衝撃吸収部材
【課題】衝撃吸収特性に優れた衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】小径管4および大径管5の重合部が拡管加工または縮管加工されて、径方向に突出する重合凸部41,51が形成されることにより、両管4,5が連結され、両管4,5のうち、重合凸部41,51の突出方向側に配置される管5を変形管とし、残り一方4を非変形管として、両管4,5に軸心方向に沿って圧縮する衝撃が加わった際に、非変形管4の重合凸部41によって、変形管5の周壁が径方向に塑性変形されつつ、小径管4が大径管5内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようにした衝撃吸収部材を対象とする。このような衝撃吸収部材において、重合凸部41,51の作用領域A2の代表テーパ角度θを3.5°〜12.5°に設定する。
【解決手段】小径管4および大径管5の重合部が拡管加工または縮管加工されて、径方向に突出する重合凸部41,51が形成されることにより、両管4,5が連結され、両管4,5のうち、重合凸部41,51の突出方向側に配置される管5を変形管とし、残り一方4を非変形管として、両管4,5に軸心方向に沿って圧縮する衝撃が加わった際に、非変形管4の重合凸部41によって、変形管5の周壁が径方向に塑性変形されつつ、小径管4が大径管5内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようにした衝撃吸収部材を対象とする。このような衝撃吸収部材において、重合凸部41,51の作用領域A2の代表テーパ角度θを3.5°〜12.5°に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用バンパービームのクラッシュボックス等として用いられる衝撃吸収部材およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントエンドに設けられるバンパーの内側には、衝突時の衝撃を吸収するためにバンパービームが設けられている。
【0003】
バンパービームは、車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、そのバンパーリインフォースを車両構造体に支持する左右一対のクラッシュボックスとを備え、クラッシュボックスの圧縮変形によって衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【0004】
このような衝撃吸収用のクラッシュボックスとしては、特許文献1,2に示すものが周知である。
【0005】
このクラッシュボックスは、一方側半分を構成する小径管部と、他方側半分を構成する大径管部と、両管を接続する段差部とを一体に備え、大径管部の段差部を内側に連続して捲き込ませるように塑性変形させながら、小径管部を大径管部の内部に没入させることによって、衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4436620号
【特許文献2】特表2007−503561号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、衝撃吸収部材としてのクラッシュボックスは、軸心方向(車両前後方向)に圧縮変形させて、衝突エネルギーを吸収するものであるため、圧縮変形が終了した時点で、クラッシュボックスによる衝撃エネルギーの吸収が終了することになり、それ以降は、衝撃が車両構造体に直接加わることになってしまう。従って、このクラッシュボックスの圧縮変位量の最大値が有効ストローク長となる。そして従来より、この有効ストローク長の範囲内で、十分な衝撃エネルギーを吸収できるように、つまり衝撃吸収特性を向上させることができるように、種々の研究、実験が行われている。
【0008】
図11は一般的な自動車のクラッシュボックスを軸心方向に圧縮変形した際の荷重と変位量との関係を示すグラフ(荷重−変位線図)である。この線図を、有効ストローク長S1の範囲内で積分した値が、クラッシュボックスによって吸収されたエネルギー量(実際のEA量)となる。従って、このEA量を増大させることによって、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0009】
有効ストローク長S1の範囲内でEA量を増大させるには、以下の条件(1)〜(3)が重要である。
【0010】
(1)最大荷重が車両構造体の破壊荷重を超えずに極力大きい。
【0011】
(2)初期荷重L1の立ち上がりが早い。つまり変位量が極力少ない時点で初期荷重L1が認められる。
【0012】
(3)変位量にかかわらず、荷重の変動が少なくて、有効ストローク長S1の全範囲内において、荷重が最大荷重に対して極力近似している。
【0013】
図12は上記の条件(1)〜(3)を満足する理想的な荷重−変位線図である。この線分を有効ストローク長S1の範囲内で積分した値が、理想的なEA量となる。
【0014】
従って、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率が高い程、効率良く衝撃エネルギーを吸収でき、優れた衝撃吸収特性を備えていると言える。
【0015】
しかしながら、従来において、車両用クラッシュボックス等の衝撃吸収部材の技術分野においては、有効ストローク長の範囲内において荷重のバラツキが大きく、変位量によって荷重が、最大荷重に対し大きく異なってしまう。このように上記の条件(3)を十分に満足できず、衝撃吸収特性を、より一層向上させることが困難である、という課題があった。
【0016】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、衝撃吸収特性を向上させることができる衝撃吸収部材およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0018】
[1]小径管の端部が大径管の端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工または縮管加工されて、外径方向または内径方向に突出する重合凸部が形成されることにより、両管が連結される一方、両管のうち、前記重合凸部の突出方向側に配置される管を変形管とし、残り一方の管を非変形管として、両管に軸心方向に沿って圧縮する衝撃が加わった際に、前記非変形管の重合凸部によって、前記変形管の周壁が外径方向または内径方向に塑性変形されつつ、前記小径管が前記大径管内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようにした衝撃吸収部材であって、
衝撃吸収時に前記非変形管が前記変形管に対し相対的に移動する方向を後方、その反対方向を前方として、
軸心を含む平面で切断した際の側面断面視状態において、前記非変形管および前記変形管の互いの重合凸部が接触し合う領域を重合凸部接触領域とし、その重合凸部接触領域における外径方向または内径方向への突出量が最大の位置を変形始点とし、前記重合凸部接触領域の後端位置を変形終点とし、
前記重合凸部接触領域のうち、前記変形始点と前記変形終点との間の領域を作用領域とし、その作用領域の軸心方向の長さを基準にして、前記作用領域上における前記変形始点から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点とし、前記変形終点から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点とし、
前記第1および第2代表点を結ぶ直線の軸心に対する角度を代表テーパ角度としたとき、その代表テーパ角度が3.5°〜12.5°に設定されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【0019】
[2]前記非変形管の重合凸部における前記作用領域内の少なくとも一部が、側面断面視状態で直線状のテーパ部に形成される前項1に記載の衝撃吸収部材。
【0020】
[3]前記重合凸部は外径方向に突出する外向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記小径管の前記外向き凸部によって、前記変形管をなす前記大径管の周壁が外径方向に押し広げられるように塑性変形されるようにした前項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【0021】
[4]前記重合凸部は内径方向に突出する内向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記大径管の前記内向き凸部によって、前記変形管をなす前記小径管の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形されるようにした前項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【0022】
[5]前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管における周方向の全域に形成される前項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【0023】
[6]前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管の周方向の一部に形成される前項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【0024】
[7]前項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材を製造する方法であって、
前記小径管および前記大径管の重合部に対し、金型を用いた拡管加工または縮管加工を行って、前記重合凸部を形成するようにしたことを特徴とする衝撃吸収部材の製造方法。
【0025】
[8]バンパーリインフォースを車両構造体に支持する車両用クラッシュボックスであって、
前項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする車両用クラッシュボックス。
【0026】
[9]車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、
前記バンパーリインフォースを車両構造体に支持するクラッシュボックスとを備え、
前記クラッシュボックスが、前項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを前記クラッシュボックスにより吸収するようにしたことを特徴とするバンパービーム。
【発明の効果】
【0027】
発明[1]の衝撃吸収部材によれば、非変形管の重合凸部における作用領域に、緩やかに傾斜する部分が形成されるため、軸心方向の衝突荷重に対しても、変形管の周壁を軸心方向よりも径方向へ優先的に滑らかに変形させることができる。従って、初期荷重を低下させつつ、有効ストローク長の全域において、荷重を初期最大荷重に可及的に近似させることができ、十分な衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0028】
発明[2]の衝撃吸収部材によれば、非変形管の重合凸部における作用領域に、断面直線状のテーパ部が形成されるため、衝撃吸収特性をより確実に向上させることができる。
【0029】
発明[3][4]の衝撃吸収部材によれば、衝撃吸収特性をより一層確実に向上させることができる。
【0030】
発明[5]の衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーの吸収量を増大させることができる。
【0031】
発明[6]の衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーの吸収量を簡単に調整することができる。
【0032】
発明[7]の衝撃吸収部材の製造方法によれば、上記の効果を奏する衝撃吸収部材を確実に得ることができる。
【0033】
発明[8]の車両用クラッシュボックスによれば、上記と同様に衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0034】
発明[9]のバンパービームによれば、上記と同様に衝撃吸収特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1はこの発明の第1実施形態であるクラッシュボックスが適用された自動車用バンパービームを示す平面図である。
