説明

表層制御積層シリカナノ粒子及びその製造方法

【課題】表面に結合した生体分子の活性低下を抑制できる機能性分子含有シリカ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】機能性分子が結合したオルガノアルコキシシランとテトラアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合し、該溶媒中に該機能性分子を含有するシリカのコア粒子を形成させて該コア粒子の分散液を得る第1工程、及び第1工程で得られた分散液に、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、アルキル基、アリール基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、シアノ基、ハロゲン基、ウレイド基、アクリロキシ基、及びポリスルフィド基からなる群から選択される官能基を有するオルガノアルコキシシランを添加してシリカのコア粒子にシェル層を形成させる第2工程を少なくとも含む、表面が前記官能基で修飾されたシリカナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面が修飾されたシリカナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラエトキシシラン(以下TEOSということもある。)に代表されるテトラアルコキシシランに、触媒であるアンモニアの存在下、水を加えて加水分解すると縮重合によるシロキサン結合(Si−O結合)を形成後、ナノ〜ミクロンサイズのシリカ粒子が形成される。(例えば、非特許文献1)。シリカ粒子は化学的に安定である上、表面修飾が容易であり、また、生体に対する安全性も高いことから、生体分子等を標識する物質として適した素材である。しかしながら、シリカ粒子はそのままでは吸光性、蛍光性、磁性といった特性がないために、標識物質として使用するためには、標識として機能しうる分子(吸光分子、蛍光分子、発色分子等)をシリカ粒子の構造中に取り込む必要がある。
【0003】
特許文献1には、蛍光色素分子等の機能性分子が結合したオルガノアルコキシシラン化合物をTEOSと共にアンモニア水含有溶媒中で加水分解した後、加水分解物を縮重合させて該機能性分子を含有するシリカ粒子を調製し、さらに前記アンモニア水含有溶媒にテトラアルコキシシランを追添して、加水分解と縮重合を行わせることにより、前記機能性分子含有シリカ粒子にさらに機能性分子を含有するシリカ層を積層する方法が開示されている。この方法によれば、その内部及び表層に機能性分子が結合したシリカ粒子を作製することができるので、機能性分子を多量に含有するシリカ粒子を作製できる。
このように作製した機能性分子含有シリカ粒子は、その表面に抗体や核酸などの生体分子を結合(吸着)させることができ、これにより該生体分子と結合する標的分子を高感度に検出するための診断試薬として利用すること等ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−221059号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Colloid and Interface Science,26,62−69(1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来の方法で調製した機能性分子含有シリカ粒子に生体分子を吸着させると、時間経過に伴い該生体分子の活性が顕著に低下する現象を見出した。
本発明は、表面に結合した生体分子の活性低下を抑制できる機能性分子含有シリカ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、特定の方法で機能性分子含有シリカナノ粒子の表面に特定の官能基を導入することで、溶液分散性の高い(凝集しにくい)シリカナノ粒子を作製できることを見出した。さらに、このシリカナノ粒子表面に生体分子を結合させると、該生体分子の活性が安定に維持されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至ったものである。
【0008】
本発明の課題は下記の手段により達成された。
[1]機能性分子が結合したオルガノアルコキシシランとテトラアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合し、該溶媒中に該機能性分子を含有するシリカのコア粒子を形成させて該コア粒子の分散液を得る第1工程、及び第1工程で得られた分散液に、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、アルキル基、アリール基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、シアノ基、ハロゲン基、ウレイド基、アクリロキシ基、及びポリスルフィド基からなる群から選択される官能基を有するオルガノアルコキシシランを添加してシリカのコア粒子にシェル層を形成させる第2工程を少なくとも含む、表面が前記官能基で修飾されたシリカナノ粒子の製造方法。
[2]第2工程でさらにテトラアルコキシシランを添加する、[1]に記載の製造方法。
[3]前記官能基がチオール基である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記チオール基を有するオルガノアルコキシシランが、メルカプトプロピル基を有するオルガノアルコキシシランである、[3]に記載の製造方法。
[5]第2工程で添加されるオルガノアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシランの添加量を調節することによりシリカナノ粒子の純水中におけるゼータ電位の絶対値を20〜70mVに調節する、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]機能性分子が蛍光分子である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法により製造しうるシリカナノ粒子。
