説明

衛生薄葉紙の損紙処理方法

【課題】グリセリン等の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を抄紙原料として利用可能にする、効果的な処理方法を提供する。
【解決手段】水溶性の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を処理する方法であって、前記損紙と水とを混合攪拌して損紙由来の保湿成分を水中に溶出させ、その後に脱水処理して損紙由来の繊維を含む固形成分を回収し、この回収された固形成分を連続的又は段階的に、オンラインで抄紙系へ返送する。保湿成分を溶出させたのち脱水するので、得られる固形成分は、微生物の栄養源となる保湿成分が十分に低減されている。したがって、この後、例えば、バージンパルプを主体とする抄紙原料に混合するなどして、通常の抄紙系に返送して抄紙することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生薄葉紙、特にグリセリンを含む衛生薄葉紙を製造する際に発生する損紙を処理して抄紙原料とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンに代表される水溶性の保湿成分を薄葉紙に塗布した、保湿系ティシュー、ローションティシューとも呼ばれる衛生薄葉紙はよく知られる。この主の衛生薄葉紙は、ドライタイプでありながら、保湿性分を含まない一般的なティシューと比較して、柔らかさ、滑らかさ感において優れ、特に、花粉症などで鼻をかむ頻度が高い者に好まれて使用されている。近年、花粉症人口の増加などの理由や生活態様の変化によって、このような保湿系ティシューの需要が高まりつつあり、その生産量が増加している。
【0003】
他方、衛生薄葉紙を製造する際には損紙の発生が避けられないため、この損紙を再度溶解して抄紙原料とすることが行なわれている。
しかし、保湿系ティシューの場合には、損紙を溶解したものがグリセリンを含むために、グリセリンを栄養原とする微生物が繁殖して抄紙工程内の原料・水の配管内壁にカビ、スライム等が発生し、再生するのが困難であった。
【0004】
通常の損紙の再利用工程においては、カビ、スライム等の発生を防止するためスライムコントロール剤を用いることが行なわれるが、グリセリンを含む損紙溶解物では微生物の繁殖速度が極めて速く、既存のスライムコントロール剤ではコントロールすることができない。
【0005】
また、微生物の繁殖を抑制すべく抄紙系内の殺菌・洗浄を行うことも考えられることから、発明者らにおいて試行したところ殺菌・洗浄から僅か数日でカビ、スライム等に起因すると思われる欠陥が再生紙に発見された、この方法も有効な手段ではなかった。
グリセリンを含む損紙は、上述の再生の困難性から、廃棄処分されることも多い。しかし、損紙を廃棄処分することは、資源の有効利用の観点からみて好ましいものではない。
【特許文献1】特開2004−124329号公報
【特許文献2】特開2007−262585等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の主たる課題は、グリセリン等の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を抄紙原料として利用可能にする効果的な処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明およびその作用効果は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
水溶性の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を処理する方法であって、
前記損紙と水とを混合攪拌して損紙由来の保湿成分を水中に溶出させ、その後に脱水処理して損紙由来の繊維を含む固形成分を回収し、この回収された固形成分を連続的又は段階的に、オンラインで抄紙系へ返送することを特徴とする衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【0008】
(作用効果)
本発明は、損紙と水とを混合攪拌して損紙由来の保湿成分を水中に溶出させる。攪拌することによって、損紙がほぐれて細かく分散され溶出が効果的に促進される。
そして、本発明は、保湿成分を溶出させたのち脱水するので、得られる固形成分は、微生物の栄養源となる保湿成分が十分に低減されている。