【図2】図2は第1実施形態のパンバービームにおけるクラッシュボックスを示す斜視図である。
【図3】図3は第1実施形態のクラッシュボックスを示す側面断面図である。
【図4】図4は第1実施形態のクラッシュボックスを示す正面図である。
【図5】図5は図3の一点鎖線で囲まれる部分を拡大して示す側面断面図である。
【図6A】図6Aは第1実施形態の拡管加工前のクラッシュボックスに拡管金型をセットした状態で示す側面断面図である。
【図6B】図6Bは第1実施形態のクラッシュボックスを拡管加工直後の状態で示す側面断面図である。
【図7】図7はこの発明の第2実施形態であるクラッシュボックスを示す斜視図である。
【図8】図8は第2実施形態のクラッシュボックスにおける要部を拡大して示す側面断面図である。
【図9】図9はこの発明の変形例であるクラッシュボックスを示す斜視図である。
【図10A】図10Aはこの発明の実施例1のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10B】図10Bはこの発明の実施例2のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10C】図10Cはこの発明の実施例3のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10D】図10Dはこの発明の実施例4のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10E】図10Eは比較例1のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10F】図10Fは比較例2のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図11】図11は一般的な自動車用クラッシュボックスの荷重−変位線図である。
【図12】図11は自動車用クラッシュボックスの理想的な荷重−変位線図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態であるクラッシュボックスが適用された自動車用バンパービームを示す平面図である。
【0037】
同図に示すように、この第1実施形態における自動車用バンパービーム1は、自動車のフロントエンドに、車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォース2と、そのバンパーリインフォース2の両側部に、先端部(前端部)が貫通した状態に固定されるクラッシュボックス3,3とを備えている。
【0038】
そしてクラッシュボックス3,3の基端部(後端部)が、バンバ−ステイ7,7を介して、車両構造体としての図示しない一対のサイドメンバ(サイドフレーム)に固定されることにより、バンパービーム1が車体に組み付けられる。
【0039】
図2〜4に示すように、クラッシュボックス3は、衝撃吸収部材として機能するものである。このクラッシュボックス3は、前側(先端側)に配置される小径管4と、後側(基端側)に配置され、かつ小径管4に対し別体の大径管5とを備えている。
【0040】
小径管4および大径管5は、例えばアルミニウムまたはその合金を素材とする押出形材や引抜形材等によって構成されている。
【0041】
もっとも、本発明において、小径管4および大径管5の素材は限定されるものではなく、素材として、銅またはその合金、鉄またはその合金等を用いるようにしても良い。
【0042】
小径管4および大径管5は共に円形の断面を有している。小径管4は大径管5に対し径寸法が小さくて、一回り小さいサイズに形成されており、この小径管4は、大径管5の内部に互いの軸心を一致させつつ挿入可能に構成されている。
【0043】
また小径管4の後端部(基端部)が、大径管5の前端部(先端部)に挿入された状態で、両管4,5が重なり合った部分(重合部)のうち所要部分が、拡管加工(エキスパンド加工)される。これにより重合部に、外径方向に突出する重合凸部としての外向き凸部41,51が形成されて、小径管4側の外向き凸部41が、外径管5側の外向き凸部51の内周面に圧接係合することによって、小径管4が大径管5に締結固定される。
【0044】
なお本第1実施形態においては、外向き凸部41,51は、小径管4および大径管5の周方向に連続し、かつ全周にわたって形成されている。
【0045】
本第1実施形態において、小径管4および大径管5のうち、大径管5が、外向き凸部(重合凸部)41,51の突出方向(管4,5の外径方向)側に配置されるため、大径管5が変形管として構成されるとともに、小径管4が、外向き凸部41,51の反突出方向(管4,5の内径方向)側に配置されるため、この小径管4が残り一方の管をなす非変形管として構成される。従って後述するように、小径管4の外向き凸部41によって、大径管5の周壁を変形できるように、小径管4の強度(変形耐力)が大径管5の強度(変形耐力)よりも強く形成されている。具体的には、小径管4は、大径管5に対し肉厚が厚いものが用いられている。
【0046】
ここで、本発明において、非変形管は、衝撃吸収時に、全く変形しない管というものではなく、所定の衝撃吸収特性を確保できる範囲内において、変形する管であっても良い。具体的に、非変形管は、衝撃吸収時の変形量が変形管の変形量よりも小さいものであれば良い。言うまでもなく、本発明において、非変形管は、衝撃吸収時に全く変形しない管も含まれる。
【0047】
また本発明において、変形管は、衝撃エネルギーの吸収によって変形するものであり、通常使用時に変形するものではない。
【0048】
本実施形態においては、特に外向き凸部41,51の構成に特徴を有しているため、以下に外向き凸部41,51の詳細な構成を、図5の要部拡大断面図を参照しつつ説明する。
【0049】
なお以下の説明では、図5の側面断面視の状態、つまり軸心を含む平面で切断した際の断面視の状態で説明する。さらに後述する衝撃吸収時に非変形管(小径管)4が変形管(大径管)5に対し軸心方向に沿って相対的に移動する方向(図5の右方向)を後方とし、その反対方向(同図の左方向)を前方として説明する。
【0050】
まず小径管4および大径管5の互いの外向き凸部41,51が接触または圧接し合う領域を、重合凸部接触領域(重合凸部圧接領域)A1とする。さらにその重合凸部接触領域A1における外径方向への突出量が最大の位置を変形始点P1とし、重合凸部接触領域A1の後端位置を変形終点P2とする。
【0051】
また重合凸部接触領域A1のうち、変形始点P1と変形終点P2との間の領域を作用領域A2とする。さらに作用領域A2の軸心方向の長さを基準にして、つまりその長さを100%としたときに、作用領域A2上における変形始点P1から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点Q1とし、作用領域A2上における変形終点P2から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点Q2とする。
【0052】
また第1代表点Q1および第2代表点Q2を通る直線を、代表直線Tとし、軸心方向の直線Xに対する代表直線Tの角度、つまり軸心に対する代表直線Tの角度を代表テーパ角度θとする。
【0053】
そして本第1実施形態においては、代表テーパ角度θを、3.5°〜12.5°に設定する必要があり、より好ましくは、3.5°〜10°に設定するのが良い。
【0054】
すなわちこの代表テーパ角度θが上記の特定範囲内に設定される場合には、後の実施例から明らかなように、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率(対理想EA値)が高くなり、優れた衝撃吸収特性を得ることができる。換言すると、代表テーパ角度θが大き過ぎる場合には、対理想EA値が小さくなり、良好な衝撃吸収特性を得ることが困難になり、好ましくない。また代表テーパ角度θが小さ過ぎる場合には、クラッシュボックス3の長さが非常に長くなり、エネルギー吸収部材として好ましくない。
【0055】
なお、本第1実施形態のクラッシュボックス3において、小径管4の外向き凸部41における第1および第2代表点Q1,Q2間に対応する部分は、側面断面視において直線状に形成されて、テーパ部45を構成している。
【0056】
本第1実施形態において、外向き凸部41,51は、拡管金型(エキスパンドダイ)を用いた拡管加工によって一度に形成するものである。
【0057】
すなわち図6A,6Bに示すように本第1実施形態で用いられる拡管金型6は、両管4,5の重合部に挿通される割型61を備えている。割型61は、周方向に分割された複数の型セグメント(ダイセグメント)を備え、小径管4の内周形状に対応して、略円柱形状に形成されている。なお図6A,6Bにおいて、一点鎖線は中心線(軸心)を示している。
【0058】
割型61の外周面には、両管3,4における外向き凸部41,51を形成する予定の位置に対応して、押圧凸部62が形成されている。言うまでもなく、この押圧凸部62の外周面形状は、外向き凸部41,51の内周面形状に対応して形成されている。
【0059】
さらに割型61には、軸心方向に沿って、楔挿入部63が設けられている。楔挿入部63の内周面は、円錐形状または多角錐形状に形成されている。
【0060】
また拡管金型6を拡管駆動するマンドレル65は、割型61の楔挿入部63に対応して、楔66を備えている。この楔66は先端部が先細り状に形成されて、外周面形状が、楔挿入部63の内周面形状に対応して、円錐形状または多角錐形状に形成されている。なお、楔66の外周面のテーパ角度は、楔挿入部63の内周面のテーパ角度に等しくなるように設定されている。
【0061】
そして拡管金型6における割型61の楔挿入部63に、マンドレル65の楔66が挿入されると、割型61の各型セグメントが、楔66によって外径方向に押されて、外径方向に変位するようになっている。
【0062】
この拡管金型6を用いて、小径管4および大径管5に外向き凸部41,51を形成するには、図6Aに示すように、凸部形成前の小径管4の基端部を大径管5の先端部に嵌合(遊嵌)した状態に配置する。続いて、両管4,5内に、割型61を挿入配置して、割型61の押圧凸部62を、両管4,5の重合部における凸部形成予定部に配置する。
【0063】
そしてこの状態において、図6Bに示すようにマンドレル65を軸心に沿って押圧することにより、楔66を楔挿入部63に強制的に差し込む。これにより、割型61の各型セグメントを外径方向に変位させて、両管4,5における凸部形成予定部を拡管加工する。
【0064】
この拡管加工によって、既述したように、両管4,5の凸部形成予定部を局所的に外径方向に押し広げて、両管4,5に外径方向に突出する外向き凸部41,51を形成する。これにより、小径管4側の外向き凸部41の外周面が大径管5の外向き凸部51の内周面に圧接係合されて、小径管4が大径管5に締結固定される。
【0065】
なお本実施形態においては、割型に対しマンドレルを押し込むプッシュ(Push)式の拡管加工方法を用いているが、それだけに限られず、本発明においては、マンドレルを引き込むプル(Pull)式の拡管加工方法も採用することができる。そして本実施形態のように、金型を用いた拡管加工を用いることによって、外向き凸部41,51を精度良く確実に形成することができる。
【0066】
図1に示すようにバンパーリインフォース2は、アルミニウムまたはその合金を素材とする押出型材、板材、引抜型材等や、鋼材を素材とする板プレス製品等によって構成されている。
【0067】
このバンパーリインフォース2は、断面四角形(長方形)等の中空形状に形成されている。なお、強度等を向上させるために、バンパーリインフォース2の中空部内に、間仕切り壁等の補強壁を形成するようにしても良い。
【0068】
さらにバンパーリインフォース2は、平面視において、車幅方向の両側部が後方へ曲げ加工されることによって、中間部が前方へ少し張り出すように形成されている。
【0069】
そして2本のクラッシュボックス3における小径管4の前部(先端部)が、バンパーリインフォース2の両側端部に前後方向に貫通配置された状態で固定される。
【0070】
この固定方法としては、上記と同様な拡管加工方法を用いることができる。例えば、小径管4におけるバンパーリインフォース2の貫通部の前後両側に、上記と同様な拡管加工によって、外径方向に突出し、かつ周方向に連続する拡管部48をそれぞれ形成する。そしてこの拡管部48をバンパーリインフォース2の貫通部周縁部に圧接係合させることにより、クラッシュボックス2の小径管4をバンパーリインフォース2に連結固定する。
【0071】
