表示体及びラベル付き物品
【課題】高い偽造防止効果と特徴的な視覚効果を示す表示体を提供する。
【解決手段】複数のレリーフ構造形成領域を備え、前記レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含み、前記レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面であり、前記第1反射面と第2反射面の高低差は各々のレリーフ構造形成領域内で略一定であり、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域11と、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層16によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域12から構成されていることを特徴とする表示体によって、多色の構造性発色効果を実現する。
【解決手段】複数のレリーフ構造形成領域を備え、前記レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含み、前記レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面であり、前記第1反射面と第2反射面の高低差は各々のレリーフ構造形成領域内で略一定であり、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域11と、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層16によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域12から構成されていることを特徴とする表示体によって、多色の構造性発色効果を実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を発揮する表示技術に係り、特に表示体及びラベル付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、溝の長さ方向又は格子定数(即ち溝のピッチ)が異なる複数の回折格子を配置して絵柄を表示することが記載されている。回折格子に対する観察者又は光源の相対的な位置が変化すると、観察者の目に到達する回折光の波長が変化する。従って、上記の構成を採用すると、虹色に変化する画像を表現することができる。
【0005】
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。
【0006】
上記特許文献1には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、回折格子の原版は、二光束干渉を利用して形成することもできる。
【0007】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、まず、このような方法により原版を形成し、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルム又はシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0008】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。
【0009】
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0010】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
【0011】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5058992号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高い偽造防止効果と特徴的な視覚効果を示す表示体及びラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために第1の発明は、複数のレリーフ構造形成領域を備え、前記レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含み、前記レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面であり、前記第1反射面と第2反射面の高低差は各々のレリーフ構造形成領域内で略一定であり、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域と、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域から構成されていることを特徴とする表示体である。
【0015】
また、第2の発明は、前記レリーフ構造形成領域の少なくとも一部が、凹凸形状に追従する光反射性を有する薄膜層を有することを特徴とする請求項1に記載の表示体である。
【0016】
また、第3の発明は、前記第1レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差と、前記第2レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差とが略一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体である。
【0017】
また、第4の発明は、前記第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域を有する請求項1又は2に記載の表示体である。
【0018】
また、第5の発明は、前記光透過性を有する被覆層が、屈折率が1.4以上の電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体である。
【0019】
また、第6の発明は、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体のいずれかから構成される第3レリーフ構造形成領域を有する請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体である。
【0020】
また、第7の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したラベル付き物品である。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によると、表示体は複数のレリーフ構造形成領域を備え、レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含んでいる。レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面である。
【0022】
このような構造に対して、白色照明光が入射すると、第1反射面で反射する光と第2反射面まで到達し反射する光とで光の進む距離(光路長)に差が生じ、光路長に対応して特定の波長の光が弱めあうことにより、射出される光は白色ではなく、他の波長を中心とした任意の色調を表示可能な光となる。
【0023】
また、複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域と、複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域を有していることから、第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域は各々、第1反射面からの反射光と第2反射面からの反射光による光路差が異なることによって、別々の色調を表示できる。
【0024】
この作用によって呈される表示色は、従来の回折格子パターンのように照明の位置や観察者の位置の変化に伴う虹色の色変化が起きにくく、従来の回折格子パターンによる偽造防止媒体とは異なる視覚効果を実現できる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0025】
また、第2の発明によると、レリーフ構造形成領域の少なくとも一部が、凹凸形状に追従する光反射性を有する薄膜層を有している。凸部又は凹部に、その形状に追従するように光反射性の薄膜層を備えることによって、反射光の光量が増加し、表示体の視認性が向上する。
【0026】
また、第3の発明によると、第1レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差と、第2レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差とが略一定である。同一の高低差から成る表示体は、第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域によって複数の色調が表示可能でありながら、異なる高低差から成る表示体と比較して作製が容易である。
【0027】
また、第4の発明によると、表示体は第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域を有している。第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域によって、多色の表示が可能となり、且つ、より複雑な作製プロセスが必要になることから、意匠性が高く、偽造防止効果が高い表示体を実現できる。
【0028】
第3乃至第4の発明のように、第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域を複数設け、異なる色調を表示することによって、絵柄や文字、記号、数字等の情報を表示することが可能となる。
【0029】
また、第5の発明によると、第2レリーフ構造形成領域を覆う光透過性を有する被覆層が屈折率1.4以上の電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂から形成されている。屈折率が1.4以上の前記合成樹脂を用いることで、前記被覆層が非常に薄くても第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域の表示色を明確に異ならしめることができる。
【0030】
また、第6の発明によると、表示体に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、のいずれかから成る第3レリーフ構造形成領域を設けることで表示体の意匠性をさらに高めることができるとともに、さらに高い偽造防止効果を実現できる。
【0031】
また、第7の発明によると、本発明の表示体を、印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る表示体を概略的に示した平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図である。
【図3】ピッチが狭い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図である。
【図4】ピッチが広い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図である。
【図5】本発明の表示体の第1レリーフ構造形成領域に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の表示体の第1レリーフ構造形成領域に採用可能な構造の別の一例を示す斜視図である。
【図7】回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図である。
