説明

衛生陶器

【課題】 流水環境下において使用した時の水垢付着量の低減と洗浄性向上および耐久性を両立させた衛生陶器を提供することを可能とする。
【解決手段】 本発明では、陶器素地表面に釉薬層が形成された衛生陶器において、前記釉薬層表面には被覆率40%〜99.9%の範囲で金属酸化物薄膜によって被覆され、前記釉薬層の一部が露出し、また、前記金属酸化物は、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムと酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合物であるているようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器、便器のサナ、手洗い付きロータンクの手洗い鉢、洗面器、手洗い器、汚物流し等の衛生陶器に係り、特に水垢汚れに対する防汚性を向上させた衛生陶器に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器は、水の利用を伴うものが多く、その水が衛生陶器表面に流水として接触する流水部は、流水中に含有されるCa、Si等の影響により水垢汚れを生じやすい。具体的には、流水が表面に付着したまま乾燥されると、流水中に含有されるCa成分やSi成分が析出して薄膜状の水垢が付着し、さらに流水の付着と乾燥を繰り返すことにより凹凸状の水垢膜へと成長する。前記凹凸状の水垢膜が形成されると、凹部に付着水が残留されやすくなり、そこに細菌が繁殖し、さらに汚れの付着が加速化されるようになってしまう。そこで従来は、衛生陶器等の陶磁器表面の防汚性を向上させることを目的とし、その表面にシリコーン樹脂或いはフッ素樹脂等の撥水剤をコーティングすることにより最表面に撥水膜を形成し、汚れにくくしたり、また、清掃性を向上させることが行われていた(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、これらの撥水剤から成る撥水膜は、陶磁器表面の釉薬との密着性が悪いため、また、フッ素樹脂にあってはその膜自体が軟らかいため、清掃回数が増加すると撥水膜がとれていき、撥水効果が長期間持続しないという問題があった。
【0003】
また、上記耐久性の課題を解決すべく、陶磁器表面にオキシジルコニウム塩を塗布した後焼成し、撥水性ジルコニア膜を形成することにより、清掃に対する耐久性を向上させたものもあった(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、この場合も撥水性ジルコニア膜の水との接触角は70°〜85°であって、洗浄水量が少ない場合、水との接触角が高すぎるために不洗浄領域が発生し、不洗浄領域が汚れやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−002840号公報(段落0010)
【特許文献2】特開2005−068009号公報(実施例1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、防汚性に優れた衛生陶器に係り、特に流水環境下において、使用した時の水垢付着量の低減と洗浄性向上および耐久性を両立させた衛生陶器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記課題を解決すべく、陶器素地表面に釉薬層が形成された衛生陶器において、前記釉薬層表面には被覆率40%〜99.9%の範囲で金属酸化物薄膜によって被覆され、前記釉薬層の一部が露出していることを特徴とする衛生陶器を提供する。
【0007】
金属酸化物、具体的にはAl、Sc、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Y、Ce、In、Snといった金属の酸化物膜は、水との接触角が70°〜90°またはそれ以上の撥水性を示すことが知られている。このような撥水性表面を流水により洗浄する場合、洗浄水量が多い時には問題にならないが、洗浄水量が少なくなるにつれて表面全体へ水が行き渡らなくなり、不洗浄領域が発生することになり、この不洗浄領域に付着した汚れは、乾燥固着して落とせなくなるという問題が生じていた。近年、衛生陶器にも節水性が求められるようになり、節水性に優れた衛生陶器ほど前記問題が顕在化する傾向にある。
