説明

衝撃吸収体

【課題】衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することを課題とする。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を発泡させて成形した成形体とされ、フロアパネル(車体パネル)10とフロアカーペット(敷物)20との間に設置される衝撃吸収体30について、フロアカーペット20に接する本体部32と、当該本体部からフロアパネル10側へ延出して長手方向を自動車の車幅方向に向けて当該車幅方向へ向けた溝36を複数並行して形成する複数の横リブ34とを設け、本衝撃吸収体30の厚みH1を20〜100mm、密度を0.025〜0.10g/cm3、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比L1/H1を30〜60%、横リブの延出方向D1とは垂直な面PL1上に当該延出方向へ投影したときの本体部の投影面積に対する横リブの投影面積の総面積の比S2/S1を50〜80%とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の乗員の足下において車体パネルと敷物との間に設置される衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体パネルの乗員室側に、主に意匠性を付与する目的でフロアカーペットやドアトリムなどの内装材が配設されている。これらの車体パネルと内装材との間に、自動車事故などによる衝突時に衝撃エネルギーを吸収して乗員に加わる衝撃を緩和することを目的として、衝撃を吸収可能な材質からなる衝撃吸収体が配設されている。短時間で多くの衝撃エネルギーを吸収しながら乗員の下肢部に過大な荷重が加わらないように歪みを進行させながら衝撃エネルギーを吸収すれば、良好な衝撃吸収性能が得られることになる。
衝撃吸収体としては、ポリスチレン樹脂やポリプロピレン樹脂の粒子に発泡剤を配合し、所要のキャビティを有する成形型にこれらを充填し、蒸気などにより加熱発泡させて成形した、いわゆるビーズ発泡成形体が用いられることが多い。ビーズ発泡体を用いる利点としては、発泡させることにより低密度の成形体を所要の形状に形成することが比較的容易なため、衝撃吸収体が軽量となり、かつ、通常使用時には一定の剛性を持ち所要形状を保つが、衝撃荷重などの強い応力が加わると潰れて衝撃エネルギーを吸収するという衝撃吸収体に要求される特性を得やすいからである。また、自動車事故では略前後方向へ大きな衝撃力が発生することが多いため、特に前後方向への衝撃力のエネルギーが十分に吸収されるように衝撃吸収体が設計されている。例えば、熱可塑性樹脂の発泡成形体からなる衝撃吸収体の車体パネル側に衝撃吸収体の厚みに対する肉厚の比を26%とした縦リブであって車両前後方向へ向けた平行な溝を形成する縦リブを複数設けると、リブを形成していないブロック状の衝撃吸収体と比べ、衝撃荷重に対する反力が大きくなる前に衝撃エネルギーを十分に吸収する性能が向上する。
【0003】
引用文献1の段落0017には、スチレン改質ポリエチレン系樹脂ビーズの発泡成形品で裏面のほぼ全面に車両の前後方向と同方向となるようにして複数の縦長状凹溝をほぼ等間隔に平行に形成した(縦リブを形成した)車両用下肢部衝撃吸収パッドが記載されている。ここで、パッドの厚みはほぼ35mm、縦長状凹溝間の幅は9mmであり、パッドの厚みに対する縦長状凹溝間の幅は25.7%である。また、縦長状凹溝の幅は9mmであり、縦リブの車体への接触面積は50%である。前述したように複数の縦長状凹溝をパッドの裏面側に形成することによって、衝突直後は無垢の発泡体パッドと同様に短時間で多くのエネルギを吸収し、障害値限界線よりも低い所要の荷重からは、荷重を大きく上げることなく、歪みを進行させながらエネルギを吸収する(公報段落0019)。
引用文献2には、室内側は平面を形成し、床面側はハニカム構造、スリット構造又は突起構造の硬質発泡プラスチック成形品であって、敷設した際の床面への接触面積が、10%以上60%以下である自動車用フロアスペーサが記載されている。ハニカム及びスリットのリブ又は突起の幅は、フロアスペーサの肉厚に対して20%以下と薄くされている(公報請求項3)。なお、フロアスペーサのスリットの向きについての記載はない。
【特許文献1】特開2004−306791号公報
【特許文献2】特開2003−127796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の複数の縦長状凹溝を形成したパッドを用いると、衝撃荷重に対する荷重吸収性能は向上する。一方、薄い縦リブ間に縦長状凹溝が形成されているため、自動車の略前後方向への衝撃が発生した時に乗員の踵が縦長状凹溝へ食い込み、踵に車幅方向へモーメントがかかることも想定される。より安全性を向上させる観点から、衝撃入力時でも足首を中心とする左右方向への倒れ込みを防止することが望まれていた。特許文献2記載のスリット構造や突起構造のフロアスペーサについても、同様のことが言える。
なお、足首を中心とする左右方向への倒れ込みを防止することを目的として縦リブを厚くすると、衝撃吸収体全体が強固になる結果、衝撃エネルギーを十分に吸収する前に衝撃荷重に対する反力が大きくなり、衝撃吸収性能としては低下してしまう。
特許文献2記載のハニカム構造のフロアスペーサを用いると、短時間で多くのエネルギーを吸収しながら所要の荷重からは荷重を大きく上げることなく歪みを進行させながらエネルギーを吸収するためには、縦リブのみを形成する場合と比べて1本あたりのリブの肉厚を薄くする必要がある。このため、略前後方向への衝撃発生時にリブが車幅方向へ倒れ、踵に左右方向へモーメントがかかることも想定される。
【0005】
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、熱可塑性樹脂を発泡させて成形した成形体とされ、自動車の乗員の足下において車体パネルと当該車体パネルよりも車室側に敷設される敷物との間に設置される衝撃吸収体であって、前記敷物に接する本体部と、当該本体部から前記車体パネル側へ延出して当該車体パネルに接するとともに長手方向を前記自動車の車幅方向に向けて当該車幅方向へ向けた溝を複数並行して形成する複数の横リブとを有し、本衝撃吸収体の厚みが20〜100mmであるとともに、(a)密度が0.025〜0.10g/cm3、(b)前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの肉厚の比が30〜60%、(c)前記横リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの前記本体部の投影面積に対する前記横リブの投影面積の総面積の比が50〜80%、とされていることを特徴とする。
【0007】
熱可塑性樹脂を発泡させて厚み20〜100mm、密度0.025〜0.10g/cm3に成形した自動車用衝撃吸収体について、従来の衝撃吸収体の厚みに対する縦リブの肉厚の比25.7%以下をそのまま横リブの肉厚に適用して複数の横リブを形成しただけでは、衝撃入力時に横リブが車両前後方向へ折れやすく、横リブを形成した衝撃吸収体は縦リブを形成した衝撃吸収体と比べて衝撃吸収エネルギーが少なくなって衝撃吸収性能が低下してしまう。本発明では、衝撃吸収体の厚みH1に対する横リブの肉厚L1の比L1/H1を0.3以上としてある。密度を0.025g/cm3以上、横リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの本体部の投影面積S1に対する横リブの投影面積の総面積S2の比S2/S1を0.5以上、かつ、前記比L1/H1を0.3以上にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが車両前後方向へ折れにくくなって衝撃吸収エネルギーが低下せずに所要の衝撃吸収性能が維持され、踵が車体パネルに接触しないうち、すなわち、いわゆる底づき状態とならないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止したうえ、下肢障害値を低減させることができる。なお、投影面積の比S2/S1を0.5以上にすると、衝撃入力時に横リブが車両前後方向へ倒れこむことがなくなり、所要の衝撃吸収性能が維持される。
一方、密度を0.10g/cm3以下、投影面積の比S2/S1を0.8以下、かつ、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比L1/H1を0.6以下にすることにより、衝撃のエネルギーを十分に吸収したうえ、略前後方向の衝撃の入力時に衝撃吸収体から踵に加わる反力が十分に衝撃エネルギーを吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0008】
衝撃吸収体の厚みH1に対する横リブの延出した長さH2の比H2/H1を0.8以下にすると、略前後方向の衝撃の入力時に衝撃のエネルギーをさらに十分に吸収することができるとともに、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みをさらに十分に防止することができる。一方、前記比H2/H1を0.4以上にすると、衝撃のエネルギーをさらに十分に吸収したうえ、略前後方向の衝撃の入力時に衝撃吸収体から踵に加わる反力がさらに低減され、さらに良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0009】
