説明

血液凝固を軽減するためのフコイダン

フコイダンのような硫酸化ポリサッカライドを用いて血栓性の疾患を処置するための方法が開示される。本発明は、とりわけ深部静脈血栓、肺塞栓症、心筋梗塞、発作の予防ならびに血液凝固の処置および予防を含む血栓性障害の処置に関する。本発明は、哺乳動物被験体において種々の血栓障害を処置するための方法および組成物を提供する。そして治療上有効な量の1つ以上のフコイダンを含む組成物をこのような被験体に投与する工程を包含する。好ましくは、1つ以上のフコイダンは、経口的に投与される。フコイダン組成物の特徴としては以下が挙げられる。1実施形態では、この組成物のフコイダン成分は、5〜25重量%のイオウを有する。さらに別の実施形態では、フコイダンは藻類由来のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、とりわけ深部静脈血栓、肺塞栓症、心筋梗塞、発作の予防ならびに血液凝固の処置および予防を含む血栓性障害の処置に関する。詳細には、本発明は、凝固を予防するためのフコイダンのような硫酸化ポリサッカライドの使用に関する。
【0002】
(略語)
以下の略語が本明細書において用いられる:
aPTT:活性化部分トロンボプラスチン時間
dPT:希釈プロトロンビン時間
PT:プロトロンビン時間
DVT:深部静脈血栓症
TF:組織因子
FVIIa:第VIIa因子
FX:第X因子
FXa:第Xa因子
FVa:第Va因子
NSAID:非ステロイド抗炎症薬
TFPI:組織因子経路インヒビター
NAPc2:線虫抗凝固タンパク質c2
HIT:ヘパリン−起因性血小板減少症
HITTS:ペハリン起因性血小板減少症血栓症候群
TCT:トロンビン凝固時間
ACT:活性化凝固時間
INR:国際標準化比率(international normalized ratio)
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
正常な血液凝固は、いくつかのレベルで調節される複雑な生理学的および生化学的プロセスである。血液凝固のプロセスは、局所の血管収縮を伴うフィブリン形成および血小板凝固をもたらす凝固因子カスケードの活性化に関与する(非特許文献1によって概説される)。この凝固カスケードは、正常な凝固開始の初期手段であると考えられる「外因性(extrinsic)」経路および広範な凝固応答に寄与する「内因性(intrinsic)」経路からなる。出血性の侵襲に対する正常な応答は、外因性経路の活性化に関与する。外因性経路の活性化は、血液が、侵襲後の組織上で曝されるかまたは発現される第VII因子の補因子である組織因子(TF)と接触する場合に開始される。TFは、FVIIaの産生を容易にするFVIIとの複合体を形成する。次いで、FVIIaは、TFと会合して、FXを、プロトロンビナーゼ複合体の重要な成分である、セリンプロテアーゼFXaへ変換する。FXa/FVa/カルシウム/リン脂質複合体によるプロトロンビンからトロンビンへの変換は、その全てが正常な血液凝固に必須である、フィブリンの形成および血小板の活性化を刺激する。正常なうっ血はさらに、内因性経路の第IXaおよびVIIIa因子によって増強され、これもFXをFXaに変換する。また、非特許文献2も参照のこと。
【0004】
治療剤の1つの重要なクラスは、抗凝固剤(血液凝固の形成を妨げる因子)である。抗凝固剤を用いて、とりわけ、動脈および静脈の血栓、肺塞栓、心筋梗塞および発作の予防のような血栓性障害を処置する。抗凝固剤はまた、心房細動を有する患者または機械的人工心臓弁を有する患者における心臓塞栓の事象を妨げるためにも用いられる。
【0005】
動脈および静脈の血栓は、疾病率および死亡率の主要な原因である。動脈血栓症は、心筋梗塞、発作および四肢の壊疽の最も一般的な原因であるが、静脈血栓は、胚塞栓(致死的であり得る)および静脈炎後症候群をもたらす。
【0006】
動脈の血栓は、少量のフィブリンによって一緒に保持される血小板凝集からなるので、動脈の血栓形成を阻害するストラテジーは代表的には、血小板機能をブロックする薬物に関しているが、しばしば、フィブリン沈着を妨げる抗凝固剤も含む。静脈血栓は、主にフィブリンから構成され、従って、抗凝固剤は、それらの予防および処置のための選択薬である。
【0007】
既存の経口および非経口の抗凝固剤は、不利な点によって悩まされる。ワルファリン(クマディン)は、臨床的な実施で用いられる主な経口の抗凝固剤であり、そしてクマリンはビタミン−Kアンタゴニストである。ワルファリンは依然として、静脈の血栓塞栓症の長期予防および処置に利用可能な唯一の経口投与される抗凝固剤である。不幸にも、ワルファリンが有する治療係数は狭く、そして頻繁な実験モニタリングおよび用量調節を要する(非特許文献3)。さらに、ワルファリンの重篤な有害な副作用は、過度の出血の可能性がある(例えば、切り傷、鼻血または月経による)。さらに、ワルファリンは、重篤な薬物相互作用を、例えば、特定の抗生物質、アセトアミノフェン、アスピリンおよびNSAIDとともに例えば同時投与される場合、生じ得る(非特許文献4)。
【0008】
ワルファリンの限界の結果として、いくつかの新規な薬剤が、可能性のある抗凝固剤として開発されている。しかし、TFPI(組織因子経路インヒビター)またはNAPc2(線虫の抗凝固タンパク質c2)のような検討によれば多くの可能性のある抗凝固剤は生物製剤であり、従って、既存の抗凝固治療剤よりもかなり費用が嵩む可能性が高い。さらに、各々が、ほとんどの患者集団に所望されない経路によって投与される−TFPIは、静脈内投与されるが、NAPc2は皮下に投与される。
【0009】
硫酸化ポリサッカライドは、生物学的活性の多血症によって特徴付けられるあるクラスの分子であり、動物およびヒトにおいてしばしば好ましい耐容性プロフィールを有する。これらのポリアニオン性分子はしばしば、植物および動物の組織由来であり、そしてヘパリン、グリコサミノグリカン、フコイダン、カラギナン、ペントサンポリ硫酸およびデルマタンまたはデキストラン硫酸塩を含む広範なサブクラスを包含する。ヘパリン様の硫酸化ポリサッカライドは、抗トロンビンIIIおよび/またはヘパリン補因子II相互作用を通じて媒介される種々の抗凝固活性を示す(非特許文献5)。
【0010】
このような硫酸化ポリサッカライドの1つである経口ヘパリンは、抗凝固剤としての開発が考慮されているが(非特許文献6)、ヘパリンは、その重篤な合併症のせいで不十分であり、この合併症としては、術中および術後の出血、骨粗鬆症、脱毛症、ヘパリン耐性、ヘパリンのリバウンド、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、ペハリン起因性血小板減少症血栓症候群(HITTS)、および薬物中止後抗凝固剤が弱まるために何日もかかることを含む他の不利な点が挙げられる(非特許文献7;非特許文献8)。ヘパリンは、慣習的に非経口投与され、そしてわずか約1%という経口取り込みレベルを有する(非特許文献9)。
【0011】
ヘパリンと対照的に、別の硫酸化ポリサッカライドであるフコイダンは、海草から単離された硫酸化ポリサッカライドであり、凝血を調節する(すなわち、促進する)ことが示されている(特許文献1)。詳細には、フコイダンは、インビトロにおいて低濃度で、またはインビボで低い皮下用量で投与された場合、外因性の経路の活性化を通じて出血性の状況での凝固の改善(加速)をもたらす(非特許文献10)。
【0012】
凝固促進剤としてのその機能および非抗凝固硫酸化ポリサッカライド(NASP)としての以前の分類と対照的に、本出願人らは、高用量で投与された場合、フコイダンは凝固特性を、驚くべきことに経口投与された場合でさえ有することを発見した。
【0013】
現在の抗凝固剤に関連する問題の観点から、新規な抗凝固剤、そして好ましくは、現在利用可能な抗凝血治療に伴う上記の問題のうちの1つ以上を克服し得る薬剤の必要性が明らかに残っている。従って、安全、完全、有効および好ましくは費用効果的な抗凝固剤である薬剤の必要性が存在する。本発明は、この必要性を満たすと考えられる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0282771号明細書
【非特許文献1】Davieら、Biochemistry 30:10363,1991
【非特許文献2】Weitz,J.I.,ら、Chest,126(3),September 2004(Suppl),265S
【非特許文献3】J Ansell,Semin Vasc Surg 18:134,2005
【非特許文献4】Ament,P.W.ら、American Family Physician,61(6),March 15,2000
【非特許文献5】Toida TC、Linhardt,RJ.,Trends in Glycoscience and Glycotechnology 2003:15:29〜46
【非特許文献6】A Dunn,Idrugs,3:817〜824,2000
【非特許文献7】Iqbal O,ら、Fareed J,Expert Opin Emerg Drugs 6:111〜135,2001
【非特許文献8】Roberts,H R,Anesthesiology 100:722〜730,2004
