室温を超えて所定温度に温めた架空電線に巻付け固定して、10 Oe の磁界下で磁性線に圧縮応力が残留し、最大許容電流磁界下で引張応力が残留するようにしたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線である。この発明では、磁性線は、低磁界下では圧縮応力により発熱が促進され、最大許容電流送電時には、残留応力(引張応力)が磁歪(負)と逆向きになって発熱が抑制される。最大許容電流送電時の架空電線の温度は、磁性線のフィン冷却効果により、磁性線を巻付けない場合より低く押さえられる。
【0013】請求項5記載の発明は、10 Oe の磁界下での磁歪が負で、飽和磁歪が正の磁性線を、室温を超えて所定温度に温めた架空電線に巻付け固定して、10 Oe 以上の磁界下で磁性線に圧縮応力が残留するようにした請求項1記載の融雪電線である。この発明では、磁性線は圧縮応力により、低磁界下での発熱が促進され、最大許容電流送電時には、残留応力(圧縮応力)が磁歪(正)と逆向きになって発熱が抑制される。最大許容電流送電時の架空電線の温度は磁性線のフィン冷却効果により、磁性線を巻付けない場合より低く押さえられる。この発明での磁性線を巻付け固定するときの架空電線の温度は、最大許容電流送電時の架空電線の温度を超える温度である。
【0014】請求項1乃至請求項5記載の融雪電線において、磁性線を架空電線に固定する溶接法には、シーム溶接法、スポット溶接法等、通常の溶接法が適用される。ろう付け法では、銀ろうや半田等が使用できるが、融点の低いものの方が磁性線等の特性を害さず好ましい。機械的固定法としては、バンド金具で固定する方法等が用いられる。この発明で磁性線に圧縮応力を残留させる場合は、磁性線は架空電線に短間隔に固定して磁性線が外方に膨らんで圧縮応力が残留しなくなるのを防止する。磁性線を架空電線に短間隔で固定すると、架線時における金車通過の際の磁性線のずれが防止される。磁性線に引張応力を残留させる場合は、磁性線の両端だけを固定しても良い。
【0015】請求項6記載の発明は、架空電線の外周に磁性線が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、前記磁性線がCoを 0〜65wt%、Alを 0〜9 wt%、Siを 0〜7.5 wt%、Vを 0〜4 wt%、Crを 0〜9 wt%、Mnを 0〜2.5 wt%含有し残部が鉄からなり、前記磁性線の表面に10〜120 μm厚さのAl、Al合金、Zn、又はZn合金層が被覆されていることを特徴とする融雪電線である。
【0016】この発明にて用いる磁性線は、純鉄又はFe−Co系合金等の磁性線で、低潮流時(XTACIR650mm2の場合で91A送電)の磁界強度10 Oe における磁束密度(以下B10と記す) が 13500G以上のものである。この磁性線はB10が 13500G以上の場合、架空電線に巻付後において、融雪に必要な 11000G以上の磁束密度が得られる。
【0017】この発明の融雪電線によれは、残留応力を付与しないでも、磁性線の発熱量を、従来のパーマロイ磁性線の2倍以上に高められ、従って磁性線の重量を半分以下にできる。例えば、インバー補強架空電線XTACIR650mm2に磁性線を0.50kg巻付ければ、1m当たり0.58kg(0.08kgはインバー線の太径化分)の重量増となり、これはTACSR810mm2に巻付けた場合、20%以内の重量増加に留まり、鉄塔を建替えずに融雪電線の張替えが行える。
【0018】この発明で用いる磁性線において、合金組成のCoを 0〜65wt%に限定した理由は、Coが65wt%を超えると、B10(10 Oeにおける磁束密度) が低下し低潮流時の融雪に必要な発熱量が得られなくなる為である。合金組成のAlとSiは、磁気特性(透磁率) を改善する作用を有する。Alを 0〜9 wt%、Siを 0〜7.5 wt%に限定した理由は、AlとSiがそれぞれ 9wt%又は7.5 wt%を超えると、B10が低下して十分な融雪効果が得られなくなる為である。合金組成のVは熱間加工性を改善する作用を有する。その含有量を 0〜4 wt%に限定した理由は、 4wt%を超えて添加してもその効果が飽和する為である。合金組成のCrは磁性線の耐食性を改善する作用を有する。その含有量を 0〜9 wt%に限定した理由は、 9wt%を超えると磁束密度が低下し融雪に必要な発熱量が得られなくなる為である。
【0019】この発明で用いる磁性線の表面に、Al、Al合金、Zn、又はZn合金が被覆されているのは、磁性線と架空電線が接触して電食を起こすのを防止する為である。前記磁性線表面に被覆されるAl合金又はZn合金には耐食性や耐磨耗性に優れた任意の合金が適用される。Al、Al合金、Zn、又はZn合金の被覆厚さをそれぞれ10〜120 μmに限定した理由は、10μm未満の厚さでは耐食性改善効果が得られず、120 μmを超えると磁性線の発熱量が低下し、又めっきコストが高くなる為である。十分な発熱量を得るには60μm以下が特に好ましい。この発明で用いる磁性線は、架空電線に残留応力を付与して巻付けることにより、低磁界での発熱量を更に高めることができる。
