説明

血液中の高密度リポタンパク質の除去方法

【課題】血液試料から高密度リポタンパク質(HDL)を選択的かつ迅速に除去する方法を提供すること。
【解決手段】血液試料をpH3.0〜6.5の条件下においてポアシリカと接触させることによってポアシリカと高密度リポタンパク質からなる複合体を形成させ、該複合体を血液試料から分離することを含む、血液試料から高密度リポタンパク質を除去する方法。高密度リポタンパク質を除去した後の血液試料中の低密度リポタンパク質を(a)コレステロールエステラーゼ及び(b)コレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼを用いて測定することを含む、血液試料中の低密度リポタンパク質の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の高密度リポタンパク質の除去方法、並びに上記方法を用いた血液試料中の低密度リポタンパク質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポタンパク質は、循環系に存在する複合体粒子であり、タンパク質及び脂質から構成される。リポタンパク質の機能の1つは、最終的に細胞で利用されるためのコレステロール及びコレステロールエステルのような水不溶性物質を運搬することである。細胞は成長のためにコレステロールを必要とするが、細胞が過剰にコレステロールを蓄積すると、アテローム性動脈硬化症を含むある種の疾病がひき起こされる可能性がある。
【0003】
血清中に存在するリポタンパク質は、密度によってそのクラスが分類されている。リポタンパク質のクラスとしては、超低密度リポタンパク質(VLDL)、低密度リポタンパク質(LDL、直径約20-25nm)、及び高密度リポタンパク質(HDL、直径約10-15nm)が挙げられる。これらのリポタンパク質は異なる量のコレステロールを含んでいる。総血清コレステロール量は、各々のリポタンパク質におけるコレステロール量の合計で示すことができる。
【0004】
総血清コレステロール量がアテローム性動脈硬化症の発病率と相関していることが知られている。最近の研究によれば、特定のクラスのリポタンパク質が、他のクラスのリポタンパク質と比べて、アテローム性動脈硬化症を含む心臓疾患の進行により密接に関連していることが示唆されている。さらに最近の研究では、細胞内のコレステロールの蓄積に関連するリポタンパク質クラスとしてLDLの関与が示唆され、その一方で、HDLは細胞からの過剰コレステロールの除去に関与することが判明している。従って、リポタンパク質、特にLDLを測定するための方法が開発されてきた。通常、HDL及びLDLは液体分注装置を備えた大型の自動分析装置で測定する。また、乾式分析素子の測定装置によってLDLを測定するためには、血液試料からLDL以外のリポタンパク質(特に、HDL)を除去する必要がある。
【0005】
特許文献1には、特定の粒子サイズ及び表面孔を有する多孔質シリカゲルを有する試験具を用いて、血液試料から高密度リポタンパク質を分離することが記載されている。また、特許文献2には、血液試料を、吸着剤粒子として細分された多孔質シリカまたはシリケートと接触させて珪質物質ゲル/HDL複合体を形成させ、該複合体を、固体/液体分離技術によって血液試料から分離し、それにより実質的にHDLを含まない血液試料を提供することが記載されている。上記したような従来技術によれば、ポアシリカと血液試料を適切な割合で混合することにより、ポアシリカにHDLを吸着させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−55812号公報
【特許文献2】特開平6−213901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したような大型自動分析装置は、乾式分析素子の測定装置に比べ、大型で高価という欠点がある。また、特許文献1及び2に記載される方法においては、血液試料にポアシリカを直接加えた場合、HDLのポアシリカへの吸着効率が悪いため、非常に時間がかかるという問題があった。本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明の目的は、血液試料から高密度リポタンパク質(HDL)を選択的かつ迅速に除去する方法を提供することである。本発明の別の目的は、上記方法を用いた血液試料中の低密度リポタンパク質の乾式分析素子による測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、血液試料をpH3.0〜6.5の条件下においてポアシリカと接触させることによって、選択的(効率よく)かつ迅速に高密度リポタンパク質(HDL)をポアシリカに吸着できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、血液試料をpH3.0〜6.5の条件下においてポアシリカと接触させることによってポアシリカと高密度リポタンパク質からなる複合体を形成させ、該複合体を血液試料から分離することを含む、血液試料から高密度リポタンパク質を除去する方法が提供される。
