説明

血液検体からの微生物核酸の抽出方法

【課題】血液感染症検査における血液検体から一般的な核酸抽出を行なった場合、微生物の細胞壁を溶解または破砕する際、同時に患者血液由来の白血球やリンパ球を溶解または破砕をし、内包するヒト核酸が溶液中に遊離させてしまう。その結果として、抽出液中に微生物由来の微生物核酸に対して患者由来のヒト核酸が大過剰に混入し、これが核酸増幅の阻害物質として働き、核酸増幅の効率は著しく低下する。
【解決手段】血液感染症検査における血液検体を、微生物細胞壁分解酵素による作用および非イオン性界面活性剤を作用させることにより、患者血液由来の血球細胞の溶解または破砕を低減させ、かつ微生物のみを溶解または破砕することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液からの感染症原因菌由来の核酸抽出方法およびその方法を用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子工学、分子生物学の急速な進歩に伴い、医療分野においても感染症診断、遺伝子疾患等について核酸を用いた診断が行われるようになってきた。検査対象である検体は、血液、膿汁、痰、髄液、精液、唾液、胃液、膣分泌物、口腔内粘液等の体液、尿及び糞便等多種に渡るが、それぞれについて目的の核酸以外に含まれる侠雑物の特徴に応じた核酸抽出法が提案されている。その中で、血液感染症検査における検体は、感染症の疑いのある患者より採血された血液であるが、核酸を抽出するには、検体中の侠雑物の大部分を占める赤血球、白血球、リンパ球、血小板といった血液成分に合わせた核酸抽出法が主に採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、血液感染症検査は主に血液培養検査が採用されているが、検査結果が出るまでに数日から1週間を要するために、血液感染症の初期治療では、血液培養の検査結果を反映させた投薬治療が行なわれていないのが現状である。
【0004】
この課題を解決するために、より迅速な検査が可能な遺伝子核酸検査により、感染症原因菌の特定をしようとする試みが行なわれている。しかしながら、実際、重篤な血液感染症である敗血症の場合を例に挙げると、患者血液中の感染症原因菌の数は患者血液1mL当たり数個から数百個という少ない数であると言われている(非特許文献1参照)。核酸増幅系にこの数個の核酸が入ってくれば増幅は可能である。ところが、血液検体からの一般的な核酸抽出を行った場合、微生物の細胞壁を溶解または破砕する際に、同時に患者血液由来の白血球やリンパ球を溶解または破砕をし、内包するヒト核酸を溶液中に遊離させてしまう。その結果、抽出液中に微生物由来の微生物核酸に対して患者由来のヒト核酸が大過剰に混入し、これが核酸増幅の阻害物質として働いてしまい、核酸増幅の効率は著しく低下する(非特許文献1参照)。
【0005】
これらの課題に対し、核酸抽出後のヒト核酸と微生物の核酸の混合物から微生物の核酸を選択的に抽出する方法が提案されている。例えば、特許文献1および2には、抽出過程において、微生物が有する標的核酸に相補的なプローブ担体を用いて標的核酸を選択的に濃縮させる方法が開示されている。しかし、これらの方法では、ある特定の感染症原因菌の核酸を抽出することはできても、非特異的に菌を抽出してから菌種を同定する感染症同定検査などには適用が難しい。
【0006】
また、核酸抽出をする前処理として、血液検体から病原性微生物のみを抗体を用いて選択的に分離する方法が提案されている。例えば特許文献3には、病原性微生物、特に病原性真菌を、菌特異的抗体を固定した担体を用いて捕捉した後、液層から分離させ、その後にその遺伝子を抽出する方法が提案されている。しかし、この方法においても、ある特定の感染症原因菌の抗体を用いることになるので、汎用性の高い感染症同定検査への適用は難しい。
【特許文献1】特開平01−211500号公報
【特許文献2】特開昭63−188399号公報
【特許文献3】特開平11−142409号公報
【非特許文献1】日本臨床 Vol.62, No.12, P2276〜2280, 2004年
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討した結果、微生物細胞壁分解酵素および非イオン性界面活性剤を作用させることにより、患者血液由来の血球細胞の溶解または破砕を低減させ、かつ微生物のみを溶解または破砕することを見出した。そして、この血液中に溶出させた微生物由来の核酸を抽出および精製することにより、溶出試料液中に混入してくるヒト核酸量を低減し、核酸増幅時の増幅阻害が大幅に抑えられることに成功し、上記課題を解決することを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、血液感染症検査における微生物核酸情報を得ることに特に有用である。本発明の核酸抽出方法を用いて、微生物由来のDNAを含む核酸集団中に含まれる大過剰の白血球やリンパ球由来のヒト核酸量を低減させることで、少ない数の微生物核酸DNAでも核酸増幅のテンプレートとして利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
