説明

血液浄化システムの温度センサ取付構造

【課題】血液浄化システムの液用回路を流れる流体の温度を検出するセンサを、液用回路に対し簡単な操作で取り付ける。
【解決手段】血液透析システムの透析液内で発生した気泡を分離する脱気チャンバ32に、チャンバの外壁面からチャンバ内に延びる有底円筒状のセンサ収容部48を設ける。脱気チャンバ32は、当該システムの機器を収容する装置本体36の所定位置に固定される。この固定位置に、棒状の温度センサ34を回動可能に支持するセンサ支持機構を設ける。脱気チャンバ32を装置本体に装着する際に、センサ収容部48に温度センサ34が差し込まれるようにする。脱気チャンバ32の装着と、温度センサ34の取り付けが一連の作業で行われる。また、温度センサ34が回動可能に支持されているので、温度センサ34に無理な力が掛からない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
血液透析等の血液を体外に取り出して浄化するシステムに関し、特に、当該システムの液用回路を流れる血液、透析液等の温度センサの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
血液を患者の体外に一旦取り出し、所定の処理を行った後、体内に戻す治療法が知られている。例えば、血液透析においては、取り出した血液と透析液をダイアライザに供給し、ここで、半透膜を介して血液中の老廃物を透析液に移行させ、その後浄化された血液を体内に戻す。また、アフェレシス療法においては、取り出した血液中の病因物質を吸着、ろ過等の処理により取り除き、その後浄化された血液を体内に戻す。
【0003】
また、体内に戻す血液の温度が下がらないように、血液または透析液等を温めることが行われている。この温度を適切に保持するために、温度センサが用いられている。血液、透析液等の流れる回路は治療ごとに交換するため、温度センサもその度に、透析液等の流れる回路に対し脱着する必要がある。下記特許文献1には、循環体液回路に脱着される温度の測定器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−16144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、血液浄化システムの液用回路に装着される温度センサは、治療ごとに脱着される。したがって、温度センサの脱着が簡易に行えることが望ましい。
【0006】
本発明は、血液浄化システムの液用回路に対し簡易に脱着可能な温度センサの取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る血液浄化システムは、当該システムを構成する少なくとも一部の機器を装備する装置本体を有し、この装置本体の外面の所定位置に、血液浄化システムの液用回路の一部であり、液用回路を流れる液体が一時的に滞留するチャンバが固定される。また、この血液浄化システムは、液用回路を流れる液体の温度を検出する温度センサを有する。温度センサは、棒形状であり、チャンバにはこの温度センサを受け入れ、収容するセンサ収容部が設けられている。温度センサは、装置本体のチャンバ固定位置に、傾動可能な状態でセンサ支持機構に支持される。
【0008】
装置本体のチャンバ固定位置にチャンバを固定する際、温度センサに有底筒状部の位置を合わせ、温度センサが有底筒状部に差し込まれるようチャンバを移動し、固定位置に装着する。
【0009】
温度センサを支持するセンサ支持機構は、柔軟な部材を介して温度センサを支持するものとできる。また、温度センサを一つの軸線回りに回動可能に支持するものとできる。さらに温度センサを球面ジョイントを介して支持するものとできる。
【0010】
また、チャンバは、装置本体に固定された、少なくとも一方が弾性を有する二つの保持片により挟まれて保持されるようにできる。
【発明の効果】
【0011】
チャンバと温度センサの脱着が一連の動作の中で行うことができ、作業が簡略となる。また、温度センサが傾動可能に支持されていることにより、チャンバ脱着時に温度センサに無理な力が掛からないようにできる。このため、温度センサの破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】血液透析システムの概略構成を示す図である。
【図2】装置本体に装着された状態の脱気チャンバと温度センサ支持機構の外観を示す斜視図である。
【図3】脱気チャンバと温度センサの断面図である。
【図4】図2および3に示す脱気チャンバの脱着操作の説明図である。
【図5】他の脱気チャンバと温度センサ支持機構を示す部分断面図である。
