説明

血液透析装置

【課題】複数の送液装置を備えた流体系における各送液装置による圧力を正確に測定し得る血液透析装置を提供する。
【解決手段】透析器16の血液入口側、血液出口側、透析液入口側、透析液出口側の圧力測定点に設けられた圧力センサ18、19、20、21と、圧力センサの出力信号から圧力測定点における圧力波形を算出する第1圧力波形算出部2と、圧力波形から周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部3と、血液ポンプ13、給液側ポンプ、排液側ポンプ、及び除水ポンプ14に各々設けられた回転検知センサと、回転検知センサの出力信号から各ポンプの回転数を検出し、検出した回転数から各ポンプの周波数を算出してノイズ成分となる周波数帯を特定し、周波数スペクトルからノイズ成分となる周波数帯を除去するフィルター部4と、ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルから圧力波形を算出する第2圧力波形算出部5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来からの血液透析装置の一例を示す概略構成図である。図9に示すように、血液透析装置は、主に、体外循環装置71と、透析器76と、制御装置77と、血液回路79と、透析回路81とを備えている。図9の例では、透析器76は、中空糸型のダイアライザーである。
【0003】
体外循環装置71は、主に、患者30から脱血した血液を体外循環させるための血液ポンプ73と、透析液の供給及び排出を行う透析液ポンプ75と、患者30から脱血した血液に対して除水を行う除水ポンプ74と、圧力検知部72とを有している。図9の例では、透析液ポンプ75は複式ポンプであり、給液側ポンプ(図示せず)と排液側ポンプ(図示せず)とを備えている。
【0004】
また、図9の例では、血液回路79と透析液回路81とで、一つの流体系が構成されている。血液ポンプ73は血液回路79上に設けられている。また、透析ポンプ75においては、透析液回路81の給液ライン上に給液側ポンプが設けられており、排液ライン上に排液側ポンプが設けられている。
【0005】
更に、透析器76は血液回路79及び透析液回路81の両方に接続されている。このため、体外循環装置71を稼動すれば、患者30から取り出された血液は、透析器76に送られ、透析器76において透析膜を介して透析液に接触し、浄化される。浄化された血液は、患者30に返血される。また、体外循環装置71において、除水ポンプ74を稼動させれば、血液から余剰な水分が除去され、患者30の血液量は適正な値となる。
【0006】
また、図9に示す透析装置においては、透析器76の血液入口側には圧力センサ78が設けられている。また、透析器76の透析液出口側には圧力センサ80が設けられている。圧力センサ78及び80は、後述するように、内部濾過流量のシミュレーションを実施するために利用される。
【0007】
圧力センサ78及び80それぞれからは、血液又は透析液の圧力に応じたアナログ信号が、圧力検知部72へと出力される。圧力検知部72は、圧力センサ78及び80から出力された信号をデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号を制御装置77に入力する。制御装置77は、入力されたデジタル信号に基づいて、透析器76の血液入口側、及び透析液出口側の2箇所の圧力値を算出する。
【0008】
但し、上記2箇所の圧力測定点における圧力は時間と共に変動しており、上記2箇所の圧力測定点においては圧力波形が観測される。よって、図9の例では、制御装置77は、入力されたデジタル信号から圧力波形を求め、この圧力波形を平均化して得られた値を圧力値として算出している。
【0009】
このように、図9に示す透析装置においては、透析器76の血液入口側、及び透析液出口側の2箇所の圧力が測定される。なお、血液出口側、及び透析液入口側についても、つまり4箇所の圧力が測定される場合もある(例えば、特許文献1参照。)。また、測定された圧力は、透析器76における内部濾過流量のシミュレーションに利用される。
【0010】
内部濾過流量のシミュレーションは、透析効率や、透析器76の内部濾過による透析液の逆濾過を評価するために行われる(例えば、非特許文献1及び2参照)。近年の透析器においては、透水性能が向上している反面、内部濾過が生じ易くなっているため、内部濾過流量のシミュレーションは重要である。
【0011】
また、内部濾過流量のシミュレーションは以下の手順で行われる(例えば、特許文献1、非特許文献1及び非特許文献3参照。)。先ず、透析器76の血液の流れ方向における任意の位置をxとして、血液側圧力、透析液側圧力、血液流量及び透析液流量それぞれについて微分方程式がたてられる。次に、これらの微分方程式を数値解析的に解くことで、透析器76における圧力分布及び流速分布が得られる。
【0012】
この後、解析結果に基づいて、オペレータによる血液流量や透析液流量等の調節が行われる。よって、患者への負担が軽減され、患者が危険な状態となるのが回避される。このように、内部濾過流量のシミュレーションにおける結果の信頼性向上の点から、圧力を正確に測定することは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−116985号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】日本HDF研究会編、「HDF療法ハンドブック」、南江堂、2000年、p.169
【非特許文献2】竹澤真吾編、「血液透析スタッフのための新しいハイパフォーマンスダイアライザー」、東京医学社、1998年