また、第二の発明の衝撃吸収体は、前記敷物に接する本体部と、当該本体部から前記車体パネル側へ延出して当該車体パネルに接するとともに長手方向を前記自動車の車幅方向に向けて当該車幅方向へ向けた溝を複数並行して形成する複数の横リブと、長手方向を前記自動車の前後方向に向けて前記複数の横リブと交差しながら当該横リブよりも短い長さで前記本体部から前記車体パネル側へ延出した縦リブとを有することを特徴とする。
【0010】
熱可塑性樹脂を発泡させて成形した衝撃吸収体について、車体パネル側に形成する複数のリブを車幅方向に向けた横リブとすると足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを防ぐ効果が得られるが、複数の横リブと交差しながら当該横リブよりも短い長さとされた縦リブが設けられているので、衝撃入力時に横リブが倒れにくくなり、また、横リブが折れても縦リブと車体パネルとの間に挟まれて衝撃エネルギーを十分に吸収する。従って、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止し、下肢障害値を低減させるとともに、所要の衝撃吸収性能を維持することができる。
なお、縦リブの延出した長さを横リブの延出した長さと同じにすると、衝撃吸収体が強固になる結果、衝撃入力時に衝撃吸収体から踵に加わる反力が十分に衝撃エネルギーを吸収する前に大きくなってしまう。また、同じ長さの縦リブと横リブとを形成するため、反力が過大とならないようにするには1本当たりのリブの肉厚を薄くする必要があり、短い縦リブを形成した衝撃吸収体と比べて衝撃吸収性能が低くなってしまう。縦リブの延出した長さを横リブの延出した長さよりも短くすることにより、衝撃吸収体全体が強固になりすぎず、短時間で多くのエネルギーを吸収しながら乗員の下肢部に過大な荷重が加わらないように歪みを進行させながらエネルギーを吸収することができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1にかかる発明によれば、衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止して下肢障害値を低減させることが可能になる。
請求項2〜請求項7にかかる発明では、衝撃発生時にさらに良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みをさらに十分に低減させることが可能になる。
【0012】
請求項8にかかる発明では、所要の衝撃吸収性能を維持しながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止して下肢障害値を低減させることが可能となる。
請求項9にかかる発明では、衝撃発生時にさらに良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みをさらに十分に低減させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)第一の実施形態:
(2)第一の実施形態の実施例:
(3)第二の実施形態:
【0014】
(1)衝撃吸収体の構成:
図1は本発明の第一の実施形態にかかる衝撃吸収体30を採用した乗用自動車の要部を垂直断面にて示す要部断面図、図2は衝撃吸収体30の外観を底面側から見て示す斜視図、図3は衝撃吸収体30の要部を図2のA1方向から見て示す側面図、図4は衝撃吸収体の水平部30aの要部を横リブの延出方向とは垂直な面上に投影した様子を示す図、図5は衝撃吸収体の衝撃吸収性能を評価する試験方法を模式的に示す側面図、図6は衝撃吸収体の変位xに対する圧縮荷重を示すグラフ形式の図、図7は衝撃吸収体の吸収エネルギーに対する圧縮荷重を示すグラフ形式の図、図8は従来の縦リブを有する衝撃吸収体に衝撃が入力されたときに生じる現象を後方から見て示す模式図、図9はダミー人形を用いて車幅方向のモーメントを計測する様子を模式的に示す図、図10〜図13は各種パラメータの違いによる吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図である。
図1では、前後の座席を有する乗用自動車のフロアのうち前席乗員Mの足下部が示されている。自動車の乗員の足下において、金属製のフロアパネル10が車体パネルの一部として設けられ、このフロアパネル10よりも車室側にフロアカーペット(敷物)20が敷設されている。フロアパネル10は、前席乗員Mの足下から後方に向かって略水平に設けられた平坦な形状の平坦部12とされるとともに、この平坦部12の前縁部(境界部16)から前方に向かって斜め上方に立ち上がってエンジンルームとの境界を形成する立壁部14とされている。フロアカーペット20は、このフロアパネル10の形状に合わせて、前席乗員Mの足下から後方に向かって略水平に設けられるとともに、乗員Mの足下から前方に向かって斜め上方に立ち上がって設けられている。衝撃吸収体30は、フロアパネル10とフロアカーペット20との間に設置され、フロアパネルの平坦部12上と立壁部14上とに跨って取り付けられている。
【0015】
フロアカーペット20は、意匠性、吸音性、遮音性などを主な目的として、乗員室のフロア全体を覆ってフロアパネルの平坦部12と立壁部14との外形に沿うように成形されてフロアパネル10上に設けられる。フロアカーペット20の表皮材には、基布に立毛パイルを組織したタフトカーペットや、不織ウェブをニードリングして繊維相互を絡め形成したニードルパンチカーペット等が用いられる。フロアカーペット20の裏面には、内装材基材として、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル等の低融点の熱可塑性樹脂からなる薄いシートが裏打ちされる。この裏打ちを加熱、可塑化させた状態で所要の形状にプレス成形することにより、自動車のフロアパネル10に沿う形状に賦形される。
【0016】
自動車の前面衝突時、フロアパネル10には後方へ強い衝撃が加わる。そこで、フロアパネル10とフロアカーペット20との間にティビアパッドと呼ばれる衝撃を吸収する材質からなる衝撃吸収体30を配設している。フロアパネルの平坦部12から立壁部14にかけて敷設される衝撃吸収体は、前席、すなわち運転席や助手席の乗員足元付近において、フロアパネル上に載置されるか、フロアカーペットの裏面に貼着されるなどして、フロアパネルとフロアカーペットとの間に配置される。衝撃吸収体30は、フロアパネルの平坦部12と立壁部14の形状に合わせて、略水平に設けられた水平部30aと、この水平部30aの前縁部から前方に向かって斜め上方に立ち上がった傾斜部30bとを有する形状とされている。衝撃吸収体30の上面(車室側面)をフロアパネルの平坦部12と立壁部14の上面(車室側面)と相似する形状とすることによって、乗員Mの足の可動範囲をカバーしている。そして、衝撃吸収体は、衝突事故の際に乗員下肢への衝撃を緩和して、乗員の下肢障害値(Tibia Index)を低減させる機能を担っている。
なお、上記衝撃吸収体30は、運転席の足下と助手席の足下とのそれぞれに設置されても、一方にのみ設置されても、両方に跨って単一の衝撃吸収構造体として設置されてもよい。
【0017】
衝撃吸収体30は、衝撃吸収性能を良好にさせる観点および成形を容易に行う観点から、熱可塑性樹脂(熱可塑性プラスチック)を発泡させて成形した発泡成形体としている。発泡させる熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン/ポリエチレン共重合体、等を用いることができる。また、熱可塑性樹脂を発泡させて衝撃吸収体を形成する際には、ビーズ状のプラスチックに発泡剤を含浸させて所定の倍率に予備発泡させた発泡性樹脂粒子を多数形成した後に衝撃吸収体の形状にした金型の中に前記多数の発泡性樹脂粒子を充填してさらに加熱発泡させて融着成形してビーズ発泡成形体を形成してもよいし、プラスチックに発泡剤を混合して発泡させた発泡プラスチックを所定のダイから押し出して成形して発泡成形体を形成してもよい。発泡剤としては、ブタンやペンタン等の炭化水素を発生させる揮発性発泡剤、炭酸アンモニウム等の炭酸ガス等を発生させる無機系発泡剤、等を用いることができる。
【0018】
衝撃吸収体30は、水平部30aと傾斜部30bともに、フロアカーペット20に接する本体部32と、当該本体部からフロアパネル10側へ延出した複数の横リブ34とを有している。図3に示すように、衝撃吸収体30の厚みをH1、横リブ34の本体部から延出した長さをH2とすると、本体部32の厚みはH1−H2となる。各横リブ34は、先端がフロアパネル10に接するようにされ、長手方向を自動車の車幅方向に向けて本体部32の車外側面に形成されている。その結果、複数の横リブ34は、衝撃吸収体30の車外側面に、車幅方向へ向けた溝36を複数並行して形成する。
衝撃吸収体30の厚みH1は、良好な衝撃吸収性能を得ながら車室内の空間を効率よく使用する観点から、20〜100mm、より好ましくは30〜80mm、さらに好ましくは40〜60mmとしている。厚みH1を下限以上にすると踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができ、厚みH2を上限以下にすると所要の衝撃エネルギーを吸収する以上に衝撃吸収体の設置スペースを確保する必要が無くなる。