【図8】第1レリーフ構造形成領域から射出される回折光の様子を示す概略図である。
【図9】図5及び図8に示した第1レリーフ構造形成領域の平面図である。
【図10】本発明の表示体の第1レリーフ構造形成領域に採用可能な指向性を有する構造の一例を示す斜視図である。
【図11】図10に示した第1レリーフ構造形成領域から射出される回折光の様子を示す概略図である。
【図12】本発明の表示体の第2レリーフ構造形成領域の構成の一例を示す斜視図である。
【図13】図12に示した第2レリーフ構造形成領域の断面図である。
【図14】第1レリーフ構造形成領域に入射した光の伝搬速度を示す概念図である。
【図15】第2レリーフ構造形成領域に入射した光の伝搬速度を示す概念図である。
【図16】第3レリーフ構造形成領域に採用可能な反射防止構造体の一例を示す斜視図である。
【図17】第3レリーフ構造形成領域に採用可能な散乱構造体の一例を示す斜視図である。
【図18】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
【図19】図18に示すラベル付き物品のXIIII−XIIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
(表示体の構成について)
図1は、本発明の一実施形態に係る表示体1を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体1のII−II線に沿った拡大断面図である。なお、図1及び図2において、X方向及びY方向は表示面に対して平行であり、且つ互いに対して垂直な方向である。また、Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0035】
この表示体1は、図1に示すように、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12及び第3レリーフ構造形成領域13を含んでいる。図2に示すように、第1レリーフ構造形成領域11は、レリーフ構造形成層14及び光反射性を有する薄膜層15から成る。また、第2レリーフ構造形成領域12は、レリーフ構造形成層14及び光反射性を有する薄膜層15及び光透過性を有する被覆層16を含んでいる。第3レリーフ構造については後述する。この例では、被覆層16側を前面側(観察者側)とし、レリーフ構造形成層14側を表示体の背面側としている。
【0036】
レリーフ構造形成層14の材料としては、例えば、電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂を使用することができる。
【0037】
光反射性を有する薄膜層15としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、被覆層16とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、薄膜層15として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、被覆層16と接触しているものの屈折率は、被覆層16の屈折率とは異なっていることが望ましい。薄膜層15は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0038】
薄膜層15は、表示体1に入射する光を効率よく反射、射出させることで、反射光の光量の増加に寄与する。薄膜層15はレリーフ構造形成層14の全面を覆うように形成されていてもよく、その一部のみを覆っていてもよい。また、薄膜層15は無くてもよい。レリーフ構造形成層14の一部のみを覆った薄膜層15、即ち、パターニングされた薄膜層15は、例えば、気相堆積法により連続膜としての光反射層を形成し、その後、薬品などによりその一部を溶解させることによって得られる。或いは、パターニングされた薄膜層15は、連続膜としての光反射層を形成し、その後、レリーフ構造形成層14に対する薄膜層の密着力と比較して光反射層に対する接着力がより高い接着材料を用いて薄膜層の一部をレリーフ構造形成層14から剥離することによって得られる。或いは、パターニングされた薄膜層15は、マスクを用いて気相堆積を行うこと、又は、リフトオフプロセスを利用することにより得ることができる。
【0039】
被覆層16は、光透過性を有しており、透明、特には無色透明である。被覆層16の材料としては、例えば、電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂を使用することができる。薄膜層15が存在しない場合、レリーフ構造形成層14の屈折率と被覆層16の屈折率とを異ならしめることによって、レリーフ構造形成層14と被覆層16の界面において入射光を反射するようにする必要がある。
【0040】
表示体1は、接着剤層、樹脂層及び印刷層などの他の層を更に含むことができる。
【0041】
接着剤層は、例えば、レリーフ構造形成層14に密着して設ける。接着剤層は表示体1を印刷物やその他の物品に貼り付けるのに用いる。接着剤層として、凹凸構造を形成可能な合成樹脂材料を使用した場合、接着剤層とレリーフ構造形成層を兼ねることも可能である。
【0042】
樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層、汚れの付着を抑制する防汚層又は帯電防止層である。樹脂層は、表示体1の積層体の前面側(観察者側)に設ける。第1レリーフ構造形成領域を覆う樹脂層は、第1レリーフ構造形成領域の凹凸形状に追従するように、薄膜で覆う必要がある。
【0043】
印刷層は、例えば、表示体1の積層体の観察者側に、又はレリーフ構造形成領域と接着層との間に設ける。印刷層を設けることで、表示体1の意匠性を向上させることができ、また、表示体1に表示させる情報を容易に追加できる。
【0044】
(回折格子の光学的性質について)
第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域について説明するに当り、まず、回折格子の格子定数(溝のピッチ)と、照明光の波長と、照明光の入射角と、回折光の射出角との関係について説明する。
【0045】
照明光源を用いて回折格子に照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向及び波長に応じて特定の方向に強い回折光を射出する。
【0046】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の溝の長さ方向に対して垂直な面内で光が進行する場合、下記の式(1)から算出することができる。
【数1】
【0047】
式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0048】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0049】
図3は、小さな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図4は、大きな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【0050】
点光源LSは、波長が赤色域内にある光成分Rと、波長が緑色域内にある光成分Gと、波長が青色域内にある光成分Bとを含んだ白色光を放射する。点光源LSが放射した光成分G、B及びRは、回折格子GRに入射角αで入射する。回折格子GRは、光成分Gの一部として回折光DL_gを射出角β_gで射出し、光成分Bの一部として回折光DL_bを射出角β_bで射出し、光成分Rの一部として回折光DL_rを射出角β_rで射出する。なお、図示していないが、回折格子GRは、他の次数の回折光も式(1)によって導出される角度で射出する。
【0051】
このように、一定の照明条件のもとでは、回折格子は、回折光を、その波長に応じて異なる射出角で射出する。それ故、太陽及び蛍光灯などの白色光源下では、回折格子は、波長が異なる光が別々の角度で射出する。従って、このような照明条件下では、回折格子の表示色は、観察角度の変化に伴って虹色に変化する。また、格子定数が大きいほど、回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、射出角β_g、β_b及びβ_rの相違は小さくなる。
【0052】
次に、回折格子の格子定数と、照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0053】
式(1)によると、格子定数dの回折格子に対して、入射角αで照明光を入射させると、この回折格子は、射出角βで回折光を射出する。この際、波長λの光についての回折効率は、回折格子の格子定数及び溝の深さ等に応じて変化し、下記式(2)から算出することができる。
【数2】
【0054】
ここで、ηは回折効率(0乃至1の値)を表し、rは回折格子の溝の深さを表し、Lは回折格子の溝の幅を表し、dは格子定数を表し、θは照明光の入射角を表し、λは照明光及び回折光の波長を表している。なお、この式(2)は、溝の長さ方向に垂直な断面が矩形波状であり、溝が比較的浅い回折格子について成り立つものである。
【0055】
式(2)から明らかなように、回折効率ηは、溝の深さr、格子定数d、入射角θ及び波長λに応じて変化する。また、回折効率ηは、回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0056】
(第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域の光学的性質について)
次に、第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域の構造とその光学的性質について説明する。
【0057】
図5は、第1レリーフ構造形成領域11のレリーフ構造形成層14に採用可能な構造の一例を概略的に示す斜視図である。
【0058】
第1レリーフ構造形成領域11は、平滑な第1反射面21と、上面及び側面を各々が有している複数の凸部20(又は底面及び側壁を各々が有している複数の凹部)とを含んでいる。凸部20の上面(又は凹部の底面)は、第1反射面21に対して平行であり且つ平滑な第2反射面22である。なお、図5においては、第1レリーフ構造形成領域11は複数の凸部20から成り、第2反射面22は、凸部の上面を構成しているが、第1レリーフ構造形成領域に複数の凹部が形成されており、第2反射面が複数の凹部の底面によって構成されている場合においても以下に示す光学作用は同様に発揮される。以後は、凸部による光学作用を説明し、凹部による光学作用の説明を省略する。
【0059】
図5において、円形の凸部20は第1レリーフ構造形成領域11内において所定の方向に対して整然配置されている。整然配置とは、凸部が均等な間隔、または規則性を持った配列をなしていることを指し、例えば、正方格子、矩形格子又は三角格子をなしている。
【0060】
図6は、第1レリーフ構造形成領域11に採用可能な別の構造の一例を示す斜視図である。円形の凸部20は第1レリーフ構造形成領域11内において非整然配置(ランダム配置)で形成されている。凸部が非整然配置される場合、凸部が重畳する状態で形成されていてもよい。
【0061】
凸部の形状の他の例としては、楕円形や八角形、星型、十字等の多角形を任意に採用することができる。また、第1レリーフ構造形成領域11内に形状の異なる凸部が混在していてもよい。
【0062】
図7は、通常の回折格子に白色照明光を照射した際に射出される回折光の様子を示す概略図である。図7に示したようなy軸に平行な方向に規則的に形成された複数の格子線から成る回折格子GRでは、照明光ILが入射した際に、y軸(格子線の長手方向)と直交する方向(x軸方向)に回折光DL_r、DL_g、DL_bが射出される。