【図6】図5に示す脱気チャンバの脱着操作の説明図である。
【図7】さらに他の脱気チャンバと温度センサの支持機構を示す斜視図である。
【図8】図7に示す脱気チャンバの着脱操作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本発明に係る血液浄化システムの一例として血液透析システム10の概要を示す図である。実線の矢印で示す流れが血液の流れ、破線の矢印で示す流れが透析液の流れである。患者Pから取り出された血液は、血液ポンプ12によりダイアライザ14に送られ、ダイアライザ14を通過した後、再び患者の体内に戻される。この血液回路には、所定箇所の圧力を検出するための圧力センサ16が設けられている。図示するシステムにおいては、患者Pから取り出し、血液ポンプ12へ流れる配管の途中、血液ポンプ12からダイアライザ14に至る配管の途中、およびダイアライザ14から患者Pへ血液を戻す配管の途中の3箇所に圧力センサ16に圧力センサが配置されている。また、血液ポンプ12とダイアライザ14の間に、血液に所定の薬液を注入するためのシリンジ18を必要に応じて接続することができる。
【0014】
透析液は、透析液バッグ20からダイアライザ14を介して廃液バッグ22に至る。この透析液回路には、ダイアライザ14へ透析液を送る透析液ポンプ24と、ダイアライザ14から廃液バッグ22に透析液を送る除水ポンプ26が配置されている。また、ダイアライザ14と除水ポンプ26の間に圧力センサ28が配置されている。透析液バッグ20からダイアライザ14に送られる配管には、透析液を温める透析液ヒータ30が設けられ、透析液が血液を冷やすことがないようにしている。透析液ヒータ30の下流には、脱気チャンバ32が設けられ、透析液を一旦溜めて、加熱により生じた気泡を分離して、液体部分のみダイアライザ14に送られるようにしている。また、脱気チャンバ32には温度センサ34が装着され、透析液ヒータ30による加熱に対しフィードバックを行っている。
【0015】
図2は脱気チャンバ32の外観を示す斜視図、図3は断面図である。図示される脱気チャンバ32は、血液ポンプ12、透析液ポンプ24、除水ポンプ26、透析液ヒータ30、電源および制御装置等の血液透析システムの一部の機器を収容する装置本体36の側面に装着されている。図においては、装置本体36は一部のみが示されている。脱気チャンバ32は、概略筒形状を有し、筒の軸線が上下となるように装置本体36の側面に装着されている。脱気チャンバ32の上部には、透析液ヒータ30を通過した透析液を受け入れる透析液入口38および透析液が透析液ポンプ24に向けて流れ出る透析液出口40が設けられている。透析液出口40から、脱気チャンバ32の底部に向けて出口延長管42が延びている。透析液入口38から流入した透析液は、脱気チャンバ32内に溜まり、透析液内に発生した気泡は、脱気チャンバ内の上部に溜まる。透析液は下部に溜まり、出口延長管42は、下部に溜まった透析液まで延び、ここから透析液が流出する。
【0016】
装置本体36の側面には保持クリップ44が設けられ、これに脱気チャンバ32が保持される。保持クリップ44は、装置本体側面に対しほぼ垂直に延び、脱気チャンバ32の側面を挟む二つの保持片46を有している。保持片46は弾性を有し、また脱気チャンバ32の側面形状に沿う部分を一部に有している。例えば、脱気チャンバ32が円筒形状である場合には、保持片46は円弧形状の部分を有し、円弧形状部分を脱気チャンバ32に当接するようにし、保持片の弾性により脱気チャンバ32を挟持する。なお、保持片46の一方のみ弾性を有するようにしてもよい。
【0017】
脱気チャンバ32は、その底部に温度センサ34を収容するセンサ収容部48を有する。センサ収容部48は、脱気チャンバ32の底面から脱気チャンバ32の内部に進出して延びる有底円筒形状を有し、棒状の温度センサがこの中にぴったりと収まる。センサ収納部48を前述の構成にすることによって、チャンバ内の液体温度を正確に測定することができる。温度センサ34は、装置本体36の側面に固定されたセンサ支持機構50に支持されている。センサ支持機構50は、装置本体側面に固定され、回動軸52を支持する固定部分54と、回動軸52に回動可能に支持される回動部分56を有している。回動部分56は、温度センサ34が回動部分の上面から上方に向けて突出するように、温度センサ34を保持している。
【0018】