微生物を含む血液試料から、該微生物の核酸を抽出するための方法であって、
(1)該微生物を含む血液試料に対して、微生物細胞壁分解酵素および非イオン性界面活性剤を作用させて、血球細胞の細胞膜を維持しつつ該微生物由来の核酸を血液試料中に分散させる工程と、
(2)血液試料中に分散した該微生物由来の核酸を固相担体に結合させる工程と、
(3)核酸を結合させた該固相担体と血球細胞とを分離する工程と、
(4)該固相担体に結合させた核酸を溶出液に溶出する工程と、
を有することを特徴とする。
【0010】
以下に、ヒト由来の検体、特に血液にかかる具体的な構成例について記載するが、本発明は下記方法に限定されるものではない。
【0011】
まず患者より血液の採取を行うが、採取した血液は、抽出操作を行うまでの間に凝固してしまうことを防止するため、血液凝固防止剤をすみやかに添加することが好ましい。凝固防止剤としては、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩、クエン酸ナトリウム群、ヘパリンのいずれでもよいが、特にエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が好ましい。また、上記凝固防止剤入りの真空採血管を用いて採血を行ってもよい。
【0012】
本発明における血液試料に含まれる対象の微生物としては、真正細菌、酵母、糸状菌、さらに、ウイルスなどを挙げることができる。
【0013】
本発明における微生物の溶解を行う際に添加する微生物細胞壁分解酵素は、N−アセチルムラミダーゼ、ラビアーゼ、アクロモペプチダーゼ、ぺプチダーゼ、リゾチーム、エンド−β−1,4−グルカナーゼ、エキソ−β−1,4−グルカナーゼ、エンド−β−1,3−グルカナーゼ、エキソ−β−1,3−グルカナーゼ、β−1,6−グルカナーゼ、エンド−β−1,4−キシラナーゼ、エキソ−β−1,4−キシラナーゼ、エンド−β−1,3−キシラナーゼ、エキソ−β−1,3−キシラナーゼのいずれでもよいが、これらの酵素を2以上組み合わせることがより好ましい。特に、N−アセチルムラミダーゼとリゾチームの組み合わせが好ましい。さらに、N−アセチルムラミダーゼ、リゾチームに、エンド−β−1,4−グルカナーゼ、エンド−β−1,3−グルカナーゼを加えてもよい。
【0014】
本発明における微生物の溶解を行う際、上記微生物細胞壁分解酵素と同時に非イオン性界面活性剤を添加して作用させる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類であるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル類であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、脂肪酸ソルビタンエステル類であるソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、アルキルポリグルコシド類、脂肪酸ジエタノールアミド類、アルキルモノグリセリルエーテル類などを挙げることができるが、特にポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを添加することが好ましい。なお、上記非イオン性界面活性剤濃度は患者血液由来の血球細胞の溶解または破砕を低減させ、かつ微生物のみを溶解または破砕を促進する理由から、反応中の濃度を0.5から0.9%(w/w)の間の一定濃度に保つことが好ましい。特に0.5%(w/w)に保つことが好ましい。
【0015】
本発明における微生物の溶解を行う反応温度は、反応時間中は20℃から40℃の間の一定温度に保つことが好ましい。細胞壁分解酵素および界面活性剤の作用効果を十分に発揮するため、30℃から37℃の間の一定温度に保つことがより好ましい。特に37℃の一定温度に保つことが好ましい。
【0016】
このような条件で微生物の溶解を行い、微生物由来の核酸のみを血液中に分離させる。続いて、血液中に分離した微生物由来の核酸を固相担体に結合させる。固相担体としては、上記微生物由来の核酸に対して特異的親和性を有するものであれば、いずれの担体を用いることが可能である。本発明において、例えばカオトロピック物質およびシリカまたはその誘導体を含む核酸結合性の固相粒子を用いることが好ましい。次いで、固相担体と細胞膜を維持させた血球細胞とを分離させることにより、微生物由来の核酸と血球細胞とを分離することができる。
【0017】
続いて、上記固相担体に結合させた核酸を溶出液に溶出する。本発明で用いられる上記溶出液は、例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、トリス酢酸緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液、MES緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液等、核酸の溶出を促進しかつ核酸保存に適した緩衝液であれば特に限定されるものではないが、特にトリス塩酸緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液、1mM EDTA、pH 8.5)が好ましい。
