血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤、並びに医薬用組成物及び機能性飲食品
【課題】天然物から抽出可能な物質を有効成分とする血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤、並びにそのような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有する医薬用組成物及び機能性飲食品を提供する。
【解決手段】アセロラ等に含まれる両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンが血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すことを確認した。この3−ハイドロキシ−2−ピロンは、血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤に有効成分として含有させることができ、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤は、医薬用組成物や機能性飲食品に含有させることができる。
【解決手段】アセロラ等に含まれる両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンが血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すことを確認した。この3−ハイドロキシ−2−ピロンは、血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤に有効成分として含有させることができ、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤は、医薬用組成物や機能性飲食品に含有させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤、並びにそのような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有する医薬用組成物及び機能性飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の死亡原因の第1位はガンなどの悪性新生物、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患となっており、このうち心疾患、脳血管疾患は、共に血栓症が基盤となり引き起こされる。中でも狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などは最も有名な疾患であり、近年、我が国においても特に問題視されている。
【0003】
また、日本人の死亡原因として肝障害に起因するものは、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患に次いで多くなっている。肝障害は、臨床的には急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝硬変等に分類され、原因的にはウイルス性、アルコール性等に分類される。
【0004】
【非特許文献1】Y. Morimitsu et al.,“Antiplatelet and anticancer isothiocyanates in Japanese domestic horseradish, Wasabi.”, Mechanisms of Ageing and Development, 116, p.125-134, 2000
【非特許文献2】T. Ariga et al.“Platelet aggregation inhibitor in garlic.”, Lancet, 1 (8212), p.150-151, 1981
【非特許文献3】B. H. Shah et al.,“Inhibitory Effect of Curcumin, a Food Spice from Turmeric, on Platelet-Activating Factor and Arachidonic Acid-Mediated Platelet Aggregation through Inhibition of Thromboxane Formation and Ca2+ Signaling.”, Biochemical Pharmacology, 58, p.1167-1172, 1999
【特許文献1】特開2005−194216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、天然物から抽出可能であり、且つ血栓症や肝障害を予防・改善する血小板凝集抑制効果、肝障害改善効果を示す物質としては、日本ワサビに含まれるイソチオシアネート、ニンニクに含まれるメチルアリルトリスルフィド、ウコンに含まれるクルクミン、ジャンボリーキに含まれるサポニン等、数多く知られている(非特許文献1〜3、特許文献1を参照)。
【0006】
しかしながら、天然物の中には、現在報告されている物質以外にも、血小板凝集抑制効果、肝障害改善効果を示す物質が存在すると考えられることから、このような効果を示す新規な物質の探索が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、天然物から抽出可能な物質を有効成分とする血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤、並びにそのような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有する医薬用組成物及び機能性飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者等は、上述した目的を達成するために、様々な観点から鋭意研究を重ねてきた。その結果、アセロラ等に含まれる両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンが血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すことを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明に係る血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤は、3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有するものである。
【0010】
また、本発明に係る医薬用組成物及び機能性飲食品は、このような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、3−ハイドロキシ−2−ピロンが血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すため、この3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有させることで、血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤を提供することができる。また、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤を含有させることで、血栓症を予防し、又は肝障害を改善する医薬用組成物や機能性飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施の形態について、具体的な実験結果を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(1)3−ハイドロキシ−2−ピロンの合成
