説明

血管作動性ペプチドの閾値をインビトロで測定することによって心機能不全を患う患者の治療を管理する方法

心機能不全を患う患者の治療的処置を管理する方法を開示する。前記方法において、血管作動性ペプチドであるアドレノメデュリン(ADM)、エンドセリン-1(ET-1)および/またはバソプレシン(AVP)の少なくとも1種の濃度が、治療開始後、患者の血液中でどのように変化するかを測定し、前記濃度が全く低下しないまたは個々の血管作動性ペプチドに関する閾値に関して十分でない場合に、治療措置が不満足であるとみなし、修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料中の特定の血管作動性(血管に作用する;向血管性)内在性ペプチドを測定し、このようなペプチドの測定可能な濃度の変化に基づき治療的介入の成功または不成功を評価することによって、心機能不全を患う患者の治療を管理する、インビトロの診断方法の新規な応用に関する。
【背景技術】
【0002】
心機能不全(心不全、HF)という用語は、心臓がもはや体に血液を適切に供給できず、それ故、酸素もまた適切に供給できない場合に使用する。心機能不全(心拍出量の低下)は、独立した疾患ではなく、様々な原因および複数の特徴的症状を有する臨床像である。心機能不全の様々な形態をより正確に特徴付けるために、疾患の部位、症状の型または疾患の進行の型に応じて様々な用語が使用され、なかでも具体的には、右心不全または左心室機能不全(心臓の右側または心臓の左側のどちらが病気であるかによる)、全体的な心不全(進行した症例および/または主に両方の心室が影響を受けている場合)、収縮期心不全(心筋がもはや激しくポンプのように運動できない)、拡張期心不全(心筋がもはや正確に弛緩して血液を満たすことができない)、前方および後方心不全(血液拍出量の不足または心臓の前での血液の貯留)、うっ血性心不全(chf、非代償性右心不全)、慢性心不全(数カ月から数年かけて症状が緩慢に進行する;突然の急速な悪化がいつでも起こり得る)および急性心不全(数分または数時間で進行する心不全、例えば心筋梗塞の後で)が特に述べられる。
【0003】
心機能不全は、70%の症例において、冠状動脈性心臓病による心筋のポンプ運動の低下による。冠状動脈性心臓病は、特に高齢の集団に起こる。
【0004】
心機能不全を検出するための古典的な診断手段は、心臓と肺および浮腫に関する理学的検査、ECG(さらに運動負荷ECGおよび/また長時間ECG)、血圧測定、超音波検査ならびに適切な場合、X線検査、室内実験、肺機能検査および血液の酸素飽和度の測定である。臨床的および診断的発見により、潜在的心機能不全の患者および心機能不全を患っている患者は、4つの群、具体的にはニューヨーク心臓協会(New York Heart Association(NYHA))の提言に基づく、4種のいわゆるNYHA分類IからIVに割り当てられている。
【0005】
以下は、それぞれのNYHA分類に対する割り当てに適用できる。
NYHA I度 = 症状はない。
NYHA II度 = 比較的活発な運動により症状が起こる(例えば、階段を3階分昇る、または坂を急いで上ると息が切れる)。
NYHA III度 = 軽い運動により症状が起こる(例えば、階段を1階分昇る、坂をゆっくり上る、または水平に急いで歩くと、息が切れる)。
NYHA IV度 = 安静時でも症状が起こり、軽い運動によって症状が重くなる
【0006】
最近では、健康な対照のヒトと比較すると心機能不全の症例において特徴的に濃度が変化する、内在性血管作動性ペプチドの測定が、診断および予後予測の目的で次第に使用されてきている(いわゆる、心血管マーカー、(1)も参照されたい)。本文脈において、ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)およびさらに血管作動性ペプチドのアドレノメデュリン(ADM)、エンドセリン-1(ET-1)およびバソプレシン(アルギニンバソプレシン;AVP)について主に述べることができ、本出願はこれらの測定に関する。後に述べた3種のペプチドの遊離は、本出願人が新規に開発したアッセイを用いて、簡便かつ有効な方法で初めて測定可能であったが、これについては以下においてより詳細に説明する。高濃度のAMP、ET-1およびAVPが、予後不良または疾患により高い確率で死に至ることの明らかな示唆を提供することが発見された。
【0007】
診断された慢性心不全の基本的な治療は、現在具体的にはACE(ACE-アンギオテンシン変換酵素)阻害剤、β-ブロッカーおよび特に利尿薬を用いた治療を含む。アンギオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、抗凝血剤、カルシウムチャネル遮断薬、ジギタリス製剤(例えば、ジギトキシン、ジゴキシン、およびそれらに由来する半合成の誘導体などのジギタリス配糖体)、血管拡張剤およびカリウム供給を増加させる手段も、心機能不全の症例において使用するさらなる治療薬として述べることができる。重篤な症例(NYHA IV)において、いわゆるIV度利尿薬、ならびに頻度は少ないが、ドブタミン、ドーパミン、ミルリノン、ネシリチド、ニトログリセリンおよびニトロプルシドなどの製剤が使用される。肺浮腫または心臓性ショックなどの切迫した合併症のある、重篤な慢性または急性型の症例において、患者は重要な予後予測による集中治療によって治療されなければならない。
