説明

血漿に基づく参照材料を用いた第XIII因子の測定方法

本発明は、インビトロ診断の分野の発明であり、血漿に基づく参照材料を用いた血液凝固因子XIII(第XIII因子、F XIII)の測定方法及び前記方法を実施するための試験キットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロ診断の分野の発明であり、血漿に基づく参照材料を用いた血液凝固因子XIII(第XIII因子、F XIII)の測定方法及び前記方法を実施するための試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
第XIII因子は、血液凝固カスケードの最後に作用する血液凝固因子であり、持続的な創傷閉塞のために重要な役割を果たす。血液凝固の最終段階、即ち、フィブリン形成、において、トロンビンは、フィブリノーゲンを分解する。こうして生じたフィブリンモノマーは、自然発生的に凝集して長い繊維を形成し、最終的に、可溶性のフィブリンポリマーからなる緻密で分枝した網状構造を形成する。第XIII因子も、また、トロンビンにより活性化され、それにより、第XIIIa因子が生じる。第XIIIa因子は、このフィブリンポリマーの架橋を引き起こし、それにより、このフィブリン塊を、機械的に、より安定とし、より変形できなくし、プラスミンによる分解に対して、より耐性とする。先天性又は後天性の第XIII因子欠損症は、出血傾向、創傷治癒障害及び流産を引き起こすことがある。その臨床的な重要性の故に、第XIII因子欠損症を除外するか又は確認するための第XIII因子の測定は、血液凝固診断の重要な要素である。
【0003】
触媒として不活性なプロ酵素である第XIII因子の活性形である第XIIIa因子は、トランスグルタミナーゼであり、このトランスグルタミナーゼは、フィブリン分子のリシル−及びグルタミニル−アミノ酸側鎖の間での分子間アミド結合の形成によるフィブリンポリマーの三次元的な架橋を触媒する。この反応の際に、アンモニア(NH3)又はアンモニウムイオン(NH4+)が遊離される。簡潔にするために、以後、「アンモニア」の用語を、アンモニア及びアンモニウムイオンの両方について、使用する。このアンモニア発生の現象が、第XIII因子の測定のための多様な試験方法で利用される。
非特許文献1には、繊維素を除去した血漿試料中での第XIII因子の測定方法が記載しており、そこでは、試料の第XIII因子は、トロンビンにより活性化されて第XIIIa因子になる。更に、この試料を、第XIIIa因子による分子間アミド結合の形成のための基質の役割をするβ−カゼイン及びエチルアミンと、混合する。この反応の際に遊離するアンモニアを定量的に検出するために、この試料を、更にNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ヒドリド)及びNADPH依存性の指示反応(インジケーター反応)の成分、つまりグルタメートデヒドロゲナーゼ(GLDH)及びα−ケトグルタレートと混合する。アンモニアが存在する場合には、GLDHは、α−ケトグルタレートをグルタメートに変換する。この反応は、付加的にNADPHを消費し、NADPHが酸化された形態のNADP+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)が生成する。NADP+は、NADPHとは異なる吸収スペクトルを有するので、この試験バッチの吸収(吸光度又は光学密度)は、NADPH消費に比例し、従って、アンモニア量に比例し、従って、第XIII因子量又は第XIII因子活性に比例して、変化する。別法として、この試験バッチにおいて、NADPHの代わりにNADHを使用することもできる。NADP+とは対照的に、NADPHは、約260nmにおける吸収極大の他に、約340nmにおいて吸収極大を有する。吸収極大の正確な位置は、一般に、多様なパラメータ、特に溶液の誘電率及びpH値、に依存する。一般に、NADPHの吸収極大は、335〜345nmの範囲内にある。従って、試験バッチの吸収値の変化を、通常、約340±5nmの波長で測定することにより、試料中の第XIII因子の定量的測定が可能になる。
【0004】