[8]表面に、ヒドロキシル基と、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、アルキル基、アリール基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、シアノ基、ハロゲン基、ウレイド基、アクリロキシ基、及びポリスルフィド基からなる群から選択される官能基とを有し、純水中におけるゼータ電位の絶対値が20〜70mVである、機能性分子を含有するシリカナノ粒子。
[9]前記官能基がチオール基である、[8]に記載のシリカナノ粒子。
[10]表面に生体分子が結合している、[1]〜[9]のいずれかに記載のシリカナノ粒子。
[11]生体分子がタンパク質である、[10]に記載のシリカナノ粒子。
[12]タンパク質が抗体又は抗原である、[11]に記載のシリカナノ粒子。
[13][10]〜[12]に記載のシリカナノ粒子を含む診断キット。
[14]診断キットがイムノクロマトグラフィー装置である、[13]に記載の診断キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面に特定の官能基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子の製造方法であって、ゼータ(ζ)電位の絶対値を所望の範囲に調節することができ、これにより粒子の溶液分散性を調節することができるシリカナノ粒子の簡便な製造方法が提供される。
また、本発明によれば、表面に特定の官能基を有する機能性分子含有シリカナノ粒子であって、特定のゼータ電位を有し、溶液分散性の高いシリカナノ粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】シリカナノ粒子の調製の際に添加するMPSの量とシリカナノ粒子のゼータ電位の関係を示すグラフである。
【図2】実施例において調製したテストストリップの構造を示す図である。図2aはテストストリップを上から見た図であり、図2bはテストストリップを側面から見た図である。
【図3】表面にチオール基を有する本発明のシリカナノ粒子と、チオール基を有さないTEOS粒子とについて、その表面に結合させた抗体活性の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
【0012】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、機能性分子を含むシリカのコア粒子を作製した後に、その表面にヒドロキシル基と所望の官能基とを有するシリカのシェル層を形成させる工程を含む、シリカナノ粒子の製造方法である。
【0013】
(コア粒子の作製)
上記シリカのコア粒子は、機能性分子が結合したオルガノアルコキシシラン(機能性分子結合オルガノアルコキシシラン)と、テトラアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合し、加水分解反応と縮重反応とを行わせることで得ることができる。
【0014】
上記機能性分子結合オルガノアルコキシシランの機能性分子としては、TAMRA、ローダミン、フルオレセイン、FITC、Cy3、Cy5、GFP等の蛍光分子、ポルフィリン、フタロシアニン等の特定の波長に吸収をもつ色素分子、ルミノール等の発光分子、放射性分子、磁性分子、pH感受性色素分子、酵素等が挙げられる。機能性分子結合オルガノアルコキシシランは、機能性分子が有する官能基又は活性基とオルガノアルコキシシランが有する官能基又は活性基とを結合させることで調製することが好ましい。該官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等が挙げられ、該活性基としては、スクシンイミド基やマレイミド基が挙げられる。アミノ基とカルボキシル基とは、脱水縮合によってペプチド結合を形成することができる。また、スクシンイミド基及びマレイミド基は、それぞれアミノ基及びチオール基と容易に反応して結合することができる。機能性分子とオルガノアルコキシシランとの結合の具体例としては、例えば、機能性分子にスクシンイミド基を導入し、これを3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)や3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するオルガノアルコキシシランと反応させる方法や、機能性分子にマレイミド基を導入し、これを3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)等のチオール基(メルカプト基)を有するオルガノアルコキシシランと反応させる方法等が挙げられる。機能性分子へのマレイミド基やスクシンイミド基の導入は通常の方法で行うことができる。また、マレイミド基やスクシンイミド基が導入された市販の機能性分子を購入して使用することもできる。スクシンイミド基が導入された市販の機能性分子として、例えば、5−カルボキシTAMRA−NHSエステル、5−カルボキシローダミン6G−NHSエステル、5−カルボキシフルオレセイン−NHSエステル(いずれも商品名、いずれもインビトロジェン社製)が挙げられる。
機能性分子が結合するオルガノアルコキシシランとしては、上記APSやMPSの他、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシメチルシラン、3−イソシアネートプロピルエトキシシラン等が挙げられる。
【0015】
上記テトラアルコキシシランとしては、テトラエトキシラン(TEOS)やテトラメトキシシラン等が挙げられるが、TEOSを用いることが好ましい。
上記機能性分子結合オルガノアルコキシシランやテトラアルコキシシランのアルコキシ基は、上記アンモニア水含有溶媒中で加水分解されてヒドロキシル基となり、さらに該ヒドロキシル基が脱水縮合してシロキサン結合を形成する。その結果、オルガノシロキサン成分とシロキサン成分とがシロキサン結合してなるシリカ粒子が形成される。
【0016】