【0008】
しかし、上述の文脈において治療された患者の大部分は、標準的な治療には最適には反応せず、結果として重篤な症状(息切れ、循環障害)のため再入院または死などの「事象」が発生する。今のところ、すでに選択した治療措置の有効性が十分でないため、上述の「事象」が発生する前に治療を変更するという意味での良い時期に、適切であれば治療措置を変更できる十分早い時期に、選択された治療戦略の成功または不成功を検出するには、非常に大きな問題があると思われる。
【0009】
BNPは、治療の管理のための使用に関して試験されており、また今も試験されているが、今日までに成功が確信されていない(5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】EP1488209B1
【特許文献2】WO2004/090546
【特許文献3】1564558B1
【特許文献4】WO2005/078456
【特許文献5】WO2006/018315
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、医師に、心機能不全を治療するために選択する治療的措置の成功をできるだけ早く明確に示唆する、新規な診断の可能性を提供することである。
【0012】
前記「示唆」は、明らかな測定結果として、患者の関連する病態を直接反映する数値形式で得られなくてはならず、前記測定値の改善という意味の「患者の安定化」を、治療の主要目的として直接努力できるように、医師らを直接導くことができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的は、心機能不全を患う患者の治療的処置を管理する方法であって、血管作動性ペプチドであるアドレノメデュリン(ADM)、エンドセリン-1(ET-1)および/またはバソプレシン(AVP)の少なくとも1種の濃度が、治療開始後、患者の血液中でどのように変化するかを測定し、前記濃度が低下しないまたはその低下が不十分である場合は、その治療措置が不満足であると評価し治療措置を変更するが、前記濃度が十分に低下した場合は、治療は成功であるとみなす方法によって、本発明に従って達成できる。
【0014】
このような方法のより具体的または好ましい構成は、請求項2から13に述べる手段を含む。
【0015】
本発明に従った方法によって測定される血管作動性内在性ペプチドは、心機能不全の症例において特徴的に分泌が変化する。血管作動性ペプチドは、内因的に形成された血管拡張性または血管収縮性の生理活性ペプチドのどちらかに属し、具体的には血管拡張性ペプチドであるアドレノメデュリン(ADM)ならびに血管収縮性ペプチドであるエンドセリン-1(ET-1)およびバソプレシン(AVP)である。これらは、それぞれのプロペプチド前駆体から血管作動性ペプチドのように測定される、生理的に不活性なコペプチド(MR-proADM、CT-ProET-1、CT-proAVPまたはコペプチン)の測定を用いて実在の血管作動性ペプチドの遊離を測定する、本出願人のアッセイを使用して、好ましく測定される。
【0016】
心機能不全を患う患者の治療を管理することに関するそれらの決定は、心機能不全の治療を成功させるための短期代理マーカーとしての使用として示すこともできる。
【0017】
上記のペプチドの測定を、追加の臨床的または生化学的パラメーターの測定、例えば、さらに別の内在性血管作動性検体を追加的に測定する、または同時に測定することで補う場合、本発明に従った方法の使用とみなされる。本文脈における例としてさらに、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系のペプチド、具体的には、血管収縮性ペプチドのアンギオテンシンII、いわゆるP物質(SP)およびさらに血管拡張性ペプチドのCGRP1〜37、アミリン(IAPP)、エンドセリン-3(ET-3)および血管作動性腸管ペプチド(VIP)を挙げることができる。さらに、NO(例えば、亜硝酸塩または硝酸塩として測定可能)などの非ペプチドの検体を考慮に入れることもさらに述べることができる。
【0018】
「血液中」のそれぞれの検体の測定について述べる場合、この用語は、全血、全血清または全血漿における測定を含む。検体の測定は、例えば、以下に説明する本出願人のアッセイの1つを用いた、サンドイッチ型の免疫アッセイの形態で免疫診断アッセイ方法を用いて実施することが好ましい。
【0019】
アドレノメデュリン(ADM)の濃度は、プレプロアドレノメデュリンのアミノ酸45〜92を含む中間領域プロADMフラグメント(MR-proADM)の濃度として測定することが好ましい。適切なアッセイは、EP1488209B1またはWO2004/090546あるいは(2)に記載されている。このアッセイを使用して、0.2〜0.6nmol/l(この範囲の上限が、治療について決定するための指標として使用できる閾値である)の範囲である正常なADM濃度を、健康な人において測定する。このような正常な濃度に患者が安定することが、心機能不全の治療の上記の主な治療目的である。
