血栓症の処置のための抗糖タンパク質VISCFVフラグメント
本発明は、配列番号1で示される、(Gly4Ser)3ペプチドを介して結合された9O12.2.2モノクローナル抗体のVHおよびVLドメインとそれに続く「c−myc」フラッグからなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント(scFv 9O12.2)に関する。本発明はまた、同一の重鎖および軽鎖相補性決定領域1、2および3を有する前記scFv 9O12.2フラグメントの機能的変異体、好ましくは、配列番号28または配列番号47で示されるヒト化scFvフラグメントなどのヒト化機能的変異体に関する。本発明はまた、このようなscFvフラグメントをコードする核酸、このようなscFvフラグメントを産生するための発現ベクターおよび宿主細胞、ならびにこのようなscFvフラグメントの治療的使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、配列番号1で示される、(Gly4Ser)3ペプチドを介して結合された9O12.2モノクローナル抗体のVHおよびVLドメインとそれに続く「c−myc」フラッグからなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント(scFv 9O12.2)に関する。本発明はまた、同一の重鎖および軽鎖相補性決定領域1、2および3を有する前記scFv 9O12.2フラグメントの機能的変異体、好ましくは、配列番号28または配列番号47で示されるヒト化scFvフラグメントなどのヒト化機能的変異体に関する。本発明はまた、このようなscFvフラグメントをコードする核酸、このようなscFvフラグメントを産生するための発現ベクターおよび宿主細胞、ならびにこのようなscFvフラグメントの治療的使用に関する。
【0002】
背景技術
急性冠動脈および脳血管偶発症候は現在、世界の第一の死因である。さらに、急性冠動脈症候群後の処置の6か月後の再発および死亡の全体の罹患率は依然として8〜15%である。STセグメントの上昇を伴う急性冠動脈症候群の場合、冠動脈血管形成術およびステントの導入による機械的処置は冠動脈流を緊急に回復させるのに極めて効果的であるが、その後6か月に患者の15%で罹患/死亡を防ぐことができない。
【0003】
長期の繊維素溶解薬、抗凝固薬および抗凝集薬の組合せに基づく血栓溶解処置は、有望な結果はほとんど得られない。実際、血栓症の医学的処置が改善されたものの、6か月時点での罹患率/死亡率は、セグメントST上昇を伴わない急性冠動脈症候群で見られるものと同様である。
【0004】
脳血管虚血の偶発症候に関しては、一般にほとんどの患者の手当が遅れるため、また、現在利用可能な抗血栓処置の出血リスクのために、処置は依然として非常に限定されたものである。
【0005】
従って、心血管疾患の処置の改善、特に、利用可能な分子に比べて特徴が改善された新規な分子、特に出血作用が軽減された分子の、本当に差し迫った臨床上の必要性がある。
【0006】
血小板−コラーゲン相互作用は急性動脈血栓の発生および血栓後の血管再構築において重要である。糖タンパク質VI(GPVI)、コラーゲンによる血小板に対する主要な受容体は、実験的血栓症、血管再構築、動脈血栓および急性心筋虚血に役割を果たすことが動物で実証されている。
【0007】
現在血栓処置に用いられ、血小板の最終活性化段階を阻害するαIIbβ3インテグリンアンタゴニストに対して、GPVIは血小板の初期活性化段階に関連し、従って、GPVIアンタゴニストは血小板凝集を妨げるだけでなく、二次的アゴニストの放出、さらには血管傷害の発生をもたらす増殖因子およびサイトカインの分泌も妨げるはずである。さらに、GPVIの欠乏は高い出血リスクを伴わず、従って、患者の安全性に関して重要な特性ではない。最後に、GPVIの発現は血小板に限定されているので、抗血栓処置の完全に特異的な標的となる。
【0008】
よって、GPVIアンタゴニストは一次的および二次的血栓を特異的かつ効率的に防ぐのに効果的であり、しかも低い出血リスクしか伴わないはずである。
【0009】
様々な種の可能性のあるGPVIアンタゴニストが作出されている。あるアプローチでは、GPVI細胞外ドメインとヒトIg Fcドメインの融合タンパク質である可溶性GPVI組換えタンパク質が作出されている(例えば、WO01/00810(1)およびWO03/008454(2)参照)。よって、可溶性組換えGPVIタンパク質は、コラーゲンとの結合をめぐって血小板と競合する。血栓症ネズミモデルではこの可溶性GPVIタンパク質で初めて有望な結果が得られた(3)が、これらの結果は確認されていない(4)。さらに、このアプローチは構造的、機能的および薬理学的欠点を含んでいる。第一に、この化合物は高分子量タンパク質(〜160kDa)であり、その半減期は短いと予測される。GPVIは少なくとも1つのプロテアーゼ切断部位を含んでいるので、この性組換えGPVI−Fcタンパク質の加水分解を考えなければならない。コラーゲンと結合すると、このタンパク質はそのFcドメインを血流に曝す。ヒト血小板(マウス血小板はそうではない)および白血球はそれらの表面で親和性の低いFc受容体(FcγRIIA)を発現する。固定されたGPVI−Fcによる血小板FcγRIIAの架橋は血小板を活性化しやすいので、予測されるものとは反対の作用を持つ。また、このタンパク質を投与すべきタイミングと用量も問題となっている。血小板は、ひと度コラーゲンと結合すると、急速かつ不可逆的に活性化される。従って、GPVI−Fcを効果的とするには、血小板の活性化前に投与すべきであり、これは血栓事象の前であり、現在の医学ではまれな状況である。さらに、投与すべきタンパク質の量は、予測不可能なパラメーターである血管傷害の大きさと性質の関数として様々である。
【0010】
他の多くのものはヒトGPVIに対する中和モノクローナル抗体を開発しようとした。例えば、EP1224942(5)およびEP1228768(6)は、血栓性疾患の処置のための、マウスGPVIと特異的に結合するモノクローナル抗GPVI抗体JAQ1を開示している。JAQ1抗体はマウス血小板上でGPVI受容体の不可逆的インターナリゼーションを誘発する。
【0011】
EP1538165(7)は、別のモノクローナル抗GPVI抗体hGP 5C4を記載しており、このFabフラグメントは、コラーゲン刺激によって誘発された血小板の主要な生理機能に著しい阻害作用を有することが見出されている。なお、コラーゲンにより媒介される生理学的活性化パラメーターPAC−IおよびCD 62P−セレクチンの刺激は、内因性の活性のないex vivoにおいて、hGP 5C4 FabおよびhGP 5C4 Fabにより強力に阻害されたヒト血小板凝集によって完全に妨げられた。
【0012】
WO2005/111083(8)は、in vitroにおいてGPVIとコラーゲンの結合、コラーゲンにより誘発される分泌およびトロンボキサンA2(TXA2)の形成、ならびにカニクイザルに静脈内注射した後にex vivoにおいてコラーゲンにより誘発される血小板凝集を阻害することが見出された4つのモノクローナル抗GPVI抗体、OM1、OM2、OM3およびOM4を記載している。OM4はまた、ラット血栓モデルにおける血栓形成も阻害するものと思われる。
【0013】
WO01/00810(1)もまた、7I20.2、8M14.3、3F8.1、9E18.3、3J24.2、6E12.3、IP10.2、4L7.3、7H4.6、9O12.2、7H14.1および9E18.2と呼ばれる種々のモノクローナル抗GPVI抗体、ならびにA9、A10、C9、A4、C10、B4、C3およびD11と呼ばれるいくつかのscFvフラグメントを記載している。これらの抗体およびscFvフラグメントのうち、抗体8M14.3、3F8.1、9E18.3、3J24.2、6E12.3、IP10.2、4L7.3、7H4.6および9O12.2、ならびにscFvフラグメントA10、A4、C10、B4、C3およびD11を含む1いくつかのものは、GPVIがコラーゲンと結合するのを阻害することが見出された。
【0014】
さらに、9O12.2 Fabフラグメントは、コラーゲンにより誘発される血小板凝集および分泌を完全に遮断すること、コラーゲンにより刺激される血小板の凝血促進活性および静置条件での血小板とコラーゲンの接着を阻害すること、血小板の接着を損なうこと、および動脈流条件下で血栓の形成を防ぐことが見出された(9)。
【0015】
しかしながら、現在知られている抗GPVI抗体に、in vivoにおいて、動脈および静脈血栓、再狭窄、急性冠動脈症候群およびアテローム性動脈硬化症による脳血管偶発症候などの血小板凝集に関連する心血管疾患を予防および/または治療するのに本当に有効であることが証明されたものはない。最近までに、報告されている種々の抗GPVI抗体は、ヒトの医学的使用にための抗血栓薬の開発にはそぐわないことが分かった。阻害特性が報告されているものは数種に過ぎない。マウスGPVIに向けられ、ヒトGPVIとは交差反応しないJAQlの場合がこれである(10)。ヒトGPVIに対するヒトscFvは阻害性があると報告されているが(11、12)、それらの親和性は低いと思われる。ごく最近、ヒトGPVIと良好な親和性を有する新たな阻害抗体が同定され(13)、治療手段としての開発が提案されている。
【0016】
しかしながら、血小板表面での二価または多価リガンドによるGPVIの架橋は血小板の活性化をもたらす。GPVIの二量体形成を介して、およびGPVIと低親和性Fc受容体(FcγRIIA)の架橋を介して血小板を活性化する9O12.2 IgGの場合がそれである(9)。Fab’2もまた、GPVIの二量体形成を介して血小板を活性化する(9)。これに対し、一価の9O12.2 Fabフラグメントは阻害的である。しかし、これらのフラグメントは、それらの大きさと動物起源であることのために(ヒト患者において免疫原性となる)治療薬として使用することができない。
【0017】
よって、高い効率、低い出血リスク、ならびに低い免疫原性作用で、血小板凝集の初期段階を阻害する有効な中和GPVIアンタゴニストの必要性がなおある。
発明の開示
【0018】
本発明者らは、9O12.2モノクローナル抗GPVI抗体ハイブリドーマから、免疫定常ドメイン(CH1およびCL)を持たず、大きさが縮小されたフラグメント中に機能的阻害モチーフを含む利点を有する単鎖可変フラグメント(scFv)9O12.2を作出した。このscFvは、治療的使用に適した形式を得るために免疫寛容性と安定性が改良されたフラグメントを作製するための出発材料である。
【0019】
このようなフラグメントをデザインするための技術的アプローチはこれまでに報告されているが、各scFv構築物を特異的ケースとすることを乗り越えるには多くの困難がある。これらの困難としては、異常な転写物を迂回することによる抗体V遺伝子のクローニング(14)、適切な折りたたみに十分適切なリンカーの同定、Vドメインの単量体scFvへの会合および最後にscFvを機能的可溶型で発現可能な原核生物発現系の選択が含まれる。
【0020】
よって、本発明は、
配列番号2、配列番号3および配列番号4からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVHドメイン、
ペプチドリンカー、および
配列番号5、配列番号6および配列番号7からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVLドメイン
を含んでなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメントに関する。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明のscFvフラグメントは、精製に有用なペプチドタグ、および所望により、核scFvフラグメント(VHおよびVLドメインとペプチドリンカーを含む)とペプチドタグの間に短いペプチドスペーサーをさらに含んでなる。
【0022】
抗体はおおまかには、「重鎖」および「軽鎖」と呼ばれる2つの異なるポリペプチド鎖からなるY型分子であり、抗体はジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖と2つの軽鎖からなっている。各重鎖は可変ドメイン(「VHドメイン」)と3つの定常ドメイン(「CH1」、「CH2」および「CH3」ドメイン)からなり、各軽鎖は可変ドメイン(「VLドメイン」)と定常ドメイン(「CLドメイン」)からなる。
【0023】
「単鎖可変フラグメント」または「scFvフラグメント」とは、リンカー分子によって連結された抗体のVHおよびVLドメインを含んでなる単一の折りたたまれたポリペプチドを指す。このようなscFvフラグメントでは、VHおよびVLドメインは、VH−リンカー−VLかVL−リンカー−VHのいずれの順であってもよい。scFvフラグメントは、その産生を助ける他、スペーサーによってscFvと連結されたタグ分子を含み得る。
【0024】
さらに、各可変ドメイン(VHまたはVLドメイン)は、抗体間で示す変動が小さく、可変ドメインの構造フレームワークを形成するβシートの形成に関与する4つの「フレームワーク領域」(FR1、FR2、FR3およびFR4)と、各βシートの末端において折りたたまれた可変ドメインに並置された3ループに相当する、一般に「相補性決定領域」1、2および3(CDR1、CDR2、CDR3)と呼ばれる3つの超可変領域からなる。これら3つのCDR領域は、主として抗原と接触する可変ドメインの部分、特に、重鎖および軽鎖の再配列領域に相当し、いっそう可変性が高く、より直接的に特異的抗原と接触する各鎖のCDR3領域であるので、抗体または抗体フラグメントの特異性の決定に重要である。
【0025】
よって、本発明は、同一のCDR領域を維持する9O12.2の総ての機能的変異体を包含する。scFvフラグメント9O12.2CDR領域データを下表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
「ペプチドリンカー」とは、scFvフラグメントの適当な折りたたみ、すなわち、VHおよびVLドメインの適当な折りたたみとそれらが一緒になる能力を可能とする柔軟なペプチドを意味する。さらに、このようなペプチドリンカーは単量体機能的単位への折りたたみが可能であるべきである。scFvがVHからVL配向(VH−リンカー−VL)に組み立てられた場合、3〜12残基のリンカーを有するscFvは機能的Fvドメインへと折りたたみ不能であり、その代わりに別の分子と会合して二価の二量体を形成する。3残基未満に減れば三量体となる。従ってこの場合には、好適なリンカーは少なくとも12アミノ酸、好ましくは25アミノ酸未満、好ましくは14〜18、14〜16の間、または15アミノ酸を有するべきであり、好ましくは高いパーセンテージ、好ましくは少なくとも50%のグリシン残基を含むべきである。好適なペプチドリンカーとしては、ペプチド(G4S)3(配列番号8)、G4IAPSMVG4S(配列番号9)、G4KVEGAG5S(配列番号10)、G4SMKSHDG4S(配列番号11)、G4NLITIVG4S(配列番号12)、G4VVPSLG4S(配列番号13)およびG2EKSIPG4S(配列番号14)が挙げられる。scFvがVLからVH配向(VL−リンカー−VH)に産生される場合、VLのC末端とVHのN末端の間の距離は、VHのC末端とVLのN末端の間の距離よりもわずかに大きい(30〜34Åに対して39〜43Å)。従って、18アミノ酸残基のリンカーが、使用可能な最小配列サイズである。よって、好適なペプチドリンカーは18〜25aa、好ましくは18〜21の間であるべきである。好適なリンカーの例としては、配列GSTSGSGKSSEGSGSTKG(配列番号15)のリンカーである。
【0028】
「ペプチドタグ」とは、特異的抗体が利用可能な5〜15アミノ酸のペプチドを意味する。本発明のscFvフラグメントには任意であるが、scFvフラグメントのC末端に挿入されたこのようなペプチドタグは、組換え産生後にscFvフラグメントの精製を容易にすることができる。実際に、ペプチドタグは、他でもなく、そのタンパク質に特異的結合親和性を与え、クロマトグラフィーを用いてより容易な精製が可能となる。好適なペプチドタグの例としては、ニッケルイオンに対して親和性を有し、従って、ニッケルを含むクロマトグラフィーカラムを用いて精製され得るHis6タグ(HHHHHH、配列番号16)、またはそれらの特異的抗体の対して高い親和性を有し、従って、固定化されたペプチドに対する抗体を含むカラムを用いて精製され得るエピトープペプチド、例えば、c−mycタグ(EQKLISEEDLN、配列番号17)、HAタグ(YPYDVPDYA、配列番号18)、フラッグタグ(DYKDDDDK、配列番号19)、タンパク質Cタグ(EDQVDPRLIDGK、配列番号20)、Tag−100タグ(EETARFQPGYRS、配列番号21)、V5エピトープタグ(GKPIPNPLLGLDST、配列番号22)、VSV−Gタグ(YTDIEMNRLGK、配列番号23)またはXpressタグ(DLYDDDDK、配列番号24)が挙げられる。
【0029】
「短いペプチドスペーサー」とは、1〜15アミノ酸、好ましくは1〜12または1〜10アミノ酸、例えば8アミノ酸のペプチドを意味する。このようなペプチドスペーサーは、任意のペプチドタグの真のscFv部分(ペプチドリンカーによって分離されたVHおよびVLドメイン)を分離することを意図する。特にペプチドタグが存在しない場合も、ペプチドタグが含まれる場合にも、本発明のscFvフラグメントの必要は必ずしもない。実際、ペプチドタグはVHまたはVLドメインに直接融合され得る。しかしながら、1〜12アミノ酸の短いペプチドスペーサーは有用であり得る。例えば、9O12.2 scFvフラグメントでは、配列RSRVTVSS(配列番号25)の8アミノ酸ペプチドスペーサーが用いられてきた。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明は、配列番号1と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、またはからなるヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント(scFv)に関し、ここで、前記266アミノ酸配列のうちアミノ酸26〜35、50〜66、99〜109、159〜174、190〜196および229〜237はそれぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる。このようなscFv 9O12.2の機能的変異体は同一のCDR領域を保持するだけでなく、scFv 9O12.2のアミノ酸配列と高い同一性%を有する。特定の実施形態では、本発明は、配列番号1を含んでなる、またはからなる単鎖可変フラグメントに関する。
【0031】
しかしながら、フレームワーク領域は、ヒト糖タンパク質VIに対するキメラ、特にヒト化scFvフラグメントを作出するように変異させることができる。ある種の参照抗体または抗体フラグメントに関して、対応する「キメラ」抗体または抗体フラグメントは、フレームワーク領域が別の種の対応するフレームワーク領域に置き換えられているものである。より詳しくは、「ヒト化」抗体または抗体フラグメントは、フレームワーク領域がヒトフレームワーク領域に置き換えられている、同一のCDR領域を有する抗体または抗体フラグメントである。
【0032】
scFv 9O12.2フラグメントはネズミモノクローナル抗体9O12.2から本発明者らによって誘導されたものであり、従って、マウスフレームワーク領域を有する。しかしながら、ヒト患者においてこのフラグメントの注射の免疫原性作用を軽減するためには、ネズミフレームワーク領域がヒトフレームワーク領域に置き換えられているヒト化scFvフラグメントが望ましい可能性がある。
【0033】
抗体Vドメインをヒト化するいくつかの可能性のある方法が示唆されている。それらはCDRグラフト、Vドメインの表面置換、または元の分子の抗原特異性と親和性を維持しつつ免疫原性を減じる目的で、あるV鎖に多様な置換を探索する予測的コンピューター分析を含む(17〜19)。これらの方法には単純なものはなく、総て特異性および/または親和性を損なう結果となることがも多い(20〜23)。
【0034】
これらの困難にもかかわらず。本発明者らは、配列番号1のアミノ酸番号1〜120および136〜266に対応するネズミ9O12.2 scFvフラグメントのVHおよびVLドメインがそれぞれヒト化VHおよびVLドメイン配列番号26および配列番号27に置換されており、配列番号28のアミノ酸配列のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1)、図14参照)をもたらす、第一のヒト化scFvフラグメントを作出した。
【0035】
よって第一の好ましい実施形態では、本発明は、VHおよびVLドメインのフレームワーク領域がヒト抗体のフレームワーク領域を有するVHおよびVLドメインに置き換えられている、請求項1〜3のいずれかに記載の単鎖可変フラグメントに関する。特に、前記VHおよびVLドメインはそれぞれ配列番号26および配列番号27に置換されていてもよい。より厳密には、配列番号1を含んでなる、またはからなるscFvフラグメントがヒト化されている場合、それは配列番号28を含んでなる、またはからなる第一のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1)、図14参照)をもたらし得る。
