説明

血液透析システム及び透析液流速度の算出方法

【課題】血液ポンプの性質等を考慮して、目標とする透析量を達成するのに必要な適正な透析液流速度を算出する血液透析システムを提供する。
【解決手段】血液透析システム1は、血液透析治療時に血液ポンプに設定される設定血流速度における最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度設定部61と、透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、最大設定血流速度設定部61により設定された最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、透析液流速度を算出する透析液流速度算出部63と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析システム及び当該血液透析システムの透析液ポンプに設定される透析液流速度の算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透析量とは、患者に対して施行された一回の血液透析治療の治療量と定義される。透析量の指標には尿素除去率(R)とKt/V(=f(R))値の二つがあるが、一般にはKt/V値が採用されている。既に血液透析治療が終了しているKt/V値は、従来より、血液透析治療の開始時と終了時の実測の血清尿素濃度と、該血液透析治療中における除水量と、該血液透析治療の治療時間とを、所定の演算式に代入して算出されている。
【0003】
Kt/V値を算出するための、血液透析治療の終了時における血清尿素濃度は、患者の体内に存在する水分の総量である体液量、血液透析治療時間、血液透析治療中における除水量、使用する透析器の性能を示す指標である総括物質移動面積係数(一般的に「KOA」と称されるもの)、血流速度、及び透析液流速度の6つの因子によって決定できる。
【0004】
ところで、現在、多くの統計調査研究により、死亡率を最小にするKt/V値、いわゆる至適Kt/V値が明らかにされている。血液透析医療においては、多くの統計調査研究により明らかになった至適Kt/V値が達成されるような血液透析治療を施行する必要がある。そこで、医療スタッフは、通常、血液透析治療の開始時に、調整因子として血流速度又は透析液流速度の少なくともいずれかを調整することにより、結果的に血液透析治療の終了時における血清尿素濃度を調整し、Kt/V値を調整している。
【0005】
より具体的には、現在、血液透析施設では、至適Kt/V値を目標Kt/V値として、過去の血液透析治療における血液透析治療の開始時と終了時の実測血清尿素濃度と、該血液透析治療中における除水量と、該血液透析治療の治療時間とを、所定の演算式に代入して、該過去の血液透析治療におけるKt/V値を算出する。そして、該過去の血液透析治療におけるKt/V値と目標Kt/V値を見比べた上で、これから施行しようとしている血液透析治療のKt/V値が目標Kt/V値になるように、前記過去の血液透析治療における血流速度又は透析液流速度を参考にしつつ、試行錯誤で、これから施行しようとする血液透析治療における血流速度又は透析液流速度を調整している。
【0006】
しかし、この血流速度や透析液流速度の調整は、上述のように過去の血液透析治療のデータや経験則等による予測に基づいて行われるため、現実的に血液透析治療のKt/V値が目標Kt/V値を正確に達成することは難しい。さらに、例えば血液透析治療終了時の血清尿素濃度を決定する因子であり、Kt/V値の算出時にも用いられる血液透析治療中の除水量は、血液透析治療ごとに変わる。又、血液透析治療における血流速度とKt/V値との関係も患者ごとに、また使用する透析器によっても変わる。このように、Kt/V値に影響する他の因子の値が予測不能に変わると、上述のように過去のデータ等から血流速度や透析液流速度を調整しても、血液透析治療の終了後に目標Kt/V値を正確に達成することはより困難になる。
【0007】
この問題を解決する方法として、血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療中における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、患者の体内に存在する水分の総量である体液量を求め、次に、体液量を求めた前記血液透析治療よりも後に施行される血液透析治療時に、当該体液量と、該血液透析治療の透析治療時間と、除水量と、血流速度と、使用する透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療の終了時に達成されるべき目標透析量(例えば目標Kt/V値)とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、目標Kt/V値を達成するのに必要な透析液流速度を求める方法が開発された(非特許文献1)。この方法によれば、これから行われる血液透析治療に対して、より確実に目標Kt/V値を達成する透析液流速度を算出できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】新里高弘,他「目標Kt/V値が得られる透析液流量の算出法」日本透析医学会雑誌42、p921-929、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述の方法を利用して透析液流速度を算出する場合、その算出に必要な血流速度を高く設定すれば、同じ目標Kt/V値に対し、低い透析液流速度が算出される。同じ値の目標Kt/V値を達成する場合であっても、透析液流速度を低くして、透析液の使用量をできる限り節約した方が、透析治療のコストが低くなるので望ましい。よって、血流速度、つまり血液ポンプに設定される設定血流速度を可能な限り高くすればよい。
【0010】
しかしながら、例えば血液ポンプの設定血流速度値があるレベルを超えると、実際に血液ポンプによって送出される血流速度が、設定血流速度より低くなることが起こる。これは、いわゆるローラポンプである血液ポンプの性質による。つまり、図12に示すようにローラポンプ120は、弾力性のある血液供給流路121をローラが押し潰ししごくことにより血液を送り出しており、押し潰ぶされた血液供給流路121は、流路自身の復元力と血液ポンプ120の上流側の血液供給流路121の圧力により元の形に戻り、その時再び血液で満たされる。しかし、血液ポンプ120の血流速度の設定値を高くして、ローラによるしごきが強くなりすぎると、血液ポンプ120の上流側の血液供給流路121の圧力が低くなり、血液供給流路121が元の形に十分に戻らなくなる。この結果、血液ポンプ120の血流速度の設定値よりも実際の血流速度が低くなりそれらの間に差ができる。血液ポンプ120に血流速度を設定しても、実際にそれと同じ血流速度が得られないと、上述の方法で血液ポンプ120に設定する血流速度を入力して算出された透析液流速度は不正確となる。そして、上記方法で算出された透析液流速度に設定して血液透析治療を行っても、目標Kt/V値は正確には得られなくなる。
【0011】