【0020】
エンドセリン-1(ET-1)の濃度は、プレプロエンドセリン-1のアミノ酸168〜212を含む、C末端ET-1フラグメント(CT-proET-1)の濃度として測定することが好ましい。適切なアッセイは、1564558B1またはWO2005/078456および(3)に記載されている。このアッセイを使用して、25〜70pmol/l(この範囲の上限が、治療について決定するための指標として使用できる閾値である)の範囲である正常なET-1濃度を、健康な人において測定する。このような正常な濃度に患者が安定することが、同様に心機能不全の治療の上記の主な治療目的である。
【0021】
バソプレシン(AVP)の濃度の測定には、プロペプチドフラグメントのCP-proAVP(コペプチン)を測定するアッセイであって、刊行物WO2006/018315または(4)に、より詳細に記載されているアッセイの使用を推奨する。このアッセイを使用して、13pmol/l未満(<13pmol/l)(前記値が、治療について決定するための指標として使用できる閾値である)である正常なAVP濃度を、健康な人において測定する。このような正常な濃度に患者が安定することが、心不全の治療のさらなる主な治療目的である。
【0022】
上記のパラメーターの1つだけでも考慮に入れること、すなわち、上記のパラメーターの1つだけでも正常な濃度に患者が安定することが、表1の測定結果に関して以下に示されるように、治療の成功または治療の不成功に関する非常に有意な情報を提供するため十分である。
【0023】
以下の表2においてさらに示すように、前記パラメーターの2つまたは好ましくは3つ全てが、患者において前記正常範囲に同時に移行可能な場合、治療の成功が示唆されるが、実質的に有意度はより高い。これは、心機能不全の症例において全てのパラメーターが増加して見出されるが、これらは相互に実質的に独立しており、したがって相互に補うことができるためである。
【0024】
本発明に従った、1つまたは複数のパラメーターのインビトロでの測定は、チップ技術の測定装置を用いた同時測定としてより大きな規模の適切な方法で、または免疫クロマトグラフ測定装置を使用していわゆるポイントオブケア(POC)測定の過程においても、ルーチンの臨床用途において実施できる。多重パラメーター測定の複合測定結果の確定および評価は、適切なコンピュータプログラムを用いて、適切な方法でもたらされる。
【0025】
本出願において「濃度」という用語を使用する場合、この用語は、制限された等値という意味の、生体試料において測定可能な実際の血管作動性ペプチドの固定された濃度だけを意味するのではない。
【0026】
本発明の文脈において述べられた、最も重要な病理生態学的に単体分離された血管作動性ペプチドは、遊離の測定可能な形態または制約のない方法において測定可能な形態では比較的少量のみ体液中に存在する。病理生態学的に単体分離された血管作動性ペプチドの重要な部分は、受容体および他の膜または血管構造と結合することにより体液から素早く取り除かれる、および/または分解される。
【0027】
同じ前駆体プロペプチドから形成された不活性コペプチドの測定は、本明細書中で述べた本出願人のアッセイを使用して、本発明に従って実施されることが好ましく、体液中の瞬間的濃度とは対照的に、比較的長期間にわたる「活性濃度」という意味での血管作動性ペプチドの遊離を反映し、結合されたまたは素早く分解された、遊離した血管作動性ペプチドのフラグメントの間接的な同時検出も可能にする。このようなコペプチドの比較的高い安定性と併せて、これにより、体液、例えば血清または血漿において測定される検体に関する、より高い測定可能な絶対濃度の値がもたらされる。
【0028】
しかし、本発明において述べられる濃度は、必ずしもこのような不活性コペプチドの測定可能な濃度でだけではなく、それぞれの症例において、前記不活性コペプチドに関する測定可能な濃度に実質的に比例する割合で形成される、または体液中に存在する他の測定可能な検体、例えば、NOなどの小分子の濃度であってもよい。血管作動性ペプチドまたはコペプチドに比例する割合で、体液(血清、血漿)中に存在するこのような検体は、「血管作動性ペプチドの代用物」とみなすことができ、これらの測定は、血管作動性ペプチドまたは対応するコペプチドの直接の測定と同等であり得、同じ方法で、本発明において、血管作動性ペプチドまたはコペプチドの濃度に関して測定した値と、場合により置き換え可能な値が得られる。このような「血管作動性ペプチドの代用物」を測定することによる、血管作動性ペプチドの間接的測定は、「血管作動性ペプチドの濃度の測定」という一般用語に含まれると意図される。
【0029】