【0019】
自動車の前突事故では、フロアカーペットを介して衝撃吸収体から乗員の踵へ衝撃荷重に対する反力が加わる。そこで、図5に示す測定方法で衝撃吸収体AB1の変位xに対してインパクタ92に加わる荷重(圧縮荷重)を測定し、図6に示す変位−圧縮荷重のグラフと、図7に示す吸収エネルギー−圧縮荷重のグラフとを作成して、衝撃吸収体の性能を評価している。
図5において、衝撃吸収体AB1は、測定対象の試験サンプルであり、垂直断面が台形状の固定台91における傾斜面91aに取り付けられる。本実施形態では、垂直面に対する傾斜面91aの角度θを40°としている。インパクタ92は、踵形とされ、傾斜面91aに向かって一定速度で水平に移動するようにされている。本実施形態では、インパクタの移動速度を3.8m/秒としている。インパクタ92には圧縮荷重を計測するための荷重センサが内蔵されており、図示しない制御装置にてインパクタ92の移動位置に応じて圧縮荷重を検出することが可能である。衝撃吸収体の変位xは、インパクタ92が衝撃吸収体AB1に接触する位置からの移動距離を示している。
【0020】
図6は、衝撃吸収体の試験サンプルSA1〜SA3を用いて変位x(単位:mm)に対する圧縮荷重(単位:kN)を計測した結果を示している。図7は、前記サンプルSA1〜SA3を用いて吸収エネルギー(衝撃エネルギーの吸収量。単位:J)に対する圧縮荷重(単位:kN)を計測した結果を示している。サンプルSA1〜SA3は、いずれも、ポリスチレンの予備発泡粒子を成形型内に多数充填し、加熱して、密度が0.03g/cm3となるように発泡成形した発泡成形品を、厚みH1が45mmで200×200mmに切り出したものを用いた。ここで、サンプルSA1は、リブが形成されていないブロック状サンプルである。サンプルSA2は、肉厚L1が12mm(L1/H1が26.7%)、延出した長さH2が33mm(H2/H1が73.3%)の縦リブを、間隔L2が18mmとなるように前後方向に向けて平行に複数形成した縦リブサンプルである。サンプルSA3は、図5に示すように複数の横リブを形成した横リブサンプルであり、肉厚L1が18mm(L1/H1が40.0%)、延出した長さH2が30mm(H2/H1が66.7%)の横リブを、間隔L2が12mmとなるように幅方向に向けて平行に複数形成したサンプルである。
【0021】
ブロック状サンプルSA1では、図6に示すように、リブを形成したサンプルSA2,SA3と比べて変位の進行に対する圧縮荷重の上昇が大きく、所定の圧縮荷重1.0kNに到達する変位量xが比較的小さくなっている。また、図7に示すように、サンプルSA1では、圧縮荷重1.0kNに到達する吸収エネルギーが約12Jと比較的小さくなっている。このことは、衝撃吸収体をブロック状にすると衝撃吸収体が強固になる結果、衝撃入力時に衝撃吸収体からインパクタに加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に大きくなるためと推察される。
縦リブサンプルSA2では、図6に示すように、変位の進行に対する圧縮荷重の上昇がほぼ停止する領域が生じ、ブロック状サンプルSA1と比べて変位の進行に対する圧縮荷重の上昇が小さくなっている。また、図7に示すように、サンプルSA2では、圧縮荷重1.0kNに到達する吸収エネルギーが約20Jと比較的大きくなっている。このことは、衝撃吸収体に上記複数の縦リブを形成すると衝撃吸収体が歪みやすくなる結果、衝撃入力時に衝撃吸収体からインパクタに加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に大きくならないためと推察される。
このように、良好な衝撃吸収性能の衝撃吸収体は、短時間で多くの衝撃エネルギーを吸収しながら乗員の下肢部に過大な荷重が加わらないように歪みを進行させながら衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収体といえる。
【0022】
しかし、図8に示すように、複数の縦リブAB2aを形成した衝撃吸収体AB2には薄い縦リブ間に前後方向へ向けた縦溝AB2bが並行して複数形成されているので、自動車の略前後方向への衝撃が発生した時に縦リブが車幅方向へ倒れて乗員の踵HEが縦溝AB2bへ食い込み、足首ANを中心とする車幅方向への倒れ込みが生じることも想定される。このような倒れ込みの度合いは、図9に示すように、ダミー人形の足首の関節部に加わる前後方向の軸回りの軸モーメントMxで評価することができる。なお、モーメントMxが大きいほど倒れ込みの度合いが大きいことになる。車両の衝突速度を時速55km/hとし、ダミー人形に身長178cm、体重約85kgのHybrid-IIIを用い、フルラップ前面衝突試験を行ったところ、モーメントMxが130N・m、Tibia Indexが0.80となった。なお、Tibia Indexの耐性値は1.0以下であり、実測値は耐性値より小さくなっている。
ここで、足首ANに加わる車幅方向へのモーメントを少なくさせることを目的として縦リブを厚くすると、衝撃吸収体全体が強固になる結果、衝撃荷重に対する反力が大きくなり、圧縮荷重1.0kNに到達するまでに吸収する衝撃エネルギーが減少し、衝撃吸収性能としては低下してしまう。
また、リブの肉厚を変えずにリブの向きを車幅方向に変えた衝撃吸収体を形成すると、横リブは車幅方向へ倒れないため足首に加わる車幅方向へのモーメントを少なくさせることができるが、リブの向きを変えただけでは、衝撃入力時に衝撃吸収体の横リブが車両前後方向へ折れやすく、横リブを形成した衝撃吸収体は縦リブを形成した衝撃吸収体と比べて衝撃エネルギーの吸収量が少なくなって衝撃吸収性能が低下してしまう。
以上のことから、本実施形態では、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比L1/H1を30%以上としている。図6に示すように、肉厚L1を18mm(L1/H1を40.0%)にした横リブサンプルSA3では、縦リブサンプルSA2と比べて変位の進行に対する圧縮荷重の上昇がさらに小さくなっている。また、図7に示すように、横リブサンプルSA3では、縦リブサンプルSA2と比べて圧縮荷重1.0kNに到達する吸収エネルギーが比較的大きくなっている。
【0023】
以下、衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止するための好適な条件について、説明する。
図10は、衝撃吸収体30の密度を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示している。図中、実線の曲線は、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比L1/H1を30%、本体部の投影面積に対する横リブの投影面積の総面積の比S2/S1を50%、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの延出した長さの比H2/H1を80%としたとき(条件1とする)の関係を示している。また、破線の曲線は、肉厚の比L1/H1を60%、投影面積の比S2/S1を80%、延出した長さの比H2/H1を40%としたとき(条件2とする)の関係を示している。なお、吸収エネルギー20Jは、肉厚の比L1/H1を26.7%とした縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する。
図に示すように、条件1,2ともに密度を0.025〜0.10g/cm3にすると、上記縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、密度0.025g/cm3における吸収エネルギーは条件1より条件2の方が大きく、密度0.10g/cm3における吸収エネルギーは条件2より条件1の方が大きくなる。また、密度を0.025g/cm3以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
以上のことから、衝撃吸収体30の密度は、0.025〜0.10g/cm3、より好ましくは0.028〜0.07g/cm3、さらに好ましくは0.03〜0.05g/cm3としている。密度を下限以上にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、密度を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0024】
図11は、衝撃吸収体30の厚みH1に対する横リブ34の肉厚L1の比L1/H1を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示している。図中、実線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、投影面積の比S2/S1を50%、横リブの延出した長さの比H2/H1を80%としたとき(条件3とする)の関係を示している。また、破線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.10g/cm3、投影面積の比S2/S1を80%、延出した長さの比H2/H1を40%としたとき(条件4とする)の関係を示している。なお、厚みH1と肉厚L1とは、図3に示している。