3−ハイドロキシ−2−ピロンは、以下の化学式(1)で表される両親媒性抗酸化物質である。
【0014】
【化1】
【0015】
この3−ハイドロキシ−2−ピロンは、アセロラ果実から抽出できるほか、アスコルビン酸を出発原料として合成することもできる。本実施の形態では、以下のように、アスコルビン酸を出発原料とし、デヒドロアスコルビン酸を経て3−ハイドロキシ−2−ピロンを合成した。
【0016】
アスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸の合成
100gのアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)に1500mlのアセトン(和光純薬工業株式会社)と250gの酸化銀(和光純薬工業株式会社)とを加え、ガラス棒でゆっくりと撹拌して酸化反応を開始させた。酸化銀を加えても泡が出ないことを確認後、グラスフィルター(3G4)にて吸引濾過した。そして、濾液に60gの活性炭素を加え、ガラス棒で撹拌後、濾紙にて濾過した。その後、濾液を30℃の水中でエバポレーターにて濃縮した。
【0017】
この濃縮液に対してアセトンをフラスコの1/3程加えて吸引濾過し、得られた沈殿物に純水を適量加え、撹拌後10分間放置した。そして、この溶液を吸引濾過後、再びアセトンをフラスコの1/3程加えて吸引濾過した。さらに、得られた沈殿に100mlのジエチルエーテル(和光純薬工業株式会社)を加え、吸引濾過した。得られた沈殿をシャーレに回収して風乾させることにより、デヒドロアスコルビン酸の白色粉末12.9gが得られた。
【0018】
デヒドロアスコルビン酸から3−ハイドロキシ−2−ピロンの合成
3gのデヒドロアスコルビン酸に70℃以上の純水 700mlを加え、溶解した。この溶解液を100℃で5時間、還流装置にて加熱した後、700mlのジエチルエーテルを加えて撹拌した。この混合液より分液漏斗を用いて上層を回収し、回収した上層に100gの無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を加え、脱水した。そして、濾紙にて濾過後、エバポレーターにて濃縮し、濃縮液に300mlの石油エーテル(和光純薬工業株式会社)を加えた後、エバポレーターにて乾固し、粗結晶を得た。この粗結晶を用いて、昇華装置により再結晶を行うことにより、3−ハイドロキシ−2−ピロンの白色針状結晶60.2mgが得られた。
【0019】
なお、この結晶の構造は、GC−MS(gas chromatograph-mass spectrometer)、UV(ultra violet)、及びNMR(nuclear magnetic resonance)を用いて確認した。
【0020】
(2)血小板凝集抑制効果の評価
3−ハイドロキシ−2−ピロンの血小板凝集抑制効果は、血小板凝集惹起物質を加えたときの多血小板血漿の透過率変化を、3−ハイドロキシ−2−ピロンの存在下、非存在下で比較することにより評価した。
【0021】
多血小板血漿及び乏血小板血漿の調製
多血小板血漿及び乏血小板血漿を調製するため、2週間以上服薬していない健康な成人(20〜25歳)から、真空採血管(ベノジェクトII真空採血管、3.8% クエン酸ナトリウム 0.5ml入り;テルモ株式会社)、採血針(ベノジェクトII採血針S、22G×1 1/2;テルモ株式会社)を用いて、血液9容に対して3.8% クエン酸ナトリウム1容となるように採血した。
【0022】
そして、採血により得られたクエン酸化血液を室温、300×gの条件で10分間遠心分離し、上層を多血小板血漿(platelet rich plasma;PRP)として用いた。さらに、多血小板血漿を調製した残りの下層を室温、1200×gの条件で15分間遠心分離し、上層を乏血小板血漿(platelet poor plasma;PPP)として用いた。なお、血小板は採血後3時間程で機能低下が見られるため、採血後3時間以内に使用した。
【0023】
血小板凝集惹起物質の調製
血小板凝集惹起物質としては、血小板が刺激を受けることによって膜リン脂質から放出されるアラキドン酸、アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼの作用を受けて生成するトロンボキサンA2の安定類縁物質であるU−46619、血小板の濃染顆粒中に存在し、血小板凝集に伴い放出されるADP(adenosin diphosphate)、プロテインキナーゼCの活性化物質であるPMA(phorbol-12-myristate-13-acetate)を使用し、それぞれ以下のように調製した。
【0024】
アラキドン酸溶液:
100mgのアラキドン酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を2.76mlの0.5N NaOHに溶解し、マイクロチューブに分注後、窒素充填して−80℃で冷凍保存した。使用時には氷中で解凍し、PBS(phosphate buffered saline)バッファでPRP中の終濃度が1.5mMとなるように希釈した。
U−46619溶液:
100μlの酢酸メチルに溶解された1mgのU−46619(フナコシ株式会社)を185μlのエタノールで希釈し、10mM U−46619溶液として−20℃で冷凍保存した。使用時にはPBSバッファでPRP中の終濃度が1μMとなるように希釈した。
ADP溶液:
ADP(和光純薬工業株式会社)をPBSバッファでPRP中の終濃度が10μMとなるように希釈した。
PMA溶液;
PMA(フナコシ株式会社)をエタノールで溶解し、40mM PMA溶液として−20℃で冷凍保存した。使用時にはPBSバッファを加えて90μM PMA溶液とし、4%エタノール含有PBSバッファでPRP中の終濃度が5μMとなるように希釈した。
【0025】
3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液の調製
アスコルビン酸を出発原料として合成した3−ハイドロキシ−2−ピロンの終濃度が3.16×10−4M、1.0×10−3M、1.0×10−2Mとなるように、酸化防止剤としてL−アスコルビルパルミテート(和光純薬工業株式会社)を50ppm含有する無水エタノールで希釈し、希釈液を調製した。
【0026】
血小板凝集抑制実験の手順及び結果
PRPに血小板凝集惹起物質を加えて撹拌すると、血小板は急速に凝集塊を作り、血小板凝集塊が生じるに従ってPRPの透過率は高くなる。この現象を利用し、3−ハイドロキシ−2−ピロンの血小板凝集抑制作用を測定した。
【0027】
血小板凝集抑制作用の測定には、血小板凝集能測定装置(NKK HEMATRACER 1 MODEL PAT-4;SSRエンジニアリング株式会社)を用い、透過率を記録計(CHROMATOPAC C-R4A、株式会社島津製作所)に記録した。この際、ガラス製キュベットを37℃でインキュベートし、スターラーの回転速度が1000rpmになるようにセットした。
【0028】
具体的な測定方法は次の通りである。すなわち、キュベットにステアリングロッドを入れたものを2つ用意し、一方のキュベットにはPPPを300μl分注し、他方のキュベットにはPRPを300μl分注した。次に、記録計を始動させ、PPP及びPRPの両方にシイタケ精油希釈液を2μl添加し、PPPの入ったキュベットで記録計の透過率を40000に調整し、PRPの入ったキュベットで記録計の透過率を0に調整した。このSPAN調整は測定の度に行った。SPAN調整後、PRPの入ったキュベットをセットし、3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液を添加してから3分間経過後に血小板凝集惹起物質(アラキドン酸、U−46619、ADP、PMA)を18μl添加し、凝集曲線の変化を10分間記録した。このとき、コントロールとしては、3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液の代わりに、50ppm L−アスコルビルパルミテート含有無水エタノールを添加した。