一般に、衛生陶器の釉薬層表面は製造直後の水との接触角は約0°であるが、数日間放置すると20°〜30°まで上昇して安定化する。この程度の低い接触角であると、少ない洗浄水量でも表面全体に水が行き渡り、不洗浄領域はほとんど発生しない。水垢付着を少なくするためには撥水性寄りの表面が好ましく、一方で少洗浄水量でも不洗浄領域が発生しないようにするためには親水性寄りの表面が好ましいことから、水垢付着量の低減と少洗浄水量での洗浄性を両立させるためには、水との接触角で望ましい範囲が存在すると考えられる。
上記知見から、衛生陶器の釉薬層表面が持つ親水性の特性を生かすために全面を被覆することなく、その釉薬層表面を露出させ、撥水性の金属酸化物薄膜を被覆率40〜99.9%の範囲で被覆することにより、水との接触角で望ましい範囲(35°以上60°以下)の表面を形成することで、水垢付着量の低減と少洗浄水量での洗浄性を両立させた衛生陶器の提供が可能となる。特に、流水下において、水との接触角を50°以下とすることで、汚物などの油系の汚れをより効果的に行える。
【0008】
本発明の好ましい態様においては、前記釉薬層が分散露出するようにする。
このような本発明によれば、衛生陶器表面に金属酸化物薄膜領域を広範囲に確保して水垢付着量を低減しつつ、同様に広範囲に釉薬層表面が露出している存在領域を確保することができる。例えば、釉薬層表面の露出を点状に分散させることによりトータルとして少ない釉薬表面の露出面積でありながら、その露出した釉薬層表面を利用して洗浄水の拡がりを確保することができ、不洗浄領域を発生することが防止できるものである。
【0009】
本発明の好ましい態様においては、前記金属酸化物は、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムと酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合物であるようにする。 一般に、衛生陶器の釉薬層表面は製造直後の水との接触角は約0°であるが、数日間放置 すると20°〜30°まで上昇する。一方で、酸化ジルコニウム薄膜または酸化ジルコニウムと酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合物は製造直後の水との 接触角は20°〜30°であるが、数日間放置すると接触角は70°〜90°まで上昇す る。ここで、衛生陶器の釉薬層表面の一部が露出するように酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムと酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合物で被覆することにより、その被覆率により表面の水との接触角を30°〜70°の範囲で調節できるようになる。水との接触角を30°〜70°の範囲で調節できることにより、接触角が高過ぎる場合(水接触角70°〜80°以上)において、洗浄水量が少ないと不洗浄領域が発生して防汚性が損なわれるという問題を解消することが可能となる。
また、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムと酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合物は、フッ素系撥水材料から成る膜と比べるとはるかに硬い膜であるので、清掃時に相当手荒くスポンジやブラシ等で擦っても膜に傷が入らない。よって、表面の平滑性を維持できて汚れが付着しにくくなると共に、長期の耐久性も満足するので好適である。
【0010】
本発明のさらに好ましい態様においては、前記混合物中の酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合割合が10%〜70%であるようにする。
酸化ハフニウムの特性は、酸化ジルコニウムとほとんど同じであるが酸素との結合エネルギーが酸化ハフニウムの方が僅かに高く、ケイ素と酸素)の結合エネルギー(水垢の主成分の結合)と同じくらいである。同一の表面に水垢の主成分の結合と同じくらいのエネルギーで僅かにエネルギー状態の違う領域が混在することで、水垢が安定して固着しずらくなるのでより好適である。同様の理由でランタノイド系酸化物も好適に利用できる。
【0011】
本発明の好ましい態様においては、前記金属酸化物薄膜は、その前駆体または10nm以下の微粒子を含むゾルを塗布した後、450℃以下の温度で焼成するようにする。
金属酸化物薄膜の前駆体または10nm以下の微粒子を含むゾルを用いて衛生陶器の釉薬層表面の一部を被覆し、高温で焼成して固化させる方法で金属酸化物薄膜を形成する場合、焼成の段階で釉薬からの不純物の影響を受け、金属酸化物薄膜の接触角が低下したりすることにより防汚性が阻害される虞れがある。しかし、焼成温度を400℃以下とすることにより、釉薬層からの不純物の影響を受けにくくなり、衛生陶器表面の水との接触角を調節しやすくなるので好適である。