【0020】以下に、本発明の融雪電線を図を参照して具体的に説明する。図1イ、ロは、本発明の融雪電線の態様を示すそれぞれ横断面図と側面図である。Al層1を被覆したインバー線2のインバー撚線3の外周に、断面扇形の特別耐熱アルミ合金線4を3層に撚合わせて架空電線5を構成し、この架空電線5の外周に磁性線6が撚合わされている。磁性線6は架空電線5より突出して巻付けられており、フィン冷却効果が得られる。磁性線6には電食防止の為Zn層7が被覆されている。
【0021】本発明において、補強芯材にインバー線を用いた特別耐熱アルミ合金撚線XTACIRは、補強芯材に鋼線を用いたACSRより、架空電線表面の磁界が高く磁性線の発熱量が大きくなる。またインバー線は鋼線より抵抗発熱が大きく、架空電線自身の発熱量も増大するので、融雪電線の軽量化に有利である。
【0022】
【作用】請求項1記載の発明は、架空電線の外周に磁性線が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、前記磁性線が、10 Oe の磁界下で磁歪が正のとき引張応力が残留し、10 Oe の磁界下で磁歪が負のとき圧縮応力が残留するように巻付けられていることを特徴とする融雪電線である。従って、この発明では、架空電線に巻付けられた磁性線の磁束密度が向上して、磁性線の巻付量を低減できる。前記引張応力又は圧縮応力は、例えば、所定温度に加熱又は冷却した架空電線に室温の磁性線を溶接により固定し、架空電線と磁性線間の熱膨張差を利用して発生させることができる。磁性線は架空電線に巻付け固定されているので、融雪電線を金車を通し架線するときの磁性線のずれが防止される。磁性線は架空電線の外周に螺旋状に巻付けられているので、磁性線によるフィン冷却効果が得られ、最大許容電流(XTACIR-650mm2 の場合で2300A)送電時も架空電線の温度を、磁性線を巻付けない場合の架空電線の温度より低く押さえられる。
【0023】請求項6記載の発明は、架空電線の外周に磁性線が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、前記磁性線がCoを 0〜65wt%、Alを 0〜9 wt%、Siを 0〜7.5 wt%、Vを 0〜4 wt%、Crを 0〜9 wt%、Mnを 0〜2.5 wt%、含有し残部鉄からなり、前記磁性線は、10 Oe 磁界下で13500G以上の磁束密度を有しており、架空電線巻付後も融雪に必要な10 Oe の磁界下で11000G以上の磁束密度が得られる。従って磁性線の巻付量を従来の磁性線の半分以下に低減できる。又この発明では磁性線の表面に10〜120 μm厚さのAl、Al合金、Zn、又はZn合金が被覆されているので、架空電線との間で電食が生じない。請求項6に記載した磁束密度の高い磁性線に請求項1乃至請求項5記載の発明と同じようにして残留応力を付与すると、極めて高い融雪効果が得られる。
【0024】
【実施例】以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)電解鉄(純度99.9wt%)、コバルト(同99.5wt%)、アルミニウム(同99.99wt%)、電解ニッケル(同99.9wt%)、電解クロム(同99wt%)、バナジウム(同99.7wt%%)、シリコン(同99.999wt%)、電解マンガン(同99.9wt%)を原料に使用し、表1及び表2に示す種々組成の合金を真空中で溶製し、これを所定形状の鋳塊に鋳造した。得られた鋳塊を 950℃48時間ソーキング後熱間圧延し、次いで伸線加工して2.6 mmφの線材とした。前記線材を水素雰囲気中で1050℃で3時間焼鈍後炉冷して磁性線とした。
【0025】得られた各々の磁性線について、種々の特性を下記方法により測定した。即ち、飽和磁束密度とキュリー温度は振動試料型磁力計により、10 KOeの磁界強度下で長さ5mmの試料を用いて測定した。磁束密度は、0.65mmφのエナメル線を 327ターン巻付けた励磁コイルの中心に25ターンの磁束検出用コイルを配置し、この検出用コイルの中に 2.6mmφ×1000mmの磁性線材を入れ、直流B−Hカーブトレーサーを用い、10.40 Oe磁界強度下で測定した。巻付後の磁束密度は、磁性線を34.4mmφの丸棒(架空電線の代わり)に巻付けて測定した。このときの張力は引張試験機で付与した。比抵抗は0℃での値を示した。磁歪はレーザー光による磁歪測定装置を用い、長さ50mmの試料について測定した。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2の磁束密度の欄の上段は巻付前の磁束密度、中段は巻付後の磁束密度、下段は引張応力又は圧縮応力をかけたときの磁束密度である。