【0036】
このようなヒト化scFvフラグメントを作出するためには、CDRグラフトと呼ばれる周知の技術を使用することができ、その技術はドナーscFvフラグメントから相補性決定領域(CDR)を選択すること、およびそれを既知の三次元構造のヒトscFvフラグメントフレームワークにグラフトすること(例えば、WO98/45322(24);WO87/02671(25);米国特許第5,859,205号(26);米国特許第5,585,089号(27);米国特許第4,816,567号(28);EP0173494(29);および参照文献20〜21および30〜31)、または可能性のある候補を特定するためにデータベースを検索することを含む。コンピューターモデリングおよびヒト生色細胞系配列との比較による典型的な方法では、ヒト化するモノクローナル抗体の抗原結合ループを最も適合するフレームワークに重ね合わせる。scFv 9O12.2をヒト化するアプローチはCDRグラフト技術(32)から採用したものである。ネズミ9O12.2抗体のCDRがヒト可変鎖フレームワークにグラフトされた。ヒト抗体の選択は次の基準を用いて行われた:結晶構造が解明されていること(pdbライブラリーでのIVGE);ヒト抗体IVGEの可変ドメインは9O12.2の可変ドメインと高い程度の配列相同性を示すこと(VH60.6%;VL55.4%);候補ヒト抗体IVGEの結晶学的データと9O12.2の可変ドメインのモデルの構造比較を行い、ヒトアクセプタースキャフォールドIVGEの選択の確認が可能であったこと。この戦略により、CDRの適正な折りたたみに必要なスキャフォールドを保持し、抗原に対する高い親和性を保持しつつ、VHドメインとVLドメインの間の相互作用の安定性を低下させるリスクが最小限となる。これらの分析に基づいて選択されたヒト抗体IVGEはヒト化9O12.2scFvの構築を可能とした。構造上の理由のために、CDR H2の後の10残基は変異していなかった。このヒト化scFv 9O12.2をコードするヌクレオチド配列を至適化した。まず、最適な結合特性に関して可能な調整を行うため、これらのCDR領域間に制限部位を導入した。次に、原核生物発現系大腸菌(E. coli)においてヒト化scFvを発現させるために細菌のコドン利用を用いて至適化を行った。この方法により、それぞれ配列番号1のアミノ酸番号1〜120および136〜26に相当するネズミ9O12.2scFvフラグメントのVHドメインおよびVLドメインが、それぞれ配列番号26および配列番号27に置き換えられているヒト化9O12.2scFvフラグメント、すなわち、配列番号28からなるヒト化9O12.2scFvフラグメントが得られた。よって、本発明のヒト化scFvフラグメントの好ましい実施形態では、該scFvフラグメントは配列番号28を含んでなる、またはからなる。
【0037】
この第一のヒト化scFvフラグメントで得られた有望な結果にもかかわらず、このフラグメントは細菌での産生に適しておらず、さらに至適化した第二のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))はhscFv 9O12.2(1)に由来するものである。要するに、VL FR1およびFR2領域では、IVGEフレームワーク1および2との同一性は低く、よって、元の9O12 VL FR1およびFR2は第二のヒト化scFv構築では保存した。モデルの綿密な検査に基づき、他の精密化も行った(詳細については実施例2を参照)。
【0038】
従って、第二の好ましい実施形態では、本発明は、VHおよびVLドメインのフレームワーク領域が、ヒト抗体のフレームワーク領域を有するVHおよびVLドメインに置き換えられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントに関する。特に、該VHおよびVLドメインはそれぞれ配列番号26および配列番号46に置き換えられている場合がある。より厳密には、配列番号1を含んでなる、またはからなるsscFvフラグメントがヒト化される場合、それはまた好ましくは、配列番号47を含んでなる、またはからなる第二のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2)、図18参照)も生じ得る。
【0039】
本発明はさらに、以上に記載したような本発明の単鎖可変フラグメントをコードする核酸配列に関する。特定の実施形態では、該scFvフラグメントは配列番号1を含んでなり、またはからなり、該核酸配列は配列番号29、または例えば遺伝コードの縮重の結果として配列番号1をコードする誘導核酸配列を含んでなる、またはからなる場合がある。
【0040】
該scFvフラグメントがヒト化され、それぞれ配列番号1のアミノ酸番号1〜120および136〜266に相当するネズミ9O12.2scFvフラグメントのVHおよびVLドメインがそれぞれ配列番号26および配列番号27に置き換えられて、配列番号28を含んでなる、またはからなる第一のヒト化9O12.2scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))となる場合、該核酸は配列番号30、または例えば遺伝コードの縮重の結果として配列番号28をコードする任意の誘導核酸配列を含んでなる、またはからなる場合がある。
【0041】
あるいは、該scFvフラグメントがヒト化され、それぞれアミノ酸番号1〜120および136〜266 47に相当するネズミ9O12.2scFvフラグメントのVHおよびVLドメインが、配列番号47を含んでなる、またはからなる第二のヒト化9O12.2scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))となる場合、該核酸は配列番号50(図18C参照)、または例えば遺伝コードの縮重の結果として配列番号47をコードする任意の誘導核酸配列を含んでなる、またはからなる場合がある。
【0042】
本発明はまた、上記のような核酸配列を含んでなる発現ベクターに関する。このような発現ベクターはまた、特定の宿主細胞で、作動可能なように連結されたscFvコード配列を発現させるのに必要な適当な核酸配列も含む。原核生物での発現に必要な核酸配列は、プロモーター、所望によりオペレーター配列、リボソーム結合部位およびおそらくは他の配列を含む。真核細胞は宿主細胞内でプロモーター、エンハンサーならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0043】
このような発現ベクターはまた、発現されたscFvを特定の細胞コンパートメントへ向けるリーダー配列、例えば、scFvフラグメントの膜発現または分泌を命令するか、または細菌の周縁質での発現を命令する配列を含み得る。それはまた、同じプロモーターの制御下に、その発現が発現ベクターで形質転換された組換え宿主細胞を選択するために容易に検出できる選択遺伝子も含み得る。好適な選択遺伝子としては、特に抗生物質耐性遺伝子、蛍光遺伝子、または当業者に公知の、その発現が容易にモニタリングできる他のいずれかの遺伝子が挙げられる。
【0044】
本発明はさらに、上記のような発現ベクターを含んでなる宿主細胞に関する。このような組換え宿主細胞は、宿主細胞を本発明の発現ベクターを用いてトランスフェクトまたは形質転換することによって得ることができる。
【0045】
このような宿主細胞は原核生物であっても真核生物であってもよい。好適な原核生物宿主細胞としては、グラム陽性菌およびグラム陰性菌が含まれる。グラム陰性菌では、好ましい宿主細胞は大腸菌である。細菌で用いるためには、発現ベクターは好ましくは、グラム陰性菌の原形質膜と外膜の間の空間、またはグラム陽性菌の原形質膜とペプチドグリカン層(細胞壁)の間の空間に相当する細菌周縁質にscFvフラグメントの発現を向けるリーダー配列を含み得る。ポリペプチドの発現を細菌周縁質に向ける好適な配列としては、sompA、ompF、ompT、LamB、β−ラクタマーゼ、M13由来cp VIII、pelB、malEまたはphoAシグナルペプチドまたはリーダー配列が挙げられる。特定の実施形態では、前記リーダー配列はpelBである。
【0046】
あるいは、真核細胞、特に哺乳類細胞を用いてもよい。実際、これはグリコシル化scFvフラグメントを直接的に生じさせることができる。発現のための宿主として利用可能な哺乳類細胞系統は当技術分野で公知であり、限定されるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベイビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)およびいくつかの他の細胞系統を含む、特にAmerican Type Culture Collection (ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞が挙げられる。真核細胞としては、酵母細胞も使用可能である。天然ヒトグリコシル化パターンに最も近いグリコシル化パターンを得るために、それを宿主細胞としてのヒト細胞系統に求めてもよい。あるいは、化学的に定義された増殖培地で高い細胞密度まで増殖可能な発酵法で一般に用いられる強い生物であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)酵母細胞が、まず、内在する酵母グリコシル化経路を排除し、in vivoにおいて酵母に複合体ヒトN−グリカン、GlcNAc2Man3GlcNAc2を産生させることを可能とする合成in vivoグリコシル化経路をその生物に順次構築することにより改変されている(EP1297172(33)、EP1522590(34)および参照文献35、36参照)。ヒト化されたグリコシル化経路を有するこのような改変酵母細胞は、均一な複合体N−グリコシル化を伴うヒト糖タンパク質を分泌することができる。
【0047】
本発明はまた、上記のような本発明の単鎖可変フラグメントを作製する方法であって、
a)上記のような本発明の宿主細胞を培養すること、および
b)該単鎖可変フラグメントを精製すること
を含む方法に関する。
【0048】
宿主細胞を培養するためのプロトコールおよび培地は常法であり、当業者ならば容易に使用可能である。得られたscFvフラグメントの精製については、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、タンパク質L−セファロースを使用)またはイオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析などを含む周知の技術を用いて行うことができる。より厳密には、scFvフラグメントは上記のようなHis6タグまたはエピトープタグを含んでなる場合、ニッケルイオンカラムまたは固定化された特異的抗体を含有するカラムを用いたHPLC。
【0049】
本発明はさらに、薬剤としての上記のような本発明の単鎖可変フラグメントに関する。
【0050】
本発明はまた、上記のような本発明の単鎖可変フラグメントと薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。
【0051】
より厳密には、本発明はまた、動脈および静脈血栓、再狭窄、急性冠動脈症候群ならびにアテローム性動脈硬化症による脳血管偶発症候から選択される心血管疾患の治療および/または予防を目的とした薬剤を製造するための、上記のような本発明の単鎖可変フラグメントの使用に関する。このような使用の好ましい実施形態では、該心血管疾患は血栓症である。
【0052】
本発明の概略を記載したが、特定の具体的な実施例および図面を参照すれば本発明の特徴および利点のさらなる理解が得られる。これらの実施例および図面は単に例示のために本明細書に示されるものであり、特に断りのない限り限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】scFv 9O12.2発現ベクターを構築するための用いた方法の概略図。工程1:T7およびLink9O12.2VHForプライマーを用いた9O12.2.2モノクローナル抗体VHセグメントと、Link9O12.2VLRevおよび9O12.2mycForプライマーを用いたVLセグメントのPCR増幅。工程2:pSWRevおよび9O12.2mycForプライマーを用いたオーバーラップPCR増幅とその後のpSWRevおよびpSWForプライマーを用いたPCR増幅による、scFv 9O12.2をコードする核酸の作製。工程3:PCR産物のDNA精製。工程4:Pst1およびXho1制限酵素を用いた精製DNAの消化。工程5:消化産物のpSW1発現ベクターへのクローニング。工程6:得られた構築物の配列決定。
【図2】プラスミドpSWscFv 9O12.2mycにクローニングされたscFv 9O12.2のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。発現ベクターpSW1の制限部位Pst1とXho1の間にクローニングされたscFv 9O12.2のヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列。PCR増幅に用いたプライマーに相当するか、またはリンカーペプチドをコードするヌクレオチド配列を斜体で示す。VHおよびVLの相補性決定領域(CDR)の推定アミノ酸配列を下線で示す。c−mycフラッグの推定アミノ酸配列を示す。
【図3】scFv9O12.2の三次元モデル。9O12.2.2抗原−結合ドメインのモデル(側面図)。CDRを示す。
【図4】ヒト血小板に対するフローサイトメトリーによる細菌周縁質抽出物の分析。無関連のscFv−mycをコードするプラスミドまたはプラスミドpSW scFv9O12.2−mycで形質転換された誘導型組換え細菌の細菌周縁質抽出物をヒト血小板とともにインキュベートした。scFvの結合をFITC結合抗cmyc抗体を用いて分析した。A:無関連のscFv、B:scFv 9O12.2、左のパネル:前方分散と側方分散、右のパネル:蛍光ヒストグラム。
【図5】大腸菌Topp1における周縁質生産とpSW1−scFv9O12.2myc培養物由来の組換えタンパク質の親和性アフィニティークロマトグラフィー精製。(A):クーマシーブリリアントブルーで染色したSDS−PAGE。(B):抗c−myc IgGを用いたウエスタンブロット解析。レーン1:分子量標準、レーン2:GPVI−セファロースカラムにのせた誘導細菌の周縁質画分、レーン3:GPVI−セファロースカラム流出画分、レーン4:GPVI−セファロースカラム溶出画分。
【図6】天然scFvのサイズ排除クロマトグラフィー。アフィニティー精製されたscFv 9O12.2のサイズ排除クロマトグラフィーは既知分子量の標準で較正したセファデックス75 HR 10/30カラムで行った。
【図7】固定化GPVI−Fcに対する精製scFv 9O12.2の結合。scFv 9O12.2(黒の記号)または無関連のscFv(グレーの記号)をGPVI−Fcコーティングプレートでインキュベートし、HRP結合抗c−mycを用いて検出した。(A):結合等温線。(B):漸増量のIgG 9O12.2との競合におけるscFv 9O12.2(60μg・mL−1)の結合。
【図8】固定化GPVI−Fcに対するscFv 9O12.2の結合の表面プラズモン共鳴分析。GPVI−Fに親和性のあるscFv 9O12.2は高く、2.5×10ー9程度のKDを有する。IgGおよびFab 9O12.2.2のGPVI−Fcに対するKDもナノモル程度である(それぞれ6.5×10ー9Mおよび4.5×10ー9M)。
【図9】固定化コラーゲンに対するGPVIの結合の阻害。GPVI−Fcを漸増量の抗体:scFv 9O12.2(三角)またはpFab(四角)の存在下、固定化コラーゲン上でインキュベートした。(A):2μgのGP VI−Fc、(B):4μgのGPVI−Fc。結合したGPVI−FcはHRP結合抗Fc IgGを用いて検出した。
【図10】血小板に対する精製scFv 9O12.2の結合:フローサイトメトリー分析。洗浄した血小板を無関連のscFv(上)または漸減量のscFv 9O12.2(100、50および25mM)とともにインキュベートした。scFvの結合は、FITC結合抗c−myc IgGを用いて分析した。
【図11】コラーゲンにより誘発される血小板凝集に対するscFv 9O12.2の効果。洗浄したヒト血小板(2.108mL)を無関連のscFv(下の曲線)、Fab 9O12.2(25μg/ml)(上の曲線)、単離された単量体scFv 9O12.2(黒)とともに37℃で5分間インキュベートし、コラーゲンを加えた。37℃、攪拌条件で凝集を分析し、光伝達の変化を記録した。
【図12】動脈流条件下でコラーゲンにより誘発される血小板凝集に対するmscFv 9O12の効果。全血(5mL)を細胞透過性の蛍光色素DIOC−6で標識し、画像で白く見える血小板をPBS(A)または50μg・mLー1の抗体フラグメント(B〜D)とともにインキュベートした後、1500s−1でフローチャンバー内のコラーゲンコーティングカバースリップへ流した。コラーゲンマトリックスと結合した血小板凝集塊の形成を蛍光顕微鏡で記録した。(B)無関連のscFv 9C2。(C)mscFv9O12。(D)Fab 9O12。
【図13】PRPにおけるコラーゲンにより誘発されるトロンビン生成に対するmscFv 9O12の効果。コラーゲンを加える前に、血小板豊富血漿(PRP)をビヒクル(黒の曲線)または50μg・mL−1のFab9O12(濃いグレー)またはmscFv 9O12(薄いグレー)とともに予備インキュベーションを行った。0.5pM組織因子および16.6mM CaCl2を加えることでトロンビンの生成を開始させた。蛍光基質を用いてトロンビン濃度を測定し、較正物質と比較して算出した。これらの追跡は1つの代表的な実験からのものである。棒グラフは誘導期の平均値±SDとピーク値を示す(n=3)(バーは小さすぎて見えないSDに相当する)。
【図14】ヒト化VHおよびVLドメインならびに第一のヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。A.ヒト化9O12.2 VH(1)ヌクレオチド(配列番号31)およびアミノ酸(配列番号26)を示す。B.ヒト化9O12.2 VL(1)ヌクレオチド(配列番号32)およびアミノ酸(配列番号27)を示す。C.ヒト化hscFv9O12.2(1)ヌクレオチド(配列番号30)およびアミノ酸(配列番号28)を示す。
【図15】第一のヒト化scFv 9O12.2(hscFv 9O12.2(1))の特性決定。GPVIセファロースへの親和性結合:組換え細菌の周縁質画分をGPVIセファロースカラムにのせた。保持されたタンパク質を、抗c−myc IgG、次いでHRPに結合された抗マウス抗体とECL曝露を用い、ウエスタンブロットによって分析した。ヒト化scFvに関して予測されたように、分子量28.5kDaの単一バンドが検出される。
【図16】GPVI−Fcに対するscFv 9O12.2の結合。精製した第一のヒト化scFv(hscFv 9O12.2(1)、濃いグレー)およびmscFv(薄いグレー)をCM5センサーチップに固定されているGPVI−Fcに注入した。ブランクシグナルの検出の後のセンサーグラムを示す。
【図17】ヒト血小板に対する第一のヒト化scFv9O12(hscFv 9O12.2(1))の結合。ヒト血小板を細菌周縁質抽出物とともにインキュベートした。血小板に結合したscFvは、FITC結合抗c−myc抗体を用いて検出した。血小板との結合を、XL Epics Coulterフローサイトメーターで分析した。無関連のscFvを陰性対照として用いた(上のパネル)。ヒストグラムの右側シフト(下のパネル)は、ヒト化scFv 9O12.2が血小板GPVIと結合することを示す。
【図18】ヒト化VHおよびVLドメインならびに第二の至適化ヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。A.ヒト化9O12.2 VH(2)ヌクレオチド(配列番号48)およびアミノ酸(配列番号26)を示す。B.ヒト化9O12.2 VL(2)ヌクレオチド(配列番号49)およびアミノ酸(配列番号46)を示す。C.ヒト化hscFv9O12.2(2))ヌクレオチド(配列番号50)およびアミノ酸(配列番号47)を示す。酵素制限部位を太字で示す。VHドメインとVLドメインの間のリンカーを下線で示す。CDR領域をグレーで強調されている。
【図19】9O12抗体可変ドメインの至適化されたヒト化。抗体V−ドメインの配列分析:ネズミ9O12(m9O12)、IVGE、ヒト化9O12(h9O12)および1X9Q。(.)はネズミ9O12と同じ残基を示す。(−)はギャップを示す。ネズミ9O12と類似性のないヒト化V−ドメインの残基を赤および青で示す(Kabbat命名法に従って残基AH71、KH73、RH76、LLS9、DL6O)。CDRはグレーで強調されている。
【図20】第二のヒト化(hscFv 9O12.2(2))の特性決定。A−抗cMyc抗体を用いた組換えscFvのウエスタンブロット検出。B−フローサイトメトリー分析。ヒト血小板を抗体フラグメントとともに30分間プレインキュベーションした。scFvの結合は、FITC結合抗c−Myc抗体を用いて検出した。
【実施例】
【0054】
実施例1 ヒト糖タンパク質VIに対するネズミ単鎖可変フラグメント scFv 9O12.2および第一のヒト化単鎖可変フラグメント scFv 9O12.2の合成および活性
1.1 試験手順
1.1.1 材料
【0055】
培地および溶液
