説明

血中アンモニア濃度を低下させる飲食物および医薬組成物

【課題】有効で、しかも副作用が少なく安全な血中アンモニア濃度低下剤を提供する。
【解決手段】コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物および医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中アンモニア濃度低下剤に関する。詳細には、本発明は、コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
体内のアンモニアは蛋白の代謝過程で生じ、尿素経路のほか、グルタミン酸、グルタミン、クレアチンの生成などの経路により代謝され、無毒化されている。しかし、アンモニア代謝能が低下すると高アンモニア血症となり、神経症状が引き起こされ、いわゆる肝性脳症が発症する。このほか、アンモニア代謝能低下により、知能発達不全や肝機能障害などが生じる。現在、高アンモニア血症の治療としては、アルギニンの経口投与、ラクツロースの経口投与、安息香酸ナトリウムの注射などが行われている。しかしながら、アルギニンの投与は肝臓におけるオルニチン回路の活性化であり、肝臓障害患者では効果は不完全である。ラクツロースは腸内細菌におけるアンモニア産生能を抑制する物質であり、体内におけるアンモニアの代謝を促進するものではない。安息香酸ナトリウムは肝機能の改善腸管内の細菌増殖抑制を目的としたもので、直接的なアンモニア代謝促進ではない。
【0003】
一方、コラーゲンペプチドは健康食品として美肌効果(非特許文献1参照)を目的として売り出され、その後、変形性関節症にも効果がある(非特許文献2参照)ことが証明されて商品価値を高めている。これらの効果は体内におけるプロテオグリカン合成促進効果として、一般の食品には極めて乏しいプロリン、ヒドロキシプロリンの供給効果から説明されている。しかし、コラーゲンペプチドが血中アンモニア濃度を低下させることは知られていなかった。
【非特許文献1】菊池数晃、又平芳春:「ヒトの乾燥肌および肌荒れに対する海洋性コラーゲンペプチド含有飲料の有用性」 FRAGRANCE JOURNAL 31, 97-102 (2003)
【非特許文献2】Hashida, M., Miyatake, K., Okamoto, Y., FUJITA, K., MATUMOTO, T., MORIMATSU, F., SAKAMOTO, K, and MINAMI, S. Synergistic effects of D-glucosamine and collagen peptides on healing experimental cartilage injury. Macromol. Biosci., 3: 596-603, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安全で、しかも効果的な血中アンモニア濃度低下作用を有する物質を見出して、高アンモニア血症の治療に用いることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、コラーゲンペプチドが血中アンモニア濃度低下作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
したがって、本発明は:
(1)コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物または経口投与用医薬組成物;
(2)コラーゲンペプチドの数平均分子量が500〜2000である、(1)記載の飲食物または経口投与用医薬組成物;
(3)コラーゲンペプチドの数平均分子量が600〜1600である、(2)記載の飲食物または経口投与用医薬組成物;
(4)コラーゲンペプチドの数平均分子量が700〜1200である、(3)記載の飲食物または経口投与用医薬組成物;
(5)コラーゲンペプチドが蛋白分解酵素による加水分解により得られるものである、(1)ないし(4)のいずれかに記載の飲食物または経口投与用医薬組成物;
(6)コラーゲンペプチドが魚ウロコ由来である、(1)ないし(5)のいずれかに記載の飲食物または経口投与用医薬組成物;
(7)コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させるヒト以外の動物用飼料またはヒト以外の動物用医薬組成物;
