説明

衛生害虫駆除剤

【課題】殺虫成分と共に配合することにより実用的に望まれるような速やかなノックダウン効果が現れる効力増強剤を開発し、以って実用的に衛生害虫に対する優れた駆除効果を発揮する衛生害虫駆除剤を提供する。
【解決手段】衛生害虫駆除剤は、(A)ビレスロイド系殺虫剤と共に、(B)炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、好ましくは炭素数6〜10の飽和脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルを効力増強剤として含有する。好適な態様においては、上記衛生害虫駆除剤は、さらに噴射剤を含有するエアゾール剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生害虫駆除剤に関し、さらに詳しくは、殺虫成分と共に、効力増強剤として作用する特定の脂肪酸エステル化物を配合することによって衛生害虫に対する駆除効果を増強した衛生害虫駆除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛生害虫を駆除するための組成物には、各種効力増強剤を配合することが提案されており、例えば、特定のピレスロイド系殺虫成分と共に炭素数12〜18の飽和又は不飽和高級脂肪酸のイソプロピルエステルを配合した殺虫組成物(特許文献1参照)や、殺虫成分イミプロトリンと共に炭素数16〜19のモノカルボン酸エステル又は/及び炭素数16〜19のジカルボン酸エステルを配合した殺虫組成物(特許文献2参照)、殺虫成分、鉱物性油成分、及び液化性ガス噴射剤と共に、炭素数10〜30の飽和もしくは不飽和脂肪族アルコール、グリセリンの炭素数16〜18の脂肪族モノエステル又はプロピレングリコールモノステアレートのいずれか1種以上を配合した殺虫組成物(特許文献3参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、このような殺虫組成物においては、実用的には速やかにノックダウン効果が現れることが望まれているが、前記したような炭素数12以上の高級脂肪酸エステルを殺虫成分と共に配合しても、速やかにノックダウン効果が現れ難く、実用性の面で不充分であった。
【0004】
一方、木材害虫防除剤ではあるが、高級アルコール及び高級脂肪酸エステルが、家屋害虫であるシロアリを対象とする防除剤として有効であることも提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、この木材害虫防除剤は、家屋害虫であるシロアリのみを対象とし、施用個所である木材に塗布、含浸等を行う木材害虫防除剤であって、高級アルコール及び/又は高級脂肪酸エステル自体のみを防除有効成分とするものであり、他の殺虫成分の効力増強を目的としているものではない。
【特許文献1】特開昭48−99337号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平4−9306号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭49−93542号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平8−133909号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、前記したような問題を解消し、殺虫成分と共に配合することにより実用的に望まれるような速やかなノックダウン効果が現れる効力増強剤を開発し、以って実用的に衛生害虫に対する優れた駆除効果を発揮する衛生害虫駆除剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明によれば、
(A)ピレスロイド系殺虫剤、
(B)炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、
上記成分(A)と成分(B)を含有することを特徴とする衛生害虫駆除剤が提供される。
【0007】