【非特許文献9】Fitton,J.H.,Glycoscience,The Nutrition Science Site,modified Jan.01,2005
【非特許文献10】Liu,T.,ら、およびJohnson,K.W.,Thrombosis and Haemostasis,95:68〜76,2006
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、哺乳動物被験体において種々の血栓障害を処置するための方法および組成物を提供する。詳細には、本発明は、血液凝固の軽減の必要な被験体を処置するための方法に関しており、そして治療上有効な量の1つ以上のフコイダンを含む組成物をこのような被験体に投与する工程を包含する。好ましくは、1つ以上のフコイダンは、経口的に投与される。
【0015】
フコイダン組成物の特徴としては以下が挙げられる。
【0016】
1実施形態では、この組成物のフコイダン成分は、5〜25重量%のイオウを有する。
【0017】
さらに別の実施形態では、フコイダンは藻類由来のものである。
【0018】
好ましい実施形態では、このフコイダンは、Fucus属またはLaminaria属由来のフコイダンである。例示的なフコイダンは、Fucus vesiculosis由来またはLaminaria japonica由来のフコイダンである。
【0019】
1実施形態では、この投与方法は、代表的にはaPTTアッセイのような適切な凝固ベースのアッセイを用いて凝固時間の延長として測定される、血液凝固時間での50%より大きい延長を生じるために有効である。
【0020】
本発明のフコイダン組成物は、静脈血栓塞栓症、深部静脈血栓、肺塞栓症、冠動脈疾患(冠状動脈血栓症、冠動脈再建術)、不安定狭心症または急性心筋梗塞、冠動脈血栓溶解、心房細動、発作、播種性血管内凝固症候群、、および第VIIa処理によって誘発される凝固促進または血栓症を含む状態を処置または予防するのに有用である。
【0021】
本発明の組成物はまた、一般的な手術を受けている患者、大きい整形外科的処置を受けているか、股関節骨折を受けているか、または脳神経外科を受けている患者における血栓を予防するために投与され得る。本発明の組成物はまた、例えば、下肢での凝固防止のために、圧迫ストッキングの使用と同時に投与されてもよい。
【0022】
また本明細書で提供されるのは、被験体における凝固促進の使用の影響を逆転するための方法であり、この方法は、この被験体に対して本明細書に記載されるようなフコダイン組成物の治療上有効な量を投与する工程を包含する。
【0023】
本発明のこれらおよび他の実施形態は、本開示を考慮すれば当業者に容易に明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、他に示さない限り、当該分野の範囲内である、薬学、化学、生化学、凝固、組み換えDNA技術および免疫学の従来の方法を使用する。このような技術は文献に詳細に例示される。例えば、Handbook of Experimental Immunology,第I〜IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編,Blackwell Scientific Publications);A.L.Lehninger,Biochemistry(Worth Publishers,Inc.,current addition);Sambrook,ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版,1989);Methods In Enzymology(S.ColowickおよびN. Kaplan編,Academic Press,Inc.)。
【0025】
(定義)
本発明の記載では、以下の用語が使用され、そして下に示されるように定義されるものとする。
【0026】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられる場合、単数形「1つの(a)、(an)」および「この、その(the)」は、この内容が明確に他を示すのでない限り、複数の言及を含むことに注意のこと。従って、例えば、「フコイダン」に対する言及は、2つ以上の特定のフコイダンの混合物などを包含する。
【0027】
本明細書において用いる場合「抗凝固剤」とは、凝固形成を予防または遅らせ得る任意の薬剤をいう。
【0028】
本明細書において用いる場合、「ポリサッカライド(polysaccharide)」という用語は、複数の(すなわち、2以上)の共有結合したサッカライド残基を含むポリマーをいう。結合は、天然であっても天然でなくてもよい。天然の結合としては、例えば、グリコシド結合が挙げられるが、天然でない結合としては、例えば、エステル、アミドまたはオキシム結合部分を挙げることができる。ポリサッカライドは、任意の広範な平均分子量(MW)値を有してもよいが、一般には、少なくとも約100ダルトンのものである。例えば、ポリサッカライドは、少なくとも約500、1000、2000、4000、6000、8000、10,000、20,000、30,000、50,000、100,000、500,000ダルトンの分子量またはさらにそれ以上の分子量を有してもよい。ポリサッカライドは、直鎖または分枝鎖の構造を有してもよい。ポリサッカライドは、より大きいポリサッカライドの分解(例えば、加水分解)によって生成されるポリサッカライドのフラグメントであってもよい。分解は、分解されたポリサッカライドを生じるための酸、塩基、熱または酵素でのポリサッカライドの処理を含む、当業者に公知の任意の種々の手段によって達成され得る。ポリサッカライドは、化学的に変化されてもよく、そして限定はしないが硫酸化、ポリ硫酸化、エステル化およびメチル化を含む修飾を有してもよい。
【0029】
「derived from(由来する)」という用語は本明細書において、分子のもとの供給源を特定するために用いるが、この分子が作成される方法を限定することは意味せず、この方法は例えば、化学合成によっても組み換え手段によってもよい。
【0030】
「誘導体(derivative)」とは、親分子の所望の生物学的活性(例えば、抗血液凝固活性)が、少なくとも有意な程度(例えば、この親分子の所望の生物学的活性の少なくとも20%が保持されるような程度)保持される限り、目的の親の分子またはそのアナログの任意の適切な改変、例えば、硫酸化、アセチル化、グリコシル化、リン酸化、ポリマー結合体化(例えば、ポリエチレングリコールとの)、または他の外来部分の添加を意図する。例えば、ポリサッカライドは、1つ以上の有機または無機の基と誘導体化されてもよい。例としては、少なくとも1つのヒドロキシル基において別の基(例えば、硫酸塩、カルボキシル、リン酸塩、アミノ、ニトリル、ハロ、シリル、アミド、アシル、脂肪族、芳香族または糖基)で置換されるか、環の酸素がイオウ、窒素、メチル基などで置換されているポリサッカライドが挙げられる。ポリサッカライドは、例えば、抗凝血機能を改善するために、化学的に変更されてもよい。このような改変としては、限定はしないが、硫酸化、ポリ硫酸化、エステル化およびメチル化が挙げられる。アナログおよび誘導体を作成するための方法は一般に当該分野で利用可能である。例えば、「Chemistry of Polysaccharides」、編集、G.E.Zaikov,2005,VSP Publishers,the Netherlands;「Industrial Polysaccharides」、Proceedings of the Symposium of the Applications and Modifications of Industrial Polysaccharides」、第193回 ACS National Meeting,Denver Colo.,USA,Apr.5〜10,1987,編集M.Yalpani,Elsevierを参照のこと。
【0031】
「フラグメント(fragment)」とはインタクトな全長配列および構造の一部のみからなる分子を意図する。ポリサッカライドのフラグメントは、大型のポリサッカライドの分解(例えば、加水分解)によって生成され得る。ポリサッカライドの活性なフラグメントは一般に、少なくとも約2〜20の糖単位の全長ポリサッカライド、好ましくは少なくとも約5〜10糖単位の全長分子、または2糖単位と全長分子との間の任意の整数を含み、ただし該当のフラグメントは、抗凝血活性のような生物学的活性を保持するものである。
【0032】
「精製された(purified)」とは一般に、ある物質(例えば、硫酸化フカン)が全体的なサンプルのほとんどの重量%を含むような、この物質の単離をいう。代表的には、このようなサンプルでは精製された成分は、サンプルのうち50重量%より多く、好ましくは80%〜85%、そしてさらに好ましくは90〜95%を含む。ポリサッカライドを精製するための技術は、当該分野で周知であり、そしてこの技術としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーおよび密度による沈降が挙げられる。
【0033】