また、例えば血液ポンプの設定血流速度値があるレベルを超えると、静脈側穿刺針のシャント部において血流のジェット流が生じることがある。透析器で浄化された血液は、血液返送流路を通り、静脈側穿刺針を経てシャント血管内に返送されるのであるが、この時、静脈側穿刺針の内径は血液返送流路の内径よりも遥かに小さいため、シャント血管内に返送される血液の線速度は、静脈側穿刺針の中では増大し、血液がジェット流としてシャント血管内に噴出され、更に、シャント血管壁に当たる。血流のジェットがシャント血管壁に当たる現象は、透析治療ごとに、長期に渡って繰り返されるのであるが、このジェット流の速さは、静脈側穿刺針が細いほど、また、血流量が大きいほど大きくなる。そして、血液のジェット流がシャント血管壁に当たる現象は、長期的にはシャント血管に狭窄が生じる原因のひとつであり、更に、シャント血管に狭窄が生じる頻度は、ジェット流がシャント血管壁に当たる強さに影響されると考えられている。よって、血液ポンプの設定血流速度が高すぎ、それによって算出された透析液流速度を用いて血液透析治療が行われると、問題が生じる。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、血液ポンプの性質等を考慮して、目標とするKt/V値などの透析量を達成するのに必要な適正な透析液流速度を算出できる血液透析システム及び透析液流速度の算出方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成るための本発明は、血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられた、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、を有する血液透析施行部と、血液透析治療時に前記血液ポンプに設定される設定血流速度における最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度設定部と、前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、前記最大設定血流速度設定部により設定された前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出するための透析液流速度算出部と、を有する血液透析システムが提供される。
【0014】
上記血液透析システムにおける前記最大設定血流速度設定部は、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における設定血流速度の最大値を、最大設定血流速度として設定し、前記透析液流速度算出部は、前記最大設定血流速度設定部により設定された前記血液ポンプの設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度を用いて透析液流速度を算出するようにしてもよい。
【0015】
前記最大設定血流速度設定部は、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記透析器よりも下流側の前記血液返送流路の静脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線上から前記静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度としてもよい。
【0016】
前記最大設定血流速度設定部は、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記血液ポンプよりも上流側の動脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と動脈圧との間の回帰直線上から前記動脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度としてもよい。
【0017】
前記最大設定血流速度設定部は、血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定し、前記透析液流速度算出部は、前記最大設定血流速度設定部により設定される、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度に基づいて定められた前記設定血流速度、又は前記ジェット流が生じないための最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出してもよい。
【0018】
別の観点による本発明によれば、血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられ、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、を有する血液透析施行部と、前記血液ポンプに設定される設定血流速度と、前記血液供給流路又は前記血液返送流路の圧力との間の回帰直線から、前記設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出する実血流速度算出部と、前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、前記実血流速度算出部により算出された前記実血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出するための透析液流速度算出部と、を有する、血液透析システムが提供される。
【0019】
前記血液透析システムは、血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度設定部をさらに有し、前記透析液流速度算出部は、前記実血流速度算出部により算出された前記実血流速度又は前記最大設定血流速度設定部により設定された前記最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出するようにしてもよい。
【0020】
以上の血液透析システムは、過去の血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、前記体液量を求めるための体液量算出部をさらに有し、前記透析液流速度算出部は、前記体液量算出部により求められた体液量を用いて、前記透析液流速度を算出するようにしてもよい。
【0021】
別の観点による本発明は、血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられ、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、を有する血液透析システムにおいて、前記透析液ポンプに設定される透析液流速度の算出方法であって、血液透析治療時に前記血液ポンプに設定される設定血流速度における最大設定血流速度を設定する工程と、前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、前記血液ポンプの前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出する工程と、を有するものである。
【0022】
前記透析液流速度の算出方法における前記最大設定血流速度の設定工程では、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における設定血流速度の最大値を、最大設定血流速度として設定し、前記透析液流速度の算出工程では、前記最大設定血流速度の設定工程で設定された前記血液ポンプの設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度を用いて透析液流速度を算出してもよい。
【0023】
前記最大設定血流速度の設定工程では、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記透析器よりも下流側の前記血液返送流路の静脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線上から前記静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度としてもよい。
【0024】
前記最大設定血流速度の設定工程では、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記血液ポンプよりも上流側の前記血液供給流路の動脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と動脈圧との間の回帰直線上から前記動脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度としてもよい。
【0025】
前記最大設定血流速度の設定工程では、血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定し、前記透析液流速度の算出工程では、前記最大設定血流速度設定部により設定される、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度に基づいて定められた前記設定血流速度、又は前記ジェット流が生じないための最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出してもよい。
