説明

血液試料の平均赤血球容積を測定するための血液試料希釈用試薬

【課題】自動血液分析装置による血液試料の平均赤血球容積の測定において、測定温度による測定結果の誤差が少ない血液試料の平均赤血球容積を測定するための血液試料希釈用試薬を提供する。
【解決手段】本発明における血液試料の平均赤血球容積を測定するための血液試料希釈用試薬は、水と、水酸基価が53〜58のポリオキシエチレンアルキルエーテルと、浸透圧調整剤と、を含み、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が、0.005〜0.05重量%であり、浸透圧が150〜400mOsm/kgであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料の平均赤血球容積(以下、MCVという場合がある)を測定するための血液試料希釈用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
自動血液分析装置は、血液試料の分析を自動化した装置である。この自動血液分析装置により測定される項目として、血液試料のMCVがある。MCVは、ヘマトクリット値を赤血球(以下、RBCという場合がある)数で割った値として得られる。ヘマトクリット値は全血の単位容積中の赤血球のパーセンテージである。したがって、MCVは、赤血球の平均容積を示す値である。MCVは、フェムトリットル(fL)または10−15Lの単位を用いて示される。
【0003】
ここで、自動血液分析装置により、RBC数及びヘマトクリット値を求める方法として、シースフローDC検出法が知られている。シースフローDC検出法では、血球が、フローセルに設けられている細孔を通過する際に生じる、インピーダンスの変化を検出することで、血球の数及び大きさを測定する。この自動血液分析装置で血液試料を分析する場合、血液試料を生理学的に等張な希釈液で希釈する必要がある。全血を希釈するための希釈液としては、一般的に、「生理食塩水」、「Ringer液」、「Rocke液」および「Tyrode液」などが存在する。
【0004】
また、血液試料の時間経過に伴うMCVの変化を抑制するための血液試料希釈用試薬として、特許文献1に記載の血液試料希釈用試薬が知られている。特許文献1に記載の血液試料希釈用試薬は、少なくとも1つのノニオン界面活性剤と、試薬の浸透圧を約150〜400mOsm/kgに調整するための物質とを含む。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の血液試料希釈用試薬を用いて血液試料のMCVを測定した場合、測定温度によりMCVの値が変化する。より具体的には、MCVの値が、低温から温度が上がるにつれて著しく低下し、ある温度で変曲点をもち、変曲点の温度を超えると温度が上がるにつれて徐々に高くなる。
【0006】
一般的に、自動血液分析装置による血液試料のMCVの測定において、測定温度は20℃以上の場合が多い。しかし、自動血液分析装置が設置されている場所や、自動血液分析装置のヒーターの性能により、測定温度が20℃未満になる場合がある。そのため、上記の変曲点が20℃以上の場合、自動血液分析装置の測定結果を測定温度で補正する際に、複雑な補正が必要となる。

【特許文献1】特開2000−356636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、自動血液分析装置による血液試料のMCVの測定において、測定温度による測定結果の誤差が少ない、血液試料希釈用試薬を提供することを目的とする。より具体的には、測定温度によるMCVの値の変化における、変曲点の温度が、20℃以下となる、血液試料希釈用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)水と、水酸基価が53〜58のポリオキシエチレンアルキルエーテルと、浸透圧調整剤と、を含み、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が、0.005〜0.05重量%であり、浸透圧が150〜400mOsm/kgである、血液試料の平均赤血球容積を測定するための血液試料希釈用試薬;
(2)ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンオレイルエーテルである、(1)に記載の血液試料希釈用試薬;
(3)ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、オキシエチレン鎖の平均値が異なる少なくとも2つのポリオキシエチレンアルキルエーテルを混合したものである、(1)又は(2)に記載の血液試料希釈用試薬。
(4)浸透圧が230〜350mOsm/kgである、(1)〜(3)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
(5)浸透圧調整剤が、塩化ナトリウムである、(1)〜(4)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
(6)pHが6〜8.5である(1)〜(5)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
(7)緩衝剤をさらに含有する、(1)〜(6)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