(8)コラーゲンペプチドを配合することを特徴とする、(1)ないし(6)記載の飲食物または経口投与用医薬組成物あるいは(7)記載のヒト以外の動物用飼料またはヒト以外の動物用医薬組成物の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コラーゲンペプチドを用いることにより、安全に、しかも効果的に血中アンモニア濃度を低下させることができる。したがって、コラーゲンペプチドを含有する有効な高アンモニア血症の治療剤、ならびに高アンモニア血症を伴う肝機能障害の補助治療剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、1の態様において、コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物を提供する。コラーゲンは動物界に広く分布し、特に骨や結合組織および真皮などを構成する蛋白である。本発明においては、コラーゲンペプチド(後で詳述)を有効成分として使用する。本発明に使用するコラーゲンペプチドの数平均分子量は約500〜約2000、好ましくは約600〜約1600、さらに好ましくは約700〜約1200であり、例えば、約700〜約900、約800〜約1000、約900〜約1100、約1000〜約1200である。また、本発明に使用するコラーゲンペプチドの重量平均分子量は約1500〜約3000、好ましくは約1700〜約2700、さらに好ましくは約1900〜約2400、例えば、約1900〜約2100、約2000〜約2200,約2100〜約2300、約2200〜約2400である。コラーゲンペプチドの数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル濾過や高速液体クロマトグラフィーなどの当業者に公知の手段および公知の方法を用いて、容易に決定することができる。
【0009】
本明細書の用語「コラーゲンペプチド」とは、以下に説明するような方法にてコラーゲンを加水分解して得られるペプチド混合物をいう。さらに「コラーゲンペプチド」なる用語は、コラーゲンを加水分解して得られるペプチド混合物中の個々のペプチドを指すこともある。
【0010】
本発明のコラーゲンペプチドの原料となるコラーゲンはいずれの生物に由来するものであってもよく、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジなどの陸生動物や鳥類の骨、結合組織、真皮などに由来するものであってもよく、あるいは魚類などの水棲動物の骨、結合組織、ヒレ、ウロコなどに由来するものであってもよい。本発明の好ましいコラーゲンペプチドの原料たるコラーゲンは魚類のウロコに由来するものである。好ましい魚類はタイ、テラピアなどである。これらの生物からのコラーゲンの抽出も、熱水抽出、高圧抽出などの公知方法により行うことができる。必要な場合には、抽出したコラーゲンを精製してもよい。コラーゲンの精製方法としては公知の蛋白精製方法を適用することができ、硫安沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0011】
本発明のコラーゲンペプチドを調製する方法は当業者に公知のものであってよく、一般的な蛋白の加水分解法をコラーゲンに適用することができる。蛋白の加水分解法としては酵素を用いる方法、酸やアルカリによる加水分解などが挙げられる。なかでも蛋白分解酵素による加水分解が好ましい。蛋白分解酵素は植物、動物、微生物起源等の様々なものが公知であり、パパイン、ブロメライン、アクチニジン、コラゲナーゼ、トリプシン、ペプシンなどが例示されるが、これらに限らない。多種多様な加水分解酵素が市販されているので、これらを用いてもよい。上記の加水分解法における諸条件、例えば酵素の種類、酵素量、酸やアルカリの濃度、共存するバッファーの種類、反応温度、反応のpH、反応時間などを適宜選択することによって、所望の分子量(例えば、数平均分子量、重量平均分子量)ならびに所望の有効性を有するコラーゲンペプチドを得ることができる。また、コラーゲン加水分解物中からペプチドを単離し、そのアミノ酸配列を決定すれば、化学合成や遺伝子工学的手法によっても本発明のコラーゲンペプチドを製造することができる。
【0012】
上述のように、血中アンモニア濃度が上昇すると神経症状が引き起こされ、いわゆる肝性脳症が発症するばかりでなく、知能発達不全や肝機能障害などが生じる。このような症状を治療または改善するためにコラーゲンペプチドの血中アンモニア濃度低下作用を利用することができる。
【0013】
