説明

衣服

【課題】 浮力体の支持を確実に行い得る衣服の提供。
【解決手段】 左右の前身頃側にそれぞれ対応する左右両側の前浮力部と、後身頃側に対応するよう両前浮力部間に渡された後浮力部とを有する浮力体を取付けて着用者が着用することが可能な衣服であって、前記左右の前身頃側に、左右両側の前浮力部をそれぞれ着脱自在とする前着脱手段が設けられるとともに、後身頃側に、後浮力部を着脱自在とする後着脱手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば釣行に際して装着される衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浮力体を衣服本体の外側に装着できるようにした釣用衣服等の衣服が提案されている。
一般的に浮力体は、衣服の左右の前身頃側に対応する左右両側の前浮力部と、衣服を装着者が装着した際に装着者の頸の後側に対応するよう両前浮力部間に渡された後浮力部とを有する(下記、下記特許文献1参照)。このような浮力体を衣服に装着するには、装着者は衣服を装着して後浮力部を頸の後側に回し、前浮力部を左右の前身頃側に降ろす。そして、胴ベルトを衣服の胴部に回すようにして浮力体を衣服に装着する。
また、図示しないが衣服の左右の前身頃に、前浮力部を一体化させる止着手段を有するものがある。
【特許文献1】特開2004−203316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の衣服では、衣服の左右の前身頃に、前浮力部を一体化させる止着手段を有するだけで、後浮力部を頸の後側で止着する手段を有していないから、衣服に対する浮力体の保持が不安定であり、衣服を着用した釣人等の着用者が水面に投げ出されて浮力体が機能したときに、後浮力部が装着者の頸から離れてしまうおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、浮力体の支持を確実に行い得る衣服の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、左右の前身頃側にそれぞれ対応する左右両側の前浮力部と、後身頃側に対応するよう両前浮力部間に渡された後浮力部とを有する浮力体を取付けて着用者が着用することが可能な衣服であって、前記左右の前身頃側に、左右両側の前浮力部をそれぞれ着脱自在とする前着脱手段が設けられるとともに、後身頃側に、後浮力部を着脱自在とする後着脱手段が設けられたことを特徴としている。
【0006】
上記構成において、左右の前身頃側の前着脱手段によって浮力体は衣服の前側で衣服から離脱するのが防止され、後身頃側の後着脱手段によって浮力体は衣服の後側で衣服から離脱するのが防止されるから、衣服の着用者が水面に投げ出されて浮力体が機能したときに、浮力体が衣服(衣服を装着した装着者)から離れてしまうことを防止する。
換言すれば、浮力体を取付けた衣服を装着者が着用した状態で前着脱手段および後着脱手段を平面視すれば、浮力体は周方向に間隔を置いた少なくとも三点によって衣服に支持されるから、衣服の着用者が水面に投げ出されて浮力体が機能したときに、浮力体が衣服(衣服を装着した装着者)から離れてしまうことを防止する。
また、前着脱手段および後着脱手段を操作することで、浮力体を衣服に対して着脱自在に取付けることが可能である。
【0007】
本発明の衣服では、後着脱手段は前着脱手段よりも丈方向で上方にあって、後着脱手段は帯状の生地から形成されて後浮力部側に固定したフープ部材を挿通可能とすべく、該フープ部材に挿通した後に折曲げてフープ形状にした後に該フープ形状を保持する保持手段を有していることを特徴としている。
【0008】
一般に前浮力部の浮力中心に比べて後浮力部の浮力中心は丈方向で上方にあるから、後着脱手段を前着脱手段よりも丈方向で上方に配置することで、水面にあっても浮力体を安定した状態で衣服に保持することができる。
【0009】
本発明の衣服では、浮力体は、前浮力部と後浮力部とがその上部で連続しており、前浮力部と後浮力部とが下部において衣服への取付け時に胴部に回される胴ベルトによって一体化される構成であり、前着脱手段は左右の前身頃にあって胴ベルトの途中を挿通するようフープ部を形成可能とされたことを特徴としている。
【0010】
上記構成の浮力体をその前浮力部を左右の前身頃の外側に重ね、後浮力部を後身頃側に重ねるようにして衣服の胴部に胴ベルトを巻くようにするとともに、前着脱手段のフープ部に胴ベルトを挿通するようにして浮力体を衣服に取付ける。
【0011】