上記アンモニア水含有溶媒は好ましくはアンモニア水と親水性溶媒の混合液である。親水性溶媒に特に制限はないが、アルコールであることが好ましく、エタノール又はメタノールであることがより好ましく、エタノールであることがさらに好ましい。アンモニア水と親水性溶媒の混合割合に特に制限はないが、体積比で、アンモニア水1に対して親水性溶媒3〜20の混合割合であることが好ましい。上記アンモニア水のアンモニア濃度に特に制限はないが、上記アンモニア水含有溶媒全量に対して1〜28質量%であることが好ましく、2〜14質量%であることがより好ましい。アンモニア水含有溶媒のアンモニア濃度が高くなるにしたがって、シリカ粒子の核形成頻度が高まり、また、シリカ粒子の成長速度が速まる。
【0017】
上記アンモニア水含有溶媒に添加するテトラアルコキシシランの量に特に制限はないが、添加量多すぎると形成されたシリカ粒子の融合が生じやすく、また、添加量が少なすぎるとシリカ粒子の粒度分布が広がりやすい。したがって、上記アンモニア水含有溶媒に添加した際に、4.5〜90.3mM(ミリモル/L)となることが好ましく、9.0〜45.1mM(ミリモル/L)となることがより好ましい。
【0018】
上記アンモニア水含有溶媒に添加する機能性分子結合オルガノアルコキシシランの量に特に制限はないが、アンモニア水含有溶媒中における上記テトラアルコキシシランとの混合比が、モル比で、テトラアルコキシシラン1に対して機能性分子結合オルガノアルコキシシランが0.0005〜0.0060であることが好ましく、0.0010〜0.0050であることがより好ましく、0.0015〜0.0040であることがさらに好ましい。
【0019】
機能性分子結合オルガノアルコキシシランと、テトラアルコキシシランとの加水分解反応と縮重反応は、0〜70℃で行うことが好ましく、30〜60℃で行うことがより好ましい。反応時間に特に制限はなく、所望の大きさのコア粒子を得るために適宜調節することができるが、通常には2〜48時間反応させる。
【0020】
上記シリカのコア粒子を形成させた上記アンモニア水含有溶媒に、さらにテトラアルコキシシラン及び/又は機能性分子結合オルガノアルコキシシランを添加することで、上記コア粒子をさらに所望の大きさに成長させることもできる。すなわち、本発明の製造方法において、「機能性分子が結合したオルガノアルコキシシランとテトラアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合し、該溶媒中に該機能性分子を含有するシリカのコア粒子を形成させて該コア粒子の分散液を得る第1工程」は、コア粒子をさらに所望の大きさに成長させる上記工程を含んでもよい。コア粒子の大きさは10〜250nmとすることが好ましい。
【0021】
(シェル層の形成)
上記で作製したアンモニア水含有溶媒中のシリカのコア粒子の表面にヒドロキシル基と所望の官能基とを有するシリカのシェル層を形成させることで、表面に該ヒドロキシル基と該所望の官能基を有する本発明のシリカナノ粒子を作製することができる。具体的には、上記で調製した、コア粒子を含有するアンモニア水含有溶媒に、所望の官能基を有する少なくとも1種のオルガノアルコキシシランを添加し、加水分解反応と縮重反応とを行わせることで、表面にヒドロキシル基と上記官能基とを有するシリカのシェル層を形成させることができる。上記官能基が1種類である場合には、当該官能基を有する1種類のオルガノアルコキシシランを添加することで所望のシリカナノ粒子を得ることができる。また、上記官能基が2種以上である場合には各官能基に対応した2種以上のオルガノアルコキシシランを添加することで所望のシリカナノ粒子を得ることができる。上記官能基としては、チオール基、アミノ基、アリール基、アルキル基、イソシアネート基等が挙げられる。上記官能基がチオール基である場合には、MPS等のチオール基を有するオルガノアルコキシシランを添加することができ、上記官能基がアミノ基である場合には、APS等のアミノ基を有するオルガノアルコキシシランを添加することができ、上記官能基がアリール基である場合には、トリメトキシフェニルシラン等のアリール基を有するオルガノアルコキシシランを添加することができ、上記官能基がアルキル基である場合には、トリメトキシメチルシラン等のアルキル基を有するオルガノアルコキシシランを添加することができ、上記官能基がイソシアネート基である場合には、3−イソシアネートプロピルエトキシシラン等のイソシアネート基を有するオルガノアルコキシシランを添加することができる。
【0022】
また、上記官能基を有するオルガノアルコキシシランの添加に加えて、さらにテトラアルコキシシランを添加してもよい。また、所望により機能性分子が結合したオルガノアルコキシシランを添加することもできる。
上記官能基を有するオルガノアルコキシシランを、シリカのコア粒子を含むアンモニア水含有溶媒に添加する量に特に制限はないが、モル比で、コア粒子の形成からシェル層の形成を通して(シリカナノ粒子の全製造工程を通して)添加したテトラアルコキシシランと上記官能基を有するオルガノアルコキシシラン総モル数1に対して0.01〜1.00であることが好ましく、0.02〜0.80であることがより好ましく、0.03〜0.40であることがさらに好ましい。
また、上記官能基を有するオルガノアルコキシシランの添加の際に添加しうるテトラアルコキシシランの量に特に制限はないが、モル比で、上記官能基を有するオルガノアルコキシシラン1に対して0〜20であることが好ましく、0〜10であることがより好ましく、0〜5であることがさらに好ましい。
シェル層を形成させたシリカナノ粒子の大きさは20〜500nmとすることが好ましい。
【0023】