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【0028】表1及び表2より明らかなように、請求項6記載の発明で用いる磁性線(合金No.a〜y)は、低潮流時の 10 Oe磁界下における巻付後の磁束密度がいずれも融雪に必要な 11000G以上であり、磁性線の巻付量を架空電線1m当たり 0.5kg以下にできるものである。これに対し、比較例の磁性線(z〜ah) は、表2より明らかなように、 10 Oe磁界下における巻付後の磁束密度がいずれも 11000G未満である。しかし、磁性線の磁歪の正負に応じてそれぞれ引張応力又は圧縮応力をかけることにより、10 Oe での磁束密度が 11000G以上に向上している。尚、10 Oe での磁歪がゼロのFe−78wt%Ni合金(合金No.ah)は巻付け加工後も磁束密度が低く、磁歪の絶対値が小さい磁性線は巻付後も磁束密度が改善されないことが分かる。
【0029】(実施例2)表1及び表2に示した各種合金の 2.6mmφの磁性線にAl、Al合金、Zn、又はZn合金を被覆した。被覆は電気めっき、浸漬めっき、又はアルミ管の複合加工により行った。厚さ40μm以上のアルミを電気めっきする場合は、めっき途中に表面研磨を入れた。次に、前記Al等を被覆した磁性線をインバー線で補強した特別耐熱アルミ合金撚線XTACIR(650mm2、外径34.3mmφ)に1m当たり 0.5kg又は1kg巻付けた。インバー線の径は、巻付重量に応じて 4.4mmφから 4.9mmφ又は 5.3mmφに太くして、磁性線を巻付けたときの重量増加に耐えられるようにした。
【0030】得られた各々の融雪電線について、塩水噴霧試験による耐食性、91A(電線表面磁界10 Oe)送電時の発熱量、及び最大許容電流(2300A)送電時の温度上昇を測定した。結果を表3及び表4に示す。
【0031】
【表3】


【0032】
【表4】


【0033】表3及び表4より明らかなように、本発明例品(No.1〜31) はいずれも磁性線の巻付量が従来の半分(1m当たり0.5kg)であるにも関わらず、91A送電時の発熱量が、毎時5mmの降雪(降水量換算値)を完全融雪するのに必要な 15.9w/m、又は部分融雪に必要な12.5w/m を超えた。巻付量が従来の半分の為、中心鋼線の太径化による重量増加も1m当たり0.08kgですみ、トータルで0.58kgの重量増である。これは架空電線(例えばXTACIR-650mm2)に対し16%の重量増に過ぎない。従って殆どの線路で鉄塔を建替えずに融雪電線の張替えが行える。又最大許容電流送電時の温度上昇も磁性線を巻付けない No.41の温度(230℃)を下回った。
【0034】これに対し、比較例品の No.32〜37,40,88は発熱量が低く、0.5kg/mに換算すると 4.6〜12w/m の発熱量しかなく、部分融雪に必要な12.5w/m をも下回った。このうちNo.34 (市販軟鋼)の発熱量が、飽和磁束密度が高い割に低かった理由は、不純物が多く透磁率が低下した為である。No.38 は磁性線の被覆厚さが薄く耐食性が低下した。No.39 は磁性線のめっき厚さが厚い為コスト高となって実用性に欠ける。それに同じ磁性線のNo.14 に較べて発熱量がかなり低下した。コバルトを主成分とする磁性線(合金No.ag)を用いたNo.86 と、Fe−78wt%Niパーマロイ合金の磁性線を用いたNo.87 は、磁性線の10 Oe における磁束密度が低く融雪に必要な発熱量が得られなかった。
【0035】(実施例3)実施例2において、架空電線に磁性線を巻付けシーム溶接により固定して融雪電線を製造した。磁性線を巻付け固定するときの架空電線の温度は、各々の磁性線の10 Oe の磁界下における磁歪の正負に応じて、10 Oe の磁界下で30kgf の引張応力又は圧縮応力がそれぞれ残留するように設定した。残留応力の条件は、磁歪の正負と残留応力の引張と圧縮を組合わせた中の4通り(イ、ロ、ハ、ニ)について示した。又10 Oe 磁界下で最大の発熱量が得られる最適残留応力を求めた。残留応力のかけ方は、10 Oe での磁歪が正の磁性線は、磁性線の一端を架空電線に機械的に固定し、磁性線に引張応力をかけながら架空電線に巻付け、磁性線の他端を機械的に架空電線に固定した。10 Oe での磁歪が負の磁性線(合金No.ag)は、加熱した架空電線に磁性線を巻付けシーム溶接して、磁性線に0℃近傍で100kgfの圧縮応力を残留させた。
【0036】得られた各々の融雪電線について、塩水噴霧試験により耐食性を調べた。91A(電線表面磁界10 Oe)送電時の発熱量、及び最大許容電流(2300A)送電時の温度上昇を測定した。残留応力を 30kgf付与した場合と、最適残留応力を付与した場合の結果を表5と表6に示す。
【0037】
【表5】


【0038】