本発明の衣服では、各前着脱手段は上下別部材とした上側部材および下側部材から構成され、上側部材または下側部材のうちの一方は、その上端部および下端部が前身頃に固着され、しかも前身頃の表面生地との間に着用者の手指が挿入可能な余裕をもって固着され、上側部材または下側部材のうちの他方は、端部が一方に保持されることで上側部材および下側部材によってフープ部を形成して胴ベルトの途中を挿通可能とされている。
【0012】
上記構成において、前着脱手段に胴ベルトを挿通するには、上側部材と下側部材との間に胴ベルトの途中を配置し、上端部および下端部が前身頃に固着された上側部材または下側部材のうちの一方の部材において前身頃の表面生地との間に着用者が手指を挿入して、上側部材または下側部材のうちの他方の部材を、同じ側の手の手指で操作して一方の部材側に移動させてフープ部を形成するようにする。
すなわち、片方の手指のみの操作によってフープ部を形成することができるから、前身頃側での浮力体の取付けを、衣服を装着したままで極めて容易に行うことができる。
【0013】
本発明の衣服では、上側部材または下側部材のうちの他方の端部を一方に保持するための保持手段が、上側部材および下側部材に設けられた雄雌のドットボタンであることを特徴としている。
上記構成によれば、手指の容易な操作によってフープ部を形成して、雄雌のドットボタンを嵌合させフープ部を保持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の衣服では、左右の前身頃側に前着脱手段を設け、後身頃側に後着脱手段を設けて、浮力体の前浮力部を衣服の前身頃側で離脱防止し、浮力体の後浮力部を衣服の後身頃側で離脱防止する構成としたから、衣服の着用者が水面に投げ出されて浮力体が機能したときに、浮力体が衣服(衣服を装着した装着者)から離れてしまうことを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る衣服の実施形態を、図1ないし図5に基づいて説明する。これらの図に示す衣服は、釣行等に際して着用される防寒用の上衣であり、浮力体を着脱自在に設けている。
図1は上衣の一部を示す正面図、図2は前着脱手段の拡大斜視図、図3は上衣の後方からの要部斜視図、図4および図5は後着脱手段の断面図である。
これらの図に示すように、衣服は衣服本体1に左右の前身頃3,4と後身頃5と肩部6と、フード7と、ネックウオーマー部8とを有して、左右の前身頃3,4と後身頃5とで胴部10を構成している。
【0016】
前述のように、衣服には、浮力体11が着脱自在に設けられている。ここで、浮力体11の構成を説明する。浮力体11は、左右の前浮力部12,13と後浮力部14とから構成されている。前浮力部12,13は左右の前身頃3,4の外側に重ねられようにしてそれぞれ着脱自在に取付けられ、後浮力部14は後身頃5の上部外側に重ねられるようにして着脱自在に取付けられる部分である。
前浮力部12,13と後浮力部14とは、後浮力部14が前浮力部12,13の上部で連続することで一体化されている。
また、浮力体11は、外装生地体15と外装生地体15に着脱自在に内装された浮力材16とから構成されて、不図示の索体を引くことで、浮力材16に一体に設けられているガスボンベが操作されて該ガスボンベから浮力材16内に浮力用ガスが注入されるよう構成されている。
【0017】
また、前浮力部12,13と後浮力部14とは、胴ベルト17により一体化することが可能に構成されている。この胴ベルト17は衣服本体1の胴部10に回されるベルト体18を有し、ベルト体18を胴部10に回した状態でその略中心に位置するよう着脱用バックル20を有し、長さ方向途中部分に複数のベルト長さ調節用バックル22を有している。
前浮力部12,13に対応する外装生地体15は、その下端部に垂下された差渡し片23,24によってベルト体18と一体化されている。差渡し片23,24の一端部は前浮力部12,13に対応する外装生地体15に縫着され、他端部はベルト体18の着脱用バックル20寄りに縫着されている。
さらに、前浮力部12,13どうしはその丈方向途中部分で、装着時に左右に大きく分離してしまうのを防止するための保持ベルト25,26を有している。保持ベルト25,26はその左右中心で前記着脱用バックル20とは異なる着脱用バックル21によって連結されている。
後浮力部14の下端部には、ベルト体18の途中部分を左右方向に挿通させて支持するとともに、ベルト体18の高さを調節し得る高さ調節用バックル27が一体的に設けられている。
【0018】
左右の前身頃3,4側に、左右両側の前浮力部12,13をそれぞれ着脱自在とする前着脱手段30,31が設けられるとともに、後身頃5側には、後浮力部14を着脱自在とする後着脱手段32が設けられている。この実施形態における浮力体11は、前着脱手段30,31および後着脱手段32の三箇所の部位で衣服本体1に支持される。
