説明

表示体、粘着ラベル、転写箔及びラベル付き物品

【課題】より高い偽造防止効果を達成すると共に、偽造防止技術を施した表示体を使用する際のデザイン上の制約を低減させる。
【解決手段】本発明の表示体10は、複数の凹部又は凸部からなる回折構造を各々が含み且つ隙間を形成している1つ又は複数の第1要素領域と、前記隙間の少なくとも一部を埋めている1つ又は複数の第2要素領域とを各々が含んだ1つ又は複数の第1界面部を備え、第1方向から白色光で照明した場合に、前記1つ又は複数の第1要素領域に対応した第1要素表示部は第1回折光を第2方向に射出し、前記1つ又は複数の第2要素領域に対応した第2要素表示部は散乱光を射出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止技術に関する。
【背景技術】
【0002】
認証物品、有価証券及びブランド品などには、偽造が困難であることが望まれる。そのため、このような物品には、通常の印刷物とは異なった視覚効果を有する表示体が付されることがある。
【0003】
このような表示体の一例として、ホログラムを含んだ表示体が挙げられる。ホログラムは、特定の方向から観察した場合に、光の干渉に基づいた明るく鮮やかな色を表示する。この干渉光による表示色は、複写機等による複製によっては再現できない。また、ホログラムは、通常の印刷物と比較して構造が複雑であるため、それ自体の複製又は変造も困難である。そのため、ホログラムは、偽造防止技術として、広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ホログラムを含んだ表示体には、偽造防止技術が適用されていることが比較的悟られ易いという問題点がある。偽造防止技術の適用が悟られると、表示体が不正に複製又は変造される可能性が高くなる。即ち、高い偽造防止効果を達成できない場合がある。
【0005】
また、ホログラムが表示する像は、干渉光による表示色を観察できない条件のもとでは、アルミ箔のような非常に安っぽい像として認識される。そのため、ホログラムを含んだ表示体を使用する場合、デザイン上の制約が生ずることがある。特に、表示体をブランド品等の高級感が要求されるものに使用する場合には、この制約が大きな問題となり得る。
【特許文献1】特開2004−230571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、より高い偽造防止効果を達成すると共に、偽造防止技術を施した表示体を使用する際のデザイン上の制約を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、複数の凹部又は凸部からなる回折構造を各々が含み且つ隙間を形成している1つ又は複数の第1要素領域と、前記隙間の少なくとも一部を埋めている1つ又は複数の第2要素領域とを各々が含んだ1つ又は複数の第1界面部を備え、第1方向から白色光で照明した場合に、前記1つ又は複数の第1要素領域に対応した第1要素表示部は第1回折光を第2方向に射出し、前記1つ又は複数の第2要素領域に対応した第2要素表示部は散乱光を射出し、前記第1方向から前記白色光で照明して前記第2方向から肉眼で観察した場合には、前記1つ又は複数の第1界面部に対応した第1表示部は前記第1回折光に対応した色を表示し且つ前記第1要素表示部は前記第1表示部のうち前記第1要素表示部以外の部分から識別することが不可能であり、前記第1方向から前記白色光で照明して前記第2方向とは異なる第3方向から肉眼で観察した場合には、前記第1表示部は前記散乱光に対応した色を表示し且つ前記第2要素表示部は前記第1表示部のうち前記第2要素表示部以外の部分から識別することが不可能であることを特徴とする表示体が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る表示体と、前記表示体上に設けられた粘着層とを具備したことを特徴とする粘着ラベルが提供される。
【0009】
本発明の第3側面によると、第1側面に係る表示体と、前記表示体を剥離可能に支持した支持体層とを具備したことを特徴とする転写箔が提供される。
【0010】
本発明の第4側面によると、第1側面に係る表示体とこれを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、より高い偽造防止効果を達成すると共に、偽造防止技術を施した表示体を使用する際のデザイン上の制約を低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体の一部を拡大して示す平面図である。図3は、図2に示す表示体のIII−III線に沿った断面図である。なお、図2には、表示体10のうち、図1において破線で囲んでいる部分を描いている。
【0014】
この表示体10は、樹脂層11と反射層13との積層体を含んでいる。図3に示す例では、樹脂層11側を背面側とし、反射層13側を前面側としている。
【0015】
反射層13と外界との界面は、界面部IF1及びIF2を含んでいる。そして、界面部IF1は、要素領域IF1a及びIF1bを含んでいる。以下、この表示体10のうち、界面部IF1及びIF2に対応した部分を、それぞれ、表示部DA1及びDA2と呼ぶ。また、この表示体10のうち、要素領域IF1a及びIF1bに対応した部分を、それぞれ、要素表示部DA1a及びDA1bと呼ぶ。
【0016】
樹脂層11の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を使用する。この場合、原版を用いた転写により、一方の主面に凸構造及び/又は凹構造が設けられた樹脂層11を容易に形成することができる。
【0017】
反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、反射層13として、樹脂層11とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、反射層13として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち樹脂層11と接触しているものの屈折率は、樹脂層11の屈折率とは異なっていることが望ましい。反射層13は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0018】
反射層13は、省略することができる。但し、表示体10が反射層13を含んでいる場合、表示体10に視認性がより優れた像を表示させることができる。
【0019】
