説明

衣料害虫の卵孵化抑制剤及びこれを用いた防虫方法

【課題】天然産の精油由来成分又は合成の香料成分を含有する衣料害虫の卵孵化抑制剤であって、高い卵孵化抑制効果を奏する一方、人畜に対する安全性に優れ、しかもほのかな芳香性が効果の立上がりを知らしめると共に使用感を向上させる、実用的な衣料害虫の卵孵化抑制剤の提供。
【課題の解決手段】ジヒドロミルセノール、オクタン酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、及びシクロヘキシルオキシ酢酸アリルから選ばれる1種又は2種以上を含有する衣料害虫の卵孵化抑制剤。更に、エタノール及び/又は炭素数が7〜13のイソパラフィン系溶剤の配合が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料害虫の卵孵化抑制剤及びこれを用いた防虫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、イガ類、カツオブシムシ類やシミ類等の衣料害虫から繊維製品を保護するため、主に、タンス、引き出し、クローゼットや衣類収納箱用として、様々な防虫剤が実用化されている。その有効成分としては、古くはp−ジクロロベンゼンやナフタレン等の昇華性防虫成分が使用されたが、安全性の問題や強い刺激臭が指摘され、近年、エムペントリンやプロフルトリン等の常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分が主流となっている。後者のピレスロイド系殺虫成分は、衣料害虫に対して微量で高い殺虫効力を奏し、無臭で、しかも安全性にも優れ有用性の高い有効成分であるが、処理空間に充満するまでに幾分時間がかかり、初期効果の改善が望まれている。また、最近、消費者のニーズが多様化し、無臭よりも幾分芳香性を有する防虫剤を使用して、処理空間や衣類への賦香を積極的に是とする傾向も見られるようになった。
【0003】
かかる状況を背景として、防虫効果と芳香性を兼備した天然産の精油由来成分を防虫成分として用いる提案がいくつかなされている。例えば、特開平9−278621号公報(特許文献1)は、ハッカ油、レモン油、オレンジ油、シトロネロール、ケシ油から選ばれる揮発性防虫剤と、ヒバ油、ひのき油、カンファー、ピネンから選ばれる低揮発性防虫剤を組み合わせてなる防虫剤に係り、長期間にわたって優れた食害防止効果を示す旨記載しているが、その防虫効果は十分満足のいくものではない。
また、特許第4311773号公報(特許文献2)では、衣料害虫の卵孵化抑制剤に着目し、卵から幼虫への移行を抑制すれば衣料害虫による食害を防止できうると考え、卵孵化抑制剤として、リナロール、ゲラニオール、シトロネラール、ヘプタン酸アリル、酢酸ネリル等、数多くのテルペン化合物が提案されている。これらの化合物の大部分については、卵孵化抑制作用と食害防止効果が相関するものであったが、必ずしも全てのテルペン化合物に当てはまるわけではなく、しかも、効果的に十分とは言えなかった。従って、天然産の精油由来成分を有効成分とする衣料害虫の卵孵化抑制剤であって、実用性に十分優れたものは未だ知られていない。
更に、特開2004−26777号公報(特許文献3)は、衣料害虫の卵孵化抑制剤として炭素数が7〜13のイソパラフィンを使用できることを開示するが、単独では到底実用に供し得ず、有用な卵孵化抑制剤を提供するにあたっては、他の薬剤との組合わせ検討が不可欠な状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−278621号公報
【特許文献2】特許第4311773号公報
【特許文献3】特開2004−26777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、天然産の精油由来成分又は合成の香料成分を含有する衣料害虫の卵孵化抑制剤であって、高い卵孵化抑制効果を奏する一方、人畜に対する安全性に優れ、しかもほのかな芳香性が効果の立上がりを知らしめると共に使用感を向上させる、実用的な衣料害虫の卵孵化抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)ジヒドロミルセノール、オクタン酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、及びシクロヘキシルオキシ酢酸アリルから選ばれる1種又は2種以上を含有する衣料害虫の卵孵化抑制剤。
(2)更に、エタノール及び/又は炭素数が7〜13のイソパラフィン系溶剤を配合する(1)に記載の衣料害虫の卵孵化抑制剤。
(3)(1)又は(2)に記載の衣料害虫の卵孵化抑制剤を用いる防虫方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤は、天然産の精油由来成分又は合成の香料成分を含有し、高い卵孵化抑制効果を奏する一方、人畜に対する安全性に優れ、しかもほのかな芳香性が効果の立上がりを知らしめると共に使用感を向上させるので、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では、卵孵化抑制成分として、ジヒドロミルセノール、オクタン酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、及びシクロヘキシルオキシ酢酸アリルから選ばれる1種又は2種以上が用いられる。
これらの化合物は、例えば、飛翔害虫の忌避成分として知られているが、衣料害虫に対する卵孵化抑制成分としては新規である。