特許文献1又は非特許文献2には、遊離されたアンモニアにより第XIII因子を定量する同様の方法が記載されている。特許文献1には、フィブリンを含有する血漿試料中の第XIII因子を、前処理なしに、測定する方法が記載されている。反応バッチ中で障害となるフィブリン塊の形成を妨げるために、この試料は、更にフィブリン凝集阻害剤と混合される。この試料の第XIII因子は、Ca2+イオンの存在下で、トロンビンによって活性化されて、第XIIIa因子となる。更に、この試料を、第XIIIa因子による分子間アミド結合の形成のための役割をする合成グルタミン含有ペプチド及びグリシンエチルエステルと混合する。この反応の際に遊離するアンモニアを定量的に検出するために、この試料を、更にNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドヒドリド)及びNADH依存性の指示反応の成分、つまり、グルタメートデヒドロゲナーゼ(GLDH)及びα−ケトグルタレート、と混合する。アンモニアの存在で、GLDHは、α−ケトグルタレートをグルタメートに変換する。この反応は、更にNADHを消費し、NADHの酸化された形態であるNAD+を生じる。NAD+は、NADHとは異なる吸収スペクトルを有するので、この試験バッチの吸収は、NADH消費に比例し、従ってアンモニア量に比例し、従って第XIII因子の酵素活性に比例して、従って第XIII因子量に比例して、変化する。別法として、この試験バッチにおいて、NADHの代わりにNADPHを使用することもできる。340nmの波長における試験バッチの吸収の変化を測定することにより、試料中の第XIII因子の定量的測定が可能になる。特許文献1に記載された試験原理に基づき市販されている試験は、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング社のBerichrom(登録商標)第XIII因子試験である。
【0005】
簡潔にするために、NADHのリン酸化された形及びリン酸化されていない形の両方に言及する場合には、つまり、NADH及びNADPHに同様に言及する場合には、「NAD(P)H」の用語を使用する。酸化された状態でのNADHのリン酸化された形及びリン酸化されていない形の両方を表現する場合には、つまり、NAD+及びNADP+の両方に同様に言及する場合には、「NAD(P)+」の用語を使用する。
【0006】
上述の試験法において、NADH又はNADPHの代わりに、NADH又はNADPHの類縁体、いわゆるNAD(P)H類縁体、を使用することも可能である。350nmを超える波長に吸収極大を有する類縁体が好適である。類縁体とは、生理学的物質の生物学的作用を模倣する物質、即ち、本発明の場合、例えば、NAD(P)+又はNAD(P)Hと同様に、補基質として機能することができる物質である。この場合、酸化された形態及び還元された形態で異なる吸収極大を有し、NAD(P)H類縁体の吸収極大が350nmを超える波長にある類縁体が重要である。ニコチンアミド基が他の基によって置換された構造類縁体が使用するのが好適である。この場合、環式化合物が好適であり、ヘテロ環式化合物が特に好適であり、ピリジン類縁体、例えば、3−アセチルピリジン、3−(カルボ)アルデヒドピリジン、チオニコチンアミド、セレノニコチンアミド等、が更に特に好適である。
【0007】
試験バッチ中のアンモニア生成の検出に基づく、第XIII因子活性を測定するための先行技術による上述の方法及び他の方法には、第XIII因子濃度の低い試料において、しばしば、第XIII因子活性が余りにも高く測定されるという欠点がある。それどころか、免疫学的方法及び他の方法によって第XIII因子が検出できなかった重度の後天性第XIII因子欠乏症を患う患者の血漿試料中において、Berichrom(登録商標)第XIII因子試験を用いて、8〜14%の第XIII因子活性が検出されたことが観察された(非特許文献3)。しかしながら、第XIII因子濃度の低い試料中では特に、第XIII因子活性の正確な測定は、第XIII因子濃度を有する患者の可能な限り最善の治療のための本質的な前提条件である。
【0008】
第XIII因子活性が誤って余りにも高く測定された原因は不明である。考えられる原因として、第XIIIa因子とは無関係な、NADH又はNADPHの消費が議論されており、この消費は、恐らくは、患者試料中に含まれ、NADH若しくはNADPHを補因子として利用する酵素により引き起こされるか、又は患者試料中で、やはり、第XIIIa因子とは無関係なNADH若しくはNADPHの消費を生じさせる非特異的なアンモニア発生により引き起こされると考えられる(非特許文献4)。第XIII因子活性が誤って余りにも高く測定されたこの問題の解決のために、Ajzner及びMuszbekは、患者試料の第2試験試料を、並行試験において、ヨードアセタミドと混合し、第XIII因子活性を測定することを、提案している。ヨードアセタミドは、活性化された第XIII因子のトランスグルタミナーゼ活性を阻害する。この並行試験において測定される吸光度の変化は、第XIIIa因子とは無関係なNADH又はNADPHの消費に対応し、この吸光度の変化を、ヨードアセタミドで処理されていない正規の試験混合物で測定された活性から差し引くことができる。このようにして、正規の試験混合物中で測定された第XIII因子活性を、修正することができる。
【0009】
