説明

血液凝固抑制剤

【課題】 カバノアナタケが有する薬理作用の解明に基づく、その新規な医薬用途を提供すること。
【解決手段】 カバノアナタケまたはそのエキスを有効成分としてなることを特徴とする血液凝固抑制剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバノアナタケの新規な医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
カバノアナタケ(Fuscoporia obliqua)は、中部ヨーロッパ、シベリア、中国、日本の北部地方などの寒冷地に広く分布している耐寒性のきのこで、シラカバやダケカンバなどのカバノキ類に多く寄生し、それらの樹木の樹液を養分にして生育すること、その黒く硬い菌核はチャーガと呼ばれ、ロシアでは古くからお茶代わりに飲用されていることなどが知られている。また、カバノアナタケは、抗腫瘍作用や血糖降下作用などの生理活性を有することが知られており(必要であれば例えば特許文献1を参照のこと)、近年、その注目が高まっている。しかしながら、カバノアナタケが有する薬理作用の全容はいまだ明らかにされていない。
【特許文献1】特開2004−161748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、カバノアナタケが有する薬理作用の解明に基づく、その新規な医薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、カバノアナタケが優れた血液凝固抑制作用を有することを見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明の血液凝固抑制剤は、請求項1記載の通り、カバノアナタケまたはそのエキスを有効成分としてなることを特徴とする。
また、請求項2記載の血液凝固抑制剤は、請求項1記載の血液凝固抑制剤において、限外ろ過によりチャーガのエキスを分子量分画することで得られる分子量が5万を超える画分を有効成分としてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カバノアナタケが有する薬理作用の解明に基づく、その新規な医薬用途としての血液凝固抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の血液凝固抑制剤は、カバノアナタケまたはそのエキスを有効成分としてなることを特徴とするものである。本発明において、血液凝固抑制剤の有効成分とするカバノアナタケは、子実体や菌糸体や菌核のいずれの形態であってもよい。また、これらは、天然物であっても栽培物または培養物であってもよい。さらに、カバノアナタケは、子実体や菌糸体や菌核を、アミラーゼやヘミセルラーゼなどの酵素を用いて消化した酵素処理物であってもよい。カバノアナタケをそのまま血液凝固抑制剤の有効成分として用いる場合、例えば、子実体や菌糸体や菌核を乾燥してから粉砕して用いればよい。カバノアナタケの酵素処理物は、用いる酵素をその至適条件下で作用させることで調製することができる。カバノアナタケのエキスは、例えば、水や熱水、メタノールやエタノールやブタノールをはじめとするアルコールなどの抽出溶媒を用いて室温放置や加熱還流することで成分抽出を行い、抽出溶媒を凍結乾燥、噴霧乾燥、減圧留去などの方法で除去することで調製することができる。中でも、限外ろ過により菌核(チャーガ)のエキスを分子量分画することで得られる分子量が5万を超える画分を有効成分とすることが望ましい。なお、抽出対象は、子実体や菌糸体や菌核のいずれであってもよい。菌核を抽出対象とする場合、成分抽出の効率を高めるためには、菌核は粉砕して用いることが望ましい。菌核を粉砕する方法は特に限定されず、通常の粉砕装置を用いて粒径が数十μm〜数千μmになるように粉砕してもよいし、同体気流摩擦装置(トルネードミル)を用いて粒径が数μm〜数十μmになるように微粉砕してもよい。
【0008】
カバノアナタケの粉砕物や酵素処理物やエキスは、自体公知の方法によって顆粒剤や錠剤やカプセル剤などに製剤化し、服用することで、優れた血液凝固抑制作用に基づく血栓や塞栓の予防薬や治療薬などとして機能する。その服用量は、服用者の年齢、性別、体重、体調などによって適宜決定することができる。また、カバノアナタケの粉砕物や酵素処理物やエキスは、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、血液凝固抑制作用を発揮するに足る有効量を添加することで、血栓や塞栓に対する予防効果や治療効果をもたらす機能性食品として食してもよい。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の血液凝固抑制剤について実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0010】
実施例1:
チャーガ(ウクライナ産)の乾燥粉末(ハンマーミルを用いて粒径を約20μm〜約200μmとしたもの)30gを蒸留水300mLに懸濁し、湯煎中において90℃で2時間の熱水抽出を行った。その後、遠心分離を5000rpmで30分行い、上清をADVANTEC GA100を用いて吸引ろ過し、得られたろ液を凍結乾燥して、チャーガのエキスを得た(抽出率10.8%)。このチャーガのエキスの血液凝固抑制作用を、以下の2種類の試験法によって評価した。
【0011】
(1)PT(プロトロンビン時間測定:外因系凝固反応時間の測定)
人の血漿(乏血小板血漿:Platelet Poor Plasma,PPP)150μLと生理食塩水150μLをキュベットに入れ、そこに、50mg/mLの評価サンプル(チャーガのエキスを生理食塩水に懸濁して調製したもの)を3μL添加し、攪拌しながら37℃で5分間インキュベートした。
インキュベート終了後、血液凝集能測定装置(KOWA社製、PA−100型)のスイッチを入れて吸光度の測定を開始し、30秒後にPT試薬を150μL添加し、吸光度の変化により、フィブリンが析出するまでの経過時間(秒)を測定した。
【0012】
(2)APTT(活性部位トロンボプラスチン時間測定:外因系凝固反応時間の測定)
人の血漿(乏血小板血漿:Platelet Poor Plasma,PPP)150μLとAPTT試薬150μLをキュベットに入れ、そこに、50mg/mLの評価サンプル(チャーガのエキスを生理食塩水に懸濁して調製したもの)を3μL添加し、攪拌しながら37℃で5分間インキュベートした。
インキュベート終了後、血液凝集能測定装置(KOWA社製、PA−100型)のスイッチを入れて吸光度の測定を開始し、30秒後に0.25mMの塩化カルシウム水溶液を150μL添加し、吸光度の変化により、フィブリンが析出するまでの経過時間(秒)を測定した。
【0013】
評価の結果を表1に示す。また、チャーガのエキスの調製方法と同様の調製方法によって調製した、アガリクス、ハナビラタケ、鹿角霊芝、ミリタリス、ヤマブシタケの各エキスの血液凝固抑制作用の評価の結果を表1にあわせて示す。なお、表1において、PT時間は、評価サンプルについてPT試薬を添加した時点を開始時間としてフィブリンが析出するまでの経過時間を測定する一方、対照サンプルとした生理食塩水のフィブリン析出時間を同様にして測定し、生理食塩水の測定値を100%とした場合の評価サンプルの測定値の割合(%)で表示したものである。また、APTT時間は、評価サンプルについて塩化カルシウム水溶液を添加した時点を開始時間としてフィブリンが析出するまでの経過時間を測定する一方、対照サンプルとした生理食塩水のフィブリン析出時間を同様にして測定し、生理食塩水の測定値を100%とした場合の評価サンプルの測定値の割合(%)で表示したものである。生理食塩水のフィブリン析出時間の測定値に対する評価サンプルのフィブリン析出時間の測定値の割合は、その都度、生理食塩水について測定を行って求めた。
【0014】
【表1】