シェル層を形成させる際のアンモニア水含有溶媒中のテトラアルコキシシランの量と上記官能基を有するオルガノアルコキシシランの量を調節することで、シリカナノ粒子表面の官能基の組成や量を調節することができる。シリカナノ粒子表面の官能基の組成や量を調節することで、本発明の製造方法で製造されるシリカナノ粒子の純水中におけるゼータ電位の絶対値は、1〜70mVに調節されることが好ましく、20〜70mVに調節されることがより好ましく、30〜60mVに調節されることがさらに好ましく、45〜55mVに調節されることが特に好ましい。シリカナノ粒子のゼータ電位(界面動電電位)の絶対値は、シリカナノ粒子の帯電による静電的反発力の大きさと相関がある。ゼータ電位の絶対値が大きいとシリカナノ粒子の溶媒中での分散性が高くなり、分散安定性も高くなる(すなわちシリカナノ粒子の凝集が抑制される)ので、本発明の製造方法により、後述するような標識物質としての使用に適したシリカナノ粒子を提供することができる。しかしながら、ゼータ電位の絶対値が大きすぎると、静電的相互作用によりシリカナノ粒子への生体分子等の非特異的な結合が増大するおそれがあるため、ゼータ電位の絶対値を上記所定の範囲内に調節することが好ましい。ゼータ電位は、ゼータサイザーナノ(商品名、マルバーン社製)、ELS−Z1(商品名、大塚電子社製)、NICOMP 380ZLS(商品名、IBC社製)等を用いて測定することができる。
【0024】
従来、機能性分子を含有するシリカナノ粒子の表面に官能基を導入するためには、テトラアルコキシシランと機能性分子含有オルガノアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合して形成させたシリカナノ粒子を一旦アンモニア水含有溶媒から、遠心分離、洗浄操作を経て分離し、該分離したシリカナノ粒子を、導入したい官能基を有するオルガノアルコキシシランを含有するアンモニア水含有溶媒中に再度分散するという煩雑な操作を要していた。また、シリカナノ粒子表面に導入した官能基の量が一定した粒子を高い再現性で得るためには粒子表面を該官能基で飽和させる必要がある。その結果、製造されたシリカナノ粒子はその表面の疎水性が高く(ゼータ電位の絶対値が低く)凝集しやすい性質を有するものであった。
これに対し、本発明の方法では、アンモニア水含有溶媒中で形成させたシリカのコア粒子を該アンモニア水含有溶媒から分離せずにその表面に官能基を導入することができるので、従来の方法に比べてより簡便な方法で官能基が導入されたシリカナノ粒子を作製することができる。しかも本発明の方法では、シリカナノ粒子表面の官能基の組成と量を簡単に制御することができるため、上記従来法で作製した官能基を有するシリカナノ粒子よりも粒子表面の親水性を高める(ゼータ電位の絶対値を高める)ことができる。これにより、粒子同士の凝集を抑えることができるため、後述するような用途に適したシリカナノ粒子を提供することができる。
【0025】
[本発明のシリカナノ粒子]
本発明のシリカナノ粒子は機能性分子を含有し、その表面にヒドロキシル基とそれ以外の官能基とを有する。当該官能基に特に制限がないが、チオール基、アミノ基、アリール基、アルキル基又はイソシアネート基であることが好ましく、チオール基、アミノ基であることがより好ましく、チオール基であることが特に好ましい。本発明のシリカナノ粒子は、ヒドロキシル基以外の官能基を1種有していてもよいし、2種以上有していてもよい。本発明のシリカナノ粒子の純水中におけるゼータ電位の絶対値は1〜70mVであることが好ましく、20〜70mVであることがより好ましく30〜60mVであることがさらに好ましく、45〜55mVであることが特に好ましい。
本発明のシリカナノ粒子は、上記本発明の製造方法により製造しうる。
【0026】
本発明のシリカナノ粒子は標識物質として用いることができる。例えば、本発明のシリカナノ粒子表面に生体分子を結合させることで、本発明のシリカナノ粒子を、該生体分子に特異的に結合する分子(標的分子)を検出するための試薬とすることができる。該生体分子と該標的分子との組合せの例としては、抗体と抗原、抗原と抗体、核酸と該核酸に相補的な配列を有する核酸、受容体とリガンド、リガンドと受容体、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、レクチンと糖鎖、アプタマーと該アプタマーに特異的に結合する分子等が挙げられる。上記生体分子は本発明のシリカナノ粒子表面に直接結合していてもよいし、他の分子を介して間接的に結合していてもよい。
【0027】
例えば、抗体を結合した本発明のシリカナノ粒子は、該抗体に結合する抗原を検出するための試薬として用いることができる。該抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでもよいが、安定した品質の抗体を安定して供給するためには、モノクローナル抗体であることが好ましい。また、本発明における抗体には、抗体をペプシンやパパインのようなタンパク質分解酵素で分解し、抗原に対する結合性を維持した、F(ab’)フラグメント、Fab’フラグメント、Fabフラグメントや、2本のH鎖同士を結びつけているジスルフィド結合を還元して乖離させて、1本のH鎖と1本のL鎖からなるフラグメントとしたものも含まれる。また、本発明における抗体には、単鎖抗体やその2量体(ダイアボディー)もしくは3量体(トリアボディー)、又はミニボディーも含まれる。本発明に使用する抗体として、一般的に用いられているマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、トリ由来のもの等が使用できるがこれらに限定されず、抗原に特異的に結合する抗体であれば何れも使用できる。
該抗体の具体例としては、例えば、癌胎児性抗原(CEA)、α−フェトプロテイン(AFP)、前立腺性酸性ホスファターゼ(PAP)、CA19−9、CA125、CA15−3、前立腺特異抗原(PSA)、遊離PSA等の腫瘍マーカーに対する抗体、HBs抗原、HBe抗原、p24抗原等の感染症マーカーに対する抗体、FDP、Dダイマー、PIC、ATIII、FM等の凝固線溶マーカー、CK−MB、ミオグロビン、トロポニン、CRP、BNP等の心不全マーカーに対する抗体、TSH、hCG等のホルモン類やインスリン等に対する抗体等が挙げられる。
【0028】
また、抗原を結合した本発明のシリカナノ粒子は、該抗原に結合する抗体を検出するための試薬として用いることができる。該抗原として、例えば、HBs抗体、HBe抗体、HCV抗体といった感染症マーカーとなりうる抗体に対する抗原等が挙げられる。
【0029】
また、核酸を結合した本発明のシリカナノ粒子は、該核酸と相補的な配列を有する核酸を検出するための試薬として用いることができる。本発明のシリカナノ粒子に結合させる核酸としては、DNA、RNA、PNA等が挙げられる。当該核酸が結合した本発明のシリカナノ粒子は、該核酸と相補的な配列を有する核酸を検出するための試薬として用いることができる。