【非特許文献3】佐藤威、他8名(日本透析医学会学術委員会血液浄化器の機能検討小委員会)、「各種の血液浄化法の機能と適応−血液浄化器の性能評価法と機能分類」、日本透析医学会雑誌、日本透析医学会、1996年、第29巻、第8号、p.1231−1245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記図9に示した従来の透析装置のように、血液ポンプや透析液ポンプ等の送液装置が複数設置された流体系を有する装置においては、各送液装置の圧力が相互に影響し合うことになるため、制御装置77で得られる各測定点の圧力波形は複雑な形状となる。
【0016】
例えば、単独の血液ポンプが設けられただけの流体系であれば、単一の周波数成分(減衰成分を含む。)から構成される単純な圧力波形が観測されるが、複数の送液装置が設けられた流体系においては、各送液装置における圧力変動の周波数成分が異なるため、各測定点において観測される圧力波形は、各送液装置における圧力変動の周波数成分が混合した複雑な波形となる。
【0017】
つまり、血液側圧力においては透析液側の圧力の影響を受けており、逆に透析液側の圧力においては血液側の圧力の影響を受けていることから、各測定点の正確な圧力が得られず、内部濾過流量のシミュレーションにおいて重要な微分方程式が不正確なものとなってしまう。このため、従来の透析装置においては、内部濾過流量のシミュレーションによる正確な評価ができないという問題がある。
【0018】
また、例えば、血液浄化装置を用いた持続的血液浄化療法のように、装置を長時間稼動させて長時間の治療を実施する場合は、治療中に、濾過膜に目詰まりが生じて、膜間圧力差が上昇することがある。このような目詰まりが生じると、血液浄化が十分に行えず、患者の生命に重大な危機を招いてしまう。
【0019】
このため、長時間の治療を行う場合においては、濾過膜(半透膜)の目詰まりを正確に判定するため、治療中に膜間圧力差を算出することが求められる。膜間圧力差は、血液浄化器の血液入口側、血液出口側、濾過液出口側の3箇所の圧力から算出できることから、装置においては、この3箇所に圧力センサを設ける必要がある。
【0020】
しかしながら、上述した透析装置の場合と同様に、この場合においても、装置を稼動した状態で正確な圧力測定を行うことは困難である。よって、持続的血液浄化療法を実施しながら、正確な膜間圧力差を算出することも困難である。このため、従来の装置によって持続的血液浄化療法を実施する場合は、膜間圧力差の測定の度に、血液ポンプや補充液ポンプ等を停止して治療を中断する必要がある。
【0021】
本発明は、上記問題を解消し、複数の送液装置を備えた流体系における各送液装置による圧力を正確に測定し得る血液透析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明にかかる血液透析装置は、透析膜を介して血液と透析液を接触させる透析器と、脱血した血液を前記透析器へと送る脱血ライン、及び前記透析器から出た血液を返血する返血ラインとで構成された血液回路と、透析液を前記透析器へと送る給液ライン、及び前記透析器から前記透析液を排出する排液ラインとで構成された透析液回路と、前記脱血ライン上に配置され血液を前記透析器を通して体外循環させる血液ポンプと、前記給液ライン上に配置され前記透析液を前記透析器へと送る給液側ポンプ、及び前記排液ライン上に配置され前記透析器から前記透析液を排出する排液側ポンプを有する透析液ポンプと、前記排液ライン上の前記排液側ポンプにおける入口側と出口側とを結ぶバイパス上に設けられた除水ポンプと、前記透析器の血液入口側、血液出口側、透析液入口側、透析液出口側のそれぞれの圧力測定点に設けられた第1〜第4圧力センサとを備える。
【0023】
上記目的を達成するために本発明にかかる血液透析装置は、前記第1〜第4圧力センサの出力信号から前記圧力測定点における圧力波形を算出する第1圧力波形算出部と、前記圧力波形から周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、前記血液ポンプ、前記給液側ポンプ、前記排液側ポンプ、及び前記除水ポンプに各々設けられ前記各ポンプの回転を検知する回転検知センサと、前記回転検知センサの各々の出力信号から前記各ポンプの回転数を検出し、検出した回転数から前記各ポンプの周波数を算出することによりノイズ成分となる周波数帯を特定し、前記周波数スペクトルから、前記ノイズ成分となる周波数帯を除去するフィルター部と、前記ノイズ成分となる周波数帯が除去された前記周波数スペクトルから圧力波形を算出する第2圧力波形算出部とを更に備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる血液透析装置によれば、複数の送液装置を備えた流体系における各送液装置による圧力を正確に測定することが可能となる。
【0025】
このため、血液透析装置の内部濾過流量のシミュレーションにおける結果の信頼性を向上できる。よって、内部濾過に伴う溶質除去特性をリアルタイムで正確に把握することが可能となり、透析効率の向上や安全性の向上、更には透析時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態1における圧力測定装置の構成と圧力測定装置が組み込まれた透析装置の構成とを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1における圧力測定方法及び圧力測定装置の動作を示すフロー図である。
【図3】第1圧力波形算出部によって算出された圧力波形の一例を示す図である。
【図4】周波数スペクトル算出部によって算出された周波数スペクトルの一例を示す図である。
【図5】フィルター部によってノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルの一例を示す図である。