本発明の飲食物は、公知の方法によりコラーゲンペプチドをそのまま用いてもよく、あるいは飲食可能な液体(ジュース、ドリンクなど)、半固体(ペーストなど)、固体(例えば顆粒、粉末(凍結乾燥粉末など))などの形態にすることにより製造することができる。また、コラーゲンペプチドを飲食物に添加することによっても、本発明の飲食物を製造することができる。さらに、本発明の飲食物はふりかけや調味料などの形態であってもよい。本発明の飲食物は、健康食品、栄養機能食品、あるいは特定保健用食品(いわゆる「トクホ」を含む)などにすることができる。
【0014】
本発明の飲食物の好ましい形態として、コラーゲンペプチドを含有するサプリメントが挙げられる。サプリメントの形状は、経口摂取可能な形状であればいずれの形状であってもよく、例えば、一般の食品の形状であってもよく、錠剤、カプセル剤、顆粒、粉末(例えば凍結乾燥粉末等)、懸濁液、ドリンク剤、エリキシル、チュアブル形態、ゼリー状などの形状であってもよい。これらのサプリメントは、食品分野や製薬分野で用いられているプロセスに準じて製造することができる。例えば、錠剤形状のサプリメントを製造する場合には、製薬分野で用いられている混合、乾燥、打錠等の一般的なプロセスを用いることができる。また例えば、カプセル剤の形状の場合には、混合、カプセル封入等の一般的なプロセスを用いることができる。ソフトカプセル、ハードカプセルも目的に応じて適宜選択することができる。液体のサプリメントを製造するにはエタノール等の毒性の低い媒体に抽出物を溶解ないし懸濁することができる。粉末や顆粒のサプリメントを製造するには、やはり通常の混合、乾燥、粉砕、ふるい分けなどのプロセスを用いることができる。サプリメントの製造に担体や賦形剤を用いる場合には、その種類や量は製薬分野の慣習に準じて選択することができる。固体の担体または賦形剤としては、例えばタルク、セルロース粉末、砂糖、デンプン、小麦粉などがある。液体の担体としては、例えば水、エタノール、グリセリン、食用油脂などがある。これらの担体や賦形剤とコラーゲンペプチドとの混合も公知の方法により行うことができる。
【0015】
本発明は、もう1つの態様において、コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させるための経口投与用医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物中の有効成分は、上述のコラーゲンペプチドである。本発明の医薬組成物において、コラーゲンペプチドのほかに、例えばアルギニンの経口投与、ラクツロース、安息香酸ナトリウムなどのアンモニア血症治療薬を1種またはそれ以上含んでいてもよい。
【0016】
本発明の医薬組成物を種々の経口剤形に処方することができる。経口剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒、粉末、ドリンク剤などがある。これらの剤形は、例えばサプリメントのところで説明したような製薬分野において公知の方法により製造することができる。
【0017】
本発明の飲食物あるいは医薬組成物中のコラーゲンペプチドの1日の摂取量または投与量は、成人(体重70kg)の場合1日あたり約5g〜約10g程度を摂取するのが一般的であり、約6g〜約8g程度を摂取するのが適当である。これらの量は、対象の症状の重さ、対象の体重や健康状態、食事の量や種類、受けている高アンモニア血症の治療の種類や程度などにより適宜変更されうる。
【0018】
そのうえ、本発明のコラーゲンペプチドを含む飲食物および医薬組成物の有効成分はコラーゲンペプチドであるので安全性や副作用の問題がなく、しかも、血中アンモニア濃度の低下のみならず対象の健康状態を総体的に改善する効果も期待できる。例えば、本発明の飲食物および医薬組成物により、肝機能の改善、関節炎の軽減などの副次的効果が期待できる。
【0019】
本発明のコラーゲンペプチドを含む飲食物および医薬組成物は、公知の高アンモニア血症の治療方法または薬剤、例えば、アルギニンの経口投与、ラクツロースの経口投与、安息香酸ナトリウムの注射などと併用、あるいはそれらの補助飲食物または補助治療薬として用いることもできる。
【0020】
本発明は、さらなる態様において、コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる動物用飼料を提供する。本発明の飼料を動物(ヒトを除く)に摂取させて動物の血中アンモニア濃度を低下させることにより、高アンモニア血症やそれに伴う肝機能障害を治療または改善することができる。
【0021】