なお、表示体10では、樹脂層11側を前面側とし、反射層13側を背面側としてもよい。この場合、反射層13と外界との界面ではなく、樹脂層11と反射層13との界面が界面部IF1及びIF2を含む。なお、この場合には、樹脂層11の材料として、光透過性の樹脂を使用する。
【0020】
表示体10は、被覆層を更に備えていてもよい。被覆層は、樹脂層11及び反射層13の積層体に対して前面側に設ける。例えば、樹脂層11側を背面側とし、反射層13側を前面側とする場合、反射層13を被覆層によって被覆すると、反射層13の損傷を抑制できるのに加え、その表面の凸構造及び/又は凹構造の偽造を目的とした複製を困難とすることができる。
【0021】
次に、要素領域IF1a及びIF1b並びに界面部IF2について説明する。
界面部IF1では、複数の要素領域IF1aと複数の要素領域IF1bとが二次元的に配列している。要素領域IF1aはそれらの間に隙間を形成しており、要素領域IF1bはこれら隙間を埋めている。この例では、要素領域IF1a及びIF1bは、市松模様状に配列している。
【0022】
ここでは、要素領域IF1a及びIF1bを、界面部IF1の全体に亘って一様に配置している。即ち、要素領域IF1a及びIF1bを、単位面積に占める要素領域IF1aの割合及び単位面積に占める要素領域IF1bの割合の各々が何れの位置でも等しくなるように配置している。その代わりに、要素領域IF1a及びIF1bは、単位面積に占める要素領域IF1aの割合及び単位面積に占める要素領域IF1bの割合の各々が位置に応じて異なるように配置してもよい。
【0023】
界面部IF1は、複数の要素領域IF1aと複数の要素領域1F1bとによって構成されていてもよい。複数の要素領域IF1aと複数の要素領域IF1bとによって界面部IF1を構成する場合、要素領域IF1a及び要素領域IF1bは、二次元的に配列していてもよく、一次元的に配列していてもよい。後者の場合、例えば、界面部IF1は、万線状に配置された複数の要素領域IF1aと、それら以外の部分を占める複数の要素領域IF1bとによって構成されていてもよい。或いは、界面部IF1は、万線状に配置された複数の要素領域IF1bと、それら以外の部分を占める複数の要素領域IF1aとによって構成されていてもよい。
【0024】
界面部IF1は、1つの要素領域IF1aと複数の要素領域IF1bとによって構成されていてもよい。例えば、界面部IF1は、網点状に配置された複数の要素領域IF1bと、それら以外の部分を占める1つの要素領域IF1aによって構成されていてもよい。
【0025】
同様に、界面部IF1は、複数の要素領域IF1aと1つの要素領域IF1bとによって構成されていてもよい。例えば、界面部IF1は、網点状に配置された複数の要素領域IF1aと、それら以外の部分を占める1つの要素領域IF1bとによって構成されていてもよい。
【0026】
界面部IF1は、1つの要素領域IF1aと1つの要素領域IF1bとによって構成されていてもよい。例えば、界面部IF1は、各々が櫛形を有しており、一方の櫛歯が他方の櫛歯と幅方向に交互に隣り合うように配置された要素領域IF1a及びIF1bによって構成されていてもよい。
【0027】
要素領域IF1aでは、複数の凹部又は凸部が短い最小中心間距離で規則的に配列している。要素領域IF1aにおいて、これら凹部又は凸部は、回折格子の如く回折光を射出する機能を有している。なお、ここで「最小中心間距離」とは、隣接する複数の凹部又は凸部の中心間距離のうち最も小さいものをいう。
【0028】
要素領域IF1bは、典型的には、無秩序に配置された複数の凹部又は凸部からなる。要素領域IF1bにおいて、これら凹部又は凸部は、散乱光を射出する機能を有している。
【0029】
要素領域IF1aに対応した要素表示部DA1aは、第1方向から白色光で照明した場合に、回折光を射出する。要素領域IF1bに対応した要素表示部DA1bは、第1方向から白色光で照明した場合に、散乱光を射出する。典型的には、要素表示部DA1aが回折光を射出する方向の少なくとも1つにおいて、この回折光は、要素表示部DA1bが射出する散乱光と比較して、強度がより高い。例えば、要素表示部DA1aがこの方向、すなわち第2方向に射出する回折光の強度は、要素表示部DA1bがこの第2方向に射出する散乱光の強度の2倍以上である。
【0030】
後で詳述するように、表示部DA1は、正面から観察した場合には、要素表示部DA1bが射出する散乱光に対応した色を表示する。即ち、この場合、表示部DA1は、典型的には、白色又は明灰色の印刷層の如く見える。そして、特定の観察条件のもとでは、表示部DA1は、要素表示部DA1aが射出する回折光に対応した色を表示する。即ち、表示部DA1は、観察条件に応じて、異なる色を表示する。
【0031】
なお、ここで「白色」は、例えば、表示部DA1に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約80%以上であることを意味する。また、「明灰色」は、例えば、表示部DA1に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約50%以上であることを意味する。
【0032】
界面部IF1が含んでいる各要素領域について、更に詳しく説明する。
【0033】
まず、要素領域IF1aについて説明する。
図4は、図1乃至図3に示す表示体の要素領域IF1aに採用可能な構造の一例を示す斜視図である。図5は、図4に示す構造の平面図である。なお、図4及び図5において、x及びy方向は互いに直交し且つZ方向に対して垂直な方向であり、z方向はZ方向に対して平行な方向である。
【0034】
図4及び図5に示す要素領域IF1aでは、複数の凸部PRが配列している。この例では、凸部PRは、互いに直交するx方向とy方向とに格子状に配列している。凸部PRは、斜めに交差する2方向に格子状に配列していてもよい。
【0035】
要素領域IF1aにおいて、各凸部PRは、テーパ形状、即ち先細り形状を有している。テーパ形状は、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、又は切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状である。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。テーパ形状は、要素領域IF1aの光反射率を小さくするのに役立つ。加えて、テーパ形状は、原版からの樹脂層11の取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。それら凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