好適な態様においては、全溶剤に対する成分(B)の含有量は5〜100質量%である。また、別の好適な態様においては、前記脂肪酸エステル化物は、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルである。さらに好適な態様においては、前記衛生害虫駆除剤は、さらに噴射剤を含有するエアゾール剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の衛生害虫駆除剤は、ピレスロイド系殺虫剤と共に、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、好ましくは炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルを効力増強剤として含有するため、各種衛生害虫に対して速やかなノックダウン効果が現れ、優れた駆除効果を発揮する。特に、ピレスロイド系殺虫剤と共に、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルを効力増強剤として含有する場合、各種衛生害虫に対して速やかなノックダウン効果が現れると共に、致死効果も極めて高く、優れた駆除効果を発揮する。また、噴射剤を含有するエアゾール剤として製剤した場合、特にハエ類、蚊類、ノミ類の衛生害虫に対して速やかなノックダウン効果が現れると共に、致死効果も極めて高く、優れた駆除効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、殺虫成分と共に配合することにより実用的に望まれるような速やかなノックダウン効果が現れる効力増強剤を開発すべく鋭意研究の結果、驚くべきことに、従来知られている炭素数12以上の飽和脂肪酸のアルキルエステルをピレスロイド系殺虫剤と共に配合しても明瞭な効力増強効果は現れないが、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、好ましくは炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルをピレスロイド系殺虫剤と共に配合した場合、明瞭な効力増強効果が現われ、各種衛生害虫に対して実用的に望まれるような速やかなノックダウン効果が現れ、また致死効果も高いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の衛生害虫駆除剤は、ピレスロイド系殺虫剤と溶剤を含有する衛生害虫駆除剤において、上記溶剤の少なくとも一部に代えて、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、好ましくは炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルを効力増強剤として含有することを特徴としている。炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステルは液状のため、それ自体を溶剤として用いることができる(溶剤全部を上記脂肪酸エステル化物とすることができる)と共に、溶剤の一部に代えて上記脂肪酸エステル化物を用いることもでき、いずれの場合も上記脂肪酸エステル化物は殺虫成分の効力増強剤として作用するので、各種衛生害虫に対して速やかなノックダウン効果が現れると共に、致死効果も高く、優れた駆除効果を発揮する。溶剤全体に対する上記炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステルの割合は、後述する試験例4から明らかなように、5〜100質量%、好ましくは10〜100質量%の割合が適当であり、経済性も考慮すると10〜75質量%の割合が好ましい。溶剤全体に対する上記脂肪酸エステル化物の割合が5質量%未満の場合、上記脂肪酸エステル化物添加による効力増強効果が現れ難いので好ましくない。
【0011】
本発明で対象とする衛生害虫は、病原微生物の媒介をする害虫、刺咬吸血により害を及ぼす害虫、刺されると有毒物質による皮膚炎やアレルギー反応を起こす害虫、アレルギー性疾患のアレルゲンとしての害虫、及び心理的不快感、嫌悪感を与える害虫を意味する。例えば、イエバエ、ヒメイエバエ、センチニクバエ等のハエ類;アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等のカ類;チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ等のゴキブリ類;ヒトノミ、ネコノミ等のノミ類;トコジラミ、タイワントコジラミ等のトコジラミ類;アタマジラミ、コロモジラミ等のシラミ類;イエダニ、ツメダニ、コナヒョウヒダニ等のダニ類;オオハリアリ、イエヒメアリ、アルゼンチンアリ等のアリ類;キイロスズメバチ、コガタスズメバチ等のスズメバチ類;フタモンアシナガバチ、セグロアシナガバチ等のアシナガバチ類;ドクガ、チャドクガ等のドクガ類;アオイラガ、ヒロヘリアオイラガ等のイラガ類;オオユスリカ、セスジユスリカ等のユスリカ類;トビズムカデ、アオズムカデ等のムカデ類などの衛生害虫が挙げられる。これらの中でも、イエバエ、ヒメイエバエ、センチニクバエ等のハエ類や、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等のカ類、ヒトノミ、ネコノミ等のノミ類に対して特に駆除効果が高く、例えばエアゾール剤として製剤することにより有利に用いることができる。
