説明

血液濾過用ガラス繊維フィルター、血液濾過器具および血液分析素子

【課題】 血球を分離するフィルターとしてガラス繊維を用いた場合、ガラス繊維からの溶出及びガラス繊維への吸着を抑制することができる、血液濾過用ガラス繊維フィルター。遠心分離によると同等の成分の血漿を短時間で濾過回収することができる血液濾過器具。検査精度をより高めることができ、さらには安全でかつ操作が簡便で多項目についても迅速に検出まで行うことの可能な血液分析素子。
【解決手段】 ガラス繊維を有機酸を用いて洗浄した後に、ガラス繊維の表面をポリ(アルコキシアクリレート)のような生体適合性の高分子で被覆してなる血液濾過用ガラス繊維フィルター。該血液濾過用ガラス繊維フィルターを用いた血液濾過器具および乾式血液分析素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトやその他の動物の血液検査方法に使用される血液濾過用のガラス繊維フィルター、該ガラス繊維フィルターを用いた血液濾過器具および血液分析素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血液、尿等を検体として人の病気を診断する方法は、人体を損ねることなく簡便に診断できる方法として、長く行われてきている。
【0003】
特に血液は、多くの検査項目について診断が可能である。
このような多項目の検査のための分析方法として、従来からウェットケミストリー分析法が開発されてきた。これは、いわゆる溶液試薬を用いる方法である。多項目の検査を目的とした、ウェットケミストリー分析法を用いた装置は、多項目に相当する多数の試薬溶液およびその取扱を組み合わせているため、一般に複雑であり、装置の取り扱い及び手順も簡便ではない。
【0004】
これに対して、分析を簡便に行うことができる方法が模索されている。
一つの方法として、分析法に溶液を使用しない、すなわち、特定成分の検出に必要な試薬類が乾燥状態で含有されている、いわゆるドライケミストリー分析方法が開発されてきている(非特許文献1、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、ウエットケミストリーにおいてもドライケミストリーにおいても、双方とも、検体が血液である場合、通常は全血を使用することはなく、血球成分を除去した後、血漿または、血清の形で分析に供する。血球成分を除去する方法として、従来は遠心力を使う方法で血球分離を行っており、遠心分離の作業が必要であり、遠心分離後の血漿を検出に用いるときには遠心分離後に一旦遠心分離の動作を止めて血漿の供給を行う必要があるなど、一連の動作で血漿分離・検出をすることが困難であり、検出に至るまでの時間が長いという問題があった。
これに対してフィルターを使う方法で血球分離をする装置が開発され(特許文献2等)ており、血球分離に要する時間がある程度短縮されたが、血球分離と検出は別の作業であり、時間の短縮が充分であるとは言い切れない。
また、血球を分離するフィルターとしてガラス繊維を用いた場合、ガラス繊維から溶出する成分或いはガラス繊維に吸着する成分がその後の血液検査の分析に影響を及ぼす可能性があるが、これに対してはガラス繊維を予め酢酸等の有機酸で処理する方法が提案されている。(特許文献2)
【0006】
一方、高齢化社会においては、手軽に健康状態を測ることのできる血液検査はますます重要性を増しており、また生活習慣病においても疾病の状態の変化を簡単に知ることのできる手段である。高齢者や、生活習慣病においては、健康状態/疾病の進行状態を経時的に観察することが必要であり、ますます血液検査を必要とする場面が多くなってきている。このため、医療関係者ばかりでなく、患者が自身で血液を採取し、簡便、迅速に分析することが可能な方法が望まれている。
これに対して、針による血液採取、濾過および遠心による血球分離、および電極法によるウェットケミストリー分析法を組み合わせて、血液採取から分析までの手段を一体化した分析装置が提案されている(特許文献4)が、操作の簡便性の点で充分に満足できるものには至っていない。また、測定値のばらつきが起こることがあり、臨床検査における測定の精度という観点からも満足できるものには至っていない。
さらに、医療現場では、検体の採取から分析、検出までがより迅速に行われることが求められている。また、近年、院内感染が大きな社会問題となっており、特に血液からの感染の防御が要望されている。検査時に検査従事者が血漿あるいは血清に触れてしまうことを防止できる血液検査ユニットとして、光検出器と組み合わせることにより、血液採取から分析、検出までの手段を一体化した分析装置が提案されている(特許文献5)。
【0007】
【特許文献1】特表2001−512826号公報
【特許文献2】特開平10−227788号公報
【特許文献3】特開2000−162208号公報
【特許文献4】特開2001−258868号公報
【特許文献5】特開2003−287533号公報
【非特許文献1】岩田有三、「11.その他の分析法(1)ドライケミストリー」、臨床化学実践マニュアル、医学書院、1993年、検査と技術増刊号、第21巻、第5号、p.328−333
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記したガラス繊維を有機酸で処理する方法(特許文献2)では、ガラスからのナトリウムなどの電解質成分の溶出を抑制することができているが、ガラスへの蛋白などの吸着を抑制することはできていなかった。
ガラス繊維に蛋白などの成分を吸着しにくくする方法としては、ヒト血清アルブミン(HSA),牛血清アルブミン(BSA)などをガラス繊維に予め吸着させておき、いわゆる非特異的な吸着を抑制することが考えられるが、血液中の成分分析に用いる全血を濾過する際には、予め吸着させたアルブミンが侠雑物となって成分分析に影響するので実用的ではない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、血球を分離するフィルターとしてガラス繊維を用いた場合、ガラス繊維からの溶出及びガラス繊維への吸着を抑制することができる、血液濾過用ガラス繊維フィルターを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記血液濾過用ガラス繊維フィルターを用いることにより、血漿中の成分の濃度に変化を起こすことがなく、遠心分離によると同等の成分の血漿を短時間で濾過回収することができる血液濾過器具を提供することにある。
【0010】
また、検体を多項目について検査する方法は、より操作性よく簡便なものが求められている。しかも臨床検査に用いる場合には安全で、かつ測定精度を充分なものとする必要がある。また、従来よりさらに多くの項目について、より迅速に検出まで行うことの可能な検査方法が求められている。
そこで、本発明のさらなる目的は、上記血液濾過用ガラス繊維フィルターを用いることにより、検査精度をより高めることができ、さらには安全でかつ操作が簡便で多項目について迅速に検出まで行うことの可能な血液分析素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ガラス繊維の表面を高分子で被覆すること等で、上記目的を達成しうることを知見した。
すなわち、本発明は、以下の構成により上記目的を達成したものである。
【0012】
1) ガラス繊維の表面を高分子で被覆してなることを特徴とする血液濾過用ガラス繊維フィルター。
2) ガラス繊維を酸を用いて洗浄した後に、該ガラス繊維の表面を高分子で被覆してなることを特徴とする血液濾過用ガラス繊維フィルター。
3) 前記高分子がアクリレート系高分子であることを特徴とする1)又は2)に記載の血液濾過用ガラス繊維フィルター。
4) 前記アクリレート系高分子がポリ(アルコキシアクリレート)であることを特徴とする3)に記載の血液濾過用ガラス繊維フィルター。
5) 1)〜4)のいずれかに記載の血液濾過用ガラス繊維フィルターを用いたことを特徴とする血液濾過器具。
6) 5)に記載の血液濾過器具において、複数の部材を嵌合させ、嵌合させる部分にシール部材を挟むことで減圧時に実質的に気密かつ水密となることを特徴とする血液濾過器具。
7) 1)〜4)のいずれかに記載の血液濾過用ガラス繊維フィルターを用い、該ガラス繊維フィルターを通過した濾液が乾式分析要素に接触することを特徴とする血液分析素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラス繊維からの溶出及びガラス繊維への吸着を抑制することができる、血液濾過用ガラス繊維フィルターが提供される。
また、本発明によれば、血漿中の成分の濃度に変化を起こすことがないので、遠心分離によると同等の成分の血漿を短時間で濾過回収することができる血液濾過器具が提供される。
さらにまた、本発明によれば、血漿中の成分の濃度に変化を起こすことがないので、検査精度をより高めることができ、さらには安全でかつ操作が簡便で多項目について迅速に検出まで行うことの可能な血液分析素子が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
[血液濾過用ガラス繊維フィルター]
以下、本発明の血液濾過用ガラス繊維フィルターについて説明する。
本発明の血液濾過用ガラス繊維フィルターは、表面を高分子で被覆してなるガラス繊維からなるフィルターである。
【0015】
「ガラス繊維」
ガラス繊維の材料としては、ソーダガラス、低アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、石英などが挙げられる。
【0016】
また、ガラス繊維として、円相当直径が5μm以下の繊維を用いて濾過することが好ましい。
本明細書でいう円相当直径とは、いわゆる等価直径(equivalent diameter)のことであり、機械工学の分野で一般的に用いられている用語である。任意断面形状の配管(本発明では、非水溶性物質、繊維、ガラス繊維に当たる。)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径といい、deq:等価直径は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる。これらの詳細は「機械工学事典」((社)日本機械学会編1997年、丸善(株))に記載されている。
円相当半径は、円相当直径と同様に算出する。
[参考図1]赤血球がガラス繊維GFに絡みつく走査型電子顕微鏡SEMの図(図1)
