血液悪性腫瘍における診断、分類、治療に対する反応および臨床的挙動の予測、治療の階層化、ならびに疾患のモニタリングのための血漿プロテオミクスパターンの使用法
本発明は、白血病などの血液悪性腫瘍患者における診断および臨床的挙動の予測が、血漿試料中に存在するタンパク質の解析によって達成され得ることを実証する。したがって、特定の態様において、本発明では血漿を使用して血液悪性腫瘍の診断または予後タンパク質プロファイルを作成し、これは、血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;血漿試料から、分画を伴いまたは伴わずにタンパク質スペクトルを生成する段階;タンパク質スペクトルを臨床データと比較する段階;および臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーを同定する段階を含む。次いで、このアプローチによって同定したタンパク質マーカーを用いて、血液悪性腫瘍の診断または血液悪性腫瘍の予後の決定に使用し得るタンパク質プロファイルを作成することができる。場合によっては、これらの特定のタンパク質は同定され、これらの悪性腫瘍の治療において標的とされ得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は、一般にプロテオミクスの分野に関する。より詳細には、本発明は、血液悪性腫瘍の診断および予後診断のためのプロテオミクスの使用に関する。また、本発明は、治療に対する反応の予測および治療に関する患者の階層化に関する。
【0002】
本出願は、2004年4月20日に出願した米国仮特許出願第60/563,873号の優先権を主張する。上記の開示は全文とも、権利放棄することなく参照として本明細書に明確に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
血液悪性腫瘍とは、白血病およびリンパ腫をはじめとする、血液および骨髄の癌である。白血病は、白血球の異常な増殖を特徴とする悪性腫瘍であり、癌の4つの主要な種類のうちの1つである。米国では、毎年約29,000人の成人および2,000人の小児が白血病と診断される。白血病は、最も顕著に関与する白血球の種類に従って分類される。急性白血病は主に未分化細胞集団であり、慢性白血病はより成熟した細胞形態を有する。
【0004】
急性白血病は、リンパ芽球型(ALL)と非リンパ芽球型(ANLL)に分類され、フランス-アメリカ-イギリス分類に従ってまたは分化の種類および程度に従って、形態学的および細胞化学的外観によりさらに細分化され得る。特定のB細胞およびT細胞ならびに骨髄細胞表面マーカー/抗原もまた、分類に使用される。ALLは主に小児疾患であり、急性骨髄性白血病(AML)としても知られるANLLは、成人に好発する急性白血病である。
【0005】
慢性白血病は、リンパ球型(CLL)と骨髄型(CML)に分類される。CLLは、血液、骨髄、およびリンパ器官中の成熟リンパ球数の増加を特徴とする。大部分のCLL患者は、B細胞の特徴を有するリンパ球のクローン性増殖を有する。CLLは高齢者の疾患である。CMLでは、すべての分化段階にある顆粒球細胞が血液および骨髄中で優位を占めるが、これはまた肝臓、脾臓、および他の器官を冒す場合もある。
【0006】
白血病患者によって、様々な生存期間および治療に対する反応によって反映される、非常に多様な臨床経過が起こり得る。信頼できる個々の予後ツールは、現段階では限られている。プロテオミクス技術の進歩により、白血病などの血液悪性腫瘍の新たな診断および予後指標が提供され得る。
【0007】
「プロテオーム」という用語は、ゲノムによって発現される全タンパク質を指し、したがってプロテオミクスは、体内におけるタンパク質の同定、ならびに生理的および病態生理学的な機能におけるそれらの役割の決定を含む。ヒトゲノムプロジェクトで決定された〜30,000個の遺伝子は、選択的スプライシングおよび翻訳後修飾を考慮すると300,000〜100万個のタンパク質に翻訳される。ゲノムは多くの場合変化しないままであるが、任意の特定の細胞中のタンパク質は、遺伝子が環境に応じて発現および抑制されることで劇的に変化する。
【0008】
プロテオームの動的な性質を反映して、特定の細胞によって1つの時間枠内で産生されるすべてのタンパク質を表現するために、「機能プロテオーム」という用語を使用することを好む研究者もいる。究極的には、プロテオミクスにより、新しい疾患マーカーおよび薬剤標的が同定され得ると考えられている。
【0009】
プロテオミクスは、これまでにも白血病の研究において用いられてきた。例えば、ALL患者のリンパ芽球に由来するタンパク質の二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2-D PAGE)を用いて、ALLの主要なサブグループを識別し得るポリペプチドが同定された(Hanash et al., 1986(非特許文献1))。2-D PAGEを用いたALLの他の研究では、乳児と年長児の間で、その他の点では細胞表面マーカーは同様であるものの、1つのポリペプチドのレベルが異なることが確認された(Hanash et al., 1989(非特許文献2))。Vossらは、生存期間の短いB-CLL患者集団では、単核細胞から調製したタンパク質の2-D PAGEによって決定される、酸化還元酵素、Hsp27、およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼのレベルに変化が示されることを実証した(Voss et al., 2001(非特許文献3))。
【0010】
これらの研究が示すように、プロテオミクスは血液悪性腫瘍の研究において有用な手段となり得る。しかし、当技術分野において現在利用できるものよりもより信頼できかつ単純なプロテオミクス技法が必要である。
【0011】
【非特許文献1】Hanash et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83(3):807-811, 1986
【非特許文献2】Hanash et al., Blood, 73(2):527-532, 1989
【非特許文献3】Voss et al., Int. J. Cancer, 91(2):180-186, 2001
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明は、血液悪性腫瘍の診断、ならびに患者の臨床的挙動および治療に対する反応の予測のために使用し得るプロファイルを、血漿プロテオミクスを使用して作成する新規なアプローチを提供する。
【0013】
1つの態様において、本発明は、血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;血漿試料からタンパク質スペクトルを生成する段階;タンパク質スペクトルを、血液悪性腫瘍に関する患者の臨床データと比較する段階;臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および血液悪性腫瘍を診断するため、または血液悪性腫瘍の予後を決定するために使用し得るタンパク質プロファイルを、同定したタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群に基づいて作成する段階を含む、血液悪性腫瘍の診断または予後タンパク質プロファイルを作成する方法を提供する。
【0014】
好ましい態様において、タンパク質スペクトルは質量分析法によって生成される。質量分析法は、例えば、SELDI(表面増強レーザー脱離/イオン化)、MALDI(マトリックス支援脱離/イオン化)、またはタンデム質量分析法(MS/MS)であってよい。本発明の他の態様において、タンパク質スペクトルは二次元ゲル電気泳動によって生成される。特定の局面において、タンパク質試料は、質量分析解析または二次元ゲル電気泳動の前に分画される。分画は、pH、大きさ、構造、または結合親和性などの種々の特性に従い得る。1つの局面において、血漿タンパク質は、強陰イオン交換カラムを用いてpHに従って4つの異なる画分に分画される(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)。
【0015】
特定の局面において、臨床データと相関するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、一変量統計、多変量統計、または階層的クラスター分析によって同定される。好ましい態様において、臨床データと相関するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、β-一様ミクスチャー解析(beta-uniform mixture analysis)、遺伝的アルゴリズム、一変量統計、および/または多変量統計と共に相関統計を用いて同定される。他の好ましい態様において、臨床データと相関するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、決定木アルゴリズムを用いて同定される。本発明のいくつかの態様において、臨床データは、細胞遺伝学、年齢、パフォーマンスステータス(performance status)、治療に対する反応、治療の種類、進行、無再発生存率、反応から再発までの期間、および生存期間の1つまたは複数を含む。
【0016】
好ましい態様においては、タンパク質プロファイルを用いて、血液悪性腫瘍を診断する;血液悪性腫瘍の種類を分類する;薬物治療に対する患者の反応を予測する;患者の生存期間を予測する;または患者の反応から再発までの期間を予測する。特定の態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。
【0017】
別の態様において、本発明は、患者から血漿試料を採取する段階;治療に対する反応に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および治療に対する患者の反応を予測する段階を含む、血液悪性腫瘍患者における治療に対する反応を予測する方法を提供する。好ましい態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。
【0018】
本方法を用いて、治療に対する患者の反応を、治療を開始する前、治療中、または治療が完了した後に予測することができる。例えば、治療を開始する前に治療に対する患者の反応を予測することにより、この情報を患者にとって最良の治療選択肢を決定する際に使用することができる。
【0019】
本発明の1つの局面において、タンパク質マーカーはピークである。ピークは質量分析法により生成される。質量分析法は、例えば、SELDI、MALDI、またはMS/MSであってよい。本発明の別の局面において、タンパク質マーカーはスポットである。好ましい態様において、スポットは二次元ゲル電気泳動により生成される。
【0020】
本発明の特定の態様において、治療は、化学療法、免疫療法、抗体に基づく療法、放射線療法、または支持療法(白血病に対して実施される本質的に任意のもの)である。いくつかの態様において、化学療法はグリベック(Gleevac)またはイダルビシン(idarubicin)およびara-Cである。
【0021】
いくつかの態様において、AML患者における特定の治療に対する反応に関連するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表1に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク1〜ピーク17の1つまたは複数である。1つの態様において、AML患者における特定の治療に対する反応に関連するタンパク質マーカー群は、ピーク1およびピーク2を含む。
【0022】
(表1)AML患者における治療に対する反応に関連する、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
表面/画分は、タンパク質スペクトルが生成された際の表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))、および画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)を示す。
【0023】
1つの態様において、本発明は、患者から血漿試料を採取する段階;再発までの期間に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および患者の再発までの期間を予測する段階を含む、血液悪性腫瘍患者における再発までの期間を予測する方法を提供する。好ましい態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。
【0024】
本発明の1つの局面において、タンパク質マーカーはピークである。ピークは質量分析法により生成される。好ましくは、ピークはSELDI質量分析法により生成される。本発明の別の局面において、タンパク質マーカーはスポットである。好ましい態様において、スポットは二次元ゲル電気泳動により生成される。
【0025】
好ましい態様において、AML患者におけるイダルビシンおよびara-Cに対する反応から再発までの期間に関連するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表2に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク18〜ピーク29の1つまたは複数である。
【0026】
(表2)AML患者における治療に対する反応から再発までの期間に関連する、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
表面/画分は、タンパク質スペクトルが生成された際の表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))、および画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)を示す。
【0027】
好ましい態様において、ALL患者における再発に関連するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表3に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク30〜ピーク49の1つまたは複数である。
【0028】
(表3)ALL患者における再発の最も強力な予測因子である、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
【0029】
好ましい態様において、L1/L2 ALL患者とL3 ALL患者とを識別するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表4に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク50〜ピーク69の1つまたは複数である。
【0030】
(表4)L1/L2 ALLとL3 ALLの最も強力な識別因子である、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
【0031】
当業者であれば、本明細書に記載のタンパク質マーカーによって示されるタンパク質、または本明細書に記載の方法によって明らかにされるタンパク質マーカーの明確な同一性が、診断または予後タンパク質プロファイルを作成または利用するのに必要ではないことを理解すると考えられる。タンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群の有無またはレベルの増減を用いて、そのタンパク質が何であるかという知識なしに、診断または予後タンパク質プロファイルを作成または利用することができる。例えば、パターン内のタンパク質マーカーの明確な同一性を知る必要なしに、タンパク質マーカー群のパターンに基づいて、診断または予後タンパク質プロファイルを作成または利用することができる。
【0032】
別の態様において、本発明は、患者から骨髄穿刺液試料を採取する段階;治療に対する反応に関連する、試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および治療に対する患者の反応を予測する段階を含む、血液悪性腫瘍患者における治療に対する反応を予測する方法を提供する。好ましい態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。本発明の1つの局面において、白血病はCMLである。
【0033】
特定の局面において、本発明のタンパク質マーカーは、P52rIPK相同体、フォリスタチン関連タンパク質1前駆体、アネキシンA10、アネキシン14、腫瘍壊死因子受容体サブファミリーメンバーXEDAR、ジンクフィンガータンパク質、CD38 ADP-リボシルシクラーゼ1、結合組織増殖因子、CD28、Bcl2関連卵巣キラー、腫瘍壊死因子受容体サブファミリーメンバー10D、X連鎖エクトジスプラシン受容体、エクトジスプラシンA2アイソフォーム受容体、または第21染色体オープンリーディングフレーム63であってよい。
【0034】
本明細書に記載の方法または組成物はいずれも、本明細書に記載するその他の任意の方法または組成物に関して実行できることが意図される。
【0035】
特許請求項における「または」という用語の使用は、代用物のみを指すと明確に示しているか、または代用物が相互に排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は、代用物のみおよび「および/または」を指すという定義を支持する。
【0036】
本出願を通して、「約」という用語は、その値を決定するために使用した装置または方法に関する誤差の標準偏差を含む値を示すために用いられる。
【0037】
長年にわたる特許法に従って、「1つの(a、an)」という語は、特許請求の範囲または明細書において「含む」という語に関連して用いる場合、特記する場合を除いて1つまたは複数を表す。
【0038】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになると思われる。しかし、当業者にはこの詳細な説明から本発明の精神および範囲内の様々な変更および修正が明白となることから、詳細な説明および具体例は、本発明の具体的態様を示すものではあるが、単に例証のために提供されることが理解されるべきである。
【0039】
例証的態様の説明
A. 本発明
血液悪性腫瘍患者においては、様々な生存期間および治療に対する反応によって反映される、非常に多様な臨床経過が起こり得る。患者が患っている血液悪性腫瘍の種類に応じて、治療は、放射線照射、化学療法、骨髄移植、生物学的療法、またはこれらの治療のいくつかの組み合わせを含み得る。それ故、異なる悪性腫瘍は特定の治療に対して異なって反応することから、どの治療選択肢を遂行するかを決定する上で、患者の血液悪性腫瘍を正確に診断することは重要である。血液悪性腫瘍の特定の形態内でさえ(例えば、AML、ALL、CML、CLL)、患者間には治療に対する反応に顕著な変動がある。例えば、急性骨髄性白血病(AML)では、標準的な化学療法(イダルビシン+ara-C)に対する反応は患者間で顕著に異なり、約50%の患者は治療に反応しない。-5、-7、および11 q異常などのAML患者における特定の細胞遺伝学的異常、またはパフォーマンスステータス不良および高齢は、治療に対する反応不良と関連があることが知られているが、治療に対する反応の正確な予測は依然としてわかりにくい。血液悪性腫瘍患者における臨床的挙動を正確に診断および予測する能力は、治療選択肢に関する患者の階層化を可能にし得る。
【0040】
血液悪性腫瘍患者における診断または臨床的挙動を決定する現行法は信頼しがたく、典型的に1つの分子に依存している。本発明により、何千ものタンパク質を同時に評価し、それらのタンパク質から、血液悪性腫瘍患者における臨床的挙動を診断または予測するために使用し得るタンパク質プロファイルを作成することが可能になる。さらに、本発明はプロテオミクスを血漿と併用する。血漿は採取が容易であり、最も複雑なヒト由来プロテオームを提供し、血液悪性腫瘍のプロテオミクス研究では細胞および血清よりも優れている。
【0041】
本発明は、血液悪性腫瘍患者における診断および臨床的挙動の予測が、血漿試料中に存在するタンパク質の解析によって達成され得ることを実証する。したがって、特定の態様において、本発明では血漿を使用して血液悪性腫瘍の診断または予後タンパク質プロファイルを作成し、これは、血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;血漿試料からタンパク質スペクトルを生成する段階;タンパク質スペクトルを臨床データと比較する段階;および臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーを同定する段階を含む。次いで、このアプローチによって同定されたタンパク質マーカーを用いて、血液悪性腫瘍の診断または血液悪性腫瘍の予後の決定に使用し得るタンパク質プロファイルを作成することができる。いくつかの態様において、タンパク質マーカーは、血液悪性腫瘍患者のタンパク質プロファイルを、非罹患個体のタンパク質プロファイルと比較することによって同定され得る。
【0042】