図に示すように、条件3,4ともに比L1/H1を30〜60%にすると、上記縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、比L1/H1が30%の場合における吸収エネルギーは条件3より条件4の方が大きく、比L1/H1が60%の場合における吸収エネルギーは条件4より条件3の方が大きくなる。また、比L1/H1を30%以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
以上のことから、肉厚の比L1/H1は、30〜60%、より好ましくは34〜56%、さらに好ましくは38〜52%としている。比L1/H1を下限以上にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比L1/H1を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0025】
図12は、横リブ34の延出方向D1とは垂直な面PL1上に当該延出方向D1へ投影したときの本体部32の投影面積S1に対する横リブ34の投影面積の総面積S2の比S2/S1を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示している。図中、実線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を30%、横リブの延出した長さの比H2/H1を80%としたとき(条件5とする)の関係を示している。また、破線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.10g/cm3、肉厚の比L1/H1を60%、延出した長さの比H2/H1を40%としたとき(条件6とする)の関係を示している。図4は各横リブ34の面PL1上への投影面積と各溝36の面PL1上への投影面積とを示してあり、各横リブ34が全て同じ投影面積Srとされて横リブ34の数がNrであるとすると横リブの投影面積の総面積S2はNr×Srとなり、各溝36が全て同じ投影面積Sgとされて溝36の数がNgであるとすると本体部の投影面積S1はS2+Ng×Sgとなる。
図に示すように、条件5,6ともに比S2/S1を50〜80%にすると、上記縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、投影面積の比S2/S1を50%以上にすると、衝撃入力時に横リブが車両前後方向へ倒れこむことがなくなり、所要の衝撃吸収性能が維持されると推察される。また、図に示すように、比S2/S1が50%の場合における吸収エネルギーは条件5より条件6の方が大きく、比S2/S1が80%の場合における吸収エネルギーは条件6より条件5の方が大きくなる。また、比S2/S1を50%以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
以上のことから、横リブ34の投影面積の比S2/S1は、50〜80%、より好ましくは54〜76%、さらに好ましくは58〜72%としている。比S2/S1を下限以上にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比S2/S1を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0026】
図13は、衝撃吸収体30の厚みH1に対する横リブ34の延出した長さH2の比H2/H1を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示している。図中、実線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を30%、投影面積の比S2/S1を50%としたとき(条件7とする)の関係を示している。また、破線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.10g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を60%、投影面積の比S2/S1を80%としたとき(条件8とする)の関係を示している。なお、厚みH1と延出した長さH2とは、図3に示している。
図に示すように、条件7,8ともに比H2/H1を40〜80%にすると、上記縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、比H2/H1が80%の場合における吸収エネルギーは条件7より条件8の方が大きく、比H2/H1が40%の場合における吸収エネルギーは条件8より条件7の方が大きくなる。また、比H2/H1を80%以下にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
以上のことから、延出した長さの比H2/H1は、40〜80%、より好ましくは45〜75%、さらに好ましくは50〜70%としている。比H2/H1を上限以下にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブの室内側端部が前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比H2/H1を下限以上にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0027】
なお、上述した密度、比L1/H1、比S2/S1、比H2/H1のうち、比H2/H1については吸収エネルギーへの影響度が比較的小さいため、良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止する観点からは、上述した密度、比L1/H1、比S2/S1が所望の値となるように衝撃吸収体を形成してもよい。
【0028】
衝撃吸収体30を形成するには、例えば、以下のようにすればよい。
まず、ポリプロピレン等の粒子状熱可塑性樹脂に発泡剤を添加してビーズ状に予備発泡させ、ビーズ状樹脂粒子(発泡性樹脂粒子)を多数形成する。次に、ビーズ状樹脂粒子の径よりも小さい径の蒸気孔を複数有するとともに衝撃吸収体の形状に合わせた成形型内にビーズ状樹脂粒子を多数充填し、型締めする。さらに、ビーズ状樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂を加熱溶融させる温度にまで所定の加熱機により温度を上昇させた水蒸気を成形型内に導入する。すると、成形型内を加熱することができ、ビーズ状樹脂粒子をさらに発泡させながらビーズ状樹脂粒子どうしを溶融させながら結着させて衝撃吸収体を形成させる。成形型内を冷却した後、成形型を開くと、本体部と横リブとが一体成形された衝撃吸収体を取り出すことができる。これにより、熱可塑性樹脂を発泡させた材質で一体的に形成された衝撃吸収体30が得られる。
【0029】
衝撃吸収体の密度を調節するためには、ビーズ状樹脂粒子に含浸させる発泡剤の量や発泡倍率を調整すればよい。例えば、粒子状熱可塑性樹脂に添加する発泡剤の配合比を多くすれば発泡倍率が大きくなって密度が小さくなり、粒子状熱可塑性樹脂に添加する発泡剤の配合比を少なくすれば発泡倍率が小さくなって密度が大きくなる。また、成形型内に充填するビーズ状樹脂粒子の重量を多くすれば発泡倍率が小さくなって密度が大きくなり、成形型内に充填するビーズ状樹脂粒子の重量を少なくすれば発泡倍率が大きくなって密度が小さくなる。
比L1/H1、比S2/S1、比H2/H1を調節するためには、成形型を前記比L1/H1、前記比S2/S1、前記比H2/H1に合わせた形状にすればよい。
【0030】
以下、第一の実施形態に係る衝撃吸収体の作用、効果を説明する。
熱可塑性樹脂を発泡させて厚み20〜100mm、密度0.025〜0.10g/cm3に成形した自動車用衝撃吸収体について、縦リブの肉厚の比L1/H1である26.7%をそのまま横リブの肉厚に適用して複数の横リブを形成しただけでは、自動車の略前後方向への衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れやすく、横リブを形成した衝撃吸収体は縦リブを形成した衝撃吸収体と比べて衝撃吸収エネルギーが少なくなる。本実施形態では、密度を上記下限以上、横リブの肉厚の比L1/H1を上記下限以上、横リブの投影面積の比S2/S1を上記下限以上にすることにより、前後方向への衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れにくくなって衝撃吸収エネルギーが低下せずに所要の衝撃吸収性能が維持され、踵が車体パネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。そのうえ、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができ、下肢障害値(Tibia Index)を低減させることができる。横リブの延出した長さの比H2/H1を上記上限以下にすると、衝撃のエネルギーをさらに十分に吸収することができ、そのうえ、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みをさらに十分に防止することができる。