血液濾過の濾過材として用いるガラス繊維濾紙で、全血中の赤血球が捕捉される様子を観察した。ヘパリンリチウムを抗凝固剤とした真空採血管で健常人男性から全血を採血した。このときのHct値は45%であった。この全血をワットマン社製のガラス繊維濾紙GF/D(ガラス繊維の直径約3μm以下)に室温で10μL滴下し、1%グルタルアルデヒドを含有する0.1モル/Lリン酸緩衝液(pH7.4)の中に全血を滴下したガラス繊維濾紙を速やかに入れ、室温で2時間静置して赤血球を硬膜させた。その後、水/t−ブタノール混合液にガラス繊維濾紙を浸漬し、水/t−ブタノール混合比を徐々に変えて最終的にt−ブタノールに置換し、冷蔵庫に約1時間静置して凍結させた。ガラス繊維濾紙を含む凍結したt−ブタノール溶液を凍結乾燥機に入れて溶媒を除去した。こうして得た、全血を滴下してある乾燥状態のガラス繊維濾紙を走査型電子顕微鏡で観察し、倍率1000倍の写真を得た。図1に写真を示した。図1の写真において、写真のフルスケールの横幅は120μmである。赤血球が直径約3μm以下のガラス繊維で捕捉できている。
比較として、直径約8μmおよび直径約10μmのガラス繊維濾紙、ならびに直径約15μmのアセチルセルロース繊維濾紙を濾材として同様の実験を行った。直径約8μmのガラス繊維では、赤血球が捕捉できていない。直径約10μmのガラス繊維および直径約15μmのアセチルセルロース繊維では、赤血球は全く捕捉できていない。
このことから、特定の円相当直径をもつ繊維、すなわち非水溶性物質を、血液濾過用の濾材として用いることにより、検体として全血を用いる場合に、全血から赤血球を迅速に効率よく除去することができることが分かる。さらには、全血から赤血球を除去するのに、特別な装置を作動させる必要がないので、血漿を試薬に迅速に供給でき、測定に至るまでの時間を短縮できる。
[参考図2]赤血球がガラス繊維GFに絡みつくMC−FANの図(図2)
血液の流れを観察して計測する装置MC−FAN(日立原町電子工業(株)製)を用いて、赤血球などの細胞が微細流路を通過する際の動的形態観察を行う応用として、赤血球がガラス繊維に捕捉される様子を観察した。
容量200mLの三角フラスコにイオン交換水を100g入れ、そこにガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)100mgを秤量して投入し、マグネティックスターラを用いて撹拌して分散させ、濃度1000ppmのガラス繊維懸濁液を調製した。この1000ppmガラス繊維懸濁液300μLを生理的食塩水(生食)10mLに分散させ、濃度30ppmのガラス繊維懸濁液を調製した。30ppmガラス繊維懸濁液500μLとヘパリンリチウム採血管を用いて採血した全血500μLを静かに混合し、ガラス入り全血試料液を得た。比較として、全血と生食各々500μLを静かに混合した全血試料液を得た。
2種類の全血試料液における液の流れを、MC−FANの装置を用いて観察した。観察には日立原町電子工業(株)製のカスタムチップ(Bloddy6−7などの型式が付与)を用いた。2種類の全血試料液を観察した動画の1コマを図2に示した。全血試料液にガラス繊維がない場合は赤血球はスムーズに流れたが、全血試料液にガラス繊維が存在する場合は、直径2μm程度の細いガラス繊維に赤血球が絡まる様子を直接見ることができた。
【0017】
ガラス繊維については、後記[血液濾過ユニット](血液濾過器具)における「ガラス繊維濾紙」についての説明の記載等も参照。
【0018】
「表面被覆高分子」
ガラス繊維の表面を被覆する高分子としては、まず、血液中の成分として存在しない高分子でなければならない。また、高分子として、ポリスチレンスルホン酸,ポリスチレンスルフィン酸などの高分子電解質を、或いはポリエチレングリコール,エチレンオキサイド・プルピレンオキサイド共重合体などの高分子界面活性剤を用いると、全血中の赤血球が破壊(溶血)する可能性が高く、このような高分子を用いることも実用的ではない。なお、溶血は全血を遠心分離して得た上清の色味を目視で確認することによって、簡便に確認することができる。
そこで、ガラス繊維の表面を生体適合性高分子で被覆することによって、溶血の可能性を最小限に抑えることができる。具体的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート(PHEMA)、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)などのアクリレート系高分子、より好ましくはPMEAなどのポリ(アルコキシアクリレート)を使用して表面処理をする方法などを挙げることができる。
溶血を起こすことのない生体適合性の高分子としては、アクリレート系高分子以外にも、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、絹、ポリ(εーカプロラクトン)を挙げることができるが、アクリレート系高分子は、適度に親水性であるという点で好ましい。
また、アクリレート系高分子としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリ(アルキル(メタ)アクリレート)、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート(PHEMA)等のポリ(ヒドロキシ(メタ)アクリレート)、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)等のポリ(アルコキシ(メタ)アクリレート)を、挙げることができる。
特に、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)等のポリ(アルコキシアクリレート)が、ガラス繊維表面を処理する際にエタノール、メタノールなどのアルコール系の有機溶媒に溶解させることができるので、取り扱いのしやすさの点で好ましい。
また、ガラス繊維の表面を高分子で被覆する方法としては、浸漬、塗布、噴霧など、通常の高分子による被覆方法を採用することができる。具体的には、後述するガラス繊維濾紙をポリマー溶液に浸漬する方法やガラス繊維濾紙にポリマー溶液を噴霧する方法が挙げられるが、ガラス繊維の表面を均一に被覆するという点で、ガラス繊維濾紙をポリマー溶液に浸漬する方法が好ましい。
【0019】
「酸洗浄」
本発明の血液濾過用ガラス繊維フィルターとしては、ガラス繊維を酸を用いて洗浄した後に、該ガラス繊維の表面を高分子で被覆してなるものが好ましい。
ガラス繊維を洗浄処理する酸としては、特に有機酸が好ましい。
【0020】
有機酸としては酢酸、クエン酸、琥珀酸、リンゴ酸、マレイン酸、エチレンジアミン4酢酸などの各種カルボン酸やアミノ酸等が適当であり、特に酢酸が好ましい。これらの酸の濃度は0.1μM〜1M程度、好ましくは1μM〜10mM程度が適当である。
【0021】
ガラス繊維を酸洗浄処理する方法としては、ガラス繊維濾紙を有機酸に浸漬したり、洗浄液を循環させたりすることによって行なう。その温度は5〜80℃程度、好ましくは10〜60℃程度、時間は1秒〜60分程度、好ましくは0.5分〜20分程度とするのがよい。有機酸の量はガラス繊維10g当たり0.1〜50l程度、通常0.2〜10l程度でよい。酸は洗浄処理中1〜複数回新しいものと交換することが好ましい。
【0022】
酸洗浄処理後は水等により洗浄して洗浄処理用の酸等の付着物を除去することも可能である。この洗浄には精製水が使用される。精製水はカルシウム、ナトリウム、カリウム、塩素等を少なくとも分析に影響を与える程度には含まないものであり、イオン交換水、蒸留水等が用いられる。洗浄温度は5〜80℃程度、通常は常温のものでよい。
【0023】
ガラス繊維濾紙は酸洗浄処理によってその後常温の水に60分間浸漬した場合にカルシウムの溶出量が10mg/l以下、好ましくは1mg/l以下、ナトリウムの溶出量が400mg/l以下、好ましくは40mg/l以下、カリウムの溶出量が40mg/l以下、好ましくは4mg/l以下、塩素の溶出量が600mg/l以下、好ましくは60mg/l以下になるようにする。
【0024】
[血液濾過ユニット](血液濾過器具)
本発明の血液濾過用ガラス繊維フィルターは、例えば、以下に記載の、ガラス繊維濾紙と微多孔性膜が積層されている血液濾過材料と、該血液濾過材料を収容するホルダーとよりなる血液濾過ユニットにおける、ガラス繊維濾紙として使用される。
以下、本発明の血液濾過器具の一例として使用することができる血液濾過ユニットのガラス繊維濾紙、微多孔性膜、ホルダーについて説明する。
【0025】
「ガラス繊維濾紙」
ガラス繊維濾紙は2種類に分けられる。
【0026】
第1のグループは、血液がガラス繊維濾紙の厚さ方向に浸透していくに従って血球を順次トラップしていく、いわゆる体積濾過作用を主目的とするものであり、これには密度が0.05〜0.13程度で、素繊維の直径が約10μm以下と細く、保留粒子径が約0.6μm以上と大きく、かつ透水速度が約0.7ml/sec以上と大きいものである。市販品ではワットマン社製 GF/D、アドバンテック社製 GA−100,GA−200等がこのグループに含まれる。以下、このグループのガラス繊維濾紙を低密度ガラス繊維濾紙と称する。
【0027】
第2のグループは、低密度ガラス繊維濾紙から漏出してきた血球の捕捉を主目的とするもので密度が約0.14以上と高く、保留粒子径が約0.5μm以下と小さく、透水速度も約0.5ml/sec以下と小さいものである。市販品ではワットマン社製 GF/B,GF/C,GF/F、アドバンテック社製 GC−50,GF−75,GB−140,QR−100等がこのグループに含まれる。以下、このグループのガラス繊維濾紙を高密度ガラス繊維濾紙と称する。
【0028】
血液濾過材料の主体となるガラス繊維濾紙は低密度ガラス繊維濾紙のほうである。
【0029】
特開平2−208565号公報、同4−208856号公報に記載された様な方法で、繊維間にセルロース誘導体を含ませることによって濾過をより速やかに円滑に行なうことができるようにしたり、また、レクチン含浸層を設けることにより、採取血液の溶血を防止したりできる。ガラス繊維濾紙は複数枚を積層して用いることができる。
【0030】
濾過材料は特開昭62−138756〜8号公報、特開平2−105043号公報、特開平3−16651号公報等に開示された方法に従って各層を部分的に配置された接着剤で接着して一体化することができる。
【0031】
濾過し得る全血の量は、ガラス繊維濾紙中に存在する空間体積と全血中の血球の体積に大きく影響される。ガラス繊維濾紙の密度が高い(粒子保持孔径が小さい)と赤血球がガラス繊維濾紙の表面近傍にトラップされるので、表面からごく浅い領域でガラス繊維濾紙中の空間が閉塞状態になってしまうことが多い。従って、それ以上の濾過が進まず、結果として濾過、回収し得る血漿量も少なくなる。この際、回収血漿量を増やそうとして更に強い条件で吸引すると、血球の破壊、すなわち溶血が起きてしまう。つまり表面濾過に近いプロセスとなり、濾紙の空間体積利用効率は低い。
【0032】
空間体積あるいは血漿濾過量に対応する指標として、透水速度が有効である。透水速度は、入口と出口をチューブに接続できるように絞った濾過ユニット中に一定面積のガラス繊維濾紙を密閉保持し、一定量の水を加えて一定圧力で加圧または減圧したときの、単位面積あたりの濾過量を速度で表したものであり、ml/sec等の単位を持つ。