【0026】
別の観点による本発明は、血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられ、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、体内からの除水量を制御する除水量制御ユニットと、を有する血液透析システムにおいて、前記透析液ポンプに設定される透析液流速度の算出方法であって、前記血液ポンプの設定血流速度と、前記血液供給流路又は前記血液返送流路の圧力との間の回帰直線から、前記設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出する工程と、前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、該血液透析治療における予定除水量と、前記実血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出する工程と、を有するものである。
【0027】
前記透析液流速度の算出方法は、血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度の設定工程をさらに有し、前記透析液流速度の算出工程では、前記実血流速度の算出工程で算出された前記実血流速度又は前記最大設定血流速度の設定工程で設定された前記最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出してもよい。
【0028】
以上の透析液流速度の算出方法は、過去の血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、前記体液量を求めるための体液量算出工程をさらに有し、前記透析液流速度算出工程では、前記体液量算出工程で求められた体液量を用いて、前記透析液流速度を算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、血液ポンプの性質等も考慮して、目標とする透析量を達成するのに必要な適正な透析液流量を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】血液透析システムの構成の概略を示す説明図である。
【図2】制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】体液量算出部の構成を示すブロック図である。
【図4】血液ポンプの設定血流速度と静脈圧との回帰直線を示すグラフである。
【図5】透析条件入力部の構成を示すブロック図である。
【図6】透析条件入力部の調整ボタンを示す説明図である。
【図7】血液ポンプの設定血流速度と動脈圧との回帰直線を示すグラフである。
【図8】実血流速度算出部を有する制御部の構成を示すブロック図である。
【図9】血液ポンプの設定血流速度と静脈圧との回帰直線における実血流速度を示すグラフである。
【図10】局所血流モデルを説明する概略説明図である。
【図11】目標Kt/V値と実測Kt/V値との関係を示すグラフである。
【図12】血液ポンプによって血液供給流路の血液が送られ、上流側の血液供給流路が狭くなっている様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態の一例を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態にかかる血液透析システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0032】
血液透析システム1は、例えば血液透析施行部10と、制御部11を有している。
【0033】
血液透析施行部10は、例えば血液を浄化する透析器20と、透析器20に対して体内から取り出された浄化されるべき血液を供給するための血液供給流路21と、血液供給流路21の上に設けられ、血液を透析器20に送出するための血液ポンプ22と、透析器20に接続され、透析器20で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路23と、透析器20に接続され、透析器20へ透析液を供給するための透析液供給流路24と、透析液供給流路24の上に設けられ、透析液を透析器20に送出するための透析液ポンプ25と、透析器20で血液を浄化するのに使用された透析液を透析器20から排出するための透析液排出流路26と、透析器20からの透析液の単位時間当たりの排出量と透析器20への透析液の単位時間当たりの送出量との差が、体内からの除水速度と等しくなるように駆動する除水手段27を有している。
【0034】
透析器20には、例えば中空糸モジュールなどが用いられ、例えば中空糸膜の一次側に血液供給流路21と血液返送流路23が接続され、中空糸膜の二次側に透析液供給流路24と透析液排出流路26が接続されている。
【0035】
血液供給流路21、血液返送流路23、透析液供給流路24及び透析液排出流路26は、軟質で弾力性のあるチューブにより構成されている。血液供給流路21には、ドリップチャンバー30、動脈側圧力センサ31が設けられている。動脈側圧力センサ31は、血液ポンプ22より上流側に設けられている。血液返送流路23には、ドリップチャンバー40、静脈側圧力センサ41が設けられている。静脈側圧力センサ41は、ドリップチャンバー40に設けられている。血液供給流路21の先端には、動脈側穿刺針50が接続され、血液返送流路23の先端には、静脈側穿刺針51が接続される。
【0036】
血液ポンプ22及び透析液ポンプ25には、ローラポンプ等が用いられ、血液供給流路21や透析液供給流路24の軟質のチューブを、回転するローラでしごくことにより血液や透析液を送出できる。
【0037】
除水手段27は、例えば一定容積の内部を2つの室に隔てる変位可能な隔壁55aを有する容器55や、透析液排出流路26から分岐する分岐流路(図示せず)等を有している。容器55は、隔壁55aが移動することによって一の室から透析液供給流路24を通じて透析器20に透析液を供給し、透析液排出流路26を通じて他の室に透析器20の透析液を戻すことができる。隔壁55aの移動による一の室の容積変動と他の室の容積変動が等しいため、一の室から透析器20に送られる透析液の量と、透析器20から他の室に戻される液体の量が等しくなる。よって、透析器20から透析液と共に排出される、体内の除水量分の液体が分岐流路から排出される。したがって、この除水手段27の駆動によって、透析器20からの透析液の単位時間当たりの排出量と透析器20への透析液の単位時間当たりの送出量との差が、体内から除去される除水速度と等しくなっている。
【0038】
制御部11は、例えばコンピュータを備えたものであり、例えばメモリに記憶された各種プログラムを実行することによって、血液ポンプ22、透析液ポンプ25、除水手段27などの動作を制御して血液透析を実行できる。また、制御部11は、プログラムの実行により本発明に係る透析液流速度の算出方法を実行できる。
【0039】
制御部11は、例えば図2に示すように体液量算出部60、最大設定血流速度設定部61、透析条件入力部62、透析液流速度算出部63及び透析条件表示部64等を有している。これらの部60〜64は、互いに電気的に接続されており、データを通信可能である。
【0040】
体液量算出部60は、例えば図3に示すように体液量演算要素入力部70、体液量演算部71及び体液量記憶部72を有している。これらの部70〜72は、互いに電気的に接続されており、データを通信可能である。
【0041】