好ましくは、血液試料をpH4.0〜6.0の条件下においてポアシリカと接触させる。
好ましくは、血液試料をポアシリカと接触させる時間が5分以下である。
好ましくは、ポアシリカは、粉末状、分散液状又は固形状である。
好ましくは、ポアシリカの平均粒子径が10〜100μmであり、細孔直径が10〜200nmであり、比表面積が10〜200m/gである。
【0010】
本発明によればさらに、上記した本発明の方法により血液試料から高密度リポタンパク質を除去し、高密度リポタンパク質を除去した後の血液試料中の低密度リポタンパク質を(a)コレステロールエステラーゼ及び(b)コレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼを用いて測定することを含む、血液試料中の低密度リポタンパク質の測定方法が提供される。
【0011】
好ましくは、コレステロールエステラーゼおよびコレステロールオキシダーゼにより低密度リポ蛋白コレステロールから生成した過酸化水素にペルオキシダーゼと色原体とを作用させて発色反応を行なうことにより低密度リポ蛋白コレステロールを測定する。
好ましくは、(a)コレステロールエステラーゼ、(b)コレステロールオキシダーゼ、(c)ペルオキシダーゼ、及び(d)色原体を含む、低密度リポ蛋白コレステロール測定用乾式分析素子を用いて、血液試料中の低密度リポタンパク質を測定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、血液試料から、選択的、迅速かつ簡易に高密度リポタンパク質(HDL)を除去することが可能となる。本試料を用いることにより、血液中の低密度リポタンパク質(LDL)を乾式分析素子で迅速に測定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
本発明は、血液試料をpH3.0〜6.5の条件下においてポアシリカと接触させることによってポアシリカと高密度リポタンパク質からなる複合体を形成させ、該複合体を血液試料から分離することを含む、血液試料から高密度リポタンパク質を除去する方法に関する。さらに本発明は、上記方法により血液試料から高密度リポタンパク質を除去し、高密度リポタンパク質を除去した後の血液試料中の低密度リポタンパク質を(a)コレステロールエステラーゼ及び(b)コレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼを用いて測定することを含む、血液試料中の低密度リポタンパク質の測定方法に関する。
【0014】
血液試料としては、血液(全血)、血清、又は血漿などを用いることができる。血液試料としては、血液(全血)、血清、又は血漿などをそのまま使用してもよく、あるいは適宜の前処理を施したものを使用してもよい。
【0015】
本発明では、血液試料をpH3.0〜6.5の条件下においてポアシリカと接触させる。pH条件をpH3.0〜6.5とすることによって、血液試料から高密度リポタンパク質(HDL)を選択的かつ迅速に除去できるという本発明の効果を達成することができる。pHは、より好ましくはpH3.0〜6.0であり、さらに好ましくはpH4.0〜6.0、さらに好ましくはpH5.0〜6.0である。
【0016】
本発明で用いるポアシリカの形態は特に限定されないが、一般的には粉末状、分散液状又は固形状である。純粋なシリカは、ケイ素と酸素から構成されているが、これに、金属、金属酸化物又は金属塩が付加したものもシリカと称される場合がある。また、高密度リポタンパク質(HDL)は、HDL粒子の直径よりも大きい平均孔径をもつシリカと相互作用することができる。ポアシリカの孔サイズは、LDLやVLDLのような大きいリポタンパク質粒子とのその相互作用が減少する程度まで十分に小さいことが好ましい。微孔性のポアシリカは、例えば、1,000℃で約10時間水和シリカゲルを加熱することによって得ることができる。
【0017】
本発明で用いるポアシリカの平均粒子径は特には限定されないが、好ましくは10〜100μmである。ポアシリカの細孔直径は特には限定されないが、好ましくは10〜200nmであり、より好ましくは20〜150nmである。ポアシリカの比表面積は特には限定されないが、好ましくは10〜200m/gであり、より好ましくは30〜170m/gである。なお、平均粒子径は、レーザ回折散乱法(レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置、Partica LA−950V2、堀場製作所社製)などにより測定することができる。また、細孔直径は、水銀圧入法(全自動細孔分布測定装置、Pore Master 60−GT、Quanta Chrome社製)などにより測定することができる。更に、比表面積はBrunauer-Emmett-Teller (BET)法などにより測定することができる。