【0033】
具体例としては、濾過ユニット中に直径20mmのガラス繊維濾紙をセットし、その上に100mlの注射筒をたてて60mlの水を入れて自然流下させ、開始後10秒と40秒の間の30秒間にガラス濾紙中を通り抜けた水の量をもって透水量とし、これから単位面積あたりの透水速度を算出する。
【0034】
低密度ガラス繊維濾紙の厚さは、回収すべき血漿量とガラス繊維濾紙の密度(空隙率)及び面積から定められる。分析を乾式分析素子を用いて複数項目行なう場合の血漿の必要量は100〜500μlであり、ガラス繊維濾紙の面積が1〜5cm2 程度が実用的である。この場合低密度ガラス繊維濾紙の厚さは1〜10mm程度、好ましくは2〜8mm程度、より好ましくは3〜6mm程度である。この低密度ガラス繊維濾紙は1枚のほか複数枚、例えば1〜10枚程度、好ましくは2〜6枚程度を積層して上記厚さとすることができる。
【0035】
血液濾過材料では上記低密度ガラス繊維濾紙層の一部または全部に細断小片を使用することができる。1枚のガラス繊維濾紙の厚さは0.2〜3mm程度、通常0.5〜2mm程度である。これを径が10〜30mm程度、好ましくは15〜25mmに細断して使用するのである。細断小片の形状は問うところではなく、正方形、長方形のほか三角形、円形等如何なる形状であってもよい。ガラス繊維濾紙の基本的に全部を使用する観点から円形にする場合には各辺が凹弧状になった小片を併用することになる。通常は4角形であり、長辺と短辺の比が1.0〜5.0程度、特に1.0〜2.5程度の範囲内にすることが好ましい。
細断は上記のサイズにできる市販の裁断機を使用して行えばよい。細断小片の充填に際して繊維方向に特に注意する必要はない。
【0036】
「微多孔性膜」(多孔質膜)
ガラス繊維濾紙の濾過液出口側には、さらに血球と血漿の分離を促進し、また、漏出血球を阻止するため微多孔性膜を配置する。
【0037】
この微多孔性膜は、表面を親水化されており血球分離能を有するものであり、実質的に分析値に影響を与える程には溶血することなく、全血から血球と血漿を特異的に分離するものである。この微多孔性膜は孔径がガラス繊維濾紙の保留粒子径より小さくかつ0.2μm以上、好ましくは0.3〜5μm程度、より好ましくは1〜3μm程度のものが適当である。また、空隙率は高いものが好ましく、具体的には、空隙率が約40%から約95%、好ましくは約50%から約95%、さらに好ましくは約70%から約95%の範囲のものが適当である。微多孔性膜の例としてはポリスルホン膜、弗素含有ポリマー膜、セルロースアセテート膜、ニトロセルロース膜等がある。また表面を加水分解、親水性高分子、活性剤などで親水化処理したものもある。
【0038】
好ましい微多孔性膜はポリスルホン膜、酢酸セルローズ膜等であり、特に好ましいのはポリスルホン膜である。血液濾過材料においてはガラス繊維濾紙が血液供給側に配置され、微多孔性膜が出口側に配置される。
【0039】
微多孔性膜の厚さは0.05〜0.3mm程度、特に0.1〜0.2mm程度でよく、通常は1枚の微多孔性膜を用いればよい。しかしながら、必要により複数枚を用いることもできる。
【0040】
「ホルダー」
ホルダーは血液濾過材料を収容するものであって、血液入口と濾過液出口が設けられているものである。このホルダーは、一般に血液濾過材料を収容する本体と、蓋体に分けた態様で作製される。通常は、いずれにも少なくとも1個の開口が設けられていて、一方は血液供給口として、場合により更に加圧口として、他方は吸引口として、場合により更に濾過された血漿または血清の排出口として使用される。濾過された血漿または血清の排出口を別に設けることもできる。ホルダーが四角形で蓋体を側面に設けた場合には血液供給口と吸引口の両方を本体に設けることができる。
【0041】
血液濾過材料収納部の容積は、収納すべき濾過材料の乾燥状態および血液を吸収し膨潤した時の総体積より大きい必要がある。濾過材料の総体積に対して収納部の容積が小さいと、濾過が効率良く進行しなかったり、溶血を起こしたりする。収納部の容積の濾過材料の乾燥時の総体積に対する比率は濾過材料の膨潤の程度にもよるが、通常101%〜300%、好ましくは110%〜200%、更に好ましくは120%〜150%である。
【0042】
また、濾過材料と収納部の側壁面との間は密着していることが必要であり、全血を吸引した時に濾過材料を経由しない流路が出来ないように構成されている必要があることは勿論である。このためガラス繊維濾紙の直径はホルダーの内径より約1〜10%、好ましくは約1〜30%大きくするとよい。
【0043】
ホルダーに充填する血液濾過材料の量は濾過材料の密度によっても異なるが、ホルダーの単位内容積(1cm3)当たり0.03〜0.3g程度、好ましくは0.05〜0.2g程度が適当である。
【0044】
ホルダーの濾過液出口側には濾過された血漿を受ける濾過液受槽を設けることができる。この受槽は、少なくともホルダーの中心方向からアナライザーが血漿を吸引できるようにすることがアナライザーの設計上好ましく、その結果、血液濾過材料収容室の濾過液出口および濾過液の受槽への通路はホルダーの中心を外して設けることになる。
【0045】
濾過液受槽の容積は10μl〜1ml程度でよい。
【0046】
ホルダーの材料は熱可塑性あるいは熱硬化性のプラスチックが好ましい。例えば、ハイインパクトポリスチレン、メタアクリル酸エステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、各種共重合体ポリマー等の透明あるいは不透明の樹脂が用いられる。
【0047】
上記本体と蓋体の取付方法は、通常、接着剤を用いた接合、融着等による。
【0048】
血液濾過材料の形状に特に制限はないが、製造が容易なように、円形あるいは多角形とすることが望ましい。この際、濾過材料をホルダー本体の内部断面よりやや大きめとし、濾過材料の側面から血漿が漏れることを防ぐことができる。また、四角形にすれば作製した血液濾過材料の切断ロスがなくなるので好ましい。
【0049】
血液濾過ユニットの使用方法としては、該ユニットの血液入口から血液を供給し、反対側の開口から濾液である血漿または血清を採取する。血液の供給量は血液濾過材料の体積の1.2〜5倍程度、好ましくは2〜4倍程度が適当である。濾過に際しては血液入口側からの加圧あるいは反対側からの減圧を行なって濾過を促進するのがよい。この加、減圧手段はペリスタルあるいはシリンジを利用する方法が簡便である。シリンジのピストンを移動させる距離はピストンの移動体積が濾過材料の体積の2〜5倍程度になるようにするのがよい。移動速度は1cm2当り1〜500ml/min程度、好ましくは20〜100ml/min程度が適当である。使用後の濾過ユニットは通常は使い捨てとする。
【0050】
濾過で得た血漿や血清は常法に従って分析が行なわれるが、濾過ユニットは特に乾式分析素子を用いて複数項目を分析する場合に有効である。
【0051】
血液濾過ユニットについては、例えば、特開平9−196911号特開平9−196911号公報、特開平9−276631号公報、同9−297133号公報、特開平10−225448号公報、特開平10−227788号公報、等に開示されている。
【0052】
「嵌合ホルダー」
以下、本明細書では、ホルダーの一例としての嵌合ホルダー、すなわち、複数の部材を嵌合させ、嵌合させる部分にシール部材を挟むことで減圧時に実質的に気密かつ水密となる血液濾過器具について、詳しく説明する。
図3は、本発明に係る血液濾過器具の実施形態を示す斜視図である。図4及び図5は、それぞれ、図3に示す血液濾過器具10を構成するフィルタ収容部材(内管)12及びホルダ部材(外管)14の断面図を示している。図6は、フィルタ収容部材12及びホルダ部材14を嵌合させた血液濾過器具10の断面図を示している。
図3に示す血液濾過器具10は、円筒形状のフィルタ収容部材12とホルダ部材14とからなり、ホルダ部材14の下方から、シール部材である多孔質膜17を介してフィルタ収容部材12を嵌合できるようになっている。
【0053】
図3および図4に示すように、フィルタ収容部材12は、血液濾過フィルタ15が充填された円筒形状のフィルタ収容室16を備えている。フィルタ収容室16の底部には、血液をフィルタ収容室16に供給するためのノズル18が延設されている。ノズル18から導入された血液が血液濾過フィルタ15を通過することによって、血球等が血液濾過フィルタ15に捕集される。
フィルタ収容室16の上端(出口側)には、濾過液(血漿)をホルダ部材14(図5)側へ排出する開口部19を有している。
【0054】
ホルダ部材14は、図3および図4に示すように、ホルダ部材14の内部が仕切壁23によって上下に分割され、フィルタ収容部材12を収容するフィルタ収容部材収容室22と、血液の濾過液(血漿)を貯留する貯留室24とに区画されている。貯留室24の上端は開放され、吸引ポンプ等の吸引装置(図示せず)等に接続される吸引口26を形成している。
【0055】
仕切壁23の中央部分には、下方に突き出た円柱状の段差21aが形成され、段差21aの中央部分には、フィルタ収容部材収容室22と貯留室24とを連通する管状の通路25が上方に延出している。この通路25により、フィルタ収容部材12からの濾過液(血漿)が貯留室24に浸入して、貯留される。
また、仕切壁23の周縁部分には、嵌合溝21bが形成されている。フィルタ収容部材12がホルダ部材14に収納されると、フィルタ収容室16に充填された血液濾過フィルタ15が下方に押し込められ、嵌合溝21bにフィルタ収容室16側壁の上端部分が嵌り込む(図6)。
【0056】
なお、図3及び図6に示すように、フィルタ収容室16側壁の上端部分と嵌合溝21b(図5)との嵌合部28には、シール部材である多孔質膜17を介在させることが望ましい。多孔質膜17を嵌合部28に介在させることにより、段差21aの外周面とフィルタ収容室16上端の内壁面との間に断面がコの字型となるように挟み込まれて、フィルタ収容部材収容室22とフィルタ収容室16との嵌合部28が締まり嵌めとなり、フィルタ収容部材12とホルダ部材14の接合力をより高めることができる。
【0057】
加えて、図6に示すように、フィルタ収容室16の上端(出口側)の開口部19を多孔質膜(微多孔性膜)17によって覆うことにより、血漿が通路25に浸入する前に、血液濾過フィルタ15によって捕集できない細径の不純物を捕集することができ、濾過性能を向上させることができる。
【0058】
この血液濾過器具10を用いて血液を濾過するには、まず、フィルタ収容部材12を多孔質膜17を介してフィルタ収容部材収容室22に嵌め込み、ホルダ部材14上端の吸引口26を吸引ポンプ(図示せず)等に接続する。ノズル18の先端を血液に浸け、吸引ポンプを作動させることで血液濾過器具10内を減圧し、血液をノズル18からフィルタ収納室16に供給する。そして、減圧濾過によって、血液濾過フィルタ15及び多孔質膜17で血液を濾過して、貯留室24に濾過液(血漿)が貯留される。