【図6】第2圧力波形算出部によって算出された圧力波形の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2における圧力測定装置の構成と圧力測定装置が組み込まれた人工心肺装置の構成とを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3における圧力測定装置の構成と圧力測定装置が組み込まれた血液浄化装置の構成とを示す図である。
【図9】従来からの血液透析装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の血液透析装置は、上記構成を基本として、以下の態様を採ることができる。
【0028】
すなわち、前記フィルター部は、前記周波数スペクトルが前記透析器の血液入口側又は血液出口側に設けた前記圧力センサからの信号に基づくものであれば、前記除水ポンプの周波数を含む周波数帯、及び前記透析液ポンプの周波数を含む周波数帯をノイズ成分と特定し、前記周波数スペクトルが前記透析器の透析液出口側に設けた前記圧力センサからの信号に基づくものであれば、前記血液ポンプの周波数を含む周波数帯をノイズ成分と特定し、前記周波数スペクトルが前記透析器の透析液入口側に設けた前記圧力センサからの信号に基づくものであれば、前記血液ポンプの周波数を含む周波数帯、及び前記除水ポンプの周波数を含む周波数帯とをノイズ成分と特定する構成とすることができる。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における圧力測定装置及び圧力測定方法について図1〜図6を用いて説明する。本実施の形態1においては、圧力測定装置が透析装置に組み込まれた例について説明する。最初に、実施の形態1における圧力測定装置の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における圧力測定装置の構成と圧力測定装置が組み込まれた透析装置の構成とを示す図である。
【0029】
図1に示す透析装置は、体外循環装置11、透析器16、制御装置17、血液回路22、及び透析液回路23を備えている。図1の例において、血液回路22と透析液回路23とによって一つの流体系が構成されている。
【0030】
血液回路22は、患者30から脱血した血液を透析器16へと送る血液脱血ライン22aと、透析器16から出た血液を患者30に返血する血液返血ライン22bとで構成されている。透析液回路23は、透析液を透析器16へと送る給液ライン23aと透析液を透析器16から排出する排液ライン23bとで構成されている。
【0031】
血液回路22及び透析液回路23は、共に透析器16に接続されている。よって、透析器16において、血液回路22を通る患者30の血液と、透析液回路23を通る透析液とは、透析器16の透析膜を介して接触する。このため、透析器16において血液は透析され、浄化される。
【0032】
なお、図1の例では、透析器16は透析膜が中空糸で形成された中空糸型のダイアライザーである。また、本発明において透析器16の種類は中空糸型に限定されるものではなく、積層型、コイル型であっても良い。
【0033】
また、体外循環装置11は、血液ポンプ13と、除水ポンプ14と、透析液ポンプ15とを備えている。血液ポンプ13はローラーポンプであり、血液脱血ライン22a上に配置されている。血液ポンプ13の稼動により、患者30から脱血した血液は透析器16を通って体外循環する。
【0034】
透析液ポンプ15は、透析液回路23上に配置されている。透析液ポンプ15は内部にプランジャ(図示せず)を備えた複式ポンプであり、給液側ポンプ(図示せず)と排液側ポンプ(図示せず)とを備えている。また、給液側ポンプは給液ライン23a上に配置されており、排液側ポンプは排液ライン23b上に配置されている。透析液ポンプ15において、給液側ポンプを通過する流量と排液側ポンプを通過する流量とは常に同一となる。
【0035】
除水ポンプ14は、排液ライン23b上の排液側ポンプにおける入口側と出口側とを結ぶバイパス24上に設けられている。除水ポンプ14を稼動すると、透析器16において濾過が生じ、患者30の血液から余剰な水分が除水される。
【0036】
このように、図1に示す透析装置においても、背景技術において図9に示した透析装置と同様に、一つの流体系に複数の送液装置(血液ポンプ13、除水ポンプ14及び透析液ポンプ15)が備えられている。また、図1に示す透析装置には、透析器16の血液入口側、血液出口側、透析液入口側、透析液出口側のそれぞれに、圧力センサ18、19、20及び21が設けられており、この4箇所において圧力測定が行なわれる。
【0037】
図1の例において、圧力センサ18〜21それぞれからは、血液又は透析液の圧力に応じたアナログ信号が、圧力検知部12へと出力される。更に、圧力検知部12は、圧力センサ18〜21から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号を制御装置17へと出力する。
【0038】
また、図1の例に示す透析装置では、背景技術において図9に示した透析装置と異なり、本実施の形態1にかかる圧力測定装置1が制御装置17に組み込まれている。圧力測定装置1は、第1圧力波形算出部2と、周波数スペクトル算出部3と、フィルター部4と、第2圧力波形算出部4とを備えている。圧力検知部12が出力したデジタル信号は第1圧力波形算出部2に入力される。
【0039】
第1圧力波形算出部2は、圧力検知部12が出力したデジタル信号から、各圧力測定点における圧力波形を算出し、これを周波数スペクトル算出部3に出力する。このとき得られた各圧力測定点における圧力波形は、血液ポンプ13、除水ポンプ14及び透析液ポンプ15の影響を受けた複雑な形状となっている。
【0040】
周波数スペクトル算出部3は、第1圧力波形算出部2が出力した圧力波形から周波数スペクトルを算出し、これをフィルター部3に出力する。本実施の形態1においては、周波数スペクトルの算出は、第1圧力波形算出部2が出力した圧力波形を高速フーリエ変換等のフーリエ変換することによって行っている。なお、フーリエ変換の具体的な方法は、例えば、田代嘉宏著、応用数学要論シリーズ1「ラプラス変換とフーリエ解析要論」、森北出版、1977年発行に記載されている。