【0018】
使用するポアシリカの量は、ポアシリカの種類などに応じて適宜決定することができるが、血液試料と混合した状態でのポアシリカの最終濃度が10〜1000mg/ml、好ましくは20〜500mg/mlである。
【0019】
血液試料を、ポアシリカを適当な緩衝液に分散してシリカ分散液を調製し、このシリカ分散液と血液試料を混合して、所定の時間だけ懸濁すればよい。懸濁する時間は本発明の効果が達成できる限り特に限定されないが、下限は好ましくは1秒以上、より好ましくは
10秒以上、更に好ましくは30秒以上であり、上限は好ましくは10分以下、より好ましくは5分以下、更に好ましくは3分以下である。血液試料とポアシリカとの接触は、転倒混和、ボルテックス、ピペッティングなど通常の混和操作で行うことができる。シリカ分散液を調整する際に使用する緩衝液としては、pH3.0〜6.5において緩衝作用を有する緩衝液であれば特に限定されず、例えば、クエン酸、リン酸などを用いることができる。
【0020】
本発明においては、上記の方法により得られる血液試料中の低密度リポタンパク質を(a)コレステロールエステラーゼ及び(b)コレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼを用いて測定することができる。コレステロールエステラーゼとしてリパーゼを用いることもできる。酵素由来の微生物は特に限定されるものではないが、例えば、コレステロールエステラーゼに関しては、Schizophyllum commune由来又はPseudomonas sp.由来、その他の微生物由来のエステラーゼなどを用いることができる。コレステロールオキシダーゼに関しては、Pseudomonas sp由来、Streptomyces sp.由来、その他微生物由来のオキシダーゼを用いることができる。本発明で用いる酵素は微生物由来の酵素又は周知の方法で製造されたリコンビナント酵素のいずれであってもよい。
【0021】
Schizophyllum commune由来のコレステロールエステラーゼとしては、例えば、東洋紡社製のCOE-302、Pseudomonas sp由来のコレステロールエステラーゼとしては東洋紡社製のCOE-311、LPL-312、LPL-314、旭化成社製のCEN等が挙げられる。Pseudomonas sp由来のコレステロールオキシダーゼとしては、キッコーマン社製のCHO-PELやCHO-PEWL等が挙げられる。
【0022】
本発明の方法では、これらの試薬のほかに、コレステロールを検出するための試薬として、周知の酵素試薬、色原体、及びpH緩衝剤を用いることができる。
より具体的には、酵素としてペルオキシダーゼを挙げることができ、色原体としては、4-アミノアンチピリン(4-AA)、水素供与性カップリングして発色するフェノール性又はアニリン性のトリンダー試薬、及びロイコ色素などを挙げることができる。トリンダー試薬としては、好ましくはアニリン性試薬を用いることがき、例えば、同仁化学研究所製のN-エチル- N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル- N-スルホプロピルアニリン(ALPS )、N-エチル- N-スルホプロピル-3-メチルアニリン(TOPS)、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS )、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(TOOS)等が挙げられる。
【0023】
pH緩衝剤の例としては、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩やBiochemistry, 5, pp.467-477, 1966に記載のGoodのpH緩衝剤などがある。これらのpH緩衝剤は、例えば、蛋白質・酵素の基礎実験法、堀尾武一ほか著、南江堂、1981年、Biochemistry, 5, pp.467-477, 1966等の文献の記載を参考にして選択することができる。
【0024】
前記緩衝剤のpHは用いる酵素の至適pHに応じて決定することができるが、好ましくはpH5.0〜8.0の範囲に調整することができ、より好ましくはpH6.0〜7.0の範囲に調整することができる。
【0025】
