説明

表皮親和性コーティング剤及び医療用具

【課題】生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度よりも高い温度では疎水性となる温度応答性を有した、ヒアルロン酸又はその誘導体含有表皮親和性コーティング剤を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸又はその誘導体を担持したポリマー材料よりなる表皮親和性コーティング剤において、該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性である。このポリマー材料は、好ましくはN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これに3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドと、N−イソプロピルアクリルアミドをブロック重合させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた表皮親和性を中長期に亘って持続することができ、生体組織、特に、表皮へ直接接触する部材(表面接触機器)としての各種医療用具の表皮親和性コーティング剤と、この表皮親和性コーティング剤がコーティングされた医療用具とに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具は大別して埋入機器及び表面接触機器に分類される。埋入機器としては心臓ペースメーカー、人工血管、ステントなどが例示可能であり、主に、NiTi合金やe−PTFEなど皮下組織から異物と認識されにくい化学的にイナートな材料が成功している例が多い。
【0003】
一方、表皮は外界と常時接触しており雑菌と常時接触するばかりでなく、入浴・シャワーなどによる清浄操作、衣類摺れなどの刺激、角質新陳代謝や発汗などによるpH変化、紫外線暴露など種々の刺激を受けており、皮下組織と比較しても異物認識と異物排除機能が高い組織であると考えられる。このことはペースメーカーリード線などで起こるダウングロース現象からも説明できる。
【0004】
表面接触機器としてはドレッシング材、尿道カテーテルなどが例示される。中長期に亘って生体の表皮と直接接触する表面接触機器では、皮膚の刺激性などが少ないことが必須であるが異物認識に関しても優位性を与える材料設計が必要である。
【0005】
皮膚の保護材や美肌用化粧品として古くからヒアルロン酸が利用されている(例えば下記文献1)。ヒアルロン酸は、分子量約5万〜800万程度のβ(1−3)グルクロン酸とβ(1−4)グロコサミンからなるムコ多糖であり水に自由に溶解し、かつ、大量の水を分子内に保持する性質を有するため、皮膚の乾燥を防ぐ保湿成分としての利用が多く、軟膏など形態で使用されている。
【0006】
表面接触機器としての医療用具表面へコーティングしようとした場合、ヒアルロン酸を材料表面へ固定する必要があるが、前記の通りヒアルロン酸は水に自由に溶解するため材料表面へ固定しても発汗、清浄操作などの水との接触によって溶出してしまう。尿道カテーテルなど水分量の多い粘膜組織との接触であれば、溶出はより速く行われてしまう。
【0007】
これを解決するために化学架橋剤を使用して材料表面へ化学結合を介してヒアルロン酸を固定する技術もある(例えば下記文献2)が、化学架橋剤の残留などの問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2004−41586号
【特許文献2】特開平7−313585号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では水溶性(親水性)であり、該所定温度よりも高い温度では非水溶性(疎水性)となる温度応答性を有した、ヒアルロン酸又はその誘導体含有表皮親和性コーティング剤及びこの表皮親和性コーティング剤がコーティングされた医療用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表皮親和性コーティング剤は、ヒアルロン酸又はその誘導体を担持したポリマー材料よりなる表皮親和性コーティング剤において、該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とするものである。
【0011】
この所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることが好ましい。
【0012】
前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合鎖を有することが好ましい。
【0013】
前記ポリマー材料は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることが好ましい。
【0014】
このN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。このイニファターに対しては、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のいずれを先に重合させてもよい。
【0015】
本発明の医療用具は、かかる本発明の表皮親和性コーティング剤がコーティングされたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表皮親和性コーティング剤は、N−イソプロピルアクリルアミドのポリマー鎖の作用により、上記所定温度よりも低い温度では親水性であり、水溶性である。従って、この表皮親和性コーティング剤は、これを水に溶解させて生体あるいは医療用具に塗布し、その後、所定温度よりも高い温度とすることにより、疎水性(水不溶性)となり、生体あるいは医療用具に付着する。付着した表皮親和性コーティング剤は、担持したヒアルロン酸又はその誘導体によって生体の表皮に対する親和作用が奏される。
【0017】
この表皮親和性コーティング剤は、水溶液として安定して長期保存することができ、また、ハイブリッド材料あるいは生体に対しても適用できる。
【0018】
この表皮親和性コーティング剤を構成するポリマー材料がカチオン性ポリマーブロックを有する場合、ヒアルロン酸又はその誘導体は、pKaの高いカルボキシル基を有するためマイナスチャージを有しており、このカチオン性ポリマーブロックに対しイオン錯体を形成する如くして担持される。
【0019】
このポリマー材料がカチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合体よりなる分岐鎖を複数個有する場合、表皮親和性コーティング剤の医療用具等に対する付着力が高いものとなる。すなわち、複数個の該分岐鎖を有する表皮親和性コーティング剤では、医療用具等の表面に疎水結合している1分子中の複数の分岐鎖のすべてが同時に剥離しなければ、当該分子(ポリマー)を材料表面から剥離させることができず、1本が剥離しても残りの分岐鎖が結合していれば、一度剥離した分岐鎖も材料表面に再結合することができる。これに対して、1分子中に1本のポリマー鎖のみを有する直線型のブロックポリマーでは、この1本のポリマー鎖が剥離すればその分子はそのまま剥離してしまうため、付着力は弱いものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の表皮親和性コーティング剤は、ヒアルロン酸又はその誘導体を担持したポリマー材料よりなり、このポリマー材料は、好ましくは、カチオン性ポリマーブロックとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のブロックとを有したブロック共重合鎖を有している。