本発明は、さらなる態様において、コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる動物用の経口投与用医薬組成物を提供する。本発明の動物用の経口投与用医薬組成物を動物(ヒトを除く)に摂取させて動物の血中アンモニア濃度を低下させることにより、高アンモニア血症やそれに伴う肝機能障害を治療または改善することができる。これらの動物用飼料および動物用の経口投与用医薬組成物は、他の高アンモニア血症の治療および治療薬と併用して用いることができる。
【0022】
本発明の動物用飼料または動物用の経口投与用医薬組成物中のコラーゲンペプチドの摂取量または投与量は、動物の種類、動物の体重、年齢、健康状態、受けている治療などの要因により変更されうる。そのような摂取量または投与量は当業者が容易に適宜決定することができる。
【0023】
本発明は、さらなる態様において、コラーゲンペプチドを対象に投与することを特徴とする、高アンモニア血症の治療方法を提供する。この治療において、他の高アンモニア血症の治療および治療薬を併用してもよい。
【0024】
さらに本発明は、別の態様において、高アンモニア血症の治療のための医薬の製造におけるコラーゲンペプチドの使用、ならびに高アンモニア血症の治療のためのコラーゲンペプチドの使用も提供する。この使用において、他の高アンモニア血症の治療薬を併用してもよい。
【0025】
さらに本発明は、コラーゲンペプチドを配合することを特徴とする、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物、医薬組成物、動物用飼料(ヒト用でない)または動物用医薬(ヒト用でない)の製造方法も提供する。
【0026】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、本発明は実施例に記載されたものに限定されない。
【実施例1】
【0027】
実施例1:コラーゲンペプチドの製造(1)
テラピアのウロコ(100kg)に水約300lと塩酸(35%)30kgを加えて撹拌し3時間反応後、ウロコを水洗し、水約500lとpH調整のため水酸化ナトリウムを加え、さらに水洗し脱灰ウロコを得た。脱灰ウロコに約300lの水を加え、2時間30分煮沸し、温度を60℃まで落とし、パパイン(精製パパインF アサヒフード アンド ヘルスケア製)120gを加え、1時間40分反応後失活させた。このようにして得られた溶液を加圧容器に入れ、120℃で4時間処理をした。処理後、温度を80℃まで落とし、メンブランフィルターで濾過しコラーゲンペプチドを得た。
【0028】
高速液体クロマトグラフィーを用いてコラーゲンペプチドの分子量を測定した。カラムはAsahipak GS−520HQ+GS320HQ+GS220HQ、溶離液は10mM Tris−HCl,0.15M NaCl,5mM CaCl、検出器は屈折率検出器、カラム温度は40℃であった。標準試料として分子量既知のプルランを用いた。コラーゲンペプチドの分子量の測定結果を図1に示す。数平均分子量(Mn)800、重量平均分子量(Mw)2200であった。
【実施例2】
【0029】
実施例2:コラーゲンペプチドの製造(2)
テラピアのウロコ(100kg)に水約300lと塩酸(35%)30kgを加えて撹拌し3時間反応後、ウロコを水洗し、水約500lとpH調整のため水酸化ナトリウムを加え、さらに水洗し脱灰ウロコを得た。脱灰ウロコに約300lの水を加え、2時間30分煮沸し、温度を60℃まで落とし、パパイン60gとアマノ プロテアーゼM 10gを加え、1時間40分反応後失活させた。また、得られた溶液の残渣(ウロコ)に300lの水を加え、3時間煮沸し、温度を60℃まで落とし、パパイン(精製パパインF アサヒフード アンド ヘルスケア製)60gとアマノ プロテアーゼM 10gを加え、1時間40分反応後失活させ、最初に得られた溶液と混合し、温度を80℃に調整後メンブランフィルターで濾過しコラーゲンペプチドを得た。この製造法により、苦味の少ないコラーゲンペプチドが得られた。
【実施例3】
【0030】
実施例3:コラーゲンペプチドのウサギへの経口投与による血中アミノ酸の変化