LB(ルリア−ベルターニ)、DIFCO 402−17;LB−寒天、DIFCO 445−17;2xTY(トリプトン−酵母)、DIFCO 244020;TES:Tris−HCl 30mM、EDTA 1mM、スクロース20%、pH8.5;PBS:NaCl 0,14M、KCl 13mM、KH2PO4 9mM、Na2HPO4 50mM、pH7.4;BBS:ホウ酸50mM、NaCl 150mM、pH7.6;アンピシリン、Euromedex EU−0400C;イソプロピル β−D−チオガラクトシド(IPTG)、Euromedex EU0008−B;ウシ血清アルブミン(BSA)、Sigma B4287;FITC結合抗c−myc IgG、Sigma F−2047;デスオキシリボヌクレアーゼA、アプロチニン:Sigma A−6279;HRP結合抗c−myc IgG、Invitrogen R951−25;オルトフェニルジアミン(OPD):Sigma P8787、Trizol:Invitrogen、コラーゲンホルムタイプI(Collagen Horm type I):Nycomed、pGEMTクローニングベクター、Promega。scFv発現にはpSWlプラスミドを用いた。6H8および9C2を無関連のscFvとして用いた。
【0056】
オリゴデスオキシリボヌクレオチド配列
用いたオリゴデスオキシリボヌクレオチドを次の表2に挙げる:
【表2】
【0057】
ヒト血小板の調製
ヒト血小板を上述のように調製した(9)
【0058】
フローサイトメトリー
「簡単FITC標識血小板プログラム(Simple FITC labelling of platelets program)」フローサイトメーター Coulter Epics XLを用いた
GPVI−セファロースの調製:
【0059】
試薬:CnBr−セファロースはAmersham-Pharmacia社製とした。研究室で組換え可溶性GPVI(GPVI−Fc)を作製し、精製した(9)。
【0060】
方法:CnBr−セファロース(Amersham-Pharmacia)を供給業者の指示どおりに調製した。それをGPVI−Fc(NaHCO3 0.1M;NaCl 0.5M pH8.3のゲルの8mg/mL)とともに攪拌下で18時間インキュベートした。このゲルを濾過し、濾液中の前記タンパク質濃度を測定して、結合収量を決定した。エタノールアミン(1M、pH8.8)を用いてゆっくりと攪拌しながら暗所にて室温で2時間の遮断工程後、このゲルを濾過し、結合バッファーおよび酢酸ナトリウム0.1M、NaCl 0.5M pH4で順次洗浄した。このゲルをアジ化ナトリウム(1%)含有PBS中、4℃で保存した。
【0061】
1.1.2 手順
scFv 9O12.2の遺伝的構造:
ヒトGPVIに対する免疫グロブリンG(IgG)9O12.2.2を産生する、新たにサブクローニングしたハイブリドーマ9O12.2.2細胞からmRNAを単離した。RT−PCR後、前記抗体可変領域をコードするcDNAをクローニングし、オーバーラップ伸長によるPCRスプライシングによりscFv 9O12.2遺伝子を作出した。scFv 9O12の製造にはpUC 19[pSW Iベクター(37)]から誘導した発現ベクターを用いた。この発現ベクターは、IPTG誘導性LacZプロモーター、pelBリーダー配列と、下流に、フラッグc−mycと融合されたscFv 9O12.2をコードする遺伝子および組換え細菌を選択するのに用いられるアンピシリン耐性遺伝子を含む。
【0062】
scFv 9O12.2発現ベクターの構築に用いた方法を図1に要約する。
【0063】
scFv 9O12.2の製造
リーダー配列pelBは、組換えscFv 9O12.2を、発現ベクターpSW scFv 9O12.2mycで形質転換した細菌の周縁質に向けることを可能にする。scFv 9O12.2を作製するために、細菌Toppl(登録商標)(非K12、Rif、F’、proAB、lacIqZΔM15、Tn10、tetr)(Stratagene, La Jolla, USA)、コロニー55Tlを用いる。
【0064】
*J0:アンピシリンを補給したLB寒天への55Tlコロニーのプレーティング(サブクローニング)。37℃で一晩インキュベーション。
【0065】
*J1:4 PM:一クローンの選択およびアンピシリンを補給したLB 5mL中での培養。攪拌(125rpm)しながら37℃で一晩インキュベーション。
【0066】
*J2:8 AM:600nmにおける吸光度の測定(予測値A600nm=1.5±0.1)。500mL 2xTY+アンピシリンへの4mLの移入。A600nmが1.5±0.1に達するまで(〜8時間)、攪拌(125rpm)しながら37℃でインキュベーション。その後、0.8mM IPTGでの細菌の誘導。攪拌(75rpm)しながら16℃で16時間インキュベーション。
【0067】
*J3:周縁質タンパク質抽出:遠心分離(3600g、4℃で20分)により細菌細胞を集める。ペレットを10mL TESバッファー中にゆっくりと再懸濁し、氷上で30分間インキュベートする。次に、これらの細胞を、TESバッファーを加えることによって弱い浸透圧ショックに付し、1:4希釈する。氷上で30分間のインキュベーション後、4℃にて15000gで30分間の遠心分離により不溶性物質を除去する。さらに、周縁質タンパク質抽出物に相当する上清にデオキシリボヌクレアーゼA(50U)およびプロテアーゼ阻害剤(アプロチニン 2μg/mL)を加える。その後、調製物を4℃でPBSに対して大規模に透析する。同じ手順に従って、無関連のscFvを発現する細菌の周縁質タンパク質抽出物を調製する。
【0068】
*J4:4℃にて15000gで30分間の遠心分離。上清を集め、280nmにおけるその吸光度を測定する(予測値:1.5〜3.0)。解析のために一サンプルをとり、調製物(〜35mL±2.0)を−20℃で保存する。
【0069】
*J5:フローサイトメトリーによる周縁質抽出物のスクリーニング:洗浄したヒト血小板(2x107/mL)を100μLの周縁質タンパク質抽出物とともに室温で30分間インキュベートする。FITC結合抗c−myc IgGを加え、そのインキュベーションを暗所にて室温で30分間続ける。陰性対照は、周縁質抽出物の不在下で抗c−myc抗体とともに行う。サンプルをフローサイトメトリー(Coulter Epics XL)により解析する。
【0070】
*J6:GPVI結合セファロースでのアフィニティークロマトグラフィーによるscFv 9O12.2の精製。周縁質抽出物(35mL)を500μL GPVI−セファロースとともに4℃で12時間、さらに室温で4時間インキュベートする。この混合物をカラムにのせる。流出画分を集めた後、PBSでA280nm=0.001まで洗浄し;グリシン0.1M pH3.0を用いて溶出を行い、氷上で400μLの画分を5μL Tris 3Mの入ったチューブに集める。A280nmを測定し、A280nmが0.2より高い画分をプールし、PBSに対して大規模に透析する。
【0071】
*J7:このサンプルを15000gで30分間遠心分離する。A280nm測定後、タンパク質濃度を決定する。ProtParamソフトウエア(http://www.expasy.ch/tools/pi_tool.html)を用いて、scFv9O12.2mycの理論Mrおよび280nmにおけるその吸光係数を決定する。
【0072】
タンパク質解析:
タンパク質解析を、LaemmliによるSDSの存在下でのポリアクリルアミドスラブゲルでの電気泳動により;タンパク質のニトロセルロースへの転写、HRP結合抗c−myc抗体とのインキュベーションおよび4クロロナフトールを用いた検出後の免疫ブロット法により行った。
【0073】
質量の実験的測定
精製scFvのMrをマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析計(Voyager DE-PRO; PerSeptive Biosystems Inc., Framingham, MA)で測定する。50%アセトニトリルおよび0.1%TFA中のα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸飽和溶液をマトリックスとして用い、外部標準ペプチド混合物を用いて分光計を較正する。
【0074】
サイズ排除−拡散クロマトグラフィー:
精製scFv調製物を、既知分子量の標準を用いて較正したSuperdex 75 HRカラムでのサイズ排除拡散クロマトグラフィーにより分離した。200μLのサンプルを0.5mL/分の速度で注入した。紫外線検出器を用いて226nmで検出をモニタリングする。解析には画分をそのまま用いた。
【0075】
可溶性組換えGPVIとの結合
マイクロタイタープレートをGPVI−Fc(10μg/mL、1ウェルにつき100μL)にて4℃で一晩コーティングする。ウェルを100μL BSAにて室温で2時間飽和させる。次に、これらのウェルに漸増濃度のscFv 9O12を2時間加える。HRP結合抗c−myc−抗体(PBS中1/750)とともに室温で2時間のインキュベーション後、結合したscFvを検出する。その後、これらのウェルに基質溶液(OPD)を5分間加え、492nmで吸光度を読み取る。2つの対照:scFv 9O12.2の代わりに無関連のscFvを用いる第一の対照およびGPVI−Fcでのコーティングを省いた第二の対照を行う。中間工程ごとに0.05% Tweenおよび0.1mg/mL BSAを含有するPBSで5回洗浄を行う。
【0076】
第一ヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))の構築
scFv 9O12.2をヒト化するアプローチはCDRグラフト技術9から適応させた。ネズミ9O12.2抗体のCDRをヒト可変鎖フレームワークにグラフトした。ヒト抗体の選択は次の判定基準を用いて行った:結晶構造が解明されており(pdbライブラリーのIVGE);ヒト抗体IVGEの可変領域が9O12.2の可変領域と高度の配列相同性(VH 60.6%;VL 55.4%)を示し;候補ヒト抗体IVGEと9O12.2の可変領域のモデルとの結晶学的データの構造比較が行われ、それにより本発明者らがヒトアクセプタースキャフォールドIVGEの選択の正当性を立証することが可能であった。この戦略はVHドメインとVLドメインの相互作用の安定性を低下させる危険性を最小限にしながら、CDRの適正な折りたたみに必要なスキャフォールドを保存し、抗原に対して高い親和性を保存する。これらの解析に基づいて選択されたヒト抗体IVGEにより本発明者らはヒト化9O12.2 scFvを構築することができた。ヒト化scFv 9O12.2をコードするヌクレオチド配列には至適化を行った。最初に、最適な結合特性を提供するために調整することができるように、CDR領域間に制限部位を挿入した。さらに、原核生物発現系大腸菌においてヒト化scFvを発現させるために、細菌コドン使用頻度を用いて至適化を行った。
【0077】
より厳密には、本発明者らは最初に、9O12可変領域と最もよく似た配列を有する結晶構造を同定した後、mscFv9O12の3D構造モデルをin silicoで構築した。これら総ての配列はネズミ由来のものであった。モデリングには上位4位のスコアのネズミ由来構造を用いた。VH遺伝子については、本発明者らは、9O12と66〜78%の配列同一性(79〜85%類似性)を有する1PLG、1MNU、1A5FおよびHGIを用いた。VL遺伝子については、本発明者らは、87〜90%の配列同一性(94〜95%類似性)を有する1PLG、HGI、1MNUおよび1AXTを用いた。これら総ての配列の3D構造は2.8Åより高い分解能を用いて解明された。Modeler 3.0ソフトウエアを用いて各ドメインにつき20のモデルを作成し、RMSD値(VHについては0.13ÅおよびVLについては0.703Å)および詳細検査に基づいて最適なものを選択した。
【0078】
次に、本発明者らは9O12 V−ドメインのヒト化を進めた。これを行うために、FASTA検索を行って、PDBデータバンクに登録されたヒト抗体配列のレパートリーに対してVHアミノ酸配列およびVLアミノ酸配列を独立にアラインした。9O12にマッチしたヒトV−ドメインのうち、本発明者らは最初に、自然抗体中で起こるドメイン間接触を保存するために、同じ抗体分子由来のVHおよびVLを選択した。ヒト抗体IVGEは、V−ドメイン配列全体を見たときに9O12と最高の同一性スコアを有し、VHおよびVLについてそれぞれ62%および55%の同一性を示すことが分かったためそれを選択した。フレームワーク領域配列だけで計算すると、その同一性はさらに少し高まり、それぞれ69.5%および65.4%の同一性を示した。さらに、IVGEの結晶構造は高分解能(2ÅおよびR値0.18)で解明された。そのため、本発明者らは9O12 CDRをIVGE鋳型にin silicoでグラフトすることにした。この構築物をコードする遺伝子を化学合成し、mscFv9O12について行ったとおりに正確にpSWIに挿入した。このベクターで形質転換したTOPPI細胞を、組換えタンパク質を発現するように誘導した。
【0079】
この結果、第一のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1)と呼称)が得られた
【0080】
9O12.2 IgGとの競合:
scFv9O12.2(100μg/ml)を漸増濃度の9O12.2 IgGと混合した後、GVI−Fcでコーティングしたマイクロタイトレーションウェルに加えた。結合したscFvを上記のとおり検出した。
コラーゲンとのGPVIの結合に対する抗体の効果:
【0081】
マイクロタイトレーションウェルを繊維状タイプIコラーゲン(fibrilar type I collagen)(Collagen Horn,Nycomed, Munich 2μg/ウェル)でコーティングし、BSAで飽和させ、洗浄する。これらのウェルに、PBS、scFv 9O12.2またはFab 9O12.2とともにプレインキュベートしたGPVI−Fcの漸増量を加える。室温で1時間、洗浄後、結合したGPVI−Fcをペルオキシダーゼ結合抗ヒトFcおよびOPDを用いて検出する。
【0082】
表面プラズモン共鳴(SPR、BIAcore):
抗GPVI scFvと組換えGPVI−Fcとの結合をBIAcore 2000システム(Uppsala, Sweden)を用いた表面プラズモン共鳴により解析する。scFv 9O12、タンパク質加水分解Fabおよび親IgGについて結合研究を行う。
【0083】
組換えGPVI−Fcを、アミンカップリング法(ウィザード法)を用いてカルボキシ−メチルデキストランCM5センサーチップ上に固定する(〜600RU)。次に、固定した組換えGPVI−Fc上に、抗体をHBS−EPバッファー(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.005%ポリソルベート20(v/v))中、25℃で流速20μl/分で流す。BIAevaluationバージョン3.1ソフトウエアを用いて、データを結合モデルに当てはめることにより速度定数(ka、kd)および親和性を決定する。HBS−EPはランニングバッファーである。20μl/分で30秒間注入した10mMグリシン−HCl pH2.5は再生バッファーである。用いた総ての試薬およびバッファーはBiacore社製である。
【0084】
精製scFvとヒト血小板GPVIとの結合
洗浄したヒト血小板(2.107/mL)を0〜100μg/mlの精製scFv 9O12とともに室温で30分間インキュベートし、その後、5μLのFITC結合抗c−myc IgG(希釈溶液1:60)とともに暗所にて室温で30分間再びインキュベートする。細胞蛍光をフローサイトメーター(Epics XL、Coulter)を用いて測定する。scFv 9O12.2の代わりに無関連のscFvを用いることによりバックグラウンドを測定する。
【0085】
血小板凝集
洗浄したヒト血小板(3x108/mL)を、PBS、scFv 9O12.2またはFab 9O12.2とともに攪拌せずに37℃で5分間プレインキュベートする。タイプIコラーゲンを加えることによって凝集を開始させ、光透過率の変化を連続記録する(Chronolog社製血小板凝集計)。
【0086】
フロー条件下での血小板凝集
フロー条件下でのコラーゲンへの血小板粘着を、基本的には別記のとおり(9)測定した。ガラスカバースリップを繊維状タイプIコラーゲン(50μg・mL−1)でコーティングした。健康なボランティアの血液を40μM PPACKで採取し、DIOC−6(1μM)で標識した。血液アリコートを、バッファーまたは終濃度50μg・mL−1の精製抗体フラグメント(Fab 9O12、mscFv9O12、scFv 9C2)とともに室温で15分間インキュベートした。次に、この混合物を、フローチャンバー内に挿入した、コラーゲンでコーティングしたカバースリップに1500秒−1で5分間散布した。透過率および蛍光画像を蛍光顕微鏡を用いて実時間で記録した。蛍光画像は、散布終了時に任意選択された少なくとも10の異なるコラーゲン含有顕微鏡視野から得られた。蛍光画像の領域カバレージをHistolabソフトウエア(Microvision, Evry, France)を用いてオフラインで解析した。
【0087】
トロンビン生成
トロンボグラム法を用いて上述のとおりに(38)多血小板血漿(PRP)中でトロンビン生成を連続測定した。要するに、クエン酸PRP(1.5x108血小板 mL−1)を抗体フラグメントとともに37℃で10分間インキュベートした後、コラーゲンを加えた。10分後、組織因子(0.5pM)の入ったマイクロタイトレーションプレートのウェルにサンプルを入れることによってトロンビン生成を開始させた。37℃で5分後、CaCl2含有バッファーおよび蛍光トロンビン基質Z−GGR−AMC(Stago, Asnieres, France))を加えることによって反応を開始させた。開裂された基質の蛍光蓄積を励起波長および発光波長それぞれ390nmおよび460nmにおいて連続測定した。蛍光蓄積の一次導関数曲線を、トロンビン較正装置を用いてトロンビン濃度曲線に変換した(39)。ピーク高さはトロンビン形成最大速度の指標であり、血小板活性化に影響を受ける。
【0088】
1.2 結果
1.2.1 ネズミ9O12.2 scFv(mscFv 9O12.2)
抗体9O12.2.2 VH cDNAおよびVL cDNAのクローニング
9O12.2はネズミIgG1(κ鎖)である。全RNAを、新たにサブクローニングしたハイブリドーマ細胞 約5.108からTrizolを用いて一段階法により抽出した。このRNA調製物を一本鎖cDNA合成の鋳型として用いた。次に、IgG 9O12.2.2 VHドメインおよびVLドメインをコードする二本鎖cDNAを、プライマーセット(VHRev、VHFor)および(MKRevU、MKC5For)それぞれを用いたPCRにより増幅した。VH cDNA配列はユニークであり、これはpGEMTへのクローニング後のcDNAの配列決定により確認された。VLドメインに対応するPCR産物の配列をスクランブルした。pGEMTへクローニングし、数クローンを配列決定した後、2つのVL配列を同定した。fasta解析を用いたデータ解析により、それらのVL配列の1つが内因性の異常な非機能性Vk mRNA(Gene bank受託番号M35669)を発現するMOPC−21クローンに由来することが分かった。scFv 9O12.2の一部として、もう一方のVL遺伝子およびVH遺伝子のヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列を図2に示している。これらの配列をいくつかのデータバンク(UNIPROT UNIREF100 UNIREF90 UNIREF50 UNIPARC SWISSPROT IPI PRINTS SGT PDB IMGTHLAP, PATENT: epop jpop uspop)(http://www.ebi.ac.uk/fasta33/)(DNA banks: EMBL, Human, MOUSE, SYNTHETIC, PATENT)に登録された免疫グロブリン可変領域配列と比較した。これにより、本発明者らはVH領域およびVL領域の相補性決定領域に相当する3つのループならびにカノニカル構造に関与するアミノ酸残基を同定することができた。
【0089】
Kabat et al. (1991)およびChotia and Lesk (1987)から推定される次のルールに従ってCDRを同定した:
・CDR−L1:
開始−およそ残基24
前の残基は常にCysである
後の残基は常にTrpである。典型的にはTRP−TYR−GLN、同様に、TRP−LEU−GLN、TRP−PHE−GLN、TRP−TYR−LEU
長さ 10〜17残基
・CDR−L2:
開始−常にL1後16残基
前の残基 一般的にはILE−TYR、同様に、VAL−TYR、ILE−LYS、ILE−PHE
長さ 常に7残基。
・CDR−L3:
開始−常にL2後33残基
前の残基は常にCysである
後の残基 常にPHE−GLY−XXX−GLY
長さ 7〜11残基
・CDR−H1:
開始−およそ残基26(常にCYS後4残基)[Chothia/AbM定義] Kabat定義では5残基後に開始する
前の残基 常にCYS−XXX−XXX−XXX
後の残基 常にTRP。典型的にはTRP−VAL、同様に、TRP−ILE、TRP−ALA
長さ 10〜12残基(AbM定義) Chothia定義では最後の4残基を排除する
・CDR−H2:
開始−常にCDR−H1の後15残基Kabat/AbM定義)