【0012】
本発明において用いられるピレスロイド系殺虫剤としては、例えば、メトフルトリン(住友化学工業(株)の商品名:エミネンス、以下同様)、dl,d−T80−アレスリン(ピナミンフォルテ)、フタルスリン(ネオピナミン)、d−T80−フタルスリン(ネオピナミンフォルテ)、d,d−T80−プラレトリン(エトック)、d,d−T98−プラレトリン(98エトック)、d−T80−レスメトリン(クリスロンフォルテ)、トランスフルトリン(バイオスリン)、イミプロトリン(プラール)、エトフェンプロックス(トレボン)、シフェノトリン(ゴキラート)、d,d−T−シフェノトリン(ゴキラートS)、エンペントリン(ベーパースリン)、ペルメトリン(エクスミン)、フェノトリン(スミスリン)、ピレトリン(菊エキスペール)等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
さらにピレスロイド系殺虫剤の中でも、安全性が高く、且つ害虫駆除効力が高いという点から、メトフルトリン、フタルスリン、d−T80−フタルスリン、d,d−T80−プラレトリン、d,d−T98−プラレトリン、トランスフルトリン、イミプロトリン、ピレトリン等のノックダウン効果の高いピレスロイド系殺虫剤が好適に使用される。特に、ノックダウン効果の高いピレスロイド系殺虫剤とd−T80−レスメトリン、シフェノトリン、d,d−T−シフェノトリン、フェノトリン、エトフェンプロックス等の致死効果の高いピレスロイド系殺虫剤を組み合わせて用いることが好ましい。
【0014】
本発明の衛生害虫駆除剤中のピレスロイド系殺虫剤の含有量は、適用対象害虫、施用方法等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、通常、駆除剤全容量の0.0001〜5質量/容量%の範囲が適当であり、好ましくは0.001〜2質量/容量%、さらに好ましくは0.01〜1質量/容量%の範囲が望ましい。ピレスロイド系殺虫剤の含有量が0.0001質量/容量%未満では、充分な害虫駆除効果が得られ難く、一方、殺虫成分の含有量の上限は害虫駆除効果と経済性、安全性等の面のバランスを配慮して適宜設定すればよい。
【0015】
本発明の衛生害虫駆除剤は、前記したようなピレスロイド系殺虫剤と共に、溶剤の少なくとも一部に代えて、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、好ましくは炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜4のアルコールとのエステルを効力増強剤として含有する。炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステルとしては、室温で液状のものであれば全て使用でき、例えばカプロン酸エチル、カプロン酸プロピル、カプロン酸イソプロピル、カプロン酸ブチル、カプロン酸イソブチル、カプロン酸ヘキシル、カプロン酸オクチル、カプロン酸2−エチルヘキシル、ヘプタン酸エチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸イソプロピル、ヘプタン酸ブチル、ヘプタン酸イソブチル、ヘプタン酸ヘキシル、ヘプタン酸オクチル、ヘプタン酸2−エチルヘキシル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸イソプロピル、カプリル酸ブチル、カプリル酸イソブチル、カプリル酸ヘキシル、カプリル酸オクチル、カプリル酸2−エチルヘキシル、ペラルゴン酸エチル、ペラルゴン酸プロピル、ペラルゴン酸イソプロピル、ペラルゴン酸ブチル、ペラルゴン酸イソブチル、ペラルゴン酸ヘキシル、ペラルゴン酸オクチル、ペラルゴン酸2−エチルヘキシル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸ブチル、カプリン酸イソブチル、カプリン酸ヘキシル、カプリン酸オクチル、カプリン酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、カプロン酸エチル、カプロン酸イソプロピル、カプロン酸イソブチル、カプリル酸エチル、カプリル酸イソプロピル、カプリル酸イソブチル、カプリン酸エチル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸イソブチルがイエバエに対するノックダウン効果に優れている。