(8)pH調節剤をさらに含有する、(1)〜(7)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
(9)酸化防止剤をさらに含有する、(1)〜(8)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
(10)防腐剤をさらに含有する、(1)〜(9)のいずれか1に記載の血液試料希釈用試薬;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血液試料希釈用試薬を用いた血液試料のMCVの測定方法によれば、測定温度による測定結果の補正する場合、複雑な補正を行なう必要がない。そのため、測定温度によって生じる誤差が少ない、MCVの測定結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態の血液試料希釈用試薬は、水と、水酸基価が52〜60のポリオキシエチレンアルキルエーテルと、浸透圧調整剤と、を含み、浸透圧が150〜400mOsm/kgである。
【0011】
本実施形態において、水酸基価とは、エステル化物中に含まれる水酸基数の大小の指標となる数値である。より具体的には、1gのエステル化物に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示す。
【0012】
本実施形態の血液試料希釈用試薬は、水酸基価が52〜60のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。好ましくは、水酸基価が53〜58のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。これにより、測定温度によるMCVの値の変化における変曲点の温度を、20℃以下にすることができる。
【0013】
ここで、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの水酸基価は、オキシエチレン鎖の平均値が長いほど小さくなる。逆に、オキシエチレン鎖の平均値が短いほど大きくなる。例えば、オキシエチレン鎖の平均値が20である、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルの水酸基価は、約50である。オキシエチレン鎖の平均値が19である、ポリオキシエチレン(19)オレイルエーテルの水酸基価は、約55である。オキシエチレン鎖の平均値が18である、ポリオキシエチレン(18)オレイルエーテルの水酸基価は、約57である。オキシエチレン鎖の平均値が16である、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルの水酸基価は、約60である。
【0014】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの水酸基価は、オキシエチレン鎖の平均値が異なる複数のポリオキシエチレンアルキルエーテルを混合することで、調整することも可能である。例えば、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルとポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルを、1:3で混合することで、水酸基価を約54に調整することができる。すなわち、本実施形態の血液試料希釈用試薬には、オキシエチレン鎖の平均値が異なる少なくとも2つのポリオキシエチレンアルキルエーテルが含まれていても良い。
【0015】
なお、血液試料希釈用試薬に含まれるポリオキシエチレンアルキルエーテルの水酸基価は、公知の方法を用いて測定することができる。例えば、血液試料希釈用試薬に含まれるポリオキシエチレンアルキルエーテルを、ピリジン中で無水酢酸と反応させ、酢酸を生成させる。そして、生成した酢酸を、フェノールフタレインを指示薬に用いて水酸化カリウムで滴定することにより定量することができる。また、水酸基価を測定するための自動水酸基価測定装置も市販されている。この装置を使用して、血液試料希釈用試薬に含まれるポリオキシエチレンアルキルエーテルの水酸基価を測定することもできる。ここで、本実施形態で用いられるポリオキシエチレンアルキルエーテルのオキシエチレン鎖の平均値は、16以上が好ましい。
【0016】
また、血液試料希釈用試薬に含まれる、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度は、0.0005〜0.5重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、特に好ましくは0.005〜0.05重量%である。
【0017】
本実施形態において、血液試料希釈用試薬の浸透圧は、150〜400mOsm/kg、好ましくは230〜350mOsm/kgに調整される。この範囲に血液試料希釈用試薬の浸透圧を調製することで、血液試料の時間経過に伴うMCVの変化を抑制することができる。なお、血液試料希釈用試薬の浸透圧を、上記の浸透圧に調整するための浸透圧調整剤としては、例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態において、血液試料希釈用試薬は、緩衝剤を含むことができる。緩衝剤としてはリン酸塩緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、トリス緩衝剤、及びイミダゾール緩衝剤が挙げられる。特に、ホウ酸塩緩衝剤が好ましい。