例えば体液量演算要素入力部70には、所定の血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と、該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、該血液透析治療の透析治療時間と、該血液透析治療中における除水量と、該血液透析治療における血流速度(血液ポンプ22の駆動速度)と、該血液透析治療における透析液流速度(透析液ポンプ25の駆動速度)と、該血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数と、が入力可能である。体液量演算部71は、これら各種データを用いて、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、患者の体内に存在する水分の総量である体液量を算出できる。体液量演算部71で算出された体液量は、体液量記憶部72に出力され記憶される。なお、尿素動態に関する数理モデルは、当該モデルを解析可能な互いに関連する複数の因子を有し、そのうちの一つの数値が不明な場合に、その不明な因子をその他の因子から導くことができるものであり、その詳細については後述する。
【0042】
最大設定血流速度設定部61は、血液ポンプ22に設定された設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲において最大設定血流速度を設定するものである。以下に、透析器20よりも下流側の血液返送流路23の内部圧力(静脈圧)を用いて最大設定血流速度を設定する例を説明する。
【0043】
ドリップチャンバー40の静脈圧と実際の血流量とは直線関係(比例関係)にある。したがって、血液ポンプ22の設定血流速度と実際の血液吐出速度(血流速度)が一致する限りは、図4に示すように血液ポンプ22の設定血流速度と静脈圧とが直線関係になる。また、血液ポンプ22の設定血流速度があるレベルを超えると、血液ポンプ22による実際の血流速度が設定血流速度よりも低くなり、静脈圧は、血液ポンプ22の設定血流速度との回帰直線A上から外れ、回帰直線Aよりも低くなる。これは、図12に示した場合のように血液ポンプ22の設定血流速度が高くて、血液供給流路21のチューブに対するローラのしごきが強くなりすぎ、血液ポンプ22の上流側の血液供給流路21の圧力があるレベルより低くなりすぎると、血液供給流路21が潰れて元の形に十分に戻らなくなり、血液ポンプ22がいわゆる空回り状態となり、この結果、それ以上設定血流速度を上げても、静脈圧の上がり具合が緩やかになるからと考えられる。これを利用して、最大設定血流速度設定部61は、血液ポンプ22の設定血流速度を段階的に上昇させつつ、静脈側圧力センサ41により静脈圧を測定し、血液ポンプ22の設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線A上から静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする。
【0044】
透析条件入力部62は、図5に示すように固定条件入力部80と変動条件入力部81を有する。固定条件入力部80には、使用する透析器20の総括物質移動面積係数と、体液量記憶部72に記憶されている体液量と、血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、が自動又は手動で入力できる。変動条件入力部81には、最大設定血流速度設定部61で設定された、血液ポンプ22に設定された設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度、或いはその範囲における前記最大設定血流速度より低い設定血流速度や、目標の透析量としてのKt/V値が入力できる。
【0045】
例えば図6に示すように変動条件入力部81には、設定血流速度を入力するための血流速度調整ボタン90と、目標のKt/V値を入力するためのKt/V値調整ボタン91とが設けられている。そして、血流速度調整ボタン90は、ボタンを押し続けている間、入力される設定血流速度を一定刻みで段階的に増加させる血流速度増加ボタン90aと、ボタンを押し続けている間、入力される設定血流速度を一定刻みで段階的に低下させる血流速度低下ボタン90bを有している。同様に、Kt/V値調整ボタン91は、ボタンを押し続けている間、入力されるKt/V値を一定刻みで段階的に増加させるKt/V値増加ボタン91aと、ボタンを押し続けている間、入力されるKt/V値を一定刻みで段階的に低下させるKt/V値低下ボタン91bを有している。例えば、この変動条件入力部81に入力されている設定血流速度や目標Kt/V値は、透析条件表示部64にリアルタイムで表示されている。
【0046】
透析液流速度算出部63は、透析条件入力部62から入力された特定の複数のパラメータ、つまり透析器20の総括物質移動面積係数と、体液量算出部60により算出された体液量と、これから施行しようとしている血液透析治療の予定透析治療時間と、該血液透析治療中の予定除水量と、最大設定血流速度設定部61で定められた、血液ポンプ22に設定された設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度と、目標のKt/V値とを用いて、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、透析液流速度を算出することができる。そして、この透析液流速度算出部63により算出された透析液流速度は、透析条件表示部64に表示される。なお、この尿素動態に関する数理モデルは、当該モデルを解析可能な互いに関連する複数の因子を有し、そのうちの一つの数値が不明な場合に、その不明な因子をその他の因子から導くことができるものであり、その詳細については後述する。
【0047】
次に、以上のように構成された血液透析システム1の透析液ポンプ25に設定される透析液流速度の算出方法について説明する。この算出方法は、例えば制御部11のプログラムを実行することによって実現される。
【0048】
先ず、体液量算出部60において、血液透析治療が施行される患者の体液量が算出される。患者の体液量は、体液量演算要素入力部70から入力された、例えば約1ヶ月に1回の頻度で行われる定期採血検査の日における血液透析治療の開始時の実測の血清尿素濃度と、当該血液透析治療の終了時の実測の血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療中における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器20の総括物質移動面積係数とから、体液量演算部71において、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより算出される。算出された体液量は、体液量記憶部72に出力され記憶される。なお、透析患者の体液量は、通常、少なくとも1ヶ月間は大きく変化しない。したがって、体液量演算部71において算出され、体液量記憶部72に記憶させておいた患者の体液量は、次の定期採血検査が行われるまでの少なくとも1ヶ月間は有効に使用することができる。
【0049】
次に、上記体液量が算出された血液透析治療よりも後に例えば約1か月間施行される血液透析治療(以下、「本血液透析治療」とする。)において、先ず最大設定血流速度設定部61により、血液透析治療時に血液ポンプ22に設定された設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度が設定される。この最大設定血流速度の設定は、例えば本血液透析治療の開始直後に行われる。
【0050】
なお、このとき本血液透析治療が既に開始されていることになるが、本血液透析治療始の開始には、当然に目標Kt/V値、設定血流速度、透析液流速度の設定が必要である。このために、例えば透析条件入力部62の固定条件入力部80には、使用する透析器20の総括物質移動面積係数と、体液量記憶部72に記憶されている体液量と、血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、が入力され、変動条件入力部81には、目標Kt/V値と、仮の設定血流速度が入力される。この仮の設定血流速度は、例えば前回の血液透析治療で用いられた最大設定血流速度が設定されてもよいし、平均的な設定血流速度が設定されてもよい。その後、これらのパラメータに基づいて、透析液流速度算出部63により、仮の透析液流速度が求められ、これらの目標Kt/V値、仮の設定血流速度及び透析液流速度の設定に基づいて本血液透析治療が開始されている。
【0051】
