説明

血行促進作用の評価方法、血行促進物質のスクリーニング方法、および血行促進剤

【課題】被験物質について血行促進作用を評価する方法を提供する。また当該方法を用いて新規な血行促進物質を探索し取得する方法(スクリーニング方法)を提供する。さらに当該評価方法で血行促進作用が評価された物質の、血行促進剤としての用途を提供する。
【解決手段】次の工程を有する方法を用いて被験物質の血行促進作用を評価する:(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与し、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程、必要に応じてさらに、(2)被験物質を投与した非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動が、被験物質を投与しない非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動よりも低下する場合に、当該被験物質について血行促進作用があると判断する工程。かかる方法でリナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、テルピネン−4−オールおよび尿素について血行促進作用が認められた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質について血行促進作用を評価する方法に関する。また本発明は、当該方法を用いて新規な血行促進物質を探索し取得する方法(スクリーニング方法)に関する。さらに本発明は、上記の評価方法により血行促進作用があると評価された血行促進物質を有効成分とする血行促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カプサイシン、ジンゲロール、及びショウガロール等の化合物にはその末梢血管拡張作用に基づいて優れた血行促進作用があることが知られており、これらの化合物並びに当該化合物を含む、例えば唐辛子末、唐辛子チンキ、唐辛子エキス、及び生姜エキス等の植物の加工物は、血行促進剤として広く応用されている(例えば、特許文献1等参照のこと)。
【0003】
しかしながら、これらの化合物は強い皮膚刺激性を有しており、この刺激性を低減するために使用量を減少すると血行促進効果が低下するという問題を有している。このため、従来より皮膚刺激性がなく優れた血行促進作用を有する薬剤の開発が求められており、例えば、特定のフェニルシクロアルキルエーテル誘導体、メトキシフェニルアルキルエーテル誘導体、並びにメトキシ基置換フェニルアルコキシアルキルエーテル誘導体がこうした目的を達成し得る血行促進剤として提案されている(例えば、特許文献2〜4等参照のこと)。また、ニナン酸バニリルにも、皮膚刺激性が少なく良好な血行促進作用があることが知られている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開昭57−9729号公報
【特許文献2】特開2001−213717号公報
【特許文献3】特開2001−316317号公報
【特許文献4】特開2001−322931号公報
【特許文献5】特開2004−331651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、血行促進作用を有する新規成分を探索し取得するために有効な方法、すなわち、被験物質の血行促進作用を評価する方法、ならびに血行促進物質をスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【0005】
さらに本発明は、当該評価方法によって血行促進作用があると評価された血行促進物質を有効成分とする血行促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、皮膚動脈を支配する交感神経(皮膚動脈交感神経)の遠心枝の電気活動と血行促進との間に良好な相関関係があること、すなわち、皮膚動脈交感神経の活動の低下をもたらす化合物に、良好な血行促進作用があることを見出した。
【0007】
かかる知見に基づいて、本発明者は、皮膚動脈交感神経の活動の低下を指標とすることによって、被験物質の血行促進作用を評価することができ、かかる評価系を用いることで、血行促進剤として有効に利用できる血行促進物質を簡便に探索し見出すことができることを確認し、また実際に血行促進物質を見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の態様を備えるものである。
【0009】
(I)被験物質についてその血行促進作用を評価する方法
(I-1)下記の工程を有することを特徴とする、被験物質の血行促進作用を評価する方法:
(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与し、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程。