【0012】
本発明の好ましい態様においては、前記金属酸化物薄膜は、衛生陶器の流水部および水滴飛散部のみに適用されるようにする。
衛生陶器の流水部とは、具体的には便器のボウル面、小便器のサナ表面、手洗い付きロータンクの手洗い鉢のボウル面、洗面器および手洗い器のボウル面、汚物流しのボウル面等を示す。また、水滴飛散部とは、具体的に便器のリム上面、洗面器の水栓金具周り等を示す。流水部および水滴飛散部以外は水垢汚れは発生し難いことから、流水部および水滴飛散部のみに金属酸化物薄膜を適用することにより衛生陶器製造のための工数削減およびコスト低減に貢献することができるので好ましい。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、前記釉薬層には、抗菌剤が配合されているようにする。
本発明の基材表面は、金属酸化物による被覆率が40%〜99.9%であって、釉薬層の一部が露出しているから、前記釉薬層に抗菌剤を配合することにより、細菌類が多少付着した場合においても抗菌可能であり、細菌等による汚れを抑制できるので好適である。
【0014】
本発明の好ましい態様においては、前記被覆後の衛生陶器表面の水との接触角は、35°以上60°以下であるようにする。
水垢付着を少なくするためには撥水性寄りの表面が好ましく、一方で少洗浄水量でも不洗浄領域が発生しないようにするためには親水性寄りの表面が好ましい。本発明者による鋭意研究の結果、水垢付着量の低減と少洗浄水量での洗浄性を両立させるためには、水との接触角で35°以上60°以下とすると良いことが分かった。本発明のさらに好ましい態様においては、前記被覆後の衛生陶器表面の水との接触角は、35°以上45°以下であるようにする。
衛生陶器の釉薬層表面を被覆率45%〜99.9%の範囲で金属酸化物薄膜によって被覆することにより、被覆後の表面の水との接触角を35°以上60°以下の範囲で調節できるようになるので好適である。
【0015】
本発明の好ましい態様においては、前記被覆後の衛生陶器表面のJIS−Z8741に基づいて測定された60度鏡面光沢度が90%以上であるようにする。
一般に、衛生陶器の釉薬層表面の60度鏡面光沢度は80程度である。酸化ジルコニウムのような屈折率の高い物質から成る膜でその表面全体を被覆すると、その膜厚によってはラスター状の光沢が発生し、元の釉薬層と質感の異なった外観となってしまうことがあった。ここで、金属酸化物薄膜による衛生陶器釉薬表面の被覆率を45〜99.9%とすることにより、60度鏡面光沢度を90%以上とすることができ、元の釉薬層の質感を大きく変えることが無くなるので好適である。また、金属酸化物薄膜を流水部および水滴飛散部のみに適用する場合には、適用部と非適用部における60度鏡面光沢度の差が小さく、各部位における外観の違いを最小限に抑えられるので好ましい。
【0016】
本発明の好ましい態様においては、前記被覆後の衛生陶器表面の表面粗さRaは、0.08μm以下であるようにする。
この程度まで表面が平滑だと、凹凸を基点に汚れが付着して前述した金属酸化物薄膜の性質が損なわれるのをかなり防止することができ、その結果、さらに汚れにくい表面を有するようになるので好ましい。
【0017】
本発明の好ましい態様においては、前記金属酸化物薄膜は、擬似水垢を付着乾燥させ、摺動面での圧力が9.8KPaで含水不織布による摺動試験を100往復行った際、試験前後の比較による水垢除去率が90%以上であるようにする。
ここで水垢の擬似汚物は、溶性ケイ酸を80〜100ppm含有し、色素メチレンブルーを0.01%添加した水溶液とする。前記水溶液を対象物表面に20μL×2滴、計40μL滴下し、乾燥固着させ、擬似水垢を付着させる。その後、水を含ませた市販の不織布に摺動面での圧力が9.8KPaとし、100往復の摺動試験を行う。摺動試験には、市販の摺動試験機を用いる。最後に、摺動試験後の色差ΔEaを測定して摺動試験前に測定した色差ΔEbと比較することにより水垢除去率を求める。前記水垢除去率を90%以上とすることにより、目視においても水垢付着汚れが少なく、また、汚れ落ちが実感できるので好適である。なお、水垢除去率には、金属酸化物薄膜の被覆率を70%以上として、金属酸化物薄膜が、衛生陶器表面に連続的に被覆されるていることが望ましい。
【0018】
本発明の好ましい態様においては、前記衛生陶器は、便器、便器のサナ、手洗い付きロータンクの手洗い鉢、洗面器、手洗い器、汚物流しのいずれかであるようにする。