本発明の方法を使用することで、当業者は、血液悪性腫瘍を正確に診断し得る、治療に対する患者の反応を予測し得る、患者の再発までの期間を予測し得る、および患者の生存期間を予測し得るタンパク質マーカーを同定することができるようになる。さらに、本発明は、AML患者における治療に対する反応を正確に予測することが示されたいくつかのタンパク質マーカー、およびAML患者における再発までの期間を正確に予測することが示されたいくつかのタンパク質マーカーを提供する。
【0043】
B. 血清プロテオーム
血清は採取が容易であり、他の組織プロテオームをサブセットとして含む最も複雑なヒト由来プロテオームを提供する。血漿のタンパク質内容物は以下の群に分類され得る:固体組織によって分泌され、血漿中で作用するタンパク質;免疫グロブリン;「長距離」受容体リガンド;「局所的」受容体リガンド、一時的パッセンジャー;組織漏出産物;癌細胞および他の罹患細胞からの異常な分泌物;および外来タンパク質(Anderson and Anderson, 2002)。
【0044】
脳脊髄液、滑液、および尿をはじめとする他の体液は、血漿とタンパク質内容物をいくらか共有する。しかしながら、これらの試料は実用的な状況での採取が血漿よりも困難である。例えば、脳脊髄液および滑液の採取は、痛みといくらかの危険性を伴い得る侵襲的手順であり、一方、尿をタンパク質解析に有用な試料に加工することは、臨床設定において困難であることが多い。しかし、血漿は静脈穿刺よって容易に採取することができる。例えば、静脈血試料を採取し、滅菌エチレンジアミン四酢酸(EDTA)チューブ中に回収することができる。次いで、遠心分離によって血漿を分離することができる。必要に応じて、後に解析するために血漿は-70℃で保存してもよい。
【0045】
血漿中のタンパク質の特徴づけは、多量のアルブミンが存在するため、および他のタンパク質の存在量が広範囲であるために、困難である。しかし、本発明により、プロテオミクスを血漿と併用することで、血液悪性腫瘍を診断するため、および血液悪性腫瘍患者における臨床的挙動を予測するための信頼できるアプローチを提供し得ることが示される。
【0046】
C. タンパク質解析
本発明では、血漿からタンパク質を分離する方法を使用する。タンパク質を分離する方法は当業者に周知であり、これには、これらに限定されるわけではないが、種々の種類のクロマトグラフィー(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逐次抽出、高速液体クロマトグラフィー)および質量分析法が含まれる。血漿試料中のタンパク質を分離および検出することで、その試料のタンパク質スペクトルが生成される。
【0047】
1. 質量分析法
好ましい態様において、本発明では質量分析法を使用する。質量分析法は、真空中で分子をイオン化し、揮発によってそれらを「飛行」させることで個々の分子を「計量する」手段を提供する。電場および磁場の組み合わせの影響を受けて、イオンは個々の質量(m)および電荷(z)に応じた軌道をたどる。質量分析法(MS)は、その極めて高い選択性および感度から、医薬品、代謝産物、ペプチド、およびタンパク質をはじめとする幅広い生物分析物を定量化するための強力な手段となっている。
【0048】
本発明において特に関心対象となるのは、表面増強レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF MS)である。総タンパク質は、MALDI-TOF(マトリックス支援脱離イオン化-飛行時間型)質量分析法の変種であるSELDI-TOF MSにより解析することができる。SELDI-TOF MSでは、試料の複雑性を軽減するために、タンパク質親和性特性に基づいた分画が用いられる。例えば、疎水性、親水性、陰イオン交換、陽イオン交換、および固定化金属アフィニティー表面を用いて、試料が分画され得る。次いで、表面に選択的に結合するタンパク質にレーザーが照射される。レーザーは接着タンパク質を脱離させて、それらをイオンとして放つ。電極によって検出されるまでのイオンの「飛行時間」が、イオンの質量対電荷比(m/z)の尺度である。タンパク質解析のためのSELDI-TOF MSアプローチは、商業的に実行されている(例えば、Ciphergen)。
【0049】
2. 二次元電気泳動
特定の態様において、本発明では、血漿などの生物試料からタンパク質を分離するために、高分解能電気泳動を使用する。好ましくは、二次元ゲル電気泳動を用いて、試料に由来するタンパク質のスポットの二次元アレイが生成される。
【0050】
二次元電気泳動は、分子の複雑な混合物を分離する有用な技法であり、一次元分離で得られる分解能よりもはるかに高い分解能が提供される場合が多い。二次元ゲル電気泳動は、当技術分野において周知の方法を用いて行うことができる(例えば、米国特許第5,534,121号および第6,398,933号を参照されたい)。典型的には、試料中のタンパク質は、例えば等電点電気泳動によって分離され、その間に試料中のタンパク質は、正味の電荷がゼロになる点(すなわち、等電点)に到達するまで、pH勾配中で分離される。この一次分離段階によって、タンパク質の一次元アレイが生じる。一次元アレイ中のタンパク質は、一般に一次分離段階に用いられた技法とは異なる技法を用いてさらに分離される。例えば、二次元目では、等電点電気泳動によって分離されたタンパク質は、ドデシル硫酸ナトリウムの存在下におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)などのポリアクリルアミドゲルを用いてさらに分離される。SDS-PAGEゲルにより、タンパク質の分子量に基づいたさらなる分離が可能になる。
【0051】
二次元アレイ中のタンパク質は、当技術分野において周知の任意の適切な方法を用いて検出され得る。タンパク質の染色は、比色色素(クマシー)、銀染色、および蛍光染色(Ruby Red)を用いて達成され得る。当業者に周知であるように、生成されたスポット/またはタンパク質プロファイリングパターンは、例えば気相イオン分光法によってさらに解析され得る。タンパク質をゲルから切り出し、気相イオン分光法によって解析することができる。または、タンパク質を含むゲルを、電場をかけることによって不活性膜に転写することができ、マーカーの分子量にほぼ相当する膜上のスポットを気相イオン分光法により解析することができる。
【0052】
3. その他のタンパク質解析方法
上記の方法に加えて、当業者に周知であるその他のタンパク質分離方法も、本発明の実施に有用であり得る。タンパク質解析の方法は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0053】
a. クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは、電荷、大きさ、形状、および溶解度に基づいて有機化合物を分離するために用いられる。クロマトグラフィーは、移動相(溶媒および分離される分子)、およびその中を移動相が移動する、紙(ペーパークロマトグラフィーにおける)または樹脂と称されるガラスビーズ(カラムクロマトグラフィーにおける)のいずれかである固定相からなる。分子は、化学的性質のために、異なる速度で固定相中を移動する。本発明で使用され得るクロマトグラフィーの種類には、これらに限定されるわけではないが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、および逆相クロマトグラフィー(RP)が含まれる。その他の種類のクロマトグラフィーには以下のものが含まれる:吸着、分配、アフィニティー、ゲル濾過、および分子ふるい、ならびにカラム、ペーパー、薄層、およびガスクロマトグラフィーを含む、それらを使用するための多くの特殊化した技法(Freifelder, 1982)。
【0054】
i. 高速液体クロマトグラフィー
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は逆相と類似しており、この方法でのみ、高速および高い圧力滴下で工程が行われる。カラムはより短く、小口径を有するが、多数の平衡状態を保有するのに匹敵する。
【0055】
他の種類のクロマトグラフィー(例えば、ペーパーおよび薄層)も存在するが、クロマトグラフィーの大部分の適用ではカラムを使用する。カラムは実際の分離が行われる場所である。カラムは通常、そこに加えられ得る圧力に耐えるのに十分な強度のガラスまたは金属管である。カラムは固定相を含む。移動相はカラム内を移動し、固定相に吸着される。カラムは充填ベッドであっても、開管カラムであってもよい。充填ベッドカラムは、粒状形態であり、均一なベッドとしてカラム内に充填された固定相からなる。固定相はカラムを完全に満たしている。開菅カラムの固定相は、カラム壁上の薄膜または薄層である。カラムの中央を貫く通路が存在する。
【0056】
移動相は、試料が注入される溶媒からなる。溶媒と試料はカラム内を同時に流れる;したがって、移動相は「担体液」と称される場合が多い。固定相は、カラム内の材料であり、分離される成分はこれと様々な親和性を有する。移動相および固定相を構成する材料は、実施するクロマトグラフィー工程の一般的形式に応じて変動する。液体クロマトグラフィーにおける移動相は、固定相ベッド中を流れる低粘性の液体である。このベッドは、多孔性支持体上に被覆された非混和液、吸着剤の表面に結合された液相の薄膜、または規定された孔サイズの吸着剤からなり得る。
【0057】
高速クロマトフォーカシング(HPCF)により、タンパク質分離の一次元目としての液体pI画分、およびその後の二次元目としての各pI画分の高分解能逆相(RP)HPLCがもたらされる。タンパク質はここで(ゲルのように)マッピングされるが、液体画分は(ゲルとは異なり)、タンパク質消化に頼ることなくより選択的な基準で詳細に原型タンパク質を特徴づけるおよび同定するための質量分析法(MS)との簡便な接点になる。
【0058】
ii. 逆相クロマトグラフィー
逆相クロマトグラフィー(RPC)は、親水性溶媒と親油性溶媒との間で試料を分配させることによって、試料の溶解度特性を利用する。二相間での試料成分の分配は、それぞれの溶解度特性に依存する。疎水性の低い成分は最後には主に親水性相に行き、より疎水性の高い成分は親油性相で見出される。RPCでは、化学結合した炭化水素鎖(2〜18炭素)で被覆したシリカ粒子が親油性相を表し、粒子周囲の有機溶媒の水性混合液が親水性相を表す。
【0059】
試料成分がRPCカラムを通過する際には、分配機構が連続して機能する。溶離液の抽出力に応じて、試料成分のより多くの部分またはより少ない部分が、この場合固定相と称される粒子の脂質層によって可逆的に保持されることになる。脂質層に多くの画分が保持されるほど、試料成分はよりゆっくりとカラムを下降する。移動相は固定相よりも親水性が高いため、親水性成分は疎水性成分よりも速く移動する。
【0060】
化合物は高水性移動相中で逆相HPLCカラムに固着し、高有機移動相でRP HPLCカラムから溶出される。RP HPLCでは、化合物はその疎水性特性に基づいて分離される。ペプチドは、有機溶媒の直線勾配を流すことによって分離され得る。
【0061】
分配機構と共に、吸着も移動相と固体相の間の界面で機能する。吸着機構は親水性試料成分に対してより明白であり、疎水性成分に対しては液体-液体分配機構が優勢である。したがって、疎水性成分の保持は、脂質層の厚さに大きく影響を受ける。18炭素層は、8炭素層または2炭素層よりも疎水性の高い材料を提供し得る。
【0062】
移動相は有機溶媒の水性溶液と見なしてもよく、その種類および濃度によって抽出力が決まる。いくつかの一般的に用いられる有機溶媒は、疎水性が増加する順に、メタノール、プロパノール、アセトニトリル、およびテトラヒドロフランである。
【0063】
固定相として用いられる粒子の大きさが非常に小さいために、非常に狭いピークが得られる。いくつかの態様において、逆相HPLCピークは、HPLCから抽出されるピークの強度に従って、二次元画像において異なる強度のバンドとして表される。場合によっては、ピークは液相でのHPLC分離の溶離液として回収される。クロマトグラフィーのピーク形状を改善するため、および逆相クロマトグラフィーにおいてプロトン源を提供するためには、酸が一般に用いられる。そのような酸は、ギ酸、トリフルオロ酢酸、および酢酸である。
【0064】
iii. イオン交換クロマトグラフィー
イオン交換クロマトグラフィー(IEC)は、大きなタンパク質から小さなヌクレオチドおよびアミノ酸まで、ほとんどすべての種類の荷電分子の分離に適用できる。IECは、多種多様な条件下において、タンパク質およびペプチドに関して非常に頻繁に用いられる。タンパク質の構造研究では、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)およびIECの連続使用がかなり一般的である。
【0065】
イオン交換クロマトグラフィーでは、荷電粒子(基質)が試料分子(タンパク質など)と可逆的に結合する。次いで、塩濃度を上げることにより、または移動相のpHを変化させることにより、脱離が行われる。生化学では、ジエチルアミノエチル(DEAE)基またはカルボキシメチル(CM)基を含むイオン交換が、元も頻繁に用いられる。DEAEおよびCMのイオン特性はpHに依存するが、両者とも、大部分のタンパク質分離が起こるpH 4〜8の範囲内で、イオン交換体として良好に機能にするよう十分荷電している。
【0066】
イオン交換体への吸着を支配するタンパク質の特性は、正味の表面電荷である。表面電荷はタンパク質の弱酸性基および弱塩基性基の結果であるため;分離は高度にpHに依存する。低pH値から高pH値にすることで、タンパク質の表面電荷は正電荷から負電荷表面電荷に移行する。pH 対 正味の表面曲線はタンパク質の個々の特性であり、IECにおける選択性の基礎を構成する。
【0067】
液体クロマトグラフィーのすべての形態と同様に、試料成分が異なる速度でカラム内を移動できるようにする条件が用いられる。低イオン強度では、イオン交換体に対して親和性を有するすべての成分がイオン交換体の上部に密接に吸着し、移動相中には何も存在しない。中性塩を加えて移動相のイオン強度を上げると、塩イオンがタンパク質と競合し、より多くの試料成分が部分的に脱着して、カラムを下降し始める。イオン強度をさらに上げることで、さらに多くの試料成分が脱着し、カラム下降する速度が上昇することになる。タンパク質の正味の電荷が高いほど、脱離させるのに必要なイオン強度は高くなる。特定の高いイオン強度レベルでは、すべての試料成分が完全に脱着し、移動相と同じ速度でカラムを下降する。全吸着と全脱離の間のあるところで、移動相の所与のpH値に関する最適な選択性が見出されることになる。したがって、イオン交換クロマトグラフィーにおいて選択性を最適化するには、試料成分間で正味の電荷の十分に大きな差を生じるpH値が選択される。次いで、成分を部分的に脱着させることによってこれらの電荷の差を十分に利用するイオン強度が選択される。各成分がカラムを下降するそれぞれの速度は、移動相中に見出される成分の割合に比例する。
【0068】
非常に多くの場合、試料成分はイオン交換体に対する吸着が大きく異なるため、単一値のイオン強度では、遅い試料成分を適当な時間内でカラム通過させることができない。そのような場合には、移動相中のイオン強度を連続的に上昇させるために、塩勾配をかける。
【0069】
D. タンパク質マーカーの解析
1. タンパク質マーカー位置の抽出
例えばSELDI-TOF MSによってタンパク質スペクトルを生成した後、さらなる解析のためにタンパク質マーカーを同定する。タンパク質マーカーの検出は、バックグラウンドノイズを低減することによってより容易に行われ得る。バックグラウンドノイズは、様々なレベルで低減することができる。バックグラウンドノイズを低減する1つの方法は、タンパク質スペクトルの生データを平均化することにある。まず、同量の試料を比較することを確実にするために、ピークを標準化すべきである。当業者に周知であるいくつかの標準化方法が存在する。一般的なアプローチでは、強度:全イオン電流、高さ、面積、または質量に従って標準化する。標準化する別の方法では、以下の式を使用する(I=強度):
標準化I=現下のI−最小I/最大I−最小I
【0070】
標準化した後、大部分(50〜70%)の試料において認められないピークを排除することによって、バックグラウンドの低減が達成され得る。
【0071】
質量スペクトルを取得するためのシステムは市販されている。一例として、Ciphergen ProteinChip(登録商標)リーダー(Ciphergen Biosystemns, Inc.)がある。チップリーダーは、CiphergenExpress 3.0などのピーク検出ソフトウェアと共に使用し得る。このソフトウェアは、所与のシグナル対ノイズ比を超え、かつ複数のスペクトル中に存在するピークを決定することによって、クラスターを算出する。ノイズ減算、ピーク検出、およびクラスター完了の種々の設定を評価して、解析を最適化し得る。例えば、一次通過ピーク検出をピークおよび谷間の両方におけるシグナル対ノイズ5.0とし、クラスター完了域をピーク幅の1.0倍とし、さらに二次通過シグナル対ノイズ設定をピークおよび谷間の両方について2.0とすることができる。
【0072】
標準化因子として全イオン電流を使用することは、SELDIデータ解析における一般的な方法である;しかし、その他の標準化方法を使用することも可能である。例えば、相互に近接したピーク(例えば、上流および下流の5ピーク以内)の比を標準化に使用するピーク比アプローチを用いて標準化を行うことができる。ピーク比アプローチは、おそらくは翻訳後修飾をより効率的に検出するさらなる利点を有する。
【0073】
ピークはまた手動で検出することもできる。次いで、手動によるピーク検出の結果を、Matlab(MathWorks、マサチューセッツ州、ネイティック)などのソフトウェアを用いて解析し、次いで決定木解析を行い得る。決定木解析ソフトウェアの非限定的な例は、Salford SystemsのCARTであり、これはCiphergen Biosystems, Inc.のBiomarker Patterns Software 4.0で実行される。
【0074】
本発明の方法に従って生成されたタンパク質スペクトルの再現性を確認するために、複製試料を解析し得る。当業者であれば、解析の再現性を判定するために使用し得る統計的方法を熟知している。例えば、凝集型クラスタリングアルゴリズムを用いて、複製試料が最近傍としてクラスター化することを示し、再現性を確認することができる。凝集型クラスタリング解析は、同じクラスターに属するものは相互に類似しているという方法で、データ内の群を探索するものである。コンピュータ解析は、既存の群を組み合わせるかまたは分割し、群が併合するかまたは分割する順序を示す階層構造を生成することによって、進行する。凝集方法は、別の群に存在する各観察対象から開始して、すべての観察対象が単一の群内に入るまで進める。
【0075】
2. タンパク質マーカーの関連性の決定
タンパク質スペクトルにおいて同定されたタンパク質マーカーの関連性を試験するには、当業者に周知である統計解析の種々の方法を使用することができる。例えば、一変量モデル、多変量モデル、または階層的クラスター分析を用いることができる。
【0076】
a. 多変量モデリング
多変量モデルとは、一連の既知の独立変数に基づいて従属変数の挙動を予測または説明することを目的としたモデルである。多変量解析を使用する目的は、反応、生存、および奏功期間の予測における変数としてのプロテオミクス解析が、同じものを予測し得る現時点で知られている変数とは独立していることを実証することにある。プロテオミクスデータが従来のマーカーを含むモデルに付加される場合には、p値が重要となるが、プロテオミクスデータがモデルに付加されず、かつ同様の予測が他の従来のマーカーを用いて達成され得る場合には、p値は、たとえそれが一変量解析において重要であったとしても重要ではない。
【0077】
血液悪性腫瘍患者の治療に対する反応を予測するには、多変量解析が好ましい。AML患者における治療に対する反応を予測するための多変量モデルの例は(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)である。
【0078】
細胞遺伝学的所見は、腫瘍細胞において認められた染色体異常を表す。これらの異常に基づき、白血病/腫瘍は、良好、中程度、または不良と分類され得る。例えば、第5もしくは第7染色体の欠失または第11染色体の異常をはじめとする細胞遺伝学的異常を有するAML患者の場合、この患者は「不良」疾患を有する(>90%が1年以内に死亡し、治療に対して反応しない)。t(8;21)、t(15;17)、またはInv 16を有するAML患者は「良好」疾患と分類され、残りは「中程度」疾患と分類される。
【0079】
年齢に関しては、患者が高齢であるほど疾患は不良である(連続変数)。>65歳の患者は、「不良」疾患に分類される。
【0080】
パフォーマンスステータスとは、以下の表5に記載される患者の健康全般を評価するための採点システムである。当然のことながら、等級(ECOG)が高いほど患者が生存する可能性は低い。
【0081】
(表5)パフォーマンスステータスの判定基準
【0082】
特定のタンパク質マーカーの挙動の予測との関連性を試験するため、タンパク質マーカーを多変量モデルに付加することができる。例えば、SELDI MSによって同定されたタンパク質ピークの値(すなわち高さ)を、AML患者における治療に対する反応を予測するための基本の多変量モデルに付加して、(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢+ピーク情報)(ピーク情報とは所与のピークからの情報である)という拡張した多変量モデルを提供することができる。好ましくはピーク情報は、logピーク、logピーク+(logピーク)2、ピーク+ピーク2、またはピーク+logピークなどの変換ピーク値である。