後着脱手段32は、衣服の装着時において、前着脱手段30,31よりも丈方向で上方に配置される。後着脱手段32は帯状生地35から形成されている。後着脱手段32は、後浮力部14の上部(装着者の頸の下方に対応する位置)に固定した環状フック33を挿通可能とすべく、環状フック33に挿通した後に折曲げてフープ形状にし、その後に該フープ形状を保持する保持手段としての雄雌のドットボタン40,41を有している。
帯状生地35の基端部35aは、後身頃5とフード7との縫着部分に挟持するようにしてこれらと併せて一体に縫着されている。帯状生地35の先端側と途中部分に前記雄雌のドットボタン40,41が分けて固着されている。
したがって、帯状生地35の先端側を基端部35a側に折曲げるようにして雄雌のドットボタン40,41どうしを嵌合させることで環状フック33が挿通可能なフープ部35bを形成して、これを保持することができる。
【0019】
各前着脱手段30,31は左右の前身頃3,4にあって胴ベルト17のベルト体18の途中を挿通するようフープ部50,51を形成可能とされている。
各前着脱手段30,31は上下別部材とした上側部材52,53および下側部材54,55から構成されている。なお、前着脱手段30,31どうしは左右で対称の構成となっているため、図2は両前着脱手段30,31を兼用した図面としている。
上側部材52,53は、その上端部58および下端部59が上下に離間して前身頃3,4に縫着により固着され、しかも前身頃3,4の表面生地との間に着用者の手指が挿入可能な余裕をもって固着されている。
下側部材54,55は、基端部65が上側部材52,53の下端部59に対してさらに直下の下方位置にあって、基端部65を中心に上下方向に回動自在となっている。
下側部材54,55は、その先端部56,57が上側部材52,53に保持されるよう構成されて、上側部材52,53および下側部材54,55によって前記フープ部50,51を形成して胴ベルト17のベルト体18の途中を挿通可能とされている。
下側部材54,55の先端部56,57を上側部材52,53の上下方向途中部分に保持するための保持手段としての雄雌のドットボタン60,61が、上側部材52,53および下側部材54,55に分けて固着されている。ドットボタン60は下側部材54,55の先端部56,57側に固着され、ドットボタン61は上側部材52,53の上下長さ方向途中に固着されている。
【0020】
上記構成において、衣服を釣人等の着用者が着用するには、予め浮力体11を衣服本体1に装着した状態で着用することは勿論可能であるが、ここでは衣服本体1を着用した後に浮力体11を装着する場合を説明する。
但し、衣服本体1を着用した後に浮力体11を装着する場合であっても、胴ベルト17のベルト体18は、高さ調節用バックル27にフープ部27aを形成しておきこのフープ部27aに挿通しておくことが好ましい。
ここで衣服の着用者は、着脱用バックル20,21を外した状態で、前浮力部12,13と後浮力部14との連続部が肩に掛かるようにして後浮力部14が着用者の頸の下側に対応する後身頃5に垂下するようにし、前身頃3,4の外側にそれぞれ前浮力部12,13が重なるようにして仮装着する。
続いて着用者が、一方の手指で胴ベルト17のベルト体18の前身頃3(4)に対応する部分を上側部材52(53)の下端部59と下側部材54(55)の基端部65との間に位置させた状態で、他方の手指、例えば中指を、前身頃3(4)の表面と上側部材52(53)との間に挿入し、人差し指と親指とで下側部材54(55)を把持して基端部65回りに持上げて、中指と親指とで雄雌のドットボタン60,61を嵌合させる。このようにすることにより、フープ部50,51を片方の腕の手指で極めて容易に形成することができ、しかも雄雌のドットボタン60,61の嵌合によりフープ部50,51は保持され、胴ベルト17がフープ部50,51に挿通した状態となって、左右の前浮力部12,13は差渡し片23,24によってベルト体18と一体化されているから前浮力部12,13は前身頃3,4にそれぞれ支持された状態となる。
さらに、着脱用バックル20,21を左右で嵌合することにより、浮力体11を衣服本体1の前側においていっそう確実に支持することができる。
【0021】
後着脱手段32においては、着用者は両腕を頸側にまわし、帯状生地35を手指で把持して環状フック33に帯状生地35を通し、折曲げることでフープ状にして、さらに、雄雌のドットボタン40,41どうしを嵌合する。これによって後浮力部14は、高さ調節用バックル27のフープ部27aと後着脱手段32とによって支持された状態となる。