【0018】
本発明はさらに、上記核酸抽出方法を用い、微生物を含む血液試料から微生物の核酸を抽出するための核酸抽出装置、および核酸抽出用試薬キットをも提供する。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、以下に述べる実施例は本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<血液感染モデルからのStaphylococcus aureus DNAの調製>
(微生物の培養、血液感染モデルの作製)
はじめにStaphylococcus aureus strain ATCC 29213を羊血液寒天培地(ニッスイ社製)にて、37℃で12時間培養した。培養後の微生物集落(コロニー)を、1つを108個として、滅菌リン酸緩衝液(pH7.0)(インビトロジェン社製)を用いて段階希釈し、菌量が102個/10μLの希釈液を1.5mLマイクロチューブ(エッペンドルフ社製)に作製した。この希釈液10μLを健常人より真空採血管(EDTA2K採血管:ベクトンデッキンソン社製)にて採血した血液試料990μLに混合して菌量が102個/1mL血液の血流感染モデルを作製した。
【0021】
(微生物溶解処理)
血液感染モデル900μLに、微生物溶解酵素であるN−アセチルムラミデイスSG(生化学工業社製)溶液(10mg/mL:10mM トリス−マレイン酸緩衝液(pH5.5))100μLと非イオン性界面活性剤であるトリトンX−100(キシダ化学社製)を1%濃度で含有した20mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH5.5)とを1mL加え、緩やかに混合させた(トリトンX−100の作用濃度0.5%(w/w))。その後、37℃で30分間加温した。
【0022】
Staphylococcus aureus DNAの抽出)
次に、ChargeSwitch gDNA 50−100μL Blood kit(インビトロジェン社製)付属のChargeSwitch Magnetic Beadsを200μL加え、さらにPurification buffer/N5(インビトロジェン社製)を250μL加えて、緩やかに攪拌した。その後、3分間放置し、Staphylococcus aureus 由来のDNAを固相担体のChargeSwitch Magnetic Beadsに吸着させた。
【0023】
Magnetic Beads分離用スタンド(Magna−Sep)(インビトロジェン社製)にマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、溶液を捨てた。
【0024】
残ったMagnetic BeadsにWash Buffer/W12(インビトロジェン社製)を1mL加え、緩やかに攪拌した後、1分間放置した。
【0025】
Magnetic Beads分離用スタンド(Magna−Sep)(インビトロジェン社製)にマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、Wash Buffer/W12を捨てた。
【0026】
残ったMagnetic BeadsにElution Buffer/E5(インビトロジェン社製)を200μL加え、緩やかに攪拌した後、3分間放置した。
【0027】
Magnetic Beads分離用スタンド(Magna−Sep)にマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、Elution Buffer/E5を新しいマイクロチューブに移し、DNA抽出液を得た。
【0028】
(DNA抽出液の精製・濃縮)
先に得られたDNA抽出液をさらに精製、濃縮を行った。
【0029】
まず、DNA抽出液にLysis Buffer/L12を1mL、ChargeSwitch Magnetic Beadsを40μL、Purification buffer/N5を50μL加えて、緩やかに攪拌し、BeadsにDNAを吸着させた。
【0030】
Magnetic Beads分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、溶液を捨てた。
【0031】
次に、残ったMagnetic BeadsにWash Buffer/W12を1mL加え、緩やかに攪拌した後、1分間放置した。
【0032】
次に、Magnetic Beads分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、Wash Buffer/W12を捨てた。
【0033】
次に、残ったMagnetic BeadsにLysis Buffer/L12を1mL加え、緩やかに攪拌した後、1分間放置した。そしてさらにPurification buffer/N5を50μL加えて、緩やかに懸濁し、BeadsにDNAを吸着させた。