【表6】


【0039】表5及び表6より明らかなように、請求項6記載の磁性線に残留応力を付与したもの(No.42 〜75)は、磁性線の巻付量が従来の半分(1m当たり0.5kg)であるにも関わらず、91A送電時の発熱量が、毎時5mmの降雪(降水量換算値)を完全融雪するのに必要な 15.9w/m、又は部分融雪に必要な12.5w/m を超えた。又最大許容電流送電時の温度上昇も、磁性線を巻付けないNo.41(表4)の温度(230℃)を下回った。実施例2の結果(表3,4)と較べて、 30kgfの残留応力を付与した融雪電線の91A送電時の発熱量はいずれも増加している。これは、磁性線の磁歪の正負に応じて引張応力又は圧縮応力を適正に残留させた為である。これら残留応力の影響は、最大許容電流における温度上昇にも現れた。つまり磁束飽和磁界下で磁歪と逆向きの応力を残留させたもの(ロ)は実施例2の結果に較べて温度上昇が押さえられ、順向きの応力が残留したもの(イ、ハ)は温度が幾分上昇した。又最適残留応力下では発熱量は更に増大した。請求項6記載の磁性線以外の磁性線を用いた融雪電線(No.76 〜85)でも最適残留応力を付与することにより1mあたり 0.5kgの巻付量でも十分な融雪効果が得られた。特にFe−50wt%Niパーマロイ合金磁性線を用いた融雪電線(No.76) では引張応力を残留させることにより2倍程度まで発熱量が増加した。
【0040】以上、アルミ架空電線と磁性線とをシーム溶接又は機械的に固定する場合について説明したが、本発明は、磁性線をろう付けやスポット溶接等の他の方法により固定しても同様の効果が得られる。又本発明は、架空電線が銅電線等の他の電線の場合に適用しても同様の効果が得られる。又実施例2及び実施例3に示した本発明の融雪電線を金車に通したが、いずれも磁性線がずれるようなことがなかった。
【0041】
【効果】以上に述べたように、本発明によれば、低潮流時における磁性線の発熱量が大きい為、その巻付量を低減できて融雪電線が軽量となり架線費用等が節減され、又送電量が多いときに過度に発熱することがなく、従って良好な送電が低コストで長期に渡り可能となる。更に磁性線の表面にAl又はZn等を被覆することにより電食が防止される。依って、工業上顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の融雪電線の実施例を示す横断面図及び側面図である。
【符号の説明】
1──Al被覆層
2──インバー線
3──アルミ被覆インバー線の撚線
4──断面扇形の特別耐熱アルミ合金線
5──架空電線
6──磁性線
7──Zn被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 架空電線の外周に磁性線が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、前記磁性線が、10 Oe の磁界下で磁歪が正のとき引張応力が残留し、10Oe の磁界下で磁歪が負のとき圧縮応力が残留するように巻付けられていることを特徴とする融雪電線。
【請求項2】 10 Oe 以上の磁界下での磁歪が正の磁性線を、室温以下の温度で架空電線に巻付け固定して、10 Oe の磁界下で磁性線に引張応力が残留するようにしたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線。
【請求項3】 10 Oe の磁界下での磁歪が正で、飽和磁歪が負の磁性線を、室温以下の温度で架空電線に巻付け固定して、10 Oe 以上の磁界下で磁性線に引張応力が残留するようにしたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線。
【請求項4】 10 Oe 以上の磁界下での磁歪が負の磁性線を、室温を超えて所定温度に温めた架空電線に巻付け固定して、10 Oe の磁界下で磁性線に圧縮応力が残留し、最大許容電流磁界下で引張応力が残留するようにしたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線。
【請求項5】 10 Oe の磁界下での磁歪が負で、飽和磁歪が正の磁性線を、室温を超えて所定温度に温めた架空電線に巻付け固定して、10 Oe 以上の磁界下で磁性線に圧縮応力が残留するようにした請求項1記載の融雪電線。
【請求項6】 架空電線の外周に磁性線が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、前記磁性線がCoを 0〜65wt%、Alを 0〜9 wt%、Siを 0〜7.5 wt%、Vを 0〜4 wt%、Crを 0〜9 wt%、Mnを 0〜2.5 wt%含有し残部が鉄からなり、前記磁性線の表面に10〜120 μm厚さのAl、Al合金、Zn、又はZn合金層が被覆されていることを特徴とする融雪電線。

【図1】
image rotate