【0022】
このように浮力体11は、衣服本体1の前側で、前着脱手段30,31による左右の二箇所、後側で後着脱手段32による一箇所の、合計三箇所で支持され、しかも後着脱手段32は、前着脱手段30,31の左右方向中心で前着脱手段30,31の後側に相当する位置にあるから、浮力体11は前着脱手段30,31および後着脱手段32によって均等な位置で確実に支持することができる。
したがって、衣服の着用者が水面に投げ出されて浮力体11が機能したときに、浮力体11が衣服本体1(衣服を装着した装着者)から離れてしまうことを防止して、保護性(救命性)および安心感の高い衣服となる。
このように、浮力体11は前着脱手段30,31および後着脱手段32によって均等な位置で確実に支持されるから、浮力体11を装着したままで衣服本体1を着脱する際にも浮力体11が衣服本体1から離脱してしまうのを防止することができるという利便性がある。
また、衣服本体1を着用したままで浮力体11を取外すことも可能であり、この場合は、前着脱手段30,31のドットボタン60,61を外し、後着脱手段32のドットボタン40,41を外し、着脱用バックル20,21を外し、高さ調節用バックル27のフープ部27aを解くようにする。
なお、ドットボタン40,41およびドットボタン60,61は、ループ面、フック面からなる面ファスナを用いてもよく、この場合であっても上記実施形態と同様に、浮力体11を衣服本体1に対して確実に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の衣服を示す正面図
【図2】同じく前着脱手段の拡大斜視図
【図3】同じく衣服の上方からの斜視図
【図4】同じく後着脱手段の不使用状態の断面図
【図5】同じく後着脱手段の使用状態の断面図
【符号の説明】
【0024】
1…衣服本体、3,4…前身頃、5…後身頃、6…肩部、7…フード、8…ネックウオーマー部、10…胴部、11…浮力体、12,13…前浮力部、14…後浮力部、15…外装生地体、16…浮力材、17…胴ベルト、18…ベルト体、20,21…着脱用バックル、22…長さ調節用バックル、25,26…保持ベルト、27…高さ調節用バックル、30,31…前着脱手段、32…後着脱手段、33…環状フック、35…帯状生地、35a…基端部、35b…フープ部、40,41…ドットボタン、50,51…フープ部、52,53…上側部材、54,55下…側部材、60,61…ドットボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の前身頃側にそれぞれ対応する左右両側の前浮力部と、後身頃側に対応するよう両前浮力部間に渡された後浮力部とを有する浮力体を取付けて着用者が着用することが可能な衣服であって、
前記左右の前身頃側に、左右両側の前浮力部をそれぞれ着脱自在とする前着脱手段が設けられるとともに、後身頃側に、後浮力部を着脱自在とする後着脱手段が設けられたことを特徴とする衣服。
【請求項2】
後着脱手段は前着脱手段よりも丈方向で上方にあって、後着脱手段は帯状の生地から形成されて後浮力部側に固定したフープ部材を挿通可能とすべく、該フープ部材に挿通した後に折曲げてフープ形状にした後に該フープ形状を保持する保持手段を有していることを特徴とする請求項1記載の衣服。
【請求項3】
浮力体は、前浮力部と後浮力部とがその上部で連続しており、前浮力部と後浮力部とが下部において衣服への取付け時に胴部に回される胴ベルトによって一体化される構成であり、前着脱手段は左右の前身頃にあって胴ベルトの途中を挿通するようフープ部を形成可能とされたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の衣服。
【請求項4】
各前着脱手段は上下別部材とした上側部材および下側部材から構成され、上側部材または下側部材のうちの一方は、その上端部および下端部が前身頃に固着され、しかも前身頃の表面生地との間に着用者の手指が挿入可能な余裕をもって固着され、上側部材または下側部材のうちの他方は、端部が一方に保持されることで上側部材および下側部材によってフープ部を形成して胴ベルトの途中を挿通可能とされていることを特徴とする請求項3記載の衣服。
【請求項5】
上側部材または下側部材のうちの他方の端部を一方に保持するための保持手段が、上側部材および下側部材に設けられた雄雌のドットボタンであることを特徴とする請求項4記載の衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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