【0041】
フィルター部4は、ノイズ成分となる周波数帯を特定し、周波数スペクトル算出部3が出力した周波数スペクトルから、ノイズ成分となる周波数帯の除去を行う。また、フィルター部4は、ノイズ成分となる周波数帯の除去された周波数スペクトルを第2圧力波形算出部5に出力する。
【0042】
本実施の形態1においては、フィルター部4によるノイズ成分となる周波数帯の特定は、血液ポンプ13、除水ポンプ14、透析液ポンプ15の給液側ポンプ及び排液側ポンプの回転数を特定する情報(以下「回転数情報」という。)に基づいて行なわれている。
【0043】
具体的には、図1に示すように、各ポンプにはポンプの回転を検知するセンサ(図示せず)が取り付けられており、各ポンプに取り付けられたセンサから出力された信号(回転数情報)はフィルター部4に入力される。よって、フィルター部4は、先ず、各ポンプから入力された信号から各ポンプの回転数を検出し、検出した回転数から各ポンプの周波数を算出する。なお、各ポンプの周波数の算出は、例えば、添田喬、他共著、理工学基礎シリーズ「振動工学の基礎」、日新出版、1989年発行に基づいて行なわれている。
【0044】
次に、フィルター部4は、例えば、周波数スペクトルがセンサ18(透析器16の血液入口側)又はセンサ19(透析器16の血液出口側)からの信号に基づくものであれば、除水ポンプ14の周波数を含む周波数帯と、透析液ポンプ15の周波数を含む周波数帯とをノイズ成分と判断する。
【0045】
また、フィルター部4は、周波数スペクトルがセンサ20(透析器16の透析液出口側)からの信号に基づくものであれば、血液ポンプ13の周波数を含む周波数帯をノイズ成分と判断する。
【0046】
更に、フィルター部4は、周波数スペクトルがセンサ21(透析器16の透析液入口側)に基づくものであれば、血液ポンプ13の周波数を含む周波数帯と、除水ポンプ14の周波数を含む周波数帯とをノイズ成分と判断する。
【0047】
ノイズ成分となる周波数帯が特定できると、フィルター部4は、各周波数スペクトルに対して、特定されたノイズ成分となる周波数帯の除去を行う。本実施の形態1において、ノイズ成分として特定された周波数帯の周波数スペクトルからの除去は、例えば、浜田望著、「信号処理」、オーム社、1995年発行に記載の信号処理に基づいて行われている。
【0048】
第2圧力波形算出部5は、ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルから圧力波形を算出する。本実施の形態1においては、第2圧力波形算出部5による圧力波形の算出は、ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルを逆フーリエ変換することによって行われている。なお、逆フーリエ変換の具体的な方法も、上述した田代嘉宏著、応用数学要論シリーズ1「ラプラス変換とフーリエ解析要論」、森北出版、1977年発行に記載されている。
【0049】
また、第2圧力波形算出部5は、得られた圧力波形に基づいて、最終的な圧力値を算出することもできる。最終的な圧力値の算出方法としては、例えば、圧力波形を平均化する方法が挙げられる。算出された各測定点における圧力波形又は圧力値は、制御装置17の記憶装置(図示せず)へと出力され、この記憶装置に記憶される。制御装置17は、記憶装置に記憶された圧力波形又は圧力値を読み出して内部濾過流量のシミュレーションを行う。結果は表示装置(図示せず)によって表示される。
【0050】
なお、本実施の形態1においては、内部濾過流量の算出を行うこともできる。具体的には、制御装置17は、先ず、第2圧力波形算出部5によって算出された圧力波形に基づいて、μs単位で内部濾過シミュレーションを行う。次に、この結果に基づいて、時間軸に対して内部濾過流量を積算する。
【0051】
なお、本実施の形態1においては、圧力波形又は圧力値の算出は、透析器16の血液入口側、血液出口側、透析液入口側、及び透析液出口側の4箇所で行われているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、内部濾過流量のシミュレーションのみを行うのであれば、血液入口側と透析液出口側との2箇所の圧力波形又は圧力値を算出すれば良い。また、この場合は、圧力センサも血液入口側と透析液出口側との2箇所にのみ設ければ良い。
【0052】
また、本実施の形態1においては、体外循環装置11と、圧力測定装置1が組み込まれた制御装置17とが別々の装置で構成された例について説明しているが、圧力測定装置1が組み込まれた制御装置17は体外循環装置11に組み込まれていても良い。また、本実施の形態1においては、圧力測定装置1が制御装置17に組み込まれた例について説明しているが、圧力測定装置1と制御装置17とは別体であっても良い。また、制御装置17と体外循環装置11とが一体的に構成されており、圧力測定装置1はこれらと別体となった構成であっても良い。
【0053】
次に、本発明の実施の形態1における圧力測定方法について図2〜図6を用いて説明する。但し、本実施の形態1にかかる圧力測定方法は、図1に示した本実施の形態1における圧力測定装置を動作させることによって実施される。このため、以下において、本実施の形態1における圧力測定装置の動作を、適宜図1を参酌しながら説明することによって、本実施の形態1における圧力測定方法を説明する。
【0054】
図2は、本発明の実施の形態1における圧力測定方法及び圧力測定装置の動作を示すフロー図である。図2の例では、透析装置による血液透析(体外循環)と平行して、圧力測定が行われている。よって、透析装置による血液透析が開始された後に、以下に示すステップS1〜ステップS9は実行される。