本実施形態においては、小径管4のバンパーリインフォース2への取付作業(拡管部48の形成作業)と、小径管4および大径管5の連結(外向き凸部41,51の形成作業)とを同時に行うことも可能である。この際には、生産性を向上させることができる。
【0072】
なお言うまでもなく、クラッシュボックス3のバンパーリインフォース2への固定方法は、拡管加工だけに限られず、溶接やボルト止め等の他の固定手段を用いても良い。
【0073】
こうしてバンパーリインフォース2にクラッシュボックス3が取り付けられて、バンパービーム1が組み立てられる。
【0074】
さらにバンバ−ビーム1が、バンパーステイ7,7を介して車両構造体に組み付けられる。
【0075】
すなわち、バンパーステイ7は、アルミニウムまたはその合金製の成形品等によって形成されている。
【0076】
そしてクラッシュボックス3の大径管5の後端部(基端部)が、バンパーステイ7の中央部に貫通配置された状態で固定される。
【0077】
この固定方法としても、上記と同様な拡管加工方法を用いることができる。例えば大径管5におけるバンパーステイ7の貫通部の前後両側に、拡管加工によって、外径方向に突出し、かつ周方向に連続する拡管部58をそれぞれ形成する。そしてこの拡管部58をパンバーステイ7の貫通部周縁部に圧接係合させることにより、クラッシュボックス3にバンパーステイ7を組み付ける。
【0078】
このクラッシュボックス3のバンパーステイ7への組付作業も、上記した小径管4および大径管5の連結作業や、クラッシュボックス3のバンパーリインフォース2への組付作業と同時に行うようにしても良い。この際には、生産性を向上させることができる。
【0079】
なお、クラッシュボックス3のバンパーステイ7への固定方法は、拡管加工だけに限られず、溶接やボルト止め等の他の固定手段を用いても良い。
【0080】
またバンパーステイ7,7が取り付けられたバンパービーム1を車両に組み付けるには、バンパーステイ7,7を、車両のサイドメンバ(サイドフレーム)の前端部にボルト止めや溶接処理等の固定手段によって固定する。
【0081】
こうしてバンパービーム1が車両に組み付けられて自動車用衝撃吸収装置が形成されるものである。
【0082】
このバンパービーム1において、図2,3に示す初期状態で、バンパーリインフォース2への衝突によって、クラッシュボックス3を軸心方向に圧縮する方向に衝撃(荷重)が加わった際には、小径管4が、その外向き凸部41によって大径管5の周壁を外径方向に押し広げるように塑性変形(拡径変形)させながら、大径管5内に圧入されていき、そのときの拡径変形によって衝突エネルギーが吸収される。
【0083】
以上のように、本第1実施形態のバンパービーム1によれば、クラッシュボックス3における小径管4の外向き凸部41によって大径管5の周壁を連続して拡径変形させるものであるため、拡径変形による荷重は、軸心方向の変位量にかかわらず、変動が小さくほぼ一定となり、最大荷重との差が小さくなる。このため、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率が高くなり、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0084】
しかも、本第1実施形態のクラッシュボックス3では、変形初期の最大荷重(初期荷重)は、小径管4の外向き凸部41による大径管5の拡径方向の変形に基づくものであるため、初期荷重が小さくなって、それ以降の荷重との差も小さくなり、衝突直後から衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性を一層向上させることができる。
【0085】
その上さらに、本実施形態のクラッシュボックス3によれば、代表テーパ角度θを上記特定の範囲に設定しているため、小径管4の外向き凸部41における塑性変形に関与する作用領域A1が、緩やかな傾斜する傾斜部に形成される。このため、衝撃吸収時には、その緩やかな傾斜部によって、大径管5の周壁を拡径変形させるため、軸心方向の衝突荷重に対しても、大径管5の周壁を軸心方向よりも外径方向に優先的に変形させることができる。特に本第1実施形態においては、小径管4の外向き凸部41における作用領域A2に、断面直線状のテーパ部45を形成しているため、衝撃吸収時に、そのテーパ部45によって、大径管5の周壁を外径方向に滑らかに変形させることができる。従って、初期の最大荷重を低下させつつ、有効ストローク長の全域において、荷重を最大荷重に可及的に近似させることができ、十分な衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性をより一層向上させることができる。
【0086】
また、外向き凸部41の高さを変更して、大径管5の周壁の拡径方向の変形量を変更するだけで簡単に、エネルギー吸収量の調整を行うことができるため、車種等に応じて、荷重レベルの調整を簡単に行うことができ、優れた汎用性を得ることができる。
【0087】
なお上記第1実施形態においては、クラッシュボックス3の外向き凸部41,51を周方向に連続し、かつ全周にわたって形成するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、図9に示すように、クラッシュボックス3に、複数の重合凸部41,51を周方向に所定の間隔おきに形成しても良いし、クラッシュボックス3の周方向に部分的に、1つの重合凸部を形成するようにしても良い。
【0088】
このように重合凸部の周方向の長さを変更することによっても、エネルギー吸収量の調整を行うことができ、この点においても、荷重レベルの調整を簡単に行うことができる。
【0089】
<第2実施形態>
図7はこの発明の第2実施形態であるクラッシュボックスを示す斜視図、図8はそのクラッシュボックスの要部を拡大して示す側面断面図である。
【0090】
これらの図に示すように、この第2実施形態のクラッシュボックス3が、上記第1実施形態のクラッシュボックス3と相違する点は、第1実施形態では、小径管4および大径管5の重合部に、重合凸部として外向き凸部41,51が形成されているのに対し、この第2実施形態では、両管4,5の重合部に、重合凸部として内向き凸部42,52が形成されている点である。
【0091】
すなわち、小径管4および大径管5の重合部のうち所要部分を、縮管金型を用いて縮管加工する。これにより、重合部に、内径方向に突出し、かつ周方向に全周にわたって連続する重合凸部としての内向き凸部42,52を形成する。そして、大径管5側の内向き凸部52を、小径管4側の内向き凸部42の内周面に圧接係合することによって、小径管4を大径管5に締結固定する。
【0092】
本第2実施形態においては、小径管4および大径管5のうち、小径管4が、内向き凸部42,52の突出方向(管4,5の内径方向)側に配置されるため、小径管4が変形管として構成されるとともに、大径管5が、内向き凸部42,52の反突出方向(管4,5の外径方向)側に配置されているため、この大径管5が残り一方の管をなす非変形管として構成される。従って、外径管5の内向き凸部52によって、小径管4の周壁を変形できるように、大径管5として小径管4よりも肉厚が厚いものが用いられ、大径管5の強度(変形耐力)が小径管4のそれよりも強く形成されている。
【0093】
この第2実施形態のクラッシュボックス3においても、以下に詳述するように、上記第1実施形態と同様に、大径管5の内向き凸部52における小径管4の周壁を塑性変形させる部分に、断面直線状部分(テーパ部55)が形成されるとともに、代表テーパ角度θが所定の範囲に設定されている。
【0094】
なお、本第2実施形態においても、衝撃吸収時に非変形管(大径管)5が変形管(小径管)4に対し軸心方向に沿って相対的に移動する方向、つまり図8の左方向を後方とし、その反対方向(同図の右方向)を前方として説明する。従って、この第2実施形態のクラッシュボックス3では、図5に示す第1実施形態のクラッシュボックス3に対し、前後方向の向きが逆向きになっている。
【0095】
まず、小径管4および大径管5の互いの内向き凸部42,52が接触または圧接し合う領域を、重合凸部接触領域(重合凸部圧接領域)A1とする。さらにその重合凸部接触領域A1における内径方向への突出量が最大の位置を変形始点P1とし、重合凸部接触領域A1の後端位置を変形終点P2とする。
【0096】
また重合凸部接触領域A1うち、変形始点P1と変形終点P2との間の領域を作用領域A2とする。さらに作用領域A2の軸心方向の長さを基準にして、つまりその長さを100%として、作用領域A2上における変形始点P1から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点Q1とし、作用領域A2上における変形終点P2から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点Q2とする。
【0097】
また第1代表点Q1および第2代表点Q2を通る直線を、代表直線Tとし、軸心と平行な直線Xに対する代表直線Tの角度、つまり軸心に対する代表直線Tの角度を代表テーパ角度θとする。
【0098】
そして本第2実施形態においては、代表テーパ角度θが、上記第1実施形態と同様に、3.5°〜12.5°に設定する必要があり、より好ましくは、3.5°〜10°に設定するのが良い。
【0099】
なお、本第2実施形態のクラッシュボックス3において、既述したように、大径管5の内向き凸部52における第1および第2代表点Q1,Q2間に、側面断面視において直線状のテーパ部55が形成されている。
【0100】
本第2実施形態において、他の構成は、上記第1実施形態と実質的に同様であるため、同一部分または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0101】
この第2実施形態のクラッシュボックス3においては、衝突時に、軸心方向に沿って圧縮する方向の荷重が加わると、大径管5の内向き凸部52によって小径管4の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形(縮径変形)しながら、小径管4が大径管5内に圧入されていく。そしてそのときの縮径変形によって衝突エネルギーが吸収される。
【0102】
この第2実施形態のクラッシュボックス3においても、上記第1実施形態と同様、大径管5の内向き凸部52によって小径管4の周壁を連続して縮径変形させるものであるため、軸心方向の変位量にかかわらず、荷重は、その変動が小さくほぼ一定となり、最大荷重との差が小さくなり、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0103】
しかも、このクラッシュボックス3においても、変形初期の最大荷重(初期荷重)は、大径管5の内向き凸部52による小径管4の縮径方向の変形に基づくものであるため、初期荷重が小さくなって、それ以降の荷重との差も小さくなり、衝突直後から衝突エネルギーをスムーズに吸収することができ、衝撃吸収特性を一層向上させることができる。
【0104】
さらにこのクラッシュボックス3においても、代表テーパ角度θを上記特定の範囲に設定しているため、大径管5の内向き凸部52における作用領域A2内に、緩やかな傾斜する傾斜部が形成される。このため、衝撃吸収時には、その緩やかな傾斜部によって、小径管4の周壁を拡径変形させるため、軸心方向の衝突荷重に対しても、小径管4の周壁を軸心方向よりも内径方向に優先的に変形させることができる。特に本第2実施形態においては、大径管5の内向き凸部51における作用領域A2に、断面直線状のテーパ部55を形成しているため、衝撃吸収時に、そのテーパ部55によって、小径管4の周壁を内径方向に滑らかに変形させることができる。従って、初期の最大荷重を低下させつつ、有効ストローク長の全域において、荷重を最大荷重に可及的に近似させることができ、十分な衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性をより一層向上させることができる。
【0105】
また、本第2実施形態においても、内向き凸部52の高さを変更して、小径管4の周壁の縮径方向の変形量を変更するだけで簡単に、エネルギー吸収量を調整することができる。
【0106】
なお本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、内向き凸部42,52を必ずしも全周にわたって形成する必要はなく、周方向に部分的に形成するようにしても良い。そして内向き凸部42,52の周方向の長さを変更することによって、上記第1実施形態と同様に、エネルギー吸収量を調整することができる。
【0107】
<他の変形例>