【0083】
ピーク値を多変量モデルに適用した後、p値を生成する。当業者であれば、p値を算出する方法を熟知している。例えば、p値は、基本の多変量モデルおよび拡張した多変量モデルにANOVA(群間の分散分析)を適用することによって決定し得る。
【0084】
複数の試験に関して調整するには、β-一様ミクスチャー解析を使用し得る。p値は、β-一様ミクスチャー解析によって決定されるカットオフ値未満である場合にのみ有意であると見なされ、変換が独特であって一様ではないことが確認される。これにより、複数の試験に対して調整がなされる。
【0085】
b. Coxモデル
当業者はCox比例ハザードモデルに精通しており、Cox比例ハザードモデルとは、生存、進行までの期間、再発までの期間、または治療までの期間などの期間を伴うデータポイントを解析するために一般に用いられる回帰モデルである。Coxモデルにより、共変量の存在下でのノンパラメトリックな生存(または関心対象の他の事象)曲線(カプラン・マイヤー曲線など)の推定が可能になる。これは、連続変数と共に、または二分変数として行われ得る。共変量が生存に及ぼす効果は、通常、第一の関心対象である。Coxモデルはまた、いくつかの変数を組み込むことによって、多変量解析との関連での実施が可能である。多変量モデルでは、解析によってまず第1変数が解析され、次いで、第1変数から生じた群において第2変数が解析され、以下同様である。
【0086】
本発明の1つの態様では、タンパク質ピーク値をCoxモデルに当てはめた:
h(t) = h0(t)exp(β・f(ピーク))
式中、h(t)は時間tにおけるハザードであり、h0(t)はベースラインハザードであり、f(ピーク)はピーク値のいくらかの変換である。再発までの期間を予測するためにCoxモデルを適用した場合、「ハザード」は再発であり、「ベースラインハザード」はピーク値以外の変数に基づく再発の危険性であった。結果として生じるp値は、β-一様ミクスチャー解析を用いて解析し得る。係数βが正値であることは、ピーク高の増加が再発の危険性の増加に対応することを意味する。p値は、β-一様ミクスチャー解析によって決定されるカットオフ値未満である場合にのみ有意であると見なされ、変換が独特であって一様ではないことが確認される。これにより、複数の試験に対して調整がなされる。
【0087】
本明細書に記載した解析に加えて、Coxモデルを用いて多くのさらなる質問事項を問うことができる。例えば、データを用いて、真菌感染を有するであろう患者、または最初の2週間以内に死亡するであろう患者を予測することができる。同様の統計解析を用いて、再発後の二次治療に対する反応を判定することも可能である。
【0088】
c. 決定木アルゴリズム
本発明の1つの態様においては、決定木アルゴリズムを用いて、臨床転帰(例えば、応答者 対 非応答者)の予測に有用なタンパク質スペクトルを同定した。Salford SystemsのCARTソフトウェアは、市販の決定木ツールの一例である。CARTは、大きな複雑なデータベースを自動的にふるい分けて、有意なパターンおよび関連性を探索して単離する。次いで、この情報を用いて予測モデルが作成され得る。ピーク値およびピーク比と共に解析に含まれ得る変数には、臨床転帰、患者人口統計、および細胞解析が含まれる。決定木を使用する場合、過剰適合が起こらないように注意しなければならない(Wiemer and Prokudin 2004)。過剰適合を制限するアプローチでは、許容するレベル数を限定する。例えば、レベル数を2つに限定することができ、このことは、モデルが、全ピーク値および全観測変数(例えば、臨床転帰、患者人口統計、細胞解析)の一組のうち多くても2つの変数からのみなり得ることを意味する。
【0089】
E. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含めるものである。以下の実施例において開示する技法により、本発明者らが発見した技法が本発明の実施に際して十分に機能することが示され、したがって以下の実施例において開示する技法がその実施の好ましい様式を構成すると見なされ得ることが、当業者によって理解されるべきである。しかし当業者は、本開示を踏まえて、開示する特定の態様において多くの変更がなされ得り、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなお同様または類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0090】
実施例1
急性骨髄性白血病患者における治療に対する反応を予測するためのプロテオミクスの使用
急性骨髄性白血病(AML)では、標準的な化学療法(イダルビシン+ara-C)に対する反応は患者間で顕著に異なり、約50%の患者は治療に反応しない。-5、-7、および11 q異常などのAML患者における特定の細胞遺伝学的異常、またはパフォーマンスステータス不良および高齢は、治療に対する反応不良と関連があることが知られているが、治療に対する反応の正確な予測は依然としてわかりにくい。AMLにおける治療に対する反応を正確に予測することにより、患者の階層化、および寛解を誘導するのに適していないであろう従来の治療法で患者の免疫系を損なう前に前もって使用する場合に、これらの患者においてより有効であることがわかっている可能性のある別の療法の使用が可能になり得る。ゲノミクスおよびプロテオミクスにおける近年の進歩によって、AMLにおける化学療法に対する反応を予測するための新規な分子マーカーを見出す新たな期待が提供された。
【0091】
本発明者らは、急性骨髄性白血病(AML)における標準的な化学療法(イダルビシン+ara-C)に対する反応の予測にプロテオミクスを使用する可能性を探索した。本発明者らは、表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析法を用いて、AML患者の治療前の血漿におけるタンパク質プロファイルを解析し、これらのプロファイルを治療に対する反応の予測に使用した。
【0092】
テキサス大学M.D. Anderson癌センターで診察を受けたAMLと診断された患者90名から、最初の細胞傷害性療法の前に血漿試料を採取した。患者はランダムに選択した。40名の患者の試料を、モデルを構築するための試験セットにおいて使用した;残りの50名の患者の試料は、モデルの精度および有効性を試験するための検証セットにおいて使用した。診断は、形態学的解析、細胞化学的染色解析、免疫表現型解析(CD64、CD13、CD33、CD14、CD117、CD10、CD19、CD3、DR、およびTdt)、および表示の分子解析に基づいた。細胞遺伝学的解析もまた実施した。患者は、インフォームドコンセントに署名した後に、M.D. Anderson癌センターにおいて治験審査委員会の承認した臨床研究手順に従って治療を受けた。末梢静脈血試料10ミリリットルを滅菌EDTAチューブ中に回収した。冷却遠心機で1500 gで10分間遠心分離することにより血漿を分離し、-70℃で保存した。正常個体の血漿試料を各チップにおける対照として使用した。
【0093】
血漿タンパク質はまず濃縮し、強陰イオン交換樹脂を用いてpHに従って4つの異なる画分に分画した(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)。次いで、各画分を3つのアレイ上に固定化した:陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、および金属アフィニティーチップ(IMAC)。チップはCiphergenリーダーModel PBS IIで読み取った。患者40名に相当する血漿試料のスペクトルを各画分および表面から収集し(患者当たり全部で12スペクトル)、ピークを比較した。
【0094】
以下のアプローチを用いて、ピーク位置を抽出した。各表面および画分に関して、すべての生スペクトルを平均化した。これによってノイズが顕著に低減され、ピーク検出がより容易にかつより強力になった。このようにして、ピーク検出アルゴリズムを12の平均スペクトルに適用した。平均スペクトルにおける近傍の推定シグナル対ノイズ比(S/N)に関して、これらのピークを選別した。具体的には、本発明者らはS/N>5を使用した。
【0095】
画分内では、ピークの位置(質量値)は全スペクトルに関して同じである。種々のスペクトルにおいてピークの高さのみが変化した。全表面および画分によるピークの総数は1976であった。
【0096】
本発明者らは、整列不良の状況を検出するため、試験セットおよび検証セットによる多くの個々のスペクトル(および全12の表面-画分組み合わせの平均スペクトル)を検査した。整列化に問題はなく、したがって1976の位置で検証セットから抽出されたピーク高は試験セットと類似していた。各試料を二つ組みで解析したところ、凝集型クラスタリングアルゴリズムにより、複製試料が最近傍としてクラスター化することが示され、解析の再現性が確認された。
【0097】
患者の生存に影響する既知の変数には、細胞遺伝学、パフォーマンスステータス、および年齢が含まれる。予想通り、多変量モデリングによって、年齢、細胞遺伝学、およびパフォーマンスステータスが治療に対する反応の強力な予測因子であることが実証された。解析において検出されたタンパク質ピークの関連性を試験するため、本発明者らは、一度に1つのピークを基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加し、基本モデルおよび拡張モデルにANOVAを適用することによってp値を生成した。拡張モデルは、(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢+ピーク情報)(ピーク情報とは所与のピークからの情報である)である。
【0098】
本発明者らは、以下の変換ピーク値を基本モデルに付加した:
(i) logPk (1 d.o.f.)
(ii) logPk + (logPk)2 (2 d.o.f.)
(iii) Pk + Pk2 (2 d.o.f.)
(iv) Pk + logPk (2 d.o.f.)
【0099】
それぞれの場合について一連のp値を取得し、β-一様解析に使用した。(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の場合のβ-一様ミクスチャー解析による結果を、それぞれ図1、図2、図3、および図4に示す。p値の閾値は、偽発見率(FDR)を固定することによって、β-一様ミクスチャー解析の後に算出した。(i)の場合はFDRを0.2に設定し、(ii)、(iii)、および(iv)の場合はFDRを0.1に設定した。(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の場合の最も有意なピークを、それぞれ図5、図6、図7、および図8に示す。
【0100】
重要な問題は、反応を完全に予測するためには、いくつのピークを回帰モデルに含めるべきかである。結局は、本発明者らが試験した4つの異なる場合に関して、少数のピークで十分であることが判明する。基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)は、患者40名のうち31名において反応を正確に予測した。基本モデルでは、21名が反応なし(NR)および19名が完全な反応(CR)と予測された。これらのうち、偽NRが5例および偽CRが4例存在した。(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の場合に関して同定された最も有意なピークを付加することによって、基本モデルを拡張した。図5〜8のそれぞれにおいて、3列目に、それぞれ個々のピークを用いて拡張した基本モデルの偽予測(F.P.)数を示す。
【0101】
個々のピークをモデルに付加することに加えて、あらゆる可能なピーク対もまたまたモデルに付加した。(i)の場合、いずれのピーク対も、3未満の偽予測で治療に対する反応を予測し得なかった。しかし、(ii)、(iii)、および(iv)の場合、回帰モデルに付加した場合に、治療に対する反応を完全に予測し得るいくつかのピーク対が存在した。表6は、(ii)の場合の有意なピークを示す。(ii)の場合、42のピーク対が、基本モデルに付加された場合に反応を完全に予測し得た。例えば、表6の最初の2つのタンパク質ピーク(斜線部分)は、反応を完全に予測した対である。表7は、(iii)の場合の有意なピークを示す。(iii)の場合、89のピーク対が、基本モデルに付加された場合に反応を完全に予測し得た。例えば、表7の1つ目および3つ目のタンパク質ピーク(斜線部分)は、反応を完全に予測した対である。表8は、(iv)の場合の有意なピークを示す。(iv)の場合、52のピーク対が、基本モデルに付加された場合に反応を完全に予測し得た。例えば、表8の最初の2つのタンパク質ピーク(斜線部分)は、反応を完全に予測した対である。
【0102】
(表6)
【0103】
(表7)
【0104】
(表8)
【0105】
このデータから、プロテオミクスプロファイリングが、AML患者における臨床的挙動の予測に有用であることが示唆される。このアプローチは、特定の治療選択肢に関する患者の階層化に有用であると考えられる。
【0106】
実施例2
急性骨髄性白血病患者における反応から再発までの期間を予測するためのプロテオミクスの使用
本発明者らは、42名のAML患者および48名のAML患者から採取した血漿試料から生成されたスペクトルを加工した。各患者について、4つの異なる画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)、3つの表面(IMAC3-Cu++、SAX2、WCX2)、および二つ組の実験による24のスペクトルが存在する。
【0107】
第1スペクトルセット(42名の患者に由来する)は、2003年、2月後期に生成された。第2スペクトルセット(48名の対象に由来する)は、2003年、6月末に生成された。セット1の患者40名およびセット2の患者42名に相当する全スペクトルに、以下の解析を適用する。残りのスペクトルは、臨床情報が欠如しているために廃棄した。
【0108】
2つのセット間で治療に反応した患者は36名存在する(セット1による19名およびセット2による17名)。これらのうち、17名の患者(セット1の5名およびセット2の12名)が試験中に再発した。
【0109】
スペクトルを加工した後、本発明者らは1976のピークの高さを抽出した。各ピークについて、Coxモデルを適応させた:
h(t) = h0(t)exp(β・f(ピーク))
式中、h(t)は時間tにおけるハザードであり、h0(t)はベースラインハザードであり、f(ピーク)はピーク値のいくらかの変換である。2つの場合、f(ピーク)=ピークおよびf(ピーク)=logピークについて検討を行った。
【0110】
第1例:Coxモデルを適応させるためにピーク高を使用
1976のピークそれぞれにつき、Cox比例ハザードモデルを適応させた。結果として生じるp値を、β-一様ミクスチャー(BUM)を用いて解析した。図9はp値の分布を示す。表9は、有意性の順に(p値の昇順に)ピークを示す。表9の3列目は、このモデルにおけるピークのβ係数を示す。係数βが正値であることは、ピーク高の増加が再発の危険性の増加に対応することを意味する。
【0111】
(表9)最も有意なピーク、fdr=0.6
【0112】
第2例:Coxモデルを適応させるためにピーク高の対数を使用
この場合、Coxモデルにおいてf(ピーク)=logピークを使用した。図10は、Coxモデルを適応させた後に得られた1976のp値のBUM解析を示す。有意なピークが存在しないことが明白である。具体的には、1976例すべてを排除しないp値閾値を得るためには、FDR>0.999に設定しなければならない。
【0113】
実施例3
成人リンパ性白血病(ALL)における臨床的挙動のプロテオミクスに基づいた予測
小児リンパ性白血病(ALL)では長期無病生存率が90%達成され得るにもかかわらず、ALLを有する成人の長期生存率は不良である。ALLを有する成人の30%〜40%しか、治癒を期待することができない。再発するであろう成人患者の予測は、新規な治療アプローチの考案に役立つ可能性があり、おそらくより早い段階での治療の開始が可能になる。
【0114】
表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)およびCiphergen ProteinChip(登録商標)システムを用いて、未処置のALL患者の血漿におけるタンパク質プロファイルを研究し、臨床的挙動を予測するバイオマーカーを同定した。患者は、ALLと診断された患者の中から、テキサス大学M.D. Anderson癌センターにおいてランダムに選択した。診断は、形態学的解析、細胞化学的染色解析、免疫表現型解析(CD34、CD64、CD13、CD33、CD14、CD117、CD10、CD19、CD3、CD20、DR、およびTdT)、および表示の分子解析に基づいた。細胞遺伝学的解析もまた実施した。インフォームドコンセントを得てから、IRBの承認した臨床研究手順を行った。本研究における患者57名の特徴を表10に記載する。明らかに健常なボランティアを、各チップの対照として使用した。
【0115】
(表10)
【0116】
試料は、細胞傷害性療法を開始する前に採取した。全血を4℃で1500 gで10分間遠心分離することにより、EDTA血漿を得た。血漿は-70℃で保存した。血漿タンパク質は、まず、以下のように、強陰イオン交換カラムを使用してpHに基づき4つの画分に分画した;pH7+pH9+フロースルー、pH5、pH4、およびpH3+有機洗浄。それぞれの画分を3種のProteinChipアレイ表面に供した:固定化金属アフィニティー捕獲(IMAC3)、強陰イオン交換(SAX2)、および弱陽イオン交換(WCX2)。試料は2分割量に分けてから、8ウェルプレートにランダムに割り当てたが、各プレートには健常患者試料のプールに由来する対照を含めてあった。
【0117】
チップはCiphergen ProteinChip(登録商標)リーダー(シリーズPBS II)で読み取った。患者当たり24のスペクトル(4画分×二つ組での3アレイ)が得られた。ピークの検出は、CiphergenExpress 3.0(Ciphergen Biosystems, Inc.)を用いて行った。スペクトルは、2000〜160,000 m/zの間で全イオン電流に対して標準化した。このソフトウェアは、所与のシグナル対ノイズ比を超え、かつ複数のスペクトル中に存在するピークを決定することによって、クラスターを算出する。ノイズ減算、ピーク検出、およびクラスター完了の種々の設定を評価した。選択した最終設定は製造供給元の初期設定と類似しており、一次通過ピーク検出はピークおよび谷間の両方におけるシグナル対ノイズ5.0であり、クラスター完了域はピーク幅の1.0倍であり、さらに二次通過シグナル対ノイズ設定はピークおよび谷間の両方に関して2.0であった。ピークは、2000〜200,000 m/zの間で同定された。
【0118】
自動ピーク検出と手動ピーク検出を比較するため、12のチップ種のうちの2つを徹底的に解析した(IMAC3 pH3およびWCX2 pH9)。ピークは手動で検出し、次いでその結果をMatlab(MathWorks、マサチューセッツ州、ネイティック)で解析し、続いてBiomarker Patterns Software(Ciphergen Biosystems, Inc.)で実行されるCARTソフトウェアを用いて決定木解析を行った。手動ピーク同定と自動ピーク同定の間にわずかな実質的な相違が検出され、そのためその後の研究には自動ピーク検出を使用した。
【0119】
固有の機器変動を低減するための標準化を介する種々のアプローチを調べる目的で、さらなる解析を行った。標準化因子として全イオン電流を使用することはSELDIデータ解析における一般的方法であるが、この限定された標準化では、質量分析法に共通に見られる他の混乱させる変化を適切に除去し得ない。相互に近接したピークの比は、全イオン電流のみを使用する標準化よりも再現性がある可能性が高いと仮定した。このピーク比アプローチは、おそらくは翻訳後修飾をより効率的に検出するさらなる利点を有する(例えば、所与の濃度のペプチドの一定の割合がリン酸化され、+80ダルトン上昇して異なるピークに移動すると、非リン酸化ペプチドを示すピークを犠牲にしてこのピークの強度が上昇する)。そのため、各ピークの上流および下流の5ピーク以内のピークの比を算出し、これらの値もまた決定木解析に含めた。
【0120】
比の使用が固有の変動を増減させる可能性があるかどうかを判定するため、以下の解析を行った。2つの患者複製物(個々のスペクトルを有する分割量)の、WCX2 pH9画分における全117ピークに関するそれぞれのピーク値を、Matlabに読み込んだ。各患者試料の複製物間の各ピーク値のCVを、各ピークの平均CVと共に記録した。次いで、全ピークの全体平均CVを計算した。外れ値の影響を制限するため、計算には平均CVを使用した。この工程を以下の8つの他のアプローチで繰り返した:2) スペクトルにおける全イオン電流で各ピークを割る;3) スペクトルにわたる平均ピーク強度値で各ピークを割る;4) 最近傍で各ピークを割って比を算出する;5) 右側の2番目の最近傍(より高いm/z値)で各ピークを割った比;6) 3番目の最近傍で各ピークを割る;7) 4番目の最近傍で各ピークを割る;8) 5番目の最近傍で各ピークを割る;および9) 最も近接した6つのピーク値(それぞれの側に3つ)の平均値でを割る。
【0121】