【0030】
本発明のシリカナノ粒子の表面にアビジンやストレプトアビジンを結合させることで、ビオチンを介して上記生体分子を間接的に結合させることもできる。すなわち、本発明のシリカナノ粒子の表面に結合させたい生体分子にビオチンを結合させ、これをアビジン又はストレプトアビジンが結合した本発明のシリカナノ粒子と接触させることで、アビジン又はストレプトアビジンとビオチンとの特異的結合を介して生体分子を本発明のシリカナノ粒子表面に結合させることができる。
【0031】
本発明のシリカナノ粒子表面への生体分子の結合は、共有結合であっても非共有結合であってもよい。生体分子をシリカナノ粒子表面に共有結合する方法としては架橋剤を利用する方法が挙げられる。このような架橋剤として、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)、グルタルアルデヒド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等が挙げられる。
生体分子をシリカナノ粒子表面に非共有結合する方法としては生体分子をシリカナノ粒子表面に吸着させる方法が挙げられる。例えば、生体分子を含む溶液中に本発明のシリカナノ粒子を分散させることで、該生体分子を本発明のシリカナノ粒子の表面に物理的に吸着させることができる。
【0032】
シリカナノ粒子表面に結合していない余分な生体分子は、遠心分離や限外ろ過等により除くことができる。
【0033】
生体分子が結合したシリカナノ粒子は、ポリエチレングリコール(PEG)やウシ血清アルブミン(BSA)等のブロッキング剤で表面をブロッキングすることが好ましい。これにより、検体中に含まれるタンパク質等のシリカナノ粒子表面への非特異的な吸着が抑えられるため、標的分子をより高感度に検出することが可能になる。また、表面をブロッキングすることで、シリカナノ粒子の凝集をより抑制することにもつながる。
【0034】
シリカナノ粒子の表面に生体分子が結合したことの確認は、生体分子を含む溶液中の該生体分子の量を、シリカナノ粒子を分散させる前と後で比較することでおこなうことができる。生体分子がタンパク質であれば、溶液中の該タンパク質の量を一般的なタンパク質の定量法(UV法、Lowry法、Bradford法等)で定量しておき、該溶液にシリカナノ粒子を分散させた後の溶液中のタンパク質の減少量を算出することで、シリカナノ粒子の表面に結合したタンパク質の量を算出することができる。また、生体分子が核酸である場合には、定量PCR等により溶液中の核酸を定量することで同様にシリカナノ粒子の表面に結合した核酸の量を算出することができる。
【0035】
本発明のシリカナノ粒子は、該シリカ粒子の表面に結合した生体分子の活性を維持した状態で長期間保存ができる優れた特性を有する。すなわち、本発明のシリカナノ粒子に生体分子を結合させた粒子を用いて標的分子を検出することで、ヒドロキシル基以外の官能基を有さないシリカナノ粒子に生体分子を結合させた粒子を用いて標的分子を検出する場合に比べて、標的分子をより高感度に検出することができる。親水性であるヒドロキシル基よりも疎水性の強いチオール基やアリール基、アルキル基等が粒子表面に導入されることにより、粒子表面の疎水性が強くなり、生体分子の配向性が安定化する。また、疎水性相互作用により粒子と生体分子の結合が強固になり、生体分子の運動が弱まり、生体分子がより安定した状態で粒子表面と結合する。このため、ヒドロキシル基以外の官能基を有さないシリカナノ粒子に比べ、シリカ粒子の表面に結合した生体分子の活性を維持した状態で長期間保存ができると考えられる。
【0036】
[本発明の診断キット]
本発明の診断キットは、本発明のシリカナノ粒子表面に生体分子が結合した粒子を含むキットであり、標的分子を検出するために用いられる。以下本発明の診断キットの例について説明する。
(a)サンドイッチ免疫測定キット
本発明のシリカナノ粒子の表面に標的分子の第1のエピトープに特異的に結合する第1の抗体を結合させたシリカナノ粒子と、標的分子の第1のエピトープとは異なるエピトープに特異的に結合する第2の抗体とを含むキットである。第1の抗体と第2の抗体は標的分子を挟んで結合することができる。このキットは抗原抗体反応に適した緩衝液等や、抗原抗体反応を行わせるための容器等を含んでいてもよい。第2の抗体は反応場に固定化されていてもよいし、免疫測定の際に反応場に添加しうる状態で含まれていてもよい。また、第2の抗体は磁性粒子等の担体に結合されていてもよい。第2の抗体が固定化される反応場としてはニトロセルロース等のシート、ガラスや樹脂製の反応容器内壁、ガラスや樹脂製のマイクロチップに形成されたマイクロ流路内壁等が挙げられる。ニトロセルロース等のシートが反応場である診断キットとして、イムノクロマトグラフィー装置(抗体が固定化されたシートを含むテストストリップがハウジングされたイムノクロマト試薬)の形態が例示される。
【0037】
(b)競合免疫測定キット
本発明のシリカナノ粒子の表面に標的分子が有するエピトープと同一のエピトープを有する標的分子のアナログを結合させたシリカナノ粒子と、該エピトープを特異的に認識する抗体を含むキットである。標的分子と標的分子のアナログは、該抗体に競合的に結合する。このキットは抗原抗体反応に適した緩衝液等や、抗原抗体反応を行わせるための容器等を含んでいてもよい。該抗体は反応場に固定化されていてもよいし、免疫測定の際に反応場に添加しうる状態で含まれていてもよい。また、該抗体は磁性粒子等の担体に結合していてもよい。該抗体が固定化される反応場としては、ニトロセルロース等のシート、ガラスや樹脂製の反応容器内壁、ガラスや樹脂製のマイクロチップに形成されたマイクロ流路内壁等が挙げられる。競合免疫測定キットはエピトープが1つしかないようなペプチドやホルモン等の低分子の標的分子の検出に好適に使用される。
【0038】
(c)核酸検出キット