そして、本血液透析治療における最大設定血流速度の設定は、血液ポンプ22の設定血流速度を段階的に上昇させつつ、静脈側圧力センサ41により静脈圧を測定し、図4に示すように血液ポンプ22の設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線A上から静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする。設定された最大設定血流速度は、透析条件入力部62の変動条件入力部81に入力される。
【0052】
新たな最大設定血流速度が変動条件入力部81に入力されると、直ちに、透析液流速度算出部63により透析液流速度が算出される。この透析液流速度の算出は、既に入力されている透析器20の総括物質移動面積係数と、患者の体液量と、本血液透析治療の予定治療時間と、本血液透析治療における予定除水量と、前記新たな最大設定血流速度と、目標とするKt/V値とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより算出される。算出された透析液流速度は、最大設定血流速度と目標Kt/V値と共に透析条件表示部64に表示される。
【0053】
透析条件表示部64に表示された透析液流速度は、最大設定血流速度から算出されたものであるので、最小になり、透析液の消費量が少なくコスト面から好ましいものである。しかし、透析液流速度が低すぎると、例えば流路抵抗等の観点から実際に透析液が適正に流れず透析が適正に行われない場合があるため、医療スタッフが定める最低値よりも透析液流速度が低くなっている場合には、再度調整が必要になる。この場合、例えば変動条件入力部81の血流速度減少ボタン90bが押され、押し続けている間、透析条件入力部62には、最大設定血流速度より低い、例えば5mL/分刻みで段階的に減少して行く設定血流速度が入力され、透析液流速度算出部63において、その設定血流速度ごとに、瞬時に透析液流速度が算出され、算出された透析液流速度が透析条件表示部64に表示される。そして、透析液流速度が医療スタッフの定める最低値より大きくなった時に、血流速度減少ボタン90bを押すのを止める。また、透析液流速度が大きくなり過ぎた場合には、血流速度増加ボタン90aを押して元に戻す。こうして算出された透析液流速度が透析液ポンプ25に設定され、この新しい設定により、本血液透析治療が継続される。
【0054】
なお、算出された透析液流速度に応じて、目標のKt/V値についても調整してもよい。この場合、例えば設定血流速度を固定した状態で、変動条件入力部81のKt/V値減少ボタン91bが押され、押し続けている間は、透析条件入力部62には、現目標Kt/Vより低い、例えば0.01刻みで段階的に減少して行くKt/V値が入力され、透析液流速度算出部63において、そのKt/V値ごとに、瞬時に透析液流速度が算出され、算出された透析液流速度が透析条件表示部64に表示される。逆に変動条件入力部81のKt/V値増加ボタン91aが押され、押し続けている間は、透析条件入力部62には、現目標Kt/Vより高い、例えば0.01刻みで段階的に増加して行くKt/V値が入力され、透析液流速度算出部63において、そのKt/V値ごとに、瞬時に透析液流速度が算出され、算出された透析液流速度が透析条件表示部64に表示される。そして、透析液流速度が医療スタッフの定める適正な目標Kt/V値と透析液流速度になったときに、Kt/V値減少ボタン90bやKt/V値増加ボタン90aを押すのを止める。
【0055】
以上の実施の形態によれば、血液ポンプ22の設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度が設定され、その範囲の最大設定血流速度或いはそれより低い設定血流速度を用いて透析液流速度が算出される。これにより、血液ポンプ22の性質を考慮して、目標とするKt/V値を達成するのに必要な適正な透析液流速度を正確に算出できる。
【0056】
また、血液ポンプ22の設定を最大設定血流速度或いはそれに近い値にすることによって、透析液流速度を必要最小限に抑えることができ、それによって透析液の使用量を減らしてコストを低減できる。
【0057】
また、最大設定血流速度の設定にあたり、血液ポンプ22の設定血流速度を段階的に上昇させつつ、透析器20よりも下流側の血液返送流路23の静脈圧を測定し、血液ポンプ22の設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線A上から静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とした。透析器20よりも下流側の血液返送流路23の圧力(静脈圧)は、使用する静脈側穿刺針51の太さや、患者のシャント血管の内圧等によっても決定されるため、血液ポンプ22の最大設定血流速度は、予測困難であり、患者ごとに異なる。よって、上述のように実際に静脈圧を測定して最大設定血流速度を設定することにより、最大設定血流速度を簡単かつ正確に設定できる。
【0058】
ところで、以上の実施の形態では、最大設定血流速度を設定する際に、血液ポンプ22の設定血流速度と透析器20よりも下流側の静脈圧との関係を用いていたが、血液ポンプ22の設定血流速度と血液ポンプ22より上流側の血液供給流路21の内部圧力(動脈圧)との関係を用いてもよい。かかる場合、血液ポンプ22より上流側の動脈圧と実際の血流量とは負の直線関係にある。したがって、血液ポンプ22の設定血流速度と実際の血流速度が一致する限りは、図7に示すように血液ポンプ22の設定血流速度と動脈圧とが直線関係にある。また、血液ポンプ22の設定血流速度があるレベルを超えると、血液ポンプ22の実際の血流速度が設定血流速度よりも低くなり、動脈圧は、血液ポンプ22の設定血流速度と動脈圧の回帰直線B上から外れ、回帰直線Bよりも低くなる。これは、図12に示した場合のように血液ポンプ22の設定血流速度が高くなり血液供給回路21のチューブに対するローラのしごきが強くなりすぎて、血液ポンプ22の上流側の血液供給流路21の圧力(動脈圧)があるレベルより下がると、血液供給流路21が潰れて元の形に戻らなくなり、血液ポンプ22がいわゆる空回り状態となり、この結果、それ以上設定血流速度を上げても、実血流速度は設定血流速度ほどには上がらない。これを利用して、最大設定血流速度設定部61は、血液ポンプ22の設定血流速度を段階的に上昇させつつ、動脈側圧力センサ31により動脈圧を測定し、血液ポンプ22の設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線B上から静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする。この例においても、最大設定血流速度を簡単かつ正確に設定できる。
【0059】
以上の実施の形態において、透析液流速度を算出する際に、入力パラメータの一つに最大設定血流速度設定部61により設定された最大設定血流速度或いはそれより低い設定血流速度を用いていたが、当該設定血流速度、又は血液透析治療時に静脈側穿刺針51においてジェット流が生じないための最大設定血流速度のいずれか低い方を用いてもよい。
【0060】
かかる場合、例えば最大設定血流速度設定部61は、血液透析治療時に静脈側穿刺針51においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定できる。最大設定血流速度設定部61による最大設定血流速度は、例えば本血液透析治療において使用される静脈側穿刺針51の径や血液返送流路23の径等に基づいて設定される。また、かかる最大設定血流速度は、血液ポンプ22の設定血流速度を段階的に変化させつつ、透析器20よりも下流側の静脈圧を測定し、それによって設定される血液ポンプ22の設定血流速度と静脈圧との相関に基づいて、強すぎるジェット流が生じない最大設定血流速度を設定してもよい。
【0061】
その後、例えば上記実施の形態で記載したように透析液流速度の算出に用いられるために、実際の血流速度と一致する範囲の最大血流速度に基づいて決定された設定血流速度と、ジェット流が生じないための最大設定血流速度とが比較され、いずれか低い方を用いて最終的に透析液流速度が算出される。
【0062】