(I-2)さらに下記の工程を有する、(I-1)に記載する血行促進作用の評価方法:
(2)被験物質を投与した非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動が、被験物質を投与しない非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動よりも低下する場合に、当該被験物質について血行促進作用があると判断する工程。
(I-3)皮膚動脈交感神経活動の測定を、皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を測定することによって行う(I-1)または(I-2)に記載する血行促進作用の評価方法。
【0010】
(II)血行促進作用を有する物質(血行促進物質)のスクリーニング方法
(II-1)下記の工程を有することを特徴とする、被験物質の中から血行促進作用を有する物質をスクリーニングする方法:
(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与し、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程、および
(2)上記で得られた皮膚動脈交感神経の活動を、被験物質を投与しない非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動(コントロール)と対比し、上記活動がコントロールよりも低くなる被験物質を、血行促進作用を有する候補物質として選別する工程。
(II-2)皮膚動脈交感神経活動の測定を、皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を測定することによって行う、(II-1)に記載するスクリーニング方法。
【0011】
(III)血行促進剤
(III-1)上記(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する評価方法で血行促進作用があると評価される化合物であって、リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、テルピネン−4−オール、並びにこれらのエステルおよび塩からなる群から選択される少なくとも一つのモノテルペン化合物または尿素を有効成分とする、血行促進剤。
(III-2)上記モノテルペン化合物または尿素を、皮膚の血流を促進する有効量含有する、(III-1)に記載する血行促進剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の評価方法によれば、被験物質を非ヒト動物に経皮投与して、皮膚動脈を支配する交感神経の電気活動の低下の有無を観察することによって、簡単に被験物質の血行促進作用の有無を判断することができる。すなわち、本発明によれば、簡単に被験物質の血行促進作用を評価することができる。
【0013】
このため、本発明の評価方法は、従来公知の血行促進剤ならびに外用組成物の血行促進作用を確認し評価する方法として有用であるほか、いままで血行促進作用が知られていなかった物質について新たに血行促進作用を見出すための方法として、さらに、多くの物質の中から新規な血行促進物質を探索し取得するための方法として、また、複数の成分からなる組成物の中から血行促進作用を有する有効成分を同定する方法として、有効に使用することができる。
【0014】
そしてかかる方法で血行促進作用があると評価される物質は、血行促進や血流増加を効果・効能とする外用組成物(化粧料や外用医薬品を含む)、または血行障害に起因して生じる疾患や病態の改善を効果・効能とする外用組成物(化粧料や外用医薬品を含む)の有効成分として有効に使用することができる。
【0015】
さらに本発明によれば、上記の血行促進剤を皮膚外用剤の有効成分として配合することにより、顔面、頭部、四肢または全身の血流を促進して、血行障害によって生じる障害(新陳代謝の低下によるくすみ、シミやしわの発生、脱毛や薄毛)や病態(冷え症、冷え症による肩こり、鬱血、じょくそう、レイノー病、エコノミー症候群など)を予防または改善する効果を発揮する皮膚外用剤(化粧料や外用医薬品を含む)を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(I)血行促進作用の評価方法
本発明の血行促進作用の評価方法は、評価対象とする被験物質を非ヒト動物に経皮投与して、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定することによって実施することができる。
【0017】
測定に使用する非ヒト動物は、ヒト以外の哺乳動物または鳥類などの恒温動物であれば特に制限されず、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、サル、イヌおよびネコなどを挙げることができる。
【0018】