更に好ましくは、上記脂肪酸エステル化物のカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸といった脂肪酸部位がパーム核油やヤシ油などの植物油から誘導されたものである方が石油系溶剤削減、環境負荷が少ない点でよい。なお、上記脂肪酸エステル化物のアルコール基がメチル基のものについては、効力的には効力増強効果があるが、後述する試験例に示されるように、臭気が強いため適当でない。また、炭素数6未満の脂肪酸とのエステル化物も、エステル臭の臭気が強く、一方、炭素数10を越える脂肪酸とのエステル化物の場合、後述する試験例5から明らかなように、衛生害虫に対しては効力増強効果が殆ど発現しない。
【0016】
上記脂肪酸エステル化物と共に用いられる溶剤としては、害虫駆除剤の溶剤として従来公知の種々の溶剤を用いることができ、例えばメチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類;フタル酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル等のエステル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコール、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の衛生害虫駆除剤は、前記したようなピレスロイド系殺虫剤と組み合わせて、従来から各種衛生害虫を駆除する目的で使用されている各種の薬剤、例えばフェニトロチオン(スミチオン)、マラチオン(マラソン)等の有機リン系殺虫剤;プロポクスル(バイゴン)、カルバリル(NAC)等のカーバメート系殺虫剤;ケルセン、キノメチオネート、ヘキサチアゾクス等の殺ダニ剤などを、駆除対象衛生害虫に合わせて適宜選定使用することができる。
また、本発明の衛生害虫駆除剤は、前記した各成分の他に、必要に応じて、N,N−ジエチル−m−トルアミド(DET)等の害虫忌避成分;カッシア油、クローブ油、ヒバ油、シダーウッド油、シナモンリーフ油、ピメント油、タイム油、シトロネラ油、レモングラス油等の植物精油;ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンノニルエチルフェノール、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ポリエチレングリコールオレイン酸エステル等の各種界面活性剤;ピペロニルブトキサイド等の共力剤;ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;ベノミル、テトラクロロイソフタロニトリル等の殺菌剤;リモネン等の天然及び人工の各種香料;パラオキシ安息香酸プロピル等の防腐剤などを含有することができる。
衛生害虫駆除剤中のこれらの成分の含有量は、特に限定されるものではなく、本発明の所期の効果の発現を阻害しない範囲で、これらの成分の所望の効果が発揮されるような量的割合であればよい。
【0018】
前記本発明に係る衛生害虫駆除剤の剤型としては、エアゾール剤や、手押しポンプ、トリガー、スクイズ等を用いて組成物を噴霧する散布油剤など、いずれの剤型でもよいが、簡便に噴霧できる点から、エアゾール剤に処方することが好ましい。
【0019】
エアゾール剤に製剤する場合、ノルマルブタン、イソブタン、プロパン等の液化石油ガス、フロン類、ジメチルエーテル、イソペンタン、炭酸ガス、圧縮空気、二酸化炭素、窒素、笑気ガスなどの噴射剤を起泡剤及び噴射ガスとして利用することができる。エアゾール剤は、噴射剤を利用する点が、手押しポンプ、トリガー、スクイズ等の噴霧装置を利用する方法と異なるが、その他の組成は基本的には同じである。噴射剤の配合量は、適用対象害虫等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、通常、エアゾール剤全量の10〜95質量%が適当であり、好ましくは85質量%以下である。
【0020】
一方、噴霧装置等を利用する場合、衛生害虫駆除剤を容器に収容し、該容器に手押しポンプ、トリガー式噴霧器、電動ポンプ、スクイズ等の加圧噴霧装置を装着し、これらの加圧噴霧装置を利用して施用することができる。噴霧装置を利用する場合においては、エアゾール剤と異なり、噴射メカニズムを調整することにより空気と衛生害虫駆除剤をうまく混合することができ、容易に噴霧することができる。加圧噴霧機構としては、手押しポンプ、電動ポンプ、圧縮ガスを利用した噴霧機構、フォームを形成しうる機構を有する容器など、種々の機構を利用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び試験例を示して本発明の効果について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。
