説明

螺旋型貝類飼育板

【課題】
アワビなどの付着性貝類の養殖には(1)養殖水槽内で淀みが生じない(2)フンや残餌が水槽内に留まらない(3)飼育面積が広く取れる(4)収穫が容易に出来る(5)容易に掃除が出来る(6)養殖貝や水質のモニタリングが出来る(7)安価でなるべく既存の設備が利用できる、などの機能が必要である。
【解決手段】
螺旋回転中心部に向かって下りの傾斜を付け、かつ回転中心部から任意の距離を半径とする部分を空洞にした螺旋型の板を任意の水槽に設置することで、貝類の養殖にとって必要な機能や環境をつくりだすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許は、貝類養殖において生産性とメンテナンス性に優れた貝類養殖設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気候変動や沿岸域の造成開発のために磯焼けが進行し、アワビやサザエなどの貝類の漁獲高が激減している。そこで安定した漁獲高を確保するために漁港内や入り江の静穏域で浮き生簀や底着式生簀を用いて養殖しているのが現状である。しかしこの様な方法では、船やウインチなどの重装備が必要とされ、またこれらを運用する労力も必要となる。とりわけ後継者不足が問題となっている漁業分野では労働者が高齢である場合が多くコスト面や労働面で非常に負担がかかる。また、養殖場が海上であるため台風や一時的な水質異常によって養殖している貝に大きな損害を与える危険性が高い。従って海面養殖では、労働力、コストおよび安定供給の面において問題がある。
【0003】
そこで、陸上にタンクを設置して貝類を養殖する方法が盛んに行われだした。例えば特許文献1では養殖の対象となる貝類が実際に生息している環境に近い環境を作り出ししかも単位面積あたりの飼育数量も多くするものである。
【0004】
特許文献2では水槽内を複数の傾斜状の仕切り板で区切り、隣り合う傾斜板の上下交互に通水口を空けることで、水槽内の水が均一に淀むことなく導水口から排水口まで流れるようになっている。また、傾斜版を設置することで貝類の養殖面積も広く確保できるようになっている。
【0005】
一方、特許文献3では底棲生魚類の陸上養殖設備として養殖水槽内に螺旋状の板を設けることで、単位水量当たりの飼育量を増加させ、螺旋状板に沿って水が流れるためにフンや残餌などが一箇所に集めやすく、そして更に収穫時には水を抜くことで一箇所に魚を集めることが出来るものである。
【0006】
この様にいずれの発明においても、単位水量当たりの飼育数量を多くすること、水槽内で水の淀みが出ないようにすること、そしてフンや残餌の除去が容易であることが重要であることがわかる。
【0007】
しかし、いずれの手法も新たにシステム一式を導入する必要があり、既存の設備を利用するわけには行かない。日本国内に存在する養殖業者は零細企業が多く、新たなシステムの導入する余裕が無いのが現状である。
【0008】
また、養殖中の貝の様子や水質モニタリングにまで考慮されたものではない。貝類の養殖、とりわけアワビに関してはその生育特性などが明確になっておらず養殖環境のモニタリングが重要な位置を占める。
【特許文献1】特開2003−125668
【特許文献2】特開2007−159507
【特許文献3】特開2002−233268
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上より、貝類の養殖には、(1)養殖水槽内で淀みが生じないこと、(2)フンや残餌が水槽内に留まらないこと、(3)飼育面積が広く取れること、(4)収穫が容易に出来ること、(5)容易に掃除が出来ること、(6)養殖貝や水質のモニタリングが出来ること、(7)安価でなるべく既存の設備が利用できることなどのスペックが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した必要スペックを満たすために本発明では図1のような螺旋回転中心部に向かって下りの傾斜を付け、かつ回転中心部から任意の距離を半径とする部分を空洞にした螺旋型の板を提案するものである。
【0011】
本発明の螺旋状板は既存でかつ任意のタンクに吊るすもしくは設置して使用するものである。従って、螺旋状板の直径は使用するタンクの内径より少し小さめとし、高さも使用するタンクに合わせる必要がある。従って本発明の螺旋状板を利用すると背の高いタンクでもタンク内の空間を効率よく利用してより大量の貝類養殖することが出来る。螺旋状板の上下の間隔は掃除などのメンテナンスの事情を考慮すると10〜20cmが望ましい。また回転中心部に設けた空洞は計測機器を投下したり、貝の死体がタンク下部に落下しやすいように設けたものであり、直径は10〜30cm程度が望ましい。更に螺旋回転中心に向う下りの傾斜角度も貝の死体などの不用な固形物がタンク中心部に落下するために設けたもので、必要により0度から45度が望ましい。最後に螺旋の回転方向は北半球では右回り、南半球では左回りとすることが望ましい。材質はFRPが望ましいが特に問わない。
【0012】
上述した様な螺旋状板を所望のタンクに設置し、タンク上部に導水口そして下部に排水口を設けて通水することで、流入した水がタンク上部から螺旋状板を伝って回転しながらタンク下部へ均一に流すことが出来るため、水の交換効率が良く淀みのない環境を作ることが出来る。従ってフンや残餌などの浮遊性のゴミも水流に乗って系外へ効率よく排出される。
【0013】