【0021】
上記のポリマー材料としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにカチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とを光照射リビング重合させた分岐型重合体が好適である。
【0022】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0023】
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
【0024】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエン、クロロホルムが好適である。
【0025】
このイニファターに重合させるモノマーは、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミドであり、いずれを先に重合させてもよい。なお、(メタ)アクリレートはアクリレート及び/又はメタクリレートを表す。
【0026】
カチオン性モノマーとしては、ビニル系モノマー特に3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドが好適である。
【0027】
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及び一方のモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対し該一方のモノマーが結合した第1工程反応生成物を生成させ、次いで、この第1工程反応生成物の各分岐鎖に他方のモノマーをブロック共重合させる。この際の溶媒としては、上記イニファターの溶媒を用いればよい。
【0028】
カチオン性モノマーの該原料溶液中の濃度は例えば0.1M以上、例えば0.1〜2.5Mが好適である。N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体の濃度は0.1M以上、例えば0.1〜2.5M程度が好適である。
【0029】
イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0030】
照射する光の波長は200〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0031】
なお、一方のモノマーを用いた光照射工程(第1の光照射工程)で生じた反応生成物を好ましくは精製した後、好ましくはアルコールに溶解させ、他方のモノマーを用いた第2の光照射工程を行う。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中の第1工程反応生成物濃度としては、0.01mM〜100mM程度が好適である。
【0032】
カチオン性モノマーの重合度は特に10〜6000が好適であり、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロックの数平均分子量は2,000〜500,000、特に特に3,000〜150,000程度が好適である。
【0033】
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなる表皮親和性コーティング剤が得られる。
【0034】
この分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、3,000〜600,000、特に3,000〜150,000、とりわけ3,000〜100,000程度が好ましい。
【0035】
このようにして生成した分岐型重合体は、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロックを有する。このN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマー鎖は、30℃よりも低温度では親水性、30℃よりも高温では疎水性となる温度依存性を有し、これにより表皮親和性コーティング剤は、約30℃よりも高い温度で水不溶性であり、約30℃よりも低い温度で水溶性であるものとなる。
【0036】
従って、約30℃よりも低い温度例えば10〜25℃程度の表皮親和性コーティング剤の水溶液(濃度は好ましくは、3〜150mg/mL程度)を生体あるいは医療用具に塗布などにより付着させ、30℃よりも高い温度に昇温させ、必要に応じ乾燥させることにより、水不溶性の、カチオン性ポリマーブロックを有した表皮親和性コーティングが形成される。生体の場合、この際の昇温は生体の体温によって行われる。形成された表皮親和性コーティングは、N−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体のポリマーブロックを含んだ複数の分岐鎖を有しているため、生体あるいは医療用具に対する付着力が高く、剥れにくい。
【0037】
また、このようにして生成した分岐型重合体は、カチオン性ポリマーブロックを有する。このカチオン性ポリマーブロックに対しヒアルロン酸又はその誘導体がイオン錯体を形成する如くして担持される。このポリマー材料にヒアルロン酸又はその誘導体を担持させるには、ヒアルロン酸又はその誘導体の水溶液をポリマー材料の低温水溶液に添加し、混合するのが好ましい。
【0038】
この医療用具としては、ドレッシング材、尿道カテーテルなどが例示される。医療用具に適用する場合、医療用具の表面1cm当りに表皮親和性コーティング剤を0.1〜30mg程度付着させるのが好ましい。
【実施例】
【0039】
実施例1
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0040】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)2.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム12.0gをエタノール10mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム40mLへ溶解し、50mLの水を加えて液液抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を約10gの硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、微かに淡青色を帯びた白色の1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより原料ピークが消滅し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0041】
H NMR(in CDCl)の測定結果はσ7.48(s,2H,Ar−H),σ4.57(s,2H×4,Ar−CHS−),σ4.03(q,2H×4,N−CH−,J=10.7Hz),σ3.72(q,2H×4,N−CH−,J=10.7Hz),σ1.26−1.31(t,3H×8,−CH−CH,J=6.6Hz)となった。
【0042】
【化1】