【0036】
要素領域IF1aにおいて、凸部PRは、回折格子を形成している。凸部PRが形成している回折格子は、凸部PRの配置に対応して溝(即ち、格子線)を格子状に配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。
【0037】
なお、この例では、要素領域IF1aに凸部PRを設けているが、それら凸部PRを凹部で置換してもよい。凸部PRをテーパ形状とすると、凸部PRを柱状とした場合と比較して、表示部DA1の反射率を小さくすることができる。この効果は、テーパ形状の凸部PRの代わりにテーパ形状の凹部を設けた場合にも得ることができる。
【0038】
次に、要素領域IF1aの光学特性について説明する。
上記の通り、要素領域IF1aにおいて、凸部PRは、回折格子として機能する。回折格子を照明すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。
【0039】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の格子線に垂直な面内で光が進行する場合、下記等式から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ)
この等式において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0040】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり且つ90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0041】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。従って、この場合、格子定数dが波長λと比較してより大きければ、上記等式を満足する波長λ及び入射角αが存在する。即ち、この場合、観察者は、上記等式を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0042】
これに対し、格子定数dが波長λと比較してより小さい場合、上記等式を満足する入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は、回折光を観察することができない。
【0043】
この説明から明らかなように、通常の回折格子とは異なり、要素領域IF1aは法線方向に回折光を射出しないか、又は、要素領域IF1aが法線方向に射出する回折光は視感度の低いもののみである。
【0044】
要素領域IF1aに設けられている回折格子は、通常の回折格子とは、以下の点で更に相違している。
【0045】
図6は、或る回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図7は、他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【0046】
図6及び図7において、IFは回折格子が形成された界面を示し、NLは界面IFの法線を示している。また、ILは複数の波長の光から構成される白色照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示し、DLr、DLg及びDLbは白色照明光ILが分光することにより得られる赤、緑及び青色の1次回折光を示している。
【0047】
図6において、界面IFには、格子定数が可視光の最短波長、例えば約400nmよりも大きい回折格子が設けられている。他方、図7において、界面IFには、格子定数が可視光の最短波長よりも小さい回折格子が設けられている。
【0048】
上記等式から明らかなように、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長と比較してより大きい場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、図6に示すように、回折格子は、1次回折光DLr、DLg及びDLbをそれぞれ正の角度範囲内の射出角βr、βg及びβbで射出する。なお、図示していないが、このとき、回折格子は、他の波長の光についても同様に1次回折光を射出する。
【0049】
これに対し、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長の1/2より大きく且つこの最短波長未満である場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、図7に示すように、回折格子は、1次回折光DLr、DLg及びDLbをそれぞれ負の角度範囲内の射出角βr、βg及びβbで射出する。例えば、角度αが50°であり、格子定数dが330nmである場合を考えると、回折格子は、白色照明光ILのうち波長λが540nm(緑)の光を回折させ、1次回折光DLgを約−60°の射出角βgで射出する。
【0050】
この説明から明らかなように、要素領域IF1aは、正の角度範囲内に回折光を射出せずに、負の角度範囲内のみに回折光を射出するか、又は、正の角度範囲内に射出する回折光は視感度が低いもののみであり、負の角度範囲内に視感度が高い回折光を射出する。即ち、要素領域IF1aに設けられた回折格子は、通常の回折格子とは異なり、視感度が高い回折光を負の角度範囲内のみに射出する。
【0051】
また、この表示体10では、凸部PRはテーパ形状を有している。このような構造を採用した場合、凸部PRの中心間距離が十分に短ければ、界面IF1の近傍の領域は、Z方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察しても、要素領域IF1aの正反射光についての反射率は小さい。そして、上記の通り、要素領域IF1aは、実質的に、法線方向に回折光を射出しない。
【0052】
次に、要素領域IF1bについて説明する。
【0053】
要素領域IF1bは、照明光を照射された場合に散乱光を射出する機能を有している。
【0054】
要素領域IF1bは、典型的には、無秩序に配置された複数の凹部又は凸部からなる。これら複数の凹部又は凸部は、例えば、ランダムな中心間距離で配置されている。また、これら複数の凹部又は凸部の深さ又は高さは、典型的には、不均一である。
【0055】
要素領域IF1bは、樹脂層11のうち要素領域IF1bに対応する部分が光散乱性を有している場合には、平坦面であってもよい。例えば、樹脂層11を、樹脂とこれとは異なる屈折率を有した粒子との混合物で構成した場合、要素領域IF1bが平坦面であっても、要素表示部DA1bは光散乱性を示す。