本発明者らは、飛翔害虫に対する忌避効果と衣料害虫に対する卵孵化抑制効果が全く別異の作用であることを認識し、上記化合物について鋭意検討したところ、衣料害虫に対して顕著な卵孵化抑制効果を奏することを認めた。
【0009】
更に、本発明者らは、衣料害虫の卵孵化抑制剤として従来知られている、エタノールや炭素数が7〜13のイソパラフィンを上記化合物と組合わせることによって、衣料害虫に対する卵孵化抑制効果が相乗的に増強することを知見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
上記の卵孵化抑制成分には、他の天然精油や天然もしくは合成香料、例えば、テルピネオール、シトロネラール、シトラール、ノナナール、ゲラニオール、ネロール、ボルネオール、デカノール、リナロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、ロジノール、メントール、p−メンタン−3,8−ジオール、チモール、メンタン、カンフェン、ピネン、リモネン、β―ヨノン、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸アリル、蟻酸ゲラニル、蟻酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、酢酸ネリル、メチルサリシレート、シトロネラ油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油、ラベンダー油、オレンジ油、グレープフルーツ油、シダーウッド油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、ハッカ油などから選ばれた1種又は2種以上を配合してもよい。これらの中では、テルピネオール、シトロネラール、シトラール、ゲラニオール、リナロール、メントール、p−メンタン−3,8−ジオール、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸アリル、カンフェン、β―ヨノン、メチルサリシレート、シトロネラ油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油が卵孵化抑制効果の点で好ましい。
【0011】
本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤は、上記の成分のみで構成しても構わないが、通常各種の成分を加えて種々の形態に調製される。そして、卵孵化抑制成分の卵孵化抑制剤全体量に対する比率は、卵孵化抑制剤の形態によっても異なるが、例えば液状のような場合、通常0.5〜70質量%程度が適当であり、0.5質量%未満では卵孵化抑制効果が不十分となる。また、ゲル状体にあっては、卵孵化抑制成分の配合量は、0.5〜10質量%程度に設定するのが好ましい。
【0012】
本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤は、卵孵化抑制効果と人畜に対する安全性に支障を来たさない限りにおいて、緑茶抽出物や柿抽出物のような植物由来の消臭成分や、香調の調整のために他の芳香成分を配合してもよい。例えば、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を添加してリラックス効果を付与することができる。
また、常温揮散性のピレスロイド系殺虫成分、例えば、エムペントリン、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート[トランスフルトリン]、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート[プロフルトリン]、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート[メトフルトリン]などを添加すれば卵孵化抑制効果に加え、殺虫効果を付与させることも可能となる。
【0013】
本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤は、使用場面のニーズに合わせて、液状、ゲル状、固形状、シート状など種々の形態を採用しうる。
液剤を調製するにあたっては、水のほか、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール、プロピレングリコールのようなグリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル系水溶性有機溶剤、脂肪族もしくは芳香族炭化水素系溶剤や、界面活性剤、可溶化剤、分散剤が適宜用いられる。
低級アルコールとしては、エタノール又はイソプロパノールが代表的であり、その配合量が10質量%を超えると火気に対する危険性が増大し、消防法上の非危険物に該当しない場合が生ずる。
なかんずく、上記したように、エタノールや炭素数が7〜13のイソパラフィンは、衣料害虫に対する卵孵化抑制効果を有し、上記の卵孵化抑制成分の効果を相乗的に高め得るので溶剤として好適である。
【0014】
また、ゲル状体の調製に用いられるゲル化剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、ゼラチン、オクチル酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸などがあげられる。
一方、パルプ、リンター、レーヨン等のセルロース製担体、ケイ酸塩、シリカ、ゼオライト等の無機多孔質担体、トリオキサン、アダマンタン等の昇華性担体に、卵孵化抑制成分を必要ならば溶剤等とともに含浸させて固形状、シート状、粒状等の卵孵化抑制剤を調製することができる。
なお、安定化剤、pH調整剤、着色剤などを適宜配合してもよいことはもちろんである。
【0015】
次に、液状形態の卵孵化抑制剤について詳述する。
処方としては、卵孵化抑制成分を0.5〜5.0質量%、エタノール及び/又は炭素数が7〜13のイソパラフィン、並びに水を含有し、必要ならば更に界面活性剤を配合してなるなる水性液剤が好ましく、この卵孵化抑制剤は、吸液芯を介して吸液素材の蒸発部に導き卵孵化抑制成分を空間に放散させる方式や、スプレー方式、あるいは噴射剤を伴ってエアゾール方式に好適に適用される。
【0016】
界面活性剤は、卵孵化抑制成分の安定性と放散性の点から、高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤と非イオン系界面活性剤が併用されるのが好ましい。
高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤としては、例えばラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイドなどがあげられ、一方、非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル)、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどを例示できる。
なお、界面活性剤が10質量%を越えると卵孵化抑制成分の放散性に影響を及ぼす恐れがある。
【0017】
こうして得られた衣料害虫の卵孵化抑制剤は、例えば吸液芯を有する容器本体に充填され、吸液芯を介して卵孵化抑制成分を空間に放散させる方式に適用される。
ここで、容器本体は、その材質や構造に特に制限はなく、例えばプラスチック、ガラス、陶器製などがあげられる。内部の液量を視認できる透明ないし半透明のプラスチックあるいはガラス容器が好ましく、表面をダイアカットやボヘミアンカット状に加工してもよい。通常、容器本体の容量としては50ないし400mL程度のものが実用的である。そして、容器本体の底部は、液剤が残りなく吸い上げられるように、後記する吸液芯の当接部を幾分凹状に構成するのがよい。
この容器本体上部の開口部には吸液芯を保持する中栓が冠着される。中栓はプラスチック製が好ましく、また、開口部冠着位置から下方に向けて筒状に形成し吸液芯を挿入するようにすれば、吸液芯を確実に保持できるのでより好適である。
【0018】
吸液芯は、卵孵化抑制剤に対して安定でかつ毛細管現象で水溶液を吸液するものであり、具体的な材質として例えばナイロン、ポリエステルなどのプラスチック繊維、天然繊維、木材などがあげられる。このうちプラスチック繊維又は天然繊維製フェルト吸液芯が使いやすく、外径3〜10mm程度の棒状もしくは撚芯状に形成して使用に供される。
【0019】
通常、吸い上げた卵孵化抑制剤を放散させる蒸発部が吸液芯の上部に設けられる。蒸発部の構造はフェルトもしくはシート状であり、またその材質としては吸液芯の場合と同様、例えばナイロン、ポリエステルなどのプラスチック繊維、天然繊維、木材などを使用できる。このうちプラスチック繊維又は天然繊維製のフェルトもしくはシート状のものが好ましく、厚み2〜15mmで、表面積が10〜60cm2の略円形に成型し、これを吸液芯の頂面に当接するように配設すれば、吸い上げられた卵孵化抑制剤は吸液芯から蒸発部に移行し、ここから徐々に空中に放散する。蒸発部の表面積が10cm2未満であると蒸発量が低くなる傾向があるし、一方60cm2を超えると蒸発量過多となって持続性に問題を生じる場合がある。通常、卵孵化抑制剤の1日あたりの空中への蒸発量を0.5〜5mLとし、有効持続時間は3〜6ケ月程度に調整される。
また、蒸発部支持体を付設したり、蒸発部に指などが触れないように蒸発部をカバーするメッシュ状の蓋部材を備えるのが一般的である。
更に、インテリア性を付与するために、蒸発部支持体を介して布又はプラスチック製の造花やフィギュア等を装填してもよい。
【0020】
本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤が、ゲル状体や固形状、シート状等の場合も常法に従って調製することができ、また、ガス透過性フィルム袋に封入してなる製剤や、使用目的や使用場面に適した製剤(例えば、ファン式虫よけ器具、防虫カーテン等)に適用して卵孵化抑制成分を効率よく空間に放散させることも適宜採用されうる。
このように、本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤は、タンスや引き出し、クローゼット、倉庫や押入れなどで、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミなどの衣料害虫に対して実用的な卵孵化抑制効果を奏することはもちろん、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカなどの蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類などの飛翔害虫に対しても実用的な防虫効果を奏するものである。そして、本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤によれば、3ケ月ないし8ケ月間の長期間にわたり、実用的な卵孵化抑制効果が得られると共に、芳香感を満喫することができるのでその実用性は極めて高い。