ウサギ(日本白色種、メス、体重2kg、12週齢 3匹)に、実施例1で得られたコラーゲンペプチド(1g/匹)を経口投与し、投与前、投与2時間後および投与24時間後に採血し、血中アミノ酸濃度を測定した。アミノ酸の定性および定量はアミノ酸分析装置(JLC−500/V2 全自動アミノ酸分析機(日本電子株式会社製))を用いて行った。コラーゲンペプチド投与後に血中濃度が上昇したアミノ酸を図2および図3に示す。血中グルタミン濃度は投与2時間で投与前の2倍、24時間で2.2倍に上昇した。血中アスパラギン酸濃度は投与2時間で25%、24時間で50%上昇した。血中アルギニン濃度は投与2時間で25%、24時間で50%上昇し、血中シトルリン濃度は投与2時間で25%上昇し、24時間では投与前の値に復した。血中アスパラギン濃度は投与2時間で15倍、24時間で28倍に上昇した。一方、グルタミン酸は投与2時間で投与前の20%に減少し、24時間では投与前の20%以下に減少した(グラフ示さず)。血中アラニンおよびβ−アラニン濃度は投与2時間で投与前値の約30%まで減少し、24時間でもそれらの値を維持した(グラフ示さず)。他にコラーゲンペプチド投与後に血中濃度が減少したアミノ酸はスレオニン、セリン、グリシン、バリン、メチオニン、シスタチオニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、1M−ヒスチジン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン、ヒドロキシプロリン、プロリン、チロシンおよびタウリンであった(グラフ示さす)。これらのうち、タウリンの血中濃度の減少はアラニンおよびβ−アラニンと同程度であったが、他のアミノ酸の血中濃度はアラニンおよびβ−アラニンよりも減少しなかった。
【0031】
アルギニンとシトルリンはアンモニア代謝に関連するオルニチン回路の基本物質であり、これらの物質の血中濃度の増加により生体内でのオルニチン回路が活性化され、特に肝臓における尿素代謝が活性化されると考えられる。また、グルタミンはグルタミン酸と尿素から合成されるので、グルタミンの増加は尿素代謝の亢進を意味すると考えられる。さらに、グルタミン酸とアスパラギン酸は血中アンモニアと結合して、それぞれグルタミンとアスパラギンとなり、アンモニアの毒性を中和する。以上のことから、コラーゲンペプチドの経口投与により、体内のアンモニア代謝が促進され、血中アンモニア濃度が低下すると考えられる。
【0032】
またグルタミンは肝細胞の保護作用を発揮し、アスパラギンはオキザロ酢酸の生成を促進し、肝臓におけるクエン酸回路を促進する。アラニンは酢酸回路における糖合成に重要な役割を果たしている。β−アラニンは筋肉に多く含有されている。アラニンとβ−アラニンの血中濃度の低下はこれらの物質が肝臓および筋肉に取り込まれたことを示唆する。これらのことから、コラーゲンペプチドの経口投与により、肝臓や筋肉の保護効果が期待され、全身的な効果も期待できる。
【0033】
コラーゲンペプチドに多く含まれるアミノ酸はグリシン(33.6%)、アラニン(12.6%)、プロリン(11%)であるが、意外なことにこれらのアミノ酸血中濃度はコラーゲンペプチド経口投与後2時間で減少した。これに対し、コラーゲンペプチドの経口投与により血中濃度が増加したアミノ酸はグルタミン、シトルリン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギンであった。これらのアミノ酸の血中濃度の増加は、コラーゲンペプチド経口投与による生体活性効果と考えられる。しかもこれらのアミノ酸はすべて体内のアンモニア代謝に直接関連するものであり、コラーゲンペプチドの単独投与が生体内でアンモニア代謝を促進させることが強く示唆された。これらの点をふまえて以下の実験を行った。
【実施例4】
【0034】
実施例4:先天的門脈体循環短絡症のイヌ(PSS犬)に対するコラーゲンペプチドの血中アンモニア低減効果
PSSは腸管から吸収されたアミノ酸が肝臓をバイパスするために代謝異常をもたらし、特に高アンモニア血症が神経症状を引き起こし、いわゆる肝性脳症を引き起こす。この実験ではPSS犬(ビーグル、メス、5.5kg、8ヶ月齢)に実施例1で得られたコラーゲンペプチドを与えた。
【0035】
実験手順
PSS犬に通常食(カインズドッグミール、(株)カインズ、粗蛋白量21.0%以上)を1ヶ月間にわたり与え、期間中不定期に採血した。その後低蛋白食(肝臓サポート、ウオルサム、粗蛋白量14.0%以上)を半年間にわたり与え、期間中不定期に採血した。次に、低蛋白食にコラーゲンペプチド(1g/1食)を混合して2週間にわたり与え、期間中1週間に3回採血した。いずれの食事も1日1回与えた。採血はいずれも空腹時に行った。採血試料中のアンモニア濃度をBPB指示薬法(富士ドライケミストリーシステム3500i)により測定した。
【0036】
実験結果