【0056】
この場合、典型的には、表示部DA1のうち要素表示部DA1aに対応する部分には反射層13を形成し、要素表示部DA1bに対応する部分には反射層13を形成しない。或いは、上記粒子を樹脂層11のうち要素表示部DA1bに対応する部分にのみ分散させ、反射層13を省略して、樹脂層11側を前面側とする。樹脂層11に分散させる粒子としては、例えば、酸化チタンなどの酸化物の粒子を使用する。
【0057】
図8は、光散乱性を有する界面が散乱光を射出する様子を概略的に示す図である。
【0058】
図8において、IFは光散乱性を有する界面を示し、NLは界面IFの法線を示している。また、ILは複数の波長の光から構成される白色照明光を示し、SLmaxは散乱光のうち強度が最大であるものを示し、SL1/2は散乱光のうち強度が散乱光SLmaxの強度の二分の一であるものを示す。そして、γは散乱光SLmaxと散乱光SL1/2とが為す角度、即ち、散乱光の半値角を示す。なお、散乱光SLmaxの射出方向は、典型的には、正反射光(図示せず)の射出方向と一致する。
【0059】
図8に示すように、光散乱性を有する界面IFは、白色照明光ILを照射されると、一定の広がりを有した散乱光を射出する。この散乱光は、回折格子等により分光されていないため、典型的には、白色光として認識される。即ち、光散乱性を有する界面IFは、散乱光が射出される角度範囲から観察すると、典型的には白色の領域として視認される。
【0060】
要素領域IF1bでは、上記の半値角γは、典型的には、20゜乃至60゜とする。半値角γが小さいと、散乱光を観察できる角度範囲が小さくなる。それゆえ、表示部DA1が白色又は明灰色の印刷層のように見える角度範囲が小さくなる。一方、半値角γが大きいと、散乱光を観察できる角度範囲が大きくなる。この場合、散乱光は、負の角度範囲、特には、上述した第2方向においても比較的高い強度を有しうる。それゆえ、この場合、上記散乱光は、要素領域IF1aから射出される回折光の視認を妨げ得る。
【0061】
要素領域IF1bからの散乱光が射出される角度範囲と要素領域IF1aからの回折光が射出される角度範囲とは、互いに重複していてもよく、重複していなくてもよい。但し、回折光が射出される全ての角度範囲において散乱光の強度が過度に高いと、要素領域IF1aから射出される回折光が視認できなくなる可能性がある。この場合、高い偽造防止効果は達成できない。そのため、例えば、回折光が射出される角度範囲に属する少なくとも1つの方向について、上記方向における回折光の強度が上記方向における散乱光の強度の2倍以上となるようにする。
【0062】
以上の通り、要素領域IF1bは、白色照明光を照射されると、散乱光を射出する。要素領域IF1bから射出される散乱光は、正の角度範囲内の方向において強度が最大となる。そして、この散乱光は、最大の強度を与える射出方向を中心として、一定の広がりをもって射出される。加えて、特定の条件のもとでは、要素領域IF1bから射出される散乱光は、要素領域IF1aから射出される回折光の視認を妨げない。
【0063】
続いて、界面部IF2について、簡単に説明する。
【0064】
界面部IF2は、界面部IF1と隣り合っている。界面部IF2は、例えば平坦面である。或いは、界面部IF2は、要素領域IF1aと同様のレリーフ構造を備えている。或いは、界面部IF2は、要素領域IF1bと同様の構造を備えている。或いは、界面部IF2は、要素領域IF1a及びIF1bの何れとも異なる構造を備えている。界面部IF2は、省略してもよい。
【0065】
界面部IF2は、界面部IF1とは光学的特性が異なっている。即ち、表示部DA2は、肉眼で観察した場合に表示部DA1から識別可能な像を表示する。従って、表示部DA1と表示部DA2とを対比させることにより、表示部DA1の光学効果を際立たせることができる。
【0066】
この表示体10は、以下に説明するように、観察条件に応じて異なる像を表示する。
図9は、図1乃至図3に示す表示体を或る条件のもとで観察している様子を概略的に示す図である。図10は、図1乃至図3に示す表示体を他の条件のもとで観察している様子を概略的に示す図である。
【0067】
図9には、表示体10の前面を負の角度範囲内の方向から照明し、この表示体10を正の角度範囲内の方向から観察している様子を描いている。図10には、表示体10の前面を負の角度範囲内の方向から照明し、この表示体10を負の角度範囲内の方向から観察している様子を描いている。なお、図9及び図10には、表示体10のうち、表示部DA1のみを描いている。
【0068】
上記の通り、要素領域IF1aは、視感度が高い回折光を正の角度範囲内に射出しない。また、要素領域IF1aは、正反射光についての反射率が小さい。これに対し、要素領域IF1bは、視感度が高い散乱光SLを正の角度範囲内に射出する。
【0069】
従って、図9に示す観察条件のもとでは、要素表示部DA1aは、視感度が高い光を観察者OBに向けて射出しない。これに対し、要素表示部DA1bは、視感度が高い光を観察者OBに向けて射出する。また、要素表示部DA1a及びDA1bは、肉眼で観察した場合に互いからの識別が不可能である。それゆえ、表示部DA1は、上記の散乱光に対応した色を表示する。即ち、表示部DA1は、白色又は明灰色の印刷層の如く見える。また、観察方向が法線方向に対して平行である場合も、表示部DA1は、白色又は明灰色の印刷層の如く見える。
【0070】
このように、図9に示す条件のもとでは、表示部DA1は、白色又は明灰色に見える。そして、表示部DA2は、界面部IF2が平坦面である場合には鏡面の如く見え、界面部IF2に回折格子及びホログラムなどの回折構造が設けられている場合には回折構造に起因した分光色を表示する。それゆえ、観察者OBには、表示部DA1は、鏡面又は回折格子若しくはホログラム上に設けられた白色又は明灰色の印刷層の如く見える。また、表示部DA2は、界面部IF2が要素領域IF1bと同様の構造を有している場合には、白色又は明灰色に見える。この場合、表示部DA1と表示部DA2との双方が、白色又は明灰色の印刷層の如く見える。即ち、この場合、表示部DA1の存在が悟られ難い。
【0071】
上述したように、図9に示す条件のもとでは、要素表示部DA1aに由来した正反射光は視認され難い。それゆえ、表示部DA1がアルミ箔のような鏡面状の領域として視認される可能性は低い。従って、表示体10を使用する際のデザイン上の制約は少ない。
【0072】