前の残基 典型的にはLEU−GLU−TRP−ILE−GLY、同様に多数の変化物
後の残基 LYS/ARG−LEU/ILE/VAL/PHE/THR/ALA−THR/SER/ILE/ALA
長さ Kabat定義 16〜19残基(AbM定義では7残基前に終わる)
・CDR−H3:
開始−常にCDR−H2後33残基(常にCYS後2残基)
前の残基 常にCYS−XXX−XXX(典型的にはCYS−ALA−ARG)
後の残基 常にTRP−GLY−XXX−GLY
長さ 3〜25残基
【0090】
VH cDNA配列は、別のネズミVHドメイン(MMMD52C)をコードするcDNAと92.96%の同一性を示した。VLについては、本発明者らは、ネズミ抗アセチル−LysのVLドメイン(BD174891)をコードするcDNA配列と98.51%の同一であることを見出した。推定アミノ酸配列解析でもネズミIgの配列と高い相同性を示した。9O12.2 VHは、抗CD20ネズミIgGの推定アミノ酸配列(BD688655)と89.256%の同一性を示した。9O12.2 VLは、抗アセチル LysネズミIgGの推定アミノ酸配列(BD581288)と96.43%の同一性を示した。
【0091】
scFv 9O12.2の設計
scFv 9O12.2のヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列を図2に示している。scFvは266アミノ酸長であり、[G4S]3リンカーによって互いに結合されたVHおよびVL配列とそれに続く短いスペーサー(8残基)およびc−mycフラッグ配列(11残基)からなる。
【0092】
scFvの理論構造特性
scFvの理論分子量は、ProtParamソフトウエアを用いて決定されるように28393.5である。そのpIは6.92であり、その吸光係数は280nmにおいて49640M−1cm−1である(表3)。
【0093】
【表3】
【0094】
scFv 9O12.2の分子モデリング
鋳型として用いたネズミ可変領域のPdbファイルは:
VHドメインについては:1PLG:H;1MNU:H;1A5F:H;1IGI:H、
VLドメインについては:1PLG:L;1IGI:L;1MNU:L;1AXT:Lである。
可変領域のモデリングにはModeler 3.0.ソフトウエアを用いた。各ドメインにつき20のモデルを設計し、RMSD値:VH(RMSD:0.13Å);VL(RMSD:0.703Å)に基づいて最適なものを選択した。このモデルを図3に示している。
【0095】
周縁質抽出物の解析
scFvが予測される抗GPVI活性を有するかどうかを評価するために、周縁質抽出物を、ヒト血小板およびFITC結合抗c−myc IgGを用いて試験した。図4は、9O12.2 scFvの存在下で血小板蛍光が右側へシフトし(40%陽性血小板)、無関連のscFvの存在下ではそれが起こらない(0.17%陽性血小板)ことを示している。さらに、周縁質抽出物を、固定した組換え可溶性GPVIとともにインキュベートしたときには、scFv 9O12.2の結合だけが検出された。これらの結果を合わせて、9O12.2 scFvは抗GPVI特性を保有することが示される。
【0096】
9O12.2 scFvの製造および精製
周縁質抽出物、流出画分およびGPVI−セファロースカラムからの溶出画分中に含まれるタンパク質をSDS−PAGEにより、そしてイムノブロットにより解析した(図5Aおよび5B)。溶出画分は、理論質量に一致する〜28kDaの主要なバンドとして現われる。このバンドは、抗c−myc抗体を用いたイムノブロットによっても検出される。これらの結果は、アフィニティークロマトグラフィーによってかなり純粋なscFv画分を得ることができることを示している。
【0097】
サイズ排除クロマトグラフィー
scFvの精製調製物をSuperdex 75 HR 10/30カラムに適用したときに、〜25kDの1つの主要なピーク(モノマーscFvに相当する)が観察された(図6)。このピークは、45kDaおよび68kDaにおける2つのあまり重要でないピーク(二量体およびオリゴマーscFvに相当する)より先に生じた。
【0098】
単量体scFvは非常に安定しており、4℃で保存すると多量体形態は単量体に自発的に戻り、これによりGPVIとの一価結合および生物学的効果を保存することは絶対的となる。実際には、二価抗GPVI分子(IgGまたはF(ab)’2)が血小板活性化をもたらし得る(40,93)ことは十分に確立されている。
【0099】
9O12.2 精製GPVI−FcとのscFvの結合および9O12.2 IgGとの競合
精製scFvはマイクロタイトレーションプレート上に固定されているGPVI−Fcと用量依存的に結合した(図7A)。結合特異性は、無関連のscFvが同じ条件でGPVIと結合しなかったという事実によって示される。
【0100】
さらに、精製GPVIとのscFvとの結合は親IgGによって用量依存的に阻害された(図7B)。
【0101】
可溶性GPVIに対する9O12.2 scFvの親和性
表面プラズモン共鳴によって確認されたGPVI−Fcに対する9O12.2 IgGの親和性およびパパイン消化後に調製されたそのFab(pFab)の親和性は高く、Kdはそれぞれ6.5 10−9Mおよび4.5 10−9Mである。scFvのKdは2.5 10−9Mである(図8)。
【0102】
第二次試験では、次の動力学的パラメーター値を決定した:kon=6.5x104M−1s−1、koff=1.7x10−4s−1および9O12.2 scFvの解離定数KD=2.6nM;さらに9O12 タンパク質加水分解FabフラグメントのKD=2.3nMおよび親IgGのKD=4.0nM。これらの値は第一次試験で得られた値と非常に類似しており、ナノモルKD値が確認される。
【0103】
このように、ネズミscFv 9O12は非常に高い機能的親和性をなお有し、KD値は10−9Mの範囲内であり、このことがscFv−血小板GPVI複合体の安定性に寄与することは間違いなく、これによりフロー条件下での血小板凝集を阻害することは絶対的である。
【0104】
精製9O12.2 scFvはコラーゲンとのGPVIの結合を阻害する
9O12.2 scFvは、固定されている繊維状コラーゲンタイプIとのGPVI−Fcの結合を用量依存的に阻害した(図9)。その阻害能力は9O12.2 pFabのものに近い。
【0105】
より厳密には、mscFv 9O12はコラーゲンとのGPVIの結合を阻害し(IC50はおよそ1.17μg.mL−1(42μM))、80%阻害はmscFv 9O12の濃度5〜10μg.mL−1において達した。この阻害能力は、親IgGのパパイン消化後に調製されたFab 9O12(2.1μg.mL−1;15nM)で観察されたものと同等であった。
【0106】
精製9O12.2 scFvはヒト血小板と結合し、コラーゲン誘導血小板凝集を阻害する。
【0107】
ヒト血小板との精製scFvの結合をフローサイトメトリーにより測定した。ピークの右側シフトによりscFvがヒト血小板と用量依存的に結合することが示される(図10)。無関連の精製scFvは血小板と結合しなかった。
【0108】
GPVI機能に対する9O12.2 scFvの効果を、コラーゲン誘導血小板凝集を測定することによって試験した。このために、モノマー形態のscFvをサイズ排除ゲルクロマトグラフィーによって精製した。9O12.2 scFv(25μg/mL)は、同じ濃度で用いた9O12.2 pFabと同じく、コラーゲン誘導血小板凝集を完全に抑制した(図11)。
【0109】
フロー条件下での血小板凝集
さらに、コラーゲンへの血小板粘着および凝集に対するmscFv 9O12の効果を動脈流条件下で調査し、Fab 9O12および無関連のscFvの結果と比較した(図12参照)。この場合もコラーゲンによって誘導される血小板凝集が阻害された。scFvまたはFabの存在下では、前の結果と一致してコラーゲン繊維と結合した分離血小板だけが観察され(9,41)、対照条件とは対照的に、大きな血小板集塊は観察されなかった。
【0110】
トロンビン生成
Fab 9O12はコラーゲンによる刺激を受ける血小板の表面におけるトロンビン生成を阻害することが知られていることから、精製mscFv 9O12の効果を、トロンボグラム法を用いて試験した(図13)。mscFv 9O12およびFab 9O12は、トロンビンピークを同様の程度まで下げ、トロンビン生成を遅らせた。このことから、mscFv 9O12はコラーゲン誘導血小板凝血促進活性の阻害においてFab 9O12と同程度有効であることが示される。
【0111】
1.2.2 第一のヒト化9O12.2 scFv(hscFv 9O12.2(1))
次に、本発明者らは、第1.1.2段に記載のようにネズミ9O12.2 scFvフラグメントをヒト化した。ヒト化VHおよびVLドメインならびに第一ヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を図14に示している。次に、このhscFv 9O12.2(1)フラグメントを、GPVIセファロースとの親和性結合を用いてさらに特性決定した:組換え細菌の周縁質画分をGPVIセファロースカラム上にのせた。保持されたタンパク質を抗c−myc IgG、続いてHRPと結合した抗マウス抗体を用いたウエスタンブロットおよびECLによる検出によって解析した。ヒト化scFvについて予想されたとおりに、分子量28.5kDaの単一バンドが検出される(図15)。
【0112】
さらに、GPVI−FcとのhscFv 9O12.2(1)の結合を解析し、ネズミscFv 9O12.2(mscFv 9O12.2)の結果と比較した。精製ヒト化scFvおよびmscFvを、CM5センサーチップ上に固定されているGPVI−Fc上に注入した。結果を図16に示しており、これらの結果からhscFv 9O12.2(1)がGPVI−Fcとも、mscFvより高いように思われる親和性で結合するということが示される。
【0113】
最後に、ヒト血小板とのhscFv9O12.2(l)の結合を研究した。ヒト血小板を細菌周縁質抽出物とともにインキュベートした。血小板と結合したhscFv 9O12.2(1)を、FITC結合抗c−myc抗体を用いて検出した。血小板との結合をXL Epics Coulterフローサイトメーターで解析した。陰性対照として無関連のscFvを用いた。結果を図17に示しており、これらの結果からhscFvについてのヒストグラムの右側シフトが示され、これによりヒト化hscFv 9O12.2(1)が血小板GPVIと結合することが分かる。
【0114】
1.3 結論
上記の結果は、本発明者らによって9O12.2モノクローナル抗体から作製されたネズミ9O12.2 scFvが、本質的な構造修飾にもかかわらず、ヒトGPVIと特異的に高親和性で結合することをはっきりと示している。さらに、そのネズミ9O12.2 scFvはコラーゲンとのGPVIの結合を阻害し、コラーゲン誘導血小板凝集を抑制するため、GPVI機能を阻害する。
【0115】
よって、このscFvフラグメントはscFvフラグメントの総ての利点を示しながら、対応するFabフラグメントについての親和性および阻害能力を保有している。
さらに、本発明者らは、新たな本質的な構造修飾にもかかわらず、同様にヒトGPVIと高親和性で結合する第一ヒト化型9O12.2 scFvフラグメントも作製した(hscFv 9O12.2(1))。
【0116】
この第一ヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2)は、免疫原性が潜在的に最小限に低下されているという利点をさらに有する。
【0117】
よって、本願は、血小板凝集を阻害する高い能力を有する低分子量、低免疫原性のGPVIリガンドについて初めて記載し、このGPVIリガンドによって結果的に動脈血栓症の処置に極めて有望な製品がもたらされる。
実施例2 ヒト糖タンパク質VIに対する第二の至適化されたヒト化単鎖可変フラグメントhscFv 9O12.2(2)の合成および活性
【0118】
第一の組換えヒト化hscFv 9O12.(1)フラグメントの作製は困難であったことから、この構築物におけるいくつかの精密化が必要であった。このようにしてhscFv 9O12.(1)から第二の至適化ヒト化hscFv 9O12.(2)フラグメントを得た。
【0119】
2.1 試験手順
第二のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))の構築
本発明者らは、元のネズミCDRとヒトアクセプターフレームワークの間の予測されない構造的不和合性がV−ドメインの不適切な折りたたみならびに細菌の細胞質に隔離されて留まる不溶性の封入体の形成をもたらしたのではないかと仮定した。これらの困難を克服するため、いくつかの微細な精密化を行った。
【0120】
まず、本発明者らは、9O12 CDR L1ループがIVGEのものよりも5残基長いこと、および9O12およびIVGEのフレームワーク1および2の同一性スコアが低いこと(それぞれ48%および73%)を見出した(図19)。これにより、IVGE軽鎖FR1およびFR2がCDR L1の適正な折りたたみに適さないことが示唆された。
【0121】
次に、9O12 VL FR1およびFR2を用いて、さらなるFASTAを行った。FR1およびFR2ではヒト1X9Qと良好な一致が見られた(それぞれ同一性スコア95.6および86.6、両場合で類似性100%)。さらに、選択抗体1X9QのループL1(CDR1)は9O12のものと長さが類似していた。
【0122】
従って、本発明者らは、それらのフレームワークの配列が別のヒト抗体フレームワーク(1X9Q)とよく一致している(そのCDR L1は9O12のものと正確に同じサイズであった)ことから新規なヒト化hscFv 9O12.(2)の構築において元のネズミ9O12 VL FR1およびFR2を保存することにした(図19参照)。
【0123】
モデルの綿密な検査に基づき、他の精密化も行った。実際に、本発明者らはまた、最終的なhScFv 9O12構築物において、CDRループの、それらのコンフォメーションを採用する能力に影響を及ぼし得る極めて限定された数の残基を保持した。2つの重要な領域を保存した。1つ目のものは、L CDR2の残基に近接していることからおそらく重要であると思われるVL.L59(ヒト鋳型におけるP)の59〜60番のジペプチドLDであった。LとPは双方とも疎水性であるが、Pは環状側鎖であり、タンパク質主鎖構造に特定の影響を誘導することが知られている(MacArthur and Thornton, 1999)。さらに、本発明者らは、この位置にLはPよりもはるかに存在が少ない(2%)ことに気づき、これは特定の役割の指標となり得る(Honegger & Pluckthun, 2001)。ヒト鋳型(IVGE)と類似性のない他の変異していないネズミ残基はVH FR3(AH71、KH73、RH76、Kabbatナンバリング)に位置していた。最後に、ヒト化に関して選択されたヒトフレームワークでは、VLでは5つ、VHでは10個のみのネズミ残基を維持した。
【0124】
最終的な構築物を図19に示す。VHおよびVLフレームワーク3(それぞれ90.62および93.75%)を除いたヒト化hscFv 9O12.(2)フレームワークは総て、ヒトフレームワークと100%の類似性を示す(下表1参照)。
【0125】
【表4】
【0126】
全体として、最終的な構築物では、ネズミVH FR3由来の11個のN末端残基が保存されたが、これはそれらが、その抗原が予測され、従ってそれと相互作用し得るポケットの平坦部分に明らかに近接しているためである。しかしながらやはり、VH FR3はIVGEと25/32残基の同一性を示す。このフレームワークの3残基(AH71、KH73、RH76、Kabbatナンバリング)のみがIVGEと類似性を示さなかった。9O12 VL FR3を、本質的にLはこの位置に見られる頻度が少なく、Dは酸性残基であるので、この2残基(L59PおよびD60S)を除き、そのIVGE相対物と置換した。
【0127】
他の試験手順
第二のhscFv 9O12.(2)フラグメントを特性決定するための他の総ての試験手順は実施例1に記載の通りに行った。
【0128】
2.2 結果
hscFv9O12.2(2)の製造は、hscFv9O12.2(1)のものより良好であった。
【0129】
さらに、精製hscFv9O12.2(2)フラグメントは、固定化GPVIに対するSPR分析(kon=5.8×104Mー1sー1、koff=1.86×10−4sー1および解離定数KD=3.2nM)によって示されたように、その標的に対する高い親和性を保存していた。
【0130】
それはフローサイトメトリーにおいて新しく産生されたヒト血小板と結合することができ、蛍光ピークの右側シフトは、同様の実験条件下の、ネズミmscFv9O12で標識された細胞のものと常に類似していた(図20B参照)。血小板を過剰量のFab 9O12と予め混合した場合は、hscFv9O12.2(2)結合のほぼ完全な阻害がみらレセプター他。これらの結果は、アフィニティー精製されたhscFv9O12.2(2)分子がGPVIならびにヒト血小板の表面に曝されている天然GPVIに対する親抗体の結合活性、親和性および特異性を保持していたことを示した。
【0131】
2.3 結論
hscFv9O12.2(1)に関して、ヒト化により通常を影響を受ける主要なパラメーターはhscFv9O12.2(2)でよく保存されていた。アフィニティー精製されたhscFv9O12.2(2)は十分機能的であり、生物学的適用の主要な点であるGPVIに対する高い親和性を有していた。FACS分析はまた、hscFv9O12.2(2)は、その結合が1モル過剰のFab 9O12の存在下で特異的に遮断されたことから、ヒト血小板においてマウスFab 9O12と同じエピトープを認識することを示した。
【参照文献】
【0132】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、配列番号1で示される、(Gly4Ser)3ペプチドを介して結合された9O12.2モノクローナル抗体のVHおよびVLドメインとそれに続く「c−myc」フラッグからなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント(scFv 9O12.2)に関する。本発明はまた、同一の重鎖および軽鎖相補性決定領域1、2および3を有する前記scFv 9O12.2フラグメントの機能的変異体、好ましくは、配列番号28または配列番号47で示されるヒト化scFvフラグメントなどのヒト化機能的変異体に関する。本発明はまた、このようなscFvフラグメントをコードする核酸、このようなscFvフラグメントを産生するための発現ベクターおよび宿主細胞、ならびにこのようなscFvフラグメントの治療的使用に関する。
【0002】
背景技術
急性冠動脈および脳血管偶発症候は現在、世界の第一の死因である。さらに、急性冠動脈症候群後の処置の6か月後の再発および死亡の全体の罹患率は依然として8〜15%である。STセグメントの上昇を伴う急性冠動脈症候群の場合、冠動脈血管形成術およびステントの導入による機械的処置は冠動脈流を緊急に回復させるのに極めて効果的であるが、その後6か月に患者の15%で罹患/死亡を防ぐことができない。
【0003】
長期の繊維素溶解薬、抗凝固薬および抗凝集薬の組合せに基づく血栓溶解処置は、有望な結果はほとんど得られない。実際、血栓症の医学的処置が改善されたものの、6か月時点での罹患率/死亡率は、セグメントST上昇を伴わない急性冠動脈症候群で見られるものと同様である。
【0004】
脳血管虚血の偶発症候に関しては、一般にほとんどの患者の手当が遅れるため、また、現在利用可能な抗血栓処置の出血リスクのために、処置は依然として非常に限定されたものである。
【0005】
従って、心血管疾患の処置の改善、特に、利用可能な分子に比べて特徴が改善された新規な分子、特に出血作用が軽減された分子の、本当に差し迫った臨床上の必要性がある。
【0006】
血小板−コラーゲン相互作用は急性動脈血栓の発生および血栓後の血管再構築において重要である。糖タンパク質VI(GPVI)、コラーゲンによる血小板に対する主要な受容体は、実験的血栓症、血管再構築、動脈血栓および急性心筋虚血に役割を果たすことが動物で実証されている。
【0007】
現在血栓処置に用いられ、血小板の最終活性化段階を阻害するαIIbβ3インテグリンアンタゴニストに対して、GPVIは血小板の初期活性化段階に関連し、従って、GPVIアンタゴニストは血小板凝集を妨げるだけでなく、二次的アゴニストの放出、さらには血管傷害の発生をもたらす増殖因子およびサイトカインの分泌も妨げるはずである。さらに、GPVIの欠乏は高い出血リスクを伴わず、従って、患者の安全性に関して重要な特性ではない。最後に、GPVIの発現は血小板に限定されているので、抗血栓処置の完全に特異的な標的となる。
【0008】
よって、GPVIアンタゴニストは一次的および二次的血栓を特異的かつ効率的に防ぐのに効果的であり、しかも低い出血リスクしか伴わないはずである。
【0009】