上記実施形態においては、小径管4および大径管5として断面円形のものを用いているが、小径管および大径管の断面形状は、特に限定されるものではなく、四角形等の多角形状、楕円形状、長円形状、異形状の断面形状の小径管および大径管を用いるようにしても良い。さらに小径管と大径管とを必ずしも相似形に形成する必要はなく、小径管を大径管内に挿入できる形状であれば、小径管と大径管とを異なる断面形状に形成するようにしても良い。
【0108】
また上記実施形態においては、変形管側の重合凸部における作用領域内に、断面視で直線状の部分(テーパ部45,55)を形成しているが、それだけに限られず、本発明においては、重合凸部の作用領域内に、断面直線状の部分を必ずしも形成する必要がない。例えば重合凸部の作用領域全体を、断面視で円弧状やS字状等の曲線状に形成するようにしていも良い。
【0109】
さらに本発明において、重合凸部の作用領域内に直線状のテーパ部を形成する場合、非変形管側の重合凸部における第1および第2代表点間の全て部分を、必ずしも直線状に形成する必要はなく、重合凸部の作用領域内の一部を、直線状に形成するようにすれば良い。
【0110】
また上記実施形態においては、本発明の衝撃吸収部材としてのクラッシュボックスを、自動車のフロントエンドに設けられるバンパ−のバンパービームに適用した場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明の衝撃吸収部材は、大型車両のフロントアンダーランプロテクタのクラッシュボックス、さらには歩行者保護用や乗務員保護用のクラッシュボックスにも適用することができる。
【0111】
また、本発明の衝撃吸収部材は、自動車のリアエンドに設けられるバンパービームにも採用することができる。リアエンドに設けられる場合には、言うまでもなく、先端側が後側となり、基端側が前側となる。
【0112】
また上記実施形態においては、非変形管を変形管に対し肉厚を厚くして変形管よりも強度を強くするようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、肉厚が同じであっても、小径管および大径管のうち、一方の管と他方の管との素材を異ならせることにより、強度差を付けるようにしても良い。例えば一方の管を銅製、他方の管をアルミニウム製としたり、一方の管を鉄製、他方の管をアルミニウム製としたり、一方の管を銅製、他方の管を鉄製としたりすることにより、両管に強度差を付けるようにしても良い。また同じ材質であっても、加工法を異ならせること等によって、両管に強度差を付けるようにしても良い。
【実施例】
【0113】
以下に、本発明に関連した実施例と、本発明の要旨を逸脱する比較例とについて説明する。
【0114】
<実施例1>
肉厚2.0mm、外径φ66mmのアルミニウム合金製小径管(非変形管)4の基端部を、肉厚1.5mm、内径φ67mmのアルミニウム合金製大径管(変形管)5の先端部内に挿入し、その重ね合わせた部分(重合部)に拡管加工によって、拡管量(突出量)1.0mmの外向き凸部(重合凸部)41,51を全周にわたって形成して、両管4,5を締結固定することにより、上記第1実施形態と同様なクラッシュボックス3を形成した。このクラッシュボックス3の有効ストローク長は40mmに設定した。
【0115】
この場合、上記第1実施形態と同様に、小径管4の外向き凸部41における代表点Q1,Q2間を、側面断面視状態において直線状に形成して、テーパ部45としている。さらに代表テーパ角度θを3.5°に設定した。
【0116】
そしてこのクラッシュボックス3について、軸心方向に圧縮変形する衝突荷重が加わった際の荷重と、変位量との関係(荷重−変位線図)を求めた。その結果を図10Aに示す。
【0117】
また荷重−変位線図を基に、実施例1のクラッシュボックスによって吸収された実際のエネルギー量(実際のEA量)と、実施例1のクラッシュボックスによって最大限吸収できる理想的なエネルギー量(理想的なEA量)とを算出した。そして、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率(実際のEA量/理想的なEA量)で表される対理想EA値を百分率で求めた。その結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示すように、実施例1のクラッシュボックスは、対理想EA値は、92.1%で非常に高いものであり、衝撃吸収特性が非常に優れているのが判る。
【0120】
<実施例2>
表1に示すように、代表テーパ角度θを5.0°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Bに示すように荷重−変位線図を求め、表1に示すように対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスにおいても、対理想EA値が94.8%と非常に高いものであり、衝撃吸収特性が非常に優れているのが判る。
【0121】
<実施例3>
表1に示すように、代表テーパ角度θを10.0°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Cおよび表1に示すように荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスにおいても、対理想EA値が90.0%と非常に高いものであり、衝撃吸収特性が非常に優れているのが判る。
【0122】
<実施例4>
表1に示すように、代表テーパ角度θを12.5°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Dおよび表1に示すように、荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスにおいても、対理想EA値が83.3%とに高いものであり、衝撃吸収特性に優れているのが判る。
【0123】
<比較例1>
表1に示すように、代表テーパ角度θを15.0°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Eおよび表1に示すように、荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスでは、対理想EA値が78.8%とに低いものであり、衝撃吸収特性に劣っているのが判る。
【0124】
<比較例2>
小径管4の外向き凸部41における作用領域A2に、断面直線状の部分(テーパ部)が形成されないように、つまり外向き凸部41の作用領域A2の部分が、2つの円弧線が繋がったS字カーブの曲線状に形成されるように、小径管4および大径管5の重合部に拡管加工を行い、それ以外は、上記実施例1と同様にしてクラッシュボックスを作製した。なお表1に示すように、代表テーパ角度θは20.0°であった。
【0125】
そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Fおよび表1に示すように、荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスでは、対理想EA値が77.9%とに低いものであり、衝撃吸収特性に劣っているのが判る。
【0126】
<評価>
表1および図10A〜10Fから明らかなようにように、小径管4の外向き凸部41における作用領域A2内に断面直線状のテーパ部45が形成され、かつ代表テーパ角度θが「3.5°」「5.0°」「10.0°」「12.5°」の実施例1〜4のクラッシュボックスは、代表テーパ角度θが15.0°と大きい比較例1のクラッシュボックスや、作用領域A2内に断面直線状のテーパ部がなく、かつ代表テーパ角度θも20.0°と非常に大きい比較例2のクラッシュボックスに比べて、対理想EA値が高くなっており、衝撃吸収特性に優れていた。
【0127】
特に代表テーパ角度θが「3.5°」「5.0°」「10.0°」のクラッシュボックスは、対理想EA値が90%を超えて、非常に高くなっており、衝撃吸収特性に非常に優れていた。
【0128】
以上の評価結果から明らかなように、代表テーパ角度θが、3.5°〜12.5°、より好ましくは、3.5°〜10°に設定されたクラッシュボックスは、衝撃吸収特性に優れているのが判る。
【0129】
さらに小径管4の外向き凸部41における作用領域4内に、断面直線状のテーパ部を形成する場合には、衝撃吸収特性がさらに向上しているのが判る。
【産業上の利用可能性】
【0130】
この発明の衝撃吸収部材は、自動車用のバンパービームのクラッシュボックス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0131】
1:バンパービーム
2:バンパーリインフォース
3:クラッシュボックス(衝撃吸収部材)
4:小径管
41:外向き凸部(重合凸部)
42:内向き凸部(重合凸部)
45:テーパ部
5:大径管
51:外向き凸部(重合凸部)
52:内向き凸部(重合凸部)
55:テーパ部
6:拡管金型
A1:重合凸部接触領域
A2:作用領域
P1:変形始点
P2:変形終点
Q1:第1代表点
Q2:第2代表点
θ:代表テーパ角度
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用バンパービームのクラッシュボックス等として用いられる衝撃吸収部材およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントエンドに設けられるバンパーの内側には、衝突時の衝撃を吸収するためにバンパービームが設けられている。
【0003】
バンパービームは、車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、そのバンパーリインフォースを車両構造体に支持する左右一対のクラッシュボックスとを備え、クラッシュボックスの圧縮変形によって衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【0004】
このような衝撃吸収用のクラッシュボックスとしては、特許文献1,2に示すものが周知である。
【0005】
このクラッシュボックスは、一方側半分を構成する小径管部と、他方側半分を構成する大径管部と、両管を接続する段差部とを一体に備え、大径管部の段差部を内側に連続して捲き込ませるように塑性変形させながら、小径管部を大径管部の内部に没入させることによって、衝突エネルギーを吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4436620号
【特許文献2】特表2007−503561号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、衝撃吸収部材としてのクラッシュボックスは、軸心方向(車両前後方向)に圧縮変形させて、衝突エネルギーを吸収するものであるため、圧縮変形が終了した時点で、クラッシュボックスによる衝撃エネルギーの吸収が終了することになり、それ以降は、衝撃が車両構造体に直接加わることになってしまう。従って、このクラッシュボックスの圧縮変位量の最大値が有効ストローク長となる。そして従来より、この有効ストローク長の範囲内で、十分な衝撃エネルギーを吸収できるように、つまり衝撃吸収特性を向上させることができるように、種々の研究、実験が行われている。
【0008】
図11は一般的な自動車のクラッシュボックスを軸心方向に圧縮変形した際の荷重と変位量との関係を示すグラフ(荷重−変位線図)である。この線図を、有効ストローク長S1の範囲内で積分した値が、クラッシュボックスによって吸収されたエネルギー量(実際のEA量)となる。従って、このEA量を増大させることによって、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0009】
有効ストローク長S1の範囲内でEA量を増大させるには、以下の条件(1)〜(3)が重要である。
【0010】
(1)最大荷重が車両構造体の破壊荷重を超えずに極力大きい。
【0011】
(2)初期荷重L1の立ち上がりが早い。つまり変位量が極力少ない時点で初期荷重L1が認められる。
【0012】
(3)変位量にかかわらず、荷重の変動が少なくて、有効ストローク長S1の全範囲内において、荷重が最大荷重に対して極力近似している。
【0013】
図12は上記の条件(1)〜(3)を満足する理想的な荷重−変位線図である。この線分を有効ストローク長S1の範囲内で積分した値が、理想的なEA量となる。
【0014】
従って、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率が高い程、効率良く衝撃エネルギーを吸収でき、優れた衝撃吸収特性を備えていると言える。
