説明

血漿の製造方法

【課題】高精度で疾患(たとえば、アルツハイマー病)をもつか否かの判定ができる方法を提供すること。
【解決手段】血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)を有することを特徴とする血漿の製造方法を用いる。また、工程(1)と、血漿に含まれるアネキシンVを免疫測定する工程(2)とを有することを特徴とするアネキシンVの定量方法を用いる。また、工程(1)と、工程(1)で得た血漿を−200〜10℃で保存する工程(3)とを有することを特徴とする血漿の保存方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿の製造方法に関する。さらに詳しくは疾患に関連するアネキシンVの定量に好適な血漿を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでアルツハイマー病の程度を示す唯一の尺度であった長谷川式簡易知能評価スケールとアネキシンVとの関係が検討され、アルツハイマー患者全てにアネキシンVが高濃度に検出されたことが報告されている(非特許文献1)。そして、体液(血液等)を検体とし、ウエスタンブロットによるELISA法を用いて、アネキシンVを簡便に検査できる方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】大川宏子他,老年精神医学雑誌,第14巻,第2号,227−235頁,2003年,日本老年精神医学会機関誌
【特許文献1】特開平2004−251794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の検査方法では、アルツハイマー患者であるか、非アルツハイマー患者(健常人)であるかの判定の精度が高くないという問題がある。特に、アルツハイマー病の初期治療に効果的な治療薬(たとえば、塩酸ドネペジル)を効果的に使用するために、アルツハイマー病の初期段階で高精度で患者かどうかの判定方法の開発が望まれていた。すなわち本発明の目的は、高精度で疾患(たとえば、アルツハイマー病)をもつか否かの判定ができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、測定試料の調製や測定試料の保存の際にアネキシンVの測定値が変動することを発見し、この変動を防止することにより上記目的を達成することができることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明の血漿の製造方法の特徴は、血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)を有する点を要旨とする。
また、本発明のアネキシンVの定量方法の特徴は、血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)と、血漿に含まれるアネキシンVを免疫測定する工程(2)とを有する点を要旨とする。
また、本発明の血漿の保存方法の特徴は、血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)と、工程(1)で得た血漿を−200〜10℃で保存する工程(3)とを有する点を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の血漿の製造方法、アネキシンVの定量方法又は血漿の保存方法を用いると、高精度で疾患を持つか否かの判定ができる。特に、アルツハイマー病の判定に効果が高い。また、アルツハイマー病の初期段階で高精度で患者かどうかの判定ができるので、アルツハイマー病の初期治療に効果的な治療薬を効果的に使用できる(重症になる前に、疾患の進行の遅延若しくは停止、又は完治させることができる)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<工程(1)について>
本発明で使用する血液は採取部位及び採取方法等に制限がなく、従来の採取部位及び採取方法(例えば、採血用注射器を用いて、主に肘正中静脈より全血5mL程度を採血する方法)等が用いられる。なお、Clinica Chimica Acta(金子ら,第251巻,65−80頁,1996年)によると、採血した血液の溶血はアネキシンV測定値に正の誤差を及ぼすことが示されているため、本発明に使用する血液として、溶血が認められない血液が好ましい。
【0008】