【0021】
次に具体的な実施例に基づき、本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
ジヒドロミルセノールを0.55質量%、オクタン酸アリルを0.35質量%、シトロネラールを0.10質量%、ラウリルアミンオキサイドを1.2質量%、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を1.6質量%、ポリオキシエチレンオレイルエーテルを3.0質量%、エタノールを7.0質量%、消臭剤としての緑茶抽出成分を1.0質量%、クエン酸を0.02質量%、及び精製水を85.18質量%を含有する本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤を調製した。なお、この水性製剤は消防法上の非危険物に該当した。
本発明の卵孵化抑制剤130gを透明ポリエステル製容器本体に充填し、その上部開口部に外径7mmで棒状のフェルト製吸液芯を挿通した中栓を冠着させた。吸液芯の頂面に当接させて、厚さ5mm、直径5.2cmの円盤状のフェルト製蒸発部を取り付け、置型の防虫具を作製した。
この防虫具を容積が1800Lのクローゼットの中に置いて使用したところ、衣料害虫に対する卵孵化抑制作用に基づき、約6ケ月間にわたり、収納衣類は衣料害虫による食害を受けることがなく、芳香感も満喫できた。
【実施例2】
【0023】
シクロヘキシルプロピオン酸アリルを0.9g、イソアミルオキシ酢酸アリルを0.2g、ユーカリ油を0.5gと4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレートを0.1g含有する混合物に溶剤としてのイソパラフィン系炭化水素(IPソルベント1620)2.3gを加え、液状の衣料害虫の卵孵化抑制剤4.0gを調製した。
これをLLDPE製のガス透過性フィルム袋(大きさ:3×8cm、溶剤の透過速度:0.4mg/日/cm2)に封入後、アルミ袋に入れてフィルム袋形態の防虫具を作製した。
アルミ袋からこの防虫具を取り出し、書庫の戸棚において使用したところ、約8ケ月間にわたり、実施例1と同様、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミなどの衣料害虫に対して卵孵化抑制作用を示し、これらの害虫による食害を受けなかった。しかも、蚊や蚋などの飛翔害虫に対する忌避効果にも優れ、極めて実用的であった。
【実施例3】
【0024】
実施例2に準じて、表1に示す各種卵孵化抑制剤を調製し、その0.1mLを直径3cmの濾紙に含浸、乾燥後、下記の卵孵化抑制試験を実施した。
[卵孵化抑制効力試験]
容量500mLのガラス瓶の底に供試濾紙を置き、その5cm上方に、金属製のカゴを設置した。カゴの中に、産卵後1日のイガの卵20個をのせた1辺2.5cmの正方形のサージを入れ、ガラス瓶の蓋をした。温度25℃、相対湿度60%RHの条件下に12日間保存した後ガラス瓶の蓋を開け、孵化した幼虫の数を数えて孵化率を算出した。結果を併せて表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
試験の結果、本発明の衣料害虫の卵孵化抑制剤は、卵孵化抑制成分として配合したジヒドロミルセノール、オクタン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、及びシクロヘキシルオキシ酢酸アリルの作用効果に基づき、衣料害虫に対して優れた卵孵化抑制効果を示した。また、エタノールや炭素数が7〜13のイソパラフィン系溶剤は、前記成分の卵孵化抑制効果を相乗的に高め得ることが確認された。
これに対し、比較1ないし比較3に示すように、エタノールや炭素数が7〜13のイソパラフィン系溶剤、あるいはシトロネロール(特許文献2に開示の化合物)の場合、卵孵化抑制効果は劣った。また、比較4や比較5との対比から、シトロネロールとエタノールの組み合わせでは卵孵化抑制効果が相乗的に発現することはなく、エタノールの相乗効果は本発明の卵孵化抑制成分との組合わせにおいて特徴的なことが認められた。

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、衣料用分野のみならず、広範囲な害虫防除分野で須らく利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロミルセノール、オクタン酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、及びシクロヘキシルオキシ酢酸アリルから選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする衣料害虫の卵孵化抑制剤。
【請求項2】
更に、エタノール及び/又は炭素数が7〜13のイソパラフィン系溶剤を配合することを特徴とする請求項1に記載の衣料害虫の卵孵化抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の衣料害虫の卵孵化抑制剤を用いることを特徴とする防虫方法。

【公開番号】特開2011−246364(P2011−246364A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119015(P2010−119015)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】