【0063】
一方、図8は、第1レリーフ構造形成領域11から射出される回折光の様子を示す概略図である。図9は、図5及び図8に示した第1レリーフ構造形成領域11の平面図である。
【0064】
図9で示されるような構造に白色照明光が入射すると、第1レリーフ構造形成領域11に形成された凸部による第2反射面22とその周囲の第1反射面21によって形成される凹凸構造によって、回折光を射出する。図9のように凸部がお互いに離間して整然配置されている構造においては、x軸方向にとどまらずXY平面上の多くの方位角に対して回折光が射出される。ここで図9に示した一点鎖線A,B,Cのように、複数の凸部が整然配置された構成であっても、その見かけ上の配置間隔は方位に応じて異なっている。そのため、図8及び図9に示した第1レリーフ構造形成領域は、様々な配置間隔(すなわち格子定数d)を有するレリーフ構造体であると言える。このような構造体に光が入射する場合、異なる格子定数dの凹凸構造が多数重畳されていることになり、射出される回折光は、各波長毎に異なる射出角に対して射出されず、各波長の光が様々な角度に重畳されて射出されることになる。
【0065】
さらに、図8においては、光が第1レリーフ構造形成領域11の1点に入射した状態を図示しているが、実際には、光源はある程度の面積をもっており、光は一点への入射ではなく、面状に入射する。よって、実際には、定点において観察者が観察する光はある程度の範囲の波長の光が合わさったものとなり、その結果複数の波長の光による色が観察されることになる。
【0066】
ここで、式(2)で示すとおり、回折構造から射出される回折光は波長に応じて光量、すなわち回折効率が変化する。特に、回折格子の格子線幅L及び、格子線のピッチdを一定と仮定すると、回折効率ηは回折格子の高さr(第1反射面21と第2反射面22の高低差に相当する)と照明光の波長λによって一意に決定される。
【0067】
そのため、第1レリーフ構造形成領域を定点から観察した場合において、可視光の波長成分が均等には目に届かず、第1レリーフ構造形成領域に設けられた凸部の高さ(第1反射面21と第2反射面22の高低差)に応じて特定の波長の光の回折効率が低くなり、結果として観察者に届く光は、入射した白色照明光のうちの、特定の波長成分が弱くなった光となる。よって、観察者は第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、光量に差がある複数の波長の光を知覚することになる。
【0068】
例えば、ある高さの凸部が設けられた第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、青(波長460nm)の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が赤(波長630nm)及び緑(波長540nm)であったとすると、観察される色は黄色であり、別の高さの凸部が設けられた別の第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、赤の波長成分の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が緑及び青であったとすると、観察される色はシアン(うすい水色)となる。
【0069】
図8はその一例として、白色照明光源からの光ILが第1レリーフ構造形成領域11に入射し、赤の回折光DL_rが弱められ、緑の回折光DL_gと青の回折光DL_bが射出される様子を示している。
【0070】
このような原理によって表示される表示色は回折光が到達しないような位置に観察者がいる場合は観察することができない。それにより通常の印刷物とは異なり、照明光源や観察者の位置によって表示色が知覚できる状態とできない状態の2つの状態を実現することができる。これが、多くの範囲でほぼ同じ色が知覚できる通常の印刷物とは異なる点である。
【0071】
図6に示したような、複数の凸部20が非整然配置されているような構造においても、回折光は射出される。図6のような場合においても、式(1)に示した格子定数dの値が様々な値となるため、場所によって回折光の射出角度が様々に変化する。そのため、定点に到達する回折光は図5に示した構造と同様に、ある特定の波長の光を除いた多くの波長の光であり、それらの光の混色が観察されることになる。
【0072】
このように照明光源からの光が表示体の表面に入射し、表示体のレリーフ構造によって入射光が回折し、観察者が目視によってその光を知覚できるような条件を「通常の照明条件下」と定義する。例えば、一般的な室内で蛍光灯等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が目視によって表示体を観察する条件や、室外で太陽光等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が表示体を観察するような条件が「通常の照明条件下」に相当する。ここで「通常照明光」は、室内における蛍光灯や屋外における太陽光等の照明光を指す。
【0073】
また「通常の照明条件以外の条件下」は観察者が回折光を知覚できないような条件を示す。例えば、照明光からの光が表示体の表面に略水平に、すなわち急な角度で入射し、表示体のレリーフ構造から回折光が射出しないような条件や、表示体のレリーフ構造から回折光が射出しても、その回折光が到達しないような角度から観察者が表示体を目視したような条件が「通常の照明条件下以外の条件下」に相当する。
【0074】
複数の波長の光から成る色を通常の照明条件下において観察できる構造とするためには、整然配置された構造の場合は5〜10μm程度のやや大きめの構造とするほうがよい。大きな構造の場合は、式(1)から明らかなように各波長に対する回折光の射出角の差が小さいため、照明光源や観察者の位置が変化しても、表示色がいわゆる虹色に変化せず複数波長の光による色が安定して観察できる。
【0075】
一方で、非整然配置する場合は、凸部を0.3〜5μm程度のやや小さめの構造にするとよい。小さな構造が小さな配置間隔で形成されている場合、式(1)から明らかなように回折光の射出角が大きくなる。そのため、整然配置された構造では虹色に色変化しやすくなるが、非整然配置することで観察者のいる定点に複数の波長の光が到達しやすくできる。また、小さな構造が非整然配置されていると、回折光の射出角が大きくなるので、複数の光による表示色が広い範囲で観察できるという利点がある。
【0076】
第1レリーフ構造形成領域に採用される構造は、1つの第1レリーフ構造形成領域において、第1反射面と第2反射面の高低差が同一であるので、特定の波長の光の回折効率を低下させ、且つ、他の波長の光の回折効率は低下させない効果があるため、回折効率が低下しない複数の波長の光によって固有の色を表示させることが可能になる。
【0077】
第1反射面と第2反射面の高低差は、例えば、0.1μm乃至0.5μmの範囲内にあり、典型的には0.15μm乃至0.4μmの範囲内にある。
【0078】
第1反射面と第2反射面の高低差を小さくすると、第1レリーフ構造形成領域が射出する着色光の色が薄くなる。また、この高低差を小さくすると、製造時の外的要因、例えば、製造装置の状態及び環境の変動並びに材料組成の僅かな変化が、第1レリーフ構造形成領域の光学的性質に及ぼす影響が大きくなる。他方、この高低差が大きい場合、第1レリーフ構造形成領域を高い形状精度及び寸法精度で形成することが難しくなる。
【0079】
各凸部の側面は、典型的には第1反射面21及び第2反射面22に対してほぼ垂直である。この側面は、第1反射面21及び第2反射面22に対して傾いていてもよい。
【0080】
また、第1レリーフ構造形成領域に採用される構造は、図5や図6で示したようにXY平面上の多くの方位角に対して回折光を射出するので、光源の位置や観察する向きが多少変化しても、複数の波長から構成される色を観察可能である。このため、従来の回折格子のように通常の照明条件下において表示色が虹色に変化してしまう現象を回避または低減することができる。
【0081】
第1レリーフ構造形成領域に採用可能なさらに別の構造として指向性を有する構造が挙げられる。図10は、y軸の延伸方向に対して延びた形状を有した複数の線状構造の凸部20から成る第1レリーフ構造形成領域11の例である。凸部20の幅は、例えば、0.2μm乃至2μmの範囲内にあり、典型的には、0.3μm乃至1μmの範囲内にある。凸部20の幅方向における寸法に対する長さ方向における寸法の比は、例えば2以上であり、典型的には10以上である。この比を小さくすると、後述する光学的異方性を観察者に知覚させることが難しくなる。
【0082】
凸部の配列は、肉眼で知覚可能な回折光を射出する回折格子又はホログラムを構成しないように定められている。ここでは、幅方向に隣り合った凸部20の中心線間距離は不規則であり、凸部20の幅も不規則である。凸部20の中心間距離、或いは、凸部20の幅のどちらか一方は等しくてもよい。
【0083】
幅方向に隣り合った凸部20の中心線間距離は、例えば0.1μm乃至1μmの範囲内にあり、典型的には0.2μm乃至0.5μmの範囲内にある。凸部20は、様々な長さを有している。また、凸部20の長さ方向に関するそれらの位置は不規則である。凸部20は、等しい長さを有していてもよく、長さ方向に関して規則的に配置されていてもよい。
【0084】
このような構造に対して、図11のように表示体の垂直上方から白色照明光が入射すると、入射した光ILは、凸部20の長さ方向に直交する方向(x軸の延伸方向)に沿って回折光DL_g,DL_bを射出し、凸部の長さ方向(y軸の延伸方向)に対しては回折光を射出しない。ここで、凸部20の高さ、すなわち第1反射面21と第2反射面22による高低差は、図8に示した構造と同一であり、赤の回折光DL_rを弱めるものとする。
【0085】
このように、方向性(指向性)をもった構造を設けることによって、回折光が射出される方位角方向を制御することが可能となる。この場合においても、第1反射面と第2反射面の高低差を同一にしていることで、その高低差に応じて特定の波長の光が弱められているため、凸部の長さ方向に直交する方向において観察される回折光は、固有の色を表示し、且つ、複数の凸部はランダムに配置されているため虹色に変化せず、凸部の長さ方向に直交する方向において広い範囲で同一の固有色を表示する。
【0086】
第1反射面21及び第2反射面22に平行な平面への第1レリーフ構造形成領域の正射影の面積をSとした場合、面積Sに対する第1反射面21の面積S1の比S1/Sは、例えば20%乃至80%の範囲内にあり、典型的には40%乃至60%の範囲内にある。また、面積Sに対する第2反射面22の面積S2の比S2/Sは、例えば80%乃至20%の範囲内にあり、典型的には60%乃至40%の範囲内にある。そして、面積S1と面積S2との和S1+S2の面積Sに対する比(S1+S2)/Sは、例えば10%乃至100%であり、典型的には50%乃至100%である。比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に、最も明るい表示が可能である。一例によると、比S1/S及びS2/Sの一方が20%であり、他方が80%である場合に達成可能な明るさは、比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に達成可能な明るさの約3割である。
【0087】
図12は、第2レリーフ構造形成領域12に採用可能な構造の一例を概略的に示す斜視図である。図13は、図12に示した第2レリーフ構造形成領域12の断面図である。図12及び図13に示したように、第2レリーフ構造形成領域12は、被覆層16に覆われており凸部20の形状が観察者側の空気界面に露出していないことが第1レリーフ構造形成領域との違いである。第2レリーフ構造形成領域12には第1レリーフ構造形成領域に採用可能な凸部形状を採用することができる。なお、図12及び図13においては、薄膜層がない構成を図示している。