こうすることにより、静脈側穿刺針51においてジェット流が発生するのが防止される。これにより、例えばシャントの血管壁にジェット流が当たることなく、ジェット流による長期的なシャント血管の狭窄等が防止され、ジェット流による障害を防止できる。
【0063】
以上の実施の形態では、血液透析治療時に血液ポンプ22に設定される設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度を設定し、透析液流速度を、その最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度から求めていたが、血液ポンプ22の設定血流速度と、血液供給流路21又は血液返送流路23の圧力との間の回帰直線から、前記設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出し、透析液流速度を、前記設定血流速度の代わりに実血流速度を用いて算出してもよい。
【0064】
かかる場合、例えば図8に示すように制御部11には、最大設定血流速度設定部61の代わりに実血流速度算出部110が設けられている。実血流速度算出部110は、図9に示した血液ポンプ22に設定される設定血流速度と、透析器20より下流側の血液返送流路23の静脈圧との間の回帰直線Aから、前記設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出できる。例えば設定血流速度V1の場合、当該設定血流速度V1に対応する静脈圧の回帰直線A上の設定血流速度の値が実血流速度V2となる。
【0065】
透析液流速度算出部63は、透析器20の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、本血液透析治療の予定治療時間と、本血液透析治療における予定除水量と、実血流速度算出部110により算出された実血流速度と、目標のKt/Vとから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、透析液流速度を算出できる。
【0066】
この実施の形態によれば、血液ポンプ22に設定される設定血流速度と実際の血流速度が一致しない範囲に設定血流速度が設定される場合であっても、その設定血流速度に対応する実血流速度を用いて、目標Kt/V値を達成するための適正な透析液流速度を算出できる。よって、透析液流速度が正確に算出される。なお、この例において、血液ポンプ22の設定血流速度と、透析器20より下流側の血液返送流路23の静脈圧との間の回帰直線Aから、設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出していたが、血液ポンプ22の設定血流速度と、血液供給流路21の圧力との間の回帰直線B等から、実血流速度を算出してもよい。
【0067】
また、この例において、上記実施の形態と同様に透析液流速度を算出する際に、実血流速度、又は血液透析治療時に静脈側穿刺針51においてジェット流が生じないための最大設定血流速度のいずれか低い方を用いてもよい。かかる場合、最大設定血流速度の設定は、上記最大血流速度設定部62により行われてもよい。
【0068】
次に、以上の実施の形態において体液量と透析液流速度の算出に用いられた、尿素動態に関する数理モデルと、その解析法について説明する。
【0069】
上記実施形態では、尿素動態モデルのうちで、透析患者の生体に最も近似していると考えられる局所血流モデルを採用する。図10に当該局所血流モデルを説明する模式図を示す(図10において、K:透析器20における尿素クリアランス、CA:動脈中の尿素濃度、CH:高血流臓器の尿素濃度、CL:低血流臓器の尿素濃度、VH:高血流臓器の水分量、VL:低血流臓器の水分量、QB:体外循環血流速度、QH:高血流臓器を環流する血流速度、QL:低血流臓器を環流する血流速度、A:高血流臓器、B:低血流臓器とする。)。局所血流モデルとは、生体は水分含有量が多いにもかかわらず血流の少ない臓器(筋肉や皮膚など;低血流臓器)からなる区域(これを低血流臓器Bとする。)と、水分含有量が少なく血流は多い臓器(肝臓や腸などの消化器系臓器;高血流臓器)からなる区域(これを高血流臓器Aとする。)に分けられるという理論に基づく尿素動態モデルである。局所血流モデルでは、体外循環血流速度を差し引いた心拍出量の15%が低血流臓器Bを還流し、残りの85%が高血流臓器Aを還流する一方、体液量の80%が低血流臓器Bに分布し、残りの20%が高血流臓器Aに分布するとされている。これらの点について非特許文献1の記載を参照できる。
【0070】
前記局所血流モデルを数理モデルの形式に書き換えると、以下のようになる。
【0071】
d MH(t)/dt + d ML(t)/dt=−K×CA(t) (1)
H(t)=CH(t)×VH(t) (2)
L(t)=CL(t)×VL(t) (3)
d MH(t)/dt=[CA(t)−CH(t)]×QH (4)
d ML(t)/dt=[CA(t)−CL(t)]×QL (5)
ただし、MH(t)は時間tにおいて高血流臓器Aに存在する尿素の量、ML(t)は時間tにおいて低血流臓器Bに存在する尿素の量を示す。
【0072】
d VT(t)/dt=−F (6)
H(t)=0.2VT(t) (7)
L(t)=0.8VT(t) (8)
H=0.85(QA−QB) (9)
L=0.15(QA−QB) (10)
ただし、Fは除水速度を示し、VT(t)は時間tにおける体液量を示し、QAは心拍出量を示す。
【0073】
さて、体液量算出部60において、体液量を求めるために数理局所血流モデルを解析するにあたっては、まず、血液透析治療の開始時(t=0)においては、体内における尿素動態は平衡状態にあるので、低血流臓器Bの尿素濃度と高血流臓器Aの尿素濃度は、共に動脈血中の尿素濃度に等しいとする。即ち、血液透析治療の開始時における実測の血清尿素濃度を、数理局所血流モデルにおける動脈血中の尿素濃度の初期値[CA(0)]とすると同時に、低血流臓器Bの尿素濃度[CL(0)]と高血流臓器Aの尿素濃度[CB(0)]の初期値ともする。次に、体外循環する血流速度と透析液流速度と透析器の総括物質移動面積係数から以下の数1の式により、透析器における尿素クリアランスを算出する。ただし、QB(mL/分)は血流速度、QD(mL/分)は透析液流速度、KOAは透析器20の総括物質移動面積係数(mL/分)、そしてK(mL/分)は透析器20の尿素クリアランスを示している。
【0074】
【数1】

【0075】
そして、該尿素クリアランス(K)と、血液透析治療中における除水量を透析治療時間で除することにより求められる除水速度(F)とを定数として扱い、更に、心拍出量に平均的な値である4000mL/分を与えると共に、体液量[VT(0)]には仮の値を与えて、数理局所血流モデルを解析することにより、透析治療終了時の動脈血中尿素濃度[CA(Td)]を算出する。なお、ここで、Tdは透析治療時間を表す。
【0076】
このようにして算出された、仮の体液量における透析治療終了時の動脈血中尿素濃度[CA(Td)]が、透析治療終了時の実測血清尿素濃度と異なる場合には、仮の体液量をわずかに変え、新たな仮の体液量における透析治療終了時の動脈血中尿素濃度[CA(Td)]を算出する。そして、算出された透析治療終了時の動脈血中尿素濃度[CA(Td)]が透治療析終了時の実測血清尿素濃度に一致するまで、同様の操作を繰り返し、ついに算出された透析治療終了時の動脈血中尿素濃度[CA(Td)]が透治療析終了時の実測血清尿素濃度に一致した時に、その時の体液量を真の体液量として採用する。
【0077】
更に、体液量演算部60において、数理局所血流モデルを解析することにより求めた体液量を使用して、透析液流速度算出部62において、数理局所血流モデルを解析することにより、透析液流速度を求めるためには、まず、血液透析治療の開始時(t=0)における動脈血中の尿素濃度の初期値[CA(0)]と、低血流臓器Bの尿素濃度の初期値[CL(0)]と、高血流臓器Aの尿素濃度の初期値[CH(0)]を、仮に1mg/mLとする。このように、血液透析治療の開始時において、動脈血中の尿素濃度と低血流臓器Bの尿素濃度と高血流臓器Aの尿素濃度はすべて等しいとしているのは、血液透析治療の開始時においては、患者の生体内は尿素動態に関して平衡状態にあることに基づいている。