【0055】
最初に、図2に示すように、第1圧力波形算出部2は、圧力測定点の選択がなされているかどうかを判断する(ステップS1)。具体的には、制御装置17から、選択された圧力測定点を通知する選択信号の入力があったかどうかを判断する。選択信号は、例えば、透析装置のオペレータが制御装置17に圧力測定点を指示した場合、つまり、制御装置17によって内部濾過流量のシミュレーションが行われる場合に入力される。
【0056】
圧力測定点の選択がなされていない場合は、圧力測定装置1は待機状態となる。一方、圧力測定点の選択がなされている場合は、第1圧力波形算出部2は、選択された圧力測定点の圧力センサ(圧力センサ18〜21のいずれか又は全部)から出力され、圧力検知部12によってデジタル変換された信号から、圧力波形を算出する(ステップS2)。なお、圧力波形の算出は、選択された圧力測定点毎に行われている。算出された圧力波形は、周波数スペクトル算出部3に出力される。
【0057】
図3は、第1圧力波形算出部2によって算出された圧力波形の一例を示す図である。図3に示すように、圧力センサから出力された信号に基づいて圧力波形を算出した場合は、背景技術においても説明したように、圧力波形は複雑な形状となる。これは、血液透析中においては、血液ポンプ13、透析液ポンプ(給液側ポンプ及び排液側ポンプ)15、及び除水ポンプ14が稼動するため、各圧力測定点においては、これらの影響を受けるためである。
【0058】
次に、周波数スペクトル算出部3は、第1圧力波形算出部2が出力した圧力波形をフーリエ変換して周波数スペクトルを算出する(ステップS4)。また、周波数スペクトル算出部3は、算出された周波数スペクトルをフィルター部4に出力する。図4は、周波数スペクトル算出部3によって算出された周波数スペクトルの一例を示す図である。図4に示す周波数スペクトルから分るように、A、B、C、D、Eの5つのピークが観測される。
【0059】
次に、フィルター部4は、各ポンプに取り付けられたセンサからの信号から、各ポンプの回転数を検出し、検出した回転数から各ポンプの周波数を算出する(ステップS4)。ステップS4の実施により、図4に示す各ピークが何を示しているかが判明する。
【0060】
なお、図4において、Aは血液ポンプ13におけるローラの回転周期(約2秒)から算出された周波数のピーク(約0.5Hz)を示している。Bは、透析液ポンプ15のプランジャの往復周期(約1.7秒)から算出された周波数の低周波成分のピーク(約0.6Hz)を示している。
【0061】
また、Cは、血液ポンプ13における吐出周期(約1秒)から算出された周波数のピーク(約1.0Hz)を示している。D及びEは、透析液ポンプ15のプランジャの往復周期(約1.7秒)から算出された周波数の高周波成分のピーク(D:約1.2Hz、E:約1.8Hz)を示している。
【0062】
次に、フィルター部4は、選択された圧力測定点毎にノイズの原因となるポンプを特定することによって、ノイズ成分となる周波数を特定する(ステップS5)。更に、フィルター部4は、特定された周波数を含む周波数帯を、ステップS3で得られた周波数スペクトルから除去する(ステップS6)。
【0063】
図5は、フィルター部4によってノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルの一例を示す図である。図5の例では、図4に示した周波数スペクトルから、B、D、Eのピークを含む周波数帯が除去されている。つまり、血液ポンプ13の周波数成分以外は除去されている。ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルは、第2圧力波形算出部5へと出力される。
【0064】
次に、第2圧力波形算出部5は、ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルに対して逆フーリエ変換を行って圧力波形を算出する(ステップS7)。また、図示していないが、第2圧力波形算出部5は、オペレータからの指示があった場合は、圧力波形に加え、圧力値の算出も行う。
【0065】
図6は、第2圧力波形算出部5によって算出された圧力波形の一例を示す図である。図6から分るように、フィルター部4によってノイズ成分が除去されているため、各波が同一形状であって、規則正しく連続した圧力波形が観測される。
【0066】
次いで、算出された圧力波形は、第2圧力波形算出部5によって、制御装置17に出力される(ステップS8)。また、圧力値が算出されている場合は、算出された圧力値も制御装置17に出力される。その後、圧力測定装置1においては、体外循環が終了しているかどうかの判断がなされる(ステップS9)。体外循環が終了していない場合は、再度ステップS1から処理が実行されることになる。一方、体外循環が終了している場合は、圧力測定装置1における処理は終了する。
【0067】
以上のように、本実施の形態1における圧力測定装置及び圧力測定方法によれば、ポンプ等の送液装置が複数設置された流体系において、ノイズ成分が除去された圧力波形を得ることができる。このため、圧力測定点を通る流体を送液している送液装置のみによる圧力を正確に測定することができる。
【0068】
この結果、本実施の形態1における圧力測定装置及び圧力測定方法を透析装置に適用した場合は、内部濾過流量のシミュレーションにおける結果の信頼性を向上できる。よって、内部濾過に伴う溶質除去特性をリアルタイムで正確に把握することが可能となり、透析効率の向上や安全性の向上、更には透析時間の短縮を図ることができる。
【0069】