【0088】
第2レリーフ構造形成領域12は、被覆層16に覆われていることによって、第1レリーフ構造形成領域11とは、各領域に入射し射出する光が進行する光学的な距離が変化する。
【0089】
図14は、凹凸構造が空気界面に対して露出している第2レリーフ構造形成領域12に照明光が入射した際の光の進行の様子を示す概念図であり、図15は、凹凸構造が空気界面に対して露出していない第2レリーフ構造形成領域12に照明光が入射した際の光の進行の様子を示す概念図である。図14及び図15の表示体の周囲は屈折率1.0の空気で覆われており、図15に示した被覆層16は、それよりも高い屈折率(典型的な例として屈折率1.5)の合成樹脂によって構成されている。図14及び図15の図中に示したドットは一定時間に進行する光の距離をプロットしたものである。図14では、光は常に空気中を進行するが、図15においては、光は空気中を進行した後、被覆層16の内部を進行し、さらに空気中を進行する。被覆層16の内部においては、空気と比較して高い屈折率の影響により、光の進行速度が低下する。そのため、第1レリーフ構造形成領域11の第1反射面と第2反射面から射出される光の光学的な距離の差(光路差)と、第2レリーフ構造形成領域12の第1反射面と第2反射面から射出される光の光路差は異なる。この光路差の違いによって、干渉によって弱めあう光の波長が変化するため、被覆層16の有無によって表示される色が変化する。
【0090】
入射した光を第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12に形成された複数の凸部によって反射し、回折によって色を表示するため、複数の凸部には、光の反射率を高めるために凸部の形状に追従する光反射性の薄膜層を設けるとよい。薄膜層は前述のように、蒸着やスパッタリングなどの気相堆積法によって形成された金属薄膜や誘電体から成る薄膜を採用することができる。これらの薄膜層を備えた第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12は、十分な反射光が得られ、表示色の視認性が向上する。
【0091】
第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12に設けられる複数の凸部はそれぞれ同じ高低差である第1反射面と第2反射面とによって形成することができる。被覆層16の有無によって表示色を変化させることができるので、単一の凹凸形状を表示体領域内に形成することで、多色の表示が可能となる。この場合、単一の高低差の凹凸形状を形成すればよいので、比較的容易に安定して表示体を作製することが可能となる。
【0092】
また、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12毎に高低差が異なる複数の凸部を形成することで、さらに複数の表示色を実現することが可能になる。第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12を複数備え、それぞれの領域で複数の凸部の高低差を変化させることでより多くの表示色を表示可能である。高低差が異なる凸部からなる領域が複数あることで、作製の難易度が向上し、偽造防止効果が向上する。また、複数色の表示が可能になることから表示体の意匠性、アイキャッチ効果(人目をひく効果)をさらに高めることができる。
【0093】
被覆層16として用いる電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂は屈折率が1.4以上のものを使用するとよい。屈折率が1.4以上の合成樹脂を使用することで、被覆層16が薄くても、空気中を伝搬する光の光路差と被覆層16を伝搬する光の光路差を大きく変えることができ、第1レリーフ構造形成領域11の表示色と第2レリーフ構造形成領域12の表示色を異なる色相の色にすることが可能となる。
【0094】
(第3レリーフ構造形成領域の光学的性質について)
次に、図16に示す第3レリーフ構造形成領域13の光学的性質について説明する。
【0095】
第3レリーフ構造形成領域13は第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第3レリーフ構造形成領域13は表示体1に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。
【0096】
第3レリーフ構造形成領域13に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させたり、立体像を表示させたりする機能を実現できる。
【0097】
また、第3レリーフ構造形成領域13に採用可能な別の構造として、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体30が挙げられる。反射防止構造体30は、図16の斜視図に示したような円錐状の構造や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高い方がより反射防止効果が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体30は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0098】
また、第3レリーフ構造形成領域13に採用可能な構造として、散乱構造体が挙げられる。散乱構造体は、図17の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状31が不規則に複数配置されたものが典型的である。散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光を散乱する効果が得られる。
【0099】
これらの微細構造が形成された第3レリーフ構造形成領域13は、第1レリーフ構造形成領域11のように凹凸形状が空気界面に対して露出した形態であってもよいし、第2レリーフ構造形成領域12のように表面が被覆層16によって覆われた形態であってもよい。
【0100】
(表示体の使用方法)
上述した表示体1は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその他の物品に貼り付けて使用することができる。表示体1は微細なドットの構造高さを厳密に制御することにより固有の色を表示することができ、構造の高さを変えることでその色を変化可能であることから偽造は困難である。このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0101】
図18は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図19は、図18に示すラベル付き物品のXIIII−XIIII線に沿った断面図である。
【0102】
図18及び図19には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材50を含んでいる。基材50は、例えば、プラスチックからなる。基材50の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ41が嵌め込まれている。ICチップ41の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材50上には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体1が例えば粘着層を介して固定されている。表示体1は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。
【0103】
上記印刷物100は、表示体1を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体1に加えて、ICチップ41及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0104】
なお、図18及び図19には、表示体1を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体1を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体1を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0105】
また、図18及び図19に示す印刷物100では、表示体1を基材50に貼り付けているが、表示体1は、他の方法で基材50に支持させることができる。例えば、基材50として紙を使用した場合、表示体1を紙に漉き込み、表示体1に対応した位置で紙を開口させてもよい。
【0106】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層40を含んでいない物品に表示体1を支持させてもよい。例えば、表示体1は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0107】
表示体1は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体1は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1…表示体、11…第1レリーフ構造形成領域、12…第2レリーフ構造形成領域、13…第3レリーフ構造形成領域、14…レリーフ構造形成層、15…薄膜層、16…被覆層、20…凸部、21…第1反射面、22…第2反射面、30…反射防止構造体、31…凹凸形状、40…印刷層、41…ICチップ、50…基材、100…印刷物、d…回折格子のピッチ、DL…回折光、DL_r…回折光(赤)、DL_g…回折光(緑)、DL_b…回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角。
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を発揮する表示技術に係り、特に表示体及びラベル付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、溝の長さ方向又は格子定数(即ち溝のピッチ)が異なる複数の回折格子を配置して絵柄を表示することが記載されている。回折格子に対する観察者又は光源の相対的な位置が変化すると、観察者の目に到達する回折光の波長が変化する。従って、上記の構成を採用すると、虹色に変化する画像を表現することができる。
【0005】
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。
【0006】
上記特許文献1には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、回折格子の原版は、二光束干渉を利用して形成することもできる。
【0007】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、まず、このような方法により原版を形成し、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルム又はシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0008】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより反射層を形成する。
【0009】