様々な種の可能性のあるGPVIアンタゴニストが作出されている。あるアプローチでは、GPVI細胞外ドメインとヒトIg Fcドメインの融合タンパク質である可溶性GPVI組換えタンパク質が作出されている(例えば、WO01/00810(1)およびWO03/008454(2)参照)。よって、可溶性組換えGPVIタンパク質は、コラーゲンとの結合をめぐって血小板と競合する。血栓症ネズミモデルではこの可溶性GPVIタンパク質で初めて有望な結果が得られた(3)が、これらの結果は確認されていない(4)。さらに、このアプローチは構造的、機能的および薬理学的欠点を含んでいる。第一に、この化合物は高分子量タンパク質(〜160kDa)であり、その半減期は短いと予測される。GPVIは少なくとも1つのプロテアーゼ切断部位を含んでいるので、この性組換えGPVI−Fcタンパク質の加水分解を考えなければならない。コラーゲンと結合すると、このタンパク質はそのFcドメインを血流に曝す。ヒト血小板(マウス血小板はそうではない)および白血球はそれらの表面で親和性の低いFc受容体(FcγRIIA)を発現する。固定されたGPVI−Fcによる血小板FcγRIIAの架橋は血小板を活性化しやすいので、予測されるものとは反対の作用を持つ。また、このタンパク質を投与すべきタイミングと用量も問題となっている。血小板は、ひと度コラーゲンと結合すると、急速かつ不可逆的に活性化される。従って、GPVI−Fcを効果的とするには、血小板の活性化前に投与すべきであり、これは血栓事象の前であり、現在の医学ではまれな状況である。さらに、投与すべきタンパク質の量は、予測不可能なパラメーターである血管傷害の大きさと性質の関数として様々である。
【0010】
他の多くのものはヒトGPVIに対する中和モノクローナル抗体を開発しようとした。例えば、EP1224942(5)およびEP1228768(6)は、血栓性疾患の処置のための、マウスGPVIと特異的に結合するモノクローナル抗GPVI抗体JAQ1を開示している。JAQ1抗体はマウス血小板上でGPVI受容体の不可逆的インターナリゼーションを誘発する。
【0011】
EP1538165(7)は、別のモノクローナル抗GPVI抗体hGP 5C4を記載しており、このFabフラグメントは、コラーゲン刺激によって誘発された血小板の主要な生理機能に著しい阻害作用を有することが見出されている。なお、コラーゲンにより媒介される生理学的活性化パラメーターPAC−IおよびCD 62P−セレクチンの刺激は、内因性の活性のないex vivoにおいて、hGP 5C4 FabおよびhGP 5C4 Fabにより強力に阻害されたヒト血小板凝集によって完全に妨げられた。
【0012】
WO2005/111083(8)は、in vitroにおいてGPVIとコラーゲンの結合、コラーゲンにより誘発される分泌およびトロンボキサンA2(TXA2)の形成、ならびにカニクイザルに静脈内注射した後にex vivoにおいてコラーゲンにより誘発される血小板凝集を阻害することが見出された4つのモノクローナル抗GPVI抗体、OM1、OM2、OM3およびOM4を記載している。OM4はまた、ラット血栓モデルにおける血栓形成も阻害するものと思われる。
【0013】
WO01/00810(1)もまた、7I20.2、8M14.3、3F8.1、9E18.3、3J24.2、6E12.3、IP10.2、4L7.3、7H4.6、9O12.2、7H14.1および9E18.2と呼ばれる種々のモノクローナル抗GPVI抗体、ならびにA9、A10、C9、A4、C10、B4、C3およびD11と呼ばれるいくつかのscFvフラグメントを記載している。これらの抗体およびscFvフラグメントのうち、抗体8M14.3、3F8.1、9E18.3、3J24.2、6E12.3、IP10.2、4L7.3、7H4.6および9O12.2、ならびにscFvフラグメントA10、A4、C10、B4、C3およびD11を含む1いくつかのものは、GPVIがコラーゲンと結合するのを阻害することが見出された。
【0014】
さらに、9O12.2 Fabフラグメントは、コラーゲンにより誘発される血小板凝集および分泌を完全に遮断すること、コラーゲンにより刺激される血小板の凝血促進活性および静置条件での血小板とコラーゲンの接着を阻害すること、血小板の接着を損なうこと、および動脈流条件下で血栓の形成を防ぐことが見出された(9)。
【0015】
しかしながら、現在知られている抗GPVI抗体に、in vivoにおいて、動脈および静脈血栓、再狭窄、急性冠動脈症候群およびアテローム性動脈硬化症による脳血管偶発症候などの血小板凝集に関連する心血管疾患を予防および/または治療するのに本当に有効であることが証明されたものはない。最近までに、報告されている種々の抗GPVI抗体は、ヒトの医学的使用にための抗血栓薬の開発にはそぐわないことが分かった。阻害特性が報告されているものは数種に過ぎない。マウスGPVIに向けられ、ヒトGPVIとは交差反応しないJAQlの場合がこれである(10)。ヒトGPVIに対するヒトscFvは阻害性があると報告されているが(11、12)、それらの親和性は低いと思われる。ごく最近、ヒトGPVIと良好な親和性を有する新たな阻害抗体が同定され(13)、治療手段としての開発が提案されている。
【0016】
しかしながら、血小板表面での二価または多価リガンドによるGPVIの架橋は血小板の活性化をもたらす。GPVIの二量体形成を介して、およびGPVIと低親和性Fc受容体(FcγRIIA)の架橋を介して血小板を活性化する9O12.2 IgGの場合がそれである(9)。Fab’2もまた、GPVIの二量体形成を介して血小板を活性化する(9)。これに対し、一価の9O12.2 Fabフラグメントは阻害的である。しかし、これらのフラグメントは、それらの大きさと動物起源であることのために(ヒト患者において免疫原性となる)治療薬として使用することができない。
【0017】
よって、高い効率、低い出血リスク、ならびに低い免疫原性作用で、血小板凝集の初期段階を阻害する有効な中和GPVIアンタゴニストの必要性がなおある。
発明の開示
【0018】
本発明者らは、9O12.2モノクローナル抗GPVI抗体ハイブリドーマから、免疫定常ドメイン(CH1およびCL)を持たず、大きさが縮小されたフラグメント中に機能的阻害モチーフを含む利点を有する単鎖可変フラグメント(scFv)9O12.2を作出した。このscFvは、治療的使用に適した形式を得るために免疫寛容性と安定性が改良されたフラグメントを作製するための出発材料である。
【0019】
このようなフラグメントをデザインするための技術的アプローチはこれまでに報告されているが、各scFv構築物を特異的ケースとすることを乗り越えるには多くの困難がある。これらの困難としては、異常な転写物を迂回することによる抗体V遺伝子のクローニング(14)、適切な折りたたみに十分適切なリンカーの同定、Vドメインの単量体scFvへの会合および最後にscFvを機能的可溶型で発現可能な原核生物発現系の選択が含まれる。
【0020】
よって、本発明は、
配列番号2、配列番号3および配列番号4からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVHドメイン、
ペプチドリンカー、および
配列番号5、配列番号6および配列番号7からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVLドメイン
を含んでなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメントに関する。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明のscFvフラグメントは、精製に有用なペプチドタグ、および所望により、核scFvフラグメント(VHおよびVLドメインとペプチドリンカーを含む)とペプチドタグの間に短いペプチドスペーサーをさらに含んでなる。
【0022】
抗体はおおまかには、「重鎖」および「軽鎖」と呼ばれる2つの異なるポリペプチド鎖からなるY型分子であり、抗体はジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖と2つの軽鎖からなっている。各重鎖は可変ドメイン(「VHドメイン」)と3つの定常ドメイン(「CH1」、「CH2」および「CH3」ドメイン)からなり、各軽鎖は可変ドメイン(「VLドメイン」)と定常ドメイン(「CLドメイン」)からなる。
【0023】
「単鎖可変フラグメント」または「scFvフラグメント」とは、リンカー分子によって連結された抗体のVHおよびVLドメインを含んでなる単一の折りたたまれたポリペプチドを指す。このようなscFvフラグメントでは、VHおよびVLドメインは、VH−リンカー−VLかVL−リンカー−VHのいずれの順であってもよい。scFvフラグメントは、その産生を助ける他、スペーサーによってscFvと連結されたタグ分子を含み得る。
【0024】
さらに、各可変ドメイン(VHまたはVLドメイン)は、抗体間で示す変動が小さく、可変ドメインの構造フレームワークを形成するβシートの形成に関与する4つの「フレームワーク領域」(FR1、FR2、FR3およびFR4)と、各βシートの末端において折りたたまれた可変ドメインに並置された3ループに相当する、一般に「相補性決定領域」1、2および3(CDR1、CDR2、CDR3)と呼ばれる3つの超可変領域からなる。これら3つのCDR領域は、主として抗原と接触する可変ドメインの部分、特に、重鎖および軽鎖の再配列領域に相当し、いっそう可変性が高く、より直接的に特異的抗原と接触する各鎖のCDR3領域であるので、抗体または抗体フラグメントの特異性の決定に重要である。
【0025】
よって、本発明は、同一のCDR領域を維持する9O12.2の総ての機能的変異体を包含する。scFvフラグメント9O12.2CDR領域データを下表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
「ペプチドリンカー」とは、scFvフラグメントの適当な折りたたみ、すなわち、VHおよびVLドメインの適当な折りたたみとそれらが一緒になる能力を可能とする柔軟なペプチドを意味する。さらに、このようなペプチドリンカーは単量体機能的単位への折りたたみが可能であるべきである。scFvがVHからVL配向(VH−リンカー−VL)に組み立てられた場合、3〜12残基のリンカーを有するscFvは機能的Fvドメインへと折りたたみ不能であり、その代わりに別の分子と会合して二価の二量体を形成する。3残基未満に減れば三量体となる。従ってこの場合には、好適なリンカーは少なくとも12アミノ酸、好ましくは25アミノ酸未満、好ましくは14〜18、14〜16の間、または15アミノ酸を有するべきであり、好ましくは高いパーセンテージ、好ましくは少なくとも50%のグリシン残基を含むべきである。好適なペプチドリンカーとしては、ペプチド(G4S)3(配列番号8)、G4IAPSMVG4S(配列番号9)、G4KVEGAG5S(配列番号10)、G4SMKSHDG4S(配列番号11)、G4NLITIVG4S(配列番号12)、G4VVPSLG4S(配列番号13)およびG2EKSIPG4S(配列番号14)が挙げられる。scFvがVLからVH配向(VL−リンカー−VH)に産生される場合、VLのC末端とVHのN末端の間の距離は、VHのC末端とVLのN末端の間の距離よりもわずかに大きい(30〜34Åに対して39〜43Å)。従って、18アミノ酸残基のリンカーが、使用可能な最小配列サイズである。よって、好適なペプチドリンカーは18〜25aa、好ましくは18〜21の間であるべきである。好適なリンカーの例としては、配列GSTSGSGKSSEGSGSTKG(配列番号15)のリンカーである。
【0028】
「ペプチドタグ」とは、特異的抗体が利用可能な5〜15アミノ酸のペプチドを意味する。本発明のscFvフラグメントには任意であるが、scFvフラグメントのC末端に挿入されたこのようなペプチドタグは、組換え産生後にscFvフラグメントの精製を容易にすることができる。実際に、ペプチドタグは、他でもなく、そのタンパク質に特異的結合親和性を与え、クロマトグラフィーを用いてより容易な精製が可能となる。好適なペプチドタグの例としては、ニッケルイオンに対して親和性を有し、従って、ニッケルを含むクロマトグラフィーカラムを用いて精製され得るHis6タグ(HHHHHH、配列番号16)、またはそれらの特異的抗体の対して高い親和性を有し、従って、固定化されたペプチドに対する抗体を含むカラムを用いて精製され得るエピトープペプチド、例えば、c−mycタグ(EQKLISEEDLN、配列番号17)、HAタグ(YPYDVPDYA、配列番号18)、フラッグタグ(DYKDDDDK、配列番号19)、タンパク質Cタグ(EDQVDPRLIDGK、配列番号20)、Tag−100タグ(EETARFQPGYRS、配列番号21)、V5エピトープタグ(GKPIPNPLLGLDST、配列番号22)、VSV−Gタグ(YTDIEMNRLGK、配列番号23)またはXpressタグ(DLYDDDDK、配列番号24)が挙げられる。
【0029】
「短いペプチドスペーサー」とは、1〜15アミノ酸、好ましくは1〜12または1〜10アミノ酸、例えば8アミノ酸のペプチドを意味する。このようなペプチドスペーサーは、任意のペプチドタグの真のscFv部分(ペプチドリンカーによって分離されたVHおよびVLドメイン)を分離することを意図する。特にペプチドタグが存在しない場合も、ペプチドタグが含まれる場合にも、本発明のscFvフラグメントの必要は必ずしもない。実際、ペプチドタグはVHまたはVLドメインに直接融合され得る。しかしながら、1〜12アミノ酸の短いペプチドスペーサーは有用であり得る。例えば、9O12.2 scFvフラグメントでは、配列RSRVTVSS(配列番号25)の8アミノ酸ペプチドスペーサーが用いられてきた。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明は、配列番号1と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる、またはからなるヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント(scFv)に関し、ここで、前記266アミノ酸配列のうちアミノ酸26〜35、50〜66、99〜109、159〜174、190〜196および229〜237はそれぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる。このようなscFv 9O12.2の機能的変異体は同一のCDR領域を保持するだけでなく、scFv 9O12.2のアミノ酸配列と高い同一性%を有する。特定の実施形態では、本発明は、配列番号1を含んでなる、またはからなる単鎖可変フラグメントに関する。
【0031】
しかしながら、フレームワーク領域は、ヒト糖タンパク質VIに対するキメラ、特にヒト化scFvフラグメントを作出するように変異させることができる。ある種の参照抗体または抗体フラグメントに関して、対応する「キメラ」抗体または抗体フラグメントは、フレームワーク領域が別の種の対応するフレームワーク領域に置き換えられているものである。より詳しくは、「ヒト化」抗体または抗体フラグメントは、フレームワーク領域がヒトフレームワーク領域に置き換えられている、同一のCDR領域を有する抗体または抗体フラグメントである。
【0032】
scFv 9O12.2フラグメントはネズミモノクローナル抗体9O12.2から本発明者らによって誘導されたものであり、従って、マウスフレームワーク領域を有する。しかしながら、ヒト患者においてこのフラグメントの注射の免疫原性作用を軽減するためには、ネズミフレームワーク領域がヒトフレームワーク領域に置き換えられているヒト化scFvフラグメントが望ましい可能性がある。
【0033】
抗体Vドメインをヒト化するいくつかの可能性のある方法が示唆されている。それらはCDRグラフト、Vドメインの表面置換、または元の分子の抗原特異性と親和性を維持しつつ免疫原性を減じる目的で、あるV鎖に多様な置換を探索する予測的コンピューター分析を含む(17〜19)。これらの方法には単純なものはなく、総て特異性および/または親和性を損なう結果となることがも多い(20〜23)。
【0034】
これらの困難にもかかわらず。本発明者らは、配列番号1のアミノ酸番号1〜120および136〜266に対応するネズミ9O12.2 scFvフラグメントのVHおよびVLドメインがそれぞれヒト化VHおよびVLドメイン配列番号26および配列番号27に置換されており、配列番号28のアミノ酸配列のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1)、図14参照)をもたらす、第一のヒト化scFvフラグメントを作出した。
【0035】
よって第一の好ましい実施形態では、本発明は、VHおよびVLドメインのフレームワーク領域がヒト抗体のフレームワーク領域を有するVHおよびVLドメインに置き換えられている、請求項1〜3のいずれかに記載の単鎖可変フラグメントに関する。特に、前記VHおよびVLドメインはそれぞれ配列番号26および配列番号27に置換されていてもよい。より厳密には、配列番号1を含んでなる、またはからなるscFvフラグメントがヒト化されている場合、それは配列番号28を含んでなる、またはからなる第一のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1)、図14参照)をもたらし得る。
【0036】
このようなヒト化scFvフラグメントを作出するためには、CDRグラフトと呼ばれる周知の技術を使用することができ、その技術はドナーscFvフラグメントから相補性決定領域(CDR)を選択すること、およびそれを既知の三次元構造のヒトscFvフラグメントフレームワークにグラフトすること(例えば、WO98/45322(24);WO87/02671(25);米国特許第5,859,205号(26);米国特許第5,585,089号(27);米国特許第4,816,567号(28);EP0173494(29);および参照文献20〜21および30〜31)、または可能性のある候補を特定するためにデータベースを検索することを含む。コンピューターモデリングおよびヒト生色細胞系配列との比較による典型的な方法では、ヒト化するモノクローナル抗体の抗原結合ループを最も適合するフレームワークに重ね合わせる。scFv 9O12.2をヒト化するアプローチはCDRグラフト技術(32)から採用したものである。ネズミ9O12.2抗体のCDRがヒト可変鎖フレームワークにグラフトされた。ヒト抗体の選択は次の基準を用いて行われた:結晶構造が解明されていること(pdbライブラリーでのIVGE);ヒト抗体IVGEの可変ドメインは9O12.2の可変ドメインと高い程度の配列相同性を示すこと(VH60.6%;VL55.4%);候補ヒト抗体IVGEの結晶学的データと9O12.2の可変ドメインのモデルの構造比較を行い、ヒトアクセプタースキャフォールドIVGEの選択の確認が可能であったこと。この戦略により、CDRの適正な折りたたみに必要なスキャフォールドを保持し、抗原に対する高い親和性を保持しつつ、VHドメインとVLドメインの間の相互作用の安定性を低下させるリスクが最小限となる。これらの分析に基づいて選択されたヒト抗体IVGEはヒト化9O12.2scFvの構築を可能とした。構造上の理由のために、CDR H2の後の10残基は変異していなかった。このヒト化scFv 9O12.2をコードするヌクレオチド配列を至適化した。まず、最適な結合特性に関して可能な調整を行うため、これらのCDR領域間に制限部位を導入した。次に、原核生物発現系大腸菌(E. coli)においてヒト化scFvを発現させるために細菌のコドン利用を用いて至適化を行った。この方法により、それぞれ配列番号1のアミノ酸番号1〜120および136〜26に相当するネズミ9O12.2scFvフラグメントのVHドメインおよびVLドメインが、それぞれ配列番号26および配列番号27に置き換えられているヒト化9O12.2scFvフラグメント、すなわち、配列番号28からなるヒト化9O12.2scFvフラグメントが得られた。よって、本発明のヒト化scFvフラグメントの好ましい実施形態では、該scFvフラグメントは配列番号28を含んでなる、またはからなる。
【0037】
この第一のヒト化scFvフラグメントで得られた有望な結果にもかかわらず、このフラグメントは細菌での産生に適しておらず、さらに至適化した第二のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))はhscFv 9O12.2(1)に由来するものである。要するに、VL FR1およびFR2領域では、IVGEフレームワーク1および2との同一性は低く、よって、元の9O12 VL FR1およびFR2は第二のヒト化scFv構築では保存した。モデルの綿密な検査に基づき、他の精密化も行った(詳細については実施例2を参照)。
【0038】
従って、第二の好ましい実施形態では、本発明は、VHおよびVLドメインのフレームワーク領域が、ヒト抗体のフレームワーク領域を有するVHおよびVLドメインに置き換えられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントに関する。特に、該VHおよびVLドメインはそれぞれ配列番号26および配列番号46に置き換えられている場合がある。より厳密には、配列番号1を含んでなる、またはからなるsscFvフラグメントがヒト化される場合、それはまた好ましくは、配列番号47を含んでなる、またはからなる第二のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2)、図18参照)も生じ得る。
【0039】
本発明はさらに、以上に記載したような本発明の単鎖可変フラグメントをコードする核酸配列に関する。特定の実施形態では、該scFvフラグメントは配列番号1を含んでなり、またはからなり、該核酸配列は配列番号29、または例えば遺伝コードの縮重の結果として配列番号1をコードする誘導核酸配列を含んでなる、またはからなる場合がある。
