説明

血液浄化方法および装置

【課題】 血液または血漿中に含まれる多種の病原物質を効率的に除去することができ、かつ、その除去能力を長時間維持することができる血液浄化方法および血液浄化装置を提供する。
【解決手段】 血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、内壁に光触媒を担持させた微小流路と、前記微小流路の全体または一部を透過する電磁波の発生源と、血液または血漿の流通機構とを備えた血液浄化装置を用いて、血液または血漿を連続的に流通させながら、該微小流路に電磁波を透過させて光触媒作用を誘起させることにより、血液または血漿中の病原物質を連続的に分解除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液または血漿等の液体中に存在するビリルビン、アンモニア、エンドトキシン、胆汁酸、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等の各種有害物質を効率的に減少させる血液浄化方法およびそれに用いられる血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高度の肝機能障害等を有する患者に対する治療法の一つとして、該患者の血液や血漿を吸着剤に接触させ、物理化学的現象あるいは免疫反応を利用して病因物質である有害物質を除去する血液浄化法による治療が行われている。
上記血液浄化法の治療においては、目的とする病原物質を選択的に吸着する吸着剤を充填したモジュールに、血液または血漿を流通させる手法を採用した血液浄化装置が広く使用されている。
【0003】
前記吸着剤は、例えば、アンモニアのような分子量5000以下の低〜中分子量領域の物質の除去には、活性炭が有効であり、また、ビリルビンや胆汁酸等のタンパク結合物質に有効なものとしては、陰イオン交換樹脂が用いられている。
また、エンドトキシンには、例えば、特許文献1に記載されているような炭酸カルシウムをはじめとする水不溶性カルシウム塩を有効成分とした吸着除去剤が提案されており、あるいはまた、抗生物質によるエンドトキシンの吸着除去方法は、既に実用化されている。
【0004】
さらに、本出願人は、酸化チタンの吸着作用およびその光触媒活性による分解作用を併用して、血液または血漿等の液体中に含まれる複数の有害物質、例えば、ビリルビン、アンモニア、胆汁酸、エンドトキシン等を効率的に除去することができる血液浄化剤を既に提案している(特願2003−346738、特願2003−398377、特願2003−398376)。
【0005】
ところで、最近、分析化学、合成化学に限らず、生化学の分野においても、例えば、特許文献2に記載されているような透明基板等に微細な溝による流路が形成されたマイクロチップ等が、流体操作のための有用なマイクロリアクタとして注目されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−265691号公報
【特許文献2】特開2004−210592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、吸着剤や血液浄化剤を用いた従来のモジュールによる血液浄化装置は、除去すべき病原物質に応じて吸着剤等を選択使用することにより、血液または血漿の浄化を図るものであり、血液または血漿を比較的多量に流通させることを要し、そのため、相当量の吸着剤が必要であった。
しかも、前記吸着剤は、徐々に有害物質の除去能力が低下し、吸着飽和に達した時点でその除去能力は消失するため、その都度、吸着剤を交換しなければならなかった。
また、前記吸着剤は、上述のとおり、吸着特性に物質依存性があるため、すべての病原物質を単一のモジュールで除去することは困難であった。
【0008】
したがって、血液または血漿の浄化治療において、血液または血漿中に含まれる多種の病原物質を、単一のモジュールで効率的に除去することができ、かつ、該モジュールが長時間使用可能であることが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、血液または血漿中に含まれる多種の病原物質を効率的に除去することができ、かつ、その除去能力を長時間維持することができる血液浄化方法および血液浄化装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る血液浄化方法は、内壁に光触媒を担持させた微小流路内に、血液または血漿を連続的に流通させながら、該微小流路の全体または一部に電磁波を透過させて光触媒作用を誘起させることにより、血液または血漿中の病原物質を連続的に分解除去することを特徴とする。
上記血液浄化方法によれば、微小流路を利用した単一のモジュールで、電磁波に応答する光触媒作用により、血液または血漿中に含まれる多種の病原物質を効率的に除去することができる。
【0011】
また、本発明に係る血液浄化装置は、血液または血漿中の病原物質を連続的に分解除去する血液浄化装置であって、血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、内壁に光触媒を担持させた微小流路と、前記微小流路の全体または一部を透過する電磁波の発生源と、前記微小流路の導入口から排出口へ血液または血漿を流通させるための流通機構とを備えていることを特徴とする。
このような装置によれば、上記血液浄化方法を好適に実施することができる。
【0012】
前記血液浄化装置は、光触媒の効果を十分に発揮させるため、前記微小流路の全体または一部が、その内壁において光触媒作用を誘起する波長の電磁波を透過する材質により構成されていることが好ましい。
【0013】
前記微小流路の内壁には、酸化チタンを含むコーティング剤または焼成処理により酸化チタンとなるコーティング剤による薄膜が形成されていることが好ましい。
本発明においては、このようにして、酸化チタンを光触媒として内壁に担持させた微小流路を好適に用いることができる。
【0014】
前記微小流路の断面積は、7.85×10-3mm2以上1mm2以下であることが好ましい。