なお、測定に使用する非ヒト動物は、被験物質の匂い刺激によって生じる皮膚動脈交感神経への影響を消失しておくために、予め無臭症処理しておくことが好ましい。無臭症処理は、特に制限されず定法に従って行うことができるが、例えば、鼻粘膜をキシロカインで局所麻酔する方法、または鼻粘膜に硫酸亜鉛の1%水溶液を塗布する方法(Kolunie JM et al., Horm. Behav. 1995, 29: 492-518)等を例示することができる。好ましくは1%硫酸亜鉛水溶液による無臭症処理である。
【0019】
被験物質の投与方法としては、経皮投与を好適に挙げることができる。非ヒト動物に経皮投与する方法としては、被験物質を非ヒト動物の皮膚に塗布する方法、および被験物質を含浸または担持させたシートを貼付する方法などを挙げることができ、投与する被験物質の調製形態(例えば、ローション、エアゾール剤、フォーム剤、乳液、クリーム、軟膏、ゲル剤、貼付剤など)に応じて適宜設定することができる。
【0020】
経皮投与する非ヒト動物の部位は、制限はされないが、好ましくは体毛の影響が少ない領域、具体的には毛がないか若しくは毛の少ない皮膚領域(例えば腹部、太ももの内側、足の裏、尻尾など)である。但し、試験領域を剃毛することによって体毛の影響を回避することができるため、上記部位に特に拘泥はされない。また、体毛の影響を回避するために、遺伝的に毛のない動物(例えばヘアレスマウス、ヘアレスラットなど)を使用することもできる。
【0021】
斯くして被験物質を投与した非ヒト動物について、その皮膚動脈を支配する交感神経(皮膚動脈交感神経)の活動を測定する。当該神経活動の測定は、皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を測定することによって行うことができる。経皮投与の場合、経皮投与した皮膚領域の動脈を支配する交感神経の活動を測定することが好ましい。
【0022】
皮膚動脈交感神経(遠心枝)の電気活動の測定は、具体的には、麻酔下で、非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の遠心枝を、実体顕微鏡下で剥離し、それを銀電極にのせて活動電位を記録することによって行うことができる。なお、銀電極は、乾燥を防ぐために、予め液体パラフィンとワセリンの混合物に十分浸しておくことが好ましい。得られた神経の電気活動は、差動増幅器にて増幅し、オシロスコープにてモニターする。ここでノイズ信号はウィンドウ・ディスクリミネーターにより分離する。信号をスパイク変換し、得られたスパイクをレイトメーターにより5秒間のスパイク数としてカウントする。これをA/D(アナログ/デジタル)変換した後、パソコンに記録する(図1参照)。
【0023】
かかる方法により皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を、スパイク数として測定することができる。すなわち、被験物質投与前に測定したスパイク数が、被験物質投与によって減少した場合には、被験物質投与によって皮膚動脈交感神経の電気活動が低下したと判断することができる。
【0024】
かかる皮膚動脈交感神経の電気活動の低下は、実験例1に示すように血行促進効果と相関する。このため、被験物質投与前に測定した上記スパイク数が、被験物質の投与によって減少した場合には、被験物質の投与によって皮膚動脈交感神経の電気活動が低下したと判断することができ、この場合、当該被験物質に血行促進作用があると評価することができる。一方、逆に、被験物質投与前に測定した上記スパイク数が、被験物質の投与によって変動しないか増加した場合には、被験物質の投与によって皮膚動脈交感神経の電気活動が変動しないか上昇したと判断することができ、この場合、当該被験物質には血行促進作用がないと評価することができる。
【0025】
以上のことを総合するに、本発明の血行促進作用の評価方法は、下記の工程(1)を行うことによって実施することができる:
(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与し、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程。
【0026】
好ましくは本発明の血行促進作用の評価方法は、上記工程(1)に続いて、下記の工程(2)を行うことによって実施することができる:
(2)上記工程(1)において、被験物質を投与した非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動が、被験物質を投与しない非ヒト動物(対照非ヒト動物)の皮膚交感神経の活動(コントロール)よりも低下する場合に、当該被験物質について血行促進作用があると判断する工程。
【0027】
なお、工程(2)において対照とする非ヒト動物は、工程(1)で被験物質を投与した非ヒト動物と同一の動物であっても、また異なる動物であってもよい。前者の場合は、被験物質を投与する前に当該非ヒト動物について測定された皮膚動脈交感神経の活動が比較の対象とされ、そこで測定された皮膚動脈交感神経の活動が上記でいうコントロールとなる。また、後者において、対照非ヒト動物として被験物質を投与した非ヒト動物と異なる動物を使用する場合、当該動物は、被験物質を投与した非ヒト動物と同種の動物を用いることが好ましい。