しかしながら、第XIII因子活性を修正するこの方法の問題点は、患者の各試料を、2回、つまり、1回はヨードアセタミドなしで、もう1回はヨードアセタミドを用いて、測定しなければならないことである。このような措置は、試験すべき試料の数を2倍にするだけではなく、第XIII因子測定のコストをも2倍にする。更に、ヨードアセタミドの使用が凝固分析においてルーチン使用に適しているかどうか明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許公開第336353A2号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Muszbek,L.et al.著[Clin.Chem.(1985)31(1),35−40]
【非特許文献2】Fickenscher et al.著(Thromb Haemost.1991,65(5):535−40)
【非特許文献3】Lim,W.et al.著,J Thromb Haemost 2004;2:1017−1019
【非特許文献4】Ajzner,E及びMuszbek,L著;J Thromb Haemost 2004;2:2075−2077
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の根底をなす課題は、特に、第XIII因子濃度の低い又は第XIII因子活性の低い血漿試料において、並行試料の第XIII因子活性を測定することなく、第XIII因子を正確に測定することを可能にする、第XIII因子の測定のための薬剤及び方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、標準の100%より低い第XIII因子活性のための参照材料として、もっぱら血漿を使用することにより、解決される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】標準血漿のための希釈媒体としてNaCl溶液を用いる先行技術による、NADHに基づくBerichrom(登録商標)第XIII因子試験又はチオ−NADHに基づく第XIII因子試験の較正曲線。
【図2】標準血漿のための希釈媒体として第XIII因子欠失血漿を用いる、本発明によるNADHに基づくBerichrom(登録商標)第XIII因子試験又はチオ−NADHに基づく第XIII因子試験の較正曲線。
【図3】標準血漿のための希釈媒体としてNaCl又は第XIII因子欠失血漿を用いて実施した、NADHに基づくBerichrom(登録商標)第XIII因子試験による、種々の第XIII因子活性の試料の復元率の比較。
【図4】標準血漿のための希釈媒体としてNaCl又は第XIII因子欠失血漿を用いて実施した、チオ−NADHに基づく第XIII因子試験による、種々の第XIII因子活性の試料の復元率の比較。
【発明を実施するための形態】
【0015】
血漿試料中の第XIII因子を測定する公知の方法の場合には、通常、例えば、一般に少なくとも20人の明らかに健康な提供者の血漿からなる標準血漿プールが、参照材料として使用される。この標準血漿の第XIII因子活性が100%として、即ち標準として、定義されるか、又は、国際参照血漿の第XIII因子活性と比較され、それにより、この標準血漿に第XIII因子活性値を割り当てることができる。より低い第XIII因子活性(<100%)を示す参照血漿を準備するために、この標準血漿の希釈物が調製される。希釈媒体として、通常、例えば0.9%NaCl溶液のような、水溶液が使用される。例えば、標準血漿1部を適切な緩衝剤の2部と混合し(1:2希釈)、これが標準の33.33%の第XIII因子活性を示す参照血漿として定義される。標準化されるべき第XIII因子試験を用いて標準血漿及び標準血漿の一連の希釈物を測定することにより、参照血漿曲線(較正曲線)が作成される。これにより、(例えば標準の%で)定義された第XIII因子活性が、測定された生の値に割り当てられる。患者試料について、標準化されたこの試験系において、生の値を測定することができ、これを、参照曲線を手掛かりとして、例えば標準の%として、較正された値又は標準化された試験結果に、最終的に換算することができる。
【0016】
第XIII因子活性の標準値(100%)及び血漿だけからなる標準値を下回る(<100%)第XIII因子活性について参照を適用することにより参照曲線が得られ、この参照曲線により、活性化された第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性を、試験バッチ中のNAD(P)H消費を手掛かりとして、測定する方法を用いて、特に、第XIII因子濃度又は第XIII因子活性が低い血漿試料中の第XIII因子の正確な測定が可能になることが、確認された。
【0017】