便器、便器のサナ、手洗い付きロータンクの手洗い鉢、洗面器、手洗い器、汚物流しはいずれも流水環境下で使用される衛生陶器であるから、水垢汚れの発生は避けられないものであり、本発明の適用例として好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、流水環境下において使用した時の水垢付着量の低減と洗浄性向上および耐久性を両立させた衛生陶器を提供することが可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の衛生陶器表面の一実施態様を示す図である。
【図2】本発明の衛生陶器表面の他の実施態様を示す図である。
【図3】本発明の複合膜の水垢除去性を説明する図である。
【図4】本発明の洋風便器ボウル面への実施例を示す図である。
【図5】本発明の洋風便器ロータンク手洗い鉢への実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳述する。
本発明は、表面に釉薬層を有する衛生陶器表面に、金属酸化物薄膜を特定の被覆率で、釉薬の一部が露出するようにしたものを特徴としている
ここで、本願の衛生陶器は、以下に限定されるものではないが、例えば、便器、便器のサナ、手洗い付きロータンクの手洗い鉢、洗面台の洗面器、手洗い器、汚物流し等が挙げられる。
また、金属酸化物を構成する金属としては、Al、Sc、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Y、Ce、In、Sn、Hfやランタノイド系の金属が利用できる。更に、金属酸化物としての酸素との結合エネルギーが水垢の主成分であるケイ素と酸素との結合エネルギーに近似もしくは上回っているものが、水垢付着抑制には、効果的であり、好適に利用できる。例えば、Zr、Hf、ランタノイド系金属の一種又は複数の混合物が利用できる。
【0022】
図1に、釉薬層表面には被覆率40%〜99.9%の範囲で金属酸化物薄膜によって被覆され、前記釉薬層の一部が露出している衛生陶器の一実施態様を示す。図1では、陶器素地1の表面に釉薬層2を介して酸化ジルコニウム等の金属酸化物薄膜3が、釉薬層2の一部が点在するように分散露出させて被覆形成されている。釉薬層表面の露出面が少ない場合、即ち、金属酸化物薄膜の被覆率が少ない場合には、釉薬表面は金属酸化物薄膜で分散被覆されることになる。
なお、被覆率70%以上では、図1のように金属酸化物薄膜が、連続した状態、即ち、金属酸化物薄膜が釉薬表面で覆われ、孤立した金属酸化物薄膜を構成しない状態で釉薬層表面を被膜するため、膜強度や水垢付着抑制効果が向上し、より望ましい形態となる。
【0023】
図1の衛生陶器を製造する一つの方法は、焼成後の衛生陶器の釉薬層表面に金属酸化物として、その前駆体や10nm以下の微粒子を含むゾルからなる溶液をフローコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、バーコート、グラビアコート等の方法により被覆し、10〜400℃、より好ましくは200〜400℃の温度で焼成して固化させる。
これらの方法の中で、スプレーコートは、被コート表面とスプレーノズル先端との距離と時間を調整することによって、任意の被覆率が容易に調整可能であるので、望ましい方法である。
【0024】
また、図2に、釉薬層表面には被覆率40%〜99.9%の範囲で金属酸化物薄膜によって被覆され、前記釉薬層の一部が露出している衛生陶器の他の実施態様を示す。図2では、陶器素地1の表面に釉薬層2を介して酸化ジルコニウム等の金属酸化物薄膜3が、釉薬層2の一部が露出するようにして被覆形成されている。被覆している金属酸化物薄膜の形状および露出している釉薬層の間隔も規則的である。
【0025】
図2の衛生陶器を製造する方法は、釉薬層表面の被覆したくない部分にマスク材等を適用し、さらに酸化ジルコニウム等の金属酸化物成分を電子ビーム蒸着、スパッタ、CVD蒸着、イオンビーム蒸着等の方法により被覆し、必要に応じて焼成する。また、マスク材を利用し、酸化ジルコニウム等の金属酸化物成分を含む溶液をフローコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、バーコート、グラビアコート等の各種方法を適用しても良い。
【0026】
前記釉薬層には、抗菌剤を添加してもよい。ここで、抗菌剤としては、銀、銅又は亜鉛原子を含む物質や、第4級アミン等の有機抗菌剤や、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等の光触媒が好適に利用できる。前記金属酸化物薄膜が釉薬を完全に被覆していないため、釉薬中に含まれる抗菌剤が表面に露出した部分が発生し、この場合も良好な抗菌性を維持できる。