【0059】
上記実施形態に係る血液濾過器具10によれば、フィルタ収容部材12をホルダ部材14に引き付ける方向に減圧するので、フィルタ収容部材12とホルダ部材14とを嵌合させるだけで、容易に内部の気密・水密を保持することができる。よって、本実施形態に係る血液濾過器具10は、従来で行われていたフィルタ収容部材とホルダ部材とを超音波融着する等の接合工程を省略することができ、構造を簡易化した安価なものであり、使い捨て使用等にも極めて有利である。
なお、多孔質膜17は、濾過に必要な気密・水密性を保持するためには必ずしも必要なものではないが、前述したように、嵌合部28における接合力及び器具の濾過性能を向上させることができるため、フィルタ収容部材12とホルダ部材14との嵌合部28に多孔質膜17を介在させることが好ましい。
【0060】
なお、図3に示す血液濾過器具10の大きさとしては、適宜設定可能であるが、血液を濾過する場合、フィルタ収容部材12の内径は5mmから20mmの範囲であり、ホルダ部材14の内径は6mmから23mmの範囲であるのがよい。また、多孔質膜17の大きさは、フィルタ収容部材12の内径より大きく形成されているのが好ましい。
【0061】
フィルタ収容部材12及びホルダ部材14の材質としては、特に限定されないが、血液に対して溶解したり、不純物が溶出されたりしない物質から形成されるのがよい。例えば、透明ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)等の材料を用いることができ、透明ポリスチレン樹脂(PS)を用いることが好ましい。
フィルタ収容部材12及びホルダ部材14は、樹脂成形等の手段によって製造することができる。
【0062】
[多項目測定乾式分析素子](血液分析素子)
以下では、本発明の血液分析素子の一例として使用することができる多項目測定乾式分析素子について説明する。
多項目測定乾式分析素子は、検出器として、エリアセンサ、ラインセンサまたは電気化学検出器を用いる。そこで、まず、検出器について説明する。
[検出器]
(イ)エリアセンサは、紫外光・可視光・赤外光などの光あるいは電磁波を感知し、2次元的な情報を得ることができるように配列させたものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、CCD、MOS、写真フィルム等が挙げられる。この中でも、CCDが好ましい。多項目測定乾式分析素子を、エリアセンサを用いて検出することにより、1項目について1000画素以上の情報から測定結果を得ることができ、かつ同時に複数項目の測定が可能となる。
(ロ)ラインセンサは、紫外光・可視光・赤外光などの光あるいは電磁波を感知し、1次元的な情報を得ることができるように配列させたものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、フォトダイオードアレイ(PDA)、スリット状に光を検出するように配置した写真フィルム等が挙げられる。この中でも、フォトダイオードアレイが好ましい。上記の特定の多項目測定乾式分析素子を、ラインセンサを用いて検出することにより、同時に複数項目の測定が可能となる。
(ハ)電気化学検出器は、導電性物質媒体における電流量、電位差、電気伝導度、抵抗を計測することができるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、金電極、白金電極、銀電極、炭素電極などの導電物質単独の電極、銀塩化銀電極、酸素電極、グルコースオキシダーゼなどの酵素を被覆した修飾電極などの複合電極あるいはこれらの組み合わせ等が挙げられる。この中でも、グルコースオキシダーゼなどの酵素を被覆した修飾電極が好ましい。上記の特定の多項目測定乾式分析素子を、電気化学検出器を用いて検出することにより、同時に複数項目の測定が可能となる。
【0063】
本発明の血液濾過用ガラス繊維フィルターは、また、多項目測定乾式分析素子における血液濾過のためのガラス繊維濾材として使用される。
次に多項目測定乾式分析素子について詳述する。以下、検出器として(イ)エリアセンサを用いる場合について説明する。検出器として(ロ)ラインセンサを用いる場合、および(ハ)電気化学検出器を用いる場合も、(イ)エリアセンサの場合と同様に適用することができる。
多項目測定乾式分析素子は、流路、(顕色)反応試薬および該(顕色)反応試薬を担持している部分を有しており(本発明における「乾式分析要素」とは、例えば、ガラス繊維フィルターを通過した濾液(血漿)と接触し反応(して顕色)する(顕色)反応試薬とそれを担持している部分を指す。(顕色)反応試薬を担持している部分で代表して説明することもある。)、該流路の幅、深さ、長さのうち少なくともひとつが1mm以上であり、かつ該(顕色)反応試薬を担持している部分の幅が流路の幅の2倍以上 および/または (顕色)反応試薬を担持している部分の長さが流路の長さの0.4倍以上であることが好ましい。
まず、流路について説明する。
「流路」
前記流路は、前記したとおり、幅、深さ、長さのうち少なくともひとつが1mm以上であることが好ましい。より好ましくは、1mm〜100mmの範囲であり、また最も好ましい範囲は1mm〜30mmである。この範囲で、流路を検体が効率よく進行し、好ましい。
該流路は、検体である血液が通過可能であれば、いずれの形態をも採ることができる。 また、該流路は、1つのみでも、2つ以上に分岐しても、いずれでもよい。また、直線状、曲線状等、いずれの形態をとることも可能であるが、直線状であることが好ましい。
【0064】
流路の素材は、検体である全血や血漿の通過が効率よく進行するものであれば、いずれでもよい。具体的には、ゴム、プラスチックなどの樹脂、シリコン含有物質が挙げられる。
プラスチックあるいはゴムとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリサイクリックオレフィン(PCO)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、天然ゴム、合成ゴム及びこれらの誘導体が挙げられる。
シリコン含有物質としては、ガラス、石英、シリコンウエファー等のアモルファスシリコン、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。
中でも、PMMA、PCO、PS、PC、ガラス、シリコンウエファーが好ましい。
【0065】
流路は、固体基板上に微細加工技術により作成することができる。使用される材料の例を挙げれば金属、シリコン、テフロン、ガラス、セラミックスまたはプラスチック、ゴムなどである。
プラスチックの例としては、PCO、PS、PC、PMMA、PE、PET、PP等を挙げることができる。ゴムの例としては、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム、PDMS等を挙げることができる。
シリコン含有物質としては、ガラス、石英、シリコンウエファー等のアモルファスシリコン、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。
特に好ましい例としては、PMMA、PCO、PS、PC、PET、PDMS、ガラス、シリコンウエファー等を挙げることができる。
【0066】
流路を作成するための微細加工技術は、例えばマイクロリアクター −新時代の合成技術−(2003年 シーエムシー刊 監修:吉田潤一 京都大学大学院 工学研究科教授)、微細加工技術 応用編−フォトニクス・エレクトロニクス・メカトロニクスへの応用−(2003年 エヌ・ティー・エス刊 高分子学会行事委員会編)等に記載されている方法を挙げることができる。
代表的な方法を挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。
【0067】
流路は、シリコンウエファー上にフォトレジストを用いて形成したパターンを鋳型とし、これに樹脂を流し込み固化させる(モールディング法)ことによっても作成することができる。モールディング法には、PDMSまたはその誘導体に代表されるシリコン樹脂を使用することができる。
【0068】
該流路は、検体である全血や血漿の通過が速やかに通過できるように、必要に応じてその表面を処理、または修飾することが望ましい。表面処理、修飾の方法は該流路を構成している素材により異なるが、既存の方法を利用することができる。例えば、プラズマ処理、グロー処理、コロナ処理、また、シランカップリング剤のような表面処理剤を使用する方法、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート(PHEMA)、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)、アクリル系ポリマーを使用して表面処理をする方法などを挙げることができる。
【0069】
前記流路は、前記多項目測定乾式分析素子の一部分またはそのものであってもよい。つまり、該流路を、いわゆるマイクロリアクターや、微小分析要素に対して一般的に利用される微細加工技術を用いて、多項目測定乾式分析素子の一部分またはそのものとして作成することができる。
マイクロリアクターや微小分析要素の作成方法は、例えば"マイクロリアクター"(吉田潤一監修、CMC社刊)に記載されている方法を使用することができる。
【0070】
次に(顕色)反応試薬について説明する。
「(顕色)反応試薬」
顕色反応試薬は、検体の被測定成分の定性・定量分析に必要な試薬であり、検体の被測定成分と反応し、発色するもの、または蛍光・発光など、光・電気・化学反応などの作用で光を発するものを言う。本発明においては、検体の種類および測定する項目に合わせて適宜選択することができる。一例として、富士写真フイルム(株)製の富士ドライケム マウントスライドGLU−P(測定波長;505nm,測定成分;グルコース)とTBIL−P(測定波長;540nm,測定成分;総ビリルビン)が挙げられる。本発明において、多項目測定乾式分析素子が有する顕色反応試薬は、乾燥している試薬を用いる。乾燥している試薬とは、いわゆるドライケミストリーに使用する試薬である。ドライケミストリーに使用することができる試薬であれば、どのような試薬でも用いることができる。
具体的には、例えば、富士フイルム研究報告、第40号(富士写真フイルム(株)、1995年発行)p.83や、臨床病理、臨時増刊、特集第106号、ドライケミストリー・簡易検査の新たなる展開(臨床病理刊行会、1997年発行)等に記載されているものをあげることができる。
【0071】
検出器として電気化学検出器を用いる場合には、顕色反応試薬に代わり、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、1,1'−ジメチルフェロセン、およびグラファイト粉末とパラフィンの混合物からなるカーボンペーストを混合して固めることによって作成した酵素電極を作用極として用い、銀/塩化銀電極を参照極、白金線を対極として用い、検体中のグルコース濃度によって増加する電流値を計測することができる。より具体的には、例えば、奥田,水谷,矢吹らによる、北海道立工業試験場報告 No.290,173−177頁(1991年)等に記載されているものが挙げられる。
