説明

血小板による血管壁障害の作成方法

【課題】動脈硬化や再狭窄等の病巣における血小板の凝集を再現した細胞培養系を提供すること。
【解決手段】血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞又はその細胞成分の存在下において培養することを含む、凝集した血小板を含む細胞培養系を作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養系に関するものである。より具体的には、本発明は、培養器内でインサートセルなどを用い、血小板、及び血管壁障害部位の構成細胞(例えば、血管内皮細胞など)を同時に培養することによって凝集した血小板を含む細胞培養系を作製する方法に関する。さらに本発明は、上記した細胞培養系を用いて血管壁障害に対する薬剤の有用性を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管壁に障害が発生し、皮下組織に血小板が接触すると、コラーゲンなどの皮下組織成分への粘着が起こり、血小板が多数凝集する反応が生じ、様々なメディエーターが放出される。コラーゲンと血小板の作用は、ずり応力により影響され、low shear rate では血小板膜タンパクGPIa/IIaと、high shear rateではvon Willebrand因子(vWF)を介してGPIb/IXとの結合が中心となる。巨核球で産生されたvWFは、血小板顆粒中に貯蔵され、血小板活性化により放出される。分泌されたvWFは、血管内皮下組織に細胞外マトリックスと結合して存在する。皮下組織に接触するとvWFは立体構造が変化し、血小板と結合できるようになる。動脈硬化巣には上記血管壁の障害があわせて引き起こされている。血小板の凝集部位に薬剤を集積させれば、動脈硬化巣の治療・診断に有効であると考えられる。
【0003】
現代社会、特に先進国社会においては、高カロリー・高脂肪の食事を取る機会が増大している。そのために、動脈硬化症が原因となる虚血性疾患(心筋梗塞・狭心症等の心疾患、脳梗塞・脳出血等の脳血管疾患)の死亡者が増加しており、この症状を初期の段階で診断し適切な治療を行なうことが求められている。しかし、上記疾患が発症する以前に動脈硬化の進行を初期の段階で診断する満足できる方法は存在しない。
【0004】
動脈硬化症の診断方法としては、非侵襲的な方法と、動脈にカテーテル等を挿入する侵襲的な方法に大別される。このうち非侵襲的方法の主なものはX線血管造影と超音波であるが、初期の動脈硬化、特に心筋梗塞や狭心症の原因となる冠状動脈の狭窄を初期の段階で発症前に検出することはほとんど不可能である。
【0005】
非侵襲的な方法としては他にCT、MRIなども用いられていることがあるが、これらは主として腫瘍の発見のために開発された方法であり、動脈硬化病巣の解像度に問題がある。また、上記方法には高価で大がかりな装置を必要とするため、実施できる病院数も限られ、一般には利用されていない。またラジオアイソトープを用いる方法も検討されているが、実験の枠を出ていない。
【0006】
一方、侵襲的な方法としては、血管内エコー、血管内視鏡等が用いられている。これらの方法によると動脈硬化の病巣を0.1mmの厚さまで測定することが可能と言われている。しかし、これらの方法は、カテーテルの先に装着した超音波発振器、内視鏡を動脈内に挿入する必要がある。これは患者に大きな肉体的精神的な負担を強いると共に、危険も伴う。従って、心筋梗塞等の発作をおこした患者の治療や二次予防のために実施されてはいるものの、発症以前の人に動脈硬化の有無もしくは進行を診断する目的には使用できない。
【0007】
これらのうち、動脈の狭窄部位の特定に最も広くもちいられているのはX線血管造影である。これは、水溶性のヨード造影剤を投与することにより血液の流れを造影し、その流れが滞っている箇所をみつける方法である。しかし、この方法では、通常狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することは困難である。
【0008】
これとは別に、疎水性ヨード造影剤もしくは親水性造影剤を製剤化し、目的とする疾患部位に選択的に集積させる試みが報告されている。例えば、非特許文献1では、疎水性化合物であるCholesteryl Iopanoateの油滴分散液を注射することにより、該ヨード化合物が実験動物の動脈硬化部位に集積することが知られている。また非特許文献2では、Cholesteryl Iopanoateの油滴分散液を注射することにより肝臓や脾臓のX線造影の例が報告されている。また、特許文献1には、diatrizoic acid のエステル体をリポソームに封入し、肝臓や脾臓の選択的造影を行う方法が報告されている。また、特許文献2及び3には、血管プールやリンパ系をイメージ化するための造影剤が開示されている。しかし、これらの製剤方法は、血管疾患を選択的に造影する目的のためには、効率および選択性ともに十分でなく、X線照射により血管疾患を画像化した例も報告されていない。