【0027】
前記被覆後の衛生陶器の表面粗さRaは、触針式表面粗さ測定装置(JIS−B0651)により、0.08μm未満、好ましくは0.05μm未満であるようにするとよい。前記被覆後の衛生陶器の表面粗さRaを上記表面粗さにするには、例えば、下地の釉薬層のRaが0.08μm未満、好ましくは0.05μm未満、より好ましくは0.03μm未満であるものを準備し、その上に酸化ジルコニウム等の金属酸化物薄膜を形成する。 例えば、釉薬層のRaが0.08μm未満であるものを準備する1つの方法は、釉薬原料に非晶質成分を含む釉薬や、平均粒径が1.5μm未満の微粒釉薬を使用し、それを陶器素地表面にフローコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、バーコート、グラビアコート等の方法により施釉して1000℃〜1300℃で焼成する。
衛生陶器の表面に形成される金属酸化物薄膜の膜厚は最大200nm程度であるので、衛生陶器表面の表面粗さをほとんど阻害することなく、良好な平面状態を維持できる。従って、汚物等の汚れは、付着しにくい状態にあるので、金属酸化物薄膜塗布による効果を有効に作用できるものである。
【実施例】
【0028】
(比較例1〜比較例2、実施例1〜6)
衛生陶器表面に用いる釉薬を表面に焼き付けた板状のサンプル上に、住友大阪セメント製ジルコニアゾル(固形分濃度1.25wt%)を塗布した。前記塗布の工程は、前記板状のサンプルを60℃に加熱した状態でスプレーコーティングを用い、スプレー時間を調節することで、コーティング被覆率を変化させ、被覆しないサンプルを比較例1とし、被覆率を表1に示した割合で被覆したものを、それぞれ、比較例1、2、実施例1乃至6とした。被覆率の測定は、デジタルマイクロスコープで各サンプル5点(400倍)撮影し、各写真の大きさを1250×830ピクセル(計:1037500ピクセル)に揃え、デジタル処理で2値化(膜部分:黒、膜無部分:白)を行い、ピクセルカウンターで黒のピクセル数を数えて求めた。得られた被覆率の違うサンプルを300℃×1.5時間焼成することで、強固な被膜を得た。焼成後、被覆率が異なるサンプルに水垢の擬似汚物(溶性ケイ酸80〜100ppm含有、色素メチレンブルー0.01%添加)を20μL×2滴、計40μL滴下し、乾燥固着させ、擬似水垢を付着させた。その後、摺動面での圧力が9.8KPa、水和条件下で、摺動試験を行った。摺動試験には、市販の摺動試験機(太平理化工業:ラビングテスタこすり試験機)を用いた。市販の不織布を用いて、擬似水垢付着部を100回擦り、摺動前後の色差ΔEを測定した。水垢除去率は、以下の式で定義して求めた。

水垢除去率={1−(ΔEa/ΔEb)}×100
但し、ΔEa:100回摺動後の色差ΔE
ΔEb:摺動前且つ擬似水垢付着時の色差ΔE
水垢除去率が、85%以上であると、汚れとしても視認しにくくなる。
摺動物質として、市販の不織布を用い、摺動面での圧力が9.8KPaで行った。
【0029】
【表1】

【0030】
被覆率が40%を超えるあたりから、擬似水垢の除去性に効果が見え始め(目視では確認不可であった)、特に、被覆率が70%〜99%の範囲で、良好な水垢除去性を確認できた。また、釉薬の表面粗さRaには影響を与えることなく、被覆率に応じて、光沢度及び接触角を変化させることができた。
【0031】
【表2】

【0032】
(実施例7)
実施例1〜6で得られた結果を基に、衛生陶器表面に用いる釉薬を表面に焼き付けた板状のサンプル上に、住友大阪セメント製ジルコニアゾル(固形分濃度1.25wt%)及びハフニウムを25%、75%添加したゾルをスプレーでコーティングした後、350℃×1時間焼成し、試験品を作製した。得られた試験品の被覆率は99%であった。その後、試験品に散水時間約13時間(散水時間中のサイクルは、50分に1回、6秒間散水)、乾燥時間約11時間のサイクルにて、水垢を付着させた。水垢を付着させるにあたって、水は通常の水道水を用いた。その後、摺動面での圧力が2.45KPa、水和条件下で、摺動試験を行った。摺動試験には、市販の摺動試験機(太平理化工業:ラビングテスタこすり試験機)を用いた。市販の不織布を用いて、擬似水垢付着部を9回擦り、付着した水垢の状態をデジタルマイクロスコープで観察し(200倍)、水垢の状況を比較した。結果を図3に示す。
【0033】
ジルコニア100%の膜に比べて、ハフニウムを25%および75%添加したサンプルの方が、低摺動圧力かつ少ない摺動回数で水垢除去が可能であった。従って、ジルコニア単独の膜より、ハフニウム複合膜の方が、水垢除去性が向上する。
【0034】