【0072】
次に該(顕色)反応試薬を担持している部分について説明する。
「(顕色)反応試薬を担持している部分」(乾式分析要素)
以下、主に、顕色反応試薬を使用する場合について説明する。検出器として電気化学検出器を用いる場合、反応試薬を担持している部分が担持しているのが反応試薬であること以外は、エリアセンサ等における場合の顕色反応試薬を担持している部分と同様である。
該顕色反応試薬を担持している部分は、前記したとおり、その幅が流路の幅の2倍以上 および/または 顕色反応試薬を担持している部分の長さが流路の長さの0.4倍以上であることが好ましい。
該顕色反応試薬を担持している部分は、1つのみでも、2つ以上でも、いずれでもよい。また、2つ以上の場合には、1箇所にまとめても、別々に配列してもよい。
該顕色反応試薬を担持している部分は、前記流路と接続した形態でも、該顕色反応試薬を担持している部分が流路内に組み込まれた形態でもよい。また、前記流路と接続した形態の場合には、該顕色反応試薬を担持している部分はセルであってもよい。該セルとしては、流路に対する幅および/または長さが前記を満たせばどのような形態であってもよい。セルの素材としては、流路に前記したものと同じ材料が挙げられる。また、好ましいものも同じである。
流路と、該顕色反応試薬を担持している部分との接続には、接合技術を用いることができる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。
更に、高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましく、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などが挙げられる。
また、超音波、レーザー等を用いる接合、接着剤、接着テープなども使用する接合を使用してもよいし、単に圧力だけで、接合していてもよい。
【0073】
前記顕色反応試薬を担持している部分は、顕色反応試薬を担持可能であれば試薬をどのような形態で担持していてもよい。例えば、試験紙、使い捨て電極、磁性体、分析用のフィルムなどが挙げられる。またフィルムの場合には、単層でも多層でもよい。
好ましくは、乾式多層フィルムを、顕色反応試薬を担持している部分における試薬層として用いる。乾式多層フィルムは、検体中の被測定成分の定性・定量分析に必要な全てのまたはその一部分の試薬を1層以上の層に組み込むことができ、好ましい。乾式多層フィルムとしては、前述のドライケミストリーに使用されるものが挙げられる。具体的には、富士フイルム研究報告、第40号(富士写真フイルム(株)、1995年発行)p.83や、臨床病理、臨時増刊、特集第106号、ドライケミストリー・簡易検査の新たなる展開(臨床病理刊行会、1997年発行)等に記載されているものをあげることができる。乾式多層フィルムを、顕色反応試薬を担持している部分における試薬層として用いることにより、多段反応を段階的に行うことが容易になり、好ましい。また、安定して同一品質のものを作り出すことができ、すなわちロット差を考慮する必要なく、かつ臨床検査が求める測定精度を満足することができ、好ましい。
【0074】
更には、前記乾式多層フィルムが、多孔質膜を接着させてなることが好ましい。該多孔質膜としては、ニトロセルロース多孔質膜、セルロースアセテート多孔質膜、セルロースプロピオネート多孔質膜、再生セルロース多孔質膜などのセルロース系多孔質膜、ポリスルホン多孔質膜、ポリエーテルスルホン多孔質膜、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリ塩化ビニリデン多孔質膜、などがあげられる。より好ましくはポリスルホン多孔質膜、ポリエーテルスルホン多孔質膜である。
乾式多層フィルムに多孔質膜を接着させる方法には、特に制限はないが、例えば乾式多層フィルム1m2あたり15〜30gの水を用いて湿らせ、多孔質膜を室温で3〜5kg/cm2の圧力をかけて圧着することで、乾式多層フィルムに多孔質膜を接着させることができる。
【0075】
また、前記乾式多層フィルムに100μm以下の微粒子を接着させて、前記試薬層に用いることも好ましい。該微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの金属酸化物を代表とする無機微粒子、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表される有機高分子微粒子が挙げられる。より好ましくはシリカ,ポリスチレンである。
乾式多層フィルムに微粒子を接着させる方法は、特に限定はないが、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリイソプロピルアクリルアミド、あるいは両者の混合物を微粒子の質量に対して1〜10%添加した水溶液を多層フィルムに塗布・乾燥させる方法を挙げることができる。
【0076】
「濾材」
検体の種類が本発明におけるように血液の場合、上記顕色反応試薬を担持している部分に検体を供給する前に、濾過方法を用いることが好ましい。濾過方法としては、従来公知のいずれのものも適用可能であるが、本発明では、濾材として、円相当直径が5μm以下の繊維を用いた濾過方法が、特に、検体として全血を用いる場合に、全血から赤血球を迅速に効率よく除去することができ、好ましい。また、特別な装置を作動させることなく、全血から赤血球を除去した後、血漿を試薬に供給することができ、結果的に、検出に至るまでの時間を短縮することができ、好ましい。
より好ましくは、円相当直径が5μm以下の繊維と、多孔質膜を組み合わせることが、全血の量が多い場合にも赤血球が漏れることがなく、充分な量の血漿を試薬に供給でき、好ましく、さらには、円相当直径が5μm以下の繊維がガラス繊維であることが好ましい。
本発明では、濾材として、特にガラス繊維の表面を高分子で被覆してなるものを、血液濾過用として用いる。
【0077】
多孔質膜としては、孔径が0.2μm〜30μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜8μm、より好ましくは0.5〜4.5μm程度、特に好ましくは0.5〜3μmである。
また、空隙率は高いものが好ましく、具体的には、空隙率が約40%から約95%が好ましく、より好ましくは約50%から約95%、さらに好ましくは約70%から約95%の範囲である。
多孔質膜の例としては、従来公知のポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、弗素含有ポリマー膜、セルロースアセテート膜、ニトロセルロース膜等が挙げられる。好ましくは、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜である。
また表面を加水分解、親水性高分子、活性剤などで親水化処理したものも使用できる。 親水化処理に適用される加水分解法、親水性高分子、活性剤などは、親水化処理の際に通常用いる方法、化合物を使用することができる。
【0078】
検体は多項目測定乾式分析素子の注入口より注入される。検体を注入することが可能であれば、どのような形態でもよく、例えば、流路がそのまま多項目測定乾式分析素子の外とつながっていてもよい。
以下、多項目測定乾式分析素子の好ましい態様の一例を図7、図8を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
検体は多項目測定乾式分析素子A100の注入口A3より注入される。注入された検体は流路A1を通り、顕色反応試薬を担持している部分A2に導かれる。前記のとおり、流路A1には、検体の種類によって、濾過方法を適用するための濾材A6を配置することができ、あるいは、高分子多孔質体を配置することができ、または、流路A1自体に空間を刻印することができる。顕色反応試薬を担持している部分A2に顕色反応試薬A7を配置する。図7では、下材A5に微細加工技術を用いてA1、A2およびA3を作製しているが、前述のとおり、A1、A2、A3の構成を作製し、下材A5の代わりに下蓋を設けて、組み立てて作製してもよい。
【0079】
多項目測定乾式分析素子の素材としては、前記流路における素材と同じものを挙げることができる。好ましい範囲も同じである。
多項目測定乾式分析素子の形および大きさは、手で持ちやすい範囲であれば、いずれの形、大きさでも良い。具体的には、例えば、底面の一辺が10〜50mm位の長方形で、厚みが2〜10mm位のものが好ましい形および大きさとして挙げられる。
多項目測定乾式分析素子を組み立てる際には、前述の顕色反応試薬を担持している部分と流路とを接続する際に用いる接合技術と同じ技術を用いることができる。
【0080】
多項目測定乾式分析素子内を検体が移動する、すなわち、流路から顕色反応試薬を担持している部分までの移動は、圧力を利用する、毛細管現象を利用する等の方法が挙げられるが、圧力を利用すること、特に陰圧にすることが好ましい。
【0081】
前記多項目測定乾式分析素子は、採血器具に装着して、採血ユニットとすることができる。以下、採血ユニットについて説明する。
[採血ユニット]
該採血ユニットは、前記多項目測定乾式分析素子を、採血器具に装着し、略気密状態を保ちつつ摺動自在に組み合わされることにより、内部に減圧可能に密閉空間を画成することが可能である。該採血ユニットは、前記多項目測定乾式分析素子を、採血器具に装着することができ、略気密状態を保ちつつ摺動自在に組み合わされることができ、内部に減圧可能に密閉空間を画成することが可能であれば、どのような形、大きさであってもよい。 手で持ちやすく操作しやすい範囲であることが好ましい。
該採血ユニットは、内部に減圧可能に密閉空間を画成することにより、採血された全血が、多項目測定乾式分析素子の流路に入り、顕色反応試薬を担持している部分まで迅速に導くことができる。
採血ユニットの素材としては、前記流路における素材と同じものを挙げることができる。好ましい範囲も同じである。
採血ユニットを組み立てる際には、前述の顕色反応試薬を担持している部分と流路とを接続する際に用いる接合技術と同じ技術を用いることができる。
【0082】
該採血ユニットの採血器具は、直径100μm以下で先端の角度が20度以下の穿刺針を有することが好ましい。上記範囲にあることで、穿刺をスムーズに行うことができ、採血時の痛みを軽減することができ、好ましい。
採血ユニットと穿刺針の接合方法は、前述の顕色反応試薬を担持している部分と流路とを接続する際に用いる接合技術と同じ技術を用いることができる。