本発明の主題は、試験バッチ中における酸化的NAD(P)H消費を手掛かりとして、活性化された第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性を測定し、この測定値を、参照材料を用いて測定される参照値と比較することによって、血漿試料中の第XIII因子を定量的に測定する方法であって、少なくとも、標準に対して低減された第XIII因子活性を示す参照材料が血漿からなるものである、血漿試料中の第XIII因子を定量的に測定する方法である。
【0018】
試験バッチ中の酸化によるNAD(P)H消費によって、活性化された第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性を測定する、血漿試料中の第XIII因子の定量的測定方法とは、例えば、
血漿試料を
I. 第XIII因子を第XIIIa因子に活性化するための物質又は物質混合物、
II. 少なくとも1つのグルタミニル基を有する、第XIIIa因子受容基質、
III. 第XIIIa因子のためのアミノ基供与基質、
IV. NAD(P)H又はNAD(P)H類縁体、及び
V. アンモニアの存在下に、NAD(P)HをNADP+に酸化することができる薬剤、
と、混合し、前記試験バッチの吸収値の変化を測定する方法である、と解釈すべきである。
【0019】
第XIII因子を第XIIIa因子へと活性させるための物質としては、特にトロンビン、例えばヒト又はウシ由来のトロンビン、又は、好適にはカルシウムイオンの存在で、組み換えにより製造されたトロンビン、が適している。同様に、試料中に含まれるプロトロンビンを直接的に又は間接的に活性化してトロンビンとし、このトロンビンが次いで更に第XIII因子を活性化することにより、第XIII因子の活性化に間接的に作用する物質又は物質混合物、例えば第Xa因子、ヘビ毒のエカリン、又は、組織因子、リン脂質及びCa2+イオンからなる混合物、が適している。
【0020】
「少なくとも1つのグルタミニル基を有する、第XIIIa因子のための受容基質」とは、例えばアミノ酸グルタミン酸アミドからの、少なくとも1つのグルタミニル基を有するポリペプチド又は擬似ペプチド(Peptidmimetikum)であると解釈すべきである。公知の第XIIIa因子受容基質は、例えばβ−カゼイン及び多数の合成ペプチドである。適切な合成ペプチドは、例えば欧州特許公開(EP−A2)第314023号明細書に、記載されている。
【0021】
「第XIIIa因子のためのアミノ基供与基質」とは、特に第1級アミンであると解釈すべきである。好適な第1級アミンは、エタノールアミン、プトレシン、カダベリン、ジアミノエタン、アミノエタンである。特に好適な第1級アミンは、グリシンエチルエステル又はグリシンメチルエステルである。
【0022】
「NADH」とは、化合物ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドヒドリドの省略形である。NADH消費とは、本発明の目的において、NADHをNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に酸化することであると解釈すべきである。「NADH」の概念は幅広く解すべきであり、NADHと同様に酸化可能であって酸化された形態では還元された形態とは異なる光学特性を示すのでその消費を測光的に測定することができる、以下のNADH類縁体をも含む。NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ヒドリド。NADP+に酸化可能である。)、チオ−NADH(チオ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドヒドリド。チオ−NAD+に酸化可能である。)、チオ−NADPH(チオ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ヒドリド。チオ−NADP+に酸化可能である。)、セレノ−NADH(セレノ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドヒドリド。セレノ−NAD+に酸化可能である。)及びセレノ−NADPH(セレノ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸ヒドリド。セレノNADP+に酸化可能である。)。NADH又はNADPHを使用する場合、NAD+又はNADP+への酸化による吸光度の変化が、約340nmの波長で測定される。チオ−NADH、チオ−NADPH、セレノ−NADH又はセレノ−NADPHを使用する場合、チオ−NAD+、チオ−NADP+、セレノ−NAD+又はセレノ−NADP+への酸化による吸光度の変化は、約340nm〜約430nmの波長で測定される。
【0023】