12の画分種のそれぞれについて、全観測変数(臨床転帰、患者人口統計、および細胞解析)および全ピーク間で相関行列を計算した。各画分種においてそれぞれの観測変数に適合した最も低いp値曲線を有する上位16のピークをプロットするように、Matlabでプログラムを書いた。次いで、これらのプロットを、質量分析ピークと観測変数との間の相関に関して手動で調べた。
【0122】
決定木アルゴリズム(CiphergenによりBiomarker Patterns Software 4.0で実行される、Salford SystemsのCARTソフトウェア)を用いて、応答者および非応答者の予測に有用なピークを同定した。細胞解析による観測変数を、ピーク値および近傍(上方または下方の5ピーク内)のピーク比と共に変数として含めた。決定木を使用する場合、過剰適合が起こらないように注意しなければならない(Wiemer and Prokudin 2004)。過剰適合を制限するために、2つのレベルのみを許容したが、このことは、モデルが、全ピーク値および全観測変数の一組のうち多くても2つの変数からのみなり得ることを意味する。
【0123】
12の画分種にわたって全部で953のピークが検出された。各画分種において検出されたピーク数を表11に示す。全画分による再発に関する最も強力な予測因子を表12に示す。
【0124】
(表11)
【0125】
(表12)
【0126】
種々のピーク標準化アプローチを用いた、WCX2 pH9画分による患者試料複製物の平均変動係数を図13に示す。
【0127】
(表13)
【0128】
近傍ピークの比を用いることで可能な変数の数は増加し、よってこのアプローチを使用する場合には、過剰適合を避けるように注意すべきである。しかし、比アプローチは、例えば、翻訳後修飾によるシフトまたはタンパク質の選択的スプライス変種など、2つのピークが関わる生物学的影響を同定するのに有用であり得る。標準化しない場合、反復患者試料の平均変動係数は9.8パーセントであった。全イオン電流で割った場合には、複製物間の変動は実際に11.5パーセントに上昇した。スペクトル中の全ピークによる平均ピーク強度で割って標準化しても、やはり変動はわずかに上昇した。変動を低減した唯一の標準化アプローチは、最も近接した6つのピークの平均で割ることであった。近傍ピークを用いて比を算出したところ、複製物の変動は10〜14.5パーセントに上昇した。比の算出においてピークが離れるほど、複製物間の変動の上昇は大きくなった。
【0129】
2名を除いたすべての患者が応答を達成した(96%)。55名のうち13名(24%)がこれらの患者の解析時に再発し、追跡期間中央値は71週(2〜193週の範囲)であった。大部分の患者(58%)はL2として分類され、10%はL3(バーキット)を有すると分類された。
【0130】
再発を予測するため、再発と12の画分/表面種のそれぞれのピーク強度との間の相関を評価した。pH9での弱陽イオン交換(WCX2)が、最多数のピークおよび有意なp値でのピーク比を有した(表11)。再発状態に対して最も低いp値を有する20ピークのうち13が、WCX2 pH9に由来した。
【0131】
最初に全ピーク値を用いて、次いで近傍ピーク比を用いて、決定木解析を実行した。決定木には、細胞遺伝学、WBC、末梢血芽球の割合、LDH、クレアチン、血小板、HGB、リンパ球の割合、およびβ-2ミクログロブリンをはじめとする他の検査特徴も組み入れた。過剰適合を制限するための2レベルのみの決定木解析により、いくつかのモデルを作成した。これらのモデルのうち3つを図11A〜11Cに示す。
【0132】
第1のモデルでは、試料の33%の試験セットにおいて、WCX2 pH9画分のm/z 162,503および10,430における2つのピークにより、92%の症例で再発(陽性予測)を正しく、および72%の症例で非再発(陰性予測)を正しく予測し得た(図11A)。第2のモデルでは(図11B)、試験セットとして33%の症例を用いたが、WCX2 pH9画分のm/z 10,214および85,770における2つのピークを使用することで、陽性予測は84%であり、陰性予測は72%であった。第3のモデルでは、再発の陽性予測は非常に強力であったが(92%)、陰性予測は弱かった(図11C)。このモデルでは、末梢血中の芽球の割合と共に、7728および14630における2つのWCX2 pH9画分ピークの相対比を使用した。
【0133】
主要な検査情報と個々のピーク強度との間の任意の相関の存在を、全12画分について調べた。これには、WBC、HGB、クレアチン、LDH、ならびに末梢血および骨髄中の芽球、リンパ球、および単球の存在が含まれた。大部分の検査変数とピークまたはピーク比には、強力な相関関係はほとんど認められなかった。しかし、血小板数は、全12画分を通して種々のピークと一貫して良好に相関し、最も強力な相関はWCX2 pH9画分においてであった。12の画分種における953ピークのうち、血小板数と.001よりも良好なp値相関を有したピークは90存在した。表14に、これら953ピークのうち、最も高度に相関する20のピークをp値により示す。図12に、最も高度に相関する2つのピーク値に関する、ピーク強度と血小板数の間の散布図を示す。
【0134】
(表14)
【0135】
成人ALLにおいて予想される通り、大部分の患者は形態に基づきL2またはL1として分類され、10%のみがL3として分類された。L1とL2の識別は主観的であり、実際に重要な臨床的価値はないため、L1およびL2の症例は同じと見なし、L3群と比較した。L3群の識別は、その特有の臨床経過から重要である。末梢血血漿のプロテオミクスを使用して、L1/L2群とL3群を識別し得る特定のピークを同定した。m/z 14,715および10,214における2つのWCX pH9画分を用いて、2つのピークに限定したモデルが開発された(図13)。試験セットを使用して(V重交差検証として)、本発明者らは、94%の症例でL1/L2群を、および80%の症例でL3群を明確に予測し得た。このデータから、決定木解析を使用することで、プロテオミクスピークがこれらの2つの群を識別し得ることが示唆される。
【0136】
本明細書に示したデータにより、白血病のプロテオミクス解析への末梢血血漿の使用が支持され、またプロテオミクスアプローチが、白血病患者の臨床管理において用いられるべき臨床的に有用なバイオマーカーを開発する有効なアプローチを表すことが実証される。またこの解析から、疾患進行の予測における、質量分析法によって測定されるデータと臨床的に観察される変数との組み合わせの高まりつつある今後の役割が示される。
【0137】
本明細書で開示され請求される方法および組成物はすべて、本開示の観点から、過度に実験することなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載したが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した方法および組成物、ならびに方法の段階または方法の段階の順序に変更がなされ得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、本明細書に記載した物質の代わりに、化学的および生理学的に関連する特定の物質を代用し得て、同じまたは類似した結果が得られることは明白であろう。当業者にとって明白であるこのような類似の代用品および変更はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると見なされる。
【0138】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の補足または他の詳細な補足を、本明細書に記載したものに提供する範囲内において、参照として本明細書に明確に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
添付の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含めるものである。本明細書に示した特定の態様の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、本発明をより良く理解できる。
【図1】変換ピーク値(logピーク)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図1Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図1Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.005を有して有意に増加することを示す。図1Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図1Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図2】変換ピーク値(logピーク+(logピーク)2)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図2Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図2Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.005を有して有意に増加することを示す。図2Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図2Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図3】変換ピーク値(ピーク+ピーク2)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図3Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図3Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.01を有して有意に増加することを示す。図3Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図3Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図4】変換ピーク値(logピーク+ピーク)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図4Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図4Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.01を有して有意に増加することを示す。図4Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図4Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図5】AML患者における治療に対する反応を予測するための(logピーク)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.2に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図6】AML患者における治療に対する反応を予測するための(logピーク+(logピーク)2)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.1に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図7】AML患者における治療に対する反応を予測するための(ピーク+ピーク2)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.1に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図8】AML患者における治療に対する反応を予測するための(ピーク+logピーク)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.1に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図9】変換ピーク値(ピーク)をCoxモデルに付加して、AML患者における反応から再発までの期間を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図9Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図9Bは、(反応を予測する)偽陽性がP値を有して有意に増加することを示す。図9Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図9Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図10】変換ピーク値(logピーク)をCoxモデルに付加して、AML患者における反応から再発までの期間を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図10Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。図10Bは、(反応を予測する)偽陽性を示す。図10Cに、事後確率とp値の関係を示す。図10Dは、Y軸に感度を示し、X軸に特異度を示した、受信者動作特性(ROC)曲線を示す。図10A〜Dから、有意なピークが存在しないことが明白である。
【図11】ALL患者における再発を予測するための3つの決定木を示す。
【図12】血小板数と最も高度に相関する2つのピークの、ピーク強度と血小板数との間の散布図を示す。
【図13】ALL患者においてL3サブタイプを予測するための決定木を示す。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は、一般にプロテオミクスの分野に関する。より詳細には、本発明は、血液悪性腫瘍の診断および予後診断のためのプロテオミクスの使用に関する。また、本発明は、治療に対する反応の予測および治療に関する患者の階層化に関する。
【0002】
本出願は、2004年4月20日に出願した米国仮特許出願第60/563,873号の優先権を主張する。上記の開示は全文とも、権利放棄することなく参照として本明細書に明確に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
血液悪性腫瘍とは、白血病およびリンパ腫をはじめとする、血液および骨髄の癌である。白血病は、白血球の異常な増殖を特徴とする悪性腫瘍であり、癌の4つの主要な種類のうちの1つである。米国では、毎年約29,000人の成人および2,000人の小児が白血病と診断される。白血病は、最も顕著に関与する白血球の種類に従って分類される。急性白血病は主に未分化細胞集団であり、慢性白血病はより成熟した細胞形態を有する。
【0004】
急性白血病は、リンパ芽球型(ALL)と非リンパ芽球型(ANLL)に分類され、フランス-アメリカ-イギリス分類に従ってまたは分化の種類および程度に従って、形態学的および細胞化学的外観によりさらに細分化され得る。特定のB細胞およびT細胞ならびに骨髄細胞表面マーカー/抗原もまた、分類に使用される。ALLは主に小児疾患であり、急性骨髄性白血病(AML)としても知られるANLLは、成人に好発する急性白血病である。
【0005】
慢性白血病は、リンパ球型(CLL)と骨髄型(CML)に分類される。CLLは、血液、骨髄、およびリンパ器官中の成熟リンパ球数の増加を特徴とする。大部分のCLL患者は、B細胞の特徴を有するリンパ球のクローン性増殖を有する。CLLは高齢者の疾患である。CMLでは、すべての分化段階にある顆粒球細胞が血液および骨髄中で優位を占めるが、これはまた肝臓、脾臓、および他の器官を冒す場合もある。
【0006】
白血病患者によって、様々な生存期間および治療に対する反応によって反映される、非常に多様な臨床経過が起こり得る。信頼できる個々の予後ツールは、現段階では限られている。プロテオミクス技術の進歩により、白血病などの血液悪性腫瘍の新たな診断および予後指標が提供され得る。
【0007】
「プロテオーム」という用語は、ゲノムによって発現される全タンパク質を指し、したがってプロテオミクスは、体内におけるタンパク質の同定、ならびに生理的および病態生理学的な機能におけるそれらの役割の決定を含む。ヒトゲノムプロジェクトで決定された〜30,000個の遺伝子は、選択的スプライシングおよび翻訳後修飾を考慮すると300,000〜100万個のタンパク質に翻訳される。ゲノムは多くの場合変化しないままであるが、任意の特定の細胞中のタンパク質は、遺伝子が環境に応じて発現および抑制されることで劇的に変化する。
【0008】
プロテオームの動的な性質を反映して、特定の細胞によって1つの時間枠内で産生されるすべてのタンパク質を表現するために、「機能プロテオーム」という用語を使用することを好む研究者もいる。究極的には、プロテオミクスにより、新しい疾患マーカーおよび薬剤標的が同定され得ると考えられている。
【0009】
プロテオミクスは、これまでにも白血病の研究において用いられてきた。例えば、ALL患者のリンパ芽球に由来するタンパク質の二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2-D PAGE)を用いて、ALLの主要なサブグループを識別し得るポリペプチドが同定された(Hanash et al., 1986(非特許文献1))。2-D PAGEを用いたALLの他の研究では、乳児と年長児の間で、その他の点では細胞表面マーカーは同様であるものの、1つのポリペプチドのレベルが異なることが確認された(Hanash et al., 1989(非特許文献2))。Vossらは、生存期間の短いB-CLL患者集団では、単核細胞から調製したタンパク質の2-D PAGEによって決定される、酸化還元酵素、Hsp27、およびタンパク質ジスルフィドイソメラーゼのレベルに変化が示されることを実証した(Voss et al., 2001(非特許文献3))。
【0010】
これらの研究が示すように、プロテオミクスは血液悪性腫瘍の研究において有用な手段となり得る。しかし、当技術分野において現在利用できるものよりもより信頼できかつ単純なプロテオミクス技法が必要である。
【0011】
【非特許文献1】Hanash et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83(3):807-811, 1986
【非特許文献2】Hanash et al., Blood, 73(2):527-532, 1989
【非特許文献3】Voss et al., Int. J. Cancer, 91(2):180-186, 2001
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明は、血液悪性腫瘍の診断、ならびに患者の臨床的挙動および治療に対する反応の予測のために使用し得るプロファイルを、血漿プロテオミクスを使用して作成する新規なアプローチを提供する。
【0013】
1つの態様において、本発明は、血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;血漿試料からタンパク質スペクトルを生成する段階;タンパク質スペクトルを、血液悪性腫瘍に関する患者の臨床データと比較する段階;臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および血液悪性腫瘍を診断するため、または血液悪性腫瘍の予後を決定するために使用し得るタンパク質プロファイルを、同定したタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群に基づいて作成する段階を含む、血液悪性腫瘍の診断または予後タンパク質プロファイルを作成する方法を提供する。
【0014】
好ましい態様において、タンパク質スペクトルは質量分析法によって生成される。質量分析法は、例えば、SELDI(表面増強レーザー脱離/イオン化)、MALDI(マトリックス支援脱離/イオン化)、またはタンデム質量分析法(MS/MS)であってよい。本発明の他の態様において、タンパク質スペクトルは二次元ゲル電気泳動によって生成される。特定の局面において、タンパク質試料は、質量分析解析または二次元ゲル電気泳動の前に分画される。分画は、pH、大きさ、構造、または結合親和性などの種々の特性に従い得る。1つの局面において、血漿タンパク質は、強陰イオン交換カラムを用いてpHに従って4つの異なる画分に分画される(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)。
【0015】
特定の局面において、臨床データと相関するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、一変量統計、多変量統計、または階層的クラスター分析によって同定される。好ましい態様において、臨床データと相関するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、β-一様ミクスチャー解析(beta-uniform mixture analysis)、遺伝的アルゴリズム、一変量統計、および/または多変量統計と共に相関統計を用いて同定される。他の好ましい態様において、臨床データと相関するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、決定木アルゴリズムを用いて同定される。本発明のいくつかの態様において、臨床データは、細胞遺伝学、年齢、パフォーマンスステータス(performance status)、治療に対する反応、治療の種類、進行、無再発生存率、反応から再発までの期間、および生存期間の1つまたは複数を含む。