穿刺針は中空の針であり、血管より血液を採取し、採血ユニットを摺動することによる減圧によって、全血が、多項目測定乾式分析素子の流路に導入されるものである。穿刺針は、上記の範囲を満たせば、例えば、通常の注射針のようなものであってもよいが、微量採血という点からみて小型のものであってもよい。また、針の先端を細くすることにより、採血時の痛みを軽減するのも好ましい。また、前述の微細加工技術を利用して作成することもできる。
穿刺針を構成する素材は、通常は金属であり、ステンレス類、ニッケル−チタン合金、タングステン類等のようないわゆる注射針として使用されるような素材を挙げることができる。また、多項目測定乾式分析素子を構成する素材として前述したプラスチック類などの樹脂を使用することも可能である。具体的には、PCO、PS、PC、PMMA、PE、PET、PP、PDMS等が挙げられる。
【0083】
採血ユニットの好ましい態様の一例を図9、図10を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
多項目測定乾式分析素子A100は採血器具B1に方向C1から装着され、採血ユニットB100となる。装着後、穿刺針B2をヒトまたは動物などに刺し全血Dを採血する。 前記したとおり、採血器具の一部を方向C2に摺動し、これにより内部が減圧され、採血された全血Dが多項目測定乾式分析素子A100の流路A1に入り、さらには、顕色反応試薬を担持している部分A2に導かれ、反応する。反応後、多項目測定乾式分析素子A100を採血器具B1から脱着し、検出に供することができる。多項目測定乾式分析素子A100は採血器具B1から方向C1、すなわち、装着する際と同じ方向のまま、採血器具B1の向こう側へ脱着する態様、または方向C1とは逆方向、すなわち装着する際と同じ側から脱着する態様のいずれでもよい。
また、指先、肘、かかとなどをランセットなどで穿刺して末梢血を取り出し、それを検査に用いる場合においては、採血ユニットの採血器具に穿刺針は不要である。中空構造をもち、血液を分析要素に導くことができる機能を有する構造であればよい。
【0084】
[検体]
上記多項目測定乾式分析素子に供する検体としては、ヒトやその他の動物の血液があげられる。
【0085】
「測定装置」
以下、図11を用いて、エリアセンサを用いた場合の測定装置の概略構成を示す。
測定装置100は、測定対象となる検体を設置する多項目測定乾式分析素子設置部1と、検体に光を照射するハロゲンランプ等の発光素子を用いた光源2と、光源2から照射される光の強度を変化させる光可変部3と、光源2から照射される光の波長を変化させる波長可変部4と、光源2から照射される光を平行化及び集光するレンズ5a及び5bと、検体からの反射光を集光するレンズ5cと、レンズ5cで集光された反射光を受光する受光素子としてのエリアセンサ6と、各部を制御すると共に光可変部3の状態とエリアセンサ6で受光した光の光量とに応じた測定結果を求めてディスプレイ等に出力するコンピュータ7とを備える。尚、ここでは、コンピュータ7が各部を制御する構成としているが、各部を統括制御するコンピュータを別に用意しておいても良い。
【0086】
多項目測定乾式分析素子設置部1には、多項目測定乾式分析素子が設置される。実際に測定に供するのは、多項目測定乾式分析素子の中の、ガラス繊維フィルターを通過した濾液(血漿)と接触して反応した顕色反応試薬を担持している部分(「乾式分析要素」。以下、「試薬担持部」とも称する。)である。
【0087】
光可変部3は、穴の開いたステンレス等の金属メッシュの板材及びNDフィルタ等の減光フィルタを、光源2と検体との間に機械的に出し入れすることで、光源2から検体に照射される光の強度を変化させるものである。初期設定では、この減光フィルタが、光源2と検体との間に挿入された状態となっている。尚、以下では、金属メッシュをステンレスメッシュとする。又、穴の開いたステンレスメッシュの板材及びNDフィルタ等の減光フィルタを、手動で出し入れできるようにしても良い。
【0088】
波長可変部4は、複数種類の干渉フィルタのいずれかを、光源2と検体との間に機械的に出し入れすることで、光源2から検体に照射される光の波長を変化させるものである。 尚、本実施形態では、波長可変部4を光可変部3と多項目測定乾式分析素子設置部1との間に設置しているが、光源2と光可変部3との間に設置しても良い。又、複数種類の干渉フィルタを手動で出し入れできるようにしても良い。
【0089】
エリアセンサ6は、CCD等の固体撮像素子であり、多項目測定乾式分析素子設置部1に設置された多項目測定乾式分析素子中の試薬担持部の試薬と血液等の検体とが反応した際に光源2から照射される光によって反射する光を受光し、受光した光を電気信号に変換してコンピュータ7に出力するものである。エリアセンサ6は、試薬担持部から反射する光を面単位で受光可能である。このため、各試薬のエリアを同時に、すなわち複数項目について測定が可能である。
【0090】
コンピュータ7は、エリアセンサ6から出力された受光量に応じた電気信号を、予め内蔵するメモリ等に記憶している検量線のデータに基づいて光学濃度値に変換し、その光学濃度値から検体に含まれる各種成分の含有量等を求め、ディスプレイ等に出力するものである。複数項目を測定する場合、コンピュータ7は、エリアセンサ6から出力された受光量に応じた電気信号を、試薬担持部の複数エリア毎に抽出し、検体に含まれる成分の含有量を複数エリア毎に求める。又、コンピュータ7は、エリアセンサ6で受光した検体からの反射光量や検体と反応させる試薬の種類に応じて、光可変部3と波長可変部4を制御し、光源2からの光の光量を変化させたり、その波長を変化させたりする。
【0091】
以上のような構成の測定装置100では、検体からの反射光量が、エリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入らない程少ない場合に、光可変部3が、光源2と検体との間からステンレスメッシュの板材又はNDフィルタを取り外し、光源2から照射される光の強度を強くする。これにより、検体からの反射光量が多くなり、その反射光量がエリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入るようになる。このため、エリアセンサ6のダイナミックレンジが狭くても、反射光を精度良く受光することができ、検体に含まれる成分の含有量の測定精度が向上する。
【0092】
又、例えばA、B、C、Dという4種類の試薬を含んだ試薬担持部を用いる場合、測定装置100では、A〜Dの試薬を含んだ各エリアからの反射光量を求め、その反射光量のいずれかがエリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入らない場合、光可変部3が、ステンレスメッシュの板材又はNDフィルタの挿入及び取り出しを一定時間おきに行う。又、各エリアから反射する光の波長はそれぞれ異なるため、波長可変部4がその波長に合わせて複数の干渉フィルタを切替える。
【0093】
例えば、AとBを含んだエリアからの反射光量がエリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入らない程少なく、CとDを含んだエリアからの反射光量がエリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入り、A〜Dの試薬が血液と反応した際に発光する光の波長がそれぞれ異なる場合について説明する。
【0094】
この場合、測定装置100では、光源2が試薬担持部に光を照射し、スライドの各エリアからの反射光をエリアセンサ6で受光し、各エリアからの反射光量がエリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入っているかどうかをコンピュータ7により判定する。ここではAとBを含んだエリアからの反射光量がエリアセンサ6のダイナミックレンジ内に入らない程少ないため、光源2から一定時間光が照射された後、コンピュータ7は光可変部3を制御し、光源2と検体との間からNDフィルタを取り外させる。この状態で一定時間光を照射した後、コンピュータ7は光可変部3を制御し、光源2と検体との間にNDフィルタを挿入させる。この動作を繰り返すことで、複数種類の測定成分を1つの多項目測定乾式分析素子で精度良く測定することができる。
【0095】
コンピュータ7は、光可変部3の制御を行う一方で、A〜Dの試薬の種類に応じて波長可変部4を制御し、4種類の干渉フィルタを順番に切替えさせる。波長可変部4は、光可変部3がNDフィルタを取り外している間に、試薬Aに対応する干渉フィルタと試薬Bに対応する干渉フィルタとを交互に切替え、光可変部3がNDフィルタを挿入している間に、試薬Cに対応する干渉フィルタと試薬Dに対応する干渉フィルタとを交互に切替えるように動作する。これにより、検体に含まれる複数種類の成分から発光される光の波長がそれぞれ異なる場合でも、検体に含まれる複数種類の測定成分の含有量を1つの多項目測定乾式分析素子で測定することができる。
【0096】
測定装置100は、光源2からの光の強度を変えることで、ダイナミックレンジの狭いCCDであっても高精度な測定が可能となっているが、光の強度を変えずに、コンピュータ7の制御によってCCDにおける露光時間(反射光の受光時間)を変化させることでも、上記と同様に高精度な測定が可能である。
【0097】
尚、本実施形態では、光源2から検体に光を照射し、その反射光から検体に含まれる成分の含有量を求めているが、検体を透過した透過光から検体に含まれる成分の含有量を求めても良い。
【0098】
又、本実施形態では、検体からの反射光をCCD等のエリアセンサを用いて受光しているが、エリアセンサに限らず、ラインセンサを用いても構わない。
【0099】
又、本実施形態で使用するCCDとしては、フォトダイオード等の受光部が半導体基板上に縦横に所定間隔で配置され、隣接する各受光部列に含まれる受光部が、互いに、受光部列内での受光部同士のピッチの約1/2列方向にずれて配置された、いわゆるハニカム型のCCDを用いることが望ましい。
【0100】
上記の説明では、測定装置100が、検体からの反射光量に応じてリアルタイムに光の強度を変化させているが、検体に含まれる測定成分に応じて予め設定されたシーケンスで、その測定成分の含有量の測定を行うようにしても良い。この場合の動作を以下に説明する。
【0101】
測定装置100は、多項目測定乾式分析素子設置部1に試薬担持部が設置され、測定項目がセットされると、その測定項目に応じたパターンで測定を開始する。まず、コンピュータ7が、測定に利用する光の強度を複数種類の強度の中から選択し、選択した強度の光を検体に照射させる。エリアセンサ6が、検体から反射した反射光を受光すると、コンピュータ7は、エリアセンサ6で受光された反射光の光量と上記選択した光の強度とに応じた測定結果を出力する。この一連の動作により、検体に含まれる測定成分の測定を精度良く行うことが可能である。
【0102】