「アンモニアの存在でNADHをNAD+に酸化することができる薬剤」とは、好適には、酵素/基質系であり、この酵素/基質系は、酵素及び前記酵素のための基質を含有してなり、ここで、前記酵素は、前記基質に触媒的に作用し、これにより、アンモニアの存在下に、NADHをNAD+に酸化するか又は上記のNADH類縁体を酸化する。好適な酵素/基質系は、例えば、グルタメートデヒドロゲナーゼ/ケトグルタレート系又はアラニンデヒドロゲナーゼ/ピルベート系又はセリン−2−デヒドロゲナーゼ/3−ヒドロキシピルベート系又はバリンデヒドロゲナーゼ/3−メチル−2−オキソブタノエート系又はロイシンデヒドロゲナーゼ/4−メチル−2−オキソペンタノエート系又はグリシンデヒドロゲナーゼ/グリオキシレート系又はリシンデヒドロゲナーゼ/1,2−ジデヒドロピペリジン−2−カルボキシレート系又はフェニルアラニン/フェニルピルベート系又はアスパルテートデヒドロゲナーゼ/オキサロアセテート系又はグルコース−6−ホスフェート−デヒドロゲナーゼ/D−グルコノ−1,5−ラクトン−6−ホスフェート系である。
【0024】
本発明による方法の好適な実施態様の場合には、この血漿試料を、更にフィブリン凝集阻害剤と、混合する。フィブリン凝集阻害剤は、トロンビンにより誘導されたフィブリンモノマーの凝集を抑制する物質である。このようにして、フィブリノーゲン含有の試料中でのフィブリン凝血塊の発生を抑制する。そうしないと、このフィブリン凝血塊が試験バッチの吸収測定に不利な影響を及ぼしかねないためである。好適なフィブリン凝集阻害剤は、合成ペプチド、例えば、配列Gly−Pro−Arg−Pro(Pentapharm社(スイス国)のPefabloc(登録商標)FGとして市場で入手可能である。)を有するペプチド、である。フィブリン凝集阻害剤として使用することができる他の有利なペプチド、配列Gly−Pro−Arg−Pro−Alaを有する特に好適なペプチド、は、欧州特許公開第456152A2号明細書に記載されている。
【0025】
他の実施態様においては、試料を、更に、ヘパリンを中和する物質、例えば臭化ヘキサジメトリン(Polybrene(登録商標)としても公知)、と混合し、ヘパリンのトロンビン阻害作用を排除する。ヘパリンは、例えばヘパリン治療された患者の試料中に存在することがあり得る。
【0026】
試料と混合して試験バッチにされる成分I〜Vは、それぞれ別個に、つまり別個の試薬の形で、順に、試料と混合することができるが、これらの成分は、唯一のピペット工程で試料と混合される唯一の試薬の形に統合することもできる。この1つの試薬又はこれらの複数の試薬は、好適には、上記物質が溶かされている緩衝マトリックスを含有することができる。適切な緩衝マトリックスは、例えば、HEPES、ビシン、NaCl、アルブミン及び/又は、例えばアジ化ナトリウムのような、保存剤、を含有し、好適には6.0〜9.0、特に好適には6.5〜8.5、のpH値を有する。カルシウムイオンは、第XIII因子の活性化のために必要であるので、緩衝マトリックスは、更にカルシウム塩、好適には塩化カルシウム、を含有する。1つの試薬又は複数の試薬と試料との混合は、手作業で又は自動凝固測定装置中で、実施することができる。
【0027】
本発明による方法において、アンモニアの存在下にNADHをNADに酸化することができる薬剤としてグルタメートデヒドロゲナーゼ/ケトグルタレート系を使用する場合に、試験バッチに添加されるグルタメートデヒドロゲナーゼの量は、試験バッチ中のこの最終濃度が2〜500 IU/mL、好適には5〜250 IU/mL、となるように選択される。
【0028】
試料材料として、特にフィブリノーゲン含有血漿が適している。しかしながら、脱フィブリン血漿中でも、本発明による方法により、第XIII因子を測定することができる。
【0029】
試験バッチの吸収変化(ΔE)の測定は、測定されるべき試験バッチを透過するように光線を送る光源と透過された光の強度を測定し電気信号に変換するする検出器とを備えた測光器を用いて行なう。吸収変化の測定は、NADH若しくはNADPH又はチオ−NADH、チオ−NADPH、セレノ−NADH若しくはセレノ−NADPHが使用されるかどうかに応じて、約340nm〜約430nmの波長の光で行なわれる。単位時間当たりで変化する吸収は、第XIII因子活性と相関する。NADH又はNADH類縁体の消費による試験バッチの吸収(A)の低下は、特に反応速度論の線形の範囲内で、第XIII因子活性に正比例する。
【0030】
まず、血漿試料について測定された測定値は、生データであり、これを引き続き、参照材料を用いて測定された参照値と比較する。参照材料とは、本発明の範囲内で、第XIII因子濃度又は第XIII因子活性が知られている材料であると解釈すべきである。
【0031】