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0010】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
【0011】
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5058992号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高い偽造防止効果と特徴的な視覚効果を示す表示体及びラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために第1の発明は、複数のレリーフ構造形成領域を備え、前記レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含み、前記レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面であり、前記第1反射面と第2反射面の高低差は各々のレリーフ構造形成領域内で略一定であり、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域と、前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域から構成されていることを特徴とする表示体である。
【0015】
また、第2の発明は、前記レリーフ構造形成領域の少なくとも一部が、凹凸形状に追従する光反射性を有する薄膜層を有することを特徴とする請求項1に記載の表示体である。
【0016】
また、第3の発明は、前記第1レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差と、前記第2レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差とが略一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体である。
【0017】
また、第4の発明は、前記第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域を有する請求項1又は2に記載の表示体である。
【0018】
また、第5の発明は、前記光透過性を有する被覆層が、屈折率が1.4以上の電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表示体である。
【0019】
また、第6の発明は、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体のいずれかから構成される第3レリーフ構造形成領域を有する請求項1乃至5のいずれかに記載の表示体である。
【0020】
また、第7の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したラベル付き物品である。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によると、表示体は複数のレリーフ構造形成領域を備え、レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含んでいる。レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面である。
【0022】
このような構造に対して、白色照明光が入射すると、第1反射面で反射する光と第2反射面まで到達し反射する光とで光の進む距離(光路長)に差が生じ、光路長に対応して特定の波長の光が弱めあうことにより、射出される光は白色ではなく、他の波長を中心とした任意の色調を表示可能な光となる。
【0023】
また、複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域と、複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域を有していることから、第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域は各々、第1反射面からの反射光と第2反射面からの反射光による光路差が異なることによって、別々の色調を表示できる。
【0024】
この作用によって呈される表示色は、従来の回折格子パターンのように照明の位置や観察者の位置の変化に伴う虹色の色変化が起きにくく、従来の回折格子パターンによる偽造防止媒体とは異なる視覚効果を実現できる。その結果、高い偽造防止効果を発揮する表示体を得ることができる。
【0025】
また、第2の発明によると、レリーフ構造形成領域の少なくとも一部が、凹凸形状に追従する光反射性を有する薄膜層を有している。凸部又は凹部に、その形状に追従するように光反射性の薄膜層を備えることによって、反射光の光量が増加し、表示体の視認性が向上する。
【0026】
また、第3の発明によると、第1レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差と、第2レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差とが略一定である。同一の高低差から成る表示体は、第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域によって複数の色調が表示可能でありながら、異なる高低差から成る表示体と比較して作製が容易である。
【0027】
また、第4の発明によると、表示体は第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域を有している。第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域によって、多色の表示が可能となり、且つ、より複雑な作製プロセスが必要になることから、意匠性が高く、偽造防止効果が高い表示体を実現できる。
【0028】
第3乃至第4の発明のように、第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域を複数設け、異なる色調を表示することによって、絵柄や文字、記号、数字等の情報を表示することが可能となる。
【0029】
また、第5の発明によると、第2レリーフ構造形成領域を覆う光透過性を有する被覆層が屈折率1.4以上の電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂から形成されている。屈折率が1.4以上の前記合成樹脂を用いることで、前記被覆層が非常に薄くても第1レリーフ構造形成領域と第2レリーフ構造形成領域の表示色を明確に異ならしめることができる。
【0030】
また、第6の発明によると、表示体に、回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体、のいずれかから成る第3レリーフ構造形成領域を設けることで表示体の意匠性をさらに高めることができるとともに、さらに高い偽造防止効果を実現できる。
【0031】
また、第7の発明によると、本発明の表示体を、印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る表示体を概略的に示した平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う表示体の拡大断面図である。
【図3】ピッチが狭い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図である。
【図4】ピッチが広い回折格子が+1次回折光を射出する様子を概略的に示した図である。
【図5】本発明の表示体の第1レリーフ構造形成領域に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の表示体の第1レリーフ構造形成領域に採用可能な構造の別の一例を示す斜視図である。
【図7】回折格子から射出される回折光の様子を示す概略図である。
【図8】第1レリーフ構造形成領域から射出される回折光の様子を示す概略図である。
【図9】図5及び図8に示した第1レリーフ構造形成領域の平面図である。
【図10】本発明の表示体の第1レリーフ構造形成領域に採用可能な指向性を有する構造の一例を示す斜視図である。
【図11】図10に示した第1レリーフ構造形成領域から射出される回折光の様子を示す概略図である。
【図12】本発明の表示体の第2レリーフ構造形成領域の構成の一例を示す斜視図である。
【図13】図12に示した第2レリーフ構造形成領域の断面図である。
【図14】第1レリーフ構造形成領域に入射した光の伝搬速度を示す概念図である。
【図15】第2レリーフ構造形成領域に入射した光の伝搬速度を示す概念図である。
【図16】第3レリーフ構造形成領域に採用可能な反射防止構造体の一例を示す斜視図である。
【図17】第3レリーフ構造形成領域に採用可能な散乱構造体の一例を示す斜視図である。
【図18】偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。
【図19】図18に示すラベル付き物品のXIIII−XIIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
(表示体の構成について)
図1は、本発明の一実施形態に係る表示体1を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体1のII−II線に沿った拡大断面図である。なお、図1及び図2において、X方向及びY方向は表示面に対して平行であり、且つ互いに対して垂直な方向である。また、Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0035】
この表示体1は、図1に示すように、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12及び第3レリーフ構造形成領域13を含んでいる。図2に示すように、第1レリーフ構造形成領域11は、レリーフ構造形成層14及び光反射性を有する薄膜層15から成る。また、第2レリーフ構造形成領域12は、レリーフ構造形成層14及び光反射性を有する薄膜層15及び光透過性を有する被覆層16を含んでいる。第3レリーフ構造については後述する。この例では、被覆層16側を前面側(観察者側)とし、レリーフ構造形成層14側を表示体の背面側としている。
【0036】
レリーフ構造形成層14の材料としては、例えば、電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂を使用することができる。
【0037】
光反射性を有する薄膜層15としては、例えば、アルミニウム、銀、金、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、被覆層16とは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、薄膜層15として、隣り合うもの同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち、誘電体多層膜を使用してもよい。なお、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち、被覆層16と接触しているものの屈折率は、被覆層16の屈折率とは異なっていることが望ましい。薄膜層15は、例えば、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。
【0038】