図10に示す条件のもとでは、例えば、要素表示部DA1aが射出する回折光DLr、DLg及びDLbの何れかは、観察者OBに向けて進行する。これに対し、要素表示部DA1bが射出する散乱光は、典型的には、観察者OBに向けては進行しない。或いは、散乱光のうち強度が比較的低い光、例えば、この方向に射出される回折光の強度の二分の一以下の強度を有した光のみが、観察者OBに向けて進行する。従って、この条件のもとでは、表示部DA1は、要素表示部DA1aからの回折光に対応した色を表示する。
【0073】
このように、図10に示す条件のもとでは、表示部DA1は、回折光に由来する色を表示する。そして、図10に示す観察条件のもとでは、表示部DA2は、界面部IF2が平坦面である場合には鏡面の如く見え、界面部IF2が光散乱性を有している場合には白色に見え、界面部IF2に回折格子及びホログラムなどの回折構造が設けられている場合には鏡面の如く見える。
【0074】
なお、界面部IF2が要素領域IF1aと同様又は類似の回折構造を有している場合には、更に特殊な視覚効果が達成できる。これについては、後で詳しく説明する。
【0075】
ところで、一般に、物品を観察する場合、正反射光を知覚できるように、物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、表示部DA1に上述した構造を採用していることを知らない観察者は、図9を参照しながら説明した条件のもとでこの表示体10を観察する可能性が高い。
【0076】
上記の通り、この観察条件のもとでは、要素表示部DA1aは、観察者OBに向けて視感度が高い回折光を射出しない。加えて、要素表示部DA1aは、正反射光についての反射率が小さい。これに対し、この観察条件のもとでは、要素表示部DA1bは、観察者OBに向けて視感度の高い散乱光を射出する。それゆえ、表示部DA1は、白色又は明灰色の印刷層の如く見える。従って、この表示体10は、要素表示部DA1aが回折光を射出し得ることを悟られ難い。
【0077】
そして、正の角度範囲内の方向又は略法線方向から観察した場合に白色又は明灰色の印刷層の如く見え、負の角度範囲内の方向から観察した場合に回折光に由来する色を表示するという特徴を、他の構成によって再現することは不可能であるか又は困難である。加えて、この表示体10の製造、特には要素領域IF1aのレリーフ構造の形成には、高い技術力が必要である。即ち、例え要素表示部DA1aが回折光を射出し得ることを悟られたとしても、この表示体10とは構造が異なる模造品によって先の光学特性を再現することはできず、また、この表示体10と同一の構造を有する偽造品を製造することは極めて困難である。
従って、この表示体10を使用すると、高い偽造防止効果を達成することができる。
【0078】
この表示体10では、要素領域IF1aにおいて、凸部PR又は凹部の中心間距離は、500nm以下であり、典型的には450nm以下であり、一例によると400nm以下である。また、各要素領域において、凸部PR又は凹部の中心間距離は、例えば200nm以上であり、典型的には300nm以上である。
【0079】
凸部PR又は凹部の中心間距離が十分に小さければ、各要素領域はZ方向に1次回折光を射出しないか、又は、各要素領域がZ方向に射出する1次回折光を視感度が低い波長の光のみとすることができる。従って、凸部PR又は凹部の中心間距離を小さくすると、表示体10を正面方向から観察した場合に、実質的に要素領域IF1bからの散乱光のみが視認されるようにすることができる。なお、凸部PR又は凹部の中心間距離が過剰に小さいと、要素領域IF1aは1次回折光を射出しないか、又は、要素領域IF1aが射出する1次回折光は視感度が低い波長の光のみとなる。
【0080】
界面部IF1において、要素領域IF1aの面積と要素領域IF1bの面積との和に対する要素領域IF1aの面積の比は、例えば0.1乃至0.9の範囲内とし、典型的には0.3乃至0.7の範囲内とする。この比が小さい場合、表示部DA1に、要素領域IF1aから射出される回折光に対応した色を表示させることが困難となる場合がある。この比が大きい場合、表示部DA1に、要素領域IF1bから射出される散乱光に対応した色を表示させることが困難となる場合がある。なお、この面積比を適宜調整することにより、表示部DA1から射出される回折光の強度と散乱光の強度とのバランスを最適化することができる。
【0081】
要素領域IF1aにおける凸部PRの高さ又は凹部の深さは、それらの中心間距離の1/2以上とすることが望ましい。例えば、凸部PR又は凹部の中心間距離が400nmである場合、凸部PRの高さ又は凹部の深さを200nm以上とすると、要素表示部DA1aからの正反射光の強度が低くなる。そして、凸部PRの高さ又は凹部の深さを400nm以上とすると、表示部DA1からの正反射光の強度が更に低くなる。
【0082】
これらの場合、要素表示部DA1bからの散乱光の観察が要素表示部DA1aからの正反射光により妨げられる可能性は低い。また、表示部DA1がアルミ箔のような鏡面状の領域として視認される可能性が低くなり、表示体10を使用する際のデザイン上の制約が少なくなる。加えて、中心間距離に対する凸部PRの高さ又は凹部の深さの比を大きくすると、要素表示部DA1aからの正反射光の強度を抑制できるのに加え、より高精度な製造技術が必要となる。即ち、より高い偽造防止効果を達成できる。
【0083】
上記の通り、要素領域IF1aにおいて、凸部又は凹部は、典型的には約200nm乃至約500nmの範囲内の中心間距離で配列している。そして、要素領域IF1aが回折格子として機能するには、要素領域IF1aにおいて、一方向当り約10個以上の凸部又は凹部が配列していることが望ましい。それゆえ、要素領域IF1aの各々は、例えば、一辺の長さが3μmの正方形を内包する形状とする。
【0084】
また、要素領域IF1a及びIF1bの各々が大きい場合、例えばそれらが人間の眼の一般的な分解能以上の寸法を有している場合、要素表示部DA1aと要素表示部DA1bとは、独立した領域として視認されうる。この場合、要素表示部DA1a及びDA1bの各々の光学効果の変化を表示部DA1全体の光学効果の変化として認識させることができない。従って、各要素領域は、例えば、短辺の長さが300μmの矩形に内包される形状とする。
【0085】