【0009】
近年、動脈疾患の発症機構について遺伝子、タンパク質、細胞の各レベルで解明が進んできた(非特許文献3及び4)。動脈硬化に関して言えば、複数の細胞が互いの増殖を調節しながら病巣を形成することが明らかにされてきた(非特許文献5及び6)。こうした複数の細胞が関与する病巣の状態を細胞培養器内で再現した例はなく、動脈硬化や再狭窄の薬剤の評価はこれまで主としてモデル動物を通して行なわれてきた。
【0010】
しかし、こうした動物を用いる方法はいずれも時間、コストがかかり、さらに動物愛護の観点からも必要最小限にすることが求められている。従って、多数の化合物を短時間でスクリーニングするために、動脈硬化病巣特有の状態を再現したin vitro評価法が待ち望まれていた。
【0011】
【非特許文献1】Pharm. Res. 16(3) 420 (1999)
【非特許文献2】J. Pharm.Sci. 72(8) 898 (1983)
【非特許文献3】J. Biol Chem. 1996 271(44):27346-52
【非特許文献4】Nature 1997 386(6622):292-6
【非特許文献5】Arterioscler Thromb Vasc Biol 1999(3):461-71
【非特許文献6】Lab Invest 1998 78(4) 423-34
【特許文献1】米国特許4,567,034号公報
【特許文献2】国際公開WO96/28414号公報
【特許文献3】国際公開WO 96/00089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、動脈硬化や再狭窄等の病巣における血小板の凝集を再現した細胞培養系を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、この細胞培養系を用いることにより、血管疾患に対する薬剤の評価法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、血小板を血管内皮細胞などの血管壁障害を構成する細胞の存在下において培養することによって、凝集した血小板を含む細胞培養系を作製することに成功し、血管内壁の障害モデルを再現できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0014】
即ち、本発明によれば、血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞又はその細胞成分の存在下において培養することを含む、凝集した血小板を含む細胞培養系を作製する方法が提供される。
【0015】
好ましくは、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞は、生体から分離した初代培養細胞である。
好ましくは、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞は、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、及びマクロファージからなる群より選ばれる。
さらに好ましくは、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞は血管内皮細胞である。
【0016】
好ましくは、インサートセルを用いて、血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞又はその細胞成分の存在下において培養する。
好ましくは、本発明の方法は、培地にPAF(血小板活性化因子)を添加して血小板を活性化させることを含む。
【0017】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の方法で作製した細胞培養系を用いて、血管壁の障害を培養容器内で再現することを特徴とする、血管壁の障害モデルの作製方法が提供される。
【0018】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の方法により得られる、凝集した血小板を含む細胞培養系が提供される。