一方、密度を上記上限以下、横リブの肉厚の比L1/H1を上記上限以下、横リブの投影面積の比S2/S1を上記上限以下にすることにより、衝撃のエネルギーを十分に吸収したうえ、略前後方向の衝撃の入力時に衝撃吸収体から踵に加わる反力が十分に衝撃エネルギーを吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。横リブの延出した長さの比H2/H1を上記下限以上にすると、衝撃のエネルギーをさらに十分に吸収したうえ、略前後方向の衝撃の入力時に衝撃吸収体から踵に加わる反力がさらに低減され、さらに良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0031】
(2)第一の実施形態の実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
ビーズ状樹脂粒子として株式会社JSP製のポリプロピレンの予備発泡粒子(φ3mm、密度0.033g/cm3)を用い、複数の蒸気孔を有する成形型の中に該ビーズ状樹脂粒子を多数充填し、高温水蒸気を蒸気孔から同成形型内に導入して、密度が0.03g/cm3となるように多数のビーズ状樹脂粒子を発泡成形した。この発泡成形品を、厚みH1が45mmで200×200mmに切り出したものを試験サンプルSA2〜SA6とした。各試験区のサンプルは、以下のように形成した。ただし、L1はリブの肉厚、S2/S1は本体部の投影面積に対するリブの投影面積の総面積の比、L2はリブの延出した長さである。

試験区 1 2 3 4 比較例
Sample SA3 SA4 SA5 SA6 SA1
リブの向き 横 横 横 横 縦
L1 18mm 18mm 20mm 20mm 12mm
L1/H1 40.0% 40.0% 44.4% 44.4% 26.7%
リブ間隔 12mm 12mm 10mm 10mm 18mm
S2/S1 60.0% 60.0% 66.7% 66.7% 40.0%
H2 30mm 25mm 30mm 25mm 33mm
H2/H1 66.7% 55.6% 66.7% 55.6% 73.3%
【0032】
[試験方法]
図5で示した測定方法で、垂直面に対する傾斜面91aの角度θを40°とし、この傾斜面91aに順次サンプルSA2〜SA6を取り付け、踵形インパクタ92を一定速度3.8m/秒で傾斜面91aに向かって水平に移動させ、インパクタ92の移動位置に応じて圧縮荷重を検出した。そして、試験サンプルの変位x(単位:mm)に対する圧縮荷重(単位:kN)をグラフにするとともに、吸収エネルギー(単位:J)に対する圧縮荷重(単位:kN)をグラフにした。
【0033】
[試験結果]
図14は各試験サンプルの変位に対する圧縮荷重をグラフにした結果であり、図15は吸収エネルギーに対する圧縮荷重をグラフにした結果である。図14に示すように、リブの肉厚L1を18mm(L1/H1を40.0%)または20mm(L1/H1を44.4%)、リブの投影面積の比S2/S1を60.0%または66.7%、リブの延出した長さの比H2/H1を55.6%または66.7%にした横リブサンプルSA3〜SA6では、縦リブサンプルSA2と比べて変位の進行に対する圧縮荷重の上昇が小さくなっている。また、図15に示すように、横リブサンプルSA3〜SA6では、縦リブサンプルSA2と比べて圧縮荷重1.0kNに到達する吸収エネルギーが目標の20Jよりも大きくなっている。
以上より、前後方向の衝撃の入力時に横リブを形成した衝撃吸収体でも衝撃吸収エネルギーが低下せず、衝撃エネルギーを十分に吸収することができるとともに、衝撃吸収体から踵に加わる反力が十分に衝撃エネルギーを吸収する前に過大とならない。従って、良好な衝撃吸収性能が得られることが確認された。
【0034】
[実施例2]
ビーズ状樹脂粒子として株式会社JSP製のポリプロピレンの予備発泡粒子(φ3mm、密度0.033g/cm3)を用い、実車用の衝撃吸収体の形状をした成形型の中に該ビーズ状樹脂粒子を多数充填し、複数の蒸気孔から高温水蒸気を同成形型内に導入して、密度が0.03g/cm3となるように多数のビーズ状樹脂粒子を発泡成形した。この発泡成形品は、厚さH1が45mmであり、水平部の面積が1500cm2、傾斜部の面積が900cm2であった。各試験区のサンプルは、以下のように形成した。ただし、L1はリブの肉厚、S2/S1は本体部の投影面積に対するリブの投影面積の総面積の比、L2はリブの延出した長さである。

試験区 1 比較例
リブの向き 横 縦
L1 18mm 12mm
L1/H1 40.0% 26.7%
リブ間隔 12mm 18mm
S2/S1 60.0% 40.0%
H2 30mm 33mm
H2/H1 66.7% 73.3%

すなわち、試験区1用の衝撃吸収体には、水平部と傾斜部ともに上記条件の横リブを形成した。比較例用の衝撃吸収体には、水平部と傾斜部とも上記条件の縦リブを形成した。
【0035】
[試験方法]
EEC指令(European Economic Community Directives)96/79(前面衝突時の自動車の乗員保護)の附則IIの付録2の5に従って、脛骨底部のモーメントMx(x軸回りの曲げモーメント)と底部TI(脛骨底部のTibia Index)を求めた。ダミー(人形)には、身長178cm、体重約85kgのHybrid-IIIを用いた。ダミーの踵と衝撃吸収体との角度を40°とし、車両の衝突速度を時速55km/hとして、フルラップ前面衝突試験を行った。そして、ダミーの脛骨底部に内蔵された歪み計によって荷重を検出し、モーメントMx(単位:N・m)と底部TIとを求めた。
【0036】
[試験結果]
結果を、表1に示す。
【表1】

縦リブを形成した衝撃吸収体を用いた比較例ではモーメントMxが130N・m、底部TIが0.80であったのに対し、横リブを形成した衝撃吸収体を用いた試験区1ではモーメントMxが60N・m、底部TIが0.25であった。これにより、リブの肉厚L1を18mm(L1/H1を40.0%)、リブの投影面積の比S2/S1を60.0%、リブの延出した長さの比H2/H1を66.7%にした横リブを形成した衝撃吸収体では、縦リブを形成した衝撃吸収体と比べて、足首を中心とした車幅方向への倒れ込みのモーメントが小さくなり、また、下肢障害値を表す底部TIも大幅に小さくなることがわかった。
従って、上述した条件の横リブを形成した衝撃吸収体を用いることにより、衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止して下肢障害値を低減させることが可能になることが確認された。
【0037】
なお、本発明は、種々の変形例が考えられる。
車体パネルが比較的車外側のアウターパネルと比較的車内側のインナーパネルとから構成される場合、このインナーパネルと敷物との間に本発明の衝撃吸収体を設置してもよい。
敷物は、上記フロアカーペット以外にも、フロアマット等でもよい。
上述した衝撃吸収体の厚みH1の条件、衝撃吸収体の密度の条件、横リブの肉厚の比L1/H1の条件、横リブの投影面積の比S2/S1の条件、横リブの延出した長さの比H2/H1の条件は、衝撃吸収体の全体に適用される場合の他、衝撃吸収体の一部のみに適用されてもよく、このような場合も本発明に含まれる。例えば、乗員の踵が置かれる位置を中心とする所定範囲(例えば衝撃吸収体の投影面積に対する比が50%以上)に前記各条件を適用し、当該所定範囲外では衝撃吸収体の耐久性を向上させるためにブロック状とした発泡成形体を衝撃吸収体としてもよい。
【0038】
衝撃吸収体に形成する各横リブは、車幅方向へ並行に形成されていればよく、互いに平行とされていてもよいし、蛇行するように並行に形成されていてもよい。
図16に示すように、衝撃吸収体40に形成する複数の横リブ44をそれぞれ波形に形成して、車幅方向へ向けた溝46を波形に複数並行して形成するようにしてもよい。すると、衝撃入力時にさらに良好な衝撃吸収性能を得ながら足首に加わる車幅方向のモーメントをさらに十分に低減させることができる。なお、波形の横リブは、図に示すように折れ線状の波形でもよいし、曲線状の波形でもよい。
ここで、衝撃吸収体の形状を設計する際に、横リブの肉厚の比L1/H1は横リブの肉厚L1を横リブ44の波の傾きα方向の肉厚として設計すればよい。
各横リブ44の波の傾きαは、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止する観点から、30°以下、より好ましくは20°以下、さらに好ましくは10°以下とすればよい。
【0039】
(3)第二の実施形態:
図17は本発明の第二の実施形態にかかる衝撃吸収体50の要部を図2のA1方向に相当する方向から見て示す側面図、図18は衝撃吸収体の水平部50aの要部を横リブの延出方向とは垂直な面上に投影した様子を示す図、図19は衝撃入力時の衝撃吸収体の作用を垂直断面にて説明する要部断面図、図20は横リブの延出した長さに対する縦リブの延出した長さの比の違いによる吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図である。
本衝撃吸収体50も、図1に示すように、フロアパネル10とフロアカーペット20との間に設置され、フロアパネルの平坦部12上と立壁部14上とに跨って取り付けられる。従って、衝撃吸収体50は、フロアパネルの平坦部12と立壁部14の形状に合わせて、略水平に設けられた水平部50aと、この水平部30aの前縁部から前方に向かって斜め上方に立ち上がった傾斜部50bとを有する形状とされている。
【0040】