薄膜層15は、表示体1に入射する光を効率よく反射、射出させることで、反射光の光量の増加に寄与する。薄膜層15はレリーフ構造形成層14の全面を覆うように形成されていてもよく、その一部のみを覆っていてもよい。また、薄膜層15は無くてもよい。レリーフ構造形成層14の一部のみを覆った薄膜層15、即ち、パターニングされた薄膜層15は、例えば、気相堆積法により連続膜としての光反射層を形成し、その後、薬品などによりその一部を溶解させることによって得られる。或いは、パターニングされた薄膜層15は、連続膜としての光反射層を形成し、その後、レリーフ構造形成層14に対する薄膜層の密着力と比較して光反射層に対する接着力がより高い接着材料を用いて薄膜層の一部をレリーフ構造形成層14から剥離することによって得られる。或いは、パターニングされた薄膜層15は、マスクを用いて気相堆積を行うこと、又は、リフトオフプロセスを利用することにより得ることができる。
【0039】
被覆層16は、光透過性を有しており、透明、特には無色透明である。被覆層16の材料としては、例えば、電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂を使用することができる。薄膜層15が存在しない場合、レリーフ構造形成層14の屈折率と被覆層16の屈折率とを異ならしめることによって、レリーフ構造形成層14と被覆層16の界面において入射光を反射するようにする必要がある。
【0040】
表示体1は、接着剤層、樹脂層及び印刷層などの他の層を更に含むことができる。
【0041】
接着剤層は、例えば、レリーフ構造形成層14に密着して設ける。接着剤層は表示体1を印刷物やその他の物品に貼り付けるのに用いる。接着剤層として、凹凸構造を形成可能な合成樹脂材料を使用した場合、接着剤層とレリーフ構造形成層を兼ねることも可能である。
【0042】
樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層、汚れの付着を抑制する防汚層又は帯電防止層である。樹脂層は、表示体1の積層体の前面側(観察者側)に設ける。第1レリーフ構造形成領域を覆う樹脂層は、第1レリーフ構造形成領域の凹凸形状に追従するように、薄膜で覆う必要がある。
【0043】
印刷層は、例えば、表示体1の積層体の観察者側に、又はレリーフ構造形成領域と接着層との間に設ける。印刷層を設けることで、表示体1の意匠性を向上させることができ、また、表示体1に表示させる情報を容易に追加できる。
【0044】
(回折格子の光学的性質について)
第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域について説明するに当り、まず、回折格子の格子定数(溝のピッチ)と、照明光の波長と、照明光の入射角と、回折光の射出角との関係について説明する。
【0045】
照明光源を用いて回折格子に照明光を照射すると、回折格子は、入射光である照明光の進行方向及び波長に応じて特定の方向に強い回折光を射出する。
【0046】
m次回折光(m=0、±1、±2、・・・)の射出角βは、回折格子の溝の長さ方向に対して垂直な面内で光が進行する場合、下記の式(1)から算出することができる。
【数1】
【0047】
式(1)において、dは回折格子の格子定数を表し、mは回折次数を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは、0次回折光、即ち、正反射光RLの射出角を表している。換言すれば、αの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向とは、回折格子が設けられた界面の法線NLに関して対称である。
【0048】
なお、回折格子が反射型である場合、角度αは、0°以上であり、90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、角度βは、回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。
【0049】
図3は、小さな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。図4は、大きな格子定数を有している回折格子が1次回折光を射出する様子を概略的に示す図である。
【0050】
点光源LSは、波長が赤色域内にある光成分Rと、波長が緑色域内にある光成分Gと、波長が青色域内にある光成分Bとを含んだ白色光を放射する。点光源LSが放射した光成分G、B及びRは、回折格子GRに入射角αで入射する。回折格子GRは、光成分Gの一部として回折光DL_gを射出角β_gで射出し、光成分Bの一部として回折光DL_bを射出角β_bで射出し、光成分Rの一部として回折光DL_rを射出角β_rで射出する。なお、図示していないが、回折格子GRは、他の次数の回折光も式(1)によって導出される角度で射出する。
【0051】
このように、一定の照明条件のもとでは、回折格子は、回折光を、その波長に応じて異なる射出角で射出する。それ故、太陽及び蛍光灯などの白色光源下では、回折格子は、波長が異なる光が別々の角度で射出する。従って、このような照明条件下では、回折格子の表示色は、観察角度の変化に伴って虹色に変化する。また、格子定数が大きいほど、回折光は正反射光RLに近い方向に射出され、射出角β_g、β_b及びβ_rの相違は小さくなる。
【0052】
次に、回折格子の格子定数と、照明光の波長と、回折光の射出角方向における回折光の強度(回折効率)との関係について説明する。
【0053】
式(1)によると、格子定数dの回折格子に対して、入射角αで照明光を入射させると、この回折格子は、射出角βで回折光を射出する。この際、波長λの光についての回折効率は、回折格子の格子定数及び溝の深さ等に応じて変化し、下記式(2)から算出することができる。
【数2】
【0054】
ここで、ηは回折効率(0乃至1の値)を表し、rは回折格子の溝の深さを表し、Lは回折格子の溝の幅を表し、dは格子定数を表し、θは照明光の入射角を表し、λは照明光及び回折光の波長を表している。なお、この式(2)は、溝の長さ方向に垂直な断面が矩形波状であり、溝が比較的浅い回折格子について成り立つものである。
【0055】
式(2)から明らかなように、回折効率ηは、溝の深さr、格子定数d、入射角θ及び波長λに応じて変化する。また、回折効率ηは、回折次数mが高次になるのに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0056】
(第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域の光学的性質について)
次に、第1レリーフ構造形成領域及び第2レリーフ構造形成領域の構造とその光学的性質について説明する。
【0057】
図5は、第1レリーフ構造形成領域11のレリーフ構造形成層14に採用可能な構造の一例を概略的に示す斜視図である。
【0058】
第1レリーフ構造形成領域11は、平滑な第1反射面21と、上面及び側面を各々が有している複数の凸部20(又は底面及び側壁を各々が有している複数の凹部)とを含んでいる。凸部20の上面(又は凹部の底面)は、第1反射面21に対して平行であり且つ平滑な第2反射面22である。なお、図5においては、第1レリーフ構造形成領域11は複数の凸部20から成り、第2反射面22は、凸部の上面を構成しているが、第1レリーフ構造形成領域に複数の凹部が形成されており、第2反射面が複数の凹部の底面によって構成されている場合においても以下に示す光学作用は同様に発揮される。以後は、凸部による光学作用を説明し、凹部による光学作用の説明を省略する。
【0059】
図5において、円形の凸部20は第1レリーフ構造形成領域11内において所定の方向に対して整然配置されている。整然配置とは、凸部が均等な間隔、または規則性を持った配列をなしていることを指し、例えば、正方格子、矩形格子又は三角格子をなしている。
【0060】
図6は、第1レリーフ構造形成領域11に採用可能な別の構造の一例を示す斜視図である。円形の凸部20は第1レリーフ構造形成領域11内において非整然配置(ランダム配置)で形成されている。凸部が非整然配置される場合、凸部が重畳する状態で形成されていてもよい。
【0061】
凸部の形状の他の例としては、楕円形や八角形、星型、十字等の多角形を任意に採用することができる。また、第1レリーフ構造形成領域11内に形状の異なる凸部が混在していてもよい。
【0062】
図7は、通常の回折格子に白色照明光を照射した際に射出される回折光の様子を示す概略図である。図7に示したようなy軸に平行な方向に規則的に形成された複数の格子線から成る回折格子GRでは、照明光ILが入射した際に、y軸(格子線の長手方向)と直交する方向(x軸方向)に回折光DL_r、DL_g、DL_bが射出される。
【0063】
一方、図8は、第1レリーフ構造形成領域11から射出される回折光の様子を示す概略図である。図9は、図5及び図8に示した第1レリーフ構造形成領域11の平面図である。
【0064】
図9で示されるような構造に白色照明光が入射すると、第1レリーフ構造形成領域11に形成された凸部による第2反射面22とその周囲の第1反射面21によって形成される凹凸構造によって、回折光を射出する。図9のように凸部がお互いに離間して整然配置されている構造においては、x軸方向にとどまらずXY平面上の多くの方位角に対して回折光が射出される。ここで図9に示した一点鎖線A,B,Cのように、複数の凸部が整然配置された構成であっても、その見かけ上の配置間隔は方位に応じて異なっている。そのため、図8及び図9に示した第1レリーフ構造形成領域は、様々な配置間隔(すなわち格子定数d)を有するレリーフ構造体であると言える。このような構造体に光が入射する場合、異なる格子定数dの凹凸構造が多数重畳されていることになり、射出される回折光は、各波長毎に異なる射出角に対して射出されず、各波長の光が様々な角度に重畳されて射出されることになる。
【0065】
さらに、図8においては、光が第1レリーフ構造形成領域11の1点に入射した状態を図示しているが、実際には、光源はある程度の面積をもっており、光は一点への入射ではなく、面状に入射する。よって、実際には、定点において観察者が観察する光はある程度の範囲の波長の光が合わさったものとなり、その結果複数の波長の光による色が観察されることになる。
【0066】
ここで、式(2)で示すとおり、回折構造から射出される回折光は波長に応じて光量、すなわち回折効率が変化する。特に、回折格子の格子線幅L及び、格子線のピッチdを一定と仮定すると、回折効率ηは回折格子の高さr(第1反射面21と第2反射面22の高低差に相当する)と照明光の波長λによって一意に決定される。
【0067】
そのため、第1レリーフ構造形成領域を定点から観察した場合において、可視光の波長成分が均等には目に届かず、第1レリーフ構造形成領域に設けられた凸部の高さ(第1反射面21と第2反射面22の高低差)に応じて特定の波長の光の回折効率が低くなり、結果として観察者に届く光は、入射した白色照明光のうちの、特定の波長成分が弱くなった光となる。よって、観察者は第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、光量に差がある複数の波長の光を知覚することになる。
【0068】
例えば、ある高さの凸部が設けられた第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、青(波長460nm)の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が赤(波長630nm)及び緑(波長540nm)であったとすると、観察される色は黄色であり、別の高さの凸部が設けられた別の第1レリーフ構造形成領域を観察した際に、赤の波長成分の光の回折効率が弱くなり、観察者の目に到達する回折光の波長成分が緑及び青であったとすると、観察される色はシアン(うすい水色)となる。
【0069】