血液に添加する抗凝固剤としては、通常の抗凝固剤が使用でき、たとえば、抗トロンビン作用を促進する抗凝固剤や、カルシウムイオンをキレートする事で血液凝固を阻害する抗凝固剤等が挙げられる。抗トロンビン作用を促進する抗凝固剤としては、ヘパリンナトリウム及びヘパリンリチウム等が挙げられる。また、カルシウムイオンをキレートする抗凝固剤としては、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA2Na)、エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA2K)、エチレンジアミン四酢酸三カリウム(EDTA3K)、フッ化ナトリウム及びクエン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、使用時の簡便さの観点等から、カルシウムイオンをキレートする抗凝固剤が好ましく、さらに好ましくはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA2Na)、エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA2K)及びエチレンジアミン四酢酸三カリウム(EDTA3K)、特に好ましくはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA2Na)である。
抗凝固剤の添加濃度(ミリモル/リットル:mM)としては、通常よく用いられる量でよく、たとえば、血液の容量に基づいて、1〜10が好ましく、さらに好ましくは2〜7、特に好ましくは3〜5である。
【0009】
0.1μm以上の大きさを持つ有形体としては、血球成分及びフィブリン塊等が含まれる。
血球成分としては、赤血球、白血球(顆粒球、単球及びリンパ球等)及び血小板等が挙げられる。なお、血小板には、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA2Na)、エチレンジアミン四酢酸二カリウム(EDTA2K)及びエチレンジアミン四酢酸三カリウム(EDTA3K)等の抗凝固剤を使用した際に形成される血小板塊状等も含まれる。
フィブリン塊としては、フィブリノゲンがトロンビンによる分解を受けて生成したフィブリンモノマーが重合して形成されたフィブリンからなる塊等挙げられる。
【0010】
0.1μm以上の大きさを持つ有形体の含有量(個/mL)は、0.7×105以下が好ましく、さらに好ましくは0.5×105以下、特に好ましくは0.3×105以下である。この範囲であると、さらに高精度で疾患を持つか否かの判定ができる。また、血漿の保存安定性がさらに良好となり、長時間保存後でも疾患に関与するアネキシンVをさらに正確に定量できる。
0.1μm以上の大きさを持つ有形体の含有量の計数には、位相差機能を有した培養顕微鏡による計数法が適用できる。測定試料は、希釈等の前処理無しに使用することが好ましく、また、加熱処理等の特別な処理を行う必要もない。また、計数時における培養顕微鏡の倍率は800倍で行い、計数にあたっては、Burker−Turk計算板やNeubauer計算板を用いて計数する。
計数対象となる0.1μm以上の大きさを持つ有形体の形状は、球状や塊状等であり、その最長径又は最長長さが0.1μm以上のものを計数する。
【0011】
血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除くには、遠心分離法、吸着除去法及びろ過法等が適用できる。これらのうち、簡便性(操作が速やかで簡単に行える)の観点等から、遠心分離法が好ましい。
遠心分離法で用いる遠心分離器及び遠心分離用容器は通常のもの(血液分離用に使用されるもの等)が用いられ、冷却機能付き遠心分離器や採血時に使用する真空採血管等を使用することが好ましい。
遠心時における温度(℃)は、0〜40が好ましく、さらに好ましくは0〜37、特に好ましくは0〜25、最も好ましくは2〜10である。
遠心時の遠心力(G)は、2000〜6000が好ましく、さらに好ましくは2500〜5500、特に好ましくは3000〜5000Gである。この範囲であると、さらに高精度で疾患を持つか否かの判定ができる。また、血漿の保存安定性がさらに良好となり、長時間保存後でも疾患に関与するアネキシンVをさらに正確に定量できる。すなわち、遠心力が1800G未満であると、被験者の血球成分濃度に応じた測定値変動が生じやすくなり、疾患に関与するアネキシンVを正確に定量する事が困難になる傾向がある。通常の血漿を得る際の遠心力は800〜1800Gであるため、従来の遠心力で調製した血漿ではアネキシンVを正確に定量できない、さらに、この範囲の遠心力で得た血漿は保存によりアネキシンVの測定値が著しく上昇するという問題が存在する。一方、遠心力が6000Gを超える場合、血液中の血球成分等が破壊されやすくなり、これに伴い疾患に関与しないアネキシンVが検出されるようになり、疾患に関与するアネキシンVを正確に定量する事が困難となる傾向がある。