図4は、脱気チャンバ32を装置本体36に装着する過程および温度センサ34を脱気チャンバ32に取り付ける過程の説明図である。脱気チャンバ32を装置本体36に装着するために、まず脱気チャンバの底部に設けられたセンサ収容部48を温度センサ34の先端に位置合わせする。このとき、保持クリップ44と干渉しないよう、脱気チャンバ32は図示されるよう斜めの配置とされる。筒形状のセンサ収容部48と、棒形状の温度センサ34のそれぞれの軸線の向きを揃え、図4中の矢印Aの方向に脱気チャンバ32を移動させて、センサ収容部48内に温度センサ34を挿入させる。このとき、温度センサ34は、これを保持する回動部分56が図4中矢印Bの方向に回動可能に支持されているために、回動軸52の中心線(軸線)回りに回動して傾くことができる。これにより、温度センサ34の脱気チャンバ32への挿入過程で、温度センサ34を曲げるように働くモーメントを逃がし、温度センサ自体に負荷がかからないようにされている。
【0019】
温度センサ34を根元まで挿入した後、脱気チャンバ32を図4に示す斜めの位置から保持クリップ44に向けて、起こすように回動させて、保持クリップ44の二つの保持片46の間に押し込む。二つの保持片46は撓んで互いに広がり、保持片の円弧部分に対応する位置まで脱気チャンバ32が押し込まれると、再び閉じて脱気チャンバ32を挟持する。脱気チャンバ32の取り外しは、装着と逆の動作で行われる。取り外し過程においても、温度センサ34が傾動することにより、温度センサにかかる負荷を減じ、温度センサの損傷を防止している。
【0020】
以上のように、脱気チャンバ32の装置本体36に対する装着と、脱気チャンバ32に対する温度センサ34の取り付けを一連の作業の中で行えるので、作業性が向上する。また、温度センサ34が傾動可能に支持されているので、これに負荷が掛からないようにして損傷を防止している。また、脱気チャンバ32に限らず、別のチャンバ様の部材に棒状のセンサを収容可能な収容部を設けることも可能である。
【0021】
また、センサ支持機構50は装置本体36の側面から張り出すように設けられているが、装置本体36の上方を向いた面に設けてもよい。この場合、固定部分54をその面から突出させるのではなく、装置本体36内に回動軸を支持する構造を設けるようにしてもよい。また、温度センサ34は上方に向けて延びるように配置されているが、側方に向けられてもよい。この場合、脱気チャンバは、後述する図5,6に示す構成例のようにチャンバ側面にセンサ収容部を有するようにする。
【0022】
図5および図6は、センサ支持機構の別の構成例を示す図である。センサ支持機構58は、装置本体36の側面に設けられた球面ジョイントである。球面ジョイントは、装置本体36に形成された受け部60と、受け部60の内面に支持される球体62を有する。受け部60は、球体62が、その位置での回転は許容するが、移動はできないように、これを保持している。球体62は、その中心を貫く貫通孔(不図示)が開けられており、この貫通孔を通して棒状の温度センサ34およびこれから延びるケーブルが球体62を貫通している。温度センサ34は、装置本体36の側面から横方向に向けて突出しており、球面ジョイントの機能により、その先端の向きを上下左右に自由に変えることができる。この温度センサ34の配置に対し、脱気チャンバ64には、円筒の側面よりチャンバ内部に向けて延びるセンサ収容部66が設けられている。センサ収容部66も、前述のセンサ収容部48と同様、有底の円筒形状を有し、棒状の温度センサ34が差し込まれると、ぴったりと嵌る。脱気チャンバ64のセンサ収容部66以外の部分の構成は、前述の脱気チャンバ32と同様であるので説明は省略する。
【0023】
脱気チャンバ64を装置本体36に装着する際には、温度センサ34の先端をセンサ収容部66の開口に位置合わせして、棒状の温度センサ34と、筒形状のセンサ収容部66の互いの軸線を揃えた状態で、図6中矢印Cの方向に沿って、脱気チャンバ62を装置本体36に向けて押し込む。このとき、球面ジョイントに支持される温度センサ34は、上下左右の二つの自由度をもって傾くことが可能であり、脱気チャンバ62に温度センサ34が挿入される過程において、温度センサ34に掛かる曲げモーメントを逃がしている。取り外しの際も同様である。
【0024】
なお、図5,6においては省略されているが、装置本体36の所定位置には、脱気チャンバ62を保持する手段が設けられている。この手段は、例えば、前述の保持クリップ44とすることができる。
【0025】
センサ支持機構58は、装置本体36の側面に設けられているが、装置本体36の上方を向いた面に備えられてもよく、また装置本体の側面から張り出すように設けられた棚状部分の上面に配置してもよい。この場合、温度センサは上方に向けて延びるように配置され、脱気チャンバのセンサ収容部は、図2,3に示された例のように円筒の底面に配置される。