図8はその一例として、白色照明光源からの光ILが第1レリーフ構造形成領域11に入射し、赤の回折光DL_rが弱められ、緑の回折光DL_gと青の回折光DL_bが射出される様子を示している。
【0070】
このような原理によって表示される表示色は回折光が到達しないような位置に観察者がいる場合は観察することができない。それにより通常の印刷物とは異なり、照明光源や観察者の位置によって表示色が知覚できる状態とできない状態の2つの状態を実現することができる。これが、多くの範囲でほぼ同じ色が知覚できる通常の印刷物とは異なる点である。
【0071】
図6に示したような、複数の凸部20が非整然配置されているような構造においても、回折光は射出される。図6のような場合においても、式(1)に示した格子定数dの値が様々な値となるため、場所によって回折光の射出角度が様々に変化する。そのため、定点に到達する回折光は図5に示した構造と同様に、ある特定の波長の光を除いた多くの波長の光であり、それらの光の混色が観察されることになる。
【0072】
このように照明光源からの光が表示体の表面に入射し、表示体のレリーフ構造によって入射光が回折し、観察者が目視によってその光を知覚できるような条件を「通常の照明条件下」と定義する。例えば、一般的な室内で蛍光灯等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が目視によって表示体を観察する条件や、室外で太陽光等の照明光のもとで表示体に照明光からの光が略垂直に表示体の表面に入射し、観察者が表示体を観察するような条件が「通常の照明条件下」に相当する。ここで「通常照明光」は、室内における蛍光灯や屋外における太陽光等の照明光を指す。
【0073】
また「通常の照明条件以外の条件下」は観察者が回折光を知覚できないような条件を示す。例えば、照明光からの光が表示体の表面に略水平に、すなわち急な角度で入射し、表示体のレリーフ構造から回折光が射出しないような条件や、表示体のレリーフ構造から回折光が射出しても、その回折光が到達しないような角度から観察者が表示体を目視したような条件が「通常の照明条件下以外の条件下」に相当する。
【0074】
複数の波長の光から成る色を通常の照明条件下において観察できる構造とするためには、整然配置された構造の場合は5〜10μm程度のやや大きめの構造とするほうがよい。大きな構造の場合は、式(1)から明らかなように各波長に対する回折光の射出角の差が小さいため、照明光源や観察者の位置が変化しても、表示色がいわゆる虹色に変化せず複数波長の光による色が安定して観察できる。
【0075】
一方で、非整然配置する場合は、凸部を0.3〜5μm程度のやや小さめの構造にするとよい。小さな構造が小さな配置間隔で形成されている場合、式(1)から明らかなように回折光の射出角が大きくなる。そのため、整然配置された構造では虹色に色変化しやすくなるが、非整然配置することで観察者のいる定点に複数の波長の光が到達しやすくできる。また、小さな構造が非整然配置されていると、回折光の射出角が大きくなるので、複数の光による表示色が広い範囲で観察できるという利点がある。
【0076】
第1レリーフ構造形成領域に採用される構造は、1つの第1レリーフ構造形成領域において、第1反射面と第2反射面の高低差が同一であるので、特定の波長の光の回折効率を低下させ、且つ、他の波長の光の回折効率は低下させない効果があるため、回折効率が低下しない複数の波長の光によって固有の色を表示させることが可能になる。
【0077】
第1反射面と第2反射面の高低差は、例えば、0.1μm乃至0.5μmの範囲内にあり、典型的には0.15μm乃至0.4μmの範囲内にある。
【0078】
第1反射面と第2反射面の高低差を小さくすると、第1レリーフ構造形成領域が射出する着色光の色が薄くなる。また、この高低差を小さくすると、製造時の外的要因、例えば、製造装置の状態及び環境の変動並びに材料組成の僅かな変化が、第1レリーフ構造形成領域の光学的性質に及ぼす影響が大きくなる。他方、この高低差が大きい場合、第1レリーフ構造形成領域を高い形状精度及び寸法精度で形成することが難しくなる。
【0079】
各凸部の側面は、典型的には第1反射面21及び第2反射面22に対してほぼ垂直である。この側面は、第1反射面21及び第2反射面22に対して傾いていてもよい。
【0080】
また、第1レリーフ構造形成領域に採用される構造は、図5や図6で示したようにXY平面上の多くの方位角に対して回折光を射出するので、光源の位置や観察する向きが多少変化しても、複数の波長から構成される色を観察可能である。このため、従来の回折格子のように通常の照明条件下において表示色が虹色に変化してしまう現象を回避または低減することができる。
【0081】
第1レリーフ構造形成領域に採用可能なさらに別の構造として指向性を有する構造が挙げられる。図10は、y軸の延伸方向に対して延びた形状を有した複数の線状構造の凸部20から成る第1レリーフ構造形成領域11の例である。凸部20の幅は、例えば、0.2μm乃至2μmの範囲内にあり、典型的には、0.3μm乃至1μmの範囲内にある。凸部20の幅方向における寸法に対する長さ方向における寸法の比は、例えば2以上であり、典型的には10以上である。この比を小さくすると、後述する光学的異方性を観察者に知覚させることが難しくなる。
【0082】
凸部の配列は、肉眼で知覚可能な回折光を射出する回折格子又はホログラムを構成しないように定められている。ここでは、幅方向に隣り合った凸部20の中心線間距離は不規則であり、凸部20の幅も不規則である。凸部20の中心間距離、或いは、凸部20の幅のどちらか一方は等しくてもよい。
【0083】
幅方向に隣り合った凸部20の中心線間距離は、例えば0.1μm乃至1μmの範囲内にあり、典型的には0.2μm乃至0.5μmの範囲内にある。凸部20は、様々な長さを有している。また、凸部20の長さ方向に関するそれらの位置は不規則である。凸部20は、等しい長さを有していてもよく、長さ方向に関して規則的に配置されていてもよい。
【0084】
このような構造に対して、図11のように表示体の垂直上方から白色照明光が入射すると、入射した光ILは、凸部20の長さ方向に直交する方向(x軸の延伸方向)に沿って回折光DL_g,DL_bを射出し、凸部の長さ方向(y軸の延伸方向)に対しては回折光を射出しない。ここで、凸部20の高さ、すなわち第1反射面21と第2反射面22による高低差は、図8に示した構造と同一であり、赤の回折光DL_rを弱めるものとする。
【0085】
このように、方向性(指向性)をもった構造を設けることによって、回折光が射出される方位角方向を制御することが可能となる。この場合においても、第1反射面と第2反射面の高低差を同一にしていることで、その高低差に応じて特定の波長の光が弱められているため、凸部の長さ方向に直交する方向において観察される回折光は、固有の色を表示し、且つ、複数の凸部はランダムに配置されているため虹色に変化せず、凸部の長さ方向に直交する方向において広い範囲で同一の固有色を表示する。
【0086】
第1反射面21及び第2反射面22に平行な平面への第1レリーフ構造形成領域の正射影の面積をSとした場合、面積Sに対する第1反射面21の面積S1の比S1/Sは、例えば20%乃至80%の範囲内にあり、典型的には40%乃至60%の範囲内にある。また、面積Sに対する第2反射面22の面積S2の比S2/Sは、例えば80%乃至20%の範囲内にあり、典型的には60%乃至40%の範囲内にある。そして、面積S1と面積S2との和S1+S2の面積Sに対する比(S1+S2)/Sは、例えば10%乃至100%であり、典型的には50%乃至100%である。比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に、最も明るい表示が可能である。一例によると、比S1/S及びS2/Sの一方が20%であり、他方が80%である場合に達成可能な明るさは、比S1/S及びS2/Sの各々が50%である場合に達成可能な明るさの約3割である。
【0087】
図12は、第2レリーフ構造形成領域12に採用可能な構造の一例を概略的に示す斜視図である。図13は、図12に示した第2レリーフ構造形成領域12の断面図である。図12及び図13に示したように、第2レリーフ構造形成領域12は、被覆層16に覆われており凸部20の形状が観察者側の空気界面に露出していないことが第1レリーフ構造形成領域との違いである。第2レリーフ構造形成領域12には第1レリーフ構造形成領域に採用可能な凸部形状を採用することができる。なお、図12及び図13においては、薄膜層がない構成を図示している。
【0088】
第2レリーフ構造形成領域12は、被覆層16に覆われていることによって、第1レリーフ構造形成領域11とは、各領域に入射し射出する光が進行する光学的な距離が変化する。
【0089】
図14は、凹凸構造が空気界面に対して露出している第2レリーフ構造形成領域12に照明光が入射した際の光の進行の様子を示す概念図であり、図15は、凹凸構造が空気界面に対して露出していない第2レリーフ構造形成領域12に照明光が入射した際の光の進行の様子を示す概念図である。図14及び図15の表示体の周囲は屈折率1.0の空気で覆われており、図15に示した被覆層16は、それよりも高い屈折率(典型的な例として屈折率1.5)の合成樹脂によって構成されている。図14及び図15の図中に示したドットは一定時間に進行する光の距離をプロットしたものである。図14では、光は常に空気中を進行するが、図15においては、光は空気中を進行した後、被覆層16の内部を進行し、さらに空気中を進行する。被覆層16の内部においては、空気と比較して高い屈折率の影響により、光の進行速度が低下する。そのため、第1レリーフ構造形成領域11の第1反射面と第2反射面から射出される光の光学的な距離の差(光路差)と、第2レリーフ構造形成領域12の第1反射面と第2反射面から射出される光の光路差は異なる。この光路差の違いによって、干渉によって弱めあう光の波長が変化するため、被覆層16の有無によって表示される色が変化する。
【0090】
入射した光を第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12に形成された複数の凸部によって反射し、回折によって色を表示するため、複数の凸部には、光の反射率を高めるために凸部の形状に追従する光反射性の薄膜層を設けるとよい。薄膜層は前述のように、蒸着やスパッタリングなどの気相堆積法によって形成された金属薄膜や誘電体から成る薄膜を採用することができる。これらの薄膜層を備えた第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12は、十分な反射光が得られ、表示色の視認性が向上する。
【0091】
第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12に設けられる複数の凸部はそれぞれ同じ高低差である第1反射面と第2反射面とによって形成することができる。被覆層16の有無によって表示色を変化させることができるので、単一の凹凸形状を表示体領域内に形成することで、多色の表示が可能となる。この場合、単一の高低差の凹凸形状を形成すればよいので、比較的容易に安定して表示体を作製することが可能となる。
【0092】
また、第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12毎に高低差が異なる複数の凸部を形成することで、さらに複数の表示色を実現することが可能になる。第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12を複数備え、それぞれの領域で複数の凸部の高低差を変化させることでより多くの表示色を表示可能である。高低差が異なる凸部からなる領域が複数あることで、作製の難易度が向上し、偽造防止効果が向上する。また、複数色の表示が可能になることから表示体の意匠性、アイキャッチ効果(人目をひく効果)をさらに高めることができる。