したがって、この後、例えば、バージンパルプを主体とする抄紙原料に混合するなどして、通常の抄紙系に返送して抄紙することができる。
【0009】
本発明では、特徴的に当該固形成分をオンラインで抄紙系に返送する。このオンラインでの返送により極めて効果的に損紙が再利用される。
すなわち、本発明では、保湿成分を溶出させて脱水することにより、カビ、スライム発生等の抄紙系の汚染リスクを極めて低減させるとともに、オンラインで直接的に抄紙系に返送することで、損紙処理の処理コストを極めて低減させるといった効果がある。
特に、損紙発生箇所である抄紙系と、固形成分を得る損紙処理系とが一連となることから、設備設置面積、損紙輸送コストは極めて低減される。
なお、固形成分の返送位置は任意であるが、例えば、抄紙原料の貯留タンク等、又は前記貯留タンクから抄紙機へ至る経路の途中へ、断続的又は連続的に返送する。
【0010】
また、本発明における抄紙系とは、バージンパルプ、古紙おパルプ又はこれらの混合パルプからスラリー状の抄紙原料を調整して抄紙機により衛生薄葉紙を製造する一連の製造設備からなる連続的な衛生薄葉紙の製造系を意味する。
【0011】
<請求項2記載の発明>
損紙と水とを混合するにあたり、損紙由来の固形成分の濃度が1.5〜4重量%となるように調整する請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【0012】
(作用効果)
上記濃度に調整すると、攪拌操作によって損紙が、脱水処理しやすくかつ直接的に抄紙原料として適する程度の大きさに細分化されやすくなる。
【0013】
<請求項3記載の発明>
前記固形成分中の保湿系成分の濃度が6.0重量%以下となるまで攪拌する請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【0014】
(作用効果)
固形成分の保湿成分の濃度(付着量)を6.0重量%以下となるまで攪拌することで、後段の抄紙系におけるカビ、スライム等の発生を確実に抑制することができる。
したがって、本発明に従えば、より本発明の効果が確実に得られるようになる。
【0015】
<請求項4記載の発明>
損紙由来の繊維塊が確認されなくなるまで攪拌する請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【0016】
(作用効果)
抄紙原料として、そのまま利用しやすくなる。
【0017】
<請求項5記載の発明>
前記保湿成分は、グリセリンを含む請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【0018】
(作用効果)
グリセリンは、保湿成分として広く利用されているとともに、吸湿性に優れ、また水に非常に溶けやすいことから、本発明の効果を十分かつ確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の本発明によれば、保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を抄紙原料として利用可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳説する。
本発明は、水溶性の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を処理する方法である。
損紙とは、紙製品の製造工程で発生する不良品、製造ラインの運転開始や停止時あるいは製造ラインのトラブル時などに発生する製品にできない紙である。
本発明において対象とするのは、保湿成分を含む衛生薄葉紙の製造工程のうち、少なくとも保湿成分を薄葉紙に含有せしめる工程以降で発生する損紙である。
【0021】
なお、保湿成分を含有する衛生薄葉紙の製造方法については、従来既知の製造方法にしたがって、例えば、パルプを主体とする抄紙原料を、ワイヤパート、プレスパート、ドライヤパート、サイズプレス、カレンダパート等を経るなどして薄葉紙に抄紙した後に、この薄葉紙に保湿成分をスプレー塗布、コーター塗布、印刷塗布などして保湿成分を含む衛生薄葉紙とする公知の方法にしたがって製造することができる。
【0022】
また、衛生薄葉紙の坪量等は特に限定されないが、好ましくは10〜20g/m2である。なお、衛生薄葉紙が2プライなどのプライ構造を有する場合には、1プライあたりの坪量を意味する。
【0023】
また、本発明における保湿成分を含む衛生薄葉紙中における保湿成分含有量としては、5〜50重量%であり、この範囲の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙に関しては、本発明の処理方法の対象となる。