「単離された(isolated)」とは、ポリサッカライドまたはポリペプチドに対して言及する場合、この示される分子は、この分子が自然に見出される生物体丸ごとから分けられて離されているか、または同じタイプの他の生物学的高分子が実質的に存在せずに存在するということを意味する。
【0034】
「実質的に(substantially)」または「本質的に(essentially)」とは、ほぼ全部または完全、例えば、ある所定の量の95%またはそれより多くを意味する。
【0035】
「任意の(optional)」または「任意に、必要に応じて(optionally)」とは、その後ろに記載される状況が存在しても、またはしなくてもよいことを意味し、その結果この説明は、この状況が存在する場合、および存在しない場合を包含する。
【0036】
「血液凝固の低下(reduced blood coagulation)」の必要な被験体とは、血栓形成のリスクがあると特定されている(例えば、人工心臓弁を有する、心臓の麻痺または発作を有するか有した、深部静脈血栓のリスクを有するか有したかそのリスクにあるか、心房細動を有する、明白な理由なしに血液凝固を発症するか、整形外科手術を受けているか、狭心症を有する)など、第VIIa処理を受けている、または例えば、PPTもしくはdPTなどのような臨床血液凝固試験の結果として、正常よりも容易に凝固する血液を有すると評価されている、被験体である。
【0037】
分子量は、本発明のフコイダンの状況では、平均分子量の数値または平均分子重量のいずれかで表され得る。他に示さない限り、本明細書の分子量についての全言及は、平均分子重量を指す。分子量決定、平均数値および平均重量はどれも、ゲル浸透クロマトグラフィーまたは他の液体クロマトグラフィー技術を用いて測定され得る。
【0038】
フコイダンのような組成物または因子の「薬理学的に有効な量(pharmacologically effective amount)」または「治療上有効な量(therapeutically effective amount)」という用語は、所望の応答、例えば血液凝固時間の延長(または血液凝固の軽減)を得るための組成物または因子の毒性ではないが十分な量をいう。必要な正確な量は、被験体の種、年齢および全身の状態、処置されている状態の重篤度、使用される特定の薬物の形態または薬物の組み合わせ、投与方式などに依存して被験体間で変化する。任意の個々の場合の適切な「有効な(effective)」量は、本明細書に提供される情報に基づいて、慣用的な実験を用いて当業者に決定され得る。
【0039】
「被験体(subject)」、「個体(individual)」または「患者(patient)」という用語は、本明細書において交換可能に用いられて、脊椎動物、好ましくは哺乳動物をいう。哺乳動物としては、限定はしないが、マウス、げっ歯類、サル、ヒト、家畜、スポーツ動物、およびペットが挙げられる。
【0040】
「脊椎動物被験体(vetebrate subject)」とは、多数の脊索動物亜門を意味し、これには限定はしないが、ヒトおよび他の霊長類が挙げられ、これには、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジーおよび他の類人猿およびサル種;家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家畜、例えば、イヌおよびネコ;マウス、ラットおよびモルモットのようなげっ歯類を含む実験動物;家禽、野生および狩猟の鳥、例えば、ニワトリ、シチメンチョウおよび他の家禽、アヒル、ガチョウを含む鳥類などが挙げられる。この用語は、特定の年齢を意味しない。従って、成体および新生児の個体の両方とも含まれるものとする。本明細書に記載される本発明は、上記の任意の脊椎動物種における使用を考慮される。
【0041】
「約(about)」という用語は、特に所定の量について言及して、5%のプラスマイナスという逸脱を含むことを意味する。
【0042】
所定の治療剤について推奨される投薬量は、mg/kgで表わされる場合、被験体の体重の1kgあたりの治療剤のmgを指す。
【0043】
(発明の詳細)
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、特定の処方物または処理パラメーターに限定されず、従って当然ながら変化してもよいことが理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は、本発明の特定の実施形態を記載する目的だけであり、限定するとは解釈されないことも理解されるべきである。
【0044】
本明細書に記載される方法および材料に対して類似または等価な多数の方法および材料が、本発明の実施で用いられ得るが、好ましい材料および方法が本明細書で記載される。
【0045】
(全般的な概説)
現在、経口の抗凝血治療剤の選択肢は極めて少ない。ワルファリンが最も一般的であり、これは効果的であるが、その狭い治療係数のせいで安全に調節するのは困難である。さらに、抗凝血作用の期間は極めて長期(数日間程度)であり、これによってその安全な使用がさらに面倒になり得る(HR Roberts Anesthesiology 100:722〜730,2004)。結果として、ワルファリンは、臨床家には十分に活用されておらず(Wittkowsky,A.K.,The American Journal of Managed Care,2004年10月,補遺,S297〜306)、これによって新規な経口抗凝血剤の必要性が理解される。
【0046】
フコイダンが、大型の異種硫酸化ポリサッカライドから構成されても、一般には経口的に生体利用可能とは考えられず、比較的低用量のフコイダンを経口的に投与すれば、検出可能な抗凝血応答が生じるということが出願人らによって実証されている。詳細には、有用な有効な抗凝血剤としての経口フコイダンの使用の検討において、出願人は、経口フコイダンが、抗凝血有効性を保持しており、以下の提唱された機構に基づいて、ワルファリンよりも安全であるはずということを実証している:i)ATIIIおよび/またはHCII阻害を介するより高濃度での抗凝血(Toida TC,Linhardt,RJ.,Trends in Glycoscience and Glycotechnology 2003;15:29〜46)、ii)外因性経路活性化の低濃度増強(Liu,T.,ら、およびJohnson,K.W.Thrombosis and Haemostasis,95:68〜76,2006)、iii)ワルファリンについて時間数(本明細書における実施例を参照のこと)対日数である作用期間、iv)ワルファリンに対する改善された安全域、ならびにv)抗凝血のさらに急速な初回発現(すなわち、ワルファリンよりも速く「発現し(on)」、速く「切れる(off)」。
【0047】
(経口の抗凝血剤としてのフコイダン)
本発明は、とりわけFucus属またはLaminaria属由来のフコイダンのようなフコイダンが、血液凝固の軽減の必要な患者の処置において、経口投与され、そして抗凝血剤として有効であるという発見に基づく。
【0048】
本明細書におけるアプローチは、血液凝固の傾向を軽減するかまたは血液凝固を妨げるための、硫酸化ポリサッカライド、例えば、ヘパリン様硫酸化ポリサッカライドの使用に基づく。本明細書に記載される選択された硫酸化ポリサッカライドは、それらが抗凝促進活性を示す濃度よりも有意に高い濃度で経口的に投与された場合、抗凝血活性を保有することが見出されている。さらに、作用の発現は、かなり急速であり、例えば、ビーグル犬に対して経口的に投与された場合、代表的には約1時間程度であり、抗凝固活性の期間は数時間(例えば、8時間程度)である。これは、ワルファリン(その作用期間は数日程度であり、過剰な出血の傾向による問題および頻繁な患者モニタリングの必要性がある)のような他の経口剤よりも著しい進歩である。
【0049】
実施例1に示され得るように、健康なビーグル犬に投与されたフコイダンは、血液凝固の最も一般的に利用される臨床的指標であるaPTTにおける有意な(>50%)増大によって示されるとおり、処置された3頭のイヌの各々において用量依存の抗凝血活性を示した。特に、3頭の健康なビーグル犬の各々に対する例示的なフコイダン組成物の単回の20mg/kgの用量の経口投与は、投与後約1〜7時間にまたがる数時間内にこの3頭のイヌの各々において投与前値を約5〜9倍を超えて血漿凝血時間を増大するのに有効であった。1番のイヌおよび2番のイヌについて、血症凝血時間の有意な増大(すなわち、最初の投与前値の約6倍〜9倍を超える)が、投与後約0.5時間〜1時間内に観察された。さらに、1番のイヌおよび2番のイヌについて、血漿凝血時間は、投与後数時間内に本質的に投与前値に戻り、このことは、ワルファリンのような薬物に比較した場合出血性の影響の低下の可能性を示している。
【0050】
従って、本発明は、血液凝固の軽減の必要な被験体であって、とりわけ深部静脈血栓、肺塞栓症、心筋梗塞、播種性血管内凝固症候群、不安定狭心症、および第VIIa処置によって誘発される凝固促進または血栓症から選択される状態に罹患している被験体を含む被験体におけるフコイダンの使用に関している。
【0051】
(フコイダン)