【0015】
しかしながら、従来において、車両用クラッシュボックス等の衝撃吸収部材の技術分野においては、有効ストローク長の範囲内において荷重のバラツキが大きく、変位量によって荷重が、最大荷重に対し大きく異なってしまう。このように上記の条件(3)を十分に満足できず、衝撃吸収特性を、より一層向上させることが困難である、という課題があった。
【0016】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、衝撃吸収特性を向上させることができる衝撃吸収部材およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0018】
[1]小径管の端部が大径管の端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工または縮管加工されて、外径方向または内径方向に突出する重合凸部が形成されることにより、両管が連結される一方、両管のうち、前記重合凸部の突出方向側に配置される管を変形管とし、残り一方の管を非変形管として、両管に軸心方向に沿って圧縮する衝撃が加わった際に、前記非変形管の重合凸部によって、前記変形管の周壁が外径方向または内径方向に塑性変形されつつ、前記小径管が前記大径管内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようにした衝撃吸収部材であって、
衝撃吸収時に前記非変形管が前記変形管に対し相対的に移動する方向を後方、その反対方向を前方として、
軸心を含む平面で切断した際の側面断面視状態において、前記非変形管および前記変形管の互いの重合凸部が接触し合う領域を重合凸部接触領域とし、その重合凸部接触領域における外径方向または内径方向への突出量が最大の位置を変形始点とし、前記重合凸部接触領域の後端位置を変形終点とし、
前記重合凸部接触領域のうち、前記変形始点と前記変形終点との間の領域を作用領域とし、その作用領域の軸心方向の長さを基準にして、前記作用領域上における前記変形始点から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点とし、前記変形終点から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点とし、
前記第1および第2代表点を結ぶ直線の軸心に対する角度を代表テーパ角度としたとき、その代表テーパ角度が3.5°〜12.5°に設定されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【0019】
[2]前記非変形管の重合凸部における前記作用領域内の少なくとも一部が、側面断面視状態で直線状のテーパ部に形成される前項1に記載の衝撃吸収部材。
【0020】
[3]前記重合凸部は外径方向に突出する外向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記小径管の前記外向き凸部によって、前記変形管をなす前記大径管の周壁が外径方向に押し広げられるように塑性変形されるようにした前項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【0021】
[4]前記重合凸部は内径方向に突出する内向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記大径管の前記内向き凸部によって、前記変形管をなす前記小径管の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形されるようにした前項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【0022】
[5]前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管における周方向の全域に形成される前項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【0023】
[6]前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管の周方向の一部に形成される前項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【0024】
[7]前項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材を製造する方法であって、
前記小径管および前記大径管の重合部に対し、金型を用いた拡管加工または縮管加工を行って、前記重合凸部を形成するようにしたことを特徴とする衝撃吸収部材の製造方法。
【0025】
[8]バンパーリインフォースを車両構造体に支持する車両用クラッシュボックスであって、
前項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする車両用クラッシュボックス。
【0026】
[9]車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、
前記バンパーリインフォースを車両構造体に支持するクラッシュボックスとを備え、
前記クラッシュボックスが、前項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを前記クラッシュボックスにより吸収するようにしたことを特徴とするバンパービーム。
【発明の効果】
【0027】
発明[1]の衝撃吸収部材によれば、非変形管の重合凸部における作用領域に、緩やかに傾斜する部分が形成されるため、軸心方向の衝突荷重に対しても、変形管の周壁を軸心方向よりも径方向へ優先的に滑らかに変形させることができる。従って、初期荷重を低下させつつ、有効ストローク長の全域において、荷重を初期最大荷重に可及的に近似させることができ、十分な衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0028】
発明[2]の衝撃吸収部材によれば、非変形管の重合凸部における作用領域に、断面直線状のテーパ部が形成されるため、衝撃吸収特性をより確実に向上させることができる。
【0029】
発明[3][4]の衝撃吸収部材によれば、衝撃吸収特性をより一層確実に向上させることができる。
【0030】
発明[5]の衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーの吸収量を増大させることができる。
【0031】
発明[6]の衝撃吸収部材によれば、衝突エネルギーの吸収量を簡単に調整することができる。
【0032】
発明[7]の衝撃吸収部材の製造方法によれば、上記の効果を奏する衝撃吸収部材を確実に得ることができる。
【0033】
発明[8]の車両用クラッシュボックスによれば、上記と同様に衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0034】
発明[9]のバンパービームによれば、上記と同様に衝撃吸収特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1はこの発明の第1実施形態であるクラッシュボックスが適用された自動車用バンパービームを示す平面図である。
【図2】図2は第1実施形態のパンバービームにおけるクラッシュボックスを示す斜視図である。
【図3】図3は第1実施形態のクラッシュボックスを示す側面断面図である。
【図4】図4は第1実施形態のクラッシュボックスを示す正面図である。
【図5】図5は図3の一点鎖線で囲まれる部分を拡大して示す側面断面図である。
【図6A】図6Aは第1実施形態の拡管加工前のクラッシュボックスに拡管金型をセットした状態で示す側面断面図である。
【図6B】図6Bは第1実施形態のクラッシュボックスを拡管加工直後の状態で示す側面断面図である。
【図7】図7はこの発明の第2実施形態であるクラッシュボックスを示す斜視図である。
【図8】図8は第2実施形態のクラッシュボックスにおける要部を拡大して示す側面断面図である。
【図9】図9はこの発明の変形例であるクラッシュボックスを示す斜視図である。
【図10A】図10Aはこの発明の実施例1のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10B】図10Bはこの発明の実施例2のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10C】図10Cはこの発明の実施例3のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10D】図10Dはこの発明の実施例4のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10E】図10Eは比較例1のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図10F】図10Fは比較例2のクラッシュボックスにおける荷重−変位線図である。
【図11】図11は一般的な自動車用クラッシュボックスの荷重−変位線図である。
【図12】図11は自動車用クラッシュボックスの理想的な荷重−変位線図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<第1実施形態>
図1はこの発明の第1実施形態であるクラッシュボックスが適用された自動車用バンパービームを示す平面図である。
【0037】
同図に示すように、この第1実施形態における自動車用バンパービーム1は、自動車のフロントエンドに、車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォース2と、そのバンパーリインフォース2の両側部に、先端部(前端部)が貫通した状態に固定されるクラッシュボックス3,3とを備えている。
【0038】
そしてクラッシュボックス3,3の基端部(後端部)が、バンバ−ステイ7,7を介して、車両構造体としての図示しない一対のサイドメンバ(サイドフレーム)に固定されることにより、バンパービーム1が車体に組み付けられる。
【0039】
図2〜4に示すように、クラッシュボックス3は、衝撃吸収部材として機能するものである。このクラッシュボックス3は、前側(先端側)に配置される小径管4と、後側(基端側)に配置され、かつ小径管4に対し別体の大径管5とを備えている。
【0040】
小径管4および大径管5は、例えばアルミニウムまたはその合金を素材とする押出形材や引抜形材等によって構成されている。
【0041】
もっとも、本発明において、小径管4および大径管5の素材は限定されるものではなく、素材として、銅またはその合金、鉄またはその合金等を用いるようにしても良い。
【0042】
小径管4および大径管5は共に円形の断面を有している。小径管4は大径管5に対し径寸法が小さくて、一回り小さいサイズに形成されており、この小径管4は、大径管5の内部に互いの軸心を一致させつつ挿入可能に構成されている。
【0043】
また小径管4の後端部(基端部)が、大径管5の前端部(先端部)に挿入された状態で、両管4,5が重なり合った部分(重合部)のうち所要部分が、拡管加工(エキスパンド加工)される。これにより重合部に、外径方向に突出する重合凸部としての外向き凸部41,51が形成されて、小径管4側の外向き凸部41が、外径管5側の外向き凸部51の内周面に圧接係合することによって、小径管4が大径管5に締結固定される。
【0044】
なお本第1実施形態においては、外向き凸部41,51は、小径管4および大径管5の周方向に連続し、かつ全周にわたって形成されている。
【0045】
本第1実施形態において、小径管4および大径管5のうち、大径管5が、外向き凸部(重合凸部)41,51の突出方向(管4,5の外径方向)側に配置されるため、大径管5が変形管として構成されるとともに、小径管4が、外向き凸部41,51の反突出方向(管4,5の内径方向)側に配置されるため、この小径管4が残り一方の管をなす非変形管として構成される。従って後述するように、小径管4の外向き凸部41によって、大径管5の周壁を変形できるように、小径管4の強度(変形耐力)が大径管5の強度(変形耐力)よりも強く形成されている。具体的には、小径管4は、大径管5に対し肉厚が厚いものが用いられている。
【0046】
ここで、本発明において、非変形管は、衝撃吸収時に、全く変形しない管というものではなく、所定の衝撃吸収特性を確保できる範囲内において、変形する管であっても良い。具体的に、非変形管は、衝撃吸収時の変形量が変形管の変形量よりも小さいものであれば良い。言うまでもなく、本発明において、非変形管は、衝撃吸収時に全く変形しない管も含まれる。