測定系が溶液の場合における本発明の測定方法について説明するが、本発明の範囲は下記の特定の態様に限定されることはない。試薬液の組成としては、次の(1)〜(5)を含む組成の溶液が好ましい。
(1)コレステロールエステラーゼ
(2)コレステロールオキシダーゼ
(3)ペルオキシダーゼ
(4)色原体(4-AA及びトリンダー試薬)
(5)pH緩衝剤
【0026】
これらの試薬を最適な濃度に調整した試薬液1〜1000μL、好ましくは100〜500μLを約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間、予めインキュベーションする。この試薬溶液に溶液試料0.5〜50μL、好ましくは1〜20μLを加え、一定温度でインキュベートしながら色原体の発色に応じた波長の時間経時変化を測定する。予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中の被験物質の量を求めることができる。
【0027】
必要な酵素量は適宜決定することができるが、例えば、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、及びペルオキシダーゼのいずれの酵素も0.2〜500U/mLの範囲で用いることが好ましく、0.2〜100U/mLの範囲で用いることがより好ましく、より好ましくは1〜50U/mLで用いることができる。
【0028】
測定系が溶液の場合、必要に応じて界面活性剤を1種又は2種以上組み合わせることもできる。界面活性剤の濃度は特に限定されないが、例えば0.01〜20%の濃度で用いることが好ましく、より好ましくは0.1〜15%の濃度で用いることができる。
【0029】
測定系がドライ試薬である乾式分析素子を用いた本発明の測定方法について説明する。乾式分析素子は、水不透過性支持体の上に、少なくとも1層の接着層及び多孔性の展開層を有するように構成することができる。
【0030】
多孔性層は繊維質又は非繊維質のいずれであってもよく、液体試料の展開層として機能することから、液体計量作用を有する層であることが好ましい。液体計量作用とは、層の表面に点着供給された液体試料を、その中に含有する成分を実質的に偏在させることなく、層の面方向に単位面積当りほぼ一定量の割合で広げる作用である。展開層には、展開面積や展開速度等を調節するために、特開昭60-222770号公報、特開昭63-219397号公報、特開昭62-182652号公報に記載された親水性高分子又は界面活性剤を配合することができ、界面活性剤として多環ポリグリシドール化合物を配合することもできる。
【0031】
繊維性の多孔層は、特開昭55-164356号公報、特開昭57-66359号公報、特開昭60-222769号公報等に代表されるような、ポリエステル繊維のものが好ましい。非繊維性多孔層としては、ポリスルホン酸等の有機高分子であることが好ましい。
【0032】
接着層は、前記水不透過性支持体、及び前記多孔層を接着する機能を有する層であり、ゼラチン及びこれらの誘導体(例、フタル化ゼラチン)、セルロース誘導体(例、ヒドロキシプロピルセルロース)、アガロース、アクリルアミド重合体、メタアクリルアミド重合体、アクリルアミド又はメタアクリルアミドと各種ビニル性モノマーとの共重合体等の親水性ポリマーが利用できる。
【0033】
親水性ポリマーを含む水溶液を周知の方法で均一に塗布するが、塗布の方法は公知の方法を利用できる。塗布には、例えば、ディップ塗布、押し出し塗布、ドクター塗布、ホッパー塗布、カーテン塗布等を適宜選択して用いることができる。
【0034】
接着層の上に多孔層を塗布することもできるが、好ましくは、予め編み物として供給されている布や多孔膜をラミネートするのが好ましい。ラミネートの方法は、特開昭55-164356号公報に記載のように、親水性ポリマーを含む接着層の表面を水で一様に湿潤させておき、その上に布や多孔性膜を重ねて軽くほぼ一様に圧力をかけて接着させる方法で接着させることができる。接着層の厚さは、0.5〜50μmが好ましく、より好ましくは、1〜20μmである。
【0035】
光透過性支持体の材料として好ましいものはポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、セルローストリアセテート等のセルロースエーテル類である。親水性層の吸水層、検出層、実質的に無孔性の試薬層等を支持体に強固に接着させるために、通常、支持体に下塗り層を設けるか、親水化処理を施すことができる。支持体の厚みは、特に制限されないが、10〜1000μmが好ましく、300〜800μmがより好ましい。光透過性のある支持体の場合、最終的な検出は、支持体側又は多孔層側のいずれでもよいが、光不透過性の場合、多孔層側から検出する。
【0036】
必要に応じ、安定化剤、pH緩衝剤、架橋剤(硬膜剤又は硬化剤)、界面活性剤、ポリマー等を含有させることができ、これらは接着層又は多孔層に含有させることができる。