【0015】
表1から明らかなように、チャーガのエキスは、PT試薬または塩化カルシウム水溶液を添加してから300秒経過した後も血液凝固が起こらず、フィブリンが析出しなかったので、PT時間とAPTT時間のいずれも測定することができなかったことから、その優れた血液凝固抑制作用が明らかになり、血液凝固抑制剤として有用であることがわかった。
【0016】
実施例2:
実施例1で調製した、チャーガのエキスを生理食塩水に懸濁して50mg/mLの濃度にしたものを、限外ろ過膜(Ultrafree−MC:MILLIPORE社)を用いて、分子量が1万未満の画分、1万〜5万の画分、5万を超える画分の3つの画分に分画した。それぞれの画分について、実施例1に記載の方法にてPT時間とAPTT時間を測定し(但し評価サンプルは濃度未調整のものを4.5μL添加)、血液凝固抑制作用を評価した。評価の結果を表2と図1に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
表2と図1から明らかなように、限外ろ過によりチャーガのエキスを分子量分画することで得られる分子量が5万を超える画分は、優れた血液凝固抑制作用を有することが明らかになり、血液凝固抑制剤として有用であることがわかった。
【0019】
製剤例1:錠剤
チャーガの蒸留水抽出エキス5g、乳糖75g、ステアリン酸マグネシウム20g、合計100gを均一に混合し、常法に従って錠剤とした。
【0020】
製剤例2:顆粒剤
チャーガのエタノール抽出エキス15g、澱粉30g、乳糖55g、合計100gを均一に混合し、常法に従って顆粒剤とした。
【0021】
製剤例3:ビスケット
薄力粉32g、全卵18g、バター14g、砂糖24g、水10g、ベーキングパウダー1g、カバノアナタケ子実体の微粉砕物1g、合計100gを用い、常法に従ってビスケットとした。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、カバノアナタケが有する薬理作用の解明に基づく、その新規な医薬用途としての血液凝固抑制剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例における、限外ろ過によりチャーガのエキスを分子量分画することで得られる3つの画分の血液凝固抑制作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバノアナタケまたはそのエキスを有効成分としてなることを特徴とする血液凝固抑制剤。
【請求項2】
限外ろ過によりチャーガのエキスを分子量分画することで得られる分子量が5万を超える画分を有効成分としてなることを特徴とする請求項1記載の血液凝固抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241027(P2006−241027A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56683(P2005−56683)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(595175301)株式会社応微研 (28)
【Fターム(参考)】