フコイダンは、特定の食用の海草および棘皮動物の天然に存在する成分である。さらに詳細には、それらは、主に硫酸化Lフコースから構成される複雑な硫酸化ポリサッカライドであり、ケルプ(海洋の褐藻)ならびにウニおよびナマコのような棘皮動物由来である(Carbohydrate−based Drug Discovery,Vol.1,Wong,Chi−Huey(編),第15章,407〜433頁,Wiley−VCH,2003)。「フコイダン(fucoidan)という用語は代表的には、単独の化学物質ではなく低分子硫酸塩ポリマーの部分の多様な群をいう。フコイダンは主に、分枝または第二のスルホ基を3位置に有するα(1−3)結合単位の4−スルホ−L−フコースから構成される(Wong,同書)。渇藻および棘皮動物の種々の種由来のフコイダンは、その骨格におけるフコースの量、硫酸化の程度およびパターン、構造(直鎖および分枝)、および個々の糖類およびウロン酸の割合が異なる。本発明における使用に好ましいフコイダンは褐藻由来のものである。
【0052】
本発明における使用のためのフコイダンは、抽出されても、さらに精製されても、そして/または天然の供給源(例えば、褐藻類)から改変されても、または新規に合成されてもよい。フコイダンは、熱水によって(PercivalおよびRoss,J.Chem.Soc.,1950,717〜720)、酸もしくはエタノール抽出によって、または酵素消化によって、続いて沈殿による水溶液からの単離(例えば、有機溶媒の添加による)または超遠心(例えば,Black,WAPら、IV J Sci Food Agric.1952;3:122〜129を参照のこと)によって、藻類から単離されてもよい。フコイダンはまた、Sigma(St.Louis,Mo.)、NaturoDoc LLC(Kingman,AZ)、Marinova(Tazmania,Australia)およびNatureza Co.,Ltd.,(Kawaguchi,J P)のような種々の供給業者から購入可能である。本発明における使用のために好ましいフコイダンは、Fucus属由来またはLaminaria属由来のフコイダンであるが、他の属由来のフコイダンも適切である。このようなフコイダンは、本明細書において、FucusフコイダンまたはLaminariaフコイダンと呼ばれる。本発明における使用のためのさらなるフコイダンとしては、とりわけ、Cladosiphon、Namacystus、Undaria、Chordaria、Sargassum、Leathesia、Desmarestia、Dictyosiphon、Dictyota、Padina、Spatoglossum、Adenocystis、Pylayella、Ascophyllum、Bifurcaria、Himanthalia、Hizikia、Pelvetia、Alaria、Arthrothamnus、Chorda、Ecklonia、Eisenia、Macrocystis、Nereocystis、Petalonia、ScytosiphonおよびSaundersella由来のフコイダンが挙げられる。特に好ましいフコイダンは、Fucus vesiculosis由来、またはLaminaria japonica由来である。
【0053】
本明細書の方法および組成物における使用のためのフコイダンは代表的には、ただし必須ではないが、分子量、フコース含量、ウロン酸含量および硫酸塩含量において異なるフコイダンの異種混合物である。
【0054】
フコイダンは、約200ダルトン〜約500,000ダルトン、好ましくは約1,000ダルトン〜約300,000ダルトンの平均分子量におよんでもよい。本発明における使用のためのフコイダンとしては、低分子重量フコイダン(約500〜8,000ダルトンの範囲の平均分子量を有する)、中分子重量フコイダン(約8,000ダルトンより大きく〜15,000ダルトンの範囲の平均分子重量を有する)、および高分子重量フコイダン(15,000ダルトンより大きく〜約300,000ダルトンの平均分子重量を有する)が挙げられる。フコイダンの分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーまたは高速立体クロマトグラフィー(high−performance steric chromatography)(HPSEC)を用いて決定され得る。
【0055】
フコイダンの種々の分子量画分は、キャピラリー電気泳動によって分離してもよい。あるいは、異なる分子量画分は、高分子量フコイダンの酸加水分解またはラジカル脱重合によって調製してもよい。得られた生成物の分子量範囲は、使用される加水分解または脱重合条件のストリンジェンシーに基づいて調節され得る。次いで、画分をイオン交換クロマトグラフィーを用いてさらに精製してもよい。例えば、フコイダンの中分子重量および低分子重量の画分を得るために、高分子重量のフコイダンを、HClのような酸(または任意の他の適切な酸)を、0.02〜1.5Mにおよぶ濃度で、25℃〜80℃におよぶ温度で用いて加水分解する。加水分解反応時間は代表的には、15分〜数時間にまたがる。次いで、得られた加水分解された反応混合物を、塩基、例えば、水酸化ナトリウムの添加によって中和する。次いで、塩を、例えば、電気透析法によって除去し、そしてその加水分解産物を分析して、炭水化物分析のための従来の分析技術を用いて、平均分子重量、フコース含量、ウロン酸含量、および硫酸塩含量を決定する。あるいは、酵素方法を使用して、例えば、フカン・サルフェート・ヒドロラーゼ(fucan sulfate hydrolase)(フコシダーゼEC3.2.1.44)およびα−L−フコシダーゼEC3.2.1.51のようなグリコシダーゼを用いてフコイダンを分解してもよい。本発明における使用のためのフコイダンは、、使用される分離の程度に依存して、異種であっても同種であってもよい。例えば、Nardella,A.,ら、Carbohydr Res 1996;289:201〜208;Deux,J.F.ら、Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology.2002;22:1604;Zemani,F.ら、Biochemical Pharmacology,October 2005;70(8):1167〜1175を参照のこと。
【0056】
本発明における使用のためのフコイダンは代表的には、約5〜25重量%のイオウ、好ましくは8〜25重量%のイオウを有する。約5重量%を超えるイオウ重量、または10重量%を超えさえするイオウ重量を有するフコイダンが特に好ましい。
【0057】
フコースポリサッカライドの単糖成分上の任意の遊離ヒドロキシル基が、本発明の実施における使用のための硫酸化された高次の糖類(ジ−、トリ、オリゴ−またはポリ−)を生成するために硫酸化によって改変されてもよい。硫酸化は代表的には、ピリジンもしくはトリエチルアミンとの三酸化イオウ複合体を用いて、または第一スズ複合体で行われる(Calvo−Asin,J.A.,ら、J.Chem.Soc,Perkin Trans 1,1997,1079)。例えば、フコイダンに関する1つ以上の二糖類を、フコシルドナーとして、例えば、3,4−ジ−O−アセチル化トリクロロアセトイミデートを用いて、2つの適切な単糖類前駆体の間でのαフコース結合の形成によって立体選択的に合成してもよい(例えば、Zlotina,N.S.,ら、L.Hirszfeld Institute of Immunology and Experimental Therapy,Polish Academy of Sciences,第1回 Baltic Meeting on Bacterial Carbohydrates,2004年10月6〜9,Wroclaw,Poland)。
【0058】
(凝血アッセイ)
フコイダンが凝血を妨げる能力は、凝血(血餅、clot)ベースの試験、色素生産性または着色アッセイ、直接化学測定およびELISAを含む、種々の十分確立された凝血アッセイを用いて容易に決定されるが、凝血ベースの試験が最も一般的である。これらとしては、PT(プロトロンビン時間)、aPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、ACT(活性化凝血時間)、およびTCT(トロンビン凝血時間)が挙げられる。例えば、Bates,S.M.ら、Circulation,2005;112:e53〜60;PDR Staff.Physicians’ Desk Reference.2004,Andersonら(1976)Thromb.Res.9:575〜580;Nordfangら(1991)Thromb Haemost.66:464〜467;Welschら(1991)Thrombosis Research 64:213〜222;Brozeら(2001)Thromb Haemost 85:747〜748;Scallanら(2003)Blood.102:2031〜2037;Pijnappelsら(1986)Thromb.Haemost.55:70〜73;およびGilesら(1982)Blood 60:727〜730を参照のこと。
【0059】