光の強度を変えずにCCDの露光時間を変化させる場合、測定装置100は、多項目測定乾式分析素子設置部1に試薬担持部が設置され、測定項目がセットされると、その測定項目に応じたパターンで測定を開始する。まず、コンピュータ7が、検体に光を照射させる。そして、エリアセンサ6が、複数種類の露光時間の中からコンピュータ7によって選択された露光時間で、検体から反射した反射光を受光する。最後に、コンピュータ7は、エリアセンサ6で受光された反射光の光量と該選択した露光時間とに応じた測定結果を出力する。この一連の動作により、検体に含まれる測定成分の測定を精度良く行うことが可能である。
【0103】
測定装置100は、以上に述べてきた光源2から試薬担持部に光を照射して、その反射光あるいは透過光から検体に含まれる成分の含有量を求めることに限定することはなく、光源2から試薬担持部に光を照射したときに試薬担持部から発する蛍光などの光を検出することによって検体に含まれる成分の含有量を求めてもよく、光可変部3で光源2の光を完全に遮断する、あるいは光源2を用いないことで試薬担持部に全く光が当たらない状態にして試薬担持部から発する化学発光などの発光による光を検出することによって検体に含まれる成分の含有量を求めてもよい。
【0104】
「嵌合式多項目測定乾式分析素子」
次に、嵌合式の多項目測定乾式分析素子について説明する。図12は、本発明に係る嵌合式の乾式分析素子の実施形態を示す断面図である。図13及び図14は、それぞれ、図12に示す乾式分析素子50を構成する上部材30及び下部材40の上面図(図13(A),14(A))及び断面図(図13(B),14(B))を示している。
図12〜14に示すように、本実施形態に係る乾式分析素子50は、外形がほぼ直方体の上部材30と下部材40とからなり、シール部材である多孔質膜52(図12)を介して、上部材30を下部材40に嵌合できるようになっている。
【0105】
図12及び図13に示すように、上部材30には、血液を供給する供給口32が上面側に設けられている。供給口32は、上部材30を構成する大小2枚の壁板31a,31bによって水平方向に形成された流路34に連通されている。流路34には、供給された血液を濾過する濾過フィルタ36が充填されている。
上部材30の下面側には、短い円柱状の嵌合凸部35が形成されており、円柱軸の位置に流路34と連通している排出路39が配置されている。排出路39により、流路34により送られた濾過液を下方に導き、排出路39の出口38から下部材40(図14)に送液される。
【0106】
図12及び図14に示すように、下部材40は、嵌合凸部35が嵌合可能に形成された、底面が円形の嵌合凹部46が設けられている。
嵌合凹部46の底面部には、乾式分析要素54を配置するセル42が、例えば9箇所に格子状に設けられている。乾式分析要素54は、血液の濾過液(血漿)が接触することによって、発色変化等の反応を示すものである。また、この嵌合凹部46の側壁には、吸引ポンプ(図示せず)等の吸引装置に接続する吸引ノズル44が水平方向に延設されている。
【0107】
これらの上部材30と下部材40とが嵌合した乾式分析素子50を形成するには、図12に示すように、まず下部材40のセル42に、例えば9個の乾式分析要素54を配置する。そして、嵌合凸部35及び嵌合凹部46の大きさより大きい多孔質膜52を嵌合凹部46の上に配置し、多孔質膜52を挟み込むようにして嵌合凸部35を嵌合凹部46に嵌め込み、嵌合部55に多孔質膜52が挟まれた乾式分析素子50が形成される。
【0108】
乾式分析素子50を用いて、血液を分析するには、上記のようにして上部材30と下部材40とを嵌め合わせ、吸引ノズル44に吸引ポンプ(図示せず)を接続する。そして、供給口32から検体とすべき血液を供給して、吸引ポンプを作動させて、血液を減圧濾過する。濾過液(血漿)を、排出路39の出口38に対向している乾式分析要素54に接触させ、乾式分析要素54の発色変化等を観察することによって分析を行う。なお、乾式分析素子50における減圧濾過には、吸引ポンプのかわりにシリンジ等を用いてもよい。
【0109】
このような嵌合式の乾式分析素子50によれば、上記の血液濾過器具10(図3)と同様に、上部材30と下部材40とを嵌合させるだけでも、減圧することで上部材30と下部材40との接合力を高めることができ、十分な気密・水密が保たれる。従って、これらの部材を接合する等の工程を省略することができ、構造を簡易化した安価な乾式分析素子50が得られ、使い捨て使用にも極めて有利である。
なお、多孔質膜52についても、上記の血液濾過器具10(図3)と同様に、濾過に必要な気密・水密性を保持するためには必ずしも必要なものではないが、上部材30と下部材40との嵌合部55に配置されることによって、嵌合部55における接合力及び濾過性能を向上させることができるため、上部材30と下部材40との嵌合部55に多孔質膜52を介在させることが好ましい。
【0110】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0111】
[実施例1]ガラス繊維の表面処理
(A)酢酸処理;
厚さ約1mmに抄紙した、ガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を縦約200mm,横約150mmにカットし、3枚重ねてステンレス製のバットに入れる。酢酸1mLをイオン交換水999gに溶解させた、濃度約16.5mMの酢酸水溶液200mLをこのバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてから4分30秒静置する。その後バットを30秒間傾斜させて液を除去する。この酢酸水溶液に浸漬する操作をもう一度行い、酢酸水溶液での処理を合計2回実施する。次に、イオン交換水200mLをこのバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてからバットを30秒間傾斜させて液を除去する。このイオン交換水に浸漬する操作を更に4回実施し、イオン交換水での処理を合計5回実施する。続いてメタノール200mLをバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてからバットを30秒間傾斜させて液を除去する。続いて、ピンセットでガラス繊維濾紙を挟んで静かに取り出し、予めドラフトの中に用意しておいた、(株)クレシア製のキムタオルを敷いて更に(株)クレシア製のキムワイプを敷いた部分に、ガラス繊維濾紙を静かにのせて、ドラフト内の空気を吸引しながら室温で1.5〜3時間乾燥させる。
【0112】
(B)PMEA(ポリ(メトキシエチルアクリレート))処理;
酢酸処理と同様に、厚さ約1mmに抄紙した、ガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を縦約200mm,横約150mmにカットし、3枚重ねてステンレス製のバットに入れる。PMEA約20%のトルエン溶液(サイエンティフィック・ポリマー・プロダクツ社製;PMEAの分子量約10万)1mLをメタノール199mLに希釈させて得た、濃度約0.1%のPMEA溶液をこのバットに静かに入れてガラス繊維濾紙に浸し、30秒間バットをゆすって液を浸透させてから4分30秒静置する。その後バットを30秒間傾斜させて液を除去する。次に、ピンセットでガラス繊維濾紙を挟んで静かに取り出し、予めドラフトの中に用意しておいた、キムタオルを敷いて更にキムワイプを敷いた部分に、ガラス繊維濾紙を静かにのせて、ドラフト内の空気を吸引しながら室温で1.5〜3時間乾燥させる。
【0113】
(C)真空乾燥;
酢酸処理,PMEA処理などを実施したガラス繊維濾紙は、キムタオルを敷いて更にキムワイプを敷いたものの上にのせてあるが、それごと真空乾燥機に入れて、室温で15〜21時間,0.01〜10mPa程度の圧力で減圧乾燥させる。乾燥終了後に実験室内の雰囲気(20〜30℃,30〜70%RH程度)に3時間以上放置してビニール袋に入れて保管する。
【0114】
[実施例2]公知の濾過器具(現行PF)に装填して濾過したときの結果
富士フイルムメディカル(株)から「富士ドライケムプラズマフィルターPF」の名称で販売されている、全血から血漿を回収するフィルターの樹脂製のカートリッジに、酢酸処理・PMEA処理をしない/したガラス繊維濾紙を各々充填し、更に富士ドライケムプラズマフィルターPFで使用しているポリスルホン多孔質膜(富士写真フイルム(株)製)を装着し、超音波融着して血液濾過評価用のフィルターカートリッジを作製した。作製したフィルターカートリッジを用い、富士ドライケム3500で規定されている減圧のシーケンスにしたがって全血を用いて吸引濾過し、血漿を得た。得られた血漿の成分を、(株)日立製作所製の臨床検査自動分析装置7170を用いて定量した。比較のために、3000rpmの回転数で10分遠心分離して得た血漿の成分を定量した。この実験において、健常人の男性から抗凝固剤としてヘパリンリチウムを用いた採血管を用いて採血し、得られた全血のへマトクリット値はH46%であった。また、吸引時間60秒で全血3mLから血漿340μLを得た。
【0115】
ガラス繊維濾紙をそのまま用いた場合には、ナトリウム(Na),カリウム(K),塩化物イオン(Cl)などの成分がガラスから血漿に溶出し、総コレステロール(TCHO)などの血漿中の成分がガラスに吸着することがわかった。また、酢酸処理したガラス繊維濾紙を用いた場合には、ナトリウム,カリウム,塩化物イオンなどの成分がガラスから溶出することを防ぐことができており,PMEA処理したガラス繊維濾紙を用いた場合には、総コレステロールなどの血漿中の成分の吸着を防ぐことができていることがわかった。酢酸処理をした後にPMEA処理をしたガラス繊維濾紙を用いると、遠心分離血漿とほぼ同等の血漿を得ることができるとわかった。また、得られた血漿は赤い色を帯びることもなく、遠心分離で得た血漿と比較して、カリウム(K),乳酸脱水素酵素(LDH)の値も大きくないことから、溶血は起きていないとわかった。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
[実施例3]嵌合式濾過器具に装填して濾過したときの結果
(A)嵌合式濾過器具
図3〜6に示す透明ポリスチレン樹脂(PS)製の外管および内管を作成した。厚さ約1mmに抄紙したガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を直径8mmに打ち抜き、打ち抜いたガラス繊維濾紙16枚を内管の内径8mmの部分に装填した。富士ドライケムプラズマフィルターPFで使用しているポリスルホン多孔質膜(富士写真フイルム(株)製)を直径11mmに打ち抜き、外管の内径11mmの部分で直径8mmの突起がある部分に挿入した。ガラス繊維濾紙を充填した内管とポリスルホン多孔質膜を挿入した外管を、ポリスルホン多孔質膜を挟み込むようにして嵌合した。この嵌合したフィルターユニットを用いて血液濾過に使用した。すなわち、内管のノズル部分を全血に浸漬し、外管の嵌合に用いていない端から吸引することによって減圧濾過をして全血から血漿を回収する形状のユニットを作成した。