患者の病態に突然の悪化または改善がない慢性傾向で進行する疾患の場合、慢性心機能不全に関する症例であり得、治療的介入をしなくても、または薬剤を投与することによる定期的で一定の治療的介入の場合に、例えば、様々な疾患に関連する検体に関して、わずかに変わることがありゆっくり変化するだけの、全体に安定した状態が得られる高い確率がある。このような症例において、活性検体、この場合は患者の体液中で測定可能な血管作動性ペプチド、の安定した濃度は、比較的長期にわたって病態生理学的に遊離した同じ検体の量に実質的に比例するはずであり、本出願人のアッセイによって、生理的に不活性なコペプチドの形態で測定できる。このことは、測定した「検体濃度」の特定の選択が、診断的評価についての決定的な定性的影響を有してはならないように、本発明に従った、不活性コペプチドの好ましい多重パラメーター測定において測定できる、健康な人の対照値からのずれ、および、疾患に典型的なこれらのずれの原因が、活性検体の全体的に低く安定した濃度に反映されるべきであることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を、以下の実施例において、2つの表を参照して、より詳細に説明する。
【0031】
実施例に記載の、患者の血漿におけるMR-proADM、CT-proAVPおよびCT-proET-lの測定を、上記の本出願人のアッセイによって実施する。このアッセイは、上述の文献に記載されており、これら全てのアッセイは、本質的に非競合的免疫発光サンドイッチアッセイを表す。
【0032】
患者の試料においてADMまたはET-1またはAVPを測定することの問題についての総論および前記特許におけるアッセイを実施するための説明または本出願の記述を補足する出版物(2、3、4)を、特に参照されたい。
【0033】
本発明を、マーカーであるADM、ET-1およびAVPに関して、心機能不全を患う患者において測定した結果に関して、以下により詳細に説明する。
【実施例】
【0034】
[アッセイの説明]
血漿中のMR-proADMの測定を、上述のWO2004/090546の実施例または(2)に実質的に記載されているように、免疫発光サンドイッチアッセイを使用して実施した。
【0035】
血漿中のCT-proET-1の測定を、上述のWO2005/078456の実施例または(3)に実質的に記載されているように、免疫発光サンドイッチアッセイを使用して実施した。
【0036】
血漿中の遊離したAVPを測定するために、CT-proAVP(コペプチン)の測定を、上述のWO2006/018315の実施例または(4)に実質的に記載されているように、免疫発光サンドイッチアッセイを使用して実施した。
【0037】
[測定データの収集]
ET-1(CT-proET-1として)、ADM(MR-proADMとして)およびバソプレシン(CT-proAVPとして)の、単独または組み合わせの測定が、心機能不全を患う患者の治療の成功の早期検出、したがって治療の管理に適しているかどうかの問題を調べるために、第1の血液試料を、主な症状として息切れを有する緊急入院した377例の患者の群の全ての患者から、入院後すぐに採取した。
【0038】
緊急入院したその日に治療的介入を開始し、介入開始後4日目に第2の血液試料を採取した。
【0039】
その後全ての患者を12カ月にわたって観察し、急性心不全による患者の死亡または患者の再入院を、「事象」として記録した。
【0040】
患者の群は、全体で377例、男性288例と女性89例とで構成されていた。平均年齢は67±11歳、個人の年齢は、42〜91歳であった。上述のNYHA分類に対する患者の評価は以下の通りであった。
NYHA I度=21例の患者、NYHA II度=118例、NYHA III度=144例、NYHA IV度=94例。
【0041】
377例の患者のうち全部で354例の症例において、上述のそれぞれの閾値または健康な人に関する正常範囲である値を、入院当日に、前記マーカーの少なくとも1種に関して測定した。
【0042】
これら345例の患者(n = 345)の、12カ月死亡率は17%(59例の患者)であり、12カ月再入院(一度またはより頻繁に)は、20%(70例の患者)であった。これにより、38%(129例の患者)の事象の総度数が得られた。
【0043】
以下の表において、緊急入院当日およびその後4日目(すなわち、治療的介入の開始4日後)の、事象のあった患者(129例の患者)に関する、個々のマーカーに関して得られた測定結果を再現した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1(最後の列)は、1種のマーカーのみを考慮に入れた場合、事象が生じなかった12カ月の生存期間と、4日後の個々のマーカーに関する値の正常化の間に有意な相関が得られた(「1つの測定値が標準へ戻った患者」の群において、わずか2.2または3.7または6.7事象)ことを示す。
【0047】
表2は、MR-proADMおよびCT-proET-1に関する測定結果を同時に考慮に入れた場合、驚くべきことに、相関がさらに大幅に改善されていることを示す(「2つの測定値が標準へ戻った患者」の群においてわずか0.6事象)。さらにCT-proAVPを第3のマーカーとして考慮に入れた場合、「3つの測定値が標準へ戻った患者」の群が得られ、この群においては、事象は全く存在しなかった。
【0048】
それ故、医師は前記マーカーに関する測定値の正常化または少なくとも減少を、その治療的介入の短期治療目的として考えられる。この方法において、すなわち、わずか約4日後(期間は短くも長くもできる)の反応者(選択した治療に反応した患者)を、非反応者(選択した治療に反応しない患者)から迅速に識別でき、適切であれば、非反応者の場合に治療の変更を開始できる。測定可能なマーカーの濃度から検出可能な、治療の成功がない事象における、治療のこのような早期適用により、生命を救うまたは生命を延長できる。