衝撃吸収体50も、第一の実施形態と同じ素材で同じ成形手法により形成することができる。本実施形態では、第一の実施形態と同じ理由で、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン/ポリエチレン共重合体、等のビーズ状熱可塑性樹脂に発泡剤を含浸させて所定の倍率に予備発泡させた発泡性樹脂粒子を多数形成した後に衝撃吸収体の形状にした金型の中に前記多数の発泡性樹脂粒子を充填してさらに加熱発泡させて融着成形してビーズ発泡成形体を形成し、衝撃吸収体としている。
【0041】
衝撃吸収体50は、水平部50aと傾斜部50bともに、フロアカーペット20に接する本体部52と、当該本体部からフロアパネル10側へ延出した複数の横リブ54と、当該複数の横リブと交差しながら当該横リブよりも短い長さH3(0<H3<H2)で本体部からフロアパネル10側へ延出した複数の縦リブ56とを有している。衝撃吸収体50の厚みをH1、横リブ54の本体部から延出した長さをH2とすると、本体部52の厚みはH1−H2となる。各横リブ54は、先端がフロアパネル10に接するようにされ、長手方向を自動車の車幅方向に向けて本体部52の車外側面に形成されている。その結果、複数の横リブ54は、衝撃吸収体50の車外側面に車幅方向へ向けた溝55を複数並行して形成する。また、各縦リブ56は、横リブ54の補強リブの機能を有し、先端がフロアパネル10に接しないようにされ、長手方向を自動車の前後方向に向けて本体部52の車外側面に形成されている。なお、複数の縦リブ56は、横リブが無いと仮定すると、衝撃吸収体50の車外側面に前後方向へ向けた溝57を複数並行して形成する。
衝撃吸収体50の厚みH1は、第一の実施形態と同じ理由で、20〜100mm、より好ましくは30〜80mm、さらに好ましくは40〜60mmとしている。
【0042】
本実施形態では、複数の横リブに加えて当該横リブよりも短い長さの縦リブを形成するため、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比L1/H1を15〜50%と、第一の実施形態よりも小さめにしている。
【0043】
以下、衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止するための好適な条件について、説明する。
なお、本体部の投影面積S1とリブの投影面積S2,S3は、以下のようにして求めることにする。
すなわち、横リブと縦リブの延出した方向は同じであり、リブの延出した方向D1とは垂直な面PL1上に当該延出方向D1へ投影したときの本体部52の投影面積をS1とする。図18に示すように、縦リブ56と重なる部分も含めて各横リブ54が全て同じ投影面積Sr1とされて横リブ54の数がNr1であるとすると横リブの投影面積の総面積S2はNr1×Sr1となり、縦リブ56と重なる部分も含めて各溝55が全て同じ投影面積Sg1とされて溝55の数がNg1であるとすると本体部の投影面積S1はS2+Ng1×Sg1となる。また、横リブ54と重なる部分も含めて各縦リブ56が全て同じ投影面積Sr2とされて縦リブ56の数がNr2であるとすると縦リブの投影面積の総面積S3はNr2×Sr2となる。
【0044】
衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比L1/H1を15%、衝撃吸収体の厚みに対する縦リブの肉厚の比L3/H1を15%、衝撃吸収体の厚みに対する横リブの延出した長さの比H2/H1を80%、横リブの延出した長さに対する縦リブの延出した長さの比H3/H2を60%、本体部の投影面積に対する横リブの投影面積の総面積の比S2/S1を10%、本体部の投影面積に対する縦リブの投影面積の総面積の比S3/S1を10%としたとき(条件11とする)、密度と吸収エネルギーとの関係は図10の実線の曲線のようになる。
また、肉厚の比L1/H1を50%、肉厚の比L3/H1を50%、延出した長さの比H2/H1を40%、延出した長さの比H3/H2を40%、投影面積の比S2/S1を60%、投影面積の比S3/S1を60%としたとき(条件12とする)、密度と吸収エネルギーとの関係は図10の破線の曲線のようになる。
従って、条件11,12ともに密度を0.025〜0.10g/cm3にすると、縦リブのみ形成した第一の実施形態の縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、密度0.025g/cm3における吸収エネルギーは条件11より条件12の方が大きく、密度0.10g/cm3における吸収エネルギーは条件12より条件11の方が大きくなる。また、密度を0.025g/cm3以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
【0045】
以上のことから、衝撃吸収体50の密度は、0.025〜0.10g/cm3、より好ましくは0.028〜0.07g/cm3、さらに好ましくは0.03〜0.05g/cm3としている。密度を下限以上にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、密度を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0046】
衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、横リブの延出した長さの比H2/H1を80%、縦リブの延出した長さの比H3/H2を60%、横リブの投影面積の比S2/S1を10%、縦リブの投影面積の比S3/S1を10%としたとき(条件13とする)、L1/H1=L3/H1とした場合のリブの肉厚の比L1/H1=L3/H1と吸収エネルギーとの関係は比L1/H1=L3/H1が15〜50%の範囲で図11の実線のような上に凸の曲線で表される関係となる。そして、少なくとも、横リブの肉厚の比L1/H1を15〜50%、縦リブの肉厚の比L3/H1を15〜50%とすると、吸収エネルギーは20J以上になる。
また、密度を0.10g/cm3、延出した長さの比H2/H1を40%、延出した長さの比H3/H2を40%、投影面積の比S2/S1を60%、投影面積の比S3/S1を60%としたとき(条件14とする)、L1/H1=L3/H1とした場合のリブの肉厚の比L1/H1=L3/H1と吸収エネルギーとの関係は比L1/H1=L3/H1が15〜50%の範囲で図11の破線のような上に凸の曲線で表される関係となる。そして、少なくとも、横リブの肉厚の比L1/H1を15〜50%、縦リブの肉厚の比L3/H1を15〜50%とすると、吸収エネルギーは20J以上になる。
なお、比L1/H1が15%かつ比L3/H1が15%の場合における吸収エネルギーは条件13より条件14の方が大きく、比L1/H1が50%かつ比L3/H1が50%の場合における吸収エネルギーは条件14より条件13の方が大きくなる。また、比L1/H1を15%以上かつ比L3/H1を15%以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
【0047】
以上のことから、横リブの肉厚の比L1/H1は、15〜50%、より好ましくは20〜45%、さらに好ましくは25〜40%としている。さらに、比L1/H1を30〜50%としてもよい。また、縦リブの肉厚の比L3/H1は、15〜50%、より好ましくは20〜55%、さらに好ましくは25〜40%としている。比L1/H1および比L3/L1を下限以上にすることにより、図19に示すように略前後方向の衝撃の入力時に横リブ54が前後方向へ折れても折れた横リブ54aが縦リブ56とフロアパネル10との間に挟まれて横リブの肉厚L1により衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れても縦リブとフロアパネルとの間に挟まれて衝撃吸収エネルギーが低下しないため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比L1/H1および比L3/L1を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0048】
衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を15%、縦リブの肉厚の比L3/H1を15%、縦リブの延出した長さの比H3/H2を60%、横リブの投影面積の比S2/S1を10%、縦リブの投影面積の比S3/S1を10%としたとき(条件15とする)、横リブの延出した長さの比H2/H1と吸収エネルギーとの関係は図13の実線の曲線のようになる。
また、密度を0.10g/cm3、肉厚の比L1/H1を50%、肉厚の比L3/H1を50%、延出した長さの比H3/H2を40%、投影面積の比S2/S1を60%、投影面積の比S3/S1を60%としたとき(条件16とする)、横リブの延出した長さの比H2/H1と吸収エネルギーとの関係は図13の破線の曲線のようになる。
従って、条件15,16ともに横リブの延出した長さの比H2/H1を40〜80%にすると、縦リブのみ形成した第一の実施形態の縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、比H2/H1が80%の場合における吸収エネルギーは条件15より条件16の方が大きく、比H2/H1が40%の場合における吸収エネルギーは条件16より条件15の方が大きくなる。また、比H2/H1を80%以下にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