遠心力(G)が印可される時間(分)は、5〜30が好ましく、さらに好ましくは6〜25、特に好ましくは8〜20、最も好ましくは10〜15である。
【0012】
吸着除去法は、吸着剤を充填したカラムに血液を通過させて吸着剤に有形体を吸着させることにより有形体を除去できる。
吸着剤としては広く知られているものが使用でき、ポリオレフィン繊維、ニトロセルロース繊維、セルロース繊維及びポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。これらのうち、吸着能の観点等から、ポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。血液を通過させる際の液量(mL)は、吸着剤0.1gに対して0.5〜2が好ましく、さらに好ましくは1〜1.5である。
なお、カラムに血液を通過させる際、赤血球等の血球成分の破壊を防止するために、加圧せず、自然落下させることが好ましい。
【0013】
ろ過法は、ろ材(透析膜や限外ろ過膜等)を用いてろ過することにより有形体を除去できる。ろ材としては通常用いられるものが使用でき、セルロース膜、ニトロセルロース膜及びガラスフィルター等が挙げられる。ろ材の平均孔径(μm)としては、0.01〜2が好ましく、さらに好ましくは0.02〜1.6、特に好ましくは0.05〜0.8である。
【0014】
本発明の血漿の製造方法は、工程(1)を有すれば他の通常の工程{血漿を調製するのに適用される公知の工程等}を含むことができる。
本発明の血漿の製造方法には工程(1)以外に、タンパク質分解酵素阻害剤(プロテアーゼインヒビター)を共存させる工程等を含んでもよい。なお、タンパク質分解酵素阻害剤は、血漿中のタンパク質の分解を防止するために添加される。タンパク質分解酵素阻害剤としては、例えば、特開2003−270238号公報に記載されている阻害剤等が挙げられる。
【0015】
<工程(2)について>
以上のようにして得られた血漿は、アネキシンVを免疫測定(免疫学的測定法)する工程(2)に付すことにより、疾患に関与するアネキシンVを精度良く定量できる。
免疫学的測定法としては、放射免疫測定法(RIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、化学発光免疫測定法(CLIA法)及びラテックス凝集法等が適用できる。これらのうち、定量感度の観点等から、放射免疫測定法(RIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)及び化学発光免疫測定法(CLIA法)が好ましい。
【0016】
免疫測定するのに用いられる抗アネキシンV抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の何れも用いることができる。また、免疫測定に際しては、抗アネキシンV抗体を固相に固定化した固相抗体と、標識化合物で標識した標識抗体を用いたサンドイッチ測定法が好ましい。
抗アネキシンV抗体を固相に固定化する方法としては、通常の方法(化学結合法及び物理吸着法)等で行うことができる。
化学結合法としては、固相表面に導入された官能基(アミノ基及びスルホ基等)と、抗アネキシンV抗体の官能基(アミノ基及びスルホ基等)とを結合剤(グルタルアルデヒド、サクシンアルデヒド、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロサクシンイミドエステル及びo−フェニレンビスマレイミド等)で架橋する方法(米国特許第4280992号明細書及び同第3652761号明細書等)等が挙げられる。
物理吸着法としては、固相がポリスチレンの場合、抗アネキシンV抗体を0.001〜0.04%(W/V)含む炭酸緩衝液(pH9.0)にポリスチレン固相を適当時間浸漬する方法(バイオシム・バイオフィズ・アクタ、251巻、427頁、1971年)等が挙げられる。この方法は、固相がポリスチレン以外の物質、例えばポリプロピレン、シリコン、ガラス及びセルロース等にも適用できる。
【0017】