【0043】
ii)光重合による4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
【0044】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン0.043gを10mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)5.2gを加えて混合し、全量をトルエンで20mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を10分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより3700と測定された。
【0045】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、σ3.10−3.39(br、−NH−CH−)、σ2.25−2.42(br、−CH−N(CH)、σ2.21(br、−N(CH)、σ1.48−1.76(br,−CH−CH−,−CH−CH−CH−)となった。
【0046】
【化2】

【0047】
iii)ホモポリマーへのN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合によるポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)の合成
下記反応式に従い、次のようにして、テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−ブロック−ポリ−(N−イソプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAm−b−pNIPAMと記すことがある。)の合成を行った。
【0048】
即ち、上記ii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマー645mgを10mLのメタノールへ溶解し,N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)1.2gを混合して全量をメタノールで20mLに調整した。ii)と同様の条件で光照射重合を行って、メタノール/ジエチルエーテル系で精製を行って4分岐型pDMAPAAmとポリN−イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)とのブロックポリマーよりなるポリマー材料pDMAPAAm−b−pNIPAMを得た(重合率80%)。分子量はGPCにより9,300と測定された。
【0049】
H NMR(in CDCl)の測定結果は、σ3.10−3.39(br,−NH−CH−),σ2.25−2.42(br,−CH−N(CH),σ2.21(br,−N(CH),σ1.48−1.76(br,−CH−CH−,−CH−CH−CH−),σ1.08−1.23(br,−CH−(CH)となった。
【0050】
【化3】

【0051】
iv)ヒアルロン酸とのイオン錯体化
上記iii)で合成したポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)とヒアルロン酸を20℃程度の水溶液中で混合することでイオン錯体化が可能であった。
【0052】
表皮親和性処理剤として水不溶性又は難溶性とするために、ヒアルロン酸との混合比を以下のように決定した。4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAMを20mg、ヒアルロン酸を0mg〜200mgの範囲で水2mLへ溶解した溶液の吸光度と温度の関係をプロットし、曇点を測定した。ヒアルロン酸の導入量が多いと低温領域に曇点がシフトすることが認められた。ヒト体温付近で水不溶性であるためにはヒアルロン酸の量は約50mg以下である必要があった。
【0053】
v)コーティング処理
20mgの上記ポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAMブロック共重合体)と15mgのヒアルロン酸を水へ溶解し全量を2mLに調整した。この溶液10μLを2cm×3cm角のPETフィルムへ均質に流延し、ドライヤーで乾燥させることでコーティング処理した。フィルムを37℃に温調したプレート上へ乗せ、接触角を測定した。この状態での接触角は15°であり、ヒアルロン酸に起因すると推定されるフィルム表面の親水化現象が確認された。このフィルムを37℃の温水で洗浄で洗浄を続けると、洗浄時間とともに表面の接触角は徐々に上昇し約44°でプラトーに達した。PETフィルムの接触角74°へ近づいたが、ヒアルロン酸が不溶化されて固定されたことが確認された。
【0054】
比較例1
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)の代わりに(ブロモメチル)ベンゼンを使用したこと以外は実施例1のi)と同様にして(N、N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを合成した。精製物は無色液体で、収率は約93%であった。
【0055】
H NMR(in CDCl)の測定結果はσ7.41〜7.27ppm(m、5H、Ar−H)、σ4.54ppm(s、2H、Ar−CH−S−)、σ4.08〜4.01ppm(q、2H、N−CH−)、σ3.72ppm(q、2H、N−CH−)、σ1.25−1.31ppm(m、6H、−CH−CH)となった。
【0056】
次いで、上記ii)及びiii)の手法に準じて、1本の直鎖のみを有した直線型ブロックポリマーpDMAPAAm−b−pNIPAMを合成し、上記(v)のPETフィルムへのコーティング処理と水洗浄実験を行った。37℃で軽く洗浄するだけで接触角は15°から74°まで上昇し、コーティングしたポリマーが速やかにPETフィルムから剥離していることが確認された。
【0057】
以上より、実施例1の分岐型の構造の優位性が確認された。すなわち、実施例1の表皮親和性コーティング剤では、材料表面に疎水結合している1分子中の複数の分岐鎖のpNIPAMブロックのすべてが同時に材料表面から剥離しなければ、分子を材料表面から剥離させることができず、1本が剥離しても残りの分岐鎖が結合していれば、一度剥離した分岐鎖も再結合することができため、材料表面に頑強に固定されていると考えられる。これに対して、比較例1で合成した直線型のブロックポリマーでは、1分子中に1本のp−NIPAMポリマー鎖しかなく、このP−NIPAMポリマー鎖が材料表面から剥離すればその分子はそのまま材料表面から剥離してしまうため、洗浄処理に弱いものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸又はその誘導体を担持したポリマー材料よりなる表皮親和性コーティング剤において、
該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリマー材料は、カチオン性モノマーとN−イソプロピルアクリルアミド又はその誘導体とのブロック共重合鎖を有することを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項3】
請求項2において、カチオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項4】
請求項3において、該ブロック共重合体の分子量が3,000〜600,000であることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記カチオン性ホモポリマーは、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体であることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項7】
請求項6において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項8】
請求項6又は7において、ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とする表皮親和性コーティング剤。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項の表皮親和性コーティング剤がコーティングされた医療用具。

【公開番号】特開2008−245747(P2008−245747A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88272(P2007−88272)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】