【0034】
次に、Magnetic Beads分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、溶液を捨てた。
【0035】
次に、残ったMagnetic BeadsにWash Buffer/W12を1mL加え、緩やかに攪拌した後、1分間放置した。
【0036】
次に、Magnetic Beads分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、Wash Buffer/W12を捨てた。
【0037】
残ったMagnetic BeadsにElution Buffer/E5を50μL加え、緩やかに攪拌した後、3分間放置した。
【0038】
Magnetic Beads分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、1分間放置後、Magnetic Beadsをマイクロチューブの壁面に集めたまま、Elution Buffer/E5を新しいマイクロチューブに移し、DNA精製、濃縮液を得た。
【0039】
以上の手順により得られたDNA精製、濃縮液中の微生物由来の核酸の存在を、以下に示すPCR増幅およびそのPCR産物の電気泳動を行うことにより確認した。
【0040】
<検体増幅用PCR Primerの準備>
感染症菌検出用の16s rRNA遺伝子(標的遺伝子)増幅用PCR Primerとして表1に示す核酸配列を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしている核酸部分を特異的に増幅するプローブセット、つまり約1500塩基長の16s rRNAコーディング領域の両端部分で、特異的な融解温度をできるだけ揃えたプライマーを設計した。なお、変異株や、核酸上に複数存在する16s rRNAコーディング領域も同時に増幅できるように複数種類のプライマーを設計した。
【0041】
【表1】

【0042】
<検体のPCR増幅>
Template Genomeとして、上記DNA抽出液の精製・濃縮手順後に得られたDNA溶液を用いた。検体となる微生物遺伝子のPCR増幅試薬組成を以下に示す。
Premix ExTaq (タカラバイオ社製) :25μL
Forward Primer mix (20pmol/tube each) :2.5μL
Reverse Primer mix (20pmol/tube each) :2.5μL
Template Genome :7μL
H20 :13μL
Total: :50μL。
【0043】
上記組成の反応液を以下のPCRプロトコールに従って、サーマルサイクラー(Applied Biosystems社製)で増幅反応を行った。
(1)95℃:10分
(2)92℃:45秒
(3)65℃:45秒
(4)72℃:45秒
(5)72℃:10分
(6)4℃:∞
反応ステップ(1)を行なってから反応ステップ(2)〜(4)を40サイクル繰り返してから反応ステップ(5)、(6)を行った。
【0044】
<PCR産物の検出確認>
上記、検体のPCR増幅手順後に得られたPCR産物をバイオアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて電気泳動を行い、PCR産物の検出確認を行った。なお、PCR産物および泳動試薬は、DNA 7500 LabChip Kit(Agilent Technologies社製)の手順に従い調製した。その結果、図1のように産物長約1500bp付近にPCR増幅産物が確認され、血液感染モデルからのStaphylococcus aureus DNAの抽出が確認された。
【0045】
(実施例2)
微生物溶解酵素処理において、N−アセチルムラミダーゼおよびリゾチームの組み合わせによる分解を用いた核酸抽出の実施例を示す。
【0046】
<血液感染モデルからのStaphylococcus aureus DNAの調製>
(微生物の培養、血液感染モデルの作製)
実施例1と同様の手順に従って微生物培養を行い、102個/1mL血液の血流感染モデルを作製した。
【0047】
(微生物溶解処理)
血液感染モデル800μLに、微生物溶解酵素であるN−アセチルムラミデイスSG(生化学工業社製)溶液(10mg/mL:10mM トリスーマレイン酸緩衝液(pH5.5))100μLおよびリゾチーム(生化学工業社製)溶液(1μg/mL:50mMリン酸緩衝液(pH6.0))100μL加え、さらにトリトンX−100 (キシダ化学社製)を1%濃度で含有した20mMトリス−マレイン酸緩衝液(pH5.5)を1mL加え、緩やかに混合させた(トリトンX−100の作用濃度0.5%(w/w))。その後、37℃で30分間加温した。
【0048】
Staphylococcus aureus DNAの抽出)
実施例1と同様の手順に従い、Staphylococcus aureusよりDNAの抽出を行なった。
【0049】
(DNA抽出液の精製・濃縮)