プロトロンビン時間(PT)。この試験は、組織因子(これは組み換え由来であっても、または脳、肺もしくは胎盤の抽出物由来であってもよい)およびカルシウムを含むトロンボプラスチン試薬を血漿に添加すること、ならびに凝血時間を測定することによって行われる。プロトロンビン時間(PT)は、試薬および凝血試験因子で異なるが、代表的には10〜14秒におよぶ(White,G C II,ら、Approach to the Bleeding Patient.InL Colman,R W,ら編集、Hemostasis and Thrombosis:Basic Principles and Clinical Practice.第3版.Philadelphia,PA:J B Lippincott Co.,1994:1134〜1147)。このPTは、第VII、XおよびV因子、プロトロンビン、またはフィブリノーゲンの欠損、およびこれらの因子に対する抗体によって長くなる。この試験はまた、高用量のヘパリンおよびフィブリン分解産物の存在を含む、フィブリノーゲンからフィブリンへの変換反応のインヒビターを有する患者では異常である。代表的には、PT試薬は、過剰のリン脂質を含み、その結果陰イオン性リン脂質と反応する非特異的なインヒビター(すなわち、ループス性抗凝固因子)は、凝血時間を長引かせない。
【0060】
活性化部分トロンボプラスチン時間(aPPT)。aPPTは、最初に表面活性剤(surface activator)(例えば、カオリン、セライト、エラグ酸、またはシリカ)および希釈リン脂質(例えば、セファリン)をクエン酸加血漿に添加することによって行う。このアッセイにおけるリン脂質は、組織因子が存在しないので部分的トロンボプラスチンと呼ばれる。補因子(第XII因子、第XI因子、プレカリクレイン、および高分子重量キニノーゲン)の任意の活性化を可能にするインキュベーション後、次にカルシウムを添加し、そして凝血時間を測定する。凝血時間は、用いられる試薬および凝固測定因子に応じて変化するが、aPPTは代表的には、22〜40秒の間におよぶ(Bates,ら、同書)。aPPTは、接触因子;第IX因子、第VIII因子、第X因子または第V因子;プロトロンビン;またはフィブリノーゲンの欠損によって延長され得る。特異的な因子インヒビター、および非特異的なインヒビターも、aPTTを延長し得る。フィブリン分解産物および抗凝血剤もaPTTを延長する。
【0061】
トロンビン凝血時間(TCT)。TCTは血漿へ過剰のトロンビンを添加することによって行う。このTCTは、低フィブリノーゲンレベルまたは異常フィブリノーゲン血症を有する患者で、およびフィブリン分解産物レベルが上昇した患者で延長される。これらの異常は、播種性血管内凝固症候群で共通してみられる。
【0062】
活性化凝血時間(ACT)。このACTは、高用量ヘパリン療法またはビバリルジンでの処置をモニターするために代表的に用いられる、治療時点での全血凝固試験である。代表的には、全血を、凝血活性化因子(例えば、セライト、カオリン、またはガラス粒子)、および磁気攪拌バーを含む試験管またはカートリッジ中に収集し、次いで血液が凝固するのにかかる時間を測定する。ACTの参照値は、70〜180秒におよぶ。抗凝血の所望の範囲は、用いられる指標および試験方法に依存する。
【0063】
このような凝血アッセイ、または上記で簡略に記載された他の適切なアッセイは、1つ以上のフコイダン、および要に応じて1つ以上の血液因子、抗凝固剤、または他の試薬の存在において行い、そしてその値を、処置前後と比較して、血液凝固時間の延長の程度を決定してもよい。
【0064】
本発明の方法および組成物において用いられるフコイダンは、抗凝血活性を示す濃度より有意に低い濃度でのみ示され得るなんらかの凝固促進活性が出現する。このような凝固促進活性はさらに、代表的には、本発明における場合と同様、単回用量後ではなく数日間の投与後に示される。所望の抗凝固活性が生じる濃度に対する、所望されない凝固促進特性が生じる濃度の割合は、被験体の治療フコイダンについての治療係数と呼ばれる。
【0065】
本発明のフコイダン組成物は代表的には、治療範囲と呼ばれる、約1.5〜2.5の規定の範囲内で平均コントロールaPTTに対する患者のaPTTの割合を維持するのに十分な量で被験体に投与される。
【0066】
(薬学的組成物および剤形)
必要に応じて、本発明のフコイダン組成物はさらに、薬学的組成物を得るために1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含んでもよい。好ましくは、このフコイダン含有組成物は、フコイダン自体を除く藻類成分を本質的に含まない。例示的な賦形剤としては、限定はしないが、炭水化物、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、サーファクタント、緩衝液、酸、塩基およびそれらの組み合わせが挙げられる。注射組成物に適切な賦形剤としては、水、アルコール、ポリオール、グリセリン、植物油、リン脂質およびサーファクタントが挙げられる。炭水化物、例えば、糖、誘導体化糖、例えば、アルジトール、アルドン酸、エステル化された糖、および/または糖ポリマーが賦形剤として存在し得る。特定の炭水化物賦形剤としては、例えば以下が挙げられる:単糖類、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボースなど;二糖類、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;ポリサッカライド、例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなど;ならびにアルジトール、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなど。賦形剤としてはまた、無機の塩または緩衝液、例えば、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、一塩基、二塩基のリン酸ナトリウム、およびそれらの組み合わせを挙ることができる。
【0067】
本発明の組成物としてはまた、微生物の増殖を予防または妨げるための抗菌剤を挙ることができる。本発明に適切な抗菌剤の非限定的な例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、チメロサールおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0068】
抗酸化剤も同様にこの組成物中に存在してもよい。抗酸化剤は、酸化を妨げて、それによってフコイダンまたは調製物の他の成分の悪化を予防するために用いられる。本発明における使用のための適切な抗酸化剤としては、例えば、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化合物ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒド・スルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0069】
サーファクタントは、賦形剤として存在してもよい。例示的なサーファクタントとしては、以下が挙げられる:ポリソルベート、例えば「「Tween 20」および「Tween 80」、ならびにプルロニック(pluronics)、例えば、F68およびF88(BASF,Mount Olive,New Jersey);ソルビタンエステル;脂質、例えば、リン脂質、例えば、レシチンおよび他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(ただし、好ましくはリポソーム形態ではない)、脂肪酸および脂肪酸エステル;ステロイド、例えば、コレステロール;キレート剤、例えば、EDTA;ならびに亜鉛および他のこのような適切な陽イオン。
【0070】
酸および塩基は、組成物における賦形剤として存在してもよい。用いられ得る酸の非限定的な例としては、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される酸が挙げられる。適切な塩基の例としては、限定はしないが、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される塩基が挙げられる。
【0071】
組成物中のフコイダンの量は、多数の要因に依存して変化するが、この組成物が単位剤形(例えば、錠剤、カプセルなど)または容器(例えば、バイアル)中にある場合、最適には治療上有効な用量である。治療上有効な用量は、臨床的に所望されるエンドポイント(この場合、血液凝固時間の延長によって測定した、血液凝固の予防)を得るのに有効な最適量を決定するために、この組成物の漸増量の反復投与によって経験的に決定され得る。
【0072】