本発明において、少なくとも、標準に対して低減された(標準の<100%)第XIII因子活性を示す参照材料は、血漿からなる。「血漿」とは、単数又は複数の提供者、好適にはヒトの提供者、の血液の液状の、細胞不含の部分であると解釈すべきであり、この血漿は、凝固分析において、通常、そうであるように、抗凝血防止した全血から、細胞性の血液成分を分離することにより得られる。全血試料中の凝血を抑制するために、全ての血液試料は、採血の間に、頻繁に、抗凝血剤、有利には、クエン酸ナトリウム溶液、と混合される。他の通常の抗凝血剤は、ナトリウムヘパリン、リチウムヘパリン、EDTA又はシトレート−ホスフェート−デキストロース(CPD)である。全ての血漿は、必然的に一定体積割合の抗凝血剤を含む。
【0032】
標準血漿とは、明らかに健康な複数の提供者の血漿の混合物(血漿プール)を表わす。標準血漿は、定義されたとおり、第XIII因子濃度及び従って100%の第XIII因子活性を示す。第XIII因子欠失血漿は、標準の第XIII因子活性を全く有しないか又は第XIII因子活性が標準の1%未満である血漿である。第XIII因子欠失血漿は、例えば、対応する表現型を有する患者から又は特異的な抗体を用いて標準血漿から第XIII因子を選択的に免疫吸着(Immunadsorption)することにより、得ることができる。完全を期するために、種々の標準血漿の実際の第XIII因子活性は、製造元、バッチ、充填物等によって変化することを指摘しておく。標準血漿の実際の第XIII因子活性は、第XIII因子のための国際標準血漿との比較により決定される。標準血漿の実際の第XIII因子活性は、一般に、国際標準血漿の80%〜120%の間にある。
【0033】
標準に対して低減された第XIII因子活性を示す本発明による参照材料は、標準血漿と第XIII因子欠失血漿との混合物からなっていてもよい。このため、標準血漿は、第XIII因子欠損血漿と、得られる混合物が所望の第XIII因子活性を示すような割合で、混合される。例えば、標準血漿1部を第XIII因子欠失血漿2部と混合して(1:2希釈物)、標準の33.33%の第XIII因子活性を示す参照材料が得られる。標準に対して低減された第XIII因子活性を示す本発明による参照材料は、更に、所望の第XIII因子活性が達成される量で、精製された、つまり単離された、第XIII因子が添加された第XIII因子欠失血漿からなっていてもよい。ヒトの、動物の、又は組み換えにより製造された、第XIII因子が適している。第XIII因子活性を有しない(≦1%)本発明による参照材料は、好適には、第XIII因子欠失血漿からなる。
【0034】
本発明において、標準値を下回る(<100%)第XIII因子活性の参照値の測定のために又は参照曲線の作成のために、血漿からなる参照材料だけが使用される。好適な実施態様において、標準値(100%)に相当する第XIII因子活性の参照値の測定のために、標準血漿からなる参照材料が使用される。同様に好適な実施態様において、標準値を上回る(>100%)第XIII因子活性の参照値の測定のため又は参照曲線の作成のために、単離された第XIII因子が、標準値を上回る所望の第XIII因子活性が達成されるような量で、添加されている標準血漿からなる参照材料が使用される。
【0035】
本発明の他の主題は、第XIII因子の定量的測定方法を実施するのに適した参照材料を調製するための、第XIII因子欠失血漿の使用である。上述のように、この第XIII因子欠失血漿は、血漿からなり且つ標準値を下回る(<100%)第XIII因子活性を示す参照材料の調製のために、標準血漿の希釈媒体として使用することができる。しかしながら、この第XIII因子欠失血漿は、精製された、即ち単離された、第XIII因子が、標準値を下回るか又は上回る所望の第XIII因子活性を示す参照材料が生じるような量で、添加されるマトリックスとしても使用することができる。
【0036】
本発明の他の主題は、標準血漿と第XIII因子欠失血漿との混合物からなるか、又は、精製された、即ち単離された、第XIII因子が、標準値を下回る第XIII因子活性を示すような量で、添加されている第XIII因子欠失血漿からなる、標準に対して低減された(<100%)第XIII因子活性を示す参照材料である。本発明による参照材料は、液状の形態又は凍結乾燥された形態で、提供され得る。
【0037】
本発明の他の主題は、別個のユニットとしての標準血漿と別個のユニットとしての第XIII因子欠失血漿とを、それぞれ、液状の形態又は凍結乾燥された形態で備える、キットである。標準血漿を用いて、第XIII因子活性の標準値(100%)のための参照値を測定することができる。第XIII因子欠失血漿を用いて、欠失した第XIII因子活性(0%)のための参照値を測定することができる。必要に応じて使用者が調製することができる2つの血漿の混合物を用いて、標準に対して低減された(<100%)第XIII因子活性のための参照値を測定することができる。
【0038】