【0024】
〔混合攪拌工程〕
本発明では、まず、保湿成分を含む衛生薄葉紙を製造する際に発生した損紙を回収して水と混合して攪拌する。
具体的には、回収された損紙を、抄紙設備内に設置したパルパー(以下、ブロークパルパーという)に供給し、水を混合して攪拌して損紙中の保湿成分を水中に溶出させる。
【0025】
なお、混合攪拌装置に関しては、例えば、ブロークパルパー以外の既知の攪拌装置を用いうる。
【0026】
水と損紙との混合比率に関しては、損紙由来の固形成分の濃度が1.5〜4.0重量%となるように水を加える。加える水の温度は特に限定されない。実用的な範囲と例示すれば、60℃以下、好ましくは50℃以下である。ただし、カビ、スライム等の発生については、加える水の温度は低いほうが好ましく、より、損紙処理系におけるカビ、スライム等の発生を抑制する点では、加える水の温度は、40℃以下、特には25℃以下とするのが望ましい。
【0027】
攪拌時間は、損紙が細分化して完全にスラリー状となるまで行なうのが望ましい。少なくとも、直径1.0mm以上の繊維塊がなくなるまで行なうのが望ましい。攪拌の時間は、損紙の坪量等によって適宜異なるものであるが、概ね15〜40分間程度とする。
【0028】
また、好適には、固形成分中の保湿成分濃度が、7重量%以下、特に2重量%以下、となるまで、攪拌混合するのが望ましい。
7重量%を超えると、処理系内に返送したときにカビ、スライム等を発生させるおそれが極めて高くなる。
【0029】
なお、ここでの固形成分中の保湿成分濃度とは、アセトン:エタノールの混合溶媒(容積比1:1)を用い、ソックスレー抽出器を使用して、4時間還流抽出し、以下の式1により算出した値をいう。
(式1)・・・付着量(wt%)=[(抽出物の質量)/{(試料の質量)−(抽出物の質量)}]×100
【0030】
〔脱水工程〕
攪拌混合の後には、好ましくスラリー状とされた、保湿成分が溶出されているとともに損紙由来の固形分が分散された溶液を、連続的又は間欠的に脱水工程に送る。
脱水工程では、固液分離装置にて、溶液と繊維成分とに分離する。この固液分離装置としては、バルブレスフィルターが適する。バルブレスフィルターは、既知のものであり塗工紙の損紙や古紙から繊維原料を回収するために用いられているものであり、本発明においてもこれが問題なく利用できる。なお、脱水装置としては、バルブレスフィルター以外の既知の、固液分離を行なう脱水装置が利用可能である。
【0031】
〔返送処理〕
脱水工程後には、得られた固形成分を抄紙系内に返送して抄紙原料として用いる。このとき、本発明においては、当該固形成分の返送はオンラインで返送する。
ここで、オンラインとは、樋、管路などの供給路を介して返送することを意味する。
返送先としては、具体的には、薄葉紙の製造設備に一般的に設置される抄紙原料を貯留するための貯留タンク、又は貯留タンクから抄紙機に至る経路の途中とするのが望ましい。なお、返送は連続的に行なっても間欠的に行なってもよい。
【0032】
なお、固形成分の例えば、抄紙原料の貯留タンク等、又は前記貯留タンクから抄紙機へ至る経路の途中へ、断続的又は連続的に返送する。
【0033】
なお、本発明における抄紙系とは、バージンパルプ、古紙パルプ又はこれらの混合パルプからスラリー状の抄紙原料を調整し、抄紙機により衛生薄葉紙を製造する一連の製造設備からなる連続的な衛生薄葉紙の製造系を意味する。
【0034】
〔排水処理〕
他方、脱水により発生する保湿成分を溶出させた廃水は、廃水処理設備にて適宜の処理を行ないpH7.5以下に調整して系外へと排水するのがよい。
【0035】
〔保湿成分〕
本発明における水溶性の保湿成分とは、熱水あるいは冷水に溶解可能なものであり、例えばグリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、ソルビトール、グルコース、キシリトール、マルトース、マルチトール、マンニトール、トレハロース等の糖類、動物系、植物系、微生物系、多糖類系などの天然高分子、グルコール系薬剤およびその誘導体、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール、コラーゲン、加水分解コラーゲン、加水分解ケラチン、加水分解シルク、セラミド等である。最も代表的なものは、グリセリン、ソルビトールである。
【0036】
なお、本発明の衛生薄葉紙においては、水溶性の保湿成分以外の薬液が含有されていることを必ずしも否定はしない。微生物発生に起因しないものが含有されていてもよい。