【0078】
次に、入力されたKt/V値と、入力された血流速度と、透析器20の総括物質移動面積係数と、数理局所血流モデルを解析することにより求められた前記体液量と、除水量と、血液透析治療時間とから、数1の式、数2の式により、透析液流速度を算出する。
【0079】
【数2】

【0080】
もし、血液透析治療中の任意の時点までは、該血液透析治療の開始前に、予め設定されていた透析患者における一般的な血流速度である200 mL/分の血流速度と、同様に、該血液透析治療の開始前に、予め設定されていた透析患者における一般的な透析液流速度である500 mL/分の透析液流速度とで、血液透析治療を施行し、血液透析治療中の前記時点において、血流速度、及び/或いは、透析液流速度を変更する場合には、数理局所血流モデルを解析することにより、まず、血液透析治療の開始時(t=0)における動脈血中の尿素濃度の初期値[CA(0)]と、低血流臓器Bの尿素濃度の初期値[CL(0)]と、高血流臓器Aの尿素濃度の初期値[CH(0)]を、仮に1mg/mLとした場合の、血液透析治療中の該時点における動脈血中尿素濃度[CA(T)]と、低血流臓器Bの尿素濃度の初期値[CL(T)]と、高血流臓器Aの尿素濃度の初期値[CH(T)]とを算出する。
【0081】
次に、血液透析治療中の該時点における動脈血中尿素濃度[CA(T)]と、低血流臓器Bの尿素濃度[CL(T)]と、高血流臓器Aの尿素濃度[CH(T)]とを、それぞれ、動脈血中尿素濃度と低血流臓器Bの尿素濃度と高血流臓器Aの尿素濃度の新たな初期値として、血液透析治療の終了時における動脈血中尿素濃度[CA(Td‘)]を算出する。そして、算出された血液透析治療の終了時における動脈血中尿素濃度[CA(Td’)]と動脈血中尿素濃度の本来の初期値[CA(0)=1mg/mL]との比から、数式2により、Kt/V値を算出する。
【0082】
実際に、14名の透析患者において、定期採血検査の日に体液量算出部60により体液量を算出し、それよりも後に施行された、延べ50回の血液透析治療の開始時には、それぞれの体液量と必要な諸パラメータ値を用いて、透析液流速度算出部62により、透析液流速度を算出した。
【0083】
図11には、本発明のように血液ポンプ22の設定を最大血流速度以下にした場合の、透析液流速度から逆算した目標Kt/V値と実測のKt/V値との関係を示す。なお、実測のKt/V値とは、該血液透析治療の開始時における実測の血清尿素濃度と該血液透析の終了時における実測の血清尿素濃度とから、数2の式により算出されたKt/V値を意味する。図11から明らかなように算出したKt/V(X)と実測のKt/V(Y)との間には相関係数が0.976で、回帰式がY=1.0184X―0.0246の強い直線相関があった。これは算出したKt/V値が実測のKt/V値に一致したことを示している。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0085】
例えば、上記実施の形態においては、尿素動態に関するモデルとして、局所血流モデルを用いたが、本発明で使用する尿素動態に関するモデルは、局所血流モデルに限定されるものではなく、一般的に知られた尿素動態に関するsingle−pool modelなど、生体内における尿素の動態を数理的に表現し得るモデルであれば、どのようなモデルを使用しても差し支えない。又、上記実施の形態においては、透析量の指標としてKt/V値を用いたが、本発明で使用する透析量の指標はKt/V値に限定されるものではなく、透析治療の開始時と終了時の血清尿素濃度から算出される指標であれば、どのような指標を使用しても差し支えない。
【0086】
更に、例えば、上記実施の形態においては、定期採血日の血液透析治療の終了後に、血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療中における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、直接に患者の体内に存在する水分の総量である体液量を求めた。しかし、本発明は、必ずしも、これに限定されるものではなく、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、体液量に変換できる何らかのパラメータを求め、これを体液量に変換しても何ら差し支えない。
【0087】
以上の実施の形態の血液透析システム1は、体液量算出部60を備えていたが、この体液量算出部60を他の装置に設け、その結果のみを血液透析システム1に入力してもよい。また、以上の実施の形態では、最大設定血流速度設定部61が、設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度、或いは前記ジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定していたが、他の観点から最大設定血流速度を設定する場合においても、本発明は適用できる。例えば最大設定血流速度設定部61は、動脈側シャント血管、血液供給流路21、透析器20、血液返送流路23、静脈側シャント血管の順に流通した血液の一部が、再び血液供給流路21、透析器20、血液返送流路23、シャント血管の順に再流通する現象、いわゆる血液の再循環が生じない範囲内の最大設定血流速度に設定してもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 血液透析システム
10 血液透析施行部
11 制御部
20 透析器
21 血液供給流路
22 血液ポンプ
23 血液返送流路
24 透析液供給流路
25 透析液ポンプ
26 透析液排出流路
27 除水手段
31 動脈側圧力センサ
41 静脈側圧力センサ
60 体液量算出部
61 最大設定血流速度設定部
62 透析条件入力部
63 透析液流速度算出部
64 透析条件表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられた、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、を有する血液透析施行部と、
血液透析治療時に前記血液ポンプに設定される設定血流速度における最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度設定部と、
前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、前記最大設定血流速度設定部により設定された最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出するための透析液流速度算出部と、を有する血液透析システム。
【請求項2】
前記最大設定血流速度設定部は、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における設定血流速度の最大値を、最大設定血流速度として設定し、
前記透析液流速度算出部は、前記最大設定血流速度設定部により設定された前記血液ポンプの設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度を用いて透析液流速度を算出する、請求項1に記載の血液透析システム。
【請求項3】
前記最大設定血流速度設定部は、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記透析器よりも下流側の前記血液返送流路の静脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線上から前記静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする、請求請2に記載の血液透析システム。
【請求項4】
前記最大設定血流速度設定部は、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記血液ポンプよりも上流側の動脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と動脈圧との間の回帰直線上から前記動脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする、請求請2に記載の血液透析システム。