【0093】
被覆層16として用いる電離放射性硬化樹脂又は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などの合成樹脂は屈折率が1.4以上のものを使用するとよい。屈折率が1.4以上の合成樹脂を使用することで、被覆層16が薄くても、空気中を伝搬する光の光路差と被覆層16を伝搬する光の光路差を大きく変えることができ、第1レリーフ構造形成領域11の表示色と第2レリーフ構造形成領域12の表示色を異なる色相の色にすることが可能となる。
【0094】
(第3レリーフ構造形成領域の光学的性質について)
次に、図16に示す第3レリーフ構造形成領域13の光学的性質について説明する。
【0095】
第3レリーフ構造形成領域13は第1レリーフ構造形成領域11及び第2レリーフ構造形成領域12とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第3レリーフ構造形成領域13は表示体1に複数存在していてもよいし、1つも存在していなくてもよい。
【0096】
第3レリーフ構造形成領域13に採用可能な構造としては、回折格子が挙げられる。回折格子は回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させたり、立体像を表示させたりする機能を実現できる。
【0097】
また、第3レリーフ構造形成領域13に採用可能な別の構造として、微細な凹凸構造から成る反射防止構造体30が挙げられる。反射防止構造体30は、図16の斜視図に示したような円錐状の構造や、角錐状の構造が整然配置されたものが典型的であり、前記構造は、可視光の波長以下(例えば400nm以下)のピッチで配置され、構造の高さは300μm以上で高い方がより反射防止効果が高い。前記のような仕様で形成されている反射防止構造体30は入射する可視光の反射を防止もしくは低減する機能を有し、観察した際に黒色もしくは暗灰色等の無彩色に見える。
【0098】
また、第3レリーフ構造形成領域13に採用可能な構造として、散乱構造体が挙げられる。散乱構造体は、図17の斜視図に示したように大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状31が不規則に複数配置されたものが典型的である。散乱構造体に入射した光は、四方八方に乱反射し、観察した際には白色または白濁色に見える。散乱構造体は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や反射防止構造体と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光を散乱する効果が得られる。
【0099】
これらの微細構造が形成された第3レリーフ構造形成領域13は、第1レリーフ構造形成領域11のように凹凸形状が空気界面に対して露出した形態であってもよいし、第2レリーフ構造形成領域12のように表面が被覆層16によって覆われた形態であってもよい。
【0100】
(表示体の使用方法)
上述した表示体1は、例えば、偽造防止用ラベルとして粘着材等を介して印刷物やその他の物品に貼り付けて使用することができる。表示体1は微細なドットの構造高さを厳密に制御することにより固有の色を表示することができ、構造の高さを変えることでその色を変化可能であることから偽造は困難である。このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0101】
図18は、偽造防止用ラベルを物品に支持させてなるラベル付き物品の一例を概略的に示す平面図である。図19は、図18に示すラベル付き物品のXIIII−XIIII線に沿った断面図である。
【0102】
図18及び図19には、ラベル付き物品の一例として、印刷物100を描いている。この印刷物100は、IC(integrated circuit)カードであって、基材50を含んでいる。基材50は、例えば、プラスチックからなる。基材50の一方の主面には凹部が設けられており、この凹部にICチップ41が嵌め込まれている。ICチップ41の表面には電極が設けられており、これら電極を介してICへの情報の書き込みやICに記録された情報の読出しが可能である。基材50上には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体1が例えば粘着層を介して固定されている。表示体1は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。
【0103】
上記印刷物100は、表示体1を含んでいる。それゆえ、この印刷物100の同一品を偽造又は模造することは困難である。しかも、この印刷物100は、表示体1に加えて、ICチップ41及び印刷層40を更に含んでいるため、それらを利用した偽造防止対策を採用することができる。
【0104】
なお、図18及び図19には、表示体1を含んだ印刷物としてICカードを例示しているが、表示体1を含んだ印刷物は、これに限られない。例えば、表示体1を含んだ印刷物は、磁気カード、無線カード及びID(identification)カードなどの他のカードであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、商品券及び株券などの有価証券であってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体1を含んだ印刷物は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0105】
また、図18及び図19に示す印刷物100では、表示体1を基材50に貼り付けているが、表示体1は、他の方法で基材50に支持させることができる。例えば、基材50として紙を使用した場合、表示体1を紙に漉き込み、表示体1に対応した位置で紙を開口させてもよい。
【0106】
また、ラベル付き物品は、印刷物でなくてもよい。すなわち、印刷層40を含んでいない物品に表示体1を支持させてもよい。例えば、表示体1は、美術品などの高級品に支持させてもよい。
【0107】
表示体1は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体1は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1…表示体、11…第1レリーフ構造形成領域、12…第2レリーフ構造形成領域、13…第3レリーフ構造形成領域、14…レリーフ構造形成層、15…薄膜層、16…被覆層、20…凸部、21…第1反射面、22…第2反射面、30…反射防止構造体、31…凹凸形状、40…印刷層、41…ICチップ、50…基材、100…印刷物、d…回折格子のピッチ、DL…回折光、DL_r…回折光(赤)、DL_g…回折光(緑)、DL_b…回折光(青)、GR…回折格子、IL…照明光、LS…光源、NL…法線、RL…0次回折光(正反射光)、α…入射角、β_r…波長成分Rの回折光の射出角、β_g…波長成分Gの回折光の射出角、β_b…波長成分Bの回折光の射出角。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレリーフ構造形成領域を備え、前記レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含み、
前記レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面であり、
前記第1反射面と第2反射面の高低差は各々のレリーフ構造形成領域内で略一定であり、
前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域と、
前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域から構成されていることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記レリーフ構造形成領域の少なくとも一部が、凹凸形状に追従する光反射性を有する薄膜層を有することを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差と、前記第2レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差とが略一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域を有する請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項5】
前記光透過性を有する被覆層が、屈折率が1.4以上の電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項6】
回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体のいずれかから構成される第3レリーフ構造形成領域を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したラベル付き物品。
【請求項1】
複数のレリーフ構造形成領域を備え、前記レリーフ構造形成領域は各々、平滑な第1反射面と、複数の凸部又は複数の凹部とを含み、
前記レリーフ構造形成領域の各々において、前記複数の凸部又は複数の凹部の底面の各々は前記第1反射面に対して平行であり、且つ、平滑な第2反射面であり、
前記第1反射面と第2反射面の高低差は各々のレリーフ構造形成領域内で略一定であり、
前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が空気界面に対し露出した第1レリーフ構造形成領域と、
前記複数の凸部又は複数の凹部から成る凹凸形状が光透過性を有する被覆層によって覆われ、且つ、最外面が平坦である第2レリーフ構造形成領域から構成されていることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記レリーフ構造形成領域の少なくとも一部が、凹凸形状に追従する光反射性を有する薄膜層を有することを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差と、前記第2レリーフ構造形成領域の第1反射面と第2反射面の高低差とが略一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1反射面と第2反射面の高低差が各々異なる複数のレリーフ構造形成領域を有する請求項1又は2に記載の表示体。
【請求項5】
前記光透過性を有する被覆層が、屈折率が1.4以上の電離放射線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項6】
回折格子、反射防止構造体、光散乱構造体のいずれかから構成される第3レリーフ構造形成領域を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の表示体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の表示体とこれを支持した物品とを具備したラベル付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−80049(P2013−80049A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219085(P2011−219085)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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