【0120】
(B)嵌合式濾過器具で濾過をしたときの結果
上記で作製した、嵌合式のフィルターユニットを用いて血液濾過を実施した。嵌合式のフィルターユニットに充填するガラス繊維濾紙には、酢酸処理・PMEA処理をしない/したガラス繊維濾紙を各々用いた。富士ドライケム3500で規定されている方法と同等の減圧のステップのシーケンスにしたがって全血を吸引濾過し、赤血球が漏れることなく血漿を得た。得られた血漿の成分を、(株)日立製作所製の臨床検査自動分析装置7170を用いて定量した。比較のために、3000rpmの回転数で10分遠心分離して得た血漿の成分を定量した。この実験において、健常人の男性から抗凝固剤としてヘパリンリチウムを用いた採血管を用いて採血し、得られた全血のへマトクリット値はH46%であった。また、総吸引時間200秒で、全血1mLから血漿140μLを得た。
【0121】
嵌合式のフィルターユニットを用いて全血から血漿を吸引濾過した場合、ガラス繊維濾紙をそのまま用いた場合には、ナトリウム(Na),カリウム(K),塩化物イオン(Cl)などの成分がガラスから血漿に溶出し、総コレステロール(TCHO)などの血漿中の成分がガラスに吸着することがわかった。また、酢酸処理したガラス繊維濾紙を用いた場合には、ナトリウム,カリウム,塩化物イオンなどの成分がガラスから溶出することを防ぐことができており、PMEA処理したガラス繊維濾紙を用いた場合には、総コレステロールなどの血漿中の成分の吸着を防ぐことができていることがわかった。酢酸処理をした後にPMEA処理をしたガラス繊維濾紙を用いると、遠心分離血漿とほぼ同等の血漿を得ることができるとわかった。また、得られた血漿は赤い色を帯びることもなく、遠心分離で得た血漿と比較して、カリウム(K),乳酸脱水素酵素(LDH)の値も大きくないことから、溶血は起きていないとわかった。
【0122】
【表4】

【0123】
【表5】

【0124】
【表6】

【0125】
[実施例4]平板チップ(嵌合式乾式分析素子)を用いたときの結果
(A)平板チップ(嵌合式)の作製
以下の手順に従って図12に示す上部材30と下部材40とを多孔質膜52を介して嵌合した乾式分析素子50を作製した。
透明ポリスチレンを用いて成形した、約24mm×28mmのサイズの上部材30及び下部材40を用意した。嵌合凸部35及び嵌合凹部46の直径を約9mmとした。濾過フィルタ36として、赤血球捕捉・血漿抽出用のガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)を予め酢酸処理したのちにPMEA処理したガラス繊維を流路34に充填した。
【0126】
また、乾式分析要素54として、富士ドライケム マウントスライドGLU−P及びTBIL−P(富士写真フイルム社製)を各々幅2mm弱・長さ2mm弱にカットしたものを用意し、下部材40の9箇所のセル42に配置した。なお、9箇所のセル42のうち、中心及び四隅の位置にGLU−Pを合計5箇所装填し、TBIL−Pをそれ以外の箇所に合計4個装填した。
続いて、多孔質膜52として、ポリスルホン多孔質膜(富士写真フイルム社製)を一辺が約18mmの正方形にカットしたものを用意した。このポリスルホン多孔質膜を嵌合凹部46の上方に静かに乗せ、嵌合凸部35と嵌合凹部46との嵌合部に挟み込むようにして上部材30と下部材40とを嵌合させた。(平板チップ)
【0127】
(B)測定装置
図11に示す測定装置100を用意した。各部材の設定は以下の通りとした。
測定装置100;倒立の実体顕微鏡。
CCD受光部での倍率は以下の2通りを用意。
0.33倍; CCD部分で33μm/ピクセル
1倍; CCD部分で10μm/ピクセル
光源72;林時計工業(株)製のルミナーエース LA−150UX
波長可変部74(干渉フィルタ);625nm,540nm,505nmで各々単色化
光可変部73(減光フィルタ);HOYA(株)製のガラスフィルタ ND−25
およびステンレス板に孔をあけた自家製フィルタ
エリアセンサ76(CCD);SONY(株)製の8ビット白黒カメラモジュール XC−7500
コンピュータ77(データ処理(画像処理));(株)ニレコ製の画像処理装置 LUZEX−SE。
反射光学濃度を校正するための手段;富士機器工業(株)製の標準濃度板(セラミック仕様)を以下の6種類用意。
標準濃度板;A00(反射光学濃度〜0.05)、
A05(同0.5)、
A10(同1.0)、
A15(同1.5)、
A20(同2.0)、
A30(同3.0)。
【0128】
(C)平板チップによる分析
上記で作製した嵌合式乾式分析素子50(平板チップ)の供給口32にプレーン採血した全血を200μL注入し、10〜20秒静置して全血をガラス繊維濾紙(濾過フィルタ36)に展開させた後に、吸引ノズル44にシリコン製のチューブが接続し、このチューブの先にディスポーザブルシリンジ(テルモ(株)製)を装着して、静かにシリンジのピストンを引いて吸引した。
濾過により抽出された血漿がポリスルホン多孔質膜を通過して、ドライケム マウントスライドに滴下され、GLU−PおよびTBIL−Pスライドが徐々に発色を開始した。 全血が注入されてから血漿を抽出してマウントスライドに滴下するまでに要した時間は30秒であった。
【0129】
GLU−PおよびTBIL−Pスライドの発色の様子を図11に示す測定装置100を用いて同時にCCDカメラで撮像し、LUZEX−SEを用いて得られた画像を処理し、セル42の中心に配置したGLU−Pおよび吸引ノズル44の隣に位置するTBIL−Pスライドの画像の中心付近の平均受光量を求めて光学濃度に換算し、検体中のグルコース及び総ビリルビン濃度を求めた。
CCDカメラで撮像した画像をLUZEX−SEで処理する際に、GLU−PおよびTBIL−Pの画像の中心部分について、各々縦1.4mm×横1.4mmの範囲の受光量を画像処理によって算出した。このとき、光学系の倍率0.33倍を使用したので、画素は縦42ピクセル×横42ピクセル、すなわち画素数1764で計測した。CCDカメラを用いて測定した結果が正しいかどうか比較するために、日立製作所製の自動臨床検査装置7170を用いて検体中のグルコース及び総ビリルビン濃度を求めた。以上の結果を表7に示す。このとき、GLU−PおよびTBIL−Pスライドでは測定波長が異なるため、表8に示すように干渉フィルターの波長を5秒ごとに逐次変えて測光した。
【0130】
【表7】

【0131】
【表8】

【0132】
以上より、乾式分析素子50は、赤血球が漏れることなく簡単な操作で迅速に測定を行うことが可能であることが分かった。これは、上部材30と下部材40とを超音波融着によって接合した場合と同様の結果であった。従って、本発明の嵌合式乾式分析素子により、血液を濾過して分析できることが明らかとなった。
なお、ここでは、乾式分析要素54として、2項目分のドライケミストリー用試薬を使用したが、適宜項目数を増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】ガラス繊維に全血を滴下し凍結乾燥した後の走査型電子顕微鏡写真。
【図2】全血試料液にガラス繊維がない場合は赤血球はスムーズに流れたが、ガラス繊維が存在する場合は直径2μm程度の細いガラス繊維に赤血球が絡まる様子。
【図3】嵌合式血液濾過器具の嵌合前の斜視図。
【図4】嵌合式血液濾過器具のフィルタ収容部材12を示す断面図。
【図5】嵌合式血液濾過器具のホルダ部材14を示す断面図。
【図6】嵌合式血液濾過器具の嵌合時の断面図。
【図7】多項目測定乾式分析素子の一実施形態を示す模式図。
【図8】同(組立後)
【図9】採血ユニットの一実施形態を示す模式図。
【図10】同(採血時)
【図11】測定装置の模式図。
【図12】嵌合式乾式分析素子の一実施形態を示す断面図である。
【図13】(A)は嵌合式乾式分析素子の上部材30を示す上面図、(B)は上部材30の断面図である。
【図14】(A)は嵌合式乾式分析素子の下部材40を示す上面図、(B)は下部材40の断面図である。
【符号の説明】
【0134】
10 血液濾過器具
12 フィルタ収容部材
14 ホルダ部材
15,36 血液濾過フィルタ
17,52 シール部材(多孔質膜)
19 フィルタ収容部材の検体出口側(上端)の開口部
A100 多項目測定乾式分析要素
A1 流路
A2 顕色反応試薬を担持している部分
A3 注入口
A4 上蓋
A5 下材
A6 濾材
A7 顕色反応試薬
E1 上蓋の接合方向
E2 濾材の配置場所を表す矢印
E3 顕色反応試薬の配置場所を表す矢印
B100 採血ユニット
B1 採血器具
B2 穿刺針
C1 多項目測定乾式分析要素の装着方向
C2 減圧する際の摺動方向
D 全血
28,55 嵌合部
30 上部材
40 下部材
50 乾式分析素子
54 乾式分析要素
100 測定装置
71 多項目測定乾式分析要素設置部
72 光源
73 光可変部
74 波長可変部
75a、75b、75c レンズ
76 エリアセンサ
77 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の表面を高分子で被覆してなることを特徴とする血液濾過用ガラス繊維フィルター。
【請求項2】
ガラス繊維を酸を用いて洗浄した後に、該ガラス繊維の表面を高分子で被覆してなることを特徴とする血液濾過用ガラス繊維フィルター。
【請求項3】
前記高分子がアクリレート系高分子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の血液濾過用ガラス繊維フィルター。
【請求項4】
前記アクリレート系高分子がポリ(アルコキシアクリレート)であることを特徴とする請求項3に記載の血液濾過用ガラス繊維フィルター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の血液濾過用ガラス繊維フィルターを用いたことを特徴とする血液濾過器具。
【請求項6】
請求項5に記載の血液濾過器具において、複数の部材を嵌合させ、嵌合させる部分にシール部材を挟むことで減圧時に実質的に気密かつ水密となることを特徴とする血液濾過器具。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の血液濾過用ガラス繊維フィルターを用い、該ガラス繊維フィルターを通過した濾液が乾式分析要素に接触することを特徴とする血液分析素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−38512(P2006−38512A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215609(P2004−215609)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】