【請求項5】
前記最大設定血流速度設定部は、血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定し、
前記透析液流速度算出部は、前記最大設定血流速度設定部により設定される、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度に基づいて定められた前記設定血流速度、又は前記ジェット流が生じないための最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出する、請求項2〜4のいずれかに記載の血液透析システム。
【請求項6】
血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられ、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、を有する血液透析施行部と、
前記血液ポンプに設定される設定血流速度と、前記血液供給流路又は前記血液返送流路の圧力との間の回帰直線から、前記設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出する実血流速度算出部と、
前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、前記実血流速度算出部により算出された前記実血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出するための透析液流速度算出部と、を有する、血液透析システム。
【請求項7】
血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度設定部をさらに有し、
前記透析液流速度算出部は、前記実血流速度算出部により算出された前記実血流速度又は前記最大設定血流速度設定部により設定された前記最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出する、請求項6に記載の血液透析システム。
【請求項8】
過去の血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、前記体液量を求めるための体液量算出部をさらに有し、
前記透析液流速度算出部は、前記体液量算出部により求められた体液量を用いて、前記透析液流速度を算出する、請求項1〜7のいずれかに記載の血液透析システム。
【請求項9】
血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられ、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、を有する血液透析システムにおいて、前記透析液ポンプに設定される透析液流速度の算出方法であって、
血液透析治療時に前記血液ポンプに設定される設定血流速度における最大設定血流速度を設定する工程と、
前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、血液透析治療における予定除水量と、前記血液ポンプの前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出する工程と、を有する、透析液流速度の算出方法。
【請求項10】
前記最大設定血流速度の設定工程では、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における設定血流速度の最大値を、最大設定血流速度として設定し、
前記透析液流速度の算出工程では、前記最大設定血流速度の設定工程で設定された前記血液ポンプの設定血流速度と実際の血流速度が一致する範囲における前記最大設定血流速度、或いはそれより低い設定血流速度を用いて透析液流速度を算出する、請求項9に記載の透析液流速度の算出方法。
【請求項11】
前記最大設定血流速度の設定工程では、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記透析器よりも下流側の前記血液返送流路の静脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と静脈圧との間の回帰直線上から前記静脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする、請求請10に記載の透析液流速度の算出方法。
【請求項12】
前記最大設定血流速度の設定工程では、前記血液ポンプの設定血流速度を変化させつつ、前記血液ポンプよりも上流側の前記血液供給流路の動脈圧を測定し、血液ポンプの設定血流速度と動脈圧との間の回帰直線上から前記動脈圧が外れたときの設定血流速度を最大設定血流速度とする、請求請10に記載の透析液流速度の算出方法。
【請求項13】
前記最大設定血流速度の設定工程では、血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定し、
前記透析液流速度の算出工程では、前記最大設定血流速度設定部により設定される、前記設定血流速と実際の血流速度が一致する範囲における最大設定血流速度に基づいて定められた前記設定血流速度、又は前記ジェット流が生じないための最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出する、請求項10〜12のいずれかに記載の透析液流速度の算出方法。
【請求項14】
血液を浄化する透析器と、体内から取り出された血液を前記透析器に供給するための血液供給流路と、前記血液供給流路に設けられ、血液を前記透析器に送出するための血液ポンプと、前記透析器で浄化された血液を体内に返送するための血液返送流路と、前記透析器に透析液を供給するための透析液供給流路と、該透析液供給流路に設けられた、透析液を前記透析器に供給するための透析液ポンプと、前記透析器で血液を浄化するのに使用された透析液を前記透析器から排出するための透析液排出流路と、体内からの除水量を制御する除水量制御ユニットと、を有する血液透析システムにおいて、前記透析液ポンプに設定される透析液流速度の算出方法であって、
前記血液ポンプの設定血流速度と、前記血液供給流路又は前記血液返送流路の圧力との間の回帰直線から、前記設定血流速度を設定した場合の実際の実血流速度を算出する工程と、
前記透析器の総括物質移動面積係数と、血液透析治療が施行される患者の体液量と、該血液透析治療の予定治療時間と、該血液透析治療における予定除水量と、前記実血流速度と、目標とする透析量とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、該目標とする透析量を達成するのに必要な透析液流速度を算出する工程と、を有する、透析液流速度の算出方法。
【請求項15】
血液透析治療時に静脈側穿刺針においてジェット流が生じないための最大設定血流速度を設定する最大設定血流速度の設定工程をさらに有し、
前記透析液流速度の算出工程では、前記実血流速度の算出工程で算出された前記実血流速度又は前記最大設定血流速度の設定工程で設定された前記最大設定血流速度のいずれか低い方を用いて、前記透析液流速度を算出する、請求項14に記載の透析液流速度の算出方法。
【請求項16】
過去の血液透析治療の開始時における実測血清尿素濃度と該血液透析治療の終了時における実測血清尿素濃度と、前記血液透析治療の透析治療時間と、前記血液透析治療における除水量と、前記血液透析治療における血流速度と、前記血液透析治療における透析液流速度と、前記血液透析治療に使用した透析器の総括物質移動面積係数とから、尿素動態に関する数理モデルを解析することにより、前記体液量を求めるための体液量算出工程をさらに有し、
前記透析液流速度算出工程では、前記体液量算出工程で求められた体液量を用いて、前記透析液流速度を算出する、請求項9〜15のいずれかに記載の透析液流速度の算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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