【0019】
本実施形態において、血液試料希釈用試薬のpHは、6〜8.5に調整される。血液試料希釈用試薬のpHを、上記のpHに調整するためのpH調整剤としては、例えば塩酸や水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0020】
本実施形態において、血液試料希釈用試薬は、酸化防止剤を含むことができる。酸化防止剤としては、EDTA及びブチルメチルフェノールなどが挙げられる。特に、EDTAが好ましい。
【0021】
本実施形態において、血液試料希釈用試薬は、防腐剤を含むことができる。防腐剤としては、2−ピリジルチオ−1−オキシドナトリウム及びβ−フェネチルアルコールなどが挙げられる。特に、2−ピリジルチオ−1−オキシドナトリウムが好ましい。
【0022】
図1は、本発明の血液試料希釈用試薬を用いてMCVを測定するための自動血液分析装置1の概略構成を示す正面図である。本実施形態による自動血液分析装置1は、図1に示すように、測定ユニット2と、データ処理ユニット3によって構成されている。そして、測定ユニット2とデータ処理ユニット3とは、互いにデータ通信可能なように、データ伝送ケーブル3aにより接続されている。また、データ処理ユニット3は、入力部36と、ディスプレイ装置37と、データ処理装置38によって構成されている。自動血液分析装置1では、測定ユニット2により血液試料中に含まれる成分について所定の測定が行われる。データ処理ユニット3は、測定ユニット2で得られた測定データの分析処理を行っている。なお、測定ユニット2とデータ処理ユニット3とは、データ伝送ケーブル3aにより直接接続される構成であってもよいし、たとえば、電話回線を使用した専用回線、無線LAN、LANまたはインターネットなどの通信ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0023】
図2は、自動血液分析装置1の概略構成を示すブロック図である。図2に示すように、測定ユニット2は、希釈液容器4と、ヒーター5と、試料供給部6と、DC測定部7と、廃液チャンバ8と、流路9と、温度センサ10と、温度センサ11と、制御部12と、通信部13とを含んでいる。ここで、血液試料希釈用試薬(以下、単に希釈液という場合がある)は、希釈液容器4に収容されている。また、試料供給部6は、例えば、混合チャンバ6aと、サンプリングバルブ6bと、ピペット6cと、シリンジ6dと、モーター6eとを含んでいる。
【0024】
図2に示すように、希釈液容器4と、サンプリングバルブ6bと、ピペット6cと、シリンジ6dと、混合チャンバ6aと、DC測定部7と、廃液チャンバ8は、流路9で接続されている。流路9における、液体の動きは、モーター6eによるシリンジ6dの動作、及びサンプリングバルブ6bによって制御されている。より具体的には、(1)採血管から血液試料が、ピペット6cによって、サンプリングバルブへと吸引される。(2)サンプリングバルブ6bで定量された血液試料が、希釈液で500倍に希釈され、混合チャンバ6aに運ばれる。(3)混合チャンバ6a中の希釈試料が、DC測定部7に送られる。(4)DC測定部7を通過した希釈試料が、廃液チャンバ8へ排出される。
【0025】
ここで、測定ユニット2は、希釈液容器4とサンプリングバルブ6bとを接続する流路9に、ヒーター5を有している。このヒーター5により、希釈液が加温され、DC測定部7における希釈試料の温度が、20℃以上になるように構成されている。なお、測測定ユニット2のヒーター5は、希釈液容器4とサンプリングバルブ6bとを接続する流路9に配置されているが、これに限られない。すなわち、DC測定部7における希釈試料の温度が、20℃以上になるようにヒーター5を配置すればよい。例えば、流路9の他の場所に配置しても良いし、希釈液容器4や混合チャンバ6aを直接加温するように配置しても良い。
【0026】
温度センサ11は、DC測定部7における希釈試料の温度を測定するためのものである。温度センサ11は、DC測定部7に近い場所に配置されることが好ましい。DC測定部7における希釈試料の温度を、より正確に測定するためである。例えば、本実施形態の測定ユニット2の温度センサ11は、DC測定部7を通過した後の希釈試料の温度を測定するように配置されている。また、温度センサ11は、DC測定部7に入る前の希釈試料の温度を測定するように配置されても良い。さらに、温度センサ11は、後述するDC測定部7のフローセル71中の希釈試料の温度を測定するように配置されても良い。
【0027】
温度センサ10は、自動血液分析装置1の周辺温度を測定するためのものである。そのため、温度センサ10は、ヒーター5やモーター6eなどから発生する熱の影響を受けにくい場所に配置することが好ましい。なお、測定ユニット2の温度センサ10は、測定ユニット2の内部に配置されている。しかし、温度センサ10は、測定ユニット2の外部に配置しても良い。
【0028】