有害物質の分解効率の観点からは、できる限り流路の断面積を小さくすることが好ましいが、血液または血漿は粘性が高いため、流路の断面積が小さすぎると、流量が制限されることから、微小流路の断面積は、上記範囲内であることが好ましい。
【0015】
また、前記微小流路の全部または一部がシリカガラスにより構成されていることが好ましい。
シリカガラスは、種々の電磁波の透過性に優れ、また、前記微小流路の内壁に光触媒を担持させる際に求められる耐熱性にも優れていることから、好適な材質である。
【0016】
さらに、前記微小流路の少なくとも一部がリン酸カルシウム系セラミックスを含んで構成されていることが好ましい。
微小流路において、光触媒とリン酸カルシウム系セラミックスとを併用することにより、より効率的な血液または血漿の浄化が可能となる。
【0017】
前記リン酸カルシウム系セラミックスは、ハイドロキシアパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムであることが好ましい。
ハイドロキシアパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムは、エンドトキシン、肝炎ウイルス、アンモニア、ビリルビン等の有害物質の吸着除去性能に優れていることから、本発明に係る微小流路に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
上述したとおり、本発明によれば、血液または血漿中に含まれる多種の病原物質を、単一のモジュールで効率的に除去することができ、しかも、その除去能力を長時間維持することができるため、該モジュールを交換することなく長時間使用可能となる。
したがって、微小流路を利用した本発明に係る血液浄化方法および装置は、血液透析をはじめ、血漿交換、吸着療法等の体外循環による血液浄化治療の効率化に寄与し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係る血液浄化方法においては、内壁に光触媒を担持させた微小流路内に、血液または血漿を連続的に流通させながら、該微小流路の全体または一部に電磁波を透過させて光触媒作用を誘起させることによって、血液または血漿中の病原物質を連続的に分解除去する。
上記血液浄化方法は、光触媒による有機化合物の分解反応を微小流路内で行うものであり、これにより、従来の血液浄化装置の問題点を解決することができ、血液または血漿中に含まれる多種の病原物質を効率的に除去することができる。
【0020】
上記血液浄化方法は、血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、内壁に光触媒を担持させた微小流路と、前記微小流路の全体または一部を透過する電磁波の発生源と、前記微小流路の導入口から排出口へ血液または血漿を流通させるための流通機構とを備えた本発明に係る血液浄化装置により、好適に実施することができる。
【0021】
前記微小流路は、流通させる血液または血漿の体積に対して流路内壁面積を大きくすることができるため、流路内壁に担持させた光触媒が効率よく作用する。
また、前記微小流路を、光触媒作用を誘起させる波長の電磁波を透過する材質により構成することにより、光触媒の効果を十分に発揮させることが可能となる。
【0022】
前記微小流路の内壁に担持させる光触媒は、紫外線や可視光線等の光に応答するもののみならず、ガンマ線、X線等のその他の電磁波によって、光触媒作用が励起されるものであってもよく、いわゆる電磁波応答型光触媒が用いられる。
前記光触媒としては、具体的には、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、セレン化カドミウム、タンタル酸カリウム、硫化カドミウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。これらのうち、酸化チタン、酸化ジルコニウムが、水中での自己溶解現象を生じないことから好ましく、特に、酸化チタンが、安価な励起光源であるブラックライトによる光照射で光触媒作用を奏するため好ましい。
酸化チタンは、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトの3種類の結晶構造をとるが、アナターゼ型の結晶構造を30%以上含む酸化チタンを用いることがより好ましい。
【0023】
前記光触媒は、有機系または無機系のバインダに光触媒を含有させたコーティング剤、または、金属アルコキシドを加水分解させて金属酸化物触媒としたコーティング剤を微小流路の内壁に塗布することによって担持させることが好ましい。特に、微小流路の壁面からの光触媒の剥離を防止する観点から、金属アルコキシドを加水分解させた金属酸化物触媒のコーティング剤が好適に用いられる。
チタンアルコキシドによるコーティング剤を用いる場合、そのアルコキシドは、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド等のいずれでもよい。
【0024】
上述のとおり、本発明において微小流路の内壁に担持させる光触媒は、酸化チタンが好ましく、その担持方法としては、酸化チタンを含むコーティング剤あるいはまた焼成処理により酸化チタンとなるコーティング剤を微小流路の内壁に塗布して薄膜を形成させることにより担持させることが好ましい。
【0025】
前記微小流路の材質は、流路内壁に担持させる光触媒の種類や担持方法に応じて適宜選択される。
光触媒が酸化チタンである場合は、波長380nm以下の紫外線を透過するものが好適に用いられる。例えば、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂が挙げられる。
また、前記微小流路の内壁に光触媒を担持させるために、金属アルコキシド系のコーティング剤を用いる場合は、結晶性に優れた薄膜を形成させるため、500℃以上800℃以下の熱処理を施すことが好ましいことから、耐熱性に優れたシリカガラスが好適に用いられる。
【0026】