この組成物における任意の個々の賦形剤の量は、この賦形剤の性質および機能、ならびにこの組成物の特定の必要性に依存して変化する。代表的には、任意の個々の賦形剤の最適の量は、慣用的な実験を通じて、すなわち、種々の量の賦形剤(低から高におよぶ)を含有する組成物を調製すること、この組成物の安定性および他のパラメーターを検討すること、次いで重大な有害な影響なしに最適能力が得られる範囲を決定することによって決定される。しかし、一般には、この賦形剤は、約1%〜約99重量%、好ましくは約5%〜約98重量%、さらに好ましくは約15〜約95重量%の賦形剤という量で、最も好ましくは30重量%未満の濃度で組成物中に存在する。これらの前述の薬学的賦形剤は、他の賦形剤とともに、「Remington:The Science & Practice of Pharmacy」、第19版,Williams & Williams,(1995),the「Physician’s Desk Reference」、第52版,Medical Economics,Montvale,N.J.(1998),and Kibbe,A.H.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,第3版,American Pharmaceutical Association,Washington,D.C.,2000に記載される。
【0073】
この組成物は、全てのタイプの処方物を包含し、これは経口投与に適切な処方物、および非経口処方物を包含する。1つの特に好ましい処方物は、経口投与に適切な処方物である。経口投与形態としては、粉末、錠剤、トローチ剤(lozenges)、カプセル、シロップ、溶液(液体)、経口懸濁液、エマルジョン、顆粒およびペレットが挙げられる。別の処方物としては、エアロゾル、経皮パッチ、ゲル、クリーム、軟膏、スプレー、坐剤、粉末または再構成され得る凍結乾燥剤、および液体が挙げられる。例えば、注射前に、固体組成物を再構成するための適切な希釈剤の例としては、注射用静菌性水、デキストロース5%を含有する水、リン酸緩衝化生理食塩水、リンゲル溶液、生理食塩水、滅菌水、脱イオン水およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
局所的な処方物は、皮膚または他の罹患領域を通じた成分の吸収または浸透を増強する化合物、例えば、いくつか例を挙げれば、ジメチルスルホキシデン・ビサボロール(dimethylsulfoxidem bisabolol)、オレイン酸、イソプロピル・ミリステートおよびD−リモネンをさらに含んでもよい。
【0075】
非経口投与に適切な処方物としては、注射に適切な水性および非水性の等張性滅菌水溶液、ならびに水性および非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。非経口処方物は必要に応じて、単位用量または複数用量の密閉された容器、例えば、アンプルおよびバイアル中に含まれ、そして使用の直前に滅菌の液体キャリア、例えば、注射用水の添加しか要さない凍結乾燥(freeze−dried)(凍結乾燥(lyophilized))状態で保管されてもよい。即時用の注射用液および懸濁液は、前に記載されたタイプの滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製されてもよい。
【0076】
本発明のフコイダン処方物はまた、フコイダンおよび必要に応じて他の薬物成分が、非徐放性の処方物に比較した場合、経時的に緩徐に放出されるかまたは吸収されるように、徐放性の処方物の形態であってもよい。徐放性処方物は、活性薬剤のプロドラッグ形態、遅延型薬物送達システム、例えば、リポソームまたはポリマーマトリックス、ヒドロゲル、またはポリエチレングリコールのようなポリマーの共有結合を使用してもよい。
【0077】
特に上述される成分に加えて、本発明の処方物は、必要に応じて、薬学の分野で慣習的な他の薬剤、および例えば、経口投与形態のために使用されている特定のタイプの処方物を含んでもよく、経口投与のための組成物はまた、甘味料、増粘剤または香味料のようなさらなる薬剤を含んでもよい。
【0078】
本発明の方法はまた、獣医の適用において有用である。
【0079】
本発明はさらに、例えば、血液凝固の軽減の必要性のある哺乳動物被験体の処置のためのキットを包含する。このキットは、フコイダンを、パッケージされた形態で、好ましくは経口投与のために、使用の説明書とともに含む。例えば、このキットは、血液凝固の軽減の必要な患者に対してフコイダンの推奨投薬量を投与するため(すなわち、血栓形成を妨げるため)の説明書を備える。この説明書は好ましくは、血液凝固の軽減を果たすため、毎日この組成物のフコイダン成分として1mg/kg〜50mg/kgを経口投与することを推奨する。フコイダンは、パッケージングが、投与のための説明書とともに考慮される場合、薬物(すなわち、フコイダン)成分が投与されるべき方法を明らかに示している限り、投与に適切ないずれの方式でパッケージされてもよい。例えば、フコイダンがカプセルの形態であるならば、このキットは、カプセルの密閉容器、カプセルを含むブリスターストリップ、などを備えてもよい。パッケージングは、医薬品のパッケージングに通常使用されるいずれの形態であってもよく、そして異なる色、ラッピング、不正開封防止パッケージング、ブリスターパックまたはストリップ、デシカント(dessicants)などのような任意の多数の形状を利用してもよい。
【0080】
(投与)
本明細書に提供されるようなフコイダン組成物での処置の少なくとも1つの治療上有効なサイクルが、この被験体に投与される。「処置の治療上有効なサイクル(therapeutically effective cycle of treatment)」とは、投与された場合、血栓性の障害について個体の処置に関する正の治療応答をもたらす、処置のサイクルを意味する。特に目的とするのは、血液が凝固する傾向を減弱する(すなわち、血液凝固の形成を予防する)フコイダン組成物での処置のサイクルである。このような正の治療応答は、所望の応答を得るために上記の凝固アッセイのうちの1つ以上によって測定され得る。「正の治療応答(positive therapeutic response)」とは、本発明に従う処置を受けている個体が、被験体の血栓性の状態または障害の1つ以上の症状の改善であって、血液凝固時間の延長および出血の改善のような改善を含む改善を示すということである。
【0081】
例えば、市販のトロンボプラスチンは、その組織因子供給源および調製方法が変化するので、報告されるPT時間は、使用される試薬に依存して変化し得る。INRと呼ばれるパラメーターは、PTの結果における相違を補正するためにWorld Health Organization(WHO)によって開発された。INRは、平均の正常なPT値で割った患者のPTとして規定され、これは、標準に対して比較した各々のトロンボプラスチン試薬の応答性を記載する国際感度指数(international sensitivity index)を用いて算出され得る(Bates,S.M.,ら、同書)。種々の指標におけるINRについての最適の治療範囲は、以下のとおりであり、そして本発明のフコイダン組成物を投与する場合処置の経過をモニターするために用いられ得る:静脈血栓塞栓症、予防および処置(2.0−3.0)、心房細動(2.0−3.0)、心臓弁膜症(2.0−3.0)、心臓弁(heart valves)−生体弁(tissue valves)、機械弁、二葉大動脈位置(bileaflet aortic position)(2.0−3.0)、心臓弁、機械的(mechanical),高リスク弁(high risk valve)(2.5−3.5)、急性心筋梗塞−塞栓症の予防(2.0−3.0)、急性心筋梗塞−再梗塞の予防(3.5−4.5)。本発明の1つの特定の実施形態では、本発明のフコイダン組成物は、被験体のaPTTにおいて50%より大きい改善を生じるのに有効な量で投与される。好ましくは、本発明の方法および組成物は、被験体のaPTTにおいて少なくとも2倍以上の延長を生じるのに有効である。本発明の方法および組成物は、約1〜10というINR範囲を得るのに理想的に有効である。
【0082】
特定の実施形態では、本発明のフコイダン組成物の複数の治療上有効な用量であって、必要に応じて、1つ以上の他の治療剤、例えば、第VIIa因子、ワルファリン、トロンビンインヒビター、低分子量ヘパリンおよびヘパリン、または他の医薬を含む用量が投与される。本発明の組成物は代表的には、ただし必須ではないが、経口投与され、しかし、注射(皮下、静脈内、または筋肉内)、インフュージョンおよび局所投与も考慮される。投与のさらなる形態、例えば、肺、直腸、経皮、経粘膜、クモ膜下腔内、心臓周囲、動脈内、脳内、眼内、腹腔内なども考慮される。
【0083】
特定の実施形態では、本発明のフコイダン組成物は、局所送達のために、例えば、血餅の直接処置のために用いられる。例えば、フコイダンは、凝血(血餅)の部位で注射によって投与され得る。投与の特定の調製物および適切な方法は、この被験体の特定の状態に基づいて選択される。
【0084】
別の実施形態では、本発明の薬学的組成物は、予防的に、例えば、計画的な手術の前後に投与される。このような予防的な使用は、公知の既存の血液凝固障害を有する被験体に特に有益である。
【0085】
本発明の別の実施形態では、フコイダンおよび/または他の薬剤を含む薬学的組成物は、徐放性処方物中であるか、または徐放性システムを用いて投与される処方物である。このようなデバイスは当該分野で周知であり、これには、例えば、経皮パッチ、および連続して、定常方式で種々の用量を経時的な薬物送達を提供して徐放性でない薬物組成物で徐放性の効果を得ることができる超小型の移植可能なポンプが挙げられる。
【0086】