【0022】
脂肪酸エステル化物の準備:
酪酸メチル:東京化成工業製試薬
酪酸エチル:東京化成工業製試薬
酪酸イソプロピル:東京化成工業製試薬
酪酸イソブチル:東京化成工業製試薬
酪酸ノルマルブチル:東京化成工業製試薬
酪酸2−エチルヘキシル:東京化成工業製試薬
カプロン酸メチル:ライオン製パステルM−06
カプロン酸エチル:東京化成工業製試薬
カプロン酸イソプロピル:東京化成工業製試薬
カプロン酸イソブチル:東京化成工業製試薬
カプロン酸ノルマルブチル:東京化成工業製試薬
カプリル酸メチル:ライオン製パステルM−08
カプリル酸エチル:東京化成工業製試薬
カプリル酸イソプロピル:東京化成工業製試薬
カプリル酸イソブチル:東京化成工業製試薬
カプリル酸ノルマルブチル:東京化成工業製試薬
カプリル酸2−エチルヘキシル:ライオン製パステル2H−08
カプリン酸メチル:ライオン製パステルM−10
カプリン酸エチル:東京化成工業製試薬
カプリン酸イソプロピル:東京化成工業製試薬
カプリン酸イソブチル:東京化成工業製試薬
カプリン酸ノルマルブチル:東京化成工業製試薬
ラウリン酸メチル:ライオン製パステルM−12
ラウリン酸エチル:東京化成工業製試薬
ラウリン酸イソプロピル:東京化成工業製試薬
ラウリン酸イソブチル:東京化成工業製試薬
ラウリン酸ノルマルブチル:東京化成工業製試薬
ラウリン酸2−エチルヘキシル:ライオン製パステル2H−12
【0023】
エアゾール剤の調製:
衛生害虫駆除剤として、下記処方のエアゾール剤を調製した。
殺虫成分:ネオピナミンフォルテ0.45g+クリスロンフォルテ0.06g
溶剤:ネオチオゾールF(中央化成(株)製の溶剤;ケロシン(ノルマルパラフィン))22.5ml+各供試剤(脂肪酸エステル化物)22.5ml
噴射剤:プロパンガス又はLPG 255ml
液/ガス比:45/255
また、対照の衛生害虫駆除剤として、溶剤に脂肪酸エステル化物を用いずにネオチオゾールFのみ(45ml)を用いた以外は、上記と同じ処方でエアゾール剤を調製した。
【0024】
以下の各試験例における害虫駆除効力は、直接噴霧法により評価した。図1に評価の際に用いた装置の概略を示す。
両面を14メッシュの網2で蓋をしたガラスリング1(直径9cm×高さ6cm)内に供試虫A(8匹)を入れ、台3の上に固定した。この台3を、架台4上に固定されているガラスシリンダー5(直径20cm)内の所定の位置に、網2の面(開口面)がガラスシリンダー5の開口側に向くように平行に設置した。ガラスシリンダー5には、設置されたガラスリング1内の全ての供試虫に噴霧されたエアゾール内容物があたるように、図1の「噴霧」と記載された位置から「排気」と記載されている向きに一定量の定常流の空気が流されている。なお、ガラスリング1を固定した台3は、対象害虫に応じて、ガラスシリンダー5の噴霧側端部から150cm又は30cmの距離L(噴霧距離)からエアゾールを噴霧するように、ガラスシリンダー5内に設置した。また、エアゾールの噴射量は、殺虫成分量が所定量になるように調整した。エアゾールの噴射量の調整は、エアゾール自動微量噴霧装置(YASUDA SEIKI SEISAKUSHO LTD製)を用い、該装置の噴霧時間を調整して行った。
【0025】
試験例1
前記供試虫Aとしてイエバエを用い、前記各エアゾール剤を、噴霧距離L=150cm、合計噴霧量0.5g(約0.2秒噴霧)の条件で噴霧し、経時的にノックダウン虫数をカウントし、BlissのProbit法によりKT50(秒)を求めた。イエバエに対するノックダウン効果を表1に示す。また、その際のイエバエに対する致死効果を表2に示す。
【0026】
試験例2
各種脂肪酸エステル化物について、10人のモニターによる臭いについての官能試験を行った。その結果を表3に示す。
なお、下記表1〜3において、R1COOは脂肪酸部位、R2はアルコール基を示している。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