【0029】
なお、測定に用いたキュベット及びステアリングロッドは、血小板異物接触刺激によって生じる接着、凝固を防止するため、予めシリコンコーティング処理を施した。具体的には、器具を洗浄し乾燥させた後、SIGMACOTE(シグマアルドリッチジャパン株式会社)に浸積させて乾燥させ、使用前に超純水で洗浄した。
【0030】
このようにして記録計に記録された透過率から、次のようにして阻害率を算出した。すなわち、血小板凝集に伴うPRPの透過率(T%)の変化を血小板の凝集率(Agg.%)の変化と見なし、その最大値を最大凝集率(Agg.max%)とした。そして、3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液を添加したサンプルの最大凝集率Tと、コントロールのサンプルの最大凝集率T’とから、阻害率を(1−T'/T)×100のように算出した。
【0031】
各血小板凝集惹起物質を添加したときの阻害率の測定結果を表1、及び図1〜4に示す。なお、この表1、及び図1〜4は、阻害率を3回測定した平均値を示したものである。
【0032】
【表1】
【0033】
表1、及び図1〜4から分かるように、血小板凝集惹起物質としてアラキドン酸、ADPを添加した場合、3−ハイドロキシ−2−ピロンは濃度依存的に血小板凝集を抑制した。また、血小板凝集惹起物質としてU−46619を添加した場合、3−ハイドロキシ−2−ピロンは低濃度(3.16×10−4M)では血小板凝集を抑制していたものの、濃度依存的に阻害率が低下した。また、血小板凝集惹起物質としてPMAを添加した場合、3−ハイドロキシ−2−ピロンは血小板凝集を抑制しなかった。
【0034】
これらの結果から、3−ハイドロキシ−2−ピロンによる血小板凝集抑制の作用機序は、ニンニクに含まれるメチルアリルトリスルフィドと同様に、シクロオキシゲナーゼ阻害によるものと分かった。
【0035】
(3)肝障害改善効果の評価
3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果は、D−ガラクトサミン(D−GalN)処理ラットの肝機能を、3−ハイドロキシ−2−ピロンの投与の有無で比較することにより評価した。
【0036】
実験動物の準備
実験動物としては、Wistar系SPF雄性ラット(5週齢、体重150g前後;日本クレア株式会社)を1週間の予備飼育の後に使用した。飼育条件は、温度22±1℃、湿度55±5%、光のサイクルを12時間毎の明暗、とした。食餌はマウス・ラット・ハムスター用飼育繁殖固形型飼料CE−2(日本クレア株式会社)を、飲料水は水道水をともに自由摂取させた。但し、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0037】
D−GalN投与液の調製及び投与量の決定
D−GalN投与液は、D−ガラクトサミン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を用い、生理食塩水に溶解後、1N NaOHで中和し、滅菌フィルターで濾過することにより調製した。予備実験として、各群3匹のラットに400mg/kg体重、700mg/kg体重、1000mg/kg体重の投与量となるようにD−GalN投与液を腹腔内に1ml投与し、24時間後の血清中のALT(alanine aminotransferase)活性及びAST(asparate aminotransferase)活性を測定した。その結果、両活性が著しく上昇した700mg/kg体重を以下の実験での投与量に決定した。
【0038】
投与実験の手順及び結果(水溶性抗酸化物質との比較)
先ず、両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果を水溶性抗酸化物質と比較した。水溶性抗酸化物質としては、L−アスコルビン酸及び2,4−ジヒドロキシ安息香酸を用いた。
【0039】
この投与実験では、予備飼育したラットを、各群7匹、計5群に分けた。各群の詳細は以下の通りである。
【0040】
ノーマル群:
純水を腹腔内投与した後、純水を経口胃内投与する。
コントロール群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、純水を経口胃内投与する。
HP群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、アスコルビン酸を出発原料として合成した3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与量が10mg/kg体重となるように純水1mlに溶解し、経口胃内投与する。
AsA群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、L−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)を投与量が10mg/kg体重となるように純水1mlに溶解し、経口胃内投与する。
Ben群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業株式会社)を投与量が10mg/kg体重となるように純水1mlに溶解し、経口胃内投与する。
【0041】
これらの実験群に対して、次のような投与実験を行った。すなわち、予備飼育後、ノーマル群以外の4群のラットに700mg/kg体重のD−GalN投与液を投与し、投与後8、24、32時間の計3回、各サンプルを胃ゾンデを用いて経口胃内投与した。そして、D−GalN投与液の投与後48時間にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血した。その後、血液サンプルを18℃、3000rpmの条件で15分間遠心分離することにより血清を分離し、血清中のALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP(γ-glutamyl transpeptidase)活性を測定した。測定には、スポットケムTM EZ SP-4430(アークレイ株式会社)を用いた。
【0042】
各血清マーカーの測定結果を表2、及び図5〜8に示す。なお、図中異なる記号(a、b、c)が付されている測定値同士は有意差(p<0.05)がある。
【0043】
【表2】
【0044】
表2、及び図5〜8から分かるように、D−GalN投与液を投与したコントロール群では、ノーマル群と比較してALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP活性が著しく上昇した。水溶性抗酸化物質であるL−アスコルビン酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸を投与したAsA群、Ben群では、ALT活性、総ビリルビン量がコントロール群に対して有意に減少したものの、AST活性、γ−GTP活性は有意に減少しなかった。一方、3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与したHP群では、コントロール群に対して全て有意に減少した。
【0045】