【0049】
患者が治療に耐性があり、選択した治療のいずれにも反応しない場合、これにより、より重要深刻な介入、例えば外科手術に対する迅速な決断を容易にできる。
【0050】
(参考文献)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
心機能不全を患う患者の治療的処置を管理する方法であって、血管作動性ペプチドであるアドレノメデュリン(ADM)、エンドセリン-1(ET-1)および/またはバソプレシン(AVP)の少なくとも1種の濃度が、治療開始後、患者の血液中でどのように変化するかを測定し、前記濃度が低下しないまたはその低下が不十分である場合は、その治療措置が不満足であると評価し治療措置を変更するが、前記濃度が十分に低下した場合は、治療は成功であるとみなす方法。
【請求項2】
前記濃度を、患者の全血、血清または血漿の試料においてインビトロで免疫アッセイを用いて測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血管作動性ペプチドであるアドレノメデュリン(ADM)、エンドセリン-1(ET-1)および/またはバソプレシン(AVP)の少なくとも1種の濃度を、同じそれぞれのプロペプチド前駆体から形成された不活性コペプチドの濃度を測定するアッセイを使用して、前記血管作動性ペプチドの放出として測定することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ADMの濃度を、MR-proADMの濃度を測定できるサンドイッチ免疫アッセイを用いて測定することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ET-1の濃度を、CT-proET-1の濃度を測定できるサンドイッチ免疫アッセイを用いて測定することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
AVPの濃度を、CT-proAVPの濃度を測定できるサンドイッチ免疫アッセイを用いて測定することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
患者の血液中の前記血管作動性ペプチドの少なくとも1種の濃度を、治療開始前に直接測定し、治療開始前に測定した血管作動性ペプチドのさらなる測定を3〜10日以内に、好ましくは4日後に実施することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
さらなる測定において測定されたMR-proADMの濃度が、0.6nmol/lの値を超える場合に、濃度の低下が不十分であるとすることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらなる測定において測定されたCT-proET-1の濃度が、70pmol/lの値を超える場合に、濃度の低下が不十分であるとすることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
さらなる測定において測定されたCT-proAVPの濃度が、13pmol/lの値を超える場合に、濃度の低下が不十分であるとすることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
測定した血管作動性ペプチドの少なくとも1種に関する、好ましくは2種の血管作動性ペプチドまたは3種全ての血管作動性ペプチドに関するさらなる測定において測定された濃度の値が、個々の血管作動性ペプチドに関して、請求項8から10において定義した値より低い場合に、低下が十分であり、治療は成功であるとみなすことを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
多重パラメーター測定を、チップ技術の測定装置を用いて同時測定として実施する、または免疫クロマトグラフ測定装置を用いて実施し、これにより、値が個々の血管作動性ペプチドに関する正常範囲に達していないことが示される、または個々の血管作動性ペプチドに関する正常範囲の上限が示されることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
多重パラメーター測定の複合測定結果の確定および評価を、コンピュータプログラムを用いて実施することを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2009−544951(P2009−544951A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521146(P2009−521146)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006393
【国際公開番号】WO2008/012019
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(501154389)ベー・エル・アー・ハー・エム・エス・アクティエンゲゼルシャフト (29)
【Fターム(参考)】