【0028】
斯くして本発明によれば、被験物質について、経皮投与による血行促進効果を評価することができる。なお、血行促進効果を評価する対象の被験物質は、測定者が任意に選択することができ、例えば既に血行促進作用が知られている公知の血行促進物質や組成物(化粧料や外用医薬品などの外用組成物を含む)であってもよいし、また血行促進作用が知られていない物質や組成物(化粧料や外用医薬品などの外用組成物を含む)であってもよい。前者の場合は、本発明の評価方法により、血行促進作用を再確認することができ、またその血行促進作用を、他の物質の血行促進作用と比較評価をすることができる。また、後者の場合は、本発明の評価方法により、今まで血行促進作用が知られていない物質や組成物について新たに血行促進作用を見出すことができる。
【0029】
(II)血行促進物質のスクリーニング方法
本発明はまた、血行促進作用を有する物質(血行促進物質)をスクリーニングする方法を提供する。当該方法は、多くの被験物質のなかから、非ヒト動物に投与した場合に、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を低下させる作用を有する物質を選別することによって実施することができる。
【0030】
具体的には、血行促進物質のスクリーニングは、前述する被験物質の血行促進作用の評価方法に従って、下記の工程(1) を行うことによって実施することができる。
(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与して、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程。
【0031】
好ましくは本発明のスクリーニング方法は、上記工程(1)に続いて、下記の工程(2)を行うことによって実施することができる:
(2)上記工程(1)で得ら、被験物質を投与した非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を、被験物質を投与しない非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動(コントロール)と対比し、上記活動がコントロールよりも低くなる被験物質を、血行促進作用を有する候補物質として選抜する工程。
【0032】
ここで非ヒト動物は、前述する本発明の評価方法で採用する動物を同様に用いることができる。また皮膚動脈交感神経の活動の測定方法も、前述する本発明の評価方法で採用する方法と同様に、皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を測定することによって行うことができる。
【0033】
斯くして、非ヒト動物に投与した場合に当該動物の皮膚動脈交感神経の活動が低下することが確認された被験物質は、血行促進作用を有する候補物質(血行促進物質)として判断取得することができる。
【0034】
なお、非ヒト動物への投与方法としては、前述する本発明の評価方法と同様に、経皮投与(塗布および貼付を含む)を好適に挙げることができる。
【0035】
斯くして本発明のスクリーニング方法によって選別された血行促進物質は、さらに非ヒト動物を用いた有効性試験(血流測定試験など)、安全性試験、さらにヒトを対象とした試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な血行促進物質を選別取得することができる。
【0036】
またこのようにして選別された物質は、必要に応じて構造解析を行った後、その物質の種類に応じて、化学的合成、生物学的合成(発酵を含む)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができ、血行促進剤(血行促進効果を有し、血行促進を目的とする外用組成物)の有効成分として使用することができる。
【0037】
(III)血行促進剤
本発明はまた、上記本発明の評価方法で血行促進作用が認められた血行促進物質を有効成分とする外用血行促進剤を提供する。
【0038】
かかる血行促進物質として、リナロール(Linalool)、ゲラニオール(Geraniol)、シトラール(Citral)、シトラールジメチルアセタール(Citral Dimethyl Acetal)(以上、非環式モノテルペン)、α−テルピネオール(α-Terpineol)、テルピネン−4−オール(Terpinen-4-ol)(以上、環式モノテルペン)、並びにこれらのエステルおよび塩を挙げることができる。ここでエステルには、上記各種のモノテルペンと酢酸や蟻酸などのカルボン酸とのエステル(カルボン酸エステル)が含まれる。制限はされないが、具体的には、酢酸ゲラニオール、蟻酸ゲラニオール、および酢酸リナリールを例示することができる。なお、シトラールはtrans体としてゲラニアール、およびcis体としてネラールを含有する混合物であり、シトラールジメチルアセタールはtrans体としてゲラニアールジメチルアセタール、およびcis体としてネラールジメチルアセタールを含有する混合物である。塩としては、各種のモノテルペンの薬学的に許容される塩を制限なく挙げることができる。これらのモノテルペンは1種単独で、本発明の血行促進剤の有効成分として使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0039】