LDL-C検出用乾式分析素子の好ましい層構成を以下に説明する。
LDL-C検出用乾式分析素子は、ゼラチン水溶液で塗布された接着層および多孔層からなっている。接着層はゼラチン、ペルオキシダーゼ、色材の試薬を含む。接着層の上は、布または膜でラミネートされている。その布または膜上にコレステロールエステラーゼ、及びコレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼ、界面活性剤、pH緩衝剤が塗布されている。
【0037】
乾式分析素子に用いられるコレステロール測定用試薬組成物及び光学的変化を生じる試薬組成物について説明する。
試薬組成物は、第1の多孔性層に含まれてもよいが、接着層及び多孔性層の両方の層に含まれてもよい。あるいは全部又は大部分の試薬組成物がいずれかの層に含まれていてもよく、あるいは接着層と多孔性層以外の層に試薬組成物を添加しておいてもよい。
【0038】
LDL-C検出用乾式分析素子において、コレステロールエステラーゼ、及びコレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼのいずれの酵素も1 m2あたり0.1〜30 kU程度の量で用いることが好ましい。より好ましくは1 m2あたり0.1〜15 kU程度の量を用いることができる。
【0039】
界面活性剤は、いずれも1 m2あたり0.2〜50 g程度の量を用いることができ、より好ましくは1 m2あたり1〜50 g程度の量を用いることができる。
【0040】
ペルオキシダーゼとしては、特に由来は限定されないが、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼが好ましい。使用量としては1〜200kU/m2程度が好ましく、より好ましくは10〜100kU/m2程度を用いることができる。
【0041】
前記色原体に関しては、4-アミノアンチピリン(4-AA)とカップリングして発色する前記試薬の組み合わせが好ましく、特に好ましくは、N-エチル- N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(TOOS)を用いることができる。使用する色原体の量は特に限定されないが、例えば4-AA及び水素供与性カップリング剤をともに0.1〜10g/m2程度用いることが好ましく、より好ましくは、0.1〜5g/m2程度用いることができる。
【0042】
LDL-Cを検出するための乾式分析素子におけるその他試薬組成物には、必要に応じて安定化剤、pH緩衝剤、架橋剤(硬膜剤又は硬化剤)、界面活性剤、又はポリマー等など添加剤の1種又は2種以上を含有させることができる。これらの添加剤は、乾式分析素子の接着層及び/又は多孔層に含有させることができる。
緩衝剤のpHは用いる酵素の至適pHに応じて決定することができ、好ましくはpH5.0〜8.0の範囲に調整することができる。より好ましくは、pH6.0〜7.0の範囲に調整することができる。
【0043】
乾式分析素子は、例えば、一辺約5 mm〜約30 mmの正方形またはほぼ同サイズの円形等の小片に裁断し、特公昭57-283331号公報、実開昭56-142454号公報、特開昭57-63452号公報、実開昭58-32350号公報、特表昭58-501144号公報等に記載のスライド枠に収めて化学分析スライドとして用いることができる。この態様は、製造、包装、輸送、保存、及び測定操作等の観点で好ましい。使用目的によっては、長いテープ状でカセットまたはマガジンに収めて用いることもでき、あるいは小片を開口のある容器内に収めて用い、又は小片を開口カードに貼付または収めて用いることもでき、さらには裁断した小片をそのまま用いることもできる。
【0044】
乾式分析素子を用いる場合、例えば約2μL〜約30μL、好ましくは4μL〜15μLの範囲の血液試料を多孔性液体試料展開層に点着することができ、点着した乾式分析素子を約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間インキュベーションすることができる。乾式分析素子内の発色又は変色を光透過性支持体側から反射測光し、予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中の被験物質の量を求めることができる。
【0045】
測定操作は、例えば特開昭60-125543号公報、特開昭60-220862号公報、特開昭61-294367号公報、特開昭58-161867号公報などに記載の化学分析装置により極めて容易に行なうことができ、これにより高精度の定量分析を行なうことができる。目的や必要精度によっては目視により発色の度合いを判定して半定量的な測定を行ってもよい。