本実施の形態1における圧力測定装置は、コンピュータに、図2に示すステップS1〜S9を具現化させるプログラムをインストールし、このプログラムを実行することによっても実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(central processing unit)は、第1圧力波形算出部2、周波数スペクトル算出部3、フィルター部4、及び第2圧力波形算出部5として機能し、処理を行う。また、制御装置17がコンピュータによって実現されている場合であれば、このコンピュータに図2に示すステップS1〜S9を具現化させるプログラムをインストールし、これを実行することによっても、本発明の圧力測定装置を実現することができる。
【0070】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における圧力測定装置及び圧力測定方法について、図7を用いて説明する。本実施の形態2においては、圧力測定装置が人口心肺装置に組み込まれた例について説明する。図7は、本発明の実施の形態2における圧力測定装置の構成と圧力測定装置が組み込まれた人工心肺装置の構成とを示す図である。
【0071】
図7に示す人工心肺装置は、心臓血管手術等の際に、患者30の心臓31と肺(図示せず)の機能を一時的に代行するために用いられる。図7に示すように、人工心肺装置は、体外循環装置41及び制御装置47を備えている。また、体外循環装置41は、貯血槽42、血液ポンプ43、人工肺44、圧力検知部46、及び血液回路48を備えている。
【0072】
図7に示す人工心肺装置において、体外循環装置41を稼動すると、患者30の大静脈33から脱血された血液は一旦貯血槽42に貯えられる。その後、血液ポンプ43によって人工肺44に送液される。人工肺44に送られた血液は、人工肺44によって酸素化され、その後患者30の大動脈32へと返血される。
【0073】
一般に、人工心肺装置においては、図7に示すように患者30の大静脈33から貯血槽42へと血液を脱血する必要がある。この脱血の主な方法としては、落差脱血法、ポンプ脱血法、及び陰圧脱血法があり、図7に示す人工心肺装置においては、このうち陰圧脱血法が適用される。
【0074】
陰圧脱血法が図7に示す人工心肺装置に適用される場合は、貯血槽42に陰圧ポンプ(図示せず)が配置される。更に、このような陰圧ポンプを配置する場合は、陰圧ポンプと貯血槽42とを結ぶラインの閉塞によって生じる貯血槽内の圧力上昇を未然に防止するため、貯血槽42の内部の圧力を測定する必要がある。
【0075】
従って、図7に示す人工心肺装置においては、貯血槽42の内部の圧力を測定する圧力センサ45が貯血槽42に設けられており、圧力センサ45から圧力検知部46へと信号が出力される。圧力検知部46は、実施の形態1において図1を用いて示した透析装置の圧力検知部46と同様のものであり、圧力センサ45が出力したアナログ信号をデジタル信号に変換して制御装置47へと出力する。
【0076】
ところで、図7に示す人工心肺装置においては、術野で出血した血液を吸引するため、吸引ポンプ49及び吸引回路50が設けられている。また、吸引回路50の患者30の反対側は、貯血槽42に接続されている。このため、図7に示す人工心肺装置においては、吸引ポンプ49による圧力変動によって貯血槽42内の圧力が変動するため、圧力検知部46の変換したデジタル信号から得られる圧力波形は複雑な形状となり、貯血槽42内の圧力を正確に測定することは困難になる。
【0077】
しかしながら、図7に示す人工心肺装置においては、制御装置47に、本実施の形態2における圧力測定装置1が組み込まれている。また、本実施の形態2における圧力測定装置1も、実施の形態1における圧力測定装置と同様に、第1圧力波形算出部2と、周波数スペクトル算出部3と、フィルター部4と、第2圧力波形算出部5とを備えている。
【0078】
更に、吸引ポンプ49には、吸引ポンプ49の回転を検知するセンサが取り付けられており、センサから出力された信号(回転数情報)がフィルター部4に入力されるようになっている。また、同様に、血液ポンプ43にも、血液ポンプ43の回転を検知するセンサが取り付けられており、センサから出力された信号(回転数情報)がフィルター部4に入力されるようになっている。
【0079】
このため、本実施の形態2においては、圧力検知部46からデジタル変換された信号が圧力装置装置1に入力されると、実施の形態1と同様に、先ず、第1圧力波形算出部2によって圧力波形が算出される。次に、周波数スペクトル算出部2によって、この圧力波形のフーリエ変換が行われて周波数スペクトルが算出される。
【0080】
次いで、フィルター部4によって、吸引ポンプ49及び血液ポンプ43の周波数が算出され、この算出された周波数を含む周波数帯がノイズ成分として特定され、周波数スペクトルからノイズ成分となる周波数帯が除去される。次に、第2圧力波形算出部5によって、ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルの逆フーリエ変換が行われて、圧力波形が算出される。その後、第2圧力波形算出部5によって、算出された圧力波形が出力される。なお、本実施の形態2においても、第2圧力波形算出部5は圧力値の算出を行うことができる。
【0081】
このように、本実施の形態2によれば、貯血槽42内の圧力波形又は圧力値として、吸引ポンプ49の圧力変動による影響が除去された圧力波形又は圧力値を得ることができる。よって、本実施の形態2における圧力測定装置及び圧力測定方法を人工心肺装置に適用した場合は、貯血槽42内の圧力波形又は圧力値を正確に測定できるため、患者30からの脱血状況を正確に把握することができる。このため、本実施の形態2によれば、開心手術において、安全な体外循環が実施できる。
【0082】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3における圧力測定装置及び圧力測定方法について、図8を用いて説明する。本実施の形態3においては、圧力測定装置が血液浄化装置に組み込まれた例について説明する。また、本実施の形態3に示す血液浄化装置においては、持続的血液浄化療法が実施される。このため、安全な血液浄化(濾過)を行うため、本実施の形態3においては、膜間圧力差の算出が行われる。