上記のようにして得られたDNA抽出液を、実施例1と同様の手順に従って、精製および濃縮を行った。上記手順により得られたDNA精製、濃縮液中の微生物由来の核酸の存在を、以下に示すPCR増幅およびそのPCR産物の電気泳動を行うことにより確認した。
【0050】
<検体増幅用PCR Primerの準備>
実施例1と同様の手順に従い、本実施例にて使用するプライマーを設計した。
【0051】
<検体のPCR増幅>
実施例1と同様の手順に従い、検体のPCR増幅を行なった。
【0052】
<PCR産物の検出確認>
実施例1と同様の手順に従い、PCR産物の検出確認を行なった。その結果、図2のように産物長約1500bp付近にPCR増幅産物が確認され、血液感染モデルからのStaphylococcus aureus DNAの抽出が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1に示す方法にて抽出を行ったDNA抽出液を、該実施例に示す方法にてPCR増幅したPCR産物を電気泳動を行い、産物の存在を確認した電気泳動像である。
【図2】実施例2に示す方法にて抽出を行ったDNA抽出液を、該実施例に示す方法にてPCR増幅したPCR産物を電気泳動を行い、産物の存在を確認した電気泳動像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む血液試料から、該微生物の核酸を抽出するための方法であって、
(1)該微生物を含む血液試料に対して、微生物細胞壁分解酵素および非イオン性界面活性剤を作用させて、血球細胞の細胞膜を維持しつつ該微生物由来の核酸を血液試料中に分散させる工程と、
(2)血液試料中に分散した該微生物由来の核酸を固相担体に結合させる工程と、
(3)核酸を結合させた該固相担体と血球細胞とを分離する工程と、
(4)該固相担体に結合させた核酸を溶出液に溶出する工程と、
を有することを特徴とする微生物の核酸抽出方法。
【請求項2】
前記微生物が、真正細菌、酵母または糸状菌である請求項1記載の核酸抽出方法。
【請求項3】
前記微生物細胞壁分解酵素が、N−アセチルムラミダーゼ、ラビアーゼ、アクロモペプチダーゼ、ぺプチダーゼ、リゾチーム、エンド−β−1,4−グルカナーゼ、エキソ−β−1,4−グルカナーゼ、エンド−β−1,3−グルカナーゼ、エキソ−β−1,3−グルカナーゼ、β−1,6−グルカナーゼ、エンド−β−1,4−キシラナーゼ、エキソ−β−1,4−キシラナーゼ、エンド−β−1,3−キシラナーゼ、エキソ−β−1,3−キシラナーゼのいずれか、または2以上の組み合わせである請求項1記載の核酸抽出方法。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである請求項1記載の核酸抽出方法。
【請求項5】
前記微生物に対し、微生物細胞壁分解酵素および非イオン性界面活性剤を作用させる温度が20から40℃である請求項1記載の核酸抽出方法。
【請求項6】
前記溶出液がリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、トリス酢酸緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液、MES緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液のいずれかまたは2つ以上の組み合わせである請求項1記載の核酸抽出方法。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤の作用濃度が0.5から0.9%(w/w)である請求項1記載の核酸抽出方法。
【請求項8】
微生物を含む血液試料から、該微生物の核酸を抽出するための装置であって、
(1)該微生物を含む血液試料に対して、微生物細胞壁分解酵素および非イオン性界面活性剤を作用させる手段と、
(2)前記手段によって血液試料中に分散した該微生物由来の核酸を固相担体に結合させる手段と、
(3)核酸を結合させた該固相担体と血球細胞とを分離する手段と、
(4)該固相担体に結合させた核酸を溶出液に溶出する手段と、
を備えることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項9】
微生物を含む血液試料から、該微生物の核酸を抽出するための試薬キットであって、
(1)該微生物を含む血液試料に対して添加される、微生物細胞壁分解酵素および非イオン性界面活性剤と、
(2)血液試料中に分離した該微生物由来の核酸を結合させるための固相担体と、
(3)該固相担体に結合させた核酸を溶出する溶出液と、
を備えることを特徴とする核酸抽出用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−247250(P2009−247250A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97023(P2008−97023)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】