前記表1及び表2に示す結果から明らかなように、本発明に従って処方されたエアゾール剤は、イエバエに対して、対照のエアゾール剤に比べて速やかにノックダウン効果が現れ、また致死効果も著しく高く、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステルを殺虫成分と共に配合した場合、顕著な効力増強効果が現われることが確認された。これに対して、炭素数12の脂肪酸であるラウリン酸のエステル化物(メチル、イソプロピル、イソブチル)を殺虫成分と共に配合した場合、表1に示されるように、対照のエアゾール剤に比べてノックダウン効果が現れるのが極めて遅かった。なお、上記脂肪酸エステル化物のアルコール基がメチル基のものについては、表1及び表2に示されるように効力的には効力増強効果があるが、表3に示されるように臭気が強いため、実用に供することは困難である。また、炭素数6未満の脂肪酸(酪酸)のエステル化物についても、表3に示されるように臭気が強いため、実用に供することは困難である。また、表3に示されるように炭素数12の脂肪酸(ラウリン酸)のエステル化物は臭気は弱いが、上記の通りイエバエに対するノックダウン効果に劣る。
【0030】
試験例3
前記供試虫Aとしてアカイエカ雌成虫を用い、前記各エアゾール剤(噴射剤としてはLPGを使用)を、噴霧距離L=150cm、合計噴霧量0.2g(約0.1秒噴霧)の条件で噴霧し、経時的にノックダウン虫数をカウントし、BlissのProbit法によりKT50(秒)を求めた。また、その際のアカイエカに対する致死効果を測定した。得られたノックダウン効果及び致死効果を表4にまとめて示す。
【0031】
【表4】

前記表4に示す結果から明らかなように、本発明に従って処方されたエアゾール剤(カプリン酸イソプロピル含有)は、アカイエカに対しても、対照のエアゾール剤に比べて速やかにノックダウン効果が現れ、また致死効果も高かったが、炭素数12の脂肪酸であるラウリン酸のエステル化物(ラウリン酸イソプロピル)を殺虫成分と共に配合した場合、対照のエアゾール剤に比べてノックダウン効果が現れるのが極めて遅かった。
【0032】
試験例4
脂肪酸エステル化物の溶剤中の比率とノックダウン効果(KT50)との関係を調べるために、前記供試虫Aとしてイエバエを用い、前記各エアゾール剤(噴射剤としてはLPGを使用)を、噴霧距離L=150cm、合計噴霧量0.5g(約0.2秒噴霧)の条件で噴霧し、経時的にノックダウン虫数をカウントし、BlissのProbit法によりKT50(秒)を求めた。
炭素数10の脂肪酸であるカプリン酸のエステル化物(カプリン酸エチル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸イソブチル)、炭素数12の脂肪酸であるラウリン酸のエステル化物(ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸イソプロピル)の溶剤中の比率とノックダウン効果(KT50)との関係を表5に示す。
尚、エアゾール剤の調製、脂肪酸エステル化物の全溶剤中に対する含有率及びその測定法の詳細は以下のとおりである。
エアゾール剤の調製:
衛生害虫駆除剤として、下記処方のエアゾール剤を調製した。
脂肪酸エステル化物の全溶剤中に対する含有率は仕込量にて設定した。
殺虫成分:ネオピナミンフォルテ0.45g+クリスロンフォルテ0.06g
溶剤:ネオチオゾールF(中央化成(株)製の溶剤;ケロシン(ノルマルパラフィン))+各供試剤(脂肪酸エステル化物)
全溶剤中の脂肪酸エステル化物の比率が5%の場合:
ネオチオゾールF+各供試剤(脂肪酸エステル化物)=42.75ml+2.25ml
全溶剤中の脂肪酸エステル化物の比率が10%の場合:
ネオチオゾールF+各供試剤(脂肪酸エステル化物)=40.5ml+4.5ml
全溶剤中の脂肪酸エステル化物の比率が25%の場合:
ネオチオゾールF+各供試剤(脂肪酸エステル化物)=33.75ml+11.25ml
全溶剤中の脂肪酸エステル化物の比率が50%の場合:
ネオチオゾールF+各供試剤(脂肪酸エステル化物)=22.5ml+22.5ml
全溶剤中の脂肪酸エステル化物の比率が75%の場合:
ネオチオゾールF+各供試剤(脂肪酸エステル化物)=11.25ml+33.75ml
全溶剤中の脂肪酸エステル化物の比率が100%の場合:
ネオチオゾールF+各供試剤(脂肪酸エステル化物)=0ml+45ml
噴射剤:プロパンガス又はLPG 255ml
液/ガス比:45/255
また、対照の衛生害虫駆除剤として、溶剤に脂肪酸エステル化物を用いずにネオチオゾールFのみ(45ml)を用いた以外は、上記と同じ処方でエアゾール剤を調製した。
脂肪酸エステル化物の全溶剤中に対する含有率の測定法:
ネオチオゾールF(中央化成(株)製の溶剤;ケロシン(ノルマルパラフィン))+各供試剤(脂肪酸エステル化物)にて調製した溶剤から0.02g採取しヘキサン1gで希釈し以下の条件でガスクロ分析を行った。定量はあらかじめ既知の濃度で作成した検量線にて行った。
カラム:J&W Capillary Column DB−5HT(内径0.25mm×長さ30m、膜厚0.25μm)