【0083】
図8は、本発明の実施の形態3における圧力測定装置の構成と圧力測定装置が組み込まれた血液浄化装置の構成とを示す図である。図8に示す血液浄化装置は、体外循環装置51、血液浄化器56、制御装置57、補液回路61、血液回路62及び濾過液排出回路63を備えている。図8に示す血液浄化装置では、補液回路61、血液回路62及び濾過液排出回路63によって一つの流体系が構成されている。
【0084】
体外循環装置51は、圧力検知部52、血液ポンプ53、ろ液ポンプ54、及び補充液ポンプ55を備えている。血液ポンプ53、ろ液ポンプ54及び補充液ポンプ55は全てローラーポンプである。また、血液ポンプ53は血液回路62上に、ろ液ポンプ54は濾過液排出回路63上に、補充液ポンプ55は補液回路61上に配置されている。
【0085】
血液回路62は、患者30から脱血した血液を、血液浄化器56を介して体外循環させるための回路である。また、血液回路62は、患者30から脱血した血液を血液浄化器56へと送る血液脱血ライン62aと、血液浄化器56によって濾過された血液を患者30に返血する血液返血ライン62bとで構成されている。また、血液ポンプ53は、血液脱血ライン62a上に備えられており、血液ポンプ53の稼動により、血液は血液浄化器56へと送られる。
【0086】
血液浄化器56に送られた血液は、血液浄化器56に備えられた半透膜(図示せず)によって濾過される。この濾過によって生じた濾過液は、ろ液ポンプ54により、濾過液排出回路63を介して排出される。また、血液返血ライン62bには、補液回路61が接続されている。よって、補充液ポンプ55を稼動すると、血液浄化器56によって濾過された血液に対して補液が行われる。
【0087】
なお、図8に示す血液浄化装置において、体外循環装置51は、通常、ろ液ポンプ54の流量が、補充液ポンプの流量と単位時間当たりの血液からの除水量との和に等しくなるように、ろ液ポンプ54及び補充液ポンプ55の制御を行っている。
【0088】
また、図8に示すように、本実施の形態3においては、膜間圧力差を算出するため、3箇所において圧力測定が行なわれる。具体的には、血液浄化器56の血液入口側、血液出口側、及び濾過液出口側のそれぞれに、圧力に応じてアナログ信号を出力する圧力センサ58、59及び60が設けられている。圧力検知部52は、実施の形態1において図1に示した圧力検知部12と同様のものであり、圧力センサ58〜60から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号を制御装置57へと出力する。
【0089】
このように、図8に示す血液浄化装置においても、実施の形態1に示した透析装置と同様に、一つの流体系に複数の送液装置(血液ポンプ53、ろ液ポンプ54及び補充液ポンプ55)が備えられている。従って、実施の形態1及び2と同様に、図8に示す血液浄化装置においても、各測定点における圧力波形は複雑な形状となる。
【0090】
このため、本実施の形態3においても、制御装置57には、実施の形態1において図1に示した制御装置17と同様に、圧力測定装置1が備えられている。また、本実施の形態3における圧力測定装置1も、実施の形態1における圧力測定装置と同様に、第1圧力波形算出部2と、周波数スペクトル算出部3と、フィルター部4と、第2圧力波形算出部5とを備えている。
【0091】
更に、血液ポンプ53、ろ液ポンプ54及び補充液ポンプ55それぞれには、ローラの回転を検知するセンサ(図示せず)が取り付けられており、センサから出力された信号(回転数情報)がフィルター部4に入力されるようになっている。
【0092】
従って、本実施の形態3においても、圧力検知部52から、デジタル変換された信号が圧力装置装置1に入力されると、実施の形態1と同様に、先ず、第1圧力波形算出部2によって圧力波形が算出される。次に、周波数スペクトル算出部2によって、この圧力波形のフーリエ変換が行われて周波数スペクトルが算出される。
【0093】
次いで、フィルター部4によって、血液ポンプ53、ろ液ポンプ54及び補充液ポンプ55の周波数が算出される。更に、この算出された周波数を含む周波数帯がノイズ成分として特定され、周波数スペクトルからノイズ成分となる周波数帯が除去される。次に、第2圧力波形算出部5によって、ノイズ成分となる周波数帯が除去された周波数スペクトルの逆フーリエ変換が行われて、圧力波形が算出される。その後、第2圧力波形算出部5によって、算出された圧力波形が出力される。なお、本実施の形態3においても、第2圧力波形算出部5は圧力値の算出を行うことができる。
【0094】
このように、本実施の形態3によれば、血液浄化器56の血液入口側、血液出口側、及び濾過液出口側それぞれの圧力波形として、圧力変動による影響(ノイズ成分)が除去された圧力波形を得ることができる。よって、圧力測定点を通る流体を送液している送液装置のみによる圧力を正確に測定することができる。
【0095】
このため、図8に示した血液浄化装置によれば、持続的血液浄化療法を中止することなく、治療を継続しながら、正確な膜間圧力差を算出できる。よって、半透膜の目詰まりを正確に判定できるため、治療の安全性の向上を図ることができる。更に、膜間圧力差の算出の度に、治療を中断することが回避されるので、患者への負担を軽減できる。
【実施例1】
【0096】
図1に示した透析装置によって血液透析を行いながら、実施の形態1における圧力測定装置及び圧力測定方法を用いて、透析器6における血液入口側の圧力[mmHg]を測定した。但し、測定条件は、血液流量を200[mL/min]、透析液流量を500[m
L/min]、除水流量を15[mL/min]、測定時間を60[秒]に設定した。結果を表1に示す。なお、測定条件の設定は、上述した非特許文献3に記載の「(付記)血液浄化器の評価法」に従って行っている。