投与の方法を用いて、抗凝血治療の必要性を伴う任意の状態を処置する。このような状態としては、血栓性状態、たとえば、深部静脈血栓、肺塞栓症、心筋梗塞、播種性血管内凝固症候群、不安定狭心症、および第VIIa処理によって誘発される凝固促進または血栓症が挙げられる。
【0087】
当業者は、上記のような状態を、本発明の特異的なフコイダン組成物が効率的に処置し得るということを理解する。投与されるべき正確な用量は、被験体の年齢、体重および全身状態、ならびに処置されている状態の重篤度、保健医療の専門家の判定、および投与されている特定のフコイダンに依存して変化する。治療上有効な量は、当業者によって決定され得、そして各々の特定の場合の特定の要件について調節される。
【0088】
一般には、治療上有効な量は、毎日約1mg/kg〜約50mg/kgのフコイダイン、より好ましくは毎日約2mg/kg〜40mg/kg、さらにより好ましくは毎日約5mg/kg〜30mg/kgの範囲である。好ましくは、このような用量は、1日4回(QID)0.25〜12mg/kg、0.5〜10mg/kgのQID、1.25〜7.5mg/kgのQID、0.3〜17mg/kgの1日3回(TID)、0.6〜13mg/kgのTID、1.5〜10mg/kgのTID、0.05〜25mg/kgの1日2回(BID)、1〜20mg/kgのBID、または2.5〜15mg/kgのBIDという範囲である。一日投薬総量は一般に、被験体の体重、被験体の年齢、処置されている状態、組成物に含まれる特定のフコイダンの力価、所望される抗凝血効果の大きさおよび投与の特定の経路のようないくつかの要因に依存して、約50mgのフコイダン〜約4500mgのフコイダンにおよぶ。
【0089】
本明細書に記載されるフコイダン組成物は、単独でもしくは組み合わせて、または他の治療剤とともに投与して、臨床家の判定、患者の要件などに依存する種々の投薬スケジュールに従って特定の状態または疾患を処置してもよい。特定の投薬スケジュールは当業者によって容易に決定されるか、または慣用的な方法を用いて実験的に決定されてもよい。例示的な投与スケジュールとしては、限定はしないが、1日5回、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、毎週3回、毎週2回、毎週1回、毎月2回、毎月1回、そしてそれらの任意の組み合わせの被験フコイダン組成物の投与が挙げられる。最も好ましいのは、1日1回以下の投薬を要する組成物である。
【0090】
(適用)
1局面では、本発明のフコイダン組成物は、血栓性障害を処置するために用いられる。本発明の組成物は、血液凝固の軽減の必要な被験体に投与される。処置または予防されるべき状態としては、静脈血栓塞栓症、深部静脈血栓、肺塞栓症、冠動脈疾患(冠状動脈血栓症、冠動脈再建術)、不安定狭心症または急性心筋梗塞、冠動脈血栓溶解、心房細動、(心)発作、播種性血管内凝固症候群、および第VIIa因子処置によって誘発される凝固促進または血栓症が挙げられる。本発明の組成物また、一般外科手術を受けている患者、大きい整形外科手術を受けている、股関節(腰部)骨折を被っている、または神経外科手術を受けている患者における血栓を予防するために投与されてもよい。本発明の組成物はまた、例えば、下肢での血餅予防のための圧迫ストッキングの使用と同時に投与されてもよい。
【0091】
本発明はまた、被験体での凝血促進剤の使用の影響を逆転させるための方法であって、被験体に対して治療上有効な量のフコイダン組成物を投与する工程を包含する。
【0092】
特定の実施形態では、この被験体は、限定はしないが、トロンビン;第Xa因子、第IXa因子、第XIa因子、第XIIa因子および第VIIa因子を含む内因性凝固経路の活性化因子、プレカリクレイン、ならびに高分子量キニノーゲン;または組織因子、第VIIa因子、第Va因子および第Xa因子を含む外因性凝固経路の活性化因子を含む、凝固促進因子で以前に処置されていてもよい。
【0093】
さらに、本発明のフコイダン組成物は、ステントおよび他の血液接触医学デバイス、例えば、血液装置の相互作用から局所凝血を軽減するための、人工心肺のための膜型人工肺または機械的心臓弁のためのコーティングとして用いられてもよい。本発明のフコイダン組成物は、血液接触デバイスに対するコーティングとして、1層または多層で、直接適用されてもよい。このようなデバイスは、「フコイダン化された(fucoidanized)」と言われる。あるいは、このフコイダン組成物は、1つ以上のさらなる血液適合性のポリマー、例えば、ヒト血清アルブミン、ホスホリルコリン、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン−オキシド−ポリエチレングリコールブロックコポリマー(PPO−PEG)、ホスファゼンポリマーなどと組み合わせて適用されてもよい。フコイダンはまた、カップリング剤、例えば、グルタルアルデヒド、1,1−カルボニルジイミダゾール、または任意の他の適切なカップリング剤を用いるポリマーコーティングに対する共有結合によってデバイスの表面に遊離可能に固定されてもよい。このようなカップリング剤は当該分野で周知である。例えば、Wong,S.S.,Chemistry of Protein Conjugation and Cross−Linking,CRC Press,1991を参照のこと。
【0094】
本発明は、好ましい特異的な実施形態と組み合わせて記載されているが、前述の記載および以下の実施例は、本発明の範囲を例示するものであり限定はしないものであることが理解されるべきである。本発明の範囲内の他の局面、利点および改変は、本発明が属する当該分野の当業者には明白になる。
【実施例】
【0095】
本発明の実施は、他に示さない限り、当該分野の技術の範囲内である、薬学的処方物、分離、薬理学などの従来の技術を使用する。このような技術は、文献中で詳細に説明される。例えば、Handbook of Pharmaceutical Manufacturing Formulations,S.K.Niazi(編),CRC Press,2004;Goodman & Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,第9版、Hardman,J.G.,Gilman,A.G.,Limbird,L.E.(編)、McGraw−Hill,New York,1995;Basic and Clinical Pharmacology、第18版、Katzung,B.G.(編)、Appleton & Lange,Norwalk,CN,2001を参照のこと。
【0096】
以下の実施例では、用いられる数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を保障するために労力が払われているが、ある程度の実験誤差および偏差があり得る。以下の実施例の各々は、本明細書に記載される実施形態の1つ以上を行うために当業者に有益であるとみなされる。
【0097】
材料および方法
試薬
フコイダンは、Sigma(St.Louis,MO)から購入した。
【0098】
動物
健康なビーグル犬を、Covance Laboratoriesコロニーから入手した。全ての動物手順は、「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(National Research Council.Guide for the care and use of laboratory animals.Washigton,D.C.:National Academy Press;1996)に従って行い、そして全ての手順は、Institutional Animal Care and Use Committeeによって再検討され、承認された。
【0099】
凝固(凝血)アッセイ
活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイ
このaPTTアッセイは、Liu,Tら、およびJohnson,K.W.、Thrombosis and Haemostasis,95:68〜76,2006に記載のとおり行った。
【0100】
希釈プロトロンビン時間(dPT)アッセイ
dPTアッセイは、Liu,TらおよびJohnson,K.W.、Thrombosis and Haemostasis,95:68〜76,2006に記載のとおり行った。
【0101】
実施例1
健常なビーグル犬に対する投与の際のフコイダンの抗凝血活性のインビボ評価
以下の研究を行なって、臨床に基づく凝固アッセイを用いてビーグル犬における例示的なフコイダン組成物の経口の抗凝固活性を試験する。aPTTおよびdPTアッセイの両方とも、本研究の間に複数の時点でとった血漿サンプルで行った。
【0102】
3頭の正常なビーグル犬をこの研究に用いた。各々の動物は、ゼラチンカプセル(サイズ「0」)中の粉末として送達される1回の単独フコイダン経口投与(20mg/kgまたは5mg/kg)を投与され、ここで投与の間には1週のウオッシュアウト期間があった。
【0103】
臨床的な観察は、フコイダン投与の7時間後まで行った。血漿サンプルは、フコイダン投与の前、15分後、30分後、1時間後、2時間後、4時間後および7時間後に収集した(滴定した全血、血漿単離)。血漿サンプルを試験の前−20℃で保管した。