【0040】
該scFvフラグメントがヒト化され、それぞれ配列番号1のアミノ酸番号1〜120および136〜266に相当するネズミ9O12.2scFvフラグメントのVHおよびVLドメインがそれぞれ配列番号26および配列番号27に置き換えられて、配列番号28を含んでなる、またはからなる第一のヒト化9O12.2scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))となる場合、該核酸は配列番号30、または例えば遺伝コードの縮重の結果として配列番号28をコードする任意の誘導核酸配列を含んでなる、またはからなる場合がある。
【0041】
あるいは、該scFvフラグメントがヒト化され、それぞれアミノ酸番号1〜120および136〜266 47に相当するネズミ9O12.2scFvフラグメントのVHおよびVLドメインが、配列番号47を含んでなる、またはからなる第二のヒト化9O12.2scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))となる場合、該核酸は配列番号50(図18C参照)、または例えば遺伝コードの縮重の結果として配列番号47をコードする任意の誘導核酸配列を含んでなる、またはからなる場合がある。
【0042】
本発明はまた、上記のような核酸配列を含んでなる発現ベクターに関する。このような発現ベクターはまた、特定の宿主細胞で、作動可能なように連結されたscFvコード配列を発現させるのに必要な適当な核酸配列も含む。原核生物での発現に必要な核酸配列は、プロモーター、所望によりオペレーター配列、リボソーム結合部位およびおそらくは他の配列を含む。真核細胞は宿主細胞内でプロモーター、エンハンサーならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0043】
このような発現ベクターはまた、発現されたscFvを特定の細胞コンパートメントへ向けるリーダー配列、例えば、scFvフラグメントの膜発現または分泌を命令するか、または細菌の周縁質での発現を命令する配列を含み得る。それはまた、同じプロモーターの制御下に、その発現が発現ベクターで形質転換された組換え宿主細胞を選択するために容易に検出できる選択遺伝子も含み得る。好適な選択遺伝子としては、特に抗生物質耐性遺伝子、蛍光遺伝子、または当業者に公知の、その発現が容易にモニタリングできる他のいずれかの遺伝子が挙げられる。
【0044】
本発明はさらに、上記のような発現ベクターを含んでなる宿主細胞に関する。このような組換え宿主細胞は、宿主細胞を本発明の発現ベクターを用いてトランスフェクトまたは形質転換することによって得ることができる。
【0045】
このような宿主細胞は原核生物であっても真核生物であってもよい。好適な原核生物宿主細胞としては、グラム陽性菌およびグラム陰性菌が含まれる。グラム陰性菌では、好ましい宿主細胞は大腸菌である。細菌で用いるためには、発現ベクターは好ましくは、グラム陰性菌の原形質膜と外膜の間の空間、またはグラム陽性菌の原形質膜とペプチドグリカン層(細胞壁)の間の空間に相当する細菌周縁質にscFvフラグメントの発現を向けるリーダー配列を含み得る。ポリペプチドの発現を細菌周縁質に向ける好適な配列としては、sompA、ompF、ompT、LamB、β−ラクタマーゼ、M13由来cp VIII、pelB、malEまたはphoAシグナルペプチドまたはリーダー配列が挙げられる。特定の実施形態では、前記リーダー配列はpelBである。
【0046】
あるいは、真核細胞、特に哺乳類細胞を用いてもよい。実際、これはグリコシル化scFvフラグメントを直接的に生じさせることができる。発現のための宿主として利用可能な哺乳類細胞系統は当技術分野で公知であり、限定されるものではないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベイビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)およびいくつかの他の細胞系統を含む、特にAmerican Type Culture Collection (ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞が挙げられる。真核細胞としては、酵母細胞も使用可能である。天然ヒトグリコシル化パターンに最も近いグリコシル化パターンを得るために、それを宿主細胞としてのヒト細胞系統に求めてもよい。あるいは、化学的に定義された増殖培地で高い細胞密度まで増殖可能な発酵法で一般に用いられる強い生物であるピキア・パストリス(Pichia pastoris)酵母細胞が、まず、内在する酵母グリコシル化経路を排除し、in vivoにおいて酵母に複合体ヒトN−グリカン、GlcNAc2Man3GlcNAc2を産生させることを可能とする合成in vivoグリコシル化経路をその生物に順次構築することにより改変されている(EP1297172(33)、EP1522590(34)および参照文献35、36参照)。ヒト化されたグリコシル化経路を有するこのような改変酵母細胞は、均一な複合体N−グリコシル化を伴うヒト糖タンパク質を分泌することができる。
【0047】
本発明はまた、上記のような本発明の単鎖可変フラグメントを作製する方法であって、
a)上記のような本発明の宿主細胞を培養すること、および
b)該単鎖可変フラグメントを精製すること
を含む方法に関する。
【0048】
宿主細胞を培養するためのプロトコールおよび培地は常法であり、当業者ならば容易に使用可能である。得られたscFvフラグメントの精製については、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、タンパク質L−セファロースを使用)またはイオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析などを含む周知の技術を用いて行うことができる。より厳密には、scFvフラグメントは上記のようなHis6タグまたはエピトープタグを含んでなる場合、ニッケルイオンカラムまたは固定化された特異的抗体を含有するカラムを用いたHPLC。
【0049】
本発明はさらに、薬剤としての上記のような本発明の単鎖可変フラグメントに関する。
【0050】
本発明はまた、上記のような本発明の単鎖可変フラグメントと薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。
【0051】
より厳密には、本発明はまた、動脈および静脈血栓、再狭窄、急性冠動脈症候群ならびにアテローム性動脈硬化症による脳血管偶発症候から選択される心血管疾患の治療および/または予防を目的とした薬剤を製造するための、上記のような本発明の単鎖可変フラグメントの使用に関する。このような使用の好ましい実施形態では、該心血管疾患は血栓症である。
【0052】
本発明の概略を記載したが、特定の具体的な実施例および図面を参照すれば本発明の特徴および利点のさらなる理解が得られる。これらの実施例および図面は単に例示のために本明細書に示されるものであり、特に断りのない限り限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】scFv 9O12.2発現ベクターを構築するための用いた方法の概略図。工程1:T7およびLink9O12.2VHForプライマーを用いた9O12.2.2モノクローナル抗体VHセグメントと、Link9O12.2VLRevおよび9O12.2mycForプライマーを用いたVLセグメントのPCR増幅。工程2:pSWRevおよび9O12.2mycForプライマーを用いたオーバーラップPCR増幅とその後のpSWRevおよびpSWForプライマーを用いたPCR増幅による、scFv 9O12.2をコードする核酸の作製。工程3:PCR産物のDNA精製。工程4:Pst1およびXho1制限酵素を用いた精製DNAの消化。工程5:消化産物のpSW1発現ベクターへのクローニング。工程6:得られた構築物の配列決定。
【図2】プラスミドpSWscFv 9O12.2mycにクローニングされたscFv 9O12.2のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。発現ベクターpSW1の制限部位Pst1とXho1の間にクローニングされたscFv 9O12.2のヌクレオチド配列と推定アミノ酸配列。PCR増幅に用いたプライマーに相当するか、またはリンカーペプチドをコードするヌクレオチド配列を斜体で示す。VHおよびVLの相補性決定領域(CDR)の推定アミノ酸配列を下線で示す。c−mycフラッグの推定アミノ酸配列を示す。
【図3】scFv9O12.2の三次元モデル。9O12.2.2抗原−結合ドメインのモデル(側面図)。CDRを示す。
【図4】ヒト血小板に対するフローサイトメトリーによる細菌周縁質抽出物の分析。無関連のscFv−mycをコードするプラスミドまたはプラスミドpSW scFv9O12.2−mycで形質転換された誘導型組換え細菌の細菌周縁質抽出物をヒト血小板とともにインキュベートした。scFvの結合をFITC結合抗cmyc抗体を用いて分析した。A:無関連のscFv、B:scFv 9O12.2、左のパネル:前方分散と側方分散、右のパネル:蛍光ヒストグラム。
【図5】大腸菌Topp1における周縁質生産とpSW1−scFv9O12.2myc培養物由来の組換えタンパク質の親和性アフィニティークロマトグラフィー精製。(A):クーマシーブリリアントブルーで染色したSDS−PAGE。(B):抗c−myc IgGを用いたウエスタンブロット解析。レーン1:分子量標準、レーン2:GPVI−セファロースカラムにのせた誘導細菌の周縁質画分、レーン3:GPVI−セファロースカラム流出画分、レーン4:GPVI−セファロースカラム溶出画分。
【図6】天然scFvのサイズ排除クロマトグラフィー。アフィニティー精製されたscFv 9O12.2のサイズ排除クロマトグラフィーは既知分子量の標準で較正したセファデックス75 HR 10/30カラムで行った。
【図7】固定化GPVI−Fcに対する精製scFv 9O12.2の結合。scFv 9O12.2(黒の記号)または無関連のscFv(グレーの記号)をGPVI−Fcコーティングプレートでインキュベートし、HRP結合抗c−mycを用いて検出した。(A):結合等温線。(B):漸増量のIgG 9O12.2との競合におけるscFv 9O12.2(60μg・mL−1)の結合。
【図8】固定化GPVI−Fcに対するscFv 9O12.2の結合の表面プラズモン共鳴分析。GPVI−Fに親和性のあるscFv 9O12.2は高く、2.5×10ー9程度のKDを有する。IgGおよびFab 9O12.2.2のGPVI−Fcに対するKDもナノモル程度である(それぞれ6.5×10ー9Mおよび4.5×10ー9M)。
【図9】固定化コラーゲンに対するGPVIの結合の阻害。GPVI−Fcを漸増量の抗体:scFv 9O12.2(三角)またはpFab(四角)の存在下、固定化コラーゲン上でインキュベートした。(A):2μgのGP VI−Fc、(B):4μgのGPVI−Fc。結合したGPVI−FcはHRP結合抗Fc IgGを用いて検出した。
【図10】血小板に対する精製scFv 9O12.2の結合:フローサイトメトリー分析。洗浄した血小板を無関連のscFv(上)または漸減量のscFv 9O12.2(100、50および25mM)とともにインキュベートした。scFvの結合は、FITC結合抗c−myc IgGを用いて分析した。
【図11】コラーゲンにより誘発される血小板凝集に対するscFv 9O12.2の効果。洗浄したヒト血小板(2.108mL)を無関連のscFv(下の曲線)、Fab 9O12.2(25μg/ml)(上の曲線)、単離された単量体scFv 9O12.2(黒)とともに37℃で5分間インキュベートし、コラーゲンを加えた。37℃、攪拌条件で凝集を分析し、光伝達の変化を記録した。
【図12】動脈流条件下でコラーゲンにより誘発される血小板凝集に対するmscFv 9O12の効果。全血(5mL)を細胞透過性の蛍光色素DIOC−6で標識し、画像で白く見える血小板をPBS(A)または50μg・mLー1の抗体フラグメント(B〜D)とともにインキュベートした後、1500s−1でフローチャンバー内のコラーゲンコーティングカバースリップへ流した。コラーゲンマトリックスと結合した血小板凝集塊の形成を蛍光顕微鏡で記録した。(B)無関連のscFv 9C2。(C)mscFv9O12。(D)Fab 9O12。
【図13】PRPにおけるコラーゲンにより誘発されるトロンビン生成に対するmscFv 9O12の効果。コラーゲンを加える前に、血小板豊富血漿(PRP)をビヒクル(黒の曲線)または50μg・mL−1のFab9O12(濃いグレー)またはmscFv 9O12(薄いグレー)とともに予備インキュベーションを行った。0.5pM組織因子および16.6mM CaCl2を加えることでトロンビンの生成を開始させた。蛍光基質を用いてトロンビン濃度を測定し、較正物質と比較して算出した。これらの追跡は1つの代表的な実験からのものである。棒グラフは誘導期の平均値±SDとピーク値を示す(n=3)(バーは小さすぎて見えないSDに相当する)。
【図14】ヒト化VHおよびVLドメインならびに第一のヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。A.ヒト化9O12.2 VH(1)ヌクレオチド(配列番号31)およびアミノ酸(配列番号26)を示す。B.ヒト化9O12.2 VL(1)ヌクレオチド(配列番号32)およびアミノ酸(配列番号27)を示す。C.ヒト化hscFv9O12.2(1)ヌクレオチド(配列番号30)およびアミノ酸(配列番号28)を示す。
【図15】第一のヒト化scFv 9O12.2(hscFv 9O12.2(1))の特性決定。GPVIセファロースへの親和性結合:組換え細菌の周縁質画分をGPVIセファロースカラムにのせた。保持されたタンパク質を、抗c−myc IgG、次いでHRPに結合された抗マウス抗体とECL曝露を用い、ウエスタンブロットによって分析した。ヒト化scFvに関して予測されたように、分子量28.5kDaの単一バンドが検出される。
【図16】GPVI−Fcに対するscFv 9O12.2の結合。精製した第一のヒト化scFv(hscFv 9O12.2(1)、濃いグレー)およびmscFv(薄いグレー)をCM5センサーチップに固定されているGPVI−Fcに注入した。ブランクシグナルの検出の後のセンサーグラムを示す。
【図17】ヒト血小板に対する第一のヒト化scFv9O12(hscFv 9O12.2(1))の結合。ヒト血小板を細菌周縁質抽出物とともにインキュベートした。血小板に結合したscFvは、FITC結合抗c−myc抗体を用いて検出した。血小板との結合を、XL Epics Coulterフローサイトメーターで分析した。無関連のscFvを陰性対照として用いた(上のパネル)。ヒストグラムの右側シフト(下のパネル)は、ヒト化scFv 9O12.2が血小板GPVIと結合することを示す。
【図18】ヒト化VHおよびVLドメインならびに第二の至適化ヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。A.ヒト化9O12.2 VH(2)ヌクレオチド(配列番号48)およびアミノ酸(配列番号26)を示す。B.ヒト化9O12.2 VL(2)ヌクレオチド(配列番号49)およびアミノ酸(配列番号46)を示す。C.ヒト化hscFv9O12.2(2))ヌクレオチド(配列番号50)およびアミノ酸(配列番号47)を示す。酵素制限部位を太字で示す。VHドメインとVLドメインの間のリンカーを下線で示す。CDR領域をグレーで強調されている。
【図19】9O12抗体可変ドメインの至適化されたヒト化。抗体V−ドメインの配列分析:ネズミ9O12(m9O12)、IVGE、ヒト化9O12(h9O12)および1X9Q。(.)はネズミ9O12と同じ残基を示す。(−)はギャップを示す。ネズミ9O12と類似性のないヒト化V−ドメインの残基を赤および青で示す(Kabbat命名法に従って残基AH71、KH73、RH76、LLS9、DL6O)。CDRはグレーで強調されている。
【図20】第二のヒト化(hscFv 9O12.2(2))の特性決定。A−抗cMyc抗体を用いた組換えscFvのウエスタンブロット検出。B−フローサイトメトリー分析。ヒト血小板を抗体フラグメントとともに30分間プレインキュベーションした。scFvの結合は、FITC結合抗c−Myc抗体を用いて検出した。
【実施例】
【0054】
実施例1 ヒト糖タンパク質VIに対するネズミ単鎖可変フラグメント scFv 9O12.2および第一のヒト化単鎖可変フラグメント scFv 9O12.2の合成および活性
1.1 試験手順
1.1.1 材料
【0055】
培地および溶液
LB(ルリア−ベルターニ)、DIFCO 402−17;LB−寒天、DIFCO 445−17;2xTY(トリプトン−酵母)、DIFCO 244020;TES:Tris−HCl 30mM、EDTA 1mM、スクロース20%、pH8.5;PBS:NaCl 0,14M、KCl 13mM、KH2PO4 9mM、Na2HPO4 50mM、pH7.4;BBS:ホウ酸50mM、NaCl 150mM、pH7.6;アンピシリン、Euromedex EU−0400C;イソプロピル β−D−チオガラクトシド(IPTG)、Euromedex EU0008−B;ウシ血清アルブミン(BSA)、Sigma B4287;FITC結合抗c−myc IgG、Sigma F−2047;デスオキシリボヌクレアーゼA、アプロチニン:Sigma A−6279;HRP結合抗c−myc IgG、Invitrogen R951−25;オルトフェニルジアミン(OPD):Sigma P8787、Trizol:Invitrogen、コラーゲンホルムタイプI(Collagen Horm type I):Nycomed、pGEMTクローニングベクター、Promega。scFv発現にはpSWlプラスミドを用いた。6H8および9C2を無関連のscFvとして用いた。
【0056】
オリゴデスオキシリボヌクレオチド配列
用いたオリゴデスオキシリボヌクレオチドを次の表2に挙げる:
【表2】
【0057】
ヒト血小板の調製
ヒト血小板を上述のように調製した(9)
【0058】
フローサイトメトリー
「簡単FITC標識血小板プログラム(Simple FITC labelling of platelets program)」フローサイトメーター Coulter Epics XLを用いた
GPVI−セファロースの調製:
【0059】
試薬:CnBr−セファロースはAmersham-Pharmacia社製とした。研究室で組換え可溶性GPVI(GPVI−Fc)を作製し、精製した(9)。
【0060】
方法:CnBr−セファロース(Amersham-Pharmacia)を供給業者の指示どおりに調製した。それをGPVI−Fc(NaHCO3 0.1M;NaCl 0.5M pH8.3のゲルの8mg/mL)とともに攪拌下で18時間インキュベートした。このゲルを濾過し、濾液中の前記タンパク質濃度を測定して、結合収量を決定した。エタノールアミン(1M、pH8.8)を用いてゆっくりと攪拌しながら暗所にて室温で2時間の遮断工程後、このゲルを濾過し、結合バッファーおよび酢酸ナトリウム0.1M、NaCl 0.5M pH4で順次洗浄した。このゲルをアジ化ナトリウム(1%)含有PBS中、4℃で保存した。
【0061】
1.1.2 手順
scFv 9O12.2の遺伝的構造:
ヒトGPVIに対する免疫グロブリンG(IgG)9O12.2.2を産生する、新たにサブクローニングしたハイブリドーマ9O12.2.2細胞からmRNAを単離した。RT−PCR後、前記抗体可変領域をコードするcDNAをクローニングし、オーバーラップ伸長によるPCRスプライシングによりscFv 9O12.2遺伝子を作出した。scFv 9O12の製造にはpUC 19[pSW Iベクター(37)]から誘導した発現ベクターを用いた。この発現ベクターは、IPTG誘導性LacZプロモーター、pelBリーダー配列と、下流に、フラッグc−mycと融合されたscFv 9O12.2をコードする遺伝子および組換え細菌を選択するのに用いられるアンピシリン耐性遺伝子を含む。
【0062】
scFv 9O12.2発現ベクターの構築に用いた方法を図1に要約する。
【0063】
scFv 9O12.2の製造
リーダー配列pelBは、組換えscFv 9O12.2を、発現ベクターpSW scFv 9O12.2mycで形質転換した細菌の周縁質に向けることを可能にする。scFv 9O12.2を作製するために、細菌Toppl(登録商標)(非K12、Rif、F’、proAB、lacIqZΔM15、Tn10、tetr)(Stratagene, La Jolla, USA)、コロニー55Tlを用いる。
【0064】
*J0:アンピシリンを補給したLB寒天への55Tlコロニーのプレーティング(サブクローニング)。37℃で一晩インキュベーション。
【0065】
*J1:4 PM:一クローンの選択およびアンピシリンを補給したLB 5mL中での培養。攪拌(125rpm)しながら37℃で一晩インキュベーション。
【0066】
*J2:8 AM:600nmにおける吸光度の測定(予測値A600nm=1.5±0.1)。500mL 2xTY+アンピシリンへの4mLの移入。A600nmが1.5±0.1に達するまで(〜8時間)、攪拌(125rpm)しながら37℃でインキュベーション。その後、0.8mM IPTGでの細菌の誘導。攪拌(75rpm)しながら16℃で16時間インキュベーション。