【0019】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の方法により得られる凝集した血小板を含む細胞培養系に被験物質を投与し、血小板凝集に対する被験物質の作用を評価することを含む、血管壁障害に対する被験物質の作用を評価する方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、動脈硬化や再狭窄等の病巣における血小板の凝集を再現した細胞培養系を提供することが可能になった。また、本発明の細胞培養系を用いることにより、血管疾患に対する薬剤の評価法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、凝集した血小板を含む細胞培養系を作製する方法であって、血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞又はその細胞成分の存在下において培養することを特徴とする方法に関する。好ましくは、本発明の方法では、血小板と、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞とを、同一の細胞培養容器内で培養する。
【0022】
本発明で用いる細胞は、初代培養細胞又は株化継代培養細胞のいずれでも構わないが、初代培養細胞であることが好ましい。培養細胞の元動物としては、任意の哺乳動物を採用できるが、特に、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ミニブタ、ウサギ、ハムスター、ラット、マウスなどが挙げられる。しかし、本発明で用いる細胞の由来は、これらの動物種に限定されるものではない。
【0023】
本発明において同一の細胞培養容器内で培養される2種類以上の異なる細胞は、同種の動物に由来する細胞でもよいし、異種の動物に由来する細胞であっても構わないが、同種の動物に由来する細胞であることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられ血管壁障害を構成する細胞としては、動脈硬化病巣を形成する細胞であることが好ましい。好ましい細胞としては、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞(肥満細胞など)、及びマクロファージなどを挙げることができる。特に好ましくは、血小板は、血管内皮細胞の存在下で培養される。血管壁障害を構成する細胞は、初代培養細胞でも株化継代培養細胞でも構わないが、初代培養細胞の方が好ましい。
【0025】
また、本発明では、血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞の細胞成分の存在下において培養してもよい。ここで言う細胞成分とは、血管壁障害を構成する細胞に由来する成分を含むものであれば特に限定されず、細胞の粉砕物、細胞の抽出物、又は細胞分画物などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明において細胞の培養に用いるための培養容器の種類は特に限定されないが、培養フラスコ、培養チューブ、シャーレ、マイクロプレートが好ましく、この中でシャーレ、マイクロプレートがさらに好ましい。培養器の材質は特に限定されないが、硬質ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニールプラスチックが好ましく、この中でポリスチレン、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0027】
本発明の特に好ましい態様では、培養容器としてはインサートセルを用いることができる。インサートセルとは、マイクロプレートのwellに挿入して使用する培養器でPET(ポリエチレンテレフタレート)等からできており、底面は多孔質のメンブレンからなる。該多孔質のメンブレンは、血小板、及び使用する血管壁障害を構成する細胞(例えば、血管内皮細胞など)を通過させないが、タンパク・アルブミンは容易に通過することができ、ポアーサイズの好ましい範囲としては0.2〜2μmが挙げられ、用いる細胞の種類に応じて適宜選択することができる。汎用性がある12穴マイクロプレート用インサートセルの具体例としては、FALCON(No.3180)、SUMIRON(No.5123)、岩城硝子(No.12-001-01)、テルモ(No.001-12)などを用いることができる。
【0028】
細胞の培養に用いる培地の種類は特に限定されないが、イーグルMEM、ダルベッコ改変イーグルMEM、RPMI1640、F−10、F−12、マッコイ、NCTC−109、ウィリアム、が好ましく、この中でイーグルMEM、ダルベッコ改変イーグルMEMが特に好ましい。血清の種類は、カーフシーラム、FBS、マウス血清、ラット血清、ウサギ血清、ヒト血清、ウマ血清が好ましく、この中でカーフシーラム、FBSが特に好ましい。
【0029】
本発明において細胞を培養する際の条件の最も好ましい組合せは、培養容器としてポリスチレン製のマイクロプレートを使用し、培地としてFBSを添加したイーグルMEMを使用する場合であるが、特にこれに限定されるものではない。
【0030】