【0016】
好ましい態様においては、タンパク質プロファイルを用いて、血液悪性腫瘍を診断する;血液悪性腫瘍の種類を分類する;薬物治療に対する患者の反応を予測する;患者の生存期間を予測する;または患者の反応から再発までの期間を予測する。特定の態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。
【0017】
別の態様において、本発明は、患者から血漿試料を採取する段階;治療に対する反応に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および治療に対する患者の反応を予測する段階を含む、血液悪性腫瘍患者における治療に対する反応を予測する方法を提供する。好ましい態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。
【0018】
本方法を用いて、治療に対する患者の反応を、治療を開始する前、治療中、または治療が完了した後に予測することができる。例えば、治療を開始する前に治療に対する患者の反応を予測することにより、この情報を患者にとって最良の治療選択肢を決定する際に使用することができる。
【0019】
本発明の1つの局面において、タンパク質マーカーはピークである。ピークは質量分析法により生成される。質量分析法は、例えば、SELDI、MALDI、またはMS/MSであってよい。本発明の別の局面において、タンパク質マーカーはスポットである。好ましい態様において、スポットは二次元ゲル電気泳動により生成される。
【0020】
本発明の特定の態様において、治療は、化学療法、免疫療法、抗体に基づく療法、放射線療法、または支持療法(白血病に対して実施される本質的に任意のもの)である。いくつかの態様において、化学療法はグリベック(Gleevac)またはイダルビシン(idarubicin)およびara-Cである。
【0021】
いくつかの態様において、AML患者における特定の治療に対する反応に関連するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表1に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク1〜ピーク17の1つまたは複数である。1つの態様において、AML患者における特定の治療に対する反応に関連するタンパク質マーカー群は、ピーク1およびピーク2を含む。
【0022】
(表1)AML患者における治療に対する反応に関連する、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
表面/画分は、タンパク質スペクトルが生成された際の表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))、および画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)を示す。
【0023】
1つの態様において、本発明は、患者から血漿試料を採取する段階;再発までの期間に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および患者の再発までの期間を予測する段階を含む、血液悪性腫瘍患者における再発までの期間を予測する方法を提供する。好ましい態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。
【0024】
本発明の1つの局面において、タンパク質マーカーはピークである。ピークは質量分析法により生成される。好ましくは、ピークはSELDI質量分析法により生成される。本発明の別の局面において、タンパク質マーカーはスポットである。好ましい態様において、スポットは二次元ゲル電気泳動により生成される。
【0025】
好ましい態様において、AML患者におけるイダルビシンおよびara-Cに対する反応から再発までの期間に関連するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表2に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク18〜ピーク29の1つまたは複数である。
【0026】
(表2)AML患者における治療に対する反応から再発までの期間に関連する、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
表面/画分は、タンパク質スペクトルが生成された際の表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))、および画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)を示す。
【0027】
好ましい態様において、ALL患者における再発に関連するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表3に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク30〜ピーク49の1つまたは複数である。
【0028】
(表3)ALL患者における再発の最も強力な予測因子である、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
【0029】
好ましい態様において、L1/L2 ALL患者とL3 ALL患者とを識別するタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群は、以下の表4に定義される、SELDI質量分析法によって生成されるピーク50〜ピーク69の1つまたは複数である。
【0030】
(表4)L1/L2 ALLとL3 ALLの最も強力な識別因子である、SELDI-TOF MSによって生成されるタンパク質ピーク
【0031】
当業者であれば、本明細書に記載のタンパク質マーカーによって示されるタンパク質、または本明細書に記載の方法によって明らかにされるタンパク質マーカーの明確な同一性が、診断または予後タンパク質プロファイルを作成または利用するのに必要ではないことを理解すると考えられる。タンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群の有無またはレベルの増減を用いて、そのタンパク質が何であるかという知識なしに、診断または予後タンパク質プロファイルを作成または利用することができる。例えば、パターン内のタンパク質マーカーの明確な同一性を知る必要なしに、タンパク質マーカー群のパターンに基づいて、診断または予後タンパク質プロファイルを作成または利用することができる。
【0032】
別の態様において、本発明は、患者から骨髄穿刺液試料を採取する段階;治療に対する反応に関連する、試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および治療に対する患者の反応を予測する段階を含む、血液悪性腫瘍患者における治療に対する反応を予測する方法を提供する。好ましい態様において、血液悪性腫瘍は、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である。白血病は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、または慢性リンパ性白血病(CLL)であってよい。本発明の1つの局面において、白血病はCMLである。
【0033】
特定の局面において、本発明のタンパク質マーカーは、P52rIPK相同体、フォリスタチン関連タンパク質1前駆体、アネキシンA10、アネキシン14、腫瘍壊死因子受容体サブファミリーメンバーXEDAR、ジンクフィンガータンパク質、CD38 ADP-リボシルシクラーゼ1、結合組織増殖因子、CD28、Bcl2関連卵巣キラー、腫瘍壊死因子受容体サブファミリーメンバー10D、X連鎖エクトジスプラシン受容体、エクトジスプラシンA2アイソフォーム受容体、または第21染色体オープンリーディングフレーム63であってよい。
【0034】
本明細書に記載の方法または組成物はいずれも、本明細書に記載するその他の任意の方法または組成物に関して実行できることが意図される。
【0035】
特許請求項における「または」という用語の使用は、代用物のみを指すと明確に示しているか、または代用物が相互に排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は、代用物のみおよび「および/または」を指すという定義を支持する。
【0036】
本出願を通して、「約」という用語は、その値を決定するために使用した装置または方法に関する誤差の標準偏差を含む値を示すために用いられる。
【0037】
長年にわたる特許法に従って、「1つの(a、an)」という語は、特許請求の範囲または明細書において「含む」という語に関連して用いる場合、特記する場合を除いて1つまたは複数を表す。
【0038】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになると思われる。しかし、当業者にはこの詳細な説明から本発明の精神および範囲内の様々な変更および修正が明白となることから、詳細な説明および具体例は、本発明の具体的態様を示すものではあるが、単に例証のために提供されることが理解されるべきである。
【0039】
例証的態様の説明
A. 本発明
血液悪性腫瘍患者においては、様々な生存期間および治療に対する反応によって反映される、非常に多様な臨床経過が起こり得る。患者が患っている血液悪性腫瘍の種類に応じて、治療は、放射線照射、化学療法、骨髄移植、生物学的療法、またはこれらの治療のいくつかの組み合わせを含み得る。それ故、異なる悪性腫瘍は特定の治療に対して異なって反応することから、どの治療選択肢を遂行するかを決定する上で、患者の血液悪性腫瘍を正確に診断することは重要である。血液悪性腫瘍の特定の形態内でさえ(例えば、AML、ALL、CML、CLL)、患者間には治療に対する反応に顕著な変動がある。例えば、急性骨髄性白血病(AML)では、標準的な化学療法(イダルビシン+ara-C)に対する反応は患者間で顕著に異なり、約50%の患者は治療に反応しない。-5、-7、および11 q異常などのAML患者における特定の細胞遺伝学的異常、またはパフォーマンスステータス不良および高齢は、治療に対する反応不良と関連があることが知られているが、治療に対する反応の正確な予測は依然としてわかりにくい。血液悪性腫瘍患者における臨床的挙動を正確に診断および予測する能力は、治療選択肢に関する患者の階層化を可能にし得る。
【0040】
血液悪性腫瘍患者における診断または臨床的挙動を決定する現行法は信頼しがたく、典型的に1つの分子に依存している。本発明により、何千ものタンパク質を同時に評価し、それらのタンパク質から、血液悪性腫瘍患者における臨床的挙動を診断または予測するために使用し得るタンパク質プロファイルを作成することが可能になる。さらに、本発明はプロテオミクスを血漿と併用する。血漿は採取が容易であり、最も複雑なヒト由来プロテオームを提供し、血液悪性腫瘍のプロテオミクス研究では細胞および血清よりも優れている。
【0041】
本発明は、血液悪性腫瘍患者における診断および臨床的挙動の予測が、血漿試料中に存在するタンパク質の解析によって達成され得ることを実証する。したがって、特定の態様において、本発明では血漿を使用して血液悪性腫瘍の診断または予後タンパク質プロファイルを作成し、これは、血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;血漿試料からタンパク質スペクトルを生成する段階;タンパク質スペクトルを臨床データと比較する段階;および臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーを同定する段階を含む。次いで、このアプローチによって同定されたタンパク質マーカーを用いて、血液悪性腫瘍の診断または血液悪性腫瘍の予後の決定に使用し得るタンパク質プロファイルを作成することができる。いくつかの態様において、タンパク質マーカーは、血液悪性腫瘍患者のタンパク質プロファイルを、非罹患個体のタンパク質プロファイルと比較することによって同定され得る。
【0042】
本発明の方法を使用することで、当業者は、血液悪性腫瘍を正確に診断し得る、治療に対する患者の反応を予測し得る、患者の再発までの期間を予測し得る、および患者の生存期間を予測し得るタンパク質マーカーを同定することができるようになる。さらに、本発明は、AML患者における治療に対する反応を正確に予測することが示されたいくつかのタンパク質マーカー、およびAML患者における再発までの期間を正確に予測することが示されたいくつかのタンパク質マーカーを提供する。
【0043】
B. 血清プロテオーム
血清は採取が容易であり、他の組織プロテオームをサブセットとして含む最も複雑なヒト由来プロテオームを提供する。血漿のタンパク質内容物は以下の群に分類され得る:固体組織によって分泌され、血漿中で作用するタンパク質;免疫グロブリン;「長距離」受容体リガンド;「局所的」受容体リガンド、一時的パッセンジャー;組織漏出産物;癌細胞および他の罹患細胞からの異常な分泌物;および外来タンパク質(Anderson and Anderson, 2002)。
【0044】
脳脊髄液、滑液、および尿をはじめとする他の体液は、血漿とタンパク質内容物をいくらか共有する。しかしながら、これらの試料は実用的な状況での採取が血漿よりも困難である。例えば、脳脊髄液および滑液の採取は、痛みといくらかの危険性を伴い得る侵襲的手順であり、一方、尿をタンパク質解析に有用な試料に加工することは、臨床設定において困難であることが多い。しかし、血漿は静脈穿刺よって容易に採取することができる。例えば、静脈血試料を採取し、滅菌エチレンジアミン四酢酸(EDTA)チューブ中に回収することができる。次いで、遠心分離によって血漿を分離することができる。必要に応じて、後に解析するために血漿は-70℃で保存してもよい。
【0045】
血漿中のタンパク質の特徴づけは、多量のアルブミンが存在するため、および他のタンパク質の存在量が広範囲であるために、困難である。しかし、本発明により、プロテオミクスを血漿と併用することで、血液悪性腫瘍を診断するため、および血液悪性腫瘍患者における臨床的挙動を予測するための信頼できるアプローチを提供し得ることが示される。
【0046】
C. タンパク質解析
本発明では、血漿からタンパク質を分離する方法を使用する。タンパク質を分離する方法は当業者に周知であり、これには、これらに限定されるわけではないが、種々の種類のクロマトグラフィー(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逐次抽出、高速液体クロマトグラフィー)および質量分析法が含まれる。血漿試料中のタンパク質を分離および検出することで、その試料のタンパク質スペクトルが生成される。
【0047】
1. 質量分析法
好ましい態様において、本発明では質量分析法を使用する。質量分析法は、真空中で分子をイオン化し、揮発によってそれらを「飛行」させることで個々の分子を「計量する」手段を提供する。電場および磁場の組み合わせの影響を受けて、イオンは個々の質量(m)および電荷(z)に応じた軌道をたどる。質量分析法(MS)は、その極めて高い選択性および感度から、医薬品、代謝産物、ペプチド、およびタンパク質をはじめとする幅広い生物分析物を定量化するための強力な手段となっている。
【0048】
本発明において特に関心対象となるのは、表面増強レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF MS)である。総タンパク質は、MALDI-TOF(マトリックス支援脱離イオン化-飛行時間型)質量分析法の変種であるSELDI-TOF MSにより解析することができる。SELDI-TOF MSでは、試料の複雑性を軽減するために、タンパク質親和性特性に基づいた分画が用いられる。例えば、疎水性、親水性、陰イオン交換、陽イオン交換、および固定化金属アフィニティー表面を用いて、試料が分画され得る。次いで、表面に選択的に結合するタンパク質にレーザーが照射される。レーザーは接着タンパク質を脱離させて、それらをイオンとして放つ。電極によって検出されるまでのイオンの「飛行時間」が、イオンの質量対電荷比(m/z)の尺度である。タンパク質解析のためのSELDI-TOF MSアプローチは、商業的に実行されている(例えば、Ciphergen)。
【0049】
2. 二次元電気泳動
特定の態様において、本発明では、血漿などの生物試料からタンパク質を分離するために、高分解能電気泳動を使用する。好ましくは、二次元ゲル電気泳動を用いて、試料に由来するタンパク質のスポットの二次元アレイが生成される。
【0050】
二次元電気泳動は、分子の複雑な混合物を分離する有用な技法であり、一次元分離で得られる分解能よりもはるかに高い分解能が提供される場合が多い。二次元ゲル電気泳動は、当技術分野において周知の方法を用いて行うことができる(例えば、米国特許第5,534,121号および第6,398,933号を参照されたい)。典型的には、試料中のタンパク質は、例えば等電点電気泳動によって分離され、その間に試料中のタンパク質は、正味の電荷がゼロになる点(すなわち、等電点)に到達するまで、pH勾配中で分離される。この一次分離段階によって、タンパク質の一次元アレイが生じる。一次元アレイ中のタンパク質は、一般に一次分離段階に用いられた技法とは異なる技法を用いてさらに分離される。例えば、二次元目では、等電点電気泳動によって分離されたタンパク質は、ドデシル硫酸ナトリウムの存在下におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)などのポリアクリルアミドゲルを用いてさらに分離される。SDS-PAGEゲルにより、タンパク質の分子量に基づいたさらなる分離が可能になる。
【0051】
二次元アレイ中のタンパク質は、当技術分野において周知の任意の適切な方法を用いて検出され得る。タンパク質の染色は、比色色素(クマシー)、銀染色、および蛍光染色(Ruby Red)を用いて達成され得る。当業者に周知であるように、生成されたスポット/またはタンパク質プロファイリングパターンは、例えば気相イオン分光法によってさらに解析され得る。タンパク質をゲルから切り出し、気相イオン分光法によって解析することができる。または、タンパク質を含むゲルを、電場をかけることによって不活性膜に転写することができ、マーカーの分子量にほぼ相当する膜上のスポットを気相イオン分光法により解析することができる。
【0052】
3. その他のタンパク質解析方法
上記の方法に加えて、当業者に周知であるその他のタンパク質分離方法も、本発明の実施に有用であり得る。タンパク質解析の方法は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0053】
a. クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは、電荷、大きさ、形状、および溶解度に基づいて有機化合物を分離するために用いられる。クロマトグラフィーは、移動相(溶媒および分離される分子)、およびその中を移動相が移動する、紙(ペーパークロマトグラフィーにおける)または樹脂と称されるガラスビーズ(カラムクロマトグラフィーにおける)のいずれかである固定相からなる。分子は、化学的性質のために、異なる速度で固定相中を移動する。本発明で使用され得るクロマトグラフィーの種類には、これらに限定されるわけではないが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、および逆相クロマトグラフィー(RP)が含まれる。その他の種類のクロマトグラフィーには以下のものが含まれる:吸着、分配、アフィニティー、ゲル濾過、および分子ふるい、ならびにカラム、ペーパー、薄層、およびガスクロマトグラフィーを含む、それらを使用するための多くの特殊化した技法(Freifelder, 1982)。
【0054】
i. 高速液体クロマトグラフィー
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は逆相と類似しており、この方法でのみ、高速および高い圧力滴下で工程が行われる。カラムはより短く、小口径を有するが、多数の平衡状態を保有するのに匹敵する。
【0055】
他の種類のクロマトグラフィー(例えば、ペーパーおよび薄層)も存在するが、クロマトグラフィーの大部分の適用ではカラムを使用する。カラムは実際の分離が行われる場所である。カラムは通常、そこに加えられ得る圧力に耐えるのに十分な強度のガラスまたは金属管である。カラムは固定相を含む。移動相はカラム内を移動し、固定相に吸着される。カラムは充填ベッドであっても、開管カラムであってもよい。充填ベッドカラムは、粒状形態であり、均一なベッドとしてカラム内に充填された固定相からなる。固定相はカラムを完全に満たしている。開菅カラムの固定相は、カラム壁上の薄膜または薄層である。カラムの中央を貫く通路が存在する。
【0056】
移動相は、試料が注入される溶媒からなる。溶媒と試料はカラム内を同時に流れる;したがって、移動相は「担体液」と称される場合が多い。固定相は、カラム内の材料であり、分離される成分はこれと様々な親和性を有する。移動相および固定相を構成する材料は、実施するクロマトグラフィー工程の一般的形式に応じて変動する。液体クロマトグラフィーにおける移動相は、固定相ベッド中を流れる低粘性の液体である。このベッドは、多孔性支持体上に被覆された非混和液、吸着剤の表面に結合された液相の薄膜、または規定された孔サイズの吸着剤からなり得る。