本発明のシリカナノ粒子の表面に、標的核酸の連続した1つの領域における塩基配列と相補的な塩基配列を有する第1のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを結合させたシリカナノ粒子と、第1のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドとは異なる部位で標的核酸にハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを含むキットである。第1のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは標的核酸を介して結合する。このキットはハイブリダイゼーション反応に適した緩衝液等や、ハイブリダイゼーション反応を行わせるための容器等を含んでいてもよい。第2のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは反応場に固定化されていてもよいし、反応場に添加しうる状態で含まれていてもよい。また、第2のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは磁性粒子等の担体に結合していてもよい。第2のオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドが固定化される反応場としてはニトロセルロース等のシート、ガラスや樹脂製の反応容器内壁、ガラスや樹脂製のマイクロチップに形成されたマイクロ流路内壁等が挙げられる。ニトロセルロース等のシートが反応場である診断キットとして、イムノクロマトグラフィー装置に準じた形態(イムノクロマトグラフィー装置においてニトロセルロース等のシートに固定化された抗体(抗原)が核酸に置き換わった形態である。便宜上、核酸クロマトグラフィー装置と呼ぶ。)が例示される。
【0039】
また、目的に応じて、上記例示した診断キットにおける標的分子と該標的分子に特異的に結合する生体分子の組合せを、受容体とリガンド、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、糖鎖とレクチン、アプタマーに特異的に結合する分子と該アプタマー等に置き換えた診断キットも本発明の診断キットに包含される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
調製例1 本発明の製造方法による蛍光色素含有シリカナノ粒子の調製
14質量%のアンモニア水をエタノールで5倍希釈して3.5mLのアンモニア水含有溶媒を調製した。該アンモニア水含有溶媒にTEOS(信越シリコーン社製)30μL(135マイクロモル)と、10mMの濃度になるようにジメチルスルフォキシド(DMF)に溶解した5−カルボキシローダミン6G−APS16μL(160ナノモル)とを添加して、40℃で30分攪拌することで蛍光分子含有コア粒子が形成された溶液(以下、コア粒子含有溶液と呼ぶことがある。)を得た。本発明における機能性分子結合オルガノアルコキシシラン化合物に該当する上記5−カルボキシローダミン6G−APSは、5−カルボキシローダミン6G−NHSエステル(商品名、インビトロジェン社製)とAPS(信越シリコーン社製)とを反応させることで調製した。
【0042】
上記コア粒子含有溶液に、TEOS30μL(135マイクロモル)と、10mMの濃度になるようにDMFに溶解した5−カルボキシローダミン6G−APS11μL(110ナノモル)とを追添し、40℃で30分攪拌することでコア粒子にシェル層を形成させ、蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、第1シリカナノ粒子ということがある。)を含む溶液(以下、第1シリカナノ粒子含有溶液ということがある。)を得た。
【0043】
上記第1シリカナノ粒子含有溶液にTEOS10μL(45マイクロモル)と、10mMの濃度になるようにDMFに溶解した5−カルボキシローダミン6G−APS5.3μL(53ナノモル)とを追添し、40℃で30分攪拌して第1シリカナノ粒子にさらにシェル層を形成させ、蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、第2シリカナノ粒子ということがある。)を含む溶液(以下、第2シリカナノ粒子含有溶液ということがある。)を得た。
【0044】
第2シリカナノ粒子の表面にメルカプトプロピル基を導入するために、上記第2シリカナノ粒子含有溶液に、表1の条件1の混合比で調製したMPS(和光純薬株式会社製)とTEOSの混合液(MPS/TEOS混合液)20μLを追添した。室温で30分攪拌することで、表層にヒドロキシル基とメルカプトプロピル基とを有する蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、本発明シリカナノ粒子1という。)を含む溶液(以下、本発明シリカナノ粒子1含有溶液という。)を得た。同様に、表1の条件2及び3の混合比で調製したMPS/TEOS混合液を添加した蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、それぞれ、本発明シリカナノ粒子2及び3という。)を含む溶液(以下、それぞれ本発明シリカナノ粒子2及び3含有溶液という。)も調製した。
表1中「TEOSの総添加量(TEOS+MPS)に対するMPSの添加量」とは、上記全工程を通してアンモニア水含有溶媒に添加したTEOSの総添加量に対するMPSの添加量を示す。なお、MPS/TEOS混合液は追添の直前に調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
上記本発明シリカナノ粒子含有溶液1を遠心して本発明シリカナノ粒子1を沈殿させた後、直ちに上清を除去した。続いて沈殿した本発明シリカナノ粒子1をエタノールに再分散し同様の操作をさらに2回繰り返すことで余分なTEOS等を洗浄除去した。続いて、エタノールの代わりに蒸留水を用いて同様の洗浄操作を行い、余分な遊離色素を洗浄除去した。こうして洗浄された本発明シリカナノ粒子1を得た。また、本発明シリカナノ粒子含有溶液2及び3についても同様の洗浄操作を行うことで、洗浄された本発明シリカナノ粒子2及び3を得た。
【0047】
比較例1 TEOS粒子の調製