【0047】
また本発明において、変形管は、衝撃エネルギーの吸収によって変形するものであり、通常使用時に変形するものではない。
【0048】
本実施形態においては、特に外向き凸部41,51の構成に特徴を有しているため、以下に外向き凸部41,51の詳細な構成を、図5の要部拡大断面図を参照しつつ説明する。
【0049】
なお以下の説明では、図5の側面断面視の状態、つまり軸心を含む平面で切断した際の断面視の状態で説明する。さらに後述する衝撃吸収時に非変形管(小径管)4が変形管(大径管)5に対し軸心方向に沿って相対的に移動する方向(図5の右方向)を後方とし、その反対方向(同図の左方向)を前方として説明する。
【0050】
まず小径管4および大径管5の互いの外向き凸部41,51が接触または圧接し合う領域を、重合凸部接触領域(重合凸部圧接領域)A1とする。さらにその重合凸部接触領域A1における外径方向への突出量が最大の位置を変形始点P1とし、重合凸部接触領域A1の後端位置を変形終点P2とする。
【0051】
また重合凸部接触領域A1のうち、変形始点P1と変形終点P2との間の領域を作用領域A2とする。さらに作用領域A2の軸心方向の長さを基準にして、つまりその長さを100%としたときに、作用領域A2上における変形始点P1から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点Q1とし、作用領域A2上における変形終点P2から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点Q2とする。
【0052】
また第1代表点Q1および第2代表点Q2を通る直線を、代表直線Tとし、軸心方向の直線Xに対する代表直線Tの角度、つまり軸心に対する代表直線Tの角度を代表テーパ角度θとする。
【0053】
そして本第1実施形態においては、代表テーパ角度θを、3.5°〜12.5°に設定する必要があり、より好ましくは、3.5°〜10°に設定するのが良い。
【0054】
すなわちこの代表テーパ角度θが上記の特定範囲内に設定される場合には、後の実施例から明らかなように、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率(対理想EA値)が高くなり、優れた衝撃吸収特性を得ることができる。換言すると、代表テーパ角度θが大き過ぎる場合には、対理想EA値が小さくなり、良好な衝撃吸収特性を得ることが困難になり、好ましくない。また代表テーパ角度θが小さ過ぎる場合には、クラッシュボックス3の長さが非常に長くなり、エネルギー吸収部材として好ましくない。
【0055】
なお、本第1実施形態のクラッシュボックス3において、小径管4の外向き凸部41における第1および第2代表点Q1,Q2間に対応する部分は、側面断面視において直線状に形成されて、テーパ部45を構成している。
【0056】
本第1実施形態において、外向き凸部41,51は、拡管金型(エキスパンドダイ)を用いた拡管加工によって一度に形成するものである。
【0057】
すなわち図6A,6Bに示すように本第1実施形態で用いられる拡管金型6は、両管4,5の重合部に挿通される割型61を備えている。割型61は、周方向に分割された複数の型セグメント(ダイセグメント)を備え、小径管4の内周形状に対応して、略円柱形状に形成されている。なお図6A,6Bにおいて、一点鎖線は中心線(軸心)を示している。
【0058】
割型61の外周面には、両管3,4における外向き凸部41,51を形成する予定の位置に対応して、押圧凸部62が形成されている。言うまでもなく、この押圧凸部62の外周面形状は、外向き凸部41,51の内周面形状に対応して形成されている。
【0059】
さらに割型61には、軸心方向に沿って、楔挿入部63が設けられている。楔挿入部63の内周面は、円錐形状または多角錐形状に形成されている。
【0060】
また拡管金型6を拡管駆動するマンドレル65は、割型61の楔挿入部63に対応して、楔66を備えている。この楔66は先端部が先細り状に形成されて、外周面形状が、楔挿入部63の内周面形状に対応して、円錐形状または多角錐形状に形成されている。なお、楔66の外周面のテーパ角度は、楔挿入部63の内周面のテーパ角度に等しくなるように設定されている。
【0061】
そして拡管金型6における割型61の楔挿入部63に、マンドレル65の楔66が挿入されると、割型61の各型セグメントが、楔66によって外径方向に押されて、外径方向に変位するようになっている。
【0062】
この拡管金型6を用いて、小径管4および大径管5に外向き凸部41,51を形成するには、図6Aに示すように、凸部形成前の小径管4の基端部を大径管5の先端部に嵌合(遊嵌)した状態に配置する。続いて、両管4,5内に、割型61を挿入配置して、割型61の押圧凸部62を、両管4,5の重合部における凸部形成予定部に配置する。
【0063】
そしてこの状態において、図6Bに示すようにマンドレル65を軸心に沿って押圧することにより、楔66を楔挿入部63に強制的に差し込む。これにより、割型61の各型セグメントを外径方向に変位させて、両管4,5における凸部形成予定部を拡管加工する。
【0064】
この拡管加工によって、既述したように、両管4,5の凸部形成予定部を局所的に外径方向に押し広げて、両管4,5に外径方向に突出する外向き凸部41,51を形成する。これにより、小径管4側の外向き凸部41の外周面が大径管5の外向き凸部51の内周面に圧接係合されて、小径管4が大径管5に締結固定される。
【0065】
なお本実施形態においては、割型に対しマンドレルを押し込むプッシュ(Push)式の拡管加工方法を用いているが、それだけに限られず、本発明においては、マンドレルを引き込むプル(Pull)式の拡管加工方法も採用することができる。そして本実施形態のように、金型を用いた拡管加工を用いることによって、外向き凸部41,51を精度良く確実に形成することができる。
【0066】
図1に示すようにバンパーリインフォース2は、アルミニウムまたはその合金を素材とする押出型材、板材、引抜型材等や、鋼材を素材とする板プレス製品等によって構成されている。
【0067】
このバンパーリインフォース2は、断面四角形(長方形)等の中空形状に形成されている。なお、強度等を向上させるために、バンパーリインフォース2の中空部内に、間仕切り壁等の補強壁を形成するようにしても良い。
【0068】
さらにバンパーリインフォース2は、平面視において、車幅方向の両側部が後方へ曲げ加工されることによって、中間部が前方へ少し張り出すように形成されている。
【0069】
そして2本のクラッシュボックス3における小径管4の前部(先端部)が、バンパーリインフォース2の両側端部に前後方向に貫通配置された状態で固定される。
【0070】
この固定方法としては、上記と同様な拡管加工方法を用いることができる。例えば、小径管4におけるバンパーリインフォース2の貫通部の前後両側に、上記と同様な拡管加工によって、外径方向に突出し、かつ周方向に連続する拡管部48をそれぞれ形成する。そしてこの拡管部48をバンパーリインフォース2の貫通部周縁部に圧接係合させることにより、クラッシュボックス2の小径管4をバンパーリインフォース2に連結固定する。
【0071】
本実施形態においては、小径管4のバンパーリインフォース2への取付作業(拡管部48の形成作業)と、小径管4および大径管5の連結(外向き凸部41,51の形成作業)とを同時に行うことも可能である。この際には、生産性を向上させることができる。
【0072】
なお言うまでもなく、クラッシュボックス3のバンパーリインフォース2への固定方法は、拡管加工だけに限られず、溶接やボルト止め等の他の固定手段を用いても良い。
【0073】
こうしてバンパーリインフォース2にクラッシュボックス3が取り付けられて、バンパービーム1が組み立てられる。
【0074】
さらにバンバ−ビーム1が、バンパーステイ7,7を介して車両構造体に組み付けられる。
【0075】
すなわち、バンパーステイ7は、アルミニウムまたはその合金製の成形品等によって形成されている。
【0076】
そしてクラッシュボックス3の大径管5の後端部(基端部)が、バンパーステイ7の中央部に貫通配置された状態で固定される。
【0077】
この固定方法としても、上記と同様な拡管加工方法を用いることができる。例えば大径管5におけるバンパーステイ7の貫通部の前後両側に、拡管加工によって、外径方向に突出し、かつ周方向に連続する拡管部58をそれぞれ形成する。そしてこの拡管部58をパンバーステイ7の貫通部周縁部に圧接係合させることにより、クラッシュボックス3にバンパーステイ7を組み付ける。
【0078】
このクラッシュボックス3のバンパーステイ7への組付作業も、上記した小径管4および大径管5の連結作業や、クラッシュボックス3のバンパーリインフォース2への組付作業と同時に行うようにしても良い。この際には、生産性を向上させることができる。
【0079】
なお、クラッシュボックス3のバンパーステイ7への固定方法は、拡管加工だけに限られず、溶接やボルト止め等の他の固定手段を用いても良い。
【0080】
またバンパーステイ7,7が取り付けられたバンパービーム1を車両に組み付けるには、バンパーステイ7,7を、車両のサイドメンバ(サイドフレーム)の前端部にボルト止めや溶接処理等の固定手段によって固定する。
【0081】
こうしてバンパービーム1が車両に組み付けられて自動車用衝撃吸収装置が形成されるものである。
【0082】
このバンパービーム1において、図2,3に示す初期状態で、バンパーリインフォース2への衝突によって、クラッシュボックス3を軸心方向に圧縮する方向に衝撃(荷重)が加わった際には、小径管4が、その外向き凸部41によって大径管5の周壁を外径方向に押し広げるように塑性変形(拡径変形)させながら、大径管5内に圧入されていき、そのときの拡径変形によって衝突エネルギーが吸収される。
【0083】
以上のように、本第1実施形態のバンパービーム1によれば、クラッシュボックス3における小径管4の外向き凸部41によって大径管5の周壁を連続して拡径変形させるものであるため、拡径変形による荷重は、軸心方向の変位量にかかわらず、変動が小さくほぼ一定となり、最大荷重との差が小さくなる。このため、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率が高くなり、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0084】
しかも、本第1実施形態のクラッシュボックス3では、変形初期の最大荷重(初期荷重)は、小径管4の外向き凸部41による大径管5の拡径方向の変形に基づくものであるため、初期荷重が小さくなって、それ以降の荷重との差も小さくなり、衝突直後から衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性を一層向上させることができる。
【0085】
その上さらに、本実施形態のクラッシュボックス3によれば、代表テーパ角度θを上記特定の範囲に設定しているため、小径管4の外向き凸部41における塑性変形に関与する作用領域A1が、緩やかな傾斜する傾斜部に形成される。このため、衝撃吸収時には、その緩やかな傾斜部によって、大径管5の周壁を拡径変形させるため、軸心方向の衝突荷重に対しても、大径管5の周壁を軸心方向よりも外径方向に優先的に変形させることができる。特に本第1実施形態においては、小径管4の外向き凸部41における作用領域A2に、断面直線状のテーパ部45を形成しているため、衝撃吸収時に、そのテーパ部45によって、大径管5の周壁を外径方向に滑らかに変形させることができる。従って、初期の最大荷重を低下させつつ、有効ストローク長の全域において、荷重を最大荷重に可及的に近似させることができ、十分な衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性をより一層向上させることができる。
【0086】
また、外向き凸部41の高さを変更して、大径管5の周壁の拡径方向の変形量を変更するだけで簡単に、エネルギー吸収量の調整を行うことができるため、車種等に応じて、荷重レベルの調整を簡単に行うことができ、優れた汎用性を得ることができる。
【0087】
なお上記第1実施形態においては、クラッシュボックス3の外向き凸部41,51を周方向に連続し、かつ全周にわたって形成するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、図9に示すように、クラッシュボックス3に、複数の重合凸部41,51を周方向に所定の間隔おきに形成しても良いし、クラッシュボックス3の周方向に部分的に、1つの重合凸部を形成するようにしても良い。