【0067】
*J3:周縁質タンパク質抽出:遠心分離(3600g、4℃で20分)により細菌細胞を集める。ペレットを10mL TESバッファー中にゆっくりと再懸濁し、氷上で30分間インキュベートする。次に、これらの細胞を、TESバッファーを加えることによって弱い浸透圧ショックに付し、1:4希釈する。氷上で30分間のインキュベーション後、4℃にて15000gで30分間の遠心分離により不溶性物質を除去する。さらに、周縁質タンパク質抽出物に相当する上清にデオキシリボヌクレアーゼA(50U)およびプロテアーゼ阻害剤(アプロチニン 2μg/mL)を加える。その後、調製物を4℃でPBSに対して大規模に透析する。同じ手順に従って、無関連のscFvを発現する細菌の周縁質タンパク質抽出物を調製する。
【0068】
*J4:4℃にて15000gで30分間の遠心分離。上清を集め、280nmにおけるその吸光度を測定する(予測値:1.5〜3.0)。解析のために一サンプルをとり、調製物(〜35mL±2.0)を−20℃で保存する。
【0069】
*J5:フローサイトメトリーによる周縁質抽出物のスクリーニング:洗浄したヒト血小板(2x107/mL)を100μLの周縁質タンパク質抽出物とともに室温で30分間インキュベートする。FITC結合抗c−myc IgGを加え、そのインキュベーションを暗所にて室温で30分間続ける。陰性対照は、周縁質抽出物の不在下で抗c−myc抗体とともに行う。サンプルをフローサイトメトリー(Coulter Epics XL)により解析する。
【0070】
*J6:GPVI結合セファロースでのアフィニティークロマトグラフィーによるscFv 9O12.2の精製。周縁質抽出物(35mL)を500μL GPVI−セファロースとともに4℃で12時間、さらに室温で4時間インキュベートする。この混合物をカラムにのせる。流出画分を集めた後、PBSでA280nm=0.001まで洗浄し;グリシン0.1M pH3.0を用いて溶出を行い、氷上で400μLの画分を5μL Tris 3Mの入ったチューブに集める。A280nmを測定し、A280nmが0.2より高い画分をプールし、PBSに対して大規模に透析する。
【0071】
*J7:このサンプルを15000gで30分間遠心分離する。A280nm測定後、タンパク質濃度を決定する。ProtParamソフトウエア(http://www.expasy.ch/tools/pi_tool.html)を用いて、scFv9O12.2mycの理論Mrおよび280nmにおけるその吸光係数を決定する。
【0072】
タンパク質解析:
タンパク質解析を、LaemmliによるSDSの存在下でのポリアクリルアミドスラブゲルでの電気泳動により;タンパク質のニトロセルロースへの転写、HRP結合抗c−myc抗体とのインキュベーションおよび4クロロナフトールを用いた検出後の免疫ブロット法により行った。
【0073】
質量の実験的測定
精製scFvのMrをマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析計(Voyager DE-PRO; PerSeptive Biosystems Inc., Framingham, MA)で測定する。50%アセトニトリルおよび0.1%TFA中のα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸飽和溶液をマトリックスとして用い、外部標準ペプチド混合物を用いて分光計を較正する。
【0074】
サイズ排除−拡散クロマトグラフィー:
精製scFv調製物を、既知分子量の標準を用いて較正したSuperdex 75 HRカラムでのサイズ排除拡散クロマトグラフィーにより分離した。200μLのサンプルを0.5mL/分の速度で注入した。紫外線検出器を用いて226nmで検出をモニタリングする。解析には画分をそのまま用いた。
【0075】
可溶性組換えGPVIとの結合
マイクロタイタープレートをGPVI−Fc(10μg/mL、1ウェルにつき100μL)にて4℃で一晩コーティングする。ウェルを100μL BSAにて室温で2時間飽和させる。次に、これらのウェルに漸増濃度のscFv 9O12を2時間加える。HRP結合抗c−myc−抗体(PBS中1/750)とともに室温で2時間のインキュベーション後、結合したscFvを検出する。その後、これらのウェルに基質溶液(OPD)を5分間加え、492nmで吸光度を読み取る。2つの対照:scFv 9O12.2の代わりに無関連のscFvを用いる第一の対照およびGPVI−Fcでのコーティングを省いた第二の対照を行う。中間工程ごとに0.05% Tweenおよび0.1mg/mL BSAを含有するPBSで5回洗浄を行う。
【0076】
第一ヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))の構築
scFv 9O12.2をヒト化するアプローチはCDRグラフト技術9から適応させた。ネズミ9O12.2抗体のCDRをヒト可変鎖フレームワークにグラフトした。ヒト抗体の選択は次の判定基準を用いて行った:結晶構造が解明されており(pdbライブラリーのIVGE);ヒト抗体IVGEの可変領域が9O12.2の可変領域と高度の配列相同性(VH 60.6%;VL 55.4%)を示し;候補ヒト抗体IVGEと9O12.2の可変領域のモデルとの結晶学的データの構造比較が行われ、それにより本発明者らがヒトアクセプタースキャフォールドIVGEの選択の正当性を立証することが可能であった。この戦略はVHドメインとVLドメインの相互作用の安定性を低下させる危険性を最小限にしながら、CDRの適正な折りたたみに必要なスキャフォールドを保存し、抗原に対して高い親和性を保存する。これらの解析に基づいて選択されたヒト抗体IVGEにより本発明者らはヒト化9O12.2 scFvを構築することができた。ヒト化scFv 9O12.2をコードするヌクレオチド配列には至適化を行った。最初に、最適な結合特性を提供するために調整することができるように、CDR領域間に制限部位を挿入した。さらに、原核生物発現系大腸菌においてヒト化scFvを発現させるために、細菌コドン使用頻度を用いて至適化を行った。
【0077】
より厳密には、本発明者らは最初に、9O12可変領域と最もよく似た配列を有する結晶構造を同定した後、mscFv9O12の3D構造モデルをin silicoで構築した。これら総ての配列はネズミ由来のものであった。モデリングには上位4位のスコアのネズミ由来構造を用いた。VH遺伝子については、本発明者らは、9O12と66〜78%の配列同一性(79〜85%類似性)を有する1PLG、1MNU、1A5FおよびHGIを用いた。VL遺伝子については、本発明者らは、87〜90%の配列同一性(94〜95%類似性)を有する1PLG、HGI、1MNUおよび1AXTを用いた。これら総ての配列の3D構造は2.8Åより高い分解能を用いて解明された。Modeler 3.0ソフトウエアを用いて各ドメインにつき20のモデルを作成し、RMSD値(VHについては0.13ÅおよびVLについては0.703Å)および詳細検査に基づいて最適なものを選択した。
【0078】
次に、本発明者らは9O12 V−ドメインのヒト化を進めた。これを行うために、FASTA検索を行って、PDBデータバンクに登録されたヒト抗体配列のレパートリーに対してVHアミノ酸配列およびVLアミノ酸配列を独立にアラインした。9O12にマッチしたヒトV−ドメインのうち、本発明者らは最初に、自然抗体中で起こるドメイン間接触を保存するために、同じ抗体分子由来のVHおよびVLを選択した。ヒト抗体IVGEは、V−ドメイン配列全体を見たときに9O12と最高の同一性スコアを有し、VHおよびVLについてそれぞれ62%および55%の同一性を示すことが分かったためそれを選択した。フレームワーク領域配列だけで計算すると、その同一性はさらに少し高まり、それぞれ69.5%および65.4%の同一性を示した。さらに、IVGEの結晶構造は高分解能(2ÅおよびR値0.18)で解明された。そのため、本発明者らは9O12 CDRをIVGE鋳型にin silicoでグラフトすることにした。この構築物をコードする遺伝子を化学合成し、mscFv9O12について行ったとおりに正確にpSWIに挿入した。このベクターで形質転換したTOPPI細胞を、組換えタンパク質を発現するように誘導した。
【0079】
この結果、第一のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1)と呼称)が得られた
【0080】
9O12.2 IgGとの競合:
scFv9O12.2(100μg/ml)を漸増濃度の9O12.2 IgGと混合した後、GVI−Fcでコーティングしたマイクロタイトレーションウェルに加えた。結合したscFvを上記のとおり検出した。
コラーゲンとのGPVIの結合に対する抗体の効果:
【0081】
マイクロタイトレーションウェルを繊維状タイプIコラーゲン(fibrilar type I collagen)(Collagen Horn,Nycomed, Munich 2μg/ウェル)でコーティングし、BSAで飽和させ、洗浄する。これらのウェルに、PBS、scFv 9O12.2またはFab 9O12.2とともにプレインキュベートしたGPVI−Fcの漸増量を加える。室温で1時間、洗浄後、結合したGPVI−Fcをペルオキシダーゼ結合抗ヒトFcおよびOPDを用いて検出する。
【0082】
表面プラズモン共鳴(SPR、BIAcore):
抗GPVI scFvと組換えGPVI−Fcとの結合をBIAcore 2000システム(Uppsala, Sweden)を用いた表面プラズモン共鳴により解析する。scFv 9O12、タンパク質加水分解Fabおよび親IgGについて結合研究を行う。
【0083】
組換えGPVI−Fcを、アミンカップリング法(ウィザード法)を用いてカルボキシ−メチルデキストランCM5センサーチップ上に固定する(〜600RU)。次に、固定した組換えGPVI−Fc上に、抗体をHBS−EPバッファー(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.005%ポリソルベート20(v/v))中、25℃で流速20μl/分で流す。BIAevaluationバージョン3.1ソフトウエアを用いて、データを結合モデルに当てはめることにより速度定数(ka、kd)および親和性を決定する。HBS−EPはランニングバッファーである。20μl/分で30秒間注入した10mMグリシン−HCl pH2.5は再生バッファーである。用いた総ての試薬およびバッファーはBiacore社製である。
【0084】
精製scFvとヒト血小板GPVIとの結合
洗浄したヒト血小板(2.107/mL)を0〜100μg/mlの精製scFv 9O12とともに室温で30分間インキュベートし、その後、5μLのFITC結合抗c−myc IgG(希釈溶液1:60)とともに暗所にて室温で30分間再びインキュベートする。細胞蛍光をフローサイトメーター(Epics XL、Coulter)を用いて測定する。scFv 9O12.2の代わりに無関連のscFvを用いることによりバックグラウンドを測定する。
【0085】
血小板凝集
洗浄したヒト血小板(3x108/mL)を、PBS、scFv 9O12.2またはFab 9O12.2とともに攪拌せずに37℃で5分間プレインキュベートする。タイプIコラーゲンを加えることによって凝集を開始させ、光透過率の変化を連続記録する(Chronolog社製血小板凝集計)。
【0086】
フロー条件下での血小板凝集
フロー条件下でのコラーゲンへの血小板粘着を、基本的には別記のとおり(9)測定した。ガラスカバースリップを繊維状タイプIコラーゲン(50μg・mL−1)でコーティングした。健康なボランティアの血液を40μM PPACKで採取し、DIOC−6(1μM)で標識した。血液アリコートを、バッファーまたは終濃度50μg・mL−1の精製抗体フラグメント(Fab 9O12、mscFv9O12、scFv 9C2)とともに室温で15分間インキュベートした。次に、この混合物を、フローチャンバー内に挿入した、コラーゲンでコーティングしたカバースリップに1500秒−1で5分間散布した。透過率および蛍光画像を蛍光顕微鏡を用いて実時間で記録した。蛍光画像は、散布終了時に任意選択された少なくとも10の異なるコラーゲン含有顕微鏡視野から得られた。蛍光画像の領域カバレージをHistolabソフトウエア(Microvision, Evry, France)を用いてオフラインで解析した。
【0087】
トロンビン生成
トロンボグラム法を用いて上述のとおりに(38)多血小板血漿(PRP)中でトロンビン生成を連続測定した。要するに、クエン酸PRP(1.5x108血小板 mL−1)を抗体フラグメントとともに37℃で10分間インキュベートした後、コラーゲンを加えた。10分後、組織因子(0.5pM)の入ったマイクロタイトレーションプレートのウェルにサンプルを入れることによってトロンビン生成を開始させた。37℃で5分後、CaCl2含有バッファーおよび蛍光トロンビン基質Z−GGR−AMC(Stago, Asnieres, France))を加えることによって反応を開始させた。開裂された基質の蛍光蓄積を励起波長および発光波長それぞれ390nmおよび460nmにおいて連続測定した。蛍光蓄積の一次導関数曲線を、トロンビン較正装置を用いてトロンビン濃度曲線に変換した(39)。ピーク高さはトロンビン形成最大速度の指標であり、血小板活性化に影響を受ける。
【0088】
1.2 結果
1.2.1 ネズミ9O12.2 scFv(mscFv 9O12.2)
抗体9O12.2.2 VH cDNAおよびVL cDNAのクローニング
9O12.2はネズミIgG1(κ鎖)である。全RNAを、新たにサブクローニングしたハイブリドーマ細胞 約5.108からTrizolを用いて一段階法により抽出した。このRNA調製物を一本鎖cDNA合成の鋳型として用いた。次に、IgG 9O12.2.2 VHドメインおよびVLドメインをコードする二本鎖cDNAを、プライマーセット(VHRev、VHFor)および(MKRevU、MKC5For)それぞれを用いたPCRにより増幅した。VH cDNA配列はユニークであり、これはpGEMTへのクローニング後のcDNAの配列決定により確認された。VLドメインに対応するPCR産物の配列をスクランブルした。pGEMTへクローニングし、数クローンを配列決定した後、2つのVL配列を同定した。fasta解析を用いたデータ解析により、それらのVL配列の1つが内因性の異常な非機能性Vk mRNA(Gene bank受託番号M35669)を発現するMOPC−21クローンに由来することが分かった。scFv 9O12.2の一部として、もう一方のVL遺伝子およびVH遺伝子のヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列を図2に示している。これらの配列をいくつかのデータバンク(UNIPROT UNIREF100 UNIREF90 UNIREF50 UNIPARC SWISSPROT IPI PRINTS SGT PDB IMGTHLAP, PATENT: epop jpop uspop)(http://www.ebi.ac.uk/fasta33/)(DNA banks: EMBL, Human, MOUSE, SYNTHETIC, PATENT)に登録された免疫グロブリン可変領域配列と比較した。これにより、本発明者らはVH領域およびVL領域の相補性決定領域に相当する3つのループならびにカノニカル構造に関与するアミノ酸残基を同定することができた。
【0089】
Kabat et al. (1991)およびChotia and Lesk (1987)から推定される次のルールに従ってCDRを同定した:
・CDR−L1:
開始−およそ残基24
前の残基は常にCysである
後の残基は常にTrpである。典型的にはTRP−TYR−GLN、同様に、TRP−LEU−GLN、TRP−PHE−GLN、TRP−TYR−LEU
長さ 10〜17残基
・CDR−L2:
開始−常にL1後16残基
前の残基 一般的にはILE−TYR、同様に、VAL−TYR、ILE−LYS、ILE−PHE
長さ 常に7残基。
・CDR−L3:
開始−常にL2後33残基
前の残基は常にCysである
後の残基 常にPHE−GLY−XXX−GLY
長さ 7〜11残基
・CDR−H1:
開始−およそ残基26(常にCYS後4残基)[Chothia/AbM定義] Kabat定義では5残基後に開始する
前の残基 常にCYS−XXX−XXX−XXX
後の残基 常にTRP。典型的にはTRP−VAL、同様に、TRP−ILE、TRP−ALA
長さ 10〜12残基(AbM定義) Chothia定義では最後の4残基を排除する
・CDR−H2:
開始−常にCDR−H1の後15残基Kabat/AbM定義)
前の残基 典型的にはLEU−GLU−TRP−ILE−GLY、同様に多数の変化物
後の残基 LYS/ARG−LEU/ILE/VAL/PHE/THR/ALA−THR/SER/ILE/ALA
長さ Kabat定義 16〜19残基(AbM定義では7残基前に終わる)
・CDR−H3:
開始−常にCDR−H2後33残基(常にCYS後2残基)
前の残基 常にCYS−XXX−XXX(典型的にはCYS−ALA−ARG)
後の残基 常にTRP−GLY−XXX−GLY
長さ 3〜25残基
【0090】
VH cDNA配列は、別のネズミVHドメイン(MMMD52C)をコードするcDNAと92.96%の同一性を示した。VLについては、本発明者らは、ネズミ抗アセチル−LysのVLドメイン(BD174891)をコードするcDNA配列と98.51%の同一であることを見出した。推定アミノ酸配列解析でもネズミIgの配列と高い相同性を示した。9O12.2 VHは、抗CD20ネズミIgGの推定アミノ酸配列(BD688655)と89.256%の同一性を示した。9O12.2 VLは、抗アセチル LysネズミIgGの推定アミノ酸配列(BD581288)と96.43%の同一性を示した。
【0091】
scFv 9O12.2の設計
scFv 9O12.2のヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列を図2に示している。scFvは266アミノ酸長であり、[G4S]3リンカーによって互いに結合されたVHおよびVL配列とそれに続く短いスペーサー(8残基)およびc−mycフラッグ配列(11残基)からなる。
【0092】
scFvの理論構造特性
scFvの理論分子量は、ProtParamソフトウエアを用いて決定されるように28393.5である。そのpIは6.92であり、その吸光係数は280nmにおいて49640M−1cm−1である(表3)。
【0093】
【表3】
【0094】
scFv 9O12.2の分子モデリング
鋳型として用いたネズミ可変領域のPdbファイルは:
VHドメインについては:1PLG:H;1MNU:H;1A5F:H;1IGI:H、
VLドメインについては:1PLG:L;1IGI:L;1MNU:L;1AXT:Lである。
可変領域のモデリングにはModeler 3.0.ソフトウエアを用いた。各ドメインにつき20のモデルを設計し、RMSD値:VH(RMSD:0.13Å);VL(RMSD:0.703Å)に基づいて最適なものを選択した。このモデルを図3に示している。
【0095】
周縁質抽出物の解析
scFvが予測される抗GPVI活性を有するかどうかを評価するために、周縁質抽出物を、ヒト血小板およびFITC結合抗c−myc IgGを用いて試験した。図4は、9O12.2 scFvの存在下で血小板蛍光が右側へシフトし(40%陽性血小板)、無関連のscFvの存在下ではそれが起こらない(0.17%陽性血小板)ことを示している。さらに、周縁質抽出物を、固定した組換え可溶性GPVIとともにインキュベートしたときには、scFv 9O12.2の結合だけが検出された。これらの結果を合わせて、9O12.2 scFvは抗GPVI特性を保有することが示される。
【0096】
9O12.2 scFvの製造および精製
周縁質抽出物、流出画分およびGPVI−セファロースカラムからの溶出画分中に含まれるタンパク質をSDS−PAGEにより、そしてイムノブロットにより解析した(図5Aおよび5B)。溶出画分は、理論質量に一致する〜28kDaの主要なバンドとして現われる。このバンドは、抗c−myc抗体を用いたイムノブロットによっても検出される。これらの結果は、アフィニティークロマトグラフィーによってかなり純粋なscFv画分を得ることができることを示している。
【0097】
サイズ排除クロマトグラフィー
scFvの精製調製物をSuperdex 75 HR 10/30カラムに適用したときに、〜25kDの1つの主要なピーク(モノマーscFvに相当する)が観察された(図6)。このピークは、45kDaおよび68kDaにおける2つのあまり重要でないピーク(二量体およびオリゴマーscFvに相当する)より先に生じた。
【0098】
単量体scFvは非常に安定しており、4℃で保存すると多量体形態は単量体に自発的に戻り、これによりGPVIとの一価結合および生物学的効果を保存することは絶対的となる。実際には、二価抗GPVI分子(IgGまたはF(ab)’2)が血小板活性化をもたらし得る(40,93)ことは十分に確立されている。
【0099】
9O12.2 精製GPVI−FcとのscFvの結合および9O12.2 IgGとの競合
精製scFvはマイクロタイトレーションプレート上に固定されているGPVI−Fcと用量依存的に結合した(図7A)。結合特異性は、無関連のscFvが同じ条件でGPVIと結合しなかったという事実によって示される。