調製例1の中間生成物である第2シリカナノ粒子を、上記本発明シリカナノ粒子の洗浄操作と同様の洗浄操作に付すことで、表面にヒドロキシル基のみを有する蛍光分子含有シリカナノ粒子(TEOS粒子)を得た。
【0048】
比較例2 MPS粒子の調製
28質量%のアンモニア水3.5mLにMPS(和光純薬株式会社製)15μL(81マイクロモル)と、10mMの濃度になるようにDMFに溶解した5−カルボキシローダミン6G−APS8μL(80ナノモル)とを添加して、60℃で120分攪拌することで約350nmの蛍光分子含有シリカナノ粒子が形成された溶液を得た。このシリカナノ粒子を、上記本発明シリカナノ粒子の洗浄操作と同様の洗浄操作に付すことで、TEOSを含まない蛍光分子含有シリカナノ粒子(MPS粒子)を得た。比較例2で得られたシリカナノ粒子は構成成分としてTEOSを含まないため、その表面に存在するヒドロキシル基の数は、本発明シリカナノ粒子よりも格段に少ない。
【0049】
比較例3 従来法によりMPS修飾されたシリカナノ粒子の調製
調製例1の中間生成物である第2シリカナノ粒子含有溶液1mLに、5.8mM MPSを0.1mL添加し、室温で一晩攪拌することで第2シリカナノ粒子表面をMPSで修飾した。こうして得られた蛍光分子含有シリカナノ粒子を、上記本発明シリカナノ粒子の洗浄操作と同様の洗浄操作に付すことで、TEOS粒子の表面がMPSで修飾された蛍光分子含有シリカナノ粒子を得た。
【0050】
試験例1 ゼータ電位の測定
本発明シリカナノ粒子1〜3、比較例1のTEOS粒子及び比較例2のMPS粒子についてゼータ電位の測定を行った。ゼータ電位の測定は、ゼータサイザーナノ(商品名、マルバーン社製)により実施した。結果を図1に示す。
図1より、表面にメルカプトプロピル基を有さないTEOS粒子のゼータ電位の絶対値が最も高く(約−58mV)、次いで本発明シリカナノ粒子1(約−56mV)、本発明シリカナノ粒子2(約−52mV)、本発明シリカナノ粒子3(約−49mV)、MPS粒子(約−12mV)の順にゼータ電位の絶対値が小さいことがわかる。すなわち、シリカナノ粒子表面のメルカプトプロピル基の数が増加するにしたがってゼータ電位の絶対値が小さくなることがわかった。
また、比較例3のシリカナノ粒子のゼータ電位についても測定したところ、その値は−15mVであり、MPS粒子と同様低いゼータ電位の絶対値を示した。
【0051】
試験例2 蛍光強度の測定
本発明シリカナノ粒子1〜3、比較例1のTEOS粒子、比較例2のMPS粒子及び比較例3の蛍光分子含有シリカナノ粒子について蛍光強度の測定を行った。蛍光強度の測定は、蛍光分光光度計FP−6500(商品名、日本分光社製)を用いて、530nmの励起光を照射したときに発する555nmの蛍光を測定することで行った。その結果、本発明シリカナノ粒子1〜3は、TEOS粒子と同程度の蛍光強度を示すことがわかった。一方、MPS粒子及び比較例3のシリカナノ粒子は凝集しやすく、測定溶媒に分散させることができず、測定が不可能であった。MPS粒子と比較例3のシリカナノ粒子は、粒子表面のゼータ電位の絶対値が15程度と小さい。すなわち、表面の疎水性が高いために、粒子同士の疎水的相互作用によって凝集が起こりやすいと考えられる。
【0052】
試験例3 免疫測定試薬への応用
本発明シリカナノ粒子1〜3及び比較例1のTEOS粒子について、その表面に抗体を結合させて、イムノクロマトグラフィー試薬としての性能を比較した。なお、比較例2のMPS粒子及び比較例3のシリカナノ粒子については、水溶液中で凝集してしまうため、本試験に用いることができなかった。
【0053】
[抗体の吸着]
本発明シリカナノ粒子1を5mg/mLの濃度になるように蒸留水中に分散させた。この分散液100μLと、50mM KHPO(pH7.0)390μLとをマイクロチューブに入れて軽く攪拌した。この混合液に5.8mg/mLの濃度に調製した抗hCG抗体(Anti−hCG clone codes/5008,Medix Biochemica社製)10μLを加え、室温で10分間穏やかに混合することで、抗hCG抗体を本発明シリカナノ粒子1に吸着させた。続いてこの混合液に1%のポリエチレングリコール、分子量20000、和光純薬工業社製)を200μL加えて軽く攪拌し、さらに10%BSAを200μL加えて軽く混合した。混合液を遠心分離して粒子を沈殿させた後、上清を取り除いた。ここに、保存用バッファーとして、0.05% PEG(分子量20000)、150mM NaCl、1% BSA及び0.1% NaNを含む20mM Tris−HCl(pH8.2)を1mL加え、再度遠心分離して上清を取り除いた。ここに、蒸留水500μLと、塗布バッファーとして、0.05% PEG(分子量20000)、5%スクロースを含む20mM Tris−HCl(pH8.2)を500μL加えて粒子を分散させ、表面に抗hCG抗体が結合した蛍光分子含有シリカナノ粒子(以下、抗体結合シリカナノ粒子と呼ぶ。)の分散溶液を得た。
【0054】
[コンジュゲートパッドの作製]
Glass Fiber Conjugate Pad(GFCP、MILLIPORE社製)1枚(8mm×150mm)に付き、上記抗体結合シリカナノ粒子の分散溶液0.8mLを均一に塗布した。これをデキケーター内で、室温下で一晩減圧乾燥した。こうして抗体結合シリカナノ粒子を均一に含有するコンジュゲートパッドを作製した。
【0055】
[抗体固定化メンブレンの作製]
メンブレン(丈25mm、商品名Hi−Flow Plus120 メンブレン、MILLIPORE社製)の中央付近(サンプルパッド側の端から約12mm)に約1mm幅のテストラインを作製した。具体的には、抗hCG抗体(alpha subunit of FSH(LH),clone code/6601、Medix Biochemica社製)を1mg/mLの濃度になるように、5%スクロースを含む50mM KH2PO4(pH7.0)溶液に溶解し、これを0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
続いて、メンブレンのサンプルパッド側の端から約16mmに約1mm幅のコントロールラインを作製した。具体的には、抗IgG抗体(Anti Mouse IgG、Dako社製)が1mg/mL含まれる50mM KHPO(pH7.0、シュガーフリー)溶液を0.75μL/cmの塗布量で塗布した。