また血行促進物質として尿素を挙げることができる。
【0040】
これらのモノテルペン化合物および尿素は、いずれも非ヒト動物に経皮投与して、当該動物の皮膚動脈交感神経活動の低下を指標に選別取得された物質である。当該モノテルペン化合物および尿素は、同時に、非ヒト動物への経皮投与による血行促進作用も確認されている(実験例参照)。
【0041】
しかして、これらのモノテルペン化合物および尿素は、血行促進剤の有効成分として有効に用いることができる。このため当該モノテルペン化合物および尿素は、血行促進を効果・効能とする血行促進剤の有効成分として使用することができる。すなわち、本発明によれば、上記のモノテルペン化合物からなる群から選択される少なくとも一種または尿素を有効成分とする、血行促進を効果・効能とする経皮投与形態の血行促進剤を提供することができる。
【0042】
本発明の血行促進剤に含まれるこれらのモノテルペン化合物または尿素の配合割合としては、血行促進剤が血流促進作用を有するかぎり特に制限されず、通常総量として0.001〜100重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.05〜50重量%を例示することができる。
【0043】
本発明の血行促進剤の形態は、経皮投与形態(外用形態)であれば特に制限されず、例えば、液剤形態、乳液形態、クリーム形態、軟膏形態、ゲル形態、エアゾール形態、およびパックなどを含む貼付剤形態などを挙げることができる。
【0044】
本発明の血行促進剤は、必須成分である上記モノテルペン化合物または尿素に加えて、通常皮膚外用剤(例えば、医薬品、医薬部外品、皮膚化粧料、毛髪化粧料、および洗浄料を含む)に配合される成分、例えば界面活性剤(乳化剤を含む)、油性成分、アルコール類、保湿剤、可溶化剤、増粘剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収または散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、植物抽出物および防腐剤を、必要に応じて配合することができる。
【0045】
また、本発明の効果を損なわない範囲において、従来公知の血行促進成分を配合してもよい。かかる血行促進成分としては、ビタミンE及びその誘導体、センブリエキス、ニンニクエキス、セファランチン、塩化カルプロニウム、アセチルコリン、トウガラシチンキ、カンタリスチンキ、ショウキョウチンキ、ノニル酸バニルアミド等を例示することができる。
【0046】
血行促進剤の形態は、特に制限されず、例えばローション(液剤、分散液)形態、乳液形態、クリーム形態、軟膏形態、エアゾール形態、フォーム形態、またはパップやパックを含む貼付剤形態を挙げることができ、外用医薬品、皮膚化粧料(マッサージ料を含む)、頭皮化粧料、洗浄剤(ボディー洗浄剤、毛髪洗浄剤、洗顔料を含む)、および入浴剤として調製される。これらはいずれも公知の方法により製造することができる。
【0047】
本発明の血行促進剤は、末梢血行障害に起因する、例えばしもやけ、冷え性、手足の痺れ、むくみ、レイノー症、じゅくそう、肩や首のこり、エコノミー症候群、脱毛などの各種疾患や病態(症状)の予防および改善のために好適に用いることができる。また本発明の血行促進剤は、皮膚や末梢の血行を促進することで病態(例えば、筋肉痛など、血行不全が改善の妨げになっている病態)の改善を促進するために好適に用いることができる。さらに本発明の血行促進剤は、血行を促進して有効成分の経皮吸収や薬効を促すために好適に用いることができる。さらにまた本発明の血行促進剤は、目の充血や疲れ目を抑制したり、改善するために好適に用いることができる。
【0048】
また、老化に伴う色素沈着のある皮膚や乾燥した皮膚では、毛細血管の循環が不良であるため細胞に栄養が届かず、老廃物が円滑に除去されない状態にある。本発明の血行促進剤によれば、皮膚の血流を促進して改善することで、皮膚状態を改善し(くすみやしみの改善、保湿性の維持)、健康な状態を保つことができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実験例によって更に詳細に説明する。但し、これらの実験例は本発明を何ら限定するものではない。なお、下記の実験例において、特に言及しない限り、%は重量%を意味するものとする。
【0050】
下記の実験例において、被験試料として下記の方法で調製した試料を使用した。
<被験試料>