(比較例)
比較例として、図1に示した透析装置によって血液透析を行いながら、圧力センサ18からのデジタル変換された信号をそのまま用いて圧力波形を算出し、これから透析器6における血液入口側の圧力[mmHg]を求めた。なお、測定条件は上記の実施例と同様に設定した。結果を表1に示す。
(参照例)
参照例として、図1に示した透析装置において血液ポンプ13のみを稼動した状態で、圧力センサ18からのデジタル変換された信号から圧力波形を算出し、これらから透析器6における血液入口側の圧力[mmHg]を求めた。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1の結果から分るように、実施例1における圧力測定装置及び圧力測定方法を用いれば、測定された圧力は、平均値、最大値及び最小値のいずれの場合であっても、血液ポンプ13のみを稼動して測定した場合と近似した値となっている。一方、比較例においては、測定された圧力は、平均値、最大値及び最小値のいずれの場合であっても、血液ポンプ13のみを稼動した場合よりも10%以上高くなっている。このことから、本発明によれば、複数の送液装置を備えた流体系において各送液装置が稼動している状態であっても、各送液装置による圧力を正確に測定できる。例えば、血液透析装置に適用すれば、血液透析を継続した状態で、正確な圧力測定を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の血液透析装置は、複数の送液装置を備えた流体系における各送液装置による圧力を正確に測定し得るので、血液を体外循環させる血液透析装置に有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 圧力測定装置
2 第1圧力波形算出部
3 周波数スペクトル算出部
4 フィルター部
5 第2圧力波形算出部
11、41、51 体外循環装置
12、46、52 圧力検知部
13、43、53 血液ポンプ
14 除水ポンプ
15 透析液ポンプ
16 透析器
17、47、57 制御装置
18、19、20、21、45、58、60 圧力センサ
22、48、62 血液回路
22a、62a 血液脱血ライン
22b、62b 血液返血ライン
23 透析液回路
23a 給液ライン
23b 排液ライン
24 バイパス
30 患者
31 心臓
32 大動脈
33 大静脈
42 貯血槽
44 人工肺
49 吸引ポンプ
50 吸引回路
54 ろ液ポンプ
55 補充液ポンプ
56 血液浄化器
61 補液回路
63 濾過液排出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析膜を介して血液と透析液を接触させる透析器と、
脱血した血液を前記透析器へと送る脱血ライン、及び前記透析器から出た血液を返血する返血ラインとで構成された血液回路と、
透析液を前記透析器へと送る給液ライン、及び前記透析器から前記透析液を排出する排液ラインとで構成された透析液回路と、
前記脱血ライン上に配置され血液を前記透析器を通して体外循環させる血液ポンプと、
前記給液ライン上に配置され前記透析液を前記透析器へと送る給液側ポンプ、及び前記排液ライン上に配置され前記透析器から前記透析液を排出する排液側ポンプを有する透析液ポンプと、
前記排液ライン上の前記排液側ポンプにおける入口側と出口側とを結ぶバイパス上に設けられた除水ポンプと、
前記透析器の血液入口側、血液出口側、透析液入口側、透析液出口側のそれぞれの圧力測定点に設けられた第1〜第4圧力センサとを備えた血液透析装置において、
前記第1〜第4圧力センサの出力信号から前記圧力測定点における圧力波形を算出する第1圧力波形算出部と、
前記圧力波形から周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、
前記血液ポンプ、前記給液側ポンプ、前記排液側ポンプ、及び前記除水ポンプに各々設けられ前記各ポンプの回転を検知する回転検知センサと、
前記回転検知センサの各々の出力信号から前記各ポンプの回転数を検出し、検出した回転数から前記各ポンプの周波数を算出することによりノイズ成分となる周波数帯を特定し、前記周波数スペクトルから、前記ノイズ成分となる周波数帯を除去するフィルター部と、
前記ノイズ成分となる周波数帯が除去された前記周波数スペクトルから圧力波形を算出する第2圧力波形算出部とを更に備えたことを特徴とする血液透析装置。
【請求項2】
前記フィルター部は、
前記周波数スペクトルが前記透析器の血液入口側又は血液出口側に設けた前記圧力センサからの信号に基づくものであれば、前記除水ポンプの周波数を含む周波数帯、及び前記透析液ポンプの周波数を含む周波数帯をノイズ成分と特定し、
前記周波数スペクトルが前記透析器の透析液出口側に設けた前記圧力センサからの信号に基づくものであれば、前記血液ポンプの周波数を含む周波数帯をノイズ成分と特定し、
前記周波数スペクトルが前記透析器の透析液入口側に設けた前記圧力センサからの信号に基づくものであれば、前記血液ポンプの周波数を含む周波数帯、及び前記除水ポンプの周波数を含む周波数帯とをノイズ成分と特定する請求項1記載の血液透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−188170(P2010−188170A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118079(P2010−118079)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【分割の表示】特願2004−40196(P2004−40196)の分割
【原出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【出願人】(504062142)
【Fターム(参考)】