【0088】
このように重合凸部の周方向の長さを変更することによっても、エネルギー吸収量の調整を行うことができ、この点においても、荷重レベルの調整を簡単に行うことができる。
【0089】
<第2実施形態>
図7はこの発明の第2実施形態であるクラッシュボックスを示す斜視図、図8はそのクラッシュボックスの要部を拡大して示す側面断面図である。
【0090】
これらの図に示すように、この第2実施形態のクラッシュボックス3が、上記第1実施形態のクラッシュボックス3と相違する点は、第1実施形態では、小径管4および大径管5の重合部に、重合凸部として外向き凸部41,51が形成されているのに対し、この第2実施形態では、両管4,5の重合部に、重合凸部として内向き凸部42,52が形成されている点である。
【0091】
すなわち、小径管4および大径管5の重合部のうち所要部分を、縮管金型を用いて縮管加工する。これにより、重合部に、内径方向に突出し、かつ周方向に全周にわたって連続する重合凸部としての内向き凸部42,52を形成する。そして、大径管5側の内向き凸部52を、小径管4側の内向き凸部42の内周面に圧接係合することによって、小径管4を大径管5に締結固定する。
【0092】
本第2実施形態においては、小径管4および大径管5のうち、小径管4が、内向き凸部42,52の突出方向(管4,5の内径方向)側に配置されるため、小径管4が変形管として構成されるとともに、大径管5が、内向き凸部42,52の反突出方向(管4,5の外径方向)側に配置されているため、この大径管5が残り一方の管をなす非変形管として構成される。従って、外径管5の内向き凸部52によって、小径管4の周壁を変形できるように、大径管5として小径管4よりも肉厚が厚いものが用いられ、大径管5の強度(変形耐力)が小径管4のそれよりも強く形成されている。
【0093】
この第2実施形態のクラッシュボックス3においても、以下に詳述するように、上記第1実施形態と同様に、大径管5の内向き凸部52における小径管4の周壁を塑性変形させる部分に、断面直線状部分(テーパ部55)が形成されるとともに、代表テーパ角度θが所定の範囲に設定されている。
【0094】
なお、本第2実施形態においても、衝撃吸収時に非変形管(大径管)5が変形管(小径管)4に対し軸心方向に沿って相対的に移動する方向、つまり図8の左方向を後方とし、その反対方向(同図の右方向)を前方として説明する。従って、この第2実施形態のクラッシュボックス3では、図5に示す第1実施形態のクラッシュボックス3に対し、前後方向の向きが逆向きになっている。
【0095】
まず、小径管4および大径管5の互いの内向き凸部42,52が接触または圧接し合う領域を、重合凸部接触領域(重合凸部圧接領域)A1とする。さらにその重合凸部接触領域A1における内径方向への突出量が最大の位置を変形始点P1とし、重合凸部接触領域A1の後端位置を変形終点P2とする。
【0096】
また重合凸部接触領域A1うち、変形始点P1と変形終点P2との間の領域を作用領域A2とする。さらに作用領域A2の軸心方向の長さを基準にして、つまりその長さを100%として、作用領域A2上における変形始点P1から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点Q1とし、作用領域A2上における変形終点P2から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点Q2とする。
【0097】
また第1代表点Q1および第2代表点Q2を通る直線を、代表直線Tとし、軸心と平行な直線Xに対する代表直線Tの角度、つまり軸心に対する代表直線Tの角度を代表テーパ角度θとする。
【0098】
そして本第2実施形態においては、代表テーパ角度θが、上記第1実施形態と同様に、3.5°〜12.5°に設定する必要があり、より好ましくは、3.5°〜10°に設定するのが良い。
【0099】
なお、本第2実施形態のクラッシュボックス3において、既述したように、大径管5の内向き凸部52における第1および第2代表点Q1,Q2間に、側面断面視において直線状のテーパ部55が形成されている。
【0100】
本第2実施形態において、他の構成は、上記第1実施形態と実質的に同様であるため、同一部分または相当部分に同一符号を付して、重複説明は省略する。
【0101】
この第2実施形態のクラッシュボックス3においては、衝突時に、軸心方向に沿って圧縮する方向の荷重が加わると、大径管5の内向き凸部52によって小径管4の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形(縮径変形)しながら、小径管4が大径管5内に圧入されていく。そしてそのときの縮径変形によって衝突エネルギーが吸収される。
【0102】
この第2実施形態のクラッシュボックス3においても、上記第1実施形態と同様、大径管5の内向き凸部52によって小径管4の周壁を連続して縮径変形させるものであるため、軸心方向の変位量にかかわらず、荷重は、その変動が小さくほぼ一定となり、最大荷重との差が小さくなり、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0103】
しかも、このクラッシュボックス3においても、変形初期の最大荷重(初期荷重)は、大径管5の内向き凸部52による小径管4の縮径方向の変形に基づくものであるため、初期荷重が小さくなって、それ以降の荷重との差も小さくなり、衝突直後から衝突エネルギーをスムーズに吸収することができ、衝撃吸収特性を一層向上させることができる。
【0104】
さらにこのクラッシュボックス3においても、代表テーパ角度θを上記特定の範囲に設定しているため、大径管5の内向き凸部52における作用領域A2内に、緩やかな傾斜する傾斜部が形成される。このため、衝撃吸収時には、その緩やかな傾斜部によって、小径管4の周壁を拡径変形させるため、軸心方向の衝突荷重に対しても、小径管4の周壁を軸心方向よりも内径方向に優先的に変形させることができる。特に本第2実施形態においては、大径管5の内向き凸部51における作用領域A2に、断面直線状のテーパ部55を形成しているため、衝撃吸収時に、そのテーパ部55によって、小径管4の周壁を内径方向に滑らかに変形させることができる。従って、初期の最大荷重を低下させつつ、有効ストローク長の全域において、荷重を最大荷重に可及的に近似させることができ、十分な衝突エネルギーをスムーズに吸収できて、衝撃吸収特性をより一層向上させることができる。
【0105】
また、本第2実施形態においても、内向き凸部52の高さを変更して、小径管4の周壁の縮径方向の変形量を変更するだけで簡単に、エネルギー吸収量を調整することができる。
【0106】
なお本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、内向き凸部42,52を必ずしも全周にわたって形成する必要はなく、周方向に部分的に形成するようにしても良い。そして内向き凸部42,52の周方向の長さを変更することによって、上記第1実施形態と同様に、エネルギー吸収量を調整することができる。
【0107】
<他の変形例>
上記実施形態においては、小径管4および大径管5として断面円形のものを用いているが、小径管および大径管の断面形状は、特に限定されるものではなく、四角形等の多角形状、楕円形状、長円形状、異形状の断面形状の小径管および大径管を用いるようにしても良い。さらに小径管と大径管とを必ずしも相似形に形成する必要はなく、小径管を大径管内に挿入できる形状であれば、小径管と大径管とを異なる断面形状に形成するようにしても良い。
【0108】
また上記実施形態においては、変形管側の重合凸部における作用領域内に、断面視で直線状の部分(テーパ部45,55)を形成しているが、それだけに限られず、本発明においては、重合凸部の作用領域内に、断面直線状の部分を必ずしも形成する必要がない。例えば重合凸部の作用領域全体を、断面視で円弧状やS字状等の曲線状に形成するようにしていも良い。
【0109】
さらに本発明において、重合凸部の作用領域内に直線状のテーパ部を形成する場合、非変形管側の重合凸部における第1および第2代表点間の全て部分を、必ずしも直線状に形成する必要はなく、重合凸部の作用領域内の一部を、直線状に形成するようにすれば良い。
【0110】
また上記実施形態においては、本発明の衝撃吸収部材としてのクラッシュボックスを、自動車のフロントエンドに設けられるバンパ−のバンパービームに適用した場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明の衝撃吸収部材は、大型車両のフロントアンダーランプロテクタのクラッシュボックス、さらには歩行者保護用や乗務員保護用のクラッシュボックスにも適用することができる。
【0111】
また、本発明の衝撃吸収部材は、自動車のリアエンドに設けられるバンパービームにも採用することができる。リアエンドに設けられる場合には、言うまでもなく、先端側が後側となり、基端側が前側となる。
【0112】
また上記実施形態においては、非変形管を変形管に対し肉厚を厚くして変形管よりも強度を強くするようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、肉厚が同じであっても、小径管および大径管のうち、一方の管と他方の管との素材を異ならせることにより、強度差を付けるようにしても良い。例えば一方の管を銅製、他方の管をアルミニウム製としたり、一方の管を鉄製、他方の管をアルミニウム製としたり、一方の管を銅製、他方の管を鉄製としたりすることにより、両管に強度差を付けるようにしても良い。また同じ材質であっても、加工法を異ならせること等によって、両管に強度差を付けるようにしても良い。
【実施例】
【0113】
以下に、本発明に関連した実施例と、本発明の要旨を逸脱する比較例とについて説明する。
【0114】
<実施例1>
肉厚2.0mm、外径φ66mmのアルミニウム合金製小径管(非変形管)4の基端部を、肉厚1.5mm、内径φ67mmのアルミニウム合金製大径管(変形管)5の先端部内に挿入し、その重ね合わせた部分(重合部)に拡管加工によって、拡管量(突出量)1.0mmの外向き凸部(重合凸部)41,51を全周にわたって形成して、両管4,5を締結固定することにより、上記第1実施形態と同様なクラッシュボックス3を形成した。このクラッシュボックス3の有効ストローク長は40mmに設定した。
【0115】
この場合、上記第1実施形態と同様に、小径管4の外向き凸部41における代表点Q1,Q2間を、側面断面視状態において直線状に形成して、テーパ部45としている。さらに代表テーパ角度θを3.5°に設定した。
【0116】
そしてこのクラッシュボックス3について、軸心方向に圧縮変形する衝突荷重が加わった際の荷重と、変位量との関係(荷重−変位線図)を求めた。その結果を図10Aに示す。
【0117】
また荷重−変位線図を基に、実施例1のクラッシュボックスによって吸収された実際のエネルギー量(実際のEA量)と、実施例1のクラッシュボックスによって最大限吸収できる理想的なエネルギー量(理想的なEA量)とを算出した。そして、理想的なEA量に対する実際のEA量の比率(実際のEA量/理想的なEA量)で表される対理想EA値を百分率で求めた。その結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示すように、実施例1のクラッシュボックスは、対理想EA値は、92.1%で非常に高いものであり、衝撃吸収特性が非常に優れているのが判る。
【0120】
<実施例2>
表1に示すように、代表テーパ角度θを5.0°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Bに示すように荷重−変位線図を求め、表1に示すように対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスにおいても、対理想EA値が94.8%と非常に高いものであり、衝撃吸収特性が非常に優れているのが判る。
【0121】
<実施例3>
表1に示すように、代表テーパ角度θを10.0°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Cおよび表1に示すように荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスにおいても、対理想EA値が90.0%と非常に高いものであり、衝撃吸収特性が非常に優れているのが判る。
【0122】
<実施例4>