また、本発明の螺旋状板はタンクに吊るすもしくは設置するものであり本水槽からの着脱は簡単に可能である。従って滑車やウインチを用いて螺旋状板を持ち上げて移動できるため、作業員が無理な体勢をすることなく貝類の収穫が可能となる。またタンクの清掃やメンテナンスを行う場合、あらかじめ用意しておいた予備タンクに貝類が付着した螺旋状板ごと移し変えることが出来るため、貝類にストレスを与えることなく余裕を持ってメンテナンス作業を行うことが出来る。
【発明の効果】
【0014】
上述した特徴より、本発明の螺旋状板を使用することでタンク内に渦巻状の水流を発生させるため、水の淀みが生じにくく、養殖水の交換率を向上できる。また渦巻状の水流によって浮遊性のゴミなども効率よく系外に排出できる。一方、螺旋中心方向に付けた傾斜によって貝類の死体などの大型のゴミは螺旋中央に設けた空洞から転げ落ちて一箇所に集めることが可能となる。最後に、螺旋中心に設けた空洞は水質モニタリング装置や飼育貝類の状態を見るための水中カメラなどの計器類を投入したり、給餌作業にも有効に利用できる。また、飼育タンクから容易に着脱できるため、本発明の螺旋状板を吊るし上げることで容易に収穫作業や、メンテナンスが出来るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の螺旋上板の形状は、タンク内に一定の渦巻状の水流が生じることで淀みを無くし、水流に乗って浮遊性のゴミが効率よく系外に排出され、螺旋中心部に設けた空洞部へ計測機器などが投入でき、そして本発明の螺旋状板を吊るし上げることで収穫やメンテナンスが容易に行える条件を備えていれば大きさは問わない。従って研究のための小規模な飼育実験から大量生産用の大規模な設備まで対応可能である。
【0016】
ただし、螺旋の直径と螺旋中心部の空洞の直径の比が4対1になる程度が好ましい。また、螺旋の巻数も5段以上設けるのが好ましい。更に螺旋中心部に向かう下りの傾斜も30度前後が好ましい。
【0017】
飼育している貝が螺旋状板から外れて本水槽に付着してしまうと、螺旋状板を吊るし上げる時に貝に引っかかり本板を着脱できなくなるため、螺旋状板をネットなどで覆ってその中で貝を飼育することが好ましい。
【0018】
また、螺旋状板の最下部にネットなどを設置して、下に溜まったゴミなどを、螺旋中央に設けた空洞を通じて回収できるようにする方が好ましい。
【実施例】
【0019】
図1に示した直径40cm、高さ60cmの水槽に、直径35cm、高さ50cm、螺旋中心に設けた空洞の直径10センチ、螺旋中心部への下りの傾斜30度の螺旋状板を設置して通水実験を行った。通水量は毎分10リットルとした。また約3mmから約10mmのスポンジ片を浮遊性のゴミに見立て、更に貝類の死体はアワビ稚貝の死体を用いた。
【0020】
水槽に本発明の螺旋板を設置し水を満たせた状態で通水実験を開始した。そこに水槽上部からスポンジ片を投入したところ、それぞれのスポンジ片は螺旋に沿って流下した。またアワビ稚貝を螺旋板の任意の場所に放置すると、中心方向に向けて付けた傾斜に沿って直ちに中央空洞部へ落下した。
【0021】
一方、本実施例で使用した水槽に本発明の螺旋板を設置せずに通水実験を行ったところ。スポンジ片はいつまでも水槽上部に浮遊したままであった。
【0022】
従って、所望の水槽に適した形状の本発明の螺旋板を設置し、通水することで浮遊性のゴミを水槽下部に集めることが可能であること、またアワビの死体などの沈降性のゴミも螺旋板に付けた傾斜に沿って落下し水槽下部の一箇所に集められたことから、本発明である螺旋板を用いることで効率よくゴミなどを系外へ排出することが可能であることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の螺旋状板を使用してアワビなどの付着性貝類を飼育すると、(1)養殖水槽内で淀みが生じない(2)フンや残餌が水槽内に留まらない(3)飼育面積が広く取れる(4)収穫が容易に出来る(5)容易に掃除が出来る(6)養殖貝や水質のモニタリングが出来る(7)安価でなるべく既存の設備が利用できる、などの効果が得られる。これらの効果はコスト面や労働力面で問題を抱えている漁業者にとって有効であり、次世代型養殖設備の一端を担えることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の螺旋型板の平面図である。
【図2】本発明の螺旋型板の側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 螺旋型板本体
2 螺旋板中央部に設けた空洞部
3 支柱
4 吊り下げ用フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の水槽に設置もしくは吊るすことが出来る螺旋状の板であって、回転中心部に向かって下りの傾斜を付け、かつ回転中心部から任意の距離を半径とする部分を空洞にした貝類飼育板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−62134(P2011−62134A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215618(P2009−215618)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(597083172)有限会社こうすい (9)
【出願人】(301046499)
【Fターム(参考)】