これらの結果から、3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果は、水溶性抗酸化物質であるL−アスコルビン酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸よりも優れていることが確認できる。
【0046】
投与実験の手順及び結果(脂溶性抗酸化物質との比較)
次に、両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果を脂溶性抗酸化物質と比較した。脂溶性抗酸化物質としては、α−トコフェロール及びブチルヒドロキシトルエンを用いた。また、溶媒としてはピーナッツ油を用いた。
【0047】
この投与実験では、予備飼育したラットを、各群7匹、計5群に分けた。各群の詳細は以下の通りである。
ノーマル群:
純水を腹腔内投与した後、ピーナッツ油を経口胃内投与する。
コントロール群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、ピーナッツ油を経口胃内投与する。
HP群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、アスコルビン酸を出発原料として合成した3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与量が10mg/kg体重となるようにピーナッツ油1mlに溶解し、経口胃内投与する。
α−Toc群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、α−トコフェロール(和光純薬工業株式会社)を投与量が10mg/kg体重となるようにピーナッツ油1mlに溶解し、経口胃内投与する。
BHT群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、ブチルヒドロキシトルエン(LKT Laboratories, Inc.)を投与量が10mg/kg体重となるようにピーナッツ油1mlに溶解し、経口胃内投与する。
【0048】
これらの実験群に対して、次のような投与実験を行った。すなわち、予備飼育後、ノーマル群以外の4群のラットに700mg/kg体重のD−GalN投与液を投与し、投与後8、24、32時間の計3回、各サンプルを胃ゾンデを用いて経口胃内投与した。そして、D−GalN投与液の投与後48時間にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血した。その後、血液サンプルを18℃、3000rpmの条件で15分間遠心分離することにより血清を分離し、血清中のALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP活性を測定した。測定には、スポットケムTM EZ SP-4430(アークレイ株式会社)を用いた。
【0049】
各血清マーカーの測定結果を表3、及び図9〜12に示す。なお、図中異なる記号(a、b、c)が付されている測定値同士は有意差(p<0.05)がある。
【0050】
【表3】
【0051】
表3、及び図9〜12から分かるように、D−GalN投与液を投与したコントロール群では、ノーマル群と比較してALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP活性が著しく上昇した。脂溶性抗酸化物質であるα−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエンを投与したα−Toc群、BHT群では、コントロール群に対して全て有意に減少した。一方、3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与したHP群でも、コントロール群に対して全て有意に減少した。
【0052】
これらの結果から、3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果は、脂溶性抗酸化物質であるα−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエンと同程度であることが確認できる。
【0053】
以上、具体的な実験結果を参照しながら詳細に説明したように、3−ハイドロキシ−2−ピロンは血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すため、この3−ハイドロキシ−2−ピロンを血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤の有効成分として含有させることができる。
【0054】
また、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤と、医薬用として通常用いられている他の任意成分とを組み合わせることで、血栓症を予防し、又は肝障害を改善する医薬用組成物を提供することができる。医薬用組成物の剤形は特に限定されるものではないが、一般に製剤上許容される1種又は2種以上の担体、賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、防腐剤、安定剤、香味剤等と共に混合して、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、水薬、ドリンク剤等の内服薬剤とすることが好ましい。この医薬用組成物の投与量は、患者の年齢、症状、体重等により異なるが、成人1日当たり、3−ハイドロキシ−2−ピロンを0.4〜0.6mg含む医薬用組成物を、1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0055】
また、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤を飲食品に含有させることで、血栓症を予防し、又は肝障害を改善する機能性飲食品を提供することができる。飲食品としては、飲料、穀類加工品、水産・畜産加工品、乳製品、菓子類、調味料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】血小板凝集惹起物質としてアラキドン酸を添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図2】血小板凝集惹起物質としてU−46619を添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図3】血小板凝集惹起物質としてADPを添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図4】血小板凝集惹起物質としてPMAを添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図5】D−GalN処理ラットのALT活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図6】D−GalN処理ラットのAST活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図7】D−GalN処理ラットの総ビリルビン量に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図8】D−GalN処理ラットのγ−GTP活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図9】D−GalN処理ラットのALT活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図10】D−GalN処理ラットのAST活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図11】D−GalN処理ラットの総ビリルビン量に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図12】D−GalN処理ラットのγ−GTP活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤、並びにそのような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有する医薬用組成物及び機能性飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本人の死亡原因の第1位はガンなどの悪性新生物、第2位は心疾患、第3位は脳血管疾患となっており、このうち心疾患、脳血管疾患は、共に血栓症が基盤となり引き起こされる。中でも狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などは最も有名な疾患であり、近年、我が国においても特に問題視されている。