本発明の他の主題は、標準に対して低減された(<100%)第XIII因子活性を有し且つ血漿からなる、好適には標準血漿と第XIII因子欠失血漿との混合物、からなる、個別のユニットとしての少なくとも1種の参照材料を液状の形態又は凍結乾燥された形態で備えるキットである。好適には、本発明による試験キットは、更に、個別のユニットとしての標準血漿及び/又は個別のユニットとしての第XIII因子欠失血漿を備える。
【実施例】
【0039】
実施例1:
第XIII因子の測定
次の実施例において、血漿試料の第XIII因子含有量を、活性成分としてNADH又はチオ−NADHを含有する試薬を用いて、測定した。このNADHに基づく試薬は、特許文献1又は非特許文献2においてその組成物中で記載されており、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング社(ドイツ国)からBerichrom(登録商標)第XIII因子試薬として販売されている。このチオ−NADHに基づく試薬は、次の組成を有している。
【0040】
活性剤試薬(pH8.3):
・ 292μMのチオ−NADH(Oriental Yeast Company、ロッテルダム、オランダ国)
・ ウシのトロンビン(10IU/mL)
・ フィブリン凝集阻害剤としてのGly−Pro−Arg−Pro−Ala−アミド(2g/L)
・ 塩化カルシウム(1.2g/L)
・ 臭化ヘキサジメトリン(10mg/L)
・ ウシのアルブミン
・ ビシン緩衝剤(100ミリモル/L)
【0041】
検出試薬(pH6.5):
・ グルタメートデヒドロゲナーゼ160U/mL)
・ 第XIII因子受容基質としてのLeu−Gly−Pro−Gly−Gln−Ser−Lys−Val−lle−Gly−アミド(2.4g/L)
・ ADP
・ グリシンエチルエステル(1.4g/L)
・ α−ケトグルタレート(2.7g/L)
・ ウシのアルブミン
・ HEPES緩衝剤(10ミリモル/L)
【0042】
この試験のために、BCS(登録商標)−XP凝固分析装置(シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング社、マールブルグ、ドイツ国)で、それぞれの試薬から、活性試薬75μL、検出試薬75μL及び血漿試料15μLをキュベット中で合一し、37℃でインキュベートした。5分後に吸光度の測定を開始した。Berichrom(登録商標)第XIII因子試験のNADH試薬を有する試験バッチを、波長340nmの光を用いて測定した。チオ−NADH試薬を有する試験バッチを、波長405nmの光を用いて測定した。評価のために、測定開始後の60秒〜350秒の時間枠内で1分ごとに吸光度の変化を計算した。較正のため、つまり標準値の測定のため、標準血漿(標準ヒト血漿、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング社、マールブルグ、ドイツ国)を、100%d.N(標準の100パーセント)の第XIII因子濃度を有する標準として使用した(第XIII因子のための国際標準と比較して、この標準血漿は第XIII因子95%を含有していた)。より低い第XIII因子濃度を有する較正点、つまり標準と比べて低減された第XIII因子活性を表わす参照値は、本発明に従って、この標準を第XIII因子欠失血漿で希釈するか、又は、先行技術に従って、この標準を0.9%NaCl溶液で希釈することにより、得られた。第XIII因子欠失血漿は、Innovative Research(USA)から取り寄せるか、又は、第XIII因子アルファ鎖若しくはベータ鎖に対するモノクローナル抗体を用いて欧州特許公開第0826965A1号明細書に記載された方法と同様にして調製した。標準よりも高い第XIII因子濃度を有する較正点、つまり標準と比べて高められた第XIII因子活性を表す参照値は、試験バッチ中の標準血漿の体積を高めることによって得られる。
【0043】
希釈媒体としてNaCl溶液を用いて、両方の試薬を用いて実施された試験についての典型的な較正曲線は、図1に示されている。希釈媒体として第XIII因子欠失血漿を用いて、両方の試薬を用いて実施された本発明による試験についての典型的な較正曲線は、図2に示されている。
【0044】