DC測定部7は、フローセル71を有しており、このフローセル71に混合チャンバ6aから希釈試料が移送されるようになっている。図3は、DC測定部7のフローセル71の概略構成を示す図面である。フローセル71は、希釈試料をフローセルに供給するための試料ノズル72と、細孔を有するアパーチャ73と、アパーチャ73を通過した希釈試料を回収する回収管74と、マイナス電極77と、プラス電極78とを有している。フローセル71では、試料ノズル72がアパーチャ73の前に配置され、センターが合わされている。希釈試料が試料ノズル73から押し出されると、希釈試料はフロントシース液75に包まれアパーチャ73の中央部を通過する。希釈試料は、アパーチャ73を通過後、バックシース液76に包まれ回収管74へと送り込まれる。ここで、マイナス電極77とプラス電極78との間には、直流電流が流れている。希釈試料に含まれる血球がアパーチャ73を通過することで生じる電気抵抗の変化により、直流電流のパルス信号が変化する。すなわち、DC測定部7は、パルス信号の変化として、希釈試料に含まれる血球を測定することができる。このDC測定部7で得られたパルス信号に基づいて、データ処理装置が、シースフローDC検出法及び赤血球パルス波高値検出法により、赤血球数(RBC)とヘマトクリット値(HCT)とを算出する。より具体的には、パルス信号のパルス数に基づいてRBCが算出され、パルス信号のパルスの高さに基づいて、HCTが算出される。
【0029】
通信部13は、たとえば、RS−232Cインタフェース、USBインタフェース、Ethernet(登録商標)インタフェースであり、データ処理ユニット3との間でデータの送受信を行うことが可能なように構成されている。また、通信部13は、制御部12と回路で接続されており、制御部12とデータの送受信が可能なように構成されている。
【0030】
制御部12は、CPU、ROM、RAMなどから構成されている。そして、制御部12は、測定ユニット2の各部と回路14で接続されており、それらの動作制御やデータの送受信を行うように構成されている。例えば、制御部12は、試料供給部6のモーター6eの動作制御を行なうことで、流路9における液体の動きを制御している。また、制御部12は、温度センサ11、温度センサ10、及びDC測定部7などから受信したデータの、通信部13への送信を行っている。また、制御部12は、通信部13が受信したデータ処理ユニット3からの情報の、測定ユニット2の各部への送信も行なっている。
【0031】
データ処理ユニット3は、図2に示すように、キーボードおよびマウスなどの入力部36、ディスプレイ装置37、およびデータ処理装置38を備えるコンピュータによって構成されている。データ処理装置38は、CPU31、ROM32、RAM33、ハードディスク34、および通信インタフェース35により構成されている。データ処理ユニット3のハードディスク34には、オペレーティングシステムと、測定ユニット2から受信した測定データを分析処理するためのアプリケーションプログラムがインストールされている。
【0032】
ここで、本実施形態では、データ処理ユニット3のCPU31は、このアプリケーションプログラムを実行することにより、測定データを分析処理し、赤血球数(RBC)、ヘマトクリット値(HCT)及び平均赤血球容積(MCV)を算出するように構成されている。
【0033】
通信インタフェース35は、たとえば、RS−232Cインタフェース、USBインタフェース、Ethernet(登録商標)インタフェースであり、測定ユニット2との間でデータの送受信を行うことが可能に構成されている。
【0034】
図4は、図1及び図2に示した自動血液分析装置1における試料分析処理を示すフローチャートである。以下、図4を参照して、自動血液分析装置1における試料分析処理について説明する。
【0035】
まず、自動血液分析装置1が起動されると、アプリケーションプログラムなどの初期化が行われた後、ステップS1において、データ処理ユニット3のCPU31により、ユーザからの測定開始指示があったか否かが判断される。なお、測定開始指示があるまでこの判断が繰り返される。そして、測定開始指示があった場合には、ステップS2において、データ処理ユニット3から測定ユニット2に測定開始指示信号が送信される。
【0036】
そして、ステップS21において、測定ユニット2の制御部8により、測定開始指示信号が受信されたか否かが判断される。なお、この判断は、測定開始指示信号を受信するまで繰り返される。測定ユニット2が測定開始指示信号を受信すると、ステップS22において、ピペット6cにより、採血管から血液試料が吸引される。
【0037】
そして、ステップS23において、試料供給部6により、希釈試料が調製される。具体的には、希釈液容器4から所定量(たとえば、2.0mL)の希釈液、および、ピペット6cにより採血管20から吸引された所定量(たとえば、4μL)の血液試料が混合チャンバ6aに供給され、攪拌される。なお、希釈液は、希釈液容器4から混合チャンバ6aへの流路9においてヒーター5により加温される。これにより、所定量(たとえば、2.0mL)の加温された希釈試料が調製される。その後、ステップS24において、混合チャンバ6a内の希釈試料の一部(たとえば、1mL)が、シース液(希釈液)とともにDC測定部7に移送されるとともに、希釈試料に含まれる血球が、DC測定部7のフローセル71におけるアパーチャ73を通過することで生じる、マイナス電極77とプラス電極78との間に流れる直流電流の電気抵抗の変化を示すパルス信号の測定が行われる。
【0038】
そして、ステップS25において、温度センサ11により、DC測定部7を通過した希釈試料の温度(測定温度)が測定される。なお、測定温度が23℃以上となるように、希釈試料の調製に用いられる希釈液が加温されるように、ヒーター5は設定されている。