各モノテルペン(リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、テルピネン−4−オール)を、基材クリーム(組成:ジプロピレングリコール、セタノール、1,3-ブチレングリコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸、ポリエチレングルコール-75、ステアレス-20、セテス-20、ホホバ油、水添ポリイソブテン、ベヘン酸エトキシジグリコール、フェノキシエタノール、エチルパラベン、およびメチルパラベン)に混合して、下記に示す各種モノテルペンを含むクリーム(モノテルペン含有クリーム)を調製した。また、被験試料8においては、尿素を同量の水に溶解してから上記基材クリームに混合して、10%尿素配合クリームを調製した。
【0051】
被験試料1:リナロール含有クリーム
被験試料2:ゲラニオール含有クリーム
被験試料3:シトラール含有クリーム
被験試料4:シトラールジメチルアセタール含有クリーム
被験試料5:α-テルピネオール含有クリーム
被験試料6:テルピネン−4−オール含有クリーム
被験試料7:シトラールおよびゲラニオール含有クリーム
被験試料8:尿素含有クリーム。
【0052】
実験例1 皮膚動脈交感神経(遠心枝)の電気活動の測定
上記被験試料1〜8(基材クリーム2gに、リナロール50μl, ゲラニオール5μl, シトラール5μl, シトラールジメチルアセタール5μl, α-テルピネオール5μl, テルピネン-4-オール50μl、シトラール5μl+ゲラニオール5μl、尿素0.2gをそれぞれ配合したもの)を用いて、リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、およびテルピネン−4−オールの各モノテルペン化合物、ならび尿素について、皮膚動脈交感神経(遠心枝)の電気活動を測定し、また各化合物の血行促進作用を調べた。
【0053】
(I-1)実験方法
実験には、被験動物(非ヒト動物)として、予め1週間、24±1℃、12時間周期の明期(照明80lx、7:00-19:00)及び暗期(19:00-7:00)の環境下で飼育したラット(雄、Wistar rat、250〜300g)を用いた。なお、実験前、ラットには飼料(MF type; Oriental Yeast)と水を自由に摂取させた。
【0054】
匂い刺激による交感神経に対する影響が生じないように、実験開始の5日前から毎日ペントバルビタール(30mg/kg)麻酔下で、被験動物の鼻粘膜に、1%の硫酸亜鉛水溶液を塗布して10分間放置する処置を行うことによって、無臭症処理を行った(Kolunie JM. Stern JM: Horm. Behav 1995, 29:492-518)。
【0055】
上記ラットを6時間絶食させた後、ウレタン麻酔下(1g/kgのウレタン水溶液を腹腔内投与内)で、上記で調製したモノテルペン含有クリーム、尿素含有クリーム、またはコントロールとして基材クリームのみを、それぞれ2gずつ尻尾に塗布して、塗布直後から60分間、皮膚動脈交感神経の遠心枝の神経活動(電気活動)の変化を測定した。
【0056】
皮膚動脈交感神経(遠心枝)の電気活動の測定は、具体的には、ラットの皮膚動脈交感神経の遠心枝を、実体顕微鏡下で、銀電極に釣り上げて行った。乾燥を防ぐ為に電極は予め液体パラフィンとワセリンの混合物に十分浸しておいた。得られた神経の電気活動は、差動増幅器にて増幅し、オシロスコープにてモニターした。皮膚動脈交感神経の神経活動を検出するために、ノイズ信号をウィンドウ・ディスクリミネーターにより分離し、スパイク信号に変換した。得られたスパイク信号はレイトメーターにより5秒間のスパイク数としてカウントし、A/D(アナログ/デジタル)変換後、パソコンに記録した(図1参照)。電気活動の記録は60分間行った。
【0057】
(I-2)実験結果
被験試料1〜8の測定結果を図2〜9にそれぞれ示す。なお、図2〜9の(A)は実測データであり、(B)はこの実測データを、塗布前の実測データ(スパイク数)を100%として、グラフ化したものである。なお、各図(A)の上段は基材クリーム(コントロール)を塗布したラットの実測データ〔図(B)では、―○―で示す〕、下段はモノテルペン含有クリームまたは尿素含有クリームを塗布したラットの実測データ〔図(B)では、―●―で示す〕を示す。
【0058】
図2〜9からわかるように、基材クリームのみ(コントロール)を足の裏と尻尾に塗布したラットの皮膚動脈交感神経の活動(電気活動)は、基材クリーム塗布前と殆ど変わらなかったのに対して、モノテルペン含有クリーム(被験試料1〜7)または尿素含有クリーム(被験試料8)を足の裏と尻尾に塗布したラットの皮膚動脈交感神経の活動は有意に低下した。
【0059】
この結果から、リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、およびテルピネン−4−オールといったモノテルペンならびに尿素には、皮膚の動脈を支配する交感神経の活動を低下させる作用があることが確認された。