【0049】
以上のことから、横リブの延出した長さの比H2/H1は、40〜80%、より好ましくは45〜75%、さらに好ましくは50〜70%としている。比H2/H1を上限以下にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブの室内側端部が前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比H2/H1を下限以上にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0050】
図20は、横リブ54の延出した長さH2に対する縦リブ56の延出した長さH3の比H3/H2を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示している。図中、実線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を15%、リブの肉厚の比L3/H1を15%、横リブの延出した長さの比H2/H1を80%、横リブの投影面積の比S2/S1を10%、縦リブの投影面積の比S3/S1を10%としたとき(条件17とする)の関係を示している。また、破線の曲線は、衝撃吸収体の密度を0.10g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を50%、縦リブの肉厚の比L3/H1を50%、横リブの延出した長さの比H2/H1を40%、横リブの投影面積の比S2/S1を60%、縦リブの投影面積の比S3/S1を60%としたとき(条件18とする)の関係を示している。なお、リブ延出長さH2,H3は、図17に示している。
図に示すように、条件17,18ともに比H3/H2を40〜60%にすると、上記縦リブサンプルSA2の吸収エネルギーに相当する20J以上となる。なお、比H3/H2が40%の場合における吸収エネルギーは条件17より条件18の方が大きく、比H3/H2が60%の場合における吸収エネルギーは条件18より条件17の方が大きくなる。また、比H3/H2を40%以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
【0051】
以上のことから、リブ延出長さの比H3/H2は、40〜60%、より好ましくは44〜56%、さらに好ましくは48〜52%としている。比H3/H2を下限以上にすることにより、図19に示すように略前後方向の衝撃の入力時に横リブ54が前後方向へ折れても折れた横リブ54aが縦リブ56とフロアパネル10との間に挟まれて横リブの肉厚L1により衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れても縦リブとフロアパネルとの間に挟まれて衝撃吸収エネルギーが低下しないため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比H3/H2を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0052】
衝撃吸収体の密度を0.025g/cm3、横リブの肉厚の比L1/H1を15%、縦リブの肉厚の比L3/H1を15%、横リブの延出した長さの比H2/H1を80%、縦リブの延出した長さの比H3/H2を60%としたとき(条件19とする)、S2/S1=S3/S1とした場合の投影面積の比S2/S1=S3/S1と吸収エネルギーとの関係は比S2/S1=S3/S1が10〜60%の範囲で図12の実線のような上に凸の曲線で表される関係となる。そして、少なくとも、横リブの投影面積の比S2/S1を10〜60%、縦リブの投影面積の比S3/S1を10〜60%とすると、吸収エネルギーは20J以上になる。
また、密度を0.10g/cm3、肉厚の比L1/H1を50%、肉厚の比L3/H1を50%、横リブの延出した長さの比H2/H1を40%、リブ延出長さの比H3/H2を40%としたとき(条件20とする)、S2/S1=S3/S1とした場合の投影面積の比S2/S1=S3/S1と吸収エネルギーとの関係は比S2/S1=S3/S1が10〜60%の範囲で図12の破線のような上に凸の曲線で表される関係となる。そして、少なくとも、横リブの投影面積の比S2/S1を10〜60%、縦リブの投影面積の比S3/S1を10〜60%とすると、吸収エネルギーは20J以上になる。
なお、比S2/S1が10%かつ比S3/S1が10%の場合における吸収エネルギーは条件19より条件20の方が大きく、比S2/S1が60%かつ比S3/S1が60%の場合における吸収エネルギーは条件19より条件20の方が大きくなる。また、比S2/S1を10%以上かつ比S3/S1を10%以上にすると、モーメントMxは上記縦リブサンプルSA2のモーメントMxよりも確実に小さくなる。
【0053】
以上のことから、横リブ54の投影面積の比S2/S1は、10〜60%、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%としている。さらに、比S2/S1を50〜60%としてもよい。比S2/S1および比S3/S1を下限以上にすることにより、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れにくくなって衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵がフロアパネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れにくいため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。一方、比S2/S1および比S3/S1を上限以下にすることにより、衝撃吸収体から踵に加わる反力が衝撃エネルギーを十分に吸収する前に過大とならず、良好な衝撃吸収性能が得られる。
【0054】
本衝撃吸収体50も、第一の実施形態と同様にして形成することができる。また、密度や、比L1/H1、比L3/H1、比H2/H1、比H3/H2、比S2/S1、比S3/S1も、第一の実施形態と同様にして調節することができる。
【0055】
以下、第二の実施形態に係る衝撃吸収体の作用、効果を説明する。
熱可塑性樹脂を発泡させて厚み20〜100mm、密度0.025〜0.10g/cm3に成形した自動車用衝撃吸収体について、車体パネル側に形成する複数のリブを車幅方向に向けた横リブのみとすると足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを防ぐ効果が得られるが、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが車両前後方向へ折れやすい状態にある。本実施形態では、複数の横リブと交差しながら当該横リブよりも短い長さとされた縦リブが設けられているので、衝撃入力時に横リブが倒れにくくなり、また、横リブが折れても縦リブと車体パネルとの間に挟まれて衝撃エネルギーを十分に吸収し、従来の縦リブのみの衝撃吸収体と同等以上の衝撃吸収性能が得られる。従って、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止し、下肢障害値を低減させたうえ、より安定した衝撃吸収性能を得ることが可能になる。
なお、縦リブと横リブの延出した長さを同一にすると、縦リブと横リブとが交差した部分の圧縮強さが強すぎて衝撃吸収体が強固になり、衝撃入力時に衝撃エネルギーを十分に吸収する前に衝撃吸収体から踵に加わる反力が大きくなってしまう。また、同一の長さの縦リブと横リブとを形成するため、圧縮強さを最適化した場合、1本当たりのリブの肉厚を薄くする必要があり、衝撃入力時にリブが倒れやすくなって縦リブの短い衝撃吸収体と比べて衝撃吸収性能が低くなってしう。さらに、縦リブと横リブの延出した長さを同一にした衝撃吸収体を成形する場合、縦リブの短い衝撃吸収体を成形する場合と比べて成形型の形状がより凸凹となるため、成形型の費用が高くなってしまう。
本実施形態では、横リブより短い縦リブを形成したことにより、衝撃吸収体全体が強固になりすぎず、短時間で多くのエネルギーを吸収しながら乗員の下肢部に過大な荷重が加わらないように歪みを進行させながらエネルギーを吸収することができる。
【0056】
なお、第二の実施形態も、種々の変形例が考えられる。
上述した各種条件は、衝撃吸収体の全体に適用される場合の他、衝撃吸収体の一部のみに適用されてもよく、このような場合も本発明に含まれる。
衝撃吸収体に形成する縦リブは、複数でも、一つでもよい。縦リブを複数設ける場合、各縦リブは、車両前後方向へ並行に形成されていればよく、互いに平行とされていてもよいし、蛇行するように並行に形成されていてもよい。例えば、各縦リブをそれぞれ波形に形成して、前後方向へ向けた溝を波形に複数並行して形成するようにしてもよい。なお、波形の縦リブは、折れ線状の波形でも、曲線状の波形でもよい。各縦リブの波の傾きβは、横リブの前後方向への倒れ込みを適度に防止する観点から、30°以下、より好ましくは20°以下、さらに好ましくは10°以下とすればよい。横リブについても、波形に形成してもよい。
【0057】