血小板、及び血管壁障害を構成する細胞(例えば、血管内皮細胞)を播種する細胞数は特に規定しないが、好ましくは血小板の細胞数は0.5〜7×106個/wellの範囲内であり、血管壁障害を構成する細胞の細胞数は0.5〜8×104個/wellの範囲内である。より好ましくは血小板の細胞数は1〜4×106個/wellの範囲内であり、血管壁障害を構成する細胞の細胞数は0.8〜4×104個/wellの範囲内である。
【0031】
血小板、及び血管壁障害を構成する細胞(例えば、血管内皮細胞)は、それぞれインサートセル上の上下どちらの層に播種しても構わないが、先に血管壁障害を構成する細胞をインサートセルに播種し、ある程度コンフルーエンスの状態になった上層に、血小板を播種することが好ましい。例として、血管壁障害を構成する細胞を血小板播種の1〜4日前に播種することが好ましく、より好ましくは2〜3日前である。
【0032】
最も好ましいのは、先に1〜2×104個/wellの血管壁障害を構成する細胞をセル・フィルターに播種して3日間培養し、次いで1.8〜2.2×106個/wellの血小板をその上に播種して培養系を作成することができる。
【0033】
血小板、及び血管壁障害を構成する細胞の培養は、通常の動物細胞を培養する場合と同様の条件下で行うことができる。例えば、37℃、5%CO2の条件下で数時間から数週間、好ましくは1日から10日間ほど培養することができる。
【0034】
好ましくは、血小板及び血管壁障害を構成する細胞を一定期間培養した後に、培地に血小板活性化因子(PAF)を添加することができる。いかなる特定の理論に傾注するわけではないが、血小板及び血管壁障害を構成する細胞をインサートセルを上に播種し同一培養器内で培養しPAFを添加することにより、血管内皮細胞などの血管壁障害を構成する細胞のコラーゲン成分に血小板が付着凝集し、血小板由来の増殖活性化物質が血管壁障害を構成する細胞に作用して増殖を誘起し、動脈硬化やPTCA後の再狭窄などの血管疾患における血管内壁の障害部分の状態をイン・ビトロで再現することができる。
【0035】
さらに本発明においては、上記した本発明により得られる凝集した血小板を含む細胞培養系に被験物質を投与し、血小板凝集に対する被験物質の作用を評価することによって、血管壁障害に対する被験物質の作用を評価することができる。
【0036】
被験物質としては、特に限定されることなく、任意の物質を使用することができる。被験物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。またペプチドライブラリーや化合物ライブラリーなど、多数の分子を含むライブラリーを被験物質として使用することもできる。
【0037】
好ましくは、血小板、及び血管壁障害を構成する細胞(例えば、血管内皮細胞)をインサートセル上で培養し、PAFの添加後に凝集した血管内皮細胞及び血小板に対する被験物質の作用を測定することができる。これによって、被験物質又はPAFの血管疾患病巣への移行性を評価することができる。本発明では、血小板や増殖した血管壁障害を構成する細胞に対する被験物質又はPAFの取り込みを調べることによって、動脈硬化やPTCA後の再狭窄などの血管疾患に有効性の高い薬剤をスクリーニングすることが可能である。
【0038】
本発明の方法によりスクリーニングされる被験物質(薬剤)としては、血小板凝集を促進する物質、血小板凝集を抑制する物質、PAFの血小板への移動を促進する物質、並びにPAFの血小板への移動を抑制する物質などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0040】
例1:血管内皮細胞、血小板の組み合わせによる血管内壁の障害部分の作成
マウス大動脈内皮より、血管内皮細胞を分離した(組織培養法改定大10版、講談社、1998年、日本組織培養学会編集)。分離した血管内皮細胞を10%FBSイーグルMEM培地(GIBCO社製 No.11095-080)に懸濁し、12穴マイクロプレート用インサートセル(FALCON社製、No.3180)に播種した。この時の各wellの細胞数は10,000個に調整した。37℃、5%CO2の条件で3日間培養した。
【0041】
次に、Biochimica Biophysica Acta誌、1213巻、127-134頁(1994)記載の方法により、ウサギ全血から血小板を調製した。この血小板2,000,000個を分離し、上記底面に血管内皮細胞を培養したインサートセルの各wellの上部に播種した。その後12wellマイクロプレート(FALCON社製、No.3503)の上に載せ、培地を入れた。37℃、5%CO2の条件で5日間培養した。培養後PAF(フナコシ社製 No,301-001-M001)を10μg/well添加し、37℃、5%CO2条件下で24時間培養する。
【0042】
培養中培地の中に血小板の濃染顆粒から放出されたと思われるADP(ADPは血小板凝集の指標でもある)を認めることができる。又、血管内壁障害の時に認められるフィブロネクチン(フィブロネクチンは血小板凝集の指標でもある)を検出することができる。