【0100】
さらに、精製GPVIとのscFvとの結合は親IgGによって用量依存的に阻害された(図7B)。
【0101】
可溶性GPVIに対する9O12.2 scFvの親和性
表面プラズモン共鳴によって確認されたGPVI−Fcに対する9O12.2 IgGの親和性およびパパイン消化後に調製されたそのFab(pFab)の親和性は高く、Kdはそれぞれ6.5 10−9Mおよび4.5 10−9Mである。scFvのKdは2.5 10−9Mである(図8)。
【0102】
第二次試験では、次の動力学的パラメーター値を決定した:kon=6.5x104M−1s−1、koff=1.7x10−4s−1および9O12.2 scFvの解離定数KD=2.6nM;さらに9O12 タンパク質加水分解FabフラグメントのKD=2.3nMおよび親IgGのKD=4.0nM。これらの値は第一次試験で得られた値と非常に類似しており、ナノモルKD値が確認される。
【0103】
このように、ネズミscFv 9O12は非常に高い機能的親和性をなお有し、KD値は10−9Mの範囲内であり、このことがscFv−血小板GPVI複合体の安定性に寄与することは間違いなく、これによりフロー条件下での血小板凝集を阻害することは絶対的である。
【0104】
精製9O12.2 scFvはコラーゲンとのGPVIの結合を阻害する
9O12.2 scFvは、固定されている繊維状コラーゲンタイプIとのGPVI−Fcの結合を用量依存的に阻害した(図9)。その阻害能力は9O12.2 pFabのものに近い。
【0105】
より厳密には、mscFv 9O12はコラーゲンとのGPVIの結合を阻害し(IC50はおよそ1.17μg.mL−1(42μM))、80%阻害はmscFv 9O12の濃度5〜10μg.mL−1において達した。この阻害能力は、親IgGのパパイン消化後に調製されたFab 9O12(2.1μg.mL−1;15nM)で観察されたものと同等であった。
【0106】
精製9O12.2 scFvはヒト血小板と結合し、コラーゲン誘導血小板凝集を阻害する。
【0107】
ヒト血小板との精製scFvの結合をフローサイトメトリーにより測定した。ピークの右側シフトによりscFvがヒト血小板と用量依存的に結合することが示される(図10)。無関連の精製scFvは血小板と結合しなかった。
【0108】
GPVI機能に対する9O12.2 scFvの効果を、コラーゲン誘導血小板凝集を測定することによって試験した。このために、モノマー形態のscFvをサイズ排除ゲルクロマトグラフィーによって精製した。9O12.2 scFv(25μg/mL)は、同じ濃度で用いた9O12.2 pFabと同じく、コラーゲン誘導血小板凝集を完全に抑制した(図11)。
【0109】
フロー条件下での血小板凝集
さらに、コラーゲンへの血小板粘着および凝集に対するmscFv 9O12の効果を動脈流条件下で調査し、Fab 9O12および無関連のscFvの結果と比較した(図12参照)。この場合もコラーゲンによって誘導される血小板凝集が阻害された。scFvまたはFabの存在下では、前の結果と一致してコラーゲン繊維と結合した分離血小板だけが観察され(9,41)、対照条件とは対照的に、大きな血小板集塊は観察されなかった。
【0110】
トロンビン生成
Fab 9O12はコラーゲンによる刺激を受ける血小板の表面におけるトロンビン生成を阻害することが知られていることから、精製mscFv 9O12の効果を、トロンボグラム法を用いて試験した(図13)。mscFv 9O12およびFab 9O12は、トロンビンピークを同様の程度まで下げ、トロンビン生成を遅らせた。このことから、mscFv 9O12はコラーゲン誘導血小板凝血促進活性の阻害においてFab 9O12と同程度有効であることが示される。
【0111】
1.2.2 第一のヒト化9O12.2 scFv(hscFv 9O12.2(1))
次に、本発明者らは、第1.1.2段に記載のようにネズミ9O12.2 scFvフラグメントをヒト化した。ヒト化VHおよびVLドメインならびに第一ヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(1))のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を図14に示している。次に、このhscFv 9O12.2(1)フラグメントを、GPVIセファロースとの親和性結合を用いてさらに特性決定した:組換え細菌の周縁質画分をGPVIセファロースカラム上にのせた。保持されたタンパク質を抗c−myc IgG、続いてHRPと結合した抗マウス抗体を用いたウエスタンブロットおよびECLによる検出によって解析した。ヒト化scFvについて予想されたとおりに、分子量28.5kDaの単一バンドが検出される(図15)。
【0112】
さらに、GPVI−FcとのhscFv 9O12.2(1)の結合を解析し、ネズミscFv 9O12.2(mscFv 9O12.2)の結果と比較した。精製ヒト化scFvおよびmscFvを、CM5センサーチップ上に固定されているGPVI−Fc上に注入した。結果を図16に示しており、これらの結果からhscFv 9O12.2(1)がGPVI−Fcとも、mscFvより高いように思われる親和性で結合するということが示される。
【0113】
最後に、ヒト血小板とのhscFv9O12.2(l)の結合を研究した。ヒト血小板を細菌周縁質抽出物とともにインキュベートした。血小板と結合したhscFv 9O12.2(1)を、FITC結合抗c−myc抗体を用いて検出した。血小板との結合をXL Epics Coulterフローサイトメーターで解析した。陰性対照として無関連のscFvを用いた。結果を図17に示しており、これらの結果からhscFvについてのヒストグラムの右側シフトが示され、これによりヒト化hscFv 9O12.2(1)が血小板GPVIと結合することが分かる。
【0114】
1.3 結論
上記の結果は、本発明者らによって9O12.2モノクローナル抗体から作製されたネズミ9O12.2 scFvが、本質的な構造修飾にもかかわらず、ヒトGPVIと特異的に高親和性で結合することをはっきりと示している。さらに、そのネズミ9O12.2 scFvはコラーゲンとのGPVIの結合を阻害し、コラーゲン誘導血小板凝集を抑制するため、GPVI機能を阻害する。
【0115】
よって、このscFvフラグメントはscFvフラグメントの総ての利点を示しながら、対応するFabフラグメントについての親和性および阻害能力を保有している。
さらに、本発明者らは、新たな本質的な構造修飾にもかかわらず、同様にヒトGPVIと高親和性で結合する第一ヒト化型9O12.2 scFvフラグメントも作製した(hscFv 9O12.2(1))。
【0116】
この第一ヒト化9O12.2 scFvフラグメント(hscFv 9O12.2)は、免疫原性が潜在的に最小限に低下されているという利点をさらに有する。
【0117】
よって、本願は、血小板凝集を阻害する高い能力を有する低分子量、低免疫原性のGPVIリガンドについて初めて記載し、このGPVIリガンドによって結果的に動脈血栓症の処置に極めて有望な製品がもたらされる。
実施例2 ヒト糖タンパク質VIに対する第二の至適化されたヒト化単鎖可変フラグメントhscFv 9O12.2(2)の合成および活性
【0118】
第一の組換えヒト化hscFv 9O12.(1)フラグメントの作製は困難であったことから、この構築物におけるいくつかの精密化が必要であった。このようにしてhscFv 9O12.(1)から第二の至適化ヒト化hscFv 9O12.(2)フラグメントを得た。
【0119】
2.1 試験手順
第二のヒト化scFvフラグメント(hscFv 9O12.2(2))の構築
本発明者らは、元のネズミCDRとヒトアクセプターフレームワークの間の予測されない構造的不和合性がV−ドメインの不適切な折りたたみならびに細菌の細胞質に隔離されて留まる不溶性の封入体の形成をもたらしたのではないかと仮定した。これらの困難を克服するため、いくつかの微細な精密化を行った。
【0120】
まず、本発明者らは、9O12 CDR L1ループがIVGEのものよりも5残基長いこと、および9O12およびIVGEのフレームワーク1および2の同一性スコアが低いこと(それぞれ48%および73%)を見出した(図19)。これにより、IVGE軽鎖FR1およびFR2がCDR L1の適正な折りたたみに適さないことが示唆された。
【0121】
次に、9O12 VL FR1およびFR2を用いて、さらなるFASTAを行った。FR1およびFR2ではヒト1X9Qと良好な一致が見られた(それぞれ同一性スコア95.6および86.6、両場合で類似性100%)。さらに、選択抗体1X9QのループL1(CDR1)は9O12のものと長さが類似していた。
【0122】
従って、本発明者らは、それらのフレームワークの配列が別のヒト抗体フレームワーク(1X9Q)とよく一致している(そのCDR L1は9O12のものと正確に同じサイズであった)ことから新規なヒト化hscFv 9O12.(2)の構築において元のネズミ9O12 VL FR1およびFR2を保存することにした(図19参照)。
【0123】
モデルの綿密な検査に基づき、他の精密化も行った。実際に、本発明者らはまた、最終的なhScFv 9O12構築物において、CDRループの、それらのコンフォメーションを採用する能力に影響を及ぼし得る極めて限定された数の残基を保持した。2つの重要な領域を保存した。1つ目のものは、L CDR2の残基に近接していることからおそらく重要であると思われるVL.L59(ヒト鋳型におけるP)の59〜60番のジペプチドLDであった。LとPは双方とも疎水性であるが、Pは環状側鎖であり、タンパク質主鎖構造に特定の影響を誘導することが知られている(MacArthur and Thornton, 1999)。さらに、本発明者らは、この位置にLはPよりもはるかに存在が少ない(2%)ことに気づき、これは特定の役割の指標となり得る(Honegger & Pluckthun, 2001)。ヒト鋳型(IVGE)と類似性のない他の変異していないネズミ残基はVH FR3(AH71、KH73、RH76、Kabbatナンバリング)に位置していた。最後に、ヒト化に関して選択されたヒトフレームワークでは、VLでは5つ、VHでは10個のみのネズミ残基を維持した。
【0124】
最終的な構築物を図19に示す。VHおよびVLフレームワーク3(それぞれ90.62および93.75%)を除いたヒト化hscFv 9O12.(2)フレームワークは総て、ヒトフレームワークと100%の類似性を示す(下表1参照)。
【0125】
【表4】
【0126】
全体として、最終的な構築物では、ネズミVH FR3由来の11個のN末端残基が保存されたが、これはそれらが、その抗原が予測され、従ってそれと相互作用し得るポケットの平坦部分に明らかに近接しているためである。しかしながらやはり、VH FR3はIVGEと25/32残基の同一性を示す。このフレームワークの3残基(AH71、KH73、RH76、Kabbatナンバリング)のみがIVGEと類似性を示さなかった。9O12 VL FR3を、本質的にLはこの位置に見られる頻度が少なく、Dは酸性残基であるので、この2残基(L59PおよびD60S)を除き、そのIVGE相対物と置換した。
【0127】
他の試験手順
第二のhscFv 9O12.(2)フラグメントを特性決定するための他の総ての試験手順は実施例1に記載の通りに行った。
【0128】
2.2 結果
hscFv9O12.2(2)の製造は、hscFv9O12.2(1)のものより良好であった。
【0129】
さらに、精製hscFv9O12.2(2)フラグメントは、固定化GPVIに対するSPR分析(kon=5.8×104Mー1sー1、koff=1.86×10−4sー1および解離定数KD=3.2nM)によって示されたように、その標的に対する高い親和性を保存していた。
【0130】
それはフローサイトメトリーにおいて新しく産生されたヒト血小板と結合することができ、蛍光ピークの右側シフトは、同様の実験条件下の、ネズミmscFv9O12で標識された細胞のものと常に類似していた(図20B参照)。血小板を過剰量のFab 9O12と予め混合した場合は、hscFv9O12.2(2)結合のほぼ完全な阻害がみらレセプター他。これらの結果は、アフィニティー精製されたhscFv9O12.2(2)分子がGPVIならびにヒト血小板の表面に曝されている天然GPVIに対する親抗体の結合活性、親和性および特異性を保持していたことを示した。
【0131】
2.3 結論
hscFv9O12.2(1)に関して、ヒト化により通常を影響を受ける主要なパラメーターはhscFv9O12.2(2)でよく保存されていた。アフィニティー精製されたhscFv9O12.2(2)は十分機能的であり、生物学的適用の主要な点であるGPVIに対する高い親和性を有していた。FACS分析はまた、hscFv9O12.2(2)は、その結合が1モル過剰のFab 9O12の存在下で特異的に遮断されたことから、ヒト血小板においてマウスFab 9O12と同じエピトープを認識することを示した。
【参照文献】
【0132】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、配列番号3および配列番号4からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVHドメイン、
ペプチドリンカー、および
配列番号5、配列番号6および配列番号7からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVLドメイン
を含んでなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント。
【請求項2】
ペプチドタグおよび所望により短いペプチドスペーサーをさらに含んでなる、請求項1に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項3】
配列番号1と少なくとも95%の同一性を有する266アミノ酸の配列を含んでなる、またはからなり、その266アミノ酸の配列のアミノ酸26〜35、50〜66、99〜109、159〜174、190〜196および229〜237がそれぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる、請求項2に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項4】
配列番号1を含んでなる、またはからなる、請求項3に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項5】
VHおよびVLドメインのフレームワーク領域がヒト抗体のフレームワーク領域を有するVHおよびVLドメインに置き換えられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項6】
配列番号28または配列番号47を含んでなる、あるいはからなる、請求項5に記載のヒト化単鎖可変フラグメント。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントをコードする核酸配列。
【請求項8】
配列番号29を含んでなる、またはからなる、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項9】
配列番号30または配列番号49を含んでなる、あるいはからなる、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の核酸配列を含んでなる、発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを含んでなる、宿主細胞。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントを作製する方法であって、
a)請求項11に記載の宿主細胞を培養すること、および
b)前記単鎖可変フラグメントを精製すること
を含む、方法。
【請求項13】
薬剤としての、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントと薬学上許容される担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項15】
動脈および静脈血栓、再狭窄、急性冠動脈症候群ならびにアテローム性動脈硬化症による脳血管偶発症候から選択される心血管疾患の治療および/または予防を目的とした薬剤を製造するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントの使用。
【請求項16】
前記心血管疾患が血栓症である、請求項15に記載の使用。
【請求項1】
配列番号2、配列番号3および配列番号4からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVHドメイン、
ペプチドリンカー、および
配列番号5、配列番号6および配列番号7からなるCDR1、CDR2およびCDR3領域を含んでなるVLドメイン
を含んでなる、ヒト糖タンパク質VIに対する単鎖可変フラグメント。
【請求項2】
ペプチドタグおよび所望により短いペプチドスペーサーをさらに含んでなる、請求項1に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項3】
配列番号1と少なくとも95%の同一性を有する266アミノ酸の配列を含んでなる、またはからなり、その266アミノ酸の配列のアミノ酸26〜35、50〜66、99〜109、159〜174、190〜196および229〜237がそれぞれ配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる、請求項2に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項4】
配列番号1を含んでなる、またはからなる、請求項3に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項5】
VHおよびVLドメインのフレームワーク領域がヒト抗体のフレームワーク領域を有するVHおよびVLドメインに置き換えられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項6】
配列番号28または配列番号47を含んでなる、あるいはからなる、請求項5に記載のヒト化単鎖可変フラグメント。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントをコードする核酸配列。
【請求項8】
配列番号29を含んでなる、またはからなる、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項9】
配列番号30または配列番号49を含んでなる、あるいはからなる、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の核酸配列を含んでなる、発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを含んでなる、宿主細胞。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントを作製する方法であって、
a)請求項11に記載の宿主細胞を培養すること、および
b)前記単鎖可変フラグメントを精製すること
を含む、方法。
【請求項13】
薬剤としての、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメント。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントと薬学上許容される担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項15】
動脈および静脈血栓、再狭窄、急性冠動脈症候群ならびにアテローム性動脈硬化症による脳血管偶発症候から選択される心血管疾患の治療および/または予防を目的とした薬剤を製造するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単鎖可変フラグメントの使用。
【請求項16】
前記心血管疾患が血栓症である、請求項15に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図20】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図20】
【図13】
【公表番号】特表2010−507383(P2010−507383A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533871(P2009−533871)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061569
【国際公開番号】WO2008/049928
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061569
【国際公開番号】WO2008/049928
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】
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