また、前記微小流路の形状は、特に限定されないが、有害物質の分解効率の観点からは、できる限り流路の断面積を小さくすることが好ましい。
ただし、血液または血漿は粘性が高いため、流路の断面積が小さすぎると、流量が制限される。通常の透析治療においては、流量30ml/min.程度で処理する必要がある。
したがって、前記微小流路の断面積は、7.85×10-3mm2以上1mm2以下であることが好ましい。
前記断面積が7.85×10-3mm2未満である場合は、微小流路における血液または血漿の流量が小さすぎて、流動させるために大きな圧力が必要となり、実用的でない。
一方、前記断面積が1mm2を超える場合は、流通する血液または血漿中に含まれる有害物質の分解に時間がかかるため、流路を非常に長くしなければならない。
【0027】
前記微小流路において、酸化チタンの光触媒作用によって分解可能な有害物質は、胆汁酸、ビリルビン、エンドトキシン、アンモニア、B型肝炎ウイルス等が挙げられ、さらに、HIVウイルス、C型肝炎ウイルス、IL−6(インターロイキン−6)、IL−10、IL−1β、IL−8、TNF−α等の分解も期待される。
【0028】
さらに、前記微小流路の一部にリン酸カルシウム系セラミックスを含む構成とすることにより、より効率的な血液または血漿の浄化が可能となる。
血液または血漿を浄化するためにこれらに接触させる物質は、毒性がなく、不利な反応を起こさず、かつ、親和性が良好であることが求められる。
リン酸カルシウム系セラミックスは、人の骨と類似する構造を有しており、かつ、生体親和性が良好であることから、医用材料として好適である。
リン酸カルシウム系セラミックスの中でも、特に、ハイドロキシアパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムは、エンドトキシン、肝炎ウイルス、アンモニア、ビリルビン等の有害物質の吸着除去性能に優れており、本発明に係る微小流路に好適に用いることができる。
【0029】
前記リン酸カルシウム系セラミックスの形態は、特に限定されないが、有害物質の効率的な吸着除去の観点から、表面積が大きい微粒子であることが好ましい。
例えば、前記酸化チタンの薄膜形成のためのコーティング剤に添加して微小流路の内壁に塗布する等の方法により、光触媒と併用することが好ましい。このような光触媒との併用によって、血液または血漿中の有害物質の吸着作用および分解作用の両作用により、より一層の効率的な浄化を行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
シリカガラス基板に形成した幅600μm、深さ300μm、長さ90mmの微小流路の内壁に、アルコキシド系の酸化チタンコーティング剤を塗布し、大気中700℃で30分間熱処理し、酸化チタン薄膜を形成した。
前記微小流路の導入口から、約100μmol/lの胆汁酸溶液を流量2ml/hr.で流通させながら、ブラックライトにより光を照射した。流路における光強度は、9mW/cm2であった。
前記微小流路の排出口における溶液濃度は約40%低減されており、胆汁酸が分解されていることが認められた。
【0031】
[実施例2]
実施例1と同様にして、シリカガラス基板に形成した微小流路の内壁に、酸化チタン薄膜を形成した。
前記微小流路の導入口から、約10ng/lのエンドトキシン溶液を流量2ml/hr.で流動させながら、ブラックライトにより光を照射した。流路における光強度は、9mW/cm2であった。
前記微小流路の排出口における溶液濃度は約40%低減されており、エンドトキシンが分解されていることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁に光触媒を担持させた微小流路内に、血液または血漿を連続的に流通させながら、該微小流路の全体または一部に電磁波を透過させて光触媒作用を誘起させることにより、血液または血漿中の病原物質を連続的に分解除去することを特徴とする血液浄化方法。
【請求項2】
血液または血漿中の病原物質を連続的に分解除去する血液浄化装置であって、
血液または血漿の導入口および排出口が設けられ、内壁に光触媒を担持させた微小流路と、
前記微小流路の全体または一部を透過する電磁波の発生源と、
前記微小流路の導入口から排出口へ血液または血漿を流通させるための流通機構とを備えていることを特徴とする血液浄化装置。
【請求項3】
前記微小流路の全体または一部が、その内壁において光触媒作用を誘起する波長の電磁波を透過する材質により構成されていることを特徴とする請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記微小流路の内壁には、酸化チタンを含むコーティング剤または焼成処理により酸化チタンとなるコーティング剤による薄膜が形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記微小流路の断面積が7.85×10-3mm2以上1mm2以下であることを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記微小流路の全部または一部がシリカガラスにより構成されていることを特徴とする請求項2から請求項5までのいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記微小流路の少なくとも一部がリン酸カルシウム系セラミックスを含んで構成されていることを特徴とする請求項2から請求項6までのいずれかに記載の血液浄化装置。
【請求項8】
前記リン酸カルシウム系セラミックスが、ハイドロキシアパタイトおよび/またはリン酸三カルシウムであることを特徴とする請求項7記載の血液浄化装置。

【公開番号】特開2006−175092(P2006−175092A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372696(P2004−372696)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)
【Fターム(参考)】