【0043】
例2:血小板凝集抑制剤の作用評価
上記例1と同様にして、インサートセルに血管内皮細胞と血小板を培養する。すなわち、マウス大動脈内皮より、血管内皮細胞を分離した(組織培養法改定大10版、講談社、1998年、日本組織培養学会編集)。分離した血管内皮細胞を10%FBSイーグルMEM培地(GIBCO社製 No.11095-080)に懸濁し、12穴マイクロプレート用インサートセル(FALCON社製、No.3180)に播種した。この時の各wellの細胞数は10,000個に調整した。37℃、5%CO2の条件で3日間培養した。
【0044】
次に、Biochimica Biophysica Acta誌、1213巻、127-134頁(1994)記載の方法により、ウサギ全血から血小板を調整した。この血小板2,000,000個を分離し、上記底面に血管内皮細胞を培養したインサートセルの各wellの上部に播種した。その後12wellマイクロプレート(FALCON社製、No.3503)の上にのせ培地を入れた。37℃、5%CO2の条件で5日間培養した。培養後、血小板凝集抑制剤であるdipyridamole(ベーリンガー社製)を1,5,10,15,20μg/well、同じく血小板凝集抑制剤であるlimaprost alfadex(大日本住友製薬社製)を1,5,10,15,20μg/well添加する。添加20分後、各wellにPAF(フナコシ社製 No,301-001-M001)を10μg/well添加し、37℃、5%CO2条件下で24時間培養する。各wellにおけるフィブロネクチン産生量を測定した結果を図1及び図2に示す。
【0045】
一般に、血小板凝集抑制効果はdipyridamoleよりもlimaprost alfadexの方が大きいと言われている。図1及び図2に示す結果はこれを裏付けるものであり、本発明の細胞培養系は、血小板凝集作用物質の探索及びその動物での効果予測の試験系として利用できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の細胞培養系に血小板凝集抑制剤であるdipyridamoleを添加して培養した場合におけるフィブロネクチン産生量を測定した結果を示す。
【図2】図2は、本発明の細胞培養系に血小板凝集抑制剤であるlimaprost alfadexを添加して培養した場合におけるフィブロネクチン産生量を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞又はその細胞成分の存在下において培養することを含む、凝集した血小板を含む細胞培養系を作製する方法。
【請求項2】
血管壁障害を構成する1種類以上の細胞が、生体から分離した初代培養細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血管壁障害を構成する1種類以上の細胞が、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、及びマクロファージからなる群より選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
血管壁障害を構成する1種類以上の細胞が血管内皮細胞である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
インサートセルを用いて、血小板を、血管壁障害を構成する1種類以上の細胞又はその細胞成分の存在下において培養する、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
培地にPAF(血小板活性化因子)を添加して血小板を活性化させることを含む、請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の方法で作製した細胞培養系を用いて、血管壁の障害を培養容器内で再現することを特徴とする、血管壁の障害モデルの作製方法。
【請求項8】
請求項1から6の何れかに記載の方法により得られる、凝集した血小板を含む細胞培養系。
【請求項9】
請求項1から6の何れかに記載の方法により得られる凝集した血小板を含む細胞培養系に被験物質を投与し、血小板凝集に対する被験物質の作用を評価することを含む、血管壁障害に対する被験物質の作用を評価する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−181414(P2007−181414A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527(P2006−527)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】