【0039】
そして、ステップS26において、各検出部において測定された、パルス信号及び測定温度を含む測定データが、測定ユニット2からデータ処理ユニット3に送信される。
【0040】
データ処理ユニット3では、ステップS3において、測定ユニット2が送信した測定データが受信されたか否かが判断され、受信するまでこの判断が繰り返される。そして、測定データを受信すると、ステップS4において、CPU31により、ステップS24で測定されたパルス信号に基づいて、赤血球数(RBC)およびヘマトクリット値(HCT)が算出される。
【0041】
その後、ステップS5において、赤血球数(RBC)およびヘマトクリット値(HCT)から、CPU31により、平均赤血球容積(MCV)が以下の式(1)から算出される。
【0042】
MCV=(HCT/RBC)×1000 ・・・(1)
上記の式(1)において、MCVは平均赤血球容積(fL)、HCTはヘマトクリット値(%)、RBCは赤血球数(×10/μL)をそれぞれ表す。
【0043】
さらに、ステップS6により、平均赤血球容積(MCV)および測定温度から、CPU31により、MCVの補正値が以下の式(2)から算出される。
【0044】
補正MCV=MCV×(1+0.048×(23−測定温度)) ・・・式(2)
上記の式(2)で得られた補正MCVは、測定温度による誤差が少ないMCVとなる。
【0045】
そして、ステップS7において、上記のように算出された、赤血球数(RBC)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)および補正されたMCVの算出結果がディスプレイ装置37に出力される。
【0046】
その後、ステップS8において、ユーザからのシャットダウン指示の有無が判断され、指示がない場合には、ステップS1に移行される。シャットダウン指示があった場合には、自動血液分析装置1における試料分析処理のデータ処理ユニット3の動作が終了される。また、測定ユニット2では、ステップS26で測定データをデータ処理ユニット3に送信した後、ステップS27において、ユーザからのシャットダウン指示があったか否かが判断され、指示がない場合には、ステップS21に移行される。シャットダウン指示があった場合には、自動血液分析装置1における試料分析処理の測定ユニット2の動作が終了される。
【0047】
なお、本実施形態では、温度センサ11により測定された希釈液の温度(測定温度)を用いて、MCVの補正値を算出している。しかし、本発明はこれに限られず、温度センサ10により測定された自動血液分析装置1の周辺温度(環境温度)を用いて、MCVの補正値を算出することもできる。さらに、測定温度及び環境温度の両方を用いて、MCVの補正値を算出することもできる。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
(血液試料希釈用試薬の調製)
血液試料希釈用試薬であるシスメックス社製のセルパック 1Lに、塩化ナトリウムを2.20g添加した。次に、塩化ナトリウムを添加したセルパックに、0.015重量%となるように、水酸基価の異なるポリオキシエチレンオレイルエーテルを添加し、試薬A〜Eを調製した。
【0050】
試薬A〜Eの調製に用いられた、ポリオキシエチレンオレイルエーテルの水酸基価を以下に示す。
試薬A:水酸基価が49.0のポリオキシエチレンオレイルエーテル
試薬B:水酸基価が51.0のポリオキシエチレンオレイルエーテル
試薬C:水酸基価が53.6のポリオキシエチレンオレイルエーテル
試薬D:水酸基価が54.8のポリオキシエチレンオレイルエーテル
試薬E:水酸基価が57.1のポリオキシエチレンオレイルエーテル
【0051】
(MCVの測定)
正常新鮮血3検体を、それぞれ試薬A〜Eで500倍に希釈し、測定用試料を調製した。調製した測定用試料を用いて、自動血液分析装置XE−2100(シスメックス社製)により、測定温度を変えてMCVを測定した。なお、自動血液分析装置XE−2100は、測定用試料の温度を制御するヒーターを有していない。従って、装置周辺の温度(環境温度)を変化させることで、測定温度を調整した。正常新鮮血3検体のMCVの測定値を平均した値を、測定値とした。試薬A〜Eの各試薬を血液試料希釈用試薬として用いた場合の、測定温度と、MCVの測定値との関係を、図5に示す。
【0052】
図5から明らかなように、試薬Aと試薬Bを血液試料希釈用試薬として用いた場合、変曲点の温度が20℃より大きくなる。それに対し、試薬C、試薬D及び試薬Eを血液試料希釈用試薬として用いた場合、変曲点の温度が20℃以下になる。
【0053】
このことから、水酸基価が少なくとも53.6以上のポリオキシエチレンオレイルエーテルを含有する血液試料希釈用試薬を用いた場合、測定温度が20℃以上であれば、複雑な補正を行なうことなく、血液試料のMCVを自動血液分析装置で測定可能であることが示された。
【0054】
<実施例2>
(血液試料希釈用試薬の調製)
血液試料希釈用試薬であるシスメックス社製のセルパック(II)に、0.015重量%となるように、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテルとポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルを、1:3の割合で混合した混合物を添加し、水酸基価54の血液試料希釈用試薬を調製した。