引き続き、両方の試薬を用いて、異なる第XIII因子含有量を有する試料を測定し、このテスト結果をそれぞれの較正曲線に基づき評価した。これらの試料は、公知の高い第XIII因子活性を示す血漿プールと第XIII因子欠失血漿との、種々の比率での、混合により調製した。出発血漿の第XIII因子活性値並びにこの混合比から、各試料の理論的第XIII因子活性値を計算した。この試料の測定の後に、実際に測定された測定値と予め理論的に計算された第XIII因子活性値との比較により、それぞれの試料の百分率で示す回収率を計算した。100%より大きな復元率は、誤った高すぎる試験結果と同じ意味である。図3に示されているように、NADHに基づくBerichrom(登録商標)第XIII因子試験について、この試験についての標準用の希釈剤として、前記のNaClの代わりに本発明による第XIII因子欠失血漿を使用した場合には、この復元率は、20%より低い第XIII因子活性を示す試料の場合に、100%付近であった。図4に示されているように、チオ−NADHをベースとする試験について、低い第XIII因子含有量を有する試料の復元率の改善が、更にはっきりと現われている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験バッチ中のNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体の酸化的消費に基づき、活性化された第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性を測定し、前記測定された測定値を、参照材料を用いて測定される参照値と比較する、血漿試料中の第XIII因子の定量的測定方法において、少なくとも、標準に対して低減された第XIII因子活性を示す参照材料が、血漿からなることを特徴とする、測定方法。
【請求項2】
標準に対して低減された第XIII因子活性を示す少なくとも1つの参照材料が、標準血漿と第XIII因子欠失血漿との混合物からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標準に対して低減された第XIII因子活性を示す少なくとも1つの参照材料が、単離された第XIII因子が添加されている第XIII因子欠失血漿からなる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第XIII因子活性を示さない参照材料が第XIII因子欠失血漿からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
100%の第XIII因子活性を示す参照材料が標準血漿からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
標準に対して高められた第XIII因子活性を示す少なくとも1つの参照材料が、単離された第XIII因子が添加されている標準血漿からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
活性化された第XIIIa因子のトランスグルタミナーゼ活性が試験バッチ中のNAD(P)H類縁体の酸化的消費に基づいて測定され、前記NAD(P)H類縁体がチオ−NAD(P)H又はセレノ−NAD(P)Hである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第XIII因子の定量的測定方法のための参照材料を調製するための第XIII因子欠失血漿の使用。
【請求項9】
標準血漿と第XIII因子欠失血漿との混合物からなることを特徴とする、標準に対して低減された第XIII因子活性を示す参照材料。
【請求項10】
凍結乾燥されていることを特徴とする、請求項9に記載の参照材料。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の、標準に対して低減された第XIII因子活性を示す参照材料を、少なくとも1つ、有するキット。
【請求項12】
更に第XIII因子欠失血漿を備える請求項11に記載のキット。
【請求項13】
更に標準血漿を備える請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
少なくとも1つの標準血漿及び1つの第XIII因子欠失血漿を、個別のユニットとして、備えるキット。
【請求項15】
更に、第XIII因子の定量的測定方法の実施のための少なくとも1つの試薬、好適にはNAD(P)H又はNAD(P)H類縁体を含有する試薬、を備える、請求項11〜14のいずれか1項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−506429(P2013−506429A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532469(P2012−532469)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003667
【国際公開番号】WO2011/042072
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(510259921)シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (11)
【Fターム(参考)】