【0046】
乾式分析素子は、分析を行なうまでは乾燥状態で貯蔵・保管することができ、試薬を用時調製する必要がなく、また一般に乾燥状態の方が試薬の安定性が高いことから、試薬溶液を用時調製しなければならないいわゆる溶液法より簡便性及び迅速性に優れている。また、微量の液体試料で、精度の高い検査を迅速に行なうことができる検査方法としても優れている。
【0047】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例I:ポアシリカによる血液中の高密度リポタンパク質(HDL)の除去
0.1Mのバッファー(バッファーの種類は表2−1、表2−2、表2−3、表3又は表4に記載の通り)115μLに、表1に記載の何れかのポアシリカ(ポアシリカの量は表2−1、表2−2、表2−3、表3又は表4に記載の通り)を分散させ、シリカ分散液を作製した。ここで調製された試料(シリカ分散液)のpHは、表2−1、表2−2、表2−3、表3又は表4に記載の通りである。
【0049】
このシリカ分散液に115μLの血清試料を添加した後、所定の時間(表2−1、表2−2、表2−3、表3又は表4に記載の通り)だけ懸濁し、30秒3000rpmでシリカを沈降させ、上清に含まれるHDL及びLDLの濃度を日立自動分析装置H7180で測定した([測定試薬] HDL:デタミナーL HDL−C(共和メディックス社製)、LDL:デタミナーLLDL−C(共和メディックス社製))。未処理の血清試料に含まれるHDL及びLDLの量に対する、ポアシリカでの処理後の血清試料に含まれるHDL及びLDL量を、それぞれ残存HDL%及び残存LDL%とした。この時、残存LDL%/残存HDL%(表中では、LDL/HDL計算比と記載)が5.0以上の場合には、その後のLDL測定の際に優位な差としてみられる。
【0050】
上記の測定の結果を表2−1、表2−2、表2−3、表3及び表4に示す。
【0051】
なお、各化合物の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(Partica LA−950V2、堀場製作所社製)を用いてレーザ回折散乱法により測定した。まず、試料の前処理として、各化合物の試料を夫々6サンプル準備し、各試料に対し装置内超音波(ホモジェナイザ―)処理を1分間施した。次いで、測定モード:マニュアルフロー式セル測定、測定範囲:0.01μm〜3000μm、分散媒:イオン交換水180ml、屈折率:石英1.45-0.00i/イオン交換水1.33-0.00iの測定条件にて、測定セルに分散媒を入れてブランク測定した後、石英セルに各試料を入れて、夫々の試料について2回の測定を行うことで平均粒子径を算出した。
【0052】
また、細孔直径は、全自動細孔分布測定装置(Pore Master 60−GT、Quanta Chrome社製)を用いて水銀圧入法により測定した。まず、各化合物の試料0.2g〜0.4gを夫々6サンプルずつ準備する。次いで、測定レンジ:高圧域、サンプルセル:スモールセル 10φ×30mm、測定範囲:細孔直径0.0036μm〜10μm、計算範囲:細孔直径0.0036μm〜10μm、水銀接触角:140°、水銀表面張力:480dyn/cmの測定条件にて、各試料の測定を行い、細孔直径を算出した。このとき、細孔直径の測定と同条件下にて、BET法を用いて比表面積の測定を行い、比表面積を算出した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
上記の実施例1〜15及び比較例1〜9の結果より、ポアシリカとHDLとの接触はpH3.0〜6.5、好ましくはpH3.0〜6.0、特に好ましくはpH4.0〜6.0で行うことが、高密度リポタンパク質(HDL)の選択的除去に有効であることが確認できた。
【0056】
【表3】

【0057】
上記の実施例1及び4、並びに比較例10の結果より、ポアシリカと試料を接触させるpHを調整することにより、懸濁時間の短縮化が可能であることが確認できた(表3)。
【0058】
【表4】

【0059】
実施例3、8、13、16、17、18及び19の結果より、平均粒子径10〜100μm、細孔直径10〜200nmのポアシリカを用いることで、高密度リポタンパク質(HDL)を選択的に除去できることが確認できた。
【0060】
実施例II:LDL-C測定用多層分析素子を用いたLDL-Cの測定
血液中のLDL-Cを多層分析素子を用いて測定した結果を以下に示す。
ゼラチン下塗りされている180μmのポリエチレンテレフタレート無色透明平滑フィルムにゼラチン水溶液を乾燥後の厚さが14μmになるように塗布し、乾燥した。次に、下記組成の水溶液を塗布乾燥した。
【0061】
4-アミノアンチピリン 0.32 g/m2
TOOS(同仁研究所社製) 0.62g/m2