表1に示すように、代表テーパ角度θを12.5°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Dおよび表1に示すように、荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスにおいても、対理想EA値が83.3%とに高いものであり、衝撃吸収特性に優れているのが判る。
【0123】
<比較例1>
表1に示すように、代表テーパ角度θを15.0°に設定した以外は、上記実施例1と同様にして、クラッシュボックスを作製した。そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Eおよび表1に示すように、荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスでは、対理想EA値が78.8%とに低いものであり、衝撃吸収特性に劣っているのが判る。
【0124】
<比較例2>
小径管4の外向き凸部41における作用領域A2に、断面直線状の部分(テーパ部)が形成されないように、つまり外向き凸部41の作用領域A2の部分が、2つの円弧線が繋がったS字カーブの曲線状に形成されるように、小径管4および大径管5の重合部に拡管加工を行い、それ以外は、上記実施例1と同様にしてクラッシュボックスを作製した。なお表1に示すように、代表テーパ角度θは20.0°であった。
【0125】
そしてこのクラッシュボックスに対し、図10Fおよび表1に示すように、荷重−変位線図を求めて、対理想EA値を求めた。このクラッシュボックスでは、対理想EA値が77.9%とに低いものであり、衝撃吸収特性に劣っているのが判る。
【0126】
<評価>
表1および図10A〜10Fから明らかなようにように、小径管4の外向き凸部41における作用領域A2内に断面直線状のテーパ部45が形成され、かつ代表テーパ角度θが「3.5°」「5.0°」「10.0°」「12.5°」の実施例1〜4のクラッシュボックスは、代表テーパ角度θが15.0°と大きい比較例1のクラッシュボックスや、作用領域A2内に断面直線状のテーパ部がなく、かつ代表テーパ角度θも20.0°と非常に大きい比較例2のクラッシュボックスに比べて、対理想EA値が高くなっており、衝撃吸収特性に優れていた。
【0127】
特に代表テーパ角度θが「3.5°」「5.0°」「10.0°」のクラッシュボックスは、対理想EA値が90%を超えて、非常に高くなっており、衝撃吸収特性に非常に優れていた。
【0128】
以上の評価結果から明らかなように、代表テーパ角度θが、3.5°〜12.5°、より好ましくは、3.5°〜10°に設定されたクラッシュボックスは、衝撃吸収特性に優れているのが判る。
【0129】
さらに小径管4の外向き凸部41における作用領域4内に、断面直線状のテーパ部を形成する場合には、衝撃吸収特性がさらに向上しているのが判る。
【産業上の利用可能性】
【0130】
この発明の衝撃吸収部材は、自動車用のバンパービームのクラッシュボックス等に適用可能である。
【符号の説明】
【0131】
1:バンパービーム
2:バンパーリインフォース
3:クラッシュボックス(衝撃吸収部材)
4:小径管
41:外向き凸部(重合凸部)
42:内向き凸部(重合凸部)
45:テーパ部
5:大径管
51:外向き凸部(重合凸部)
52:内向き凸部(重合凸部)
55:テーパ部
6:拡管金型
A1:重合凸部接触領域
A2:作用領域
P1:変形始点
P2:変形終点
Q1:第1代表点
Q2:第2代表点
θ:代表テーパ角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径管の端部が大径管の端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工または縮管加工されて、外径方向または内径方向に突出する重合凸部が形成されることにより、両管が連結される一方、両管のうち、前記重合凸部の突出方向側に配置される管を変形管とし、残り一方の管を非変形管として、両管に軸心方向に沿って圧縮する衝撃が加わった際に、前記非変形管の重合凸部によって、前記変形管の周壁が外径方向または内径方向に塑性変形されつつ、前記小径管が前記大径管内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようにした衝撃吸収部材であって、
衝撃吸収時に前記非変形管が前記変形管に対し相対的に移動する方向を後方、その反対方向を前方として、
軸心を含む平面で切断した際の側面断面視状態において、前記非変形管および前記変形管の互いの重合凸部が接触し合う領域を重合凸部接触領域とし、その重合凸部接触領域における外径方向または内径方向への突出量が最大の位置を変形始点とし、前記重合凸部接触領域の後端位置を変形終点とし、
前記重合凸部接触領域のうち、前記変形始点と前記変形終点との間の領域を作用領域とし、その作用領域の軸心方向の長さを基準にして、前記作用領域上における前記変形始点から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点とし、前記変形終点から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点とし、
前記第1および第2代表点を結ぶ直線の軸心に対する角度を代表テーパ角度としたとき、その代表テーパ角度が3.5°〜12.5°に設定されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記非変形管の重合凸部における前記作用領域内の少なくとも一部が、側面断面視状態で直線状のテーパ部に形成される請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記重合凸部は外径方向に突出する外向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記小径管の前記外向き凸部によって、前記変形管をなす前記大径管の周壁が外径方向に押し広げられるように塑性変形されるようにした請求項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記重合凸部は内径方向に突出する内向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記大径管の前記内向き凸部によって、前記変形管をなす前記小径管の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形されるようにした請求項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管における周方向の全域に形成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管の周方向の一部に形成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材を製造する方法であって、
前記小径管および前記大径管の重合部に対し、金型を用いた拡管加工または縮管加工を行って、前記重合凸部を形成するようにしたことを特徴とする衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項8】
バンパーリインフォースを車両構造体に支持する車両用クラッシュボックスであって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする車両用クラッシュボックス。
【請求項9】
車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、
前記バンパーリインフォースを車両構造体に支持するクラッシュボックスとを備え、
前記クラッシュボックスが、請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを前記クラッシュボックスにより吸収するようにしたことを特徴とするバンパービーム。
【請求項1】
小径管の端部が大径管の端部に挿入された状態で、両管の重合部が拡管加工または縮管加工されて、外径方向または内径方向に突出する重合凸部が形成されることにより、両管が連結される一方、両管のうち、前記重合凸部の突出方向側に配置される管を変形管とし、残り一方の管を非変形管として、両管に軸心方向に沿って圧縮する衝撃が加わった際に、前記非変形管の重合凸部によって、前記変形管の周壁が外径方向または内径方向に塑性変形されつつ、前記小径管が前記大径管内に圧入されることにより、衝撃エネルギーが吸収されるようにした衝撃吸収部材であって、
衝撃吸収時に前記非変形管が前記変形管に対し相対的に移動する方向を後方、その反対方向を前方として、
軸心を含む平面で切断した際の側面断面視状態において、前記非変形管および前記変形管の互いの重合凸部が接触し合う領域を重合凸部接触領域とし、その重合凸部接触領域における外径方向または内径方向への突出量が最大の位置を変形始点とし、前記重合凸部接触領域の後端位置を変形終点とし、
前記重合凸部接触領域のうち、前記変形始点と前記変形終点との間の領域を作用領域とし、その作用領域の軸心方向の長さを基準にして、前記作用領域上における前記変形始点から軸心方向に沿って後方へ20%移動した位置を第1代表点とし、前記変形終点から軸心方向に沿って前方へ20%移動した位置を第2代表点とし、
前記第1および第2代表点を結ぶ直線の軸心に対する角度を代表テーパ角度としたとき、その代表テーパ角度が3.5°〜12.5°に設定されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記非変形管の重合凸部における前記作用領域内の少なくとも一部が、側面断面視状態で直線状のテーパ部に形成される請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記重合凸部は外径方向に突出する外向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記小径管の前記外向き凸部によって、前記変形管をなす前記大径管の周壁が外径方向に押し広げられるように塑性変形されるようにした請求項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記重合凸部は内径方向に突出する内向き凸部によって構成され、
衝撃吸収時に、前記大径管の前記内向き凸部によって、前記変形管をなす前記小径管の周壁が内径方向に押し込まれるように塑性変形されるようにした請求項1または2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管における周方向の全域に形成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記重合凸部は、前記小径管および前記大径管の周方向の一部に形成される請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材を製造する方法であって、
前記小径管および前記大径管の重合部に対し、金型を用いた拡管加工または縮管加工を行って、前記重合凸部を形成するようにしたことを特徴とする衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項8】
バンパーリインフォースを車両構造体に支持する車両用クラッシュボックスであって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを吸収するようにしたことを特徴とする車両用クラッシュボックス。
【請求項9】
車幅方向に沿って配置されるバンパーリインフォースと、
前記バンパーリインフォースを車両構造体に支持するクラッシュボックスとを備え、
前記クラッシュボックスが、請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材によって構成され、
前記バンパーリインフォースに加わる衝突エネルギーを前記クラッシュボックスにより吸収するようにしたことを特徴とするバンパービーム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−131442(P2012−131442A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287018(P2010−287018)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
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