界面部IF1は、要素領域IF1aについて上述したのと同様の構造を有しており、第1方向から白色光で照明した場合に要素領域IF1aとは波長が異なる回折光を第2方向とは異なる第4方向に射出する1種以上の要素領域を更に含んでいてもよい。この場合、例えば、要素領域IF1aと追加の要素領域とで、凸部PRの配列方向及び/又は中心間距離を異ならしめる。そして、要素領域IF1a及び追加の要素領域は、要素領域IF1aがそれらの間に形成している隙間の一部のみを要素領域IF1bが埋め、追加の要素領域が隙間の残りを埋めるように配置する。加えて、第1方向から白色光で照明して第2方向から肉眼で観察した場合に、追加の要素領域に対応した各要素表示部と表示部DA1の他の要素表示部との識別が不可能であるように界面部IF1を設計する。こうすると、表示部DA1は、第2方向から観察した場合には要素領域IF1aから射出される回折光に対応した色を表示し、第4方向から観察した場合には追加の要素領域から射出される回折光に対応した色を表示する。従って、この場合、より高い偽造防止効果を達成できる。
【0086】
なお、上記の追加の要素領域は、要素領域IF1aとは波長が異なる回折光を第2方向に射出するように設計してもよい。この場合、表示部DA1に、要素領域IF1aから射出される回折光に対応した色と追加の要素領域から射出される回折光に対応した色との混色を表示させることができる。
【0087】
続いて、界面部IF2が要素領域IF1aと同様又は類似の回折構造を有している場合、即ち、界面部IF2において複数の凹部又は凸部が短い最小中心間距離で規則的に配列している場合について説明する。
この場合、これら複数の凹部又は凸部は、要素領域IF1aと同様又は類似の光学効果を有する回折格子として機能する。即ち、この場合、界面部IF2は、視感度が高い回折光を正の角度範囲内に射出しない。そして、界面部IF2は、正反射光についての反射率が小さい。
【0088】
従って、例えば図9に示す観察条件のもとでは、界面部IF2は、視感度が高い光を観察者OBに向けて射出しない。それゆえ、表示部DA2は、暗灰色又は黒色の印刷層の如く見える。また、観察方向が表示部DA2の法線方向に対して平行である場合も、表示部DA2は、暗灰色又は黒色の印刷層の如く見える。
【0089】
なお、ここで、「暗灰色」は、例えば、表示部DA2に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。また、「黒色」は、例えば、表示部DA2に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。
【0090】
この場合、例えば図9に示す観察条件のもとでは、表示部DA2は、表示部DA1から射出される散乱光に対応した色とは異なる色を表示する。典型的には、表示部DA1は白色又は明灰色の印刷層の如く見え、表示部DA2は暗灰色又は黒色の印刷層の如く見える。また、観察方向が法線方向に対して平行である場合も、表示部DA1は白色又は明灰色の印刷層の如く見え、表示部DA2は暗灰色又は黒色の印刷層の如く見える。従って、このような観察条件のもとでは、表示部DA1と表示部DA2との組み合わせにより、例えばモノクロの像を表示させることができる。
【0091】
これに対し、例えば図10に示す観察条件のもとでは、界面部IF2は、視感度が高い回折光を観察者OBに向けて射出する。それゆえ、このような観察条件のもとでは、界面部IF2は、回折光に由来した色を表示する。
【0092】
界面部IF2に要素領域IF1aと同様の構造を採用した場合、表示体10を特定の観察方向から観察すると、表示部DA2と表示部DA1とが同じ色に見える。従って、このような観察条件のもとでは、図9に示す観察条件のもとで視認可能だった像が視認できなくなる。即ち、この場合、観察条件に応じて像を消失させたり現出させたりすることができる。
【0093】
界面部IF2に要素領域IF1aと類似の構造を採用した場合、例えば、界面部IF2と要素領域IF1aとで規則的に配列した凸部PRの最小中心間距離及び/又は配列方向を異ならしめた場合、表示体10を特定の観察方向から観察すると、表示部DA2と表示部DA1とは互いに異なる色に見える。従って、この場合、図10に示す観察条件のもとで表示体10を観察すると、図9に示す観察条件のもとで視認可能だった像は、異なる色彩の像として視認可能となる。即ち、この場合、観察条件に応じて表示部DA1及びDA2が表示する像の色彩を変化させることができる。これにより、更に高い偽造防止効果を達成できる。
【0094】
表示部DA1には、文字、記号及び絵柄等の情報を表示させることが望ましい。このような情報を表示させることにより、使用者の注視効果を向上させると共に、表示体10やこれを備えたラベル付き物品に意匠性を付与することができる。
【0095】
図1乃至図10を参照しながら説明した表示体10は、粘着ラベル及び転写箔等の一部として使用してもよい。
【0096】
図11は、本発明の一態様に係る粘着ラベルを概略的に示す断面図である。
【0097】
粘着ラベル20は、表示体10と、表示体10上に設けられた粘着層21とを備えている。図11には、一例として、図3に示す表示体10の樹脂層11の背面上に粘着層21が設けられている場合を示している。
【0098】
粘着層21を設けると、樹脂層11の表面が露出しないようにできる。樹脂層11の表面の形状は、通常、反射層13と外界との界面の形状とほぼ等しい。そのため、表示体10を粘着ラベル20の一部として使用することにより、先の界面の凹部又は凸部の複製をより困難とすることができる。なお、表示体10において、反射層13側を背面側とし且つ樹脂層11側を前面側とする場合、粘着層21は、反射層13上に形成する。
【0099】
この粘着ラベル20は、例えば、真正さが確認されるべき物品に貼り付けるか、或いは、そのような物品に取り付けられるべきタグの基材などの他の物品に貼り付ける。これにより、当該物品に偽造防止効果を付与することができる。
【0100】
なお、反射層13にカッティングを入れたり、表示体10と粘着層21との間に脆性層を更に設けたりすることにより、粘着ラベル20に貼替え防止機能を付与することもできる。これにより、更に高い偽造防止効果を達成できる。
【0101】
図12は、本発明の一態様に係る転写箔を概略的に示す断面図である。
【0102】
転写箔30は、表示体10と、表示体10を剥離可能に支持した支持体層31とを備えている。図8には、一例として、反射層13及び支持体層31間に剥離保護層33が設けられ且つ樹脂層11の背面上に接着層35が設けられている場合を描いている。
【0103】
剥離保護層33は、転写箔30を被転写体に転写する際の支持体層31の剥離を容易にする役割を担っている。剥離保護層33の材料としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン又はニトロセルロースを使用することができる。剥離保護層33は、例えば、グラビアコーティング法及びマイクログラビアコーティング法などの公知の方法により形成することができる。
【0104】