【0060】
実験例2 血流促進作用の評価
Wistar系雄ラット(体重約350g)の尻尾と両足の毛のない部分(足裏)に、被験試料1〜6(基材クリーム2gに、リナロール50 μl, ゲラニオール5μl, シトラール5μl, シトラールジメチルアセタール5μl, α-テルピネオール5μl, テルピネン-4-オール50μlをそれぞれ配合したもの)、被験試料8(基材クリーム2gに、尿素0.2gを配合したもの)、または基材クリーム2g(コントロール)をそれぞれ塗布した。尻尾の基部の定点に、レーザー血流計(ADVANCE LASER FLOWMETER ALF21, Advance社製)のレーザー先端を手術用テープ(サージカルテープ)にて固定し、血流を測定した。測定値はml/min/組織重量100gで得られたものを、最初の測定値を100%として百分率にて表した。実際の0分の測定値の絶対値は、3〜5ml/min/組織重量100gの間であった。
【0061】
被験試料1〜6の結果を図10に、被験試料8の結果を図11にそれぞれ示す。この結果から、リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、テルピネン-4-オール、または尿素を経皮投与することによって、皮膚の血流が促進されることが判明した。
【0062】
以上、実験例1と2の結果から、上記モノテルペンを含有するクリームおよび尿素を含有するクリームを皮膚に塗布することによって、皮膚動脈交感神経の活動(電気活動)が低下し、また同時に血行が促進されることが確認された。このことから、皮膚動脈交感神経の活動(電気活動)と血行促進作用との間には相関関係があり、皮膚動脈交感神経の活動(電気活動)を測定しその低下を指標とすることによって、被験物質の血行促進作用を評価することができると考えられる。
【0063】
製剤処方例
以下に、上記で血行促進効果が確認されたモノテルペン(リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、テルピネン−4−オール)を配合した血行促進剤の製剤例を記載する。なお、下記に記載するモノテルペンは、リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、およびテルピネン−4−オールのそれぞれを意味する。
【0064】
1.ローション剤
モノテルペン 1.0g
イソプロパノール 2.0g
スクワラン 3.0g
セタノール 3.0g
セスキオレイン酸ソルビタン 0.5g
プロピレングリコール 5.0g
エタノール 60.0g
精製水 適 量
全 量 100.0g。
【0065】
2.クリーム剤
モノテルペン 1.0g
セバシン酸ジイソプロピル 2.0g
セタノール 9.0g
白色ワセリン 8.0g
ヘキシルデカノール 1.0g
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 3.0g
プロピレングリコール 15.0g
メチルパラベン 0.1g
エチルパラベン 0.1g
精製水 適 量
全 量 100.0g。
【0066】
3.エアゾール剤
(1)原液
モノテルペン 1.0(重量%)
酢酸トコフェロール 0.1
ニコチン酸ベンジル 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
メントール 0.1
ポリオキシエチレン(E.O.60)硬化ヒマシ油 0.1
1,3-ブチレングリコール 1.0
エタノール 65.0
香料 0.1
精製水 残 部
全 量 100.0(重量%)。
【0067】
(2)噴射剤
LPG(20℃、1.5kg/cm2) 86.2
窒素 13.8
全 量 100.0(重量%)
(3)原液と噴射剤との割合(原液/噴射剤:重量比)=97.11/2.89。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明で使用する皮膚動脈交感神経の電気活動の測定方法を示す概略図である。ここでは、投与方法として尻尾への経皮投与を例とし、また電気活動の測定部位として、当該尻尾の皮膚動脈交感神経の遠心枝を例として記載する。
【図2】(A)は基材クリーム(上欄)またはリナロール含有クリーム(リナロール50μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。なお、(B)の縦軸は皮膚動脈交感神経の電気活動を意味し、各クリームを塗布するまえの電気活動を100%としてグラフ化した(以下、図3〜8において同じ)。