温度:50→350℃(昇温速度10℃/min)
キャリアガス:He、30cm/sec
注入口:350℃、Split ratio 50:1、1μL
検出口:FID、350℃
【0033】
【表5】

表5に示される結果から明らかなように、炭素数10の脂肪酸であるカプリン酸のエステル化物(カプリン酸エチル、カプリン酸イソプロピル、カプリン酸イソブチル)は、溶剤全体に対する脂肪酸エステル化物の割合が約5質量%以上で明瞭な効力増強効果が現われ、約75質量%以上でその効果は飽和状態に近づく。このことから、溶剤全体に対する脂肪酸エステル化物の割合は、5〜100質量%、好ましくは10〜100質量%の割合が適当であり、経済性も考慮すると10〜75質量%の割合が好ましい。一方、炭素数12の脂肪酸であるラウリン酸のエステル化物(ラウリン酸イソブチル、ラウリン酸イソプロピル)は、溶剤全体に対する比率を変化させても明瞭な効力増強効果が表れず、特にラウリン酸イソプロピルの場合には溶剤全体に対する比率を増すほどノックダウン効果(KT50)は悪くなった。
【0034】
試験例5
前記供試虫Aとして、家屋害虫であるイエシロアリ職蟻を用い、前記各エアゾール剤(噴射剤としてはLPGを使用)を、噴霧距離L=30cm、合計噴霧量0.9g(約0.5秒噴霧)の条件で噴霧し、経時的にノックダウン虫数をカウントし、BlissのProbit法によりKT50(秒)を求めた。得られたノックダウン効果を表6に示す。
【0035】
【表6】

前記表6に示す結果から明らかなように、本発明に従って処方されたエアゾール剤(カプリン酸イソプロピル含有)及び炭素数12の脂肪酸であるラウリン酸のエステル化物(ラウリン酸イソプロピル)を殺虫成分と共に配合したエアゾール剤は、共に、対照のエアゾール剤に比べてノックダウン効果が現れるのが極めて遅く、家屋害虫であるイエシロアリに対しては、効力増強効果を発揮できなかった。このことは、従来提案されている技術からみて驚くべきことであり、炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステルを殺虫成分と共に配合することによる効力増強効果は、衛生害虫に対する特異的な効果であると言える。
【0036】
試験例6
前記供試虫Aとして、ネコノミ成虫を用い、前記各エアゾール剤(噴射剤としてはLPGを使用)を、噴霧距離L=30cm、合計噴霧量0.9g(約0.5秒噴霧)の条件で噴霧し、経時的にノックダウン虫数をカウントし、BlissのProbit法によりKT50(秒)を求めた。得られたノックダウン効果を表7に示す。また、その際のネコノミ成虫に対する致死効果も表7に併せて示す。
【0037】
【表7】

前記表7に示す結果から明らかなように、本発明に従って処方されたエアゾール剤(カプリン酸イソプロピル含有)は、ネコノミに対しても、対照のエアゾール剤に比べて速やかにノックダウン効果が現れ、また致死効果も高かったが、炭素数12の脂肪酸であるラウリン酸のエステル化物(ラウリン酸イソプロピル)を殺虫成分と共に配合した場合、対照のエアゾール剤に比べてノックダウン効果が現れるのが極めて遅く、また致死効果も劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】各試験例における害虫駆除効力を直接噴霧法により評価するために用いた装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1:ガラスリング
2:網
3:台
4:架台
5:ガラスシリンダー
A:供試虫
L:噴霧距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ピレスロイド系殺虫剤、
(B)炭素数6〜10の脂肪酸と炭素数2〜8のアルコールとのエステル、
上記成分(A)と成分(B)を含有することを特徴とする衛生害虫駆除剤。
【請求項2】
全溶剤に対する成分(B)の含有量が5〜100質量%である請求項1記載の衛生害虫駆除剤。
【請求項3】
さらに噴射剤を含有するエアゾール剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の衛生害虫駆除剤。


【図1】
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【公開番号】特開2008−63242(P2008−63242A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240103(P2006−240103)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】