接着層35は、例えば、熱を印加したときに粘着性を発現する感熱接着剤を含んでいる。感熱接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂を使用することができる。接着層35は、例えば、上述した樹脂を、グラビアコータ、マイクログラビアコータ及びロールコータなどのコータを用いて樹脂層11上に塗布することにより得られる。
【0105】
この転写箔30は、例えば、ロール転写機又はホットスタンプによって、被転写体に転写される。この際、剥離保護層33において剥離を生じると共に、表示体10が、被転写体に、接着層35を介して貼付される。
【0106】
図13は、ラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図14は、図13に示すラベル付き物品のXIV−XIV線に沿った断面図である。
【0107】
図13及び図14には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材40を含んでいる。基材40は、例えば、プラスチックからなる。基材40の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ50が嵌め込まれている。ICチップ50の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込み及び/又はICに記録された情報の読出しが可能である。基材40上には、印刷層41が形成されている。基材40の印刷層41が形成された面には、上述した表示体10が例えば粘着層60を介して固定されている。表示体10は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層41に貼りつけることにより、基材20に固定する。
【0108】
この印刷物100は、上述した表示体10を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の偽造及び模造は不可能又は困難である。しかも、この印刷物100は、表示体10に加えて、ICチップ50及び印刷層41を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0109】
なお、図13及び図14には、表示体10を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体10を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体10を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体10を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0110】
また、図13及び図14に示す印刷物100では、表示体10を基材40に貼り付けているが、表示体10は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材として紙を使用した場合、表示体10を紙に漉き込み、表示体10に対応した位置で紙を開口させてもよい。或いは、基材として光透過性の材料を使用する場合、その内部に表示体10を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体10を固定してもよい。
【0111】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。即ち、印刷層を含んでいない物品に表示体10を支持させてもよい。例えば、表示体10は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0112】
表示体10は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体10は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【実施例】
【0113】
以下のようにして、表示体10を製造した。
まず、レジスト乾板DPを準備し、その上に、EB(電子線)描画装置を用いて、図15に示すようなパターンを描画した。
【0114】
図15は、レジスト乾板上に形成するパターンの一例を示す平面図である。
レジスト乾板DP上には、図15に示すように、複数の領域R1及び1つの領域R2を形成した。領域R1の各々には、最小中心間距離が300nmである複数の凸部PRを形成した。領域R1の各々は、100μm四方の四角形の領域とし、これら領域R1の各々は、或る領域R1の中心とこれに隣接する領域R1の中心との間の距離が300μmとなるように形成した。領域R2には、1μm乃至5μmの間隔で、複数の溝を無秩序に形成した。領域R2は、レジスト乾板DPの表面のうち領域R1以外の部分を占めるように形成した。なお、領域R1を構成する凸部PRの高さは、約100nmとした。また、領域R2を構成する溝の深さは、約300nmとした。
【0115】
次に、このレジスト乾板DPを現像した。その後、これに金属メッキを施すことにより、レジスト乾板DP上に形成した表面レリーフパターンを金属製の金型に写し取った。そして、この金型を用いて、塩化ビニルフィルム上にエンボス加工を施し、樹脂層11を得た。次いで、この樹脂層11上にアルミニウムを蒸着させ、反射層13を形成した。このようにして、領域R1に対応した要素領域IF1aと領域R2に対応した要素領域IF1bとからなる界面部IF1を形成した。
【0116】
以上のようにして、表示体10を得た。
この表示体10を図9に示す観察条件のもとで観察したところ、表示体10の表示部DA1の全体が白色に見えた。また、表示体10を図10に示す観察条件のもとで観察したところ、表示体10の表示部DA1の全体が青色に光って見えた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の一態様に係る表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体の一部を拡大して示す平面図。
【図3】図2に示す表示体のIII−III線に沿った断面図。
【図4】図1乃至図3に示す表示体の要素領域に採用可能な構造の一例を示す斜視図。
【図5】図4に示す構造の平面図。
【図6】或る回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図7】他の回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図。