(実施例8)
実施例1〜6で得られた結果を基に、実際の洋風便器ボウル内の半面のみに住友大阪セメント製ジルコニアゾル(固形分濃度1.25wt%)をスプレーでコーティングした後、350℃×1時間焼成し、試験品を作製した。得られた試験品の被覆した半面のボウル面の被覆率は、約80%であった。その後、試験品を実際の使用現場に取り付け、10日間掃除をせず使用し、10日後に水とブラシのみで掃除し、水垢の落ちを調べた。掃除後、水垢を染色剤で着色して観察した結果を図4に示す。従来釉薬では、着色された水垢の跡が見られるのに対し、コーティング部では、水垢の跡は確認されなかった。
【0035】
(実施例10)
実施例1〜7で得られた結果を基に、実際の洋風便器ロータンク手洗い鉢の半面のみに住友大阪セメント製ジルコニアゾル(固形分濃度1.25wt%)をスプレーでコーティングした後、350℃×1時間焼成し、試験品を作製した。得られた試験品の被覆した半面のボウル面の被覆率は、約80%であった。その後、試験品を実際の使用現場に取りつけ、10日間掃除をせず使用し、10日後に水とブラシのみで掃除し、水垢の落ちを調べた。掃除後、水垢を染色剤で着色して観察した結果を図5に示す。従来釉薬では、着色された水垢の跡が見られるのに対し、コーティング部では、水垢の跡は確認されなかった。
【符号の説明】
【0036】
1…陶器素地
2…釉薬層
3…金属酸化物薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器素地表面に釉薬層が形成された衛生陶器において、前記釉薬層表面は被覆率40%〜99.9%の範囲で金属酸化物薄膜によって被覆され、前記釉薬層の一部が露出していることを特徴とする衛生陶器。
【請求項2】
前記釉薬層が分散露出していることを特徴とする請求項1記載の衛陶陶器。
【請求項3】
前記金属酸化物は、酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムと酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の衛生陶器。
【請求項4】
前記混合物中の酸化ハフニウムもしくはランタノイド系酸化物の混合割合が10%〜70%であることを特徴とする請求項1から3に記載の衛生陶器。
【請求項5】
前記金属酸化物薄膜は、その前駆体または10nm以下の微粒子を含むゾルを塗布した後、450℃以下の温度で焼成して得られることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の衛生陶器。
【請求項6】
前記金属酸化物薄膜は、衛生陶器の流水部および水滴飛散部に適用されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の衛生陶器。
【請求項7】
前記釉薬層には、抗菌剤が配合されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の衛生陶器。
【請求項8】
前記被覆後の衛生陶器表面における水との接触角が35°以上60°以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の衛生陶器。
【請求項9】
前記被覆後の衛生陶器表面のJIS−Z8741に基づいて測定された60度鏡面光沢度が90%以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の衛生陶器。
【請求項10】
前記被覆後の衛生陶器表面の表面粗さRaが触針式表面粗さ測定器(JIS−B0651)により、0.08μm以下であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の衛生陶器。
【請求項11】
前記金属酸化物薄膜は、擬似水垢を付着乾燥させ、摺動面での圧力が9.8KPaで、含水不織布による摺動試験を100往復行った際、試験前後の比較による水垢除去率が90%以上であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の衛生陶器。
【請求項12】
前記衛生陶器は、便器、便器のサナ、手洗い付きロータンクの手洗い鉢、洗面器、手洗い器、汚物流しのいずれかであることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の衛生陶器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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