熱可塑性樹脂を発泡させて厚み20〜100mm、密度0.025〜0.10g/cm3に成形した衝撃吸収体について、前後方向への衝撃の発生時に折れた横リブが縦リブと車体パネルとの間に挟まれることにより衝撃吸収性能を向上させる観点から、横リブ延出長さH2と縦リブ延出長さH3の差H2−H3を、横リブの肉厚L1の0.8倍以上、横リブの間隔L2以下としてもよい。ただし、0.8<L2/L1とする。すると、略前後方向の衝撃の入力時に横リブが前後方向へ折れても縦リブと車体パネルとの間に確実に挟まれて横リブの肉厚L1により衝撃エネルギーの吸収量が低下せず、踵が車体パネルに接触しないうちに衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。また、横リブが折れても縦リブと車体パネルとの間に挟まれて衝撃吸収エネルギーが低下しないため、足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止することができる。
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、衝撃発生時に良好な衝撃吸収性能を得ながら足首を中心とする車幅方向への倒れ込みを十分に防止して下肢障害値を低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】衝撃吸収体を採用した乗用自動車の要部を垂直断面にて示す要部断面図。
【図2】衝撃吸収体の外観を底面側から見て示す斜視図。
【図3】衝撃吸収体の要部を図2のA1方向から見て示す側面図。
【図4】衝撃吸収体の水平部の要部を投影した様子を示す図。
【図5】衝撃吸収体の衝撃吸収性能を評価する試験方法を模式的に示す側面図。
【図6】衝撃吸収体の変位xに対する圧縮荷重を示すグラフ形式の図。
【図7】衝撃吸収体の吸収エネルギーに対する圧縮荷重を示すグラフ形式の図。
【図8】従来の縦リブを有する衝撃吸収体に衝撃が入力されたときに生じる現象を示す図。
【図9】ダミー人形を用いて車幅方向のモーメントを計測する様子を示す図。
【図10】密度を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図。
【図11】衝撃吸収体の厚みに対する横リブの肉厚の比を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図。
【図12】本体部の投影面積に対する横リブの投影面積の比を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図。
【図13】衝撃吸収体の厚みに対する横リブの延出した長さの比を変化させたときの吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図。
【図14】試験サンプルの変位xに対する圧縮荷重をグラフにした結果を表す図。
【図15】吸収エネルギーに対する圧縮荷重をグラフにした結果を表す図。
【図16】変形例において衝撃吸収体の外観を底面側から見て示す斜視図。
【図17】第二の実施形態において衝撃吸収体の要部を図2のA1方向に相当するから見て示す側面図。
【図18】第二の実施形態において衝撃吸収体の水平部の要部を投影した様子を示す図。
【図19】衝撃入力時の衝撃吸収体の作用を垂直断面にて説明する要部断面図。
【図20】リブの延出した長さの比の違いによる吸収エネルギーの違いを示すグラフ形式の図。
【符号の説明】
【0059】
10…フロアパネル(車体パネル)、
20…フロアカーペット(敷物)、
30,40,50…衝撃吸収体、
30a,50a…水平部、30b,50b…傾斜部、
32,52…本体部、
34,44,54…横リブ、
36,46,55,57…溝、
56…縦リブ、
91…固定台、91a…傾斜面、92…インパクタ、
AB1…衝撃吸収体、
D1…横リブの延出方向、PL1…横リブの延出方向とは垂直な面、
M…乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を発泡させて成形した成形体とされ、自動車の乗員の足下において車体パネルと当該車体パネルよりも車室側に敷設される敷物との間に設置される衝撃吸収体であって、
前記敷物に接する本体部と、
当該本体部から前記車体パネル側へ延出して当該車体パネルに接するとともに長手方向を前記自動車の車幅方向に向けて当該車幅方向へ向けた溝を複数並行して形成する複数の横リブとを有し、
本衝撃吸収体の厚みが20〜100mmであるとともに、
(a)密度が0.025〜0.10g/cm3
(b)前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの肉厚の比が30〜60%、
(c)前記横リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの前記本体部の投影面積に対する前記横リブの投影面積の総面積の比が50〜80%、
とされていることを特徴とする衝撃吸収体。
【請求項2】
前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの延出した長さの比が40〜80%である、請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項3】
前記複数の横リブは、それぞれ波形に形成されて前記車幅方向へ向けた溝を波形に複数並行して形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の衝撃吸収体。
【請求項4】
長手方向を前記自動車の前後方向に向けて前記複数の横リブと交差しながら当該横リブよりも短い長さで前記本体部から前記車体パネル側へ延出した縦リブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収体。
【請求項5】
前記縦リブが複数設けられ、前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの肉厚の比が30〜50%、前記衝撃吸収体の厚みに対する前記縦リブの肉厚の比が15〜50%、前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの延出した長さの比が40〜80%、前記横リブの延出した長さに対する前記縦リブの延出した長さの比が40〜60%である、請求項4に記載の衝撃吸収体。
【請求項6】
前記横リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの前記本体部の投影面積に対する前記横リブの投影面積の総面積の比が50〜60%、前記縦リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの前記本体部の投影面積に対する前記縦リブの投影面積の総面積の比が10〜60%である、請求項5に記載の衝撃吸収体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がポリスチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン/ポリエチレン共重合体のいずれかであり、当該熱可塑性樹脂のビーズ状粒子に発泡剤を含浸させて所定の倍率に予備発泡させた発泡性樹脂粒子を多数形成した後に衝撃吸収体の形状にした成形型の中に前記多数の発泡性樹脂粒子を充填してさらに加熱発泡させて融着成形して形成されたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の衝撃吸収体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂を発泡させて成形した成形体とされ、自動車の乗員の足下において車体パネルと当該車体パネルよりも車室側に敷設される敷物との間に設置される衝撃吸収体であって、
前記敷物に接する本体部と、
当該本体部から前記車体パネル側へ延出して当該車体パネルに接するとともに長手方向を前記自動車の車幅方向に向けて当該車幅方向へ向けた溝を複数並行して形成する複数の横リブと、
長手方向を前記自動車の前後方向に向けて前記複数の横リブと交差しながら当該横リブよりも短い長さで前記本体部から前記車体パネル側へ延出した縦リブとを有することを特徴とする衝撃吸収体。
【請求項9】
前記縦リブが複数設けられ、本衝撃吸収体の厚みが20〜100mm、密度が0.025〜0.10g/cm3、前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの肉厚の比が15〜50%、前記衝撃吸収体の厚みに対する前記縦リブの肉厚の比が15〜50%、前記衝撃吸収体の厚みに対する前記横リブの延出した長さの比が40〜80%、前記横リブの延出した長さに対する前記縦リブの延出した長さの比が40〜60%、前記横リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの前記本体部の投影面積に対する前記横リブの投影面積の総面積の比が10〜60%、前記縦リブの延出方向とは垂直な面上に当該延出方向へ投影したときの前記本体部の投影面積に対する前記縦リブの投影面積の総面積の比が10〜60%、である、請求項8に記載の衝撃吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−1373(P2007−1373A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182018(P2005−182018)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】