図4からわかるように、血中アンモニア濃度はそれぞれ、通常食投与時290±30μg/ml、低蛋白食投与時220±5μg/ml、低蛋白食にコラーゲンペプチドを混合した食事の投与時135±20μg/mlであり、コラーゲンペプチドを投与することにより有意な血中アンモニア濃度低下効果が示された。しかもその効果は、投与期間中は持続し、1回の投与で24時間は効果があった。また、コラーゲンペプチド混合食を与えている期間中、イヌにおける副作用は見られなかった。
【0037】
実施例2および3の結果からわかるように、コラーゲンペプチドは血中アンモニア濃度を低下させ、高アンモニア血症の治療および改善に有効であることがわかった。また、コラーゲンペプチドは他の高アンモニア血症治療薬やそのための食事療法と併用しても血中アンモニア濃度低下効果が発揮されることがわかった。しかもコラーゲンペプチドは動物に対する副作用が確認されなかった。また、コラーゲンペプチドは高アンモニア血症を伴う肝機能障害の治療および改善にも有効であることも示唆され、例えば、高アンモニア血症を伴う肝機能障害に有効な補助治療薬として使用可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は食品や動物飼料、特に健康食品の分野において利用可能である。さらに本発明はヒトや動物の医薬品の分野においても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られたコラーゲンペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量測定結果を示す。横軸は数平均分子量、縦軸は屈折強度である。
【図2】コラーゲンペプチド経口投与後に血中濃度が増加したアミノ酸の、投与前(pre)、投与2時間後(2hr)および投与24時間後(24hr)の経時変化を示す。横軸は時間(時間)、縦軸は投与前の血中濃度(100とする)に対する各時間での血中濃度である。
【図3】コラーゲンペプチド経口投与後に血中濃度が増加したアミノ酸の、投与前(pre)、投与2時間後(2hr)および投与24時間後(24hr)の経時変化を示す。横軸は時間(時間)、縦軸は投与前の血中濃度(100とする)に対する各時間での血中濃度である。
【図4】PSS犬に通常食、低蛋白食(肝サポと表示)および低蛋白食にコラーゲンペプチドを混合した食事(肝サポ−SCCPと表示)を与えた場合の空腹時血中アンモニア濃度を示す(各採血試料の平均値と標準偏差)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させる飲食物または経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
コラーゲンペプチドの数平均分子量が500〜2000である、請求項1記載の飲食物または経口投与用医薬組成物。
【請求項3】
コラーゲンペプチドの数平均分子量が600〜1600である、請求項2記載の飲食物または経口投与用医薬組成物。
【請求項4】
コラーゲンペプチドの数平均分子量が700〜1200である、請求項3記載の飲食物または経口投与用医薬組成物。
【請求項5】
コラーゲンペプチドが蛋白分解酵素による加水分解により得られるものである、請求項1ないし4のいずれか1項記載の飲食物または経口投与用医薬組成物。
【請求項6】
コラーゲンペプチドが魚ウロコ由来である、請求項1ないし5のいずれか1項記載の飲食物または経口投与用医薬組成物。
【請求項7】
コラーゲンペプチドを含有する、血中アンモニア濃度を低下させるヒト以外の動物用飼料またはヒト以外の動物用医薬組成物。
【請求項8】
コラーゲンペプチドを配合することを特徴とする、請求項1ないし6記載の飲食物または経口投与用医薬組成物あるいは請求項7記載のヒト以外の動物用飼料またはヒト以外の動物用医薬組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−149541(P2009−149541A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327481(P2007−327481)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省都市エリア産学官連携促進事業「染色体工学技術等による生活習慣病予防食品評価システムの構築と食品等の開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(302052127)有限会社カンダ技工 (6)
【Fターム(参考)】