【0026】
図7および図8は、センサ支持機構の更に別の構成例を示す図である。センサ支持機構68は、装置本体36の上面に設けられ、柔軟性を有する支持部材70を有している。支持部材70は弾性部材でよく、例えばゴム製でよい。支持部材70は、内部に貫通孔を有し、この貫通孔を温度センサ34およびそのケーブル72が貫いている。支持部材70は、例えば円管形状であり、内部の貫通孔は径の異なる二つの部分からなる段付き孔とすることができる。貫通孔の径の細い部分に温度センサ34が挿入されて保持され、径の太い部分には、隙間をあけてケーブル72が収容されている。貫通孔の径の太い部分、特に径の細い部分から遠い位置の管外周に溝が形成され、この溝に装置本体36の表面を構成するパネルが嵌って、支持部材70が固定されている。支持部材70は柔軟であるので、温度センサ34は、前後左右2自由度をもって傾動可能に支持されている。脱気チャンバは、前述の脱気チャンバ32と同様の構成を有するものであり、説明は省略する。
【0027】
脱気チャンバ32を装置本体36に装着する際には、脱気チャンバ32のセンサ収容部48の開口に温度センサ34の先端の位置を合わせ、円筒状のセンサ収容部48と棒状のセンサ34の軸線を揃えた状態で、図8中の矢印Eの方向に沿って、脱気チャンバ32を装置本体36に向けて押し込む。このとき、柔軟な支持部材70に支持される温度センサ34は、前後左右の二つの自由度をもって傾くことが可能であり、脱気チャンバ32に温度センサ34が挿入される過程において、温度センサ34に掛かる曲げモーメントを逃がしている。脱気チャンバ32を取り外す際も、同様である。
【0028】
センサ支持機構68について、装置本体36の上面に設ける態様について説明したが、他の上方を向いた面に設けることも可能である。例えば、装置本体の側面に、側面から張り出した棚状部分を設け、この部分の上面にセンサ支持機構68を設けるようにしてもよい。また、装置本体36に階段状の部分を設け、この階段形状の踏面に相当する面に、センサ支持機構68を設けてもよい。また、図5,6に示す例のように、装置本体36の側面に、温度センサが側方に延びるようにセンサ支持機構68を設けてもよい。この場合、脱気チャンバのセンサ収容部は、図5,6の例のように円筒の側面に配置される。
【0029】
以上においては、血液透析システムを用いて本発明の実施の形態を説明した。しかし、血液透析システムに限らず、血液を体外に取り出し、処理した後、体内に戻す他のシステム、例えばアフェレシス療法等のシステムに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 血液透析システム、32 脱気チャンバ、34 温度センサ、 36 装置本体、44 保持クリップ、48,66 センサ収容部、50,58,68 センサ支持機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化システムを構成する少なくとも一部の機器を装備する装置本体と、
前記血液浄化システムの液用回路の一部であり、前記液体が一時的に滞留し、装置本体の外面の所定位置に固定されるチャンバと、
前記液用回路を流れる液体の温度を検出する、棒形状の温度センサと、
装置本体のチャンバ固定位置に、傾動可能に温度センサを支持するセンサ支持機構と、
を有し、
チャンバには、チャンバが固定位置に固定されたときに、棒状の温度センサを収容するセンサ収容部が設けられている、
血液浄化システムの温度センサの取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載の温度センサの取付構造であって、センサ支持機構は、柔軟な部材を介して温度センサを支持する、温度センサの取付構造。
【請求項3】
請求項1に記載の温度センサの取付構造であって、センサ支持機構は、温度センサを一つの軸線回りに回動可能に支持する、温度センサの取付構造。
【請求項4】
請求項1に記載の温度センサの取付構造であって、センサ支持機構は、球面ジョイントを介して温度センサを支持する、温度センサの取付構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の温度センサの取付構造であって、チャンバは、装置本体に固定された、少なくとも一方が弾性を有する二つの保持片により挟まれて保持される、温度センサの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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