【図3】(A)は基材クリーム(上欄)またはゲラニオール含有クリーム(ゲラニオール5μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図4】(A)は基材クリーム(上欄)またはシトラール含有クリーム(シトラール5μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図5】(A)は基材クリーム(上欄)またはシトラールジメチルアセタール含有クリーム(シトラールジメチルアセタール5μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図6】(A)は基材クリーム(上欄)またはα−テルピネオール含有クリーム(α−テルピネオール5μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図7】(A)は基材クリーム(上欄)またはテルピネン−4−オール含有クリーム(テルピネン−4−オール50μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図8】(A)は基材クリーム(上欄)またはシトラールおよびゲラニオール含有クリーム(シトラール5μlおよびゲラニオール5μl含有)(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図9】(A)は基材クリーム(上欄)または10%尿素含有クリーム(下欄)2gを皮膚に塗布した場合の皮膚動脈交感神経の遠心枝の活動(電気活動)の経時的変化(実測データ)を示す図である。(B)はそれをグラフ化したものである。
【図10】被験試料1〜6[リナロール(50μl)、ゲラニオール(5μl)、シトラール(5μl)、シトラールジメチルアセタール(5μl)、α-テルピネオール(5μl)、およびテルピネン-4-オール(50μl)]をそれぞれ含有する基材クリームと、基材クリーム(コントロール)を2g皮膚に塗布したときの、皮膚血流の変化を示す。縦軸は、血流(ml/min/組織重量100g)を、最初の測定値を100%として百分率に換算した値を示す。
【図11】被験試料8(10%濃度で尿素を含有する基材クリーム)と、基材クリーム(コントロール)を2gずつ皮膚に塗布したときの、皮膚血流の変化を示す(n=9)。縦軸は、血流(ml/min/組織重量100g)を、最初の測定値を100%として百分率に換算した値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を有することを特徴とする、被験物質の血行促進作用を評価する方法:
(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与し、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程。
【請求項2】
さらに下記の工程を有する、請求項1に記載する血行促進作用の評価方法:
(2)被験物質を投与した非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動が、被験物質を投与しない非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動よりも低下する場合に、当該被験物質について血行促進作用があると判断する工程。
【請求項3】
皮膚動脈交感神経活動の測定を、皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を測定することによって行う、請求項1または2に記載する血行促進作用の評価方法。
【請求項4】
下記の工程を有することを特徴とする、被験物質の中から血行促進作用を有する物質をスクリーニングする方法:
(1)被験物質を非ヒト動物に経皮投与し、当該非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動を測定する工程、および
(2)上記で得られた皮膚動脈交感神経の活動を、被験物質を投与しない非ヒト動物の皮膚動脈交感神経の活動(コントロール)と対比し、上記活動がコントロールよりも低くなる被験物質を、血行促進作用を有する候補物質として選別する工程。
【請求項5】
皮膚動脈交感神経活動の測定を、皮膚動脈交感神経の遠心枝の電気活動を測定することによって行う、請求項4に記載するスクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載する方法によって血行促進作用があると評価される化合物であって、リナロール、ゲラニオール、シトラール、シトラールジメチルアセタール、α-テルピネオール、テルピネン−4−オール、並びにこれらのエステルおよび塩からなる群から選択される少なくとも一つのモノテルペン化合物または尿素を有効成分とする、血行促進剤。
【請求項7】
上記モノテルペン化合物または尿素を、皮膚の血流を促進する有効量含有する、請求項6に記載する血行促進剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−139371(P2009−139371A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290266(P2008−290266)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(507157908)株式会社ANBAS (7)
【Fターム(参考)】