【0003】
また、日本人の死亡原因として肝障害に起因するものは、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患に次いで多くなっている。肝障害は、臨床的には急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝硬変等に分類され、原因的にはウイルス性、アルコール性等に分類される。
【0004】
【非特許文献1】Y. Morimitsu et al.,“Antiplatelet and anticancer isothiocyanates in Japanese domestic horseradish, Wasabi.”, Mechanisms of Ageing and Development, 116, p.125-134, 2000
【非特許文献2】T. Ariga et al.“Platelet aggregation inhibitor in garlic.”, Lancet, 1 (8212), p.150-151, 1981
【非特許文献3】B. H. Shah et al.,“Inhibitory Effect of Curcumin, a Food Spice from Turmeric, on Platelet-Activating Factor and Arachidonic Acid-Mediated Platelet Aggregation through Inhibition of Thromboxane Formation and Ca2+ Signaling.”, Biochemical Pharmacology, 58, p.1167-1172, 1999
【特許文献1】特開2005−194216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、天然物から抽出可能であり、且つ血栓症や肝障害を予防・改善する血小板凝集抑制効果、肝障害改善効果を示す物質としては、日本ワサビに含まれるイソチオシアネート、ニンニクに含まれるメチルアリルトリスルフィド、ウコンに含まれるクルクミン、ジャンボリーキに含まれるサポニン等、数多く知られている(非特許文献1〜3、特許文献1を参照)。
【0006】
しかしながら、天然物の中には、現在報告されている物質以外にも、血小板凝集抑制効果、肝障害改善効果を示す物質が存在すると考えられることから、このような効果を示す新規な物質の探索が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、天然物から抽出可能な物質を有効成分とする血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤、並びにそのような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有する医薬用組成物及び機能性飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者等は、上述した目的を達成するために、様々な観点から鋭意研究を重ねてきた。その結果、アセロラ等に含まれる両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンが血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すことを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明に係る血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤は、3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有するものである。
【0010】
また、本発明に係る医薬用組成物及び機能性飲食品は、このような血小板凝集抑制剤及び肝障害改善剤を含有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、3−ハイドロキシ−2−ピロンが血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すため、この3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有させることで、血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤を提供することができる。また、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤を含有させることで、血栓症を予防し、又は肝障害を改善する医薬用組成物や機能性飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施の形態について、具体的な実験結果を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(1)3−ハイドロキシ−2−ピロンの合成
3−ハイドロキシ−2−ピロンは、以下の化学式(1)で表される両親媒性抗酸化物質である。
【0014】
【化1】
【0015】
この3−ハイドロキシ−2−ピロンは、アセロラ果実から抽出できるほか、アスコルビン酸を出発原料として合成することもできる。本実施の形態では、以下のように、アスコルビン酸を出発原料とし、デヒドロアスコルビン酸を経て3−ハイドロキシ−2−ピロンを合成した。
【0016】
アスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸の合成
100gのアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)に1500mlのアセトン(和光純薬工業株式会社)と250gの酸化銀(和光純薬工業株式会社)とを加え、ガラス棒でゆっくりと撹拌して酸化反応を開始させた。酸化銀を加えても泡が出ないことを確認後、グラスフィルター(3G4)にて吸引濾過した。そして、濾液に60gの活性炭素を加え、ガラス棒で撹拌後、濾紙にて濾過した。その後、濾液を30℃の水中でエバポレーターにて濃縮した。
【0017】
この濃縮液に対してアセトンをフラスコの1/3程加えて吸引濾過し、得られた沈殿物に純水を適量加え、撹拌後10分間放置した。そして、この溶液を吸引濾過後、再びアセトンをフラスコの1/3程加えて吸引濾過した。さらに、得られた沈殿に100mlのジエチルエーテル(和光純薬工業株式会社)を加え、吸引濾過した。得られた沈殿をシャーレに回収して風乾させることにより、デヒドロアスコルビン酸の白色粉末12.9gが得られた。