ペルオキシダーゼ(東洋紡社製) 12.75kU/m2
【0062】
次に上記フィルム上に約30g/m2の供給量で水を全面に供給して湿潤させた後、50デニール相当のポリエステル紡績糸を36ゲージ編みしたトリコット編み物布地を軽く圧力をかけて積層し、乾燥させた。次に、上記の布地上に下記組成の水溶液を塗布乾燥した。
【0063】
MOPS (pH 7.0) 1.6g/m2
ポリグリセリルトリスチルフェニルエーテル 5.02g/m2
Pluronic L121 39.75g/m2
コレステロールエステラーゼ、(リポプロテインリパーゼ、東洋紡) 0.65kU/m2
コレステロールオキシダーゼ、(recombinant E.Coli, キッコーマン) 0.13 kU/m2
【0064】
血清を下記のシリカ分散液で懸濁し、30秒で3000rpmにて遠心分離し、シリカから検体を分離した。シリカ分散液のバッファーは、表5に示し通りである。
【0065】
血清 100μL
シリカ分散液(222.2mg/ml) 100μL
(0.5Mバッファー中D-50-500AW(AGCエスアイテック)
【0066】
分離した検体を用い、上記の多層分析素子に点着し、本発明の方法と、日立自動分析装置H7180による液体直接測定法(未処理血清を測定試薬:デタミナー LDL-C(共和メディックス社製)で測定)について、多検体相関を調べた。結果を表5に示す。液体直接測定法によるLDL-C測定値Xと本発明の方法によるLDL-C測定値Yとの相関式は、Y=AX+Bとなる。この時、相関係数Rは、0.98以上である場合には、両方の検査方法について十分な相関性があるといえる。ここで、相関係数Rは、以下のように定義する。2 組の数値からなるデータ列 (x, y)={(Xi, Yi)}(i=1,2,…,n) があたえられたとき、相関係数は以下のように求められる。
【化1】

(ただし、x’, y’は、それぞれのデータx={Xi}、y={Yi}の相加平均である。)
【0067】
実施例20〜24、比較例11〜13の結果より、ポアシリカと血清の反応を、pH3.0〜6.5、好ましくはpH3.0〜6.0、特に好ましくはpH4.0〜6.0で行うことで、多層分析素子においても液体直接測定法と高い相関性があるLDL-C測定を行うことができた(表5)。
【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料をpH3.0〜6.5の条件下においてポアシリカと接触させることによってポアシリカと高密度リポタンパク質からなる複合体を形成させ、該複合体を血液試料から分離することを含む、血液試料から高密度リポタンパク質を除去する方法。
【請求項2】
血液試料をpH4.0〜6.0の条件下においてポアシリカと接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血液試料をポアシリカと接触させる時間が5分以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ポアシリカが、粉末状、分散液状又は固形状である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ポアシリカの平均粒子径が10〜100μmであり、細孔直径が10〜200nmであり、比表面積が10〜200m/gである、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の方法により血液試料から高密度リポタンパク質を除去し、高密度リポタンパク質を除去した後の血液試料中の低密度リポタンパク質を(a)コレステロールエステラーゼ及び(b)コレステロールオキシダーゼまたはコレステロールデヒドロゲナーゼを用いて測定することを含む、血液試料中の低密度リポタンパク質の測定方法。
【請求項7】
コレステロールエステラーゼおよびコレステロールオキシダーゼにより低密度リポ蛋白コレステロールから生成した過酸化水素にペルオキシダーゼと色原体とを作用させて発色反応を行なうことにより低密度リポ蛋白コレステロールを測定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(a)コレステロールエステラーゼ、(b)コレステロールオキシダーゼ、(c)ペルオキシダーゼ、及び(d)色原体を含む、低密度リポ蛋白コレステロール測定用乾式分析素子を用いて、血液試料中の低密度リポタンパク質を測定する、請求項6又は7に記載の方法。

【公開番号】特開2012−157351(P2012−157351A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−278032(P2011−278032)
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】