ただし、少なくとも、上記に例示した薬液が含有されている衛生薄葉紙は、本発明における保湿成分が含有されている衛生薄葉紙である。
【実施例】
【0037】
次いで、本発明の損紙の攪拌混合工程における保湿成分の溶出性について試験を行なったので結果とともに説明する。
試験方法は、下記の3種の方法(試験例1〜3)で損紙を攪拌混合し、得られる固形成分中の保湿成分量及び溶液中のBOD量を測定し、各方法の効果を確認した。
試験例1:損紙をバケツに投入し、手もみにて、攪拌混合した後、手で絞って脱水した。
試験例2:家庭用の洗濯機を用いて、損紙と水とを攪拌混合した後、洗濯機で脱水した。
試験例3:ブロークパルパーを用いて損紙と水とを攪拌混合した後、バルブレスフィルターへ供給して脱水した。
【0038】
各試験例における結果は、表1に示す。なお、各試験例において用いた損紙中の保湿成分はグリセリンであり、その含有量は28重量%であった。
また、各例について3回ずつ試験を行なった。表中の数値はその平均である。
【0039】
損紙中、固形成分中の保湿成分の含有量に関しては、アセトン:エタノールの混合溶媒(容積比1:1)を用い、ソックスレー抽出器を使用して、損紙中又は固形成分中の保湿成分を4時間還流抽出し、以下の式により算出した。
付着量(wt%)=[(抽出物の質量)/{(試料の質量)−(抽出物の質量)}]×100
BOD値に関しては、JIS K 0102−21に基づいて測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、試験例1のような簡易な方法によっても、固形成分中の保湿成分濃度を6重量%以下とすることができ、処理系内に返送してもカビ、スライム発生等のおそれがない程度にすることができる。
【0042】
そして、試験例2のようか家庭用洗濯機によるモーターに混合攪拌を行なえば、一層効率よく固形成分中の保湿成分濃度を低下させことができる。そして、かかる装置を用いることにより、保湿成分の溶出のばらつきが低下する。
【0043】
さらに、ブロークパルパー及びバルブレスフィルターを用いれば、ほとんどの保湿成分を溶出させることができ、本発明の効果をより確実、効果的に達成できる。特に、ブロークパルパー及びバルブレスフィルターを用いる場合には、各回毎の溶出量のばらつきはなく、抄紙系内にオンラインとして組み込むに特に適する。
【0044】
以上のとおり、損紙と水との攪拌混合によって、損紙中の保湿成分を溶出させることができ、その溶出後の固形成分については、抄紙系内に返送しても、当該抄紙系内に影響を与えない程度にまで、保湿成分が十分に低下していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ティシュペーパー、トイレットペーパー等の衛生薄葉紙の損紙処理に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の保湿成分を含む衛生薄葉紙の損紙を処理する方法であって、
前記損紙と水とを混合攪拌して損紙由来の保湿成分を水中に溶出させ、その後に脱水処理して損紙由来の繊維を含む固形成分を回収し、この回収された固形成分を連続的又は段階的に、オンラインで抄紙系へ返送することを特徴とする衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【請求項2】
損紙と水とを混合するにあたり、損紙由来の固形成分の濃度が1.5〜4重量%となるように調整する請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【請求項3】
前記固形成分中の保湿系成分の濃度が6.0重量%以下となるまで攪拌する請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【請求項4】
損紙由来の繊維塊が確認されなくなるまで攪拌する請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。
【請求項5】
前記保湿成分は、グリセリンを含む請求項1記載の衛生薄葉紙の損紙処理方法。

【公開番号】特開2010−47861(P2010−47861A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211605(P2008−211605)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】