上記のようにテストラインとコントロールラインを形成させたメンブレンを50℃で30分乾燥させた。
【0056】
続いて、上記乾燥後のメンブレンをブロッキングバッファー(組成:100mMホウ酸(pH8.5)、1重量%カゼイン)中に室温で30分浸すことでメンブレンをブロッキングした。ブロッキング後のメンブレンをメンブレン洗浄/安定バッファー(組成:10mMKHPO(pH7.5)、1重量%スクロース、0.1%コール酸ナトリウム)に移し、室温で30分以上静置した。メンブレンを引き上げ、ペーパータオル上において室温で一晩乾燥させることで、抗体固定化メンブレンを作製した。
【0057】
[テストストリップの作製]
上記コンジュゲートパッドと、上記抗体固定化メンブレンと、サンプルパッド(Glass Fiber Conjugate Pad(GFCP、MILLIPORE社製)と、吸収パッド(Cellulose Fiber Sample Pad(CFSP)、MILLIPORE社製)とを、バッキングシート(商品名:AR9020,Adhesives Research社製)上で組み立て、幅5mm、長さ60mmのストリップ状に切断し、図2a及び図2bに示す構成のテストストリップを得た。
【0058】
[抗体結合シリカナノ粒子の抗体活性評価]
上記テストストリップのサンプルパッドに0.5IU/LのリコンビナントhCG(ロート製薬社製)を100μL滴下して1分静置した後、テストストリップの蛍光をCCD検出器(C2741−35A(商品名、浜松ホトニクス社製)を用いて画像化した。蛍光の検出は、励起光源側のフィルタとしてFF01−482(商品名、Semrock社製)、検出器側のフィルタとしてFF01−536(商品名、Semrock社製)を用いて、テストストリップを水銀ランプ(103W)で照射することで行った。
作製直後並びに作成後16日及び25日経過後のテストストリップを用いてテストラインの蛍光強度を比較した結果を図3に示す。なお、図3中のプロットは抗体活性評価試験3回分の平均値を示し、図中のエラーバーは標準偏差を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 テストストリップ
2 サンプルパッド
3 コンジュゲートパッド
4 ニトロセルロースメンブレン
41 テストライン
42 コントロールライン
5 吸収パッド
6 バッキングシート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性分子が結合したオルガノアルコキシシランとテトラアルコキシシランとをアンモニア水含有溶媒中で混合し、該溶媒中に該機能性分子を含有するシリカのコア粒子を形成させて該コア粒子の分散液を得る第1工程、及び
第1工程で得られた分散液に、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、アルキル基、アリール基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、シアノ基、ハロゲン基、ウレイド基、アクリロキシ基、及びポリスルフィド基からなる群から選択される官能基を有するオルガノアルコキシシランを添加してシリカのコア粒子にシェル層を形成させる第2工程、
を少なくとも含む、表面が前記官能基で修飾されたシリカナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
第2工程でさらにテトラアルコキシシランを添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記官能基がチオール基である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記チオール基を有するオルガノアルコキシシランが、メルカプトプロピル基を有するオルガノアルコキシシランである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
第2工程で添加されるオルガノアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシランの添加量を調節することによりシリカナノ粒子の純水中におけるゼータ電位の絶対値を20〜70mVに調節する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
機能性分子が蛍光分子である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により製造しうるシリカナノ粒子。
【請求項8】
表面に、ヒドロキシル基と、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、アルキル基、アリール基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、シアノ基、ハロゲン基、ウレイド基、アクリロキシ基、及びポリスルフィド基からなる群から選択される官能基とを有し、純水中におけるゼータ電位の絶対値が20〜70mVである、機能性分子を含有するシリカナノ粒子。
【請求項9】
前記官能基がチオール基である、請求項8に記載のシリカナノ粒子。
【請求項10】
表面に生体分子が結合している、請求項1〜9のいずれか一項に記載のシリカナノ粒子。
【請求項11】
生体分子がタンパク質である、請求項10に記載のシリカナノ粒子。
【請求項12】
タンパク質が抗体又は抗原である、請求項11に記載のシリカナノ粒子。
【請求項13】
請求項10〜12に記載のシリカナノ粒子を含む診断キット。
【請求項14】
診断キットがイムノクロマトグラフィー装置である、請求項13に記載の診断キット。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225381(P2011−225381A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94071(P2010−94071)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】