【0057】
高速クロマトフォーカシング(HPCF)により、タンパク質分離の一次元目としての液体pI画分、およびその後の二次元目としての各pI画分の高分解能逆相(RP)HPLCがもたらされる。タンパク質はここで(ゲルのように)マッピングされるが、液体画分は(ゲルとは異なり)、タンパク質消化に頼ることなくより選択的な基準で詳細に原型タンパク質を特徴づけるおよび同定するための質量分析法(MS)との簡便な接点になる。
【0058】
ii. 逆相クロマトグラフィー
逆相クロマトグラフィー(RPC)は、親水性溶媒と親油性溶媒との間で試料を分配させることによって、試料の溶解度特性を利用する。二相間での試料成分の分配は、それぞれの溶解度特性に依存する。疎水性の低い成分は最後には主に親水性相に行き、より疎水性の高い成分は親油性相で見出される。RPCでは、化学結合した炭化水素鎖(2〜18炭素)で被覆したシリカ粒子が親油性相を表し、粒子周囲の有機溶媒の水性混合液が親水性相を表す。
【0059】
試料成分がRPCカラムを通過する際には、分配機構が連続して機能する。溶離液の抽出力に応じて、試料成分のより多くの部分またはより少ない部分が、この場合固定相と称される粒子の脂質層によって可逆的に保持されることになる。脂質層に多くの画分が保持されるほど、試料成分はよりゆっくりとカラムを下降する。移動相は固定相よりも親水性が高いため、親水性成分は疎水性成分よりも速く移動する。
【0060】
化合物は高水性移動相中で逆相HPLCカラムに固着し、高有機移動相でRP HPLCカラムから溶出される。RP HPLCでは、化合物はその疎水性特性に基づいて分離される。ペプチドは、有機溶媒の直線勾配を流すことによって分離され得る。
【0061】
分配機構と共に、吸着も移動相と固体相の間の界面で機能する。吸着機構は親水性試料成分に対してより明白であり、疎水性成分に対しては液体-液体分配機構が優勢である。したがって、疎水性成分の保持は、脂質層の厚さに大きく影響を受ける。18炭素層は、8炭素層または2炭素層よりも疎水性の高い材料を提供し得る。
【0062】
移動相は有機溶媒の水性溶液と見なしてもよく、その種類および濃度によって抽出力が決まる。いくつかの一般的に用いられる有機溶媒は、疎水性が増加する順に、メタノール、プロパノール、アセトニトリル、およびテトラヒドロフランである。
【0063】
固定相として用いられる粒子の大きさが非常に小さいために、非常に狭いピークが得られる。いくつかの態様において、逆相HPLCピークは、HPLCから抽出されるピークの強度に従って、二次元画像において異なる強度のバンドとして表される。場合によっては、ピークは液相でのHPLC分離の溶離液として回収される。クロマトグラフィーのピーク形状を改善するため、および逆相クロマトグラフィーにおいてプロトン源を提供するためには、酸が一般に用いられる。そのような酸は、ギ酸、トリフルオロ酢酸、および酢酸である。
【0064】
iii. イオン交換クロマトグラフィー
イオン交換クロマトグラフィー(IEC)は、大きなタンパク質から小さなヌクレオチドおよびアミノ酸まで、ほとんどすべての種類の荷電分子の分離に適用できる。IECは、多種多様な条件下において、タンパク質およびペプチドに関して非常に頻繁に用いられる。タンパク質の構造研究では、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)およびIECの連続使用がかなり一般的である。
【0065】
イオン交換クロマトグラフィーでは、荷電粒子(基質)が試料分子(タンパク質など)と可逆的に結合する。次いで、塩濃度を上げることにより、または移動相のpHを変化させることにより、脱離が行われる。生化学では、ジエチルアミノエチル(DEAE)基またはカルボキシメチル(CM)基を含むイオン交換が、元も頻繁に用いられる。DEAEおよびCMのイオン特性はpHに依存するが、両者とも、大部分のタンパク質分離が起こるpH 4〜8の範囲内で、イオン交換体として良好に機能にするよう十分荷電している。
【0066】
イオン交換体への吸着を支配するタンパク質の特性は、正味の表面電荷である。表面電荷はタンパク質の弱酸性基および弱塩基性基の結果であるため;分離は高度にpHに依存する。低pH値から高pH値にすることで、タンパク質の表面電荷は正電荷から負電荷表面電荷に移行する。pH 対 正味の表面曲線はタンパク質の個々の特性であり、IECにおける選択性の基礎を構成する。
【0067】
液体クロマトグラフィーのすべての形態と同様に、試料成分が異なる速度でカラム内を移動できるようにする条件が用いられる。低イオン強度では、イオン交換体に対して親和性を有するすべての成分がイオン交換体の上部に密接に吸着し、移動相中には何も存在しない。中性塩を加えて移動相のイオン強度を上げると、塩イオンがタンパク質と競合し、より多くの試料成分が部分的に脱着して、カラムを下降し始める。イオン強度をさらに上げることで、さらに多くの試料成分が脱着し、カラム下降する速度が上昇することになる。タンパク質の正味の電荷が高いほど、脱離させるのに必要なイオン強度は高くなる。特定の高いイオン強度レベルでは、すべての試料成分が完全に脱着し、移動相と同じ速度でカラムを下降する。全吸着と全脱離の間のあるところで、移動相の所与のpH値に関する最適な選択性が見出されることになる。したがって、イオン交換クロマトグラフィーにおいて選択性を最適化するには、試料成分間で正味の電荷の十分に大きな差を生じるpH値が選択される。次いで、成分を部分的に脱着させることによってこれらの電荷の差を十分に利用するイオン強度が選択される。各成分がカラムを下降するそれぞれの速度は、移動相中に見出される成分の割合に比例する。
【0068】
非常に多くの場合、試料成分はイオン交換体に対する吸着が大きく異なるため、単一値のイオン強度では、遅い試料成分を適当な時間内でカラム通過させることができない。そのような場合には、移動相中のイオン強度を連続的に上昇させるために、塩勾配をかける。
【0069】
D. タンパク質マーカーの解析
1. タンパク質マーカー位置の抽出
例えばSELDI-TOF MSによってタンパク質スペクトルを生成した後、さらなる解析のためにタンパク質マーカーを同定する。タンパク質マーカーの検出は、バックグラウンドノイズを低減することによってより容易に行われ得る。バックグラウンドノイズは、様々なレベルで低減することができる。バックグラウンドノイズを低減する1つの方法は、タンパク質スペクトルの生データを平均化することにある。まず、同量の試料を比較することを確実にするために、ピークを標準化すべきである。当業者に周知であるいくつかの標準化方法が存在する。一般的なアプローチでは、強度:全イオン電流、高さ、面積、または質量に従って標準化する。標準化する別の方法では、以下の式を使用する(I=強度):
標準化I=現下のI−最小I/最大I−最小I
【0070】
標準化した後、大部分(50〜70%)の試料において認められないピークを排除することによって、バックグラウンドの低減が達成され得る。
【0071】
質量スペクトルを取得するためのシステムは市販されている。一例として、Ciphergen ProteinChip(登録商標)リーダー(Ciphergen Biosystemns, Inc.)がある。チップリーダーは、CiphergenExpress 3.0などのピーク検出ソフトウェアと共に使用し得る。このソフトウェアは、所与のシグナル対ノイズ比を超え、かつ複数のスペクトル中に存在するピークを決定することによって、クラスターを算出する。ノイズ減算、ピーク検出、およびクラスター完了の種々の設定を評価して、解析を最適化し得る。例えば、一次通過ピーク検出をピークおよび谷間の両方におけるシグナル対ノイズ5.0とし、クラスター完了域をピーク幅の1.0倍とし、さらに二次通過シグナル対ノイズ設定をピークおよび谷間の両方について2.0とすることができる。
【0072】
標準化因子として全イオン電流を使用することは、SELDIデータ解析における一般的な方法である;しかし、その他の標準化方法を使用することも可能である。例えば、相互に近接したピーク(例えば、上流および下流の5ピーク以内)の比を標準化に使用するピーク比アプローチを用いて標準化を行うことができる。ピーク比アプローチは、おそらくは翻訳後修飾をより効率的に検出するさらなる利点を有する。
【0073】
ピークはまた手動で検出することもできる。次いで、手動によるピーク検出の結果を、Matlab(MathWorks、マサチューセッツ州、ネイティック)などのソフトウェアを用いて解析し、次いで決定木解析を行い得る。決定木解析ソフトウェアの非限定的な例は、Salford SystemsのCARTであり、これはCiphergen Biosystems, Inc.のBiomarker Patterns Software 4.0で実行される。
【0074】
本発明の方法に従って生成されたタンパク質スペクトルの再現性を確認するために、複製試料を解析し得る。当業者であれば、解析の再現性を判定するために使用し得る統計的方法を熟知している。例えば、凝集型クラスタリングアルゴリズムを用いて、複製試料が最近傍としてクラスター化することを示し、再現性を確認することができる。凝集型クラスタリング解析は、同じクラスターに属するものは相互に類似しているという方法で、データ内の群を探索するものである。コンピュータ解析は、既存の群を組み合わせるかまたは分割し、群が併合するかまたは分割する順序を示す階層構造を生成することによって、進行する。凝集方法は、別の群に存在する各観察対象から開始して、すべての観察対象が単一の群内に入るまで進める。
【0075】
2. タンパク質マーカーの関連性の決定
タンパク質スペクトルにおいて同定されたタンパク質マーカーの関連性を試験するには、当業者に周知である統計解析の種々の方法を使用することができる。例えば、一変量モデル、多変量モデル、または階層的クラスター分析を用いることができる。
【0076】
a. 多変量モデリング
多変量モデルとは、一連の既知の独立変数に基づいて従属変数の挙動を予測または説明することを目的としたモデルである。多変量解析を使用する目的は、反応、生存、および奏功期間の予測における変数としてのプロテオミクス解析が、同じものを予測し得る現時点で知られている変数とは独立していることを実証することにある。プロテオミクスデータが従来のマーカーを含むモデルに付加される場合には、p値が重要となるが、プロテオミクスデータがモデルに付加されず、かつ同様の予測が他の従来のマーカーを用いて達成され得る場合には、p値は、たとえそれが一変量解析において重要であったとしても重要ではない。
【0077】
血液悪性腫瘍患者の治療に対する反応を予測するには、多変量解析が好ましい。AML患者における治療に対する反応を予測するための多変量モデルの例は(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)である。
【0078】
細胞遺伝学的所見は、腫瘍細胞において認められた染色体異常を表す。これらの異常に基づき、白血病/腫瘍は、良好、中程度、または不良と分類され得る。例えば、第5もしくは第7染色体の欠失または第11染色体の異常をはじめとする細胞遺伝学的異常を有するAML患者の場合、この患者は「不良」疾患を有する(>90%が1年以内に死亡し、治療に対して反応しない)。t(8;21)、t(15;17)、またはInv 16を有するAML患者は「良好」疾患と分類され、残りは「中程度」疾患と分類される。
【0079】
年齢に関しては、患者が高齢であるほど疾患は不良である(連続変数)。>65歳の患者は、「不良」疾患に分類される。
【0080】
パフォーマンスステータスとは、以下の表5に記載される患者の健康全般を評価するための採点システムである。当然のことながら、等級(ECOG)が高いほど患者が生存する可能性は低い。
【0081】
(表5)パフォーマンスステータスの判定基準
【0082】
特定のタンパク質マーカーの挙動の予測との関連性を試験するため、タンパク質マーカーを多変量モデルに付加することができる。例えば、SELDI MSによって同定されたタンパク質ピークの値(すなわち高さ)を、AML患者における治療に対する反応を予測するための基本の多変量モデルに付加して、(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢+ピーク情報)(ピーク情報とは所与のピークからの情報である)という拡張した多変量モデルを提供することができる。好ましくはピーク情報は、logピーク、logピーク+(logピーク)2、ピーク+ピーク2、またはピーク+logピークなどの変換ピーク値である。
【0083】
ピーク値を多変量モデルに適用した後、p値を生成する。当業者であれば、p値を算出する方法を熟知している。例えば、p値は、基本の多変量モデルおよび拡張した多変量モデルにANOVA(群間の分散分析)を適用することによって決定し得る。
【0084】
複数の試験に関して調整するには、β-一様ミクスチャー解析を使用し得る。p値は、β-一様ミクスチャー解析によって決定されるカットオフ値未満である場合にのみ有意であると見なされ、変換が独特であって一様ではないことが確認される。これにより、複数の試験に対して調整がなされる。
【0085】
b. Coxモデル
当業者はCox比例ハザードモデルに精通しており、Cox比例ハザードモデルとは、生存、進行までの期間、再発までの期間、または治療までの期間などの期間を伴うデータポイントを解析するために一般に用いられる回帰モデルである。Coxモデルにより、共変量の存在下でのノンパラメトリックな生存(または関心対象の他の事象)曲線(カプラン・マイヤー曲線など)の推定が可能になる。これは、連続変数と共に、または二分変数として行われ得る。共変量が生存に及ぼす効果は、通常、第一の関心対象である。Coxモデルはまた、いくつかの変数を組み込むことによって、多変量解析との関連での実施が可能である。多変量モデルでは、解析によってまず第1変数が解析され、次いで、第1変数から生じた群において第2変数が解析され、以下同様である。
【0086】
本発明の1つの態様では、タンパク質ピーク値をCoxモデルに当てはめた:
h(t) = h0(t)exp(β・f(ピーク))
式中、h(t)は時間tにおけるハザードであり、h0(t)はベースラインハザードであり、f(ピーク)はピーク値のいくらかの変換である。再発までの期間を予測するためにCoxモデルを適用した場合、「ハザード」は再発であり、「ベースラインハザード」はピーク値以外の変数に基づく再発の危険性であった。結果として生じるp値は、β-一様ミクスチャー解析を用いて解析し得る。係数βが正値であることは、ピーク高の増加が再発の危険性の増加に対応することを意味する。p値は、β-一様ミクスチャー解析によって決定されるカットオフ値未満である場合にのみ有意であると見なされ、変換が独特であって一様ではないことが確認される。これにより、複数の試験に対して調整がなされる。
【0087】
本明細書に記載した解析に加えて、Coxモデルを用いて多くのさらなる質問事項を問うことができる。例えば、データを用いて、真菌感染を有するであろう患者、または最初の2週間以内に死亡するであろう患者を予測することができる。同様の統計解析を用いて、再発後の二次治療に対する反応を判定することも可能である。
【0088】
c. 決定木アルゴリズム
本発明の1つの態様においては、決定木アルゴリズムを用いて、臨床転帰(例えば、応答者 対 非応答者)の予測に有用なタンパク質スペクトルを同定した。Salford SystemsのCARTソフトウェアは、市販の決定木ツールの一例である。CARTは、大きな複雑なデータベースを自動的にふるい分けて、有意なパターンおよび関連性を探索して単離する。次いで、この情報を用いて予測モデルが作成され得る。ピーク値およびピーク比と共に解析に含まれ得る変数には、臨床転帰、患者人口統計、および細胞解析が含まれる。決定木を使用する場合、過剰適合が起こらないように注意しなければならない(Wiemer and Prokudin 2004)。過剰適合を制限するアプローチでは、許容するレベル数を限定する。例えば、レベル数を2つに限定することができ、このことは、モデルが、全ピーク値および全観測変数(例えば、臨床転帰、患者人口統計、細胞解析)の一組のうち多くても2つの変数からのみなり得ることを意味する。
【0089】
E. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含めるものである。以下の実施例において開示する技法により、本発明者らが発見した技法が本発明の実施に際して十分に機能することが示され、したがって以下の実施例において開示する技法がその実施の好ましい様式を構成すると見なされ得ることが、当業者によって理解されるべきである。しかし当業者は、本開示を踏まえて、開示する特定の態様において多くの変更がなされ得り、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなお同様または類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0090】
実施例1
急性骨髄性白血病患者における治療に対する反応を予測するためのプロテオミクスの使用
急性骨髄性白血病(AML)では、標準的な化学療法(イダルビシン+ara-C)に対する反応は患者間で顕著に異なり、約50%の患者は治療に反応しない。-5、-7、および11 q異常などのAML患者における特定の細胞遺伝学的異常、またはパフォーマンスステータス不良および高齢は、治療に対する反応不良と関連があることが知られているが、治療に対する反応の正確な予測は依然としてわかりにくい。AMLにおける治療に対する反応を正確に予測することにより、患者の階層化、および寛解を誘導するのに適していないであろう従来の治療法で患者の免疫系を損なう前に前もって使用する場合に、これらの患者においてより有効であることがわかっている可能性のある別の療法の使用が可能になり得る。ゲノミクスおよびプロテオミクスにおける近年の進歩によって、AMLにおける化学療法に対する反応を予測するための新規な分子マーカーを見出す新たな期待が提供された。
【0091】
本発明者らは、急性骨髄性白血病(AML)における標準的な化学療法(イダルビシン+ara-C)に対する反応の予測にプロテオミクスを使用する可能性を探索した。本発明者らは、表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析法を用いて、AML患者の治療前の血漿におけるタンパク質プロファイルを解析し、これらのプロファイルを治療に対する反応の予測に使用した。
【0092】
テキサス大学M.D. Anderson癌センターで診察を受けたAMLと診断された患者90名から、最初の細胞傷害性療法の前に血漿試料を採取した。患者はランダムに選択した。40名の患者の試料を、モデルを構築するための試験セットにおいて使用した;残りの50名の患者の試料は、モデルの精度および有効性を試験するための検証セットにおいて使用した。診断は、形態学的解析、細胞化学的染色解析、免疫表現型解析(CD64、CD13、CD33、CD14、CD117、CD10、CD19、CD3、DR、およびTdt)、および表示の分子解析に基づいた。細胞遺伝学的解析もまた実施した。患者は、インフォームドコンセントに署名した後に、M.D. Anderson癌センターにおいて治験審査委員会の承認した臨床研究手順に従って治療を受けた。末梢静脈血試料10ミリリットルを滅菌EDTAチューブ中に回収した。冷却遠心機で1500 gで10分間遠心分離することにより血漿を分離し、-70℃で保存した。正常個体の血漿試料を各チップにおける対照として使用した。
【0093】
血漿タンパク質はまず濃縮し、強陰イオン交換樹脂を用いてpHに従って4つの異なる画分に分画した(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)。次いで、各画分を3つのアレイ上に固定化した:陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、および金属アフィニティーチップ(IMAC)。チップはCiphergenリーダーModel PBS IIで読み取った。患者40名に相当する血漿試料のスペクトルを各画分および表面から収集し(患者当たり全部で12スペクトル)、ピークを比較した。
【0094】
以下のアプローチを用いて、ピーク位置を抽出した。各表面および画分に関して、すべての生スペクトルを平均化した。これによってノイズが顕著に低減され、ピーク検出がより容易にかつより強力になった。このようにして、ピーク検出アルゴリズムを12の平均スペクトルに適用した。平均スペクトルにおける近傍の推定シグナル対ノイズ比(S/N)に関して、これらのピークを選別した。具体的には、本発明者らはS/N>5を使用した。
【0095】
画分内では、ピークの位置(質量値)は全スペクトルに関して同じである。種々のスペクトルにおいてピークの高さのみが変化した。全表面および画分によるピークの総数は1976であった。
【0096】
本発明者らは、整列不良の状況を検出するため、試験セットおよび検証セットによる多くの個々のスペクトル(および全12の表面-画分組み合わせの平均スペクトル)を検査した。整列化に問題はなく、したがって1976の位置で検証セットから抽出されたピーク高は試験セットと類似していた。各試料を二つ組みで解析したところ、凝集型クラスタリングアルゴリズムにより、複製試料が最近傍としてクラスター化することが示され、解析の再現性が確認された。