抗アネキシン抗体を標識する際の標識化合物としては、通常のものが使用でき、ラジオアイソトープした原子(125I等)、蛍光物質(ユーロピニウム錯体等)、発光物質(N−メチルアクリジウムエステル等)及び酵素(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ及びβ−ガラクトシダーゼ等)等が用いられる。これらのうち、酵素が好ましく、さらに好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ及びアルカリフォスファターゼである。標識方法としては通常の方法等が適用できる{たとえば、「続生化学実験講座5 免疫生化学実験法」(日本生化学会編、東京化学同人、1986年発行、102〜112頁}。
【0018】
本発明のアネキシンVの定量方法を用いれば、疾患をより正確に判定できる。
疾患としては、血液中に含まれるアネキシンVと関連するもの等が含まれ、たとえば、心疾患及びアルツハイマー病が挙げられる。
【0019】
本発明の判定方法には、抗アネキシンV抗体を固定化した固相と、ペルオキシダーゼを標識酵素として用いたペルオキシダーゼ結合抗アネキシンV抗体とを構成物として含む免疫測定用試薬キットが用いられる。免疫測定試薬キットの構成には制限がないが、免疫反応用緩衝液、B/F分離用緩衝液及びコントロール試料(検量線作成用の標準物質)等を含むことが好ましい。免疫反応用緩衝液及びB/F分離用緩衝液等としては、特開2004−264294号公報に記載された緩衝液等が使用できる。
試薬キットに含まれる各試薬の剤型等に制限はない。
【0020】
<工程(3)について>
工程(3)は、工程(1)で得た血漿を−200〜10℃で保存する工程である。
工程(1)で得られた血漿は、通常の保存用機器(冷凍庫や冷蔵庫等)を用いて保存を行うことができ、保存時の容器に関しても、通常用いる保存容器を使用することができる。
保存における温度(℃)は、−200〜10が好ましく、さらに好ましくは−100〜4、特に好ましくは−85〜−20である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>
(アルツハイマー患者等の選定)
長谷川式簡易知能評価スケールにて知能得点を調べ、アルツハイマー病と認められた10名(男性5名、女性5名)と、アルツハイマー病と認められない健常人10名(男性5名、女性5名)とを選定した。
【0022】
(血漿検体の調製)
5.4mgのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含む真空採血管(商品名「ベノジェクトII」、テルモ社製)を用いて、アルツハイマー病患者10名(男性5名、女性5名)及び健常人10名(男性5名、女性5名)から、血液5mLを採取した後、均一混合して抗凝固剤入り血液を得た。その後、KOKUSAN社製遠心分離器H−3FR型(4℃、3500G、15分)を用いて、抗凝固剤入り血液の遠心分離をそれぞれ行い、上層下層に分離した血液の上層部分のみを取り出し、血漿{アルツハイマー患者に由来する血漿(患者1〜10)、健常人に由来する血漿(健常人1〜10)}を得た。
【0023】
(0.1μm以上の大きさを持つ有形体数の計測)
得られた血漿について、OLYMPUS社製培養顕微鏡CKX41型及びBurKer−Turk型計数板を用いて、0.1μm以上の大きさを持つ有形体の計測を行った。なお、計測に供した血漿は前処理を行わず使用した。また、顕微鏡の倍率は800倍とし、計測は各血漿についてそれぞれ3回づつ行った(3回の平均値を計測結果とした)。
【0024】
(血漿検体の保存)
血漿は、直ちにアネキシンVを測定するための1mLを分取し、残りの血漿を凍結保存(SANYO社製超低温フリーザー、−80℃にて4日間)した。
【0025】
(免疫測定試薬の調製)
・抗アネキシンV抗体の取得
アネキシンVを免疫源として得られた2種類のマウスモノクローナル抗体(抗体A及びB)を単クローン抗体実験マニュアル記載の方法(富山ら,講談社サイエンティフィック,1987年)により調製した。
【0026】
・抗アネキシンV抗体結合ポリスチレンビーズ
抗体Aを、pH9.0、0.1M炭酸緩衝液に20μg/mLの濃度になるように均一混合して混合液を得た。次にこの混合液50mLに直径3.2mmのポリスチレンビーズ(イムノケミカル社製)2000個を加えて4℃で48時間静置させた後、混合液をアスピレーターで吸引除去して抗アネキシンV抗体結合ポリスチレンビーズの2000個を得た。
そして、直ちにこの抗アネキシンV抗体結合ポリスチレンビーズの2000個を50mLの0.1%重量BSA含有リン酸緩衝液に浸漬して、浸漬状態で冷蔵(2〜10℃)保存した。
【0027】