【図8】光散乱性を有する界面が散乱光を射出する様子を概略的に示す図。
【図9】図1乃至図3に示す表示体を或る条件のもとで観察している様子を概略的に示す図。
【図10】図1乃至図3に示す表示体を他の条件のもとで観察している様子を概略的に示す図。
【図11】本発明の一態様に係る粘着ラベルを概略的に示す断面図。
【図12】本発明の一態様に係る転写箔を概略的に示す断面図。
【図13】ラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図。
【図14】図13に示すラベル付き物品のXIV−XIV線に沿った断面図。
【図15】レジスト乾板上に形成するパターンの一例を示す平面図。
【符号の説明】
【0118】
10…表示体、11…樹脂層、13…反射層、20…粘着ラベル、21…粘着層、30…転写箔、31…支持体層、33…剥離保護層、35…接着層、40…基材、41…印刷層、50…ICチップ、60…粘着層、100…印刷物、DA1…表示部、DA1a…要素表示部、DA1b…要素表示部、DA2…表示部、DLb…回折光、DLg…回折光、DLr…回折光、DP…乾板、IF…界面部、IF1…界面部、IF1a…要素領域、IF1b…要素領域、IF2…界面部、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、OB…観察者、PR…凸部、R1…領域、R2…領域、RL…正反射光、SL…散乱光、SLmax…散乱光、SL1/2…散乱光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凹部又は凸部からなる回折構造を各々が含み且つ隙間を形成している1つ又は複数の第1要素領域と、前記隙間の少なくとも一部を埋めている1つ又は複数の第2要素領域とを各々が含んだ1つ又は複数の第1界面部を備え、
第1方向から白色光で照明した場合に、前記1つ又は複数の第1要素領域に対応した第1要素表示部は第1回折光を第2方向に射出し、前記1つ又は複数の第2要素領域に対応した第2要素表示部は散乱光を射出し、
前記第1方向から前記白色光で照明して前記第2方向から肉眼で観察した場合には、前記1つ又は複数の第1界面部に対応した第1表示部は前記第1回折光に対応した色を表示し且つ前記第1要素表示部は前記第1表示部のうち前記第1要素表示部以外の部分から識別することが不可能であり、
前記第1方向から前記白色光で照明して前記第2方向とは異なる第3方向から肉眼で観察した場合には、前記第1表示部は前記散乱光に対応した色を表示し且つ前記第2要素表示部は前記第1表示部のうち前記第2要素表示部以外の部分から識別することが不可能であることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記1つ又は複数の第1界面部の少なくとも1つにおいて、前記1つ又は複数の第1要素領域は、この第1界面部の全体に亘って一様に配置された複数の第1要素領域であり、前記1つ又は複数の第2要素領域は、この第1界面部の全体に亘って一様に配置された複数の第2要素領域であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記1つ又は複数の第1界面部の少なくとも1つは、複数の前記第1要素領域及び/又は複数の前記第2要素領域を備え、これら第1要素領域及び第2要素領域の少なくとも一方は、前記第1界面部において網点を形成していることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項4】
前記1つ又は複数の第1界面部の少なくとも1つは、複数の前記第1要素領域及び/又は複数の前記第2要素領域を備え、これら第1要素領域及び第2要素領域の少なくとも一方は、前記第1界面部において万線を形成していることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項5】
前記複数の凹部又は凸部は、200nm以上且つ500nm以下の最小中心間距離で配列していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示体。
【請求項6】
前記1つ又は複数の第2要素領域の少なくとも1つは、無秩序に配置された複数の凹部又は凸部からなることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の表示体。
【請求項7】
前記第1方向から前記白色光で照明した場合に、前記第2方向に射出される前記回折光の強度は、前記第2方向に射出される前記散乱光の強度の2倍以上であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の表示体。
【請求項8】
前記1つ又は複数の第1界面部の少なくとも1つと隣り合った第2界面部を更に具備し、前記第2界面部に対応した第2表示部は、肉眼で観察した場合に前記第1表示部から識別可能な像を表示することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の表示体。
【請求項9】
前記第2界面部は複数の凹部又は凸部からなる回折構造を含み、
前記第1方向から前記白色光で照明して前記第2方向から肉眼で観察した場合には、前記第2表示部は、第2回折光を前記第2方向に射出して前記第2回折光に対応した色を表示し、
前記第1方向から前記白色光で照明して前記第3方向から肉眼で観察した場合には、前記第2表示部は前記第1表示部から射出される前記散乱光に対応した色とは異なる色を表示することを特徴とする請求項8に記載の表示体。
【請求項10】
前記第1回折光と前記第2回折光とは波長が互いに異なることを特徴とする請求項9に記載の表示体。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の表示体と、前記表示体上に設けられた粘着層とを具備したことを特徴とする粘着ラベル。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の表示体と、前記表示体を剥離可能に支持した支持体層とを具備したことを特徴とする転写箔。
【請求項13】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−85721(P2010−85721A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254824(P2008−254824)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】