【0097】
患者の生存に影響する既知の変数には、細胞遺伝学、パフォーマンスステータス、および年齢が含まれる。予想通り、多変量モデリングによって、年齢、細胞遺伝学、およびパフォーマンスステータスが治療に対する反応の強力な予測因子であることが実証された。解析において検出されたタンパク質ピークの関連性を試験するため、本発明者らは、一度に1つのピークを基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加し、基本モデルおよび拡張モデルにANOVAを適用することによってp値を生成した。拡張モデルは、(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢+ピーク情報)(ピーク情報とは所与のピークからの情報である)である。
【0098】
本発明者らは、以下の変換ピーク値を基本モデルに付加した:
(i) logPk (1 d.o.f.)
(ii) logPk + (logPk)2 (2 d.o.f.)
(iii) Pk + Pk2 (2 d.o.f.)
(iv) Pk + logPk (2 d.o.f.)
【0099】
それぞれの場合について一連のp値を取得し、β-一様解析に使用した。(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の場合のβ-一様ミクスチャー解析による結果を、それぞれ図1、図2、図3、および図4に示す。p値の閾値は、偽発見率(FDR)を固定することによって、β-一様ミクスチャー解析の後に算出した。(i)の場合はFDRを0.2に設定し、(ii)、(iii)、および(iv)の場合はFDRを0.1に設定した。(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の場合の最も有意なピークを、それぞれ図5、図6、図7、および図8に示す。
【0100】
重要な問題は、反応を完全に予測するためには、いくつのピークを回帰モデルに含めるべきかである。結局は、本発明者らが試験した4つの異なる場合に関して、少数のピークで十分であることが判明する。基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)は、患者40名のうち31名において反応を正確に予測した。基本モデルでは、21名が反応なし(NR)および19名が完全な反応(CR)と予測された。これらのうち、偽NRが5例および偽CRが4例存在した。(i)、(ii)、(iii)、および(iv)の場合に関して同定された最も有意なピークを付加することによって、基本モデルを拡張した。図5〜8のそれぞれにおいて、3列目に、それぞれ個々のピークを用いて拡張した基本モデルの偽予測(F.P.)数を示す。
【0101】
個々のピークをモデルに付加することに加えて、あらゆる可能なピーク対もまたまたモデルに付加した。(i)の場合、いずれのピーク対も、3未満の偽予測で治療に対する反応を予測し得なかった。しかし、(ii)、(iii)、および(iv)の場合、回帰モデルに付加した場合に、治療に対する反応を完全に予測し得るいくつかのピーク対が存在した。表6は、(ii)の場合の有意なピークを示す。(ii)の場合、42のピーク対が、基本モデルに付加された場合に反応を完全に予測し得た。例えば、表6の最初の2つのタンパク質ピーク(斜線部分)は、反応を完全に予測した対である。表7は、(iii)の場合の有意なピークを示す。(iii)の場合、89のピーク対が、基本モデルに付加された場合に反応を完全に予測し得た。例えば、表7の1つ目および3つ目のタンパク質ピーク(斜線部分)は、反応を完全に予測した対である。表8は、(iv)の場合の有意なピークを示す。(iv)の場合、52のピーク対が、基本モデルに付加された場合に反応を完全に予測し得た。例えば、表8の最初の2つのタンパク質ピーク(斜線部分)は、反応を完全に予測した対である。
【0102】
(表6)
【0103】
(表7)
【0104】
(表8)
【0105】
このデータから、プロテオミクスプロファイリングが、AML患者における臨床的挙動の予測に有用であることが示唆される。このアプローチは、特定の治療選択肢に関する患者の階層化に有用であると考えられる。
【0106】
実施例2
急性骨髄性白血病患者における反応から再発までの期間を予測するためのプロテオミクスの使用
本発明者らは、42名のAML患者および48名のAML患者から採取した血漿試料から生成されたスペクトルを加工した。各患者について、4つの異なる画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、画分4≡pH3、有機)、3つの表面(IMAC3-Cu++、SAX2、WCX2)、および二つ組の実験による24のスペクトルが存在する。
【0107】
第1スペクトルセット(42名の患者に由来する)は、2003年、2月後期に生成された。第2スペクトルセット(48名の対象に由来する)は、2003年、6月末に生成された。セット1の患者40名およびセット2の患者42名に相当する全スペクトルに、以下の解析を適用する。残りのスペクトルは、臨床情報が欠如しているために廃棄した。
【0108】
2つのセット間で治療に反応した患者は36名存在する(セット1による19名およびセット2による17名)。これらのうち、17名の患者(セット1の5名およびセット2の12名)が試験中に再発した。
【0109】
スペクトルを加工した後、本発明者らは1976のピークの高さを抽出した。各ピークについて、Coxモデルを適応させた:
h(t) = h0(t)exp(β・f(ピーク))
式中、h(t)は時間tにおけるハザードであり、h0(t)はベースラインハザードであり、f(ピーク)はピーク値のいくらかの変換である。2つの場合、f(ピーク)=ピークおよびf(ピーク)=logピークについて検討を行った。
【0110】
第1例:Coxモデルを適応させるためにピーク高を使用
1976のピークそれぞれにつき、Cox比例ハザードモデルを適応させた。結果として生じるp値を、β-一様ミクスチャー(BUM)を用いて解析した。図9はp値の分布を示す。表9は、有意性の順に(p値の昇順に)ピークを示す。表9の3列目は、このモデルにおけるピークのβ係数を示す。係数βが正値であることは、ピーク高の増加が再発の危険性の増加に対応することを意味する。
【0111】
(表9)最も有意なピーク、fdr=0.6
【0112】
第2例:Coxモデルを適応させるためにピーク高の対数を使用
この場合、Coxモデルにおいてf(ピーク)=logピークを使用した。図10は、Coxモデルを適応させた後に得られた1976のp値のBUM解析を示す。有意なピークが存在しないことが明白である。具体的には、1976例すべてを排除しないp値閾値を得るためには、FDR>0.999に設定しなければならない。
【0113】
実施例3
成人リンパ性白血病(ALL)における臨床的挙動のプロテオミクスに基づいた予測
小児リンパ性白血病(ALL)では長期無病生存率が90%達成され得るにもかかわらず、ALLを有する成人の長期生存率は不良である。ALLを有する成人の30%〜40%しか、治癒を期待することができない。再発するであろう成人患者の予測は、新規な治療アプローチの考案に役立つ可能性があり、おそらくより早い段階での治療の開始が可能になる。
【0114】
表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)およびCiphergen ProteinChip(登録商標)システムを用いて、未処置のALL患者の血漿におけるタンパク質プロファイルを研究し、臨床的挙動を予測するバイオマーカーを同定した。患者は、ALLと診断された患者の中から、テキサス大学M.D. Anderson癌センターにおいてランダムに選択した。診断は、形態学的解析、細胞化学的染色解析、免疫表現型解析(CD34、CD64、CD13、CD33、CD14、CD117、CD10、CD19、CD3、CD20、DR、およびTdT)、および表示の分子解析に基づいた。細胞遺伝学的解析もまた実施した。インフォームドコンセントを得てから、IRBの承認した臨床研究手順を行った。本研究における患者57名の特徴を表10に記載する。明らかに健常なボランティアを、各チップの対照として使用した。
【0115】
(表10)
【0116】
試料は、細胞傷害性療法を開始する前に採取した。全血を4℃で1500 gで10分間遠心分離することにより、EDTA血漿を得た。血漿は-70℃で保存した。血漿タンパク質は、まず、以下のように、強陰イオン交換カラムを使用してpHに基づき4つの画分に分画した;pH7+pH9+フロースルー、pH5、pH4、およびpH3+有機洗浄。それぞれの画分を3種のProteinChipアレイ表面に供した:固定化金属アフィニティー捕獲(IMAC3)、強陰イオン交換(SAX2)、および弱陽イオン交換(WCX2)。試料は2分割量に分けてから、8ウェルプレートにランダムに割り当てたが、各プレートには健常患者試料のプールに由来する対照を含めてあった。
【0117】
チップはCiphergen ProteinChip(登録商標)リーダー(シリーズPBS II)で読み取った。患者当たり24のスペクトル(4画分×二つ組での3アレイ)が得られた。ピークの検出は、CiphergenExpress 3.0(Ciphergen Biosystems, Inc.)を用いて行った。スペクトルは、2000〜160,000 m/zの間で全イオン電流に対して標準化した。このソフトウェアは、所与のシグナル対ノイズ比を超え、かつ複数のスペクトル中に存在するピークを決定することによって、クラスターを算出する。ノイズ減算、ピーク検出、およびクラスター完了の種々の設定を評価した。選択した最終設定は製造供給元の初期設定と類似しており、一次通過ピーク検出はピークおよび谷間の両方におけるシグナル対ノイズ5.0であり、クラスター完了域はピーク幅の1.0倍であり、さらに二次通過シグナル対ノイズ設定はピークおよび谷間の両方に関して2.0であった。ピークは、2000〜200,000 m/zの間で同定された。
【0118】
自動ピーク検出と手動ピーク検出を比較するため、12のチップ種のうちの2つを徹底的に解析した(IMAC3 pH3およびWCX2 pH9)。ピークは手動で検出し、次いでその結果をMatlab(MathWorks、マサチューセッツ州、ネイティック)で解析し、続いてBiomarker Patterns Software(Ciphergen Biosystems, Inc.)で実行されるCARTソフトウェアを用いて決定木解析を行った。手動ピーク同定と自動ピーク同定の間にわずかな実質的な相違が検出され、そのためその後の研究には自動ピーク検出を使用した。
【0119】
固有の機器変動を低減するための標準化を介する種々のアプローチを調べる目的で、さらなる解析を行った。標準化因子として全イオン電流を使用することはSELDIデータ解析における一般的方法であるが、この限定された標準化では、質量分析法に共通に見られる他の混乱させる変化を適切に除去し得ない。相互に近接したピークの比は、全イオン電流のみを使用する標準化よりも再現性がある可能性が高いと仮定した。このピーク比アプローチは、おそらくは翻訳後修飾をより効率的に検出するさらなる利点を有する(例えば、所与の濃度のペプチドの一定の割合がリン酸化され、+80ダルトン上昇して異なるピークに移動すると、非リン酸化ペプチドを示すピークを犠牲にしてこのピークの強度が上昇する)。そのため、各ピークの上流および下流の5ピーク以内のピークの比を算出し、これらの値もまた決定木解析に含めた。
【0120】
比の使用が固有の変動を増減させる可能性があるかどうかを判定するため、以下の解析を行った。2つの患者複製物(個々のスペクトルを有する分割量)の、WCX2 pH9画分における全117ピークに関するそれぞれのピーク値を、Matlabに読み込んだ。各患者試料の複製物間の各ピーク値のCVを、各ピークの平均CVと共に記録した。次いで、全ピークの全体平均CVを計算した。外れ値の影響を制限するため、計算には平均CVを使用した。この工程を以下の8つの他のアプローチで繰り返した:2) スペクトルにおける全イオン電流で各ピークを割る;3) スペクトルにわたる平均ピーク強度値で各ピークを割る;4) 最近傍で各ピークを割って比を算出する;5) 右側の2番目の最近傍(より高いm/z値)で各ピークを割った比;6) 3番目の最近傍で各ピークを割る;7) 4番目の最近傍で各ピークを割る;8) 5番目の最近傍で各ピークを割る;および9) 最も近接した6つのピーク値(それぞれの側に3つ)の平均値でを割る。
【0121】
12の画分種のそれぞれについて、全観測変数(臨床転帰、患者人口統計、および細胞解析)および全ピーク間で相関行列を計算した。各画分種においてそれぞれの観測変数に適合した最も低いp値曲線を有する上位16のピークをプロットするように、Matlabでプログラムを書いた。次いで、これらのプロットを、質量分析ピークと観測変数との間の相関に関して手動で調べた。
【0122】
決定木アルゴリズム(CiphergenによりBiomarker Patterns Software 4.0で実行される、Salford SystemsのCARTソフトウェア)を用いて、応答者および非応答者の予測に有用なピークを同定した。細胞解析による観測変数を、ピーク値および近傍(上方または下方の5ピーク内)のピーク比と共に変数として含めた。決定木を使用する場合、過剰適合が起こらないように注意しなければならない(Wiemer and Prokudin 2004)。過剰適合を制限するために、2つのレベルのみを許容したが、このことは、モデルが、全ピーク値および全観測変数の一組のうち多くても2つの変数からのみなり得ることを意味する。
【0123】
12の画分種にわたって全部で953のピークが検出された。各画分種において検出されたピーク数を表11に示す。全画分による再発に関する最も強力な予測因子を表12に示す。
【0124】
(表11)
【0125】
(表12)
【0126】
種々のピーク標準化アプローチを用いた、WCX2 pH9画分による患者試料複製物の平均変動係数を図13に示す。
【0127】
(表13)
【0128】
近傍ピークの比を用いることで可能な変数の数は増加し、よってこのアプローチを使用する場合には、過剰適合を避けるように注意すべきである。しかし、比アプローチは、例えば、翻訳後修飾によるシフトまたはタンパク質の選択的スプライス変種など、2つのピークが関わる生物学的影響を同定するのに有用であり得る。標準化しない場合、反復患者試料の平均変動係数は9.8パーセントであった。全イオン電流で割った場合には、複製物間の変動は実際に11.5パーセントに上昇した。スペクトル中の全ピークによる平均ピーク強度で割って標準化しても、やはり変動はわずかに上昇した。変動を低減した唯一の標準化アプローチは、最も近接した6つのピークの平均で割ることであった。近傍ピークを用いて比を算出したところ、複製物の変動は10〜14.5パーセントに上昇した。比の算出においてピークが離れるほど、複製物間の変動の上昇は大きくなった。
【0129】
2名を除いたすべての患者が応答を達成した(96%)。55名のうち13名(24%)がこれらの患者の解析時に再発し、追跡期間中央値は71週(2〜193週の範囲)であった。大部分の患者(58%)はL2として分類され、10%はL3(バーキット)を有すると分類された。
【0130】
再発を予測するため、再発と12の画分/表面種のそれぞれのピーク強度との間の相関を評価した。pH9での弱陽イオン交換(WCX2)が、最多数のピークおよび有意なp値でのピーク比を有した(表11)。再発状態に対して最も低いp値を有する20ピークのうち13が、WCX2 pH9に由来した。
【0131】
最初に全ピーク値を用いて、次いで近傍ピーク比を用いて、決定木解析を実行した。決定木には、細胞遺伝学、WBC、末梢血芽球の割合、LDH、クレアチン、血小板、HGB、リンパ球の割合、およびβ-2ミクログロブリンをはじめとする他の検査特徴も組み入れた。過剰適合を制限するための2レベルのみの決定木解析により、いくつかのモデルを作成した。これらのモデルのうち3つを図11A〜11Cに示す。
【0132】
第1のモデルでは、試料の33%の試験セットにおいて、WCX2 pH9画分のm/z 162,503および10,430における2つのピークにより、92%の症例で再発(陽性予測)を正しく、および72%の症例で非再発(陰性予測)を正しく予測し得た(図11A)。第2のモデルでは(図11B)、試験セットとして33%の症例を用いたが、WCX2 pH9画分のm/z 10,214および85,770における2つのピークを使用することで、陽性予測は84%であり、陰性予測は72%であった。第3のモデルでは、再発の陽性予測は非常に強力であったが(92%)、陰性予測は弱かった(図11C)。このモデルでは、末梢血中の芽球の割合と共に、7728および14630における2つのWCX2 pH9画分ピークの相対比を使用した。
【0133】
主要な検査情報と個々のピーク強度との間の任意の相関の存在を、全12画分について調べた。これには、WBC、HGB、クレアチン、LDH、ならびに末梢血および骨髄中の芽球、リンパ球、および単球の存在が含まれた。大部分の検査変数とピークまたはピーク比には、強力な相関関係はほとんど認められなかった。しかし、血小板数は、全12画分を通して種々のピークと一貫して良好に相関し、最も強力な相関はWCX2 pH9画分においてであった。12の画分種における953ピークのうち、血小板数と.001よりも良好なp値相関を有したピークは90存在した。表14に、これら953ピークのうち、最も高度に相関する20のピークをp値により示す。図12に、最も高度に相関する2つのピーク値に関する、ピーク強度と血小板数の間の散布図を示す。
【0134】
(表14)
【0135】
成人ALLにおいて予想される通り、大部分の患者は形態に基づきL2またはL1として分類され、10%のみがL3として分類された。L1とL2の識別は主観的であり、実際に重要な臨床的価値はないため、L1およびL2の症例は同じと見なし、L3群と比較した。L3群の識別は、その特有の臨床経過から重要である。末梢血血漿のプロテオミクスを使用して、L1/L2群とL3群を識別し得る特定のピークを同定した。m/z 14,715および10,214における2つのWCX pH9画分を用いて、2つのピークに限定したモデルが開発された(図13)。試験セットを使用して(V重交差検証として)、本発明者らは、94%の症例でL1/L2群を、および80%の症例でL3群を明確に予測し得た。このデータから、決定木解析を使用することで、プロテオミクスピークがこれらの2つの群を識別し得ることが示唆される。
【0136】
本明細書に示したデータにより、白血病のプロテオミクス解析への末梢血血漿の使用が支持され、またプロテオミクスアプローチが、白血病患者の臨床管理において用いられるべき臨床的に有用なバイオマーカーを開発する有効なアプローチを表すことが実証される。またこの解析から、疾患進行の予測における、質量分析法によって測定されるデータと臨床的に観察される変数との組み合わせの高まりつつある今後の役割が示される。
【0137】
本明細書で開示され請求される方法および組成物はすべて、本開示の観点から、過度に実験することなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載したが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した方法および組成物、ならびに方法の段階または方法の段階の順序に変更がなされ得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、本明細書に記載した物質の代わりに、化学的および生理学的に関連する特定の物質を代用し得て、同じまたは類似した結果が得られることは明白であろう。当業者にとって明白であるこのような類似の代用品および変更はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると見なされる。
【0138】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の補足または他の詳細な補足を、本明細書に記載したものに提供する範囲内において、参照として本明細書に明確に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
添付の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含めるものである。本明細書に示した特定の態様の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、本発明をより良く理解できる。