・ペルオキシダーゼ標識抗アネキシンV抗体
抗体Bを、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(東洋紡社製)を用い、文献[エス・ヨシタケ、エム・イマガワ、イー・イシカワ、エトール;ジェイ.バイオケム,Vol.92(1982)1413−1424]に記載の方法でペルオキシダーゼ標識抗アネキシンVモノクローナル抗体溶液を調製した。
次に、1重量%牛血清アルブミン含有リン酸緩衝液でペルオキシダーゼ標識抗アネキシンVモノクローナル抗体溶液を抗体濃度として1μg/mLの濃度に希釈し、標識抗体液を調製した{測定に用いるまで冷蔵(2〜10℃)保存した}。
【0028】
・化学発光試薬(第1液及び第2液)
ルミノールナトリウム(和光純薬工業社製)2.80gと、4−(シアノメチルチオ)フェノール0.56gとをpH8.0のリン酸緩衝液1Lに溶解して、化学発光試薬(第1液)を得た{測定に用いるまで冷蔵(2〜10℃)保存した}。
また、200μLの35重量%過酸化水素水を脱イオン水1Lに溶解して化学発光試薬(第2液)を得た{測定に用いるまで冷蔵(2〜10℃)保存した}。
【0029】
・アネキシンV標準液の調製
ヒトアネキシンV抗原(ALEXIS社製)約100μgを、1重量%牛血清アルブミン含有リン酸緩衝液100μLで溶解してアネキシンV溶液を得た後、この溶液中のアネキシンV濃度をBCA法で決定した。ついで、このアネキシンV溶液を、1重量%牛血清アルブミン含有リン酸緩衝液で段階希釈し、20ng/mL、10ng/mL、7.5ng/mL、5.0ng/mL、2.5ng/mL、1.0ng/mLの各溶液を作製し、これらをアネキシンV標準溶液(20、10、7.5、5.0、2.5、1.0)とした{測定に用いるまで冷蔵(2〜10℃)保存した}。
【0030】
(サンプル中のアネキシンV濃度測定)
調製直後の血漿及び4日間、−80℃凍結保存した血漿(10℃×30分で融解した)について、アネキシンVの免疫測定を以下の通り行った。
血漿20μLと、1重量%牛血清アルブミン含有リン酸緩衝液300μLと、抗アネキシンVモノクローナル抗体結合ポリスチレンビーズ1個とを試験管内に入れ、37℃で、1時間反応させた後、反応液をアスピレータで除去して、反応ビーズを得た。引き続き、反応ビーズに生理食塩水5mLを加て反応ビーズを洗浄し、洗浄液をアスピレーターで除去して、反応洗浄ビーズを得た。
次に、ペルオキシダーゼ標識抗アネキシンVモノクローナル抗体液300μLを、反応洗浄ビーズに加え37℃、1時間反応させた後、反応液をアスピレーターで除去し、生理食塩水5mLを加えビーズを洗浄し、洗浄液をアスピレーターで除去して測定用ビーズを得た。
測定用ビーズが入った試験管(12×75mm)をアロカ社製ルミネッセンスリーダーBLR−201型のサンプルホルダーにセットし、化学発光試薬(第1液)200μL及び化学発光試薬(第2液)200μLを加えてから40秒後に化学発光量の積算計測を開始し10秒間の化学発光量(積算量)を得た。
そして、アネキシンV標準液についても同様な方法で化学発光量を測定し、得られたアネキシンV標準液の発光量に基づいて検量線を作成し、この検量線から血漿に含まれるアネキシンV濃度を算出した。
【0031】
<実施例2>
遠心分離の条件(4℃、3500G、15分)を、(4℃、2500G、15分)に変更した以外実施例1と同様にして血漿を調製し、有形体数を計数した後、アネキシンVの濃度を算出した。
【0032】
<実施例3>
遠心分離の条件(4℃、3500G、15分)を、(4℃、5500G、15分)に変更した以外実施例1と同様にして血漿を調製し、有形体数を計数した後、アネキシンVの濃度を算出した。
【0033】
<比較例1>
遠心分離の条件(4℃、3500G、15分)を、(4℃、1000G、15分)に変更した以外実施例1と同様にして血漿を調製し、有形体数を計数した後、アネキシンVの免疫測定を行った。
【0034】
<比較例2>
遠心分離の条件(4℃、3500G、15分)を、(4℃、7000G、15分)に変更した以外実施例1と同様にして血漿を調製し、有形体数を計数した後、アネキシンVの濃度を算出した。
【0035】
実施例1〜3及び比較例1〜2のアネキシンVの免疫測定結果及び長谷川式簡易知能評価スケールでの知能得点を表1(実施例測定結果)、表2(比較例測定結果)及び図1〜5に示した。
【0036】
【表1】

【表2】

【0037】
実施例1〜3の結果について、アネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を図1〜3に示した。