【0018】
デヒドロアスコルビン酸から3−ハイドロキシ−2−ピロンの合成
3gのデヒドロアスコルビン酸に70℃以上の純水 700mlを加え、溶解した。この溶解液を100℃で5時間、還流装置にて加熱した後、700mlのジエチルエーテルを加えて撹拌した。この混合液より分液漏斗を用いて上層を回収し、回収した上層に100gの無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社)を加え、脱水した。そして、濾紙にて濾過後、エバポレーターにて濃縮し、濃縮液に300mlの石油エーテル(和光純薬工業株式会社)を加えた後、エバポレーターにて乾固し、粗結晶を得た。この粗結晶を用いて、昇華装置により再結晶を行うことにより、3−ハイドロキシ−2−ピロンの白色針状結晶60.2mgが得られた。
【0019】
なお、この結晶の構造は、GC−MS(gas chromatograph-mass spectrometer)、UV(ultra violet)、及びNMR(nuclear magnetic resonance)を用いて確認した。
【0020】
(2)血小板凝集抑制効果の評価
3−ハイドロキシ−2−ピロンの血小板凝集抑制効果は、血小板凝集惹起物質を加えたときの多血小板血漿の透過率変化を、3−ハイドロキシ−2−ピロンの存在下、非存在下で比較することにより評価した。
【0021】
多血小板血漿及び乏血小板血漿の調製
多血小板血漿及び乏血小板血漿を調製するため、2週間以上服薬していない健康な成人(20〜25歳)から、真空採血管(ベノジェクトII真空採血管、3.8% クエン酸ナトリウム 0.5ml入り;テルモ株式会社)、採血針(ベノジェクトII採血針S、22G×1 1/2;テルモ株式会社)を用いて、血液9容に対して3.8% クエン酸ナトリウム1容となるように採血した。
【0022】
そして、採血により得られたクエン酸化血液を室温、300×gの条件で10分間遠心分離し、上層を多血小板血漿(platelet rich plasma;PRP)として用いた。さらに、多血小板血漿を調製した残りの下層を室温、1200×gの条件で15分間遠心分離し、上層を乏血小板血漿(platelet poor plasma;PPP)として用いた。なお、血小板は採血後3時間程で機能低下が見られるため、採血後3時間以内に使用した。
【0023】
血小板凝集惹起物質の調製
血小板凝集惹起物質としては、血小板が刺激を受けることによって膜リン脂質から放出されるアラキドン酸、アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼの作用を受けて生成するトロンボキサンA2の安定類縁物質であるU−46619、血小板の濃染顆粒中に存在し、血小板凝集に伴い放出されるADP(adenosin diphosphate)、プロテインキナーゼCの活性化物質であるPMA(phorbol-12-myristate-13-acetate)を使用し、それぞれ以下のように調製した。
【0024】
アラキドン酸溶液:
100mgのアラキドン酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を2.76mlの0.5N NaOHに溶解し、マイクロチューブに分注後、窒素充填して−80℃で冷凍保存した。使用時には氷中で解凍し、PBS(phosphate buffered saline)バッファでPRP中の終濃度が1.5mMとなるように希釈した。
U−46619溶液:
100μlの酢酸メチルに溶解された1mgのU−46619(フナコシ株式会社)を185μlのエタノールで希釈し、10mM U−46619溶液として−20℃で冷凍保存した。使用時にはPBSバッファでPRP中の終濃度が1μMとなるように希釈した。
ADP溶液:
ADP(和光純薬工業株式会社)をPBSバッファでPRP中の終濃度が10μMとなるように希釈した。
PMA溶液;
PMA(フナコシ株式会社)をエタノールで溶解し、40mM PMA溶液として−20℃で冷凍保存した。使用時にはPBSバッファを加えて90μM PMA溶液とし、4%エタノール含有PBSバッファでPRP中の終濃度が5μMとなるように希釈した。
【0025】
3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液の調製
アスコルビン酸を出発原料として合成した3−ハイドロキシ−2−ピロンの終濃度が3.16×10−4M、1.0×10−3M、1.0×10−2Mとなるように、酸化防止剤としてL−アスコルビルパルミテート(和光純薬工業株式会社)を50ppm含有する無水エタノールで希釈し、希釈液を調製した。
【0026】
血小板凝集抑制実験の手順及び結果
PRPに血小板凝集惹起物質を加えて撹拌すると、血小板は急速に凝集塊を作り、血小板凝集塊が生じるに従ってPRPの透過率は高くなる。この現象を利用し、3−ハイドロキシ−2−ピロンの血小板凝集抑制作用を測定した。
【0027】
血小板凝集抑制作用の測定には、血小板凝集能測定装置(NKK HEMATRACER 1 MODEL PAT-4;SSRエンジニアリング株式会社)を用い、透過率を記録計(CHROMATOPAC C-R4A、株式会社島津製作所)に記録した。この際、ガラス製キュベットを37℃でインキュベートし、スターラーの回転速度が1000rpmになるようにセットした。
【0028】
具体的な測定方法は次の通りである。すなわち、キュベットにステアリングロッドを入れたものを2つ用意し、一方のキュベットにはPPPを300μl分注し、他方のキュベットにはPRPを300μl分注した。次に、記録計を始動させ、PPP及びPRPの両方にシイタケ精油希釈液を2μl添加し、PPPの入ったキュベットで記録計の透過率を40000に調整し、PRPの入ったキュベットで記録計の透過率を0に調整した。このSPAN調整は測定の度に行った。SPAN調整後、PRPの入ったキュベットをセットし、3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液を添加してから3分間経過後に血小板凝集惹起物質(アラキドン酸、U−46619、ADP、PMA)を18μl添加し、凝集曲線の変化を10分間記録した。このとき、コントロールとしては、3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液の代わりに、50ppm L−アスコルビルパルミテート含有無水エタノールを添加した。
【0029】
なお、測定に用いたキュベット及びステアリングロッドは、血小板異物接触刺激によって生じる接着、凝固を防止するため、予めシリコンコーティング処理を施した。具体的には、器具を洗浄し乾燥させた後、SIGMACOTE(シグマアルドリッチジャパン株式会社)に浸積させて乾燥させ、使用前に超純水で洗浄した。
【0030】
このようにして記録計に記録された透過率から、次のようにして阻害率を算出した。すなわち、血小板凝集に伴うPRPの透過率(T%)の変化を血小板の凝集率(Agg.%)の変化と見なし、その最大値を最大凝集率(Agg.max%)とした。そして、3−ハイドロキシ−2−ピロンの希釈液を添加したサンプルの最大凝集率Tと、コントロールのサンプルの最大凝集率T’とから、阻害率を(1−T'/T)×100のように算出した。
【0031】
各血小板凝集惹起物質を添加したときの阻害率の測定結果を表1、及び図1〜4に示す。なお、この表1、及び図1〜4は、阻害率を3回測定した平均値を示したものである。
【0032】
【表1】
【0033】