【0104】
アッセイ結果(二連)は、下の犬の1〜3番の各々について得る。
【0105】
表1
20mg/kgの経口投薬量についてのaPTTアッセイ結果
【0106】
【表1】

表2
5mg/kgの経口投薬量についてのaPTTアッセイ結果
【0107】
【表2】

表3
20mg/kgの経口投薬量についてのdPTアッセイ結果
【0108】
【表3】

表4
5mg/kgの経口投薬量についてのdPTアッセイ結果
【0109】
【表4】

20mg/kgのフコイダンの経口用量での3頭の正常なイヌの各々についてのaPPT分析の結果を図1に示す。
【0110】
血漿凝血アッセイの結果によって、経口投与されたフコイダンが、動物およびヒトの使用のための安全かつ有効な経口抗凝血剤である能力を有することが明らかになった。詳細には、正常なビーグル犬に対して経口的に投与されたフコイダンは、血漿抗凝血の最も一般に利用される臨床測定値であるAPTTにおける実質的な(>50%)増大によって検出されるとおり3頭のイヌの各々で用量依存性の抗凝血活性を示した。表1における結果を参照すれば、20mg/kgという例示的なフコイダン組成物の経口投与が、3頭のイヌの各々における血漿凝血時間を、投与後約1時間〜7時間におよぶ時間内で投与前値を約5〜9倍を超えて延長するのに有効であったことが理解され得る。1番および2番のイヌについては、血漿凝血時間の有意な増大(すなわち、最初の投与前値の約6倍〜9倍を超える)が、投与後約0.5時間から1時間内で観察された。さらに、1番および2番のイヌについては、血漿凝血時間は、投与後数時間内に本質的に投与前値に戻り、このことは、ワルファリンのような薬物に比較した場合、数日間におよぶ作用期間の延長を有する出血の傾向の低下を示している。出願人らはまた、5mg/kgのp.o.(経口)で延長の傾向を観察した。
【0111】
経口のフコイダンは、試験された用量では、希釈プロトロンビン時間(dilute prothrombin time)(dPT)凝固を実質的に(>50%)延長しなかった。理論によって束縛されることはないが、このような結果は、外因性経路による凝血開始のための「スパーク(spark)」に対する限られた影響を反映すると解釈され得る。
【0112】
上で言及されるように、正常なビーグル犬における経口フコイダンの抗凝血作用の期間は数時間であり、従って、ワルファリンのような抗凝血剤に比較した場合のその安全能の増大を反映している。
【0113】
本発明の好ましい実施形態は、図示および記載されているが、種々の変化が、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくここで行なわれ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、実施例1に記載のような20mg/kgのフコダインの経口投与後の正常なビーグル犬において7時間の経過にわたる血漿凝固時間(秒)を実証するプロットである。血漿凝固時間は、aPPTアッセイを用いて決定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固を軽減するために哺乳動物被験体に経口的に投与されるべき医薬の調製における1つ以上のフコイダンを含む組成物の使用。
【請求項2】
前記組成物が5〜25重量パーセントのイオウを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記1つ以上のフコイダンが藻類のフコイダンである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記1つ以上のフコイダンがFucus属またはLaminaria属由来である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記1つ以上のフコイダンがFucus vesiculosis由来またはLaminaria japonica由来である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記投与が、前記被験体の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)において50%を超える増大を生じるのに有効である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記哺乳動物被験体が動物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記哺乳動物被験体がヒトである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物が、体重1kgあたり約1mgのフコイダン〜体重1kgあたり約50mgのフコイダンの範囲におよぶ1日投与量で投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物が、前記1つ以上のフコイダン以外に藻類の成分を本質的に含まない、請求項3〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記投与工程が、体重1kgあたり約1mgのフコイダン〜体重1kgあたり約50mgのフコイダンの初回投与量で前記組成物を投与する工程を包含し、該初回用量が、(i)該投与の1時間以内に前記被験体のAPTTにおいて50%より大きい増大を生じ、そして(ii)投与後少なくとも約8時間、該被験体において測定可能な抗凝固作用を生じるのに有効である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物が、毎日、約50mgのフコイダン〜約4500mgのフコイダンの範囲におよぶ1日投与量でヒト被験体に投与される、請求項8に記載の使用。
【請求項13】
前記組成物が粉末、錠剤、カプセル、懸濁液または液体形態である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記被験体が、血栓性の障害を保有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記被験体が、深部静脈血栓、肺塞栓症、心筋梗塞、播種性血管内凝固症候群、不安定狭心症、および第VIIa因子処置によって誘発される凝固促進または血栓症から選択される状態を保有する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
血液凝固を軽減する必要性の理由が、手術または別の侵襲的手順の前後である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
治療上有効な量の1つ以上のフコイダンを含む組成物を被験体に経口的に投与する工程を含む、血液凝固の軽減の必要性のある哺乳動物被験体を処置するための方法。
【請求項18】
経口投与のための組成物であって:
1つ以上のフコイダンと、
薬学的に受容可能な賦形剤と、を含み;該組成物は、該1つ以上のフコイダン以外に藻類成分を本質的に含まず、かつ粉末、錠剤、カプセル、懸濁液または液体形態である、組成物。
【請求項19】
前記組成物が、5〜25重量パーセントのイオウを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記1つ以上のフコイダンが藻類のフコイダンである、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記1つ以上のフコイダンがFucus属またはLaminaria属由来である、請求項18〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記1つ以上のフコイダンがFucus vesiculosis由来またはLaminaria japonica由来である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
キットであって:
パッケージ形態の請求項18〜21のいずれか1項に記載の組成物と、哺乳動物被験体において血液凝固の軽減を果たすために該1つ以上のフコイダンの1mg/kg〜50mg/kgを毎日経口投与するための説明書と、を備える、キット。
【請求項24】
血液と接触する、1つ以上のフコイダンでコーティングされた医学デバイス。

【図1】
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【公表番号】特表2009−535341(P2009−535341A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507798(P2009−507798)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/010126
【国際公開番号】WO2007/127298
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(500544200)アビジェン, インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】