【0055】
(MCVの測定及び測定値の補正)
正常新鮮血3検体を、それぞれ水酸基価54の血液試料希釈用試薬で500倍に希釈し、測定用試料を調製した。調製した測定用試料を用いて、自動血液分析装置XE−2100(シスメックス社製)により、環境温度でMCVを測定した結果を、図6の黒四角で示す。
【0056】
また、自動血液分析装置XE−2100C(シスメックス社製)により、測定温度を23℃以上に制御してMCVを測定した結果を、図6の黒丸で示す。なお、自動血液分析装置XE−2100Cは、自動血液分析装置XE−2100に血液試料希釈用試薬を加温するヒーターを備えた装置である。より具体的には、自動血液分析装置XE−2100Cは、図2で示される自動血液分析装置1と同様に、血液試料希釈用試薬を収容する希釈液容器とサンプリングバルブを接続する流路にヒーターが配置されている。
【0057】
さらに、上記のヒーターによって血液試料希釈用試薬を加温することで、測定用試料の測定温度を23℃以上に制御し、且つ測定温度でMCVの測定結果を上記の式(2)で補正した補正MCVを、図6の白丸で示す。
【0058】
なお、正常新鮮血3検体のMCVの測定値を平均した値を、測定値とした。
【0059】
図6から明らかなように、水酸基価54の血液試料希釈用試薬を用い、測定温度を23℃以上に制御することで、MCVの測定値を単調増加させることができる。そのため、式(2)に示される簡単な一次式を利用して、正確にMCVの測定値を補正できることが明らかとなった。











【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】自動血液分析装置1の概略構成を示す正面図である。
【図2】自動血液分析装置1の概略構成を示すブロック図である。
【図3】DC測定部7におけるフローセル71の概略構成を示す図面である。
【図4】自動血液分析装置1における試料分析処理を示すフローチャートである。
【図5】試薬A〜Eの各試薬を血液試料希釈用試薬として用いた場合の、測定温度と、MCVの測定値との関係を示した図である。
【図6】本発明の血液試料希釈用試薬を用いて、環境温度で測定したMCVの測定結果と、測定温度を23℃以上に制御して測定したMCVの測定結果と、測定温度を23℃以上に制御し、且つ測定温度で補正した補正値とを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
水酸基価が53〜58のポリオキシエチレンアルキルエーテルと、
浸透圧調整剤と、を含み、
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度が、0.005〜0.05重量%であり、浸透圧が150〜400mOsm/kgである、血液試料の平均赤血球容積を測定するための血液試料希釈用試薬。
【請求項2】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンオレイルエーテルである、請求項1に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項3】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、オキシエチレン鎖の平均値が異なる少なくとも2つのポリオキシエチレンアルキルエーテルを混合したものである、請求項1又は2に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項4】
浸透圧が230〜350mOsm/kgである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項5】
浸透圧調整剤が、塩化ナトリウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項6】
pHが6〜8.5である請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項7】
緩衝剤をさらに含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項8】
pH調節剤をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項9】
酸化防止剤をさらに含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。
【請求項10】
防腐剤をさらに含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液試料希釈用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−233927(P2012−233927A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195933(P2012−195933)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2008−247485(P2008−247485)の分割
【原出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】