一方、比較例1〜2の結果についてアネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を図4〜5に示した。
【0038】
これらの結果より、実施例1〜3の方法が、比較例1〜2の方法に比較して、長谷川式簡易知能評価スケールとの相関が著しく高いことが明白である。特に、アルツハイマー疾患の初期段階における長谷川式簡易知能評価スケールの20点付近においては、実施例1〜3の方法が、比較例1〜2の方法に対して精度が著しく優れていた。
また、実施例1〜3の方法が、血漿調製直後の測定値と−80℃にて4日間保存した時の測定値変動が極めて少なく、血漿を極めて著しく安定に保存できた。
このことより、有形体に含まれるアネキシンVは疾患(アルツハイマー病等)に由来せず、有形体に含まれないアネキシンVだけが疾患(アルツハイマー病)に由来すると推定される。遠心力が弱い場合、保存により有形体が少しずつ破壊され、アネキシンV測定値が少しずつ変化するものと考えられる(特に、冷凍保存後の融解処理の際に有形体の破壊が顕著に生じ、アネキシンV測定値が保存前の値に比べて大きく変動したと考えられる。)。一方、遠心力を強くすると、遠心時における有形体成分の破壊がより進行し、血漿調製直後のアネキシンV測定値を変動させる原因になったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1におけるアネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を表したグラフである。
【図2】実施例2におけるアネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を表したグラフである。
【図3】実施例3におけるアネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を表したグラフである。
【図4】比較例1におけるアネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を表したグラフである。
【図5】比較例2におけるアネキシンV測定値と長谷川式簡易知能評価スケールとの関係を表したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)を有することを特徴とする血漿の製造方法。
【請求項2】
血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)と、血漿に含まれるアネキシンVを免疫測定する工程(2)とを有することを特徴とするアネキシンVの定量方法。
【請求項3】
血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除く方法が遠心分離法、吸着除去法及びろ過法からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載のアネキシンVの定量方法。
【請求項4】
血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除く方法に遠心分離法を含み、遠心力が2000〜6000Gである請求項2又は3に記載のアネキシンVの定量方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の定量方法を用いる疾患の判定方法。
【請求項6】
疾患がアルツハイマー病である請求項5に記載の疾患の判定方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の疾患の判定方法に用いる免疫測定用試薬キット。
【請求項8】
血液に抗凝固剤を添加した後、この血液から0.1μm以上の大きさを持つ有形体を取り除いて、この有形体の含有量が0.7×105個/mL以下である血漿を得る工程(1)と、工程(1)で得た血漿を−200〜10℃で保存する工程(3)とを有することを特徴とする血漿の保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−266913(P2006−266913A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86380(P2005−86380)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【出願人】(592037055)株式会社日本医学臨床検査研究所 (13)
【Fターム(参考)】