【図1】変換ピーク値(logピーク)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図1Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図1Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.005を有して有意に増加することを示す。図1Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図1Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図2】変換ピーク値(logピーク+(logピーク)2)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図2Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図2Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.005を有して有意に増加することを示す。図2Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図2Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図3】変換ピーク値(ピーク+ピーク2)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図3Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図3Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.01を有して有意に増加することを示す。図3Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図3Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図4】変換ピーク値(logピーク+ピーク)を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図4Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図4Bは、(反応を予測する)偽陽性が、P値>0.01を有して有意に増加することを示す。図4Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図4Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図5】AML患者における治療に対する反応を予測するための(logピーク)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.2に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図6】AML患者における治療に対する反応を予測するための(logピーク+(logピーク)2)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.1に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図7】AML患者における治療に対する反応を予測するための(ピーク+ピーク2)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.1に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図8】AML患者における治療に対する反応を予測するための(ピーク+logピーク)変換データの有意なピークを示す。偽発見率は0.1に設定した。1列目は、SELDI質量分析法により解析した画分(画分1≡pH9、pH7、画分2≡pH5、画分3≡pH4、または画分4≡pH3、有機)および表面(陰イオン交換(SAX)、陽イオン交換(WCX)、または金属アフィニティーチップ(IMAC))を示す。2列目は、変換ピーク値を基本モデル(反応〜細胞遺伝学+パフォーマンスステータス+年齢)に付加して、AML患者における治療に対する反応を予測した場合の、偽陽性数を示す。3列目は、ピークの質量対電荷比(M/Z)を示す。
【図9】変換ピーク値(ピーク)をCoxモデルに付加して、AML患者における反応から再発までの期間を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図9Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。ヒストグラムに示されるように、低いP値では変換は一様ではなく、このことから、これらの値が特定の予測を表すことが示される。図9Bは、(反応を予測する)偽陽性がP値を有して有意に増加することを示す。図9Cに、事後確率とp値の関係を示す。これにより、適切な事後予測値を得るには、P値が<0.01であるべきことが実証される。図9Dは、単一試験p値変化のカットオフとしての受信者動作特性(ROC)曲線を示す。感度をY軸に示し、特異度をX軸に示す。
【図10】変換ピーク値(logピーク)をCoxモデルに付加して、AML患者における反応から再発までの期間を予測した場合の、β-一様ミクスチャーとしてのp値の解析を示す。図10Aは、上記の変数をすべて組み入れた多変量ロジスティックモデルを用いて、治療に対する反応を予測する場合の、p値のヒストグラムを示す。各P値は、1つのピークを付加した効果を表す。図10Bは、(反応を予測する)偽陽性を示す。図10Cに、事後確率とp値の関係を示す。図10Dは、Y軸に感度を示し、X軸に特異度を示した、受信者動作特性(ROC)曲線を示す。図10A〜Dから、有意なピークが存在しないことが明白である。
【図11】ALL患者における再発を予測するための3つの決定木を示す。
【図12】血小板数と最も高度に相関する2つのピークの、ピーク強度と血小板数との間の散布図を示す。
【図13】ALL患者においてL3サブタイプを予測するための決定木を示す。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、血液悪性腫瘍の診断、予後、または予測タンパク質プロファイルを作成する方法:
(a) 血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;
(b) 血漿試料からタンパク質スペクトルを生成する段階;
(c) (b)の段階で生成されたタンパク質スペクトルを、血液悪性腫瘍に関する患者の臨床データと比較する段階;
(d) 臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および
(e) 血液悪性腫瘍を診断するため、血液悪性腫瘍の予後を決定するため、治療に対する患者の反応を決定するため、または治療に関して患者を階層化するために使用され得るタンパク質プロファイルを、同定したタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群に基づいて作成する段階。
【請求項2】
血液悪性腫瘍が、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
白血病が、AML、CML、ALL、またはCLLである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
タンパク質スペクトルが質量分析法によって生成される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
質量分析法がSELDIである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
血漿試料が質量分析法による解析の前に分画される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
臨床データが、細胞遺伝学、年齢、パフォーマンスステータス(performance status)、治療に対する反応、反応から再発までの期間、および生存期間の1つまたは複数を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
タンパク質プロファイルが血液悪性腫瘍を診断するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
タンパク質プロファイルが血液悪性腫瘍の種類を分類するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
血液悪性腫瘍がALLであり、さらにタンパク質プロファイルがALLをL1/L2 ALLまたはL3 ALLに分類するために用いられる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
タンパク質プロファイルが、SELDI質量分析法によって作成され、ピーク50、ピーク51、ピーク52、ピーク53、ピーク54、ピーク55、ピーク56、ピーク57、ピーク58、ピーク59、ピーク60、ピーク61、ピーク62、ピーク63、ピーク64、ピーク65、ピーク66、ピーク67、ピーク68、またはピーク69の1つまたは複数を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
タンパク質プロファイルが薬物治療に対する患者の反応を予測するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
タンパク質プロファイルが患者の生存期間を予測するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
タンパク質プロファイルが患者の反応から再発までの期間を予測するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
タンパク質プロファイルが特定の治療選択肢に対して患者を階層化するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、血液悪性腫瘍患者における治療に対する反応を予測する方法:
(a) 患者から血漿試料を採取する段階;
(b) 治療に対する反応に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および
(c) 治療に対する患者の反応を予測する段階。
【請求項17】
血液悪性腫瘍が、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
白血病が、AML、CML、ALL、またはCLLである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
タンパク質マーカーがピークである、請求項16記載の方法。
【請求項20】
ピークが質量分析法によって生成される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
血漿試料を分画する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項22】
質量分析法がSELDIである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
治療がイダルビシンおよびara-Cである、請求項16記載の方法。
【請求項24】
治療がグリベック(Gleevac)である、請求項16記載の方法。
【請求項25】
血液悪性腫瘍がAMLであり、さらにピークが、ピーク1、ピーク2、ピーク3、ピーク4、ピーク5、ピーク6、ピーク7、ピーク8、ピーク9、ピーク10、ピーク11、ピーク12、ピーク13、ピーク14、ピーク15、ピーク16、またはピーク17の1つまたは複数である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
以下の段階を含む、血液悪性腫瘍患者における再発を予測する方法:
(a) 患者から血漿試料を採取する段階;
(b) 再発に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および
(c) 患者が再発するかどうかを予測する段階。
【請求項27】
血液悪性腫瘍が、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
白血病が、AML、CML、ALL、またはCLLである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
タンパク質マーカーがピークである、請求項26記載の方法。
【請求項30】
ピークが質量分析法によって生成される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
質量分析法がSELDIである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
血液悪性腫瘍がAMLであり、さらにピークが、ピーク18、ピーク19、ピーク20、ピーク21、ピーク22、ピーク23、ピーク24、ピーク25、ピーク26、ピーク27、ピーク28、またはピーク29の1つまたは複数である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
血液悪性腫瘍がALLであり、さらにピークが、ピーク30、ピーク31、ピーク32、ピーク33、ピーク34、ピーク35、ピーク36、ピーク37、ピーク38、ピーク39、ピーク40、ピーク41、ピーク42、ピーク43、ピーク44、ピーク45、ピーク46、ピーク47、ピーク48、またはピーク49の1つまたは複数である、請求項31記載の方法。
【請求項1】
以下の段階を含む、血液悪性腫瘍の診断、予後、または予測タンパク質プロファイルを作成する方法:
(a) 血液悪性腫瘍患者の集団から血漿試料を採取する段階;
(b) 血漿試料からタンパク質スペクトルを生成する段階;
(c) (b)の段階で生成されたタンパク質スペクトルを、血液悪性腫瘍に関する患者の臨床データと比較する段階;
(d) 臨床データと相関する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および
(e) 血液悪性腫瘍を診断するため、血液悪性腫瘍の予後を決定するため、治療に対する患者の反応を決定するため、または治療に関して患者を階層化するために使用され得るタンパク質プロファイルを、同定したタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群に基づいて作成する段階。
【請求項2】
血液悪性腫瘍が、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
白血病が、AML、CML、ALL、またはCLLである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
タンパク質スペクトルが質量分析法によって生成される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
質量分析法がSELDIである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
血漿試料が質量分析法による解析の前に分画される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
臨床データが、細胞遺伝学、年齢、パフォーマンスステータス(performance status)、治療に対する反応、反応から再発までの期間、および生存期間の1つまたは複数を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
タンパク質プロファイルが血液悪性腫瘍を診断するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
タンパク質プロファイルが血液悪性腫瘍の種類を分類するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
血液悪性腫瘍がALLであり、さらにタンパク質プロファイルがALLをL1/L2 ALLまたはL3 ALLに分類するために用いられる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
タンパク質プロファイルが、SELDI質量分析法によって作成され、ピーク50、ピーク51、ピーク52、ピーク53、ピーク54、ピーク55、ピーク56、ピーク57、ピーク58、ピーク59、ピーク60、ピーク61、ピーク62、ピーク63、ピーク64、ピーク65、ピーク66、ピーク67、ピーク68、またはピーク69の1つまたは複数を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
タンパク質プロファイルが薬物治療に対する患者の反応を予測するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
タンパク質プロファイルが患者の生存期間を予測するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
タンパク質プロファイルが患者の反応から再発までの期間を予測するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
タンパク質プロファイルが特定の治療選択肢に対して患者を階層化するために用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、血液悪性腫瘍患者における治療に対する反応を予測する方法:
(a) 患者から血漿試料を採取する段階;
(b) 治療に対する反応に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および
(c) 治療に対する患者の反応を予測する段階。
【請求項17】
血液悪性腫瘍が、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
白血病が、AML、CML、ALL、またはCLLである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
タンパク質マーカーがピークである、請求項16記載の方法。
【請求項20】
ピークが質量分析法によって生成される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
血漿試料を分画する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項22】
質量分析法がSELDIである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
治療がイダルビシンおよびara-Cである、請求項16記載の方法。
【請求項24】
治療がグリベック(Gleevac)である、請求項16記載の方法。
【請求項25】
血液悪性腫瘍がAMLであり、さらにピークが、ピーク1、ピーク2、ピーク3、ピーク4、ピーク5、ピーク6、ピーク7、ピーク8、ピーク9、ピーク10、ピーク11、ピーク12、ピーク13、ピーク14、ピーク15、ピーク16、またはピーク17の1つまたは複数である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
以下の段階を含む、血液悪性腫瘍患者における再発を予測する方法:
(a) 患者から血漿試料を採取する段階;
(b) 再発に関連する、血漿試料中のタンパク質マーカーまたはタンパク質マーカー群を同定する段階;および
(c) 患者が再発するかどうかを予測する段階。
【請求項27】
血液悪性腫瘍が、白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または骨髄異形性症候群である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
白血病が、AML、CML、ALL、またはCLLである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
タンパク質マーカーがピークである、請求項26記載の方法。
【請求項30】
ピークが質量分析法によって生成される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
質量分析法がSELDIである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
血液悪性腫瘍がAMLであり、さらにピークが、ピーク18、ピーク19、ピーク20、ピーク21、ピーク22、ピーク23、ピーク24、ピーク25、ピーク26、ピーク27、ピーク28、またはピーク29の1つまたは複数である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
血液悪性腫瘍がALLであり、さらにピークが、ピーク30、ピーク31、ピーク32、ピーク33、ピーク34、ピーク35、ピーク36、ピーク37、ピーク38、ピーク39、ピーク40、ピーク41、ピーク42、ピーク43、ピーク44、ピーク45、ピーク46、ピーク47、ピーク48、またはピーク49の1つまたは複数である、請求項31記載の方法。
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−533997(P2007−533997A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509551(P2007−509551)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/013224
【国際公開番号】WO2005/103719
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/013224
【国際公開番号】WO2005/103719
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】
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