表1、及び図1〜4から分かるように、血小板凝集惹起物質としてアラキドン酸、ADPを添加した場合、3−ハイドロキシ−2−ピロンは濃度依存的に血小板凝集を抑制した。また、血小板凝集惹起物質としてU−46619を添加した場合、3−ハイドロキシ−2−ピロンは低濃度(3.16×10−4M)では血小板凝集を抑制していたものの、濃度依存的に阻害率が低下した。また、血小板凝集惹起物質としてPMAを添加した場合、3−ハイドロキシ−2−ピロンは血小板凝集を抑制しなかった。
【0034】
これらの結果から、3−ハイドロキシ−2−ピロンによる血小板凝集抑制の作用機序は、ニンニクに含まれるメチルアリルトリスルフィドと同様に、シクロオキシゲナーゼ阻害によるものと分かった。
【0035】
(3)肝障害改善効果の評価
3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果は、D−ガラクトサミン(D−GalN)処理ラットの肝機能を、3−ハイドロキシ−2−ピロンの投与の有無で比較することにより評価した。
【0036】
実験動物の準備
実験動物としては、Wistar系SPF雄性ラット(5週齢、体重150g前後;日本クレア株式会社)を1週間の予備飼育の後に使用した。飼育条件は、温度22±1℃、湿度55±5%、光のサイクルを12時間毎の明暗、とした。食餌はマウス・ラット・ハムスター用飼育繁殖固形型飼料CE−2(日本クレア株式会社)を、飲料水は水道水をともに自由摂取させた。但し、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0037】
D−GalN投与液の調製及び投与量の決定
D−GalN投与液は、D−ガラクトサミン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を用い、生理食塩水に溶解後、1N NaOHで中和し、滅菌フィルターで濾過することにより調製した。予備実験として、各群3匹のラットに400mg/kg体重、700mg/kg体重、1000mg/kg体重の投与量となるようにD−GalN投与液を腹腔内に1ml投与し、24時間後の血清中のALT(alanine aminotransferase)活性及びAST(asparate aminotransferase)活性を測定した。その結果、両活性が著しく上昇した700mg/kg体重を以下の実験での投与量に決定した。
【0038】
投与実験の手順及び結果(水溶性抗酸化物質との比較)
先ず、両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果を水溶性抗酸化物質と比較した。水溶性抗酸化物質としては、L−アスコルビン酸及び2,4−ジヒドロキシ安息香酸を用いた。
【0039】
この投与実験では、予備飼育したラットを、各群7匹、計5群に分けた。各群の詳細は以下の通りである。
【0040】
ノーマル群:
純水を腹腔内投与した後、純水を経口胃内投与する。
コントロール群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、純水を経口胃内投与する。
HP群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、アスコルビン酸を出発原料として合成した3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与量が10mg/kg体重となるように純水1mlに溶解し、経口胃内投与する。
AsA群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、L−アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)を投与量が10mg/kg体重となるように純水1mlに溶解し、経口胃内投与する。
Ben群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業株式会社)を投与量が10mg/kg体重となるように純水1mlに溶解し、経口胃内投与する。
【0041】
これらの実験群に対して、次のような投与実験を行った。すなわち、予備飼育後、ノーマル群以外の4群のラットに700mg/kg体重のD−GalN投与液を投与し、投与後8、24、32時間の計3回、各サンプルを胃ゾンデを用いて経口胃内投与した。そして、D−GalN投与液の投与後48時間にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血した。その後、血液サンプルを18℃、3000rpmの条件で15分間遠心分離することにより血清を分離し、血清中のALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP(γ-glutamyl transpeptidase)活性を測定した。測定には、スポットケムTM EZ SP-4430(アークレイ株式会社)を用いた。
【0042】
各血清マーカーの測定結果を表2、及び図5〜8に示す。なお、図中異なる記号(a、b、c)が付されている測定値同士は有意差(p<0.05)がある。
【0043】
【表2】
【0044】
表2、及び図5〜8から分かるように、D−GalN投与液を投与したコントロール群では、ノーマル群と比較してALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP活性が著しく上昇した。水溶性抗酸化物質であるL−アスコルビン酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸を投与したAsA群、Ben群では、ALT活性、総ビリルビン量がコントロール群に対して有意に減少したものの、AST活性、γ−GTP活性は有意に減少しなかった。一方、3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与したHP群では、コントロール群に対して全て有意に減少した。
【0045】
これらの結果から、3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果は、水溶性抗酸化物質であるL−アスコルビン酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸よりも優れていることが確認できる。
【0046】
投与実験の手順及び結果(脂溶性抗酸化物質との比較)
次に、両親媒性抗酸化物質である3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果を脂溶性抗酸化物質と比較した。脂溶性抗酸化物質としては、α−トコフェロール及びブチルヒドロキシトルエンを用いた。また、溶媒としてはピーナッツ油を用いた。
【0047】
この投与実験では、予備飼育したラットを、各群7匹、計5群に分けた。各群の詳細は以下の通りである。
ノーマル群:
純水を腹腔内投与した後、ピーナッツ油を経口胃内投与する。
コントロール群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、ピーナッツ油を経口胃内投与する。
HP群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、アスコルビン酸を出発原料として合成した3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与量が10mg/kg体重となるようにピーナッツ油1mlに溶解し、経口胃内投与する。
α−Toc群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、α−トコフェロール(和光純薬工業株式会社)を投与量が10mg/kg体重となるようにピーナッツ油1mlに溶解し、経口胃内投与する。
BHT群:
D−GalN投与液を腹腔内投与した後、ブチルヒドロキシトルエン(LKT Laboratories, Inc.)を投与量が10mg/kg体重となるようにピーナッツ油1mlに溶解し、経口胃内投与する。
【0048】
これらの実験群に対して、次のような投与実験を行った。すなわち、予備飼育後、ノーマル群以外の4群のラットに700mg/kg体重のD−GalN投与液を投与し、投与後8、24、32時間の計3回、各サンプルを胃ゾンデを用いて経口胃内投与した。そして、D−GalN投与液の投与後48時間にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血した。その後、血液サンプルを18℃、3000rpmの条件で15分間遠心分離することにより血清を分離し、血清中のALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP活性を測定した。測定には、スポットケムTM EZ SP-4430(アークレイ株式会社)を用いた。
【0049】
各血清マーカーの測定結果を表3、及び図9〜12に示す。なお、図中異なる記号(a、b、c)が付されている測定値同士は有意差(p<0.05)がある。
【0050】
【表3】
【0051】
表3、及び図9〜12から分かるように、D−GalN投与液を投与したコントロール群では、ノーマル群と比較してALT活性、AST活性、総ビリルビン量、γ−GTP活性が著しく上昇した。脂溶性抗酸化物質であるα−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエンを投与したα−Toc群、BHT群では、コントロール群に対して全て有意に減少した。一方、3−ハイドロキシ−2−ピロンを投与したHP群でも、コントロール群に対して全て有意に減少した。
【0052】
これらの結果から、3−ハイドロキシ−2−ピロンの肝障害改善効果は、脂溶性抗酸化物質であるα−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエンと同程度であることが確認できる。
【0053】
以上、具体的な実験結果を参照しながら詳細に説明したように、3−ハイドロキシ−2−ピロンは血小板凝集抑制効果と肝障害改善効果とを示すため、この3−ハイドロキシ−2−ピロンを血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤の有効成分として含有させることができる。
【0054】
また、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤と、医薬用として通常用いられている他の任意成分とを組み合わせることで、血栓症を予防し、又は肝障害を改善する医薬用組成物を提供することができる。医薬用組成物の剤形は特に限定されるものではないが、一般に製剤上許容される1種又は2種以上の担体、賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、防腐剤、安定剤、香味剤等と共に混合して、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、水薬、ドリンク剤等の内服薬剤とすることが好ましい。この医薬用組成物の投与量は、患者の年齢、症状、体重等により異なるが、成人1日当たり、3−ハイドロキシ−2−ピロンを0.4〜0.6mg含む医薬用組成物を、1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0055】
また、この血小板凝集抑制剤又は肝障害改善剤を飲食品に含有させることで、血栓症を予防し、又は肝障害を改善する機能性飲食品を提供することができる。飲食品としては、飲料、穀類加工品、水産・畜産加工品、乳製品、菓子類、調味料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】血小板凝集惹起物質としてアラキドン酸を添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図2】血小板凝集惹起物質としてU−46619を添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図3】血小板凝集惹起物質としてADPを添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図4】血小板凝集惹起物質としてPMAを添加したときの3−ハイドロキシ−2−ピロンによる凝集阻害率を示す図である。
【図5】D−GalN処理ラットのALT活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図6】D−GalN処理ラットのAST活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図7】D−GalN処理ラットの総ビリルビン量に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図8】D−GalN処理ラットのγ−GTP活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を水溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図9】D−GalN処理ラットのALT活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図10】D−GalN処理ラットのAST活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図11】D−GalN処理ラットの総ビリルビン量に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【図12】D−GalN処理ラットのγ−GTP活性に対する3−ハイドロキシ−2−ピロン(HP)の効果を脂溶性抗酸化物質と比較して示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有する血小板凝集抑制剤。
【請求項2】
3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有する肝障害改善剤。
【請求項3】
請求項1記載の血小板凝集抑制剤を含有する医薬用組成物。
【請求項4】
請求項2記載の肝障害改善剤を含有する医薬用組成物。
【請求項5】
請求項1記載の血小板凝集抑制剤を含有する機能性飲食品。
【請求項6】
請求項2記載の肝障害改善剤を含有する機能性飲食品。
【請求項1】
3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有する血小板凝集抑制剤。
【請求項2】
3−ハイドロキシ−2−ピロンを有効成分として含有する肝障害改善剤。
【請求項3】
請求項1記載の血小板凝集抑制剤を含有する医薬用組成物。
【請求項4】
請求項2記載の肝障害改善剤を含有する医薬用組成物。
【請求項5】
請求項1記載の血小板凝集抑制剤を含有する機能性飲食品。
【請求項6】
請求項2記載の肝障害改善剤を含有する機能性飲食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−246475(P2007−246475A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74906(P2006−74906)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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